【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成29年度 山形大学大学院理工学研究科修士論文公聴会 山形大学(平成30年2月15日) 2018年度静電気学会春季講演会 東京大学(平成30年3月5日)
【解決手段】静電吸着装置1は、収容部2内の導電性粒子群Pに基準電位を与える基準電極4と、絶縁被覆32を有する吸着電極3と、吸着電極3に対する吸着電圧の印加をオンオフするスイッチSWと、吸着電極3を移動させるアーム部材5とを有し、吸着電極3が導電性粒子群Pに近接又接触する吸着位置にあるときに吸着電極3に前記吸着電圧を印加することより、導電性粒子群Pのうちの所定数の導電性粒子pを吸着電極3に吸着させ、その後、吸着電極3を前記吸着位置から退避位置に移動させることにより、吸着電極3に吸着した前記所定数の導電性粒子pを導電性粒子群Pの他の導電性粒子pから分離するように構成されている。
前記少なくとも一つの吸着電極に吸着した前記所定数の導電性粒子は、前記少なくとも一つの吸着電極への前記吸着電圧の印加が遮断された後においても前記少なくとも一つの吸着電極に吸着した状態が維持される、請求項1に記載の静電吸着装置。
前記所定数の導電性粒子を前記少なくとも一つの吸着電極から脱離させるため、前記少なくとも一つの吸着電極に吸着した前記所定数の導電性粒子の電荷を除去する除電装置をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一つに記載の静電吸着装置。
機械的な力を前記少なくとも一つの吸着電極又は前記所定数の導電性粒子に加えて前記所定数の導電性粒子の前記少なくとも一つの吸着電極からの脱離をアシストする脱離アシスト装置をさらに含む、請求項4又は5に記載の静電吸着装置。
前記基準電位を持つ導電性のブラシ状部材を前記少なくとも一つの吸着電極に吸着した前記所定数の導電性粒子に接触させることにより、前記所定数の導電性粒子の電荷を除去すると共に前記所定数の導電性粒子に機械的な力を加えて前記所定数の導電性粒子を前記少なくとも一つの吸着電極からの脱離させる除電・脱離装置をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一つに記載の静電吸着装置。
前記導電性粒子群を隣接する導電性粒子同士が互いに接触するように収容する収容部を含み、前記基準電極は、前記導電性粒子群のうちの少なくとも一つの導電性粒子に接触するように配置されている、請求項1〜8のいずれか一つに記載の静電吸着装置。
前記導電性粒子群を隣接する導電性粒子同士が互いに接触するように収容する導電性の収容部を含み、前記基準電極は、前記収容部に接触するように配置されている、請求項1〜8のいずれか一つに記載の静電吸着装置。
前記導電性粒子群を隣接する導電性粒子同士が互いに接触するように収容する導電性の収容部を含み、前記収容部が前記基準電極としての機能を有する、請求項1〜8のいずれか一つに記載の静電吸着装置。
前記導電性粒子群は、導電性を有する導電性面上に散在し、前記基準電極は、前記導電性面に接触するように配置されている、請求項1〜8のいずれか一つに記載の静電吸着装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明の概要を説明する。本発明は、複数の導電性粒子を同時に吸着すると共に吸着した前記複数の導電性粒子を同時に脱離(脱着)することのできる静電吸着装置を提供する。ここで、前記導電性粒子とは、表面に導電性を有する粒子のことをいい、主に表面抵抗率が10の9乗以下の導電性を有すると共に粒径が数μm〜数mmの範囲の球形又は球形に近い不定形の粒体のことをいう。前記導電性粒子は、表面に導電性を有する粒子であればよく、金属粒子はもちろん、自然物及び人工物を含む様々な粒子を含み得る。例えば、自然物である種子や花粉などは、水分の搬送経路を持つため、完全な絶縁体ではなく、大気中の水分が表面に吸着することでわずかながら導電性を示す。このため、種子や花粉などは前記導電性粒子に含まれる。また、ガラス粒子やシリカ粒子などの表面抵抗率が10の9乗を超える絶縁性粒子であっても、導電性スプレーや帯電防止スプレーによる導電被膜の形成を含む表面導電化処理が施されたものは、前記導電性粒子に含まれる。
【0014】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る静電吸着装置1の概略構成を示している。
図1に示されるように、第1実施形態に係る静電吸着装置1は、収容部2、吸着電極3、基準電極4、アーム部材5、電源6及び制御部7を含む。
【0016】
収容部2は、多数の導電性粒子pからなる導電性粒子群Pを収容する。本実施形態において、収容部2は、導電性粒子群Pを隣接する導電性粒子p同士が互いに接触した状態で収容するように構成されている。
【0017】
吸着電極3は、吸着電圧の印加によっての導電性粒子pを吸着する電極である。本実施形態において、吸着電極3は、導電性粒子pの粒径の2倍以上の直径を有する円柱状に形成されており、一方の端面が露出した状態で、例えば絶縁樹脂製の電極ホルダ31に組み込まれている。電極ホルダ31から露出する吸着電極3の前記一方の端面には、絶縁被覆32が施されている。そして、絶縁被覆32の施された吸着電極3の前記一方の端面が、吸着電極3に前記吸着電圧が印加されたときに、導電性粒子pを吸着させる吸着面を構成する。特に制限されるものではないが、絶縁被覆32は、そこに吸着された導電性粒子pとの間に不必要な粘着力などが働かないように、撥水性及びすべり性の高いポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂で形成されるのが好ましい。また、絶縁被覆32の厚さは、電気的な絶縁を保てる範囲でできるだけ薄く設定されるのが好ましい。
【0018】
基準電極4は、収容部2に収容された導電性粒子群Pに基準電位(ここでは接地電位)を与える電極である。本実施形態において、基準電極4は、前記基準電位に接続されると共に、収容部2に収容された導電性粒子群Pのうちの少なくとも一つの導電性粒子pに接触するように配置され、これによって、収容部2に収容された導電性粒子群Pの各導電性粒子pに基準電位を与える。なお、本実施形態において、基準電極4は、電極ホルダ31の側面に取り付けられている。しかし、これに限られるものではなく、基準電極4は、収容部2に取り付けられてもよい。
【0019】
アーム部材5は、吸着電極3を移動させる部材である。本実施形態において、アーム部材5は、鉛直方向に延びる棒状の部材として形成されており、収容部2の上方に配置されている。そして、アーム部材5の先端(
図1における下端)に、吸着電極3の絶縁被覆32の施された前記一方の端面(すなわち、前記吸着面)が下方を向くように、電極ホルダ31が固定されている。
【0020】
アーム部材5は、図示省略のアクチュエータによって、
図1中に実線で示される収容部2内の第1位置と
図1中に破線で示される収容部2外の第2位置との間を移動可能に構成されている。前記アクチュエータの動作は、制御部7によって制御される。そして、前記アクチュエータの動作によってアーム部材5が前記第1位置に移動すると、吸着電極3は前記吸着面が収容部2内の導電性粒子群Pの上層部に接触する位置(以下「吸着位置」という)に移動し、基準電極4はその先端部が導電性粒子群Pのうちの少なくとも一つの導電性粒子pに接触する。一方、前記アクチュエータの動作によってアーム部材5が前記第2位置に移動すると、吸着電極3は前記吸着面が収容部2内の導電性粒子群Pから十分に離れると共に収容部2の外側の位置(以下「退避位置」という)に移動し、基準電極4も導電性粒子群Pから離間する。したがって、本実施形態においては、アーム部材5及び前記アクチュエータが本発明の「移動機構」として機能する。
【0021】
電源6は、吸着電極3に前記吸着電圧を供給する装置である。電源6は、スイッチSWを介して吸着電極3に接続されている。スイッチSWのON/OFF動作は、制御部7によって制御される。そして、スイッチSWがON制御されると、電源6からの前記吸着電圧が吸着電極3に印加され、スイッチSWがOFF制御されると、吸着電極3への前記吸着電圧の印加が遮断される。つまり、スイッチSWは、吸着電極3に対する前記吸着電圧の印加をオンオフするように構成されている。なお、前記吸着電圧の印加が遮断(オフ)された吸着電極3には、前記基準電位(接地電位)が与えられる。
【0022】
本実施形態において、静電吸着装置1は、収容部2内の導電性粒子群Pのうちの所定数(複数)の導電性粒子pを吸着電極3の前記吸着面に吸着させ、吸着電極3の前記吸着面に吸着させた前記所定数の導電性粒子pを収容部2から取り出すように構成されている。このときの静電吸着装置1の動作は以下のとおりである。
【0023】
まず、静電吸着装置1(の制御部7)は、前記アクチュエータを制御してアーム部材5を前記第1位置に移動させて吸着電極3を前記吸着位置に位置させる。次いで、静電吸着装置1(の制御部7)は、スイッチSWをON制御して吸着電極3に前記吸着電圧を印加する。これにより、吸着電極3の前記吸着面(絶縁被覆32)に接触する前記所定数の導電性粒子pには前記吸着電圧とは逆極性の電荷が誘起され、前記所定数の導電性粒子pが吸着電極3の前記吸着面に吸着する。次いで、静電吸着装置1(の制御部7)は、前記アクチュエータを制御することによってアーム部材5を前記第1位置から前記第2位置に移動させる。すなわち、吸着電極3を前記吸着位置から前記退避位置に移動させる。これにより、吸着電極3の前記吸着面に吸着した前記所定数の導電性粒子pが収容部2から取り出される。換言すれば、収容部2内の導電性粒子群Pのうち吸着電極3の前記吸着面に吸着した前記所定数の導電性粒子pが前記吸着面に吸着しなかった残りの導電性粒子pから分離される。
【0024】
本実施形態における導電性粒子pの吸着特性は、次のような吸着モデルで説明される。まず、導電性粒子pに加わる電界E0は式(1)で表される。
E0=V0/(d+dc/εr)・・・(1)
ここで、V0は、吸着電極3に印加される前記吸着電圧[V]、dは、絶縁被覆32の表面から導電性粒子pの中心までの距離[m]、dcは、絶縁被覆32の厚さ[m]、εrは、絶縁被覆32の比誘電率である。
【0025】
吸着電極3の前記吸着面に接触する導電性粒子pの吸着電極3側の表面には前記吸着電圧とは逆極性の電荷が誘導される。導電性粒子pの粒径をDpとすると、電界E0[V/m]によって導電性粒子pに誘導される誘導電荷Qは式(2)で表される。
Q=(ε0・Dp
2・π
3.E0)/6・・・(2)
【0026】
したがって、吸着電極3の前記吸着面に接触する導電性粒子pに加わる静電気力Fは式(3)で表され、この静電気力Fによって導電性粒子pが吸着電極3の前記吸着面に吸着する。
F=Q・E0=(ε0・Dp
2・π
3.V0
2)/6・(d+dc/εr)・・・(3)
【0027】
ここで、吸着電極3の前記吸着面に吸着した導電性粒子pの下側にある導電性粒子pには電荷が誘導されず、当該導電性粒子pには静電気力が加わらない。このため、吸着電極3が前記吸着位置から前記退避位置に向かって移動すると、吸着電極3の前記吸着面に接触した前記所定数の導電性粒子pが、吸着電極3の前記吸着面に一層分だけ吸着していることになる。したがって、前記所定数、すなわち、吸着電極3の前記吸着面に吸着されて収容部2から取り出される導電性粒子pの数は、吸着電極3の前記吸着面の面積によって規定されることになる。
【0028】
また、本実施形態において、静電吸着装置1は、吸着電極3の前記吸着面に吸着させて収容部2から取り出した前記所定数の導電性粒子pを吸着電極3が前記退避位置にあるときに吸着電極3の前記吸着面から脱離させるように構成されている。以下、静電吸着装置1による前記所定数の導電性粒子pの脱離について説明する。
【0029】
上述のように、吸着電極3の前記吸着面に吸着した前記所定数の導電性粒子pは、吸着電極3に印加された前記吸着電圧とは逆極性に帯電している。このため、吸着電極3の前記吸着面に吸着した前記所定数の導電性粒子pは、単に吸着電極3への前記吸着電圧の印加を遮断(オフ)するだけでは、前記吸着面から脱離せず、前記吸着面に吸着した状態が維持される。したがって、吸着電極3の前記吸着面に吸着した前記所定数の導電性粒子pを前記吸着面から脱離させるためには、吸着電極3への前記吸着電圧の印加を遮断(オフ)すると共に前記所定数の導電性粒子pの電荷を除去する必要がある。
【0030】
また、吸着電極3の前記吸着面と前記所定数の導電性粒子pとの間には、静電気力以外の吸着力(例えば、水分による吸着力やファンデルワールス力による吸着力)も働く。このため、吸着電極3の前記吸着面に吸着した前記所定数の導電性粒子pを前記吸着面から脱離させるためには、機械的な力を吸着電極3及び/又は前記所定数の導電性粒子pに加えて前記所定数の導電性粒子pの脱離をアシストすることが好ましい。
【0031】
さらに、前記所定数の導電性粒子pが吸着電極3の前記吸着面(絶縁被覆32)に接触することによって接触帯電が起こるため、前記所定数の導電性粒子pが脱離した後の前記吸着面(絶縁被覆32)には電荷が残留することになる。このような前記吸着面の残留電荷は、次に吸着電極3の前記吸着面に導電性粒子pを吸着させる際に、導電性粒子pの安定した吸着を妨げることになるため、除去する必要がある。
【0032】
以上のことから、静電吸着装置1は、除電装置8及び脱離アシスト装置9をさらに含んでいる。
【0033】
除電装置8は、吸着電極3の前記吸着面に吸着した前記所定数の導電性粒子pの電荷及び吸着電極3の前記吸着面の前記残留電荷を除去する装置である。本実施形態において、除電装置8は、吸着電極3の前記退避位置の近傍に設けられている。具体的には、除電装置8は、前記退避位置にある吸着電極3の前記吸着面の近傍に位置するように、配置されている。除電装置8の動作は、制御部7によって制御される。
【0034】
除電装置8としてはコロナ放電やグロー放電によって正負の気中イオンを生成するイオナイザーやX線によって正負の気中イオンを生成するイオナイザーなどが用いられ得る。但し、吸着電極3の前記吸着面に吸着している前記所定数の導電性粒子pの電荷は、絶縁被覆32を介して吸着電極3内の電荷と大きさが同じで極性が逆になっているので、除電装置8の位置から見ると正負の電荷数が同じになり、外部に静電界が形成されていないことになる。このような状態では、単に正負のイオンを生成するだけではイオンが帯電物に到達しないため、前記所定数の導電性粒子pの電荷を完全に除去することは難しい。したがって、正負のイオンを高濃度で供給することのできるイオナイザーを除電装置8として用いるのが好ましい。このようなイオナイザーとしては、例えば、特許第6008269号公報に記載されたイオナイザーがある。
【0035】
脱離アシスト装置9は、吸着電極3の前記吸着面に吸着した導電性粒子pの前記吸着面からの脱離をアシストする装置である。本実施形態において、脱離アシスト装置9は、例えば振動子を含み、電極ホルダ31の側面に取り付けられ、電極ホルダ31を介して吸着電極3に振動又は衝撃を与えるように構成されている。脱離アシスト装置9の動作は、制御部7によって制御される。
【0036】
吸着電極3の前記吸着面に吸着させて収容部2から取り出した前記所定数の導電性粒子pを前記吸着面から脱離させるときの静電吸着装置1の動作は以下のとおりである。
【0037】
静電吸着装置1(の制御部7)は、前記吸着面に前記所定数の導電性粒子pが吸着した吸着電極3を前記退避位置に移動させた後、スイッチSWをOFF制御して吸着電極3への前記吸着電圧の印加を遮断(オフ)する。次いで、静電吸着装置1(の制御部7)は、除電装置8及び脱離アシスト装置9を動作させ、所定時間が経過したら除電装置8及び脱離アシスト装置9の動作を停止させる。これにより、吸着電極3が前記退避位置にあるとき、収容部2から取り出された前記所定数の導電性粒子p、すなわち、吸着電極3の前記吸着面に吸着している前記所定数の導電性粒子pが前記吸着面から脱離する。
【0038】
図2は、静電吸着装置1の動作状態を示す要部図であり、
図2(A)は、前記所定数の導電性粒子pを吸着電極3の前記吸着面に吸着させて収容部2から取り出した状態を示す図であり、
図2(B)は、前記所定数の導電性粒子pを前記吸着面から脱離させた状態を示す図である。
【0039】
本実施形態において、静電吸着装置1は、吸着電極3の前記吸着面への前記所定数の導電性粒子pの吸着、吸着電極3の移動による前記所定数の導電性粒子pの取り出し(前記吸着面に吸着した前記所定数の導電性粒子pの前記吸着面に吸着しない他の導電性粒子pからの分離)、及び、吸着電極3の前記吸着面に吸着した前記所定数の導電性粒子pの前記吸着面からの脱離を繰り返すことによって、収容部2内の導電性粒子群Pから導電性粒子pを所定数ずつ取り出して移動させることができる。
【0040】
ここで、取り出される導電性粒子pは、強い力で掴まれたり、強い力で押し付けられたりすることがないので、導電性粒子pの損傷等が防止される。また、吸着電極3の前記吸着面にはそこに接触した導電性粒子pが一層分だけ吸着されるので、導電性粒子群Pから一定数の導電性粒子pを安定して取り出して移動させることが可能である。さらに、取り出される導電性粒子pの数は吸着電極3の前記吸着面の面積に依存するため、吸着電極3(の前記吸着面)の大きさを変更することにより、取り出される導電性粒子pの数を調整することも可能である。
【0041】
特に導電性粒子pの一例である種子は、強い力で掴まれたり、強い力で押し付けられたりすると発芽しなくなってしまうおそれがある。この点、本実施形態に係る静電吸着装置1を用いれば、そのようなおそれがなく、種子群から一定量の種子を安定して取り出して例えば前記退避位置の下方にある(移動してきた)パレットに散布することができ、しかも、散布される種子の数が吸着電極3(の前記吸着面)の大きさで調整され得る。したがって、静電吸着装置1は、人工播種への応用に適しているといえる。
【0042】
なお、上述の実施形態において、基準電極4は、収容部2内の導電性粒子群P、すなわち、隣接する導電性粒子p同士が互いに接触した状態の導電性粒子群Pのうちの少なくとも一つの導電性粒子pに接触するように配置されている。しかし、これに限られるものではない。例えば、収容部2が導電性粒子群Pのうちの少なくとも一つに接触する導電部を有する場合、基準電極4は、収容部2の前記導電部に接触されるように配置され得る。あるいは、収容部2が金属などの導電性材料で形成されている場合、例えば収容部2を接地することにより、収容部2が基準電極4としての機能を有し得る。
【0043】
また、導電性粒子群Pは、必ずしも、収容部2に収容されたり、隣接する導電性粒子p同士が互いに接触していたりする必要はない。例えば、導電性粒子群Pを構成する各導電性粒子pが導電性を有する面(導電面)上に散在していてもよく、この場合、基準電極4は、前記導電面に接触するように配置され得る。
【0044】
さらに、導電性粒子群Pは、必ずしも同種の導電性粒子pで構成される必要はなく、導電性粒子群Pは、大きさの異なる導電性粒子pや種類の異なる導電性粒子pを含み得る。
【0045】
また、上述の実施形態において、前記吸着位置は、吸着電極3の前記記吸着面が収容部2内の導電性粒子群Pの上層部に接触する位置に設定されている。しかし、これに限られるものではない。吸着電極3に前記吸着電圧が印加されることにより、吸着電極3の前記吸着面の下にある所定数の導電性粒子pに前記吸着電圧とは逆極性の電荷が誘起されればよく、前記吸着位置は、吸着電極3の前記記吸着面が収容部2内の導電性粒子群Pの上層部に近接する位置に設定され得る。また、特に導電性粒子群Pが収容部2に収容されていない場合において、前記退避位置は、前記吸着位置よりも導電性粒子群Pの上層部から離れた位置にあればよい。
【0046】
また、上述の実施形態において、脱離アシスト装置9は、電極ホルダ31の側面に取り付けられて吸着電極3に振動又は衝撃を与えるように構成されている。しかし、これに限られるものではない。脱離アシスト装置9は、吸着電極3の前記吸着面上でブラシ等を移動させたり、吸着電極3の前記吸着面及び/又はそこ吸着している導電性粒子pにエアーを吹き付けたりすることによって、吸着電極3の前記吸着面に吸着している導電性粒子pの前記吸着面からの脱離をアシストするように構成されてもよい。
【0047】
また、上述の実施形態において、静電吸着装置1は、除電装置8と脱離アシスト装置9とを別々に有している。しかし、これに限られるものではない。静電吸着装置1は、これらの装置8、9に代えて、吸着電極3の前記吸着面に吸着した前記所定数の導電性粒子pの電荷を除去すると共に前記所定数の導電性粒子pに機械的な力を加えて前記所定数の導電性粒子pを吸着電極3の前記吸着面から脱離させる除電・脱離装置を有してもよい。図示は省略するが、このような除電・脱離装置は、例えば、前記基準電位に接続された(すなわち、前記基準電位を持つ)導電性ブラシ部材と、前記導電性ブラシ部材を移動させるブラシ移動機構とを有して構成され、吸着電極3の前記退避位置の近傍に配置される。そして、前記除電・脱離装置は、前記退避位置において吸着電極3への前記吸着電圧の印加が遮断(オフ)された後に、吸着電極3の前記吸着面に吸着した前記所定数の導電性粒子pのそれぞれに接触させるように前記導電性ブラシ部材を移動させる。これにより、前記所定数の導電性粒子pの電荷が除去されると共に前記所定数の導電性粒子pに機械的な力が加えられて前記所定数の導電性粒子pが吸着電極3の前記吸着面から脱離する。なお、前記除電・脱離装置は、前記所定数の導電性粒子pが脱離した後に、吸着電極3の前記吸着面の各部位に接触させるように前記導電性ブラシを移動させることにより、吸着電極3の前記吸着面の前記残留電荷を除去することも可能である。
【0048】
また、上述の実施形態において、吸着電極3は、導電性粒子pの粒径の2倍以上の直径を有する円柱状に形成されている。しかし、これに限られるものではない。吸着電極3の形状や大きさは、吸着したい導電性粒子やそれが置かれている環境などに応じて適宜変更することが可能である。例えば、吸着電極3の形状としては、円柱型のほかに、円錐型、櫛型、ブラシ型など多様な形状が採用され得る。
【0049】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る静電吸着装置について説明する。なお、第1実施形態に係る静電吸着装置1と共通する要素については同一の符号を付してその説明は省略する。
図3は、第2実施形態に係る静電吸着装置10の要部図である。第1実施形態に係る静電吸着装置1と第2実施形態に係る静電吸着装置10との主な相違点は、以下のとおりである。
【0050】
すなわち、第1実施形態に係る静電吸着装置1においては電極ホルダ31に一つの吸着電極3が組み込まれている。これに対し、第2実施形態に係る静電吸着装置10においては電極ホルダ31に複数(ここでは、五つの)吸着電極3a〜3eが間隔をあけて(すなわち、互いに絶縁された状態で)組み込まれている。また、第2実施形態に係る静電吸着装置10において、電源6は、スイッチSW1〜SW5を介して吸着電極3a〜3eに接続されている。さらに、電極ホルダ31から露出する各吸着電極3a〜3eの端面、ここでは、各吸着電極3a〜3eの前記端面が露出している電極ホルダ31の一端面には、絶縁被覆32が施されている。そして、絶縁被覆32が施された各吸着電極3a〜3eの前記端面が、各吸着電極3a〜3eに前記吸着電圧が印加されたときに導電性粒子pを吸着させる吸着面を構成する。
【0051】
第2実施形態に係る静電吸着装置10の動作は、基本的に第1実施形態に係る静電吸着装置1の動作と同じである。すなわち、静電吸着装置10は、吸着電極3a〜3eが前記吸着位置にあるときに吸着電極3a〜3eに前記吸着電圧を印加することにより、所定数の導電性粒子pを吸着電極3a〜3eの前記吸着面に吸着させ、吸着電極3a〜3eを前記吸着位置から前記退避位置に移動させることにより、前記所定数の導電性粒子pを収容部2から取り出す。そして、静電吸着装置10は、吸着電極3a〜3eが前記退避位置に移動した後、吸着電極3a〜3eへの前記吸着電圧の印加を遮断(オフ)すると共に除電装置8及び脱離アシスト装置9を動作させることにより、吸着電極3a〜3eの前記吸着面に吸着させた前記所定数の導電性粒子pを前記吸着面から脱離させる。但し、第2実施形態に係る静電吸着装置10においては、制御部7がスイッチSW1〜SW5を選択的にON制御することによって、すなわち、吸着電極3a〜3eに選択的に前記吸着電圧を印加することによって、実際に導電性粒子pを吸着させる吸着面の数(面積)を変更することが可能である。
【0052】
第2実施形態に係る静電吸着装置10によると、第1実施形態に係る静電吸着装置1と同様の効果が得られることに加えて、スイッチSW1〜SW5の選択的なON制御によって導電性粒子群Pから取り出される導電性粒子pの数を容易に変更することができる。
【0053】
なお、第1実施形態に係る静電吸着装置1に適用される変更のうち適用可能なものについては第2実施形態に係る静電吸着装置10にも適用され得る。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により説明する。但し、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
第1実施形態に係る静電吸着装置1において、吸着電極3として直径8mmの円柱状の真鍮電極を用いると共に、電極ホルダ31の代わりに吸着電極3の側面に絶縁テープを巻き付けた。また、絶縁被覆32として厚さ165μmのPTFEフィルムテープ(NITTO社製、P−421)を吸着電極3の底面に貼付し、吸着電極3の前記底面を吸着電極3に前記吸着電圧が印加されたときに導電性粒子pを吸着させる吸着面とした。吸着電極3を電動ステージ(シグマ光機社製、SGSP33−100)に取り付け、当該電動ステージによって吸着電極3を上下移動させるようにした。導電性粒子pとして、粒径1.0±0.02mmの金属球(千住金属工業株式会社製、エコソルダーボール M705 1.0φ、1粒約4mg)を使用した。収容部2として金属製の容器を用意し、当該容器に多数の導電性粒子pからなる導電性粒子群Pを収容した。除電装置8には、特許第6008269号公報に記載のイオナイザーにおいて、対向針対針型コロナ放電電極(針電極間距離:12mm、接地円筒電極の外径:15mm)を使用したものを用いた。針電極は、先端曲率半径が7μmのタングステン針である。脱離アシスト装置9には、市販の振動子を使用した。
【0056】
吸着電極3の下方に移動させて吸着電極3の前記吸着面を導電性粒子群Pに埋めた状態で吸着電極3に−2.0kVの負極性の電圧(吸着電圧)を印加して導電性粒子pに正の電荷を誘導させて導電性粒子pを吸着電極3の前記吸着面(絶縁被覆4a)に吸着させ、その後、吸着電極3を上方に移動させて他の導電性粒子pから分離した。その結果を
図4に示す。
図4に示されるように、吸着電極3の前記吸着面(絶縁被覆32)には、所定数の導電性粒子pが一層の状態で(均一に)吸着されることが確認された。なお、吸着電極3への前記吸着電圧の印加を遮断した後も、前記所定数の導電性粒子pは吸着電極3の前記吸着面に吸着された状態が保持された。また、その後に除電装置8及び脱離アシスト装置9を動作させることによって、
図5に示されるように、吸着電極3の前記吸着面(絶縁被覆4a)に吸着された前記所定数の導電性粒子pを完全に脱離させることができることが確認された。
【0057】
[実施例2]
実施例1と同様の構成において、吸着電極3に印加する負極性の電圧(吸着電圧)を−0.5〜−3.0kVの範囲で変化させて導電性粒子pの吸着個数を確認する実験を行った。実験は各吸着電圧について10回行った。その結果を
図6に示す。
図6に示されるように、前記吸着電圧が−0.5kVの場合、吸着電極3の前記吸着面には導電性粒子pが吸着されなかった。これは、静電気力が不足しているためであると考えられる。一方、前記吸着電圧が−1.0〜−3.0kVの場合には、吸着電極3の前記吸着面に複数の導電性粒子pが吸着されることが確認された。
【0058】
また、前記吸着電圧の絶対値が大きくなるほど、導電性粒子pの吸着個数が増えると共に吸着個数のばらつきが少なくなることが確認された。例えば、前記吸着電圧が−2.0kVの場合には、導電性粒子pの吸着個数の平均値は53.6個、標準偏差は3.87、前記吸着電圧が−3.0kVの場合には、導電性粒子pの吸着個数の平均値は62.6、標準偏差は0.27であった。これは、次のような理由によると考えられる。すなわち、前記吸着電圧の絶対値が小さい場合には、静電気力(吸着力)が小さく、吸着電極3の前記吸着面に吸着された導電性粒子pと導電性粒子pとの隙間に他の導電性粒子pが入り込めない。このため、吸着電極3の前記吸着面には比較的大きな隙間が存在する。一方、前記吸着電圧の絶対値が大きい場合には、静電気力(吸着力)も大きく、吸着電極3の前記吸着面に吸着された導電性粒子pと導電性粒子pとの隙間に他の導電性粒子pが入り込むことが可能になる。このため、吸着電極3の前記吸着面における隙間が密になる。したがって、導電性粒子pの吸着個数のばらつきを小さくするには、前記吸着電圧の絶対値を大きくする必要があり、絶対値が十分に大きい前記吸着電圧(ここでは−3.0kV)を吸着電極3に印加すれば、導電性粒子pの吸着個数がほぼ一定となり、その再現性も高いことが確認された。
【0059】
[実施例3]
実施例1と同様の構成において、吸着電極3の直径(前記吸着面の面積)を変化させて導電性粒子pの吸着個数を確認する実験を行った。具体的には、直径(前記吸着面の面積)が2mm(3.14mm
2)、4mm(12.56mm
2)、6mm(28.26mm
2)、8mm(50.24mm
2)の吸着電極3を用意し、前記吸着電圧を−3.0kVとしたときの導電性粒子pの吸着個数を確認した。実験は各吸着電極3について10回行った。その結果を
図7に示す。
図7に示されるように、吸着電極3の直径(前記吸着面の面積)に比例して導電性粒子pの吸着個数が増加することが確認された。
【0060】
[実施例4]
第2実施形態に係る静電吸着装置10において、
図8に示されるように、五つの吸着電極3a〜3eとしてそれぞれ直径1.6mmの円柱状の鋼製棒電極を用い、これらをABS樹脂製の円柱状の電極ホルダ31に組み込んだ。電極ホルダ31の側面にはアルミテープを巻き付けた。また、各吸着電極3a〜3eの底面が露出する電極ホルダ31の底面に絶縁被覆32として厚さ165μmのPTFEフィルムテープ(NITTO社製、P−421)を貼付し、当該PTFEフィルムテープによって被覆された各吸着電極3a〜3eの前記底面を各吸着電極3a〜3eに前記吸着電圧が印加されたときに導電性粒子pを吸着させる吸着面とした。吸着電極3a〜3eが組み込まれた電極ホルダ31を電動ステージ(シグマ光機社製、SGSP33−100)に取り付け、当該電動ステージによって電極ホルダ31(すなわち、各吸着電極3a〜3e)を上下移動させるようにした。導電性粒子pとして、粒径1.0±0.02mmの金属球(千住金属工業社製、エコソルダーボール M705 1.0φ)を使用した。また、各吸着電極3a〜3eに印加する吸着電圧を−2.0kVに設定した。
【0061】
そして、前記吸着電圧が印加される吸着電極の数を変化させて導電性粒子pの吸着個数を確認する実験を行った。実験は、一つの吸着電極(吸着電極3a)に前記吸着電圧を印加した場合(実施例4−1)、二つの吸着電極(吸着電極3a及び3e)に前記吸着電圧を印加した場合(実施例4−2)、及び、五つの吸着電極(吸着電極3a〜3e)に前記吸着電圧を印加した場合(実施例4−3)のそれぞれについて10回行い、導電性粒子pの吸着個数の平均値及びばらつき(標準偏差)を算出した。その結果を
図9に示す。また、二つの吸着電極に前記吸着電圧を印加した場合(実施例4−2)の導電性粒子pの吸着状態を
図10に示し、五つの吸着電極に前記吸着電圧を印加した場合(実施例4−3)の導電性粒子pの吸着状態を
図11に示す。
【0062】
図9〜
図11に示されるように、複数の吸着電極を有する場合において、前記吸着電圧が印加される吸着電極が増加すると導電性粒子pの吸着個数も増加すること、さらに言えば、前記吸着電圧が印加される吸着電極の数(前記吸着面の面積)に対応する個数の導電性粒子pを吸着することが可能であることが確認された。
【0063】
[実施例5〜8:種子の吸着]
実施例1と同様の構成において、前記金属球の代わりに種子を用いた場合の種子の吸着個数を確認する実験を行った。具体的には、前記吸着電圧を−2.0kVとし、前記金属球の代わりに水菜の種子を用いた場合(実施例5)、前記金属球の代わりにからし菜の種子を用いた場合(実施例6)、前記金属球の代わりにスイートバジルの種子を用いた場合(実施例7)及び前記金属球の代わりにルッコラの種子を用いた場合(実施例8)の種子の吸着個数を確認した。実験はそれぞれについて10回行い、吸着個数の平均値及びばらつき(標準偏差)を算出した。その結果を
図12に示す。
図12に示されるように、実施例5〜8のいずれにおいても吸着電極3の前記吸着面に複数の種子が吸着されること、つまり、自然物である種子も導電性粒子pとして吸着され得ることが確認された。
【0064】
[実施例9:ガラスビーズ(絶縁性粒子)の吸着]
実施例1と同様の構成において、前記金属球に代えて直径1mmのガラスビーズ(ブライト標示工業社製)を使用し、前記吸着電圧を−3.0kVとして吸着実験を行ったが、絶縁体であるガラスビーズは吸着電極3の前記吸着面に吸着されなかった。但し、同じガラスビーズに帯電スプレー(アイ・エイ・シー社製、アンモニウム硝酸塩含有帯電スプレー)を噴霧して表面に導電被膜を形成した後に、上記と同様の吸着実験を行ったところ、吸着電極3の前記吸着面に所定数のガラスビーズが一層吸着された。すなわち、絶縁性粒子であっても、導電被膜の形成などの表面導電化処理が施されたものは導電性粒子pとして吸着され得ることが確認された。また、その後、吸着電極3への前記吸着電圧の印加を遮断した後に、除電装置8を動作させることによって、吸着電極3の前記吸着面に吸着された前記所定数のガラスビーズを完全に脱離させることができることも確認された。
【0065】
本発明による静電吸着装置は、構造が簡単でコンパクト化が容易なため、吸着電極を移動させる移動機構としてロボットアームなどを用いることにより、組立部品の取り扱い、種子取り扱い作業など、多くの産業で貢献できる。さらに、ハウスダスト、ダニの死骸、繊維、髪の毛なども吸着可能であり、家庭内での静電吸着・脱離による掃除にも適用され得る。