【実施例】
【0035】
次に実施例について詳細に説明する。
図3は、実施例、比較例及び性能評価の説明図である。
[1]実施例
[1.1]第1実施例
まず第1実施例(
図3中、実施例1と表す。以下同様)の配合組成について説明する。
実施例の配合組成物としては、大別すると、繊維基材、結合材、有機充填材、研削材及び無機充填材が挙げられる。
【0036】
以下、第1実施例の配合組成について詳細に説明する。
第1実施例においては、繊維基材として、アラミド繊維を5wt%配合した。
第1実施例においては、結合材(バインダ)として、フェノール樹脂を9wt%配合した。
第1実施例においては、有機充填材として、カシューダストを4wt%、ゴム粉(SBR)を2wt%配合した。
【0037】
第1実施例においては、第1の研削材としてモース硬度6.5の酸化クロム(平均粒子径10μm)を0.2wt%、第2の研削材としてモース硬度7.5の珪酸ジルコニウム(平均粒子径3μm)を0.2wt%配合した。
【0038】
第1実施例においては、無機充填材として、硫化錫を4wt%、チタン酸カリウムを21wt%、酸化鉄を9wt%、黒鉛を5wt%、マイカを15wt%、消石灰を3wt%配合し、残部に硫酸バリウムを配合して全体で100wt%とした。
【0039】
[1.2]第2実施例
第2実施例の配合組成が第1実施例の配合組成と異なる点は、研削材の配合に関し、第1の研削材としてモース硬度6.5の酸化クロム(平均粒子径10μm)を0.5wt%、第2の研削材としてモース硬度7の酸化ジルコニウム(平均粒子径1μm)を2.5wt%配合した点である。
他の配合組成は第1実施例と同一である。
【0040】
[1.3]第3実施例
第3実施例の配合組成が第1実施例の配合組成と異なる点は、研削材の配合に関し、第1の研削材としてモース硬度6.5の酸化クロム(平均粒子径10μm)を0.5wt%、第2の研削材としてモース硬度7の酸化ジルコニウム(平均粒子径3μm)を2.5wt%配合した点である。
他の配合組成は第1実施例と同一である。
【0041】
[1.4]第4実施例
第4実施例の配合組成が第1実施例の配合組成と異なる点は、研削材の配合に関し、第1の研削材としてモース硬度6.5の酸化クロム(平均粒子径10μm)を0.5wt%、第2の研削材としてモース硬度7.5の珪酸ジルコニウム(平均粒子径1μm)を2.5wt%配合した点である。
他の配合組成は第1実施例と同一である。
【0042】
[1.5]第5実施例
第5実施例の配合組成が第1実施例の配合組成と異なる点は、研削材の配合に関し、第1の研削材としてモース硬度6.5の酸化クロム(平均粒子径10μm)を0.5wt%、第2の研削材としてモース硬度7.5の珪酸ジルコニウム(平均粒子径3μm)を2.5wt%配合た点である。
他の配合組成は第1実施例と同一である。
【0043】
[1.6]第6実施例
第6実施例の配合組成が第1実施例の配合組成と異なる点は、研削材の配合に関し、第1の研削材としてモース硬度6.5の酸化クロム(平均粒子径10μm)を0.5wt%、第2の研削材としてモース硬度7.5の珪酸ジルコニウム(平均粒子径10μm)を2.5wt%配合した点である。
他の配合組成は第1実施例と同一である。
【0044】
[1.7]第7実施例
第7実施例の配合組成が第1実施例の配合組成と異なる点は、第1の研削材としてモース硬度6.5の酸化クロム(平均粒子径10μm)を0.5wt%、第2の研削材としてモース硬度8の磁器粉末(平均粒子径3μm)を2.5wt%配合した点である。
他の配合組成は第1実施例と同一である。
【0045】
[1.8]第8実施例
第8実施例の配合組成が第1実施例の配合組成と異なる点は、第1の研削材としてモース硬度6.5の酸化クロム(平均粒子径10μm)を0.5wt%、第2の研削材としてモース硬度7.5の珪酸ジルコニウム(平均粒子径1μm)を3wt%配合した点である。
他の配合組成は第1実施例と同一である。
【0046】
[1.9]第9実施例
第9実施例の配合組成が第1実施例の配合組成と異なる点は、第1の研削材としてモース硬度6.5の酸化クロム(平均粒子径10μm)を1wt%、第2の研削材としてモース硬度7の珪酸ジルコニウム(平均粒子径1μm)を0.5wt%及び第2の研削材としてモース硬度7.5の珪酸ジルコニウム(平均粒子径1μm)を1wt%配合した点である。すなわち、第2の研削材を2種類(複数)配合した場合の実施例である。
他の配合組成は第1実施例と同一である。
【0047】
[2]比較例
次に比較例について説明する。
比較例の配合組成物としては、実施例の配合組成物と同様に、大別すると、繊維基材、結合材、有機充填材、研削材及び無機充填材が挙げられる。
【0048】
[2.1]第1比較例
まず第1比較例(
図3中、比較例1と表す。以下同様)の配合組成について説明する。
第1比較例の配合組成が上述した第1実施例の配合組成と異なる点は、研削材の配合に関し、第1の研削材としてモース硬度6.5の酸化クロム(平均粒子径10μm)を0.5wt%、他の研削材としてモース硬度9の酸化アルミニウム(平均粒子径3μm)を2.5wt%配合した点である。
他の配合組成は第1実施例と同一である。
【0049】
[2.2]第2比較例
第2比較例の配合組成が上述した第1実施例の配合組成と異なる点は、研削材を配合していない点である。
他の配合組成は第1実施例と同一である。
【0050】
[2.3]第3比較例
第3比較例の配合組成が上述した第1実施例の配合組成と異なる点は、研削材の配合に関し、モース硬度7の酸化ジルコニウム(平均粒子径1μm)を3wt%配合した点である。
他の配合組成は第1実施例と同一である。
【0051】
[2.4]第4比較例
第4比較例の配合組成が上述した第1実施例の配合組成と異なる点は、研削材の配合に関し、モース硬度7.5の珪酸ジルコニウム(平均粒子径1μm)を3wt%配合した点である。
他の配合組成は第1実施例と同一である。
【0052】
[2.5]第5比較例
第5比較例の配合組成が上述した第1実施例の配合組成と異なる点は、研削材の配合に関し、モース硬度6.5の酸化クロム(平均粒子径10μm)を0.3wt%、モース硬度7.5の珪酸ジルコニウム(平均粒子径3μm)を5wt%配合した点である。
他の配合組成は第1実施例と同一である。
【0053】
[2.6]第6比較例
第7比較例の配合組成が上述した第1実施例の配合組成と異なる点は、研削材の配合に関し、モース硬度6.5の酸化クロム(平均粒子径10μm)を0.3wt%、モース硬度7.5の珪酸ジルコニウム(平均粒子径3μm)を0.6wt%配合した点と、無機充填材の配合に関し、マイカを21wt%配合した点である。
他の配合組成は第1実施例と同一である。
【0054】
[2.7]第7比較例
第7比較例の配合組成が上述した第1実施例の配合組成と異なる点は、研削材の配合に関し、モース硬度6.5の酸化クロム(平均粒子径10μm)を0.3wt%、モース硬度7.5の珪酸ジルコニウム(平均粒子径3μm)を0.6wt%配合した点と、無機充填材の配合に関し、マイカを8wt%配合した点である。
他の配合組成は第1実施例と同一である。
【0055】
[3]特性及び性能評価
次に上記各実施例及び各比較例の性能評価結果について再び
図5を参照して説明する。
性能評価としては、成形性、一般効力、低面圧攻撃性及び環境別効力について評価した。
【0056】
[3.1]成形性
実際にブレーキパッドを成形して、実用上の成形が可能か否かを評価した。
具体的には、
図3においては、成形可能な場合を○(良好)、成形不能な場合を×(不可)と判定した。
【0057】
[3.2]一般効力
一般効力の評価項目としては、効力、減速度スプレッド、速度スプレッド及び摩耗量について評価した。
【0058】
[3.2.1]効力
乗用車向けブレーキアセンブリ(キャリパ、ブレーキパッド、ロータ)を使用し、JASO C406に準拠して、効力を計測した。
具体的には、第2効力(初速度=50km/h及び初速度=100km/h、制動減速度G=6.0m/s
2)の摩擦係数μを求めた。
【0059】
図5においては、摩擦係数μ=0.35〜0.45の場合を○(良好)、摩擦係数μ=0.30〜0.35及び摩擦係数μ=0.45〜0.50の場合を△(可)、摩擦係数μ=0.30未満及び摩擦係数μ=0.50超の場合を×(不可)と判定した。
【0060】
[3.2.2]減速度スプレッド
乗用車向けブレーキアセンブリ(キャリパ、ブレーキパッド、ロータ)を使用し、JASO C406に準拠して、減速度スプレッドを計測した。
具体的には、第2効力(初速度=100km/hにおいて、制動減速度G=1〜10m/s
2)の各摩擦係数μにおける最大と最小との差を求めた。
【0061】
図3においては、差=0.06未満の場合を○(良好)、差=0.06〜0.12の場合を△(可)、差=0.12超の場合を×(不可)と判定した。
【0062】
[3.2.3]速度スプレッド
乗用車向けブレーキアセンブリ(キャリパ、ブレーキパッド、ロータ)を使用し、JASO C406に準拠して、速度スプレッドを計測した。
具体的には、第2効力(初速度=50〜130km/hにおいて、制動減速度G=6.0m/s
2)の各摩擦係数μにおける最大と最小との差を求めた。
【0063】
図3においては、差=0.06未満の場合を○(良好)、差=0.06〜0.12の場合を△(可)、差=0.12超の場合を×(不可)と判定した。
【0064】
[3.2.4]摩耗
乗用車向けブレーキアセンブリ(キャリパ、ブレーキパッド、ロータ)を使用し、JASO C406に準拠して、ブレーキパッド摩耗量(試験前後のブレーキパッドの厚みの差)を計測した。
【0065】
具体的には、ブレーキパッドの摩耗量が1mm未満を○(良好)とし、1mm〜1.5mmを△(可)とし、1.5mm超を(不可)と判定した。
【0066】
[3.3]低面圧攻撃性
試験試料として、25mm×25mmの摩擦材(パッド)を用い、ロータの材質をFC250とし、試験条件として、試験試料をロータに面圧=0.05MPaで押しつけた状態で速度=100km/hで24時間回転させた際のロータ摩耗量(試験前後のロータの厚みの差)を計測した。
【0067】
具体的には、ロータの摩耗量が10μm未満を○(良好)とし、10μm〜20μmを△(可)とし、20μm超を(不可)として評価した。
【0068】
[3.4]環境別効力
乗用車向けブレーキアセンブリ(キャリパ、ブレーキパッド、ロータ)を使用し、温度−10℃〜30℃、湿度30%〜90%の間で環境を変更しながら摩擦係数μを計測した。
【0069】
具体的には、
図5においては、試験中の摩擦係数μの最大値=0.6未満の場合を○(良好)、試験中の摩擦係数μの最大値=0.60〜0.65の場合を△(可)、試験中の摩擦係数μの最大値=0.65超の場合を×(不可)として評価した。
【0070】
[3.5]総合評価結果
図5に示すように、第1実施例における減速度スプレッド及び環境別効力の項目並びに第6実施例及び第7実施例における低面圧攻撃性の項目については、実用上は問題の無いレベルであり、これらを除き、各実施例において良好な結果が得られた。
【0071】
これらに対し、第6比較例が成形性に問題があり、第6比較例を除く第1比較例〜第7比較例においては、減速度スプレッド、低面圧攻撃性あるいは環境別効力のいずれかにおいて実用上問題が生じる虞があるということが分かった。
【0072】
上記比較例の結果から、低面圧攻撃性及び制動条件の変化の影響を抑制するには、銅の配合量が0.5重量%以下の摩擦材においては、モース硬度6.5以上7未満の第1の研削材と、モース硬度7以上8以下の第2の研削材と、を双方備えるのが有効であることが分かる。
【0073】
この場合において、摩擦係数の変動の抑制には、モース硬度6.5以上7未満の第1の研削材の配合量が0.2〜1wt%とするのが良いが、第1実施例における減速度スプレッド及び環境別効力の項目の結果からは、より好ましくは、0.5〜1wt%とするのが良いと考えられた。
【0074】
また、低面圧攻撃性を低下させるには、第6実施例及び第7実施例の結果より、アブレーシブ力を発揮させる第2の研削材については、そのモース硬度がモース硬度7以上8以下であって、その平均粒子径は、10μm未満、より好ましくは、1〜3μmとするのが良いと考えられた。
【0075】
[4]実施形態の変形例
以上の説明においては、第1の研削材の種類は、1種類の場合についてのみ説明したが、第2研削材と同様に複数種類を配合するように構成することも可能である。
このような構成を採ることにより、環境条件、制動条件等が変動してもより安定して摩擦係数を維持することが可能となる。
【0076】
以上の説明においては、ディスクブレーキ1としてフローティング型の場合を例として説明したが、押圧部材としてのピストンが対向配置され、対向配置されたピストンが一対のブレーキパッド用パッド組立体をディスクロータ(被摩擦材)に押し付ける構成の所謂オポースド型(対向ピストン型)であっても同様に適用が可能である。
【0077】
以上の説明においては、ディスクブレーキ用のブレーキパッド(ライニング)について説明したが、ブレーキドラム(被摩擦材)に接触されるドラムブレーキのブレーキシューであっても同様に適用が可能である。