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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-203467(P2019-203467A)
(43)【公開日】2019年11月28日
(54)【発明の名称】燃料噴射装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 61/10 20060101AFI20191101BHJP
   F02M 61/18 20060101ALI20191101BHJP
【FI】
   F02M61/10 Q
   F02M61/18 330A
   F02M61/18 350A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-100155(P2018-100155)
(22)【出願日】2018年5月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 清美
(72)【発明者】
【氏名】植田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 彰利
(72)【発明者】
【氏名】増田 誠
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA07
3G066AB02
3G066BA02
3G066BA06
3G066BA09
3G066BA17
3G066BA26
3G066BA32
3G066CC10
3G066CC14
3G066CC18
3G066CC21
3G066CC48
3G066DA11
(57)【要約】
【課題】ニードル弁のリフト量に応じて噴孔からの燃料の噴射方向を制御することができる燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】ニードル弁20の先端との間で空間を形成するサック室14と、サック室14の内壁面からノズルボディ10の外壁面へ繋がり、サック室14の壁面に噴孔12と、を有し、ニードル弁20の先端は、サック室14の入口側内壁に対して略平行な流れ制御部22を備え、流れ制御部22より先端側は先細り形状の先端傾斜部23とされ、閉弁時には流れ制御部22と先端傾斜部23との交点はサック室14内に位置し、噴孔12は、入口側から出口側に向かって噴孔中心軸に対して垂直面内の面積が略一定であると共に、入口側から出口側に向かってノズル中心軸方向に沿った寸法が増加する形状とされている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルボディと、前記ノズルボディ内に配置されたニードル弁と、を備え、
前記ノズルボディは、
前記ニードル弁の先端との間で空間を形成するサック室と、
前記サック室の内壁面から前記ノズルボディの外壁面へ繋がる噴孔と、
を有し、
前記ニードル弁は、
その先端が前記サック室の入口側内壁に対して略平行であり、ニードル着座時において一部が前記サック室内に位置する流れ制御部と、
前記流れ制御部より先端側は先細り形状の先端傾斜部とされ、前記流れ制御部より上流側の空間と前記サック室内の空間を繋ぐバイパス流路と、
を有し、
前記噴孔は、入口側から出口側に向かって噴孔中心軸に対して垂直面内の面積が小さくなる先細り形状であることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射装置であって、
ニードル着座時において、前記サック室の入口側の内壁面と前記ニードル弁の前記流れ制御部との間の隙間の面積Acと、前記ニードル弁の前記バイパス流路の流路面積Abと、の比がAc/Ab≦0.82を満たすことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料噴射装置であって、
前記ノズルボディの中心軸方向に沿った前記噴孔の半頂角は5°以上であることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料噴射装置であって、
前記ノズルボディの中心軸方向に沿った前記噴孔の半頂角は10°以上であることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料噴射装置であって、
前記噴孔は、出口部における前記ノズルボディの中心軸方向に沿った高さHが前記ノズルボディの周方向に沿った幅Tより大きい扁平形状であることを特徴とする燃料噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンに対して燃料を噴射する燃料噴射装置において、噴孔から噴射させる燃料の噴霧状態を変更する技術が開発されている。
【0003】
燃料噴射弁として、ニードル弁を収容するノズルボディを備え、ノズルボディの内壁面から外壁面へと貫通する噴孔の形状を燃料の流速に応じて燃料の噴射方向が変わるような形状をした構成が開示されている(特許文献1)。具体的には、出口に向かって拡がる噴孔として、噴孔を流れる燃料の流速を変更する流速変更手段を具備することで、燃料の流速の変化に応じて燃料の噴射方向を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−023846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、噴孔を流れる燃料の流速を変更することで噴射方向を変える方式では、燃料の流速に対して噴射方向を独立に制御することが困難である。
【0006】
例えば、エンジン回転数が高いほど1サイクルの時間が短くなるため、噴射率を高くして噴射期間(実時間ベース)を短くする必要がある。しかしながら、従来技術において下向き噴射を得るには燃料流速を遅くする必要があるため、噴射率が低くなり、高エンジン回転数時に噴射期間が長期化して良好な燃焼を得ることが困難になる。特に、早期に比較的に多くの燃料を噴射して予混合化した後に燃焼させるPCCI燃焼(Premixed Charge Compression Ignition; 予混合圧縮自着火燃焼)に対応することが困難になる。このように、従来技術ではエンジンが要求する噴射率と噴射方向を制御するための燃料流速の両方を制御することは難しい。
【0007】
また、燃料の流速を変更する手段として、(1)燃料噴射弁に供給する燃料の圧力を変更する方法、(2)ニードル弁のリフト量を変更する方法が挙げられている。(1)燃料噴射弁に供給する燃料の圧力を変更する方法では、供給燃料圧力に対して噴射方向を独立に制御することが困難である。そのため、運転条件に応じて噴射方向を変更できる自由度が低くなる。(2)ニードル弁のリフト量を変更する方法では、同一のニードルリフト量では高い燃料供給圧力時の方が流速は大きくなる。そのため、高い燃料供給圧力時に拡大噴孔下壁面に沿った流れを得るには、低い燃料供給圧力時と比較してニードル弁のリフト量を小さくする必要があり、供給燃料圧力に応じてニードル弁のリフト量を制御する必要がある。特に、ディーゼルエンジンでは運転条件に応じて燃料供給圧力を30MPa〜300MPa程度の範囲で変化させるため、ニードル弁のリフト量をきめ細かく変化させる必要があり、高精度なニードル弁のリフト制御機構を備えたインジェクタが必要になる。
【0008】
さらに、出口部を拡大させた形状の噴孔では、燃料の燃焼等によって生じたデポジットが拡大噴孔部に付着し易く、デポジットが拡大噴孔部に付着すると噴射方向が初期状態から変化してしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様は、ノズルボディと、前記ノズルボディ内に配置されたニードル弁と、を備え、前記ノズルボディは、前記ニードル弁の先端との間で空間を形成するサック室と、前記サック室の内壁面から前記ノズルボディの外壁面へ繋がる噴孔と、を有し、前記ニードル弁は、その先端が前記サック室の入口側内壁に対して略平行であり、ニードル着座時において一部が前記サック室内に位置する流れ制御部と、前記流れ制御部より先端側は先細り形状の先端傾斜部とされ、前記流れ制御部より上流側の空間と前記サック室内の空間を繋ぐバイパス流路と、を有し、前記噴孔は、入口側から出口側に向かって噴孔中心軸に対して垂直面内の面積が小さくなる先細り形状であることを特徴とする燃料噴射装置である。
【0010】
ここで、ニードル着座時において、前記サック室の入口側の内壁面と前記ニードル弁の前記流れ制御部との間の隙間の面積Acと、前記ニードル弁の前記バイパス流路の流路面積Abと、の比がAc/Ab≦0.82を満たすことが好適である。
【0011】
また、前記ノズルボディの中心軸方向に沿った前記噴孔の半頂角は5°以上であることが好適である。さらに、前記ノズルボディの中心軸方向に沿った前記噴孔の半頂角は10°以上であることが好適である。
【0012】
また、前記噴孔は、出口部における前記ノズルボディの中心軸方向に沿った高さHが前記ノズルボディの周方向に沿った幅Tより大きい扁平形状であることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ニードル弁のリフト量に応じて燃料の噴射方向を制御することができる燃料噴射装置を提供することができる。これにより、早期パイロット噴射時やPCCI燃焼時に噴霧を下向きに噴射することにより、燃料をピストンのキャビティ内に留めることができ、燃料がシリンダ壁面に付着することによるオイル希釈や未燃HCの排出を抑制することができる。
【0014】
また、噴孔の出口部を拡張させた形状と比較して、噴孔の出口部にデポジットが付着しにくい構成とすることができ、長期間に亘る噴射方向の安定性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態における燃料噴射装置の構成を示す側面断面図である。
図2】本発明の実施の形態における燃料噴射装置のバイパス流路の形状を示す横断面図である。
図3】本発明の実施の形態における燃料噴射装置の噴孔の形状を示す横断面図である。
図4】本発明の実施の形態における燃料噴射装置(Ac<<Ab)が低リフト状態にあるときの燃料の噴射状態を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における燃料噴射装置(Ac/Ab≦0.82)が低リフト状態にあるときの燃料の噴射状態を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における燃料噴射装置の構成の別例を示す側面断面図である。
図7】本発明の実施の形態における燃料噴射装置が高リフト状態にあるときの燃料の噴射状態を示す図である。
図8】本発明の実施の形態における燃料噴射装置におけるパイロット噴射時とメイン噴射時の噴射角の例を示す図である。
図9】本発明の実施の形態における燃料噴射装置におけるマルチパイロット噴射時の噴射角の例を示す図である。
図10】燃料噴射装置における燃料の噴射方向と未燃HCの排出量との関係を示す図である。
図11】変形例における燃料噴射装置の構成を示す側面断面図である。
図12】変形例における燃料噴射装置の噴孔の形状を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態における燃料噴射装置100は、図1の部分拡大縦断面図に示すように、ノズルボディ10及びニードル弁20を備える。図3は、図1におけるラインA−Aに沿った横断面図である。図2は、図1におけるラインB−Bに沿った横断面図である。図1において、燃料は図面上側(以下、上流側という。)から図面下側(以下、下流側という。)へ供給される。
【0017】
ノズルボディ10は、略円筒状であり、内部にニードル弁20を収納する空間を有する。ニードル弁20は、ノズルボディ10内に収納され、ノズル中心軸Nに沿って往復運動が可能に配置される。
【0018】
ノズルボディ10の外壁面側となる先端部は略円錐状に形成され、ノズルボディ10の内壁面は、燃料の流れの上流側が円筒状とされ、下流側が略円錐状に形成される。内壁面の円錐状部はニードル弁20が着座するシート面11とされている。
【0019】
また、ノズルボディ10のニードル弁20の先端部に対向する部分にはサック室14が形成される。サック室14は、ニードル弁20の先端部において燃料溜まりとなる部分である。サック室14は、例えば、ノズルボディ10の内壁面を半球状に加工して形成された下流側の半球形状部分14aとその上流側に連続して設けられた円筒形状部分14bとを組み合わせた形状を有する。
【0020】
ニードル弁20は、ノズルボディ10の内壁面と対応する円錐形状に形成される。円錐形状部分の表面は、ノズルボディ10のシート面11に着座するシート部21となる。すなわち、ニードル弁20のシート部21がノズルボディ10のシート面11に押しつけられることによって、ノズルボディ10の内壁面とニードル弁20の外周面とによって形成される燃料供給路からの燃料の供給を止めることができる。
【0021】
ニードル弁20の先端部は、ノズル中心軸Nを中心軸とした略円筒形状の流れ制御部22が設けられる。流れ制御部22は、サック室14の上流側に設けられた円筒形状部分14bの内壁と略平行な周壁を有する。また、ニードル弁20の先端部の流れ制御部22のさらに先には先細りの円錐台形状のニードル先端傾斜部23が設けられる。ニードル先端傾斜部23の傾斜角は、シート面11の傾斜角と略等しくすることが好適である。
【0022】
本実施の形態では、シート部21と流れ制御部22とが直線的に交わる交点aを有する。なお、直線的に交わる交点aとせず、燃料のスムーズな流れが形成されるように曲面Rを設ける構成としてもよい。また、流れ制御部22とニードル先端傾斜部23とが直線的に交わる交点bを有する。また、ニードル弁20のシート部21がノズルボディ10のシート面11に着座した状態では、交点bはサック室14内に位置する。
【0023】
また、図2に示すように、ニードル弁20には、流れ制御部22より上流側の空間とサック室14の空間とを連通するバイパス流路24が配置されている。図2は、図1におけるラインB−Bに沿った横断面図を示す。バイパス流路24において、流れ制御部22より上流側に開口する流路面積の総和よりサック室14側に開口する流路面積を小さくすることが好適である。
【0024】
ニードル弁20がシート面11に着座したニードル着座時におけるサック室14の円筒部分14bとニードル弁20の流れ制御部22との間に形成される隙間δの面積Acとニードル弁20の内部に形成されているバイパス流路24のサック室14の側の流路面積Abとの比はAc/Ab≦0.82の条件を満たすことが好適である。
【0025】
なお、面積Ac,Abは、それぞれ数式1及び数式2で表される。ここで、Ds:サック室14の円筒部分の直径、δ:サック室14と流れ制御部3間のクリアランス、Db:バイパス流路24のサック室側の直径である。
[数1]
Ac=π/4×{Ds−(Ds−2×δ)}・・・(1)
[数2]
Ab=π/4×Db・・・(2)
【0026】
ノズルボディ10のサック室14には、噴孔12が形成される。本実施の形態では、サック室14の下流側の半球形状部分14aに噴孔12が設けられる。噴孔12は、ノズルボディ10の内壁面とニードル弁20の外壁面との間隙を通って供給される燃料を噴霧するための孔である。
【0027】
噴孔12は、図3の横断面図に示すように、ノズルボディ10の周方向に沿ってノズル中心軸Nから放射状に複数(例えば6〜12個)設けることが好適である。図3では、60°毎に合計6つの噴孔12を設けた例を示している。噴孔12は、サック室14の内壁面に入口が位置し、ノズルボディ10の外周面に出口が位置するように形成される。
【0028】
噴孔12は、その入口側から出口側に向かって噴孔中心軸Xに対して垂直面内の横断面積が小さくなる先細り形状とする。なお、流量係数を大きくするために噴孔12の入口部(サック室14と噴孔12との接続部)を曲面加工してもよい。
【0029】
燃料噴射装置100は、ニードル弁20をノズル中心軸Nに沿って移動させるためのニードル移動機構(図示しない)を備える。ノズルボディ10内を下流方向にニードル弁20を移動させるとシート部21がシート面11に接触する。これによって、燃料噴射装置100は閉弁状態となる。閉弁状態からニードル弁20を上流方向に移動させると、シート部21とシート面11とが離間され、シート部21とシート面11との間隙を通じて燃料がサック室14に供給される。これによって、燃料噴射装置100は開弁状態となる。
【0030】
以下、ニードル移動機構によって、シート部21がシート面11から十分に離れた状態までニードル弁20が移動(リフト)され、流れ制御部22の一部がサック室14内に位置していない状態を高リフト状態と称し、シート部21とシート面11とが近く、流れ制御部22の一部がサック室14内に位置している状態を低リフト状態と称する。
【0031】
以下、図4図7を参照して、パイロット噴射時及びメイン噴射時における燃料噴射装置100の作用を説明する。
【0032】
図4は、隙間δの面積Acがバイパス流路24のサック室14の側の流路面積Abより十分に小さく(Ac<<Ab)、ニードル弁20が低リフト状態であるときの燃料の噴射状態を示す。なお、図4において、燃料の流れは太矢印で示している。このとき、燃料噴射装置100はパイロット噴射状態となる。パイロット噴射時の燃料の噴射量は通常1〜2mmと微量である。通常、ニードル弁20が数十μmだけリフトして開弁した状態においてパイロット噴射が行われる。
【0033】
パイロット噴射の期間中は、図4に示すように、ノズルボディ10のシート面11とニードル弁20のシート部21との間に形成される流路面積がすべての噴孔12の最小流路面積の総和よりも小さい状態、すなわち「シートチョーク状態」で燃料が噴射される。
【0034】
図4に示すように、パイロット噴射時には流れ制御部22とニードル先端傾斜部23との交点bがサック室14内に位置する。隙間δの面積Acがバイパス流路24のサック室14の側の流路面積Abより十分に小さい場合、燃料の大部分はバイパス流路24を経由してサック室14に流入する。バイパス流路24からサック室14に流入した燃料は、サック室14の円筒形状部分14bの内壁面から噴孔12の上面壁に沿う流れとなって噴孔12の出口から噴射される。
【0035】
ところで、バイパス流路24の直径Dbに比してサック室14の円筒部分の直径Dsが大きいために、隙間δの面積Acがバイパス流路24のサック室14の側の流路面積Abより十分に小さい(Ac<<Ab)という条件を満たすにはサック室14と流れ制御部22の間の隙間δを数μm以下に設定する必要がある。このような隙間δを実現するためには高い加工精度が要求されて加工コストが増大したり、構造的な干渉が生じたりするおそれがある。そこで、サック室14と流れ制御部22の間の隙間δは極力大きくすることが望まれる。
【0036】
噴孔12の上面壁に沿う燃料の流れが形成される面積Acと面積Abの比を検討した結果、Ac/Ab≦0.82の範囲において噴孔12の上面壁に沿う燃料の流れが形成されることが分かった。
【0037】
図5は、隙間δの面積Acとバイパス流路24のサック室14の側の流路面積Abとの比Ac/Abが0.82以下であると共に、ニードル弁20が低リフト状態であるときの代表的な燃料の噴射状態を示す。なお、図5において、燃料の流れは太矢印で示している。燃料はバイパス流路24を経由してサック室14の内壁面から噴孔12の上面壁に向かって流入する流れと、サック室14と流れ制御部22の間の隙間δを通過して噴孔12の下壁側に向かって流入する流れに分岐する。このとき、サック室14と流れ制御部22の間の隙間δを通過した燃料は噴孔12の上壁側の入口部で壁面から剥離し、バイパス流路24からサック室14に流入してきた燃料と噴孔12内にて合流する。Ac/Ab≦0.82の条件が成り立つ場合、バイパス流路24からサック室14に流入してきた燃料の流れが優勢となり、噴孔12内で合流した燃料は噴孔12の上面壁に沿うように流れる。Ac/Abの値が小さいほど、隙間δを通ってサック室14に流入してきた燃料の噴孔12の入口部での剥離領域は小さくなり、噴孔12の入口部付近から噴孔12の上面壁に沿う流れになる。したがって、噴孔12の上面壁に沿う方向に向けて噴孔12の出口から燃料が噴射される。
【0038】
ここで、すべての噴孔12の最小流路面積の総和Aeに対して、Ac≦0.82Ab<Aeを満たす関係にすることがより好適である。このような条件を満たす構成とすることにより、噴孔12の上面壁に沿う燃料の流れを確実に実現することができる。一方、Ac/Ab≦0.82の条件から外れると、噴孔12の上面壁に沿う燃料の流れが形成されず、噴射方向がより上向きになる。
【0039】
なお、図6に示すように、バイパス流路24の入口から燃料を円滑に流入させるために、バイパス流路24の入口を含む領域に全周溝25を設けてもよい。
【0040】
図7は、ニードル弁20が高リフト状態である状態を示す。高リフト状態では、流れ制御部22がサック室14より上流側に位置し、シート面11とニードル弁20の間に形成される流路面積がバイパス流路24の流路面積Abに比してかなり大きくなる。このとき、大部分の燃料はシート面11に沿ってサック室14に流入する。ニードル先端傾斜部23の傾斜角はシート面11の傾斜角にほぼ等しいため、シート面11に沿ってサック室14内に流入した燃料は慣性によってノズル中心軸Nの付近まで流入した後に噴孔12に流入する。一方、バイパス流路24からサック室14内に流入した燃料も噴孔12に流入する。その結果、噴孔12の略全域を燃料が流れ、噴孔12の出口における速度ベクトルの平均はほぼ噴孔12の噴孔中心軸Xに沿う方向になる。特に、燃料の流路において噴孔12が最小の流路面積部分になる場合にはサック室14が圧力溜りとして作用し、燃料は噴孔12の噴孔中心軸Xの方向に噴出される。
【0041】
以上のように、ニードル弁20のリフト量が所定値より小さいときには噴孔12の噴孔中心軸Xより下向きに燃料が噴射され、リフト量が所定値より大きくなるとそれより上向き(噴孔中心軸Xにより近い方向)に燃料が噴射される。このように、燃料の噴射圧力とは独立にニードル弁20のリフト量に応じて燃料の噴射方向を制御することが可能になる。
【0042】
また、燃料噴射装置100の噴孔12は先細り形状であるため、従来技術のように噴孔の出口部が拡大する形状に比べて噴孔12の内部にデポジットが付着し難く、長期間にわたって燃料の噴射方向を安定化させることができる。
【0043】
また、早期に噴射されるパイロット噴射を下向きに噴射することにより燃料をピストンのキャビティ内に留めることができるため、燃料がシリンダ壁面に付着することによるオイル希釈や未燃HCの排出を抑制できる。
【0044】
また、簡単な構造であるため、高い加工精度を必要とすることなく、加工時間や製造コストを低減することができる。
【0045】
図8に示すように、パイロット噴射では燃料の噴射が数mm程度の比較的に少量であるのでニードル弁20のリフト量が小さく、燃料噴射装置100は上記の低リフト状態となる。したがって、燃料は噴孔12の上面壁に沿う流れとなって噴孔12の出口から噴孔中心軸Xより下向きに噴射される。一方、メイン噴射では噴射期間が長く、ニードル弁20のリフト量が大きくなるため、噴射初期には低リフト状態となり、その後は高リフト状態へと移行する。したがって、燃料は噴孔12の上面壁に沿って噴孔12の出口から下向きに噴射される状態から、噴孔12の噴孔中心軸Xの方向に噴出される状態となる。さらに低リフト状態へ戻ると、再度噴孔中心軸Xより下向きに噴射される状態となる。
【0046】
このように噴射方向が変化することにより、噴霧の高分散化が促進されて高噴霧濃度領域が減少する。これにより、スモークの低減に寄与することが期待される。なお、メイン噴射は上死点(TDC)近傍で燃料の噴射が行われるため、ピストンがノズル近傍にあること、雰囲気圧力が高いために噴霧の貫徹力が抑制されることにより、燃料のシリンダ壁への付着によるオイル希釈や未燃HCの排出は抑制される。
【0047】
また、PCCI燃焼時のように、予混合化を促進するために早期噴射燃料量の増加が要求される場合には、図9に示すように、低リフト状態における効果を得るために複数回のパイロット噴射(マルチパイロット噴射)を行うことが好適である。
【0048】
図10は、従来の燃料噴射装置を用いて測定したPCCI燃焼時における噴射方向と未燃HCとの関係を示す。ここでは代表的な噴射時期として、−40°ATDCでの結果を示す。偏向角α=0°は一般的な拡散燃焼に適した噴射方向を表す。偏向角αの増加に伴って未燃HCの排出量が減少する傾向を示し、偏向角αを5°以上とすることで未燃HCの排出を抑制することができ、さらに偏向角αを10°以上とすることでより未燃HCの排出を抑制することができる。すなわち、燃料噴射装置100において、ニードル弁20が低リフト状態にあるときに一般的な拡散燃焼に適した噴射方向(すなわち、噴孔中心軸X方向)に対して偏向角αが5°以上、より好ましくは10°以上となるように燃料を下向きに噴射させることで未燃HCの排出を抑制することができる。偏向角αを5°以上にするには、噴孔12の半頂角を5°以上(円錐角θを10°以上)、偏向角αを10°以上にするには噴孔12の半頂角を10°以上(円錐角θを20°以上)にすればよい。
【0049】
このように、本実施の形態の燃料噴射装置100によれば、早期パイロット噴射時やPCCI燃焼時に燃料の噴霧を噴孔中心軸Xより下向きに噴射することができ、これにより燃料をピストンのキャビティ内に留め、燃料のシリンダ壁面への付着を抑制し、オイル希釈や未燃HCの排出を抑制することができる。
【0050】
[変形例]
図11は、噴孔12の断面形状の変形例を示す。図12は、図11の縦断面拡大図に示すA−Aラインに沿った噴孔12の横断面図を示す。
【0051】
本変形例において、噴孔12は、出口部におけるノズル中心軸Nの方向に沿った高さHが周方向に沿った幅Tより大きい扁平形状を有する。すなわち、噴孔12は、高さHの方向において縦断面が入口側から出口側に向かって円錐角θで縮小(先細り)する形状を有する。なお、図12に示すように、周方向に沿った幅Tは一定としている。ここで、噴孔12の出口における高さHは幅T以上とすることが好適である。
【0052】
本変形例のおいても、ノズル中心軸Nに沿った方向における噴孔12の偏向角αを5°以上とすることが好適であり、10°以上とすることがより好適である。偏向角αを5°以上にするには、噴孔12の半頂角を5°以上(円錐角θを10°以上)、偏向角αを10°以上にするには噴孔12の半頂角を10°以上(円錐角θを20°以上)にすればよい。
【0053】
本変形例における燃料噴射装置102においても上記実施の形態における燃料噴射装置100と同様の効果を得ることができる。さらに、サック室14側の入口部において隣り合う噴孔12の間の距離をより大きく確保できるため、燃料噴射装置100に比べて機械的な強度を高めることができる。
【0054】
なお、燃料噴射装置102ではスリット状の噴孔12の幅Tを一定としたが、入口側から出口側に向かって幅Tを先細りにしてもよい。このとき、噴孔12の入口部において、噴孔12の高さHを幅Tより大きくすることが好適である。また、噴孔12の高さHの方向をノズル中心軸Nと平行としたが、斜めに傾けても同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0055】
10 ノズルボディ、11 シート面、12 噴孔、14 サック室、14a 半球形状部分、14b 円筒形状部分、20 ニードル弁、21 シート部、22 流れ制御部、23 ニードル先端傾斜部、23 先端傾斜部、24 バイパス流路、25 全周溝、100 燃料噴射装置、102 燃料噴射装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12