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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-206942(P2019-206942A)
(43)【公開日】2019年12月5日
(54)【発明の名称】パルセーションダンパ
(51)【国際特許分類】
   F02M 37/00 20060101AFI20191108BHJP
   F02M 37/04 20060101ALI20191108BHJP
   F02M 37/06 20060101ALI20191108BHJP
   F02M 55/00 20060101ALI20191108BHJP
【FI】
   F02M37/00 D
   F02M37/00 331C
   F02M37/04 B
   F02M37/06 G
   F02M55/00 B
   F02M55/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-102623(P2018-102623)
(22)【出願日】2018年5月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】戸田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】三輪 雄一
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA07
3G066AB02
3G066AC09
3G066BA19
3G066BA51
3G066CA32S
3G066CA35
3G066CB08S
3G066CB16
3G066CB18
3G066CC67
3G066CC68S
3G066CE02
3G066DC18
(57)【要約】
【課題】燃料ポンプに供給される低圧燃料の圧力変動を抑制できるパルセーションダンパを提供することを目的とする。
【解決手段】プランジャの往復動により加圧室における燃料の吸入及び圧送を行う燃料ポンプと、燃料タンクから前記燃料ポンプに低圧燃料を供給する吸入通路(36)と、前記吸入通路上の分岐点(B)において前記吸入通路から分岐して燃料を前記燃料タンクに戻す戻し通路(43)と、を備える燃料供給システムに適用され、前記戻し通路に設けられるパルセーションダンパ(70)であって、前記吸入通路内の圧力が基準圧力よりも高い場合に、閉位置から開位置に移動して前記吸入通路内の燃料を前記戻し通路に流出させる弁体(71)と、前記弁体に一体に設けられ、前記弁体の開閉方向(X)に受けた力に基づいて応答するとともに、前記吸入通路内の圧力に対する応答性が前記弁体よりも高いダンパ部(81)と、を備える。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャ(32)の往復動により加圧室(35)における燃料の吸入及び圧送を行う燃料ポンプ(13)と、燃料タンク(16)から前記燃料ポンプに低圧燃料を供給する吸入通路(36)と、前記吸入通路上の分岐点(B)において前記吸入通路から分岐して燃料を前記燃料タンクに戻す戻し通路(43)と、を備える燃料供給システム(100)に適用され、前記戻し通路に設けられるパルセーションダンパ(70)であって、
前記吸入通路内の圧力(PB)が基準圧力(PBk)よりも高い場合に、閉位置から開位置に移動して前記吸入通路内の燃料を前記戻し通路に流出させる弁体(71)と、
前記弁体に一体に設けられ、前記弁体の開閉方向(X)に受けた力に基づいて応答するとともに、前記吸入通路内の圧力に対する応答性が前記弁体よりも高いダンパ部(81,90,91,92)と、を備えるパルセーションダンパ。
【請求項2】
前記弁体は当該弁体の開閉方向に延び、かつ前記吸入通路側に開口する中空部(73)を有しており、
前記ダンパ部は、前記中空部(73)に設けられている請求項1に記載のパルセーションダンパ。
【請求項3】
前記ダンパ部は、前記中空部を、前記吸入通路側の第1領域(R1)と、前記吸入通路とは反対側の第2領域(R2)と、に区画するダイアフラム(81)である請求項2に記載のパルセーションダンパ。
【請求項4】
前記中空部において、前記第2領域が前記戻し通路に連通している請求項3に記載のパルセーションダンパ。
【請求項5】
前記ダイアフラムは、前記中空部の長手方向に沿って延びる凸状部(83)を有する請求項3又は請求項4に記載のパルセーションダンパ。
【請求項6】
前記ダンパ部は、
前記中空部内に、その内面と当接した状態で往復移動可能に設けられた移動部(90)と、
前記弁体の開閉方向のうちの少なくとも一方の方向に前記移動部を付勢する付勢部(91,92)と、を備え、
前記付勢部は、前記弁体よりも高い応答性を有する請求項2に記載のパルセーションダンパ。
【請求項7】
前記付勢部は、前記弁体の開閉方向のうち開弁方向に前記移動部を付勢し、前記中空部内に設けられた移動規制部(79)に前記移動部を当接させるものであり、
前記移動部は、前記吸入通路内の圧力が前記戻し通路内の圧力よりも低くなった場合に、前記移動規制部に当接した位置から、当該位置よりも前記吸入通路側の位置に移動可能に設けられている請求項6に記載のパルセーションダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ポンプに吸入される低圧燃料の圧力変動を抑制可能なパルセーションダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばディーゼルエンジンの燃料供給システムとして、燃料タンクから汲み上げられた低圧燃料を高圧にする燃料ポンプと、燃料ポンプから吐出された高圧燃料を蓄える蓄圧室とを備え、蓄圧室内の高圧燃料を燃料噴射弁からエンジン気筒内に噴射する蓄圧式の燃料供給システムが知られている。燃料ポンプはエンジンの回転により運転する構成となっており、エンジンの回転に同期してプランジャが往復動し、その往復動に伴い加圧室において燃料の加圧が行われる。また、燃料ポンプにおいては加圧室の吸入口を開閉する調量弁が設けられており、調量弁の閉弁時期を調整することで、加圧室からの燃料吐出量を目標燃料吐出量に制御するようにしている。
【0003】
特許文献1に記載の技術では、燃料ポンプの運転中に蓄圧室の圧力(つまり、燃料ポンプの吐出圧力)に基づいて調量弁の閉弁時期を学習補正する構成としている。具体的には、プランジャの往復動サイクル毎に吐出圧力を検出し、前回の往復動サイクルにおいて検出された吐出圧力と目標圧力との偏差に基づいて現在の往復動サイクルにおける調量弁の閉弁時期を学習補正することにより、燃料吐出量が目標燃料吐出量となるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−322048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、燃料吐出量に変動が生じた場合に、その変動を抑制する技術である。このような技術とは別に、燃料吐出量に変動が生じることを抑制する技術が求められている。燃料吐出量に変動が生じる原因の一つに、燃料ポンプに供給される低圧燃料の圧力変動が存在する。燃料ポンプにおいて燃料の吸入及び吐出が繰り返し行われる場合には、燃料ポンプに供給される低圧燃料に圧力変動が生じ、この圧力変動に基づいて燃料吐出量に変動が生じる。そのため、燃料ポンプに供給される低圧燃料の圧力変動を抑制する技術が求められている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、燃料ポンプに供給される低圧燃料の圧力変動を抑制できるパルセーションダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、プランジャの往復動により加圧室における燃料の吸入及び圧送を行う燃料ポンプと、燃料タンクから前記燃料ポンプに低圧燃料を供給する吸入通路と、前記吸入通路上の分岐点において前記吸入通路から分岐して燃料を前記燃料タンクに戻す戻し通路と、を備える燃料供給システムに適用され、前記戻し通路に設けられるパルセーションダンパであって、前記吸入通路内の圧力が基準圧力よりも高い場合に、閉位置から開位置に移動して前記吸入通路内の燃料を前記戻し通路に流出させる弁体と、前記弁体に一体に設けられ、前記弁体の開閉方向に受けた力に基づいて応答するとともに、前記吸入通路内の圧力に対する応答性が前記弁体よりも高いダンパ部と、を備える。
【0008】
燃料ポンプにおいて燃料の吸入及び吐出が繰り返し行われる場合には、吸入通路で圧力ばらつきが生じる。このパルセーションダンパは、弁体の開閉方向に受けた力に基づいて応答するとともに、吸入通路内の圧力に対する応答性が弁体よりも高いダンパ部を備える。そのため、吸入通路内の低圧燃料の圧力変動に伴って、ダンパ部が弁体の開閉方向に力を受けた場合には、低圧燃料の圧力が基準圧力よりも高くならない場合でも、ダンパ部の応答により低圧燃料の圧力変動を好適に抑制することができる。
【0009】
また、ダンパ部は弁体に一体に設けられている。弁体とダンパ部とが別体に設けられていると、低圧燃料の圧力変動が生じた場合に、弁体とダンパ部とが別々に応答するために、共振等により低圧燃料の圧力の変動を抑制することができないことがある。このパルセーションダンパでは、ダンパ部が弁体に一体に設けられているので、共振等の発生を抑制して低圧燃料の圧力変動を好適に抑制することができる。
【0010】
さらに、ダンパ部は、弁体の開閉方向に受けた力に基づいて応答する。そのため、一体に設けられた弁体とダンパ部とにおいて、低圧燃料の圧力変動に伴って、ダンパ部の応答から弁体の移動への切り替えをスムースに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】燃料噴射システムの概要を示す構成図。
図2】高圧ポンプの構成及び動作を説明するための図。
図3】プランジャの往復動に伴う吸入圧力の推移を示す図。
図4】高圧ポンプとダンパとの概要を示す構成図。
図5】第1実施形態に係るダンパの概要を示す構成図。
図6】第2実施形態に係るダンパの概要を示す構成図。
図7】第3実施形態に係るダンパの概要を示す構成図。
図8】吸入圧力の変動発生時における吸入圧力の推移を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態に係るパルセーションダンパ(以下、ダンパという)70が適用される燃料噴射システム100について、図面を参照しつつ説明する。燃料噴射システム100は、車両ディーゼルエンジンのコモンレール式燃料噴射システムである。本実施形態において、燃料噴射システム100が「燃料供給システム」に相当する。
【0013】
図1は、燃料噴射システム100の概要を示す構成図である。図1において、多気筒ディーゼルエンジン(以下、エンジンという)10には気筒毎に電磁式インジェクタ11が配設され、これらインジェクタ11は各気筒共通のコモンレール(蓄圧配管)12に接続されている。コモンレール12には燃料ポンプとしての高圧ポンプ13が接続されている。高圧ポンプ13は、フィードポンプ15によって燃料タンク16から汲み上げられた低圧燃料を、低圧通路36を通じて吸入するとともに加圧して高圧通路41を通じてコモンレール12に吐出する。これにより、高圧燃料がコモンレール12に蓄圧される。本実施形態において、低圧通路36が「吸入通路」に相当する。
【0014】
次に、高圧ポンプ13の構造及び動作について図2を用いて説明する。高圧ポンプ13には、ポンプ本体にシリンダ31が設けられており、シリンダ31内においてプランジャ32が往復可能に収容されている。プランジャ32の一端は、カムリング33に当接されている。カムリング33は、クランク軸に接続されたカム軸34に固定されており、エンジン駆動に伴うクランク軸の回転により回転する。このカムリング33の回転に伴いプランジャ32が往復動する。
【0015】
シリンダ31内には、プランジャ32に隣接して加圧室35が設けられている。加圧室35には、低圧通路36と高圧通路41とが接続されている。プランジャ32の動きに合わせて低圧通路36内の燃料が吸入され、その吸入された燃料が加圧されて加圧室35から圧送される。
【0016】
低圧通路36には燃圧センサ18が設けられており、この燃圧センサ18により低圧通路36内の燃料圧力(以下、吸入圧力という)PBが検出される。本実施形態において、吸入圧力PBが「吸入通路内の圧力」に相当する。
【0017】
高圧ポンプ13の低圧通路36側には、調量弁38が設けられている。調量弁38は、例えば電磁式の流量制御弁(PCV)であり、非通電時に開弁状態となるノーマリオープン弁として構成されている。具体的には、調量弁38の周囲には、ソレノイド39が設けられており、ソレノイド39に流れる駆動電流Inにより生じる磁力によって低圧通路36を開閉する(図2(a)参照)。なお、調量弁38は、電磁式の流量制御弁に限らず、圧電式の流量制御弁でもよい。ソレノイド39は、圧送期間Tpにおいて駆動電流Inを供給されることで調量弁38を閉弁する(図2(b)参照)。そして、ソレノイド39は、所定時期だけ駆動電流Inを供給された後、その供給が遮断される。以下、ソレノイド39に駆動電流Inを供給することを、調量弁38への通電という。
【0018】
高圧ポンプ13の高圧通路41側には、吐出弁42が設けられている。吐出弁42は、周知の逆止弁により構成されており、加圧室35の燃料圧力に応じて加圧室35から燃料が流出することのみを許容し、コモンレール12から加圧室35に燃料が流入することを規制する。
【0019】
加圧室35内の容積が増加する吸入期間Tbでは、調量弁38への通電が遮断されているため、調量弁38が開弁状態となる。すなわち、加圧室35と低圧通路36とが連通状態になる。このとき、調量弁38が開弁状態でプランジャ32が上死点(TDC)から下死点(BDC)に向かって移動して、加圧室35の容積が大きくなる(図2(c)参照)。そして、フィードポンプ15から汲み上げられた低圧燃料が加圧室35に吸入される。
【0020】
加圧室35内の容積が減少する圧送期間Tpでは、プランジャ32が下死点から上死点に向かって移動する際、調量弁38に通電せず開弁状態を保つことにより、加圧室35内の燃料が低圧通路36側に逆流する。調量弁38が閉弁される前までの期間がプレストローク期間Tkである。
【0021】
この逆流により、閉弁開始時期Tf前における低圧通路36内の吸入圧力PBが一時的に上昇する(図2(d)参照)。閉弁開始時期Tfは、調量弁38の閉弁動作を開始する時期であり、具体的には、ソレノイド39に駆動電流Inの供給を開始する時期である。以下、この一時的に上昇した吸入圧力PBをサージ圧力Pcという。
【0022】
その後、閉弁時期Tcに調量弁38が閉弁状態となると、加圧室35内の燃料の圧力が上昇し、その圧力上昇により高圧化された高圧燃料が吐出弁42を経由してコモンレール12に吐出される。高圧燃料がコモンレール12に吐出される期間が燃料吐出期間Tsである。
【0023】
したがって、高圧ポンプ13は、プランジャ32の往復動により加圧室35における燃料の吸入及び圧送を行う。そして、調量弁38の閉弁時期Tcの調整、つまり、プレストローク期間Tkの調整により燃料吐出量Qを制御することができる。すなわち、調量弁38の閉弁時期Tcを早くすることにより燃料吐出量Qが多くなり、閉弁時期Tcを遅くすることにより燃料吐出量Qが少なくなる。
【0024】
通電により調量弁38が閉弁し、加圧室35の圧力が上昇すると、調量弁38への通電を遮断しても、加圧室35の燃料圧力により調量弁38は閉弁状態に保持される。したがって、図2に示すように、プランジャ32が上死点に達する前に調量弁38の通電が遮断される。
【0025】
図1の説明に戻り、コモンレール12にはコモンレール圧センサ17が設けられており、このコモンレール圧センサ17によりコモンレール12内の燃料圧力(以下、吐出圧力という)PSが検出される。図示は省略するが、コモンレール12には電磁駆動式(又は機械式)の減圧弁が設けられており、吐出圧力PSが過剰に上昇した場合にはこの減圧弁が開放されて、減圧が行われるようになっている。
【0026】
ECU60は、CPU、ROM、RAM、EEPROM(登録商標)等からなる周知のマイクロコンピュータを備えた電子制御ユニットである。ECU60には、燃圧センサ18やコモンレール圧センサ17の検出信号の他、エンジン10の回転速度を検出するための回転速度センサ、ドライバによるアクセル操作量を検出するアクセル開度センサ、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサ、コモンレール12内の燃料温度を検出する燃料温度センサなどの各種センサから検出信号が逐次入力される。そして、ECU60は、エンジン回転速度やアクセル開度等のエンジン運転情報に基づいて最適な燃料噴射量及び噴射時期を決定し、それに応じた噴射制御信号をインジェクタ11に出力する。これにより、各気筒においてインジェクタ11から燃焼室への燃料噴射が制御される。
【0027】
また、ECU60は、エンジン運転情報に基づいて吸入圧力PBの目標圧力PBtg(図3参照)を設定するとともに、吐出圧力PSの目標圧力PStg(図3参照)を設定し、吐出圧力PSが目標圧力PStgに一致するように燃料吐出量Q等を制御する。
【0028】
ところで、高圧ポンプ13が所定の運転条件であると、プランジャ32の往復動サイクル毎に、吐出圧力PSが目標圧力PStgよりも高くなる第1状態St1と、目標圧力PStgよりも低くなる第2状態St2と、を交互に繰り返す圧力脈動(図3(e)のグラフF1参照)が生じることが確認された。この圧力脈動は、本発明者らの実験と解析により初めて確認されたものである。
【0029】
圧力脈動の原因を、図3を用いて説明する。図3は、プランジャ32の往復動に伴う吸入圧力PBの推移を示す。ここで、図3(a)は、調量弁38の開閉状態の推移を示し、図3(b)は、プランジャ32の往復動の推移を示す。図3(c)は、通常状態における吸入圧力PBの推移を示し、図3(d)は、低圧燃料の供給状態悪化時における吸入圧力PBの推移を示す。図3(e)は、吐出圧力PSの推移を示し、図3(f)は、燃料吐出量Qの推移を示す。なお、図3(d),(e),(f)には、ダンパ70が設けられていない高圧ポンプ13における各種値の推移を示すグラフF1(実線)と、ダンパ70が設けられている高圧ポンプ13における各種値の推移を示すグラフF2(破線)と、が示されている。
【0030】
図3に示すように、圧送期間Tpでは、プレストローク期間Tkに調量弁38が開弁状態に保たれることにより、吸入圧力PBが目標圧力PBtgから一時的に上昇するサージ圧力Pcが生じる。図3(c)に示すように、低圧燃料の供給状態が良好な通常状態では、サージ圧力Pcは所定の閾値Pthに保たれる。
【0031】
しかし、高圧ポンプ13の吸入及び吐出時には、低圧通路36で圧力脈動が生じ、それに起因して燃料吐出量Qの制御精度が低下する。例えば、何らかの原因で低圧燃料の供給状態が悪化すると、加圧室35に吸入される低圧燃料が減少し、燃料吐出量Qが減少する。また、供給状態の悪化によりサージ圧力Pcの発生時期が遅れ、サージ圧力Pcのピーク高さは閾値Pthよりも増加する。燃料吐出量Qが減少した次の往復動サイクルでは、前回の往復動サイクルにおいて加圧室35への吸入が減少しているため、低圧通路36の圧力回復が早く、加圧室35に吸入される低圧燃料が増加し、燃料吐出量Qが増加する。また、サージ圧力Pcの発生時期が早くなり、サージ圧力Pcのピーク高さは閾値Pthよりも減少する。
【0032】
これ以降、高圧ポンプ13では、プランジャ32の往復動サイクル毎に、燃料吐出量Qの増加と減少とが交互に繰り返される。これに伴い、サージ圧力Pcには、プランジャ32の往復動サイクル毎に、閾値Pthよりも高くなる状態と、閾値Pthよりも低くなる状態とを交互に繰り返す圧力ばらつきが生じる(図3(d)参照)。サージ圧力Pcに圧力ばらつきが生じると、吐出圧力PSに圧力脈動が生じる(図3(e)のグラフF1参照)。圧力ばらつきに起因して圧力脈動が生じるメカニズムは、未だ完全に解明されていない。
【0033】
そこで、本実施形態では、図4に示すように、サージ圧力Pcの圧力ばらつきを含む吸入圧力PBの変動を抑制するために、ダンパ70を備える。ダンパ70は、吸入圧力PBを時間平均した平均吸入圧力が基準圧力PBkよりも高い場合に、閉位置から開位置に移動して低圧通路36内の燃料を戻し通路43に流出させる弁体71と、弁体71に一体に設けられ、弁体71の開閉方向に受けた力に基づいて弾性変形(以下、単に変形という)するとともに、吸入圧力PBに対する応答性(以下、単に応答性という)が弁体71よりも高く、サージ圧力Pcのようなサイクル内での瞬間的な吸入圧力PBの変動を抑制できるダイアフラム81と、を備える。本実施形態のダンパ70では、低圧通路36内の瞬間的な吸入圧力PBの変動では燃料を戻し通路43に流出させず、ダイアフラム81によりこの変動を吸収する。これにより、戻し通路43を介した不要な燃料の流出を抑制することができ、圧力脈動の発生要因の一つである低圧通路36内への燃料の吸入不足を回避することができるとともに、もう一つの発生要因であるサージ圧力Pcを低減することができ、これら二つの発生要因を同時に解消することができる。
【0034】
次に、ダンパ70について説明する。図5(a)に示すように、ダンパ70は、低圧通路36上の分岐点Bにおいて低圧通路36から分岐して燃料を燃料タンク16に戻す戻し通路43に設けられており、ケーシング50と、弁体71と、ばね80と、ダイアフラム81とを備える。
【0035】
ケーシング50は略円柱状をしており、ケーシング50の内部には、低圧通路36に連通する内部空間51が形成されている。ケーシング50の側面52には、内部空間51と戻し通路43とを連通する第1連通部53が設けられている。
【0036】
また、ケーシング50の軸方向Xにおける一方側(図面下側 以下、単に一方側という)の端面54には、低圧通路36に連結するための連結部55が設けられている。連結部55は、中空の筒状をしており、端面54の略中央から軸方向Xに延びている。連結部55における軸方向Xの略中央部には、内径が拡大した溝部56が設けられている。溝部56には、連結部55内の空間と戻し通路43とを連通する第2連通部57が設けられている。
【0037】
弁体71は、軸方向Xに沿った略円柱状をしており、弁体71の一方側端面72には、弁体71の軸方向Xに延び、かつ低圧通路36側に開口する中空部73を有している。弁体71の一方側部分74は、ケーシング50の連結部55に収容されており、一方側部分74が溝部56を覆うように配置されている。一方側部分74が溝部56を覆うように配置されることにより、第2連通部57を介して低圧通路36から戻し通路43への燃料の流通が遮断される。
【0038】
弁体71の軸方向Xにおける他方側(図面上側 以下、単に他方側という)部分75は、内部空間51に収容されており、外径が拡大した拡径部76が設けられている。拡径部76の外径は、溝部56を除く連結部55の内径よりも大きい。これにより、弁体71の低圧通路36への移動が抑制される。
【0039】
ばね80は、ケーシング50における他方側の端面58と拡径部76の他方側面76Aとの間に設けられている。図5(a)に示すように、弁体71の一方側部分74が溝部56を覆う位置を弁体71の基準位置とする。ばね80は、弁体71が基準位置よりも他方側に移動した場合に弾性圧縮し、弁体71が基準位置に戻るように、弁体71の基準位置からの移動量に応じて弁体71の移動方向と反対方向(つまり、一方側)に向かう弾性力を加える。本実施形態において、弁体71の基準位置が「閉位置」に相当する。
【0040】
図5(b)に示すように、弁体71は、低圧通路36内の吸入圧力PBの変動に伴って移動可能である。弁体71は、低圧通路36内の吸入圧力PBが所定の基準圧力PBk(図3(d)参照)よりも上昇すると、図5(a)に示す基準位置から図5(b)に示す他方側位置に移動する。所定の基準圧力PBkは、ばね80の弾性係数、弁体71の一方側部分74とケーシング50の連結部55との間の摺動抵抗の他、戻し通路43内の燃料の圧力により決定される。他方側位置は、基準位置よりも他方側の位置であって、弁体71の一方側部分74が溝部56を覆わない位置を意味する。弁体71が基準位置から他方側位置に移動することにより、第2連通部57を介して低圧通路36の燃料を戻し通路43に流出させることができる。本実施形態において、本実施形態において、弁体71の軸方向Xが「開閉方向」に相当し、弁体71の他方側位置が「開位置」に相当する。
【0041】
本実施形態では、弁体71は、弁体71の慣性及びばね80の弾性係数等により、サージ圧Pcのようなサイクル内での瞬間的な吸入圧力PBの変動では、燃料を戻し通路43に流出させず、平均吸入圧力が基準圧力PBk以下となるように規定する。そのため、瞬間的な吸入圧力PBの変動による燃料の流出が抑制され、圧力脈動の発生要因の一つである吸入不足を回避しやすくなる。一方、圧力脈動のもう一つの発生要因であるサージ圧力Pcを低減する効果は小さいため、圧力脈動の発生を抑制することができず、燃料吐出量Qの変動ΔQが生じることが懸念される。
【0042】
本実施形態のダンパ70は、上記問題を解決するために、弁体71に一体に設けられたダイアフラム81を備える。図5(a)に示すように、ダイアフラム81は金属製の薄板であり、その外縁部82は、全周に亘って弁体71の一方側端面72に固定されている。また、ダイアフラム81の中央部83は、中空部73内に突出した凸状をしている。ダイアフラム81の中央部83は、中空部73の長手方向、つまり、弁体71の軸方向Xに沿って延びている。ダイアフラム81は、中央部83の全周に亘って、中空部73と中央部83との間の幅が基準幅以上となるように、弁体71に対して配置されている。本実施形態において、ダイアフラム81が「ダンパ部」に相当し、中央部83が「凸状部」に相当する。
【0043】
そのため、中空部73は、ダイアフラム81の中央部83により、低圧通路36側の第1領域R1と、低圧通路36とは反対側の第2領域R2と、に区画されている。第2領域R2を取り囲む弁体71の他方側部分75には、第2領域R2と内部空間51とを連通する連通孔77が設けられている。そのため、第2領域R2は、連通孔77を介して戻し通路43に連通している。一方、第1領域R1と第2領域R2とは、ダイアフラム81により区画されているため、連通孔77を介した低圧通路36から戻し通路43への燃料の流通が遮断される。
【0044】
ダイアフラム81は、弁体71の軸方向Xに受けた力に基づいて変形可能である。例えば図5(c)に示すように、低圧通路36内の吸入圧力PB(つまり、第1領域R1の圧力)が戻し通路43内の燃料の圧力(つまり、第2領域R2の圧力)よりも高くなると、ダイアフラム81は他方側に向かう力を受け、ダイアフラム81の中央部83は弁体71に近接するように変形する。これにより、第1領域R1の容積が増大し、吸入圧力PBの上昇が抑制される。
【0045】
ダイアフラム81は、弁体71よりも応答性が高く、吸入圧力PBの急激な変動に対しても、低圧通路36内の吸入圧力PBが戻し通路43内の燃料の圧力よりも高くなることで変形する。これにより、図3(d)のグラフF2に示すように、吸入圧力PBの変動が抑制され、サージ圧力Pcのピーク圧力が閾値Pthよりも低くなるように抑制される。この結果、吐出圧力PSの圧力脈動が抑制され、燃料吐出量Qが目標燃料吐出量Qtgとなるように制御される(図3(e),(f)のグラフF2参照)。
【0046】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0047】
高圧ポンプ13において燃料の吸入及び吐出が繰り返し行われる場合には、吸入圧力PBの変動が生じる。本実施形態の燃料噴射システム100はダンパ70を備えており、このダンパ70は、弁体71の軸方向Xに受けた力に基づいて変形するとともに、吸入圧力PBに対する応答性が弁体71よりも高いダイアフラム81を備える。そのため、吸入圧力PBの変動に伴って弁体71の軸方向Xに力を受けた場合には、吸入圧力PBが基準圧力PBkよりも高くならない場合でも、ダイアフラム81の変形により吸入圧力PBの変動を好適に抑制することができる。
【0048】
本実施形態では、ダイアフラム81が弁体71に一体に設けられている。吸入圧力PBの変動により燃料吐出量Qの変動ΔQが生じることを抑制するために、ダイアフラム81と弁体71とは高圧ポンプ13に近接して配置されることが好ましい。ダイアフラム81が弁体71と別体に設けられていると、ダイアフラム81と弁体71との両方を高圧ポンプ13に近接して配置することが難しい。また、ダイアフラム81と弁体71との両方を高圧ポンプ13に近接して配置する必要がある。そのため、吸入圧力PBの変動により弁体71の移動とダイアフラム81の変形とが同時に生じた場合に、共振が生じやすく、吸入圧力PBの変動が増大される問題が生じる。
【0049】
本実施形態のダンパ70では、ダイアフラム81が弁体71に一体に設けられているので、ダイアフラム81と弁体71との両方を高圧ポンプ13に近接して配置することができる。また、共振等の発生を抑制して吸入圧力PBの変動を好適に抑制することができる。
【0050】
特に本実施形態では、ダンパ70が、弁体71の軸方向X、つまり、弁体71の移動方向に受けた力に基づいて変形する構成となっている。そのため、一体に設けられた弁体71とダイアフラム81とにおいて、吸入圧力PBの上昇に伴って、ダンパ70における応答の様態を、ダイアフラム81の変形から弁体71の移動へとスムースに切り替えることができる。
【0051】
本実施形態のダンパ70では、ダイアフラム81が弁体71の軸方向Xに延び、かつ低圧通路36側に開口する中空部73に設けられている。そのため、ダイアフラム81と弁体71とを一体化してダンパ70を形成する際に、ダンパ70を小型化して形成することができる。
【0052】
本実施形態のダンパ70では、弁体71の他方側部分75に、第2領域R2と内部空間51とを連通する連通孔77が設けられている。弁体71に設けられる中空部73は、その容積が限られている。弁体71に連通孔77が設けられていないと、吸入圧力PBの上昇に伴う第1領域R1の容量増大時に、第2領域R2内の圧力が上昇し、第1領域R1の容量増大が抑制され、吸入圧力PBの変動を十分に抑制することができない。
【0053】
本実施形態のダンパ70では、弁体71に連通孔77が設けられている。そのため、第1領域R1の容量増大時における第2領域R2内の圧力上昇が抑制され、吸入圧力PBの変動を好適に抑制することができる。
【0054】
本実施形態のダンパ70では、ダイアフラム81の中央部83が、中空部73の長手方向、つまり、弁体71の軸方向Xに沿って延びている。そのため、ダイアフラム81の受圧面積を大きくすることができ、これによりダイアフラム81の応答性を向上させることができる。
【0055】
(第2実施形態)
次に第2実施形態に係る燃料噴射システム100について図6を用いて説明する。第2実施形態に係る燃料噴射システム100は、第1実施形態に係る燃料噴射システム100と比べて、ダンパ70の構造が異なる。具体的には、第2実施形態のダンパ70では、ダイアフラム81に代えてピストン90とばね91,92とを備える。以下では、弁体71とピストン90とばね91,92との構造について説明する。本実施形態において、ピストン90とばね91,92とが「ダンパ部」に相当する。
【0056】
図6(a)に示すように、弁体71は略円柱状をしており、弁体71の一方側端面72には、弁体71の軸方向Xに延び、かつ低圧通路36側に開口する中空部73を有している。本実施形態では、中空部73は、弁体71の軸方向Xに沿って弁体71を貫通するように設けられている。中空部73における一方側の端部には、内径が縮小した突起部78が設けられている。
【0057】
ピストン90は、中空部73内に設けられており、その側面が全周に亘って中空部73の内面と当接した状態で配置されている。ピストン90の側面が全周に亘って中空部73の内面と当接しているため、中空部73を介した低圧通路36から戻し通路43への燃料の流通が遮断される。また、ピストン90により、中空部73が、低圧通路36側の第1領域R1と、低圧通路36とは反対側の第2領域R2と、に区画されている。なお、第2領域R2は、第1連通部53を介して戻し通路43に連通している。本実施形態において、ピストン90が「移動部」に相当する。
【0058】
ピストン90は、突起部78が設けられていない中空部73の他方側から中空部73内に挿入され、その後、中空部73における他方側の端部にストッパ79が取り付けられている。突起部78とストッパ79とにより、ピストン90の中空部73外への移動が防止される。本実施形態において、ストッパ79が「移動規制部」に相当する。
【0059】
第1ばね91は、弁体71の突起部78とピストン90の一方側面90Aとの間に設けられている。第2ばね92は、ストッパ79とピストン90の他方側面90Bとの間に設けられている。
【0060】
図6(a)に示すように、弁体71の軸方向Xにおいてピストン90が拡径部76と並ぶ位置をピストン90の基準位置とする。第1ばね91は、ピストン90が基準位置よりも一方側に移動した場合に弾性圧縮し、ピストン90の基準位置からの移動量に応じてピストン90に他方側に付勢する。また、第2ばね92は、ピストン90が基準位置よりも他方側に移動した場合に弾性圧縮し、ピストン90の基準位置からの移動量に応じてピストン90に一方側に付勢する。これにより、ピストン90は、中空部73の長手方向、つまり、弁体71の軸方向Xに往復移動可能に支持されている。本実施形態において、ばね91,92が「付勢部」に相当する。
【0061】
図6(b)に示すように、弁体71は、低圧通路36内の吸入圧力PBの変動に伴って移動可能である。弁体71は、低圧通路36内の吸入圧力PBが基準圧力PBkよりも上昇すると、図6(a)に示す基準位置から図6(b)に示す他方側位置に移動する。本実施形態では、基準圧力PBkは、ばね91,92の弾性係数及び戻し通路43内の燃料の圧力により決定される。他方側位置は、弁体71の一方側部分74が溝部56を覆わない位置であり、かつ、弁体71の他方側部分75がケーシング50における他方の端面58と接触する位置である。
【0062】
ピストン90は、弁体71の軸方向Xに受けた力に基づいて移動可能である。例えば図6(c)に示すように、低圧通路36内の吸入圧力PB(つまり、第1領域R1の圧力)が戻し通路43内の燃料の圧力(つまり、第2領域R2の圧力)よりも高くなると、ピストン90は他方側に向かう力を受けて他方側に移動する(図6の矢印Ya参照)。
【0063】
ばね91,92の弾性係数は、ばね80の弾性係数よりも小さい。そのため、ピストン90は、弁体71よりも応答性が高く、弁体71では吸収できない吸入圧力PBの急激な変動に対しても応答して移動する。これにより、図3(d)のグラフF2に示すように、吸入圧力PBの変動が抑制され、サージ圧力Pcのピーク圧力が閾値Pthよりも低くなるように抑制される。この結果、吐出圧力PSの圧力脈動が抑制され、燃料吐出量Qが目標燃料吐出量Qtgとなるように制御される(図3(e),(f)のグラフF2参照)。
【0064】
以上説明したように、高圧ポンプ13において燃料の吸入及び吐出が繰り返し行われる場合には、吸入圧力PBの変動が生じる。本実施形態の燃料噴射システム100はダンパ70を備えており、このダンパ70は、弁体71の軸方向Xに受けた力に基づいて移動するとともに、吸入圧力PBに対する応答性が弁体71よりも高いピストン90を備える。そのため、吸入圧力PBの移動に伴って弁体71の軸方向Xに力を受けた場合には、吸入圧力PBが基準圧力PBkよりも高くならない場合でも、ピストン90の変形により吸入圧力PBの変動を好適に抑制することができる。
【0065】
(第3実施形態)
次に第3実施形態に係る燃料噴射システム100について図7,8を用いて説明する。第3実施形態に係る燃料噴射システム100は、第2実施形態に係る燃料噴射システム100と比べて、ピストン90の構造が異なる。以下では、ピストン90の構造と吸入圧力PBの変動とについて説明する。
【0066】
図7(a)に示すように、ピストン90には、ピストン90の他方側面90Bから弁体71の軸方向Xに延びる当接部94が設けられている。当接部94の外径は、弁体71に取り付けられたストッパ79の内径よりも大きい。そのため、当接部94は、ピストン90が基準位置に位置する際に、軸方向Xにおける一方側、つまり、低圧通路36側からストッパ79と当接する。つまり、本実施形態では、当接部94とストッパ79とが当接する位置が基準位置であり、基準位置において、当接部94とストッパ79とが当接するように、弁体71の軸方向Xにおける当接部94の長さ、及びばね91,92の弾性係数が設定されている。これにより、ばね91,92は、軸方向Xにおける他方側にピストン90を付勢し、ストッパ79に当接部94を当接させることができる。本実施形態において、軸方向Xにおける他方側が「開弁方向」に相当する。
【0067】
そのため、ピストン90は、基準位置から他方側、つまり、低圧通路36とは反対側には移動せず、基準位置から一方側、つまり、低圧通路36側にのみ移動可能である。つまり、図7(c)に示すように、低圧通路36内の吸入圧力PB(つまり、第1領域R1の圧力)が戻し通路43内の燃料の圧力(つまり、第2領域R2の圧力)よりも小さくなると、ピストン90は一方側に向かう力を受けて一方側に移動する(図7の矢印Yb参照)。本実施形態において、戻し通路43内の燃料の圧力は例えば大気圧である。そのため、本実施形態では、低圧通路36内の吸入圧力PBが負圧となると、ピストン90はストッパ79から離れて一方側に移動する。
【0068】
ピストン90が一方側に移動することで、吸入圧力PBの変動を好適に抑制することができる。以下、図8を用いてこの理由を説明する。図8は、吸入圧力PBの変動発生時における吸入圧力PBの推移を示す。ここで、図8(a)は、ダンパ70を使用しない場合における吸入圧力PBの推移を示し、図8(b)は、ダンパ70を使用した場合における吸入圧力PBの推移を示し、図8(c)は、吐出圧力PSの推移を示し、図8(d)は、燃料吐出量Qの推移を示す。なお、図8(c),(d)には、ダンパ70を使用しない場合における各種値の推移を示すグラフF1(実線)と、ダンパ70を使用した場合における各種値の推移を示すグラフF2(破線)と、が示されている。
【0069】
図8に示すように、吸入圧力PBの変動が生じ、サージ圧力Pcのピーク圧力が閾値Pthよりも上昇すると、その反動により、吸入圧力PBが一時的に低下することがある(図8(a)参照)。以下、この一時的に低下した吸入圧力PBを逆サージ圧力Pbという。
【0070】
逆サージ圧力Pbは、サージ圧力Pcが高いほど低くなる。そして、逆サージ圧力Pbが負圧となると、逆サージ圧力Pbが負圧となった次の往復動サイクルでは、サージ圧力Pcの発生時期が早くなり、サージ圧力Pcピーク圧力が閾値Pthよりも低下する。これ以降、高圧ポンプ13では、プランジャ32の往復動サイクル毎に、フィードバック制御による燃料吐出量Qの増加と減少とが交互に繰り返される。
【0071】
本実施形態では、ピストン90は、逆サージ圧力Pbが生じ、逆サージ圧力Pbが負圧となる場合に、弁体71の一方側に移動可能である。これにより、第1領域R1の容積が減少して吸入圧力PBが上昇し、吸入圧力PBを正圧に回復させることができる。この結果、吐出圧力PSの圧力脈動が抑制され、燃料吐出量Qが目標燃料吐出量Qtgとなるように制御される(図8(c),(d)のグラフF2参照)。
【0072】
以上説明したように、高圧ポンプ13において燃料の吸入及び吐出が繰り返し行われる場合には、吸入圧力PBが一時的に上昇した後に、一時的に低下することがある。そして、一時的に低下した吸入圧力PBが負圧となる場合には、吸入圧力PBに変動が生じる。本実施形態の燃料噴射システム100はダンパ70を備えており、このダンパ70は、吸入圧力PBが戻し通路43内の燃料の圧力よりも低くなった場合に、基準位置よりも低圧通路36側の位置に移動可能なピストン90を備えている。そのため、逆サージ圧力Pbが生じた場合でも、ピストン90の低圧通路36側への移動により、吸入圧力PBの低下を抑制することができ、これにより、燃料吐出量Qに変動が生じることを好適に抑制することができる。
【0073】
特に本実施形態では、戻し通路43内の燃料の圧力が大気圧に維持されている。そのため、逆サージ圧力Pbが生じ、その逆サージ圧力Pbが負圧となった場合に、ピストン90の低圧通路36側への移動により、吸入圧力PBを正圧に回復させることができ、これにより、燃料吐出量Qに変動が生じることを適切に抑制することができる。
【0074】
本実施形態では、ピストン90に当接部94が設けられており、ピストン90は、基準位置において低圧通路36とは反対側に移動不能に支持されている。そのため、第2領域R2の容積を縮小して設けることができ、これにより、第1領域R1の容積を増大させることができ、吸入圧力PBの変動を好適に抑制することができる。
【0075】
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、次のように実施されてもよい。
【0076】
上記第1実施形態では、弁体71の他方側部分75に連通孔77が設けられる形態を例示したが、これに限られず、連通孔77が設けられなくてもよい。連通孔77が設けられない場合には、ケーシング50に第1連通部53が設けられなくてもよい。
【0077】
また、弁体71に連通孔77が設けられ、ケーシング50に第1連通部53が設けられない形態としてもよい。この場合、内部空間51の圧力を、戻し通路43内の燃料の圧力とは別の圧力であって、吸入圧力PBの変動を抑制するのに適した圧力に設定することができ、これにより、吸入圧力PBの変動を好適に抑制することができる。
【0078】
上記第2実施形態では、ピストン90の基準位置として、弁体71の軸方向Xにおいてピストン90が拡径部76と並ぶ位置を例示したが、これに限られない。たとえば、基準位置を低圧通路36側に設定することで、サージ圧力Pcなどの吸入圧力PBの上昇を好適に抑制することができる。また、基準位置を低圧通路36側とは反対側に設定することで、逆サージ圧力Pbなどの吸入圧力PBの低下を好適に抑制することができる。
【0079】
上記第3実施形態では、当接部94が、ピストン90の他方側面90Bから弁体71の軸方向Xに延びており、基準位置において、当接部94とストッパ79とが干渉する形態を例示したが、これに限られない。例えば、当接部94が、ピストン90の一方側面90Aから弁体71の軸方向Xに延びており、基準位置において、当接部94と突起部78とが干渉するようにしてもよい。
【0080】
この場合、ピストン90は、基準位置から低圧通路36とは反対側に移動可能である。そのため、吸入圧力PBが上昇した場合には、ピストン90の低圧通路36とは反対側への移動により、吸入圧力PBの上昇を抑制することができ、これにより、燃料吐出量Qに変動が生じることを好適に抑制することができる。
【0081】
上記実施形態では、ダイアフラム81やピストン90が、弁体71に設けられた中空部73内に設けられる形態を例示したがこれに限られない。例えばダイアフラム81であれば、ダイアフラム81が平板状をしており、中空部73が設けられた弁体71の一方側端面72に固定されていてもよい。また、ピストン90であれば、中空部73が設けられていない弁体71の一方側端面72に、弁体71の軸方向Xに延びるばねが取り付けられており、このばねの一方側の端部にピストン90が取り付けられていてもよい。
【符号の説明】
【0082】
13…高圧ポンプ、16…燃料タンク、32…プランジャ、35…加圧室、36…低圧通路、43…戻し通路、70…ダンパ、71…弁体、81…ダイアフラム、90…シリンダ、91…第1ばね、92…第2ばね、100…燃料噴射システム、B…分岐点。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8