(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-194627(P2019-194627A)
(43)【公開日】2019年11月7日
(54)【発明の名称】レーダ信号処理装置およびレーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/36 20060101AFI20191011BHJP
G01S 13/93 20060101ALI20191011BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20191011BHJP
【FI】
G01S13/36
G01S13/93 220
G08G1/16 C
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-143823(P2019-143823)
(22)【出願日】2019年8月5日
(62)【分割の表示】特願2015-1082(P2015-1082)の分割
【原出願日】2015年1月6日
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】時枝 幸伸
(72)【発明者】
【氏名】津田 和俊
【テーマコード(参考)】
5H181
5J070
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181AA22
5H181CC12
5H181CC14
5H181CC15
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL07
5J070AB17
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC11
5J070AE09
5J070AF03
5J070AH35
5J070AK03
(57)【要約】
【課題】 この発明は、車両に搭載されたレーダ装置の近レンジ内に位置する特定の目標を検知するレーダ信号処理装置と、そのレーダ信号処理装置が組み込まれたレーダ装置とに関し、低速で移動する対象物や静止していてわずかな動きのある対象物を、確実に検出できる。
【解決手段】 レーダ信号と送信波の送信信号とをミキシングしてビート信号を生成する手段と、ビート信号を高速フーリエ変換して周波数スペクトラムデータを得るとともに目標までの距離成分データを抽出する第1の信号処理部と、距離成分データのうち車両から所定の距離内における信号のみを距離成分データとして取り出す距離制限部と、距離成分データを所定期間分蓄積するバッファ部と、バッファ部に蓄積した距離成分データを高速フーリエ変換する第2の信号処理部と、近距離内におけるレーダ信号のドップラ成分の分布として近傍目標の存在を識別する目標識別手段と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両から放射された送信波が反射して前記車両に搭載されたレーダに到来したレーダ信号を処理し、前記車両と接触し得る近傍目標を検知するレーダ信号処理装置であって、
前記レーダ信号と前記送信波の送信信号とをミキシングしてビート信号を生成する手段と、
前記ビート信号を高速フーリエ変換する信号処理を行い、周波数スペクトラムデータを得るとともに、目標までの距離成分のデータを抽出する第1の信号処理部と、
前記距離成分のデータのうち前記車両から所定の距離内における信号のみを近距離に対応する距離成分データとして取り出す距離制限部と、
前記近距離に対応する距離成分データを所定期間分蓄積するバッファ部と、
前記バッファ部に蓄積した距離成分データに対して高速フーリエ変換する信号処理を行う第2の信号処理部と、
前記近距離内における前記レーダ信号のドップラ成分の分布として、前記近傍目標の存在を識別する目標識別手段と、
を備えたことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ信号処理装置であって、
前記所定の距離が、2mである、
ことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のレーダ信号処理装置であって、
前記所定期間が、1000〜3000msである、
ことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のレーダ信号処理装置であって、
前記レーダの所定の部位の温度と、前記レーダによって送信されたパルスの数と、前記レーダが始動した時点から経過した時間との全てまたは一部に基づくフィードバック制御またはフィードフォワード制御により、車載レーダによって送信される前記送信波の周波数のドリフトを補償する補償手段を備えた、
ことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項5】
車両に搭載されて前記車両の周辺に位置する近傍目標を検知するレーダ装置であって、
前記車両に搭載されるレーダと、
前記車両から放射された送信波が反射して前記レーダに到来したレーダ信号と前記送信波の送信信号とをミキシングしてビート信号を生成する手段と、
前記ビート信号を高速フーリエ変換する信号処理を行い、周波数スペクトラムデータを得るとともに、目標までの距離成分のデータを抽出する第1の信号処理部と、
前記距離成分のデータのうち前記車両から所定の距離内における信号のみを近距離に対応する距離成分データとして取り出す距離制限部と、
前記近距離に対応する距離成分データを所定期間分蓄積するバッファ部と、
前記バッファ部に蓄積した距離成分データに対して高速フーリエ変換する信号処理を行う第2の信号処理部と、
前記近距離内における前記レーダ信号のドップラ成分の分布として、前記近傍目標の存在を識別する目標識別手段と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に搭載されたレーダ装置の近レンジ内に位置する特定の目標を検知するレーダ信号処理装置と、そのレーダ信号処理装置が組み込まれたレーダ装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置には車両に搭載される車載レーダがある。車載レーダは車両の前部や後部のバンパ等に取り付けられて使用される。車載レーダは、送信した電波の反射波を受信し、この反射波を基にして、車両の前方、側方または後方に存在する車両や人物等の対象物を検出する(例えば、特許文献1参照。)。そして、車載レーダは対象物を検出すると警報を出力する。
【0003】
こうした従来の車載レーダを
図8に示す。この車載レーダは、送信部100と第1の受信部200と第2の受信部300と角度抽出部400とを備えている。つまり、車載レーダには受信系統が2チャンネル設けられている。
【0004】
車載レーダの送信部100は、対象物を検出するために電波を送信する部分であり、信号発生部101とアンテナ102とを備えている。
【0005】
信号発生部101は、周波数のスイープをした送信信号を発生する。この周波数スイープの様子を
図9に示す。
図9に示す周波数スイープは、第1の期間MFCW1と第2の期間MFCW2とから成っている。第1の期間MFCW1は、時間幅が約0.1sであり、この0.1sの時間幅でM
1スイープが行われる。さらに、M
1スイープは複数のN
1ステップから成っている。各N
1ステップでは、180MHzの幅で段階的に周波数が変更されていく。
【0006】
第1の期間MFCW1に続いて第2の期間MFCW2がある。第2の期間MFCW2は、時間幅が約0.1sであり、この0.1sの時間幅でM
2スイープが行われる。さらに、M
2スイープは複数のN
2ステップから成っている。各N
2ステップでは、180MHzの幅で周波数が区切られて、段階的に周波数が変更されていく。このとき、M
2スイープの各N
2ステップは、M
1スイープのN
1ステップと次の点で異なっている。つまり、N
2ステップでは、N
1ステップに比べて周波数が狭く区切られて、周波数が段階的に細かく変更されている。
【0007】
信号発生部101は、第1の期間MFCW1のM
1スイープと第2の期間MFCW2のM
2スイープとが交互に続く送信信号をアンテナ102に送る。アンテナ102は、周波数スイープが行われた送信信号を送信波として電波で空中に放射する。
【0008】
車載レーダの第1の受信部200は、対象物で反射された送信部100からの電波を、例えば車両の後部バンパの右側で受信する。このために、第1の受信部200は、受信回路210とADC(アナログ・デジタル変換)部220と、検出回路230と、切替え回路240と、速度補正回路250とを備えている。
【0009】
第1の受信部200の受信回路210は、対象物で反射された電波を受信する部分であり、アンテナ211とミキサ212とLPF(ローパスフィルタ)213とを備えている。アンテナ211は電波つまり反射波を受信すると受信信号を発生する。ミキサ212は、アンテナ211からの受信信号と、送信部100の信号発生部101が出力する送信信号の一部とを入力とする。ミキサ212は、送信信号と受信信号とを混合し、ビート信号を生成して出力する。ビート信号はアナログ信号でもあり、送信信号と受信信号との時間差に対応する距離成分(対象物までの距離)と、受信信号の周波数シフトに対応するドプラ成分(対象物の速度)とを含む。LPF213は、ミキサ212が出力するビート信号を入力とする。LPF213は、ビート信号から高周波の雑音成分を除去して出力する。
【0010】
第1の受信部200のADC回路220は、LPF213からの高周波成分が除かれたビート信号を入力とする。ADC回路220は、アナログのビート信号をデジタルのビート信号に変換して出力する。
【0011】
第1の受信部200の検出回路230は、ADC回路220からのビート信号を入力とする。検出回路230は、ビート信号に含まれる距離成分と、同じくビート信号に含まれる速度成分(ドプラ成分)とを抽出する。このために、検出回路230は、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)部231とバッファ232とFFT部233とターゲット検出部234とを備えている。
【0012】
FFT部231は、ADC回路220からのデジタルのビート信号を入力とする。FFT部231は、このビート信号を高速フーリエ変換する信号処理を行い、この信号処理でビート信号の周波数スペクトラムを得る。このとき、FFT部231は、第1の期間MFCW1(
図9)の各N
1ステップと第2の期間MFCW2(
図9)の各N
2ステップとに対応するビート信号の信号処理をしている。信号処理で得た周波数スペクトラムが対象物までの距離成分のデータを含んでいる。FFT部231は、対象物までの距離成分のデータを周波数スペクトラムのデータから抽出する。この距離成分のデータは周波数スペクトラムを表すデータつまりスペクトラムデータでもある。
【0013】
バッファ232は、FFT部231で抽出した距離成分のデータを一時的に蓄積する。このとき、バッファ232は、第1の期間MFCW1(
図9)の各N
1ステップと第2の期間MFCW2(
図9)の各N
2ステップとの2期間分に対応する距離成分のデータを蓄積する。また、バッファ232は、最初の第1の期間MFCW1の後に、同じようにして、第2の期間MFCW2の各N
2ステップと第1の期間MFCW1の各N
1ステップとの2期間に対応する距離成分のデータを蓄積する。つまり、バッファ232は、約0.2sの積分時間に発生する対象物の動きを含む距離成分のデータを蓄積していくことになる。
【0014】
FFT部233は、バッファ232が蓄積した距離成分の蓄積データについて、高速フーリエ変換による信号処理を行う。FFT部233は、蓄積データの信号処理で発生した周波数スペクトラムのデータからドプラ成分を調べる。そして、FFT部233は、ドプラ成分の分布から対象物の速度成分のデータを抽出する。このとき、FFT部233は、第1の期間MFCW1と第2の期間MFCW2との間の対象物の動き、つまり、約0.2s(
図9)の間の対象物の動きを基に対象物の速度成分のデータを抽出する。
【0015】
ターゲット検出部234は、FFT部233が抽出した速度成分のデータを基にターゲットを検出する。例えば、速度成分のデータが予め設定されたピーク以上になったときに、ターゲット検出部234は対象物を検出したと判定する。ターゲット検出部234は、対象物を検出すると、第1の期間MFCW1と第2の期間MFCW2とで検出した対象物の速度成分のデータを切替え回路240に出力する。
【0016】
第1の受信部200の切替え回路240は、ターゲット検出部234からの速度成分のデータを切り替えるためのものである。つまり、切替え回路240は、受信回路210における受信信号が第1の期間MFCW1か第2の期間MFCW2かに応じて、速度成分のデータの出力先を切り替える。
【0017】
第1の受信部200の速度補正回路250は、切替え回路240からの速度成分のデータを基に対象物の速度を補正する。このために、速度補正回路250はターゲット変調部251、252と速度補正回路253とを備えている。ターゲット変調部251は、受信回路210における受信信号が第1の期間MFCW1のときに、ターゲット検出部234からの速度成分のデータを入力とし、ターゲット変調部252は、受信回路210における受信信号が第2の期間MFCW2のときに、ターゲット検出部234からの速度成分のデータを入力とする。ターゲット変調部251は、第1の期間MFCW1における速度成分のデータを変調して出力し、ターゲット変調部252は第2の期間MFCW2における速度成分のデータを変調して出力する。速度補正回路253はターゲット変調部251とターゲット変調部252とからのデータにより対象物の速度を補正する。
【0018】
ここに、上述した第1の期間MFCW1および第2の期間MFCW2の長さは、スイープ時間(N
1ステップとN
2ステップ)の設定に依存し、計測可能な最大速度の上限を左右する。このような上限を超える速度は速度軸を巡回して計測される。例えば、第1の期間MFCW1の上限速度が30km/hであり、かつ第2の期間MFCW2の上限速度が40km/hである場合には、速度が70km/hの対象物については、第1の期間MFCW1では10km/h、第2の期間MFCW2では30km/hの計測結果がそれぞれ得られる。速度補正回路253は、これらの期間における速度の差を利用して正しい速度を得る。
【0019】
車載レーダの第2の受信部300は、対象物で反射された送信部100からの電波を、例えば車両の後部バンパの左側で受信するものであり、受信回路310とADC(アナログ・デジタル変換)回路320と、ターゲット検出回路330と、切替え回路340と、速度補正回路350とを備えている。受信回路310とADC回路320とターゲット検出回路330と切替え回路340と速度補正回路350とは、第1の受信部200の受信回路210とADC回路220と検出回路230と切替え回路240と速度補正回路250と同じであるので、これらの説明を省略する。ここに、上記第2の受信部300と既述の第1の受信部200は、対象物から反射されて到来した電波の到来方向の特定を可能とするため、互いに半波長程度隔たった位置に配置される。
【0020】
車載レーダの角度抽出部400は、速度補正回路250と速度補正回路350が出力した検出情報について、信号が有する位相の差から対応する信号の到来方向を特定する。このような到来方向、例えば、受信部200、300が半波長の隔たりで配置されている場合には、上記位相の差に基づいてレーダの正面から±90度の範囲で特定される。
【0021】
角度抽出部400は抽出結果である対象物の角度をターゲット情報として出力する。
【0022】
こうした車載レーダを用いた場合、対象物の検出は、第1の期間MFCW1と第2の期間MFCW2との間の対象物の動き、つまり、約0.2s(
図9)の時間幅での対象物の動きを基にして行われている。この結果、例えば駐車場においてバンパの極近傍で遊んでいる児童については、レーダとの距離が分解能より近いために検出できない場合がある。この場合には、車両の運転者が気付かずに事故に至る場合がある。
【0023】
上記検出ができない原因は、児童から到来した信号の成分が、レーダ信号処理の対象の内、一般に「距離がゼロである大きなレベルの成分」に含まれ、分離ができないためである。
【0024】
距離および速度を計測するレーダでは、上記児童から到来した信号の成分は、一般に、「距離がゼロであって速度がゼロである成分」に含まれるが、距離分解能を児童までの距離より小さくするか、速度分解能を児童が遊ぶ微小速度より小さくすることで、分離して検出可能となる。なお、距離分解能は周波数偏移幅で決まるが、実際には、電波法の制限によりあまり小さくできない。一方、速度分解能については、積分時間で決まるが、法的な制限がない。
【0025】
また、上記事故を防ぐために、次のような手法がある。つまり、車バンパの陰のように車両の極近傍を観測するために、車載レーダの帯域を広くし、距離分解能を小さくする。しかし、法の規定(電波法)があるので、使える周波数帯域には限界がある。このため、そのような近距離の監視には電波を用いたレーダでなく、音波を利用したソナーが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開2009−244136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
しかし、車両の極近傍の児童等を検出するためにソナーを用いると、次の課題がある。従来の車載レーダは電波を送信する装置であり、対象物で電波は反射波になって車載レーダに戻って来る。しかし、ソナーは音波を送信する装置であり、対象物が布などのような柔らかい物で包まれていると、反射波を発生しにくい。また、対象物が平面状のものであれば、反射波を発生し易いが、対象物の形状によっては、反射波を発生しにくい。このために、ソナーでは対象物の検出の精度が低下する場合がある。
【0028】
この発明の目的は、前記の課題を解決し、従来の装置では検出することが出来なかった、低速で移動する対象物や静止していてわずかな動きのある対象物を、確実に検出することを可能にするレーダ信号処理装置およびレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
請求項1の発明は、車両から放射された送信波が反射して前記車両に搭載されたレーダに到来したレーダ信号を処理し、前記車両と接触し得る近傍目標を検知するレーダ信号処理装置であって、前記レーダ信号と前記送信波の送信信号とをミキシングしてビート信号を生成する手段と、前記ビート信号を高速フーリエ変換する信号処理を行い、周波数スペクトラムデータを得るとともに、目標までの距離成分のデータを抽出する第1の信号処理部と、前記距離成分のデータのうち前記車両から所定の距離内における信号のみを近距離に対応する距離成分データとして取り出す距離制限部と、前記近距離に対応する距離成分データを所定期間分蓄積するバッファ部と、前記バッファ部に蓄積した距離成分データに対して高速フーリエ変換する信号処理を行う第2の信号処理部と、前記近距離内における前記レーダ信号のドップラ成分の分布として、前記近傍目標の存在を識別する目標識別手段と、を備えたことを特徴とするレーダ信号処理装置である。
【0030】
すなわち、車両と接触し得る近傍目標の検知が、近距離内におけるレーダ信号のドップラ成分の分布として近傍目標の存在を識別することによって、実現される。
【0031】
請求項2の発明は、請求項1に記載のレーダ信号処理装置において、前記所定の距離が、2mである、ことを特徴とする。
【0032】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のレーダ信号処理装置において、前記所定期間が、1000〜3000msである、ことを特徴とする。
【0033】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のレーダ信号処理装置において、前記レーダの所定の部位の温度と、前記レーダによって送信されたパルスの数と、前記レーダが始動した時点から経過した時間との全てまたは一部に基づくフィードバック制御またはフィードフォワード制御により、車載レーダによって送信される前記送信波の周波数のドリフトを補償する補償手段を備えた、ことを特徴とする。
【0034】
すなわち、既述のレーダ信号の周波数分析は、レーダ装置が始動後に定常的な稼働状態に推移する過程であっても、このような過程に送信波に付帯し得る周波数のドリフトによって妨げられることなく、精度よく安定に実現される。
【0035】
請求項5の発明は、車両に搭載されて前記車両の周辺に位置する近傍目標を検知するレーダ装置であって、前記車両に搭載されるレーダと、前記車両から放射された送信波が反射して前記レーダに到来したレーダ信号と前記送信波の送信信号とをミキシングしてビート信号を生成する手段と、前記ビート信号を高速フーリエ変換する信号処理を行い、周波数スペクトラムデータを得るとともに、目標までの距離成分のデータを抽出する第1の信号処理部と、前記距離成分のデータのうち前記車両から所定の距離内における信号のみを近距離に対応する距離成分データとして取り出す距離制限部と、前記近距離に対応する距離成分データを所定期間分蓄積するバッファ部と、前記バッファ部に蓄積した距離成分データに対して高速フーリエ変換する信号処理を行う第2の信号処理部と、前記近距離内における前記レーダ信号のドップラ成分の分布として、前記近傍目標の存在を識別する目標識別手段と、を備えたことを特徴とするレーダ装置である。
【0036】
すなわち、車両と接触し得る近傍目標の検知が、近距離内におけるレーダ信号のドップラ成分の分布として近傍目標の存在を識別することによって、実現される。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、レーダ信号の周波数分析が行われるべき期間の長さが従来より長く確保されることにより、近レンジ内に位置して微速で変位し得る目標の存在が、高い確度および精度で識別可能となる。
【0038】
また、本発明によれば、構成が複雑化することなく、安価に、所望の性能が向上し、かつ高く維持される。
【0039】
さらに、本発明によれば、上記特定の目標の存在は、確度高く、かつ精度よく識別可能となる。
【0040】
また、本発明によれば、上記特定の目標の存在は、安定に精度よく判別可能となる。
【0041】
したがって、本発明が適用された車両では、従来、発進や加速に際して発生する可能性があった事故の発生が確度高く回避され、安全性が大幅に高められる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】この発明の実施の形態1によるレーダ装置を示す構成図である。
【
図2】レーダ装置が送信する電波の周波数スイープを説明する図である。
【
図6】この発明の実施の形態2によるレーダ装置を示す構成図である。
【
図7】実施の形態2の切り替えによる構成を示す構成図である。
【
図9】車載レーダが送信する電波の周波数スイープを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に、この発明の各実施の形態について、図面を用いて詳しく説明する。
【0044】
(実施の形態1)
図1はこの発明の実施の形態1によるレーダ装置を示す構成図である。このレーダ装置は送信部10と受信部20とを備え、車両後部の近傍にある対象物を検出する。
【0045】
レーダ装置の送信部10は、対象物を検出するために電波を送信する部分であり、信号発生部11とアンテナ12とを備えている。
【0046】
信号発生部11は、周波数のスイープをした送信信号を発生する。実施の形態1による周波数スイープの様子を
図2に示す。
図2に示す周波数スイープは、第1の期間MFCW1から成っている。第1の期間MFCW1は、時間幅が約0.1sであり、この0.1sの時間幅でM
1スイープが行われる。さらに、M
1スイープは複数のN
1ステップから成っている。各N
1ステップでは、180MHzの幅で段階的に周波数が変更されている。この実施の形態では、信号発生部11は、第1の期間MFCW1のM
1スイープを行った送信信号をアンテナ12に送る。アンテナ12は
図8のアンテナ102と同じである。そして、アンテナ12は車両の後部に設置されている。
【0047】
レーダ装置の受信部20は、対象物で反射された送信部10からの電波を、例えば車両の後部側で受信して、対象物の有無を示すターゲット情報を出力するものである。このために受信部20は受信回路21とADC回路22と検出回路23とを備えている。
【0048】
受信部20の受信回路21は、対象物で反射された電波を受信する部分であり、アンテナ21Aとミキサ21BとLPF21Cとを備えている。アンテナ21Aは、車両の後部に設置されている。ミキサ21BとLPF21Cとは、
図8の受信回路210のミキサ212とLPF213と同じであり、これらの説明を省略する。
【0049】
受信部20のADC回路22は、
図8のADC回路220と同様に、LPF21Cからの高周波成分が除かれたビート信号を入力とする。ADC回路220は、アナログ信号であるビート信号をデジタルのビート信号に変換して出力する。
【0050】
受信部20の検出回路23は、ADC回路22からのビート信号に含まれる距離成分と、同じくビート信号に含まれる速度成分(ドップラ成分)とを抽出し、抽出結果を基に対象物を検出する部分である。このために、検出回路23は、FFT部23Aと距離制限部23Bとバッファ23CとFFT23Dとターゲット検出部23Eとを備えている。
【0051】
検出回路23のFFT部23Aは、ADC回路22からのデジタルのビート信号を入力とする。FFT部23Aは、このビート信号を高速フーリエ変換する信号処理を行い、この信号処理でビート信号の周波数スペクトラムを得る。このとき、FFT部23Aは、第1の期間MFCW1(
図2)の各N
1ステップの反射に対応するビート信号の信号処理をしている。こうしたFFT部23Aは、
図8のFFT部231と同様である。FFT部23Aは、対象物までの距離成分のデータを、ビート信号の信号処理で得た周波数スペクトラムのデータから抽出する。この距離成分のデータは周波数スペクトラムを表すデータつまりスペクトラムデータでもある。
【0052】
検出回路23の距離制限部23Bは、FFT部23Aによる信号処理で抽出した距離成分のデータを入力とする。距離制限部23Bは、入力された距離成分のデータの中でピークが予め設定された所定値以上のデータ、この実施の形態では2m以内の近距離に対応する距離成分のデータだけを通す。
【0053】
検出回路23のバッファ23Cは、距離制限部23Bからの近距離に対応する距離成分のデータを入力とする。バッファ23Cは、入力された距離成分のデータを一時的に蓄積する。つまり、バッファ23Cは、第1の期間MFCW1(
図2)の各N
1ステップに対応する距離成分のデータを蓄積する。このとき、バッファ23Cは、約0.1sの第1の期間MFCW1を、1000〜3000msの期間分蓄積する。この実施の形態では、バッファ23Cは約1.5s分の距離成分のデータつまりスペクトラムデータを蓄積する。この結果、バッファ23Cは、従来の約0.2sの積分時間に比べて長い約1.5sの積分時間に発生する対象物の動きを含む距離成分のデータを蓄積することになる。第1の期間MFCW1の後、つまり約0.1s後に、バッファ232は、同じようにして、次の第1の期間MFCW1の各N
1ステップに対応する一連の距離成分のデータを蓄積する。こうして、バッファ232は約1.5s分の積分時間で距離成分のデータを順次に蓄積データとして蓄積していく。
【0054】
検出回路23のFFT部23Dは、バッファ23Cが蓄積した蓄積データについて、高速フーリエ変換による信号処理を行う。FFT部233は、蓄積データの信号処理で発生した周波数スペクトラムのデータからドプラ成分を調べる。そして、FFT部233は、ドプラ成分の分布から対象物の速度成分のデータを抽出する。このとき、FFT部23Dは、従来用いられている0.2s(従来の所定期間)に比べて長い1.5s分に相当する第1の期間MFCW1での対象物の動きを基に、対象物の速度を抽出する。つまり、FFT部23Dは、約1.5sの積分時間におけるM
1スイープの各N
1ステップに含まれるドプラ成分の分布に基づいて、車両の後部側を低速で動く対象物の速度のデータを検出する。この結果、FFT部23Dにおける速度抽出については、通常時よりも速度分解能が高くなる。
【0055】
検出回路23のターゲット検出部23Eは、FFT部23Dが抽出した速度のデータを基に、例えば速度のレベルが所定以上になったかどうかにより対象物を検出する。そして、ターゲット検出部23Eは、検出した結果をターゲット情報として出力する。
【0056】
次に、この実施の形態によるレーダ装置の作用について説明する。このレーダ装置は、車両の後方に装着されて、後方確認に用いられる。送信部10は、周波数のスイープをした送信信号を電波として放射する。このとき、第1の期間MFCW1が約0.1sであり、この0.1sの期間がM
1個のスイープから成っている。さらに、各スイープでは、180MHzの幅で段階的に周波数が変更されている。そして、送信部10は、第1の期間MFCW1が連続する周波数スイープの電波を放射する。
【0057】
一方、レーダ装置の受信回路21は、車両後方の対象物で反射された、送信部10からの電波を受信する。受信回路21は受信した電波による受信信号と送信部10の送信信号とを混合して、ビート信号を生成する。さらに、受信回路21はビート信号から高周波成分を除去して出力する。
【0058】
ADC回路22は受信回路21からのアナログのビート信号を、デジタルのビート信号に変換して出力する。
【0059】
検出回路23は、ADC回路22からのビート信号に含まれる距離成分のデータと、同じくビート信号に含まれる速度成分のデータとを抽出し、抽出結果を基に対象物を検出する。このとき、検出回路23の距離制限部23Bにより、FFT部23Aからの距離成分のデータの中でピークが予め設定された所定値以上のデータ、つまり2m以内の近距離に対応する周波数成分のデータだけを通す。これにより、対象物の検出範囲を2m以内に限定している。
【0060】
この後、検出回路23のバッファ23Cにより、約0.1sの第1の期間MFCW1の各距離成分のデータを約1.5s分蓄積する。この結果、従来の約0.2sの積分時間に比べて長い約1.5sの積分時間に発生する対象物の動きを含む距離成分のデータがバッファ23Cに蓄積される。そして、検出回路23のFFT部23Dにより、バッファ23Cが蓄積した距離成分のデータについて、高速フーリエ変換による信号処理が行われ、この信号処理で発生した周波数スペクトラムから対象物の速度のデータが抽出される。このとき、従来の0.2sに比べて長い1.5s分の第1の期間MFCW1における対象物の動きを基に、対象物の速度のデータが抽出される。
【0061】
この様子を
図3〜
図5に示す。
図3は対象物として歩行者が居ない状態での検出の様子を表している。また、
図4は歩行者が静止している状態での検出の様子を表している。さらに、
図5は歩行者が手を動かしたときの検出の様子を示している。このように、歩行者が静止している場合(
図4の丸印)に比べて、FFT部23Dにより約0.07km/hとうわずかな動き(
図5の矢印)をも検出している。
【0062】
この後、検出回路23のターゲット検出部23Eにより、FFT部23Dが抽出した速度のデータを基にして対象物が検出される。そして、検出した結果がターゲット情報として出力される。この後、この検出結果が例えば運転席に設置されている警報装置を鳴動させて、車両の後方直近に子供等の対象物が居ることを運転者に通報する。
【0063】
この実施の形態によれば、電波の反射波を用い、かつバッファに蓄積するデータを多くするので、対象物を確実に検出することが出来る。また、この実施の形態によれば、車両から2mの範囲内で、1km/h以内の低速で歩行する歩行者等を検出することが可能である。また、静止していても腕等のわずかな動きのある子供等の人物を検出することが可能である。さらに、車両によって行われる計測の精度が規定の基準を満たさない程度に低い速度であっても、対象物を検出することが出来る。
【0064】
(実施の形態2)
図6はこの発明の実施の形態2によるレーダ装置を示す構成図である。なお、この実施の形態では、先に説明した実施の形態1および
図8の車載レーダと同一もしくは同一と見なされる構成要素には、それと同じ参照符号を付けて、その説明を省略する。
図6のレーダ装置は、車両の発進に応じて、車両後部の対象物を検出する。
【0065】
この実施の形態によるレーダ装置では、実施の形態1と同様の送信部10を備えている。また、レーダ装置は受信部20と受信部30とを備え、受信部20は実施の形態1と同様のアンテナ21A、ミキサ21BおよびLPF21Cと、ADC回路22と、FFT部23A〜ターゲット検出部23Eとを備えている。また、受信部20は、
図8と同様の切替え回路240と速度補正回路250とを備えている。一方、受信部30はアンテナ31A、ミキサ31BおよびLPF31Cと、ADC回路32と、FFT部33A〜ターゲット検出部33Eとを備えている。また、受信部30は、
図8と同様の切替え回路340と速度補正回路350とを備えている。そして、レーダ装置は
図8と同様の角度抽出部400を備えている。
【0066】
受信部20の切替回路25には、FFT部23Aと距離制限部23Bとバッファ23CとFFT部23Dとが接続されている。切替回路25は、車両のギア切り替えや速度を示す車両データを入力とする。車両データがバックに切り替えられたことを示すと、切替回路25は、FFT部23Aと距離制限部23Bとバッファ23CとFFT部23Dとの接続を切り替えて、
図7に示す接続状態つまり近傍の検知状態にする。この状態は
図1と同様であり、ターゲット検出部23Eがターゲット情報を出力する。また、車両データがドライブに切り替えられたことを示すと、切替回路25は、FFT部23Aと距離制限部23Bとバッファ23CとFFT部23Dとの接続を切り替えて、
図8に示す接続状態つまり通常の検知状態にする。
【0067】
受信部30の切替回路35は、受信部20と同じように、車両からの車両データを基にして、FFT部33Aと距離制限部33Bとバッファ33CとFFT部33Dとの接続を切り替える。近傍の検知状態は
図7と同様であるが、この実施の形態では、ターゲット検出部33Eはターゲット情報を出力しない。
【0068】
この実施の形態によれば、車両が前進しようとする場合には、
図8に示す従来の車載レーダと同様の機能を持ち、車両が後進しようとする場合には、車両の後方近傍で、低速で動く対象物を検出する機能を持つ。つまり、この実施の形態によれば、車両の発進に応じて、1つの装置で2つの機能を行うことが可能である。
【0069】
(実施の形態3)
この実施の形態では、実施の形態2の切替回路25、35を次のようにしている。なお、この実施の形態では、先に説明した実施の形態1および
図8の車載レーダと同一もしくは同一と見なされる構成要素には、それと同じ参照符号を付けて、その説明を省略する。
【0070】
この実施の形態によるレーダ装置の切替回路25、35には、速度の閾値が予め設定されている。そして、例えば車両データが示す速度が閾値を超えるまで、または、FFT部23D、33Dが抽出した相対速度が閾値を超えるまで、切替回路25、35は、FFT部23Aと距離制限部23Bとバッファ23CとFFT部23Dとの接続を切り替えて、
図1に示す接続状態つまり近傍の検知状態にする。
【0071】
この実施の形態によれば、車両の速度に応じて、
図8に示す車載レーダと同様の機能と、車両の後方近傍を低速で動く対象物を検出する機能とを切り替える。つまり、この実施の形態によれば、車両の速度に応じて、1つの装置で2つの機能を行うことを可能にする。
【0072】
(実施の形態4)
この実施の形態では、レーダ装置の送信部10における送信信号の周波数が変化するという温度ドリフトの補償を行う。つまり、送信部10は、各M
1スイープ毎に、または所定の頻度で、送信信号の送信・温度ドリフトの補正のシーケンスを交互に行う。そして、以下の何れかに基づくフィードバック制御またはフィードフォワード制御として、補正のシーケンスを実現する。
a.車載レーダの所定の部位の温度、
b.送信されたパルス数、
c.車載レーダが始動した時点から経過した時間
【0073】
こうして、この実施の形態によれば、各M
1スイープ毎に、または所定の頻度で、送信と補正とのシーケンスを交互に行うので、温度ドリフトのために周波数を補正するシーケンスが送信に与える影響を抑えることが出来る。
【0074】
以上、この発明の各実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、この発明によるレーダ装置は、車載用に限定されることなく、防止すべき事態、例えば盗難防止を含む資材管理などにも利用可能である。
【0075】
なお、上述した各実施形態では、送信信号の周波数をフィードバック制御方式により補正するためには、児童等の微少な速度の検知に必要な積分が妨げられない限度において送信信号の送信が間欠的に行われ、あるいは所定の周期の単位で間引かれることにより、その送信信号が監視されることが望ましい。
【0076】
例えば、このような積分が行われるべき期間が1000ms〜3000msと長い場合には、送信信号の周波数の監視は、その期間における積分が完了した後に、あるいは積分の結果に大きな誤差が生じない頻度および期間に行われてもよい。
【0077】
また、送信信号の周波数の監視は、上述したように、児童等の微少な速度の検知に必要な積分が妨げられない限り、どのようなきっかけで行われてもよい。
【0078】
さらに、このような場合には、上記監視の結果がメモリ等に時系列の順に(サイクリックに)蓄積され、かつ積分処理が移動平均法や指数平滑法に基づいて行われることにより、検知可能な物標の速度の最大値が低下するが、その最大値が検知されるべき物標の速度の範囲内にあるならば、送信信号の周波数が監視される頻度が無用に低下することが回避可能である。
【0079】
また、上述した各実施形態では、「高速フーリエ変換」は、所望の精度および応答性で周波数分析が実現されるならば、DFT(Discrete Fourier Transform)その他の多様な形態で行われるフーリエ変換で代替されてもよい。
【符号の説明】
【0080】
10 送信部
11 信号発生部
12 アンテナ
20 受信部
21 受信回路
22 ADC回路
23 検出回路
23A FFT部
23B 距離制限部
23C バッファ
23D FFT部
23E ターゲット検出部