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特開2019-193795カスタマイズされた感覚刺激を発生させるための方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-193795(P2019-193795A)
(43)【公開日】2019年11月7日
(54)【発明の名称】カスタマイズされた感覚刺激を発生させるための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61F 11/00 20060101AFI20191011BHJP
【FI】
   A61F11/00 350
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2019-91591(P2019-91591)
(22)【出願日】2019年5月14日
(62)【分割の表示】特願2016-537293(P2016-537293)の分割
【原出願日】2014年8月28日
(31)【優先権主張番号】13182487.2
(32)【優先日】2013年8月30日
(33)【優先権主張国】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ブルートゥース
(71)【出願人】
【識別番号】516060266
【氏名又は名称】ニューロモッド デバイシス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NEUROMOD DEVICES LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】ロス オニール
(72)【発明者】
【氏名】キャロライン ハミルトン
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ヒューズ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】数の感覚器官が関与する耳鳴りに対するカスタマイズされた治療を行うシステムを提供する。
【解決手段】音処理部(1101)、触覚刺激部(1102)及び音響伝達部を有し、音処理部は、音響信号を受信するためのプロセッサ入力と、音響信号を分析し、音響信号を表す複数の駆動信号を音響信号から生成するように、また、所定の補正プロフィールに従って音響信号をスペクトル補正し、補正音響信号を生成するように構成されたデジタル信号プロセッサと、を有し、触覚刺激部は、対象に触覚刺激を与えるための個々に駆動可能な刺激器アレイと、デジタル信号プロセッサによって生成された複数の駆動信号を受信し、それぞれの駆動信号をそれぞれの刺激器に送信するための刺激部入力と、を有し、音響伝達部は、デジタル信号プロセッサによって生成された補正音響信号を受信するための音響伝達部入力を有する構成とする。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音処理部、触覚刺激部及び音響伝達部を有する耳鳴り治療システムであって、
前記音処理部は、
音響信号を受信するためのプロセッサ入力と、
前記音響信号を分析し、前記音響信号を表す複数の駆動信号を前記音響信号から生成
するように、また、所定の補正プロフィールに従って前記音響信号をスペクトル補正し、
補正音響信号を生成するように構成されたデジタル信号プロセッサと、
を有し、
前記触覚刺激部は、
対象に触覚刺激を与えるための個々に駆動可能な刺激器アレイと、
前記デジタル信号プロセッサによって生成された前記複数の駆動信号を受信し、それ
ぞれの駆動信号をそれぞれの刺激器に送信するための刺激部入力と、
を有し、
前記音響伝達部は、前記デジタル信号プロセッサによって生成された前記補正音響信号
を受信するための音響伝達部入力を有することを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1記載のシステムにおいて、当該システムは、デジタル信号処理機器 及び刺激
伝達機器を有し、
前記デジタル信号処理機器は、
前記デジタル信号プロセッサと、
前記生成された駆動信号及び前記補正音響信号を電子ファイル形式で記憶するための
電子ファイルライタと、
を有し、
前記刺激伝達機器は、
前記触覚刺激部と、
前記音響伝達部と、
前記デジタル信号処理機器によって生成された電子ファイルを読み取り、前記ファイ
ルを音響信号及び複数の駆動信号に変換し、当該信号を前記音響伝達部及び前記触覚刺激
部それぞれに送信するための電子ファイルリーダと、
を有することを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシステムにおいて、前記音処理部はさらに、前処理モジュール
を有し、当該前処理モジュールは、
第1音響信号成分を受信するための第1前処理入力と、
第2音響信号成分を受信するための第2前処理入力と、
前記第1音響信号成分及び前記第2音響信号成分を組み合わせて前処理音響信号とする
ための加算器と、
前記前処理音響信号を前記プロセッサ入力に送信するための前処理出力と、
を有することを特徴とするシステム。
【請求項4】
前処理モジュールを有する音処理部を有する耳鳴り治療システムであって、
前記前処理モジュールは、
第1音響信号成分を受信するための第1前処理入力と、
第2音響信号成分を受信するための第2前処理入力と、
前記第1音響信号成分及び前記第2音響信号成分を組み合わせて前処理音響信号とす
るための加算器と、
前記前処理音響信号を前記音処理部のプロセッサ入力に送信するための前処理出力と

を有し、
前記音処理部はさらに、
前記前処理部からの前記前処理音響信号の出力を受信するためのプロセッサ入力と、
所定の補正プロフィールに従って前記前処理音響信号をスペクトル補正し、補正音響
信号を生成するように構成されたデジタル信号プロセッサと、
前記デジタル信号プロセッサから前記補正音響信号を受信するためのプロセッサ出力
と、
を有することを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項4記載のシステムにおいて、当該システムはさらに、ノイズ発生器を有し、当該
ノイズ発生器は、音響信号を生成し、当該音響信号を前記第1前処理入力に送信するよう
に構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のシステムにおいて、前記デジタル信号プロセッサはさ
らに、前記所定の補正プロフィールに応じて較正された帯域ブーストフィルタを有し、前
記デジタル信号プロセッサは、前記音響信号を前記帯域ブーストフィルタに通過させて前
記補正音響信号を生成することによって、前記音響信号をスペクトル補正するように構成
されていることを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のシステムにおいて、前記所定の補正プロフィールは、
耳鳴りを煩う患者の逆オージオグラムに基づいていることを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のシステムにおいて、前記補正音響信号は少なくとも、
患者の聴力が低下しているスペクトル範囲にわたるスペクトル帯域幅を占める第1成分信
号を含むことを特徴とするシステム。
【請求項9】
請求項8記載のシステムにおいて、前記第1成分信号は、前記患者の聴力が低下してい
る前記スペクトル範囲を1オクターブ以上超えて広がるスペクトル帯域幅、より好適には
、難聴の最小周波数未満及び難聴の最大周波数超にそれぞれに対して約半オクターブ以上
広がるスペクトル帯域幅、好適には、難聴の最小周波数未満及び難聴の最大周波数超にそ
れぞれに対して約4分の1オクターブ以上広がるスペクトル帯域幅を占めることを特徴と
するシステム。
【請求項10】
請求項7記載のシステムにおいて、前記補正音響信号は、当該補正音響信号が前記患者
に聞こえるとき、少なくとも前記信号 に対する白色ノイズ成分を含む音響信号であると
の認識を誘発するようなスペクトル帯域幅を占めることを特徴とするシステム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のシステムにおいて、前記補正音響信号は少なくとも
、2kHz〜6kHz、より好適には500Hz〜8kHz、さらに好適には125Hz
〜20kHz、最も好適には125Hz〜40kHzのスペクトル帯域幅を占める第1成
分信号を含むことを特徴とするシステム。
【請求項12】
請求項3又は4に記載のシステムにおいて、前記第2音響信号成分は、人間である聞き
手の注意を惹き付けることができ、任意選択的には、楽曲の記録又は人間の会話の記録で
あることを特徴とするシステム。
【請求項13】
請求項2記載のデジタル信号処理機器又は刺激伝達機器。
【請求項14】
音響信号を処理するための方法であって、
前記音響信号を分析するステップと、
第1出力信号を含み、電極アレイの駆動に適した、前記音響信号を表す複数の駆動信号
を前記音響信号から生成するステップと、
所定の補正プロフィールに従って前記音響信号をスペクトル補正し、第2出力信号を含
む補正音響信号を生成するステップと、
を含み、
前記第1出力信号及び前記第2出力信号は、信号出力装置に送信されるか、又は、電子
ファイル形式に変換されて電子的に記憶され、
当該方法はさらに、任意選択的には、第1音響信号成分及び第2音響信号成分を組み合
わせて前処理音響信号とすることによって前記音響信号を前処理するステップを含むこと
を特徴とする方法。
【請求項15】
音響信号を処理するための方法であって、
第1音響信号成分及び第2音響信号成分を組み合わせて前処理音響信号とすることによ
って前記音響信号を前処理するステップと、
所定の補正プロフィールに従って前記音響信号をスペクトル補正し、補正音響信号を生
成するステップと、
を含み、
前記所定の補正プロフィールは、耳鳴りを煩う患者の逆オージオグラムに基づいており
、前記第1音響信号は、前記患者の聴力が低下しているスペクトル範囲にわたるスペクト
ル帯域幅を占めることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の方法を含む耳鳴りの治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、聴覚障害を煩う患者に対してカスタマイズされた感覚刺激を発生させて与え
る技術に関するものである。具体的には、本発明は、以下に限定されるわけではないが、
複数の感覚器官が関与する耳鳴りに対するカスタマイズされた治療を行う分野に関するも
のである。
【背景技術】
【0002】
耳鳴りは、耳への信号の損失によって生じる異常神経反応である。耳鳴りの正確な原因
は完全には分かっていないが、類推によって大まかな原因が説明される。耳鳴りは、多く
の場合、蝸牛の有毛細胞の損傷といった物理的聴覚障害によって生じる。脳は、欠損が生
じたチャネルにおいて、失われた音響情報を補うために、さもなければ休止状態又は恒常
的な発火頻度であると特徴付けられる発火頻度のチャネルノイズが知覚閾値超まで増幅さ
れ錯覚的な音として知覚されるような程度にまで増幅を生じさせる。あるいは、水の供給
が突然制限された電気水ポンプを想像すればよいかもしれない。入力損失を何としても補
うために、ポンプは、揺動及び振動する。特定のいくつかの耳鳴り症状は、実質的には、
耳への信号の損失によって生じたゲイン増加が、脳の関連ニューロンにおける自発的及び
振動的な活動を引き起こすといった同じタイプのメカニズムから生じると考えることがで
きる。こうした活動は、患者には錯覚音として知覚される。
【0003】
耳鳴り患者は、Zwicker音として知られる錯覚音の後続作用を感じる傾向が非常
に高い。Zwicker音は、任意の周波数でのスペクトルギャップ(無音)を有する広
いスペクトル(20Hz〜20KHz)のノイズにその個人が曝されることによって出現
する。ノイズが止むと、その個人は、スペクトルギャップの周波数で「リンギング(音)
」を知覚する。このことが示唆するように、周波数間で異なる蝸牛感受性を補うために、
脳は、まるでステレオの「グラフィック・イコライザ」のように、周波数によって決まる
感受性又はゲインを採用する。我々の蝸牛の感受性が低い周波数では、脳はそれを補うた
めに当該周波数のゲインを増加させる。感受性が最小閾値を下回る周波数帯では、脳は、
ゲインを異常レベルまで増加させる。このことから分かるように、錯覚的ノイズ、リンギ
ング又は無秩序な振動さえも、耳鳴りの最も一般的に言われる作用である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、放射線外科、聴神経の直接的な刺激、薬理学的治療、心理学的治療、及び、外
部音を患者に聞かせることによる治療といった非常に多くの耳鳴り治療が提案されている
。こうした治療の多くは、いくつかの患者グループには緩和をもたらすが、現在のところ
、全ての患者にとって信頼性の高い治療はない。したがって、本発明は、別の代替的な方
法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態は、音処理部、触覚刺激部及び音響伝達部を有する耳鳴り治療シス
テムであって、上記音処理部は、音響信号を受信するためのプロセッサ入力と、上記音響
信号を分析し、上記音響信号を表す複数の駆動信号を上記音響信号から生成するように、
また、所定の補正プロフィールに従って上記音響信号をスペクトル補正し、補正音響信号
を生成するように構成されたデジタル信号プロセッサと、を有し、上記触覚刺激部は、対
象に触覚刺激を与えるための個々に駆動可能な刺激器アレイと、上記デジタル信号プロセ
ッサによって生成された上記複数の駆動信号を受信し、それぞれの駆動信号をそれぞれの
刺激器に送信するための刺激部入力と、を有し、上記音響伝達部は、上記デジタル信号プ
ロセッサによって生成された上記補正音響信号を受信するための音響伝達部入力を有する
ことを特徴とするシステムを提供する。
【0006】
本システムは、耳鳴りを煩う患者に対して、耳鳴りを治療できるようにカスタマイズさ
れた音響信号を送信できるという利点がある。理論に限定されることを意図するわけでは
ないが、(誘発される聴力損失に反比例した)音質向上は、耳鳴りを引き起こす神経病変
を防止することが提案されている。しかし、多くの患者は、こうした神経病変や耳鳴り症
状が発症するまで聴力損失(難聴)を自覚又は認めようとはせず、この段階では、音質向
上のみによって耳鳴りを永久的治療するには遅すぎる場合もある。補聴器が耳鳴りを緩和
するという「(争点などが)混合」しているが包括的でないエビデンスもあり、場合によ
っては、補聴器は永続的というより単に一時的な緩和をもたらすことが分かっている。本
発明は、音響信号に補助的な触覚刺激を併せて、より強い信号を脳に送信することによっ
て、そうした問題に対処するものである。本発明の一態様では、触覚刺激は、経皮的に舌
に伝達される電気触覚刺激を含む。そうした信号の増強された二重モード性は、脳の神経
可塑性をもたらす可能性が高く、それにより、耳鳴り症状を軽減できるような患者の永続
的な適応が可能になると考えられている。それに加えて、経験される聴力損失に反比例し
た音質向上を実現することによって、患者の特定の難聴プロフィールを正に対象としてカ
スタマイズされた治療を行うことができる。
【0007】
該システムは、デジタル信号処理機器及び刺激伝達機器を有することができ、上記デジ
タル信号処理機器は、上記デジタル信号プロセッサと、上記生成された駆動信号及び上記
補正音響信号を電子ファイル形式で記憶するための電子ファイルライタと、を有し、上記
刺激伝達機器は、上記触覚刺激部と、上記音響伝達部と、上記デジタル信号処理機器によ
って生成された電子ファイルを読み取り、上記ファイルを音響信号及び複数の駆動信号に
変換し、当該信号を上記音響伝達部及び上記触覚刺激部それぞれに送信するための電子フ
ァイルリーダと、
を有する。
【0008】
本発明のその他の実施形態では、システム構成要素を単一の機器に収容し、デジタル信
号処理を動的に(すなわち、オンザフライ式で)行うことが望ましいが、本発明の本実施
形態では、デジタル信号処理は予め行うことができる。音響信号及び駆動信号は、電子フ
ァイル形式に書き込んで後で利用することができる。本発明の一実施形態では、電子ファ
イル形式は、(それぞれが対応する片耳にカスタマイズされた)2の別個の音響チャンネ
ルと、駆動信号を記憶する第3チャンネルとを有する.wavフォーマットのカスタマイ
ズされたアナログとすることができる。このファイルは、転写可能な媒体に記憶されるか
、又は、そうでなければ刺激伝達機器に送信される。その後、刺激伝達機器を用いてファ
イルを読み出し、治療を行うための信号を生成する。本発明による信号処理要素及び信号
送信要素の隔離によって、製造しなければならないデジタル信号処理機器の数が少なくて
済むと考えられるため、単位コストを縮小することができ、また、刺激伝達機器は複雑性
の低い構成部品から成るため、これらの保守作業を一層容易にすることができる。
【0009】
本発明の一実施形態では、上記音処理部はさらに、前処理モジュールを有し、当該前処
理モジュールは、第1音響信号成分を受信するための第1前処理入力と、第2音響信号成
分を受信するための第2前処理入力と、上記第1音響信号成分及び上記第2音響信号成分
を組み合わせて前処理音響信号とするための加算器と、上記前処理音響信号を上記プロセ
ッサ入力に送信するための前処理出力と、を有する。
【0010】
こうしたシステムは、異なった特性を有する様々な音響信号を、相助的な有益作用をも
たらすように結合することができるため効果的である。第1音響信号成分は、患者の難聴
スペクトル範囲にわたる比較的「広いスペクトル」のノイズを含み得る。補正信号は、様
々な周波数で、それぞれの周波数の聴力損失(難聴)に釣り合った量まで増幅され、それ
により、カスタマイズされた刺激を聞き手に伝達する。このように、実現される音質向上
は、聞き手に特有のものであり、その個人の全ての難聴周波数をカバーする。この目的に
適すると考えられる広帯域ノイズは、「有色ノイズ」を含み得る。音響システムの文脈に
おける有色ノイズは、白色でないあらゆるノイズ信号、すなわち、スペクトルが均一でな
い任意のノイズである。本技術の目的のために、有色ノイズとは、患者の聴力プロフィー
ルの欠損を慎重に補うために生成され、その結果として患者は白色(すなわち、スペクト
ルが均一な)ノイズを知覚するようなノイズを説明するものとして用いる。これは通常、
患者のオージオグラムを逆転させた形状を有するフィルタを適用して白色ノイズ信号を形
成することによって実現される。例えば、正常な聴力感受性の閾値は約1kHz超又は未
満の周波数で上昇するため、音響白色ノイズ源は、正常な聴力を有する人によって白色(
単調)として実際に知覚されるわけではない。灰色ノイズは、正常な聴力プロフィールを
逆転させたものとしてスペクトル形成されているため、正常な聴力の人には白色ノイズと
して知覚される。また、緑色ノイズは、会話のスペクトル帯域幅(通常は100Hz〜8
kHz)を占めるように帯域ブーストフィルタが適用されたものである。本発明の実施形
態では、灰色ノイズ、緑色ノイズ又はこれらの派生物を、広帯域信号として使用すること
ができる。
【0011】
また、「注意音成分」として呼称され得る第2音響信号成分の追加はもう一つの効果で
ある。この第2音響信号成分は、好適には、時間的特性及び周波数特性の両方において聞
き手を引き込むように比較的複雑にするべきである。例えば、楽曲(例えば、ピアノ楽曲
)又は話し言葉(好適には穏やかな話し言葉)の録音が好適であろう。この信号は、患者
の心の状態を悪化させないように、振幅の面では比較的リラックスさせるものでなければ
ならない。こうした性質の音響信号は、聞き手の注意を支配する能力があり、理論に限定
されることを意図するわけではないが、注意こそ神経可塑性を促すために重要なものであ
る。注意音成分を含む信号に、患者の難聴範囲をカバーする広域スペクトルノイズ信号を
追加することによって、患者の注意を支配し、それによって神経可塑性を促すと同時に、
補正信号を難聴の全範囲に伝達して耳鳴りと闘う脳の内部の包括的な適応を促すという相
助作用がある。
【0012】
本発明の別の実施形態は、前処理モジュールを有する音処理部を有する耳鳴り治療シス
テムであって、上記前処理モジュールは、第1音響信号成分を受信するための第1前処理
入力と、第2音響信号成分を受信するための第2前処理入力と、上記第1音響信号成分及
び上記第2音響信号成分を組み合わせて前処理音響信号とするための加算器と、上記前処
理音響信号を上記音処理部のプロセッサ入力に送信するための前処理出力と、を有し、上
記音処理部はさらに、上記前処理部からの上記前処理音響信号の出力を受信するためのプ
ロセッサ入力と、所定の補正プロフィールに従って上記前処理音響信号をスペクトル補正
し、補正音響信号を生成するように構成されたデジタル信号プロセッサと、上記デジタル
信号プロセッサから上記補正音響信号を受信するためのプロセッサ出力と、を有すること
を特徴とするシステムを含む。
【0013】
当該システムはさらに、ノイズ発生器を有することができ、当該ノイズ発生器は、音響
信号を生成し、当該音響信号を上記第1前処理入力に送信するように構成されている。
【0014】
本発明の一実施形態では、上記デジタル信号プロセッサはさらに、上記所定の補正プロ
フィールに応じて較正された帯域ブーストフィルタを有し、上記デジタル信号プロセッサ
は、上記音響信号を上記帯域ブーストフィルタに通過させて上記補正音響信号を生成する
ことによって、上記音響信号をスペクトル補正するように構成されている。
【0015】
上記所定の補正プロフィールは、耳鳴りを煩う患者の逆オージオグラムに基づき得る。
【0016】
本発明の一実施形態では、上記補正音響信号は少なくとも、患者の聴力が低下している
スペクトル範囲にわたるスペクトル帯域幅を占める第1成分信号を含む。
【0017】
本発明の別の実施形態では、上記第1成分信号は、上記患者の聴力が低下している上記
スペクトル範囲を1オクターブ以上超えて広がるスペクトル帯域幅、より好適には、難聴
の最小周波数未満及び難聴の最大周波数超にそれぞれに対して約半オクターブ以上広がる
スペクトル帯域幅、好適には、難聴の最小周波数未満及び難聴の最大周波数超にそれぞれ
に対して約4分の1オクターブ以上広がるスペクトル帯域幅を占める。
【0018】
本発明の一実施形態では、上記補正音響信号は、当該補正音響信号が上記患者に聞こえ
るとき、少なくとも上記信号に対する白色ノイズ成分を含む音響信号であるとの認識を誘
発するようなスペクトル帯域幅を占める。
【0019】
別の実施形態では、上記補正音響信号は少なくとも、2kHz〜6kHz、より好適に
は500Hz〜8kHz、さらに好適には125Hz〜20kHz、最も好適には125
Hz〜40kHzのスペクトル帯域幅を占める第1成分信号を含む。
【0020】
第1音響信号成分及び第2音響信号成分を含む本発明の実施形態では、第2音響信号成
分は、人間である聞き手の注意を惹き付けることができ、任意選択的には、楽曲の記録又
は人間の会話の記録である。
【0021】
本発明の一実施形態は、先述したようなデジタル信号処理機器を含み、本発明の別の実
施形態は、先述したような刺激伝達機器を含む。
【0022】
本発明の一実施形態は、音響信号を処理するための方法であって、上記音響信号を分析
するステップと、第1出力信号を含み、電極アレイの駆動に適した、上記音響信号を表す
複数の駆動信号を上記音響信号から生成するステップと、所定の補正プロフィールに従っ
て上記音響信号をスペクトル補正し、第2出力信号を含む補正音響信号を生成するステッ
プと、を含み、上記第1出力信号及び上記第2出力信号は、信号出力装置に送信されるか
、又は、電子ファイル形式に変換されて電子的に記憶され、当該方法はさらに、任意選択
的には、第1音響信号成分及び第2音響信号成分を組み合わせて前処理音響信号とするこ
とによって上記音響信号を前処理するステップを含むことを特徴とする方法を含む。
【0023】
本発明の別の実施形態は、音響信号を処理するための方法であって、第1音響信号成分
及び第2音響信号成分を組み合わせて前処理音響信号とすることによって上記音響信号を
前処理するステップと、所定の補正プロフィールに従って上記音響信号をスペクトル補正
し、補正音響信号を生成するステップと、を含み、上記所定の補正プロフィールは、耳鳴
りを煩う患者の逆オージオグラムに基づいており、上記第1音響信号は、上記患者の聴力
が低下しているスペクトル範囲にわたるスペクトル帯域幅を占めることを特徴とする方法
を含む。
【0024】
本発明の一実施形態は、先述した方法のいずれかを含む耳鳴りの治療方法を含む。
【0025】
本発明の一側面は、音処理部、触覚(又は触覚刺激)部及びこれらの間のインタフェー
スを有する、耳鳴り治療に使用される機器であって、上記触覚部は、対象に触覚刺激を与
えるための個々に駆動可能な刺激器アレイと、上記インタフェースから複数の駆動信号を
受信し、それぞれの駆動信号をそれぞれの刺激器に送信するための入力と、を有し、上記
音処理部は、音響信号を受信するための入力と、上記音響信号を分析し、上記音響信号を
表す複数の駆動信号を上記音響信号から生成するように構成されたデジタル信号プロセッ
サと、上記デジタル信号プロセッサから上記複数の駆動信号を受信し、当該複数の駆動信
号を上記インタフェースに供給するための出力、とを有することを特徴とする機器を含む
【0026】
好適には、上記デジタル信号プロセッサはさらに、上記複数の駆動信号を時間と共に変
化する一連の出力アレイパターンとして生成するように構成されており、それぞれの出力
アレイパターンは、入力信号の離散時間サンプルを表す離散時間の間 、アレイに印加さ
れる一組の駆動信号を含む。
【0027】
一実施形態によれば、上記デジタル信号プロセッサは、上記音響信号を時間領域におけ
る一連のフレームに分割し、それぞれのフレームに対して変換を行って当該フレームを表
す一組の係数を生成し、当該一組の係数を、アレイに印加される一組の駆動信号にマッピ
ングすることによって、上記音響信号を分析するようにプログラムされている。
【0028】
それぞれのフレームに対して行う変換は、好適には、フーリエ変換、短時間フーリエ変
換(STFT)、ウェーブレット変換、カーブレット変換、ガンマトーン変換及びザック
変換から選択される。
【0029】
さらに好適には、上記変換は、フーリエ変換又は短時間フーリエ変換であり、上記信号
のサンプリングは、24kHz以上のサンプリングレートで4kHz〜12kHzの帯域
幅をカバーするように、任意選択的には、20kHzのサンプリングレートで6kHz〜
10kHzの信号帯域幅をカバーするように、さらに任意選択的には、16kHz以上の
サンプリングレートで8kHz以下の信号帯域幅をカバーするように行われる。これによ
り、信号を正確に再現することができる。
【0030】
好適には、上記時間と共に変化する一連のフレームは、互いに重複することができる。
それぞれのフレームの開始点は、これに先行するフレームから10〜20ミリ秒(ms)
、より好適には12〜18ms、最も好適には約16msだけずれている。プロセッサは
、好適には、18〜164ms、より好適には50〜150ms、最も好適には64又は
128msのフレーム長を用いるようにプログラムされている。
【0031】
好適には、一組の係数は周波数領域の信号を表し、同様の周波数を表す係数が、上記ア
レイ中の物理的に近接し合う刺激器に印加される駆動信号にマッピングされるような形で
係数は駆動信号にマッピングされる。
【0032】
より好適には、隣接する周波数を表す係数は、物理的に隣接し合う刺激器に印加される
駆動信号にマッピングされる。
【0033】
代替的な実施形態では、デジタル信号プロセッサは、上記音響信号の連続セグメントを
特徴一覧から選択される一組の特徴にマッピングすることによって、上記音響信号を分析
するようにプログラムされている。
【0034】
刺激器アレイは、例えば、m×nの規則的に間隔が空けられた刺激器の矩形配置、同心
の六角形のサブアレイの六角形配置、又は、同心の円形のサブアレイの円形配置とするこ
とができる。
【0035】
好適には上記プロセッサはさらに、駆動信号の大きさ(振幅)を、所定の駆動信号強度
範囲内へと標準化するように構成されている。
【0036】
好適な実施形態では、上記触覚部は、対象者の舌に置かれるように寸法付けられた本体
形状をなし、それぞれの刺激器は、上記本体から突出した曲面を有する電極形状をなして
いる。より好適には、それぞれの電極の曲面は全体的に半球状である。
【0037】
一実施形態では、聴覚感覚代行装置として、舌を用いた電極アレイが使用され、それに
より、音響情報は舌に加えられる触覚刺激を介して脳に提示される。システムは、無線の
電気触覚ディスプレイ装置と、表示用の電気触覚刺激画像をブルートゥース技術を用いて
電気触覚ディスプレイに無線で送信する音響処理コンピュータとで構成されている。ある
いは、携帯性を高めるために、両方の構成部品を組み合わせて単一部品とすることもでき
る。なお、さらに詳しく言えば、システムによって生成される触覚刺激は、身体の任意の
皮膚表面に与えることができる。
【0038】
本発明のその他の実施形態では、別の形の触覚刺激を利用することができる。触覚刺激
を身体表面、好適には、求心性の脳神経が分布する箇所、より好適には、求心性の三叉神
経、最も好適には、そうした様々な神経線維が高密度である領域に送信する(完全に経皮
的であるため、非侵襲性であるという利点を有する)装置が考えられる。例として、額表
面に力/圧力刺激を伝達するように構成された装置、舌表面に接触する触覚ピンアレイを
有する装置、1又は複数の指先に接触する触覚ピンアレイを有する(電気的ブライユ法に
よる)装置、又は、舌表面に接触する振動アクチュエータを有する装置が挙げられる。
【0039】
触覚刺激に加えて、その他の形の(音響刺激に付随する)補助的刺激が考えられる。経
頭蓋電気刺激法(TES)、経頭蓋磁気刺激法(TMS)、経頭蓋直流電気刺激(tDC
S)又は深部脳刺激法(DBS)によって刺激を伝達する装置が考えられる。また、迷走
神経刺激器(VNS)や脊髄刺激器(SNS)といった埋込み型神経刺激器によって刺激
を伝達する装置も考えられる。さらに、GABA、MDMA、AMPT、SSRI類及び
オピオイドペプチド類といった薬理学的な神経調節物質によって刺激を伝達する装置も考
えられる。
【0040】
これに加えて、視覚刺激の形で補助的刺激を伝達するその他の装置も考えられる。視覚
パターンは、モニタ表示、アイウェア(すなわち、グーグルグラス)又は患者の周辺視に
目視可能な閃光によって患者に表示される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
添付の以下の図面を参照しながら本開示の実施形態について説明する。ただし、これら
は例示にすぎない。
図1】オージオグラムが作成されるチャートを示す図である。
図2】実施例1の患者1によるサンプルオージオグラムである。
図3】本発明の一実施形態に従って作成された帯域ブーストフィルタの一例を示す図である。
図4】実施例2の患者2によるサンプルオージオグラムである。
図5】本発明の一実施形態に従って作成されたシェルフフィルタとして機能するように構成された帯域ブーストフィルタの一例を示す図である。
図6】実施例3の患者3によるサンプルオージオグラムである。
図7】実施例4で説明されている研究に従った、スクリーニング検査(V0/0週)から治験終了(V7/14週)までのMMLを示すボックスプロットである。
図8】実施例4で説明されている研究に従った、スクリーニング検査(V0/0週)から治験終了(V7/14週)までのTLMを示すボックスプロットである。
図9】実施例4で説明されている研究に従った、スクリーニング検査(V0/0週)から治験終了(V7/14週)までのTHIを示すボックスプロットである。
図10】実施例4で説明されている研究に従った、スクリーニング検査(V0/0週)から治験終了(V7/14週)までのTMを示すボックスプロットである。
図11】本発明の一実施形態に従ったシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(難聴の特徴付け)
難聴は、伝音性又は感音性のいずれかのタイプに分類され、伝音難聴及び感音難聴の両
方を同一の耳が併せ持っている場合は一般的に混合難聴との名称が用いられる。伝音難聴
は、音が外耳から中耳に効果的に伝達されない機械的な原因による場合が多い。判別力は
殆ど影響されず、殆どの場合は手術又は正確に処方された増幅によって解決することがで
きる。
【0043】
感音難聴(SNHL)は、内耳、又は、内耳から脳への神経路に損傷があるときに生じ
る場合が多い。判別力は略必ず低下する。SNHLは最も一般的なタイプの難聴であり、
医学又は手術による矯正が不可能である。殆どの場合は正確に処方された増幅によって解
決することができる。難聴の程度は、以下の表に従って分類することができる。
【0044】
【表1】
【0045】
難聴は、難聴のタイプ及び程度に加えて、別の形態を有するものと考えることができる
。高音のみに悪影響を及ぼす難聴は、高周波難聴と呼称し、低周波数のみに悪影響を及ぼ
す難聴は低周波難聴と呼称することができる。
【0046】
その他の用語については、以下のとおりに難聴の説明に用いる。両側性難聴は両耳の難
聴に、片側性軟調は片耳の難聴に関するものである。対称性難聴は、難聴の程度及び形態
がそれぞれの耳で同じであることを意味する。また、非対称性難聴は、難聴の程度及び形
態がそれぞれの耳で異なることを意味する。進行性難聴は、難聴が時間と共に悪化するこ
とを意味する。突発性難聴は、難聴が急に起こることを意味する。変動性難聴は、時間に
よって変化/変動する難聴を意味する。非変動性(stable)難聴は、難聴が変化/
変動せず一定であることを意味する。
(難聴検査)
患者の難聴レベルは、オージオグラムを用いて測定することができる。図1に示されて
いるオージオグラムは、純音聴力検査(PTA)、自動式聴力検査又はコンピュータ式聴
力検査の結果を示すグラフである。これは、難聴のタイプ、程度及び形態を示すものであ
る。
【0047】
音の周波数又は高低は、ヘルツ(Hz)で測定される。また、音の強度又は音量は、デ
ジベル(dB)で測定される。反応は、検査されたそれぞれの周波数毎の強度レベルを示
すオージオグラムに記録される。検査対象となる標準的な周波数の組は、以下の周波数、
すなわち、125Hz、250Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz、300
0Hz、400のHz、6000Hz、8000Hzの一部である。いくつかの場合には
、10,000Hz〜20,000Hzの高周波数検査が推奨される。
【0048】
空気伝導及び骨伝導の閾値で構成される純音聴力検査は、聴力感受性を測定するために
用いられる行動検査である。この測定には、周辺及び中央の聴覚システムが必要である。
純音閾値(PTT)とは、時間の50%以上の間、人が聴き取ることが可能な最も弱い音
を指す。応答は、オージオグラム(図1)に記録される。
【0049】
空気伝導を検査するために、耳載せイヤホン又は挿入イヤホンを用いて連続又はパルス
状の純音信号の形で刺激を送る。パルス音は、刺激に対する被験者の認識を高めることが
分かっている。検査対象となる周波数は、用いる技法によって異なる。ある診断技法を用
いれば、低周波難聴が見られる場合を除いては、閾値検査は、250、500、1000
、2000、3000、4000、6000及び8000Hzで行われるべきである。低
周波難聴が見られる場合は、125Hzの聴力閾値も測定するべきである。500〜20
00Hzの任意の2の隣接するオクターブ周波数での閾値間に20dB以上の差がある場
合には、中間オクターブ測定を行うべきである。
【0050】
検査側の耳で得られた空気伝導の閾値が検査側でない耳に対する両耳間移行減衰量(4
0dB)を上回った場合は、適切なマスキングを検査側でない耳に行うべきである。10
00Hzでの再検査の閾値が初回検査と比べて5dB超も異なる場合は、2個の閾値のう
ち小さい方は許可してもよいが、少なくとも他方の検査周波数は再検査するべきである。
【0051】
骨伝導を検査するために、標準的な骨伝導振動子を乳様突起/額に置くべきである。閾
値は、250〜4000Hz及び3000Hzのオクターブ間隔で得られる。正常感受性
又は準正常感受性の場合であっても周波数500Hz未満での検査には高度な防音性が必
要であるが、そうした環境があれば可能であろう。より高い周波数に関しては、トランス
デューサが十分な周波数応答特性を有するなら検査可能であろう。いずれかの耳で、マス
キングされていない骨伝導の閾値がその周波数での空気伝導の閾値を10dB上回る場合
は、マスキングを必ず行う必要がある。
【0052】
オージオグラム毎に、検査の日付及び場所;患者、オージオロジスト、可能であれば参
照元の氏名;オージオメータ、トランスデューサ、聴覚検査室といった使用検査設備の記
述;使用器具の較正情報;空気伝導及び骨伝導によって各耳を検査した周波数それぞれの
閾値;使用シンボルの説明;外耳の理学的状態にかかる所見又は結果に影響を及ぼした可
能性のあるその他の状態、及び、これらの状態を緩和するために行われた何らかの処置;
被験者の行動、症状又は困難にかかる所見;検査の信頼性の評価;評価の理由;代替的な
検査方法又は用いられた非標準的な検査による刺激の記述、例えば、「降順提示法」「パ
ルス音置換」若しくは「震音置換」といった情報が含まれるべきである。
(耳鳴りの測定)
耳鳴りマッチ(TM)、耳鳴りラウドネスマッチ(TLM)及び最小マスキングレベル
(MML)を含む音響心理評価は、対側耳、又は、両耳に差がない場合は両側耳における
耳鳴りの周波数レベル及び耳鳴り周波数の強度レベルを判定することによって決まる。両
者の測定はそれぞれ、ヘルツ(Hz)及びデジベル(dB)で表される。MMLを行う場
合は、広帯域ノイズを採用し、それぞれの患者に質問して耳鳴りが聞こえなかったときを
判定する。MML及びTLMは1dBのステップを用いて判定される。
【0053】
付加的な耳鳴り検査として、マスキング期間後も人の(1又は複数の)耳におけるノイ
ズが低減又は消失される時間を記録するレジジュアルインヒビション(RI)が挙げられ
る。耳鳴りは、最小マスキングレベルに10dBをプラスして約1分間、マスキングされ
る。
(逆オージオグラムフィルタ)
耳鳴り患者が経験する錯覚音の高低はしばしば、難聴周波数に相関している(すなわち
、難聴ディップ:4kHzで30dB、マッチする耳鳴り:4kHzで20dBである)
。本発明の一側面では、蝸牛及び聴覚神経の損失帯域における残りの帯域幅は、患者の難
聴によって特徴付けられた帯域ブースト(有色)ノイズを用いた増幅を行うことによって
刺激される。具体的には、患者の(オージオグラムによって特徴付けられる)難聴を利用
して、カスタマイズされた帯域ブーストノイズの生成に利用される所定の補正プロフィー
ルを作成する。一実施形態では、所定の補正プロフィールを利用して、「逆オージオグラ
ム」による帯域ブーストフィルタを作成し、この帯域ブーストフィルタを帯域ブーストノ
イズの生成に利用する。ここで、この工程について、3個の例示的な例を参照しながら説
明する。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
実施例1では、難聴及び/又は耳鳴りの疑いのある患者1に対して、純音聴力検査を行
い、聴力のタイプ、程度及び形態を(先述したように)定量化した。耳鳴りマッチ(TM
)、耳鳴りラウドネスマッチ(TLM)及び最小マスキングレベル(MML)を含む心理
音響評価を(先述したように)行った。
【0055】
患者1のオージオグラムの結果は、図2から見て取ることができる(×印は左耳、○印
は右耳に対応している)。図2は、多少簡略化された難聴プロフィールによって表された
両側性ノイズによる感音難聴を示している。右耳は、4kHzで25dBの損失を示し、
左耳は4kHzで30dBの損失を示している。患者1の耳鳴りの音響心理評価の結果(
図2に図示せず)は、左耳では4kHzで20dBの純音にマッチする耳鳴りがあり、右
耳では耳鳴りがなかった。
【0056】
本発明の実施形態によれば、帯域ブーストフィルタは、上記の難聴及び耳鳴り評価に基
づく特定周波数(図3に例示あり)に較正されており、耳にその後伝達されることになる
音響信号に適用される。それぞれの耳は異なる難聴プロフィールを有するため、異なる形
でカスタマイズされた信号がそれぞれの耳に対して生成される。本例では、右耳に耳鳴り
は診られないため、カスタマイズされた信号は左耳のみに対して生成される。オージオグ
ラムに基づいて、ブースト率及び中心周波数(Fc)を算出することができ、これらを帯
域ブーストフィルタの設計に用いることができる。本例では、ブースト率は、+25dB
ブーストするために設定され、中心周波数(Fc)は4kHz(これは、この場合は耳鳴
りにマッチする周波数でもある)と特定される。フィルタの帯域幅は、中心周波数から1
オクターブ上及び下に規定される。この場合、フィルタによるブーストのための高域カッ
トオフ周波数及び低域カットオフ周波数の間の帯域幅は、2kHz〜8kHz(すなわち
、6kHzの範囲)である。フィルタの傾きは、(立ち上がり端及び立ち下り端の両方で
)25dB/オクターブと規定される。こうしたタイプのフィルタを上記の特定の難聴プ
ロフィールで苦しむ患者に適用することは、患者に知覚されるノイズのスペクトル強度を
正常化するという効果がある。純白色ノイズがこのフィルタを通じて患者1に伝達されて
も、患者1はノイズを純白色ノイズとして知覚する。
(実施例2)
実施例2では、難聴及び/又は耳鳴りの疑いのある患者2に対して、純音聴力検査を行
い、聴力のタイプ、程度及び形態を(先述したように)定量化した。耳鳴りマッチ(TM
)、耳鳴りラウドネスマッチ(TLM)及び最小マスキングレベル(MML)を含む心理
音響評価を(先述したように)行った。
【0057】
患者2のオージオグラムの結果は、図4から見て取ることができる。図4は、片側性の
高周波感音難聴を示している。左耳は、2kHzで50dB、4kHzで55dB及び6
kHzでdB60の難聴を示している。右耳は、正常聴力を示している(なお、図4のオ
ージオグラムには図示されていない)。耳鳴りの音響心理評価の結果(図4に図示せず)
は、左耳では5kHzで40dBの純音にマッチする耳鳴りがあり、右耳では耳鳴りが見
られなかった。
【0058】
本発明の実施形態によれば、帯域ブーストフィルタは、上記の難聴及び耳鳴り評価に基
づく高周波シェルフフィルタ(図5には、本例に特有ではない例が示されている)として
機能するように較正されている。患者2は片側性高周波難聴を示しているため、この場合
は、中心周波数は3dBのコーナー周波数、すなわち、難聴が3dBロールオフ(減衰)
される最初の点と規定される。ブースト率は、最大で+45dBブーストするように規定
され、中心周波数(Fc)(3dBのコーナー周波数とする)は1kHzと特定され、帯
域幅は1kHz〜人の聴力の限界(約20kHz)まで広がるものと規定される。フィル
タの中心周波数から傾きは、45dB/3オクターブ(1kHz〜8kHzの難聴の平均
)と規定され、これは、15dB/オクターブに等しい。こうしたタイプのフィルタを上
記の特定の難聴プロフィールで苦しむ患者に適用することは、患者に知覚されるノイズの
スペクトル強度を正常化するという効果がある。純白色ノイズがこのフィルタを通じて患
者1に伝達されても、患者2はノイズを純白色ノイズとして知覚する。
【0059】
実施例3では、難聴及び/又は耳鳴りの疑いのある患者3に対して、純音聴力検査を行
い、聴力のタイプ、程度及び形態を(先述したように)定量化した。耳鳴りマッチ(TM
)、耳鳴りラウドネスマッチ(TLM)及び最小マスキングレベル(MML)を含む心理
音響評価を(先述したように)行った。
【0060】
患者3のオージオグラムの結果は、図6から見て取ることができる(×印は左耳、○印
は右耳に対応している)。図6は、左側が感音難聴、右側が混合難聴である両側性混合難
聴を示している。これは、図1のオージオグラムによって示されているものより比較的複
雑な難聴プロフィールである。左耳は、8kHzで25dB、2kHzで20dB、25
0Hzで15dBの難聴を示している。右耳は、8kHzで45dB、2kHzで30d
B、500Hzで50dB、250Hzで40dBの難聴を示している。耳鳴りの音響心
理評価の結果(図6に図示せず)は、左耳では4kHzで15dBの純音にマッチする耳
鳴りがあり、右耳では2kHzで25dBの耳鳴りがあった。
【0061】
本発明の実施形態によれば、上記の難聴及び耳鳴り評価に基づいて、第1帯域ブースト
フィルタは、左耳に伝達されることになる音響信号の特定周波数をブーストするように較
正され、第2帯域ブーストフィルタは、右耳に伝達されることになる音響信号のハイ/ロ
ー・シェルフィルタ(図示せず)として機能するように較正されている。左耳のオージオ
グラムに基づいて、左耳用帯域ブーストフィルタのブースト率及び中心周波数(Fc)を
算出することができる。本例では、ブースト率は、+30dBブーストするために設定さ
れ、中心周波数(Fc)は4kHz(これは、この場合は耳鳴りにマッチする周波数でも
ある)と特定される。右耳については、(3dBのコーナー周波数として設定される)第
1Fcは1kHz(これは、低周波の難聴が3dB超減衰される最初の点である)と特定
され、(別の3dBのコーナー周波数として設定される)第2Fcは6kHz(これは、
高周波の難聴が3dB超減衰される最初の点である)と特定される。低周波シェルフィル
タの傾きは、15dB/2オクターブ(1kHz〜250Hzの難聴の平均)、すなわち
、7.5dB/オクターブに規定され、高周波シェルフィルタの傾きは、20dB/半オ
クターブ(6kHz〜8kHzの難聴の平均)、すなわち、40dB/オクターブに規定
される。したがって、2kHzの周波数で、+15dBのブーストが得られることになる
。こうしたタイプのフィルタを上記の特定の難聴プロフィールで苦しむ患者に適用するこ
とは、患者の両耳で知覚されるノイズのスペクトル強度を正常化するという効果がある。
純白色ノイズがこのフィルタを通じて患者3に伝達されても、患者3はノイズを純白色ノ
イズとして知覚する。
(実施例4)
本発明の実施形態に従った方法及び装置を、持続する難治性耳鳴りの治療及び症状緩和
のために使用する効果についての臨床パイロット研究を行った。研究結果を以下に説明す
る。
(題材及び方法)
研究の目的は、持続する難治性耳鳴りの自覚的及び他覚的な評価に対する、聴覚及び触
覚による多モードの神経調節の効果を判定することであった。これは、16週にわたる研
究であった。被験者はスクリーニングを4週間、治療を10週間を受け、さらに治療後2
週間の追跡検査を受けた。この試験は、4週間の導入期間のベースライン数値を定め、1
0週間にわたる治療の結果をベースライン数値と比較して、試験期間中の装置の使用及び
耐性を評価することを目的としたものであった。
【0062】
検査は、耳鼻咽喉科学会、欧州耳科・神経耳科学会、英国王立医学協会:耳科学、 喉
頭科学及び鼻科学、プロスパメニエール学会、アイルランド耳鼻咽喉科学会及び米国聴覚
学会の一員であるシニアコンサルタントの耳鼻咽喉科・耳鼻喉外科医の臨床監視下で、I
rish Society of Hearing Aid Audiologists
(ISHAA)(仮訳:アイルランド補聴器/オージオロジスト学会)及びIrish
Academy of Audiology(IAA)(仮訳:アイルランド聴覚学校
)に登録している臨床オージオロジストによって行われた。
【0063】
研究の被験者の適任性を、以下に挙げる合格/不合格基準によって判定した。患者は、
装置の合計使用が最低でも1日30分間、すなわち、1週毎に3.5時間であり、刺激レ
ベルはゼロ超であり、検査日時の可能なタイミングを受け入れる、という条件を満たした
場合に適任と見なされた。ベースラインインタビューは、新たな治療を開始してから4週
間以内に行う必要があった。
【0064】
合格基準:65歳未満;難治性自覚的耳鳴りを6ヶ月超煩っている;年齢又はノイズが
関与した感音難聴に関連の耳鳴り;英語の読み書き能力あり;全16週間にわたる継続期
間の研究への参加可能/希望、インフォームドコンセントあり。
【0065】
不合格基準:口腔又は舌の潰瘍;口腔粘膜又は口腔内の重大な病気(これらの症状のさ
らなる悪化のリスクを低下するため);(一般的に聴覚過敏症が見られる変動性難聴患者
による)メニエール病(音の感受性のさらなる悪化を防止するため);耳鳴り又は聴力に
関する現在の医療訴訟事件(利害の対立を防止するため);耳鳴りの何らかの治療を継続
中(介入独自の効果を正確に測定するため);ペースメーカー(磁気干渉の可能性から)

(不適任性及び辞退)
この特定の研究に加わるには適任でないとプレスクリーンで見なされた参加者は、かか
りつけ医(GP)に回されて正式な断り状を受け取る。本研究の開始後に中途辞退する被
験者については、治療企図(ITT)法によって分析した。患者は、研究への参加は完全
に自主的であり、理由を言うことなく何時でも研究を自由に中途辞退することができた。
募集工程は、患者に参加を熟考するための十分な時間を与えた。
(偏見の最小化)
無記名の参加や、他覚的及び自覚的なゴールド標準の結果測定を用いることによって、
偏見を最小化した。
(治療)
前治療段階は、治療の開始前の4週間の導入期で構成された。この段階では、2週間毎
、すなわち、0週、2週及び4週にベースライン測定を行いサンプリングした。治療段階
は、10週間の期間で構成された。この段階では、被験者は、自宅で、推奨されたとおり
1日60分間装置を使用した。全ての被験者について、装置の使用のログが埋め込みSD
リーダカードに残された。先述したように、他覚的及び自覚的な試験を、エンロールされ
た検査において、2週間毎に研究期間にわたって行った。
(結果測定の評価及びコンプライアンス)
重要な結果測定は、研究期間を通して臨床環境における「レビュー」検査で評価された
。ログ技法や、アンケートによって研究終了時に評価された許容度を用いて、被験者のコ
ンプライアンスを測定した。
(自覚的結果測定)
耳鳴り障害目録(THI)は、耳鳴りの測定のための25項目の問診表である。被験者
は、2週間毎及びレビュー検査直前にTHI問診表に記入した。THIのスコアは「改善
」から「悪化」まで5段階の重症度に分類される。
(他覚的結果測定)
耳鳴りマッチ(TM)は、耳鳴りの周波数の高低を判定する音響心理評価である。耳鳴
りラウドネスマッチ(TLM)は、耳鳴りの強度を判定する音響心理評価である。最小マ
スキングレベル(MML)は、耳鳴り[45]をマスキングするために必要な最小レベル
のノイズを判定する音響心理評価である。TM、TLM及びMMLによる評価を2週間毎
にレビュー検査で患者に行った。
(器具)
本研究では、本発明の実施形態に従った聴覚刺激装置及び触覚刺激装置を使用した。こ
の非侵襲性の装置は、ハイファイヘッドホンを通じて聴覚刺激を耳に伝達すると同時に、
32個の経皮的電気刺激器のアレイを通じて触覚パターンを舌に伝達することができる。
【0066】
本研究では、(本明細書中では「有色ノイズ」と呼称される)広域スペクトル音を含ん
だ聴覚刺激と、リラックスさせる音楽とを伝達するために装置を使用した。これらは患者
のオージオグラムに対応するように帯域ブーストフィルタにかけられたものである。聴覚
刺激と同時に、装置は舌の前面及び背面の経皮的電気刺激を与えた。ここで、電気刺激は
、聴覚刺激の瞬間周波数領域係数を表す空間時間的に符号化されたパターンであった。
(結果及び分析)
(分析人口及びコンプライアンス)
治療企図(ITT)に基づく人口から得られたデータに対して統計分析を行った。被験者
のデータは、以下のコンプライアンス及び最低適用条件が満たされた場合に適格であるも
のと見なされた:1日最低30分間又は毎週3.5時間の合計使用量;ゼロ超の最小レベ
ルの刺激;予定の日時から1週間以内のレビュー検査。
(人口統計およびベースライン特性)
前治療段階において、ベースライン測定及び基本人口統計データ(年齢/性別)を得た
【0067】
以下に、それぞれの特性のサマリ表及び数値を示す。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
グループの平均年齢は47歳であった。最年少の患者は21歳で、最年長は64歳であ
った。患者の半数超(57%)は50歳未満(63%)であった。34人(63%)の患
者は男性で20人(37%)の患者は女性であった。
(難聴プロフィール)
BS EN 60645−1(IEC 60645−1)及び関連のBS EN IS
O 389(ISO 389)シリーズ規格に従って較正したGN Otometric
s Madsen社のAstera臨床オージオメータを用いて、左耳及び右耳の難聴プ
ロフィールをそれぞれ測定した。難聴を、正常、軽度、軽度〜軽中度、軽中度、軽中度〜
高度、高度の重症度に分類した。重症度の分布を以下の表に要約した。
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
大半のケースは、スクリーニングでの難聴の重症度は軽度〜軽中度の範囲であった。高度
と診断されたケースは非常に少なかった。
(耳鳴りプロフィール)
スクリーニングではTHI、MML、TLM及びTMのスコアを用いて患者の耳鳴りプ
ロフィールを測定した。サマリ統計を以下の表に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
(分析)
THI、MML、TLM及びTMのスコアの経時的変化を測定することによって、持続
する難治性耳鳴りの他覚的及び自覚的な評価に対する、聴覚及び触覚による多モードの神
経調節の効果を判定した。スコアは、スクリーニングV0、ベースラインV2、そして検
査期間の間2週間毎に得た。ベースラインV2(4週/治療1週目)及びV7(14週/
治療10週目)の主効果の比較と、ベースラインV2及びV4(8週/治療4週目)の暫
定効果の比較とを行った。被験者がまだ治療を受けていないスクリーニング検査V0及び
ベースラインV2の比較によって、プラセボ/文脈効果を調べた。治療の最終週V7(1
4週/治療10週目)及びV8(16週/治療後2週目)の比較によって、治療の短期的
な効果を測定した。
【0076】
ボックスプロット及び繰り返し分散分析(ANOVA)を全ての試験測定に対して行い
、統計上の有意性を判定した。対t検定を行って、主効果(ベースラインV2及びV7[
14週/治療10週目]の間の変化)の、暫定効果(ベースラインV2及びV4[8週/
治療4週目]の間の変化)との比較を行った。
【0077】
V0及びベースラインV2の測定値を比較することによって、潜在的なプラセボ/文脈
効果を予備的に分析した。これは、介入は実行されないが、耳鳴りの自覚性により何らか
の有効効果が見られ得る4週間の導入期であった。対t検定では、スクリーニング検査V
0及びベースラインV2を比較し、潜在的なプラセボ/文脈効果のエビデンスを検査した

(最小マスキングレベル[MML])
MMLのスコアの経時的変化を図7に示した。繰り返しANOVA全体が統計学的に有
意であった(p値<0.001)。また、対t検定によるベースラインV0及びV7(1
4週/治療10週目)の比較も有意であった(p値<0.001)。MMLスコアは、ベ
ースラインV2の平均値47.4(SD[標準偏差]=2.54、95%Cl[95%信
頼限界]:42.3〜52.6、N[数]=39)からV7(14週/治療10週目)の
38.8(SD=2.7、95%CI:33.4〜43.34、N=39)に低下した。
また、暫定効果(ベースラインV2からV4[8週/治療4週目]までの間のMMLの平
均変化)も有意であり(p値=0.0088)、ベースラインV0の48.15(SD=
2.69、95%CI:42.66〜53.64、N=33)からV4(8週)の43.
79(SD=3.13、95%CI:37.4〜50.16、N=33)まで低下した。
MMLスコアにはプラセボ/文脈効果のいくつかのエビデンスがあったが、有意ではなか
った(p値=0.01)。スクリーニング検査V0及びベースラインV2の間で、平均M
MLスコアはV0の50.8(SD=2.3)からV2の46.7(SD=2.2)(N
=54)に変化した。
(耳鳴りラウドネスマッチ[TML])
TLMスコアの経時変化を図8に示す。繰り返しANOVA全体は統計的に有意であっ
た(p値<0.001)。対t検定によるベースラインV2及びV7(14週/治療10
週目)の比較も有意であった(p値=0.001)。TLMスコアは、ベースラインV2
の平均値45.3(SD=2.5、95%CI:40.2〜50.4、N=39)からV
7(14週/治療10週目)の38.1(SD=2.75、95%CI:32.5〜43
.6、N=33)に低下した。また、暫定効果(ベースラインV2からV4[8週/治療
4週目]までの間のTMLの平均変化)も有意であり(p値=0.045)、ベースライ
ンV2の44.63(SD=2.61、95%CI:39.31〜50、N=33)から
V4(8週/治療4週目)の40.18(SD=3.28、95%CI:33.5〜46
.85、N=33)に低下した。TLMスコアにはプラセボ/文脈効果のエビデンスはな
かった。スクリーニング検査V0及びベースラインV2の間の平均変化は1ポイント未満
の42.9(SD=2.68)から43.4(SD=2.1)までの変化であり、有意で
はなかった。
(耳鳴り障害目録[THI])
THIスコアの経時変化を図9に示す。繰り返しANOVA全体は統計的に有意であっ
た(p値<0.001)。対t検定によるベースラインV2及びV7(14週/治療10
週目)の比較も有意であると判定された(p値<0.001)。THIスコアは、ベース
ラインV0の平均値34.3(95%CI:27.3〜41.2、N=46)からV7(
14週/治療10週目)の24.9(95%CI:19.8〜30.7、N=42)に低
下した。また、暫定効果(ベースラインV2からV4[8週/治療4週目]までの間のT
HIの平均変化)も有意であり(p値=0.0052)、ベースラインV2の34.42
(95%CI:27.5〜41.3、N=50)からV4(8週/治療4週目)の31.
12(95%CI:24.2〜38.1、N=50)に低下した。THIスコアには大き
なプラセボ/文脈効果が見られた。平均THIスコアはスクリーニング検査V0の41.
1(SD3.04)からベースライン検査V2の34.2(SD3.2)(N=54)ま
で低下し、この変化は統計的に有意であった(p値<0.001)。
(耳鳴りマッチ)
TMスコアの経時変化を図10に示す。繰り返しANOVA全体で値が低下する傾向が
いくらか見られたが、有意ではなかった。それぞれの検査のサマリ値を以下の表に示す。
【0078】
【表7】
【0079】
(考察)
本研究は、目に見える有効性の早期のエビデンスを実証しており、この新規な介入が耳
鳴り治療における有望な成果であることを示唆している。患者グループは、他覚的測定値
における統計的に有意な平均改善率を示し、ベースライン検査(V2/4週)及び治験終
了時(V7/14週)の間で最小マスキングレベルでは8.6dBの低下、耳鳴りラウド
ネスマッチでは7.2dBの低下を示した。これらの結果は、同様の他覚的測定を用いた
その他の研究(ニューロモニクス療法による2か月で7.68dBの低下)に有利に匹敵
するものである。同様に、患者グループは、THIの自覚的測定においても統計的に有意
な改善を示した。ここで評価されている介入は、その他の治療とは違って、心理学的カウ
ンセリングを含まないことを考慮すれば、これは非常に重要な結果である。これは、その
他の単独(カウンセリングなし)の技術(ANM)が用いられた研究に有利に匹敵する。
【0080】
図11を参照すると、本発明の一実施形態に従ったシステムが示されている。システム
は、刺激伝達機器1100を有する。機器は、接続ケーブル1104によって機器本体1
101に接続された触覚刺激1102と、音響刺激部(図示せず)とを有する。同時かつ
相補的な音響信号及び触覚刺激部駆動信号の再生を、インタフェースボタン1106及び
音量コントロール1108によって制御することができる。本発明の本実施形態では、デ
ジタル信号プロセッサは別個のデジタル信号処理機器(図示)に含まれており、刺激伝達
機器1100は、上記デジタル信号処理機器によって生成された電子ファイルを読み取り
、当該ファイルを音響信号及び複数の触覚刺激部駆動信号に変換し、当該信号を上記音響
伝達部及び上記触覚刺激部1102それぞれに送信するための電子ファイルリーダを有す
る。
【0081】
代替的な実施形態では、システムは、本発明の全ての構成要素を有する単一の機器を有
することができ、デジタル信号プロセッサは、入力音響信号から補正音響信号及び複数の
触覚刺激機器駆動信号を動的かつ同時に生成するように構成されている。
【0082】
本明細書中で本発明を参照して用いられるとき、「含む」、「有する」及びそれらの同
根語は、記載の特徴、整数、ステップ又は構成要素の存在を特定するために使用されるが
、その他の特徴、整数、ステップ、構成要素又はこれらの組み合わせのうち1又は複数の
存在又は追加を否定するものではない。
【0083】
理解されているように、明瞭さのために別の実施形態の文脈で説明されている本発明の
特定の特徴は、単一の実施形態に組み合わせて実施することもできる。逆に、明瞭さのた
めに単一の実施形態の文脈で説明されている本発明の様々な特徴は別個に又は適切な副組
み合わせで実施することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2019年6月11日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音処理部、触覚刺激部及び音響伝達部を有する耳鳴り治療システムであって、
前記音処理部は、
第1音響信号成分及び第2音響信号成分を含む音響信号を受信するためのプロセッサ入力端子と、
前記音響信号を分析し、前記音響信号を表す複数の駆動信号を前記音響信号から生成するように、また、所定の補正プロフィールに従って前記音響信号をスペクトル補正し、補正音響信号を生成するように構成されたデジタル信号プロセッサと、
を有し、
前記触覚刺激部は、
対象に触覚刺激を与えるための個々に駆動可能な刺激器アレイと、
前記デジタル信号プロセッサによって生成された前記複数の駆動信号を受信し、それぞれの駆動信号をそれぞれの刺激器に送信するための刺激部入力端子と、
を有し、
前記音響伝達部は、対象に音響刺激を与え、前記デジタル信号プロセッサによって生成された前記補正音響信号を受信するための音響伝達部入力端子を有し、
前記所定の補正プロフィールは、耳鳴りを煩う患者のオージオグラムの逆特性に基づき、
前記補正音響信号は少なくとも、前記患者の聴力が低下しているスペクトル範囲にわたるスペクトル帯域幅を占める第1成分信号、及び注意音成分である第2成分信号を含むことを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1記載のシステムにおいて、当該システムは、デジタル信号処理機器及び刺激伝達機器を有し、
前記デジタル信号処理機器は、
前記デジタル信号プロセッサと、
前記生成された駆動信号及び前記補正音響信号を電子ファイル形式で記憶するための電子ファイルライタと、
を有し、
前記刺激伝達機器は、
前記触覚刺激部と、
前記音響伝達部と、
前記デジタル信号処理機器によって生成された電子ファイルを読み取り、前記ファイルを音響信号及び複数の駆動信号に変換し、当該信号を前記音響伝達部及び前記触覚刺激部それぞれに送信するための電子ファイルリーダと、
を有することを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシステムにおいて、前記音処理部はさらに、前処理モジュールを有し、当該前処理モジュールは、
前記第1音響信号成分を受信するための第1前処理入力端子と、
前記第2音響信号成分を受信するための第2前処理入力端子と、
前記第1音響信号成分及び前記第2音響信号成分を組み合わせて前処理音響信号とするための加算器と、
前記前処理音響信号を前記プロセッサ入力端子に送信するための前処理出力端子と、
を有することを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項1記載のシステムにおいて、前記音処理部はさらに、前処理モジュールを有し、当該前処理モジュールは、
前記第1音響信号成分を受信するための第1前処理入力端子と、
前記第2音響信号成分を受信するための第2前処理入力端子と、
前記第1音響信号成分及び前記第2音響信号成分を組み合わせて前処理音響信号とするための加算器と、
前記前処理音響信号を前記プロセッサ入力端子に送信するための前処理出力端子と、
を有し、
前記プロセッサ入力端子は、前記前処理部からの前記前処理音響信号の出力を受信するように構成され、
前記デジタル信号プロセッサは、前記所定の補正プロフィールに従って前記前処理音響信号をスペクトル補正し、前記補正音響信号を生成するように構成され、
前記音処理部は、前記デジタル信号プロセッサから前記補正音響信号を受信するためのプロセッサ出力端子を有することを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項4記載のシステムにおいて、当該システムはさらに、ノイズ発生器を有し、当該ノイズ発生器は、音響信号を生成し、当該音響信号を前記第1前処理入力端子に送信するように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のシステムにおいて、前記デジタル信号プロセッサはさらに、前記所定の補正プロフィールに応じて較正された帯域ブーストフィルタを有し、前記デジタル信号プロセッサは、前記音響信号を前記帯域ブーストフィルタに通過させて前記補正音響信号を生成することによって、前記音響信号をスペクトル補正するように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項1記載のシステムにおいて、前記第1成分信号は、前記患者の聴力が低下している前記スペクトル範囲を1オクターブ以上超えて広がるスペクトル帯域幅を占めることを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項7記載のシステムにおいて、前記第1成分信号は、前記患者の難聴の最小周波数未満及び難聴の最大周波数超にそれぞれに対して半オクターブ以上広がるスペクトル帯域幅を占めることを特徴とするシステム。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のシステムにおいて、前記第1成分信号は、前記患者の難聴の最小周波数未満及び難聴の最大周波数超にそれぞれに対して4分の1オクターブ以上広がるスペクトル帯域幅を占めることを特徴とするシステム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のシステムにおいて、前記補正音響信号は少なくとも第1成分信号を含み、該第1成分信号は125Hz〜40kHzのスペクトル帯域幅を占めることを特徴とするシステム。
【請求項11】
請求項10記載のシステムにおいて、前記第1成分信号は500Hz〜8kHzのスペクトル帯域幅を占めることを特徴とするシステム。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のシステムにおいて、前記第1成分信号は2kHz〜6kHzのスペクトル帯域幅を占めることを特徴とするシステム。
【請求項13】
第1音響信号成分及び第2音響信号成分を含む音響信号を処理するための方法であって、
前記音響信号を分析するステップと、
第1出力信号を含み、電極アレイの駆動に適した、前記音響信号を表す複数の駆動信号を前記音響信号から生成するステップと、
所定の補正プロフィールに従って前記音響信号をスペクトル補正し、第2出力信号を含む補正音響信号を生成するステップであって、該補正音響信号は少なくとも、前記患者の聴力が低下しているスペクトル範囲にわたるスペクトル帯域幅を占める第1成分信号、及び注意音成分である第2成分信号を含むステップと、
を含み、
前記第1出力信号及び前記第2出力信号は、信号出力装置に送信されるか、又は、電子ファイル形式に変換されて電子的に記憶され、
当該方法はさらに、前記第1音響信号成分及び前記第2音響信号成分を組み合わせて前処理音響信号とすることによって前記音響信号を前処理するステップを含み、
前記所定の補正プロフィールは、耳鳴りを煩う患者のオージオグラムの逆特性に基づくことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、
当該方法はさらに、前記第1音響信号成分及び前記第2音響信号成分を組み合わせて前処理音響信号とすることによって前記音響信号を前処理するステップを含み、
前記補正音響信号を生成するステップは、前記所定の補正プロフィールに従って、前記前処理した音響信号をスペクトル補正し、前記補正音響信号を生成するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記音響信号が耳鳴りの治療用の音響信号である、請求項13記載の方法。
【外国語明細書】
2019193795000001.pdf