特開2019-208862(P2019-208862A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-208862(P2019-208862A)
(43)【公開日】2019年12月12日
(54)【発明の名称】ヒドロゲル、及び、キット
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/52 20060101AFI20191115BHJP
   A61L 27/46 20060101ALI20191115BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20191115BHJP
   A61L 27/12 20060101ALI20191115BHJP
   A61L 27/02 20060101ALI20191115BHJP
   A61K 33/42 20060101ALI20191115BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20191115BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20191115BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20191115BHJP
   A61K 31/663 20060101ALI20191115BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20191115BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20191115BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20191115BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20191115BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20191115BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20191115BHJP
【FI】
   A61L27/52
   A61L27/46
   A61L27/20
   A61L27/12
   A61L27/02
   A61K33/42
   A61L27/56
   A61L27/50
   A61L27/58
   A61K31/663
   A61P19/08
   A61P43/00 105
   A61K47/38
   A61K9/06
   A61L27/54
   A61K38/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2018-107331(P2018-107331)
(22)【出願日】2018年6月5日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】西口 昭広
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA95
4C076BB32
4C076CC50
4C076DD24
4C076DD24A
4C076DD26
4C076DD26A
4C076EE31
4C076EE31A
4C076EE31M
4C076EE31N
4C076FF32
4C076FF34
4C076FF35
4C081AB04
4C081BA12
4C081BB06
4C081BB08
4C081CD021
4C081CE02
4C081CF012
4C081CF022
4C081CF032
4C081CF112
4C081DA12
4C081DB03
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084DB52
4C084DB54
4C084DB57
4C084DB62
4C084MA02
4C084MA05
4C084MA28
4C084MA67
4C084NA13
4C084ZA96
4C084ZB21
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA34
4C086FA06
4C086HA19
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA28
4C086MA67
4C086NA13
4C086ZA96
4C086ZB21
(57)【要約】      (修正有)
【課題】骨欠損部位に経皮的に直接送達でき、優れた力学強度を有する人工骨を形成可能な材料、およびキットの提供。
【解決手段】ホスホン酸基を有する基、及び、その金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の特定置換基を有する変性セルロースナノファイバと、カルシウム塩と、水を含有する溶媒と、を含有するヒドロゲル。
【選択図】図21
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホン酸基を有する基、及び、その金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の特定置換基を有する変性セルロースナノファイバと、カルシウム塩と、水を含有する溶媒と、を含有するヒドロゲル。
【請求項2】
前記カルシウム塩が、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、及び、塩化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載のヒドロゲル。
【請求項3】
前記ホスホン酸基を有する基が、以下の式(1)で表される基である、請求項1又は2に記載のヒドロゲル。
【化1】

式1中、L1Aは単結合、又は、2価の連結基を表し、Rは水素原子、ヒドロキシ基、又は、1価の有機基を表し、*は結合位置を表す。
【請求項4】
前記ホスホン酸基を有する基が、以下の式(2)で表される基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒドロゲル。
【化2】

式(2)中、L21、及び、L22はそれぞれ独立に、単結合、又は、2価の連結基を表し、Rは水素原子又は1価の有機基を表し、*は結合位置を表す。
【請求項5】
前記変性セルロースナノファイバが、以下の式(C)で表される繰り返し単位を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のヒドロゲル。
【化3】

式(C)中、R31及びR32は、それぞれ独立にアルデヒド基、及び、前記特定置換基からなる群より選択される少なくとも1種の基であり、
31、及び、R32の少なくとも一方は、前記特定置換基を表す。
【請求項6】
前記ヒドロゲル中における、前記溶媒の体積基準の含有量に対する、前記変性セルロースナノファイバの質量基準の含有量の含有量比が、2.0〜8.0%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のヒドロゲル。
【請求項7】
前記カルシウム塩が硫酸カルシウムを含有し、
前記ヒドロゲル中における、前記溶媒の体積基準の含有量に対する、前記硫酸カルシウムの質量基準の含有量の含有量比が、0.1〜12%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のヒドロゲル。
【請求項8】
前記カルシウム塩がリン酸カルシウムを含有し、
前記リン酸カルシウムが、α−リン酸三カルシウム、及び、β−リン酸三カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のヒドロゲル。
【請求項9】
前記カルシウム塩がβ−リン酸三カルシウムを含有し、
前記ヒドロゲル中における、前記溶媒の体積基準の含有量に対する、前記β−リン酸三カルシウムの質量基準の含有量の含有量比が、5〜60%である、請求項8に記載のヒドロゲル。
【請求項10】
骨形成用である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のヒドロゲル。
【請求項11】
ホスホン酸基を有する基、又は、その金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の特定置換基を有する変性セルロースナノファイバと、水と、を含有する第1剤と、カルシウム塩を含有する第2剤と、を含むキット。
【請求項12】
前記第2剤が更に水を含有する、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
更に、経皮送達デバイスを含む、請求項11又は12に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロゲル、及び、キットに関する。
【背景技術】
【0002】
骨欠損の治療に、骨欠損部位に骨形成用材料を経皮的に(言い換えれば、大きく切開せずに)直接送達し、骨形成を促す治療方法が用いられている。このような治療方法に用いることができる骨形成用材料として、特許文献1には、「第8リン酸カルシウムと、ヒアルロン酸又はその塩とを含む骨再生用材料」が記載されている。
また、非特許文献1には、ビスホスホネートで変性したヒアルロン酸とリン酸カルシウムとを用いた骨形成用材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−54054号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. R. Nejadnik, X. Yang, M. Bongio, H. S. Alghamdi, J. J.J.P. van den Beucken, M. C. Huysmans, J. A. Jansen, J. Hilborn, D. Ossipov, S.C.G. Leeuwenburgh, Self-healing hybrid nanocomposites consisting of bisphosphonated hyaluronan and calcium phosphate nanoparticles, Biomaterials, 35, 6918-6929 (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1及び非特許文献1に記載された骨形成用材料を用いて形成される人工骨は、力学強度が不十分であることを明らかとした。
そこで、本発明は、骨欠損部位に経皮的に直接送達でき、優れた力学強度を有する人工骨を形成可能な材料を提供することを課題とする。また、本発明は、キットを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0007】
[1] ホスホン酸基を有する基、及び、その金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の特定置換基を有する変性セルロースナノファイバと、カルシウム塩と、水を含有する溶媒と、を含有するヒドロゲル。
[2] カルシウム塩が、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、及び、塩化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種である[1]に記載のヒドロゲル。
[3] ホスホン酸基を有する基が、後述する式(1)で表される基である、[1]又は[2]に記載のヒドロゲル。
[4] ホスホン酸基を有する基が、後述する式(2)で表される基である、[1〜3のいずれかに記載のヒドロゲル。
[5] 変性セルロースが、後述する式(C)で表される繰り返し単位を有する、[1]〜[4]のいずれかに記載のヒドロゲル。
[6] ヒドロゲル中における、溶媒の体積基準の含有量に対する、変性セルロースナノファイバの質量基準の含有量の含有量比が、2.0〜8.0%である、[1]〜[5]のいずれかに記載のヒドロゲル。
[7] カルシウム塩が硫酸カルシウムを含有し、ヒドロゲル中における、溶媒の体積基準の含有量に対する、硫酸カルシウムの質量基準の含有量の含有量比が、0.1〜12%である、[1]〜[6]のいずれかに記載のヒドロゲル。
[8] カルシウム塩がリン酸カルシウムを含有し、リン酸カルシウムが、α−リン酸三カルシウム、及び、β−リン酸三カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]〜[6]のいずれかに記載のヒドロゲル。
[9] カルシウム塩がβ−リン酸三カルシウムを含有し、ヒドロゲル中における、溶媒の体積基準の含有量に対する、β−リン酸三カルシウムの質量基準の含有量の含有量比が、5〜60%である、[8]に記載のヒドロゲル。
[10] 骨形成用である、[1]〜[9]のいずれかに記載のヒドロゲル。
[11] ホスホン酸基を有する基、又は、その金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の特定置換基を有する変性セルロースナノファイバと、水と、を含有する第1剤と、カルシウム塩を含有する第2剤と、を含むキット。
[12] 第2剤が更に水を含有する、[11]に記載のキット。
[13] 更に、経皮送達デバイスを含む、[11]又は[12]に記載のキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヒドロゲル、及び、キットを提供できる。
なお、以下の説明では、特定置換基を有する変性セルロースナノファイバを「pCNF」(CNFはCellulose Nanofiberの略である)ということがある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】pCNF、及び、アレンドロン酸のH核磁気共鳴スペクトル(H NMR)である。
図2】pCNF、及び、アルデヒド化セルロースの31P核磁気共鳴スペクトル(31P NMR)である。
図3】pCNFの走査型電子顕微鏡観察により取得した画像である。
図4】pCNFのエネルギー分散X線分光法(EDX)の測定結果である。
図5】pCNF溶液のせん断速度に対するせん断応力、及び、粘度である。
図6】pCNFとカルシウム塩とを含有するヒドロゲルの電子顕微鏡写真である。
図7】ヒドロゲルの周波数変化に対する粘弾性特性の測定結果である。
図8】ヒドロゲルのひずみ変化に対する粘弾性特性の測定結果である。
図9】超音波照射を行う前後での、ヒドロゲルのせん断弾性率測定結果の比較結果である。
図10】ヒドロゲルのせん断弾性率への、分散液中のpCNFの濃度の影響である。
図11】ヒドロゲルのせん断弾性率への、アレンドロン酸当量の影響である。
図12】せん断弾性率に対するCNF表面の官能基の影響である。
図13】ヒドロゲルのチキソトロピー性の評価である。
図14】分散液中の硫酸カルシウム(CaSO)の濃度とせん断弾性率の関係を示すグラフである。
図15】分散液中のpCNFの濃度とせん断弾性率の関係を示すグラフである。
図16】分散液中のβ−TCPの濃度とせん断弾性率の関係を示すグラフである。
図17】分散液中のpCNFの濃度とせん断弾性率の関係を示すグラフである。
図18】疑似体液中に所定期間浸漬して、保持した、未処理のガラススライドの走査型電子顕微鏡写真である。
図19】疑似体液中に所定期間浸漬して、保持した、pCNFフィルムの走査型電子顕微鏡写真である。
図20】疑似体液中に所定期間浸漬して、保持した、α−TCPプレートの走査型電子顕微鏡写真である。
図21】疑似体液中に所定期間浸漬して、保持した、ヒドロゲルの走査型電子顕微鏡写真である。
図22】疑似体液中に所定期間浸漬して、保持した、ヒドロゲルのX線回折測定結果である。
図23】ヒドロゲルの骨に対する接着強度の測定結果である。
図24】ヒドロゲルのせん断弾性率に対するpHの効果である。
図25】pCNFの細胞生存率に与える影響の評価である。
図26】pCNFの細胞生存率に与える影響の評価である。
図27】ポリスチレン培養皿上で培養した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図28】硫酸カルシウムを含有するヒドロゲル上で培養した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図29】β−リン酸三カルシウムを含有するヒドロゲル上で培養した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図30】pCNF溶液の破骨細胞分化に与える影響の評価である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの双方、又は、いずれかを表し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの双方、又は、いずれかを表す。また、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイル及びメタクリロイルの双方、又は、いずれかを表す。
【0012】
[ヒドロゲル]
本発明の実施形態に係るヒドロゲルは、ホスホン酸基を有する基、及び、その金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の置換基(本明細書において「特定置換基」という。)を有する変性セルロースナノファイバと、カルシウム塩と、水を含有する溶媒と、を含有するヒドロゲルである。
上記ヒドロゲルにより本発明の効果が得られる機序は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推測している。
なお、本発明は、以下の機序により効果が得られるものに制限されない。言い換えれば、以下の機序以外の機序により効果が得られる場合であっても本発明の範囲に含まれるものとする。
【0013】
従来、骨形成用材料(人工骨補填材料)としては、リン酸カルシウムが用いられることが多かった。リン酸カルシウムとしては、例えば、ハイドロキシアパタイト、及び、リン酸三カルシウム(例えば、β−TCP)等が知られている。
しかし、これらの材料は、骨欠損部位に経皮的に直接送達できず(インジェクタブル)ではなく、骨欠損部位に導入しようとした場合には、大きく切開しなければならない等、侵襲性が高いという問題があった。
一方で、リン酸カルシウムの一種であるα−TCPは、インジェクタブルである一方、骨欠損部位に配置した後の分解速度が速すぎて、骨再生が完了する前に吸収されてしまう、すなわち、所望の骨形成が行われないという問題があった。
【0014】
特許文献1及び非特許文献1に記載された材料は、上記問題の解決を企図して開発されたものであるものの、本発明者らの検討によれば、得られる人工骨の力学強度が不十分であることを知見している。得られる人工骨の力学強度が不十分であるとは、具体的には、十分なせん断弾性率を有する人工骨が形成できないことを意味する。
【0015】
この点について、本発明者らは鋭意検討した結果、特定置換基を有する変性セルロースナノファイバと、カルシウム塩と、水を含有する溶媒と、を含有するヒドロゲルであれば、上記課題を解決することを知見し、本発明を完成させた。
【0016】
本発明の実施形態に係るヒドロゲルは、特定置換基を有する変性セルロースナノファイバとカルシウム塩とを含有する。本発明の実施形態に係るヒドロゲルは、変性セルロースナノファイバを含有し、かつ、上記変性セルロースナノファイバにおける特定置換基とカルシウムとが結合することにより、変性セルロースナノファイバ同士がカルシウムを介して架橋され、結果として、優れた力学強度を有する人工骨が形成できるものと推測される。
【0017】
更に、本発明の実施形態に係るヒドロゲルは、変性セルロースナノファイバを含有するため、優れた力学強度を有するのみならず、ナノポーラス構造を有しており、生体の骨と構造が類似している。
また、本発明の実施形態に係るヒドロゲルはチキソトロピー性を有し、剪断力下で粘度が低下するので、ダブルバレルシリンジを用いずともシングルシリンジでインジェクションすることができる。
また、本発明の実施形態に係るヒドロゲルは、疑似体液中でアパタイトを形成することができ、骨に対する優れた接着性も有する。
また、本発明の実施形態に係るヒドロゲルは、変性セルロースナノファイバが生分解性であるので、得られる人工骨も生分解性である。
また、本発明の実施形態に係るヒドロゲルは、優れた細胞接着性を有し、優れた生体適合性を有し、優れた生体親和性を有する。
【0018】
また、後述する、ある種の特定置換基(典型的にはビスホスホネートに由来する置換基)を有する変性セルロースナノファイバを有するヒドロゲルは、ある種の特定化合物(典型的にはビスホスホネート)を放出することによって、破骨細胞の活性を抑制する機能も有する。
【0019】
以下、本発明のヒドロゲルが含有する各成分について説明する。
なお、本明細書において、ヒドロゲルとは、水を含有する溶媒中で高分子鎖が物理的、及び/又は、化学的に架橋されることによって三次元網目構造を形成したものを意味する。上記架橋は可逆的であっても、不可逆的であってもよいが、可逆的であることが好ましい。
【0020】
〔変性セルロースナノファイバ〕
本発明の実施形態に係るヒドロゲルは、特定置換基を有する変性セルロースナノファイバを含有する。
ヒドロゲル中における変性セルロースナノファイバの濃度としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有するヒドロゲルが得られる点で、ヒドロゲルの全質量に対して、0.5〜20%が好ましく、2.0〜8.0%がより好ましい。
ヒドロゲルは、変性セルロースナノファイバの1種を単独で含有してもよく、2種以上を併せて含有してもよい。ヒドロゲルが2種以上の変性セルロースナノファイバを含有する場合は、変性セルロースナノファイバの濃度としては上記範囲内であることが好ましい。
【0021】
なお、本明細書において、ヒドロゲル(又は、後述する変性セルロースナノファイバ分散液)中における変性セルロースナノファイバの「濃度」は、ヒドロゲル(又は分散液)中における、後述する溶媒の体積基準の含有量(単位:mL)に対する、ヒドロゲル(又は分散液)中における変性セルロースナノファイバの質量基準の含有量(単位:g)の含有量比(百分率:w/v%)を意味する。
すなわち、変性セルロースナノファイバの質量基準の含有量(g)/溶媒の体積基準の含有量(mL)×100(%)で表される数値を意味する。
【0022】
変性セルロースナノファイバは、セルロース原料から解繊、及び、変性を経て得られる微細繊維を意味する。
原料セルロースとしては、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、綿系パルプ等の植物、動物等から得られたセルロース、これらを用いた紙、古紙等を用いることができる。
【0023】
本明細書において、セルロースナノファイバ及び変性セルロースナノファイバは数平均短軸径(平均繊維径)が3nm以上、500nm未満のセルロース繊維を意味する。
変性セルロースナノファイバとしては、平均繊維径が3nm以上、500nm未満であればよいが、より優れた本発明の効果を有するヒドロゲルが得られる点で、3〜100nmが好ましく、3〜50nmがより好ましい。
【0024】
変性セルロースナノファイバの数平均繊維長としては特に制限されないが、一般に平均繊維径の10倍以上であることが好ましい。
【0025】
本明細書において、変性セルロースナノファイバの平均繊維径は、走査差型電子顕微鏡観察によって求められる。より具体的には、走査型電子顕微鏡観察で20本の繊維の繊維径を測定し、その算術平均として求められる。
【0026】
変性セルロースナノファイバは、ホスホン酸基を有する基、及び、その金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の特定置換基を分子内に1つ以上有するセルロースナノファイバを意味する。
特定置換基のうち、ホスホン酸基を有する基としては特に制限されないが、例えば、以下の式で表される基が挙げられる。
【化1】
【0027】
上記式(A1)中、Lは(n+1)価の連結基であり、Lは単結合、又は、2価の連結基であり、nは1以上の整数であり(10以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が更に好ましい)、*はセルロース骨格との結合位置を表す。上記式(A)中、複数あるLは同一でも異なってもよい。
【0028】
の2価の連結基としては特に制限されないが、例えば、−C(O)O−、−OC(O)−、−O−、−S−、−NR−(Rは水素原子又は1価の有機基を表す)、アルキレン基(炭素数1〜10個が好ましい)、シクロアルキレン基(炭素数3〜10個が好ましい)、アルケニレン基(炭素数2〜10個が好ましい)、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。
【0029】
の(n+1)価の連結基としては、特に制限されないが、2価の連結基である場合、例えば、Lとして例示したものが挙げられる。
3価以上の連結基としては、特に制限されないが、例えば、以下の式(1a)〜(1d)で表される基が挙げられる。
【0030】
【化2】
【0031】
式(1a)中、Lは3価の連結基を表す。Tは単結合又は2価の連結基を表し、3個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
としては、3価の炭化水素基(炭素数1〜10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、3価の複素環基(5員環〜7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、−O−)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、グリセリン残基、トリメチロールプロパン残基、フロログルシノール残基、及びシクロヘキサントリオール残基等が挙げられる。
【0032】
式(1b)中、Lは4価の基を表す。Tは単結合又は2価の連結基を表し、4個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、Lの好適形態としては、4価の炭化水素基(炭素数1〜10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、4価の複素環基(5〜7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、−O−)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、ペンタエリスリトール残基、及びジトリメチロールプロパン残基等が挙げられる。
【0033】
式(1c)中、Lは5価の基を表す。Tは単結合又は2価の連結基を表し、5個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、Lの好適形態としては、5価の炭化水素基(炭素数2〜10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、5価の複素環基(5〜7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、−O−)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、アラビニトール残基、フロログルシドール残基、及びシクロヘキサンペンタオール残基等が挙げられる。
【0034】
式(1d)中、Lは6価の基を表す。Tは単結合又は2価の連結基を表し、6個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、Lの好適形態としては、6価の炭化水素基(炭素数2〜10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、6価の複素環基(6〜7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、−O−)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、マンニトール残基、ソルビトール残基、ジペンタエリスリトール残基、ヘキサヒドロキシベンゼン、及び、ヘキサヒドロキシシクロヘキサン残基等が挙げられる。
【0035】
一般式(1a)〜一般式(1d)中、T〜Tで表される2価の連結基の具体例及び好適形態は、すでに説明したLの2価の連結基と同様であってよい。
【0036】
なお、上記変性セルロースナノファイバが有するホスホン酸基を有する基は金属塩を形成していてもよい。金属塩を形成する金属としてとしては特に制限されないが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が挙げられ、なかでもより優れた本発明の効果を有するヒドロゲルが得られる点で、金属としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、又は、マグネシウムが好ましく、ナトリウムがより好ましい。
【0037】
セルロースナノファイバに特定置換基を導入する方法としては特に制限されないが、例えば、酸化、エーテル化、エステル化、及び、シランカップリング等公知の方法が挙げられる。
【0038】
(ホスホン酸基を有する基の好適形態)
ホスホン酸基を有する基としては、より優れた本発明の効果を有するヒドロゲルが得られる点で、以下の式(1)で表される基が好ましい。
【0039】
【化3】
【0040】
式(1)中、L1Aは単結合、又は、2価の連結基を表し、Rは水素原子、ヒドロキシ基、又は、1価の有機基を表し、*は結合位置を表す。
【0041】
1Aの2価の連結基としては特に制限されず、例えば、Lとしてすでに説明したものが挙げられ、より優れた本発明の効果を有するヒドロゲルが得られる点で、−C(O)O−、−OC(O)−、−O−、−S−、−NR−(Rは水素原子又は1価の有機基を表す)、アルキレン基(炭素数1〜10個が好ましい)、又は、これらの組み合わせが好ましく、−NR−、炭素数1〜10個のアルキレン基、又は、これらを組み合わせた基がより好ましい。
【0042】
の1価の有機基としては特に制限されないが、ヘテロ原子を有していてもよいアルキル基(炭素数1〜10個が好ましい)等が挙げられる。
【0043】
更に優れた本発明のヒドロゲルが得られる点で、ホスホン酸基を有する基としては、以下の式(2)で表される基であることがより好ましい。
【0044】
【化4】
【0045】
式(2)中、L21、及び、L22はそれぞれ独立に、単結合、又は、2価の連結基を表し、Rは水素原子、又は、1価の有機基を表し、*は結合位置を表す。
【0046】
21、及び、L22の2価の連結基としては特に制限されず、L1Aの2価の連結基として説明したものが挙げられ、なかでも、より優れた本発明の効果を有するヒドロゲルが得られる点で、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜10個のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜10個のアルキレン基がより好ましい。
また、Rの1価の有機基としては特に制限されないが、例えば、式(1)のけるRの1価の有機基として説明した形態が挙げられる。
なかでも、より優れた本発明の効果を有するヒドロゲルが得られる点で、Rとしては、炭素数1〜10個のアルキル基、又は、水素原子が好ましく、炭素数1〜5個のアルキル基、又は、水素原子がより好ましく、水素原子が更に好ましい。
【0047】
式(2)で表されるホスホン酸基を有する基の具体例としては、以下の基が挙げられる。
【0048】
【化5】
【0049】
上記式中、mは1〜10の整数を表し、2〜5の整数がより好ましい。上記式中、*は結合位置を表す。
上記のような特定置換基(ビスホスホン酸基、又は、その金属塩)を有する変性セルロースナノファイバを含有するヒドロゲルは、骨欠損部位に注入されると、経時的に上記特定置換基を解離させて放出する。後述する実施例で述べるとおり、このようなヒドロゲルは破骨細胞の活性を抑制する作用を有する。
【0050】
<特定変性セルロースナノファイバ>
変性セルロースナノファイバを構成する変性セルロースナノファイバの構造としては、特定置換基を有していれば特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有するヒドロゲルが得られる点で、以下の式(C)で表される繰り返し単位を有していることが好ましい。以下、上記の繰り返し単位を有する変性セルロースを含むセルロースナノファイバを「特定変性セルロースナノファイバ」ともいう。
【0051】
【化6】
【0052】
上記式(C)中、R31、及び、R32はそれぞれ独立にアルデヒド基、及び、特定置換基を表し、R31、及び、R32の少なくとも一方は、特定置換基である。上記特定置換基の形態はすでに説明したとおりである。
【0053】
(特定変性セルロースナノファイバの製造方法)
特定変性セルロースナノファイバの製造方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。
なかでも、より容易に特定変性セルロースナノファイバが得られる点で、以下の工程を有する特定変性セルロースナノファイバの製造方法が好ましい。
・セルロース骨格にアルデヒド基を導入する工程1
・アルデヒド基にホスホン酸基を有する基を有する化合物を反応させる工程2
【0054】
工程1において、セルロース骨格にアルデヒド基を導入する方法としては特に制限されず、公知の方法が適用できる。典型的には未変性のセルロースに酸化剤を反応させることで、セルロースが有するヒドロキシ基をアルデヒド基に変換する方法が挙げられる。
【0055】
なかでも、より容易に特定変性セルロースナノファイバが得られる点で、上記アルデヒド基は、セルロースナノファイバに酸化剤を作用させて、セルロース骨格中のグルコピラノース環における第2位と第3位の炭素原子間の結合の少なくとも一部を開裂させ、第2位と第3位のカルビノール基の両方、又は、片方をアルデヒド基に変換する方法が好ましい。
【0056】
上記のような酸化剤としては、特に制限されないが、例えば、過ヨウ素酸、及び、過ヨウ素酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。過ヨウ素酸塩としては、例えば、過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウム、過ヨウ素酸アンモニウム、過ヨウ素酸ルビジウム、及び、過ヨウ素酸セシウム等が挙げられ、過ヨウ素酸ナトリウムが好ましい。
【0057】
過ヨウ素、又は、その塩をセルロースナノファイバに作用させた場合、通常、セルロースの繊維表面のセルロース分子鎖が持つグルコピラノース単位において、第2位と第3位の炭素間が開裂し、第2位と第3位のカルビノール基(>C−OH)がともにアルデヒド基に変換されて、アルデヒド基を2つ有する構造の繰り返し単位が形成される。
【0058】
工程2では、上記のようにして生成したアルデヒド基に、ホスホン酸基を有する基を有する化合物(以下、「特定化合物」ともいう。)を反応させ、特定変性セルロースナノファイバを得る。
特定化合物としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有するヒドロゲルが得られる点で、ホスホン酸基を2個以上有することが好ましい。ホスホン酸基の数の上限としては特に制限されないが10個以下が好ましく、5個以下がより好ましく、3個以下が更に好ましい。
【0059】
特定化合物とアルデヒド基とを反応させる方法としては特に制限されないが、特定化合物がアミノ基を有する場合、還元アミノ化反応(還元的アミノ化)を用いる方法が挙げられる。還元アミノ反応に用いる還元剤としては特に制限されないが、例えば、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム、メチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、ピコリンボラン、及び、ピリジンボランからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
なかでも、取り扱いが容易で、かつ、反応性が高い点で、ピコリンボラン(2−ピコリンボラン)を用いることが好ましい。
【0060】
特定化合物が有するアミノ基としては、より反応が進行しやすい観点から、1級又は2級のアミノ基が好ましい。
【0061】
特定化合物としては特に制限されないが、例えば、エチドロン酸、クロドロン酸、パミドロン酸、アレンドロン酸、チルドロン酸、イバンドロン酸、リセドロン酸、ゾレドロン酸、ネリドロン酸、インカドロン酸、メドロン酸、及び、olpadronic acid等が挙げられる。
なかでも、窒素原子を含有する、パミドロン酸、アレンドロン酸、ネリドロン酸、イバンドロン酸、リセドロン酸、ゾレドロン酸、インカドロン酸、及び、olpadronic acid等が好ましく、なかでも、第1級又は第2級アミノ基を有するパミドロン酸、アレンドロン酸、ネリドロン酸、又は、インカドロン酸がより好ましく、第1級アミノ基を有するパミドロン酸、アロンドロン酸、又は、ネリドロン酸が更に好ましい。
【0062】
【化7】

【化8】
【0063】
すでに説明した工程1及び工程2を有する変性セルロースナノファイバの製造方法としては、公知の方法を用いることができる。上記の製造方法としては、例えば、Juho Antti Sirvioら Carbohydrate Polymers (2015), 33, 524−532に記載された方法が挙げられ、上記内容は本明細書に組み込まれる。
【0064】
変性セルロースナノファイバの製造方法としては、典型的には、酸化剤には過ヨウ素酸ナトリウムを用い、還元剤には2−ピコリンボランを用い、特定化合物としてアレンドロン酸を用いる場合が挙げられ、以下のスキームに基づき合成可能である。
【0065】
【化9】
【0066】
上記の反応は、典型的には次の方法で実施可能である。なお、以下の数値範囲は典型例であって、変性セルロースナノファイバの製造方法としては以下に制限されない。
【0067】
まず、未変性のセルロースナノファイバを、水を含有する分散溶媒に分散させ、セルロースナノファイバの分散液を得る。次に上記分散液に対して酸化剤を加えて、セルロース骨格にアルデヒド基を導入する。
【0068】
酸化剤としては、典型的には過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)が使用でき、その使用量としては特に制限されないが、一般に、未変性のセルロースナノファイバ中における、グルコースに基づく繰り返し単位の量を100モル%としたときに、50〜200モル%の過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)を添加するのが好ましい。
【0069】
上記反応は、遮光しながら行うのが好ましい。
反応温度としては特に制限されないが、一般に、40〜60℃が好ましい。また、反応時間としては特に制限されないが、一般に、2〜6時間が好ましい。
また、反応は撹拌しながら行うことが好ましい。
【0070】
上記反応により、セルロース骨格の少なくとも一部にアルデヒド基を有する、アルデヒド化セルロースを含有する溶液が得られる。
得られたアルデヒド化セルロースを含有する溶液から、アルデヒド化セルロースを精製してもよい。
精製の方法としては特に制限されないが、例えば、減圧濾過によって未反応物を含有する分散溶媒を除去し、得られた固形分を超純水で洗浄する操作を数回繰り返して、その後に凍結乾燥すると、アルデヒド化セルロースの乾燥粉末を得る方法が挙げられる。
【0071】
次いで、アルデヒド化セルロースを炭酸水素ナトリウム水溶液に分散させ、特定化合物(例えばアレンドロン酸)を加える。
この場合、使用する特定化合物の量としては特に制限されないが、アルデヒド基量を100モル%とした場合、特定化合物を50〜1000モル%、好ましくは100〜400モル%添加することが好ましい。
反応温度としては特に制限されないが、10〜30℃が好ましく、室温程度がより好ましい。反応時間としては特に制限されないが、1時間程度でよい。
反応は攪拌しながら行うことが好ましい。
【0072】
次に、還元剤(例えば、エタノールに溶解した2−ピコリンボラン)を加える。還元剤の量としては特に制限されないが、アルデヒド基量を100モル%としたとき、50〜1000モル%、好ましくは100〜400モル%添加することが好ましい。
反応温度としては特に制限されないが、10〜30℃が好ましく、室温程度がより好ましい。
反応時間としては特に制限されないが、一般に、16〜24時間が好ましい。
なお、反応は攪拌しながら行うことが好ましい。
【0073】
上記のようにして得られた変性セルロースナノファイバは、更に超音波処理されてもよい。すなわち、変性セルロースナノファイバの製造方法は、得られた変性セルロースナノファイバを超音波処理する工程を更に有していてもよい。
変性セルロースナノファイバを超音波処理する方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、公知の超音波ホモジナイザを使用する方法が挙げられる。
超音波ホモジナイザで処理する時間としては特に制限されないが、一般に10〜30分程度が好ましい。変性セルロースナノファイバを超音波処理する工程を有する製造方法によって製造された変性セルロースナノファイバを含有するヒドロゲルは、驚くべきことに、より優れた力学強度を有する。
【0074】
(特定変性セルロースファイバの好適形態)
特定変性セルロースナノファイバとしては、以下の(A)〜(C)の繰り返し単位を有する変性セルロースナノファイバが好ましい。
【0075】
【化10】
【0076】
上記式中、R31、及び、R32はそれぞれ独立にアルデヒド基、又は、特定置換基を表し、R31、及び、R32のいずれか一方は特定置換基である。
【0077】
上記式中、各繰り返し単位の含有量としては特に制限されないが、変性セルロースナノファイバの全繰り返し単位数を100モル%としたとき、式(A)で表される繰り返し単位の含有量としては特に制限されないが、一般に、30〜95モル%が好ましく、40〜90モル%がより好ましい。
式(B)で表される繰り返し単位の含有量としては特に制限されないが、一般に、4〜65モル%が好ましく、5〜55モル%がより好ましい。
式(C)で表される繰り返し単位の含有量としては特に制限されないが、一般に、1〜65モル%が好ましく、5〜55モル%がより好ましい。
【0078】
〔カルシウム塩〕
本発明の実施形態に係るヒドロゲルは、カルシウム塩を含有する。
ヒドロゲル中におけるカルシウム塩の濃度としては特に制限されないが、一般に、0.01〜90%が好ましく、0.05〜70%がより好ましい。
ヒドロゲルは、カルシウム塩の1種を単独で含有してもよく、2種以上を併せて含有してもよい。組成物が2種以上のカルシウム塩を含有する場合には、その濃度の合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0079】
なお、本明細書において、ヒドロゲル中におけるカルシウム塩の「濃度」は、ヒドロゲル中における、後述する溶媒の体積基準の含有量(単位:mL)に対する、ヒドロゲル中におけるカルシウム塩の質量基準の含有量(単位:g)の比の百分率(w/v%)を意味する。
すなわち、カルシウム塩の質量基準の含有量(g)/溶媒の体積基準の含有量(mL)×100(%)で表される数値を意味する。
【0080】
カルシウム塩としては、特に制限されないが、一般に無機カルシウム塩が好ましい。
無機カルシウム塩としては、例えば、炭酸カルシウム、苦灰石(ドロマイト)、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、及び、酢酸カルシウム等が挙げられる。
【0081】
なかでも、より優れた本発明の効果を有するヒドロゲルが得られる点で、カルシウム塩としては、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、及び、塩化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、リン酸カルシウム、及び、硫酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0082】
本発明のヒドロゲルに使用可能なリン酸カルシウムとしては特に制限されないが、例えば、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト、及び、炭酸アパタイト等が挙げられる。
また、リン酸三カルシウムとしては、α−リン酸三カルシウム(α−TCP)、及び、β−リン酸三カルシウム(β−TCP)等が挙げられる。
リン酸カルシウムとしては、リン酸三カルシウム、及び、水酸アパタイトからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0083】
カルシウム塩としては、より優れた本発明の効果を有するヒドロゲルが得られる点で、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、及び、塩化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、水酸アパタイト、硫酸カルシウム、及び、塩化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、水酸アパタイト、及び、硫酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましい。
【0084】
〔溶媒〕
本発明の実施形態に係るヒドロゲルは、水を含有する溶媒を含有する。
溶媒としては、水を含有していればよく、他の溶媒を含有していてもよい。他の溶媒としては特に制限されないが、水と混和する溶媒が好ましく、アルコール(例えばエタノール等)が挙げられる。
ヒドロゲルの固形分としては特に制限されないが、一般に、1質量%〜99質量%が好ましい。
【0085】
〔その他の成分〕
本発明の実施形態に係るヒドロゲルは、本発明の効果を奏する範囲内において、上記の以外の成分を含有していてもよい。上記以外の成分としては、例えば、
各種薬剤、及び、タンパク質等が挙げられる。
本発明の実施形態に係るヒドロゲルは、インジェクタブルであり、例えば、骨欠損部位に直接送達して使用されるため、骨欠損部位に直接上記薬剤及びタンパク質等を併せて送達できる。すなわち、本発明の実施形態に係るヒドロゲルは、上記薬剤、及び、タンパク質等の局所デリバリー担体、及び/又は、徐放性デリバリー担体として使用してもよい。
【0086】
薬剤としては、例えばステロイド等の抗炎症薬、抗血栓薬、抗生物質、線維芽細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、及び、肝細胞増殖因子等の成長因子が挙げられる。
また、本発明のヒドロゲルとしては、上記以外の薬学的に許容される添加剤を添加することができ、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、及び、イプシロン−アミノカプロン酸等の緩衝化剤;塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び、濃グリセリン等の等張化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、及び、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤;等が挙げられる。
【0087】
〔用途〕
本発明の実施形態に係るヒドロゲルは、医療用インジェクタブル人工骨として好適に使用される。例えば、骨粗しょう症治療や骨欠損部位への補填材に用いることができる。
【0088】
[キット]
本発明の実施形態に係るキットは、ホスホン酸基を有する基、又は、その金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の特定置換基を有する変性セルロースナノファイバと、水と、を含有する第1剤と、カルシウム塩を含有する第2剤と、を含むキットである。
【0089】
上記キットは、特定置換基を有する変性セルロースナノファイバと水とを含有する第1剤と、カルシウム塩を含有する第2剤とを含むため、使用時に混合することで、すでに説明したヒドロゲルを調製することができる。
第1剤、及び、第2剤は、容器に収容されていてもよい。すなわち、上記キットは容器と、上記容器に収容された第1剤と、上記とは別の容器と、上記別の容器に収容された第2剤と、を含むキットであってもよい。
【0090】
また、本発明の他の実施形態に係るキットは、第2剤に水を含有する。本実施形態に係るキットでは、カルシウム塩が水に分散した状態であるため、第1剤と第2剤とを混合してヒドロゲルを調製するのがより容易である。
【0091】
また、本発明の他の実施形態に係るキットは、更に、経皮送達デバイスを含む。経皮送達デバイスは、上記第1剤と第2剤とを混合して得られたヒドロゲルを、骨欠損部位に経皮的に送達するために使用可能である。
【0092】
経皮送達デバイスとしては、例えば、骨充填デバイス、シリンジ、ニードル、セメント銃、小径骨充填デバイス、指向性フローを可能にするように(例えば、サイドポート)改良されたチップ等が挙げられ得るが、上記に制限されない。
そのような経皮送達デバイスは、米国特許第6,241,734号、同第6,048,346号、同第6,641,587号、同第6,719,761号、及び、同第6,645,213号等に記載されており、上記基材は本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0093】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0094】
<特定変性セルロースナノファイバー(pCNF)の調製>
非特許文献1を参考にして、表1に示した方法により特定置換基を有する変性セルロースを合成した。このうち、合成例2〜4、及び、合成例6〜10についてはpCNFが得られた。
【0095】
第一段階として、未変性セルロースを原料としてアルデヒド化セルロースを作製した。
まず、1gのろ紙粉末(ADVANTEC、メッシュ:40−100、繊維長:150−400μm)を撹拌子で撹拌しながら100mLの超純水に分散させて分散物を得た。得られた分散物に、過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)をセルロース中のグルコース単位のモル数に対して0.5〜2当量の割合で、それぞれ添加した。NaIO添加後の分散物を、遮光しながら、オイルバス(50℃)中で4時間撹拌することによって、グルコース単位中の3位と4位の間で開環させ、アルデヒド化セルロースを含有する反応物を調製した。
【0096】
次に、上記反応物を減圧濾過することによって未反応のNaIO等を含有する水溶液を除去し、得られた固形分を超純水で洗浄した。この操作を3回繰り返すことで洗浄を行い、最後に凍結乾燥することで、アルデヒド化セルロースの乾燥粉末を得た。生成されたアルデヒド基量(アルデヒド化セルロースの乾燥粉末質量に対するアルデヒド基量)を、中和滴定法によって定量した。結果を表1の「アルデヒド基量」の欄に示した(単位はmmol/gである)。
【0097】
次に、得られたアルデヒド化セルロースに特定置換基を導入した。具体的には、特定化合物としてアレンドロン酸を用い、還元アミノ化反応を用いて、pCNFを合成した。
具体的には、まず、上記アルデヒド化セルロースの乾燥粉末の1gを200mLの炭酸水素ナトリウム水溶液(0.2M、pH=8)に分散させ分散液を得た。
次に、上記分散液に対して、アレンドロン酸(東京化成工業社製)を加えた。アレンドロン酸の添加量については表1に示したとおりである。なお、表1中の「アレンドロン酸」の欄に記載した数値は、アルデヒド基1モルに対して、添加したアレンドロン酸のモル量(表中には「当量」と記載した。)を表している。
【0098】
次に、アレンドロン酸を加えた分散液を、室温で1時間、攪拌しながら反応させた。次に、反応後の分散液に、エタノールに溶解した2−ピコリンボラン(純正化学株式会社製)を添加した。2−ピコリンボランの添加量は表1に示したとおりである。
次に、2−ピコリンボランを添加した分散液を、室温で16〜24時間、攪拌しながら反応させ、反応生成物を含有する溶液を得た。得られた溶液から、4000rpm、30分の遠心分離によって反応生成物を回収した。次に、回収した反応生成物を炭酸水素ナトリウム水溶液とエタノールとの等量混合溶媒によって洗浄した。この操作を3回行うことで、反応生成物中の未反応物を除去した。次に、反応生成物をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)でさらに1回洗浄した後に、超音波ホモジナイザ(150W、40kHz、60%パワー、BRANSON)によって10〜30分間ホモジナイズし、pCNFを得た。
【0099】
なお、アレンドロン酸の添加量がアルデヒド基に対して0.5当量、すなわち、50モル%であって、かつ、アルデヒド基量が0.78mmol/gであった合成例1の場合は、pCNFが得られなかった(なお表中、pCNFの形成「A」と記載されているのはpCNFが得られたこと、「B」と記載されているのは、pCNFが得られなかったことを表す。)。これは、セルロースがナノ化されるための静電反発が十分ではなかったことによるものと考えられる。
【0100】
各アルデヒド化セルロースのグルコース単位の開環割合、及び、アルデヒド基量は公知の滴定法により測定した。結果を表1に示した。
表1から分かるように、グルコース単位に対する過ヨウ素酸ナトリウムの仕込み量を0.5〜2当量まで変化させることで、開環するグルコース単位およびそれによって生成するアルデヒド基の量を制御することができる。
【0101】
【表1】
【0102】
<合成された特定変性セルロースナノファイバの同定>
図1には、pCNF、及び、アレンドロン酸のH核磁気共鳴スペクトル(H NMR)を示した。図1によると、pCNFにおいて、2ppm、及び、3ppm付近にアレンドロン酸のメチレン基に由来するピークが観察された(図1中にa及びbにより示した。)。これによりアルデヒド化セルロースにアレンドロン酸が導入されたことが確認された(図1)。
【0103】
また、図2には、pCNF、及び、アルデヒド化セルロースの31P核磁気共鳴スペクトル(31P NMR)を示した。図2によると、pCNFにおいて、16ppm付近にアレンドロン酸中のリンに由来するピークが観察されたことからアレンドロン酸の導入が確認された(図2)。
【0104】
<電子顕微鏡観察>
図3には、pCNFの走査型電子顕微鏡観察により取得した画像を示した。図3によれば、pCNFは繊維の直径(短径)が数nm〜100nmであり、アスペクト比(繊維長/繊維径)については、約10〜500であった。
【0105】
<エネルギー分散X線分光法>
図4には、pCNFのエネルギー分散X線分光法(EDX)の測定結果を示した。図4によれば、pCNFはリンを含有し、アレンドロン酸が導入されていることを確認した。
【0106】
<チキソトロピー性>
図5には、粘弾性測定装置(Rheoplus、アントンパール社)を用いて、濃度6%(pCNFの含有量(g)/分散溶媒の含有量(mL)×100)のpCNFの分散液(分散溶媒はPBS、pH=7)のせん断速度に対するせん断応力、及び、粘度の変化を測定した結果を示した。上記測定においては、直径10mmの円盤状の治具でpCNFを固定し、測定を行ったところ、せん断速度の増加に伴い、せん断応力が増加し、その後一定になった。また、粘度に関しては、低下した。
【0107】
これらの結果より、pCNFはチキソトロピー性を有することが示された。
なお、チキソトロピー性とは、せん断に対して粘度が低下し、負荷を止めると再び粘度が回復する性質のことであり、シリンジ等を用いたインジェクタブル材料に非常に適した性質である。
【0108】
<ヒドロゲルの調製>
次に、作成したpCNFとカルシウム塩とを混合して、ヒドロゲルを作成した。
【0109】
カルシウム塩として塩化カルシウム溶液を用いる場合には、任意の濃度のpCNFの分散液(PBS、pH=7)の周囲に100mMの塩化カルシウム水溶液を加えることでヒドロゲルが得られる。
【0110】
カルシウム塩として硫酸カルシウムを用いる場合には、任意の濃度のpCNFの分散液(PBS、pH=7)に任意の濃度の硫酸カルシウムを混合し、24時間静置することでヒドロゲルが得られる。
【0111】
リン酸三カルシウム(α−TCP、及び、β−TCP)を用いる場合には、任意の濃度のpCNFの分散液(PBS、pH=7)に任意の濃度のリン酸三カルシウムを混合し、24時間静置することでヒドロゲルが得られる。
【0112】
<電子顕微鏡観察>
図6には、pCNFとカルシウム塩とを含有するヒドロゲルの電子顕微鏡写真を示した。図6によれば、ヒドロゲルは多数のpCNFからなる数十ナノメートルのポアを有する構造であることが明らかとなった。
【0113】
<粘弾特性>
図7には、粘弾性測定装置を用いて、周波数に対するヒドロゲルのせん断弾性率の変化を測定した結果を示した。
また、図8には、粘弾性測定装置を用いて、ひずみに対するヒドロゲルのせん断弾性率の変化を測定した結果を示した。
なお、評価に用いたヒドロゲルは、濃度6%(pCNFの含有量(g)/分散液の含有量(mL)×100)のpCNFの分散液(分散溶媒はPBS、pH=7)100μLを粘弾性測定装置のステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ後、100mMの塩化カルシウム水溶液を、周囲に2mL添加し、その場でゲル化反応を行って得たものである。
【0114】
測定中、ステージの温度は25℃で保持し、測定時の周波数は1Hz(図8)、ひずみは1%(図7)で実験を行った。
ゲル化反応開始から1時間後に、周波数変化、及び、ひずみ変化に対するせん断弾性率の変化を測定したところ、周波数変化に対しては、せん断弾性率は一定であり(図7)、ひずみの変化が0.1%から10%の範囲においては線形の粘弾特性を示すことが分かった(図8)。
【0115】
<超音波処理の効果>
pCNFは、その製造工程において、ホスホン酸基の電荷反発によって、微細化されるものと推測される。
更に、pCNFの製造工程中、pCNFを含有する分散液に超音波照射、及び/又は、ミキサー等撹拌の機械刺激を加えることによって、pCNFを更に微細化できるものと推測される。
図9には、超音波照射(60%power、30分間)を行う前後での、濃度5%(pCNFの含有量(g)/分散溶媒の含有量(mL)×100)のpCNFの分散液(PBS、pH=7)を100mMカルシウム水溶液を用いてゲル化させたヒドロゲルのせん断弾性率測定結果の比較を示した。
図9によれば、超音波照射によって、せん断弾性率が約1.5倍になることが分かった。これは、pCNFが更に微細化(ナノ化)することによってヒドロゲルゲル内により均一に分散したためと考えられる。
【0116】
<pCNFの含有量とアレンドロン酸(当量)の粘弾特性への影響>
濃度0.8〜6.5%(pCNFの含有量(g)/溶媒の含有量(mL)×100)のpCNFの分散液(PBS、pH=7)100μLを粘弾性測定装置のステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ。
100mMの塩化カルシウム水溶液を周囲に2mL添加し、その場でゲル化反応させ、ヒドロゲルを得た。
【0117】
測定中、ステージの温度は25℃、測定時の周波数は1Hz、ひずみは1%で実験を行った。反応開始から1時間後に、分散液中におけるpCNFの濃度が図10に記載したとおりになるように調製して得られたヒドロゲルのせん断弾性率を測定したところ、pCNFの濃度の増加に伴ってせん断弾性率が増加していることが明らかとなった(図10)。
更に、pCNFを作製する際のアレンドロン酸の仕込み比を0〜10まで変化させたところ、アレンドロン酸の仕込み比の増加に伴ったせん断弾性率の増加が見られたことから、導入したホスホン酸基によって架橋反応が引き起こされていることが示された。結果を図11に示した。
【0118】
<その他の変性セルロースナノファイバとの比較>
ホスホン酸基のカルシウム架橋によって形成されるヒドロゲルの粘弾特性をその他の変性セルロースナノファイバで作製したゲルと比較した。結果を図12に示した。
濃度2%のOH−CNF(ヒドロキシ基変性CNF、ビンフィス、スギノマシン社)、濃度6.5%のpCNFの分散液(PBS、pH=7、図12中では「Bis−pCNF」と記載した。)、濃度5%のモノリン酸基で修飾したpCNF(Mono−pCNF)の分散液(PBS、pH=7)のそれぞれ100μLを粘弾性測定装置のステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ。
次に、100mMの塩化カルシウム水溶液を周囲に2mL添加し、その場でゲル化反応させ、ヒドロゲルを得た。
測定中、ステージの温度は25℃、測定時の周波数は1Hz、ひずみは1%で実験を行った。反応開始から1時間後に、各濃度の変性CNFで作製したヒドロゲルのせん断弾性率を測定したところ、OH−CNFと比較して、Mono−pCNF、及び、Bis−pCNFを用いて作成したヒドロゲルは、より優れたせん断弾性率を有していることがわかった(図12)。また、Mono−pCNFとの比較では、Bis−pCNFを用いて作成したヒドロゲルは、更に優れたせん断弾性率を有していることがわかった。これらの結果より、Mono−pCNF、及び、Bis−pCNFを用いたヒドロゲルでは、ホスホン酸基が効果的にカルシウムイオンと配位しており、結果として、より優れた力学強度を有するヒドロゲルが得られることが明らかとなった。
【0119】
<チキソトロピー性>
濃度6.5%(pCNFの含有量(g)/溶媒の含有量(mL)×100)のpCNFの分散液(PBS、pH=7)100μLを粘弾性測定装置のステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ。次に、100mMの塩化カルシウム水溶液を周囲に2mL添加し、その場でゲル化反応させてヒドロゲルを得た。
【0120】
測定中、ステージの温度は25℃に保持し、測定時の周波数は1Hzとした。
反応開始から1時間後に、ひずみを5分毎に1%、100%と変化させたときの弾性率を図13に示した。図13によれば、ひずみを1%から100%へと増加させると貯蔵弾性率(G′)が大きく低下し、再びひずみを1%に戻すと、貯蔵弾性率が回復することが分かった(図13)。
この結果より、ヒドロゲルはチキソトロピー性を有していることが明らかとなった。
【0121】
<pCNFと硫酸カルシウムとを含有するヒドロゲルの粘弾特性>
濃度5%(pCNFの含有量(g)/溶媒の含有量(mL)×100)のpCNFの分散液(PBS、pH=7)100μLと、硫酸カルシウム粉末とを混合し、ヒドロゲル中における硫酸カルシウム(CaSO)の濃度(硫酸カルシウムの含有量(g)/溶媒の含有量(mL)×100)がそれぞれ0.5%、1%、2%、4%、及び、10%となるように混合液を作成した。上記混合液を、それぞれ粘弾性想定装置のステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ。
すなわち、ヒドロゲル中におけるpCNFを濃度5%とし、ヒドロゲル中における硫酸カルシウムの濃度を0.5〜10%にそれぞれ調整したヒドロゲルを調製した。
【0122】
測定中、ステージの温度は25℃に保持し、周波数は1Hz、ひずみは1%で実験を行った。反応開始から30分後に、ヒドロゲルのせん断弾性率を測定した。結果を図14に示した。
【0123】
図14によれば、硫酸カルシウムの濃度の増加に伴って、ヒドロゲルのせん断弾性率は増加していることが明らかとなった。なかでも、硫酸カルシウムの濃度が、1〜10%であると、ヒドロゲルはより優れたせん断弾性率を有し、2〜10%であると、ヒドロゲルは更に優れたせん断弾性率を有し、3〜7%であると、ヒドロゲルは特に優れたせん断弾性率を有することがわかった。
特に4%硫酸カルシウムを用いたヒドロゲルが最も安定していた。
【0124】
次に、濃度1〜9%(pCNFの含有量(g)/溶媒の含有量(mL)×100)のpCNFの分散液(PBS、pH=7)100μLと硫酸カルシウム粉末(ヒドロゲル中の濃度が4%となるような量、すなわち、硫酸カルシウムの含有量(g)/溶媒の含有量(mL)×100が4%となるような量)を混合し、レオメーターのステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ。測定中、ステージの温度は25度、測定時の周波数は1Hz、ひずみは1%で実験を行った。反応開始から30分後に、ゲルのせん断弾性率を測定したところ、濃度の増加に伴ってせん断弾性率が増加していることが明らかとなった。結果を図15に示した。
【0125】
なかでも、pCNFの濃度が、2.0〜8.0%であると、ヒドロゲルはより優れたせん断弾性率を有し、3.0〜8.0%であると、更に優れたせん断弾性率を有し、4.0〜8.0%であると、特に優れたせん断弾性率を有することがわかった。
特にpCNFの濃度が5%のとき、ヒドロゲルは最も安定していた。
【0126】
<β−リン酸三カルシウムで架橋したpCNFゲルの粘弾特性>
濃度5%(pCNFの含有量(g)/溶媒の含有量(mL)×100)のpCNFの分散液(PBS、pH=7)100μLに、ヒドロゲル中における濃度がそれぞれ10%、20%、及び、50%(β−リン酸三カルシウムの含有量(g)/溶媒の含有量(mL)×100)となるようβ−リン酸三カルシウム粉末を混合し、粘弾性測定装置のステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ。
測定中、ステージの温度は25℃に保持し、測定時の周波数は1Hz、ひずみは1%で実験を行った。反応開始から30分後に、ヒドロゲルのせん断弾性率を測定した。結果を図16に示した。
【0127】
図16によると、ヒドロゲル中におけるβ−TCPの濃度の増加に伴ってせん断弾性率が増加していることが明らかとなった。
なかでも、ヒドロゲル中におけるβ−TCPの濃度が、10〜50%であると、より優れたせん断弾性率を有するヒドロゲルが得られ、15〜45%であると、更に優れたせん断弾性率を有するヒドロゲルが得られることがわかった。特にヒドロゲル中におけるβ−TCPが20%であると最も安定していた。
【0128】
次に、濃度1〜9%のpCNF(pCNFの含有量(g)/溶媒の含有量(mL)×100)の分散液(PBS、pH=7)100μLとβ−リン酸三カルシウム粉末(ヒドロゲル中の濃度が20%となるような量、すなわち、ヒドロゲル中におけるβ−リン酸三カルシウムの含有量(g)/溶媒の含有量(mL)×100が20%となるような量)を混合し、レオメーターのステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ。測定中、ステージの温度は25度、測定時の周波数は1Hz、ひずみは1%で実験を行った。反応開始から30分後に、ゲルのせん断弾性率を測定した。結果を図17に示した。
図17によれば、pCNFの濃度の増加に伴ってせん断弾性率が増加していることが明らかとなった。なかでも、pCNFの濃度が、2.0〜8.0%であると、ヒドロゲルはより優れたせん断弾性率を有し、3.0〜8.0%であると、更に優れたせん断弾性率を有し、4.0〜8.0%であると、特に優れたせん断弾性率を有することがわかった。
特にpCNFの濃度が5%pCNFであるヒドロゲルが最も安定していた。
【0129】
<疑似体液中でのアパタイト形成>
疑似体液とは、ヒトの血漿に近い無機イオン組成、含有量を有する水溶液を意味し、疑似体液中にヒドロゲルを浸漬することによって、ヒドロゲルが生体内でどのような表面構造の変化を生ずるかを比較的正確に再現することができる。
【0130】
超純水に塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸水素二カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、及び、トリスヒドロキシメチルアミノメタンを溶解することで、各種イオン濃度が次のようになるよう疑似体液を調製した。
【0131】
ナトリウムイオン:142mM、カリウムイオン:5mM、マグネシウムイオン:1.5mM、カルシウムイオン:2.5mM、塩化物イオン:148.8、炭酸水素イオン:4.2mM、リン酸イオン:1mM、硫酸イオン:0.5mM。
【0132】
未処理のガラススライド、及び、ガラススライドに濃度1%のpCNFをキャストして作製したpCNFフィルムを疑似体液に浸漬し、37度で4週間静置した。
上記の2つの試料を走査型電子顕微鏡観察した結果を、図18(ガラススライド)、図19(pCNF)に示した。図18、及び、図19を見ると、pCNFフィルム上にのみアパタイト形成が見られていた。pCNFのホスホン酸基によってアパタイトの核形成が誘起され、アパタイトの結晶成長が起こったためであり、生体内においても体内のイオンによってアパタイトを形成し、高い骨伝導能を獲得すると期待される。
【0133】
同様に、固液比1.8で作製したα−リン酸三カルシウムプレート、及び、濃度5%のpCNFを混合したα−リン酸三カルシウムプレートコンポジット(ヒドロゲルに該当する)に関しても疑似体液に浸漬し、37度で2週間静置した。
上記の2試料について、走査型電子顕微鏡観察した結果を図20(α−TCP)、及び、図21(ヒドロゲル)に示した。
図20、及び、図21を見ると、pCNFを混合したコンポジット(ヒドロゲル)のみにアパタイト形成が見られた。更に、X線回折測定(図22)より、アパタイトに特徴的なピークが検出されたことから、コンポジット表面にアパタイトが形成されていることが確認された。
【0134】
<ヒドロゲルの骨に対する接着性評価>
ヒドロゲルの骨に対する接着性を評価するために、接着試験装置のステージと治具に象牙切片を接着剤を用いてそれぞれ固定し、ヒドロゲルを両側から挟み込むことで、接着性を評価した。
直径10mmの象牙切片(Wako)を直径10mmの治具とステージにそれぞれ固定し、その間に、濃度5%のpCNFの分散液(PBS、pH=7)100μLと、100mgのβ−リン酸三カルシウム粉末を混合したヒドロゲルを置いた。
10Nで1分間圧着した後に、治具を引き上げることで接着強度を求めた。結果を図23に示した。その結果、ヒドロゲル(図23中、「β−TCP+pCNF」と記載した。)は、pCNF未添加のβ−TCPと比較して骨に対する接着強度が大幅に上昇した(図23)。このことから、ヒドロゲルは、骨欠損部へ注入後にホストの骨組織に強く接着することが示された。
【0135】
<pHがpCNFゲルの安定性に与える影響>
濃度5%のpCNFの分散液(PBS、pH=7)100μLと硫酸カルシウム粉末を混合し(ヒドロゲル中の濃度4%)、直径10mmのシリコンモールドにいれ、37度で24時間静置することでゲル化させ、ヒドロゲルを得た。
その後、pHを2〜9まで調製したPBSにヒドロゲルを浸漬し、37度で24時間静置した。次に、ヒドロゲルを粘弾性測定装置のステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ。
測定中、ステージの温度は25℃に保持し、測定時の周波数は1Hz、ひずみは1%で実験を行った。結果を図24に示した。
【0136】
図24に示した結果から、pHが6以上であると、ヒドロゲルはより優れたせん断弾性率を有していることがわかった。
これは、ホスホン酸基がよりプロトン化しにくく、結果として、カルシウムとの結合がより強くなり、架橋構造が強固になったためであると考えられる。
実際、アレンドロン酸のpK1は2.5、pK2は6.5であることからも上記の推定は支持される。
【0137】
一方で、生体の破骨細胞は、酸を産生することで局所的なpHを4.7〜6.8へ低下させることが知られており、そのようなpH領域では、図24に示したとおり、ヒドロゲルのせん断弾性率はより低下するため、ヒドロゲルがより分解されやすくなるものと推測される。つまり、ヒドロゲルは破骨細胞によって分解されると予想される。
【0138】
<pCNFが細胞機能に与える影響>
pCNFを細胞培養液中に分散させ、培養細胞に与えることで、細胞機能に与える影響をin vitro試験で評価した。
RAW264.7細胞、MC−3T3−E1細胞(理研)は、MEM−α培地(10%ウシ胎児血清、1%ペニシリンストレプトマイシン)を用いて37℃、5%COのインキュベーターで培養した。5×10個のRAW264.7細胞とMC−3T3−E1細胞を96ウェルプレートに播種し、24時間予備培養した。その後、pCNFの濃度が図25、及び、図26に記載したとおりとなるよう、懸濁させた培地を添加し、培養を継続した。pCNFを添加した日を0日目として、1日後に細胞数カウンティングキット(WST−8、DOJINDO)を用いて細胞数を定量した。すべての範囲で生存率は80%以上であり、高い細胞生存率を示した。
【0139】
<pCNFゲルに対する細胞接着>
濃度5%のpCNFの分散液(PBS、pH=7)100μLと硫酸カルシウム粉末とを混合したもの(ヒドロゲル中の濃度4%)、及び、濃度5%のpCNFの分散液(PBS、pH=7)100μLとβ−リン酸三カルシウム粉末を混合したものを、直径10mmのシリコンモールドにいれ、37℃で24時間静置することでゲル化させてヒドロゲルを得た。
次にヒドロゲルを48ウェルプレートに移し、1時間UV(紫外線)照射して滅菌した。次に2×10個のMC−3T3−E1細胞をヒドロゲル上に播種し、24時間培養した。その後、10%ホルマリンで15分間固定し、ローダミンラベル化ファロイジンを用いてアクチン染色およびDAPI(4′,6−diamidino−2−phenylindole)溶液を用いた核染色を行い、蛍光顕微鏡(BZ−X、キーエンス)によって蛍光観察を行った。その結果、どちらのヒドロゲルにおいても良好な細胞接着が確認された。結果を図27図29に示した。
【0140】
図27はポリスチレン培養皿上で上記細胞を培養したものを蛍光染色し、蛍光顕微鏡で観察した写真である。図28は、濃度5%のpCNFの分散液(PBS、pH=7)100μLと硫酸カルシウム粉末とを混合して得られた上記ヒドロゲル上で上記細胞を培養したものを蛍光染色し、蛍光顕微鏡で観察した写真であり、図28は濃度5%のpCNFの分散液(PBS、pH=7)100μLとβ−リン酸三カルシウム粉末とを混合して得られた上記ヒドロゲル上で上記細胞を培養したものを蛍光染色し、蛍光顕微鏡で観察した写真である。
【0141】
<pCNFによる破骨細胞分化の抑制評価>
pCNFを細胞培養液中に分散させ、破骨細胞の前駆細胞に与えることで、分化機能への影響をin vitro試験で評価した。
RAW264.7細胞は、MEM−α培地(10%ウシ胎児血清、1%ペニシリンストレプトマイシン)を用いて37℃、5%COのインキュベーターで培養した。1×10個のRAW264.7細胞を96ウェルプレートに播種し24時間予備培養した。
その後、50ng/mLのRANKL(オリエンタル酵母);50ng/mLのRANKLと各濃度のpCNF(0.32、1.25、2.5mg/mL);50ng/mLのRANKLと各濃度のアレンドロン酸(1、10mM);をそれぞれ培地に懸濁させ、RAW264.7細胞に添加した。
2日後に培地交換を行い、4日間培養した。TRAP(Tartrate−Resistant Acid Phosphatase)染色によって、破骨細胞を染色し、顕微鏡観察を行い、破骨細胞の面積を定量した。
【0142】
解析にはImageJを用いた。その結果、pCNFの濃度に依存した破骨細胞分化の抑制が確認された(図30)。この傾向は、破骨細胞分化を抑制することが知られているアレンドロン酸と同じであり、pCNFが細胞に取り込まれ、修飾したビスホスホネートが作用することで分化を抑制したと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
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