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特開2019-19225熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-19225(P2019-19225A)
(43)【公開日】2019年2月7日
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 71/04 20060101AFI20190111BHJP
   C07D 317/36 20060101ALN20190111BHJP
【FI】
   C08G71/04
   C07D317/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-138900(P2017-138900)
(22)【出願日】2017年7月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢一
(72)【発明者】
【氏名】木村 千也
(72)【発明者】
【氏名】宇留野 学
(72)【発明者】
【氏名】武藤 多昭
(72)【発明者】
【氏名】谷川 昌志
(72)【発明者】
【氏名】見波 暁子
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034RA07
4J034SA01
4J034SB04
4J034SB05
4J034SC04
4J034SD02
4J034SD07
(57)【要約】
【課題】効率よく短時間で、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応を行うことを実現し、機械的特性に優れており、種々の製品のバインダーなどに用いることができる有用な熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の工業的な普及に資する、実用化が可能な熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法の提供。
【解決手段】5員環環状カーボネート基を有する化合物と、アミノ基を有する化合物とを溶剤中で反応させて、重量平均分子量が3000〜20000の予備反応液(A)を得る工程[1]と、前記予備反応液(A)を、80〜180℃、10〜200torrの加熱減圧条件下に供給して、液膜の形成と脱揮による前記予備反応液(A)の基質の濃縮、さらなる重合及び脱溶剤を行ってポリヒドロキシウレタン樹脂を得る工程[2]とを有する熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5員環環状カーボネート基を有する化合物と、アミノ基を有する化合物とを溶剤中で反応させて、重量平均分子量が3000以上20000以下の予備反応液(A)を得る工程[1]と、
工程[1]で得た前記予備反応液(A)を、80〜180℃、10〜200torrの加熱減圧条件下に供給して、液膜の形成と脱揮による前記予備反応液(A)の基質の濃縮、さらなる重合及び脱溶剤を行ってポリヒドロキシウレタン樹脂を得る工程[2]とを有することを特徴とする熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記工程[2]で、前記予備反応液(A)を、前記加熱減圧条件を実施する装置に連続的に供給する請求項1に記載の熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記工程[2]で得るポリヒドロキシウレタン樹脂が、不揮発分が99.0%以上である請求項1又は2に記載の熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記工程[2]で得るポリヒドロキシウレタン樹脂が、重量平均分子量が20000〜100000である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記工程[2]で使用する前記加熱減圧条件を実施する装置が、薄膜蒸発装置である請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記5員環環状カーボネート基を有する化合物が、一般式(1)中のXが下記式(2)で表される構造群から選ばれるいずれかである請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
(式中のRは、水素原子又はメチル基である。)
【請求項7】
前記5員環環状カーボネート基を有する化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素を原料として製造されたものであり、前記工程[2]で得られるポリヒドロキシウレタン化合物中の−O−CO−結合が、二酸化炭素由来のものである請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5員環環状カーボネート基を有する化合物とアミノ基を有する化合物とを反応させてポリヒドロキシウレタン化合物を製造する方法に関し、詳しくは、機械的特性に優れており、フィルム、成型材料、各種コーティング剤・塗料などのバインダーなどとして用いることができる熱可塑性ポリヒドロキシウレタン化合物を、短時間に効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5員環環状カーボネート基は、二酸化炭素を原料に使用して合成することができる。このため、5員環環状カーボネート基を有する化合物を原料として利用できる技術を普及させることは、近年、世界的な環境問題となっている温室効果ガス削減に貢献できることを意味し、このような新たな観点からも、注目されるべき技術である。
【0003】
5員環環状カーボネート基とアミノ基の反応についてはすでに知られている。例えば、エチレンカーボネートと、アンモニアを反応させて、水酸基を有するカルバメート化合物(ヒドロキシウレタン化合物と同義)を得ることが知られている(非特許文献1)。
【0004】
以下に、5員環環状カーボネート基を有する化合物と、アミノ基を有する化合物との反応式を示す。下記に示したように、5員環環状カーボネート構造の開裂は2種類の開裂があるため、5員環環状カーボネート基を有する化合物を原料として利用した場合、2種類の構造物が得られることが知られている。
【0005】
【0006】
ここで、上記5員環環状カーボネート基を有する化合物が、二酸化炭素を原料に用いたものである場合は、上記のアミノ基を付加させて得られたポリヒドロキシウレタン化合物もまた、化学構造中に二酸化炭素を取り込まれた化合物となる。また、下記に述べるように、1分子中に1個以上の5員環環状カーボネート基を有する化合物と、1分子中に1個以上のアミノ基を有する化合物とを用いて高分子化反応を行い、ポリヒドロキシウレタン化合物を製造する方法についてもいくつかの報告がある。
【0007】
例えば、特許文献1には、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルビスカーボネートとヘキサメチレンジアミンなどと反応させ、ポリヒドロキシウレタン化合物を製造する方法が報告されている。しかし、本発明者らの検討によれば、上記反応においては、反応初期では比較的速く反応が進行するが、反応が終点に近づくにつれ反応速度が低下し、目的とする反応率や分子量を得るために長時間を要するという課題がある。また、そのため工業的な普及に至っていない。
【0008】
上記したポリヒドロキシウレタン化合物は、二酸化炭素を原料として製造されるカーボンオフセット材料として応用が期待されているが、一方で、目的とする反応率や分子量を得るために長時間を要するため、その製造時に多大な電力消費がされて二酸化炭素が排出されるという課題が生じる。このため、地球規模で問題としている温室効果ガスの削減の観点から、上記したポリヒドロキシウレタン化合物の工業的な普及を図るには製造時の電力消費を抑え、電力消費によって生じる二酸化炭素の排出を最小限にすることが必要になる。
【0009】
これに対し、反応速度の改善を目的として、5員環環状カーボネート基を有する化合物とアミノ基を有する化合物からポリヒドロキシウレタン化合物を合成する際、三級アミン類や各種金属化合物を触媒として用いていることで伸長速度を上げることが提案されている(特許文献2参照)。
【0010】
製造時の電力等の消費に関しては、溶液状態で得られたポリヒドロキシウレタン化合物を、重合体と溶剤に分離することが必要となる場合があり、その際には乾燥等して脱溶剤する必要があり、この際における電力消費も二酸化炭素の排出原因になる。そのため、脱溶剤を効率よく行うことができれば、二酸化炭素の排出を抑制でき、工業的な普及に寄与できる。これに対し、熱可塑性を示す重合体と有機溶剤からなる樹脂溶液から有機溶剤を除去する方法が検討されている。例えば、特許文献3では、スチレンアクリル共重合体と有機溶剤からなる樹脂溶液からの効率的な脱溶剤方法として、単軸の薄膜蒸発機を用いることにより、樹脂の熱的・機械的劣化を引き起こさずに残存溶剤を1000ppm以下にする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第3072613号明細書
【特許文献2】特開2006−9001号公報
【特許文献3】特開平08−041123号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】F.Strain et.al. J.Am.Chem.Soc.72,1254(1950)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記した反応速度の改善を目的とした技術に関する特許文献2に記載されているいずれの触媒物質も、十分な効果を得るには多量に添加する必要があり、工業的に有用なレベルまでの反応時間の短縮、或いは、高分子量化を達するに至っていない。さらに、このような多量の触媒の使用は、製造コストが増大することや、最終製品中への触媒の残存が懸念され、安全性上の問題から好ましくない。
【0014】
一方、上記した特許文献3に記載されている技術は、効果的に有機溶剤を除去する方法に関するものであり、本発明が課題としているような重合を促進すること(反応速度の改善)を目的としたものではない。
【0015】
従って、本発明の目的は、従来技術の課題を解消し、効率よく、短時間で、5員環環状カーボネート基を有する化合物とアミノ基を有する化合物との反応を行うことを実現し、機械的特性に優れており、種々の製品のバインダーなどに用いることができる有用な熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の工業的な普及に資する、実用化が可能な熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、温室効果ガス削減に貢献できる、二酸化炭素を原料に使用して合成することができる熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂を、その製造時における電力等の消費を極力抑えることができ、原料面に加えて、この点でも二酸化炭素の排出の低減に寄与できる実用化が可能な熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、5員環環状カーボネート基を有する化合物とアミノ基を有する化合物とを重付加反応させて熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂を製造する際に、従来方法に比べて、効率よく、短時間で、十分な分子量を有する熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂、最適には不揮発分を殆ど含まない熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂を得ることができる製造方法を見出し、本発明を完成させるに至った。本発明では、下記に規定するように、工程[2]で使用する液は、その前に行う工程[1]で、5員環環状カーボネート基を有する化合物と、アミノ基を有する化合物との反応物(重合物)が一部に混合された状態になる液であるので、本明細書では、前もって工程[1]で準備したものを「予備反応液」と呼ぶ。
【0017】
すなわち、上記の目的は、下記の本発明によって達成される。本発明は、
〔1〕5員環環状カーボネート基を有する化合物と、アミノ基を有する化合物とを溶剤中で反応させて、重量平均分子量が3000以上20000以下の予備反応液(A)を得る工程[1]と、工程[1]で得た前記予備反応液(A)を、80〜180℃、10〜200torrの加熱減圧条件下に供給して、液膜の形成と脱揮による前記予備反応液(A)の基質の濃縮、さらなる重合及び脱溶剤を行ってポリヒドロキシウレタン樹脂を得る工程[2]とを有することを特徴とする熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法を提供する。
【0018】
本発明の好ましい形態としては、さらに、下記の要件を具備してなるものが挙げられる。
〔2〕前記工程[2]で、前記予備反応液(A)を、前記加熱減圧条件を実施する装置に連続的に供給する〔1〕に記載の熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
〔3〕前記工程[2]で得るポリヒドロキシウレタン樹脂が、不揮発分が99.0%以上である〔1〕又は〔2〕に記載の熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
〔4〕前記工程[2]で得るポリヒドロキシウレタン樹脂が、重量平均分子量が20000〜100000である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
〔5〕前記工程[2]で使用する前記加熱減圧条件を実施する装置が、薄膜蒸発装置である〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
〔6〕前記5員環環状カーボネート基を有する化合物が、一般式(1)中のXが下記式(2)で表される構造群から選ばれるいずれかである〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
(式中のRは、水素原子又はメチル基である。)

〔7〕前記5員環環状カーボネート基を有する化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素を原料として製造されたものであり、前記工程[2]で得られるポリヒドロキシウレタン化合物中の−O−CO−結合が、二酸化炭素由来のものである〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、5員環環状カーボネート基を有する化合物とアミノ基を有する化合物との反応における、反応が終点に近づくにつれ反応速度が低下し、目的とする反応率や分子量を得るために長時間を要する、という従来技術の課題が改善され、上記反応を効率よく、短時間で行うことで、高分子量の熱可塑性ポリヒドロキシウレタン化合物を合成することが可能になる。このため、本発明の製造方法によれば、生産に必要なエネルギーの低減を実現することができ、これに伴い製造時に発生する二酸化炭素量の低減も実現され、工業的な観点から製造経費を削減できるという顕著な効果が得られる。さらに、本発明の製造方法によれば、上記したように、反応の効率化の実現によって製造時に発生する二酸化炭素量の低減効果が得られることに加え、二酸化炭素を原料にした様々な5員環カーボネート化合物を用い、アミノ基を有する化合物と反応させることで、種々のポリヒドロキシウレタン樹脂を効率よく合成することができるので、省資源、環境保護に資する技術提供が可能になる。さらに、本発明の製造方法によって製造された熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、有用な環境対応型材料となり、これを用いた製品の価値を高める効果が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明の熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法は、1分子中に少なくとも1個以上の5員環環状カーボネート基を有する化合物と、1分子中に少なくとも1個以上のアミノ基を有する化合物との重付加反応によりポリヒドロキシウレタン化合物を得る際に、下記のように構成したことを特徴とする。まず、工程[1]で、5員環環状カーボネート基を有する化合物と、アミノ基を有する化合物とを溶剤中で反応させて、重量平均分子量が3000以上20000以下の予備反応液(A)を得る。そして、工程[2]で、工程[1]で得た予備反応液(A)を、80〜180℃、10〜200torrの加熱減圧条件下に供給して、液膜の形成と脱揮による予備反応液(A)の基質の濃縮、さらなる重合及び脱溶剤を行って、十分な分子量で、且つ、十分に脱溶剤されてなるポリヒドロキシウレタン樹脂を得る。本発明者らは、本発明の製造方法を、上記した工程[1]及び工程[2]で構成することで、5員環環状カーボネート基を有する化合物と、アミノ基を有する化合物との反応の効率化が達成された理由を下記のように考えている。
【0021】
上記工程[1]では、初期における高い反応速度を利用し、5員環環状カーボネート基を有する化合物と、アミノ基を有する化合物と、溶剤とを、加熱・撹拌することで、部分的に反応した、重量平均分子量が3000以上20000以下の重合中間体である予備反応液(A)を調製する。そして、次の工程[2]で、上記工程[1]で得た予備反応液(A)を、80〜180℃、10〜200torrの加熱減圧条件下に供給することで、液膜の形成と、上記加熱減圧の状態での予備反応液(A)の濃縮、反応系から脱揮することで予備反応液(A)の基質濃度を高くし、これにより反応性が高くなることで、十分な分子量を有し、同時に脱溶剤されるので不揮発分が低減された熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂を効率的に製造することを可能にしたことを特徴とする。上記構成によって、従来の製造方法で課題となっていた、反応が終点に近づくにつれ反応性が低下し、長時間かかり、効率的な樹脂製造ができないとした課題が解決され、高分子量の不揮発分が低減された熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂を効率よく製造することができる。より具体的には、重量平均分子量が20000〜100000で、不揮発分が99.0%以上になる熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂を効率的に製造することが可能になる。
【0022】
上記したように、本発明の好ましい形態では、前記した予備反応液(A)を、連続的に、上記した加熱減圧条件下に供給して、液膜を形成させ加熱減圧により濃縮、脱揮を行うことで基質濃度を高くし、これによって反応性を高くする、本発明を特徴づける工程[2]を連続実施することで、目的とする高分子量の熱可塑性ポリヒドロキシウレタンの製造を、従来技術に比べて格段に効率よくすることを実現している。本発明で規定する工程[2]を実施するための装置としては、薄膜型蒸発機、薄膜真空蒸発装置、回転薄膜蒸発機と呼ばれる、加熱減圧することで、溶液や分散液から溶媒を除去することを目的とした装置をいずれも使用することができる。装置については後述する。
【0023】
以下、本発明の製造方法における各構成について詳細に説明する。
本発明の製造方法によって得られる熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、1分子中に1個以上の5員環環状カーボネート基を有する化合物と、1分子中に1個以上のアミノ基を有する化合物をモノマー単位とし、その重付加反応により得られる。先述したが、下記に示すように5員環環状カーボネート基の開裂が2種類あるため、得られるヒドロキシウレタン化合物は、2種類の構造物が得られる。
【0024】
【0025】
従って、例えば、2官能同士の化合物を反応させた場合の、2個の5員環環状カーボネート基を有する化合物と、2個のアミノ基を有するアミン化合物の重付加反応により得られる高分子樹脂は、下記式(4)〜(7)の4種類の化学構造が生じ、ランダムに存在すると考えられる。
【0026】
【0027】
〔工程[1]〕
本発明の製造方法では、工程[1]で、5員環環状カーボネート基を有する化合物(以下、環状カーボネート化合物と呼ぶ場合がある)と、アミノ基を有する化合物(以下、アミン化合物と呼ぶ場合がある)とを、溶剤中で反応させて、重量平均分子量が3000以上20000以下の予備反応液(A)を得る。
【0028】
工程[1]での環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応の条件は、特に限定されないが、例えば、溶剤の存在下で、環状カーボネート化合物と、アミン化合物とを、およそ等当量の使用比率で、40〜120℃の温度で、0.5〜4時間反応させることで、予備反応液(A)を得ることができる。より好ましくは、80〜120℃の温度で、0.5〜3時間、さらには、0.5〜2時間程度反応させることで得られる。このようにして得られる予備反応液(A)は、環状カーボネート化合物とアミン化合物からなるポリヒドロキシウレタン化合物と、一部未反応の環状カーボネート化合物とアミン化合物及び溶剤の混合物である。
【0029】
【0030】
本発明の製造方法の工程[1]で得る予備反応液(A)の重量平均分子量は、3000〜20000の範囲である。本発明者らの検討によれば、分子量が3000未満の場合には、次の工程[2]で、このような予備反応液(A)を用いた場合に、環状カーボネート化合物とアミン化合物とが反応しきれずに多く残り、薄膜状態にて加熱減圧下において除去されてしまうことにより当量比がずれてしまい、高分子量体が得られないことが生じる。
【0031】
また、予備反応液(A)の分子量が20000超の場合には、予備反応液(A)を製造する際の反応時間が長くなることに加え、官能基の失活(副反応)により、次の工程[2]で、本発明で規定する加熱減圧条件下の工程を行っても、分子量が大きくなりにくく、工程[2]を実施することによって得られる効果が小さい。
【0032】
以下に、工程[1]で用いる、5員環環状カーボネート基を有する化合物と、アミノ基を有する化合物について説明する。
<環状カーボネート化合物>
本発明に使用される5員環環状カーボネート基を有する化合物は、特に制限がなく、1分子中に1個以上の5員環環状カーボネート基を有するものであれば、いずれも使用可能である。例えば、ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つ化合物や、脂肪族系や脂環式系の化合物を使用することができる。
【0033】
上記環状カーボネート化合物は、重合性等を考慮すると、2個以上の5員環環状カーボネート基を有する化合物であることが好ましく、一般式(1)中のXが下記式(2)で表される構造群から選ばれるいずれかの化合物であることが好ましい。
【0034】
上記一般式(1)中のXは、以下の式(2)に示す構造のいずれかである。
(式中のRは、水素原子又はメチル基を示す)
【0035】
ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つ環状カーボネート基を有する化合物としては、以下の構造のものが例示される。なお、下記式中のRは、HまたはCH3である。
【0036】
脂肪族系や脂環式系の環状カーボネート化合物としては以下の化合物が例示される。なお、下記式中のRは、HまたはCH3である。
【0037】
本発明で使用する上記に列挙したような環状カーボネート化合物は、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得ることが可能である。エポキシ化合物と二酸化炭素との反応により得られた環状カーボネート化合物を本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法において使用することで、得られたポリヒドロキシウレタン化合物は、そのウレタン結合中の−O−CO−構造部が二酸化炭素由来の成分となる。その構造中に二酸化炭素が固定化されたポリヒドロキシウレタン化合物は、環境問題に対応する材料として有用であることから、本発明の製造方法では、二酸化炭素を原料として用いられた環状カーボネート化合物を使用することが好ましい。
【0038】
具体的には、下記のようにして得られた環状カーボネート化合物を使用することが好ましい。例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下、0℃〜160℃の温度にて、大気圧〜1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4〜24時間反応させる。この結果、二酸化炭素をエステル部位に固定化した環状カーボネート化合物を得ることができる。
【0039】
【0040】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応に使用される触媒としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどのハロゲン化塩類や、4級アンモニウム塩が好ましいものとして挙げられる。その使用量は、原料のエポキシ化合物100質量部当たり1〜50質量部が好ましく、より好ましくは1〜20質量部である。また、これら触媒となる塩類の溶解性を向上させるために、トリフェニルホスフィンなどを同時に使用してもよい。
【0041】
エポキシ化合物と二酸化炭素の反応は、有機溶剤の存在下で行うこともできる。この際に用いる有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであればいずれのものも使用可能である。具体的には、アミド系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤が、好ましい有機溶剤として挙げられる。
【0042】
上記したような、二酸化炭素を原料として合成された環状カーボネート化合物を使用して製造されたポリヒドロキシウレタン化合物は、その構造中に二酸化炭素が固定化された、−O−CO−結合を有したものとなる。二酸化炭素由来の−O−CO−結合(二酸化炭素の固定化量)のヒドロキシウレタン化合物中における含有量は、二酸化炭素の有効利用の立場からはできるだけ高くなる方がよいが、例えば、上記したような環状カーボネート化合物を用いることにより、ヒドロキシウレタン化合物の構造中に1〜40質量%の範囲で、二酸化炭素を含有させることができる。
【0043】
<アミン化合物>
本発明において使用されるアミノ基を有する化合物としては、従来公知のいずれのものも使用できるが、2個以上のアミノ基を有する化合物を用いることが好ましい。例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン(ヘキサメチレンジアミン)、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、ノルボルナンジアミン、1,3−(ビスアミノメチル)シクロヘキサンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミンなどの芳香環を持つ脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンが挙げられる。
【0044】
<溶剤>
環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応に使用する溶剤は、使用する原料及び得られる化合物に対して不活性な有機溶剤であればいずれも使用可能である。好ましいものを例示すると、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、パークロルエチレン、トリクロルエチレン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。反応濃度は30〜90%が好ましく、40〜80%がより好ましい。反応濃度が90%を超えると粘度が高くなり反応の制御が難しく、30%未満では溶剤量が増え長い工程時間を要するので好ましくない。
【0045】
環状カーボネート化合物は、常温では固体であり融点が高いことから、アミン化合物と反応するときに、上記に挙げたような溶剤を反応溶剤として使用し、溶剤中で上記反応をさせることで、短時間で均一に反応を制御して、予備反応液(A)や最終的な熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂を製造することができる。
【0046】
<その他の成分>
環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応は、特に触媒を使用せずに行うことができるが、反応を促進させるために、下記に挙げるような触媒の存在下で行うことも可能である。例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)トリエチレンジアミン(DABCO)、ピリジンなどの塩基性触媒、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウリレートなどのルイス酸触媒などが使用できる。これらの触媒の好ましい使用量は、反応に使用するカーボネート化合物とアミン化合物の総量(100質量部)に対して、0.01〜10質量部である。
【0047】
〔工程[2]〕
本発明の製造方法は、上記のようにして工程[1]で得た予備反応液(A)を、80〜180℃、10〜200torrの加熱減圧条件下に供給して、液膜の形成と脱揮による予備反応液(A)の基質の濃縮、さらなる重合及び脱溶剤を行って、十分に脱溶剤されてなるポリヒドロキシウレタン樹脂を得る工程[2]を有することを特徴とする。工程[2]における加熱減圧条件としては、温度は80〜170℃の範囲がより好ましく、圧力は10〜90torrがより好ましい。
【0048】
さらに、工程[1]で得た予備反応液(A)の供給を連続的に行うことで、上記した加熱減圧条件下で行う工程[2]が連続的に実施され、その結果、高分子量で、脱溶剤がされた不揮発分が高い熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂を、連続して効率的に製造される。本発明では、工程[2]を連続的に実施できる装置である、下記で説明する薄膜蒸発装置を利用することが好ましい。
【0049】
<薄膜蒸発装置>
本発明において、工程[1]で得た予備反応液(A)から、高分子量で揮発分(溶剤分)の少ない熱可塑性ポリヒドロキシウレタンを得る方法としては、本発明で規定する、予備反応液(A)を80〜180℃、10〜200torrの加熱減圧条件の範囲内であれば、工業的に実現可能な範囲で特に制限なく種々の具体的方式を用いることができる。具体例としては、円筒形の蒸発塔の内壁にワイパーによって溶液の液膜を形成させる方式、平板状または円筒状の蒸発機に原料の自然流下によって溶液の液膜を形成させる方式、撹拌機に接続された単管から、撹拌時の遠心力により反応液を管壁へ吐出し、反応機管壁で溶液の液膜を形成させる方式等を挙げることができる。
【0050】
本発明において形成される予備反応液(A)の液膜の厚さは、反応溶剤の蒸発・脱揮が促進され、効率よく脱溶剤することができるため、薄い方が好ましい。具体的には、上記液膜の厚さは、0.1〜5mm程度であることが好ましく、より好ましくは、0.1〜2mm程度である。
【0051】
本発明で規定する、80〜180℃、10〜200torrの加熱減圧条件下で、液膜を形成し、脱揮させることにより基質の濃縮を行い、さらに重合及び脱溶剤を行って十分に脱溶剤されてなるポリヒドロキシウレタン樹脂を得る方法とは、具体的には、下記のような方法を意味している。上記した、反応溶剤と、環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応物と、一部未反応の環状カーボネート化合物とアミン化合物の混合物からなる予備反応液(A)で液膜を形成し、加熱することにより揮発分を除去、すなわち、蒸発、脱揮等させる(本発明では、これを「薄膜蒸発」と呼ぶ)のに用いられている装置(本発明では、これを「薄膜型蒸発機」という)を使用する方法が挙げられる。上記装置としては、本発明で規定する工程[2]を工業的に実現可能な範囲で特に制限なく種々の具体的装置を用いることができる。具体例としては、神鋼環境ソリューション社製の、ワイプレン(商品名)やエクセバ(商品名)、日立製作所社製の、コントロ(商品名、縦型・横型)及び傾斜翼コントロ(商品名)、桜製作所社製の、ハイエバポレーター(商品名)、関西化学機械社製の、ウォールウェッター(商品名)等が挙げられるがこの限りではない。また、揮発させた溶剤は凝縮させて回収することができる。生じた揮発分の凝縮形式としては、薄膜型蒸発機外部に凝縮部を有する外部コンデンサー方式、薄膜型蒸発機内部に凝縮部を有する内部コンデンサー方式のいずれも用いることができる。
【0052】
工程[2]では、前記した工程[1]で得た予備反応液(A)を、上記に挙げたような、例えば、加熱減圧条件を実施する装置に供給し、好ましくは連続的に供給し、予備反応液(A)の液膜を形成させ、上記液を濃縮し、反応基質濃度を上昇させ、これにより反応促進させて高分子量の熱可塑性ポリヒドロキシウレタンを得る。本発明では、この工程[2]の少なくとも一部を、耐蝕材料を使用した装置を用いて実施することが好ましい。本発明においては、上記した薄膜蒸発に用いられる装置は、耐蝕材料を使用したものであることが好ましい。蒸発機の材質は、SUS成分、グラス成分、テフロン(登録商標)成分等の任意の成分からなる材料を、単独又は組み合わせて用いることができるが、上記したように、耐蝕材料であることが好ましい。しかし、特にこの限りではない。
【0053】
先に挙げた公知の「薄膜型蒸発機」では、その操作条件に、必要に応じて各種の条件が適用できる。例えば、一般的には、50〜250℃の温度、0.1〜760torrの圧力の範囲内で操作条件を選択することができる。除去する揮発性成分の沸点が高い場合において、効率よく除去が可能である条件としては、例えば、100〜200℃の温度、0.1〜200torrの圧力が好ましく用いられている。
【0054】
本発明の製造方法では、工程[2]を本発明で規定する加熱減圧条件下で行う必要がある。従って、前記した「薄膜型蒸発機」における操作条件は、温度範囲を、80℃以上180℃以下、好ましくは80℃以上170℃以下とし、また、その圧力条件を、10〜200torr、好ましくは、10〜90torrとする。上記薄膜蒸発の際の温度を180℃超と高くすると、工程[2]で分解反応が起こり、得られる熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の分子量が高くならない。また、先に述べたように、予備反応液(A)には、未反応のアミノ基が残っていることから、温度を180℃超と高くすると、材質が腐食したりする。従って、分解反応を起こさずに、高分子量のポリヒドロキシウレタン樹脂を得るためには、上記薄膜蒸発の際の温度を180℃以下、好ましくは170℃以下にする。また、圧力が200torrを超えると、工程[2]で、薄膜型蒸発機内に予備反応液(A)が滞留している間(以下、「滞留時間」という)に、溶剤が十分に除去されず、最終的に目的とする十分に脱溶剤された、例えば、不揮発分99.0%以上の樹脂にならない。十分に脱溶剤されていない場合は、そのまま熱可塑性材料として用いることができない。一方、圧力が10torr未満では、溶剤が蒸発し、粘度が高くなり、薄膜化しにくくなる。本発明者らの検討によれば、薄膜蒸発の際に、必要に応じて、窒素、アルゴン等の不活性ガスの少量のガス成分を蒸発機内に供給することにより、揮発した成分を効率よく除去することができるので、このように構成することが好ましい。
【0055】
また、上記滞留時間は、装置の状況や設定温度、圧力等により変化するものであり、時間そのものを規定することは難しい。しかし、予備反応液(A)の供給速度、減圧度、設定温度等を調整することによりある程度の調整ができ、また、使用した溶剤と樹脂の留出速度を調整することによってもバランスをとることができる。その結果、滞留時間をより短くすることができ、工程[1]で、溶剤中で使用した原料の環状カーボネート化合物とアミン化合物とから、不揮発分が、例えば、99.0%以上と高い熱可塑性のポリヒドロキシウレタン樹脂を得るまでにかかる反応時間(以下、「総工程時間」という)をより短くすることが可能になる。本発明の製造方法によって達成できる、「総工程時間」の短時間化は、電力等を使用する際に発生する二酸化炭素量が少なくなることを意味しており、本発明の製造方法は、樹脂原料に二酸化炭素を利用できることに加えて、この点でも温室効果ガスの排出量の低減に寄与できる有用な方法である。
【実施例】
【0056】
次に、製造例、合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0057】
<環状カーボネート化合物の製造>
[製造例1:環状カーボネート化合物(I)の合成]
エポキシ当量187のビスフェノールA型エポキシ樹脂〔エポトート YD−128(商品名)、新日鉄住金化学社製〕100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)20部と、N−メチル−2−ピロリドン150部とを、撹拌装置及び大気解放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間の反応を行った。その後、反応液に300部の水を加え、生成物を析出させ、ろ別した。得られた白色粉末をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部(収率42%)を得た。
【0058】
得られた粉末を、IR(FT/IR−350、日本分光社製、他も同様の装置で測定)にて分析したところ、910cm-1付近の原材料エポキシ由来のピークは消失しており、1800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来のピークが確認された。また、HPLC〔LC−2000(商品名)、日本分光社製、カラム:FinePakSIL C18−T5、移動相:アセトニトリル+水〕による分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC(示差走査熱量)測定の結果、融点は178℃であり、融点の範囲は±5℃であった。
【0059】
以上のことから、上記で得た白色粉末は、エポキシ基と二酸化炭素との反応により環状カーボネート基が導入された、下記式で表される構造の化合物と確認された。以下、これを化合物(I)と呼ぶ。この化合物(I)の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、20.5%(計算値)であった。
【0060】
【0061】
[製造例2:環状カーボネート化合物(II)の合成]
製造例1で使用したエポキシ化合物の替わりに、エポキシ当量138のネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル〔デナコールEX211(商品名)、ナガセケムテックス社製〕を用いた以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた環状カーボネート化合物はオイル状であり、IRにて分析したところ、910cm-1付近の原材料エポキシ由来のピークは消失しており、1800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来のピークが確認された。また、製造例1で行ったと同様の条件でHPLCによる分析をした結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は97%であった。
【0062】
以上のことから、この物質は、エポキシ基と二酸化炭素との反応により環状カーボネート基が導入された、下記式で表される構造の化合物と確認された。以下、このオイル状の化合物を、化合物(II)と呼ぶ。この化合物(II)の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、24.2%(計算値)であった。
【0063】
【0064】
<予備反応液(A)の合成>
[合成例1:予備反応液(A−1)の合成]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、環状カーボネート化合物として製造例1で得た化合物(I)を78.7部、アミン化合物としてヘキサメチレンジアミン(略記:HMD、旭化成ケミカルズ社製、以下同様)を21.3部、さらに、反応溶剤としてN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を100部加えた。そして、100℃の温度で撹拌しながら、0.5時間反応を行い、予備反応液(A−1)を得た。
【0065】
得られた予備反応液(A−1)について、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定〔GPC−8220(商品名)、東ソー社製、カラム:SuperAW2500+AW3000+AW4000+AW5000〕をしたところ、その重量平均分子量は、5000(ポリスチレン換算)であった。また、得られた予備反応液(A−1)をIRにて分析したところ、1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。このことによって、反応容器内に、重合物と未反応物が共存していることが確認できる。なお、下記の他の合成例でも同様のことがいえる。
【0066】
[合成例2:予備反応液(A−2)の合成]
0.5時間であった合成例1の反応時間を1時間にした以外は、合成例1と同様に行って、予備反応液(A−2)を得た。得られた予備反応液(A−2)の重量平均分子量は、9500(ポリスチレン換算)であった。また、得られた予備反応液(A−2)をIRにて分析したところ、1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。
【0067】
[合成例3:予備反応液(A−3)の合成]
0.5時間であった合成例1の反応時間を2時間にした以外は、合成例1と同様に行って予備反応液(A−3)を得た。得られた予備反応液(A−3)の重量平均分子量は、17000(ポリスチレン換算)であった。また、得られた予備反応液(A−3)をIRにて分析したところ、1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。
【0068】
[合成例4:予備反応液(A−4)の合成]
合成例1で使用した化合物(I)を68.2部、合成例1で使用したヘキサメチレンジアミンの替わりにドデカジアミン(小倉合成社製)を31.8部用いた以外は、合成例1と同様にして、予備反応液(A−4)を得た。得られた予備反応液(A−4)の重量平均分子量は、6000(ポリスチレン換算)であった。また、得られた予備反応液(A−4)をIRにて分析したところ、1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。
【0069】
[合成例5:予備反応液(A−5)の合成]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、環状カーボネート化合物として、製造例1で得た化合物(I)を38.6部と、製造例2で得た化合物(II)を38.6部とを用い、アミン化合物としてヘキサメチレンジアミンを23.4部、さらに、反応溶剤として、N,N−ジメチルホルムアミドを100部加えた。そして、100℃の温度で撹拌しながら、0.5時間反応を行って、予備反応液(A−5)を得た。得られた予備反応液(A−5)の重量平均分子量は、5500(ポリスチレン換算)であった。また、得られた予備反応液(A−5)をIRにて分析したところ、1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。
【0070】
[合成例6:予備反応液(A−6)の合成]
合成例1の反応温度を80℃にした以外は、合成例1と同様にして予備反応液(A−6)を得た。得られた予備反応液(A−6)の重量平均分子量は、2300(ポリスチレン換算)であり、本発明で規定するよりも重量平均分子量が小さかった。また、得られた予備反応液(A−6)をIRにて分析したところ、1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。
【0071】
[合成例7:予備反応液(A−7)の合成]
0.5時間であった合成例1の反応時間を8時間にした以外は、合成例1と同様に行って、予備反応液(A−7)を得た。得られた予備反応液(A−7)の重量平均分子量は、24000(ポリスチレン換算)であり、本発明で規定するよりも重量平均分子量が大きかった。また、得られた予備反応液(A−7)をIRにて分析したところ、1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。
【0072】
【0073】
<熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造>
[実施例1]
高粘度液用の薄膜型蒸発機であるエクセバ(登録商標)EX−02(神鋼環境ソリューション社製)を用い、合成例1で得た予備反応液(A−1)を供給し、130℃、50torrの加熱減圧の条件下で、液膜の形成と脱揮による予備反応液の基質の濃縮、さらなる重合及び脱溶剤を行って、取り出し口より溶融したポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。より具体的には、上記装置内で、予備反応液(A−1)からなる2mm程度の厚みの液膜を形成させて、脱揮して予備反応液(A−1)の基質の濃縮、さらなる重合及び脱溶剤して、樹脂の重合と反応溶媒の留去を行った。得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の不揮発分は99.8%と高く、重量平均分子量は28000で、十分な分子量を有していた。予備反応液(A−1)の滞留時間は、25分であった。
【0074】
[実施例2]
実施例1で使用した予備反応液(A−1)を、合成例2で得た予備反応液(A−2)にした以外は、実施例1と同様にして、工程[2]を実施し、取り出し口より溶融したポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の不揮発分は99.7%と高く、重量平均分子量は31000で、十分な分子量を有していた。予備反応液(A−2)の滞留時間は、25分であった。
【0075】
[実施例3]
実施例1で使用した予備反応液(A−1)を、合成例3で得た予備反応液(A−3)にした以外は、実施例1と同様にして、工程[2]を実施し、取り出し口より溶融したポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の不揮発分は99.7%と高く、重量平均分子量は47000で、十分な分子量を有していた。予備反応液(A−3)の滞留時間は、25分であった。
【0076】
[実施例4]
実施例1で使用した薄膜型蒸発機エクセバの条件を、130℃、20torrと、実施例1の場合よりもより低圧にした以外は実施例1と同様にして、工程[2]を実施し、取り出し口より溶融したポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の不揮発分は99.9%と高く、重量平均分子量は34000で、十分な分子量を有していた。予備反応液(A−1)の滞留時間は、30分であった。
【0077】
[実施例5]
実施例1で使用した薄膜型蒸発機エクセバの条件を、150℃、50torrと、実施例1の場合よりもより高温に変えた以外は実施例1と同様にして、工程[2]を実施し、取り出し口より溶融したポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の不揮発分は99.8%と高く、重量平均分子量は29000で、十分な分子量を有していた。予備反応液(A−1)の滞留時間は、20分であった。
【0078】
[実施例6]
実施例1で使用した予備反応液(A−1)を、合成例4で得た予備反応液(A−4)にした以外は、実施例1と同様にして、工程[2]を実施し、取り出し口より溶融したポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の不揮発分は99.8%と高く、重量平均分子量は35000で、十分な分子量を有していた。予備反応液(A−4)の滞留時間は、25分であった。
【0079】
[実施例7]
実施例1で使用した予備反応液(A−1)を、合成例5で得た予備反応液(A−5)にし、また、実施例1で使用した薄膜型蒸発機エクセバの条件を、100℃、10torrと、実施例1の場合よりもより高温及び高圧に変えた以外は、実施例1と同様にして、工程[2]を実施し、取り出し口より溶融したポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の不揮発分は99.7%と高く、重量平均分子量は30000で、十分な分子量を有していた。予備反応液(A−5)の滞留時間は、35分であった。
【0080】
[比較例1]
撹拌装置と減圧蒸留装置を付帯した常圧の反応容器内に、合成例1で得た予備反応液(A−1)を入れ、130℃に昇温して、反応容器内を減圧にさせながら溶剤を留去した。この方法はバッチ処理であり、液膜を形成しないため、発泡等を防ぎながら行う必要があったので、反応容器内が50torrに到達するまでに、2.5時間を要した。得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の不揮発分は98.2%で、実施例1で得られた樹脂より不揮発分の値が低く、重量平均分子量は20000で、実施例1で得られた樹脂より分子量が小さかった。また、予備反応液(A−1)の反応時間は3時間であり、実施例1の滞留時間に比べて格段に長かった。
【0081】
[比較例2]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た環状カーボネート化合物である化合物(I)を78.7部、ヘキサメチレンジアミンを21.3部加え、100℃の温度で撹拌しながら、8時間反応を行って、ポリヒドロキシウレタン樹脂を合成した。反応物は、8時間反応させたにもかかわらず、一部の化合物(I)が反応しておらず、不透明であった。得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の不揮発分は91.5%であり、実施例1で得られた樹脂より不揮発分の値が格段に低く、重量平均分子量は3700で、実施例1で得られた樹脂より格段に分子量が小さかった。
【0082】
[比較例3]
実施例1で使用した薄膜型蒸発機エクセバの条件を、本発明で規定する範囲外である、70℃、5torrと、実施例1の場合よりもより低温低圧に変えた以外は実施例1と同様に行い、取り出し口より溶融したポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の不揮発分は93.8%で、実施例1で得られた樹脂より不揮発分の値が低く、重量平均分子量は9000で、実施例1で得られた樹脂より格段に分子量が小さかった。予備反応液(A−1)の滞留時間は、45分であった。
【0083】
[比較例4]
実施例1で使用した薄膜型蒸発機エクセバの条件を、185℃、100torrと、本発明で規定するよりも高温にし、且つ、実施例1の場合よりも高圧にした以外は、実施例1と同様に行い、取り出し口より溶融したポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の不揮発分は99.1%で、実施例1よりも若干低く、重量平均分子量は14500で、実施例1で得られた樹脂より分子量も小さかった。予備反応液(A−1)の滞留時間は、15分であった。
【0084】
[比較例5]
実施例1で使用した薄膜型蒸発機エクセバの条件を、130℃、300torrと、実施例1の場合と同様の温度で、且つ、本発明で規定するよりも高圧にした以外は、実施例1と同様に行い、取り出し口より溶融したポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の不揮発分は、95.2%で、実施例1で得られた樹脂より不揮発分の値が低く、重量平均分子量は19000で、実施例1で得られた樹脂より分子量が小さかった。予備反応液(A−1)の滞留時間は、15分であった。
【0085】
[比較例6]
実施例1で使用した予備反応液(A−1)を、重量平均分子量が2300である本発明で規定するよりも小さい、合成例6で得た予備反応液(A−6)にした以外は、実施例1と同様にして、工程[2]を実施し、取り出し口より溶融したポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の不揮発分は99.2%で、実施例1よりも若干低く、重量平均分子量は12000で、実施例1で得られた樹脂より分子量も小さかった。予備反応液(A−6)の滞留時間は、20分であった。
【0086】
[比較例7]
実施例1で使用した予備反応液(A−1)を、重量平均分子量が24000である本発明で規定するよりも大きい、合成例7で得た予備反応液(A−7)にした以外は、実施例1と同様にして、工程[2]を実施し、取り出し口より溶融したポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の不揮発分は、99.1%で、実施例1よりも若干低く、重量平均分子量は25000で、反応前の予備反応液(A−7)の分子量とあまり変わらなかった。予備反応液(A−7)の滞留時間は、28分であった。
【0087】
表2及び表3に、実施例と比較例の製造方法における反応条件を示した。表中の滞留時間は、高粘度液用の薄膜型蒸発機であるエクセバを使用した工程にかかった時間である。エクセバに送る速度は、供給する予備反応液(A)の不揮発分が50%であることから、留出した溶剤量と、処理されて排出された樹脂量が時間当たり同じになるように調節した。比較例1、2では、エクセバを使用していないため、それぞれの反応時間を表中に記載した。
【0088】
【0089】
【0090】
〔評価〕
実施例及び比較例の製造方法でそれぞれに得たポリウレタン樹脂の製造方法を、下記の方法及び基準にて評価した。表4、5に、測定結果及び評価結果をまとめて示した。
【0091】
[重量平均分子量]
実施例及び比較例で得た各樹脂について、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定を行い、それぞれ重量平均分子量を測定した。GPC測定は、東ソー社製のGPC−8220(商品名)で、カラムに、SuperAW2500+AW3000+AW4000+AW5000を用いて重量平均分子量を測定した。表4、5中に、分子量として測定値を示した。
【0092】
[不揮発分]
実施例及び比較例で得た樹脂をそれぞれ約3.0gとって秤量し、150℃のオーブンにて1時間加熱し、その後デシケーター中で冷却してから、再び秤量した。そして、得られた秤量値を用い、加熱後の重量/加熱前の重量×100にて算出して不揮発分(%)とした。
【0093】
[総工程時間]
表4、5に、原料である5員環環状カーボネート基を有する化合物と、アミノ基を有する化合物とから、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得るまでの総工程にかかる時間を総工程時間として、それぞれ示した。具体的には、実施例では、予備反応液(A)を得る工程[1]にかかった時間と、次の工程[2]の滞留時間の和である。高粘度液用の薄膜型蒸発機であるエクセバを使用した比較例3〜7も同様であり、予備反応液(A)を得るのに要した時間と、エクセバにおける予備反応液(A)の滞留時間の和を示した。比較例1では、減圧蒸留装置の反応容器内に予備反応液(A)を入れ、その後に減圧蒸留したので、予備反応液(A)を得るのに要した時間と、減圧蒸留にかかった時間の和を示した。また、比較例2では、大気開放口のある還流器を備えた反応容器内で行った、環状カーボネート化合物である化合物(I)と、ヘキサメチレンジアミンとの重合時間を示した。
【0094】
[破断点強度]
実施例及び比較例で得た各ポリヒドロキシウレタン樹脂で、フィルムをそれぞれ作製し、評価用試料とし、JISK6251に準拠して、得られたフィルムの破断点強度をそれぞれ測定した。具体的には、実施例及び比較例で得たポリヒドロキシウレタン樹脂をそれぞれ用い、温度140℃、時間5分、圧力100kg/cm2の条件下、厚み500μmのプレスフィルムを作製し、得られたフィルムからJIS3号ダンベルを切り出した後、オートグラフにて室温(25℃)で測定した。そして、得られた破断点強度の測定値を下記のA〜Eの5段階に分け、評価した。なお、脆くて成型できないものは成型不能とした。本発明では、A、Bを合格とし、C、D、Eを不合格とした。
A:50MPa以上
B:30MPa以上〜50MPa未満
C:20MPa以上〜30MPa未満
D:10MPa以上〜20MPa未満
E:10MPa未満
【0095】
[成型性]
破断点強度の測定の際に用いた評価用試料の作製の方法と同様にして、フィルムを作製し、得られたフィルムの10cm×10cmの面積中に気泡が入っているかを確認した。気泡の数にて3段階に分けて評価した。なお、脆くて成型できないものは、表4、5中に成型不能と記載した。
○:気泡の数が0〜2個
△:気泡の数が3〜5個
×:気泡の数が6個以上
【0096】
【0097】
【0098】
実施例1、4、5及び比較例3〜5では、いずれも、環状カーボネート化合物に、化合物(I)を使用し、アミン化合物に、ヘキサメチレンジアミンを使用して得た同じ予備反応液(A−1)を使用し、この予備反応液(A−1)を同様の薄膜型蒸発機に供給して薄膜型蒸発機での工程を行っているが、その際に、表2、3に示されているように、薄膜型蒸発機での工程における温度と圧力の条件を変えている。その結果、表4、5に示されているように、薄膜型蒸発機での工程における温度と圧力条件の違いによって、最終的に得られた熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の、重量平均分子量、機械的強度及び不揮発分の違いに大きく影響することが確認された。薄膜型蒸発機での工程における温度、圧力条件が成型性に与える影響を比較すると、本発明で規定した条件を満足する実施例では、機械的強度が十分な分子量であり、成型性も問題がない、高い不揮発分の樹脂が得られることがわかった。
【0099】
これに対し、比較例1の製造方法は、予備反応液(A−1)を使用するものの、実施例のように、該予備反応液の液膜を形成しないものである。具体的には、バッチ式で、減圧蒸留装置を付帯した常圧の反応容器内に入れて、減圧にしながら溶剤を留去して反応するものであるため、溶剤の気化熱により温度低下が起こって濃縮に時間がかかり、また、濃縮とともに粘度が上昇することにより、表5に示したように、完全に脱溶剤をすることが難しくなる。比較例2の大気中で還流させながら反応させる製造方法によって得られる反応物は、重量平均分子量が3700で、十分な分子量のものにならなかった。このことから、ヘキサメチレンジアミンと反応させる環状カーボネート化合物に使用した化合物(I)が、固体で融点が高いことから、溶剤を使用しないと反応が難しいことが理解できる。
【0100】
比較例6、7の製造方法は、本発明で規定する工程[2]の要件を満たすが、工程[2]に供給する予備反応液の重量平均分子量が、本発明で規定する3000以上20000以下の範囲外であり、表5に示したように、この場合は、本発明の顕著な効果を十分に得ることができない。比較例6に示したように、本発明で規定した範囲内よりも分子量が小さいと、十分な分子量の樹脂が得られない。また、比較例7に示したように、本発明で規定した範囲内よりも分子量が大きい場合には、工程[2]に供給するための予備反応液を得る工程[1]で、長時間を要し、さらに、工程[2]で分子量が殆ど大きくならず、熱可塑性ポリヒドロキシウレタン化合物を短時間に効率的に製造するとした、本発明の目的を達成することができない。
【0101】
これに対し、実施例1〜7に示されているように、工程[1]で得る、工程[2]に供給する予備反応液の重量平均分子量が、本発明で規定する3000以上20000以下の範囲内であれば、環状カーボネート化合物及びアミン化合物の種類を替えた場合であっても、熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂を短時間に効率的に製造でき、しかも、最終的に得られる熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、不揮発分が高く、十分な分子量をもち、しかも、破断強度や成型性に優れるものになるため、本発明の製造方法は工業的に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の活用例としては、環状カーボネート化合物とアミン化合物とを原料とし、重付加反応によりポリヒドロキシウレタン化合物を得る製造方法において、本発明で規定する予備反応液(A)を、本発明で規定する特定の加熱減圧条件下でさらに重付加反応を行うことで、短時間で効率よく、多様なポリヒドロキシウレタン化合物を得ることができるので、熱可塑性ポリヒドロキシウレタン樹脂の工業的な普及に資する製造方法として、その利用が期待される。また、本発明によれば、上記した有用な樹脂を短時間で効率よく得られるので、地球環境保護の面で有用であることに加え、その原料に、二酸化炭素を使用して合成された5員環カーボネート化合物を使用することで、製造した樹脂中に二酸化炭素を固定化することができることから、この点でも地球環境保護の面に優れており、工業的な利用が期待される。