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特開2019-210523オーステナイト系ステンレス鋼及び原子炉内構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-210523(P2019-210523A)
(43)【公開日】2019年12月12日
(54)【発明の名称】オーステナイト系ステンレス鋼及び原子炉内構造物
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20191115BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20191115BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20191115BHJP
   G21C 7/10 20060101ALI20191115BHJP
   B22F 3/105 20060101ALN20191115BHJP
   B22F 3/16 20060101ALN20191115BHJP
   C22C 33/02 20060101ALN20191115BHJP
【FI】
   C22C38/00 302L
   C22C38/58
   G21D1/00 X
   G21C7/10 300
   B22F3/105
   B22F3/16
   C22C33/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-108244(P2018-108244)
(22)【出願日】2018年6月6日
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】石嵜 貴大
(72)【発明者】
【氏名】丸野 祐策
(72)【発明者】
【氏名】青田 欣也
(72)【発明者】
【氏名】ヤン インジャ
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA33
4K018BA17
4K018CA44
4K018DA18
4K018EA51
4K018EA60
4K018FA08
4K018KA28
(57)【要約】
【課題】
耐照射性及び機械的特性に優れた材料を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、平均結晶粒径20μm以下の柱状晶と、平均結晶粒径5.0μm以下の等軸晶の混粒組織からなり、前記混粒組織の中で柱状晶の面積比率は20%以上であり、全体の平均結晶粒径は5.0μm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均結晶粒径20μm以下の柱状晶と、平均結晶粒径5.0μm以下の等軸晶の混粒組織からなり、
前記混粒組織の中で柱状晶の面積比率は20%以上であり、
全体の平均結晶粒径は5.0μm以下であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項2】
請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼において、
母相はオーステナイト単相であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項3】
請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼において、
母相はオーステナイト相とフェライト相の混合相であり、
前記フェライト相の比率は20%以下であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼において、
重量比でCr:16〜26%、Ni:3.5〜26%、Si:0.1〜1.0%、Mo:0.01〜7.0%、Mn:0.1〜2.5%、C:0.01〜0.08%、O:0.01〜0.5%、N:0.01〜0.25%を含有し、かつ、Zr:0.1〜2.8%、Ti:0.1〜2.6%及び添加元素を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、
前記添加元素はZr、Ti、Ta、Hfのうちの1つ以上を含むことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項5】
請求項4に記載のオーステナイト系ステンレス鋼において、
前記添加元素がZrを含む場合にはZr:0.1〜2.8%、
前記添加元素がTiを含む場合にはTi:0.1〜2.8%、
前記添加元素がTaを含む場合にはTa:0.2〜5.0%、
前記添加元素がHfを含む場合にはHf:0.1〜4.7%を含有することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項6】
請求項4に記載のオーステナイト系ステンレス鋼において、
以下の式を満足することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
【数1】
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼において、
前記添加元素を主成分とする析出相を有し、
前記析出相の平均粒径20nm以下であり、
前記析出相の数密度は1.0×1021m-3以上であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項8】
請求項7に記載のオーステナイト系ステンレス鋼において、
前記析出相はアスペクト比1.5未満の楕円形または矩形状であることを特徴としたオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼で部品を構成することを特徴とする原子炉内構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉用制御棒、特に沸騰水型軽水炉に適用する上で好適な材料に関する。
【背景技術】
【0002】
オーステナイト系ステンレス鋼はCrの不動態被膜を表面に形成することによって腐食環境下において高い耐食性有しているため、構造材料の部品として多用されており、原子力プラントでは炉心シュラウドや再循環系配管などに用いられている。しかし、原子炉のような高温高圧水環境下においては応力腐食割れを発現し、更に原子炉内の中性子照射に曝され、照射欠陥が導入されることで結晶粒界でのCr欠乏が発生し照射誘起応力腐食割れを発現する可能性が指摘されている。そのため、照射誘起応力腐食割れ感受性を下げる目的で、耐照射性、耐応力腐食割れ性に優れた材料の開発が要求される。
【0003】
その対策として耐照射性を上げる手法として、結晶粒径の微細化や析出相を導入した材料開発が盛んである。
【0004】
結晶粒径の微細化は金属材料の機械的特性を向上させる手法として、広く研究されており、数μm以下、特に1μm以下とすることで特に機械的特性に優れる材料となることが知られている。特許文献1、2では、ステンレス鋼にメカニカルアロイング等の強加工を施し、超微細粒組織を有する粉末を固化成型しその組織を維持したままバルク化し高強度と共に靭性を確保する手法について記載されている。この手法では、数10nmオーダー微細な析出相を高密度で分散することで、結晶粒の粗大化を抑制するピンニングサイトとしての機能を持たせている。この発明は極めて微細な組織を得ることができる反面、材料の製造性および加工性については課題が多い。
【0005】
粉末を固化成型するというプロセス上作製される形状が限定的であり、丸棒や平板、円管等の限られた形状しか得ることができず、目的の形状を得るためには後加工が必須であるが、その高強度が故に加工性が悪く製造プロセスの長期可および製造コストの増大が問題となっており実用化には至っていないという現状がある。
【0006】
その他の微細結晶粒を得る手法として、急冷凝固プロセスを用いた結晶粒微細化手法が非特許文献1などで報告されている。この手法は溶鋼を急冷凝固することで作製されるため特許文献1および特許文献2に手法と比較して製造性および加工性に優れるというメリットがある。急冷凝固プロセスでは、金属材料が溶融凝固する過程において、溶鋼にTi窒化物相が生成し、これを凝固の核とすることで凝固組織が微細化すると考えられている。この手法により形成する析出相の窒化物は最大で1.0μmを越えるサイズであり機械的特性、特に靭性を低下させる要因となることが危惧される。また、オーステナイト系ステンレス鋼を急冷凝固させた場合、δフェライト相が生じる。δフェライト相はオーステナイト相と比較し強度特性に優れる反面、延性が低く材料全体の靭性を低下させる要因となる。このδフェライトは950℃以上の熱処理ではオーステナイトに回復するため熱処理が広く行われるが、この際に結晶粒の粗大化が発生することが問題となる。これは析出相である窒化物の粒径が大きいためピンニングサイトとして十分な効果を発揮しないためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−337853号公報
【特許文献2】特開2002−285289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
耐照射性及び機械的特性に優れた材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、平均結晶粒径20μm以下の柱状晶と、平均結晶粒径5.0μm以下の等軸晶の混粒組織からなり、前記混粒組織の中で柱状晶の面積比率は20%以上であり、全体の平均結晶粒径は5.0μm以下である。
【発明の効果】
【0010】
耐照射性及び機械的特性に優れた材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】結晶粒径と照射欠陥濃度の関係
図2】入熱量とフェライト割合の関係
図3】入熱量と充填率の関係
図4】各試験片の硬さ測定結果
図5】各試験片の引張試験結果
図6】No.3の試験片のEBSD観察結果
図7】No.3の材検篇の結晶粒径分布
図8】No.3の試験片の熱処理温度とフェライト量の関係
図9】No.3の試験片及び市販材の熱処理温度と平均結晶粒径の関係
図10】No.3の試験片の熱処理前後の組織比較
図11】No.3の試験片のTEM観察結果
図12】No.3の試験片の抽出レプリカサンプルのTEM観察結果
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係る分散強化型オーステナイト系のステンレス鋼は重量比で以下の組成を有する。Cr:16〜26%、Ni:3.5〜26%、Si:0.1〜1.0%、Mo:0.01〜7.0%、Mn:0.1〜2.5%、C:0.01〜0.08%、O:0.01〜0.5%、N:0.01〜0.25%、添加元素を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる。添加元素はZr、Ti、Ta、Hfのうちの1つ以上であり、Zrは0.1〜2.8%、Tiは0.1〜2.6%、Taは0.2〜5.0%、Hfは0.1〜4.7%の範囲にあることが望ましい。添加元素は不純物元素と共に析出相を形成する。
【0013】
結晶粒を微細化するため上記組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼を急速溶融急速凝固させる。急速溶融、急速凝固の過程で添加元素は不純物元素であるO、C、Nなどと化合し析出相を形成し、母相を高純度化すると共に凝固組織の核となることで結晶粒の微細化に貢献する。
【0014】
金属材料を急速溶融、急速凝固させる手法として電子ビームやレーザといった高エネルギーを局所的に加える必要がある。この時溶融させる体積が大きいと十分な溶融速度および凝固速度が得られないため、溶融させる体積は小さくさせる必要がある。具体的な手法として1mm以下、好ましくは100μm以下の薄い鋼板や合金粉末を一定の領域に敷き詰め、電子ビームやレーザにより高エネルギーを加え局所的に溶融および凝固させる。目的の領域を一通り溶融凝固した後に、再び鋼板や合金粉末を敷き詰め電子ビームやレーザを用いて高エネルギーを加える。この過程を繰り返すことでバルクの材料を得ることが可能である。この時の溶融速度および冷却速度はそれぞれ1.0×103[℃/sec]以上であることが好ましい。
【0015】
結晶粒径を微細にすると、照射欠陥の消滅サイトである結晶粒界が多量に導入されることで、照射欠陥濃度を低下させることができる。
【0016】
図1は結晶粒径と照射欠陥濃度の関係を示す。結晶粒径5.0μm以下では照射欠陥濃度の低下が始まる。そのため平均結晶粒径は5.0μm以下が好ましい。また平均結晶粒径5.0μmという値は結晶粒微細化による高強度化という観点からも好ましい。結晶粒径と機械的強度の関係はhall-petchの関係式が経験的に成り立ち、引張強さは結晶粒が微細であるほど高くなり、鉄においては5μmほどまで微細化すると高強度化の効果が顕在化すると言われている。この二つの観点から本実施形態に係るステンレス鋼の平均結晶粒径は5.0μm以下とした。
【0017】
急冷凝固組織では柱状晶を形成することが知られている。柱状晶は短軸方向と長軸方向で強度特性が変わることや、長軸方向に沿った破壊が進展しやすいなどの課題があるため、柱状晶の割合は低い方が好ましい。き裂が柱状晶の長軸方向に沿って進展する場合を考えた時、これを柱状晶が連続せず、等軸晶が間に入り柱状晶連結を不連続可することでき裂の進展を抑えることができると考えられる。粒界性格制御等の観点では、特定の性格の粒界の割合が80%を越えると、残りの20%の性格の粒界の連続性が失われるとされている。この観点から柱状晶の割合を20%以下とすることで柱状晶の連続性を失わせることができると考えられる。以上の理由により柱状晶の面積率は20%以下とする。この面積率は、析出相などは含まず母相のみの値から算出したものである。
【0018】
柱状晶の結晶粒径は長軸方向の長さで定義する。全体の平均結晶粒径が大きくなることを抑えるため可能な限り小さいことが好ましく、市販されているオーステナイト系ステンレス鋼の平均結晶粒径より小さく設定し、20μm以下とした。
【0019】
本実施形態のステンレス鋼は20%以下の柱状晶、残りの80%以上は等軸晶で構成される。この時柱状晶の割合と同じく析出相は含めない。等軸晶は全体の平均結晶粒径を微細化することや耐照射性および機械的特性を向上させるため、前述の理由により5.0μm以下とする。
【0020】
添加元素(Zr、Ti、Ta、Hf)は結晶粒の粗大化を抑制するピンニングサイトである析出物を形成させる目的で添加させる。これらの添加元素は材料中の不純物である酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)と化合し析出相を生成すると共に、溶融凝固時には結晶の核として働き結晶粒微細化に貢献する。析出相は微細であるほど結晶粒の粗大化を抑制する力が強いと共に核形成サイトとしても微細な方が好ましい。OrowanとAnsellのモデルによれば、析出物のサイズが微細かつ高密度であるほど良いとされている。結晶粒粗大化抑制の観点からは0.01μm以下で結晶粒のピン止め効果が発揮されると考えられている。結晶粒微細化の核形成サイトとしては前出の非特許文献1などによれば1.0μm程度でも十分効果があると述べられている。両者の効果を発揮させるためには0.01μm以下が必要と判断される。析出相の数密度は高いほど好ましくが、過剰に析出させると析出相間の母材領域が少なくなることで靭性を低下させる要因となる。本実施形態では以上のことを鑑み、析出物の平均粒径を20nm以下、最大を100nmとし、数密度を1.0×1021〜1.0×1024 /m3で分散している状態とする。
【0021】
析出相は円形、楕円形または矩形状で析出する。楕円形または矩形状の析出相は長軸方向と短軸方向を有するが、その比率であるアスペクト比が大きくなると材料異方性の要因となり好ましくない。そのため、楕円形または矩形状の析出相のアスペクト比を1.5未満とする。
【0022】
添加元素の量は母相中の不純物と化合した際に過不足なく添加されている状態が理想である。ここでは添加元素の中でZrを例にとって説明する。過剰に添加したZrは金属間化合物の生成を助長し機械的特性を悪化させる恐れがある。一方で過不足なく添加した場合においても一部のZrは母相中に固溶状態にある。この時母相のFeと比較してオーバーサイズ元素であるZrは、照射欠陥のトラップサイトとして働き、照射欠陥の再結合を促進し照射誘起偏析を抑制する効果があるため、照射誘起偏析によるCrの欠乏を抑制し、耐照射性および耐食性を向上させる効果がある。これらの効果はオーバーサイズ元素であるTi、Ta、Hfなどでも可能であり、かつTi、Ta、Hfは析出相を形成しやすいためZrの代用とすることが可能である。
【0023】
本実施形態の母相は好ましくはオーステナイト単相とするが、必要に応じて機械的特性を向上させることを目的として、急冷凝固過程で生じるフェライト相を残す。過剰にフェライト相を残すと靭性を低下させる要因となると共に、耐腐食特性を減少させる要因となるため好ましくない。本実施形態ではフェライト相の上限を20%として下限は0%としオーステナイト単相とする。
【0024】
必要に応じてフェライト相を導入するためには初晶フェライトからオーステナイトに変態させることが好ましく、化学組成を下記の範囲にする必要がある。
【0025】
【数1】
【0026】
急速溶融と急冷凝固によって生じたフェライト相は前記した靭性および耐腐食特性の観点から目的の特性に応じてフェライト量を調整する必要がある。その手法として熱処理を用いることが一般的である。450℃〜850℃の温度範囲においてδフェライトはオーステナイト化する一方でσ相に相分離することが広く知られている。σ相は一般に脆化相(有害相)として扱われるためこれらの温度域での熱処理は好ましくない。δフェライト低減のためには950℃以上の温度で熱処理することが好ましい。このとき冷却過程において450℃〜850℃の範囲に長時間保持するとオーステナイト化しなかった残留フェライトがσ相に相分離する可能性があるためこの温度域を急速に過ぎ去るように空冷、好ましくは水冷や油冷といった手法で冷却するのが良い。
【実施例】
【0027】
以下に本実施形態の材料が良好な特性を示すことを確認した実施例を示す。まず、表1に今回作製した材料の化学組成(重量比、%)を示す。今回、急速溶融および急冷凝固させる手法として金属粉末積層造形法を用いた。この手法では合金粉末を装置内に一層あたり50μm以下の厚さで敷き詰め、そこにレーザを照射し局所的に急速溶融および急冷凝固させる。一層に対して所定の範囲走査した後に、粉末が敷き詰められたステージを下げ再び合金粉末を敷き詰めレーザを照射し急速溶融および急冷凝固させる。この過程を繰り返しバルクの試料を得た。試作にはEOS社のM280を用いた。また比較材として表には示していないが市販されているSUS316LのJIS規格材を用いた。
【0028】
【表1】
【0029】
図2は造形時の入熱量とフェライト割合の関係を示す。記載データでは粉末はNo.1を用いている。入熱量の増加に伴ってフェライト割合が減少していることが分かる。
【0030】
図3は入熱量と充填率の関係を示す。充填率は入熱量と共に上昇し、0.3(J/mm)近傍でほぼ一定値となっている。
【0031】
図2においてフェライト割合が20%以下となり、図3において充填率を100%に近付ける入熱量として0.35(J/mm)を選択して試作した。
【0032】
図4に各試験片の硬さ測定の結果を示す。最も硬さが高いのがNo.1の試験片である。No.1〜5の試験片を比較すると、Zrの含有量が低下するにつれて硬さが低下する傾向にある。これは添加元素が減ることで析出相の量が低下しているためと考えられる。またTa、Tiを添加したものに関してはZrを同程度添加したものに比べて硬さが低い。いずれの試験片も市販材SUS316Lよりも高い硬さを示しており、本実施形態に係るステンレス鋼は硬さに優れることを示している。
【0033】
図5に各試験片の引張試験結果を示す。硬さと同様の傾向であり、最も高いのがNo.1でZrの添加量と共に減少する傾向であった。いずれの試験片も市販材SUS316Lよりも高い値を示しており、本実施形態に係るステンレス鋼が機械的特性も優れることが示されている。
【0034】
図6に本実施形態に係るステンレス鋼の代表組織としてNo.3の試験片のEBSD観察結果を示す。(a)が組織全体、(b)は組織全体からオーステナイト相のみを抽出した結果、(c)は組織全体からフェライト相のみを抽出した結果である。
【0035】
図7にNo.3の試験片の結晶粒径分布を示す。図6のように(a)(b)(c)の組織の画像を取得し、その画像から平均結晶粒径を計算した。表2に各試験片の全体、等軸晶及び柱状晶の平均結晶粒径を示す。いずれもおおむね同等の範囲に収まっている。
【0036】
【表2】
【0037】
図8はNo.3の試験片の熱処理温度とフェライト量の関係を示す。No.3の試験片を所定の温度で30分熱処理し、水冷した後に、試験片の硬さを調べた。フェライト量は熱処理温度650℃のときに大幅に低下しその後緩やかに減少する。
【0038】
表3に各試験温度で熱処理後に初晶δフェライトに対して硬さ試験を行った結果を示す。初晶δフェライトの硬さは、熱処理前において試験片全体の硬さ(270程度)と比較して高い傾向を示した。初晶δフェライトの硬さは、熱処理温度の上昇と共に上昇し、950℃で低下する。
【0039】
熱処理温度850℃までは試験片全体の硬さはオーステナイト相の影響で低下する。一方、δフェライトがσ相に分解しているため、初晶δフェライトの部分は硬さが上昇している。
【0040】
熱処理温度950℃ではオーステナイト相に相変態しているため、初晶δフェライト相の硬さと全体の硬さが同等になっている。
【0041】
【表3】
【0042】
図9はNo.3の試験片及び市販材の熱処理温度と平均結晶粒径の関係を示す。市販材SUS316Lにおいては熱処理により結晶粒が粗大化してしまう課題があった。本実施形態に係る試験片は熱処理を行っても平均結晶粒径が変化しておらず、従来の課題を解決できている。
【0043】
図10にNo.3の試験片の熱処理前後の組織比較を示す。本実施形態に係るステンレス鋼では、熱処理前後において組織変化がほとんどないことが分かる。
【0044】
図11にNo.3の試験片のTEM観察結果を示す。析出相は最も大きいもので約100nmであり、大部分は50nm以下の微細な析出相であることが分かる。
【0045】
図12にNo.3の試験片の抽出レプリカサンプルのTEM観察結果を示す。表4に各試験片の析出相の粒径と数密度を示す。析出相のサイズはZr添加量が多いほど大きく、数密度は下がる傾向にある。またTaおよびTiは、Zrと比較して粒径が小さく数密度が高いという結果が得られた。
【0046】
【表4】
【0047】
表5に本実施形態に係る試験片と比較材の全面腐食試験結果を示す。試験は軽水炉環境下(温度:288℃、圧力:8.0 MPa、溶存酸素:8ppm)で2000時間浸漬して行った。試験後に試料表面に生じた酸化物を除去し試料の重量を測定し溶出量を評価した結果を示す。溶出量は市販材であるSUS316Lの値を1とした際の相対値で示す。いずれの試験片においても浸漬試験の重量変化はSUS316Lよりも小さく、耐食性が良いことが示されている。
【0048】
【表5】
【0049】
高温高圧水環境中での応力腐食割れ感受性の評価を実施した。試験はCreviced Bent Beam(CBB)試験を採用した。試験環境は温度288℃、圧力8.0MPa、溶存酸素濃度8.0ppmで2000時間の浸漬試験を行った。試験員数は1試料に対して8本とした。試料の表面状態はシェーパー加工とし、最終熱処理は620℃で24h保持した後に空冷する鋭敏化熱処理とした。試験終了後に試験片表面に生じる割れ長さを測定した。割れの深さは40μm以上を割れとし、割れの数、割れの最大深さから評価を行う。
【0050】
表6に結果を示す。割れの発生数は本実施形態の方が少なく、SCC発生感受性が低いと考えられる。一方で、最大割れ深さについては従来材の方が浅い。本実施形態は強度特性に優れるため割れが発生した場合、き裂先端に発生する応力が高く進展が速いと考えられる。SCCを発生を抑えるという観点では本実施形態の方が優れていると言える。
【0051】
【表6】
【0052】
表7に本実施形態に係る試験片および比較材に対して、イオン照射試験を実施し、照射による硬さの変化量を測定した結果を示す。照射試験条件は、照射イオン:Fe3+イオン、エネルギー:6.4 MeV、温度:300℃で行い、損傷量は1.0dpaとした。硬さの測定はAgilent Technologies製のNano Indenter G200を用いた。照射試験はNo.2およびNo.3の試験片、比較材のSUS316Lに対して行った。本実施形態材の照射硬化量はいずれも比較材より小さい値を示した。結晶粒の微細化により、照射欠陥のシンクサイトが多量に導入されたためと考えられ、本実施形態材に係る試験片は耐照射性の観点から比較材よりも優れていると言える。
【0053】
【表7】
【0054】
本実施形態は原子炉環境で課題となる耐照射、耐SCC特性に優れる材料であると共に金属粉末積層造形法を用いることによって、様々な複雑構造物への適用が可能である。例として、原子炉の制御棒、炉心シュラウド、上部格子板といったオーステナイト系ステンレス鋼が使われている炉内構造物への適応が可能である。また、フェライトを形成することによって燃料支持金具や下部タイプレートといった二相ステンレス鋼を用いている部品に対しても適応可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12