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特開2019-194942電池組立体および非水電解液二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-194942(P2019-194942A)
(43)【公開日】2019年11月7日
(54)【発明の名称】電池組立体および非水電解液二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20191011BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20191011BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20191011BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20191011BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20191011BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20191011BHJP
【FI】
   H01M10/058
   H01M4/62 Z
   H01M10/0568
   H01M4/13
   H01M10/052
   H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-88128(P2018-88128)
(22)【出願日】2018年5月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】坂 秀之
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ16
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ09
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050DA09
5H050EA22
5H050GA18
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA09
(57)【要約】
【課題】NMPに由来する被膜が負極活物質の表面に形成された非水電解液二次電池を低コストで効率良く製造する技術を提供する。
【解決手段】ここで開示される電池組立体は、初期充電前の電池組立体である。かかる電池組立体では、正極が正極活物質とNMPとを含む正極合材層を有していると共に、非水電解液にオキサラト錯体化合物とFSO3Liとが含まれている。そして、ここで開示される電池組立体では、正極合材層中のNMP含有量が50ppm〜1500ppmであり、正極活物質のDBP吸油量が30ml/100g〜45ml/100gであり、非水電解液中のFSO3Li含有量が0.1wt%〜1.0wt%である。これによって、NMPに由来する被膜が正極活物質の表面に形成されることによる入出力特性の低下を抑制できるため、NMPの含有量の調整に伴う設備コストの増加と製造効率の低下を抑制することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とを有する電極体と、非水溶媒と支持塩とを含む非水電解液と、前記電極体と前記非水電解液とを収容するケースとを備える初期充電前の電池組立体であって、
前記正極が、粒状の正極活物質とN−メチル−2−ピロリドンとを含む正極合材層を有していると共に、
前記非水電解液に、オキサラト錯体化合物とフルオロスルホン酸リチウム(FSO3Li)とが含まれており、
前記正極合材層の単位質量当たりの前記N−メチル−2−ピロリドンの含有量が50ppm〜1500ppmであり、
前記正極活物質のDBP吸油量が30ml/100g〜45ml/100gであり、かつ、
前記非水電解液の総質量を100wt%としたときの前記フルオロスルホン酸リチウムの含有量が0.1wt%〜1.0wt%である、電池組立体。
【請求項2】
前記非水電解液の総質量を100wt%としたときの前記オキサラト錯体化合物の含有量が0.05wt%〜1.0wt%である、請求項1に記載の電池組立体。
【請求項3】
正極と負極とを有する電極体と、非水溶媒と支持塩とを含む非水電解液と、前記電極体と前記非水電解液とを収容するケースとを備える非水電解液二次電池を製造する方法であって、
粒状の正極活物質とN−メチル−2−ピロリドンとを含む正極合材層を有する前記正極を準備する工程;
オキサラト錯体化合物とフルオロスルホン酸リチウム(FSO3Li)とを含む前記非水電解液を準備する工程;
前記ケースに前記電極体と前記非水電解液とを収容して電池組立体を作製する工程;
前記電池組立体に初期充電を行うことによって非水電解液二次電池を製造する工程;
を包含し、
前記正極合材層の単位質量当たりの前記N−メチル−2−ピロリドンの含有量が50ppm〜1500ppmであり、
前記正極活物質のDBP吸油量が30ml/100g〜45ml/100gであり、かつ、
前記非水電解液の総質量を100wt%としたときの前記フルオロスルホン酸リチウムの含有量が0.1wt%〜1.0wt%である、非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記非水電解液の総質量を100wt%としたときの前記オキサラト錯体化合物の含有量が0.05wt%〜1.0wt%である、請求項3に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初期充電前の電池組立体と、当該電池組立体に初期充電を行うことによって非水電解液二次電池を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、近年、パソコンや携帯端末等のいわゆるポータブル電源や車両駆動用電源として好ましく用いられている。かかる非水電解液二次電池の中でも、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、電気自動車、ハイブリッド自動車等の車両に用いられる高出力電源(例えば、車両の駆動輪に連結されたモータを駆動させる電源)として特に重要性が高まっている。
【0003】
かかる非水電解液二次電池は、一般に、電極体と非水電解液とがケース内に収容された電池組立体を作製し、当該電池組立体に初期充電を行うことによって製造される。上記電極体は、箔状の正極集電体の表面に正極合材層が付与されたシート状の正極と、箔状の負極集電体の表面に負極合材層が付与されたシート状の負極とを備えている。
かかる非水電解液二次電池の製造では、初期充電の際に非水電解液(以下、単に「電解液」ともいう)の一部が分解され、負極活物質の表面にSEI膜(Solid Electrolyte Interface)と呼ばれる被膜が形成されることがある。かかるSEI膜が形成されると負極が安定化するため、その後の電解液の分解が抑制される。
しかしながら、上述した初期充電における電解液の分解は、不可逆反応であるため、電池容量が低下する原因となる。そこで、近年では、電解液の分解電位よりも低い電位で分解してSEI膜を形成する添加剤(以下、「被膜形成剤」という)を予め電解液に添加し、当該被膜形成剤に由来する被膜を形成する技術が提案されている。
【0004】
かかる被膜形成剤に由来する被膜を形成する技術の一例として特許文献1に記載の技術が挙げられる。この特許文献1に記載の技術では、被膜形成剤であるオキサラト錯体化合物が非水電解液に添加されていると共に、正極活物質層(正極合材層)にN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」ともいう)が添加されている。これによって、NMP由来の成分とオキサラト錯体化合物由来の成分とを含んだ被膜(SEI膜)を活物質(典型的には負極活物質)の表面に形成することができる。そして、このようなNMPとオキサラト錯体化合物に由来するSEI被膜を形成することによって、オキサラト錯体化合物のみから由来するSEI膜を形成した場合に比べて耐久性(例えば高温保持特性)に優れた電池を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−126908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の特許文献1のようなNMPを含む正極合材層を形成する手段の一つとして、正極合材層の前駆体(正極合材用ペースト)を調製する際の分散媒にNMPを使用するという手段が挙げられる。しかし、この手段において、正極合材層中のNMP含有量(残留NMP量)が多くなり過ぎると、正極活物質の表面に高抵抗の被膜が形成され、入出力特性が低下する虞がある。このため、従来の技術では、正極集電体の表面に塗布された正極合材用ペーストに対して加熱乾燥処理を行い、NMPの一部を除去することによって、正極合材層中の残留NMP量を調整している。
【0007】
しかしながら、上述した従来の技術において、正極合材層中の残留NMP量を入出力特性の低下が生じないような量に確実に調整するには、加熱乾燥処理を長時間実施する必要がある。このため、製造現場における加熱乾燥ラインの延長による設備コストの上昇や、処理時間の長期化による製造効率の低下などの問題が生じていた。
【0008】
本発明は、かかる問題に応じてなされたものであり、NMPに由来する成分を含む被膜が負極活物質の表面に形成された非水電解液二次電池を低コストで効率良く製造する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するべく、本発明の一態様として下記構成の電池組立体が提供される。
なお、上述したように、非水電解液二次電池は、電極体と非水電解液とをケース内に収容した構造体に初期充電(コンディショニング処理)を行うことによって製造される。本明細書における「電池組立体」は、かかる初期充電前の構造体を指すものである。
【0010】
ここで開示される電池組立体は、正極と負極とを有する電極体と、非水溶媒と支持塩とを含む非水電解液と、電極体と非水電解液とを収容するケースとを備えている。かかる電池組立体では、正極が、粒状の正極活物質とN−メチル−2−ピロリドンとを含む正極合材層を有していると共に、非水電解液に、オキサラト錯体化合物とフルオロスルホン酸リチウム(FSO3Li)とが含まれている。
そして、ここで開示される電池組立体では、正極合材層の単位質量当たりのN−メチル−2−ピロリドンの含有量が50ppm〜1500ppmであり、正極活物質のDBP吸油量が30ml/100g〜45ml/100gであり、かつ、非水電解液の総質量を100wt%としたときのフルオロスルホン酸リチウムの含有量が0.1wt%〜1.0wt%である。
なお、本明細書において「DBP吸油量」とは、試薬液体としてDBP(ジブチルフタレート)を使用し、JIS K6217−4(2008)に準拠して測定した値をいう。また、本明細書における「NMPの含有量」は、特に明示しない限り、初期充電前の電池組立体の正極合材層中に残留しているNMP量(残留NMP量)、すなわち、加熱乾燥処理などによって調整された後のNMP含有量を指すものとする。
【0011】
先ず、ここで開示される電池組立体では、非水電解液にFSO3Liが含まれている。かかるFSO3Liは、初期充電において分解され、当該FSO3Liに由来する成分が正極活物質の表面に吸着して被膜を形成するという機能を有している。
本発明者は、かかるFSO3Liの分解・吸着がNMPの分解よりも早く生じる点と、FSO3Liに由来する被膜がNMP由来の被膜よりも低抵抗である点とに着目した。すなわち、本発明者は、FSO3Liを含む非水電解液を用いることによって、高抵抗なNMP由来の被膜が正極活物質の表面に形成される前に、低抵抗なFSO3Li由来の被膜が正極活物質の表面に形成されるため、NMP由来の被膜が正極活物質の表面に形成されることによる出力特性の低下を抑制できると考えた。
【0012】
また、一般的には、正極活物質のDBP吸油量が高くなると、充放電における反応場が多くなるため、電池の入出力特性が向上すると考えられている。しかし、FSO3Li由来の被膜を正極活物質の表面に形成する場合に正極活物質のDBP吸油量が高過ぎると、充放電における反応場が多くなり過ぎて、FSO3Li由来の被膜が反応場を適切に覆う前に、高抵抗のNMP由来の被膜の形成が始まる虞がある。本発明者は、かかる点を考慮し、FSO3Li由来の被膜を適切に形成し、かつ、好適な入出力特性を得るためには、正極活物質のDBP吸油量を所定の範囲内に調整する必要があると考えた。
【0013】
ここで開示される電池組立体では、上記の知見に基づいて本発明者が種々の実験を行うことによってなされたものであり、正極活物質のDBP吸油量が30ml/100g〜45ml/100gに調整されていると共に、非水電解液中のFSO3Liの含有量が0.1wt%〜1.0wt%に調整されている。これによって、低抵抗なFSO3Li由来の被膜を正極活物質の表面に優先的に形成し、高抵抗なNMP由来の被膜が正極活物質の表面に多量に形成されることを好適に抑制することができる。
このため、ここで開示される電池組立体によれば、正極合材層中の残留NMP量が増加したとしても、NMP由来の被膜の形成による入出力特性の低下を抑制することができる(換言すれば、残留NMP量の許容量を従来よりも多くすることができる)。具体的には、ここで開示される電池組立体によれば、残留NMPの許容量を1500ppmまで増加させることができる。この結果、NMPの除去に要する加熱乾燥処理を短縮することができるため、非水電解液二次電池の製造における設備コストの低減や製造効率の向上に大きく貢献することができる。
なお、ここで開示される電池組立体では、電池の耐久性を向上させるという当初の目的から、正極合材層に一定以上のNMPが含まれている必要がある。かかる耐久性の向上を実現するためには、正極合材層中のNMPの含有量が50ppm以上であることが求められる。
【0014】
また、ここで開示される電池組立体の好ましい一態様では、非水電解液の総質量を100wt%としたときのオキサラト錯体化合物の含有量が0.05wt%〜1.0wt%である。
これによって、電池組立体に初期充電を行った際に、活物質(典型的には、負極活物質)の表面に好適にSEI膜を形成することができるため、電解液の分解による電池容量の低下を好適に抑制することができる。
【0015】
また、本発明の他の一態様として、以下の構成の非水電解液二次電池の製造方法が提供される。
【0016】
ここで開示される非水電解液二次電池の製造方法は、正極と負極とを有する電極体と、非水溶媒と支持塩とを含む非水電解液と、電極体と非水電解液とを収容するケースとを備える非水電解液二次電池を製造する方法である。
かかる製造方法は、粒状の正極活物質とN−メチル−2−ピロリドンとを含む正極合材層を有する正極を準備する工程;オキサラト錯体化合物とフルオロスルホン酸リチウム(FSO3Li)とを含む非水電解液を準備する工程;ケースに電極体と非水電解液とを収容して電池組立体を作製する工程;電池組立体に初期充電を行うことによって非水電解液二次電池を製造する工程;を包含する。
そして、ここで開示される製造方法では、正極合材層の単位質量当たりのN−メチル−2−ピロリドンの含有量が50ppm〜1500ppmであり、正極活物質のDBP吸油量が30ml/100g〜45ml/100gであり、かつ、非水電解液の総質量を100wt%としたときのフルオロスルホン酸リチウムの含有量が0.1wt%〜1.0wt%である。
【0017】
ここで開示される製造方法は、上記態様の電池組立体に初期充電を行うことによって非水電解液二次電池を製造する。上述したように、上記態様の電池組立体は、非水電解液にFSO3Liが含まれており、非水電解液中のFSO3Liの含有量と正極活物質のDBP吸油量とが所定の範囲に定められている。このため、かかる電池組立体に初期充電を行うことによって、低抵抗のFSO3Li由来の被膜を正極活物質の表面に優先的に形成し、高抵抗のNMP由来の被膜が正極活物質の表面に形成されることを抑制できる。これによって、NMP由来の被膜の形成による入出力特性の低下を抑制できるため、正極合材層中の残留NMP量の許容量を従来よりも多くすることができる。従って、ここで開示される製造方法によれば、NMP含有量の調整のための加熱乾燥処理に要する時間を短縮することができ、非水電解液二次電池の製造における設備コストの低減や製造効率の向上に大きく貢献することができる。
【0018】
また、ここで開示される非水電解液二次電池の製造方法の好ましい一態様では、非水電解液の総質量を100wt%としたときのオキサラト錯体化合物の含有量が0.05wt%〜1.0wt%である。
これによって、活物質(典型的には、負極活物質)の表面に好適にSEI膜を形成することができるため、非水電解液の分解による電池容量の低下を好適に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る電池組立体を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態における電極体を模式的に示す斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の正負極を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を説明する。以下の説明に用いる図面では、同じ作用を奏する部材・部位に同じ符号を付している。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、ケースや電極端子の構造等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
なお、本明細書において数値範囲を「A〜B」と示す場合、「A以上B以下」を意味するものとする。
【0021】
1.電池組立体
以下、本発明の一実施形態として、初期充電(コンディショニング処理)を行う前のリチウムイオン二次電池、すなわち、リチウムイオン二次電池の電池組立体について説明する。図1は本実施形態に係る電池組立体を模式的に示す斜視図であり、図2は本実施形態における電極体を模式的に示す斜視図である。
【0022】
(1)ケース
図1に示すように、本実施形態に係る電池組立体1は、扁平な角形のケース50を備えている。このケース50は、上面が開放された扁平なケース本体52と、当該上面の開口部を塞ぐ蓋体54とから構成されている。また、ケース50の上面をなす蓋体54には、正極端子70と負極端子72と注液口56とが設けられている。
【0023】
(2)電極体
本実施形態に係る電池組立体1では、上述したケース50の内部に、図2に示す電極体80が収容されている。この電極体80は、正極10と負極20とセパレータ40とを備えており、セパレータ40を介して正極10と負極20とが対向している。具体的には、電極体80は、セパレータ40を介して正極10と負極20とを積層させ、当該積層体を捲回することによって形成された捲回電極体である。
以下、本実施形態における電極体80を構成する各部材について具体的に説明する。
【0024】
(a)正極
図2に示すように、正極10は、正極集電体12の表面(典型的には、両面)に正極合材層14を付与することによって形成される。また、正極10の一方の側縁部には、正極合材層14が付与されていない集電体露出部16が形成されている。そして、電極体80の一方の側縁部には、集電体露出部16が捲回された正極接続部80aが形成されており、この正極接続部80aに正極端子70(図1参照)が接続される。なお、正極集電体12には、アルミニウム箔などが用いられる。
【0025】
(a−1)正極活物質
上記正極合材層14には、粒状の正極活物質が含まれている。この正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出し得るリチウム複合酸化物によって構成されている。かかる正極活物質には、例えば、一種以上の遷移金属元素を含むリチウム複合酸化物(リチウム遷移金属複合酸化物)が用いられる。このリチウム遷移金属複合酸化物としては、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物などが挙げられ、典型的には、層状岩塩型構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が用いられる。なお、ここで開示される電池組立体において正極活物質に使用され得るリチウム複合酸化物の種類は、特に限定されないため、詳細な説明は省略する。
【0026】
そして、本実施形態に係る電池組立体1では、上述した正極活物質のDBP吸油量が30ml/100g〜45ml/100g(好ましくは、32.5ml/100g〜42.5ml/100g、例えば、40ml/100g程度)の範囲内に調整されている。詳しくは後述するが、正極活物質のDBP吸油量を30ml/100g以上とすることによって、充放電における反応場を十分に確保することができるため、入出力特性を好適に向上させることができる。一方で、正極活物質の吸油量が45ml/100gを超えると、正極活物質の表面にNMPに由来する被膜が形成されて入出力特性が低下する可能性が高くなる。このようなDBP吸油量を有する正極活物質は、例えば、内部空洞を有した中空のリチウム複合酸化物を用いることによって得ることができる。
【0027】
(a−2)N−2−メチル−ピロリドン
さらに、本実施形態に係る電池組立体1では、正極合材層14にN−2−メチル−ピロリドン(NMP)が含まれている。そして、本実施形態に係る電池組立体1では、正極合材層14の単位質量当たりのNMP含有量が所定の範囲内に調整されている。具体的には後述するが、本実施形態によれば、NMP由来の被膜が正極活物質の表面に形成されることを抑制できるため、残留NMPの許容量を1500ppmまで拡大することができる。一方で、NMPに由来する成分を含むSEI膜を負極活物質の表面に形成して電池の耐久性を向上させるという観点から、正極合材層中のNMPの含有量は50ppm以上にする必要がある。このため、本実施形態に係る電池組立体1では、正極合材層14の単位質量当たりのNMP含有量が50ppm〜1500ppm(好ましくは500ppm〜1000ppm、例えば750ppm)に調整される。
【0028】
(a−3)その他の添加物
なお、正極合材層14には、上述した正極活物質以外の添加物が含まれていてもよい。かかる添加物としては、導電材やバインダ等が挙げられる。導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやグラファイト等の炭素材料を好適に使用し得る。また、バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等を使用し得る。
【0029】
(b)負極
図2に示すように、負極20は、負極集電体22の表面(例えば、両面)に負極合材層24を付与することによって形成される。負極20の一方の側縁部には、負極合材層24が付与されていない集電体露出部26が形成されている。そして、この集電体露出部26が捲回された負極接続部80bが電極体80の一方の側縁部に形成され、当該負極接続部80bに負極端子72(図1参照)が接続される。なお、負極集電体22には、銅箔などが用いられる。
【0030】
(b−1)負極活物質
また、負極合材層24には、粒状の負極活物質が含まれている。この負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出し得る炭素材料によって構成されている。かかる負極活物質に用いられる炭素材料には、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく用いることができる。かかる炭素材料としては、例えば、グラファイトカーボン(黒鉛)、アモルファスカーボン、非晶質コート黒鉛等が用いられる。なお、ここで開示される電池組立体において負極活物質に使用され得る炭素材料の種類は、特に限定されないため、詳細な説明は省略する。
【0031】
(b−2)その他の添加物
また、負極合材層24には、負極活物質以外の添加物が含まれていてもよい。かかる添加物としては、例えば、バインダや増粘剤などが挙げられる。バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)などを使用することができ、増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)などを使用することができる。
【0032】
(c)セパレータ
セパレータ40は、正極10と負極20との間に配置されている。このセパレータ40は、電荷担体(リチウムイオン)を通過させる微細な孔(細孔径:0.01μm〜6μm程度)が複数形成された多孔質の絶縁シートである。セパレータ40には、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、ポリアミド等の絶縁性樹脂を用いることができる。なお、セパレータ40は、上述の樹脂を二層以上積層させた積層シートであってもよい。また、セパレータ40の厚みは、例えば5μm〜40μm、典型的には10μm〜30μm、好ましくは15μm〜25μmである。また、セパレータ40の表面には、アルミナ(Al)等の金属酸化物を含む耐熱層(HRL層:Heat Resistance Layer)が形成されていてもよい。
【0033】
(3)非水電解液
図示は省略するが、本実施形態に係る電池組立体1では、ケース50(図1参照)の内部に、有機溶媒(非水溶媒)に支持塩と被膜形成剤とを含有させた非水電解液が収容されている。以下、本実施形態における非水電解液の組成について説明する。
【0034】
(a)非水溶媒
非水溶媒としては、例えば、一般的なリチウムイオン二次電池の非水電解液に用いられる各種の有機溶媒(例えば、飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル、エーテル系化合物、スルホン系化合物など)を特に限定なく用いることができる。また、これらの有機溶媒を単独で又は2種以上組み合わせて用いることもできる。
なお、かかる非水溶媒のうち、飽和環状カーボネートの具体例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどが挙げられる。また、鎖状カーボネートの具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネートなどが挙げられる。鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸−n−ブチルなどが挙げられる。また、環状カルボン酸エステルとしては、ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン、ガンマカプロラクトン、イプシロンカプロラクトン等が挙げられる。エーテル系化合物としては、ジエチルエーテル、ジ(2−フルオロエチル)エーテル、ジ(2,2−ジフルオロエチル)エーテルなどが挙げられる。また、スルホン系化合物としては、2−メチルスルホラン、3−メチルスルホラン、2−フルオロスルホラン、3−フルオロスルホランなどが挙げられる。
【0035】
(b)支持塩
支持塩は、主たる電解質として用いられ、例えば、LiPF、LiBF、LiClO等のリチウム塩が好適に用いられる。かかる支持塩の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に限定されない。例えば、支持塩としてLiPFを用いる場合、LiPFのモル含有量は、0.5mol/L〜3.0mol/L(好ましくは0.5mol/L〜1.5mol/L、例えば1mol/L)に調整される。このように非水電解液中のLiPFの含有量を調整することによって、非水電解液中の総イオン含有量と電解液の粘性を適度なバランスにすることができるため、イオン伝導度を過度に低下させることなく、入出力特性を向上させることができる。
【0036】
(c)被膜形成剤
また、上記したように、本実施形態に係る電池組立体1では、非水電解液に被膜形成剤が含まれている。具体的には、本実施形態における非水電解液には、被膜形成剤として、オキサラト錯体化合物と、フルオロスルホン酸リチウムとが含まれている。
【0037】
(c−1)オキサラト錯体化合物
本実施形態における非水電解液には、オキサラト錯体化合物が含まれている。かかるオキサラト錯体化合物としては、例えば、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)が挙げられる。かかるオキサラト錯体化合物が非水電解液に含まれていることによって、電池組立体1に初期充電を行った際に、負極活物質28の表面に、オキサラト錯体化合物に由来する成分を含む負極SEI膜29(図3参照)を形成し、非水電解液の分解による容量低下を抑制することができる。
なお、非水電解液の総質量を100wt%としたときのオキサラト錯体化合物の含有量は、0.05wt%〜1.0wt%の範囲内に調整されると好ましく、0.1wt%〜0.75wt%の範囲内に調整されるとより好ましく、例えば0.5wt%に調整される。これによって、電池組立体に初期充電を行った際に、負極活物質28の表面に好適に負極SEI膜29を形成することができるため、非水電解液の分解による電池容量の低下を好適に抑制することができる。
【0038】
(c−2)フルオロスルホン酸リチウム
また、上記したように、本実施形態に係る電池組立体1では、非水電解液にフルオロスルホン酸リチウム(FSOLi)が含まれている。かかるFSO3Liは、正極活物質の表面に吸着して抵抗の増加を抑制するという機能を有していると共に、初期充電を行った際の分解・吸着の速度がNMPの分解よりも早いという特性を有している。このため、本実施形態のように、FSO3Liが非水電解液に含まれていることによって、高抵抗であるNMP由来の被膜が正極活物質の表面に形成される前に、低抵抗であるFSO3Li由来の被膜を正極活物質の表面に優先的に形成し、NMP由来の被膜の形成による入出力特性の低下を好適に抑制できる。
【0039】
そして、本実施形態では、非水電解液の総質量を100wt%としたときのFSO3Liの含有量が0.1wt%以上(好ましくは0.5wt%以上)に定められている。これによって、FSO3Li由来の被膜を正極活物質の適切に形成し、NMP由来の被膜の形成による入出力特性の低下を好適に抑制できる。
一方、非水電解液中のFSO3Liの含有量が多くなり過ぎると、正極活物質の表面に形成されるFSO3Li由来の被膜が厚くなり過ぎて入出力特性低下の原因になり得る恐れがある。かかる点を考慮し、本実施形態では、非水電解液中のFSO3Liの含有量が1.0wt%以下(好ましくは0.75wt%以下)に調整されている。
【0040】
2.リチウムイオン二次電池の製造方法
次に、本発明の他の実施形態としてリチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
【0041】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法は、上述した実施形態に係る電池組立体1に初期充電を実施してリチウムイオン二次電池を製造する。具体的には、本実施形態に係る製造方法は、正極を準備する工程と、非水電解液を準備する工程と、電池組立体を作製する工程と、電池組立体に初期充電を行う工程とを包含する。以下、各工程について説明する。
【0042】
(1)正極準備工程
正極準備工程では、粒状の正極活物質とNMPとを含む正極合材層を有する正極を準備する。具体的には、本工程では、先ず、DBP吸油量が30ml/100g〜45ml/100gの正極活物質を準備する。そして、かかる正極活物質と添加物(導電剤やバインダなど)とを混合し、当該混合物と分散媒とを混練することによって正極合材ペーストを調製する。そして、かかる正極合材ペーストを正極集電体の表面に塗布した後、当該正極合材ペーストに加熱乾燥処理と圧延プレスを行うことによって、正極集電体の表面に正極合材層が付与された正極が形成される。
本実施形態に係る製造方法では、本工程において、50ppm〜1500ppmのNMPが正極合材層に含まれた正極を作製する。かかる正極合材層を形成する手段の一つとして、正極合材ペーストを調製する際の分散媒としてNMPを使用し、加熱乾燥処理の条件(温度や時間)を調整するという手段が挙げられる。
【0043】
なお、ここでは詳しい説明を省略するが、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法は、一般的なリチウムイオン二次電池の製造方法と同様に、負極集電体の表面に負極合材層が付与されたシート状の負極を準備する工程と、正極と負極とセパレータとを有する電極体を作成する工程とを包含する。これらの工程は、従来のリチウムイオン二次電池の製造方法において実施されている手順を特に限定せずに実施することができるため、詳細な説明は省略する。
【0044】
(2)非水電解液準備工程
本工程では、オキサラト錯体化合物とFSO3Liとを含む非水電解液を準備する。典型的には、上述した非水溶媒に、支持塩と、被膜形成剤(オキサラト錯体化合物およびFSO3Li)とを溶解させることによって非水電解液が調製される。このとき、本実施形態に係る製造方法では、非水電解液の総質量(100wt%)に対して、オキサラト錯体化合物の含有量が0.05wt%〜1.0wt%となり、FSO3Liの含有量が0.1wt%〜1.0wt%となるように各材料の添加量を調整する。
【0045】
(3)電池組立体作製工程
本工程では、電極体と非水電解液とをケースの内部に収容して電池組立体を作製する。具体的には、先ず、図1に示すようなケース本体52の内部に電極体80(図2参照)を収容する。そして、蓋体54に設けられた正極端子70と、電極体80の正極接続部80a(図2参照)とを電気的に接続すると共に、負極端子72と負極接続部80bとを電気的に接続する。次に、ケース本体52上面の開口部を蓋体54で塞ぎ、当該ケース本体52と蓋体54とを溶接することによってケース50を作製する。そして、蓋体54に設けられた注液口56から非水電解液をケース50内部に充填した後、注液口56を封止する。これによって、電極体80と非水電解液とがケース50の内部に収容された電池組立体1が作製される。
【0046】
(4)初期充電工程
本実施形態に係る製造方法では、次に、作製された電池組立体1に対して初期充電(コンディショニング)を行うことによって非水電解液二次電池を製造する。かかる初期充電の条件は、特に限定はされないが、常温環境(例えば25℃)において、正極端子70と負極端子72との端子間電圧が2.5V〜4.2V(好適には3.0V〜4.1V)になるまで0.1C〜10C程度の定電流で充電した後、SOC(State of Charge)が60%〜100%程度(典型的には80%〜100%程度)となるまで定電圧で充電する定電流定電圧充電(CC−CV充電)を行うことによって実施できる。
【0047】
かかる初期充電によって構築されるリチウムイオン二次電池の正負極の状態を説明する模式図を図3に示す。
図3に示すように、本実施形態における電極体80では、セパレータ40を介して正極10と負極20とが対向している。上述した実施形態でも説明したように、正極10は、箔状の正極集電体12と、粒状の正極活物質18を含む正極合材層14とを備えている。また、負極20は、箔状の負極集電体22と、粒状の負極活物質28を含む負極合材層24とを備えている。
【0048】
そして、本実施形態では、電池組立体に対して初期充電を行った際に、負極活物質28の表面に被膜(負極SEI膜29)が形成されると共に、正極活物質18の表面に被膜(正極SEI膜19)が形成される。
具体的には、本実施形態では、非水電解液にオキサラト錯体化合物(例えば、LiBOB)とNMPが含まれているため、電池組立体に初期充電を行うと、オキサラト錯体化合物とNMPとが分解され、オキサラト錯体化合物に由来する成分と、NMPに由来する成分とを含む負極SEI膜29が負極活物質28の表面に形成される。このようにしてオキサラト錯体化合物に由来する成分とNMPに由来する成分とを含む負極SEI膜29を形成することによって、電池の耐久性(例えば高温保持性能)を向上させることができる。
さらに、本実施形態では、非水電解液にFSO3Liが含まれている。かかるFSO3Liは初期充電が行われた際に上記NMPよりも先に分解するため、当該FSO3Liに由来する成分がNMPに由来する成分よりも先に正極活物質18の表面に吸着する。このため、本実施形態では、FSO3Liに由来する被膜(正極SEI膜19)が正極活物質18の表面に優先的に形成され、NMPに由来する被膜が正極活物質18の表面に形成されることを抑制できる。そして、かかるFSO3Li由来の正極SEI膜19は、NMPに由来する被膜に比べて低抵抗であるため、NMPを含む正極合材層14を使用することによる入出力特性の低下を好適に抑制することができる。
【0049】
そして、本実施形態では、上記FSO3Liに由来する正極SEI膜19が正極活物質18の表面に適切に形成されるように、正極活物質18のDBP吸油量が所定の範囲内に調整されている。一般的には、正極活物質のDBP吸油量が高くなると、充放電における反応場が多くなり、入出力特性が向上するため好ましいとされている。しかし、本実施形態のように、FSO3Liに由来する正極SEI膜を形成する場合に正極活物質のDBP吸油量が高くなり過ぎると、FSO3Liに由来する被膜が全ての反応場を覆うように形成されるまでに一定の時間を要するようになり、NMPに由来する被膜が正極活物質18の表面に形成される虞がある。このため、本実施形態においては、正極活物質18のDBP吸油量が30ml/100g〜45ml/100gの範囲内に調整されている。
【0050】
以上のように、本実施形態では、FSO3Liに由来する被膜を正極活物質の表面に優先的に形成することができるため、耐久性向上のためにNMPを含む正極を用いているにも関わらず、当該NMPに由来する被膜が正極活物質の表面に形成されることを抑制できる。このため、本実施形態によれば、正極合材層中に1500ppm程度の残留NMP量が含まれている場合でも、入出力特性の低下を好適に抑制することができる(換言すると、残留NMP量の許容量を1500ppmまで拡大することができる)。この結果、NMPの除去のための加熱乾燥処理を短縮することができるため、非水電解液二次電池の製造における設備コストの低減や製造効率の向上に貢献することができる。なお、電池の耐久性を向上させるという観点からは、正極合材層に所定量のNMPが含まれていることが求められるため、本実施形態では、正極合材層中のNMPの含有量が50ppm以上に設定されている。
【0051】
3.その他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明した。しかし、本発明は、上述の実施形態に限定されず、必要に応じて適宜変更することができる。
【0052】
例えば、上述の実施形態では、NMPを含む正極合材層を形成する手段として、分散媒としてNMPを使用し、加熱乾燥処理によって残留NMP量を調整するという手段を例示したが、本発明の正極準備工程は、かかる手段に限定されない。例えば、NMPが含まれていない正極合材層を予め形成し、スプレー噴霧などの手段によって正極合材層にNMPを添加してもよい。本発明によれば、正極合材層の残留NMP量の許容量を増加させることができるため、スプレー噴霧などにおいて多量のNMPが添加されたとしても、NMP由来の被膜が形成されることによる入出力特性の低下を防止できる。このため、入出力特性が大きく低下した電池が製造されて廃棄されることによる製造効率の低下を好適に抑制できる。
【0053】
また、上述の実施形態では、電極体の一例として、セパレータを介して正極と負極とが捲回された捲回電極体が挙げられている。しかし、ここで開示される電池組立体に用いられる電極体は、正極と負極とを備えていればよく、上述のような捲回電極体に限定されない。かかる電極体の他の例としては、セパレータを介して正極と負極とを複数枚積層させた積層電極体などが挙げられる。
【0054】
[試験例]
以下、本発明に関する試験例を説明するが、試験例の説明は本発明を限定することを意図したものではない。
【0055】
1.サンプル1〜21
本試験例では、正極活物質のDBP吸油量(ml/100g)と、正極合材層中の残留NMP量(ppm)と、非水電解液中のFSOLiの含有量(wt%)がそれぞれ異なる21種類の電池組立体を作製し、当該電池組立体に初期充電を実施することによってサンプル1〜21のリチウムイオン二次電池を作製した。以下、具体的な作製条件について説明する。
【0056】
(1)サンプル1
サンプル1では、先ず、JIS K6217−4に準拠したDBP吸油量が30mg/100gの正極活物質(層状岩塩型構造のリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Li1+xNi1/3Co1/3Mn1/3))を準備した。そして、上記正極活物質と、導電材(アセチレンブラック:AB)と、バインダ(ポリフッ化ビニリデン:PVdF)とを90:8:2の割合で混合した。次に、この混合物をN−2−メチルピロリドン(NMP)と共に混練して正極合材用ペーストを調製した。そして、正極合材用ペーストを帯状の正極集電体(アルミニウム箔)の両面に塗布して加熱乾燥処理を行った後に圧延プレスを行うことで、正極集電体の両面に正極合材層が付与されたシート状の正極を作製した。なお、本サンプルでは、正極合材層中のNMP含有量(残留NMP量)が50ppmになるように加熱乾燥処理の時間を調整した。
【0057】
次に、本試験例では、負極活物質として粒状の黒鉛を用いた。そして、負極活物質と、バインダ(スチレンブタジエンゴム:SBR)と、増粘剤(カルボキシメチルセルロース:CMC)とを98:1:1の割合で混合した後、分散媒(イオン交換水)と共に混練することによって負極合材用ペーストを調製した。そして、当該負極合材用ペーストを負極集電体(銅箔)の両面に塗布して加熱乾燥処理を行った後に、圧延プレスを行うことで、負極集電体の両面に負極合材層が付与されたシート状の負極を作製した。
【0058】
次に、上述のように作製した正極と負極を、シート状のセパレータを介して積層させ、当該積層体を捲回・押圧することによって扁平状の捲回電極体を作製した。そして、作製した捲回電極体を電極端子(正極端子および負極端子)に接続した後にケース本体の内部に収容し、ケース本体と蓋体を接合した。なお、本試験例で使用したセパレータは、2層のポリプロピレン(PP)層の間に、ポリエチレン(PE)層が挟み込まれた3層構造(PP/PE/PP)のセパレータである。
【0059】
次に、エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む非水溶媒に、支持塩(LiPF)を約1mol/Lの濃度で溶解させた混合液を調製した。そして、調製後の非水電解液を100wt%としたときのオキサラト錯体化合物(LiBOB)の含有量が0.5wt%となり、フルオロスルホン酸リチウム(FSOLi)が0.1wt%となるように、上記混合液にLiBOBとFSOLiを溶解させて非水電解液を調製した。
【0060】
次に、上記非水電解液を注液口からケース内部に注液した後、注液口を封止することによって電池組立体を作製した、
そして、この電池組立体に初期充電を行い、試験用のリチウムイオン二次電池を作製した。具体的には、先ず、上記電池組立体を25℃の環境に配置し、正負極端子間の電圧が4.1Vに達するまで1/3Cの定電流で充電(CC充電)した後、10分間休止した。次に、正極端子と負極端子との間の電圧が3.0Vに達するまで、1/3Cの定電流で放電(CC放電)し、続いて合計の放電時間が1.5時間となるまで定電圧で放電(CV放電)した後に10分間休止した。そして、この充放電パターンを1サイクルとし、計3サイクル繰り返すことによって初期充放電(コンディショニング)を行った。
【0061】
(2)サンプル2〜21
サンプル2〜21では、後述する表1に示すように、正極活物質のDBP吸油量と、正極合材層中の残留NMP量と、非水電解液中のFSOLiの含有量をそれぞれ異ならせた点を除いて、サンプル1と同じ手順に従い、試験用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0062】
2.評価試験
本評価試験では、上述したサンプル1〜21のリチウムイオン二次電池の出力特性を以下の手順に従って測定した。なお、測定結果は表1に示す。
手順1:常温(25℃)の温度環境において、3.0Vから1Cの定電流充電でSOC25%まで充電する。
手順2:上記SOC25%に調整した電池を−30℃の恒温槽にて6時間放置する。
手順3:手順2の後、−30℃の温度環境において、SOC25%から定ワット(W)にて放電する。この際、放電開始から電圧が2.0Vになるまでの秒数を測定する。
手順4:手順3の定ワット放電電圧を80W〜200Wの条件で変えながら、上記手順1〜3を繰り返す。ここでは、手順3の定ワット放電電圧を、1回目80W、2回目90W、3回目100W・・・と、定ワット放電電圧を10Wずつ上げていきながら、手順3の定ワット放電電圧が200Wになるまで、上記手順1〜3を繰り返す。
手順5:上記手順4での定ワットの条件にて測定された2.0Vまでの秒数を横軸にとり、その時のWを縦軸にとったプロットの近似曲線から2秒時のWを出力特性として算出する。
手順6:サンプル20のリチウムイオン二次電池の出力特性を基準(100)とした場合の各サンプルの出力特性を、手順5で得られた出力特性に基づいて算出する。
【0063】
【表1】
【0064】
上述の表1に示すように、サンプル1〜10のリチウムイオン二次電池では、120以上という非常に好適な出力特性が確認された。このことから、正極合材層中の残留NMP量が50ppm〜1500ppmである場合、正極活物質のDBP吸油量を30ml/100g〜45ml/100gの範囲内とし、非水電解液中のFSOLiの含有量を0.1wt%〜1wt%とすることによって、残留NMPによる出力特性の低下を抑制できることが分かった。換言すると、正極活物質のDBP吸油量を30ml/100g〜45ml/100gの範囲内とし、非水電解液中のFSOLiの含有量を0.1wt%〜1wt%とすることによって、正極合材層中の残留NMPの許容量を1500ppmまで拡大できることが確認された。
【0065】
なお、サンプル11〜13では、何れにおいても、サンプル1〜4よりも大幅に出力特性が低下していた。特にサンプル11においては、サンプル1〜4よりも残留NMP量を少なくしているにも関わらず、サンプル1〜4よりも出力特性が低くなっていた。このことから、残留NMPによる出力特性の低下を抑制するためには、非水電解液にFSOLiを添加する必要があることが確認された。
【0066】
また、サンプル14では、サンプル1よりも残留NMP量を少なくしているにも関わらず、サンプル1よりも出力特性が低くなっていた。これは、非水電解液中のFSOLi含有量が少な過ぎて、当該FSOLiに由来する被膜が十分に形成されなかったためと解される。このことから、残留NMPによる出力特性の低下を抑制するためには、非水電解液中のFSOLiの含有量を0.1wt%以上にする必要があることが分かった。
また、サンプル15では、サンプル2よりも残留NMP量を少なくしているにも関わらず、サンプル2よりも出力特性が低くなっていた。これは、非水電解液中のFSOLi含有量が多くなり過ぎて、正極活物質の表面に形成される被膜が厚くなり、正極における抵抗が増加したためと解される。このことから、非水電解液にFSOLiを添加する場合には、当該FSOLiの含有量を1wt%以下にする必要があることが分かった。
【0067】
また、サンプル18では、非水電解液に0.1wt%のFSOLiが含まれているにも関わらず、サンプル1よりも出力特性が低くなっていた。これは、正極活物質のDBP吸油量が低くなりすぎると、充放電における反応の場が少なくなるためと解される。このことから、正極活物質のDBP吸油量は30mg/100mg以上にする必要があることが分かった。
一方、サンプル20では、非水電解液に1wt%のFSOLiが含まれているにも関わらず、サンプル2よりも出力特性が低くなっていた。これは、正極活物質のDBP吸油量が高すぎると、充放電における反応の場が多くなりすぎて、反応場がFSO3Li由来の被膜によって覆われる前に、NMP由来の被膜の形成が開始したためと解される。このことから、非水電解液にFSOLiを添加する場合には、正極活物質のDBP吸油量を45mg/100mg以下にする必要があることが分かった。
【0068】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0069】
1 電池組立体
10 正極
12 正極集電体
14 正極合材層
16 集電体露出部
18 正極活物質
19 正極SEI膜
20 負極
22 負極集電体
24 負極合材層
26 集電体露出部
28 負極活物質
29 負極SEI膜
40 セパレータ
50 ケース
52 ケース本体
54 蓋体
56 注液口
70 正極端子
72 負極端子
80 電極体
80a 正極接続部
80b 負極接続部
図1
図2
図3