【解決手段】サイドドア用ラッチ装置は、アンラッチ位置からフルラッチ位置に向けて回転するラッチと、ラッチに係合することでラッチのアンラッチ回転を規制するラチェット17と、オープン移動するとラチェット17をラッチとの係合から離脱させるオープンリンク47と、オープンリンク47を動力でオープン移動させるモータ40と、キープレートの操作でオープンリンク47をオープン移動させるキーレバー51とを備え、キーレバー51とオープンリンク47とは遊びを持って連結し、モータ40動動力は動力伝達経路の切断機構を介さずにオープンリンク47に伝達させる構成とする。
請求項1において、車両ドアのインサイドオープンハンドル53の開扉操作によりオープン回転するインナーレバー54を備え、前記オープンリンク47は前記インナーレバー54がオープン回転すると前記インナーレバー54との当接によりオープン移動する構成とした車両サイドドア用ラッチ装置。
請求項1又は2のいずれか一項において、前記ラッチ16は動力ユニット14からの動力でシンチ回転するシンチレバー25により前記ハーフラッチ位置から前記フルラッチ位置に変位しうる構成とした車両サイドドア用ラッチ装置。
請求項3において、前記シンチレバー25の中央の移動軸29はクラッチレバー30の軸受面30aのみにて支持させ、前記クラッチレバー30はエマージェンシーレバー35との当接により変位すると前記軸受面30aによる前記移動軸29の支持を解除する構成とし、前記エマージェンシーレバー35の連結アーム35bは前記オープンリンク47に連結させた車両サイドドア用ラッチ装置。
請求項3又は4のいずれか一項において、前記動力ユニット14は、車両ドアの金属製インサイドドアパネル11の室外側で前記インサイドドアパネル11の防音吸音カバー62で閉鎖されるサービスホール60とドアの幅方向で重合する位置に配置した車両サイドドア用ラッチ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のパワーリリース機構、及び/又は、パワーシンチング機構を備えた車両サイドドア用ラッチ装置では、その操作機構を収納した操作ユニットおよびラッチユニットが大型化するとともに、内部機構は複雑化し、コストが嵩む不利益がった。
特に、ラッチハウジングが横断L型形状に形成されるため、制約の少ない簡素な構造のラッチ装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
よって、本発明は、ストライカ15との係合によりアンラッチ位置からフルラッチ位置に向けて回転するラッチ16と;前記ラッチ16のハーフラッチ段部16bおよびフルラッチ段部16cに係合することで前記ラッチ16のアンラッチ回転を規制するラチェット17と;待機位置からオープン移動すると前記ラチェット17に当接して前記ラチェット17を前記ラッチ16との係合から離脱させうるオープンリンク47と;前記オープンリンク47を動力で前記待機位置からオープン移動させるモータ40と;特定のキープレートによりオープン回転可能でオープン回転すると前記オープンリンク47を前記待機位置からオープン移動させるキーレバー51とを備え;前記キーレバー51と前記オープンリンク47とは遊びを持って連結し;前記モータ40と前記オープンリンク47とは動力伝達経路の切断機構を介さずに連結し前記モータ40が起動すると前記待機位置の前記オープンリンク47が常にオープン移動する構成とした車両サイドドア用ラッチ装置としたものである。
また、本発明は、側方収納部24bおよび前記側方収納部24bに対して屈曲させた前方収納部24dを有し横断形状L型を呈するハウジング24と;前記前方収納部24dに収納されストライカ15との係合によりアンラッチ位置からフルラッチ位置に向けて前後方向のラッチ軸19を中心に回転するラッチ16と;前記前方収納部24dに収納され前記ラッチ16のハーフラッチ段部16bおよびフルラッチ段部16cに係合することで前記ラッチ16のアンラッチ回転を規制し前後方向のラチェット軸20を中心に回転するラチェット17と;前記側方収納部24bに収納され下方の待機位置から上方に向けてオープン移動すると前記ラチェット17に当接して前記ラチェット17を前記ラッチ16との係合から離脱させるオープンリンク47と;前記側方収納部24bに収納され左右方向のオープン軸44を中心にオープン回転すると前記待機位置の前記オープンリンク47をオープン移動させるオープンレバー43と;前記側方収納部24bに収納され前記オープンレバー43をオープン回転させるモータ40と;前記ハウジング24に対して離間配置させた動力ユニット14と;前記前方収納部24dに収納され前記動力ユニット14からの動力で前後方向の移動軸29を中心にシンチ回転すると前記ラッチ16を前記ハーフラッチ位置から前記フルラッチ位置に変位させるシンチレバー25と;前記側方収納部24bに収納され特定のキープレートによりオープン回転可能でオープン回転すると前記オープンリンク47を前記待機位置からオープン移動させるキーレバー51とを備え;前記モータ40は起動すると前記オープンレバー43を介して前記待機位置の前記オープンリンク47を常にオープン移動させる構成とし;前記モータ40と前記オープンレバー43と前記オープンリンク47は、前記側方収納部24bに取り付けられるケースカバー24cにより外部から隔離させた構成とし;前記オープンレバー43は前後方向において前記オープンリンク47と前記モータ40との間に配置し、前記キーレバー51は前記オープンリンク47の上方に配置し、前記ラチェット軸20は上下方向において前記ラッチ軸19と前記移動軸29との間に配置した車両サイドドア用ラッチ装置としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の請求項1に係る発明では、日常的使用形態においては、モータ40による動力のみでオープンリンク47を作動させてラッチ16の拘束を解除させているため、複雑化していたサイドドア用のラッチ装置を従来構造に比して格段に簡素化でき、コストにおいても極めて有利となる。
本発明の請求項2に係る発明では、インサイドオープンハンドル53によりオープンリンク47を待機位置からオープン移動させることが可能となるため、モータ40の不具合に確実に対処できる。
本発明の請求項3に係る発明では、パワーシンチング機構を複雑化させることなく、備えることができる。
本発明の請求項4に係る発明では、モータ40の作動に伴って、オープンリンク47を介してクラッチレバー30を回転させて、パワーシンチング機構の動力伝達を切断できるので、動力ユニット14の障害によりパワーシンチング機構がラッチ16のアンラッチ回転を阻碍することを良好に防止できる。
本発明の請求項5に係る発明では、動力ユニット14をインサイドドアパネル11に取り付けられる防音吸音性の高いカバー62で車内側から遮断できるので、動力ユニット14の作動音の音圧・音質を良好にすることができる。
本発明の請求項6に係る発明では、動力ユニット14の作動音を防音型閉鎖ハウジング63により効果的に抑制できる。
本発明の請求項7に係る発明では、日常的使用形態においては、モータ40による動力のみでオープンリンク47を作動させてラッチ16の拘束を解除させているため、複雑化していたサイドドア用のラッチ装置を従来構造に比して格段に簡素化でき、コストにおいても極めて有利となり、また、従来のサイドドア用ラッチ装置の外形を維持できるので、コストにおいて有利であり、設計も容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1には、本発明による車両サイドドア用ラッチ装置10(以下、単に車両ドアラッチ装置10という)と、車両ドアラッチ装置10が取り付けられる車両サイドドアの金属製インサイドドアパネル11とが示されている。
図1ではインサイドドアパネル11の中央部、及び、後側部を図示し、前側部は省略している。車両サイドドアとは車両の側面に設けられた乗降用のドアである(以下、車両サイドドアを車両ドア若しくはドアと略称する)。
【0009】
車両ドアラッチ装置10は、車両ドア(インサイドドアパネル11)の後端部に固定されるラッチユニット12と、ラッチユニット12の背面側に連設される操作ユニット13と、車両ドアをフルラッチさせるドアシンチング用の動力を操作ユニット13に供給する動力ユニット14とを備えている。なお、ラッチユニット12と操作ユニット13とは厳密に区別・区画されるものでなく、これらを一体としてラッチアッセンブリーと表現することもできる。
【0010】
ラッチユニット12は、車両ドアの回動端部となる後部に、
図3に示した正面側が車両後方に対面するように配置される。ラッチユニット12は、車体側のストライカ15と係合するラッチ16、および、ラッチ16とストライカ15との係合状態を維持するラチェット17を備えている。ラッチ16およびラチェット17は、合成樹脂製のラッチボディ18に収納され、ラッチ軸19およびラチェット軸20を中心にそれぞれ回転する。
【0011】
車両ドアが十分な手動閉扉力により閉扉方向に移動すると、ストライカ15はラッチボディ18に形成されたストライカ進入路18a内に相対的に進入して、
図3にて仮想線で示したアンラッチ位置のラッチ16のストライカ係合溝16aに当接し、ラッチ16をアンラッチ位置からラッチバネ(図示なし)の弾力に抗してフルラッチ方向(反時計回転方向)に回転させる。ラッチ16がハーフラッチ位置に至ると、ラチェットバネ(図示なし)の弾力により反時計回転方向(ラッチ係合方向)に付勢されたラチェット17の係合端17aは、ラッチ16のハーフラッチ段部16bと係合可能になり、また、ラッチ16がフルラッチ位置に至ると、ラッチ16のフルラッチ段部16cと係合可能となる。ラチェット17の係合端17aがフルラッチ段部16cと係合するとラッチ16はフルラッチ位置に保持され、ドアは閉扉状態に保たれる。
【0012】
図2のように、ラッチボディ18の正面側には、金属カバープレート21が固定され、カバープレート21にはストライカ進入路18aに対応する切欠通路21aが形成される。車両ドアが通常のスイング式ドア(縦軸のヒンジ式ドア)の場合、ラッチ軸19及びラチェット軸20の軸芯は車両の前後方向となり、ストライカ進入路18aおよび切欠通路21aはドアの幅方向(左右方向)に水平に延設される。
【0013】
図4のように、ラッチボディ18の背面側には上部の金属製バックプレート22及び、下部の金属製L型ブラケット23(
図10、11)が固定される。
図4ではバックプレート22は操作ユニット13のハウジング(ラッチハウジング)24により略覆われている。ハウジング24は横断面形状L型を呈する。バックプレート22及びブラケット23は一枚の金属プレートとして形成しても良い。ブラケット23はドアの厚さ方向に対して並行の固定横平面23aと、ドア側面に対して並行の固定縦平面23bとを備え、ハウジング24のL型のメインケース24a(
図7)の下部は固定縦平面23bに固定される。
【0014】
ラッチボディ18とブラケット23の固定横平面23aとの間には、略水平に伸びるシンチレバー25(
図12)を配置し、シンチレバー25の一端25aには連結ピン26によりシンチ杆27の下端を連結する。シンチレバー25の他端25bには受動ピン28を設ける。受動ピン28には、後述するように、動力ユニット14からの駆動力が伝達され、この動力により下方に押圧されて移動する構成となっている。
【0015】
図5のように、シンチレバー25の左右中央には前後方向の移動軸29が設けられる。シンチレバー25と移動軸29とは固定関係でよい。シンチレバー25の下方にはクラッチレバー30(
図13)が配置され、クラッチレバー30は止着軸31によりブラケット23の固定横平面23a若しくはカバープレート21等の不動体に軸止される。クラッチレバー30はクラッチバネ32(
図4)により
図5において時計回転方向に付勢される。
【0016】
クラッチレバー30には略水平の軸受面30aを形成し、軸受面30aによりシンチレバー25の移動軸29を下方から支持する。移動軸29は軸受面30aに載置されるだけであり、ラッチボディ18およびブラケット23等の不動体に対して軸受けされていない移動可能な軸である。このようなシンチレバー25は、梃子の原理で作動し、受動ピン28が力点、連結ピン26が作用点、移動軸29(軸受面30a)が支点にそれぞれ該当し、動力ユニット14からの駆動力が「力点」となる受動ピン28を押し下げると、シンチレバー25は「支点」を中心に反時計回転してシンチ杆27を上動させる。
【0017】
シンチ杆27の上部にはガイドピン33が設けられ、ガイドピン33はラッチボディ18の正面側に形成した上下方向のガイド溝18bに摺動自在に係合させる。シンチ杆27の上端にはラッチ押圧部27aが設けられる。ラッチ押圧部27aは上動すると、ハーフラッチ位置のラッチ16のラッチアーム16dに当接可能で、これにより、ラッチ16をフルラッチ位置まで回転させることができる。
【0018】
開扉状態では、シンチレバー25はシンチバネ34(
図4)の弾力で
図5において時計回転方向に付勢され、
図5の待機位置に保持される。
図5の待機状態では、ラッチ16のラッチアーム16dは、シンチ杆27のラッチ押圧部27aの側方に位置し、非対峙状態である。
図5の状態で、車両ドアが手動閉扉力により閉扉方向に移動して、ラッチ16がハーフラッチ位置まで回転すると、ラッチ16のラッチアーム16dはラッチ押圧部27aの上部近傍に移動する。また、ハーフラッチ状態になると、動力ユニット14が起動してシンチレバー25を反時計回転させシンチ杆27を上動させる。これにより、シンチ杆27のラッチ押圧部27aはハーフラッチ位置のラッチ16のラッチアーム16dの下面に当接し、ラッチ16をフルラッチ位置まで回転させ、車両ドアをモータ動力で閉扉状態にすることができる。これがパワーシンチング機構(POWERED CINCHING MECHANISM)と呼称される。
【0019】
前述したように、シンチレバー25の移動軸29は、クラッチレバー30の水平の軸受面30aにより下方から支持されているだけである。この特徴は、動力ユニット14とシンチ杆27との間の動力伝達回路の切断に大きく寄与する。つまり、動力伝達回路を切断するには、梃子の「支点」である移動軸29(軸受面30a)から「支点」としての機能を奪えば良く、クラッチレバー30を
図5において反時計回転させれば、移動軸29は支えを失って、至極簡単に動力伝達回路を切断できる。このとき、軸受面30aを移動軸29から離間させる際の摩擦力は、ラッチ押圧部27aをラッチアーム16dから側方に離間させる際の摩擦力に対して、格段に小さいため、極僅かな操作力でクラッチレバー30を切断方向に回転させることができる。
【0020】
シンチレバー25の他端25bの上方には、エマージェンシーレバー35が前後方向の軸36によりラッチボディ18等の不動体に軸止される。エマージェンシーレバー35はラッチボディ18の背面側に配置される。エマージェンシーレバー35の屈曲部35aはクラッチレバー30の当接部30bの近傍に臨ませる。エマージェンシーレバー35はバネ(図示なし)により
図5において反時計回転方向に付勢されており、バネ弾力に抗して時計回転すると、クラッチレバー30を切断方向に回転させることができる。
【0021】
図6に示したように、シンチ杆27の下部の連結ピン26には復帰レバー37の回動端も連結させ、復帰レバー37の基部は軸38によりカバープレート21に軸止する。軸38は移動軸29とは別軸である。移動軸29の軸芯は、シンチレバー25が待機位置のとき、軸38の軸芯と前後方向において一致させるのが望ましいが、完全に一致させる必要はない。復帰レバー37は、復帰バネ39(
図4)により
図6において時計回転方向に付勢される。復帰レバー37は、シンチレバー25の移動軸29が「支点」としての機能を失ったとき、上動したシンチ杆27を復帰バネ39の弾力で速やかに下方の待機位置に下動させ、ラッチ16が瞬時にアンラッチ回転できるようにする。
【0022】
クラッチレバー30はエマージェンシーレバー35との当接から開放されると、クラッチバネ32の弾力で時計回転し、軸受面30aは「支点」を失ったシンチレバー25の移動軸29の下方に移動して、
図5の待機状態に復帰する。なお、
図5の待機状態では、クラッチレバー30の軸受面30aは移動軸29に対して若干間隙をおいて対峙させるのが好ましく、これにより、クラッチレバー30のクラッチバネ32の弾力による復帰が円滑に行える。なお、シンチレバー25を動力ユニット14で反時計回転させるときは、シンチレバー25の移動軸29が間隙分だけ下方に移動し、軸受面30aに当接すると「支点」としての機能を得ることになる。
【0023】
操作ユニット13のハウジング24は、
図7のように、L型のメインケース24aと、メインケース24aの側方収納部24bを閉塞するケースカバー24c(
図2、8)とを備えている。側方収納部24bは、ブラケット23の固定縦平面23bと並行に広がっており、側方収納部24bには、
図9に示した主な部材が収納され、ケースカバー24cで覆われる。メインケース24aには、ブラケット23の固定横平面23aと並行に広がって、側方収納部24bに対してL型に屈曲する前方収納部24dも形成し、好適には、前方収納部24d内にラッチユニット12の背面側及びラッチボディ18の一部を収納させる。
【0024】
側方収納部24b内には、動力ユニット14と比較すると格段に小型の開扉用モータ40を設け、モータ40の円筒ウォームギア41には、ウォームホイールギア42を噛合させる。ホイールギア42はメインケース24aに左右方向のホイール軸42bで軸止され、そのホイール面にはカム溝42aを刻設する。ウォームホイールギア42は側方収納部24bに収納される。
【0025】
ホイールギア42の近傍にはオープンレバー43を左右方向のオープン軸44でメインケース24aに軸止し、オープンレバー43の左方に伸びるカムアーム43aには従動ピン45を植設し、従動ピン45をカム溝42aに摺動自在に係合させる。オープンレバー43は側方収納部24bに収納される。
【0026】
ホイールギア42は、通常は、図示のないリターンバネの弾力で
図9の位置に保持され、モータ40の動力により時計回転すると、オープンレバー43はカム溝42aにより押し出されてオープンバネ46の弾力に抗して、反時計回転する。
【0027】
オープンレバー43の右方に伸びる当接アーム43bと重なる位置には、縦に伸びるオープンリンク47(
図14)を配設する。オープンリンク47の下部には連結孔47aを設け、連結孔47aにはエマージェンシーレバー35の連結アーム35b(
図5)の先端を挿通連結させ、オープンリンク47が上動すると、エマージェンシーレバー35が
図5において時計回転するように構成する。オープンリンク47は側方収納部24bの前端側に収納される。
【0028】
オープンリンク47の上下の中央付近には、屈曲当接部47bを設け、屈曲当接部47bの下方には、オープンレバー43の右方に伸びる当接アーム43bの端部を臨ませ、オープンレバー43がモータ40の駆動力で反時計回転すると、オープンリンク47は上動することになる。
【0029】
オープンリンク47の屈曲当接部47bの上方近傍には、ラチェット17の端部に設けたラチェットピン17bを臨ませ、オープンリンク47が上動すると、ラチェット17はラチェットバネ(図示なし)の弾力に抗して、
図3において、時計回転してラッチ16から離脱し、ドアは開扉可能状態になる。
【0030】
ラチェット17をラッチ16から動力で離脱させるモータ40は、ケースカバー24cで閉塞されるハウジング24の側方収納部24bに配置されるため、その作動音は遮蔽されて良好な音圧に抑えられる。また、モータ40の動力は、ホイールギア42に形成したカム溝42aと、オープンレバー43に設けた従動ピン45とを介して伝達されるため、良好な音圧・音質を維持できる。
【0031】
本発明におけるオープンレバー43(オープンリンク47)は、モータ40の駆動力によってオープン回転(オープン移動)することを原則とし、モータ40は車両ドアのドアグリップ等に設けられる感知センサー48からの感知信号、若しくはドライバーが所持するリモコン発信器49からのオープン信号に基づいて起動する。このため、本発明に掛かる車両ドアラッチ装置10は、従来公知の車両ドアラッチ装置が必須としていたロック状態とアンロック状態とに切り替わる所謂「ロック機構」を省くことに成功し、構造がとても簡素化されている。即ち、モータ40は特定者のみが作動可能であるから、所謂「ロック機構」のような動力伝達経路を遮断する切断機構を省略可能となる。
【0032】
なお、モータ40またはその動力伝達経路の作動不良に備えて、2つの安全対策も施している。一番目は、ドアキーシリンダ50(
図9)によるものである。ドアキーシリンダ50は車両ドアの金属製アウトサイドドアパネル(図示なし)に設けられる。従来のドアキーシリンダ50は、本発明では備えていない「ロック機構」に連結されて、「ロック機構」をロック状態とアンロック状態とへの切替に用いられていたが、本発明では、ドアキーシリンダ50は、ハウジング24の側方収納部24bに設けられたキーレバー51に連結される。キーレバー51はオープンリンク47の上方に配置され、キーレバー51には連結ロッド52の上部を係合させ、連結ロッド52の下部52aはオープンリンク47の縦スロット47cに遊びを持って連結させる。この遊びにより、キーレバー51を動かすことなく、モータ40によりオープンリンク47を上動させることができる。
【0033】
これにより、不測の事態においても、適切なキープレートを用いてドアキーシリンダ50を回転させることで、連結ロッド52を介して、オープンリンク47を上動させ、ラチェット17をラッチ16から離脱開放させ、ドアを開扉可能状態にすることができる。
【0034】
二番目の対策は、車両ドアの室内側面にインサイドオープンハンドル53を設け、インサイドオープンハンドル53に、ケーブル64を介してハウジング24の側方収納部24bに設けたインナーレバー54を連結することである。インナーレバー54は、インサイドオープンハンドル53の開扉操作で、
図9においてインナー軸55を中心に時計回転し、インナーレバー54の当接部54aがオープンリンク47の下端に当接すると、オープンリンク47は上動して、ラチェット17をラッチ16から離脱開放させ、ドアを開扉可能状態にすることができる。インナーレバー54のケーブル連結部54bは、
図8のように、ケースカバー24cの間隙24eを介して外方に露出させ、露出させたケーブル連結部54bにケーブル64が連結される。
【0035】
以上までの構成において、オープンリンク47の下部をエマージェンシーレバー35の連結アーム35bにて支持させる構造にも有意な特徴が存在する。日常的使用形態においては、モータ40の動力によってのみ上動するオープンリンク47は、上動移動する毎に、エマージェンシーレバー35を介してクラッチレバー30を作動させ、シンチレバー25の「支点」解除を行うことになる。このため、動力ユニット14の障害により仮にシンチ杆27がフルラッチ位置まで上動した状態で停止したとしても、作動信号でモータ40が起動すると、シンチレバー25の「支点」解除も同時に行われるため、復帰バネ39の弾力でシンチ杆27は速やかに下方の待機位置に復帰し、ラッチ16のアンラッチ回転はシンチ杆27に干渉されずに行われる。
【0036】
加えて、オープンリンク47をエマージェンシーレバー35で支持させているため、構造が簡素化して、合理的な設計が行える。
【0037】
図10、11に示したように、ブラケット23の固定縦平面23bの下部には、左右方向の取付軸56によりパワーレバー57が軸止される。パワーレバー57はケーブル58を介して動力ユニット14に連結される。パワーレバー57には、左右方向の当接ピン59が取り付けられ、当接ピン59はシンチレバー25の受動ピン28に対して係合可能に対峙し、動力ユニット14の動力でパワーレバー57が回転すると、当接ピン59が受動ピン28を押し下げ、シンチレバー25を
図5において反時計回転させてシンチ杆27を上動させ、もって、ラッチ16のハーフラッチからフルラッチへの閉扉が行われる。
【0038】
動力ユニット14は、
図1に示したようにインサイドドアパネル11のサービスホール60に対して、ドアの幅方向において重合する位置に配置され、複数の固定プレート61によりインサイドドアパネル11に止着される。動力ユニット14のインサイドドアパネル11への止着終了後、サービスホール60は防音吸音カバー62で覆われる。
【0039】
動力ユニット14はハウジング63内にモータ及び減速機構を内包させた防音型閉鎖ユニットであり、ハウジング63による防音吸音効果と、防音吸音カバー62との相乗効果により、動力ユニット14をインサイドドアパネル11の金属面の裏側に配置して、動力ユニット14をインサイドドアパネル11の金属面とドアの幅方向において重合配置させた場合に比して、優れた音圧・音質レベルを確保できている。