【解決手段】交流の溶接電流Iwを通電して溶接する交流被覆アーク溶接方法において、溶接電流Iwの交流周波数を、溶接姿勢に応じて変化させる。溶接姿勢が縦向き又は上向きであるときは、交流周波数を商用電源周波数よりも高く設定する。さらに、交流周波数は100Hz以上に設定することが望ましい。このようにすると、溶融池の振動を小さくすることができるので、溶接姿勢が縦向き又は上向きであるときに、溶融金属の垂れ落ちを抑制することができ、良好な溶接品質を得ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
交流被覆アーク溶接において、溶接姿勢が縦向き又は上向きであるときは、溶融金属の垂れ落ちが発生しやすくなり溶接品質が悪くなるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明では、溶接姿勢に関わらず良好な溶接品質を得ることができる交流被覆アーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
交流の溶接電流を通電して溶接する交流被覆アーク溶接方法において、
前記溶接電流の交流周波数を、溶接姿勢に応じて変化させる、
ことを特徴とする交流被覆アーク溶接方法である。
【0008】
請求項2の発明は、前記溶接姿勢が縦向き又は上向きであるときは、前記交流周波数を商用電源周波数よりも高く設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の交流被覆アーク溶接方法である。
【0009】
請求項3の発明は、前記溶接姿勢が縦向き又は上向きであるときは、前記交流周波数を100Hz以上に設定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の交流被覆アーク溶接方法である。
【0010】
請求項4の発明は、前記溶接姿勢を、溶接棒ホルダに設けられたセンサによって自動判別する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の交流被覆アーク溶接方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶接姿勢に関わらず良好な溶接品質を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る交流被覆アーク溶接方法を実施するための溶接装置のブロック図である。同図において、極性切換時に数百Vの高電圧を印加する回路については、図示は省略している。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0015】
インバータ回路INVは、3相200V等の交流商用電源(図示は省略)を入力として、整流及び平滑した直流電圧を、後述する電流誤差増幅信号Eiによるパルス幅変調制御によってインバータ制御を行い、高周波交流を出力する。
【0016】
インバータトランスINTは、高周波交流電圧をアーク溶接に適した電圧値に降圧する。
【0017】
2次整流器D2a〜D2dは、降圧された高周波交流を直流に整流する。
【0018】
棒プラス極性トランジスタPTRは後述する棒プラス極性駆動信号Pdによってオン状態になり、溶接電源の出力は棒プラス極性EPになる。棒マイナス極性トランジスタNTRは後述する棒マイナス極性駆動信号Ndによってオン状態になり、溶接電源の出力は棒マイナス極性ENになる。
【0019】
リアクトルWLは、リップルのある出力を平滑する。
【0020】
溶接棒ホルダ4によって被覆溶接棒1が把持されており、被覆溶接棒1と母材2との間にアーク3が発生する。アーク3中を交流の溶接電流Iwが通電し、被覆溶接棒1と母材2との間に交流の溶接電圧Vwが印加する。溶接電流Iwは、母材2→アーク3→被覆溶接棒1の方向に通電するとき(棒マイナス極性期間Tenのとき)を+側としている。被覆溶接棒1は、鉄鋼、ステンレス鋼等の溶接に使用される。
【0021】
溶接電源の2つの出力端子(図示は省略)と溶接棒ホルダ4又は母材2とは溶接ケーブル5、6で接続されている。この溶接ケーブル5、6が長いときはインダクタンス値が大きくなり、溶接電流Iwの変化速度が緩やかになる。
【0022】
溶接姿勢選択回路MCは、溶接作業者によって選択された溶接姿勢信号Mcを出力する。溶接姿勢選択回路MCは、例えば溶接装置のフロントパネルに設けられる。例えば、溶接姿勢選択回路MCは、溶接作業者によって下向き溶接姿勢が選択されるとMc=1を出力し、縦向き溶接姿勢が選択されるとMc=2を出力し、上向き溶接姿勢が選択されるとMc=3を出力する。
【0023】
交流周波数設定回路FRは、上記の溶接姿勢信号Mcを入力として、溶接電流Iwの繰り返し周波数を設定するための溶接姿勢信号Mcに対応した交流周波数設定信号Fr[Hz]を出力する。交流周波数設定信号Frの設定値については、
図2で詳述する。
【0024】
棒マイナス極性時間比率設定回路RRは、予め定めた棒マイナス極性時間比率設定信号Rr[%]を出力する。棒マイナス極性時間比率設定信号Rrは、例えば50%に設定される。
【0025】
期間設定回路TRは、上記の交流周波数設定信号Fr及び上記の棒マイナス極性時間比率設定信号Rrを入力として、棒マイナス極性期間設定信号Tnr及び棒プラス極性期間設定信号Tprを出力する。ここで、Tnr[ms]=(1/Fr)×1000×(Rr/100)であり、Tpr[ms]=(1/Fr)×1000−Tnrである。
【0026】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwの絶対値を検出して、電流検出信号Idを出力する。
【0027】
電流比較回路CMは、上記の電流検出信号Idを入力として、電流検出信号Idの値が予め定めた極性切換電流値以下のときはHighレベルとなる電流比較信号Cmを出力する。極性切換電流値は、例えば50Aに設定される。
【0028】
タイマ回路TMは、上記の棒マイナス極性期間設定信号Tnr、上記の棒プラス極性期間設定信号Tpr及び上記の電流比較信号Cmを入力として、以下の処理を行い、タイマ信号Tmを出力する。タイマ信号Tmが1又は2のときが棒マイナス極性期間Tenとなり、3又は4のときが棒プラス極性期間Tepとなる。
1)棒マイナス極性期間設定信号Tnrによって定まる期間中は、タイマ信号Tm=1を出力する。
2)続けて、棒マイナス極性期間設定信号Tnrによって定まる期間が経過してから、電流比較信号CmがHighレベルに変化するまでの遷移期間中は、タイマ信号Tm=2を出力する。
3)続けて、電流比較信号CmがHighレベルに変化してから、棒プラス極性期間設定信号Tprによって定まる期間中は、タイマ信号Tm=3を出力する。
4)続けて、棒プラス極性期間設定信号Tprによって定まる期間が経過してから、電流比較信号CmがHighレベルに変化するまでの遷移期間中は、タイマ信号Tm=4を出力する。
5)上記の1)〜4)を繰り返す。
【0029】
2次側駆動回路DVは、上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号Tmが1又は2のときは上記の棒マイナス極性駆動信号Ndを出力し、タイマ信号Tmが3又は4のときは上記の棒プラス極性駆動信号Pdを出力する。これによって、タイマ信号Tmが1又は2のときは、棒マイナス極性トランジスタNTRがオン状態となり、棒マイナス極性期間Tenとなる。タイマ信号Tmが3又は4のときは、棒プラス極性トランジスタPTRがオン状態となり、棒プラス極性期間Tepとなる。
【0030】
振幅設定回路IARは、溶接電流Iwの振幅を設定するための予め定めた振幅設定信号Iarを出力する。
【0031】
切換回路SWは、上記のタイマ信号Tm及び上記の振幅設定信号Iarを入力として、以下の処理を行い、電流設定信号Irを出力する。
1)タイマ信号Tm=1のときは、振幅設定信号Iarを電流設定信号Irとして出力する。
2)タイマ信号Tm=2のときは、電流設定信号Ir=0を出力する。
3)タイマ信号Tm=3のときは、振幅設定信号Iarを電流設定信号Irとして出力する。
4)タイマ信号Tm=4のときは、電流設定信号Ir=0を出力する。
【0032】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Irと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。これにより、溶接電源は定電流特性となり、交流の溶接電流Iwが通電する。
【0033】
図2は、
図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は電流比較信号Cmの時間変化を示し、同図(C)は棒マイナス極性駆動信号Ndの時間変化を示し、同図(D)は棒プラス極性駆動信号Pdの時間変化を示し、同図(E)は電流設定信号Irの時間変化を示し、同図(F)は溶接電圧Vwの時間変化を示す。同図(A)に示す溶接電流Iwは、0から上側が棒マイナス極性電流Ienであり、0から下側が棒プラス極性電流Iepである。同図(A)に示す溶接電流Iwは、台形波の場合であり、棒マイナス極性ENの振幅と棒プラス極性EPの振幅とが等しい平衡波形の場合である。以下、同図を参照して、各信号の動作について説明する。
【0034】
時刻t1において、同図(A)に示すように、溶接電流Iw(棒プラス極性電流Iep)の絶対値が予め定めた極性切換電流値以下となるので、同図(B)に示すように、電流比較信号Cmが短時間Highレベルとなる。これに応動して、同図(C)に示すように、棒マイナス極性駆動信号NdがHighレベルとなり、棒マイナス極性トランジスタNTRがオン状態となり、棒マイナス極性ENへと切り換わる。同時に、同図(D)に示すように、棒プラス極性駆動信号PdはLowレベルになり、棒プラス極性トランジスタPTRはオフ状態となる。時刻t1において、同図(E)に示すように、電流設定信号Irは0から振幅設定信号Iarに切り換わる。同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、負の値の極性切換電流値から正の値の極性切換電流値へと瞬時的に変化する。
【0035】
時刻t1〜t2の期間中は、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、極性切換電流値から振幅設定信号Iarの値まで傾斜を有して増加する。同図(F)に示すように、溶接電圧Vwも傾斜を有して増加する。この傾斜は、リアクトルWL及び溶接ケーブルによるインダクタンス値によって決まる。インダクタンス値が大きいほど傾斜は緩やかになる。
【0036】
時刻t2〜t3の期間中は、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは振幅設定信号Iarの値となる。同図(F)に示すように、溶接電圧Vwはアーク長に相関した棒マイナス極性電圧値となる。
【0037】
時刻t3において、時刻t1からの経過時間が棒マイナス極性期間設定信号Tnrの値に達すると、同図(E)に示すように、電流設定信号Irは0に変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは傾斜を有して減少する。この傾斜もリアクトルWL及び溶接ケーブルによるインダクタンス値によって決まる。そして、時刻t4において、溶接電流Iwの値が極性切換電流値以下となると、同図(B)に示すように、電流比較信号Cmが短時間Highレベルとなる。また、同図(F)に示すように、溶接電圧Vwも傾斜を有して減少する。
【0038】
時刻t4において、同図(B)に示すように、電流比較信号Cmが短時間Highレベルになると、同図(D)に示すように、棒プラス極性駆動信号PdがHighレベルとなり、棒プラス極性トランジスタPTRがオン状態となり、棒プラス極性EPへと切り換わる。同時に、同図(C)に示すように、棒マイナス極性駆動信号NdはLowレベルになり、棒マイナス極性トランジスタNTRはオフ状態となる。時刻t4において、同図(E)に示すように、電流設定信号Irは0から正の値の振幅設定信号Iarに切り換わる。同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、正の値の極性切換電流値から負の値の極性切換電流値へと瞬時的に変化する。
【0039】
時刻t4〜t5の期間中は、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、極性切換電流値から振幅設定信号Iarの値まで傾斜を有して増加する。この傾斜もリアクトルWL及び溶接ケーブルによるインダクタンス値によって決まる。同図(F)に示すように、溶接電圧Vwも傾斜を有して増加する。
【0040】
時刻t5〜t6の期間中は、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは振幅設定信号Iarの値となる。同図(F)に示すように、溶接電圧Vwは、アーク長と相関する値の棒プラス極性電圧となる。
【0041】
時刻t6において、時刻t4からの経過時間が棒プラス極性期間設定信号Tprの値に達すると、同図(E)に示すように、電流設定信号Irは0に変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは傾斜を有して減少する。この傾斜もリアクトルWL及び溶接ケーブルによるインダクタンス値によって決まる。そして、時刻t7において、溶接電流Iwの値が極性切換電流値以下となると、同図(B)に示すように、電流比較信号Cmが短時間Highレベルとなる。また、同図(F)に示すように、溶接電圧Vwも傾斜を有して減少する。
【0042】
以後、上記の動作を繰り返すことになる。
【0043】
同図は、棒マイナス極性時間比率設定信号Rrが50%の場合であるので、時刻t1〜t4の棒マイナス極性期間Tenの時間長さと時刻t4〜t7の棒プラス極性期間Tepの時間長さが等しい場合である。また、同図は、棒マイナス極性ENと棒プラス極性EPの電流振幅が等しい平衡波形の場合である。本発明においては、棒マイナス極性時間比率設定信号Rrは50%以外の値であっても良い。また、本発明においては、電流振幅が極性によって異なる非平衡波形であっても良い。さらに、本発明においては、電流波形が台形波以外の正弦波等であっても良い。
【0044】
同図において、時刻t1〜t7の期間が1周期となる。1周期は、時刻t3〜t4及び時刻t6〜t7の遷移期間分だけ
図1の交流周波数設定信号Frの値よりも長くなる。しかし、遷移期間は通常短い期間となるので、交流周波数設定信号Frによって1周期が設定されると見なして良い。
【0045】
上述したように、
図1の交流周波数設定回路FRは、溶接姿勢信号Mcに応じて変化する交流周波数設定信号Frを出力する。
【0046】
溶接姿勢信号Mc=1(下向き溶接姿勢)のときは、交流周波数設定信号Frは商用電源周波数(50Hz又は60Hz)に設定される。このようにすると、アークの硬直性、アーク力による溶融池の振動、アーク音当のアーク特性が従来技術と同様になるために、溶接作業者は違和感なしに溶接作業を行うことができる。
【0047】
溶接姿勢信号Mc=2(縦向き溶接姿勢)又は3(上向き溶接姿勢)のときは、交流周波数設定信号Frは商用電源周波数よりも高く設定される。さらに、100Hz以上に設定されることが望ましい。縦向き溶接姿勢又は上向き溶接姿勢の場合には、溶融金属の垂れ落ちが発生しやすいために、溶接品質が悪くなる。これを解決するためには、交流周波数を商用電源周波数よりも高くすると、アーク力による溶融池の振動が小さくなり、垂れ落ちを抑制することができる。このために、縦向き溶接姿勢又は上向き溶接姿勢あっても、良好な溶接品質を得ることができる。さらに、交流周波数を100Hz以上にすると、数Hz〜数十Hzとなる溶融池の固有振動数よりも高くなるので、溶融池が共振状態になることを回避することができる。この結果、アーク力による溶融池の振動をさらに小さくすることができ、垂れ落ちをより抑制することができる。
【0048】
上述した実施の形態1によれば、交流周波数を、溶接姿勢に応じて変化させる。さらに、実施の形態1によれば、溶接姿勢が縦向き又は上向きであるときは、交流周波数を商用電源周波数よりも高く設定する。さらに、実施の形態1によれば、溶接姿勢が縦向き又は上向きであるときは、交流周波数を100Hz以上に設定する。このようにすると、溶接姿勢に関わらず良好な溶接品質を得ることができる。
【0049】
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、溶接姿勢を、溶接棒ホルダに設けられたセンサによって自動判別するものである。
【0050】
図3は、本発明の実施の形態2に係る交流被覆アーク溶接方法を実施するための溶接装置のブロック図である。同図は上述した
図1と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図1に加速度センサ41を追加し、
図1の溶接姿勢選択回路MCを溶接姿勢判別回路MDに置換したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
【0051】
加速度センサ41は、溶接棒ホルダ4に設けられており、溶接棒の軸方向の加速度を検出する。
【0052】
溶接姿勢判別回路MDは、上記の加速度センサ41からの加速度信号を入力として溶接姿勢を判別し、溶接姿勢信号Mcを出力する。この回路は、下向き溶接姿勢を判別するとMc=1を出力し、縦向き溶接姿勢を判別するとMc=2を出力し、上向き溶接姿勢を判別するとMc=3を出力する。
【0053】
上述した実施の形態2によれば、溶接姿勢を、溶接棒ホルダに設けられたセンサによって自動判別する。このために、実施の形態2では、実施の形態1の効果に加えて、以下の効果を奏する。実施の形態2では、溶接姿勢をセンサによって自動判別して交流周波数を適正化するので、溶接作業者が溶接姿勢を設定する必要がなく、操作性が向上する。