(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-194170(P2019-194170A)
(43)【公開日】2019年11月7日
(54)【発明の名称】経口医薬
(51)【国際特許分類】
A61K 45/08 20060101AFI20191011BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20191011BHJP
【FI】
A61K45/08
A61K49/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-98280(P2018-98280)
(22)【出願日】2018年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2018-84616(P2018-84616)
(32)【優先日】2018年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】309013406
【氏名又は名称】プロメディコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115509
【弁理士】
【氏名又は名称】佐竹 和子
(72)【発明者】
【氏名】木之下 節夫
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C084AA27
4C084MA52
4C084NA20
4C084ZC782
4C085HH11
4C085HH13
4C085LL20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】服薬履行の確認が容易な経口医薬の提供。
【解決手段】薬効成分と、薬理的に許容される化合物であって該化合物の服用者の分泌物、排泄物或いは体液に上記化合物或いはその代謝物が排出される化合物からなる群から選択された少なくとも1種のタグ化合物とを含む経口医薬であって、上記1種以上のタグ化合物が、上記経口医薬の服用者の分泌物、排泄物或いは体液に含まれている上記1種以上のタグ化合物或いはその代謝物を検出することができる量で含まれている経口医薬。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬効成分と、
薬理的に許容される化合物であって該化合物の服用者の分泌物、排泄物或いは体液に前記化合物或いはその代謝物が排出される化合物からなる群から選択された少なくとも1種のタグ化合物と
を含む経口医薬であって、
前記1種以上のタグ化合物が、前記経口医薬の服用者の分泌物、排泄物或いは体液に含まれている前記1種以上のタグ化合物或いはその代謝物を検出することができる量で含まれていることを特徴とする経口医薬。
【請求項2】
前記1種以上のタグ化合物が、色を呈する分子構造を有する化合物、蛍光団を有する化合物、及び、ハプテンとなる構造を有する化合物からなる群から選択されている、請求項1に記載の経口医薬。
【請求項3】
前記1種以上のタグ化合物が、前記検出における内部標準となるべきタグ化合物を含む、請求項1又は2に記載の経口医薬。
【請求項4】
前記1種以上のタグ化合物の種類或いは種類と量が、異なる経口医薬を識別することができるように選択されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の経口医薬。
【請求項5】
異なる薬効成分に対して異なる1種以上のタグ化合物を対応付けた対応表が予め設定されており、
前記経口医薬に含まれている1種以上のタグ化合物が、前記対応表において、前記経口医薬に含まれている薬効成分に対応付けられている、請求項4に記載の経口医薬。
【請求項6】
同一の薬効成分の異なる用法及び/又は用量に対して異なる1種以上のタグ化合物を対応付けた対応表が予め設定されており、
前記経口医薬に含まれている1種以上のタグ化合物が、前記対応表において、前記経口医薬に含まれている薬効成分の用法及び/又は用量に対応付けられている、請求項4に記載の経口医薬。
【請求項7】
異なる薬理作用に対して異なる1種以上のタグ化合物を対応付けた対応表が予め設定されており、
前記経口医薬に含まれている1種以上のタグ化合物が、前記対応表において、前記経口医薬に含まれている薬効成分が示す薬理作用に対応付けられている、請求項4に記載の経口医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、服薬履行の確認が容易な経口医薬に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
医師によって処方された経口医薬は指示に従って患者に適切に服用されてこそ迅速な治療効果が得られるものであるが、服薬不遵守の問題が指摘されている。例えば、非特許文献1(Clin Ther.1984;6(5):592−599)には、服薬の指示を遵守している患者の割合が、1日に1回或いは2回の服用が指示されている場合にはそれぞれ73%及び70%であったものの、1日に3回或いは4回の服用が指示されている場合にはそれぞれ52%及び42%に低下したこと、及び、服薬の故意ではない誤りが患者の50〜90%にも達したことが報告されている。このような状況は、治療の長期化や入院へとつながり、このために多くの時間と費用とが費やされることになるため、回避されるべきである。
【0003】
また、臨床試験においては、服薬の正確な履行がなされなければ臨床結果の統計的信頼性が確保されないが、やはり服薬不遵守の問題が指摘されている。例えば、非特許文献2(Am Rev Respir Dis.1992;146(6):1559−1564)には、1日に3回の吸入器を使用する臨床試験において、被験者の73%が1日3回の服薬を行ったと回答したものの、マイクロプロセッサ監視システムにより1日2.5回以上の服薬が認められたのは被験者の15%に過ぎなかったこと、及び、14%のマイクロプロセッサ監視システムが3時間に100回以上の吸入器の作動を検知しており、追跡訪問前の薬剤の廃棄が推定されることが報告されている。このような被験者による虚偽の報告或いは臨床医薬の廃棄の問題は、臨床試験の有効性に関する解釈を大きく左右することになるため、回避されなければならない。
【0004】
上述した服薬不遵守の問題を解決するために、服薬すべき時間が到達したときに警告を発する服薬支援装置や服用すべき医薬を排出する服薬支援薬箱等が提案されているものの、最も正確な服薬履行の確認方法は、経口医薬を処方された者の尿や血液等のサンプルを採取し、採取したサンプル中の薬効成分或いはその代謝物の存否を確認することである。このような確認方法は、スポーツドーピングのスクリーニングなどの特定の分野においては頻繁に実施されている(例えば、非特許文献3(臨床化学 2002;31:249−255)参照)ものの、処方された経口医薬の服用履行の確認のために十分に実施されているとは言えない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Clin Ther. 1984;6(5):592−599
【非特許文献2】Am Rev Respir Dis. 1992;146(6):1559−1564
【非特許文献3】臨床化学 2002;31:249−255
【非特許文献4】食品衛生叢書シリーズ 食品中の化学物質と安全性,米谷民雄編,(社)日本食品衛生協会:2009年:126頁
【非特許文献5】J.Food Hyg.Soc. 1978;19(5):482−485
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スポーツドーピングのスクリーニングなどにおいては、検出すべき化合物或いはその代謝物に応じて、分析すべき尿等のサンプルの前処理条件及び分析条件が細かく設定されている(例えば非特許文献3の
図1参照)が、医師の診察を受けた者や臨床試験の被験者に処方される経口医薬に含まれる薬効成分は多種多様であり、尿等のサンプルの前処理条件や分析条件をそれぞれの薬効成分に応じて設定することは極めて複雑且つ煩雑であり、また故意ではない分析の誤りを誘起しやすい。このことが、上述した最も正確な服薬履行の確認方法の実施を妨げている要因の一つになっていると考えられる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上述した最も正確な服薬履行の確認方法を基礎として、服薬履行の確認が容易な経口医薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、食用色素が尿や血液に排泄されて検出可能であること(例えば、非特許文献4(食品衛生叢書シリーズ 食品中の化学物質と安全性,米谷民雄編,(社)日本食品衛生協会:2009年:126頁)、非特許文献5(J.Food Hyg.Soc. 1978;19(5):482−485)参照。)から出発して、薬理的に許容される化合物であって該化合物の服用者の分泌物、排泄物或いは体液に上記化合物或いはその代謝物が排出される化合物からなる群から選択された化合物をタグとして含ませた経口医薬に到達した。上記経口医薬を服用した可能性を有する者(以下、上記経口医薬を服用した可能性を有する者を「検査対象者」と表す。)の分泌物、排泄物或いは体液に含まれているタグ化合物或いはその代謝物の有無を検出することによって、服薬の有無が確実に確認される。また、タグ化合物或いはその代謝物を検出するための尿等のサンプルの前処理条件や分析条件の設定は、多種多様な薬効成分のそれぞれに応じた条件を決定することに比較すると、極めて迅速かつ簡便であり、例えば新しい薬効成分が開発されても、既に前処理条件や分析条件が設定されているタグ化合物と組み合わせることによって、新しい薬効成分の服薬履行を問題なく確認することができる。
【0009】
したがって、本発明は、薬効成分と、薬理的に許容される化合物であって該化合物の服用者の分泌物、排泄物或いは体液に上記化合物或いはその代謝物が排出される化合物からなる群から選択された少なくとも1種のタグ化合物とを含む経口医薬であって、上記1種以上のタグ化合物が、上記経口医薬の服用者の分泌物、排泄物或いは体液に含まれている上記1種以上のタグ化合物或いはその代謝物を検出することができる量で含まれていることを特徴とする経口医薬に関する。
【0010】
本発明の経口医薬は、医療用経口医薬や臨床試験の対象となっている経口医薬に限定されず、一般用経口医薬であっても良い。また、本発明において、「薬理的に許容される化合物」の語は、体内に導入しても実質的に無害である化合物を意味し、「タグ化合物」は、上述した食用色素に限定されず、薬理的に許容される化合物であり且つ服用者の分泌物、排泄物或いは体液にタグ化合物自体或いはその代謝物が排出されるものでありさえすれば良い。タグ化合物が、色を呈する分子構造を有する化合物、蛍光団を有する化合物、及びハプテンとなる構造を有する化合物からなる群から選択されていると、簡易な光照射検出装置の利用或いは高感度な抗原抗体反応の利用により簡便且つ迅速な検出が可能であるため好ましい。また、タグ化合物は1種であっても2種以上であっても良く、例えば、蛍光団を有する化合物とハプテンとなる構造を有する化合物との組み合わせであっても良い。タグ化合物が2種以上であって、検査対象者の分泌物、排泄物或いは体液におけるタグ化合物或いはその代謝物の検出の際に内部標準となるべきタグ化合物が含まれているのが好ましい。内部標準の利用により、検出精度を向上させることができる。内部標準となるべき化合物は2種以上であっても良い。
【0011】
本発明において、上記経口医薬におけるタグ化合物の存在形態には限定がなく、例えば薬効成分を含む錠剤の表面や内部にタグ化合物が適用されても良く、薬効成分を包含するカプセルにタグ化合物が適用されても良い。さらに、検査対象は、検査対象者の唾液等の分泌物、尿等の排泄物、及び、眼房水ともいわれる房水、皮下間質液、血液等の体液のいずれか1種以上であれば良い。比較的多量のサンプルを検査対象とする観点から、尿に排出されたタグ化合物或いはその代謝物を検出するのが好ましく、また、検査の簡便さの観点から、房水中或いは血管内を流れる血液中のタグ化合物或いはその代謝物を光によって検出する非侵襲的方法も好ましい。房水は血漿に由来するといわれており、房水の組成は血漿の組成と類似しているものの、房水に含まれる蛋白質の量が血漿における量と比較して顕著に少ないため、房水中のタグ化合物或いはその代謝物をタンパク質の影響を抑制して検出することができる。
【0012】
本発明では、上記1種以上のタグ化合物を異なる経口医薬を識別するために使用することができる。言い換えると、多種多様な経口医薬を上記1種以上のタグ化合物によって符号付けすることができる。例えば、10種類のタグ化合物の1種或いは2種以上の組み合わせによって経口医薬を標識すると、(2
10−1)種類の経口医薬を識別することができ、またタグ化合物の種類と共にタグ化合物の量比を併せて調整すれば、さらに多くの種類の経口医薬を識別することができる。この好ましい形態によって、服用された経口医薬を特定することができ、服薬履行の確認のみでなく、誤った経口医薬を服用していないか否か、複数の経口医薬を服用した場合に併用に問題がないか否か等の情報を同時に得ることができる。
【0013】
本発明では、例えば、特定の臨床試験の対象であることを標識することを目的として特定のタグ化合物が選択されても良く、経口医薬の製造承認の際に承認される経口医薬に適用されるべきタグ化合物が指定されても良い。また、上記経口医薬に含まれる薬効成分が同じであれば同じタグ化合物が適用されるのが簡便であるため、本発明の好ましい形態では、異なる薬効成分に対して異なる1種以上のタグ化合物を対応付けた対応表が予め設定されており、該対応表において上記経口医薬に含まれている薬効成分に対応付けられている1種以上のタグ化合物が選択されて適用されている。また、上記経口医薬に含まれる薬効成分が同じであっても、異なった用法及び/又は用量が複数存在する場合には、本発明の好ましい形態では、異なる用法及び/又は用量に対して異なる1種以上のタグ化合物を対応付けた対応表が予め設定されており、上記対応表において上記経口医薬に含まれている薬効成分の用法及び/又は用量に対応付けられている1種以上のタグ化合物が選択されて適用されている。さらに、薬理作用が同じである別の薬効成分を含む複数の経口医薬が処方される機会は比較的少ないため、本発明の好ましい形態では、異なる薬理作用に対して異なる1種以上のタグ化合物を対応付けた対応表が予め設定されており、上記対応表において上記経口医薬に含まれている薬効成分が示す薬理作用に対応付けられている1種以上のタグ化合物が選択されて適用されている。
【発明の効果】
【0014】
検査対象者の分泌物、排泄物或いは体液におけるタグ化合物或いはその代謝物を検出することにより、処方された経口医薬が適正に服用されたか否かを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】房水を検査対象として服薬の有無を確認する方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の経口医薬は、薬効成分と1種以上のタグ化合物とを必須成分として含む経口医薬である。該経口医薬に含まれる薬効成分の範囲には特に限定がなく、抗生物質、抗菌剤、制癌剤、鎮痛剤、解熱剤、抗消炎剤、抗アレルギー剤、免疫抑制剤、ホルモン剤、鎮静剤、抗うつ薬、認知症進行抑制剤、血圧降下剤、生薬などに分類される多種多様な薬効成分が挙げられる。タグ化合物は、薬理的に許容される化合物であり且つ服用者の分泌物、排泄物或いは体液にタグ化合物自体或いはその代謝物が排出される化合物でありさえすれば良いが、タグ化合物が、色を呈する分子構造を有する化合物、蛍光団を有する化合物、及びハプテンとなる構造を有する化合物からなる群から選択されていると、簡易な光照射検出装置の利用或いは高感度な抗原抗体反応の利用により簡便且つ迅速な検出が可能であるため好ましい。
【0017】
色を呈する分子構造を有する化合物としては、合成色素、例えば、食用タール色素(赤色2号(アマランス)、赤色3号(エリスロシン)、赤色102号(ニューコクシン)、赤色104号(フロキシン)、赤色105号(ローズベンガル、赤色106号(アシッドレッド)、黄色4号(タートラジン)、黄色5号(サンセットイエローFCF)、緑色3号(ファーストグリーンFCF)、青色1号(ブリリアントブルーFCF)、青色2号(インジコカルミン)等)、及び、天然色素、例えば、植物性色素(ウコン、アナトー、β−カロチン、リボフラビン、サフラン、ベニ、ベタシアニン、サンタリン等)、動物性色素(コチニール、ラッカイン酸、セビア等)、及び加工色素(カラメル、銅クロロフィリン等)が例示される。蛍光団を有する化合物としては、近赤外蛍光物質(ローダミン800、インドシアニングリーン等)が例示される。ハプテンとなる構造を有する化合物としては、糖鎖やペプチド(HAタグ、MYCタグ等)が例示される。
【0018】
1つの経口医薬に含まれるタグ化合物は1種であっても良く2種以上であっても良い。本発明では、上記1種以上のタグ化合物により経口医薬が標識され、検査対象者の分泌物、排泄物或いは体液に含まれている上記1種以上のタグ化合物或いはその代謝物の有無を検出することによって上記経口医薬の服用の有無が確認される。したがって、上記1種以上のタグ化合物は上記検出が可能な量で含まれている。上記検出が可能な量はタグ化合物の種類や検出方法等に依存して変化する。なお、これまでの経口医薬においても、服用することを忘れたり服用すべき医薬を間違えたりすることを防止する目的で、例えば錠剤の表面を色素で着色したり、色素をカプセルに配合して着色したりすることが行われているものの、このような着色のために使用されている色素は極めて少量である点で、本発明の経口医薬におけるタグ化合物としての色素の使用とは異なっている。
【0019】
本発明では、上記1種以上のタグ化合物が服用確認のために使用されるが、どの経口医薬にどのタグ化合物を適用するかという点に関しては特別な限定がない。例えば、特定の臨床試験の対象であることを標識することを目的として特定のタグ化合物が選択されても良く、経口医薬の製造承認の際に承認される経口医薬に適用されるべきタグ化合物が指定されても良い。本発明では、上記1種以上のタグ化合物を異なる経口医薬を識別するために使用することができる。言い換えると、多種多様な経口医薬をタグ化合物によって符号付けすることができる。この好ましい形態によって、服用された経口医薬を特定することができ、服薬履行の確認のみでなく、誤った経口医薬を服用していないか否か、或いは、複数の経口医薬を服用した場合に併用に問題がないか否か等の情報を同時に得ることができる。
【0020】
例えば、上記経口医薬に含まれる薬効成分が同じであれば、同じタグ化合物が適用されるのが簡便である。例えば、タグ化合物A〜Gの7種を用いた場合には、(2
7−1=127)通りの経口医薬の識別か可能であるが、以下の表1に示したように、薬効成分の種類ごとにタグ化合物A〜Gのうちの1つあるはその組み合わせを対応付けた対応表を予め設定しておき、上記経口医薬に含ませるべき薬効成分を決定した後、この対応表において決定された薬効成分に対応付けられた1種以上のタグ化合物を選択し、選択された1種以上のタグ化合物と上記薬効成分とを含む製剤を製造すれば良い。なお、タグ化合物A〜Gの7種は例示に過ぎず、本発明において使用されるタグ化合物が7種に限定されるものではない。
【表1】
【0021】
また、上記経口医薬に含まれる薬効成分が同じであっても、例えば服用すべき時間が異なっている、1回の服用当たりの薬効成分の量が異なっているなど、異なる用法及び/又は用量が複数存在する場合には、以下の表2にタグ化合物A〜Gの7種を用いた例を示したように、異なる用法及び/又は用量のそれぞれに対してタグ化合物A〜Gのうちの1つあるはその組み合わせを対応付けた対応表を予め設定しておき、上記経口医薬に含ませるべき薬効成分及びその用法及び/又は用量を決定した後、この対応表において決定された薬効成分の用法及び/又は用量に対応付けられた1種以上のタグ化合物を選択し、選択された1種以上のタグ化合物と上記薬効成分とを含む製剤を製造すれば良い。
【表2】
【0022】
さらに、薬理作用が同じである別の薬効成分を含む複数の経口医薬が処方される機会は比較的少ないため、以下の表3にタグ化合物A〜Gの7種を用いた例を示したように、薬理作用の種類ごとにタグ化合物A〜Gのうちの1つあるはその組み合わせを対応付けた対応表を予め設定しておき、上記経口医薬に含ませるべき薬効成分を決定した後、該対応表において決定された薬効成分が示す薬理作用に対応付けられた1種以上のタグ化合物を選択し、選択された1種以上のタグ化合物と上記薬効成分とを含む製剤を製造しても良い。
【表3】
【0023】
なお、表1〜3にはタグ化合物の種類の相違を用いて薬効成分、薬効成分の用法及び/又は用法、及び薬理作用と対応付けた対応表の例を示したが、それぞれのタグ化合物の量比を併せて調整すれば、さらに多くの種類の薬効成分、薬効成分の用法及び/又は用法、及び薬理作用と対応付けることができる。また、表1〜3の例において、別のタグ化合物Hを検査対象者の分泌物、排泄物或いは体液におけるタグ化合物或いはその代謝物の検出における内部標準として経口医薬に含ませておくと、内部標準の利用により検出精度が向上するため好ましい。なお、内部標準は2種以上のタグ化合物であっても良い。
【0024】
本発明の経口医薬は、錠剤、口腔内崩壊錠、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、トローチ剤、チュアブル錠などの固形製剤であっても良く、液剤、懸濁剤、ゼリー剤、軟カプセル剤であっても良い。また、本発明の経口医薬は、薬効成分及び1種以上のタグ化合物に加えて、経口医薬に通常含まれる他の添加物を含むことができる。このような添加物としては、水、グリセリン、乳糖、澱粉、デキストリン、ハチミツ、無水リン酸カルシウム等の賦形剤、澱粉、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム等の崩壊剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアゴム末、ゼラチン等の結合剤、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステルなどの潤沢剤、軽質無水ケイ酸、タルク、含水二酸化ケイ素等の流動化剤、白糖、果糖、ブドウ糖などの甘味剤、アスコルビン酸、酒石酸、リンゴ酸等の矯味剤、メントール、リモネン、ハッカ油等の香料、エチルセルロース、ヒプメロース、ヒプメロースフタル酸エステル等のコーティング剤の他、界面活性剤、可塑剤、安定化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0025】
本発明の経口医薬におけるタグ化合物の適用方法には特別な限定がない。例えば、薬効成分と必要に応じて選択された添加物とを含む糖衣錠の被覆部に1種以上のタグ化合物を配合しても良く、複数の層から成る層錠のいずれかの層にのみ1種以上のタグ化合物を配合しても良く、薬効成分と1種以上のタグ化合物と必要に応じて選択された添加物とを混合して錠剤、粉末剤、液剤等を形成しても良く、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のカプセル原料に必要に応じてグリセリン等の可塑剤を配合し、さらにタグ化合物を配合してカプセルを製造し、カプセル内に薬効成分と必要に応じて選択された添加物とを含む粉末剤や液剤を封入しても良い。また、製剤化において、タグ化合物がそのまま用いられても良く、タグ化合物のみがカプセル化された後に用いられても良く、タグ化合物がミツロウやステアリン酸等の被覆剤によりコーティングされた後に用いられても良い。
【0026】
本発明の経口医薬は、上記経口医薬を服用する可能性を有する者、すなわち検査対象者の分泌物、排泄物或いは体液に含まれている上記1種以上のタグ化合物或いはその代謝物の有無を検出することによって上記経口医薬の服用の有無を確認するために使用される。検査対象は、検査対象者の唾液等の分泌物、尿等の排泄物、及び房水、皮下間質液、血液等の体液のいずれか1種以上であれば良い。比較的多い量のサンプルを検査対象とする観点から、尿を検査対象とするのが好ましい。検査方法としては特別な限定がないが、タグ化合物が色を呈する分子構造を有する化合物或いは蛍光団を有する化合物であれば、上記サンプルに光を照射して上記タグ化合物或いはその代謝物に特有の光の吸収や発光を検出する簡便且つ迅速な検出が可能であり、タグ化合物がハプテンとなる構造を有する化合物である場合には、上記ハプテンに対応する抗体の使用により高感度で且つ簡便且つ迅速な検出が可能である。また、検査対象者の分泌物、排泄物、及び体液から採取したサンプルに必要に応じて濃縮等の前処理を施した後、薄層クロマトグラフィー(TLC)によりサンプル中に含まれているタグ化合物或いはその代謝物を検出する方法が比較的簡便である。この他、溶媒抽出や固相吸着等の前処理を行ったサンプルを、等電点電気泳動、液体クロマトグラフィー(LC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析(MS)、高分解能質量分析(HRMS)、及びこれらの分析手法の組み合わせ(LC/MS、GC/MS、LC−MS/MS、GC−MS/MSなど)によって検査する方法が挙げられる。
【0027】
タグ化合物が色を呈する分子構造を有する化合物或いは蛍光団を有する化合物であれば、眼球の前眼房或いは血管に向けて光を照射して反射光によって前眼房内を流れる房水或いは血管内を流れる血液中のタグ化合物或いはその代謝物を検出する非侵襲的な方法が好ましい。
図1に、房水を検査対象とする検査装置の概略を示す。例えばLEDのような光源を眼球の前眼房に向けて好ましくは反射光が網膜に届かない角度で照射し、反射光をレンズで集光して分光光度計に導くことにより、房水中のタグ化合物或いはその代謝物を検出することができる。虹彩の形態を読み取って個人を特定する個人認証システムが開発されているが、この個人認証システムと上述した非侵襲的な方法との併用により、処方された経口医薬の服用者の特定と適正に服用されたか否かの判定とを同時に行うことができる。また、タグ化合物が色を呈する分子構造を有する化合物或いは蛍光団を有する化合物であれば、手のひらや指等に光を照射して反射光や透過光によって血管内を流れる血液中のタグ化合物或いはその代謝物を検出する非侵襲的な方法も好ましい。同様に光を用いる技術として、手のひらや指等における静脈の形態により個人を特定する個人認証システムが開発されているが、この個人認証システムと上述した非侵襲的な方法との併用により、処方された経口医薬の服用者の特定と適正に服用されたか否かの判定とを同時に行うことができる。
【0028】
検査の結果、検査対象者の分泌物、排泄物或いは体液にタグ化合物或いはその代謝物が検出されなかった場合には、検査対象者に服薬を促すことができ或いは嚥下不良を疑うことができ、想定された量よりも多量のタグ化合物或いはその代謝物が検出された場合には、検査対象者に過剰服用の危険性を説明することができる。また、想定されたタグ化合物或いはその代謝物とは異なるタグ化合物或いはその代謝物が検出された場合には、処方された経口医薬との併用に問題があったか否かを検討することができる。さらに、服薬すべき経口医薬とは異なる経口医薬を服用した可能性を感じた者は、自ら検査を受けることにより、服用した経口医薬を特定することができ、服用した経口医薬が他の併用医薬との組み合わせなどの観点から危険なものであった場合には、その危険性に備えることができる。さらに、本発明の経口医薬を服用した者の尿がタグ化合物或いはその代謝物によって着色される場合には、検査するまでもなく、服薬すべき対象者或いは介護者に服薬を忘れたこと或いは服用すべき医薬を間違えたことを認知させることができる。
【0029】
また、上述した非侵襲的方法による服薬確認は、特別な検査機関において実施される必要がなく、小型の検査装置の使用により検査対象者の自宅や外出先においても簡便に実施することができるため、上記検査装置が通信回線を介して所定の管理装置に検査結果を送信して記憶させるシステムを構築しておくと、例えば本発明の経口医薬を処方した医師が上記管理装置に通信回線を介してアクセスすることにより適正な服薬履行等の情報を迅速に得ることができるため好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により、処方された経口医薬が適正に服用されたか否かを容易に判定することが可能な経口医薬が提供される。