【課題】複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池を構成するに当たり、異常時における電池セル間の熱の伝播を抑制しつつ、通常使用時における電池セルを効果的に冷却することのできる、組電池用熱伝達抑制シートを提供する。
【解決手段】複数の電池セルが熱伝達抑制シート(10)を介して配置され、該複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池に用いられる熱伝達抑制シート(10)であって、無機粒子及び/または無機繊維を含有する熱伝達抑制層(20)を有するとともに、熱伝達抑制層(20)は、該熱伝達抑制層(20)における面内方向の端面(26、28)まで連通する溝部(22)を有しており、溝部(22)の表面が凹凸形状(24)を有することを特徴とする組電池用熱伝達抑制シート(10)。
前記加熱により水分を放出する材料は、熱分解開始温度が200℃以上の無機水和物、及び/または、150℃以下の温度で脱水可能な脱水剤である、請求項4に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
前記熱伝達抑制層は、前記無機粒子及び/または前記無機繊維を含有する断熱層と、該断熱層の両面に形成され、前記加熱により水分を放出する材料を含有する吸熱層を有する、請求項4〜7のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、高温の熱が発生する異常時における電池セル間の熱の伝播を抑制しつつ、比較的低温の熱が発生する通常使用時における電池セルを冷却することのできる、組電池用熱伝達抑制シートを提供するため、鋭意検討を行ってきた。
【0019】
その結果、無機粒子及び/または無機繊維を含有する熱伝達抑制層を有するとともに、熱伝達抑制層は、熱伝達抑制層における面内方向の端面まで連通する溝部を有しており、かつ、溝部の表面が凹凸形状を有する熱伝達抑制シートを、電池セル間に介在させることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0020】
すなわち、無機粒子及び/または無機繊維を含有する熱伝達抑制層を有することにより、ある電池セルに熱暴走が生じた場合、隣接する他の電池セルへの熱の伝播を効果的に抑制することができる。
【0021】
その一方で、熱伝達抑制層は、熱伝達抑制層における面内方向の端面まで連通する溝部を有しており、上記溝部と隣接する電池セルの間に形成される空間によって、積層された電池セル間に滞留する熱(すなわち、熱伝達抑制層内に滞留する熱)が外へ逃げやすくなるため、通常使用時における電池セルを冷却することができる。
【0022】
更に、本発明においては、溝部の表面が凹凸形状を有することにより、溝部の表面が凹凸形状を有しない場合に比べて溝部の表面積が増大するため、熱伝達抑制層内に滞留する熱が更に外へ逃げやすくなる。その結果、特許文献2に示すような、表面に凹凸形状を有しない溝部が形成された断熱シートに比べ、通常使用時における電池セルをより効果的に冷却することができる。
【0023】
なお、通常使用時における電池セルの冷却を行うために、発生した熱を外部に逃がすための空間を電池セル間に設けたり、また、異常時における電池セル間の熱の伝播を抑制するための空間を電池セル間に設けたりするものではないため、電池セル間の距離を極端に大きく取る必要がない。このため、熱伝達抑制シート全体の厚さを薄くすること(例えば、5mm以下)も可能となり、結果として、組電池の安全性や電池セルの十分な充放電性能を確保しつつ、組電池の体積エネルギー密度の向上を図ることも可能となる。
【0024】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下において「〜」とは、その下限の値以上、その上限の値以下であることを意味する。
【0025】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートについて説明する。第1の実施形態は、熱伝達抑制シートが単層の場合である。
【0026】
<熱伝達抑制シートの基本構成>
図1は、第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート10の構成例を模式的に示す断面図である。
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、無機粒子及び/または無機繊維を含有する熱伝達抑制層20を有している。また、熱伝達抑制層20は、熱伝達抑制層20の面内方向の端面26、28まで連通する溝部22を有している。なお、本実施形態においては、溝部22は、
図1に示すように、格子状に形成された複数の溝を有する。
更に、
図1における溝部22の拡大図に示すように、溝部22の表面は、微細な凹凸形状24を有している。
【0027】
熱伝達抑制シート10を構成する熱伝達抑制層20は、無機粒子および無機繊維のうち少なくとも一方を含有するため、後述するように、吸熱層または断熱層の役割を担う。そして、複数の電池セル50が積層されて構成される組電池100において、熱伝達抑制シート10が電池セル50間に配置されることで、ある電池セル50に熱暴走が生じた場合、隣接する他の電池セル50への熱の伝播を効果的に抑制することができる。
【0028】
また、熱伝達抑制層20は、熱伝達抑制層20の面内方向の端面26、28まで連通する溝部22を有するため、溝部22と隣接する電池セル50の間に形成される空間によって、積層された電池セル50間に滞留する熱(すなわち、熱伝達抑制層内に滞留する熱)が外へ逃げやすくなるため、通常使用時における電池セル50を冷却することができる。
【0029】
なお、溝部22は、一の端面26と他の端面28を連通することが好ましい。溝部22が、少なくとも2つの端面26、28と連通することで、溝部22の一端と他端の両方が端面26、28に面することとなるため、熱伝達抑制層20に滞留する熱が外へ逃げやすくなる。ただし、溝部22の少なくとも一端が端面26、28に面していれば、熱を外へ逃がすことは可能なため、溝部22の少なくとも一端が端面26、28まで連通していれば良い。
【0030】
また、
図1に示すように、熱伝達抑制層20は、平面視における外形形状が四角形であり、かつ、溝部22は、4つの端面のうち、隣接する2つの端面26、28を連通することが好ましい。上記構成を有することにより、熱伝達抑制層20に滞留する熱は、端面26に垂直な方向と、端面28に垂直な方向へ逃げることができるため、一方向のみに熱を逃がす場合と比べて、より効果的に熱を外へ逃がすことができる。
なお、外形形状である四角形は、正方形、長方形、台形などの種々の四角形を含めることができる。また、四角形の角部はR形状を有するものであっても良い。
【0031】
更に、本実施形態においては、溝部22の表面が凹凸形状24を有することにより、溝部22の表面が凹凸形状24を有しない場合に比べて溝部22の表面積が増大するため、熱伝達抑制層20内に滞留する熱が更に外へ逃げやすくなる。このため、表面に凹凸形状24を有しない溝部22が形成された断熱シートに比べ、通常使用時における電池セル50をより効果的に冷却することができる。
【0032】
続いて、溝部22の表面に有する凹凸形状24について詳細に説明する。
図2は、
図1における溝部22の凹凸形状24を拡大した図である。
図2に示すように、溝部22の表面が凹凸形状24を有することは、熱伝達抑制層20が多数の無機粒子(あるいは無機繊維)30から構成され、熱伝達抑制層20の表面が凹凸形状24を形成することに起因する。
【0033】
後述するように、数μmレベルの多数の無機粒子30から形成される熱伝達抑制層20は、ポリカーボネートやポリプロピレンなどの樹脂からなる断熱シートに比べると、その表面は、数μmサイズのピッチ及び深さを有する多数の凹凸形状24を有している。このため、熱伝達抑制層20に、後述する所定の溝形成手段により溝部22を形成した場合、溝部22の表面においても多数の無機粒子30が露出することとなる。その結果、溝部22の表面は、無機粒子30から構成される微細な凹凸形状24を有することとなる。
【0034】
ここで、凹凸のピッチ及び深さの下限はそれぞれ0.5μmであり、好ましくは1.0μm以上である。また、凹凸のピッチ及び深さの上限はそれぞれ100μmであり、好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下、更に好ましくは40μm以下である。
凹凸のピッチ又は深さが0.5μm未満であると、熱伝達抑制層20中に生じる空隙が小さくなり過ぎて、対流が起きにくくなることで、熱と接触しづらくなるため、熱伝達抑制層20内に滞留する熱を効果的に外へ逃がすことができないおそれがある。一方、凹凸のピッチ又は深さが100μmを超えると、無機粒子30の平均粒径が大きすぎて、無機粒子30の比表面積が低下するため、熱伝達抑制層20内に滞留する熱を効果的に外へ逃がすことができないおそれがある。
なお、凹凸のピッチとは、隣接する凹部同士または凸部同士の中心間距離をいい、凹凸の深さとは、凹部の底部と凸部の頂部との間の距離をいう。
【0035】
ところで、
図1においては、熱伝達抑制層20を平面視した場合の溝部22の形状として、格子状のものを示しているが、溝部22の形状はこれに限定されない。例えば、
図3Aに示すような角部がR加工された格子状の溝部22や、
図3Bに示すようなラビリンス構造の溝部22や、
図3Cに示すような平面円形状のエンボス構造の溝部22や、
図3Dに示すようなハニカム構造の溝部22や、
図3Eに示すような四角すい凸形状の溝部22や、
図3Fに示すような四角すい凹形状の溝部22や、
図3Gに示すような波形形状の溝部22など、さまざまな形状の溝部22を採用することができる。
【0036】
また、溝部22の数については特に制限されないが、溝部22の数が多くなるにつれ、通常使用時における電池セル50からの熱の放出効果が高まる一方で、熱伝達抑制層20における溝部22以外の部分の割合が減り、電池セル50間の熱伝達を抑制する機能が低下するおそれがある。よって、通常使用時の冷却と、異常時の熱伝達抑制とのバランスを鑑みて、溝部22の数を決定することが好ましい。
【0037】
なお、この熱伝達抑制シート10の具体的な使用形態としては、
図4に示すように、複数の電池セル50が、熱伝達抑制シート10を介して配置され、複数の電池セル50同士が直列または並列に接続された状態(接続された状態は図示を省略)で、電池ケース60に格納されて組電池100が構成される。なお、電池セル50は、例えば、リチウムイオン二次電池が好適に用いられるが、特にこれに限定されず、その他の二次電池にも適用され得る。
【0038】
<熱伝達抑制シートの詳細>
次に、組電池用熱伝達抑制シート10における各構成要素につき詳細に説明する。
組電池用熱伝達抑制シート10を構成する熱伝達抑制層20は、無機粒子及び/又は無機繊維を含有する。無機粒子および無機繊維は、いずれか一方のみを含有するものであっても良く、両方を含有するものであっても良い。
【0039】
[熱伝達抑制層が吸熱層の役割を果たす場合]
無機粒子30は、加熱により水分を放出する材料から構成されることが好ましい。熱伝達抑制層20が、加熱により水分を放出する材料を含有することで、吸熱層としての役割を担うことができる。熱伝達抑制層20が吸熱層の役割を果たす場合、電池セル50の異常時において、ある電池セル50で発生した熱により熱伝達抑制層20が加熱されると、熱伝達抑制層20はその熱を吸収しつつ、水分を放出する。この吸熱作用により、電池セル50の発熱量を低減することができる。よって、ある電池セル50に熱暴走が生じた場合、隣接する他の電池セル50への熱の伝播を効果的に抑制することができる。
【0040】
なお、熱伝達抑制層20が吸熱層としての役割を果たす場合には、熱伝達抑制層20が溝部22を有しており、かつ、溝部22の表面が凹凸形状24を有することにより、熱の吸熱時において吸熱層44から水分を放出できる面積を多く確保することができるため、吸熱層44としての機能をより一層発揮すること、すなわち、吸熱反応の反応速度を向上させることができる。
すなわち、上述したような通常使用時における電池セル50の冷却効果の向上に加え、異常時における電池セル50間の熱伝達抑制の効果も向上させることができる。
【0041】
ここで、凹凸のピッチ又は深さが0.5μm未満であると、熱伝達抑制層20中に生じる空隙が小さくなり過ぎて、対流が起きにくくなることで、熱と接触しづらくなるため、吸熱反応の反応速度が低下するおそれがある。一方、凹凸のピッチ又は深さが100μmを超えると、無機粒子30の平均粒径が大きすぎて、無機粒子30の比表面積が低下するため、吸熱反応の反応速度が低下するおそれがある。
【0042】
上記効果を得るための具体的な材料としては、比較的高温で水分を放出することのできる無機水和物であることが好ましく、より具体的には、熱分解開始温度が200℃以上の無機水和物であることが好ましい。異常時における電池セルの温度範囲は、一般的に200℃以上であるため、熱分解開始温度が200℃以上の無機水和物を用いることで、異常時に効果的に水分を放出し、熱を吸収することができる。
【0043】
上記無機水和物として、例えば、水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)、水酸化亜鉛(Zn(OH)
2)、水酸化鉄(Fe(OH)
2)、水酸化マンガン(Mn(OH)
2)、水酸化ジルコニウム(Zr(OH)
2)、水酸化ガリウム(Ga(OH)
3)などが挙げられる。
これらの無機水和物は、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0044】
なお、水酸化アルミニウムの熱分解開始温度は約200℃であり、水酸化マグネシウムの熱分解開始温度は約330℃であり、水酸化カルシウムの熱分解開始温度は約580℃であり、水酸化亜鉛の熱分解開始温度は約200℃であり、水酸化鉄の熱分解開始温度は約350℃であり、水酸化マンガンの熱分解開始温度は約300℃であり、水酸化ジルコニウムの熱分解開始温度は約300℃であり、水酸化ガリウムの熱分解開始温度は約300℃である。
このような熱分解開始温度が異なる2種以上の無機水和物を併用すれば、温度上昇した電池セル50を広い温度領域で冷却することができ、熱暴走時における電池セル50間の熱の伝播を効果的に抑制することが可能となるため、好ましい。
【0045】
例えば水酸化アルミニウムの場合、水酸化アルミニウム中には約35%の結晶水を有しており、下記式に示すように、熱分解時に結晶水を放出することで、消炎機能(吸熱反応)を発揮することができる。
2Al(OH)
3→Al
2O
3+3H
2O
この機能により、電池セル50で発生した高温の熱を吸収することができ、電池セル50の発熱量を低減することができる。
【0046】
例えば水酸化アルミニウムのような、熱分解温度が200℃以上である無機水和物は、電池セル50の熱暴走が生じた場合の、電池セル50表面の上昇温度と温度範囲が大きく重複している。このため、異常時における電池セル50の温度上昇に伴い、熱分解により脱水反応(吸熱反応)を生ずることで、効果的に電池セル50間の熱の伝播を抑制することができる。
【0047】
特に、水酸化アルミニウムの場合には、上記無機水和物の中で熱分解開始温度が低め(熱分解開始温度:約200℃)であるため、異常時の初期段階(比較的低めの温度)から、電池セル50の冷却を行うことができるため、好ましい。
【0048】
無機水和物の配合量としては、熱伝達抑制層20を構成する材料の合計質量に対して、好ましい上限が90質量%であり、より好ましい上限は65質量%である。この配合量が90質量%を超えると、熱伝達抑制シート10としての十分な強度を保つことができないおそれがある。
【0049】
また、加熱により水分を放出する材料として、150℃以下の温度で脱水可能な脱水剤を用いることも好ましい。
通常使用時における電池セル50の温度範囲である、常温(20℃程度)から最大150℃程度までの温度範囲内で脱水可能な脱水剤を有することで、通常使用時に電池セル50の温度が比較的低温で上昇した場合に、脱水剤が水分を放出するため、通常使用時における電池セル50を効果的に冷却することができる。
【0050】
上記効果を得るための具体的な材料としては、例えば、シリカゲル、活性アルミナ、活性炭、ゼオライト、イオン交換樹脂などのような水分吸着剤、あるいは、硫酸塩水和物、亜硫酸塩水和物、リン酸塩水和物、硝酸塩水和物、酢酸塩水和物、金属水和塩などが挙げられる。これらの脱水剤は、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0051】
ここで、硫酸塩水和物としては、例えば、硫酸アンモニウムアルミニウム12水和物、硫酸ナトリウムアルミニウム12水和物、硫酸アルミニウム27水和物、硫酸アルミニウム18水和物、硫酸アルミニウム16水和物、硫酸アルミニウム10水和物、硫酸アルミニウム6水和物、硫酸カリウムアルミニウム12水和物、硫酸鉄7水和物、硫酸鉄9水和物、硫酸カリウム鉄12水和物、硫酸マグネシウム7水和物、硫酸ナトリウム10水和物、硫酸ニッケル6水和物、硫酸亜鉛7水和物、硫酸ベリリウム4水和物、硫酸ジルコニウム4水和物等が挙げられる。
亜硫酸塩水和物としては、例えば、亜硫酸亜鉛2水和物、亜硫酸ナトリウム7水和物等が挙げられる。
リン酸塩水和物としては、例えば、リン酸アルミニウム2水和物、リン酸コバルト8水和物、リン酸マグネシウム8水和物、リン酸マグネシウムアンモニウム6水和物、リン酸水素マグネシウム3水和物、リン酸水素マグネシウム7水和物、リン酸亜鉛4水和物、リン酸二水素亜鉛2水和物等が挙げられる。
【0052】
硝酸塩水和物としては、例えば、硝酸アルミニウム9水和物、硝酸亜鉛6水和物、硝酸カルシウム4水和物、硝酸コバルト6水和物、硝酸ビスマス5水和物、硝酸ジルコニウム5水和物、硝酸セリウム6水和物、硝酸鉄6水和物、硝酸鉄9水和物、硝酸ニッケル6水和物、硝酸マグネシウム6水和物等が挙げられる。
酢酸塩水和物としては、例えば、酢酸亜鉛2水和物、酢酸コバルト4水和物等が挙げられる。
金属水和塩としては、例えば、塩化コバルト6水和物、塩化鉄4水和物等の塩化物塩、ホウ砂(四ホウ酸ナトリウム5水和物、四ホウ酸ナトリウム10水和物)、八ホウ酸二ナトリウム四水物、ホウ酸亜鉛3.5水和物等のホウ酸塩等が挙げられる。
【0053】
なお、例えば、150℃以下の温度範囲内における高温側(75℃〜150℃)での水分吸着量が大きいゼオライトと、上記高温側での水分吸着量が小さいシリカゲルを併用すれば、温度上昇した電池セル50を広い温度領域で冷却することが可能となるため、好ましい。
【0054】
脱水剤のうち、より多くの水分を放出することができ、かつ、脱水温度範囲が広いという特性を有する観点から、特にゼオライトを用いることが好ましい。ゼオライトとしては、特に種類に限定されるものではなく、例えば、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、フェリエライト、ZSM−5型ゼオライト、モルデナイト、フォージサイト、ゼオライトAおよびゼオライトL等が挙げられる。
【0055】
ゼオライトは、3次元網目構造を有するアルミノケイ酸塩である。水分を吸着するゼオライトは安定的に存在するため、通常、常温条件下で3次元網目構造の隙間に水分などを吸着している。しかし、ある温度以上の熱が与えられることにより、ゼオライトに吸着されていた水分がゼオライトから脱着する。
しかし、水分を吸着していないゼオライトは不安定であるため、脱水したゼオライトは高い吸着作用を有するため、温度が低下した後は再び水分を吸着する。
【0056】
例えばゼオライトのように、150℃以下の温度で脱水可能な脱水剤は、充放電サイクルを行う場合の電池セル50表面の上昇温度と温度範囲が大きく重複しているため、通常使用時における電池セル50の温度上昇に伴い、水分を放出することで効果的に電池セル50を冷却することができる。
【0057】
また、特にゼオライトの場合には、電池セル50が冷却され、熱伝達抑制層20内の脱水剤の温度が低下した後は、熱伝達抑制層20周囲の水分を再び吸着することとなるため、繰り返し行われる充放電サイクルに対して何度でも再利用することができる。
【0058】
脱水剤の配合量としては、熱伝達抑制層20を構成する材料の合計質量に対して、好ましい上限が90質量%であり、より好ましい上限は65質量%である。
これに対し、脱水剤の配合量の好ましい下限は10質量%であり、より好ましい下限は35質量%である。この配合量が10質量%未満では、十分な脱水効果が得られないおそれがある。また、この配合量が90質量%を超えると、熱伝達抑制シート10としての十分な強度を保つことができないおそれがある。
【0059】
なお、上記で説明した、熱分解開始温度が200℃以上の無機水和物と、150℃以下の温度で脱水可能な脱水剤は、それぞれ単独で用いても良いが、これらを併用することが好ましい。これらを併用することにより、熱伝達抑制層20に凹凸形状24を表面に有する溝部22を形成して、異常時の熱伝達抑制と、通常使用時の冷却を両立する効果をより一層発揮することができる。すなわち、溝部22を有する熱伝達抑制層20における構造面からの上記課題の両立に加え、異常時と通常使用時にそれぞれ吸熱作用を発揮する材料を併用することによる、材料面からの上記課題の両立も図ることが可能となる。
【0060】
なお、熱伝達抑制層20は、成形時の強度向上を目的として、無機繊維やパルプ繊維を含んでいてもよい。
【0061】
無機繊維としては、例えば、シリカ−アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維、ジルコニア繊維およびチタン酸カリウムウィスカ繊維などが挙げられる。これらの無機繊維は、耐熱性、強度、入手容易性などの点で好ましい。無機繊維は、単独で使用してもよいし2種以上組み合わせて使用してもよい。無機繊維のうち、取り扱い性の観点から、特にシリカ−アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維が好ましい。
【0062】
無機繊維の断面形状は、特に限定されず、円形断面、扁平断面、中空断面、多角断面、芯鞘断面などが挙げられる。中でも、中空断面、扁平断面または多角断面を有する異形断面繊維は、断熱性が若干向上されるため好適に使用することができる。
【0063】
無機繊維の平均繊維長の好ましい下限は0.1mmであり、より好ましい下限は0.5mmである。一方、無機繊維の平均繊維長の好ましい上限は50mmであり、より好ましい上限は10mmである。無機繊維の平均繊維長が0.1mm未満であると、無機繊維同士の絡み合いが生じにくく、得られる熱伝達抑制シート10の機械的強度が低下するおそれがある。一方、50mmを超えると、補強効果は得られるものの無機繊維同士が緊密に絡み合うことができなったり、単一の無機繊維だけで丸まったりし、それにより連続した空隙が生じやすくなるので断熱性の低下を招くおそれがある。
【0064】
無機繊維の平均繊維径の好ましい下限は1μmであり、より好ましい下限は2μmであり、更に好ましい下限は3μmである。一方、無機繊維の平均繊維径の好ましい上限は10μmであり、より好ましい上限は7μmである。無機繊維の平均繊維径が1μm未満であると、無機繊維自体の機械的強度が低下するおそれがある。また、人体の健康に対する影響の観点より、無機繊維の平均繊維径が3μm以上であるが好ましい。一方、無機繊維の平均繊維径が10μmより大きいと、無機繊維を媒体とする固体伝熱が増加して断熱性の低下を招くおそれがあり、また、熱伝達抑制シート10の成形性が悪化するおそれがある。
【0065】
この無機繊維やパルプ繊維は、熱伝達抑制層20を構成する材料の合計重量に対して、10〜70質量%の範囲で必要に応じて使用することができる。
【0066】
熱伝達抑制層20を構成する材料として、有機バインダーを必要に応じて使用してもよい。有機バインダーは、成形時の強度向上を目的とする上で有用であり、例えば高分子凝集剤やアクリルエマルジョンなどを好適に使用することができる。
有機バインダーの配合量としては、熱伝達抑制層20を構成する材料の合計重量に対して0.5〜5.0質量%の範囲で必要に応じて使用することができる。
【0067】
熱伝達抑制シート10の厚さとしては特に限定されないが、0.05〜5mmの範囲にあることが好ましい。熱伝達抑制シート10の厚さが0.05mm未満であると、充分な機械的強度を熱伝達抑制シート10に付与することができない。一方、熱伝達抑制シート10の厚さが5mmを超えると、熱伝達抑制シート10の成形自体が困難となるおそれがある。
【0068】
なお、熱伝達抑制層20に用いられる脱水剤と無機水和物の具体的な組み合わせとしては、上記脱水剤の中で比較的高温(100℃〜150℃程度)においても水分吸着量が高めのゼオライトと、上記無機水和物の中で熱分解開始温度が低めの水酸化アルミニウム(熱分解開始温度:約200℃)の組み合わせが好ましい。
これは、通常使用時の温度範囲と、異常時の温度範囲との境界温度域(150℃〜200℃程度)においても、有効に電池セル50の冷却を行うことができるため、好ましい。
【0069】
[熱伝達抑制層が断熱層の役割を果たす場合]
熱伝達抑制層20が断熱層としての役割を果たす場合には、熱伝達抑制層20は、無機粒子および無機繊維のうち少なくともいずれか一方を含むものであれば良く、これらのうちいずれか一方を含むことで断熱材としての効果を発揮させることができる。ただし、無機粒子および無機繊維の両方を含むことにより、無機繊維が絡み合って生じた構造中の連続した空隙を無機粒子が分断することができるため、熱伝達抑制層20における対流伝熱を有効に低減することが可能となり、断熱効果をより効果的に発揮することができる。
【0070】
無機繊維としては、例えば、シリカ−アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維、ジルコニア繊維およびチタン酸カリウムウィスカ繊維などが挙げられる。これらの無機繊維は、耐熱性、強度、入手容易性などの点で好ましい。上記無機繊維は、単独で使用してもよいし2種以上組み合わせて使用してもよい。上記無機繊維のうち、取り扱い性の観点から、特にシリカ−アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維が好ましい。
【0071】
無機繊維の断面形状は、特に限定されず、円形断面、扁平断面、中空断面、多角断面、芯鞘断面などが挙げられる。中でも、中空断面、扁平断面または多角断面を有する異形断面繊維は、断熱性が若干向上されるため好適に使用することができる。
【0072】
無機繊維の平均繊維長の好ましい下限は0.1mmであり、より好ましい下限は0.5mmである。一方、無機繊維の平均繊維長の好ましい上限は50mmであり、より好ましい上限は10mmである。無機繊維の平均繊維長が0.1mm未満であると、無機繊維同士の絡み合いが生じにくく、得られる熱伝達抑制シート10の機械的強度が低下するおそれがある。一方、50mmを超えると、補強効果は得られるものの無機繊維同士が緊密に絡み合うことができなったり、単一の無機繊維だけで丸まったりし、それにより連続した空隙が生じやすくなるので断熱性の低下を招くおそれがある。
【0073】
無機繊維の平均繊維径の好ましい下限は1μmであり、より好ましい下限は2μmであり、更に好ましい下限は3μmである。一方、無機繊維の平均繊維径の好ましい上限は10μmであり、より好ましい上限は7μmである。無機繊維の平均繊維径が1μm未満であると、無機繊維自体の機械的強度が低下するおそれがある。また、人体の健康に対する影響の観点より、無機繊維の平均繊維径が3μm以上であるが好ましい。一方、無機繊維の平均繊維径が10μmより大きいと、無機繊維を媒体とする固体伝熱が増加して断熱性の低下を招くおそれがあり、また、熱伝達抑制シート10の成形性が悪化するおそれがある。
【0074】
続いて、無機粒子としては、例えば、TiO
2粉末、SiO
2粉末、BaTiO
3粉末、PbS粉末、ZrO
2粉末、SiC粉末、NaF粉末およびLiF粉末などが挙げられる。これらの無機粒子は、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0075】
無機粒子を組み合わせて使用する場合、好ましい組み合わせとしては、TiO
2粉末とSiO
2粉末との組み合わせ、TiO
2粉末とBaTiO
3粉末との組み合わせ、SiO
2粉末とBaTiO
3粉末との組み合わせ、または、TiO
2粉末とSiO
2粉末とBaTiO
3粉末との組み合わせが挙げられる。
【0076】
なお、TiO
2粉末は、赤外線に対する屈折率が高く、高温域での断熱性を向上させる効果がある。また、SiO
2粉末は、固体熱伝導率が低く、微小粒子で細かい空隙を作りやすいため、対流が抑制され低温域での断熱性を向上させる効果がある。よって、TiO
2粉末およびSiO
2粉末を併用することにより、低温域から高温域に至る広い温度領域での断熱性が期待できるため、これらの組合せが特に好ましい。
【0077】
熱伝達抑制層20を構成する材料として無機粒子および無機繊維の両方を含む場合、無機繊維の配合量としては、熱伝達抑制層20を構成する材料の合計重量に対して、好ましい上限が50質量%であり、更に好ましい上限は40質量%である。一方、無機繊維の配合量の好ましい下限は5質量%であり、更に好ましい下限は10質量%である。この配合量が5質量%未満では、無機繊維による補強効果が得られず、熱伝達抑制層20の取り扱い性、機械的強度が低下するおそれがあり、また、良好な成形性が得られないおそれがある。一方、この配合量が50質量%を超えると、熱伝達抑制層20を構成する無機繊維が絡み合った構造において連続した空隙が多く存在することになり、対流伝熱、分子伝熱、輻射伝熱が増大するため、断熱特性が低下するおそれがある。
【0078】
熱伝達抑制層20を構成する材料として無機粒子および無機繊維の両方を含む場合、無機粒子の配合量としては、熱伝達抑制層20を構成する材料の合計重量に対して、好ましい上限が95質量%であり、更に好ましい上限は90質量%である。これに対し、無機粒子の配合量の好ましい下限は50質量%であり、更に好ましい下限は60質量%である。無機粒子の配合量が上記範囲にあると、無機繊維による補強効果を維持しつつ、無機繊維の交絡構造中の連続した空隙を分断することによる、対流伝熱の低減効果を得ることができる。
【0079】
無機粒子の平均粒径の好ましい下限は0.5μmであり、より好ましい下限は1μmである。一方、上記無機粒子の平均粒径の好ましい上限は20μmであり、より好ましい上限は10μmである。上記無機粒子の平均粒径が0.5μm未満では熱伝達抑制層20の製造が困難になるばかりでなく、輻射熱の散乱が不十分になり、熱伝達抑制層20の熱伝導率が上昇(すなわち、断熱性が低下)してしまうおそれがある。一方、無機粒子の平均粒径が20μmを超えると、熱伝達抑制層20中に生じる空隙が極めて大きくなってしまうため、対流伝熱および分子伝熱が増大し、この場合も熱伝導率が上昇してしまう。
【0080】
なお、無機粒子の形状としては、平均粒径が上記範囲内にあれば特に限定されず、例えば、球体、楕円体、多面体、表面に凹凸や突起を有する形状および異形体などの任意の形状が挙げられる。
【0081】
また、無機粒子において、波長1μm以上の光に対する屈折率の比(比屈折率)が1.25以上であることが好ましい。上記無機粒子は、輻射熱の散乱材として極めて重要な役割を有しており、屈折率が大きいほど、輻射熱をより効果的に散乱させることができる。また、比屈折率については、フォノン伝導の抑制について極めて重要であり、この値が大きいほど抑制効果が良好である。
【0082】
フォノン伝導を抑制することができる材料としては、一般的に、結晶内に格子欠陥を有している物質もしくは、複雑な構造を有している物質が知られている。前述のTiO
2やSiO
2、BaTiO
3は格子欠陥を有しやすく、複雑な構造を有しているので、輻射熱の散乱だけでなく、フォノンの散乱にも効果的であると考えられる。
【0083】
更に、無機粒子として、波長10μm以上の光に対する反射率が70%以上である無機粒子を好適に使用することができる。波長10μm以上の光は、いわゆる赤外線〜遠赤外線波長領域の光であり、この波長領域の光に対する反射率が70%以上であることで、輻射伝熱をより有効に低減させることができる。
【0084】
無機粒子の固体熱伝導率は、室温で20W/m・K以下であることが好ましい。室温での固体熱伝導率が20W/m・Kより大きい無機粒子を原料として用いると、熱伝達抑制層20中において固体伝熱が支配的になり、熱伝導率が上昇(断熱性が低下)してしまうおそれがある。
【0085】
なお、本実施形態において、無機繊維とはアスペクト比が3以上である無機材料をいう。一方、無機粒子とはアスペクト比が3未満である無機材料をいう。また、アスペクト比とは、物質の短径aに対する長径bの比(b/a)を意味する。
【0086】
熱伝達抑制層20は、高温での強度維持を目的として無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、例えば、コロイダルシリカ、合成マイカ、モンモリロナイトなどが挙げられる。無機結合材は、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0087】
この無機結合材は、熱伝達抑制層20の構成材料の合計重量に対し、1〜10質量%の範囲で必要に応じて使用することができる。上記無機結合材の使用態様としては、例えば、原料中に混合したり、もしくは得られた断熱材へ含浸したりして使用することができる。
【0088】
更に、熱伝達抑制層20の構成材料として有機弾性物質を必要に応じて使用してもよい。この有機弾性物質は、熱伝達抑制層20に柔軟性を持たせる場合において有用であり、例えば、天然ゴムのエマルジョンやアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などの合成ゴムラテックスバインダーを好適に使用することができる。特に、本実施形態の熱伝達抑制層20を湿式成形法にて製造する場合には、上記有機弾性物質を使用することにより柔軟性を向上させることができる。
【0089】
有機弾性物質の配合量は、熱伝達抑制層20の構成材料の合計重量に対し0〜5質量%の範囲であることが好ましい。有機弾性物質は、その配合量が5質量%を超えると、700℃以上の高温域で使用する際に有機弾性物質が焼失し、空隙が著しく増大するため、断熱性が低下してしまうおそれがある。
【0090】
熱伝達抑制層20の厚さとしては特に限定されないが、0.1〜4.0mmの範囲にあることが好ましい。熱伝達抑制層20の厚さが0.1mm未満であると、充分な機械的強度を熱伝達抑制層20に付与することができない。一方、熱伝達抑制層20の厚さが4.0mmを超えると、組電池の体積エネルギー密度の低下を招くおそれがある。
【0091】
熱伝達抑制層20を構成する無機粒子は、熱伝達抑制層20の外部には容易に脱出しないが、無機粒子の脱出防止を目的として、必要に応じて熱伝達抑制層20の一部または全部を緻密化してもよい。熱伝達抑制層20を構成する無機粒子が、無機繊維が絡み合った構造に包摂されている場合、無機繊維間から容易に外部に脱出しない。ただし、使用環境によっては強い衝撃などが熱伝達抑制層20に負荷されて、無機粒子が空気中に脱出する可能性も考えられるため、無機粒子を包摂した部分における無機繊維の構造を緻密化し、無機粒子が脱出しないようにしてもよい。
【0092】
熱伝達抑制層20を緻密化する方法としては、例えば、無機繊維の交絡構造における表面のみを溶融させるように加熱する方法や、熱伝達抑制層20表面を耐熱性フィルムなどにより被覆するといった方法があるが、無機粒子が脱出しないような方法であれば特に限定されない。
【0093】
熱伝達抑制層20のかさ密度は特に限定されないが、0.1〜1.0g/cm
3の範囲内にあることが好ましい。なお、かさ密度は、質量をみかけの体積で除した値として求めることができる(JIS A0202_2213を参照)。かさ密度が0.1g/cm
3未満では、対流伝熱および分子伝熱が増大し、一方、かさ密度が1.0g/cm
3を超えると固体伝熱が増大するために熱伝導率が上昇し、いずれの場合も断熱性が低下することになる。
【0094】
(第2の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートについて説明する。第2の実施形態は、熱伝達抑制シートが複層(積層体)の場合である。
【0095】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート10の構成例を模式的に示す図である。本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、熱伝達抑制層20が、無機粒子及び/または無機繊維を有する断熱層42と、その両面に形成され、加熱により水分を放出する材料を含有する吸熱層44から構成される。
【0096】
本実施形態によれば、ある電池セル50で発生した熱により、外層である吸熱層44中の水分を放出する材料(具体的には、上述の無機水和物や脱水剤)が加熱されると、当該材料はその熱を吸収しつつ水分を放出する。この吸熱作用により、電池セル50の発熱量を効果的に低減することができる。そして、低減された熱は中間層である断熱層42によって、電池セル50間の熱の伝播を効果的に抑制することができる。このため、たとえ電池セル50から発生する熱量が大きなものであった場合においても、十分な断熱効果を得ることができる。結果として、ある電池セル50に熱暴走が生じた場合、隣接する他の電池セル50へ熱の伝播を効果的に抑制することができ、他の電池セル50の熱暴走が引き起こされるのを効果的に抑制することができる。
【0097】
また、本実施形態においては、
図5に示すように、外層である吸熱層44に溝部22が設けられており、当該溝部22の表面に凹凸形状24(
図5においては図示せず)を有するため、通常使用時における電池セル50の冷却も行うことができる。更に、上述したように、吸熱層44において、表面に凹凸形状24を有する溝部22を有することから、熱の吸熱時において吸熱層44から水分を放出できる面積を多く確保することができるため、吸熱層44としての機能をより一層発揮することができる。
【0098】
なお、本実施形態における断熱層42や吸熱層44に用いられる具体的な材料としては、第1の実施形態で説明した材料と同じものを適用することができる。
【0099】
(熱伝達抑制シートの製造方法)
続いて、熱伝達抑制シート10の製造方法について詳細に説明する。
【0100】
<熱伝達抑制層の製造>
熱伝達抑制シート10を構成する熱伝達抑制層20は、少なくとも無機粒子または無機繊維から構成される材料を、乾式成形法または湿式成形法により型成形して製造される。以下に、熱伝達抑制層20をそれぞれの成形法により得る場合の製造方法について説明する。
【0101】
[乾式成形法を用いて製造する場合]
まず、乾式成形法では、無機粒子及び/または無機繊維、更に必要に応じて、無機結合材、パルプ繊維、有機バインダーなどを所定の割合でV型混合機などの混合機に投入する。混合機に投入された材料を充分に混合した後、所定の型内に混合物を投入し、プレスすることにより熱伝達抑制層20を得る。プレス時には、必要に応じて加熱してもよい。
【0102】
上記プレス圧は、0.98〜9.80MPaの範囲であることが好ましい。プレス圧が0.98MPa未満であると、得られる熱伝達抑制層20において、強度を保つことができずに崩れてしまうおそれがある。一方、プレス圧が9.80MPaを超えると、過度の圧縮によって加工性が低下したり、更に、かさ密度が高くなるため固体伝熱が増加し、断熱性が低下するおそれがある。
【0103】
[湿式成形法を用いて製造する場合]
続いて、湿式成形法では、無機粒子及び/または無機繊維、更に必要に応じて、無機結合材、パルプ繊維、有機バインダーなどを水中で混合撹拌して充分に分散させ、その後、凝集剤を添加して、一次凝集体を得る。次に、必要に応じて有機弾性物質のエマルジョンなどを所定の範囲内で上記水中に添加した後、高分子凝集剤を添加することにより凝集体を含むスラリーを得る。
【0104】
次に、上記凝集体を含むスラリーを所定の型内へ投入して湿潤した熱伝達抑制層20を得る。得られた熱伝達抑制層20を乾燥することにより、目的の熱伝達抑制層20が得られる。
【0105】
上述のように、熱伝達抑制層20は、乾式成形法または湿式成形法のいずれによっても得られるが、一体成形の容易性や機械的強度の点から湿式成形法を用いることが好ましい。
【0106】
なお、
図5に示すような、中間層として断熱層42を有し、その両面に吸熱層44を有する積層タイプの熱伝達抑制層20の場合には、断熱層42と吸熱層44をそれぞれ上記の製造方法により製造した後、断熱層42と吸熱層44がウェット状態での加圧プレスや、これら部材の乾燥後に接着剤を用いて接着する方法などにより、製造することができる。
【0107】
<熱伝達抑制層における溝部の形成>
上記で得られた熱伝達抑制層20に溝部22を形成する方法について説明する。
例えば、
図6Aに示すように、所望のエンボス形状を有する2つのエンボスローラー72を上下から挟みこんで、熱伝達抑制層20の両面に溝部22を形成することで、溝部22が両面に形成された熱伝達抑制シート10を得ることができる。また、片面にのみ溝部22を有する熱伝達抑制シート10を得る場合には、
図6Bに示すように、エンボスローラー72とフラットローラー74を用いることができる。
【0108】
また、
図7に示すように、所望の形状を有するプレス加工治具82と台座84の間に、熱伝達抑制層20を挟み込んでプレス加工を施すことによっても、溝部22が形成された熱伝達抑制シート10を得ることができる。
あるいは、
図8に示すように、エンドミル90を用いた加工により、熱伝達抑制層20の表面に所望の溝部22を形成することで、溝部22が形成された熱伝達抑制シート10を得ることができる。
【0109】
なお、上記いずれの方法の場合であっても、熱伝達抑制層20は、無機粒子及び/または無機繊維を含有することから、溝部22の表面は微細な凹凸形状24を有するものであり、上記したような作用効果を得ることができる。