(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-200199(P2019-200199A)
(43)【公開日】2019年11月21日
(54)【発明の名称】計時器用ムーブメントの渦巻き状のばねを固定するバランスばねスタッド及びこのようなバランスばねスタッドを製造する方法
(51)【国際特許分類】
G04B 17/34 20060101AFI20191025BHJP
【FI】
G04B17/34
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-65797(P2019-65797)
(22)【出願日】2019年3月29日
(31)【優先権主張番号】18172195.2
(32)【優先日】2018年5月14日
(33)【優先権主張国】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・クリスタン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】渦巻き状のばねの自由端が分離しないようなバランスばねスタッドを提供する。
【解決手段】計時器用ムーブメント用のバランスばねスタッド2であって、バランスばねスタッド2には、平面内にて延在している基部4があり、基部4からは、基部4の反対側の端にて自由な第1のアーム6と第2のアーム8が延在し、第1のアーム6と第2のアーム8は、ギャップによって互いに離れており、ギャップ内にて、硬化された接着剤滴16内にトラップされた渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端18が収容され、第1のアーム6と第2のアーム8の少なくとも一方には、渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端18が中にトラップされた硬化された接着剤滴16が、バランスばねスタッド2に接着しないようになっても、収容されているギャップから解放されることを防ぐように構成している止め手段22がある。
【選択図】
図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器用ムーブメント用の渦巻き状のばね(20)の最も外側の巻きの自由端(18)を接着剤滴(16)を用いて固定するバランスばねスタッドであって、
このバランスばねスタッド(2)には、平面(P)内にて延在している基部(4)があり、
前記基部(4)からは、前記基部(4)の反対側の端にて自由な第1のアーム(6)と第2のアーム(8)が延在しており、
前記第1のアーム(6)と前記第2のアーム(8)は、ギャップ(10)によって互いに離れており、
前記ギャップ(10)内にて、硬化された接着剤滴(16)内にトラップされた渦巻き状のばね(20)の最も外側の巻きの自由端(18)が収容され、
前記第1のアーム(6)と前記第2のアーム(8)の少なくとも一方には、前記渦巻き状のばね(20)の最も外側の巻きの自由端(18)が中にトラップされた硬化された接着剤滴(16)が、前記バランスばねスタッド(2)に接着しないようになっても、収容されている前記ギャップ(10)から解放されることを防ぐように構成している止め手段がある
バランスばねスタッド。
【請求項2】
前記第1のアーム(6)と前記第2のアーム(8)の少なくとも一方には、完全に貫通するように穴(22)が形成されている
請求項1に記載のバランスばねスタッド。
【請求項3】
少なくとも前記第1のアーム(6)には、その自由端から離れた箇所に溝(38)が形成されており、
この溝(38)は、前記基部(4)の前記平面(P)と角度を形成している平面内にて広がっており、
硬化された接着剤滴(16)を保持する支持面(42)を形成するフック(40)の境界を少なくとも前記第1のアーム(6)において形成している
請求項1に記載のバランスばねスタッド。
【請求項4】
前記止め手段は、前記渦巻き状のばね(20)の最も外側の巻きの自由端(18)がトラップされている硬化された接着剤滴(16)を受ける前記ギャップ(10)内にて突き出ている
請求項1に記載のバランスばねスタッド。
【請求項5】
前記止め手段は、前記バランスばねスタッド(2)の対応するアーム(6、8)と一体化されるように作られる少なくとも1つのビード(48)である
請求項4に記載のバランスばねスタッド。
【請求項6】
計時器用ムーブメント用の渦巻き状のばね(20)の最も外側の巻きの自由端(18)を固定するバランスばねスタッド(2)を製造する方法であって、
このバランスばねスタッド(2)は、平面(P)内にて延在している基部(4)と、及びこの平面(P)から延在している第1及び第2のアーム(6、8)とを有し、
前記第1及び第2のアーム(6、8)は、硬化された接着剤滴(16)内にトラップされる、渦巻き状のばね(20)の最も外側の巻きの自由端(18)を収容するように意図されているギャップ(10)によって互いに離れており、
前記ギャップ(10)は、初期には第1の幅(d1)を有するように作られ、
当該方法は、前記渦巻き状のばね(20)の最も外側の巻きの自由端(18)がトラップされる硬化された接着剤滴(16)を受けるように構成している前記ギャップ(10)内にて突き出ている止め手段(46)をスタンピングしアプセットすることによって作ることによって前記ギャップ(10)を広げるステップを備える方法。
【請求項7】
計時器用ムーブメント用の渦巻き状のばね(20)の最も外側の巻きの自由端(18)を固定するバランスばねスタッド(2)を製造する方法であって、
このバランスばねスタッド(2)は、平面(P)内にて延在している基部(4)を有し、この基部(4)上に第1及び第2のアーム(6、8)が立っており、
前記第1及び第2のアーム(6、8)は、前記基部(4)の反対側の端においては自由になっており、
前記第1及び第2のアーム(6、8)は、硬化された接着剤滴(16)内にトラップされる前記渦巻き状のばね(20)の最も外側の巻きの自由端(18)が収容されるギャップ(10)によって互いに離れており、
当該方法は、前記第1及び第2のアーム(6、8)の前記自由端から前記基部(4)の方へと前記バランスばねスタッド(2)に第1の穴を機械加工して形成し、前記基部(4)から前記第1及び第2のアーム(6、8)の自由端の方へと前記スタッド(2)に第2の穴を機械加工して形成するステップを備え、
前記機械加工は、前記第1の穴が前記第2の穴内に部分的に出現するように行われ、
これによって、前記渦巻き状のばね(20)の最も外側の巻きの自由端(18)がトラップされる硬化された接着剤滴(16)を収容するように形成された前記ギャップ(10)内にて突き出ているカラーを局所的に保持するようにされる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器用ムーブメントの渦巻き状のばねを固定するバランスばねスタッドに関する。より正確には、本発明は、計時器用ムーブメントの渦巻き状のばねの最も外側の巻きが接着結合によって固定されるようなバランスばねスタッドに関する。本発明は、さらに、前記のようなバランスばねスタッドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
計時器の分野において、バランスに付随する渦巻き状のばねが機械式計時器のタイムベースを形成する。第1のアプローチでは、渦巻き状のばねは、同心の巻きを形成するように巻かれた非常に精密なばねの形態となっている。内側の第1の巻きと呼ばれる渦巻き状のばねの第1の端は、コレットに固定され、最も外側の巻きと呼ばれる渦巻き状のばねの第2の端は、バランスばねスタッドに固定される。
【0003】
より正確には、発振システムとも呼ばれる機械式計時器用のタイムベースは、バランス/渦巻き状のばねの対及びエスケープを備える。バランスは、第1のベアリングと第2のベアリングの間を回転するバランススタッフによって形成されており、このバランススタッフは、半径方向のアームを介してバランスリムに接続される。渦巻き状のばねは、その内側の第1の巻きを介して、例えば、コレットによって、バランスのスタッフに固定される。渦巻き状のばねは、その最も外側の巻きを介して、適宜バランスばねスタッドホルダーによって担持されている、バランスばねスタッドによって形成された取り付け点に固定される。エスケープは、プレートピンを担持している大きなプレートと、及びノッチが形成されている小さなプレートとによって構成しているダブルプレートシステムを備える。エスケープは、さらに、パレットを備え、このパレットのパレットスタッフは第1のベアリングと第2のベアリングの間にて回転する。パレットは、入力アームと出力アームにフォークを接続するレバーによって構成している。フォークは、入力ホーンと出力ホーンによって構成しており、この入力ホーンと出力ホーンの間にてダートが延在している。フォークの運動は、入力制限ピンと出力制限ピンによって制限されており、これは、パレットブリッジと一体化された部品であるように作ることができる。入力アームと出力アームはそれぞれ、入力パレット石と出力パレット石を担持する。最後に、前記パレットは、第1のベアリングと第2のベアリングの間にて回転するエスケープ車スタッフを備えるエスケープ車と連係する。
【0004】
渦巻き状のばねは、計時器用ムーブメントの平面と平行な水平面内にて巻かれた渦巻き状の形態となっている。渦巻き状のばねは、1つの機能のみを行う。すなわち、渦巻き状のばねは、バランスに関連づけられた後に、一方の方向に回り、その後に、他方の方向に回る。すなわち、できるだけ一定の頻度で均衡点を中心に振動する。渦巻き状のばねが呼吸するといわれる。しかし、渦巻き状のばねが常に同じ頻度で振動することを妨げる多くのことがある。特に、巻きどうしを接着させて腕時計を止めてしまうような酸化や磁性に渦巻き状のばねが対応できなければならない。他方、気圧の影響は小さい。長い間、温度が大きな問題であった。なぜなら、金属が熱で膨張し、冷えると縮小するからである。また、渦巻き状のばねは、変形した後に常に形が戻るように弾性的でなければならない。
【0005】
渦巻き状のばねを作るために用いられる材料は、通常、鋼である。合金のような延性がある材料は、腐食に耐えなければならない。最近の研究開発によると、ケイ素によって渦巻き状のばねを作ることが提案されている。ケイ素製の渦巻きは、磁性の影響を受けないために、伝統的な鋼よりも精密である。他方、このようなケイ素製の渦巻きの価格は高く、組み立てが難しい。
【0006】
渦巻き状のばねは等時性でなければならない。渦巻き状のばねは、どの位置まで回転しても、常に同じ時間を経過させて振動しなければならない。渦巻き状のばねは、数度しか収縮していないときには、エネルギーをほとんど蓄積せず、その均衡点へとゆっくり戻る。渦巻き状のばねは、その均衡点から離れているときには、非常に迅速に反対方向に動く。重要なことは、これらの2つの運動が同じ期間内に行われるということである。基礎となる思想は、渦巻き状のばねが持っているエネルギーが一定ではなく、腕時計は完全に巻かれている状況でも、稼働させるためのエネルギーの蓄えが残り数時間分であるような状況でも、何があっても機能しなければならないということである。
【0007】
渦巻き状のばねは、小さい寸法であるために組み立てることが難しい。しかし、渦巻き状のばねの2つの端が固定される手法も、計時器用ムーブメントの稼働の精度に大きな影響を与える。大多数の機械式計時器用ムーブメントにおいて、渦巻き状のばねの2つの端は、穴が形成された部分に挿入され、プライヤーによって手動で押し込まれたピンによって動かなくされる。このとき、渦巻き状のばねがわずかに回転することがある。このことは、ムーブメントの稼働の精度に悪影響を及ぼす。この課題を克服するために、フランスの計時器メーカーのLipは、1960年代に、渦巻き状のばねを微量のホットメルト接着剤、すなわち、周囲温度においては硬いが熱の作用の下では溶けるような接着剤、を用いて接合することを提案している。
【0008】
しかし、このようなホットメルト接着剤によって渦巻き状のばねの端を接合させることを伴う技術にも限界があった。実際に、溶けているホットメルト接着剤は、その粘性のために、毛管現象によって、渦巻き状のばねに対して牽引力をはたらかせて、渦巻き状のばねの端を、この端が係合しているバランスばねスタッドの壁に押し付けることがある。結果として、渦巻き状のばねが変形して、その内部に機械的応力を発生させてしまう。このことは、稼働の規則性に対して非常に有害である。
【0009】
これらの課題に対処するために、出願人は、前記のような渦巻き状のばねにおいていずれの機械的応力をも発生させず、アイドル位置から離れさせないような渦巻き状のばねを固定する方法を既に提案している。この方法は、紫外線などによって重合可能な少量の流動性の接着剤によって、バランスばねスタッドに、渦巻き状のばねの最も外側の巻きを接合することを伴う。したがって、シリンジタイプの接着剤ディスペンサーなどによって接着剤滴を堆積させたときに、渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端がその接着剤滴の重さの影響の下でわずかに動くと、渦巻き状のばねにおいて望まない機械的応力が発生し、このような状況においても、接着剤には硬化の前に十分に流動性があって、渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端を自発的にそのアイドル位置に復帰させることが可能になる。したがって、液状の接着剤滴の堆積の瞬間における渦巻き状のばねに発生する機械的応力は、自身を消滅させて、これによって、渦巻き状のばねの稼働の規則性がその接合の操作に影響されないようになる。
【0010】
上記の手法によって、組み立て時に渦巻き状のばねにおいて通常発生する機械的応力を完全に又は少なくとも大部分を除去しつつ、その渦巻き状のばねをその最も外側の巻きの外側の自由端を用いてバランスばねスタッドに固定することが可能になる。このようにして、渦巻き状のばねの稼働の規則性が大幅に改善される。しかし、使用時に、出願人は、最も外側の巻きの自由端を渦巻き状のばねの外側に固定するために用いられる液状の接着剤滴が重合するときに形成される硬化した接着剤滴が、時々バランスばねスタッドから分離される傾向があることを認識した。このことは、もちろん、この渦巻き状のばねが設置された計時器用ムーブメントの不具合を直ちに発生させてしまう。渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端がトラップされている接着剤滴がバランスばねスタッドから分離するこのような状況は、その接着剤滴がバランスばねスタッドに完全に接着することを妨げるようなバランスばねスタッドの表面仕上げの問題に特に起因している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端がトラップされているような接着剤滴が、バランスばねスタッドに接着しなくなっても、バランスばねスタッドから分離するようにはならないことを自身の形状によって確実にすることが可能になるような、新規なタイプのバランスばねスタッドを提供することによって前記課題などを解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このために、本発明は、計時器用ムーブメント用の渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端を固定するために用いられるバランスばねスタッドに関する。このバランスばねスタッドには、平面内にて延在している基部があり、前記基部上にて、前記基部の反対側の端にて自由な第1のアームと第2のアームが立っており、前記第1のアームと前記第2のアームは、ギャップによって互いに離れており、前記ギャップ内にて、硬化された接着剤滴内にトラップされた渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端が収容される。前記第1のアームと前記第2のアームの少なくとも一方には、前記渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端が中にトラップされた接着剤滴が、前記バランスばねスタッドに接着しないようになっても、収容されている前記ギャップから解放されることを防ぐように構成している止め手段がある。
【0013】
本発明の特定の実施形態において、前記第1のアームと前記第2のアームの少なくとも一方には、完全に貫通するように穴が形成されている。
【0014】
本発明の別の特定の実施形態において、少なくとも前記第1のアームは、前記基部の反対側の端にて自由であり、少なくとも前記第1のアームには、その自由端から離れた位置に溝が形成されており、この溝は、前記基部の平面と角度を形成する平面内にて広がっている。
【0015】
本発明の別の特定の実施形態において、前記止め手段は、前記渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端がトラップされている硬化された接着剤滴を受けるように構成している前記ギャップ内にて突き出ている。
【0016】
本発明の別の特定の実施形態において、前記止め手段は、前記バランスばねスタッドの対応するアームと一体化されるように作られる少なくとも1つのビードである。
【0017】
このような特徴の結果、本発明は、計時器用ムーブメント用の渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端を固定するために用いられるバランスばねスタッドであって、渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端がトラップされている接着剤滴が、バランスばねスタッドに接着しないようになっても、収容されているギャップから外れることを防ぐように構成している止め手段を備えるものを提供することができる。
【0018】
本発明は、あらゆるタイプの既知の渦巻き状のばねに適用することができる。特に、典型的には鋼によって作られた金属製の渦巻きであることができる。また、ケイ素によって作られた渦巻き状のばねであることができる。
【0019】
また、本発明は、特に、いずれかのタイプの接着剤に限定されない。なぜなら、渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端は、例えば、名称「ラッカーゴム(Lacquer gum)」としてよく知られている接着剤(この名称や英語で「Shellac」として知られている接着剤)を用いて、バランスばねスタッドのギャップ内にて接合され、あるいはUV照射によって重合させることなどによって液状接着剤によって接合させることができる。ラッカーゴムの利点は、主として、バランスばねスタッドに良好に長い期間接着することである。他方では、出願人の知見では、ラッカー接着剤を用いる渦巻きのバランスばねスタッドへの接合は自動化されたことがなく、この接合が成功するかどうかは依然として完全にこの操作を行う操作者の器用さに依存している。ラッカーゴムは、樹脂であり、操作者は、その小片を取り、渦巻き状のばねの最も外側の外側回転の自由端を受けるように意図されているギャップ内に配置する。操作者は、バランスばねスタッドに形成されたギャップ内にこの渦巻き状のばねの端を配置した後、ラッカーゴムの小片を簡潔に加熱して、この小片が溶け、渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端をトラップする。次に、操作者は、ラッカーゴムを放置して冷却し、目で確認した後に、ラッカーゴムの追加量を加えることが必要か、あるいは続く渦巻き状のばね/バランスばねスタッドの組み立てに渡すことができるかどうかを決める。なお、このような一連の動作は自動化することが難しい。このために、UV照射によって重合可能である又は空気に接触させて硬化させることができる液状接着剤を用いて、特に、ケイ素によって作られた、渦巻き状のばねを接着させることを提案している。既に上で言及したように、このようなタイプの接着剤は、この接着剤滴が堆積した後に、渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端がそのアイドル位置に戻ることができるような流動性を有する。このアイドル位置は、接着剤が堆積している間に動く前の位置である。具体的には、堆積される液状接着剤の量は、シリンジのような接着剤ディスペンサーを用いて非常に正確に完全に自動化して制御することができる。この接着剤ディスペンサーは、英語で「ディスペンサー」としても知られている。液状の接着剤滴を堆積させた後に、液状の接着剤滴はUVランプによる照射によって硬化する。なお、このような方法を容易に自動化することができることを明解に理解することができるであろう。他方では、光重合可能な接着剤の課題として、バランスばねスタッドに対する接着があまり満足するものではなく、渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端がトラップされる接着剤滴がバランスばねスタッドから分離してしまうリスクが高いということがある。
【0020】
本発明は、計時器バランスばねスタッドであって、渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端がトラップされる接着剤滴がこのバランスばねスタッドから分離することを防ぐ止め手段を備えるものを提供することで前記課題に対処することを提案するものである。バランスばねスタッドは、典型的には、平面内にて延在している基部の形態であって、この平面から、最も外側の巻きの自由端を受けるように構成しているギャップによって互いに離れている2つのアームが延在している。止め手段は、様々な形態であることができる。例えば、2つのアームの少なくとも一方を完全に貫通する穴であることができる。なお、これに限定されない。渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端がバランスばねスタッドにあるギャップ内に配置された後に、液状の接着剤滴が堆積される。液状の接着剤滴は、毛管現象によって、特に、穴内にて拡散し、接着剤滴はこの穴内にて閉じ込まれ続け、UV照射によって照射された後に硬化する。したがって、時間が経過するにしたがって、接着剤滴は、バランスばねスタッドから分離されるようになるが、収容されているギャップから解放されることはできない。これによって、これは計時器用ムーブメントの機能に効果がない。
【0021】
また、止め手段は、渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端が収容されるバランスばねスタッドに形成されたギャップ内にて突き出ている、要素、例えば、ビード、の形態で設けることができる。この場合にも、渦巻き状のばねの自由端がトラップされる接着剤滴がバランスばねスタッドから分離しても、この硬化した接着剤滴はギャップから逸脱することができない。
【0022】
本発明の別の特定の実施形態において、バランスばねスタッドの第1及び第2のアームの少なくとも一方には、基部の平面と角度を形成する平面内にて広がっている溝が形成されている。この溝は、接着剤滴のための止め手段としてはたらくフックの境界を形成している。
【0023】
本発明は、さらに、計時器用ムーブメント用の渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端を固定するために用いられるバランスばねスタッドを製造する方法に関する。このバランスばねスタッドは、平面内にて延在している基部と、及びこの平面から延在している第1及び第2のアームとを有し、前記第1及び第2のアームは、硬化された接着剤滴内にトラップされる、渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端を収容されるギャップによって互いに離れており、前記ギャップは、初期には第1の幅を有するように作られる。当該方法は、前記渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端がトラップされる硬化された接着剤滴を受けるように構成している前記ギャップ内にて突き出ている止め手段をスタンピングしアプセットすることによって作ることによって前記ギャップを広げることを伴うステップを備える。
【0024】
本発明の他の特徴や利点は、添付の図面に示されている本発明に係るバランスばねスタッドの例示的な実施形態についての下記の詳細な説明においてより明確に記載されており、このような例は、純粋に説明のみのために与えられ、それに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】
図1A及び1Bはそれぞれ、本発明に係るバランスばねスタッドの第1及び第2のアームに貫通穴が形成されているような本発明の第1の実施形態についての立面図及び斜視図である。
【
図1B】
図1A及び1Bはそれぞれ、本発明に係るバランスばねスタッドの第1及び第2のアームに貫通穴が形成されているような本発明の第1の実施形態についての立面図及び斜視図である。
【
図1C】
図1Cは、
図1Bと同様な形態の図であり、ケイ素製の渦巻き状のばねを示しており、この渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端が、接着剤滴によってバランスばねスタッドに固定されている。
【
図2A】
図2A、2B及び2Cは、本発明に係るバランスばねスタッドの第1及び第2のアームに機械加工されて形成されている溝が2つのフックの境界を形成しているような本発明の第2の実施形態についての立面図及び斜視図である。
【
図2B】
図2A、2B及び2Cは、本発明に係るバランスばねスタッドの第1及び第2のアームに機械加工されて形成されている溝が2つのフックの境界を形成しているような本発明の第2の実施形態についての立面図及び斜視図である。
【
図2C】
図2A、2B及び2Cは、本発明に係るバランスばねスタッドの第1及び第2のアームに機械加工されて形成されている溝が2つのフックの境界を形成しているような本発明の第2の実施形態についての立面図及び斜視図である。
【
図2D】
図2Dは、
図2Cと同様な形態の図であり、ケイ素製の渦巻き状のばねを示しており、この渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端が接着剤滴によってバランスばねスタッドに固定されている。
【
図3】
図3Aは、本発明に係るバランスばねスタッドの第1及び第2のアームの対向する内側の側面それぞれに形成されたビードがギャップ内にて突き出ているような本発明の第3の実施形態についての斜視図である。
図3Bは、
図3Aと同様な形態の図であり、ケイ素製の渦巻き状のばねを示しており、この渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端が接着剤滴によってバランスばねスタッドに固定されている。
【
図4】
図4A及び4Bは、バランスばねスタッドの第1及び第2のアームの対向する内側側面にビードを機械加工する方法の第1の変種を概略的に示している。
【
図5】
図5A〜5Dは、バランスばねスタッドの第1及び第2のアームの対向する内側側面にビードを機械加工する方法の第2の変種を概略的に示している。
【
図6】
図6A及び6Bは、渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端を接着剤滴によってバランスばねスタッドに接合する方法を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、全体として見ると、渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端がバランスばねスタッドから分離して、計時器用ムーブメントが即時に停止してしまうことを防ぐように設計されている止め手段を用いて、計時器用ムーブメントの渦巻き状のばねを固定することが意図されたバランスばねスタッドを設ける創造性のある考えから進展したものである。より正確には、バランスばねスタッドには、平面内にて延在している基部があり、この平面から、互いにギャップを介して離れている第1及び第2のアームが延在している。このギャップは、渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端を受けるように構成しており、この渦巻き状のばねは、紫外線によって硬化される接着剤滴によって動けなくされる。本発明において、バランスばねスタッドの2つのアームの少なくとも一方には、止め手段があり、この止め手段は、接着剤滴がバランスばねスタッドから分離したときに、接着剤滴、したがって、渦巻き状のばねの外側の巻きの自由端がギャップから逸脱してしまうことを防ぐように構成している。この止め手段は、様々な形態であることができる。例えば、穴、ビード又はフックである。なお、これに限定されない。
【0027】
本発明のいくつかの特定の実施形態についての下記の詳細な説明において、紫外線照射によって重合するように意図されている液状接着剤によってケイ素製渦巻きを接着させることを扱う。しかし、本発明は、この特定の実施形態には限定されず、鋼合金などによって作られる金属製の渦巻き状のばねのようないずれのタイプの渦巻き状のばねにも同様に適用することができることを理解することができるであろう。なお、これに限定されない。
【0028】
本特許出願に添付された
図1A及び1Bには、本発明に係るバランスばねスタッド2の第1の特定の実施形態を示しており、その全体に参照符号1を割り当てている。これらの2つの
図1A及び1Bを検討するとわかるように、バランスばねスタッド2には、平面P内にて延在している基部4があり、この平面P上に第1のアーム6と第2のアーム8が立っており、これらの第1のアーム6と第2のアーム8は、基部4の反対側の端が自由になっている。図面に示している例において、第1及び第2のアーム6及び8は、基部4の平面Pに垂直に延在しており、実質的に平行六面体であるギャップ10によって互いに離れている。引き続き、
図1A及び1Bにおいて、第1及び第2のアーム6及び8の外面12及び14、すなわち、ギャップ10の境界を形成しない側の前記2つのアーム6及び8の面には、前記2つのアーム6及び8が基部4から離れるにしたがって他方の面に近づく傾向があり、これによって、ギャップ10が埋められて2つのアーム6及び8どうしが連結したときに、これらの2つのアーム6及び8が円錐台状の外側エンベロープ内に嵌まることがすぐにわかるであろう。このバランスばねスタッド2の幾何学的構成は、特に、計時器用ムーブメントの一部を形成するレギュレーター(図示せず)の小型化と調整の容易さのために好ましい。しかし、この幾何学的構成は、本発明の必要条件ではなく、バランスばねスタッド2の他の外側の形態も、請求の範囲において定められる本発明の範囲から逸脱せずに、考えることができる。
【0029】
本発明によると、バランスばねスタッド2には、接着剤滴16がバランスばねスタッド2から分離するようになった場合に、渦巻き状のばね20の最も外側の巻きの自由端18がトラップされている接着剤滴16がギャップ10から逸脱することを防ぐように構成している止め手段が設けられる。本発明の第1の特定の実施形態1において、この止め手段は、第1及び第2のアーム6、8の少なくとも一方を完全に貫通するように形成された穴22の形態である。
図1A、1Bに示している例において、2つのアーム6及び8のそれぞれに穴22が形成されている。
【0030】
図6A及び6Bにおいて特にわかりやすく示しているケイ素製の渦巻き状のばね20の例は、伝統な形態で、同心のいくつもの巻きを形成するように巻かれた非常に精密なばねによって構成しており、このばねの断面は、実質的にこのばねの長さ全体にわたって一定である。この渦巻き状のばね20は、内側の第1の巻きの自由端24を介して、例えば、コレット28によって、計時器用ムーブメント(図示せず)のバランススタッフに、そして、最も外側の巻きの自由端18を介して、本発明に係るバランスばねスタッド2に固定されている。このために、渦巻き状のばね20の最も外側の巻きは、その長さの一部にわたって他の巻きよりもわずかに厚く、この最も外側の巻きには、その自由端18にて、渦巻き状のばね20と一体化された部品の形態に作られたディスク30を設けることができる。ディスク30の存在は、ケイ素製の渦巻き状のばね20を製造する技術のみに特有な考察をすることによって決めることができる。このディスク30の存在が本発明の必要条件によって必要になることはまったくなく、また、そのようなディスクのない渦巻き状のばねを本発明に係るバランスばねスタッド2に固定することはまったく可能であることを理解することは重要である。
【0031】
図1A〜1Cに示している例において、2つのアーム6及び8のそれぞれを完全に貫通するように穴22が形成されている。したがって、液状接着剤は、ギャップ10内に堆積するときに、毛管現象によって穴22内に拡散し、UV照射又は空気に接触させた後に、前記穴22内にて液状接着剤がトラップされ硬化し続ける。このようにして、渦巻き状のばね20の最も外側の巻きの自由端18が内部にトラップされた接着剤滴16が形成される。それにもかかわらず、接着剤滴16は、時間が経過するにしたがってバランスばねスタッド2から離れるないし付着しないようになっても、収容されていたギャップ10から離れて、本発明に係るバランスばねスタッド2から分離して、計時器用ムーブメントの機能に好ましくない影響を与えないようになる。なぜなら、特に、液状接着剤が穴22内にて硬化した領域において、接着剤滴16がギャップ10から分離するようにはならないからである。
【0032】
以下においては、
図1A〜1Cに関連して説明したものと同じ要素については同じ参照符号を割り当てている。
【0033】
本特許出願に添付されている
図2A〜2Cには、本発明に係るバランスばねスタッド2の第2の特定の実施形態を示しており、その全体に参照符号36を割り当てている。この第2の実施形態36によると、第1及び第2のアーム6、8の少なくとも一方において、基部4の平面Pと角度を形成する平面内にて広がっている溝38が機械加工されて形成される。
図2A〜2Cに示している例において、2つのアーム6及び8にて溝38が機械加工されて形成され、この溝38は、基部の平面Pに垂直な平面内にて広がっている。このようにして機械加工された溝38は、第1及び第2のアーム6及び8のそれぞれにおいて、フック40の境界を形成している。このフック40は、UV照射や空気に接触させることによって接着剤滴16が硬化すると、その硬化した接着剤滴16を保持し、接着剤滴16がバランスばねスタッド2から分離するようになっても接着剤滴16がギャップ10から解放されることを防ぐ。なぜなら、フック40は、溝38によって形成される凹部と組み合わさって、硬化の前に毛管現象によって液状接着剤が堆積する2つの支持面42を形成して、これによって、接着剤滴16が形成され、この支持面42は、この接着剤滴16が引き抜かれようとしても防ぐからである。
【0034】
図2Dは、
図2A〜2Cと同様な形態の図であり、最も外側の巻きの自由端18がバランスばねスタッド2に接着剤滴16によって固定されているケイ素製の渦巻き状のばね20を示している。
【0035】
図3Aには、本発明に係るバランスばねスタッド2の第3の特定の実施形態を示しており、その全体に参照符号44を割り当てている。本発明のこの第3の特定の実施形態44によると、渦巻き状のばね20の最も外側の巻きの自由端18がトラップされている硬化した接着剤滴16を受けるようにギャップ10が形成されており、このギャップ10内にて止め手段か突き出ている。説明のみのために、例として、止め手段は、第1及び第2のアーム6及び8の互いに対向する内側側面48のそれぞれと一体的な部品を形成するように作られたビード46の形態である。なお、これに限定されない。渦巻き状のばね20の最も外側の巻きの自由端18が内部でトラップされた接着剤滴16が硬化すると、この自由端18がバランスばねスタッド2から分離しようとするときに、ギャップ10内にて突き出ているビード46が、このギャップ10から接着剤滴16が逸脱することを確実に防ぐことをはっきりと理解することができるであろう。
【0036】
図3Bは、
図3Aと同様な形態の図であり、最も外側の巻きの自由端18を介してバランスばねスタッド2に接着剤滴16によって固定されたケイ素製の渦巻き状のばね20を示している。
【0037】
図4A及び4Bに、ビード46を作るための可能性のある1つの技術を示している。この技術は、初期の幅がd1であるギャップ10が形成されたバランスばねスタッド2を用意し、その後に、このギャップ10内にスタンピングツール50を導入することを伴う。このスタンピングツール50の幅d2は、幅d1よりも大きく、導入されるギャップ10の最終幅に対応する。ギャップ10内にスタンピングツール50を押し込むことによって、その材料が押し込まれ、第1及び第2のアーム6、8の各内側側面48にビード46が作られる。なお、ビード46は、本発明の好ましい実施形態に対応するものである。なお、これに限定されない。なぜなら、ギャップ10内にて突き出ている止め手段を得るために、例えば、2つのアーム6、8の少なくとも一方を完全に貫通させて、その後に、このようにして形成した開口内に、ギャップ10内にて突き出ているピンを導入することを考えることができるからである。
【0038】
図5A〜5Dに、環状のカラー52を作る別の可能性のある技術を示している。この技術は、ギャップ10を備えるバランスばねスタッド2を用意し、その後に、このギャップ10に、端が円錐形となっている穴開け器54を導入することを伴う。ギャップ10内にてアーム6、8の自由端から基部4の方へと穴開け器54を進めることによって、バランスばねスタッド2に第1の穴56が形成される(
図5B)。反対に、バランスばねスタッド2において基部4から第1及び第2のアーム6、8の自由端の方へと第2の穴58が機械加工されて形成される(
図5A)。その機械加工は、第1及び第2のアーム6及び8の内側側面48上に環状のカラー52を局所的に保持するように第2の穴58が部分的に第1の穴56内にて出現するように行われる(
図5C)。ギャップ10内にて最も外側の巻きの自由端18によって渦巻き状のばね20を係合させて液状の接着剤滴を堆積させた後に、この接着剤滴は、接着剤滴16(
図5D)を形成するように硬化される。このように形成された接着剤滴16は、環状のカラー52によって保持され、これによって、この接着剤滴16がバランスばねスタッド2から分離するようになっても、ギャップ10内に保持され、ギャップ10から逃げることができないようにされる。
【0039】
当然、本発明は、ここで説明した実施形態に制限されず、請求の範囲によって定められる本発明の範囲から逸脱せずに、当業者は様々な単純な改変や変種を考えることができる。具体的には、
図6A及び6Bに関連して、本発明に係る渦巻き状のばねの最も外側の巻きの自由端をバランスばねスタッドに接合する方法は、概略的に示したものである。
図6Aにおいて、渦巻き状のばね20の最も外側の巻きの自由端18は、そのディスク30によってバランスばね2のギャップ10内に配置され、紫外線34の照射源を用いて重合することができる液状の接着剤滴32によって接合される。この液状の接着剤滴32は、例えば、英語の用語で「ディスペンサー」としても知られているシリンジのような自動化された分配デバイス60を用いて堆積される。液状の接着剤滴32を紫外線に露出することによって、その重合や完全硬化が可能になる。なお、紫外線に露出することによって重合可能な液状接着剤の前記の例は、もっぱら例であり、空気と接触して硬化する接着剤のような他のタイプの液状接着剤も考えることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 第1の特定の実施形態
2 バランスばねスタッド
4 基部
P 平面
6 第1のアーム
8 第2のアーム
10 ギャップ
12、14 外面
16 接着剤滴
18 外側の自由端
20 渦巻き状のばね
22 穴
24 内側の自由端
28 コレット
30 ディスク
32 接着剤滴
34 紫外線源
36 第2の特定の実施形態
38 溝
40 フック
42 支持面
44 第3の特定の実施形態
46 ビード
48 内側側面
50 スタンピングツール
d1 初期の幅
d2 最終幅
52 環状のカラー
54 穴開け器
56 第1の穴
58 第2の穴
60 接着剤ディスペンサー
【外国語明細書】