【解決手段】缶体は、円筒状の直胴部と缶軸方向の上方に向かうに従い漸次縮径する肩部と外部に開口する口部とを有し、肩部は、直胴部の上端から径方向の内方に向けて屈曲する下側屈曲部と、該下側屈曲部の上端から上方に向けて漸次縮径する円錐状のテーパ部と、を有し、下側屈曲部は、周方向に等間隔に形成され、基準面よりも径方向の内方に向けて凹となる複数個の第1凹部と、各第1凹部の間に形成され、該第1凹部と比べて相対的に径方向の外方に向けて凸となり、基準面の一部を構成する複数の第1境界頂部と、を有し、第1凹部は、該第1凹部の最深部において缶軸方向の上下に折り返され、周方向に沿って延在する湾曲部を有しており、第1凹部の最深部が、湾曲部の周方向の両側に形成された第1境界頂部に接する両端部よりも缶軸方向の上方位置にある。
請求項1から4のいずれか一項に記載の缶体の製造方法であって、前記直胴部の上端に連続して円錐形肩部を有する筒体を形成しておき、前記筒体の開口端部から環状の肩部形成金型を缶軸方向に移動して前記円錐形肩部を押圧することにより、前記円錐形肩部を部分的に塑性変形させ、前記第1凹部及び前記第1境界頂部を形成することを特徴とする缶体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、肩部の缶軸方向の下側に配置される直胴部と肩部との切り替わり部分(下側屈曲部部)は、屈曲(湾曲)した形状に形成されており、平坦な円錐状に形成された部分(テーパ部)よりも剛性が高くなっている。このため、下側屈曲部には金型による加工が入り難かったり、テーパ部よりも強く金型が当たったりする等、下側屈曲部を意図した凹凸形状に形成することは難しく、テーパ部と下側屈曲部とで均一な凹凸形状を形成することが難しい。特に、下側屈曲部の剛性が高いことから、金型の押圧力が小さいとスプリングバック等が生じて、凹凸形状を付すことが難しい。一方で、金型の押圧力を大きくしすぎると、下側屈曲部に加工が深く入りすぎて、テーパ部よりも下側屈曲部の凹凸形状が目立ちすぎるとともに、肩部の形状が歪んで下側屈曲部が直胴部よりも径方向に突出するおそれがある。また、このように歪んだ形状の缶体は、搬送する際に搬送路で引っかかりやすく、搬送性が低下する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、缶体の歪みが抑制され、肩部に凹凸形状によるデザインが施された搬送性の高い缶体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の缶体は、円筒状の直胴部と、該直胴部の上端から缶軸方向の上方に向かうに従い漸次縮径する肩部と、該肩部の上方に形成されて外部に開口する口部と、を有し、前記肩部は、前記直胴部の上端から径方向の内方に向けて屈曲する下側屈曲部と、該下側屈曲部の上端から上方に向けて漸次縮径する円錐状のテーパ部と、を有し、前記下側屈曲部は、周方向に等間隔に形成され、基準面よりも径方向の内方に向けて凹となる複数個の第1凹部と、各第1凹部の間に形成され、該第1凹部と比べて相対的に径方向の外方に向けて凸となり、前記基準面の一部を構成する複数の第1境界頂部と、を有し、前記第1凹部は、該第1凹部のうちの前記基準面からの垂直距離が最も大きい最深位置である最深部において缶軸方向の上下に折り返され、周方向に沿って延在する湾曲部を有しており、前記第1凹部の最深部が、前記湾曲部の周方向の両側に形成された前記第1境界頂部に接する両端部よりも缶軸方向の上方位置にある。
【0008】
肩部全体は、缶軸方向の上方に向かうに従い漸次縮径する形状であり、下側屈曲部は、直胴部の上端からテーパ部の下端までの間を接続し、大きく曲げられた形状とされる。そして、第1凹部の湾曲部の両端部は、大きく曲げられた下側屈曲部に形成された第1境界頂部に接して形成されるが、湾曲部の最深部については、下側屈曲部の下側よりもストレート状のテーパ部に近い上側に形成される。このように、湾曲部の最深部を両端部よりも上側に形成することで、各第1凹部の全体の加工量を小さくしながらも、周方向において両端部に近接する第1境界頂部の形状については際立たせて形成できる。また、第1凹部の加工量を小さくすることで、加工に必要な押圧力も小さくできるので、肩部が径方向内方に潰されにくく、缶体の形状が歪むことも抑制できる。したがって、剛性の高い下側屈曲部においても複数の第1凹部を均一に形成でき、肩部に凹凸形状によるデザインを良好に形成できるとともに、このデザインされた缶体の搬送性を良好に確保できる。
【0009】
本発明の缶体の好ましい実施態様として、前記湾曲部の最深部が、前記直胴部の上端から缶軸方向の上方に向けて4mmを超える位置に形成されており、前記湾曲部の両端部が、前記直胴部の上端から缶軸方向の上方に向けて4mm以内の範囲内に形成されている。
【0010】
第1凹部の湾曲部の両端部を直胴部の上端から缶軸方向の上方に向けて4mm以内の範囲内に形成する際には、湾曲部の最深部を両端部よりも上側の直胴部の上端から缶軸方向の上方に向けて4mm以上離れた位置に形成することで、第1境界頂部の形状を際立たせて形成できるとともに、第1凹部の全体の加工量を確実に小さくできる。したがって、缶体の形状が歪むことを抑制でき、肩部に凹凸形状によるデザインを良好に形成できる。
【0011】
本発明の缶体の好ましい実施態様として、前記肩部は、さらに前記第1境界頂部の缶軸方向の上方位置に、周方向に等間隔に形成され、前記基準面よりも径方向の内方に向けて凹となる複数個の第2凹部と、各第2凹部の間に形成され、該第2凹部と比べて相対的に径方向の外方に向けて凸となり、前記基準面の一部を構成する複数の第2境界頂部と、を有し、各第2凹部は、該第2凹部のうちの前記基準面からの垂直距離が最も大きい最深位置である最深部において缶軸方向の上下に折り返され、周方向に沿って延在する湾曲部を有しており、前記第2凹部の最深部と該第2凹部の湾曲部の周方向の両側に形成された前記第2境界頂部に接する両端部とが缶軸方向の同じ位置に形成されており、各第1凹部は、該第1凹部の周方向の両側に形成された2つの前記第1境界頂部と、これらの第1境界頂部の間に形成された1つの前記第2境界頂部と、に囲まれており、各第2凹部は、該第2凹部の周方向の両側に形成された2つの前記第2境界頂部と、これらの第2境界頂部の間に形成された1つの前記第1境界頂部と、に囲まれており、前記第1凹部の最深部から該第1凹部を囲む前記第2境界頂部までの最短距離L1が、前記第2凹部の最深部から該第2凹部を囲む前記第1境界頂部までの最短距離L2よりも小さく設けられている。
【0012】
肩部に、第1凹部だけでなく第2凹部を形成して複数段の凹部を形成する際に、第1凹部の最深部から第2境界頂部までの最短距離L1を、第2凹部の最深部から第1境界頂部までの最短距離L2よりも小さくして、L2>L1の関係にすることで、第1境界頂部と第2境界頂部とを均一に形成できる。したがって、剛性の高い下側屈曲部とその下側屈曲部よりも剛性の低いテーパ部とにおいて、基準面に形成された第1境界頂部と第2境界頂部とを際立たせることができる。また、缶体が歪むことを抑制できるので、肩部に凹凸形状によるデザインを良好に形成できるとともに、このデザインされた缶体の搬送性を良好に確保できる。
【0013】
本発明の缶体の好ましい実施態様として、前記第1凹部の最深部は、前記第2凹部の最深部よりも、前記基準面からの垂直距離が小さく形成されている。
【0014】
直胴部の上端近くに形成された第1凹部の最深部を、さらに第1凹部の最深部よりも直胴部から離れた位置に形成された第2凹部の最深部よりも基準面からの垂直距離を小さくして浅く形成することで、剛性の高い下側屈曲部に形成された第1凹部の加工量を、下側屈曲部よりも剛性が低いテーパ部にかけて形成された第2凹部の加工量よりも小さくできる。このため、第1凹部と第2凹部との加工に必要な押圧力を均一にでき、第1境界頂部と第2境界頂部とをより均一に形成できるとともに、缶体が歪むことを一層抑制できる。
【0015】
本発明の缶体の製造方法は、前記直胴部の上端に連続して円錐形肩部を有する筒体を形成しておき、前記筒体の開口端部から環状の肩部形成金型を缶軸方向に移動して前記円錐形肩部を押圧することにより、前記円錐形肩部を部分的に塑性変形させ、前記第1凹部及び前記第1境界頂部を形成する。この製造方法により、円錐形肩部を形成するネッキング加工と同じ加工方法によって肩部の凹凸を形成することができ、効率的である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、肩部の缶軸方向の下側に配置される下側屈曲部にも凹凸形状によるデザインを形成でき、この肩部への凹凸形状の加工時において缶体の形状に歪みが生じることを抑制できるので、缶体の搬送性を良好に確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る缶体の実施形態を図面を参照して説明する。
本発明の実施形態の缶体(ボトル缶)101は、
図1及び
図2に示すように、外部に開口する開口部115を有し、全体がボトル形状に形成される。缶体101は、開口部115を通じて内部に飲料等の内容物が充填された後、口部114にキャップ102を装着する(巻き締める)ことにより開口部115が密封され、ボトル容器とされる(
図10参照)。
【0019】
図1は、缶体101の全体を示す正面図である。
図2は、缶体101の缶軸Oを通る切断端面図である。
図3は、缶体101の上部付近を拡大した要部の正面図である。
図4は、
図3の矢印A方向から視た缶体101の肩部112の上面図である。
図5は、
図4に示す肩部112の要部を示す上面図である。また、
図6〜
図9は、缶体101の肩部112に形成された各凹部211,221,231,241をそれぞれの最深部P1〜P4において径方向(水平)に切断した缶体101の切断端面図である。このうち、
図6は、
図3のB‐B線に沿って缶体101を切断した第1凹部211の最深部P1における切断端面図である。
図7は、
図3のC‐C線に沿って缶体101を切断した第2凹部221の最深部P2における切断端面図である。
図8は、
図3のD‐D線に沿って缶体101を切断した第3凹部231の最深部P3における切断端面図である。また、
図9は、
図3のE‐E線に沿って缶体101を切断した第4凹部241の最深部P4における切断端面図である。
図10には、缶体101と、缶体101の口部114に装着されるキャップ102との右半分を缶軸Oを通る切断端面にして示している。また、
図11には、缶体101の肩部112に凹凸形状を付す前の筒体100の上部付近と、筒体100の円錐形肩部112aに凹凸形状を付すための肩部形成金型501と、を示している。
【0020】
缶体101は、アルミニウム又はアルミニウム合金、その他の金属からなり、
図1に示すように、円筒状をなす胴部(ウォール)110と、胴部110の下部を閉塞する底部(ボトム)120と、を備える有底円筒状に形成されている。
【0021】
図1に示すように、胴部110及び底部120は互いに同軸に配置されており、本実施形態においては、これらの共通軸を缶軸Oと称して説明を行う。また、缶軸Oに沿う方向(缶軸O方向)のうち、開口部115から底部120側へ向かう方向を下方、底部120から開口部115側へ向かう方向を上方とし、以下の説明においては、
図1に示す向きと同様に上下方向を定めるものとする。また、缶軸Oに直交する方向を径方向といい、径方向のうち、缶軸Oに接近する向きを径方向の内側(内方)、缶軸Oから離間する向きを径方向の外側(外方)とする。また、缶軸O回りに周回する方向を周方向とする。また、本実施形態では、特に説明を行わない限り、缶体101の凹凸形状は、缶体101の外面(外観面)における凹凸形状を表す。
【0022】
胴部110は、
図1に示されるように、底部120側において大径の円筒状に形成された直胴部111と、直胴部111の上端から缶軸O方向の上方(開口部115側)に向かうに従い漸次縮径する肩部112と、肩部112の上端に接続されて缶軸O方向の上方に向けて延びる首部113と、首部113の上端に接続されて外部に開口する小径の口部114と、を備える。なお、直胴部111、肩部112、首部113、口部114は、それぞれ胴部110の周方向全周にわたって延びる環状をなしている。
【0023】
このうち、肩部112は、
図1及び
図3等に示すように、直胴部111の上端から径方向の内方に向けて屈曲する下側屈曲部21と、下側屈曲部21の上端から上方に向けて漸次縮径する円錐状のテーパ部22と、テーパ部22の上端から径方向の内方に向けて屈曲する上側屈曲部23と、を有しており、肩部112の下端が最も大径に形成され、肩部112の上端が最も小径に形成されている。そして、上側屈曲部23の上端が首部113の下端に接続されている。
【0024】
また、肩部112の下側屈曲部21から上側屈曲部23までの全領域に、円錐状の基準面S(
図2及び
図3等に二点鎖線で示す。)よりも径方向の内方に向けて凹となる複数個の凹部211,221,231,241が間隔をおいて規則的に形成されている。基準面Sは、
図11に示すように、缶体101に凹部211,221,231,241が形成される前の筒体100における円錐形肩部112aの外面と同一面を表すものである。この基準面Sは、後述する境界頂部212,222,232,242に外接する面であり、各境界頂部212,222,232,242は基準面Sの一部を構成する。なお、
図2に示すように、基準面Sと缶軸Oとがなす角度(傾斜角度)をαとすると、基準面Sの傾斜角度αは例えば10°以上60°以下に設けられる。
【0025】
肩部112に形成された凹部211,221,231,241のうち、肩部112の最も下側に形成される複数個の第1凹部211は、
図3〜
図5及び
図6に示すように、下側屈曲部21の周方向に等間隔で複数個(ここでは9個)、形成されている。そして、下側屈曲部21の各第1凹部211の間には、
図2及び
図3に示すように、第1凹部211と比べて相対的に径方向の外方に向けて凸となる第1境界頂部212が形成されている。各第1境界頂部212は基準面S上に形成されており、前述したように基準面Sの一部を構成する。
【0026】
また、第1凹部211は、
図3〜
図5に示すように、周方向においては、それぞれの第1凹部211の周方向の両側に形成された2つの第1境界頂部212,212に接するとともに、缶軸O方向においては、これらの第1境界頂部212,212の間に形成された1つの第2境界頂部222に接しており、2つの第1境界頂部212,212及び1つの第2境界頂部222に囲まれている。そして、各第1凹部211と基準面Sとの稜線(第1凹部211の外周縁)は、これらの第1境界頂部212,212及び第2境界頂部222の3点を頂点とする略三角形に形成されている。
【0027】
また、第1凹部211には、その第1凹部211のうちの基準面Sからの垂直距離が最も大きい最深位置である最深部P1において缶軸O方向の上下に折り返され、周方向に沿って延在する湾曲部213が形成されている。
図3〜
図5に示すように、湾曲部213は、周方向の両端部において、両側に形成された2つの第1境界頂部212,212に接して設けられる。そして、湾曲部213の両端部の間に、第1凹部211の最深部P1が形成されている。この第1凹部211の最深部P1は、
図3に示すように、湾曲部213の両端部よりも上方位置に形成されており、第1凹部211の湾曲部213は、最深部P1を缶軸O方向の最も上方に配置したアーチ状に形成されている。
【0028】
第1凹部211(湾曲部213)の最深部P1は、加工が深く入りすぎないように、直胴部111の上端から缶軸O方向の上方に向けて4mmを超える位置に形成することが好ましい。言い換えると、
図3に示すように、直胴部111の上端から湾曲部213の最深部P1までの缶軸Oと平行な垂直距離H1を4mmを超える大きさに形成することが好ましい。一方、湾曲部213の両端部は、直胴部111の上端から缶軸O方向の上方に向けて4mm以下の範囲内に形成し、第1境界頂部212に近接させることが好ましい。言い換えると、直胴部111の上端から湾曲部213の両端部までの缶軸Oと平行な垂直距離H2を4mm以下に形成することが好ましい。垂直距離H1を4mmを超える大きさにしたときに、この垂直距離H1と同様に垂直距離H2を4mmを超える大きさにすると、下側屈曲部21やテーパ部22の下部近辺に加工が入り難くなり、肩部112に凹凸形状によるデザインを均一に形成することが難しくなる。
【0029】
このように、第1凹部211の最深部P1が、湾曲部213の両端部よりも上方位置に形成されているので、
図6に示すように、缶体101を各最深部P1を通る位置で切断した切断端面では、第1凹部211と第2凹部221とが周方向に隣り合って形成され、缶体101の横断面は、第1凹部211の外周縁及び第2凹部221の外周縁の共通する稜線を頂点とする略十八角形に形成される。なお、基準面Sは、第1凹部211と第2凹部221との間の稜線に外接し、その稜線は基準面Sの一部を構成する。
【0030】
第2凹部221は、各第1凹部211の間に形成された第1境界頂部212の上方に形成されている。また、第2凹部221は、下側屈曲部21からテーパ部22に跨るようにして形成されており、
図7に示すように、第1凹部211と同様に、周方向に等間隔で、複数個(9個)、形成されている。そして、各第2凹部221の間には、第2凹部221と比べて相対的に径方向の外方に向けて凸となる第2境界頂部222が形成されている。第2境界頂部222も、第1境界頂部212と同様に基準面S上に形成されており、基準面Sの一部を構成する。
【0031】
また、第2凹部221は、
図3〜
図5に示すように、周方向においては、それぞれの第2凹部221の周方向の両側に形成された2つの第2境界頂部222,222に接するとともに、缶軸O方向においては、これらの第2境界頂部222,222の間に形成された1つの第1境界頂部212及び1つの第3境界頂部232に接しており、2つの第2境界頂部222,222、1つの第1境界頂部212及び1つの第3境界頂部232に囲まれている。そして、各第2凹部221と基準面Sとの稜線(第2凹部221の外周縁)は、これらの第2境界頂部222,222、第1境界頂部212及び第3境界頂部232の4点を頂点とする略菱形に形成されている。
【0032】
また、第2凹部221には、その第2凹部221のうちの基準面Sからの垂直距離が最も大きい最深位置である最深部P2において缶軸O方向の上下に折り返され、周方向に沿って延在する湾曲部223が形成されている。
図3〜
図5に示すように、湾曲部223は、周方向の両端部において、両側に形成された第2境界頂部222と接して設けられる。そして、湾曲部223の両端部の間に、第2凹部221の最深部P2が形成されている。この第2凹部221の最深部P2は、
図3に示すように、湾曲部223の両端部と缶軸O方向の同じ位置(同じ高さ)に形成されている。
【0033】
このように、第2凹部221の最深部P2が、湾曲部223の両端部と同じ位置に形成されているので、
図7に示すように、缶体101を各最深部P2を通る位置で切断した切断端面は、湾曲部223に沿った端面となる。また、この
図7に示す缶体101の切断端面では、第2凹部221と第2境界頂部222とが周方向に隣り合って形成され、缶体101の横断面は、各第2境界頂部222を頂点とし、各第2凹部221(湾曲部223)を一辺とする、略正九角形に形成される。なお、
図7に示すように、基準面Sが各第2境界頂部222に外接し、前述したように各第2境界頂部222は基準面Sの一部を構成する。
【0034】
また、缶体101では、
図2に示すように、第1凹部211の最深部P1からその第1凹部211を囲む第2境界頂部222までの最短距離L1が、第2凹部221の最深部P2からその第2凹部221を囲む第1境界頂部212までの最短距離L2よりも小さく設けられている。また、第1凹部211の基準面Sから最深部P1までの垂直距離W1は、第2凹部221の基準面Sから最深部P2までの垂直距離W2よりも小さく設けられており(W1<W2)、第1凹部211の最深部P1は第2凹部221の最深部P2よりも、基準面Sからの垂直距離が小さく形成されている。
【0035】
第3凹部231は、各第2凹部221の間に形成された第2境界頂部222の上方に形成されている。また、第3凹部231は、テーパ部22に形成されており、
図8に示すように、第1凹部211及び第2凹部221と同様に、周方向に等間隔で、複数個(9個)、形成されている。そして、各第3凹部231の間には、第3凹部231と比べて相対的に径方向の外方に向けて凸となる第3境界頂部232が形成されている。第3境界頂部232も、第1境界頂部212及び第2境界頂部222と同様に基準面S上に形成されており、基準面Sの一部を構成する。
【0036】
また、第3凹部231は、
図3〜
図5に示すように、周方向においては、それぞれの第3凹部231の周方向の両側に形成された2つの第3境界頂部232,232に接するとともに、缶軸O方向においては、これらの第3境界頂部232,232の間に形成された1つの第2境界頂部222及び1つの第4境界頂部242に接しており、2つの第3境界頂部232,232、1つの第2境界頂部222及び1つの第4境界頂部242に囲まれている。そして、各第3凹部231と基準面Sとの稜線(第3凹部231の外周縁)は、これらの第3境界頂部232,232、第2境界頂部222及び第4境界頂部242の4点を頂点とする略菱形に形成されている。
【0037】
また、第3凹部231には、その第3凹部231のうちの基準面Sからの垂直距離が最も大きい最深位置である最深部P3において缶軸O方向の上下に折り返され、周方向に沿って延在する湾曲部233が形成されている。
図3〜
図5に示すように、湾曲部233は、周方向の両端部において、両側に形成された第3境界頂部232と接して設けられる。そして、湾曲部233の両端部の間に、第3凹部231の最深部P3が形成されている。この第3凹部231の最深部P3は、
図3に示すように、湾曲部233の両端部と缶軸O方向の同じ位置に形成されている。
【0038】
このように、第3凹部231の最深部P3が、湾曲部233の両端部と同じ位置に形成されているので、
図8に示すように、缶体101を各最深部P3を通る位置で切断した切断端面は、湾曲部233に沿った端面となる。また、この
図8に示す缶体101の切断端面では、第3凹部231と第3境界頂部232とが周方向に隣り合って形成され、缶体101の横断面は、各第3境界頂部232を頂点とし、各第3凹部231(湾曲部233)を一辺とする、略正九角形に形成される。なお、
図8に示すように、基準面Sが各第3境界頂部232に外接し、前述したように各第3境界頂部232は基準面Sの一部を構成する。
【0039】
第4凹部241は、各第3凹部231の間に形成された第3境界頂部232の上方に形成されている。また、第4凹部241は、テーパ部22から上側屈曲部23に跨るようにして形成されており、
図9に示すように、第1凹部211、第2凹部221及び第3凹部231と同様に、周方向に等間隔で、複数個(9個)、形成されている。そして、各第4凹部241の間には、第4凹部241と比べて相対的に径方向の外方に向けて凸となる第4境界頂部242が形成されている。第4境界頂部242も、第1境界頂部212、第2境界頂部222及び第3境界頂部232と同様に基準面S上に形成されており、基準面Sの一部を構成する。
【0040】
また、第4凹部241は、
図3〜
図5に示すように、周方向においては、それぞれの第4凹部241の周方向の両側に形成された2つの第4境界頂部242,242に接するとともに、缶軸O方向においては、これらの第4境界頂部242,242の間に形成された1つの第3境界頂部232に接しており、2つの第4境界頂部242,242及び1つの第3境界頂部232に囲まれている。そして、各第4凹部241と基準面Sとの稜線(第4凹部241の稜線)は、これらの第4境界頂部242,242及び第3境界頂部232の3点を頂点とする略三角形(扇形)に形成される。
【0041】
また、第4凹部241には、その第4凹部241のうちの基準面Sからの垂直距離が最も大きい最深位置である最深部P4において缶軸O方向の上下に折り返され、周方向に沿って延在する湾曲部243が形成されている。湾曲部243は、
図3〜
図5に示すように、周方向の両側に形成された両端部において、第4境界頂部242と接して設けられる。そして、湾曲部243の両端部の間に、第4凹部241の最深部P4が形成されている。この第4凹部241の最深部P4は、
図3に示すように、湾曲部243の両端部と缶軸O方向の同じ位置に形成されている。
【0042】
このように、第4凹部241の最深部P4が、湾曲部243の両端部と同じ位置に形成されているので、
図9に示すように、缶体101を各最深部P4を通る位置で切断した切断端面は、湾曲部243に沿った端面となる。また、この
図9に示す缶体101の切断端面では、第4凹部241と第4境界頂部242とが周方向に隣り合って形成され、缶体101の横断面は、各第4境界頂部242を頂点とし、各第4凹部241を一辺とする、略正九角形に形成される。なお、
図9に示すように、基準面Sが各第4境界頂部242に外接し、前述したように各第4境界頂部242は基準面Sの一部を構成する。
【0043】
前述したように、缶体101の肩部112には、周方向及び缶軸O方向に、凹形状の凹部211,221,231,241と、これらの凹部211,221,231,241に対して相対的に凸となる凸形状の境界頂部212,222,232,242と、が交互に形成されることで、凹凸形状からなる模様が付されている。また、本実施形態の缶体101では、
図3及び
図4等に示すように、各凹部211,221,231,241に、缶軸O方向の上下に折り返した湾曲部213,223,233,243を形成することにより、肩部112にダイヤカット形状の模様が付されている。
【0044】
なお、胴部110の上部に形成された口部114は、首部113の上端で一旦拡径された大径部41と、大径部41の上端で再度縮径された小径部42と、小径部42の上端の開口部115に形成されたカール部43と、を有している。小径部42には、ねじ部44が形成されている。
【0045】
また、缶体101の底部120は、缶軸O上に位置するとともに、上方(胴部110の内部)に向けて膨出するように形成されたドーム部121と、該ドーム部121の外周縁と胴部110の下端とを接続するヒール部122とを備えている。また、ドーム部121とヒール部122との接続部分は、缶体101が正立姿勢(
図1に示される開口部115が上方を向く姿勢)となるように接地面(載置面)上に載置されたときに、接地面に接する接地部123となっている。接地部123は、底部120において最も下方に向けて突出しているとともに、周方向に沿って延びる環状をなしている。
【0046】
このように構成される缶体101の諸寸法について一例を挙げると、缶体101の板厚は、成形前の元板厚が0.250mm〜0.500mmである。また、
図1に示される缶体101の缶軸Oを通る縦断面視において、製品となる直胴部111の外径Dbが52mm〜68mm、下側屈曲部21の曲率半径R11(下側屈曲部21の外面における曲率半径)が6mm〜25mm、上側屈曲部23の曲率半径R12(上側屈曲部23の外面における曲率半径)が1mm〜12mmとされる。ただし、上記寸法は、上記数値範囲に限られるものではない。
【0047】
図1に示される缶体101の場合、直胴部111の外径Dbが66mm、下側屈曲部21の曲率半径R11が10mm、上側屈曲部23の曲率半径R12が6mm、テーパ部22の傾斜角度αが28°とされる。
【0048】
以上のように構成された缶体101の製造方法の一例について説明する。缶体101は、アルミニウム合金等の板材を成形することにより形成される。図示は省略するが、板材を打ち抜いて絞り加工することにより、比較的大径で浅いカップを成形した後、このカップに再度の絞り加工及びしごき加工(DI加工)を加えて、所定高さの有底円筒状の筒体を成形する。DI加工により、筒体の底部は最終の缶体101としての底部120の形状に成形される。また、筒体の上端はトリミングして切り揃えられる。次いで、筒体の上部側をネックイン加工により徐々に縮径することで、
図11に示すように、円錐形肩部112aを有する筒体100を成形する。この筒体100の円錐形肩部112aに、凹部211,221,231,241を形成し、凹凸形状を有する缶体101を形成する。
【0049】
筒体100の円錐形肩部112aへの凹凸形状の成形には、例えば、
図11に示すような肩部形成金型501を用いる。
図11に示すように、肩部形成金型501は円筒状に形成されており、その内周面が成形面(押圧面)510とされる。成形面510は、下側から上側に向かうに従い漸次縮径する円錐状の底面部511を有している。この底面部511は、
図11に示す缶軸Oを通る切断端面において、缶体101の肩部112の基準面S(筒体100の円錐形肩部112aの外面)より僅かに拡径した形状に形成されており、基準面Sと同じ傾斜角度αで形成されている。また、肩部形成金型501の下側の開口直径Diも、筒体100(缶体101)の直胴部111の外径Dbよりも僅かに拡径した形状に形成されており、その径差(Di−Db)は例えば0.05mm〜1.0mmとされる。
【0050】
また、成形面510には、底面部511から突出して設けられた複数の成形凸部512a,512b,512c,512dが間隔をおいて複数設けられている。これらの成形凸部512a〜512dにより、凹部211,221,231,241が成形される。このように、底面部511は、各成形凸部512a〜512dの間の各境界頂部212,222,232,242及び凹部211,221,231,241の稜線に対応する位置に溝状に形成されている。
【0051】
円錐形肩部112aへの凹凸形状の形成は、肩部形成金型501の内側に筒体100を挿通し、成形面510の形状を円錐形肩部112aに転写することにより行う。詳細には、筒体100の開口端部から肩部形成金型501を缶軸方向に移動して、その成形面510を、円錐形肩部112aの外周面に押圧し、円錐形肩部112aの外周面を成形面510によって径方向の内方及び缶軸O方向の下方に押圧することにより、円錐形肩部112aを部分的に塑性変形させ、各凹部211,221,231,241を形成する。この際、成形面510の底面部511が基準面Sよりも僅かに拡径した形状に形成されているので、円錐形肩部112aの成形時において筒体100が僅かに膨らむことを許容できる。このため、肩部形成金型501の成形面510と筒体100の円錐形肩部112aとの当接開始時点(成形開始時点)において、容易に成形面510を円錐形肩部112aに押し当てて肩部112aを変形させながら、肩部形成金型501と筒体100とを所望の位置まで確実に移動させることができる。したがって、成形面510の成形凸部512a〜512dの形状を円錐形肩部112aに確実に転写することができる。
【0052】
なお、底面部511に対向する円錐形肩部112aの外面部分は、基本的には成形面510により加工されることがなく、成形された肩部112には基準面Sが残される。これにより、各凹部211,221,231,241の稜線と、境界頂部212,222,232,242とが形成される。
【0053】
なお、筒体100には、凹部211,221,231,241等からなる凹凸形状を形成した後、さらに口部114aにねじ部を形成するとともに、その開口端部45にカーリング加工を施してカール部を形成する。これにより、
図1及び
図3等に示すように、ねじ部44及びカール部43が形成された缶体101が製造される。
【0054】
前述したように、缶体101の肩部112全体は、缶軸O方向の上方に向かうに従い漸次縮径する形状であり、下側屈曲部21は、直胴部111の上端からテーパ部22の下端までの間を接続し、大きく曲げられた形状とされる。そして、第1凹部211の湾曲部213の両端部は、大きく曲げられた下側屈曲部21に形成された第1境界頂部212に接して形成されるが、湾曲部213の最深部P1については、下側屈曲部21の下側よりもストレート状のテーパ部22に近い上側に形成される。このように、湾曲部213の最深部P1を両端部よりも上側に形成することで、各第1凹部211の全体の加工量を小さくしながらも、周方向において湾曲部213の両端部に近接する第1境界頂部212の形状については際立たせて形成できる。また、第1凹部211の加工量を小さくすることで、加工に必要な押圧力も小さくできるので、肩部112が径方向内方に潰されにくく、缶体101の形状が歪むことも抑制できる。したがって、剛性の高い下側屈曲部21においても複数の第1凹部211を均一に形成でき、肩部112に凹凸形状によるデザインを良好に形成できるとともに、このデザインされた缶体101の搬送性を良好に確保できる。
【0055】
また、第1凹部211の湾曲部213の両端部を直胴部111の上端から缶軸O方向の上方に向けて4mm以内の範囲内に形成する際に、湾曲部213の最深部P1を両端部よりも上側の直胴部111の上端から缶軸O方向の上方に向けて4mmを超える位置に形成することで、第1境界頂部212の形状を際立たせて形成できるとともに、第1凹部211の全体の加工量を確実に小さくできる。したがって、缶体101の形状が歪むことを確実に抑制でき、肩部112に凹凸形状によるデザインを良好に形成できる。
【0056】
また、本実施形態のように、肩部112に、第1凹部211だけでなく第2凹部221を形成して複数段の凹部211,221を形成する場合において、第1凹部211の最深部P1から第2境界頂部222までの最短距離L1を、第2凹部221の最深部P2から第1境界頂部212までの最短距離L2よりも小さくして、L2>L1の関係にすることで、缶体101の歪みを抑制して、第1境界頂部212と第2境界頂部222とを均一に形成できる。したがって、剛性の高い下側屈曲部21とその下側屈曲部21よりも剛性の低いテーパ部22とにおいて、基準面Sに形成された第1境界頂部212と第2境界頂部222との双方を際立たせて形成することができる。
【0057】
また、直胴部111の上端近くに形成された第1凹部211の最深部P1を、さらに第1凹部211の最深部P1よりも直胴部111から離れた位置に形成された第2凹部221の最深部P2よりも基準面Sからの垂直距離を小さくして浅く形成すること(W1<W2)で、剛性の高い下側屈曲部21に形成された第1凹部211の加工量を、下側屈曲部21よりも剛性が低いテーパ部22にかけて形成された第2凹部221の加工量よりも小さくできる。このため、第1凹部211と第2凹部221との加工に必要な押圧力を均一にでき、第1境界頂部212と第2境界頂部222とをより均一に形成できるとともに、缶体が歪むことを一層抑制できる。
【0058】
このように、本実施形態によれば、缶体101が歪むことを抑制できるとともに、肩部112に凹凸形状によるデザインを良好に形成できるので、このデザインされた缶体101の搬送性を良好に確保できる。
【0059】
なお、上記実施形態では、三角形や菱形の外周縁を有する凹部211,221,231,241を組み合わせることで、肩部112に凹凸形状を構成していたが、凹部の外周縁の形状は、三角形や菱形の形状に限定されない。例えば、円形や四角形以上の多角形で形成してもよい。また、凹部は1段〜3段の4段より少ない段数で構成してもよいし、4段を超える段数の凹部を構成してもよい。また、周方向に形成される各凹部の個数も、9個に限定されるものではなく、9個より少ない数で構成してもよいし、9個を超える数で構成してもよい。さらに、肩部に形成する凹凸形状は、肩部の全領域に形成する他、下側屈曲部にのみに形成したり、下側屈曲部と上側屈曲部とに形成したりする等、種々の組み合わせを採用できる。
【0060】
また、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、底部120と胴部110とが一体に形成された有底円筒状の缶体について説明したが、缶体は必ずしも底部を有していないものも含むものとし、肩部に凹凸形状を成形した後に、その胴部に別に形成した底部を巻き締めるものも含まれる。
また、本発明は、口部にねじ部を有する缶体に限定されず、缶体の開口部に、瓶口と同様なカール部が形成された缶体に適用することもできる。