【解決手段】柑橘類果汁を果汁率換算で10w/w%以上、ジンを40v/v%の含有アルコール量換算で0.05〜5v/v%含有してなる、容器詰め柑橘類果汁含有アルコール飲料。好ましくは、δ−カジネン(δ−Cadinene)の含有量が250〜5700ppbである、容器詰め柑橘類果汁含有アルコール飲料。柑橘類果汁として、グレープフルーツ、ゆず、ぶんたん、夏みかん、はっさく、甘夏、及びひゅうがなつの果汁を使用することができる。
【背景技術】
【0002】
柑橘類は爽やかな芳香や甘酸味を有することから、その果汁は飲食品の原料として大変
人気がある。また、柑橘類果汁は搾りたてのものが風味に優れ、消費者の嗜好性も高いが
、保存性・衛生上の観点から加熱殺菌処理が必要であったり、製造上の観点から濃縮果汁
を用いることが多く、かかる処理により柑橘類果汁の新鮮な香気や香味が減少或いは変化
する。そのため、すぐれた風味、特に生に近似した風味を有する果汁飲料を製造するため
には、香料に頼らざるを得ないのが現状である。また、容器詰めアルコール飲料は、家庭
やバーなどで飲用直前にスピリッツやリキュール等のアルコール溶液と果汁等を混ぜ合わ
せるカクテル等のアルコール飲料とは異なり、充填工場で容器に飲料を充填後に過熱殺菌
工程や、また充填工場から出荷後、流通や保管工程を経ることを想定しており、容器詰め
アルコール飲料の方が、熱履歴が過酷となる。
【0003】
このような課題に対して、例えば、特許文献1では、果実の果肉に含まれる香気成分を
該果実の濃縮果汁に混合して得られる風味強化濃縮果汁を調製することで、香料やpH調
整剤のような合成添加物を一切使用せず、自然な風味で、香りの劣化も少ない果実飲料と
することができると開示されている。
【0004】
特許文献2には、柑橘類果実のパルプセルとピールオイルとを混合した物をアルコール
抽出し、得られた抽出物をアルコール飲料に配合したところ、驚くべきことに、このアル
コール飲料は、香りが自然で、果汁の味わいが強く感じられると開示されている。
【0005】
特許文献3には、柑橘類の果皮から、内部の油胞を破壊せず、かつアルベド部を極力含
まないようにしてフラベド部を剥皮し、次いで該フラベド部を含水アルコール中で破砕し
た場合に生成する液分を用いることで、新鮮な柑橘類香味を有するアルコール飲料が得ら
れることが報告されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の容器詰め柑橘類果汁含有アルコール飲料は、柑橘類果汁を果汁率換算で10w
/w%以上含有し、ジンを特定量含有することを特徴とする。
【0013】
一般に、果汁は加熱濃縮していないストレート果汁を用いる場合もあるが、製造や輸送
面を考慮すると生産性が良くないので、濃縮果汁とすることが多い。また、容器詰め飲料
とする場合には、加熱殺菌処理が必須であり、従来の容器詰めの果汁含有アルコール飲料
は、搾りたての果汁本来が有する成分が加熱や濃縮処理により減少したものとなっていた
。しかしながら、本願発明では、そこにジンを特定量配合することで、ジンに含まれる成
分でもあるδ−カジネン(δ−Cadinene)が増強されて、意外にも、濃縮果汁を
用いたとしても柑橘類果実の新鮮な風味を維持することが可能となり、本発明を完成する
に至った。なお、以降、本発明の容器詰め柑橘類果汁含有アルコール飲料のことを、単に
、本発明のアルコール飲料と記載することもある。
【0014】
本発明における柑橘類とは、ミカン科ミカン亜科に属する植物の総称であり、例えば、
レモン、グレープフルーツ(ホワイト種、ルビー種)、ライム、オレンジ類(ネーブルオレ
ンジ、バレンシアオレンジ)、うんしゅうみかん、タンゴール、夏みかん、甘夏、はっさ
く、ひゅうがなつ、シークヮーサー、すだち、ゆず、かぼす、だいだい、いよかん、ぽん
かん、きんかん、さんぼうかん、オロブランコ、ぶんたんを好適に用いることができる。
これらは1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、果実とジ
ンの香りの相性の観点から、グレープフルーツ、ゆず、ぶんたん、夏みかん、はっさく、
甘夏、及びひゅうがなつからなる群から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好まし
い。
【0015】
本発明における柑橘類果汁としては、その調製方法は特に限定なく、果実を搾汁して得
られる果汁をそのまま使用するストレート果汁や公知の方法に従って得られた濃縮果汁を
用いることができる。濃縮果汁としては、果汁の一部または全部が清澄化処理された果汁
、すなわち透明果汁又は半透明果汁を用いてもよい。また、糖類及びはちみつ等で糖度を
調整したもの、あるいは酸度が調整されたものであってもよい。また、透明果汁の他に、
混濁果汁を使用することもでき、果実の外皮を含む全果を破砕し種子などの粗剛な固形物
のみを除いた全果果汁、果実を裏ごしした果実ピューレ、乾燥果実の果肉を抽出した果汁
、あるいは、果汁に果皮や果肉を細かく砕いたものを混合したコミュニティッド果汁を用
いることもできる。本発明では、果実感やお酒としての飲みごたえの観点から、混濁果汁
、コミュニティッド果汁を用いることが好ましい。
【0016】
柑橘類果汁の含有量は、本発明のアルコール飲料中、果汁率換算で、10w/w%以上
、好ましくは15w/w%以上であり、上限は特にないが、味の濃さの観点から100w
/w%以下であることが好ましい。ここでいう「果汁率」とは、果実を搾汁して得られる
ストレート果汁を100%としたときの相対濃度をいい、JAS規格(果実飲料の日本農
林規格)に示される各果実に特有の糖用屈折指示度の基準(Bx)又は酸度の基準(%)に基
づいて換算できる。なお、本願では、分析・計算によって、アルコール飲料に含まれる果
汁濃度を、ストレート果汁を100%としたときの相対濃度に計算して「ストレート換算
値」と呼ぶ。また、2種以上の柑橘類果汁を用いる場合は、合計含有量のことである。
【0017】
また、柑橘類果汁として、グレープフルーツ、ゆず、ぶんたん、夏みかん、はっさく、
甘夏、及びひゅうがなつからなる群から選ばれる1種又は2種以上を用いる場合には、そ
れらの含有量は、本発明のアルコール飲料中、果汁率換算で、好ましくは10w/w%以
上、より好ましくは15w/w%以上である。なお、本明細書において、グレープフルー
ツ、ゆず、ぶんたん、夏みかん、はっさく、甘夏、及びひゅうがなつからなる群から選ば
れる1種又は2種以上の果汁含有量とは、本発明で用いられた前記果汁の合計含有量のこ
とである。
【0018】
なお、本発明においては、前記柑橘類果汁に加えて、その他の種類の果汁が配合されて
もよい。例えば、リンゴ果汁、ブドウ果汁、モモ果汁、熱帯果実果汁(パイナップル、グ
ァバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ及びライチ等)、そ
の他果実の果汁(ウメ果汁、ナシ果汁、アンズ果汁、スモモ果汁、ベリー果汁、キウイフ
ルーツ果汁、サクランボ果汁及びクリ果汁等)、スイカ果汁、トマト果汁、ニンジン果汁
、イチゴ果汁、及びメロン果汁等が配合されていてもよい。
【0019】
本発明では、前記した柑橘類果汁にジンを特定量配合する。
【0020】
ジンとは、大麦、ライ麦、ジャガイモ等の穀類を原料とし、麦芽や酵素剤を利用して糖
化、発酵、蒸留して得られたスピリッツに、ジュニパーベリーなどの草根木皮を浸して再
度蒸留して得られる蒸留酒であり、日本の酒税法でスピリッツ類に分類される。本発明で
は、前記スピリッツ類に分類されるジンであれば、特に制限なく用いることができる。
【0021】
ジンの含有量は、本発明のアルコール飲料中、果実本来の香りを損なわないという観点
から、40v/v%の含有アルコール量換算で、0.05v/v(容量)%以上5v/v%
以下であり、好ましくは0.09v/v%以上、より好ましくは0.2v/v%以上であ
り、、好ましくは4v/v%以下、より好ましくは3v/v%以下、更に好ましくは2v
/v%以下である。ここで、「40v/v%の含有アルコール量換算」とは、実際に使用
するアルコール含有液(ジン)中に含まれるアルコールの容量に基づいて、40v/v%
のアルコール含有液に相当する量を計算することを意味する。例えば、アルコール度数が
1度のアルコール含有液A(ジン) 1mLを用いる場合、Aに含まれるアルコール容量
は、1mL×1/100=0.01mLとなることから、40v/v%のアルコール含有
液Bに相当する量(QmL)は0.40×Q=0.01の関係を充足し、Qは0.025
mLと算出され、飲料中のアルコール含有液Bの含有量(質量%)を算出することができ
る。
【0022】
本発明のアルコール飲料のアルコール濃度は、特に制限はないが、好ましくは1〜11
v/v(体積/体積)%、より好ましくは1〜9v/v%である。なお、本発明におけるア
ルコール濃度は、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、アルコール
含有液やアルコール飲料から濾過又は超音波によって、微量含まれている(含まれていな
い場合もある)炭酸ガスを抜いた試料を調製し、そして、その試料を直火蒸留し、得られ
た留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平
成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比
重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求める。
【0023】
本発明のアルコール飲料の製造には、前記したジンの他に、アルコール(エタノール、
エチルアルコール)そのものや、アルコールを含有する飲料をアルコール原料として用い
ることができる。アルコール原料とは、本発明のアルコール飲料の製造に使用される、エ
チルアルコールを含有する液状物をいう。
【0024】
本発明に利用できるアルコール原料としては、飲用に適したアルコール含有液状物であ
れば特に制限はなく、それらは例えば、酵母による糖のアルコール発酵によって得ること
ができる。アルコール発酵の原料も特に制限されず、ブドウ、リンゴ、サクランボ及びヤ
シ等の果実、米、麦及びトウモロコシ等の穀物、ジャガイモ及びサツマイモ等の根菜類、
並びにサトウキビ等を挙げることができる。
【0025】
アルコール原料としては、例えば、醸造酒、蒸留酒、及び蒸留酒を混和してなる混成酒
等が挙げられる。醸造酒としては、例えば、清酒、ワイン及びビール等が挙げられる。蒸
留酒としては、例えば、スピリッツ類(例えば、ウォッカ、ラム、及びテキーラ等のスピ
リッツ;原料用アルコール、ニュートラルスピリッツ等)、リキュール類、ウイスキー類(
例えば、ウイスキー及びブランデー等)、並びに焼酎(連続式蒸留焼酎及び単式蒸留焼酎)
等が挙げられ、これらは1種で又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0026】
本発明の容器詰めのアルコール飲料は、前記した特定量の柑橘類果汁及び特定量のジン
を含有するのであれば、他は特に限定されない。例えば、前記アルコール原料に柑橘類果
汁とジンを添加し、必要により、任意のその他の成分を混合して、そして、必要に応じて
、水等のアルコールを含まない飲料で希釈することによって製造することができる。その
他の成分としては、例えば、糖類、酸類、香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、酸味料
、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤及び品質安定剤等を配合することがで
きる。これらの添加量は公知技術に従って適宜設定することができる。また、自然な生搾
り感を出す観点から、本発明の容器詰めのアルコール飲料は香料を含まないものであって
もよい。ジンには、柑橘類にも含まれるδ−カジネン(δ−Cadinene)が含まれ
ているため、本発明のアルコール飲料におけるその含有量を指標としながら、また、ジン
に含まれるアルコール量も考慮しながら、本発明のアルコール飲料におけるジンの含有量
を調整して香味を調整することができる。
【0027】
本発明のアルコール飲料におけるδ−カジネン(δ−Cadinene)の含有量は、
果実の香りとの相性の観点から、好ましくは250ppb以上、より好ましくは300p
pb以上、更に好ましくは450ppb以上である。また、好ましくは5700ppb以
下、より好ましくは2000ppb以下、更に好ましくは1400ppb以下である。
【0028】
アルコール飲料の爽快感を高めるため、本発明のアルコール飲料には炭酸ガスが配合さ
れ発泡性を有することが好ましい。本発明のアルコール飲料の炭酸ガスのガス圧は、好ま
しくは0.8kgf/cm
2以上、より好ましくは0.8〜3.1kgf/cm
2の範囲
であり、適宜調整を行うことができる。炭酸ガスが配合された本発明のアルコール飲料に
は、いわゆるチューハイの形態が含まれる。炭酸ガス圧の測定は、当業者に公知の方法に
よって行うことができる。例えば、京都電子工業製ガスボリューム測定装置GVA−50
0Aを用いて測定することができる。より詳細には、試料温度を20℃とし、前記ガスボ
リューム測定装置において容器内空気中のガス抜き(スニフト)、振とう後、炭酸ガス圧
を測定する。本明細書においては、特段の記載がない限り、当該方法によって炭酸ガス圧
を測定する。本発明のアルコール飲料の炭酸ガス圧は、特に限定されないが、測定時の液
温が20℃の際のスニフト後のガス圧を意味する。
【0029】
本発明のアルコール飲料は、通常の飲料と同様、瓶、缶、樽、またはペットボトル等の
密封容器に充填して、容器入り飲料とすることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限される
ものではない。
【0031】
〔δ−カジネン(δ−Cadinene)の含有量〕
・分析装置
ガスクロマトグラフィー(Agilent社製GC−MSD)
・GCオーブン温度条件
40℃(5分)− 6℃/min − 240℃
・MS条件
四重極設定値:150 イオン源設定値:230
面積値算出条件
トータルイオンモード 質量(LOW):35 質量(HIGH):550
・カラム
DB−WAXETR 60m 内径320μm 膜厚:0.25μm
・試料前処理条件
試料80μlと内部標準物質(デカン酸メチルエステル20ppmアルコール水溶液)
20μlを20mlスクリューキャップバイアル瓶中で混合
・ダイナミックヘッドスペース条件
装置:ゲステル社MPS
吸着剤:TENAX
試料気化温度:80℃
試料気化用ガス供給量:3000ml
試料気化用ガス供給速度 100ml/min
試料気化用ガス種類 窒素
・ピーク保持時間 MSの解析によって成分および濃度の同定を行った。
【0032】
試験例1
グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料を下記のように調製した。具体的には、表1
に示す組成に従って、各成分を混合後、炭酸ガスを加え、缶に充填しその後熱水にて殺菌
し、容器詰めのグレープフルーツチューハイ(実施例及び比較例)を調製した。なお、用
いたジンは、δ−Cadineneを110ppm含むものであった。いずれのチューハ
イも、アルコール濃度は6v/v%、pHは3.3、ガス圧(20℃)は1.8kgf/
cm
2であった。
【0033】
得られたチューハイの香味を、評点法による官能試験によって評価した。良く訓練され
た官能評価者5名が、「香り立ちの強度」、「新鮮な果実香」、「ジンの香りの強さ」に
ついて5点満点でそれぞれ評価した。「とても感じる」を5点、「感じる」を4点、「や
や感じる」を3点、「わずかに感じる」を2点、「感じない」を1点として、評価点の平
均点を算出した。また、コントロール(比較例1−1)に対する相対評価で、各評価項目
を勘案して、総合評価も行った。「とても良い」を「◎」、「良い」を「○」、「わずか
に良い」を「△」として、「コントロール」を「---」として、評価点を付けた。結果を
表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1の結果より、ジンとグレープフルーツ果汁を含有するアルコール飲料は、ジンの含
有量が増加することによって、香り立ちの強度があがることがわかる(実施例1−3〜1
−7)。この香り立ちの強度は、ジンを用いずに、果汁や香料だけを用いた場合には得ら
れないものであり、比較例1−1及び1−2はグレープフルーツらしい香りはするものの
、香り立ちが弱くフレッシュ感が感じられないものであった。また、実施例1−3は、比
較例1−1、1−2に比べて明らかに香り立ちが良好であり、グレープフルーツの果皮の
香りが立つものであった。ジンの含有量が40v/v%の含有アルコール量換算で0.3
、1v/v%である実施例1−4と1−5は、香りだけでなく飲用したときのグレープフ
ルーツの味も搾り立ての果実感が強く、フレッシュな香味に感じる。実施例1−6は、ジ
ンの含有量が前記換算で3v/v%であり、僅かにジンのグリーンな香りをトップに感じ
るようになる。ジンの含有量が前記換算で5v/v%である実施例1−7は、さらに後口
にジンの酒感、苦味を感じるようになるものであった。また、ジンの量が多くなると、ジ
ンの香りの強さが強くなり、新鮮な果実香が下がってしまうこともわかった(比較例1−
3)。
【0036】
試験例2
表2に示す組成に従って、試験例1と同様にして容器詰めのグレープフルーツチューハ
イ(実施例及び比較例)を調製し、試験例1と同様にして官能評価を行った。なお、総合
評価においては、果汁含有量が同じ比較例をコントロールとして各実施例の評価を行った
。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2により、果汁含有量が5w/w%はジンが無い場合であっても、あまり香り立ちが
悪くないが、果汁含有量が10w/w%では香り立ちが少なく感じてくることがわかる。
それに、ジンを含有すると、香り立ちの強度が良くなることがわかる。特に、果汁含有量
が15w/w%以上の場合、ジンがないとさらに香り立ちが少なく感じられるが、ジンを
加えることで、香り立ちがよくなっていることがわかる。
柑橘類果汁を果汁率換算で10w/w%以上、ジンを40v/v%の含有アルコール量換算で0.05〜5v/v%含有してなる、容器詰め柑橘類果汁含有アルコール飲料。