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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-19997(P2019-19997A)
(43)【公開日】2019年2月7日
(54)【発明の名称】圧縮式冷凍機
(51)【国際特許分類】
   F25B 39/02 20060101AFI20190111BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20190111BHJP
   F25B 49/02 20060101ALI20190111BHJP
   F25B 1/10 20060101ALI20190111BHJP
【FI】
   F25B39/02 P
   F25B1/00 304D
   F25B49/02 520F
   F25B1/10 Q
   F25B1/00 391
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-136307(P2017-136307)
(22)【出願日】2017年7月12日
(71)【出願人】
【識別番号】503164502
【氏名又は名称】荏原冷熱システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】金 哲
(72)【発明者】
【氏名】石山 健
(72)【発明者】
【氏名】山田 宏幸
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高精度で高価な温度センサや圧力センサ等の計測機器を必要とせず、汎用されている安価で簡易な計測機器を用いることができ、蒸発器において冷凍負荷あるいは、運転点(冷凍負荷及び蒸発器と凝縮器間の差圧により定まる点)に応じて最適な冷媒保有量を確保することができる圧縮式冷凍機を提供する。
【解決手段】蒸発器3とエコノマイザ4を接続する配管に設置された第1流量制御手段6と、エコノマイザ4と凝縮器2を接続する配管に設置された第2流量制御手段7と、第1流量制御手段6および/または第2流量制御手段7の開閉制御を行う制御装置10と、圧縮式冷凍機の運転中の冷凍負荷率を算出する冷凍負荷率算出手段とを備え、制御装置10は、冷凍負荷率算出手段で算出した冷凍負荷率算出値を予め設定された冷凍負荷率設定値と比較し、比較結果に基づいて第1流量制御手段6および/または第2流量制御手段7により蒸発器3の冷媒保有量を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発器、圧縮機、凝縮器、エコノマイザを備えた圧縮式冷凍機において、
前記蒸発器と前記エコノマイザを接続する配管に設置された第1流量制御手段と、
前記エコノマイザと前記凝縮器を接続する配管に設置された第2流量制御手段と、
前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段の開閉制御を行う制御装置と、
前記圧縮式冷凍機の運転中の冷凍負荷率を算出する冷凍負荷率算出手段とを備え、
前記制御装置は、前記冷凍負荷率算出手段で算出した冷凍負荷率算出値を予め設定された冷凍負荷率設定値と比較し、比較結果に基づいて前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段により前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする圧縮式冷凍機。
【請求項2】
所定の定格冷却水入口温度における前記圧縮式冷凍機に充填される冷媒充填量として、定格負荷率において蒸発器のLTDが最も小さくなる第1冷媒充填量と、所定の低負荷率において蒸発器の許容LTDを満たす第2冷媒充填量の2つを設定し、前記2つの冷媒充填量における、定格冷却水入口温度での冷凍負荷率とLTDとの関係を表わすグラフを求め、
前記冷凍負荷率設定値は、前記2つの冷媒充填量における、蒸発器の低負荷率から定格負荷率までの蒸発器のLTDのグラフの交点における冷凍負荷率であることを特徴とする請求項1記載の圧縮式冷凍機。
【請求項3】
所定の低冷却水入口温度において前記2つの冷媒充填量における、蒸発器の低負荷率から定格負荷率までのLTDのグラフの交点における冷凍負荷率、またはグラフが交差しない場合は、前記第2冷媒充填量における所定の定格冷凍負荷率(100%)を低温側冷凍負荷率として求め、
前記第2冷媒充填量における所定の定格冷却水入口温度と所定の低冷却水入口温度のそれぞれについて、冷凍負荷率と、蒸発器と凝縮器との差圧との関係を表わすグラフを求め、
前記定格冷却水入口温度について求められたグラフ上の前記冷凍負荷率設定値に対応する点Aを決定し、
前記低冷却水入口温度について求められたグラフ上の前記低温側冷凍負荷率に対応する点Bを決定し、
前記点Aと前記点Bとを結んだ直線または該直線に近似する近似曲線により仕切られる第1設定運転範囲と第2設定運転範囲を求め、前記冷凍負荷率算出値および前記蒸発器と前記凝縮器間の差圧により定まる運転点が前記第1設定運転範囲または前記第2設定運転範囲のいずれかにあるかに応じて、前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段により前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする請求項2記載の圧縮式冷凍機。
【請求項4】
前記点Aと前記点Bを結んだ直線または近似曲線を延長した線が、許容される全運転範囲と交差する点A’及び点B’を求め、該点A’及び点B’に基づいて前記第1設定運転範囲及び前記第2設定運転範囲を補正することを特徴とする請求項3記載の圧縮式冷凍機。
【請求項5】
前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段の上流側に設けられた冷媒液を貯留可能な空間に設けられた液面検出手段と、
前記液面検出手段には、所定の上側液位及び下側液位が設定され、
前記冷凍負荷率算出手段で算出した冷凍負荷率算出値が前記冷凍負荷率設定値よりも大きい場合は、前記空間内の冷媒液の液面が前記上側液位となるよう前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段を制御し、
前記冷凍負荷率算出手段で算出した冷凍負荷率算出値が前記冷凍負荷率設定値よりも小さい場合は、前記空間内の冷媒液の液面が前記下側液位となるよう前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段を制御することを特徴とする請求項1記載の圧縮式冷凍機。
【請求項6】
前記凝縮器は、下部に前記蒸発器の冷媒保有量を制御することが可能な所定量の冷媒液を貯留可能な空間を有し、前記第2流量制御手段のみにより前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の圧縮式冷凍機。
【請求項7】
前記エコノマイザは、下部に前記蒸発器の冷媒保有量を制御することが可能な所定量の冷媒液を貯留可能な空間を有し、前記第1流量制御手段のみにより前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の圧縮式冷凍機。
【請求項8】
前記蒸発器の冷媒保有量を制御することが可能な所定量の冷媒液を貯留可能な貯留容器を前記蒸発器と前記エコノマイザを接続する配管に設け、前記第1流量制御手段により前記蒸発器の冷媒保有量を制御するか、または前記貯留容器を前記エコノマイザと前記凝縮器を接続する配管に設け、前記第2流量制御手段により前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の圧縮式冷凍機。
【請求項9】
前記凝縮器の下部に、前記蒸発器の冷媒保有量を制御することが可能な所定量の冷媒液を貯留可能なサブクーラを備え、前記第2流量制御手段のみにより前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の圧縮式冷凍機。
【請求項10】
前記凝縮器、前記エコノマイザ、および前記蒸発器と前記エコノマイザを接続する配管または前記エコノマイザと前記凝縮器を接続する配管に設けられた貯留容器における複数の貯留空間の組み合わせを利用して前記蒸発器の冷媒保有量を制御することが可能な所定量の冷媒液を貯留し、前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段により前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の圧縮式冷凍機。
【請求項11】
蒸発器、圧縮機、凝縮器を備えた圧縮式冷凍機において、
前記蒸発器と前記凝縮器を接続する配管に設置された流量制御手段と、
前記流量制御手段の開閉制御を行う制御装置と、
前記圧縮式冷凍機の運転中の冷凍負荷率を算出する冷凍負荷率算出手段とを備え、
前記制御装置は、前記冷凍負荷率算出手段で算出した冷凍負荷率算出値を予め設定された冷凍負荷率設定値と比較し、比較結果に基づいて前記流量制御手段により前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする圧縮式冷凍機。
【請求項12】
前記蒸発器の水室を流れる冷水の入口温度と出口温度を測定する温度測定手段と、
前記冷水の流量を測定する流量測定手段とを備え、
前記冷凍負荷率算出手段は、前記温度測定手段と前記流量測定手段で得られた測定値に基づいて冷凍負荷率を算出することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の圧縮式冷凍機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸発器、圧縮機、凝縮器を備えた圧縮式冷凍機に係り、特にシェル内部に伝熱管群を配置し、伝熱管内に冷水を通水して、シェルに液冷媒を満たす満液式蒸発器を備えた圧縮式冷凍機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍空調装置などに利用される圧縮式冷凍機は、冷媒を封入したクローズドシステムで構成され、冷水(被冷却流体)から熱を奪って冷媒が蒸発して冷凍効果を発揮する蒸発器と、前記蒸発器で蒸発した冷媒ガスを圧縮して高圧の冷媒ガスにする圧縮機と、高圧の冷媒ガスを冷却水(冷却流体)で冷却して凝縮させる凝縮器と、前記凝縮した冷媒を減圧して膨張させる膨張弁(膨張機構)とを、冷媒配管によって連結して構成されている。
上記圧縮式冷凍機は、シェルの内部に伝熱管群を配置し、伝熱管内に冷水を通水して、シェルに液冷媒を満たす満液式蒸発器を用いることが多い。
上述した満液式蒸発器では、伝熱の効率が冷凍機のCOP(成績係数)に影響を与える。伝熱管群が冷媒に浸漬する高さで沸騰伝熱特性が変化するので、従来は、蒸発器の冷媒液位を制御することによって蒸発器における伝熱の効率が下がらないようにしていた。
【0003】
蒸発器の冷媒液位の制御に関しては、特開2014−85048号公報(特許文献1)において、冷水出口温度と蒸発器冷媒温度の温度差として定義される蒸発器LTDと冷凍能力との相関関係を利用して蒸発器への冷媒配管に設置された制御弁を制御することにより、蒸発器に流入する冷媒の流量を制御して蒸発器の冷媒液位を制御する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−85048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に提案されているように、蒸発器のLTDと冷凍能力(負荷)との相関関係を利用して蒸発器に流入する冷媒の流量を制御する場合、下記のような問題点がある。
(1)高負荷時と低負荷時のLTDの差は小さく、厳密に制御しようとすると、高精度(高価)な温度センサまたは圧力センサが必要となり、製品コストが高くなる。
(2)冷凍負荷あるいは冷却水温度の変動幅が大きく、変動の頻度が高い場合、制御弁の実開閉動作の遅延により、冷媒の流量制御が困難な場合がある。
(3)実運用上、伝熱管が汚れた場合、目標LTDに近づけることが困難である。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたもので、高精度で高価な温度センサや圧力センサ等の計測機器を必要とせず、汎用されている安価で簡易な計測機器を用いることができ、蒸発器において冷凍負荷あるいは、運転点(冷凍負荷及び蒸発器と凝縮器間の差圧により定まる点)に応じて最適な冷媒保有量を確保することができる圧縮式冷凍機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、蒸発器、圧縮機、凝縮器、エコノマイザを備えた圧縮式冷凍機において、前記蒸発器と前記エコノマイザを接続する配管に設置された第1流量制御手段と、前記エコノマイザと前記凝縮器を接続する配管に設置された第2流量制御手段と、前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段の開閉制御を行う制御装置と、前記圧縮式冷凍機の運転中の冷凍負荷率を算出する冷凍負荷率算出手段とを備え、前記制御装置は、前記冷凍負荷率算出手段で算出した冷凍負荷率算出値を予め設定された冷凍負荷率設定値と比較し、比較結果に基づいて前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段により前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする。
【0008】
本発明の好ましい態様によれば、所定の定格冷却水入口温度における前記圧縮式冷凍機に充填される冷媒充填量として、定格負荷率において蒸発器のLTDが最も小さくなる第1冷媒充填量と、所定の低負荷率において蒸発器の許容LTDを満たす第2冷媒充填量の2つを設定し、前記2つの冷媒充填量における、定格冷却水入口温度での冷凍負荷率とLTDとの関係を表わすグラフを求め、前記冷凍負荷率設定値は、前記2つの冷媒充填量における、蒸発器の低負荷率から定格負荷率までの蒸発器のLTDのグラフの交点における冷凍負荷率であることを特徴とする。
本発明によれば、高負荷から低負荷の範囲全体において、1点の交点のみで簡易的に定格負荷側(高負荷側)と低負荷側のそれぞれに最適な蒸発器のLTDを得ることができる。
【0009】
本発明の好ましい態様によれば、所定の低冷却水入口温度において前記2つの冷媒充填量における、蒸発器の低負荷率から定格負荷率までのLTDのグラフの交点における冷凍負荷率、またはグラフが交差しない場合は、前記第2冷媒充填量における所定の定格冷凍負荷率(100%)を低温側冷凍負荷率として求め、前記第2冷媒充填量における所定の定格冷却水入口温度と所定の低冷却水入口温度のそれぞれについて、冷凍負荷率と、蒸発器と凝縮器との差圧との関係を表わすグラフを求め、前記定格冷却水入口温度について求められたグラフ上の前記冷凍負荷率設定値に対応する点Aを決定し、前記低冷却水入口温度について求められたグラフ上の前記低温側冷凍負荷率に対応する点Bを決定し、前記点Aと前記点Bとを結んだ直線または該直線に近似する近似曲線により仕切られる第1設定運転範囲と第2設定運転範囲を求め、前記冷凍負荷率算出値および前記蒸発器と前記凝縮器間の差圧により定まる運転点が前記第1設定運転範囲または前記第2設定運転範囲のいずれかにあるかに応じて、前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段により前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする。
本発明によれば、所定の定格冷却水温度から低冷却水温度における、高負荷から低負荷の運転範囲において、前記運転点に応じて、最適な蒸発器のLTDを得ることができる。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、前記点Aと前記点Bを結んだ直線または近似曲線を延長した線が、許容される全運転範囲と交差する点A’及び点B’を求め、該点A’及び点B’に基づいて前記第1設定運転範囲及び前記第2設定運転範囲を補正することを特徴とする。
本発明の好ましい態様によれば、前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段の上流側に設けられた冷媒液を貯留可能な空間に設けられた液面検出手段と、前記液面検出手段には、所定の上側液位及び下側液位が設定され、前記冷凍負荷率算出手段で算出した冷凍負荷率算出値が前記冷凍負荷率設定値よりも大きい場合は、前記空間内の冷媒液の液面が前記上側液位となるよう前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段を制御し、前記冷凍負荷率算出手段で算出した冷凍負荷率算出値が前記冷凍負荷率設定値よりも小さい場合は、前記空間内の冷媒液の液面が前記下側液位となるよう前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段を制御することを特徴とする。
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、前記凝縮器は、下部に前記蒸発器の冷媒保有量を制御することが可能な所定量の冷媒液を貯留可能な空間を有し、前記第2流量制御手段のみにより前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする。
本発明の好ましい態様によれば、前記エコノマイザは、下部に前記蒸発器の冷媒保有量を制御することが可能な所定量の冷媒液を貯留可能な空間を有し、前記第1流量制御手段のみにより前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、前記蒸発器の冷媒保有量を制御することが可能な所定量の冷媒液を貯留可能な貯留容器を前記蒸発器と前記エコノマイザを接続する配管に設け、前記第1流量制御手段により前記蒸発器の冷媒保有量を制御するか、または前記貯留容器を前記エコノマイザと前記凝縮器を接続する配管に設け、前記第2流量制御手段により前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする。
本発明の好ましい態様によれば、前記凝縮器の下部に、前記蒸発器の冷媒保有量を制御することが可能な所定量の冷媒液を貯留可能なサブクーラを備え、前記第2流量制御手段のみにより前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、前記凝縮器、前記エコノマイザ、および前記蒸発器と前記エコノマイザを接続する配管または前記エコノマイザと前記凝縮器を接続する配管に設けられた貯留容器における複数の貯留空間の組み合わせを利用して前記蒸発器の冷媒保有量を制御することが可能な所定量の冷媒液を貯留し、前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段により前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする。
【0014】
本発明の他の態様は、蒸発器、圧縮機、凝縮器を備えた圧縮式冷凍機において、前記蒸発器と前記凝縮器を接続する配管に設置された流量制御手段と、前記流量制御手段の開閉制御を行う制御装置と、前記圧縮式冷凍機の運転中の冷凍負荷率を算出する冷凍負荷率算出手段とを備え、前記制御装置は、前記冷凍負荷率算出手段で算出した冷凍負荷率算出値を予め設定された冷凍負荷率設定値と比較し、比較結果に基づいて前記流量制御手段により前記蒸発器の冷媒保有量を制御することを特徴とする。
この態様は、エコノマイザを備えない圧縮式冷凍機において適用可能である。
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、前記蒸発器の水室を流れる冷水の入口温度と出口温度を測定する温度測定手段と、前記冷水の流量を測定する流量測定手段とを備え、前記冷凍負荷率算出手段は、前記温度測定手段と前記流量測定手段で得られた測定値に基づいて冷凍負荷率を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以下に列挙する効果を奏する。
(1)高精度で高価な温度センサや圧力センサ等の計測機器を必要とせず、汎用されている簡易な計測機器を用いることができる。
(2)冷凍負荷あるいは冷却水温度の変動幅が大きく、変動の頻度が高い場合であっても、蒸発器において冷凍負荷に応じて最適な冷媒保有量を確保することができる。
(3)伝熱管の汚れの状態にかかわらず、蒸発器において冷凍負荷に応じて最適な冷媒保有量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明に係る圧縮式冷凍機の一実施形態を示す模式図である。
図2図2(a),(b),(c),(d)は、冷凍負荷と蒸発器の冷媒保有量との関係を示す模式図である。
図3図3は、上記試験結果を示すグラフであり、冷凍負荷率(%)と、冷水出口温度と蒸発器冷媒温度の温度差として定義される蒸発器LTD(℃)との関係を示すグラフである。
図4図4は、上記試験結果を示すグラフであり、冷凍負荷率(%)と、冷水出口温度と蒸発器冷媒温度の温度差として定義される蒸発器LTD(℃)との関係を示すグラフである。
図5図5は、冷凍負荷率(%)と、蒸発器と凝縮器の差圧(kPa)との関係を示すグラフである。
図6図6は、定格運転条件における冷媒量(kg)と蒸発器のLTDとの関係を示すグラフである。
図7図7は、前記蒸発器の冷媒保有量の差分の全量を貯留する貯留容器を設けた実施形態を示す模式図である。
図8図8は、前記蒸発器の冷媒保有量の差分の一部を貯留する貯留容器を設けた実施形態を示す模式図である。
図9図9は、前記蒸発器の冷媒保有量の差分の一部を貯留する貯留容器を設けた別の実施形態を示す模式図である。
図10図10は、エコノマイザを備えない圧縮式冷凍機において、前記蒸発器の冷媒保有量の差分の一部を貯留する貯留容器を設けた別の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る圧縮式冷凍機の実施形態を図1乃至図10を参照して説明する。図1乃至図10において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
図1は、本発明に係る圧縮式冷凍機の一実施形態を示す模式図である。図1に示すように、圧縮式冷凍機は、冷媒を圧縮する圧縮機1と、圧縮された冷媒ガスを冷却水(冷却流体)で冷却して凝縮させる凝縮器2と、冷水(被冷却流体)から熱を奪って冷媒が蒸発し冷凍効果を発揮する蒸発器3と、凝縮器2と蒸発器3との間に配置される中間冷却器であるエコノマイザ4とを備え、これら各機器を冷媒が循環する冷媒配管5によって連結して構成されている。
【0019】
図1に示す実施形態においては、圧縮機1は、多段ターボ圧縮機から構成されている。多段ターボ圧縮機は、冷媒配管5によってエコノマイザ4と接続されており、エコノマイザ4で分離された冷媒ガスは多段ターボ圧縮機の多段の圧縮段の中間部分に導入されるようになっている。
【0020】
図1に示すように、蒸発器3とエコノマイザ4とを接続する冷媒配管5には、電動式の制御弁6が設けられている。制御弁6は、エコノマイザ4から蒸発器3に流れる冷媒の流量を制御する第1流量制御手段を構成している。第1流量制御手段は、電動式の制御弁とオリフィスとを直列又は並列に組み合わせた構成でもよい。
また、エコノマイザ4と凝縮器2とを接続する冷媒配管5には、電動式の制御弁7が設けられている。制御弁7は、凝縮器2からエコノマイザ4に流れる冷媒の流量を制御する第2流量制御手段を構成している。第2流量制御手段は、電動式の制御弁とオリフィスとを直列又は並列に組み合わせた構成でもよい。
【0021】
エコノマイザ4には、エコノマイザ4内に貯留された冷媒液の液面を検出する液面計またはリミットスイッチまたはフロートスイッチ等からなる液面検出手段8が設けられている。また、凝縮器2には、凝縮器2内に貯留された冷媒液の液面を検出する液面計またはリミットスイッチまたはフロートスイッチ等からなる液面検出手段9が設けられている。制御弁6、制御弁7、液面検出手段8および液面検出手段9は、それぞれ制御装置10に接続されている。
【0022】
図1に示すように、蒸発器3には、冷水入口温度を測定する温度センサT1と、冷水出口温度を測定する温度センサT2とが設置されている。すなわち、温度センサT1により蒸発器3内の冷媒と熱交換する冷水の入口温度を測定し、温度センサT2により蒸発器3内の冷媒と熱交換した後の冷水の出口温度を測定するようになっている。温度センサT1および温度センサT2は、それぞれ制御装置10に接続されている。また、冷水入口または出口配管に冷水流量を計測する流量センサFEが設置されている。流量センサFEは制御装置10に接続されている。制御装置10は冷凍負荷率算出手段を備えており、冷凍負荷率算出手段は、温度センサT1で測定した冷水入口温度と温度センサT2で測定した冷水出口温度との温度差と、流量センサFEで計測した冷水流量から冷凍負荷率を算出するようになっている。
なお、図1に示すように、冷水入口配管と冷水出口配管との間に差圧計ΔPeを設けて蒸発器3の冷水出入口での圧力差を計測し、冷凍負荷率算出手段により、圧力差から蒸発器3を流れる冷水流量を推算し、推算した冷水流量と、冷水入口温度と冷水出口温度との温度差から冷凍負荷率を算出してもよい。
【0023】
制御装置10は、前記冷凍負荷率算出手段で算出した冷凍負荷率算出値を予め設定された冷凍負荷率設定値(後述する)と比較し、比較結果に基づいて制御弁6からなる第1流量制御手段および/または制御弁7からなる第2流量制御手段により蒸発器3の冷媒保有量を制御するように構成されている。すなわち、制御装置10は、冷凍負荷率によって蒸発器3の冷媒保有量を制御するように構成されている。
【0024】
図2(a),(b),(c),(d)は、冷凍負荷と蒸発器3の冷媒保有量との関係を示す模式図である。図2(a),(b),(c),(d)において、蒸発器3内の略逆台形状の実線は伝熱管群3aを示し、点線は平均沸騰液面ALを示す。
図2(a),(b)は、低負荷時において冷媒保有量が少ない場合(図2(a))と多い場合(図2(b))との比較を示す図である。
図2(a)に示すように、冷媒保有量が少ない場合には、露出される伝熱管が多くなり、伝熱面積が小さくなり、LTDが大きくなる。
図2(b)に示すように、冷媒保有量が多い場合には、露出される伝熱管が少なくなり、伝熱面積が大きくなり、LTDが小さくなる。
図2(a),(b)に示すように、低負荷時、沸騰状態は穏やかで、平均沸騰液面は低い。伝熱に寄与できる伝熱面積の大小で、LTDが異なる。LTDを小さくするため、冷媒量を追加し続けると、LTDはある程度小さくなるが、更に、冷媒量を増やしていくと、下記、高負荷時と同じく、あるところから、サブマージ(液ヘッド)の影響により、LTDが大きくなる。
【0025】
図2(c),(d)は、高負荷時おいて冷媒保有量が少ない場合(図2(c))と多い場合(図2(d))との比較を示す図である。図2(c),(d)において、二点鎖線は、それぞれ同一冷媒保有量での低負荷時での平均沸騰液面を示す。
図2(c),(d)に示すように、高負荷時、沸騰状態は激しく、同一冷媒保有量において、高負荷時の平均沸騰液面ALは低負荷時の平均沸騰液面(二点鎖線で示す)より上昇する。この状態で、更に冷媒量を増やしていくと、平均沸騰液面が更に高くなり、あるところから、サブマージ(液ヘッド)の影響を受け始め、LTDが大きくなる傾向になる。平均沸騰液面の高さ増加により、伝熱管群3aの下部での沸騰が抑えられてしまう。これとは逆に、冷媒量を減らしていくと、あるところから、伝熱面積不足により、LTDが大きくなり始める。つまり、冷凍負荷に応じて最適液面が存在する。
【0026】
次に、図2に示す冷凍負荷に応じて最適液面が存在することを前提とし、図1に示す圧縮式冷凍機によって行った試験結果について説明する。
冷凍機に充填される総冷媒充填量として、第1冷媒充填量W1と第2冷媒充填量W2の異なる冷媒充填量で試験運転を行った。第1冷媒充填量W1と第2冷媒充填量W2との関係は、W1<W2である。各試験は、凝縮器2とエコノマイザ4に必要最低限の冷媒量を貯留させて行った。冷媒充填量W1および冷媒充填量W2でそれぞれ冷凍機を運転した場合、運転中に異なる点は、蒸発器3の冷媒保有量(W2−W1)である。すなわち、第2冷媒充填量W2で冷凍機を運転した場合に、蒸発器3の冷媒保有量は、第1冷媒充填量W1のときより(W2−W1)だけ増加させる。
【0027】
図3および図4は、上記試験結果を示すグラフであり、冷凍負荷率(%)と、冷水出口温度と蒸発器冷媒温度の温度差として定義される蒸発器LTD(℃)との関係を示すグラフである。図3では凝縮器2の冷却水入口温度を32℃とし、図4では凝縮器2の冷却水入口温度を12℃としたものである。
図3に示す試験結果から、ある中間冷凍能力(冷凍負荷率A点)にて、第1冷媒充填量W1のグラフ(太い実線で示す)と第2冷媒充填量W2のグラフ(太い破線で示す)が交差する現象が現れた。冷凍負荷率A点より大きい定格負荷率側において第1冷媒充填量W1の場合のLTDは第2冷媒充填量W2の場合のLTDよりも小さく、冷凍負荷率A点より小さい低負荷率側において第2冷媒充填量W2の場合のLTDは第1冷媒充填量W1の場合のLTDよりも小さくなっている。すなわち、冷凍負荷率A点より大きい定格負荷率側において第1冷媒充填量W1の場合に蒸発器のLTDが最も小さくなっており、冷凍負荷率A点より小さい低負荷率側において第2冷媒充填量W2の場合に蒸発器のLTDが小さくなっている。
図4に示す試験結果では、第1冷媒充填量W1のグラフ(太い実線で示す)と第2冷媒充填量W2のグラフ(太い破線で示す)は、100%の負荷率(冷凍負荷率B点)で互いに最も近づくが、交差しなかった。
【0028】
第1冷媒充填量W1のグラフと第2冷媒充填量W2のグラフが交差する現象が現れた図3から分かるように、冷凍機に第2冷媒充填量W2の冷媒を充填し、交点Aの冷凍負荷率を分岐点として、下記の(1)(2)のように、蒸発器LTDが極力小さくなるような蒸発器3の冷媒保有量とすることにより、冷凍負荷に応じて最適液面を確保することができ、蒸発器の伝熱性能を向上させることができる。
(1)冷凍機の運転中の冷凍負荷率が交点Aの冷凍負荷率より大きい場合、上述の第1冷媒充填量W1のときの蒸発器3の冷媒保有量になるように、凝縮器2および/またはエコノマイザ4に(W2−W1)の冷媒量を一時的に貯留する。なお、貯留容器を別途設置した場合(後述する)には、凝縮器2、エコノマイザ4および貯留容器のうち、少なくとも1つに(W2−W1)の冷媒量を一時的に貯留すればよい。
(2)冷凍機の運転中の冷凍負荷率が交点Aの冷凍負荷率以下である場合、上述の第2冷媒充填量W2のときの蒸発器3の冷媒保有量になるように、凝縮器2および/またはエコノマイザ4に一時的に貯留していた冷媒量を蒸発器3に送る。なお、貯留容器を別途設置した場合には、凝縮器2、エコノマイザ4および貯留容器のうちの少なくとも1つに一時的に貯留していた冷媒量を蒸発器3に送る。
図3において、細線は、上記(1)(2)の制御をまとめた制御線CLであり、細線は第1冷媒充填量W1のグラフまたは第2冷媒充填量W2のグラフと重なって表示されるべきものであるが、図示の便宜上、第1冷媒充填量W1のグラフまたは第2冷媒充填量W2のグラフのやや下に表示している。
【0029】
図3に示す試験結果から、冷却水入口温度32℃を一般化して「所定の定格冷却水入口温度」と表現すれば、制御装置10に予め設定された冷凍負荷率設定値は、以下のように定義できる。
所定の定格冷却水入口温度における前記圧縮式冷凍機に充填される冷媒充填量として、定格負荷率において蒸発器3のLTDが最も小さくなる第1冷媒充填量W1と、所定の低負荷率において蒸発器3の許容LTDを満たす第2冷媒充填量W2の2つを設定し、前記2つの冷媒充填量W1,W2における、定格冷却水入口温度での冷凍負荷率とLTDとの関係を表わすグラフを求め、前記冷凍負荷率設定値は、前記2つの冷媒充填量W1,W2における、蒸発器3の低負荷率から定格負荷率までの蒸発器3のLTDのグラフの交点(すなわち図3に示す交点A)における冷凍負荷率である。
【0030】
なお、上述の説明においては、交点Aを分岐点として蒸発器3の冷媒保有量を制御する方法について述べたが、一つ又は複数の冷媒充填量について試験により得られた図3のグラフの波形の特性に応じて、低負荷率から定格負荷率までの蒸発器3のLTDが総じて小さくなる、あるいは一定の効果が得られる任意の1点を冷凍負荷率設定値として定め、冷凍機の運転中の冷凍負荷率を冷凍負荷率設定値と比較し、比較結果に基づいて蒸発器3の冷媒保有量を制御してもよい。
【0031】
図5は、冷凍負荷率(%)と、蒸発器3と凝縮器2の差圧(kPa)との関係を示すグラフである。冷凍機に第2冷媒充填量W2の冷媒を充填し、冷凍機運転中における冷凍負荷率(%)と蒸発器−凝縮器間の差圧から図5の相関グラフを求めたものである。
図6は、定格運転条件における冷媒量(kg)と蒸発器のLTDとの関係を示すグラフである。
【0032】
図5および図6の関係について、図3および図4の関係を考慮しつつ更に説明する。
まず、図6から説明すると、図6に示す定格運転条件における冷媒量(kg)と蒸発器3のLTDとの関係は、凝縮器2の冷却水入口温度が32℃、冷凍負荷率が100%の定格負荷率で求めたものである。
(1)図6に示すように、蒸発器のLTDが最も小さくなる冷媒量は、350kgである。したがって、前記第1冷媒充填量W1を350kgとする。
(2)上記(1)と同様に、定格冷却水温度(例えば、32℃)、あるいは低冷却水温度(例えば、12℃)における、低冷凍能力(例えば、冷凍負荷率20%)時に、蒸発器のLTDが許容されるLTD以下となる最も少ない冷媒充填量を決定する。冷媒充填量が最も少ないことにより安価である。図6では、定格運転条件(冷凍負荷率100%)における冷媒量と蒸発器3のLTDとの関係を図示しているが、低冷凍能力(例えば、冷凍負荷率20%)時におけるグラフは図6と同様であるため図示を省略するが、蒸発器3のLTDが許容されるLTD以下となる最も少ない充填量は400kgである。したがって、前記第2冷媒充填量W2を400kgとする。この第2冷媒充填量W2=400kgが実際に冷凍機に充填される冷媒充填量となる。
上記(1)と(2)の両充填量を決める際、エコノマイザ4と凝縮器2、あるいは貯留容器には、運転可能な同量の必要最低限の冷媒量を貯留するか、ある一定の冷媒量を貯留する。
第1冷媒充填量W1=350kg、第2冷媒充填量W2=400kgの場合、同じ運転条件下では、蒸発器3に貯留される冷媒量は(400kg−350kg)=50kgの違いがある。
【0033】
(3)図3に示すように、上記(1)と(2)の両充填量にて、定格冷却水温度(例:32℃)での、定格冷凍能力(例:負荷率100%)から低冷凍能力(例:負荷率20%)までの部分冷凍能力の性能試験を行い、各冷凍能力におけるLTDとの相関関係を求める。つまり、定格冷却水温度時の蒸発器3に貯留される50kgの冷媒量の違いによるLTDの変化傾向の確認を行う。
(4)図4に示すように、上記(3)と同じく、低冷却水温度(例:12℃)での、定格冷凍能力(例:負荷率100%)から低冷凍能力(例:負荷率20%)までの部分冷凍能力の性能試験を行い、各冷凍能力におけるLTDとの相関関係を求める。つまり、低冷却水温度時の蒸発器3に貯留される50kgの冷媒量の違いによるLTDの変化傾向の確認を行う。
上記(3)と(4)での定格/低冷却水温度、定格/低冷凍能力とは、自社設定あるいは客先指定の冷却水温度、冷凍能力の仕様条件等の運転範囲(1)のことを言う(運転範囲(1)は図5に図示)。
上記(3)と(4)の試験時、エコノマイザ4と凝縮器2、あるいは貯留容器には、運転可能な同量の必要最低限の冷媒量を貯留するか、ある一定の冷媒量を貯留する。
【0034】
(5)図5に示すように、実際に充填される充填量(例:W2=400kg)における、定格冷却水温度(例:32℃)と低冷却水温度(12℃)での、上記(3)と(4)の試験結果から、各々の冷凍能力と蒸発器−凝縮器間の差圧の関係を表す、曲線あるいは直線グラフ1およびグラフ2を作成する。すなわち、図5において上側の点線がグラフ1であり、下側の点線がグラフ2である。そして、図3において、350kg(W1)と400kg(W2)のグラフの交点(A点)における冷凍能力を求め、図5のグラフ1上で対応する点Aを求める。同様に、図4において、今回の実験結果においては、定格冷凍能力まで交点が現れなかったことから、図5のグラフ2上で400kgにおける定格冷凍能力(例:負荷率100%)の点をB点とする。図4において350kg(W1)と400kg(W2)のグラフが交差する場合は、350kgと400kgのグラフの交点をB点とし、その時の冷凍能力を求め、図5のグラフ2上で対応する点をB点とする。このようにして定まる点Bでの冷凍負荷率は、低温側冷凍負荷率と定義される。
(6)更に、図5において、冷凍機として実際運転可能な、冷凍能力の範囲と差圧範囲のグラフを作成する。図5において上側の実線がグラフ3であり、下側の実線がグラフ4である。これらグラフ3とグラフ4は、冷凍機のサージングライン、保護動作、故障回避動作、制限動作等を加味して適宜定めればよい。
グラフ3とグラフ4の両端を、上方に伸びる細線で表される直線、あるいは曲線(冷却水温度パターンが多い場合)で結ぶことで、2本の実線と2本の細線で囲まれた運転可能な全領域としての運転範囲(2)が定まる。つまり、冷凍機として、運転範囲(2)以外で運転することはできないので、伝熱管が汚れた場合でも蒸発器冷媒保有量制御が可能である。
【0035】
(7)次に、図5において、A点とB点を直線(冷却水温度が2点の場合)または近似曲線(複数冷却水温度で試験を行った場合)にて結び、B→Aの延長線とグラフ3の交点をグラフ3から求め、その点をA’とする。点A’は、B→Aの延長線とグラフ3の交点を中心とした設定許容範囲内で決定されてもよい。同じく、A→Bの延長線とグラフ4の交点をグラフ4から求め、その点をB’とする。点B’は、B→Aの延長線とグラフ4の交点を中心とした設定許容範囲内で決定されてもよい。こうして求めたB’−B−A−A’の線より、運転範囲(2)を第1設定運転範囲Iと第2設定運転範囲IIに分ける。そうすることで、図5が完成され、図5のデータを制御装置10のメモリに記憶しておく。負荷変動、冷却水温度変動等により、分岐線[B’−B−A−A’]を中心に、頻繁に左右に振れる場合に備え、分岐線[B’−B−A−A’]に対して、左右に不感帯(0〜数%)を設けるか、あるいは、一定時間内では蒸発器3の冷媒保有量制御を行わないとすることで、制御弁のハンチングを防ぐことができる。
(8)実施例として、運転点(冷凍負荷率算出値、および蒸発器3と凝縮器2間の差圧から決まる)が図5の第1設定運転範囲Iの領域に入った際、400kg−350kg=50kgの冷媒量を、エコノマイザ4、凝縮器2、あるいは貯留容器の一つあるいは複数の組み合わせに一時的に貯留する。また、運転点が第2設定運転範囲IIの領域に入った際、エコノマイザ4、凝縮器2、あるいは貯留容器の一つあるいは複数の組み合わせに一時的に貯留していた冷媒[400kg−350kg=50kg]を蒸発器3に戻す。
【0036】
図5に示す相関グラフから、冷却水入口温度12℃を一般化して「所定の低冷却水入口温度」と表現し、冷却水入口温度32℃を一般化して「所定の定格冷却水入口温度」と表現すれば、制御装置10による制御は、以下のように定義できる。
所定の低冷却水入口温度において前記2つの冷媒充填量W1,W2における、蒸発器3の低負荷率から定格負荷率までのLTDのグラフの交点における冷凍負荷率、またはグラフが交差しない場合は、前記第2冷媒充填量W2における所定の定格冷凍負荷率(100%)を低温側冷凍負荷率(図4の点Bの冷凍負荷率)として求め、前記第2冷媒充填量W2における所定の定格冷却水入口温度と所定の低冷却水入口温度のそれぞれについて、冷凍負荷率と、蒸発器3と凝縮器2との差圧との関係を表わすグラフ1,2を求め、前記定格冷却水入口温度について求められたグラフ1上の前記冷凍負荷率設定値に対応する点A(図5参照)を決定し、前記低冷却水入口温度について求められたグラフ2上の前記低温側冷凍負荷率に対応する点B(図5参照)を決定し、前記点Aと前記点Bとを結んだ直線または該直線に近似する近似曲線により仕切られる第1設定運転範囲Iと第2設定運転範囲IIを求め、前記冷凍負荷率算出値および蒸発器3と凝縮器2間の差圧により定まる運転点が前記第1設定運転範囲Iまたは前記第2設定運転範囲IIのいずれかにあるかに応じて、制御弁6からなる第1流量制御手段および/または制御弁7からなる第2流量制御手段により蒸発器3の冷媒保有量を制御する。
前記点Aと前記点Bを直線で結んだ場合は、制御を簡易的に行うことができ、前記点Aと前記点Bを近似曲線にて結ぶ場合は、各冷却水温度における低負荷率から定格負荷率までの蒸発器と凝縮器との差圧の関係を複数取得し、前記点Aと前記点B間で直線近似を行い曲線を作成することでより正確な設定運転範囲を求めることができる。さらに、点線の定格設定運転範囲に対し、点Aと点Bを結んだ直線または近似曲線を延長した線が、許容される全運転範囲(実線で示す)に交差する点A’及び点B’を求め、点A’及び点B’に基づいて第1設定運転範囲I及び第2設定運転範囲IIを補正してもよい。
【0037】
次に、冷媒貯留の制御方法すなわち蒸発器の冷媒保有量の制御方法について説明する。
蒸発器3の2種類の冷媒保有量の差分を一時的に貯留する部分には、制御対象となる下位液面と上位液面の検出が可能な液面検出手段を設け、貯留部分の下流側には、流量制御手段を設け、貯留部分の液面を制御する。その制御対象となる上位液面と下位液面による差分が、蒸発器3の前記2種類の冷媒保有量の差分になるように、予め、設計および実験により上位液面位置および下位液面位置を定めておく。
i)貯留する部分:凝縮器2または エコノマイザ4または貯留容器である。
ii)液面検出手段:液面計、リミットスイッチ、フロートスイッチ等である。
iii)流量制御手段:電動弁または電動弁とオリフィスの組み合わせ等である。
蒸発器3の冷媒保有量を図3に示すA点のみで制御する場合は、以下のように制御する。
運転中の冷凍負荷率>A点の冷凍負荷率の場合には、貯留部分の下流側の流量制御手段により、貯留部分の液面が上位液面位置になるように、流量制御を行う。
運転中の冷凍負荷率≦A点の冷凍負荷率の場合には、貯留部分の下流側の流量制御手段により、貯留部分の液面が下位液面位置になるように、流量制御を行う。
なお、A点付近で連続負荷変動等により、制御対象液面が上位と下位との間で頻繁に切り替わる場合の対策として、下記の方法等が考えられる。
i)所定時間による制御方法:制御対象液面が切り替わってから一定の時間内では、制御対象液面の切替を行わない。
ii)不感帯による制御方法:A点の冷凍負荷率を中心に、上下に、不感帯を設けて制御する。
【0038】
上記冷媒貯留の制御方法すなわち蒸発器の冷媒保有量の制御方法を整理すると、以下のように定義できる。
第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段の上流側に設けられた冷媒液を貯留可能な空間に設けられた液面検出手段と、前記液面検出手段には、所定の上側液位及び下側液位が設定され、前記冷凍負荷率算出手段で算出した冷凍負荷率算出値が前記冷凍負荷率設定値(図3に示すA点での冷凍負荷率)よりも大きい場合は、前記空間内の冷媒液の液面が前記上側液位となるよう前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段を制御し、前記冷凍負荷率算出手段で算出した冷凍負荷率算出値が前記冷凍負荷率設定値よりも小さい場合は、前記空間内の冷媒液の液面が前記下側液位となるよう前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段を制御する。
【0039】
次に、蒸発器の冷媒保有量の差分の全量又は差分の一部を貯留する貯留容器を設けた実施形態を図7乃至図10を参照して説明する。
図7は、前記蒸発器の冷媒保有量の差分の全量を貯留する貯留容器を設けた実施形態を示す模式図である。図7に示すように、エコノマイザ4と蒸発器3との間に第1貯留容器11が設置され、凝縮器2とエコノマイザ4との間に第2貯留容器12が設置されている。第1貯留容器11と蒸発器3とを接続する冷媒配管5には、第1流量制御手段を構成する制御弁6が設けられている。また、第2貯留容器12とエコノマイザ4とを接続する冷媒配管5には、第2流量制御手段を構成する制御弁7が設けられている。
【0040】
第1貯留容器11には、第1貯留容器11内に貯留された冷媒液の液面を検出する液面計またはリミットスイッチまたはフロートスイッチ等からなる液面検出手段13が設けられている。また、第2貯留容器12には、第2貯留容器12内に貯留された冷媒液の液面を検出する液面計またはリミットスイッチまたはフロートスイッチ等からなる液面検出手段14が設けられている。制御弁6、制御弁7、液面検出手段13および液面検出手段14は、それぞれ制御装置10に接続されている。
【0041】
図7に示すように構成された圧縮式冷凍機によれば、第1貯留容器11と第2貯留容器12に蒸発器3の冷媒保有量の差分の全量を貯留することにより、エコノマイザ4と凝縮器2とをコンパクトにすることができる。なお、第1貯留容器11と第2貯留容器12に蒸発器3の冷媒保有量の差分の一部を貯留し、凝縮器2やエコノマイザ4に残部を貯留することもできる。
【0042】
図8は、前記蒸発器の冷媒保有量の差分の一部を貯留する貯留容器を設けた実施形態を示す模式図である。図8に示すように、凝縮器2とエコノマイザ4との間に貯留容器15が設置されている。エコノマイザ4と蒸発器3とを接続する冷媒配管5には、第1流量制御手段を構成する制御弁6が設けられている。また、貯留容器15とエコノマイザ4とを接続する冷媒配管5には、第2流量制御手段を構成する制御弁7が設けられている。
貯留容器15には、貯留容器15内に貯留された冷媒液の液面を検出する液面計またはリミットスイッチまたはフロートスイッチ等からなる液面検出手段16が設けられている。制御弁6、制御弁7、液面検出手段16は、それぞれ制御装置10に接続されている。
【0043】
図8に示すように構成された圧縮式冷凍機によれば、蒸発器3の冷媒保有量の差分を貯留容器15とエコノマイザ4に分けて貯留することにより、凝縮器2をコンパクトにすることができる。この場合、エコノマイザ4の液面制御が必要となり、エコノマイザ4に液面検出手段(点線で図示)を設ける。また、図8に示す構成において、蒸発器3の冷媒保有量の差分を貯留容器15のみに貯留することもできる。その場合には、エコノマイザ4に液面検出手段を設けなくてもよい。
【0044】
図9は、前記蒸発器の冷媒保有量の差分の一部を貯留する貯留容器を設けた別の実施形態を示す模式図である。図9に示すように、エコノマイザ4と蒸発器3との間に貯留容器17が設置されている。貯留容器17と蒸発器3とを接続する冷媒配管5には、第1流量制御手段を構成する制御弁6が設けられている。また、凝縮器2とエコノマイザ4とを接続する冷媒配管5には、第2流量制御手段を構成する制御弁7が設けられている。
貯留容器17には、貯留容器17内に貯留された冷媒液の液面を検出する液面計またはリミットスイッチまたはフロートスイッチ等からなる液面検出手段18が設けられている。制御弁6、制御弁7、液面検出手段18は、それぞれ制御装置10に接続されている。
【0045】
図9に示すように構成された圧縮式冷凍機によれば、蒸発器3の冷媒保有量の差分を貯留容器17と凝縮器2に分けて貯留することにより、エコノマイザ4をコンパクトにすることができる。この場合、凝縮器2の液面制御が必要となり、凝縮器2に液面検出手段(点線で図示)を設ける。また、図9に示す構成において、蒸発器3の冷媒保有量の差分を貯留容器17のみに貯留することもできる。その場合には、凝縮器2に液面検出手段を設けなくてもよい。
【0046】
図10は、エコノマイザを備えない圧縮式冷凍機において、前記蒸発器の冷媒保有量の差分を貯留する貯留容器を設けた別の実施形態を示す模式図である。図10に示すように、凝縮器2と蒸発器3との間に貯留容器20が設置されている。貯留容器20と蒸発器3とを接続する冷媒配管5には、第3流量制御手段を構成する制御弁21が設けられている。
貯留容器20には、貯留容器20内に貯留された冷媒液の液面を検出する液面計またはリミットスイッチまたはフロートスイッチ等からなる液面検出手段22が設けられている。制御弁21、液面検出手段22は、それぞれ制御装置10に接続されている。
【0047】
図10に示すように構成された圧縮式冷凍機によれば、蒸発器3の冷媒保有量の差分の全量を貯留容器20に貯留することにより、凝縮器2をコンパクトにすることができる。また、図10に示す構成から貯留容器20を削除し、蒸発器3の冷媒保有量の差分を凝縮器2のみに貯留することもできる。その場合には、凝縮器2に液面検出手段を設ける必要がある。
なお、本実施例では、エコノマイザを備えない圧縮式冷凍機において第3流量制御手段により蒸発器3の冷媒保有量を制御する方法について説明したが、上述したエコノマイザを備えた圧縮式冷凍機における他の実施例において、前記第1流量制御手段および/または前記第2流量制御手段による冷媒移送に時間を要する場合、第3流量制御手段によりエコノマイザを経由することなく冷媒を短時間で移送すること構成を用いる事も可能である。
【0048】
図1図7乃至図10に示すように構成された各実施形態の圧縮式冷凍機における蒸発器3の冷媒保有量の制御方法を整理すると、以下の態様になる。
1)凝縮器2は、下部に蒸発器3の冷媒保有量を制御することが可能な所定量の冷媒液を貯留可能な空間を有し、第2流量制御手段のみにより蒸発器3の冷媒保有量を制御する(図1に示す実施形態)。
2)エコノマイザ4は、下部に蒸発器3の冷媒保有量を制御することが可能な所定量の冷媒液を貯留可能な空間を有し、第1流量制御手段のみにより蒸発器3の冷媒保有量を制御する(図1に示す実施形態)。
3)蒸発器3の冷媒保有量を制御することが可能な所定量の冷媒液を貯留可能な貯留容器17を蒸発器3とエコノマイザ4を接続する配管に設け、第1流量制御手段により蒸発器3の冷媒保有量を制御するか(図9に示す実施形態)、または貯留容器15をエコノマイザ4と凝縮器2を接続する配管に設け、第2流量制御手段により蒸発器3の冷媒保有量を制御する(図8に示す実施形態)。
4)凝縮器2の下部に、蒸発器3の冷媒保有量を制御することが可能な所定量の冷媒液を貯留可能なサブクーラを備え、第2流量制御手段のみにより蒸発器3の冷媒保有量を制御する(図1に示す実施形態において、凝縮器2の下部にサブクーラを備えた実施形態(図示せず))。
5)凝縮器2、エコノマイザ4、および蒸発器3とエコノマイザ4を接続する配管に設けられた第1貯留容器11またはエコノマイザ4と凝縮器2を接続する配管に設けられた第2貯留容器12における複数の貯留空間の組み合わせを利用して蒸発器3の冷媒保有量を制御することが可能な所定量の冷媒液を貯留し、第1流量制御手段および/または第2流量制御手段により蒸発器3の冷媒保有量を制御する(図7に示す実施形態)。
6)凝縮器2または凝縮器2の下流側に別途設けられた貯留容器20に蒸発器3の冷媒保有量の差分の冷媒液を貯留し、凝縮器2および貯留容器20のいずれかの貯留部から蒸発器3に直接接続される配管に第3流量制御手段を設け、貯留液を蒸発器3に送る際には、第3流量制御手段により直接送る(図10に示す実施形態)。
【0049】
これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内において、種々の異なる形態で実施されてよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
1 圧縮機
2 凝縮器
3 蒸発器
4 エコノマイザ
5 冷媒配管
6,7,21 制御弁
8,9,13,14,16,18,22 液面検出手段
10 制御装置
11 第1貯留容器
12 第2貯留容器
15,17,20 貯留容器
FE 流量センサ
T1,T2 温度センサ
W1 第1冷媒充填量
W2 第2冷媒充填量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10