【解決手段】金属製品の製造方法は、マーク用レーザビームを金属部材の表面に照射して表面を削ることによりマーキングを形成することと、マーキングが形成された金属部材を熱処理することと、表面で且つマーキングよりも広い領域に対して背景用レーザビームを照射して表面を削ることにより、マーキングよりも浅い背景を形成することとを含む。
前記金属部材を熱処理することの前に又は前記背景を形成することの後に、前記マーキングを読取装置によって読み取ることをさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
前記背景を形成することは、前記マーキングを避けることなく前記第2の領域内全体に前記背景用レーザビームを照射することを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
前記金属部材を熱処理することの前に、前記表面で且つ前記第1の領域を含む第3の領域に対して前記背景用レーザビームを照射して前記表面を削ることにより、前記マーキングよりも浅い仮背景を形成することをさらに含み、
前記背景を形成することは、前記表面で且つ前記第3の領域を含む前記第2の領域に対して前記背景用レーザビームを照射して前記表面を削ることにより、前記マーキングよりも浅く且つ前記仮背景よりも深い前記背景を形成することを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示に係る実施形態の一例について、図面を参照しつつより詳細に説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0010】
[回転子積層鉄心の構成]
まず、
図1〜
図3を参照して、金属製品の一例である回転子積層鉄心1の構成について説明する。回転子積層鉄心1は、回転子(ロータ)の一部である。回転子は、回転子積層鉄心1に端面板及びシャフト(共に図示せず)が取り付けられてなる。回転子積層鉄心1は、
図1に示されるように、積層体2(金属部材)と、カシメ部3と、識別コード10とを備える。
【0011】
積層体2は、円筒形状を呈している。すなわち、積層体2の中央部分には、
図1に示されるように、中心軸Axに沿って延びる貫通孔2aが設けられている。貫通孔2a内には、シャフトが配置可能である。なお、積層体2の熱処理、自然酸化等により、積層体2の表面2bに錆層R1(例えば、いわゆる赤錆(三酸化二鉄;Fe
2O
3))が存在している場合がある(例えば
図7参照)。当該錆層R1の厚さは、例えば、数μm以下であってもよい。
【0012】
積層体2は、複数の打抜部材Wが積み重ねられて構成されている。打抜部材Wは、電磁鋼板(金属板)が所定形状に打ち抜かれた板状体である。積層体2は、打抜部材W同士の角度を相対的にずらしながら複数の打抜部材Wを積層する、いわゆる転積によって構成されていてもよい。転積の角度は、任意の大きさに設定してもよい。
【0013】
カシメ部3は、打抜部材Wの積層方向(積層体2の高さ方向)において隣り合う打抜部材同士を締結する機能を有する。複数の打抜部材W同士は、カシメ部3に代えて、種々の公知の方法にて締結されてもよい。例えば、複数の打抜部材W同士は、例えば、接着剤又は樹脂材料を用いて互いに接合されてもよいし、溶接によって互いに接合されてもよい。あるいは、打抜部材Wに仮カシメを設け、仮カシメを介して複数の打抜部材Wを締結して積層体を得た後、仮カシメを当該積層体から除去することによって、積層体2を得てもよい。なお、「仮カシメ」とは、複数の打抜部材Wを一時的に一体化させるのに使用され且つ製品(積層体2)を製造する過程において取り除かれるカシメを意味する。
【0014】
積層体2には、中心軸Axの延在方向(積層方向)に沿って延びると共に自身を貫通する少なくとも一つの磁石挿入孔(図示せず)が設けられていてもよい。磁石挿入孔内には、永久磁石(図示せず)が配置された状態で、樹脂材料が充填されていてもよい。樹脂材料は、永久磁石を磁石挿入孔内において固定する機能と、上下方向で隣り合う打抜部材W同士を接合する機能とを有する。
【0015】
[識別コードの詳細]
識別コード10は、
図1に示されるように、積層体2の表面2b(上面又は下面)、すなわち、積層体2の最上層又は最下層をなす打抜部材Wの外表面に設けられている。識別コード10は、当該識別コード10を備える回転子積層鉄心1の個体(例えば、品種、製造日時、使用材料、製造ライン等)を識別するための個体情報を保持する機能を有する。識別コード10は、明模様と暗模様との組み合わせにより当該個体情報を保持することができれば特に限定されず、例えば、バーコードであってもよいし、二次元コードであってもよい。二次元コードとしては、例えば、QRコード(登録商標)、DataMatrix、Vericode等であってもよい。
【0016】
識別コード10は、
図2に詳しく示されるように、背景12と、黒色マーキング14(マーキング)とで構成されている。識別コード10は、これらの背景12及び黒色マーキング14の組み合わせにより、所定模様をなしている。
【0017】
より詳しくは、識別コード10は、仮想的な複数のセル16を有している。複数のセル16は、格子状に配列されており、全体として識別コード10の大きさに対応している。なお、
図2には各セル16を区画する格子状の線が示されているが、これらの線は、本実施形態の理解促進のために便宜的に描いたものであり、実際の識別コード10には存在していない。
【0018】
セル16の大きさは、特に限定されず、要求される識別コード10の性能に応じて種々の大きさであってもよい。セル16の形状は、特に限定されず、例えば正方形状、矩形状、円形状、多角形状、その他の不定形状等であってもよい。本実施形態では、セル16は、例えば、0.15mm×0.15mmの正方形状、0.285mm×0.285mmの正方形状等に設定されている。以下では、背景12が形成されたセル16を白色セル16aと呼び、黒色マーキング14が形成されたセル16を黒色セル16bと呼ぶこととする。
【0019】
背景12は、背景用レーザビームが積層体2の表面2bに照射されることで形成される。背景12の大きさは、特に限定されず、積層体2の大きさ、打抜部材Wの素材の種類、識別コード10の形成位置等に応じて種々の大きさであってもよい。背景12の形状は、特に限定されず、例えば正方形状、矩形状、円形状、多角形状、その他の不定形状等であってもよい。本実施形態では、背景12は、例えば、5mm×5mmの正方形状に設定されている。
【0020】
背景12を形成するための背景用レーザビームとしては、例えば、YAGレーザ、YVO
4レーザ、ファイバレーザ等が挙げられる。背景用レーザビームは、連続波発振(CW:Continuous Wave)レーザであってもよいし、パルス発振レーザであってもよい。背景用レーザビームのビーム径(ビームが照射対象に至る前の光線の直径)、スポット径(背景用レーザビームが照射対象物に照射されたときの当該照射対象物の表面における光線の直径)及び出力は、特に限定されず、ビームの種類、打抜部材Wの素材の種類、打抜部材Wの厚さ等に応じて種々の大きさであってもよい。
【0021】
白色セル16aは、背景用レーザビームを表面2bに照射しつつ一定の方向に沿って走査することが複数列繰り返されることによって構成されている。換言すれば、白色セル16aは、
図3に示されるように、背景用レーザによって表面2bが削られて生じた窪みによって構成されている。より微視的に見ると、白色セル16aは、当該一定の方向に沿って延びるレーザ溝が複数列並んで構成されている。白色セル16aの深さは、例えば、数μm〜数十μm程度であってもよく、錆層R1よりも大きくてもよい。
【0022】
黒色マーキング14は、本実施形態では、マーク用レーザビームが表面2bに照射されることで形成される。黒色マーキング14は、マーク用レーザビームによって打抜部材Wが酸化し、黒色となったものである。黒色マーキング14は、所定の模様を呈しており、背景12内に位置している。黒色マーキング14は、周囲の背景12と共に識別コード10を構成している。具体的には、黒色マーキング14は、
図2に示されるように、セル16にマーク用レーザビームが照射されてセル16が黒色に塗りつぶされてなる複数の黒色セル16bの集合体である。
【0023】
黒色マーキング14を形成するためのマーク用レーザビームは、背景用レーザビームと同様であってもよい。ただし、マーク用レーザビームの出力は、背景用レーザビームの出力よりも大きく、例えば、背景用レーザビームの出力の10倍以上であってもよい。
【0024】
黒色セル16bは、マーク用レーザビームを表面2bに照射しつつ一定の方向に沿って走査することが複数列繰り返されることによって構成されている。換言すれば、黒色セル16bは、
図3に示されるように、マーク用レーザビームによって表面2bが削られて生じた窪みによって構成されている。より微視的に見ると、黒色セル16bは、当該一定の方向に沿って延びるレーザ溝が複数列並んで構成されている。黒色セル16bの深さは、白色セル16aの深さよりも深く設定されており、例えば、50μm〜70μm程度であってもよい。
【0025】
詳しくは後述するが、黒色セル16bを構成するレーザ溝の内壁面(主として底壁面)には、ブルーイングによる酸化皮膜R2(例えば、いわゆる黒錆(四酸化三鉄;Fe
3O
4))が形成されている。酸化皮膜R2の厚さは、ごく薄く、例えば0.05μm〜5μm程度である。
【0026】
[識別コードの形成装置の構成]
続いて、
図4を参照して、積層体2に識別コード10を形成する形成装置100について説明する。形成装置100は、搬送コンベア101と、レーザ装置102,103と、熱処理炉104と、カメラ105,106(読取装置)と、コントローラ107(制御部)とを備える。
【0027】
搬送コンベア101は、コントローラ107からの指示に基づいて動作し、載置されている積層体2又は回転子積層鉄心1を所定方向に搬送する機能を有する。
【0028】
レーザ装置102は、搬送コンベア101の上方で且つ熱処理炉104の上流側に位置している。レーザ装置102は、搬送コンベア101によって搬送されている積層体2がレーザ装置102の下方を通過する際に、コントローラ107からの指示に基づいて、マーク用レーザビームを照射可能に構成されている。レーザ装置102からマーク用レーザビームが積層体2の表面2bに照射されると、表面2bに黒色マーキング14が形成される。
【0029】
レーザ装置103は、搬送コンベア101の上方で且つ熱処理炉104の下流側に位置している。レーザ装置103は、搬送コンベア101によって搬送されている積層体2がレーザ装置103の下方を通過する際に、コントローラ107からの指示に基づいて、背景用レーザビームを照射可能に構成されている。レーザ装置103から背景用レーザビームが積層体2の表面2bに照射されると、表面2bに背景12が形成される。
【0030】
熱処理炉104は、コントローラ107からの指示に基づいて動作し、内部に投入された積層体2を加熱する機能を有する。熱処理炉104による熱処理としては、例えば、バーンオフ、焼鈍、ブルーイング等が挙げられる。バーンオフとは、積層体2を構成する打抜部材Wの表面に付着している油を除去する(蒸発させる)処理であり、積層体2が例えば400℃〜450℃程度に加熱される。焼鈍とは、積層体2を構成する打抜部材Wの内部に残留している歪みを除去する処理であり、積層体2が例えば700℃〜900℃程度に加熱される。ブルーイングとは、積層体2を構成する打抜部材Wの防錆を目的として、打抜部材Wの表面を意図的に酸化させて打抜部材Wの切断面に酸化皮膜R2を形成する処理であり、積層体2が例えば350℃〜400℃程度に加熱される。
【0031】
カメラ105は、搬送コンベア101の上方で且つレーザ装置102と熱処理炉104との間に位置している。カメラ105は、コントローラ107からの指示に基づいて動作し、搬送コンベア101によって搬送されている積層体2がカメラ105の下方を通過する際に、表面2b上の黒色マーキング14を撮像する機能を有する。
【0032】
カメラ106は、搬送コンベア101の上方で且つレーザ装置103の下流側に位置している。カメラ106は、コントローラ107からの指示に基づいて動作し、搬送コンベア101によって搬送されている積層体2がカメラ106の下方を通過する際に、識別コード10を撮像する機能を有する。
【0033】
カメラ105,106は、光源(例えばフラッシュ光源)を含んでいてもよい。この場合、黒色マーキング14又は識別コード10の撮像の際に、コントローラ107がカメラ105,106の光源に指示して、積層体2の表面2bに光を照射させてもよい。
【0034】
コントローラ107は、例えば、記録媒体(図示せず)に記録されているプログラム又はオペレータからの操作入力等に基づいて、搬送コンベア101、レーザ装置102,103、熱処理炉104及びカメラ105,106をそれぞれ動作させるための指示信号を生成し、当該指示信号をこれらに送信する。コントローラ107は、カメラ105,106によって撮像された撮像画像データを受信し、受信した当該撮像画像データを処理することにより、黒色マーキング14又は識別コード10に記録されている情報を識別する。
【0035】
[回転子積層鉄心の製造方法]
続いて、
図5〜
図7を参照して、積層体2に識別コード10を形成して回転子積層鉄心1を製造する方法を説明する。まず、帯状の金属板である電磁鋼板(被加工板)から打抜部材Wを打ち抜きつつ積層することで、積層体2を形成する(
図5のステップS11参照)。
【0036】
次に、コントローラ107が搬送コンベア101を制御して、積層体2を下流側に搬送する。積層体2がレーザ装置102に到達すると、コントローラ107がレーザ装置102を制御して、積層体2の表面2b(積層体2の最上層又は最下層をなす打抜部材Wの外表面)にマーク用レーザビームを照射する。具体的には、マーク用レーザビームを一定の方向に沿って走査することを複数列繰り返す。これにより、表面2bの領域A1(第1の領域)内に黒色マーキング14が形成される(
図5のステップS12及び
図6参照)。このとき、表面2bには背景用レーザが照射されていないので、表面2bに背景12は形成されていない。
【0037】
次に、コントローラ107が搬送コンベア101を制御して、積層体2を下流側に搬送する。積層体2がカメラ105の下方に到達すると、コントローラ107がカメラ105を制御して、光源により表面2bを照射しつつ、黒色マーキング14をカメラ105によって撮像する。これにより、黒色マーキング14とその周囲との間で明暗のコントラストが高まり、黒色マーキング14に記録されている情報がコントローラ107によって読み取られる(
図5のステップS13参照)。このときの黒色マーキング14の読取条件(例えば、露光時間、読取角度、フラッシュ光量等のパラメータ)は、黒色マーキング14を読み取ることができる適切な条件に設定されていてもよい。黒色マーキング14の読み取りの結果、読取不良が発生したとコントローラ107が判断した場合には、読取不良が発生した積層体2を搬送コンベア101から除外してもよい。
【0038】
次に、コントローラ107が搬送コンベア101を制御して、積層体2を下流側に搬送する。積層体2が熱処理炉104に到達すると、コントローラ107が熱処理炉104を制御して、積層体2に対して所定の熱処理を行う(
図5のステップS14参照)。例えば、積層体2が熱処理炉104内を搬送される過程で、積層体2に対して、バーンオフ、焼鈍、ブルーイングがこの順で行われる。
【0039】
ここで、熱処理炉104で積層体2が熱処理される前に、黒色マーキング14が表面2bに形成されている。そのため、積層体2が熱処理を経ると、黒色セル16bを構成するレーザ溝の内壁面(主として底壁面)に、ブルーイングによる酸化皮膜R2が形成されることがある。酸化皮膜R2は、当該内壁面の全体に形成されていてもよいし、当該内壁面に部分的に形成されていてもよい。一方、積層体2の熱処理、自然酸化等により、積層体2の表面2bに錆層R1が形成されることがある(
図7(a)参照)。
図7(a)に示されるように、錆層R1が表面2bに存在していると、黒色マーキング14とその周囲との間でのコントラストがほとんど失われる。
【0040】
次に、コントローラ107が搬送コンベア101を制御して、積層体2を下流側に搬送する。積層体2がレーザ装置103に到達すると、コントローラ107がレーザ装置103を制御して、表面2bに背景用レーザビームを照射する。具体的には、黒色マーキング14を含む領域A2(第2の領域)に対して、背景用レーザビームを一定の方向に沿って走査することを複数列繰り返す。領域A2は、例えば、領域A1と同等の大きさであってもよいし、領域A1よりも大きくてもよい。すなわち、領域A1は、少なくとも領域A2内に含まれていてもよい。これにより、表面2bに背景12が形成される(
図5のステップS15及び
図7(b)参照)。背景12は熱処理炉104による積層体2の熱処理後に形成されるので、白色セル16aを構成するレーザ溝の内壁面には、酸化皮膜R2が形成されていない。以上により、積層体2の表面2bに識別コード10が設けられた回転子積層鉄心1が完成する。
【0041】
次に、コントローラ107が搬送コンベア101を制御して、積層体2を下流側に搬送する。積層体2がカメラ106の下方に到達すると、コントローラ107がカメラ106を制御して、光源により表面2bを照射しつつ、識別コード10をカメラ106によって撮像する。これにより、黒色マーキング14とその周囲の背景12との間で明暗のコントラストが高まり、識別コード10(黒色マーキング14)に記録されている情報がコントローラ107によって読み取られる(
図5のステップS16参照)。このときの識別コード10の読取条件(例えば、露光時間、読取角度、フラッシュ光量等のパラメータ)は、識別コード10を読み取ることができる適切な条件に設定されていてもよい。識別コード10の読み取りの結果、読取不良が発生したとコントローラ107が判断した場合には、読取不良が発生した回転子積層鉄心1を搬送コンベア101から除外してもよい。
【0042】
[作用]
上記の実施形態では、熱処理が行われた後の積層体2の表面2bに対して背景12が形成される。そのため、背景12の形成の際に、熱処理により変色等した表面2bが、背景用レーザビームによって削られる。従って、形成された背景12には変色等がほとんど存在していないので、黒色マーキング14と背景12との間でのコントラストが向上する。その結果、識別コード10の読み取り性を高めることが可能となる。
【0043】
上記の実施形態では、積層体2の熱処理前に黒色マーキング14が形成されている。そのため、当該黒色マーキング14の存在により、熱処理の前後において積層体2の同一性を担保することが可能となる。
【0044】
上記の実施形態では、マーク用レーザビーム及び背景用レーザビームが共に同じ方向に走査されうる。この場合、黒色マーキング14をなすレーザ溝及び背景12をなすレーザ溝が、どの列についても、それぞれ一定の方向に延びる。そのため、黒色マーキング14からの反射光が略同じ方向に反射しやすくなると共に、背景12からの反射光が略同じ方向に反射しやすくなる。従って、黒色マーキング14と背景12との間でのコントラストがより向上する。その結果、識別コード10の読み取り性をより高めることが可能となる。
【0045】
上記の実施形態では、背景12の深さが、表面2bに存在する錆層R1よりも深く且つ黒色マーキング14の深さよりも浅く設定されうる。この場合、背景12の形成時に、背景12によって黒色マーキング14が潰されることなくなると共に、読み取り性を低める要因となる錆層R1がより確実に除去される。そのため、黒色マーキング14と背景12との間でのコントラストがさらに向上する。従って、識別コード10の読み取り性をさらに高めることが可能となる。
【0046】
上記の実施形態では、積層体2の熱処理前に、カメラ105,106によって黒色マーキング14を読み取っている。そのため、黒色マーキング14の形成不良が生じている積層体2を熱処理前に予め除外することができる。従って、積層体2の熱処理を効率的に行うことが可能となる。
【0047】
上記の実施形態では、背景12の形成後に、カメラ105,106によって黒色マーキング14を読み取っている。そのため、回転子積層鉄心1の出荷に適した識別コード10が積層体2に設けられているか否かを判定することができる。従って、識別コード10を安定して読み取り可能な回転子積層鉄心1を出荷することが可能となる。
【0048】
上記の実施形態では、黒色マーキング14又は識別コード10の読み取りの際に、光源によって表面2bが照明されうる。この場合、撮像画像の一部であって、黒色マーキング14の周囲に対応する部分に、白飛びが発生しやすくなる。そのため、黒色マーキング14とその周囲との間でのコントラストがいっそう向上する。その結果、黒色マーキング14の読み取り性をいっそう高めることが可能となる。
【0049】
上記の実施形態では、積層体2の熱処理前に、表面2bに背景用レーザビームが照射されていない。積層体2の熱処理前であれば、積層体2の表面2bには熱処理による変色等が存在していないので、表面2bに背景12が形成されていなくても、黒色マーキング14とその周囲との間でのコントラストが比較的高い状態にある。従って、積層体2の熱処理前において、背景12の形成を省略して黒色マーキング14を読み取れる。その結果、回転子積層鉄心1の製造効率を高めることが可能となる。
【0050】
[変形例]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、特許請求の範囲及びその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。
【0051】
(1)識別コード10は、背景12及び黒色マーキング14の組み合わせによって構成されていればよい。そのため、背景12を形成する際に、黒色マーキング14を避けることなく黒色マーキング14よりも広い領域内全体に背景用レーザビームを照射してもよい。この場合、背景用レーザビームによって形成される背景12は黒色マーキング14よりも浅いので、黒色マーキング14に重なるように背景用レーザビームが照射されても、黒色マーキング14がほとんど影響を受けない。そのため、背景用レーザビームが黒色マーキング14を避けるようにレーザ装置103を制御する必要がないので、背景12を効率的に形成することが可能となる。
【0052】
(2)マーク用レーザビームの走査方向は、背景用レーザビームの走査方向と同一であってもよいし異なっていてもよい。すなわち、マーク用レーザビームの走査方向は、背景用レーザビームの走査方向と反対向きであってもよいし、交差していてもよい。
【0053】
(3)背景用レーザビームの走査方向は、一定の方向でなくてもよい。例えば、蛇行状に変化するように背景用レーザビームが走査されてもよいし、渦巻状に変化するように背景用レーザビームが走査されてもよいし、往路と復路とで正反対の向きとなるように背景用レーザビームが走査されてもよい。マーク用レーザビームの走査方向についても同様に、一定の方向でなくてもよい。
【0054】
(4)積層体2内に永久磁石が設けられる場合、磁石の減磁を抑制するために、積層体2の両端面にそれぞれ、例えばステンレス製の金属端板を配置し、当該端板に識別コード10を設けるようにしてもよい。金属端板には所定の表面処理がなされることがあり、金属端板の表面の光沢が不均一になったり、金属端板の表面が鏡面状態となったりすることがある。しかしながら、このような場合であっても、本開示によれば黒色マーキング14とその周囲とのコントラストが高められるので、識別コード10の読み取り性を高めることが可能となる。
【0055】
(5)カメラ105,106によって黒色マーキング14又は識別コード10を撮像する際に、鮮明な撮像画像が得られるよう、照明等の撮像条件を適宜変更してもよい。
【0056】
(6)識別コード10は、白色セル16a及び黒色セル16bの組み合わせ以外によって構成されていてもよい。すなわち、識別コード10は、コントラストを高めることができれば、白色及び黒色の他に、他の種々の色を組み合わせて構成されていてもよい。例えば、識別コード10は、階層化二次元コード(色情報を多層化してなる二次元形状コード)であってもよい。階層化二次元コードとしては、例えば、PMコード(登録商標)等であってもよい。
【0057】
(7)積層体2の熱処理前に、表面2bに背景用レーザビームが照射されてもよい。当該変形例においては、レーザ装置102は、背景用レーザビーム及びマーク用レーザビームの双方を照射可能に構成されていてもよい。当該変形例について、
図8及び
図9を参照して具体的に説明する。まず、
図5のステップS11と同様に積層体2を形成し(
図8のステップS21参照)、積層体2をレーザ装置102に搬送する。次に、積層体2がレーザ装置102に到達すると、コントローラ107がレーザ装置102を制御して、表面2bの所定の領域(第3の領域)に背景用レーザビームを照射する。これにより、表面2bに仮背景18が形成される(
図8のステップS21及び
図9(a)参照)。仮背景18の深さは、錆層R1よりも大きくてもよいし、黒色マーキング14よりも浅くてもよい。仮背景18の深さは、例えば、数μm〜数十μm程度であってもよい。
【0058】
次に、コントローラ107がレーザ装置102を制御して、仮背景18の領域(第3の領域)に含まれる領域A1にマーク用レーザビームを照射する。仮背景18の領域(第3の領域)は、例えば、領域A1と同等の大きさであってもよいし、領域A1よりも大きくてもよい。すなわち、領域A1は、少なくとも仮背景18の領域(第3の領域)内に含まれていてもよい。これにより、表面2bで且つ仮背景18の範囲内に黒色マーキング14が形成される(
図8のステップS23及び
図9(a)参照)。これにより、表面2bに仮識別コード20が設けられる。なお、仮背景18と黒色マーキング14との形成順は逆であってもよい。仮背景18と黒色マーキング14とが同じレーザ装置102によって同時に形成されてもよい(すなわち、
図8のステップS22とステップS23とが同時に行われてもよい)。あるいは、仮背景18と黒色マーキング14とが異なるレーザ装置によってそれぞれ形成されてもよい。
【0059】
次に、積層体2をカメラ105の下方に搬送する。積層体2がカメラ105の下方に到達すると、コントローラ107がカメラ105を制御して、光源により表面2bを照射しつつ、仮識別コード20をカメラ105によって撮像する。これにより、黒色マーキング14とその周囲の仮背景18との間で明暗のコントラストが高まり、黒色マーキング14に記録されている情報がコントローラ107によって読み取られる(
図8のステップS24参照)。
【0060】
次に、
図5のステップS14と同様に積層体2を熱処理した後(
図8のステップS25参照)、積層体2をレーザ装置103に搬送する。積層体2がレーザ装置103に到達すると、コントローラ107がレーザ装置103を制御して、仮背景18の領域(第3の領域)を含む領域A2に背景用レーザビームを照射する。領域A2は、例えば、仮背景18の領域(第3の領域)と同等の大きさであってもよいし、仮背景18の領域(第3の領域)よりも大きくてもよい。すなわち、仮背景18の領域(第3の領域)は、少なくとも領域A2内に含まれていてもよい。これにより、表面2bに背景12が形成される(
図8のステップS26及び
図9(b)参照)。このとき、背景12の深さが仮背景18よりも深くなるように、背景用レーザビームの照射条件が調節されていてもよい。その後、
図5のステップS16と同様に、表面2bの識別コード10を読み取る(
図8のステップS27参照)。
【0061】
上記の変形例7によれば、積層体2の熱処理前において、黒色マーキング14の周囲に仮背景18が形成された状態となる。そのため、積層体2の熱処理前において、黒色マーキング14の読み取り性をより高めることが可能となる。
【0062】
(8)黒色マーキング14の外形から背景12の外形までの離間距離(いわゆる、クワイエットゾーン)が識別コード10の全周にわたって均一であってもよい。あるいは、背景12は、黒色マーキング14に対して偏在していてもよい。換言すれば、クワイエットゾーンが識別コード10の全周にわたって均一でなくてもよい。この場合、黒色マーキング14の形成時と背景12の形成時とでそれぞれ積層体2を高精度で位置決めする必要がなくなる。そのため、回転子積層鉄心1の製造効率を高めることが可能となる。
【0063】
(9)回転子積層鉄心1のみならず、固定子積層鉄心に対して本開示の主旨を適用してもよいし、その他の種々の金属製品に対して本発明を適用してもよい。
【0064】
[例示]
例1.本開示の一つの例に係る金属製品(1)の製造方法は、マーク用レーザビームを金属部材(2)の表面(2b)に照射して表面(2b)を削ることにより、表面(2b)の第1の領域(A1)内にマーキング(14)を形成することと、マーキング(14)が形成された金属部材(2)を熱処理することと、表面(2b)で且つ第1の領域(A1)を含む第2の領域(A2)に対して背景用レーザビームを照射して表面を削ることにより、マーキング(14)よりも浅い背景(12)を形成することとを含む。
【0065】
例1によれば、熱処理が行われた後の金属部材に対して背景が形成される。そのため、背景の形成の際に、熱処理により変色等した金属部材の表面が、背景用レーザビームによって削られる。従って、形成された背景には変色等がほとんど存在していないので、マーキングと背景との間でのコントラストが向上する。その結果、識別コードの読み取り性を高めることが可能となる。加えて、例1によれば、金属部材の熱処理前にマーキングが形成されている。そのため、当該マーキングの存在により、熱処理の前後において金属部材の同一性を担保することが可能となる。
【0066】
例2.例1の方法において、マーキング(14)を形成することは、マーク用レーザビームを一定の方向に走査することを含み、背景(12)を形成することは、背景用レーザビームを一定の方向に走査することを含んでいてもよい。この場合、マーキングをなすレーザ溝及び背景をなすレーザ溝が、どの列についても、それぞれ一定の方向に延びる。そのため、マーキングからの反射光が略同じ方向に反射しやすくなると共に、背景からの反射光が略同じ方向に反射しやすくなる。従って、マーキングと背景との間でのコントラストがより向上する。その結果、識別コードの読み取り性をより高めることが可能となる。
【0067】
例3.例1又は例2の方法において、背景(12)の深さは、表面(2b)に存在する錆層よりも深く且つマーキング(14)の深さよりも浅くてもよい。この場合、背景の形成時に、背景によってマーキングが潰されることがなくなると共に、読み取り性を低める要因となる錆層がより確実に除去される。そのため、マーキングと背景との間でのコントラストがさらに向上する。従って、識別コードの読み取り性をさらに高めることが可能となる。
【0068】
例4.例1〜例3のいずれかの方法は、金属部材(2)を熱処理することの前に又は背景(12)を形成することの後に、マーキング(14)を読取装置(105,106)によって読み取ることをさらに含んでいてもよい。金属部材の熱処理前にマーキングを読取装置によって読み取る場合には、マーキングの形成不良が生じている金属部材を熱処理前に予め除外することができる。そのため、金属部材の熱処理を効率的に行うことが可能となる。また、背景の形成後にマーキングを読取装置によって読み取る場合には、金属製品の出荷に適した識別コードが金属部材に設けられているか否かを判定することができる。そのため、識別コードを安定して読み取り可能な金属製品を出荷することが可能となる。
【0069】
例5.例4の方法において、マーキング(14)を読み取ることは、表面(2b)を照明した状態でマーキング(14)を読取装置(105,106)によって読み取ることを含んでいてもよい。この場合、撮像画像の一部であって、マーキングの周囲に対応する部分に、白飛びが発生しやすくなる。そのため、マーキングとその周囲との間でのコントラストがいっそう向上する。その結果、識別コードの読み取り性をいっそう高めることが可能となる。
【0070】
例6.例1〜例5のいずれかの方法において、背景(12)を形成することは、マーキング(14)を避けることなく第2の領域(A2)内全体に背景用レーザビームを照射することを含んでいてもよい。この場合、背景用レーザビームによって形成される背景はマーキングよりも浅いので、マーキングに背景用レーザビームが照射されても、マーキングがほとんど影響を受けない。そのため、背景用レーザビームがマーキングを避けるようにレーザ光源を制御する必要がないので、背景を効率的に形成することが可能となる。
【0071】
例7.例1〜例6のいずれかの方法において、金属部材(2)を熱処理することの前に、表面(2b)に背景用レーザビームが照射されなくてもよい。この場合、金属部材の熱処理前において、金属部材の表面には熱処理による変色等が存在していない。そのため、マーキングの周囲に背景がなくても、マーキングとその周囲との間でのコントラストが比較的高い状態にある。従って、金属部材の熱処理前において、背景の形成を省略してマーキングを読み取れるので、金属製品の製造効率を高めることが可能となる。
【0072】
例8.例1〜例6のいずれかの方法は、金属部材(2)を熱処理することの前に、表面(2b)で且つ第1の領域(A1)を含む第3の領域に対して背景用レーザビームを照射して表面(2b)を削ることにより、マーキング(14)よりも浅い仮背景(18)を形成することをさらに含み、背景(12)を形成することは、表面(2b)で且つ第3の領域を含む第2の領域(A2)に対して背景用レーザビームを照射して表面(2b)を削ることにより、マーキング(14)よりも浅く且つ仮背景よりも深い背景を形成することを含んでいてもよい。この場合、金属部材の熱処理前において、マーキングの周囲に仮背景が形成される。そのため、金属部材の熱処理前において、マーキングの読み取り性を高めることが可能となる。
【0073】
例9.例1〜例8のいずれかの方法において、背景(12)を形成することは、マーキング(14)に対して偏在するように背景(12)を形成することを含んでいてもよい。この場合、マーキングの形成時と背景の形成時とで金属部材を高精度で位置決めする必要がなくなる。そのため、金属製品の製造効率を高めることが可能となる。
【0074】
例10.本開示の他の例に係る金属製品(1)は、背景(12)及びマーキング(14)の組み合わせにより所定模様をなす識別コード(10)が金属部材(2)の表面に形成された金属製品(1)である。背景(12)は表面(2b)から窪んだ凹部である。マーキング(14)は背景(12)よりも深く窪んだ凹部である。背景(12)の内壁面はブルーイング処理に由来する酸化皮膜(R2)を含んでいない。マーキング(14)の内壁面はブルーイング処理に由来する酸化皮膜(R2)を含む。この場合、マーキングの内壁面は酸化皮膜を含むので、熱処理前にマーキングが形成されている。一方、背景の内壁面は酸化皮膜を含まないので、熱処理後に背景が形成されている。そのため、例10の金属製品によれば、例1と同様の作用効果を奏する。
【0075】
例11.例10の金属製品(1)において、酸化皮膜(R2)は黒錆であってもよい。
【0076】
例12.例10又は例11の金属製品(1)において、背景(12)は、一定の方向に沿って延びるレーザ溝が複数列並んで構成されており、マーキング(14)は、一定の方向に沿って延びるレーザ溝が複数列並んで構成されていてもよい。この場合、例2と同様の作用効果を奏する。