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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-193445(P2019-193445A)
(43)【公開日】2019年10月31日
(54)【発明の名称】モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/032 20160101AFI20191004BHJP
   H02P 23/00 20160101ALI20191004BHJP
   B60L 3/00 20190101ALN20191004BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20191004BHJP
   B60L 15/20 20060101ALN20191004BHJP
【FI】
   H02P29/032
   H02P23/00
   B60L3/00 J
   B60L9/18 J
   B60L15/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-84111(P2018-84111)
(22)【出願日】2018年4月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】300052246
【氏名又は名称】日本電産エレシス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100101306
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】中田 雄飛
(72)【発明者】
【氏名】小池上 貴
(72)【発明者】
【氏名】三本松 功
(72)【発明者】
【氏名】向山 浩司
【テーマコード(参考)】
5H125
5H501
5H505
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125EE02
5H125EE05
5H125EE08
5H125EE15
5H125EE22
5H125EE23
5H125EE70
5H501AA20
5H501BB08
5H501CC04
5H501GG03
5H501GG05
5H501GG08
5H501GG11
5H501HA09
5H501HB08
5H501HB16
5H501JJ24
5H501LL01
5H501LL22
5H501LL23
5H501LL35
5H501LL38
5H501LL54
5H501MM02
5H501MM03
5H501MM04
5H501MM05
5H501MM09
5H505AA16
5H505BB06
5H505CC04
5H505DD03
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505GG07
5H505GG08
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ24
5H505JJ28
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505LL44
5H505LL57
5H505LL58
5H505MM02
5H505MM03
5H505MM05
5H505MM06
5H505MM12
(57)【要約】

【課題】車両の走行時の状態に応じて最適なトルクの制限を行うことができるモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】モータ駆動装置100は、モータ400を指示トルクTqに基づいて制御するモータ駆動装置100であって、指示トルクTqを制限するための制限率Lminを算出する制限部300と、制限部300により算出された制限率Lminに基づいて指示トルクTqを制限し、制限された指示トルクTqに基づいてモータ400を駆動するための電力を出力するトルク制御部110等とを備える。制限率Lminは、複数のパラメータにより算出された複数の制限率のうち最小の制限率である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを指示トルクに基づいて制御するモータ駆動装置であって、
前記指示トルクを制限するための制限率を算出する制限部と、
前記制限部により算出された前記制限率に基づいて前記指示トルクを制限し、当該制限された指示トルクに基づいて前記モータを駆動するための電力を出力する制御部と、
を備える、モータ駆動装置。
【請求項2】
前記制限部は、入力される複数のパラメータ毎の制限率を算出し、当該算出した複数の制限率のうち最小の制限率を選択する、
請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記複数のパラメータは、電源の直流電流、電源の電圧、温度、モータの回転数、およびモータに流れる電流の少なくとも2以上を含む、
請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記温度は、モータの温度、モータ駆動装置に設けられるスイッチング素子の温度、および当該スイッチング素子が実装される基板の温度の少なくとも1以上を含む、
請求項3に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記制限部は、前記モータの回転数に基づいて当該モータが過回転数であるかを検出する、
請求項3に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記制限部は、前記モータに流れる前記電流に基づいて、前記電流を検出する電流センサの異常、前記電流と目標電流との偏差の異常、又は前記電流が過電流であるか、のうち少なくとも1以上を検出する、
請求項3に記載のモータ駆動装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動車両等では、駆動源となるモータの駆動トルクの制御が行われている。駆動トルクの制御においては、過電圧、過電流、温度上昇などにより、インバータ保護、モータ保護、車両保護をするために、電流制御部にて電流制限をかける手法が知られている。
【0003】
ところが、車両のメイン駆動用モータに関しては、駆動トルクによる車両制御を行うため、上述した電流制御処理部にて電流制御を行ってしまうと、車両の実トルク量の判定が困難になってしまい、実トルク量に基づくトルク制御を行うことができない場合がある。
【0004】
上述した課題に対して、例えば特許文献1には、電動機の回転速度に応じて、電動機のトルク上限値を算出するトルク上限値算出処理部と、トルク上限値に基づいてトルク指令を制限し、制限されたトルク指令に基づいて電動機の駆動トルク指令値を算出するトルク指令値制限部と、を備えた電動機の制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−127668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示される電動機の制御装置では、テーブルからトルク上限値を取得するため、電動機の回転速度に応じて設定された固定値でしかトルクの制限を行うことができなかった。例えば、坂道を一定時間連続で登るまたは下る場合、段差に乗り上げる場合、停車を維持する場合等の、モータの低回転、高トルクに制御が必要な際に、テーブルで実現できない制限が必要になった場合には、電動機を停止させなければならないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、車両の走行時の状態に応じて最適なトルクの制限を行うことができるモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の例示的なモータ制御装置は、モータを指示トルクに基づいて制御するモータ駆動装置であって、前記指示トルクを制限するための制限率を算出する制限部と、前記制限部により算出された前記制限率に基づいて前記指示トルクを制限し、当該制限された指示トルクに基づいて前記モータを駆動するための電力を出力する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、制限部により算出された制限率によって指示トルクに対して制限をかけるので、例えば従来におけるトルク上限値を記憶するテーブルを用いた制限では実現できない制限が必要となった際にも、最適なトルクの制限を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係るモータ駆動システムの概略構成を示す図である。
図2図2は、回転速度算出部の機能ブロック図である。
図3図3は、制限部の機能ブロック図である。
図4図4は、直流電流における制限率を算出する場合に用いる関数を示す図である。
図5図5は、直流電圧における制限率を算出する場合に用いる関数を示す図である。
図6図6は、相電流における制限率を算出する場合に用いる関数を示す図である。
図7図7は、制限率を算出する場合におけるモータ駆動装置の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上拡張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0012】
<モータ駆動システム500の構成例>
図1は、本発明の一実施の形態に係るモータ駆動システム500の概略構成の一例を示している。図1に示すように、モータ駆動システム500は、モータ駆動装置100と、モータ400と、角度センサ410とを備える。
【0013】
モータ駆動装置100は、トルク制御部110と、電流制限値設定部120と、加算器130と、制御器140と、2相/3相変換部150と、インバータ160と、3相/2相変換部170と、電流センサ180と、制限部300とを備える。なお、トルク制御部110および電流制限値設定部120等は、制御部の一例に相当する。
【0014】
図示しない車両制御コントローラは、加速走行である場合にトルク制御に切り換える。トルク制御部110には、CAN(Controller Area Network)通信または、他の通信や、ハードワイヤ(有線での通信)により車両制御コントローラから指示トルク(トルク指令値)Tqが入力される。
【0015】
トルク制御部110は、指示トルクTqに対して制限部300からの制限率Lminを乗算することにより、モータ400の回転数を制御するための目標トルクを算出し、算出した目標トルクに基づいてd軸電流指令値Idおよびq軸電流指令値Iqをそれぞれ算出する。算出されたd軸電流指令値Idおよびq軸電流指令値Iqは、電流制限値設定部120に出力される。例えば、制限部300からの制限率Lminが0%である場合、目標トルクも0Nmとなり、電流指令値も0Aに設定される。
【0016】
電流制限値設定部120は、トルク制御部110から供給されたd軸電流指令値Idおよびq軸電流指令値Iqに基づいて、上限となるd軸電流指令値Idおよびq軸電流指令値Iqを設定する。d軸電流指令値Idおよびq軸電流指令値Iqは加算器130に出力されると共に、制限率L5を算出する際に用いるパラメータとして制限部300に出力される。
【0017】
3相/2相変換部170は、角度センサ410からフィードバックされた角度信号θ(電気角)に基づいて、電流センサ180で検出された相電流Iu,Iv,Iwをdq変換し、d軸電流値Id**およびq軸電流値Iq**を算出する。変換により得られたd軸電流値Id**およびq軸電流値Iq**は、加算器130に出力されると共に、制限率L5を算出する際に用いるパラメータとして制限部300に出力される。
【0018】
加算器130は、電流制限値設定部120からのd軸電流指令値Idと3相/2相変換部170からのd軸電流値Id**との差分を算出する。算出された差分は、制御器140に出力される。同様に、加算器130は、電流制限値設定部120からのq軸電流指令値Iqと3相/2相変換部170からのq軸電流値Iq**との差分を算出する。算出された差分は、制御器140に出力される。
【0019】
制御器140は、加算器130からの各差分をゼロに収束させるように、例えばPI(比例積分)制御演算等を行うことで電圧指令値Vd,Vqを演算する。演算により得られた電圧指令値Vd,Vqは、2相/3相変換部150に出力される。
【0020】
2相/3相変換部150は、角度センサ410からフィードバックされた角度信号θ(電気角)に基づいて、2相の電圧指令値Vd,Vqをu相、v相、w相の3相電圧指令値Vu,Vv、Vwに逆dq変換する。逆dq変換された3相電圧指令値Vu,Vv、Vwは、インバータ160に出力される。
【0021】
インバータ160は、ブリッジ接続続された6個のスイッチング素子を有する。スイッチング素子としては、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等を用いることができる。インバータ160は、2相/3相変換部150からの3相電圧指令値Vu,Vv、Vwに基づくデューティの3相のPWM信号に基づいてスイッチング素子を駆動することで、3相電圧指令値Vu,Vv、Vwに相当する電圧をモータ400に印加する。本実施の形態において、各スイッチング素子には、スイッチング素子の温度T2を検出するための温度センサ(図示省略)が設置されている。また、インバータ160等が実装される基板には、基板の温度T3を検出するための温度センサ(図示省略)が設置されている。なお、上述した3相インバータ回路等の構成は公知技術であるので、詳細な説明は省略する。
【0022】
電流センサ180は、インバータ160からモータ400の各相に流れる相電流Iu,Iv,Iwを検出する。検出された3相の相電流Iu,Iv,Iwは、3相/2相変換部170に出力される。
【0023】
モータ400は、例えば、3相ブラシレスモータにより構成され、インバータ160の駆動によって回転駆動する。本実施の形態において、モータ400には、モータ400の温度T1を検出するための例えば2個の温度センサ(図示省略)が設置されている。なお、温度センサの個数は2個に限定されるものではない。
【0024】
角度センサ410は、モータ400の回転軸の角度変化に応じて角度信号θを検出する。検出された角度信号θは、2相/3相変換部150、3相/2相変換部170および回転速度算出部230等のそれぞれに出力される。なお、角度センサ410としては、例えば、レゾルバ又はMRセンサ等の公知の角度検出器を用いることができる。
【0025】
制限部300は、入力される相電流Iu,Iv,Iw、直流電流I、モータ400の温度T1等の複数のパラメータにおける各制限率に基づいて最小の制限率Lmin(出力ゲイン)を算出する。制限率Lminとは、車両の走行状況に応じて指示トルクTqを最適な状態に制限するための制限値である。例えば、制限率が100%である場合には指示トルクTqがそのまま目標トルクとされ、制限率が低くなるほど目標トルクも小さくなるように制限される。本実施の形態によれば、制限部300により算出された制限率Lminによって指示トルクに対して制限をかけるので、例えば従来におけるトルク上限値を記憶するテーブルを用いた制限では実現できない制限が必要となった際にも、最適なトルクの制限を実現することができる。
【0026】
また、モータ駆動装置100は、加算器200と、速度制御部210と、回転速度算出部230とをさらに備える。
【0027】
図示しない車両制御コントローラは、低速走行である場合、回転数制御に切り換える。加算器200には、CAN通信または、他の通信や、ハードワイヤ(有線での通信)により車両制御コントローラから指示回転数ωが入力される。加算器200は、入力された指示回転数ωと、回転速度算出部230からのモータ回転速度ωeとを加算する。速度制御部210は、加算器200からの回転数等の情報に基づいて速度制御を行う。
【0028】
<回転速度算出部230の構成例>
図2は、回転速度算出部230は、機能ブロックの一例を示している。図2に示すように、回転速度算出部230は、変換部240と、角度センサ0度学習部250と、加算器260と、速度算出部270とを有する。
【0029】
変換部240は、角度センサ410からのアナログの角度信号θをデジタルデータに変換する。なお、変換部240としては、変換機能を有するソフトウェアを採用することもできるし、R/Dコンバータ等のデバイスを採用することもできる。角度センサ0度学習部250は、入力された学習指示に基づいてモータ400の角度から0点を算出する。加算器260では、変換部240からの角度信号θと角度センサ0度学習部250からの0点情報とに基づいて、モータ400と角度センサ410の角度のずれが補正される。速度算出部270は、モータ400の電気角θe等に基づいてモータ回転速度ωeを算出する。算出されたモータ回転速度ωeは、制限率L4を算出する際に用いるパラメータとして制限部300に出力される。
【0030】
<制限部300の構成例>
図3は、制限部300の機能ブロック図である。図3に示すように、制限部300は、直流電流保護部310と、過電圧/低電圧保護部320と、過熱保護部330と、過回転保護部340と、相電流保護部350と、選択部390とを備える。
【0031】
直流電流保護部310は、例えばバッテリー等の電源部の直流電流Iを取得する。直流電流Iを取得する周期は、例えば1msである。直流電流保護部310は、取得された直流電流Iにおける制限率L1を制限率L1計算用の関数グラフを用いて算出する。また、直流電流保護部310は、制限率L1の算出時に、直流電流Iが異常であると判定した場合、ユーザーに対して警告・故障情報を報知する。本実施の形態において、報知手段としては、例えば、音声を用いても良いし、表示部の画面上に文字、画像等を表示する構成としても良い。
【0032】
図4は、直流電流Iの制限率L1を算出する場合に用いる関数グラフを示している。なお、図4において、縦軸は制限率であり、横軸は直流電流である。図4に示すように、直流電流保護部310は、直流電流Iが閾値Ith1未満の場合、直流電流Iが正常であると判定し、制限率L1を100%に設定する。直流電流保護部310は、直流電流Iが閾値(制限開始値)Ith1以上でかつ閾値Ith2(制限終了値)以下の場合、直流電流Iが異常であると判定し、制限率L1を最小のLm超でかつ100%未満の間に設定する。例えば、制限率L1は、直流電流Iの増加に伴って一定の傾きで徐々に低下するように設定される。直流電流保護部310は、直流電流IがIth2を超える場合、直流電流Iの異常レベルが特に高いと判定し、制限率L1として最小のLmを設定する。算出された制限率L1は、選択部390に出力される。
【0033】
図4に示したグラフの線形補完を計算する場合には、例えば以下の式(1)を用いることができる。直流電流保護部310は、例えば、パラメータとして入力される直流電流Iが閾値Ith1以上でかつ閾値Ith2以下である場合、下記式(1)を用いてリアルタイム演算を行い、制限率L1を取得する。なお、式(1)のプログラムおよび式(1)におけるx等の各係数は、図示しないメモリに予め記憶することができる。
【0034】
【数1】
x:現在の直流電流I
:直流電流Iの制限を開始する値
:直流電流Iの制限を終了する値
y:制限率L1
:制限率L1の最小
:制限率L1の最大
【0035】
図3に戻り、過電圧/低電圧保護部320は、例えばバッテリー等の電源部の電源電圧Vを取得する。電源電圧Vを取得する周期は、例えば1msである。過電圧/低電圧保護部320は、取得した電源電圧Vにおける制限率L2を制限率L2計算用の関数グラフ(上記式(1))を用いて算出する。また、過電圧/低電圧保護部320は、制限率L2の算出時に、電源電圧Vが異常であると判定した場合、ユーザーに対して警告・故障情報を報知する。
【0036】
図5は、電源電圧Vの制限率L2を算出する場合に用いる関数グラフを示している。なお、図5において、縦軸は制限率であり、横軸は電源電圧である。図5に示すように、過電圧/低電圧保護部320は、電源電圧Vが閾値Vth2超でかつ閾値Vth3未満の場合、電源電圧Vが正常であると判定し、制限率L2を100%に設定する。過電圧/低電圧保護部320は、電源電圧Vが閾値Vth1以上でかつ閾値Vth2以下の場合、電源電圧Vが異常(低電圧)であると判定し、制限率L2を最小のLm超でかつ100%未満の間に設定する。同様に、過電圧/低電圧保護部320は、電源電圧Vが閾値Vth1未満の場合にも、電源電圧Vが特に低い(低電圧)と判定し、制限率L2として最小のLmを設定する。また、過電圧/低電圧保護部320は、電源電圧Vが閾値Vth3以上でかつ閾値Vth4以下の場合には、電源電圧Vが異常(過電圧)であると判定し、制限率L2を最小のLm超でかつ100%未満の間に設定する。同様に、過電圧/低電圧保護部320は、電源電圧Vが閾値Vth4超の場合にも、電源電圧Vが特に高い(過電圧)と判定し、制限率L2として最小のLmを設定する。例えば、過電圧/低電圧保護部320は、パラメータとして入力される電源電圧Vが閾値Vth1以上でかつ閾値Vth2以下の場合、上記式(1)を用いてリアルタイム演算を行い、制限率L2を取得する。算出された制限率L2は、選択部390に出力される。
【0037】
図3に戻り、過熱保護部330は、モータ400の2箇所の温度T1、インバータ160を構成する6個のスイッチング素子の温度T2、およびスイッチング素子等が実装された基板の温度T3をそれぞれ取得する。各温度T1〜T3を取得する周期は、例えば1msである。過熱保護部330は、温度1〜T3についても、図4と同様の線形パターンの関数グラフ(上記式(1))を用いて制限率L3を算出する。過熱保護部330は、温度1〜T3の何れかが閾値Tth以上の場合、温度が過剰に上昇していると判定し、制限率L3を最小のLm以上でかつ100%未満の間に設定する。算出された制限率L3は、選択部390に出力される。また、過熱保護部330は、取得した温度T1〜T3が異常であると判定した場合、ユーザーに対して警告・故障情報を報知する。
【0038】
相電流保護部350は、過電流検出部360と、電流偏差検出部370と、電流センサ異常検出部380とを有する。
【0039】
過電流検出部360は、電流センサ180で検出された相電流Iu,Iv,Iwを取得すると共に、電源部の直流電流Iを取得する。相電流Iu,Iv,Iw等を取得する周期は、例えば1msである。過電流検出部360は、取得した相電流Iu,Iv,Iwにおける制限率L5aを制限率L5a計算用の関数グラフを用いて算出する。同様に、過電流検出部360は、取得した電源部の直流電流Iにおける制限率L5bを制限率L5b計算用の関数グラフを用いて算出する。以下では、相電流Iu,Iv,Iwの制限率L5aを算出する場合について説明する。
【0040】
図6は、相電流Iu,Iv,Iwの制限率L5aを算出する場合に用いる関数グラフを示している。なお、図6において、縦軸は制限率であり、横軸は相電流である。図6に示すように、過電流検出部360は、例えば相電流Iu,Iv,Iwの和が閾値Ith(0[A])である場合、電流値が正常であると判定し、制限率L5aを100%に設定する。過電流検出部360は、相電流Iu,Iv,Iwの和が閾値Ith以外の場合、電流値が異常であると判定し、制限率L5aを0%に設定する。これは、過電流が発生している場合には、直ちにモータ400の出力を停止させる必要があるからである。算出された制限率L5aは、選択部390に出力される。
【0041】
過電流検出部360は、電源部の直流電流Iについても、図6と同様の線形パターンの関数グラフを用いて制限率L5bを算出する。過電流検出部360は、直流電流Iが閾値Ithを超える場合、過電流が発生しており直ちにモータ400の出力を停止させる必要があると判定し、制限率L5bを0%に設定する。
【0042】
図3に戻り、電流偏差検出部370は、相電流Iu,Iv,Iwを角度信号θによりdq変換して得られたd軸電流値Id**およびq軸電流値Iq**と、目標値である電流制限値設定部120からのd軸電流指令値Idおよびq軸電流指令値Iqとを取得し、これらの偏差を算出する。電流指令値を取得する周期は、例えば1msである。電流偏差検出部370は、算出した偏差についても、図6と同様の線形パターンの関数グラフを用いて制限率L5cを算出する。過電流検出部360は、偏差が閾値Thを超える場合、相電流Iu,Iv,Iwに異常が発生していると判定し、制限率L5cを0%に設定する。
【0043】
電流センサ異常検出部380は、電流センサ180により検出された相電流Iu,Iv,Iwを取得する。相電流Iu,Iv,Iw等を取得する周期は、例えば1msである。電流センサ異常検出部380は、相電流Iu,Iv,Iwについても、図6と同様の線形パターンの関数グラフを用いて制限率L5dを算出する。電流センサ異常検出部380は、取得した相電流Iu,Iv,Iwの和が閾値Ith(0[A])でない場合、電流センサ180に異常が発生しており直ちにモータ400の出力を停止させる必要があると判定し、制限率L5dを0%に設定する。
【0044】
相電流保護部350は、過電流検出部360で算出した制限率L5a,L5b、電流偏差検出部370で算出した制限率L5c、および電流センサ異常検出部380で算出した制限率L5d,L5eの中で最小の制限率を選択する。選択された制限率は、制限率L5として選択部390に出力される。また、相電流保護部350は、相電流Iu,Iv,Iw等が異常であると判定した場合、ユーザーに対して警告・故障情報を報知する。
【0045】
過回転保護部340は、回転速度算出部230からのモータ回転速度ωeを取得する。モータ回転速度ωe等を取得する周期は、例えば1msである。過回転保護部340は、取得したモータ回転速度ωeについても、図6と同様の線形パターンの関数グラフを用いて制限率L4を算出する。過回転保護部340は、モータ回転速度ωeが閾値ωth以上である場合、モータ400が過回転であり直ちにモータ400の出力を停止させる必要があると判定し、制限率L4を0%に設定する。また、過回転保護部340は、モータ回転速度ωeが異常であると判定した場合、ユーザーに対して警告・故障情報を報知する。なお、制限率L4を算出する際に、CAN通信により入力される指示回転数ωと、モータ回転速度ωeとの差分を用いることもできる。
【0046】
選択部390は、直流電流保護部310からの制限率L1と、過電圧/低電圧保護部320からの制限率L2と、過熱保護部330からの制限率L3と、過回転保護部340からの制限率L4と、相電流保護部350からの制限率L5とを比較し、制限率L1〜L5のうち最小の制限率Lminを選択する。選択された制限率Lminは、トルク制御部110に出力される。本実施の形態によれば、最小の制限率Lminを選択するので、最も厳しい制限でトルク制御を行うことができる。
【0047】
<モータ駆動装置100の動作例>
図7は、車両の走行状態に応じて指示トルクを制限するための制限率L1〜L5を算出する場合におけるモータ駆動装置100の動作の一例を示すフローチャートである。
【0048】
図7に示すように、ステップS10において、直流電流保護部310は、電源部の直流電流Iを取得する。ステップS20において、過電圧/低電圧保護部320は、電源部の電源電圧Vを取得する。ステップS30において、過熱保護部330は、モータ400の温度T1等を取得する。ステップS40において、過回転保護部340は、モータ400のモータ回転速度ωeを取得する。ステップS50において、相電流保護部350は、モータ400に流れる相電流Iu,Iv,Iwを取得する。なお、ステップS10〜S50は、例えば同一のタイミングで並列的に処理することができる。
【0049】
続けて、ステップS60において、直流電流保護部310は、取得した電源部の直流電流Iに基づいて制限率L1を算出する。ステップS70において、過電圧/低電圧保護部320は、取得した電源部の電源電圧Vに基づいて制限率L2を算出する。ステップS80において、過熱保護部330は、取得したモータ400の温度T1等に基づいて制限率L3を算出する。ステップS90において、過回転保護部340は、取得したモータ回転速度ωeに基づいて制限率L4を算出する。ステップS100において、相電流保護部350は、取得したモータ400に流れる相電流Iu,Iv,Iwに基づいて制限率L5を算出する。なお、ステップS60〜S100は、同一のタイミングで並列的に処理することができる。
【0050】
続けて、ステップS110において、選択部390は、算出した各制限率L1〜L5のうち、最小となる制限率Lminを選択し、選択した制限率Lminをトルク制御部110に出力する。本実施の形態では、このような処理が所定の間隔で繰り返し実行される。
【0051】
以上説明したように、本実施の形態によれば、温度T1〜T3、電源部の直流電流I、電源電圧V、モータ回転速度ωe、相電流Iu,Iv,Iw等の複数のパラメータを考慮し、これらの中で最も異常のレベルが高いパラメータの制限率を最小の制限率Lminとして選択して指示トルクTqに対して制限をかけることができる。これにより、例えば従来におけるトルク上限値を記憶するテーブルを用いた制限では実現できない制限が必要となった際にも、最適な指示トルクの制限を実現することができる。その結果、モータ400の駆動時における、過電流、過電圧、過回転、又は温度上昇等の発生を確実に抑制することができる。
【0052】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。上述した実施の形態では、5つの制限率L1〜L5を用いた例について説明したが、これに限定されることはない。例えば、少なくとも2つ以上のパラメータの制限率を用いて指示トルクTqを制限するようにしても良い。また、制限部300において取得する温度は、モータ400の温度T1、スイッチング素子の温度T2、および基板の温度T3の少なくとも1以上であっても良いし、その他のモータ駆動装置100に関する温度を取得するようにしても良い。
【符号の説明】
【0053】
100 モータ駆動装置
110 トルク制御部(制御部)
180 電流センサ
300 制限部
310 直流電流保護部
320 過電圧/低電圧保護部
330 過熱保護部
340 過回転保護部
350 相電流保護部
400 モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7