【実施例】
【0035】
キレート剤の選択
Tris緩衝剤は、PCR緩衝剤において慣用的に使用される。室温で、Trisに基づくPCR緩衝剤のpHは、8.7である。Trisは、1℃あたり0.03pH単位のpH値における温度依存性のシフトを示す。これは、95℃でpH値が6.6であることを意味する。PCR実験のためのキレート剤を選択するために、3種の異なるキレート剤、NTA、EDTAおよびEGTAの結合定数のpH依存性を調べた。それぞれのキレート剤についての文献から公知であるpK値を使用し、錯体形成のpH依存性を決定した(
図1)。EGTAについての相関曲線は、pH値と結合定数との間の強力な相関を示す。それゆえ、EGTAをこの後の実験のために選択した。
【0036】
エンドポイントPCR
増幅実験を、非特異的な副産物をもたらす傾向のあることが公知である試験系を使用して行った。1.2kbのゲノムDNA配列が、標的配列であった。プライマーHugAおよびプライマーHugBを使用した。
プライマー配列は、次の通りである:
【表1】
【0037】
EGTAを含む反応およびEGTAを含まない反応を並列に行った。セットAにおいて、マグネシウム濃度を1mMステップで変化させた(開始点および最終点はそれぞれ5mMおよび10mMであった)。セットBにおいて、開始点は0.5mMであり、最終点は4mM Mgであった。当該セットアップは、表2に記載される。
【表2】
増幅プログラムは、以下の通りであった(表3):
【表3】
【0038】
35サイクルを行った。
アガロースゲルでのPCR反応の解析(
図2)は、キレート剤としてEGTAを含有する反応が、EGTAを含まない反応と比較して少ない副産物を有することから、より特異的であることを示す。酵素的反応において慣用的に使用される他の緩衝剤は、表4に列挙される。
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【0039】
EGTA/EDTAを使用して化学的に不活性化されたTaq DNAポリメラーゼの残存活性の調節
以下の実験は、残存活性を有するTaqポリメラーゼ分子を使用して、PCR反応混合物におけるプライマーダイマーの形成を検出するための系を使用した。ここでは、重亜硫酸処理したDNAが、鋳型として使用される。重亜硫酸処理(非メチル化シトシンのウラシルへの化学的修飾を伴う)の結果として、前記鋳型は、3種の塩基のみからなる。重亜硫酸処理は一本鎖DNAを使用する場合でのみはたらくため、前記重亜硫酸処理の完了後の大部分のDNAは、一本鎖である。そのようなDNA配列の増幅のために使用されるプライマーは、3種の塩基のみからなるため、低減した複雑性により特徴付けられる。それゆえ、これらのプライマーは、ダイマー形成の傾向があり、前記重亜硫酸処理したDNAに100.000倍超結合できる可能性が非常に高い。
【0040】
ゲノムDNAを、Qiagen REPLI g Midi Kitを使用して、製造者のプロトコルに従って増殖した。その後、1μgの前記ゲノムDNAを、当該DNAをEpiTect Bisulfite Kitを使用する重亜硫酸処理、次いで精製に供する、10の独立した反応において使用した。各反応の結果として生じるDNAをプールし、その後の増幅反応において使用した。プライマー配列は、表5に示される。
【表5】
【表6】
【0041】
最終のEGTA濃度は、0.25mMと10mMとの間であった。
【0042】
2つの反応からなるサンプルの1セットを氷上で120分間インキュベートし、一方で同様に2つの反応からなる他のサンプルのセットを、室温で120分間インキュベートした。その後、両方のサンプルのセットを、Rotor−Gene Q 5plex HRM Systemを使用して解析した。サイクルプログラムは、表7に示される。
【表7】
【0043】
Ct値は表8にまとめられ、
図3はそれぞれの融解曲線を示す。
【表8】
【0044】
氷上でEGTAの添加なしでインキュベートされたサンプルは、25.28のCt値および特異的な融解曲線を示したが(
図3A)、一方で室温でインキュベートされたサンプルの場合におけるCt値は、右へシフトされる(24.92)。この場合において、特異的な産物は、観察されなかった。0.75mMの最終濃度までのEGTAの添加は、Ct値に影響を及ぼさずに特異性の上昇をもたらした。特異的な産物の量は、急速に上昇した。2mMを上回ったEGTA濃度の場合において、成功裡の増幅は阻害された(
図3H)。
【0045】
引き続いての実験において、前記プライマーおよび前記重亜硫酸処理したDNAを増幅反応において使用し、マグネシウム依存性を解析した。反応混合物の組成は、表9に示される。
【表9】
【0046】
EGTAの最終濃度は、5mMであった。HRM master mixに0.1 0.6mMマグネシウムを追加した。
【0047】
同じものからなる反応の2セットを、増幅実験において使用した。サンプルの1セットを氷上で120分間インキュベートし、一方でサンプルの他のセットを室温で120分間インキュベートした。その後、当該サンプルをRotor−Gene Q 5plex HRM Systemを使用して解析した。サイクルプログラムは、表6に示されるものと同一であった。結果は、表9および
図4に示される。室温および氷上でそれぞれインキュベートされたサンプルに相当するCt値は、表10に示される。
図4は、それぞれの融解曲線を示す。
【表10】
【0048】
当該実験は、氷上でEGTAの添加なしでインキュベートされたサンプルの場合において、25.46のCt値および特異的な融解曲線が得られたが、一方で室温でのインキュベーションはCt値のシフトをもたらし(22.62)、かつ特異的な増幅産物が観察されなかったことを示した。5mMの最終濃度までのEGTAの添加は、上昇した特異性を導いた。5mM EGTAを使用する場合のCt値は、それぞれ28.77および28.82であった。マグネシウム濃度を上昇させることは、特異性を維持すると同時に、より低いCt値をもたらした。
【0049】
DNase活性の調節
このセットの実験において、DNase(ウシ膵臓から単離されたヌクレアーゼ)の活性を調節する手段を調べた。
【0050】
ヒトゲノムDNAを、REPLI g Midi Kit(Qiagen)を使用して、製造者の指示に従って増殖した。DNase活性を、10μl反応において解析した。各反応は、反応緩衝剤として50mM Tris pH8.2、約1μgゲノムDNA、1mM MgCl
2および50μM CaCl
2を含有した。3種の異なる量のDNase(0.01、0.1および1U)を使用した。当該サンプルを、42℃および氷上の2つの異なる温度で、それぞれ5分間および15分間インキュベートした。DNA分解は、EDTAを8.33mMの最終濃度まで添加することによって終わらせ、サンプルは、0.5%アガロースゲルを使用する反応産物の解析の前に、氷上でインキュベートした。その結果は、
図5に示される。当該ゲルは、DNaseが、氷上で活性を有することを示す。反応時間およびDNaseの量は、酵素的消化の完全性に強く影響を及ぼす。1U DNaseを使用して氷上で15分間前記ゲノムDNAをインキュベートすることは、当該サンプルの完全な分解を導いた(レーン3)。42℃でのインキュベーションは、いずれの量の酵素を使用する場合にも、5分後には既に完全な分解を導いた(レーン8〜13「42℃」)。
【0051】
100μMの最終濃度までのEGTAの添加は、使用されたいずれの量のDNaseについて分解のほぼ完全な阻害を導いた(レーン2〜7「氷上」「100μM EGTA)。これから免れるものは、1U DNaseを使用する15分間の反応だけである(レーン3「氷上」「100μM EGTA)。しかしながら、この場合において、分解は、EGTAを含まないサンプルと比較して有意に低減した。42℃まで温度を上昇させることは、DNase活性を大きく回復した(レーン8〜13「42℃」「100μM EGTA」)。
【0052】
引き続いての実験において、EDTAをキレート剤として使用した。ゲノムDNA増殖の手順ならびに緩衝剤および反応条件は、上に記載される実験と等価であった。
【0053】
反応産物を、0.5%アガロースゲルを使用して解析した(
図6)。レーン1〜6は、反応が氷上で行われたサンプルに相当する。レーン1〜3とレーン4〜6との比較は、EDTAの添加が酵素的活性を大きく低減させたことを示す。反応温度における42℃までの上昇は、結合したCa
2+イオンが、EDTAを含む錯体から放出され、これにより酵素的活性を回復させることをもたらす。完全なDNA分解は、レーン7〜12において観察され得る。
【0054】
要約すると、両方の実施例は、キレート剤がDNase活性を阻害するために使用され得ること、および反応温度をシフトすることが酵素的活性を回復させることを示しており、これにより前記活性制御の系を実証している。