【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】本発明に係る触媒は、非晶質又は潜晶質のFe及びCoの複合金属酸水酸化物を備える。FeとCoの含有量の比(Fe:Co)は、モル比で0.05:0.95〜0.95:0.05であることが好ましい。
当該触媒を用いて金属空気電池を構成した場合に、4MのKOH水溶液中で測定した酸素発生反応における電極面積当たりの電流密度が、測定電位1.6V(vs.RHE)において、50mA・cm−2以上である
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の触媒。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)の更なる普及には、ガソリン自動車並の航続距離を実現する高エネルギー密度蓄電池の開発が必要不可欠である。現在、現状のリチウムイオン二次電池を超える「革新型蓄電池」の一つとして、金属空気電池が注目を集めている。金属空気電池とは、負極活物質として亜鉛等の金属、正極活物質として空気中の酸素を用いる二次電池をいう。このような金属空気電池は、非常に高い理論エネルギー密度を達成する可能性がある。金属空気電池、特に金属として亜鉛を用いた亜鉛空気電池は、国内外の研究機関で古くから研究開発が行われているが(例えば、非特許文献1、2)、現在のところ、本格的な実用化には至っていない。
【0003】
ところで、金属空気電池の空気極では、放電時には酸素(活物質)の4電子還元反応により水酸化物イオンが生成し、一方で、充電時には水酸化物イオンの4電子酸化反応により酸素が発生する。これら4電子の授受を伴う酸素還元反応(以下、「ORR」ということもある。)及び酸素発生反応(以下、「OER」ということもある。)は、速度論的に非常に遅い反応であることから充放電時に大きな過電圧が生じるため、ORR/OERを促進し得る高活性触媒が必要である。
【0004】
具体的に、金属空気電池の各電極における充電反応及び放電反応は、以下の(1)〜(4)の式のとおりである。なお、式(1)〜(4)においては、便宜のため、負極として亜鉛を用いた例を示している。
(正極)
充電反応(酸素発生反応):4OH
−→O
2+2H
2O+4e
− ・・・(1)
放電反応(酸素還元反応):O
2+2H
2O+4e
−→4OH
− ・・・(2)
(負極)
充電反応:ZnO+H
2O+2e
−→Zn+2OH
− ・・・(3)
放電反応:Zn+2OH
−→ZnO+H
2O+2e
− ・・・(4)
【0005】
ここで、金属空気電極においては、電解液として高濃度KOH水溶液の強アルカリ水溶液等を用いて、上記(1)、(4)式に関与する水酸化物イオンを供給する。そして、正極触媒は強アルカリ水溶液に浸漬されるため、優れた化学的安定性(特に、アルカリ耐久性)が求められる。
【0006】
正極触媒として、白金、酸化ルテニウム、酸化イリジウム等の貴金属系触媒が高いORR/OER活性を示すことが知られている。しかしながら、これらに含まれる貴金属は稀少で高価であることから自動車用蓄電池等の大規模な実用化は困難である。したがって、遷移金属等、資源的に豊富な元素を主成分とする汎用的な高性能ORR/OER活性を示す正極触媒の開発が強く望まれている。
【0007】
一方で近年では、正極触媒として、ペロブスカイト(ABO
3)型遷移金属酸化物の開発が進められている。これまで、ペロブスカイトABO
3構造における六配位(BO
6)八面体のBサイトのエネルギー準位がt
2g及びe
gに分裂した際、e
g電子数が1でORR/OER活性が極大となることが報告されている(例えば、非特許文献3、4)。しかしながら、このような設計指針では、正極触媒のORR/OER活性のみに着目しており、金属空気電池の実用化に必要である化学的安定性については考慮されていない。また、正極触媒として、これまでBO
6八面体配位構造を有するペロブスカイト型酸化物が主として研究されてきたが、他の金属−酸素配位構造を持つ化合物群については殆ど研究されていない。以上のような背景から、金属空気電池の動作環境下において実使用に耐え得る、有用な材料は見出されていない。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。
【0024】
<1.触媒>
本実施形態に係る触媒は、非晶質又は潜晶質のFe及びCoの複合金属酸水酸化物を備える。このような非晶質又は潜晶質のFe及びCoの複合金属酸水酸化物は、高い触媒活性を有する。特に、金属空気電池における正極反応において高いOER活性を有する。
【0025】
「非晶質」とは、結晶構造を完全に有しないものをいう。また、「潜晶質」とは、X線回折で弱い回折を示すものをいう。より具体的に、X線回折測定を行った場合において、得られた回折ピークの半値幅(2θ)が0.5°以上のものをいう。
【0026】
「酸水酸化物」とは、その構造中にO
2−(酸化物イオン)及びOH
−(水酸化物イオン)を有するものをいう。なお、このような酸水酸化物が水和したものを含む概念である。
【0027】
「金属複合酸水酸化物」とは、複数の金属、すなわちFe及びCoが偏析なく、均一に酸水酸化物を形成した酸水酸化物をいう。なお、偏析の有無は、10万倍のSEM−EDX分析を行った場合において、その像にFe又はCoの集中の有無により確認できる(
図6(b)参照)。
【0028】
したがって、「Fe及びCoの複合金属酸水酸化物」は、一般式(Fe
xCo
1−x)O
y(OH)
z又は(Fe
xCo
1−x)O
y(OH)
z・nH
2O(n,x,y,zは正の数)で表される。
【0029】
このような複合金属酸水酸化物において、FeとCoの含有量の比(Fe:Co)としては、特に限定されないが、モル比で0.05:0.95〜0.95:0.05であることが好ましい。このようにFe及びCoを複合的な酸水酸化物とすることにより、Fe単独の酸水酸化物やCo単独の酸水酸化物には見られない、優れた触媒活性が発現する。なお、本明細書において、FeとCoの含有量の比についての「A:B〜C:D」(A,B,C,Dは任意の数)とは、FeがA以上C以下の範囲、CoがB以上D以下の範囲で且つFeとCoの和が1となる比をいう。また、FeとCoの含有量の比は、試料を酸溶液に溶解させ、その溶液についてICP発光分光分析を行うことにより算出する。
【0030】
このように、FeとCoが複合的に酸水酸化物を構成しているものであれば、Fe単独の酸水酸化物やCo単独の酸水酸化物には見られない優れた触媒活性が発現するが、Feの量が多い酸水酸化物とCoの量が多い酸水酸化物とでは異なる性質を示す傾向にある。
【0031】
具体的に、Feの量が多い酸水酸化物では、その酸水酸化物を正極触媒として用いた場合に、酸素発生反応のTafel勾配が小さくなる。Tafel勾配は、電流を1桁変えるために要する電圧であり、この値が小さいほど電極触媒としての性能が高い。従来用いられているCo系ペロブスカイトを用いた正極触媒の酸素発生反応のTafel勾配は、約60mV・dec
−1であるが、本実施形態の複合金属酸水酸化物においては、FeとCoの含有量の比の範囲の殆どで、50mV・dec
−1を下回る。このTafel勾配をより低くする観点から、FeとCoの含有量の比(Fe:Co)としては、モル比で0.20:0.80〜0.95:0.05であることが好ましく、0.30:0.70〜0.92:0.08であることがより好ましく、0.50:0.50〜0.90:0.10であることがさらに好ましく、0.70:0.30〜0.88:0.12であることが特に好ましい。
【0032】
より具体的に、例えば、FeとCoの含有量の比(Fe:Co)が、モル比で0.75:0.25〜0.92:0.08の範囲では、酸素発生反応のTafel勾配が39mV・dec
−1以下と、非常に低い値を示す。
【0033】
また、Coの量が多い酸水酸化物では、その酸水酸化物を正極触媒として用いた場合に、酸素発生反応の開始電位が小さくなるとともに、電流密度が大きくなる。このように開始電位を小さくし、且つ電流密度を大きくする観点から、FeとCoの含有量の比(Fe:Co)としては、モル比で0.10:0.90〜0.90:0.10であることが好ましく、0.15:0.85〜0.70:0.30であることがより好ましく、0.20:0.80〜0.60:0.40であることがさらに好ましく、0.25:0.75〜0.50:0.50であることが特に好ましい。
【0034】
より具体的に、例えば、FeとCoの含有量の比(Fe:Co)が、モル比で0.20:0.80〜0.60:0.40であり、酸素発生反応の電流密度が、測定電圧1.6V(vs.RHE)において、70mA・cm
−2以上と非常に大きい値を示す。
【0035】
複合金属酸水酸化物の形状としては、特に限定されず、使用する触媒の仕様により、粒子状、バルク状等から適宜選択することができる。このうち粒子状のものを用いることが好ましい。
【0036】
粒子状の複合金属酸水酸化物を用いる場合、その比表面積としては、特に限定されず、例えば0.5m
2/g以上であることが好ましく、0.7m
2/g以上であることがより好ましく、1m
2/g以上であることがさらに好ましい。一方で、比表面積は大きいほど触媒活性が高くなるが、アルカリへの溶解がしやすくなるおそれもある。したがって、比表面積としては、1000m
2/g以下であることが好ましく、700m
2/g以下であることがより好ましく、500m
2/g以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書において「比表面積」とは、前処理装置(Microtrac BEL製BELPREP−vacII製)を用いて試料に前処理を施した後、その処理後の試料について比表面積/細孔分布測定装置(MicrotracBEL製BELSORP−miniII製)を用いてBET法により測定した値をいう。
【0037】
このような触媒を用いて金属空気電池を構成した場合に、回転ディスク電極を用いて回転数1600rpm、掃引速度1mV/sとして、4MのKOH水溶液中で測定した酸素発生反応における開始電位としては、1.60V(vs.RHE)以下であることが好ましく、1.54V(vs.RHE)以下であることがより好ましく、1.52V(vs.RHE)以下であることがさらに好ましく、1.50V(vs.RHE)以下であることが特に好ましい。なお、本明細書において「開始電位」とは、電極面積当たりの電流密度が5.0mAcm
−2に到達する電位をいう。
【0038】
このような触媒を用いて金属空気電池を構成した場合に、回転ディスク電極を用いて回転数1600rpm、掃引速度1mV/sとして、4MのKOH水溶液中で測定した酸素発生反応における電極面積当たりの電流密度が、測定電位1.6V(vs.RHE)において、50mA・cm
−2以上であることが好ましく、70mA・cm
−2以上であることがより好ましく、80mA・cm
−2以上であることがさらに好ましく、85mA・cm
−2以上であることが特に好ましい。
【0039】
このような触媒を用いて金属空気電池を構成した場合に、回転ディスク電極を用いて回転数1600rpm、掃引速度1mV/sとして、4MのKOH水溶液中で測定した酸素発生反応のTafel勾配が、例えば50mV・dec
−1以下であることが好ましく、45mV・dec
−1以下であることがより好ましく、42mV・dec
−1以下であることがさらに好ましく、40mV・dec
−1以下であることが特に好ましく、39mV・dec
−1以下であることが最も好ましい。
【0040】
複合金属酸水酸化物は、1種のみを単独で用いることも、2種以上を併用して用いることもできる。例えば、特にORR活性に優れる複合金属酸水酸化物と、特にOER活性に優れる複合金属酸水酸化物とを組み合わせて、ORR活性及びOER活性のいずれにも優れる正極触媒を得ることができる。同様の目的で、複合金属酸水酸化物の正極触媒と組み合わせて用いることもできる。
【0041】
このような触媒は、その表面における反応が重要であると考えられるので、例えば担体に粒子状として担持させて用いることができる。また、コアシェル構造粒子のシェル部として用いることができる。このような場合、担持担体やコアシェル構造粒子のコア部としては、その化学組成、結晶性・非結晶性、サイズ、形状等で限定されない。
【0042】
本発明の触媒は、上述した複合金属酸水酸化物を備えるものであれば、本発明の効果を損なわない範囲において、他の材料を含むことができる。具体的には、導電助剤、接着剤、プロトン伝導体等の各種材料を含むことができる。導電助剤としては、例えば、グラファイト(カーボンブラック)等を用いることができる。また、接着剤及びプロトン伝導体としては、ナフィオン(登録商標)を用いることができる。なお、触媒は、本発明の効果を損なわない範囲において、不純物を含むこともできる。
【0043】
このように、複合金属酸水酸化物は、酸素発生反応及び酸素還元反応の触媒能に優れる。特に、酸素発生反応の触媒能に極めて優れ、貴金属触媒RuO
2をも凌駕する触媒能を示し得る。以上では、主として空気金属電池の正極触媒としての用途について説明したが、本発明の触媒は、空気電池における酸素発生反応触媒や酸素還元反応触媒に限られず、他の酸素発生反応触媒や酸素還元反応触媒として用いることができる。なお上述したとおり、本発明の触媒は、特に酸素発生触媒として高い触媒活性を有している。また、酸素発生反応触媒のみ、又は酸素還元反応触媒のみに用いることもでき、酸素発生反応触媒及び酸素還元反応触媒両方に用いることもできる。具体的な用途としては、例えば、酸素発生反応触媒として、水を分解して水素を製造する光触媒の助触媒、水のアルカリ電解、電解めっき、電気防食等にも用いることができる。
【0044】
[複合金属酸水酸化物の製造方法]
複合金属酸水酸化物の製造方法としては、特に限定されず、例えばアルカリ沈殿法を用いることができる。以下、このアルカリ沈殿法について説明する。
【0045】
具体的に、このアルカリ沈殿法は、Fe及びCoの各イオンを含有する金属源水溶液を撹拌しながら、アルカリ水溶液を添加することにより、複合金属酸水酸化物を形成する。次に、得られた複合金属酸水酸化物を水や適切な有機溶媒で洗浄し、ろ過又は遠心分離により固体として回収し、乾燥させる。
【0046】
Fe源及びCo源としては、特に限定されず、例えば硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩化物等が挙げられる。Fe源及びCo源は、それぞれ同じ対イオンを有する塩であっても、異なる対イオンを有する塩であってもよい。
【0047】
金属源水溶液とアルカリ水溶液の混合時における金属源濃度(Fe源及びCo源の総和)としては、特に限定されないが、例えば0.01〜5Mであってよい。
【0048】
アルカリ水溶液としては、特に限定されず、アンモニア水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液等が挙げられる。
【0049】
金属源水溶液とアルカリ水溶液の混合時におけるアルカリ濃度としては、特に限定されないが、例えば0.1〜20Mであってよい。なお、金属源水溶液とアルカリ水溶液とを混合した状態において、混合液のpHを、例えば8以上に調整することが好ましく、10以上に調整することがより好ましい。
【0050】
Fe及びCoの各イオンを含有する水溶液と、アルカリ水溶液を混合時の液温としては、例えば10〜80℃であってよい。
【0051】
なお、このようにして得られた複合金属水酸化物は、例えば400℃以上で加熱処理を施すと、結晶化が進行し非晶質性や潜晶質性が失われる。このようにして非晶質性や潜晶質が失われると、活性が低下する。
【0052】
このように、本発明の複合金属酸水酸化物は、熱処理を要しない簡便でグリーンなプロセスにより、低コストで製造が可能である。また、複合金属酸水酸化物は、加温下、アルカリ条件で生成し得るものであることから、金属空気電池の動作条件においても安定に存在する、安定性の高い材料であると言える。
【0053】
以上のような製造方法により製造された複合材料は、触媒活性、特に酸素発生反応における触媒活性が高いものである。
【0054】
<2.正極触媒>
本実施の形態に係る正極触媒は、上述した触媒を活物質として備えることを特徴とするものである。
【0055】
正極触媒には、1種の触媒のみを単独で用いることも、2種以上の触媒を併用して用いることもできる。
【0056】
また、正極触媒には、本発明の効果を損なわない範囲において、他の材料を含むことができる。具体的には、導電助剤、接着剤、プロトン伝導体等の各種材料を含むことができる。導電助剤としては、例えば、グラファイト(カーボンブラック)等を用いることができる。また、接着剤及びプロトン伝導体としては、ナフィオン(登録商標)を用いることができる。
【0057】
<3.金属空気電池>
本実施の形態に係る金属空気電池は、上述した正極触媒を備えることを特徴とするものである。そして、このような金属空気電池は、充放電特性が高く、また、耐久性が高い。
【0058】
以下、具体的な金属空気電池の構成を、図を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る空気金属電池の断面図である。金属空気電池10は、上述した正極触媒を備えてなる正極1と、負極2と、電解質3とを備える。
【0059】
この金属空気電池10において、正極1と負極2は、電解質3を隔てて対向するように配置されている。
【0060】
図示しないが、一実施形態において、正極1は、正極触媒層及びガス拡散層により構成されている。ここで、正極触媒層はガス拡散層の電解質3側に、ガス拡散層は電解質と反対側にそれぞれ形成されている。なお、ガス拡散層は必須の態様ではない。
【0061】
正極触媒層は、上述した正極触媒を備えて構成される。正極触媒層は、例えば、担体や後述するガス拡散層上に、スラリーコート法、スプレーコート法、焼成法等の方法によって形成することができる。
【0062】
ガス拡散層としては、導電性と通気性を併せ持つ材料であれば特に限定されず、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト、金属メッシュ等を用いることができる。
【0063】
負極2は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、第一遷移金属、亜鉛及びアルミニウムから選ばれる元素を含む負極活性物質を含有する負極層で構成されている。アルカリ金属としては、例えば、Li、Na、K等が挙げられる。アルカリ土類金属としては、例えば、Mg、Ca等が挙げられる。第一遷移金属としては、例えば、Fe、Ti、Ni、Co、Cu、Mn、Cr等が挙げられる。負極活性物質としては、上述した元素から構成される金属、合金及び化合物等を用いることができる。負極活性物質として用いることができる化合物としては、具体的には、上述した元素の酸化物、窒化物、炭酸塩等が挙げられる。
【0064】
電解質3は、KOH水溶液、NaOH水溶液、LiOH水溶液等、アルカリ水溶液を含む。アルカリの濃度としては、特に限定されず、例えば、水酸化物イオンの濃度([OH
−])が、1〜10mol/L以上であることが好ましい。
【0065】
図示しないが、一実施形態において、正極1と負極2が接触して短絡することを防ぐために、正極と負極の間に(例えば、電解質3を隔てるようにして)セパレータを備えることができる。
【0066】
セパレータとしては、電解質の移動(透過)が可能な絶縁材料であれば特に限定されず、例えば、ポリオレフィン、フッ素樹脂等の樹脂からなる不織布又は多孔質膜を用いることができる。樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンが挙げられる。電解質が水溶液である場合には、これらの樹脂は、親水性化して用いることもできる。
【0067】
電解質3として、アルカリ金属等陽性な金属を含む水溶液を用いる場合、電解質として、水系電解液と金属負極を直接接触させることができず、負極2側については有機電解液を介する必要がある。この場合、例えば、正極1と負極2の間を固体電解質にて隔て、正極1側に水系電解液、負極2側に有機電解液を配置することができる。
【0068】
このような金属空気電池の形状(ケースの形状)としては、特に限定されるものではなく、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型等の形状のものを用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0070】
<試料の作製>
以下に示す方法により、正極触媒としての試料を作製した。原料としては、以下のものを用いた。なお、Fe(NO
3)
3、Co(NO
3)
2、KOHは純水に溶解させてそれぞれの濃度に調整して用いた。NH
3水は純水で濃度を調整して用いた。
Fe源:Fe(NO
3)
3・9H
2O(純度99.9%,富士フイルム和光純薬株式会社)
Co源:Co(NO
3)
2・6H
2O(純度99.9%,株式会社高純度化学研究所)
OH源:NH
3水(純度28%,富士フイルム和光純薬株式会社)
KOH(純度85%,富士フイルム和光純薬株式会社)
【0071】
〔実施例1〕
Fe 0.05M、Co 0.01Mを含有する金属源水溶液を、40℃、500rpmで加熱攪拌しながら、アルカリ水溶液として15MのNH
3水溶液を、金属源水溶液の20体積%となるように加えて沈殿を形成させた。得られた沈殿を洗浄・回収し、80℃で乾燥させて粉末試料を得た。
【0072】
〔実施例2〕
金属源水溶液として、金属源濃度がFe 0.05M、Co 0.05Mである水溶液を用いた以外、実施例1と同様にして粉末試料を得た。
【0073】
〔実施例3〕
金属源水溶液として、金属源濃度がFe 0.05M、Co 0.25Mである水溶液を用いた以外、実施例1と同様にして粉末試料を得た。
【0074】
〔実施例4〕
アルカリ水溶液として、4MのKOH水溶液を用いた以外、実施例1と同様にして粉末試料を得た。
【0075】
〔実施例5〕
アルカリ水溶液として、4MのKOH水溶液を用いた以外、実施例2と同様にして粉末試料を得た。
【0076】
〔実施例6〕
アルカリ水溶液として、4MのKOH水溶液を用いた以外、実施例3と同様にして粉末試料を得た。
【0077】
〔比較例1〕
金属源水溶液として、金属源濃度がFe 0.10Mである水溶液を用いた以外、実施例1と同様にして粉末試料を得た。
【0078】
〔比較例2〕
金属源水溶液として、金属源濃度がCo 0.10Mである水溶液を用いた以外、実施例1と同様にして粉末試料を得た。
【0079】
<構造・形態評価>
各試料のXRDパターン(CuKα線源)を測定した。
図2は、実施例2、比較例1及び比較例2の試料のXRDパターンである。
図2から、実施例2及び比較例1の試料においては、特定の回折ピークを示さなかったことから、Fe/Coの混合系及びFe単独系では、非晶質又は潜晶質の材料が得られることが分かった。これに対し、比較例2の試料においては、帰属こそできないものの、ブロードな回折ピークを示したことから、Co単独系では、ある程度の秩序配列を有する材料が得られることが分かった。
【0080】
図3は、実施例1〜3の試料のXRDパターンである。また、
図4は、実施例4〜6の試料のXRDパターンである。Feが多い場合には、実施例1及び実施例4の試料において回折ピークに差が見られなかった。一方で、実施例5〜6の試料では、実施例2〜3の試料に比べてシャープな回折ピークを示したことから、Coが所定量以上になると、アルカリ水溶液としてKOH水溶液を用いた場合には、NH
3水溶液を用いた場合に比べてより結晶性に近い、長距離の秩序を有する材料が得られることが分かった。
【0081】
実施例2の試料についてSEM観察を行った。
図5(a),(b)は、それぞれ倍率の異なる実施例2の試料のSEM写真である。なお、
図5(b)は、
図5(a)において点線で囲んだ部分を拡大したものである。
図5から、粒径20nm以下の微細な粒子が、50〜300nmの凝集体を形成していることが分かった。
【0082】
実施例2の試料についてSEM−EDX分析を行った。
図6(a),(b)は、それぞれ倍率の異なる実施例2の試料のSEM写真及び元素マッピングである。これら
図6(a),(b)より、Fe及びCoが偏析しておらず、試料全体にわたって均一に存在していることが分かった。
【0083】
実施例1〜3及び実施例5の試料を酸溶液に溶解させ、その溶液についてICP発光分光分析測定を行い、各試料中のFe:Coモル比を測定した。表1に、実施例1〜3及び実施例5の試料の調製に用いたアルカリ化合物、金属源の仕込み比、及び試料中のFe:Coモル比を示す。アルカリ化合物がNH
3の場合には、金属源の仕込み比に比べて得られる試料中のFeが多くなるのに対し、アルカリ化合物がKOHの場合には、金属源の仕込み比と、試料中の金属比に大きな差が生じないことが分かった。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例2の試料について、大気下で示差熱熱重量分析(TG−DTA)を行った。
図6は、実施例2の試料の大気下におけるTG−DTA曲線である。実施例2の試料においては、熱処理により、18%の重量減少が認められた。この重量減少は、水として放出されたものによると考えられる。
【0086】
<ORR活性及びOER活性の評価>
対流ボルタンメトリー(Rotating Disk Electrode,RDE) 法により、実施例1〜6及び比較例1〜2の試料のORR活性及びOER活性の評価を行った。回転電極装置(RRDE−3A,BAS製)の作用電極を1600rpmで回転させ、ポテンショスタット(HZ−7000,北斗電工製又はVersaSTAT4,METEK製)と接続し、電解液に4MのKOH水溶液を用い、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。電極としては、以下のものを使用した。
作用電極(WE):5mmφガラス状カーボン(グラッシーカーボン,GC)電極
対電極(CE):コイル状白金(Pt)電極
参照電極(RE):アルカリ用参照電極(Hg/HgO/4M KOH)
【0087】
試料は、インク状にして作用電極上に塗布し、評価を行った。以下、具体的に説明する。
【0088】
(カーボンの前処理)
カーボンの前処理として、アセチレンブラック(Acetylene carbon black,99.99%,STREM CHEMICALS)を硝酸中で30分間超音波分散させた後、80℃で一晩加熱撹拌子し、ろ過乾燥後、粉砕した。
【0089】
(インク用溶媒の作製)
5%ナフィオン(商標登録)分散液(和光純薬工業)を水酸化ナトリウム・エタノール(EtOH)溶液で中和し、得られた中和液とエタノールを3:47の体積比で混合してインク用溶媒とした。
【0090】
(インクの作製)
サンプル瓶にインク用溶媒:アセチレンブラック:触媒(酸化物試料)=5mL:10mg:50mgの比で入れ、超音波分散させた。
【0091】
(作用電極へのインク塗布)
超純水とEtOHで洗浄したグラッシーカーボンにインクを20μL滴下し(触媒量:0.2mg)、完全に乾燥させた。
【0092】
(サイクリックボルタンメトリー測定)
サイクリックボルタンメトリー測定は以下の手順に従って、適時アルゴン又は酸素ガスフローを行った後に開始した。測定条件は以下の通りである。
(1)クリーニング(cleaning)測定(in Ar)
0.176V〜−0.324V vs.Hg/HgO,50mV/s,
30cycles
(2)バックグラウンド(BG)測定(in Ar)
0.176V〜−0.324V vs.Hg/HgO,1mV/s,
3cycles
(3)O
2バブリング
(4)ORR測定(in O
2)
0.176V〜−0.324V vs.Hg/HgO,1mV/s,
3cycles
(5)OER測定
0.176V〜0.776V vs.Hg/HgO,1mV/s,
3cycles
【0093】
以上のようにして得られたデータから、電位と電流密度の関係を図示し、触媒活性を評価した。なお、電位(電圧値)については可逆水素電極(Reversible hydrogen electrode,RHE)電位に換算し(U vs.RHE=U vs Hg/HgO+0.924V)、測定電位1.6V(vs.RHE)において得られた電流値とグラッシーカーボンの電極面積から電流密度を算出した。
【0094】
図8(a)は、実施例1〜3及び比較例1〜2の試料のORR反応における電流密度−電位曲線である。実施例1〜3の試料は、比較例2の試料に比べてORR活性が低いが、比較例1の試料に比べてORR活性が高いことが分かった。
【0095】
図8(b)は、実施例1〜3及び比較例1〜2の試料のOER反応における電流密度−電位曲線である。実施例1〜3の試料は、比較例1及び比較例2の試料に比べてOER活性が非常に高かった。実施例3の試料ではその中でも特に高いOER活性を示した。これらのことからFeとCoを共存させたことによる、OER活性への相乗的な効果が確認された。
【0096】
表2に、実施例1〜3及び比較例1〜2の試料の実施例1〜3及び実施例5の試料の調製に用いた金属源の仕込み比、及び試料中のFe:Coモル比、OERのTafel勾配、開始電圧及び電流密度を示す。実施例2の試料は、比較例1及び比較例2の試料に比べて非常に小さいTafel勾配を示すことが分かった。また、実施例2の試料のTafel勾配は、Co系ペロブスカイトのTafel勾配(約60mV・dec
−1)よりも非常に小さいことが分かった。
【0097】
【表2】
【0098】
<アルカリ水溶液の影響>
アルカリ水溶液中に含まれるアルカリ化合物の化学種による影響を検討するため、実施例2の試料と実施例5の試料とを比較する。
図9は実施例2及び実施例5の試料のOER反応における電流密度−電位曲線である。実施例2及び実施例5の試料は、XRDパターンで差異が確認されたが(
図3、
図4参照)、OER反応における電流密度−電位曲線では差異が確認されなかった。
【0099】
<熱処理の影響>
試料に対する熱処理の影響を検討するため、以下の実施例7〜9の試料を作製した。
【0100】
〔比較例3〕
実施例2と同様にして粉末を得た後、500℃で1時間加熱して、粉末試料を得た。
【0101】
〔比較例4〕
実施例2と同様にして粉末を得た後、800℃で1時間加熱して、粉末試料を得た。
【0102】
実施例2及び比較例3〜4の試料のXRDパターン(CuKα線源)を測定した。
図10は、実施例2及び比較例3〜4の試料のXRDパターンである。未加熱処理の実施例2の試料では確認されなかった回折ピークが、500℃、800℃で熱処理を施した比較例3〜4の試料では確認された。
図10より、比較例3〜4の試料では、熱処理によりスピネル型酸化物(Fe,Co)
3O
4に結晶化したと考えられる。
【0103】
実施例2及び比較例3〜4の試料について、「ORR活性及びOER活性の評価」の操作と同様にして、ORR活性及びOER活性を評価した。
【0104】
図11(a)は、実施例2及び比較例3〜4の試料のORR反応における電流密度−電位曲線である。実施例2の非晶質又は潜晶質の試料は、比較例3〜4の結晶質の試料とほぼ同等の電流密度を示した。
【0105】
図11(b)実施例2及び比較例3〜4の試料のOER反応における電流密度−電位曲線である。実施例2の非晶質又は潜晶質の試料は、比較例3〜4の結晶質の試料に比べて非常に高いOER反応を示すことが分かった。すなわち、試料が非晶質又は潜晶質性であることにより高いOER活性を示すことが実証された。