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特開2019-189753筆記具用インキ組成物、およびそれを用いた筆記具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-189753(P2019-189753A)
(43)【公開日】2019年10月31日
(54)【発明の名称】筆記具用インキ組成物、およびそれを用いた筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20191004BHJP
   B43K 1/08 20060101ALI20191004BHJP
   B43K 1/12 20060101ALI20191004BHJP
   B43K 1/02 20060101ALI20191004BHJP
【FI】
   C09D11/16
   B43K1/08
   B43K1/12
   B43K1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-83914(P2018-83914)
(22)【出願日】2018年4月25日
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】西川 知明
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA01
2C350GA03
2C350GA04
2C350HA01
2C350HA08
2C350HA15
2C350NA11
4J039AB01
4J039AB07
4J039CA02
4J039CA05
4J039DA01
4J039DA02
4J039EA48
4J039GA26
4J039GA27
4J039GA28
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、耐ドライアップ性能に優れ、かつ良好な筆跡が得られる筆記具用インキ組成物、およびそれを用いた筆記具を提供することである。
【解決手段】
ムチンと、着色剤と、溶媒と、を含んでなることを特徴とする、筆記具用インキ組成物、およびそれを用いた筆記具。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムチンと、着色剤と、溶媒と、を含んでなることを特徴とする、筆記具用インキ組成物。
【請求項2】
前記ムチンが、担子菌由来のムチンであることを特徴とする、請求項1に記載の筆記具用インキ組成物。
【請求項3】
前記ムチンが、フォリオタミクロスポラ多糖体であることを特徴とする、請求項1または2に記載の筆記具用インキ組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物を収容してなることを特徴とする、筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用インキ組成物、およびそれを用いた筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
筆記具は、暫くペン先が大気中に晒された状態にあると、筆記具本体内に収容されているインキ中の溶媒などがペン先より蒸発し、インキがペン先で乾燥固化して、筆跡がかすれたり、筆記ができなくなるなど、筆記具として満足に使用できなくなることがあった。
このため、筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具において、ペン先におけるインキの乾燥を防ぎ、良好な耐ドライアップ性能を得ることは課題である。
そこで、前記課題を解決するため、インキ中に保湿剤として、エチレングリコール、プロピレングリコールやグリセリンなどの多価アルコール溶剤や、尿素または尿素誘導体を添加し、耐ドライアップ性能を向上させたインキ組成物が提案されている。(特許文献1など)
しかしながら、前記多価アルコール溶剤や、尿素または尿素誘導体は、耐ドライアップ性能の向上に効果はあるものの、良好な耐ドライアップ性能が得られる程度にインキ組成物中に添加すると、インキ粘度が上昇し、インキの追従性が悪化して、ボテや線割れ、とぎれやかすれが発生したり、書き味が悪くなるなどの問題を抱えている。
そこで、更なる耐ドライアップ性能の向上を図るため、特許文献2では、HC=CH−O−CO−NH−(CH−CHの一般式で表される化合物を含んでなるインキ組成物が開示されている。
しかしながら、耐ドライアップ性能の向上は見られるものの、前記インキ組成物をマーキングペンや万年筆などに用いた場合には、インキの追従性が劣り、良好な筆跡を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−127746号公報
【特許文献2】特開2011−178973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記のような従来の問題を解決するもので、耐ドライアップ性能に優れ、かつ筆記性能が良好な筆記具用インキを提供するものであり、さらに、それを用いた筆記具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
「1.ムチンと、着色剤と、溶媒と、を含んでなることを特徴とする、筆記具用インキ組成物。
2.前記ムチンが、担子菌由来のムチンであることを特徴とする、前記1項に記載の筆記具用インキ組成物。
3.前記ムチンが、フォリオタミクロスポラ多糖体であることを特徴とする、前記1項または2項に記載の筆記具用インキ組成物。
4.前記1項ないし3項のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物を収容してなることを特徴とする、筆記具。」である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐ドライアップ性能に優れ、かつ良好な筆跡が得られる筆記具用インキ組成物、およびそれを用いた筆記具を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準であり、含有量とは、インキ組成物の質量を基準としたときの構成成分の質量%である。
【0008】
<筆記具用インキ組成物>
本発明による筆記具用インキ組成物(以下、場合によりインキ組成物と表す)は、ムチンと、着色剤と、溶媒と、を含んでなることを特徴とする。
以下、本発明によるインキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0009】
<ムチン>
本発明のインキ組成物は、ムチンを含んでなる。
ムチンとは、タンパク質(ペプチド)の1本鎖の骨格に糖鎖が枝状に多数結合した構造をもつ分子量100万〜1000万の高分子(糖タンパク質)であり、動物の粘膜等から分泌される粘液の主成分であり、ウナギ、ドジョウ、ナメコなどの粘液(ヌメリ)や、エチゼンクラゲ、ミズクラゲなどに含まれており、優れた保水力を有する。
このため、インキ組成物中にムチンを添加すると保湿剤として効果的に働き、本発明のインキ組成物は、長期間、または乾燥状態が強い環境の中でペン先が大気に晒されたとしても、ペン先からのインキ中の溶媒の蒸発が抑制され、優れた耐ドライアップ性能を有するものとなる。
【0010】
これは、理由は定かではないが下記のように推測する。
一般的に、糖は分子中に水酸基を多数有しており、その周囲は親水性である。
前記ムチンは、タンパク質(ペプチド)の1本鎖の骨格に、前述のように周囲が親水性の糖鎖が枝状に多数結合した構造を有することにより、多数の糖鎖の周囲に多くの水分子を保持すると共に、隣接する糖鎖と糖鎖との間に形成された多数の空間が保水スペースとなり、多くの水分子を取り込んで、効果的にかつ長期的に保持することができ、優れた保湿効果を発揮するものと考えられる。
以上より、前記ムチンを含んでなる本発明のインキ組成物は、長期間、または乾燥状態が強い環境の中でペン先が大気に晒されたとしても、ペン先からのインキ中の溶媒の蒸発が抑制され、優れた耐ドライアップ性能を有し、良好な筆跡をもたらすことができるのである。
【0011】
本発明において、耐ドライアップ性能の向上を考慮すると、前記ムチンとしては、いわゆるキノコとして知られている生物(菌類)を含むグループである担子菌に由来するムチンが好ましい。
例えば、フォリオタミクロスポラ(Pholiota microspora/ナメコ)、レンチナス・エドデス(Lentinus edodes/シイタケ)、アガリクス・ビスポラス(Agaricus bisporus/マッシュルーム)、グリフォラ・フロンドサ(Grifola frondosa/マイタケ)、プリュロタス・オストレアタス(Pleurotus ostreatus/ヒラタケ)、フラムリナ・ヴェラチペス(Flammulina velutipes/エノキタケ)、カノデルマ・ルシダム(Canoderma lucidum/マンネンタケ)、アウリカラリア・アウリカラ(Auricularia auricula/キクラゲ)、ゴノデルマ・アパラナタム(Gonoderma applanatum/コフキサルノコシカケ)、コリオラス・ルシダム(Coriolus lucidum/カワラタケ)、グリフォラ・アンベラッタ(Grifola umbellata/チョレイマイタケ)、シゾフィラム・コミュネ(Schizophyllum commune/スエヒロタケ)、ヴォルヴァリエラ・ヴォルヴァセアエ(Volvariella volvaceae/フクロタケ)等に由来するムチンが挙げられる。
これらは、1種または2種以上の混合物として使用してもかまわない。
本発明において、耐ドライアップ性能の向上を考慮すると、前記担子菌由来のムチンの中でも、特にフォリオタミクロスポラ(Pholiota microspora/ナメコ)由来のムチン、すなわちフォリオタミクロスポラ多糖体(フォリオタナメコ多糖体)がより好ましい。
前記フォリオタミクロスポラ多糖体は、アミノ酸がつながったポリペプチド鎖に酸性ムコ多糖が枝状に結合した構造をもつ分子量が400万以上の高分子であり、その構造と糖鎖の働きによって、保湿剤として広く知られているヒアルロン酸ナトリウムよりも蒸散抑制能と水分保持力に優れており、インキへのごく少量の添加でも高い保湿効果を発揮するため、インキの物性に大きな影響を与えることなく、優れた耐ドライアップ性能を付与することができる。
すなわち、該フォリオタミクロスポラ多糖体を含んでなる本発明のインキ組成物は、長期間、または乾燥状態が強い環境の中でペン先が大気に晒されたとしても、ペン先からのインキ中の溶媒の蒸発が抑制され、優れた耐ドライアップ性能を有し、かつ優れたインキ追従性ならびに筆記性能とをもたらすことができるものとなる。
前記フォリオタミクロスポラ多糖体を含んでなる市販品の一例としては、フォリテクトシリーズ(株式会社高研製)が挙げられ、より具体的にはフォリテクトBG、フォリテクトPGが挙げられる。
【0012】
本発明のインキ組成物における、前記フォリオタミクロスポラ多糖体の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、0.0001〜1.0%が好ましく、インキに対する溶解安定性とインキ粘度の上昇の両方を考慮すると、0.0001〜0.1%であることが好ましく、0.001〜0.01%であることがより好ましい。
前記フォリオタミクロスポラ多糖体の含有量が上記数値範囲内であれば、インキ組成物に優れた保湿性を付与しながらもインキ粘度の上昇を抑えることができ、インキ組成物に優れた耐ドライアップ性能と優れたインキ追従性ならびに筆記性能とをもたらすことができる。
【0013】
<着色剤>
本発明で用いる着色剤は、特に限定されないが、筆記具用インキ組成物に用いられる顔料、染料などを使用することができる。
顔料としては、溶媒に分散可能であれば特に制限されるものではない。
例えば、無機顔料、有機顔料、加工顔料などが挙げられ、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系 、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。
その他、染料などで樹脂粒子を着色したような着色樹脂粒子や、色材を媒体中に分散させてなる着色体を公知のマイクロカプセル化法などにより樹脂壁膜形成物質からなる殻体に内包または固溶化させたマイクロカプセル顔料を用いても良い。
なお、顔料は、予め顔料分散剤を用いて微細にかつ安定的に水媒体中に分散された水分散顔料製品等を用いてもよい。
前記顔料分散剤としては、水溶性樹脂、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤などが挙げられる。
染料としては、溶媒に溶解可能であれば特に制限されるものではない。
例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、および各種造塩タイプ染料等が採用可能である。
これらの顔料および染料は、1種または2種以上の混合物として使用してもかまわない。
【0014】
前記着色剤の中でも、耐水性や耐光性に優れ、良好な発色を示す優れた筆跡を得ることを考慮すると、顔料を用いることが好ましい。
また、顔料は染料とは異なり、インキ中において不溶状態で分散していることから、着色剤に顔料を用いた場合、一度インキが乾燥固化して、インキ流路などが詰まってしまうと、後から追従されるインキによってこの詰まりを解消することは難しく、たとえ筆記具本体内にまだインキが残っている場合でも、再び筆記することができない可能性が高い。
よって、耐ドライアップ性能の向上は、顔料を用いたインキにおいてより大きな課題である。
本発明に用いられる前記ムチンは、前述の通り、高い吸湿力と保水力をもち、保湿剤として効果的に働くことから、顔料を用いた場合にも、インキ組成物に優れた耐ドライアップ性能をもたらすことが可能であり、顔料と前記ムチンとを併用することは、特に効果的である。
【0015】
本発明のインキ組成物における着色剤の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、0.1〜40質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。
【0016】
<溶媒>
本発明に用いる溶媒は、従来の筆記具用水性インキ組成物や筆記具用油性インキ組成物に用いられる溶媒を使用することができる。
具体的には水が挙げられ、水としては特に制限はなく、例えば、水道水、イオン交換水 、限外ろ過水または蒸溜水などが挙げられる。
また、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ブチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール溶剤や、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル溶剤、さらには、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール溶剤なども挙げられ、これらを1種または2種以上の混合物として使用することが可能である。
【0017】
本発明においては、前記溶媒の中でも、水と、水に溶解可能な有機溶剤(水溶性有機溶剤)とからなる混合溶媒を用いることが好ましく、前記ムチンの溶解安定性や保湿剤としての効果が効率良く得られることを考慮すると、本発明のインキ組成物は、筆記具用水性インキ組成物として調整することが好ましい。
また、前記ムチンの中でも、フォリオタミクロスポラ多糖体は溶解安定しやすく、保湿剤としての効果が効率良く得られるため、筆記具用水性インキ組成物として、フォリオタミクロスポラ多糖体を選択して用いることが好ましい。
また、耐ドライアップ性能の更なる向上を考慮すると、前記水溶性有機溶剤の中でも、多価アルコール溶剤を選択して用いることが好ましい。
これは、前記多価アルコール溶剤を用いることで、多価アルコール溶剤の吸湿効果をインキ組成物に付与することができるためである。
これにより、本発明のインキ組成物は、前記ムチンがもつ優れた保水力による溶媒蒸発抑制効果と、多価アルコール溶剤の吸湿効果により、相乗的に保湿効果が向上し、優れた耐ドライアップ性能が得られ、長期間、または乾燥状態が強い環境においてペン先が大気に晒されたとしても、ペン先からの溶媒の蒸発が抑制され、良好な筆跡を得ることができる。
【0018】
特に、本発明においては、前記多価アルコール溶剤の中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ブチレングリコールの中から1種以上を選択して用いることが好ましく、前記ムチンの中でも、保湿剤としての効果が効率良く得られるため、筆記具用水性インキ組成物として、フォリオタミクロスポラ多糖体を選択して用いることが好ましい。
【0019】
また、ムチンの溶解安定性や保湿剤としての効果を効率良く得ることを考慮すると、本発明の筆記具用インキ組成物には少なくともブチレングリコールを用いることが好ましい。
ブチレングリコールには、それ自体にも保湿効果があるため、ムチンと併用することで、ムチンを溶解安定させてその保湿効果を効率良く得ると共に、ブチレングリコール自体の保湿効果が相乗的に働き、その結果として優れた耐ドライアップ性能を得ることができる。
【0020】
また、前記ムチンの中でも、フォリオタミクロスポラ多糖体を用いる場合は、ブチレングリコールを用いることで、フォリオタミクロスポラ多糖体を溶解安定させてその保湿効果を効率良く得ると共に、ブチレングリコール自体の保湿効果が相乗的に働き、その結果として優れた耐ドライアップ性能を得ることができるので好ましい。
さらに、予めフォリオタミクロスポラ多糖体をブチレングリコールによって溶解させたフォリオタミクロスポラ多糖体水溶液として用いることがより好ましい。
【0021】
さらに、ブチレングリコール以外に、他の多価アルコール溶剤を併用して用いることが好ましい。
具体的には、エチレングリコールやジエチレングリコールを用いた場合には、インキ粘度の上昇をさらに抑えながら、優れた耐ドライアップ性能を得ることができることから、万年筆やマーキングペン(サインペン)などのようなインキ粘度を特段に考慮する必要がある筆記具に好適に用いることができる。
また、グリセリンを用いた場合には、グリセリンの高い吸湿性により、さらに優れた耐ドライアップ性を得ることができることから、着色剤に顔料を用いた場合や、出没式筆記具のような特段に耐ドライアップ性能を考慮する必要がある筆記具に充填して用いる場合に、好適に用いることができる。
そのため、ブチレングリコールと、上記のような他の多価アルコール溶剤を併用して用いることが好ましい。
【0022】
インキ組成物における溶媒の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、10〜99質量%であることが好ましい。
なお、前記多価アルコール溶剤を用いる場合、前記ムチンと、前記多価アルコール溶剤の総含有量は、耐ドライアップ性能の向上、インキ追従性の向上、さらにかすれが改善された良好な筆跡が得られることを考慮すると、0.1〜30質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがより好ましい。
【0023】
その他の保湿剤としては、尿素、ソルビット、N,N,N−トリアルキルアミノ酸などが挙げられるが、特に、本発明においては、N,N,N−トリアルキルアミノ酸を更に含んでなることが好ましい。
N,N,N−トリアルキルアミノ酸は、高い吸湿性能を備えるため、本発明に用いられるムチンと併用することで、さらに高い保湿効果が得られ、耐ドライアップ性能を向上させることができる。
また、優れた耐ドライアップ性能を維持しながらも、後述するような低粘度インキ組成物や超低粘度インキ組成物として調整しやすく、さらに筆跡乾燥性をも向上しやすいため、本発明において、N,N,N−トリアルキルアミノ酸を更に含んでなることは、特に効果的である。
【0024】
前記N,N,N−トリアルキルアミノ酸は、下記式(1)で表せるものである。
【化1】
【0025】
式(1)中のR1〜R3としては、直鎖または分岐鎖のアルキル基を広く用いることができる。
すなわち、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が例示される。
なお、R1〜R3は同一であっても異なっていてもよい。また、nは整数を示す。
具体的には、n=1の場合には、トリメチルグリシン、トリエチルグリシン、トリプロピルグリシン、トリイソプロピルグリシン等が挙げられ、n=2の場合には、トリメチル−β−アラニン等が挙げられ、n=3の場合には、トリメチル−γ−アミノ酪酸等が挙げられる。
耐ドライアップ性能の向上やインキ組成物の保存安定性の向上などを考慮すると、トリメチルグリシンを選択して用いることが好ましい。
【0026】
また、本発明のインキ組成物は、多糖類を更に含んでもかまわない。
これは、多糖類がペン先のインキ表面に被膜を形成し、その被膜によりインキ中の溶媒の蒸発を防ぐことができるためである。
前記多糖類としては、プルラン、アミロース、キシログルカン、アミロペクチン、デキストラン、デキストリン、シクロデキストリン、マンナン、ヒドロキシデキストラン、レバン、イヌリン、キチン、キトサン、またはそれらのステロール誘導体、さらには水溶性セルロースなどが挙げられる。
これらの多糖類は1種、または2種以上の混合物として使用してもかまわない。
なお、前記多糖類の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として、0.001〜10質量%であることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明においては、必要に応じて剪断減粘性付与剤を添加し、インキに適当な粘性を与えて実用に供することができる。
剪断減粘性付与剤は従来公知のものから適宜選択することができ、その具体例としては、キサンタンガム、サクシノグリカン、カラギーナン等の多糖類、ポリアクリル酸、架橋型アクリル酸、ポリビニルアセトアミド、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、会合性ウレタンエマルジョン等が挙げられ、これらを1種または2種以上の混合物として使用することが可能である。
【0028】
また、本発明のインキ組成物は、インキ物性や機能を向上させる目的で、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、キレート剤などの各種添加剤を含んでもよい。
【0029】
pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基性無機化合物、酢酸ナトリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの塩基性有機化合物、乳酸およびクエン酸などが挙げられ、インキ組成物の経時安定性を考慮すれば、塩基性有機化合物を用いることが好ましく、インキ組成物の経時安定性をより考慮すれば、弱塩基性であるトリエタノールアミンを用いることが好ましい。
これらのpH調整剤は1種、または2種以上の混合物として使用してもかまわない。
【0030】
防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。
【0031】
防腐剤としては、フェノール、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンなどが挙げられる。
【0032】
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)およびそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩またはアミン塩などが挙げられる。
【0033】
さらに、樹脂エマルジョンとして、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂など含むエマルジョンを添加することができる。
【0034】
さらには、ノニオン系、アニオン系、カチオン系界面活性剤や、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などを添加することもでき、ジメチルポリシロキサンなどの消泡剤を添加することもできる。
【0035】
また、本発明のインキ組成物をボールペンに用いる場合、潤滑剤を用いることが好ましい。
潤滑剤は、ボールペンが有するボールペンチップのボールとボール座との間の潤滑性を向上して、ボールの回転をスムーズにすることで、ボール座の摩耗を抑制し、書き味を向上するものであり、本発明においては、リン酸エステル系界面活性剤や脂肪酸を用いることが好ましい。
【0036】
中でも、本発明においては、リン酸基を有するリン酸エステル系界面活性剤を用いることがより好ましい。
これは、リン酸基は金属に吸着しやすい性質があることから、潤滑性を向上させ、ボール座の摩耗抑制や書き味が向上しやすいためである。
前記リン酸エステル系界面活性剤の種類としては、直鎖アルコール系、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、オクチルフェノール系等が挙げられる。
この中でも、フェニル骨格を有すると立体障害により潤滑性に悪影響が出やすいことから、フェニル骨格を有さないリン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましい。
これらは、1種または2種以上の混合物として使用してもかまわない。
【0037】
前記リン酸エステル系界面活性剤の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬(株)製)の中から、プライサーフA212C、同A208B、同A213B、同A208F、同A215C、同A219B、同A208N等が挙げられる。
また、前記脂肪酸の具体例としては、OSソープ、NSソープ、FR−14、FR−25(花王(株)製)等が挙げられる。
これらのリン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸は、1種または2種以上の混合物として使用してもかまわない。
【0038】
<インキ組成物の製造方法>
本発明によるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。
具体的には、前記各成分を必要量配合し、マグネットスターラー、プロペラ攪拌機、ホモジナイザー攪拌機、ホモディスパー、ホモミキサー、または自転公転攪拌機などの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し製造することができる。
【0039】
<筆記具>
本発明の筆記具用インキ組成物を充填する筆記具自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、従来から汎用のものが適用でき、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップをペン先としたマーキングペン(サインペン)や、ボールペンチップなどをペン先としたボールペン、さらに、金属製のペン先を用いた万年筆など、各種筆記具に用いることができる。
【0040】
また、本発明のインキ組成物を用いることができる筆記具としては、インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、インキ組成物を充填することのできるインキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。
また、前記インキ収容体またはインキ吸蔵体が、筆記具本体に着脱自在に交換可能な構造をもつインキカートリッジ式筆記具およびコンバーター式筆記具であってもよい。
【0041】
また、本発明のインキ組成物を用いることができる筆記具は、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式筆記具や、ノック式、回転式およびスライド式などの軸筒内にペン先を収容可能な出没式筆記具が挙げられる。
前記ムチンを含んでなる本発明のインキ組成物は、耐ドライアップ性能に優れることから、常にペン先が大気に晒されているような状況となる出没式筆記具に好適に用いることができる。
【0042】
また、本発明のインキ組成物を用いることができる筆記具の供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、
(機構1)繊維収束体などからなるインキ誘導部をインキ流量調節部材として備え、インキ組成物をペン先に供給する機構、
(機構2)くし溝状のインキ流量調節部材を備え、これを介在させ、インキ組成物をペン先に供給する機構、
(機構3)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、インキ組成物をペン先に供給する機構、および
(機構4)インキ流量調節部材なしに直接、インキ組成物をペン先に供給する機構
などを挙げることができる。
前記ムチンを含んでなる本発明のインキ組成物は、優れた耐ドライアップ性能を維持しながら、インキ組成物のインキ粘度を、剪断速度380sec−1において50mPa・s以下であるような低粘度インキ組成物はもとより、剪断速度380sec−1において2mPa・s以下であるような超低粘度インキ組成物にも調整することが可能である。
このため、インキ供給機構の特性から、インキ粘度が前記低粘度インキ組成物から前記超低粘度インキ組成物の範囲内であるインキ組成物を主に充填して用いるような、前記(機構1)、(機構2)、(機構3)の供給機構を備える筆記具に好適に用いることができる。
また、本発明のインキ組成物は、剪断減粘性付与剤を含んでなる場合、前記(機構4)のインキ供給機構を備える筆記具にも、好適に用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
下記の配合組成および方法により、筆記具用インキ組成物を得た。
・フォリオタミクロスポラ多糖体 0.005質量%
・着色剤 2.0質量%
(黒色染料、C.I.ダイレクトブラック19)
・pH調整剤 1.0質量%
(トリエタノールアミン)
・防腐剤 0.05質量%
(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)
・水溶性有機溶剤 0.3質量%
(ブチレングリコール)
・水溶性有機溶剤 1.6質量%
(ジエチレングリコール)
・水 残部
まず、予めフォリオタミクロスポラ多糖体、ブチレングリコール、水を混合して、フォリオタミクロスポラ多糖体の水溶液を得た。
その後、フォリオタミクロスポラ多糖体の水溶液、pH調整剤、防腐剤、ジエチレングリコール、水をプロペラ攪拌機により混合してベース液を得た。
その後、該ベース液に着色剤を添加し、プロペラ攪拌機により混合した後、メンブレンフィルターを用いて濾過を行い、インキ組成物を得た。
なお、得られたインキ組成物について、JIS Z 8803:2011に従って、B型回転粘度計(機種:BLII、ローター:BLアダプタ、東機産業株式会社製、サンプル量20ml)を用いて、20℃、回転速度60rpmにおけるインキ粘度を測定したところ、1.50mPa・sであった。
【0045】
<実施例2〜実施例4、比較例1〜比較例2>
実施例2〜実施例4、および比較例1〜比較例2は、インキ組成物に含まれる成分の種類や配合量を表1において表される組成に変更した以外は、実施例1と同じ方法でインキ組成物を得た。
なお、実施例3と比較例1のインキ組成物について、JIS Z 8803:2011に従って、B型回転粘度計(機種:BLII、ローター:BLアダプタ、東機産業株式会社製、サンプル量20ml)を用いて、20℃、回転速度60rpmにおけるインキ粘度を測定したところ、実施例3は1.60mPa・sであり、比較例1は1.32mPa・sであった。
【0046】
<試験用筆記具(万年筆)の作製>
実施例1〜実施例4および比較例1〜比較例2のインキ組成物を、ポリエチレン製のインキカートリッジに注入し、金メッキしたステンレス製のペン先を有し、くし溝状のインキ流量調節部材を備えたノック式の出没式筆記具((株)パイロットコーポレーション製万年筆、FCN−1MR−BM)に装着し、万年筆を得た。
得られた万年筆を試験用筆記具(万年筆)とし、耐ドライアップ性能試験、筆記性能試験を行い評価した。
【0047】
<耐ドライアップ性能試験>
得られた試験用筆記具(万年筆)のペン先を繰り出してペン先を大気に晒し、横置きにした状態で、20℃、65%RHの環境下で一定時間放置した後、試験用紙(日本製紙( 株)製の上質紙(しらおい4/6T)に、「V」という文字(文字の大きさは、縦横約8mm)を連続筆記し、筆跡がかすれなくなる程度に復帰するまでの文字数を数えた。
前記試験を5回繰り返して平均値を算出し、下記の評価基準に従って評価を行い、得られた評価結果を表1にまとめた。
◎:初筆より、かすれなく良好な筆跡が得られた。
〇:復帰したまでの文字数が、0文字より多く、3文字未満であった。
△:復帰したまでの文字数が、3文字以上、6文字未満であった。
×:復帰したまでの文字数が、6文字以上、10文字未満であった。
××:10文字以上筆記しても筆跡が得られなかった。
【0048】
<筆記性能試験>
耐ドライアップ性能試験で使用した試験用筆記具(万年筆)を用いて、筆記角度60°、筆記荷重0.98N、筆記速度10m/分の条件下で筆記し、得られた筆跡を目視にて確認し、下記基準に従って筆記性能試験を評価した。
なお、筆記試験用紙として、富士ゼロックス株式会社製のEエンジニアリング用紙(上質系普通紙:E[カット])を用いて評価を行い、得られた評価結果を表1にまとめた。
◎:とぎれやかすれのない、良好な筆跡が得られた。
〇:筆跡にとぎれやかすれが一部確認されたが、実用上問題のないレベルであった。
×:筆跡にとぎれやかすれが確認され、実用上懸念が残るレベルであった。
××:筆跡が得られなかった。
【0049】
【表1】
【0050】
表1により、実施例1〜実施例4のインキ組成物は、比較例1〜比較例2のインキ組成物と比較して、耐ドライアップ性能試験において、ペン先がしばらく外気に晒されても、筆跡がかすれなくなる程度に復帰するまでの文字数が少なく、また筆記性能試験において、とぎれやかすれのない良好な筆跡が得られたため、フォリオタミクロスポラ多糖体を含んでなるインキ組成物は、耐ドライアップ性能、筆記性能ともに優れていることがわかった。
【0051】
以上より、ムチンと、着色剤と、溶媒と、を含んでなる筆記具用インキ組成物は、耐ドライアップ性能に優れており、ペン先が暫く大気に晒された状態においても良好な筆跡をもたらすことができること、また、ペン先へインキが安定して供給され、良好な筆跡が得られるなど筆記性能に優れていることがわかった。
また、万年筆やマーキングペン(サインペン)に用いられるような低粘度インキ組成物、さらには超低粘度インキ組成物としても調整可能であり、インキ追従性に優れ良好な筆跡を残すことができること、さらには、常にペン先が大気に晒されているような状況となり得るような出没式筆記具に用いた場合においても、良好な筆跡をもたらすことがわかった。
よって、本発明の筆記具用インキ組成物は、耐ドライアップ性能、筆記性能に優れ、良好な筆跡をもたらし、また、前記筆記具用インキ組成物を用いた筆記具は、筆記具として優れたものとなることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のインキ組成物は、万年筆、ボールペン、マーキングペン(サインペン)、筆ペン、カリグラフィー用のペンなどの各種筆記具に用いることができ、該インキ組成物が収容されてなる筆記具は、耐ドライアップ性能、筆記性能に優れ、良好な筆跡をもたらすなど、筆記具として優れたものである。