特開2019-196326(P2019-196326A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • 2019196326-VEGF結合阻害剤 図000004
  • 2019196326-VEGF結合阻害剤 図000005
  • 2019196326-VEGF結合阻害剤 図000006
  • 2019196326-VEGF結合阻害剤 図000007
  • 2019196326-VEGF結合阻害剤 図000008
  • 2019196326-VEGF結合阻害剤 図000009
  • 2019196326-VEGF結合阻害剤 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-196326(P2019-196326A)
(43)【公開日】2019年11月14日
(54)【発明の名称】VEGF結合阻害剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20191018BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20191018BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20191018BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20191018BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20191018BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20191018BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20191018BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20191018BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20191018BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20191018BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20191018BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20191018BHJP
【FI】
   C07K19/00ZNA
   C07K14/00
   C12P21/00 Z
   A61P35/00
   A61P29/00 101
   A61P19/02
   A61P9/10
   A61P27/02
   A61P43/00 111
   A61P43/00 105
   A61K38/10
   A61K38/16
   A61K47/65
   A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-90380(P2018-90380)
(22)【出願日】2018年5月9日
(71)【出願人】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104307
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 尚司
(72)【発明者】
【氏名】道上 雅孝
(72)【発明者】
【氏名】藤井 郁雄
【テーマコード(参考)】
4B064
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064BJ12
4B064DA01
4C076AA95
4C076CC04
4C076CC09
4C076CC10
4C076CC11
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE41Q
4C076EE59
4C076EE59Q
4C076FF63
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA18
4C084BA19
4C084BA23
4C084BA26
4C084BA41
4C084BA42
4C084CA59
4C084DC50
4C084NA03
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA361
4C084ZA961
4C084ZB151
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZC421
4C084ZC521
4C084ZC751
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA17
4H045BA19
4H045BA41
4H045EA20
4H045FA10
4H045FA33
4H045GA23
(57)【要約】      (修正有)
【課題】より活性が強い血管内皮増殖因子(VEGF)と膜貫通型チロシンキナーゼ受容体(VEGFR)との結合ないし相互作用の阻害を示すVEGF結合阻害剤を提供する。
【解決手段】VEGFRとの相互作用を阻害しないVEGF結合性の特定の配列を有するアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列から置換されたアミノ酸が、結合長が5〜80Åとなるリンカーで結合された結合体ペプチドとする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1〜4の何れかのアミノ酸配列を有するペプチドと、配列番号5のアミノ酸配列を有するペプチド又は配列番号5のN末端から16〜20残基目の一つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたペプチドと、リンカーを有する結合体ペプチドであって、
配列番号1〜4の何れかのアミノ酸配列を有するペプチドの溶媒露出面にあるアミノ酸残基のうちの何れか1つのアミノ酸と、
配列番号5のN末端から16〜20残基目のアミノ酸の何れか1つのアミノ酸又は当該アミノ酸を他の任意のアミノ酸に置換した後のアミノ酸が、
結合長が5〜80Åとなる前記リンカーで結合された結合体ペプチド。
但し、配列番号1〜4に示すアミノ酸Xは任意のアミノ酸である。
【請求項2】
配列番号1〜4の何れかのアミノ酸配列を有するペプチドの溶媒露出面にあるアミノ酸残基が、他の任意のアミノ酸に置換された請求項1に記載の結合体ペプチド。
【請求項3】
配列番号1に示すアミノ酸配列を有するペプチドの溶媒露出面にある前記アミノ酸残基は、当該アミノ酸配列のN末端から3残基目、4残基目、7残基目、9残基目、10残基目、11残基目、13残基目、14残基目、20残基目、28残基目、30残基目、31残基目、34残基目、36残基目、37残基目、41残基目、42残基目のアミノ酸のうちの何れか1つのアミノ酸である請求項1又は2に記載の結合体ペプチド。
【請求項4】
配列番号1〜4の何れかのアミノ酸配列を有するペプチドのN末端から10番目のアミノ酸と、配列番号10のアミノ酸配列を有するペプチドのN末端から18番目のアミノ酸が結合された請求項1又は2に記載の結合体ペプチド。
【請求項5】
配列番号1〜4の何れかのアミノ酸配列を有するペプチドのN末端から10番目のアミノ酸XがLys(K)であり、配列番号10のアミノ酸配列を有するペプチドのN末端から18番目のアミノ酸がLys(K)に置換された請求項2に記載の結合体ペプチド。
【請求項6】
配列番号6〜9の何れかのアミノ酸配列を有するペプチドと、配列番号5のアミノ酸配列を有するペプチド又は配列番号5のN末端から16〜20残基目の一つのアミノ酸が他の任意のアミノ酸に置換されたペプチドと、リンカーを有する結合体ペプチドであって、
配列番号6〜9に示すアミノ酸配列を有するペプチドの溶媒露出面にあるアミノ酸残基のうちの何れか1つのアミノ酸と、
配列番号5のN末端から16〜20残基目のアミノ酸の何れか1つのアミノ酸又置換後のアミノ酸が、
結合長が5〜80Åとなる前記リンカーで結合された結合体ペプチド。
【請求項7】
配列番号6〜9に示すアミノ酸配列を有するペプチドの溶媒露出面にあるアミノ酸残基のうちの何れか1つのアミノ酸が他の任意のアミノ酸に置換された請求項6に記載の結合体ペプチド。
【請求項8】
配列番号6に示すアミノ酸配列を有するペプチドの3残基目、4残基目、7残基目、9残基目、10残基目、11残基目、13残基目、14残基目、20残基目、28残基目、30残基目、31残基目、34残基目、36残基目、37残基目、41残基目、42残基目のアミノ酸のうちの何れか1つのアミノ酸と、
配列番号5のN末端から16〜20残基目のアミノ酸の何れか1つのアミノ酸又置換後のアミノ酸が、
結合長が5〜80Åとなる前記リンカーで結合された結合体ペプチド。
【請求項9】
配列番号6に示すアミノ酸配列を有するペプチドの3残基目、4残基目、7残基目、9残基目、10残基目、11残基目、13残基目、14残基目、20残基目、28残基目、30残基目、31残基目、34残基目、36残基目、37残基目、41残基目、42残基目のアミノ酸のうちの何れか1つのアミノ酸が、他の任意のアミノ酸に置換された請求項8に記載の結合体ペプチド。
【請求項10】
配列番号6〜9の何れかのアミノ酸配列を有するペプチドのN末端から10番目のアミノ酸と、配列番号10のアミノ酸配列を有するペプチドのN末端から18番目のアミノ酸が結合された請求項7〜9の何れか1項に記載の結合体ペプチド。
【請求項11】
配列番号6〜9の何れかのアミノ酸配列を有するペプチドのN末端から10番目のアミノ酸がLys(K)であり、配列番号10のアミノ酸配列を有するペプチドのN末端から18番目のアミノ酸がLys(K)に置換された請求項9に記載の結合体ペプチド。
【請求項12】
配列番号1〜10の何れかのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加を含むアミノ酸配列を有する請求項1〜11の何れか1項に記載の結合体ペプチド。
【請求項13】
前記リンカーは、1〜20個のアミノ酸からなるペプチドである請求項1〜12の何れか1項に記載の結合体ペプチド。
【請求項14】
前記リンカーは、βアラニンからなるペプチドである請求項13に記載の結合体ペプチド。
【請求項15】
配列番号11のアミノ酸配列を有し、VEGFRとの相互作用を阻害しないVEGF結合性ペプチドの使用方法であって、
当該VEGF結合性ペプチドのN末端から3残基目、4残基目、7残基目、9残基目、10残基目、11残基目、13残基目、14残基目、20残基目、28残基目、30残基目、31残基目、34残基目、36残基目、37残基目、41残基目、42残基目のアミノ酸のうちの何れか1つのアミノ酸と、
VEGFに結合してVEGFRとの相互作用を阻害するVEGF結合阻害ペプチドのうち1のアミノ酸を、リンカーを介して結合することで、当該結合阻害ペプチドの阻害活性を高める方法。
但し、配列番号11に示すアミノ酸Xは任意のアミノ酸であるが、30残基目(X30)、31残基目(X31)、34残基目(X34)、37残基目(X37)、38残基目(X38)、41残基目(X41)のアミノ酸はP、T又はAではない。
【請求項16】
前記VEGF結合阻害ペプチドは、配列番号5のアミノ酸配列若しくは配列番号5のN末端から16〜20残基目のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなる請求項15に記載の方法。
【請求項17】
配列番号11及び/又は配列番号5のアミノ酸配列を有するペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加を含むアミノ酸配列からなる請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記リンカーは、1〜20個のアミノ酸からなるペプチドである請求項15〜17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
VEGFRとの相互作用を阻害しないVEGF結合性の配列番号11のアミノ酸配列を有するペプチドと、VEGFに結合してVEGFRとの相互作用を阻害するVEGF結合阻害ペプチドがリンカーにより結合された結合体ペプチドの設計方法であって、
VEGFに結合した前記VEGF結合性のペプチドの結晶解析モデルと、VEGFに結合した前記阻害ペプチドの結晶解析モデルの重ね合わせから、前記VEGF結合性のペプチドのN末端から3残基目、4残基目、7残基目、9残基目、10残基目、11残基目、13残基目、14残基目、20残基目、28残基目、30残基目、31残基目、34残基目、36残基目、37残基目、41残基目、42残基目のアミノ酸のうちの何れか1つのアミノ酸と、
前記VEGF結合阻害ペプチドのVEGFへの結合に関与しないアミノ酸との結合長を求めるステップを有する設計方法。
但し、配列番号11に示すアミノ酸Xは任意のアミノ酸であるが、30残基目(X30)、31残基目(X31)、34残基目(X34)、37残基目(X37)、38残基目(X38)、41残基目(X41)のアミノ酸はP、T又はAではない。
【請求項20】
前記VEGF結合性阻害ペプチドは配列番号5のアミノ酸配列を有するペプチド又は配列番号5のN末端から16〜20残基目の一つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたペプチドである請求項19に記載の設計方法。
【請求項21】
前記VEGF結合性阻害ペプチドのN末端から16〜20残基目のアミノ酸との結合長を求めるステップを有する請求項20に記載の設計方法。
【請求項22】
有効量の請求項1〜14の何れか1項に記載の結合体ペプチドを含む医薬組成物。
【請求項23】
抗がん用組成物、抗慢性関節リウマチ用組成物、抗糖尿病性網膜症用組成物、抗加齢黄班変性用組成物の何れかである請求項22に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はVEGF結合阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内皮増殖因子(VEGF: Vascular Endothelial Growth Factor)は、血管新生を調節するタンパク質である。血管新生は、脊椎動物の胎生期における循環器系の形成や多くの組織の構築に重要な役割を果たすとともに、成熟個体においても性周期における黄体形成、子宮内膜の一過性の増殖、胎盤形成などに関与する。また、がんの増殖転移、慢性関節リューマチの病態形成や促進、糖尿病性網膜症などにも関与し、血管新生はこれら生理的条件、病理的条件において重要視されている。VEGFがVEGF受容体の細胞外ドメインと結合すると、受容体が2量体化し、細胞内ドメインのチロシンキナーゼが活性化されシグナルが下流に伝達される。
【0003】
VEGFファミリーの一つであるVEGF-Aは最も強力に血管新生を亢進し、それが膜貫通型チロシンキナーゼ受容体VEGFR(VEGFR-1,VEGFR-2)と結合ないし相互作用することで、その生物学的作用を発揮する。従って、VEGFとVEGFRとの結合ないし相互作用を阻害することで血管新生が抑制され、がんの増殖や転移抑制、慢性関節リューマチや糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性の病態促進の抑止等に繋がることが期待される。
【0004】
ところで、生体内で安定化された抗体様ペプチドとして、ヘリックス−ループ−ヘリックス構造(Helix-Loop-Helix(HLH)構造)を有するペプチド(HLHペプチド)が特許文献1などに開示されている。ヘリックス−ループ−ヘリックス構造を有するペプチドは、N末側のアミノ酸配列(N末端側ヘリックス:Aブロック)と、C末側のアミノ酸配列(C末端側ヘリックス:Cブロック)と、AブロックとCブロックを結合するリンカー(ループ:Bブロック)を有する。AブロックとCブロックは、ループの存在によりそれぞれα−ヘリカルコイルドコイル構造を形成する。このペプチドは低分子構造でありながら溶液中で安定した二次構造を取り、分子中の溶媒側に露出する部分に化学的に異なる性質の官能基を導入しやすい。
【0005】
HLHペプチドを利用したVEGFとVEGFRとの結合ないし相互作用を阻害するVEGF結合阻害剤が特許文献2に開示されている。この阻害剤は、特定のアミノ酸配列を有するHLHペプチドとチオレドキシンの融合ペプチドであって、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の増殖阻害作用を示す。当該HLHペプチドはVEGFとVEGFRとの結合ないし相互作用を阻害することはない(特許文献2)。また、チオレドキシンもVEGFに対して結合性を示さず、VEGFとVEGFRとの結合ないし相互作用を阻害することはない。これらのことから、両者が結合することで大きな分子となり、立体障害を引き起すことでVEGFとVEGFRとの結合ないし相互作用を阻害すると考えられる。
【0006】
一方、VEGFに結合してVEGFとVEGFRとの結合ないし相互作用を阻害するペプチドが非特許文献1に開示されている。非特許文献1に開示されているペプチドの一つであるペプチドV108は分子量が2400ダルトン程度の小さな分子であって、VEGFR2のVEGF結合位置とほぼ同じ位置でVEGFに結合することでVEGFとVEGFRとの結合ないし相互作用を阻害すると考えられている(非特許文献2)。しかしながら、このペプチドのIC50は2.2μM程度であり、チオレドキシン融合ペプチドのIC50よりも1オーダー程度低いものの、阻害作用としては不十分なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−245397号公報
【特許文献2】特開2014−047156号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Wayne J. Fairbrother et al., Biochemistry, 1998, 37, 17754-17764
【非特許文献2】Wayne J. Fairbrother et al., Biochemistry, 1998, 37, 17765-17772
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明が解決しようとする課題は、より活性が強いVEGFとVEGFRとの結合ないし相互作用の阻害を示すVEGF結合阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明では、V108ペプチドのようなVEGFに結合してVEGFRとの相互作用を阻害するVEGF結合阻害ペプチドと、VEGF結合性のHLHペプチドをリンカーにより結合することで、VEGFとVEGFRとの結合ないし相互作用阻害が増強されたVEGF結合阻害剤とすることにした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、HLH構造により安定な立体構造を有する新規なVEGF結合阻害剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1はペプチドM49とVEGFの結合体の結晶構造解析画像と、ペプチドV108とVEGFの結合体の結晶構造解析画像、VEGFRとVEGFの結合体の結晶構造解析画像の重ね合わせ画像である。
図2図2はペプチドM49とVEGFの結合体の結晶構造解析画像と、ペプチドV108とVEGFの結合体の結晶構造解析画像の重ね合わせ画像である。
図3図3図2の重ね合わせ画像を異なる角度から見た画像である。
図4図4はペプチドM49(A10K)の製造工程図である。
図5図5はV108(E18K)の製造工程図である。
図6図6はM49(A10K)-V108(E18K)結合体の結合阻害活性を示す図である。
図7図7はM49(A10K)-V108(E18K)結合体(Ab7)の細胞増殖抑制作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明に係る結合体ペプチドは、いわゆるHLHペプチドとVEGF結合阻害ペプチドがリンカーで結合した結合体である。HLHペプチドは、VEGF結合性を示すが、VEGFRのVEGF結合位置と異なる位置でVEGFに結合するため、それ自身にVEGFとVEGFRとの結合ないし相互作用を阻害しないペプチド、すなわち単独ではVEGF結合阻害性を示さないペプチドが用いられる。
【0014】
このようなペプチドは配列番号11に示すアミノ酸配列(CXXELXXLEXELXXLEGXXXXXXXXXGKLXXLKXKLXXLKXAC)を有する。配列番号11のアミノ酸配列中のアミノ酸Xは任意のアミノ酸である(ただし、30残基目(X30)、31残基目(X31)、34残基目(X34)、37残基目(X37)、38残基目(X38)、41残基目(X41)はP、T又はAではない)。これらのアミノ酸Xは立体構造の維持に関して重要なアミノ酸ではなく、任意のアミノ酸を配置してもいわゆるHLH構造を保持し得る。
【0015】
本願発明においては、このアミノ酸配列を有するペプチドの中でも、配列番号1〜4のアミノ酸配列を有するペプチドが好ましく、より具体的には配列番号6〜9のアミノ酸配列番号を有するペプチドが好ましく用いられる。配列番号6〜9のアミノ酸配列を有するペプチドは特許文献2において、Clone49、Clone42、Clone41、Clone36から得られた各ペプチド、ペプチドM49(CAAELAALEAELAALEGPWKGYPIPYGKLQFLIKKLKQLKVAC:配列番号6)、ペプチドM42(CAAELAALEAELAALEGNSDYPWIGWGKLGELKQKLLKLKNAC:配列番号7)、ペプチドM41(CAAELAALEAELAALEGPDLMVWWGWDKLNQLKHKLDHLKVAC:配列番号8)、ペプチドM36(CAAELAALEAELAALEGTYRASTWWWGKLFQLKNKLHQLKYAC:配列番号9)である。これらのペプチドは、VEGFに対して比較的強い結合性を示すが、VEGF結合阻害作用を持たないことが示されている(特許文献2)。
【0016】
配列番号1〜4のアミノ酸配列を有するペプチドは、配列番号6〜9のアミノ酸配列を有するペプチドにおいて、N末端から2残基目(X2)、3残基目(X3)、6残基目(X6)、7残基目(X7)、10残基目(X10)、13残基目(X13)、14残基目(X14)のアミノ酸が任意のアミノ酸Xに置換されたペプチドである。ここで、配列番号6〜9においてはループ部分を形成するBブロックのアミノ酸配列が異なり、Aブロックを構成する1〜17残基目とCブロックを構成する27残基目(X27)〜43残基目(X43)(但し、後記するリンカーとの結合のために他のアミノ酸に置換し得るアミノ酸残基は除く)のアミノ酸配列は共通している。つまり、特にAブロックを構成するうちで前記位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換してもAブロック及びCブロックにおいてその立体構造が保持されるので、VEGFへの結合性には影響を受けず、配列番号1〜4のアミノ酸配列を有するペプチドも、配列番号6〜9のアミノ酸配列を有するペプチドと同じくVEGFへの結合性を有し、VEGF阻害活性もないと言える。また、配列番号6〜9以外にも特許文献2の表2に記載された各種Clone(例えばClone319や、37、38など)から得られるペプチドもVEGF結合性を有するものであり、これらのペプチドも使用し得る。なお、これらのペプチドはいわゆるHLH構造を取るが、本願発明においては必ずしもHLH構造を有するペプチドでなくとも差し支えない。
【0017】
VEGF結合阻害ペプチドは例えば非特許文献1に記載された配列番号5のアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチドV108)が示される。このペプチドはいずれもVEGFに結合することで、VEGFRへの結合を阻害する。VEGF結合阻害ペプチドはペプチドV108だけでなく、非特許文献1に記載されたペプチドV128、ペプチドV107やペプチドV114も使用し得る。また、これら以外に見いだされるVEGF結合阻害ペプチドにも適用し得る。
【0018】
また、HLHペプチドは各配列番号に示すアミノ酸配列のN末端のシステインとC末端のシステインがジスルフィド結合して環状化したものが好ましい。同様に、ペプチドV108などのVEGF結合阻害ペプチドもアミノ酸配列中に2個のシステイン残基を有する場合には、ジスルフィド結合して環状化したものが好ましい。いずれも環化することでペプチドの立体構造がより安定化する。
【0019】
本願発明に係る結合体ペプチドは、前記HLHペプチドとVEGF結合阻害性ペプチドがリンカーにより結合したものである。HLHペプチドは二量体となり、それぞれのHLHペプチドのループ部分がVEGFに接触するようにして結合していることが下記の実施例で述べるようにX線構造解析によって明らかにされた。一方、ペプチドV108はC末端部分がVEGFに結合することでVEGF結合阻害活性を発揮するとされている(非特許文献2)。図1は、ペプチドM49とVEGFの結合体のX線結晶構造解析画像と、ペプチドV108とVEGFの結合体のX線結晶構造解析画像と、VEGFRとVEGFの結合体のX線結晶構造解析画像を重ね合わせた画像である。この画像から分かるように、ペプチドM49とペプチドV108がリンカーによって結ばれることで安定してVEGFに結合して、ペプチドV108のVEGF結合阻害活性が高められると考えられる。
【0020】
リンカーはペプチドM49とペプチドV108とを結び付けるものであれば、その構造は制限されるものではない。図2図1の重ね合わせ画像からVEGFRとVEGFの結合体のX線結晶構造解析画像部分を除いた画像である。二量体となったVEGFに対して図2に示すような立体配位を取ることが可能な位置にリンカーが結合される。その結合位置は、HLHペプチドにおいては、HLHペプチドの溶媒露出面(HLHペプチドがVEGFとの複合体を形成した際に溶媒分子と接触する面)であり、HLHペプチドとVEGFの結合体のX線結晶構造解析画像から把握される。具体的には、例えばペプチドM49の場合、HLHペプチドのN末端から3残基目(X3)、4残基目(X4)、6残基目(X6)、7残基目(X7)、9残基目(X9)、10残基目(X10)、11残基目(X11)、13残基目(X13)、14残基目(X14)、20残基目(X20)、28残基目(X28)、30残基目(X30)、31残基目(X31)、34残基目(X34)、36残基目(X36)、37残基目(X37)、41残基目(X41)、42残基目(X42)のアミノ酸の何れかである。ペプチドV108への結合位置は、VEGFへの結合に影響を与えない位置であり、具体的には、そのN末端から16残基目(X16)〜20残基目(X20)のアミノ酸の何れかである。
【0021】
リンカーの長さは図1に示すような立体配位を取ることができる長さであり、目的とする長さは図2に示すようにHLHペプチドの一つのアミノ酸とペプチドV108の一つのアミノ酸をほぼ直線的に結合できる長さ(結合長)である。この結合長は、図1又は図2に示す結晶構造モデル、すなわち結晶解析画像の重ね合わせから決定することが可能であり、例えばペプチドM49とペプチドV108との間では最も近いアミノ酸同士では約10Å、最も長いアミノ酸同士では約54Åであり、それよりも多少長短があっても阻害作用が発揮されることからすると、概ね5Åから80Å、好ましくは10Åから70Åである。リンカーをアミノ酸からなるペプチドとした場合には1〜20個である。
【0022】
リンカーを構成する分子は特に制約されるものではなく、例えばイオウのような単分子でもあり、アミノ酸でもあり得る。生体内で利用されることやリンカーの設計の観点からは、βアラニンのようなアミノ酸が好ましい。
【0023】
非環状のHLHペプチドは、種々の公知であるペプチド合成方法に従って合成することが出来る。例えばFmoc固相合成法、フラグメント縮合法等の液相合成法が挙げられる。操作が簡便である点から、固相合成法が好ましく用いられる。また、環状のペプチドは、非環状のペプチドを得た後これを環化して得ることができる。例えば、アミノ酸配列中の2つのシステイン間に、公知の手法によってジスルフィド結合を形成することにより環化できる。また、公知の手法によって、分子内でチオエステルやチオエーテル結合を形成することによっても環化できる。さらに、例えば高度希釈法など公知の手法により分子内でカルボキシ基とアミノ基を縮合させることで環化してもよい。
【0024】
VEGF結合阻害ペプチドもHLHペプチドと同様に種々の公知であるペプチド合成方法に従って合成することが出来る。また、環化についても、HLHペプチドの場合と同様な方法で環化できる。
【0025】
結合体ペプチドの合成も公知の方法によればよく、一方のペプチドにリンカーを合成した後他方のペプチドを反応させてもよく、一部のリンカーをそれぞれのペプチドに合成した後両者を反応させることもできる。このために、それぞれのペプチド合成時において、リンカーの結合に必要なアミノ酸残基に対して保護基や置換基を導入することもできる。例えば、リンカー位置のLysの保護基である4-メチルトリチル基や、アルキンリンカーである4-pentynoic acidなどである。
【0026】
リンカーが結合されるアミノ酸は、上記のHLHペプチドや結合阻害ペプチドを構成するアミノ酸から他のアミノ酸に置換することもできる。7残基目(X7)、9残基目(X9)、10残基目(X10)、11残基目(X11)、13残基目(X13)、14残基目(X14)、20残基目(X20)、28残基目(X28)、30残基目(X30)、31残基目(X31)、34残基目(X34)、36残基目(X36)、37残基目(X37)、41残基目(X41)、42残基目(X42)のアミノ酸置換後のアミノ酸はそれぞれVEGFへの結合性が失われない限り特に制限されるものではないが、リンカーの合成や結合を考慮して決定され得る。好ましいアミノ酸としては、側鎖にアミノ基を有するLys、カルボキシル基を有するAspやGluなど、チオール基を有するCysなどである。例えば、配列番号12〜15に示すペプチドは、配列番号6〜9に示すアミノ酸配列を有するペプチド(ペプチドM49、ペプチドM42、ペプチドM41、ペプチドM36)の10残基目のAlaをそれぞれLysに置換したペプチドである。また、配列番号10に示すアミノ酸配列を有するペプチドは、配列番号5に示すアミノ酸配列を有するペプチド(ペプチドV108)の18残基目のGluをLysに置換したペプチドである。もっとも、結合阻害ペプチドにおいては、アミノ酸置換前後でVEGF結合性が失われていない限り、結合阻害ペプチド自身の結合阻害活性が低下、場合によっては失活しても差し支えない。HLHペプチドと結合体を形成することで結合阻害ペプチドの活性が高められるからである。
【0027】
本願発明における結合体ペプチドの設計方法は、VEGFに結合したVEGF結合性ペプチドの結晶解析モデルと、VEGFに結合した阻害ペプチドの結晶解析モデルの重ね合わせから、リンカー長を求めるステップを有する。
【0028】
VEGF結合性ペプチドは、例えば特許文献1に記載された方法などにより、配列番号11のアミノ酸配列を有するペプチドを合成した後、それをスクリーニングして得ることができる。また、VEGF結合阻害ペプチドも、例えば非特許文献1に記載された方法などにより、種々のペプチドを合成した後、それをスクリーニングして得ることができる。
【0029】
得られたVEGF結合性ペプチドやVEGF結合阻害ペプチドとVEGFの結合体の結晶解析モデルもX線結晶解析など公知の分子構造解析手法によりコンピュータグラフィック(画像)などとして取得できる。例えば、得られたVEGF結合性ペプチドの結晶やVEGF結合阻害ペプチドとVEGFの結合体の結晶から回折データを取得する。その後、その回折データを基にして、Molrep(CCP4 Program suite)などのソフトウェアを用いて結晶解析モデル(分子モデル)を得る。必要に応じてさらに精密化することにしてもよい。
【0030】
次に重ね合わせられた画像から、2つのペプチドの結合に使えそうなアミノ酸残基を見いだし、両アミノ酸残基の距離(結合長)を求める。この距離は2つのペプチド(それぞれのアミノ酸)を結合するために必要な原子間の直線距離である。結合に使えそうなアミノ酸残基は、前記のとおりHLHペプチドでは、溶媒中のHLHペプチドが溶媒面に露出しているアミノ酸残基であり、VEGF結合阻害ペプチドはVEGFとの結合に関与しないアミノ酸残基である。結合長は、各種の画像処理装置やソフトウェアを用いて求めることができ、例えば、分子グラフィックスツールであるPyMOLにより算出される。図3はペプチドM49とVEGFの結合体の結晶解析モデルと、ペプチドV108とVEGFの結晶体の結晶解析モデルの重ね合わせた画像を別な角度から見た重ね合わせ図である。この図からは、HLHペプチドのN末端から31残基目のF(31F)や38Q(38Q)と、ペプチドV108のN末端から18残基目のE(18E)を結合することが可能であり、両アミノ酸間の結合長が求められる。そして、この距離に見合うリンカーを設計する。例えば、リンカーには、1〜20個程度のアミノ酸からなるペプチドが用いられる。その後、2つのペプチドをリンカーで結合し、あるいは、必要に応じて、結合位置のアミノ酸を他のアミノ酸に置換したペプチドを合成した後、リンカーとペプチドを結合する。また、置換後のペプチドを用いて結合長を求めてもよい。
【0031】
以上のように、配列番号11のアミノ酸配列を基本構造として有し、それ自体にVEGF結合阻害活性を有しないがVEGF結合性を有するVEGF結合性ペプチドと、VEGFに結合してVEGF結合阻害作用を有するVEGF結合阻害剤をリンカーにより結合することで、VEGF結合阻害剤の阻害活性を高められる。
【0032】
VEGF-VEGFRに対する結合ないし相互作用を示す結合体ペプチドは、ほ乳類を含む動物、特にヒトの静脈内皮細胞の増殖阻害作用を示す。従って、本発明に係るペプチドは血管新生抑制剤として働き、抗がん剤や慢性関節リューマチや糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性の病態促進の抑止など、VEGFによる異常な血管形成が関与する各種疾病のための治療薬としての利用が期待される。
【0033】
本発明に係る医薬組成物は上記で得られた結合体ペプチドを有効成分とする。本発明の医薬組成物は、有効量のペプチドの他に薬理学的に許容し得る製剤用の助剤を含み得る。助剤は、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、被覆剤、矯味剤、可溶化剤であり得る。当該組成物はヒトを含む動物に経口又は非経口で適用し得る形態(剤型)として提供される。当該剤型は、例えば、錠剤であり、顆粒剤であり、散剤であり、液剤であり、注射剤であり、座剤であり得る。
【0034】
本発明に係る結合体ペプチドの投与量は、性別や体重、年齢、人種、症状等に応じて当業者により適宜決定される。その投与量の下限は、例えば、0.001μg/kg体重であり、0.01μg/kg体重であり、0.1μg/kg体重であり、0.001mg/kg体重であり、0.01mg/kg体重であり、0.05mg/kg体重であり、0.1mg/kg体重であり得る。また、その上限は、例えば、1000mg/kg体重であり、100mg/kg体重であり、10mg/kg体重であり、5mg/kg体重であり、1mg/kg体重であり得る。
【0035】
以下、下記の実施例に基づき本願発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されないのは言うまでもない。
【実施例1】
【0036】
HLHペプチドとして、特許文献2に開示された非融合ペプチドのうち最もVEGFへの結合性が高かったHLHペプチド(非融合ペプチドPep-49:ペプチドM49)と、VEGF阻害ペプチドとして非特許文献1に記載されたペプチドV108を選択した。
【0037】
〔HLHペプチドとVEGF結合体のX線結晶構造解析〕
ペプチドM49とペプチドV108の結合体の設計にあたり、まずペプチド49とVEGF結合体のX線結晶構造解析を行った。VEGF8-109(以下、実施例においては「VEGF」と称する。)とM49ペプチドを混合してインキュベートすることで生成した結合体のみを陰イオン交換カラムで精製した。その後、ポリエチレングリコールを主たる沈殿剤とするゲルチューブ法を用いて結合体の結晶を得た。得られた結晶はSPring-8 BL41XUにて回折実験を行い、得られた回折データをimosflm(CCP4 Program suite)及びAimless (CCP4 Program suite)を用いて指数付け、スケーリングを行い、高精度の回折データを得た。この回折データの取得に際しては、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究による宇宙実験を経て結晶化されたより高品質の結合体が用いられた。
【0038】
次にProtein data bank(PDB)に登録されているVEGFの結晶構造(1vpf.pdb)をモデル分子とした分子置換法を用いて構造計算を行った。先に得られた回折データからMolrep (CCP4 Program suite) を用いて回転、並進の探索を行い、結合体の妥当な分子モデルを得た。得られた分子モデルをRefmac5 (CCP4 Program suite)を用いて分子モデルの剛体精密化を行った。グラフィック上での分子モデルの構築と電子密度への当てはめはCootを用いて行った。得られた分子モデルの各原子の座標とそれぞれの原子の揺らぎを示す温度因子を、Refmac5を用いてさらに精密化した。Cootによる分子モデルの構築、Refmac5による精密化のサイクルを繰り返すことにより構造の精密化を行い、最終的な分子モデルを得た。得られた分子モデルは、構築した分子モデルと電子密度がどの程度合致しているかを示すR因子、Rfree因子及び構築した分子モデルの立体化学的見地からの妥当性を評価するRamachandran plotにおいても、妥当な結果であった。
【0039】
〔結合体ペプチドの設計〕
次に、ペプチドM49とペプチドV108の結合長を求めた。前記で得られたM49とVEGF8-109結合体のX線結晶解析画像と、V108と結合体のX線結晶解析画像(非特許文献2参照)から両者の重ね合わせを行い、PyMOLを用いてM49の10残基目のAlaとV108の18残基目のGlu間の距離を計算した(図2)。図2に示すように、一方のペプチドM49とV108の間ではアミノ酸残基間の距離(結合長)は36.6Å、他方側では19.0Å、その平均距離は約28Åとなった。
【0040】
次に、分子長(アミノ基とカルボキシル基の間)が約4Åであるβ-Alaを用いて、求められた結合長からリンカーとなる数個のβ-Alaからなる直鎖ペプチドを設計した。そして、両ペプチドとリンカーを結合すべく、M49の10残基目のAlaをLysに置換したペプチドM49(A10K)(配列番号12)と、V108の18残基目のGluをLysに置換したペプチドV108(E18K)(配列番号10)を設計した。
【0041】
それぞれのペプチドをFmoc固相合成法により合成した。このとき、ペプチドM49(A10K)のLysのεアミノ基とのアミド結合により4-Pentynoic acid(PA)をアルキンリンカーとして導入した。その後、N末端のシステインとC末端のシステインをジスルフィド結合により環化した(アルキン誘導体)。また、ペプチドV108(E18K)のLysには、脱保護した後、Fmoc固相合成法により当該Lys残基にβ-Ala(bA)を3個、5個、7個、9個それぞれ導入した(V108アジド誘導体)。その後、アジドアセチル化によってアジド基を導入した4種のペプチド(以下、V108-bA3、V108-bA5、V108-bA7、V108-bA9と称する。)を合成した。その後、各ペプチドについて7残基目のシステインと15残基目のシステインをジスルフィド結合により環化した。それぞれのペプチドの合成工程を図4及び図5に示した。
【0042】
得られたM49Kのアルキン誘導体とV108アジド誘導体をβ-Alaにより結合させた。結合には、銅(I)を触媒とするアジドとアルキン[3+2]環化付加反応を利用した。反応後にRP-HPLCを用いて得られたピークを分取、精製して、4つの結合体M49-V108-bA3、M49-V108-bA5、M49-V108-bA7、M49-V108-bA9を得た。
【0043】
〔結合体ペプチドの親和性〕
VEGF-Aを固定したセンサーチップを用いた表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)法により、各結合体ペプチドの濃度に対するResonance Unit (RU)の平衡値をプロットしたセンサーグラムから算出した。その結果、表1に示すような結合パラメータが得られた。
【0044】
【表1】
【0045】
〔結合体ペプチドの細胞増殖阻害活性〕
4つの結合体ペプチドについて、Human Umbilical Vein Endothelial Cells(HUVEC)を用いた細胞増殖阻害試験を行った。HUVECは細胞表面にVEGFR2を発現しており、VEGFと結合することで増殖する。5.0×103 cells/wellで播種したHUVECに、VEGF(25ng/mL)と400nMの結合体ペプチドを添加して、37℃で48時間培養した。培養後、WST-1試薬により発色させて450nmの吸光度を測定した。培地にVEGFを加えた場合を100%のコントロール、培地のみを加えた場合を0%のコントロールとして細胞増殖率を求めた。M49-v108-bA5、M49-v108-bA7、M49-v108-bA9を加えた条件で細胞増殖阻害が確認できた。特にM49-v108-bA7、M49-v108-bA9を加えた条件では、図4に示すようにそれぞれ98.3%、91.5%の強い細胞増殖阻害が見られた。次に最も強い細胞増殖阻害活性を示したM49-v108-bA7について、IC50値を求めた(図5参照)。サンプルの最大濃度を400nMとして行ったところ、M49やV108では増殖阻害活性は認められなかった。同様にM49とV108の混合物でも活性は認められなかった。その一方で、M49(A10E)とV108(E18K)を7個のβアラニンからなるリンカーで連結したM49-v108-bA7は、強い増殖阻害活性を示した(IC50=13nM)。この結果、ペプチドM49とペプチドv108の結合体では、M49の10残基目とペプチドv108の18残基目の平均結合長は28Åであって、これとほぼ同じ結合長である7個のβ-アラニンのペプチドからなるリンカーを用いることで、最も強い増殖阻害活性が見られ、平均結合長よりも短い場合や長い場合でも増殖阻害活性が発揮されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本願発明によると、より強い活性を有するVEGF結合阻害剤が提供される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]