【解決手段】冷却コイル5の径方向の内外に接した内側流路10cおよび外側流路10dは、径方向の内外を仕切る冷却コイル5によって分離されている。これらの経路10c,10dは、連通口11cを介して全周に亘って連通している。連通口11bより全周に亘って導入された流体は、内側流路10cおよび外側流路10dよりなる一連の流路を軸方向に沿って一様に往復する。その際、冷却コイル5の隙間を介した流体の往来が規制されているので、軸方向に沿った流体の流れに乱れが生じ難い。
前記熱交換器の外側と、前記第2の管の内側との間隔は、前記第1の管の外側と、前記熱交換器の内側との間隔よりも狭いことを特徴とする請求項1または2に記載された多重管式冷却器。
前記熱交換器の外側と、前記第2の管の内側との間における前記外側流路の径方向断面積は、前記熱交換器の内側と、前記第1の管の外側との間における前記内側流路の径方向断面積と略同一であることを特徴とする請求項3に記載された多重管式冷却器。
前記熱交換器の内周面および外周面のうちの少なくとも一方には、前記冷媒が流れない伝熱部材が軸方向に沿って取り付けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載された多重管式冷却器。
前記内側流路および前記外側流路のうちの少なくとも一方に設けられ、当該流路の温度を検出する温度センサをさらに有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載された多重管式冷却器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の冷却器では、冷却コイルが配置された空間、すなわち、冷却コイルを流れる冷媒との熱交換が行われる流路において、冷却すべき流体の流速がばらつき、流れの遅い部分が生じる。なぜなら、冷却コイルが疎に巻回されているため、隣り合ったコイル同士の隙間を流体が径方向に往来して、軸方向への流れに乱れが生じるからである。これにより、例えば、流体を凝固温度近傍まで冷却する場合、冷却コイルと接する流路のうちの特に流れの遅い部分において、流体が部分的に凝固し、凝固物が急激に成長して流路を塞ぐといった事態が起こり得る。このような事態を防止するためには、部分的な凝固が生じないような温度マージンを加味して、設定温度(流体の目標冷却温度)自体を高めに設定せざるを得ない。また、流路における凝固の有無は、流路に設置された温度センサを用いて、流路の温度を検出することによって判別することができる。しかしながら、流路の一部のみに凝固が生じた場合、その部分に温度センサが存在するとは限らず、また、流路全体に無数の温度センサを設けることは構造的にもコスト的にも現実的ではないので、部分的な凝固を適切に判別することは困難である。
【0005】
そこで、本発明の目的は、冷媒との熱交換が行われる流路において、冷却すべき流体の流速がばらつくことを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、複数の管が径方向の内外に配置された多重管式冷却器を提供する。この多重管式冷却器は、円筒状の熱交換器と、第1の管と、第2の管と、内側流路と、外側流路と、第1の連通口と、第2の連通口とを有する。熱交換器は、内部を流れる冷媒との熱交換によって、流体を冷却する。第1の管は、熱交換器の径方向内側に配置されている。第2の管は、熱交換器の径方向外側に配置されている。内側流路は、熱交換器の内側と、第1の管の外側との間の空間であって、流体が一方の軸方向に流れる。外側流路は、熱交換器の外側と、第2の管の内側との間の空間であって、流体が内側流路とは反対方向に流れる。第1の連通口は、内側流路および外側流路の上流に設けられ、内側流路または外側流路における軸方向の一端側に、全周に亘って流体を導入する。第2の連通口は、熱交換器における一端側とは反対の他端側において、内側流路と、外側流路とを全周に亘って連通する。
【0007】
ここで、第1の発明において、上記第1の連通口は、第1の管に設けられていてもよい。この場合、流体は、第1の連通口を介して内側流路の全周に亘って導入され、第2の連通口を介して、内側流路から外側流路に向かって軸方向に往復した上で、外部に放出される。
【0008】
第1の発明において、熱交換器の外側と、第2の管の内側との間隔は、第1の管の外側と、熱交換器の内側との間隔よりも狭いことが好ましい。より好ましくは、外側流路(熱交換器の外側と、第2の管の内側との間に形成される空間)の径方向断面積を、内側流路(熱交換器の内側と、第1の管の外側との間に形成される空間)の径方向断面積と略同一に設定することである。
【0009】
第1の発明において、熱交換器の内周面および外周面のうちの少なくとも一方に、冷媒が流れない伝熱部材を軸方向に沿って取り付けてもよい。また、内側流路および外側流路のうちの少なくとも一方に、この流路の温度を検出する温度センサを設けてもよい。さらに、第1の管の内側および第2の管の外側の少なくとも一方に、第3の管を配置してもよい。この場合、第3の管と、これと隣接した管(第1の管および第2の管の少なくとも一方)とは多重管構造をなし、その空間を、流体が軸方向に流れる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明に係る多重管式冷却器を用いて、上記流体としての水を冷却する冷水機を提供する。この冷水機は、流体としての水が貯留された水槽と、水槽内に配置された上記多重管式冷却器とを有する。
【0011】
ここで、第2の発明において、冷水機は、水槽内に貯留された水を汲み出し、この汲み出された水を多重管式冷却器によって冷却した上で、水槽内に放出する水循環系と、水槽内に貯留された水を、多重管式冷却器を介することなく、外部に直接送水する送水系とをさらに有していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、径方向の内外を熱交換器で仕切って内側流路と外側流路とに分離すると共に、軸方向の他端に設けられた第2の連通口を介して、内側経路と外側経路とを第2の連通口を介して全周に亘って連通させる。軸方向の一端側に設けられた第1の連通口より全周に亘って導入された流体は、熱交換器の径方向の往来が規制された内側流路および外側流路を、軸方向に沿って一様に往復する。このように流体を整流することで、熱交換器と接する内側流路および外側流路において、流体の流速がばらつくことを有効に抑制できる。
【0013】
第2の発明によれば、第1の発明に係る多重管式冷却器を用いることで、熱交換器と接する流路における水の流速のばらつきが抑制されるため、水が部分的に凍結すること、および、凍結によって生じた氷が急激に成長して流路を塞ぐことを有効に抑制できる。これにより、部分的な凝固を生じさせないための温度マージンが緩和され、より低温の冷却水を効率よく生成することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る多重管式冷却器の全体図である。この多重管式冷却器1は、冷却対象となる流体(例えば水等)を冷却する用途で用いられる。なお、同図は、多重管式冷却器1を構成する部材同士の位置関係が容易に理解できるように、それぞれの部材を軸方向にやや展開した状態を示しているが、実際には、外管4の内部に複数の部材2,3,5が完全に収容されており、上端の開口部は、透明フタ6によって閉塞されている。
【0016】
多重管式冷却器1は、複数の管2〜4と、熱交換器の一例としての冷却コイル5とを有し、これらは、径方向の内外に配置されている。本実施形態において、冷却コイル5の内側に2本、その外側に1本、合計3本の管が配置されている。具体的には、多重管式冷却器1の軸芯には、第1の内管2が配置されている。この第1の内管2の径方向外側には、その全周を囲むように、所定の間隔を空けて第2の内管3が配置されている。また、この第2の内管3の径方向外側には、その全周を囲むように、所定の間隔を空けて冷却コイル5が配置されている。さらに、この冷却コイル5の径方向外側には、その全周を囲むように、所定の間隔を空けて外管4が配置されている。このように、3本の管2〜4および冷却コイル5が同心円状に配置された状態で、上端の開口部が透明フタ6によって閉塞されている。透明フタ6を用いる理由は、多重管式冷却器1の運転時に、内部状態を外部から目視できるようにするためであり、これによって、例えば、内部流路に流体の凝固が生じているかどうかを、分解することなく判別することができる。
【0017】
図2は、多重管式冷却器1の展開斜視図であり、
図3は、その径方向断面図である。本実施形態において、多重管式冷却器1は、流体を貯留する貯留槽内に配置して使用することを前提しているため、貯留槽の底面7aには、多重管式冷却器1が載置される仕切り部8が設けられており、この仕切り部8も多重管式冷却器1の構成部材の一部をなしている。また、第1の内管2自体、または、これに接続された別管は、冷却すべき流体が外部から供給される入口管9として、貯留槽の底面7aを上下に貫通している。
【0018】
なお、多重管式冷却器1は、貯留槽内に配置することなく、単独で使用することも可能である。その場合、仕切り部8に相当する閉塞部材を用いて、多重管式冷却器1の下端の開口部を閉塞すると共に、流体を導入する入口管9以外に、流体を放出する出口管を別途取り付ければよい。
【0019】
第1の内管2は、軸方向の下端側が入口管9と連通していると共に、透明フタ6によって閉塞された上端側には、径方向の内外を貫通する小径の連通口11aが、全周に亘って均等に複数配置されている。透明フタ6によって上端の開口部が閉塞された組立状態において、第1の内管2における径方向の内外の空間は、流体が流れる流路10a,10bとなる。すなわち、第1の内管2の内部空間が流路10aに相当し、第1の内管2の外側と、第2の内管3の内側との間に存在する略円筒状の空間が、流路10bに相当する。これらの流路10a,10bは、連通口11aを介して、上端側において互いに連通している。
【0020】
第2の内管3は、その上端側が透明フタ6によって閉塞されていると共に、その下端側には、径方向の内外を貫通する連通口11b(
図8参照)が、全周に亘って設けられている。これにより、第2の内管3における径方向の内外の空間は、連通口11bを介して、下端側において互いに連通している。軸芯の入口管9から導入した流体を径方向外側から放出する場合、連通口11bは、冷却コイル5と接した流路10c,10dの上流に位置し、これらの流路10c,10dに流体を導入する導入口となる。
【0021】
全周に亘って流体を導くための連通口11bの形状としては、様々なものを用いることができる。例えば、
図4に示すように、貯留槽の底面7aよりも若干上方に第2の内管3の下端が位置するように、第2の内管3を配置してもよい。この場合、貯留槽の底面7aと、第2の内管3の下端との間に全周に亘って生じる隙間(開口)が連通口11bとなる。また、第2の内管3の下端を底面7aに当接させて閉塞した上で、この内管3自体に連通口11bを設けてもよい。例えば、
図5に示すように、第2の内管3の下端側において、実質的に全周が均等に開口するように、周方向に延在する略矩形状の開口を等間隔で複数設け、これらを連通口11bとする。さらに、
図6に示すように、第2の内管3の下端側において、多数の小孔を全周に亘って均等に設け、これらを連通口11bとしてもよい。以上のような形状は、他の連通口11a,11c,11d(
図8参照)についても同様に適用することができる。
【0022】
図2および
図3に示したように、冷却コイル5は、第2の内管3の外側と、外管4の内側との間に存在する略円筒状の空間内に配置されている。この空間は、冷却コイル5によって径方向の内外が仕切られており、これによって、流体が流れる流路として、冷却コイル5の内周面に接する内側流路10cと、その外周面に接する外側流路10dとが分離される。
【0023】
図7は、冷却コイル5の外観斜視図である。径方向の内外が仕切られた冷却コイル5の構造としては、図示したような、コイルが密に巻回されたものを用いることができる。コイルの径方向を内外に仕切る理由は、内側流路10cと、外側流路10dとの間において、流体が径方向に往来することを規制するためである。したがって、実質的に流体が往来しない程度にコイル同士が接していれば足り、コイル間が溶接等で完全に塞がれていることまで要求するものではない。また、疎に巻回されたコイルを複数本用意し、一方のコイルの隣り合った隙間に他方のコイルが入り込むように、複数本のコイルを入れ子状に配置することによって、密に巻回されたコイルの構造体を用意し、これを冷却コイル5として用いてもよい。さらに、コイルの疎密を問わず、巻回されたコイルの内周面および外周面の少なくとも一方に、シート状の部材を貼着または溶接することによって、コイルの隙間を塞いでもよい。この場合、冷却効率の低下を抑制すべく、シート状の部材として、伝熱性の高い材質のもの(例えばアルミ箔等)を用いることが好ましい。冷却コイル5における冷媒の流れとしては、入口5aから供給された冷媒が、冷却コイル5の流路に沿って螺旋状に流れて、出口5bから外部に放出される。
【0024】
また、
図7に示したように、冷却コイル5の内周面および外周面の少なくとも一方には、冷却性能を高めるために、冷媒が流れない棒状の伝熱部材5cが軸方向に沿って取り付けられている。冷却コイル5と接した内外の流路10c,10dは、上端側の連通口11cを介してのみ連通し、それ以外では互いに分離されているため、それぞれの流路10c,10dにおいて、流体は軸方向に沿って均一に流れる。伝熱部材5cを軸方向に沿って延在させることで、これらの流路10c,10dにおける軸方向の流れを阻害することなく、熱交換による冷却効率を高めることができる。伝熱部材5cとしては、冷却コイル5の材質と同様、熱伝導率の高い金属(例えば銅)を用いることが好ましい。また、複数本の伝熱部材5cを用い、冷却コイル5の内周面/外周面の全周に均等に取り付けてもよい。
【0025】
図3に示したように、外側流路10dには、この流路における凝固の有無を検出するために、流路の温度を検出する温度センサ12が、少なくとも一つ設けられている。この温度センサ12は、外側流路10dではなく内側流路10cに設けてもよく、あるいは、内側流路10cおよび外側流路10dの双方に設けてもよい。
【0026】
冷却コイル5の下端面は、貯留槽の底部7aに設けられた仕切り部8の上端面と接しており、これによって、冷却コイル5の下端側において、流体の径方向の往来が規制される。また、冷却コイル5の上端側には、径方向の内外を貫通する連通口11cが全周に亘って設けられている。この連通口11cによって、冷却コイル5の内側と第2の内管3の外側との間における略円筒状の空間である内側流路10cと、冷却コイル5の外側と外管4の内側との間における略円筒状の空間である外側流路10dとは、上端側において互いに連通している。また、外管4の下端側には、径方向の内外を貫通する連通口11dが全周に亘って設けられている。軸芯の入口管9から導入した流体を径方向外側より放出する場合、連通口11dは、冷却コイル5と接した流路10c,10dの下流に位置し、これらの流路10c,10dを経て冷却された流体を放出する放出口となる。なお、最も外側の連通口11dについては、径方向外側には流路が最早存在しないため、径方向に開口している必要性は必ずしもなく、軸方向に開口させて、側方ではなく下方より流体を放出してもよい。
【0027】
多重管式冷却器1を構成する複数の管2〜4は、同心円状に配置された状態で透明フタ6を介してネジ止めされており、これによって、多重管式冷却器1として全体が一体化される。多重管式冷却器1のメンテナンス時には、ネジを外すことによって、それぞれの部材を容易に分解することができる。なお、メンテナンス性を考慮する必要がないのであれば、ネジ止め以外の方法で複数の管2〜4の開口部を閉塞してもよく、例えば、開口部に蓋が溶接されているような形態、すなわち、開口部を有さない閉塞管を用いてもよい。その意味で、本明細書において、「管」とは、開口の有無を問わない筒状体と同義の用語として用いている。
【0028】
図8は、多重管式冷却器1の内部における流体の流れを示す図である。軸芯の入口管9より供給された流体は、第1の内管2の内部に形成された流路10aを軸方向上方に向かって流れる。この流路10aを経て上端側に導かれた流体は、上端側の連通口11aを介して、径方向外側に全周に亘って均一に導かれた後、流路10bを軸方向下方に向かって流れる。この流路10bを経て下端側に導かれた流体は、下端側の連通口11bを介して、径方向外側に全周に亘って均一に導かれた後、内側流路10cを軸方向上方に向かって流れる。この内側流路10cは、冷却コイル5と接しているので、冷却コイル5を流れる冷媒と、内側流路10cを流れる流体との間で熱交換が行われ、これによって、流体が冷却される。内側流路10cを経て上端側に導かれた流体は、上端側の連通口11cを介して、径方向外側に全周に亘って均一に導かれた後、外側流路10dを軸方向下方に向かって流れる。この外側流路10dは、内側流路10cと同様、冷却コイル5と接しているので、外側流路10dを流れる流体はさらに冷却される。そして、外側流路10dを経て下端側に導かれた流体は、下端側の連通口11d(放出口)を介して、径方向外側に全周に亘って均一に放出される。このように、多重管式冷却器1の内側流路10a〜10dにおいて、流体は、軸方向に往復しながら、径方向外側に導かれる。
【0029】
このように、本実施形態によれば、冷却コイル5の内外を仕切って内側流路10cと外側流路10dとに分離すると共に、これらの経路10c,10dの間を連通口11cを介して全周に亘って連通させる。これにより、冷却コイル5に流体を導入する導入口となる連通口11b(冷却コイル5の直上流側)より全周に亘って導入された流体は、
図9の矢印で示すように、内側流路10cおよび外側流路10dよりなる一連の流路を軸方向に沿って一様に往復する。その際、冷却コイル5の隙間を介した流体の往来が規制されているので、軸方向に沿った流体の流れに乱れが生じ難い。このように流体を整流することによって、冷却コイル5と接した内側流路10cおよび外側流路10dにおいて、流体の流速がばらつくことを有効に抑制できる。
【0030】
流速のばらつきの抑制は、特に、流速の遅い部分での予期しない凝固を防止できるという点で、流体を凝固温度近傍まで冷却する場合に有利である。なぜなら、部分的な凝固が生じないような温度マージンが不要になるため、その分だけ、設定温度(流体の目標冷却温度)を低く設定できるからである。また、凝固が生じるとしても、部分的な凝固ではなく、冷却コイル5の伝熱面全体が均一に凝固するので、温度センサ12を多数設置しなくとも、少ない個数で、凝固の状態を精度よく判別することが可能となる。
【0031】
また、本実施形態によれば、冷却コイル5の内外を仕切って内側流路10cと外側流路10dとに分離することで、冷却コイル5の内外を仕切ることなく単一の流路とする場合と比較して、流路の断面積が小さくなって流体が速く流れる。これにより、冷却コイル5による流体の冷却効率を高めることができる。
【0032】
また、本実施形態では、冷却コイル5の径方向内側が二重管構造(内管2,3)となっており、その内部を流体が軸方向に往復する。これにより、内側流路10cと、その直内側にある流路10bとが内管3の壁部を介して接し、両者を流れる流体間で熱交換が生じるので、内側流路10cにおいて流体の凝固が生じても、凝固物の急激な成長を抑制できる。
【0033】
また、本実施形態によれば、冷却コイル5によって冷却された流体を外部に放出する放出口となる連通口11d(冷却コイル5の直下流側)が全周に亘って開口しているため、冷却コイル5の下流側での流体の滞留が生じ難く、上流側に悪影響を及ぼすことがない。その結果、内側流路10cおよび外側流路10dにおける流速のばらつきをより有効に抑制することが可能となる。
【0034】
さらに、本実施形態によれば、冷却コイル5の径方向内側に複数の内管2,3を配置して、入口管9より供給された流体が冷却コイル5の全周に均一に行き渡るように整流している。このように、冷却コイル5の内部空間を有効に活用して、整流機構を冷却コイル5の内部に配置することによって、多重管式冷却器1を小型化することができる。
【0035】
なお、上述した実施形態では、軸芯の入口管9から導入した流体を径方向外側より放出する例について説明したが、
図8および
図9に示した流体の流れを逆にして、径方向外側から導入した流体を軸芯の入口管9より放出してもよい。この場合、内側流路10cおよび外側流路10dの双方の上流に位置する連通口11dを介して、貯留槽内に貯留された流体は、全周から多重管式冷却器1の内部に導入される。また、貯留槽内に配置することなく、単独で使用される多重管式冷却器1の場合、入口管9の一点から導入された流体が全周に亘って均一に広がるように整流した上で、連通口11dに導けばよい。
【0036】
さらに、内側流路10cおよび外側流路10dにおける流速のばらつきを抑制するという観点でいえば、
図3に示したように、冷却コイル5の外側と外管4の内側との間隔L1は、冷却コイル5の内側と内管3の外側との間隔L2よりも狭いことが好ましい(L1<L2)。これらの間隔L1,L2が同一の場合、内側流路10cよりも外側流路10dの方が径方向断面積が大きくなって、外側流路10dの流速が相対的に遅くなってしまうからである。L1<L2とすれば、両者の流速の差を緩和することができる。特に、内側流路10cの径方向断面積と、外側流路10dの径方向断面積とが略同一になるように間隔L1,L2を設定すれば、内側流路10cの流速と、外側流路10dの流速とを、ほぼ等しくすることができる。
【0037】
以上のような各変形例は、後述する第2の実施形態においても、同様に適用することができる。
【0038】
(第2の実施形態)
図10は、第2の実施形態に係る多重管式冷却器の概略図である。この多重管式冷却器1は、第1の実施形態と同様、複数の管2〜4と、冷却コイル5とによって構成されているが、第1の実施例とは異なり、冷却コイル5が内管2,3との間に配置されている。これにより、冷却コイル5の径方向内側は単管構造(内管2)となり、その径方向外側は二重管構造(内管3および外管4)となる。それ以外の点については、第1の実施形態と同様なので、第1の実施形態で用いた符号と同一の符号を付して、ここでの説明を省略する。
【0039】
同図に矢印で示すように、入口管9より供給された流体は、第1の内管2の内部に形成された流路10aを軸方向上方に向かって流れる。この流路10aを経て上端側に導かれた流体は、上端側の連通口11a(冷却コイル5の導入口)を介して、径方向外側に全周に亘って均一に導かれた後、内側流路10cを軸方向下方に向かって流れる。この内側流路10cは、冷却コイル5と接しているので、冷媒との熱交換によって、流体が冷却される。この内側流路10cを経て下端側に導かれた流体は、下端側の連通口11bを介して、径方向外側に全周に亘って均一に導かれた後、外側流路10dを軸方向上方に向かって流れる。この外側流路10dは、冷却コイル5と接しているので、外側流路10dを流れる流体はさらに冷却される。外側流路10dを経て上端側に導かれた流体は、上端側の連通口11cを介して、径方向外側に全周に亘って均一に導かれた後、流路10eを軸方向下方に向かって流れる。そして、流路10eを経て下端側に導かれた流体は、下端側の連通口11d(出口)を介して、径方向外側に全周に亘って均一に放出される。
【0040】
このように、本実施形態によれば、上述した第1の実施形態と同様の効果を奏する他、冷却コイル5の径方向外側が二重管構造(内管3および外管4)となっているため、その内部を流体が軸方向に往復する。これにより、外側流路10dと、その直外側にある流路10eとが内管3の壁部を介して接し、両者を流れる流体間で熱交換が生じるので、外側流路10dにおいて流体の凝固が生じても、凝固物の急激な成長を抑制できる。
【0041】
なお、上述した各実施形態では、冷却コイル5の径方向内側を二重管構造とする形態(第1の実施形態)、および、冷却コイル5の径方向外側を二重管構造とする形態(第2の実施形態)を例示したが、内側および外側の双方に、複数の管を用いた多重管構造を採用してもよい。ただし、本発明の構成として最低限必要なものは、冷却コイル5の径方向の内外にそれぞれ1本の管、合計2本の管が存在することであって、内側および外側の少なくとも一方を多重管構造とすることは、本発明の上位概念としては必須ではない。
【0042】
(第3の実施形態)
図11は、第3の実施形態に係る冷水機の概略的な全体図である。この冷水機20は、上述した各実施形態およびその変形例に係る多重管式冷却器1,1’(以後、符号「1」にて総称)を用いて、冷却対象となる流体として水を冷却し、飲料用途はもとより、食品、水産、理化学等の各種分野で使用される凍結温度近傍の低温の冷水を生成する。なお、本明細書において、「水」または「冷水」とは、水分を含む液体といった意味で用いられ、真水のみならず、塩水、飲料(ジュース、ビール等)、ブライン(水分を含むもの)などを含む。
【0043】
冷水機20は、水槽7と、多重管式冷却器1と、水循環系21と、給水系22と、送水系23と、冷媒循環系24とを主体に構成されている。水槽7は、多重管式冷却器1によって冷却された水が貯留されており、その底面7aには、多重管式冷却器1が設置されている。水循環系21は、多重管式冷却器1における水の出入口間に接続されており、水槽7内に貯留された水をポンプ21aで汲み出して多重管式冷却器1に供給すると共に、多重管式冷却器1によって冷却された水を水槽7内に放出する。また、水循環系21における冷水の流路には、温度センサ21bが設けられており、これによって、流路を流れる冷水の温度、換言すれば、水槽7の水温が検出される。さらに、上述したように、多重管式冷却器1には、内部流路の凍結状態を検出するために、温度センサ12が内蔵されている。
【0044】
給水系22は、水槽7内の水位を検出するレベルセンサ25によって貯留量が減少した場合に、所定の貯留量になるまで水槽7内に水を供給する。送水系23は、水槽7内に貯留された冷水を、多重管式冷却器1を介することなく、外部に直接送水する。本実施形態において、送水系23は、水循環系21における多重管式冷却器1の上流側、具体的には、ポンプ21aと多重管式冷却器1との間に取り付けられており、ポンプ21aによって汲み出された冷水を外部に送水する。
【0045】
冷媒循環系24は、冷却器1における冷媒の出入口に接続されており、圧縮機および凝縮器よりなる冷凍機24aと、膨張弁24bとを備えている。冷凍機24aの運転中、冷媒は、冷凍サイクルを繰り返しながら冷媒循環系24を循環する。すなわち、冷凍機24aに供給された冷媒は、圧縮機によって圧縮されて高温高圧ガスとなり、凝縮器によって凝縮(液化)された上で、高圧液となって冷凍機24aより放出される。高圧液化された冷媒は、膨張弁24bによって減圧され、低圧液となって冷却器1に供給される。低圧液化された冷媒は、冷却器1における水との熱交換によって蒸発(気化)し、低圧ガスとなって冷凍機24aに戻される。このような冷媒の冷凍サイクルにおいて、冷却器1内を流れる水は、低圧液化された冷媒が気体に相変化する際の気化熱によって冷却される。
【0046】
このように、本実施形態によれば、上述した多重管式冷却器1を用いることで、冷媒との熱交換が行われる流路上での流速のばらつきが抑制されるため、水が部分的に凍結すること、および、凍結によって生じた氷が急激に成長して流路を塞ぐことを有効に抑制できる。
【0047】
また、本実施形態によれば、多重管式冷却器1の構造として、水の部分的な凍結が生じ難いので、冷水機1を制御する上で、部分的な凝固が生じないような温度マージンを考慮する必要がない。これにより、冷水の設定温度を、従来の冷水機よりも低温(例えば1℃以下)にすることができ、そのような極低温の冷水を水槽7内に貯留しておくことができる。その結果、多重管式冷却器1を経なくとも、極低温の冷水をそのままに送水することができる。
【0048】
さらに、本実施形態によれば、多重管式冷却器1の内部流路に凍結が生じた場合でも、部分的な凍結ではなく、冷却コイル5の伝熱面全体が均一に凍結するので、少数の温度センサ12のみで、凍結の状態を精度よく判別することが可能となる。これにより、冷却コイル5にある程度の氷が付着したまま、冷水機1を連続運転することができる。
【0049】
なお、上述した各実施形態では、冷媒との熱交換によって流体を冷却する熱交換器として、コイルが密に巻回された冷却コイル5を用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、径方向の内外を仕切って内側流路と外側流路とを分離する円筒状(厳密な円筒である必要はない。)のものであれば、内部における冷媒の流路を含めて、どのような構造の熱交換器を用いてもよい。