【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 集会名:第68回日本木材学会大会、開催日:2018年3月14日〜16日 要旨集の掲載日:2018年3月5日 要旨集掲載ウェブサイト: http://conference.wdc−jp.com/jwrs/
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27〜29年度、農林水産省、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】 摩擦材と、板材と、締付具を備え、摩擦材が、木製で、一方部材と一体に、他方部材に対する対向部に沿って設けてあり、所定方向に延びる溝部を形成してあって、溝部の両側が挟持部になっており、両挟持部は木製の直交部を備え、板材が、金属製で、他方部材と一体に、一方部材に対する対向部に沿って設けてあり、所定方向に延びる長孔を形成してあって、摩擦材の溝部に挿入されて両挟持部に挟まれており、締付具が、一方部材と他方部材の対向部に沿って設けてあって、摩擦材の両挟持部と板材の長孔を貫通していて、両挟持部を互いに近づける方向に締め付けており、両挟持部が板材を両側から押圧し、締付具による圧締力の働く方向と直交部の繊維方向が平行であり、締付具による圧締力に直交して生じる摩擦力の働く方向と摩擦材の繊維方向が平行である。
一方部材は、木製の補強部材を備え、補強部材は繊維方向を交差させて薄板を積層した合板からなり、補強部材に長孔が設けてあり、合板の面方向は締付具による圧締力の働く方向と平行であることを特徴とする請求項2、4または5記載の摩擦ダンパ。
一方部材は、木製の補強部材を備え、補強部材は直交部を有し、直交部は長孔に沿って設けてあり、直交部の繊維方向は締付具の締め付け方向と平行であることを特徴とする請求項2、4または5記載の摩擦ダンパ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の発明において、摩擦材の繊維直交方向へのめり込みを用いた圧締力は木材塑性域の性質を利用したものであり、良好な応力緩和挙動を得ていたが、極端な高温高湿条件下に晒された場合には応力の低下が懸念された。長期的な圧締力維持の信頼性を高めるためには、過酷な条件下においても高い信頼性が必要であり、より信頼性の高い摩擦ダンパが求められていた。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みたものであり、木材を用いるものであって、長期的な圧締力維持の信頼性の高い摩擦ダンパおよびこの摩擦ダンパを設けた壁面体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のうち請求項1の発明は、所定方向に延びて対向し、振動により所定方向に相対移動する、一方部材と、他方部材の間に介在して、振動を減衰させるものであって、摩擦材と、板材と、締付具を備え、摩擦材が、木製で、一方部材と一体に、他方部材に対する対向部に沿って設けてあり、所定方向に延びる溝部を形成してあって、溝部の両側が挟持部になっており、両挟持部は木製の直交部を備え、板材が、金属製で、他方部材と一体に、一方部材に対する対向部に沿って設けてあり、所定方向に延びる長孔を形成してあって、摩擦材の溝部に挿入されて両挟持部に挟まれており、締付具が、一方部材と他方部材の対向部に沿って設けてあって、摩擦材の両挟持部と板材の長孔を貫通していて、両挟持部を互いに近づける方向に締め付けており、両挟持部が板材を両側から押圧し、締付具による圧締力の働く方向と直交部の繊維方向が平行であり、締付具による圧締力に直交して生じる摩擦力の働く方向と摩擦材の繊維方向が平行であることを特徴とする。
【0008】
本発明のうち請求項2の発明は、所定方向に延びて対向し、振動により所定方向に相対移動する、木製の一方部材と、他方部材の間に介在して、振動を減衰させるものであって、二つの摩擦材と、締付具と、一方部材に形成した所定方向に延びる長孔を備え、両摩擦材が、木製で、直交部を備え、他方部材と一体に、一方部材に対する対向部に沿って設けてあって、一方部材を挟んでおり、締付具が、一方部材と他方部材の対向部に沿って設けてあって、両摩擦材と一方部材の長孔を貫通していて、両摩擦材を互いに近づける方向に締め付けており、両摩擦材が一方部材を両側から押圧し、締付具による圧締力の働く方向と直交部の繊維方向が平行であり、締付具による圧締力に直交して生じる摩擦力の働く方向と摩擦材の繊維方向が平行であることを特徴とする。
【0009】
本発明のうち請求項3の発明は、所定方向に延びて対向し、振動により所定方向に相対移動する、一方部材及び他方部材の間に介在して、振動を減衰させるものであって、板材と、固定具と、締付具を備え、一方部材及び他方部材は、木製で、それぞれ所定方向に延びる溝部を形成してあって溝部の両側が挟持部になっており、互いに溝部の開口を対向させて配置され、一方部材の両挟持部は木製の直交部を備え、他方部材の両挟持部は固定孔を備え、板材が、金属製で、所定方向に延びる長孔と、固定孔を形成してあり、長孔を一方部材側、固定孔を他方部材側として、一方部材及び他方部材に跨るように両溝部内に配置されてそれぞれの両挟持部に挟まれ、固定具が、他方部材に設けてあって、他方部材の固定孔と板材の固定孔を貫通して固定しており、締付具が、一方部材に設けてあって、一方部材の直交部と板材の長孔を貫通していて、両挟持部を互いに近づける方向に締め付けており、両挟持部が板材を両側から押圧し、締付具による圧締力の働く方向と直交部の繊維方向は平行であることを特徴とする。
【0010】
本発明のうち請求項4の発明は、請求項1、2または3において、直交部は、締付具による圧締力の働く方向に延びる棒状部材であり、締付具は棒状部材の軸方向に貫通していることを特徴とする。
【0011】
本発明のうち請求項5の発明は、請求項1、2または3において、直交部は、締付具を挟んで両側に位置する板状部材であることを特徴とする。
【0012】
本発明のうち請求項6の発明は、請求項2、4または5において、一方部材は、金属製の補強部材を備え、補強部材に長孔が設けてあることを特徴とする。
【0013】
本発明のうち請求項7の発明は、請求項2、4または5において、一方部材は、木製の補強部材を備え、補強部材は繊維方向を交差させて薄板を積層した合板からなり、補強部材に長孔が設けてあり、合板の面方向は締付具による圧締力の働く方向と平行であることを特徴とする。
【0014】
本発明のうち請求項8の発明は、請求項2、4または5において、一方部材は、木製の補強部材を備え、補強部材は直交部を有し、直交部は長孔に沿って設けてあり、直交部の繊維方向は締付具の締め付け方向と平行であることを特徴とする。
【0015】
本発明のうち請求項9の発明は、請求項1、2、4、5、6、7または8において、摩擦材に促進処理を施してあることを特徴とする。
【0016】
本発明のうち請求項10の発明は、面材からなる一方部材と、矩形の柱材からなる他方部材と、請求項1、2、4、5、6、7または8に記載の摩擦ダンパを備え、他方部材の内周側の略全面を覆うように一方部材を設けてあって、一方部材と他方部材の間に、周方向に間隔をおいて摩擦ダンパを設けてあることを特徴とする。
【0017】
本発明のうち請求項11の発明は、枠体と、面材からなる一方部材及び他方部材と、請求項3、4または5に記載の摩擦ダンパを備え、一方部材と他方部材の間に間隔をおいて摩擦ダンパがもうけてあり、一方部材と他方部材が所定方向に交互に連結されて枠体の内周側略全面を覆っていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のうち請求項1の発明によれば、振動により一方部材と他方部材が相対移動した際に、木製の摩擦材と金属製の板材の間に摩擦力が生じることで、振動を減衰させることができる。摩擦材の両挟持部は直交部を備え、締付具による圧締力の働く方向と直交部の繊維方向は平行するため、過酷な条件下においても高い応力残存率を維持できる。また、木材は繊維直交方向のせん断に非常に弱い。このため、直交部は摩擦力による繊維直交方向の力によってせん断破壊するおそれがあるが、締付具による圧締力に直交して生じる摩擦力の働く方向と摩擦材の繊維方向は平行するため、直交部に生じるせん断応力が低減されて、せん断破壊を防止できる。
【0019】
本発明のうち請求項2の発明によれば、振動により一方部材と他方部材が相対移動した際に、木製の摩擦材と木製の一方部材の間に摩擦力が生じることで、振動を減衰させることができる。両摩擦材は直交部を備え、締付具による圧締力の働く方向と直交部の繊維方向は平行であるため、過酷な条件下においても高い応力残存率を維持できる。また、木材は繊維直交方向のせん断に非常に弱い。このため、直交部は摩擦力による繊維直交方向の力によってせん断破壊するおそれがあるが、締付具による圧締力に直交して生じる摩擦力の働く方向と摩擦材の繊維方向は平行するため、直交部に生じるせん断応力が低減されて、せん断破壊を防止できる。
【0020】
本発明のうち請求項3の発明によれば、振動により一方部材と他方部材が相対移動した際に、木製の一方部材と金属製の板材の間に摩擦力が生じることで、振動を減衰させることができる。金属製の板材が、一方部材及び他方部材に跨るように両溝部内に配置され、締付具による圧締力の働く方向と、直交部の繊維方向は平行であるので、一方部材と板材において高い応力残存率を維持するとともに、良好な摩擦挙動が得られる。
【0021】
本発明のうち請求項4の発明によれば、直交部は、締付具による圧締力の働く方向に延びる棒状部材であり、締付具は棒状部材の軸方向に貫通しているため、木材繊維と平行方向に圧締力が働き、過酷な条件下においても高い応力残存率を維持できるとともに、良好な摩擦挙動が得られる。また、棒状部材とすることで、挿入接着させて任意の場所に直交部を設けることができる。
【0022】
本発明のうち請求項5の発明によれば、直交部は、締付具を挟んで両側に位置する板状部材であるため、木材繊維と平行方向に圧締力が働き、過酷な条件下においても高い応力残存率を維持できるとともに、良好な摩擦挙動が得られる。
【0023】
本発明のうち請求項6の発明によれば、一方部材が備える金属製の補強部材に長孔が設けてあるので、一方部材による応力緩和を低減することができる。
【0024】
本発明のうち請求項7の発明によれば、一方部材が備える補強部材は繊維方向を交差させて薄板を積層した合板からなり、補強部材に長孔が設けてあり、合板の面方向は締付具による圧締力の働く方向と平行であるため、過酷な条件下においても高い応力残存率を維持できる。
【0025】
本発明のうち請求項8の発明によれば、一方部材が備える補強部材は直交部を有し、直交部は長孔に沿って設けてあり、直交部の繊維方向は締付具の締め付け方向と平行であるため、木材繊維と平行方向に圧締力が働き、過酷な条件下においても高い応力残存率を維持できる。
【0026】
本発明のうち請求項9の発明によれば、摩擦材に促進処理を施してあるため、長期的に高い圧締力を維持可能な信頼性の高い摩擦ダンパを提供できる。
【0027】
本発明のうち請求項10の発明によれば、高剛性で、高い減衰性能を備える壁面体とすることができる。そして特に、面材と柱材の両方が木造である木造建築物において、請求項1の摩擦ダンパと請求項2の摩擦ダンパを適宜選択することで、真壁と大壁の何れにも適用することができる。また、工場において、面材と摩擦材をセットにして制振面材として製造し、これを現場において軸組に挿入施工することもでき、建築物に後付けすることも可能である。
【0028】
本発明のうち請求項11の発明によれば、高剛性で、高い減衰性能を備える壁面体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】摩擦ダンパの第一実施形態の要部模式図であって、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【
図4】摩擦ダンパの第一実施形態の室内環境における応力緩和挙動を従来品と比較して示すグラフである。
【
図5】摩擦ダンパの第一実施形態の高温高湿環境における応力緩和挙動を従来品と比較して示すグラフである。
【
図6】摩擦ダンパの第二実施形態の要部模式図であって、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【
図9】摩擦ダンパの第一実施形態の変位−荷重関係を示すグラフである。
【
図10】摩擦ダンパの第二実施形態の変位−荷重関係を示すグラフである。
【
図11】摩擦ダンパの第一実施形態と第二実施形態の乾湿繰り返し環境における応力緩和挙動を示すグラフである。
【
図12】摩擦ダンパの第一実施形態と第二実施形態の高温高湿環境における応力緩和挙動を示すグラフである。
【
図13】(a)は摩擦ダンパの第一実施形態を設けた壁面体の正面図、(b)は要部の横断面図である。
【
図14】摩擦ダンパの第一実施形態を設けた壁面体の見かけのせん断変形角−荷重関係を示すグラフである。
【
図15】摩擦ダンパの第三実施形態の正面図である。
【
図16】摩擦ダンパの第三実施形態の平面図である。
【
図17】摩擦ダンパの第四実施形態の正面図である。
【
図18】摩擦ダンパの第四実施形態の平面図である。
【
図19】摩擦ダンパの第四実施形態の変位−荷重関係を示すグラフである。
【
図20】(a)は摩擦ダンパの第四実施形態を設けた壁面体の正面図、(b)は要部の横断面図である。
【
図21】摩擦ダンパの第三及び第四実施形態における一方部材の他の実施形態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【
図22】摩擦ダンパの第三及び第四実施形態における一方部材の他の実施形態を示し、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【
図23】摩擦ダンパの第三及び第四実施形態における一方部材の他の実施形態を示し、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【
図24】摩擦ダンパの第三及び第四実施形態における一方部材の他の実施形態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【
図25】摩擦ダンパの第三及び第四実施形態における一方部材の他の実施形態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【
図26】摩擦ダンパの第五実施形態の正面図である。
【
図27】摩擦ダンパの第五実施形態の縦断面図である。
【
図28】摩擦ダンパの第五実施形態の変位−荷重関係を示すグラフである。
【
図29】(a)は摩擦ダンパの第五実施形態を設けた壁面体の正面図、(b)は要部の横断面図である。
【
図30】摩擦ダンパの第五実施形態を設けた壁面体の見かけのせん断変形角−荷重関係を示すグラフである。
【
図31】摩擦ダンパの第一実施形態の促進処理及び再締付の効果を応力緩和挙動で示すグラフである。
【
図32】摩擦ダンパの第一実施形態と従来品との比較であって、促進処理及び再締付の効果を応力緩和挙動で示すグラフである。
【
図33】摩擦ダンパの第六実施形態の平面図である。
【
図34】摩擦ダンパの第六実施形態を示し、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【
図35】摩擦ダンパの第六実施形態を設けた壁面体の正面図である。
【
図36】摩擦ダンパの第七実施形態の平面図である。
【
図37】摩擦ダンパの第七実施形態を設けた壁面体の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の摩擦ダンパおよび壁面体の具体的な構成について、各図面に基づいて説明する。摩擦ダンパは、振動により所定方向に相対移動する、一方部材と、他方部材の間に介在して、振動を減衰させるものであるが、第一実施形態〜第四実施形態、第六実施形態及び第七実施形態では、一方部材が木製の面材4、他方部材が木製の柱材5であって、面材4が柱材5の長手方向に平行で、面材4の端面が柱材5の側面に対向しており、面材4と柱材5が、柱材5の長手方向に相対移動する場合を例に挙げる。
【0031】
まず、摩擦ダンパの第一実施形態について説明する。
図2及び
図3に示すように、摩擦ダンパの第一実施形態は、摩擦材1と、板材2と、締付具3を備える。
摩擦材1は、木製であって、断面矩形で柱材5の長手方向に延びるものであり、
図1の模式図に示すように、摩擦力の働く方向と平行な方向、言い換えれば、締付具3による圧締方向と直交する方向に繊維方向を有する。そして、柱材5に対する対向部に沿って、矩形の鋼板からなる受板6を挟んで面材4の一方の面に固定してある(以下、摩擦材1を固定した側を表側とし、その反対側を裏側とする)。より詳しくは、受板6の表側の柱材5寄りの位置に、摩擦材1を裏側からビス打ちして固定してあり、面材4の裏側に受材7を当てて、受板6を面材4に表側からビス打ちして固定してある。また、摩擦材1には、表裏に貫通する挿通孔14が等間隔に三つ設けてあり、その各挿通孔14に直交部13が挿入接着されている。第一実施形態において直交部13は、締付具3による圧締力の働く方向に延びる棒状部材であり、
図1の模式図に示すように、直交部13は、溝部11の延びる方向(摩擦力の働く方向)と直交する方向、言い換えれば、締付具3による圧締力の方向と平行方向に繊維方向を有する。そして、直交部13の中心には表裏方向にボルト孔が設けてある。摩擦材1の柱材5側の面には、柱材5の長手方向に延びる溝部11を形成してあり、溝部11の両側(表側と裏側)が、挟持部12となっている。表側と裏側の両挟持部12は、溝部11によって表側と裏側に分断された直交部13を備える。柱材5の面材4側の面には、鋼製で柱材5の長手方向に延びるL字形材22の一辺がビス打ちして固定してあり、柱材5から面材4と平行に延びる他辺が板材2となっている。
板材2は、摩擦材1の溝部11に挿入されており、両挟持部12に挟まれている。さらに、
図2に示すように、板材2には、柱材5の長手方向に延びる長孔21を形成してあるが、長孔21の長さは、摩擦材1の長さよりも短く、長孔21は、摩擦材1に隠れた状態となる。そして、三本のボルト3からなる締付具3が、直交部13のボルト孔と受板6のボルト孔および板材2の長孔21を貫通して挿入されており、ボルト3の先端に、座金33を挿入し、さらにナット34をねじ込んで締め付けてある。座金33は、直交部13と略同じ径の円形鋼板である。ボルト3の締め付けにより、表裏方向に圧締力が発生し、両挟持部12は互いに近づく方向に付勢され、両挟持部12が板材2を両側から押圧する。なお、圧締力は、すなわち摩擦材1と板材2の当接面に生じる垂直力であり、摩擦力は垂直力に比例する。
【0032】
このように構成した摩擦ダンパの第一実施形態においては、振動により、面材4と柱材5が相対移動した際に、木製の摩擦材1と鋼製の板材2の間に摩擦力が生じることで、振動を減衰させることができる。摩擦材1の両挟持部12は直交部13を備え、締付具3による圧締力の働く方向と直交部13の繊維方向は平行であるため、過酷な条件下においても高い応力残存率を維持できる。また同時に、締付具3による圧締力と直交して生じる摩擦力の働く方向と摩擦材1の繊維方向は平行するため、直交部13に生じるせん断応力が低減されて、せん断破壊を防止できる。
【0033】
従来の摩擦ダンパにおいては、圧締力の働く方向と摩擦材1の木材繊維方向が垂直であった。繊維垂直方向の圧縮を行う従来の摩擦ダンパと、繊維平行方向の圧縮を行う本願の摩擦ダンパの第一実施形態と比較し、圧締力維持の信頼性試験を実施した。その結果、室内環境下では
図4に示すように、本願発明の摩擦ダンパは試験開始から150日を経過してもなお応力残存率約80%を維持し、従来の摩擦ダンパでは、試験開始から50日で応力残存率は半減した。そして、摩擦ダンパを室温40℃湿度87%という極端な高温高湿状態に4日間置くいわゆる促進処理を行った後、室温20℃湿度65%の環境下に置いて圧締力維持の信頼性試験を実施した。その結果は
図5に示すように、従来の繊維垂直方向圧縮の摩擦ダンパでは、促進処理後に応力残存率が20%まで大きく低下した。一方、本願発明の摩擦ダンパでは極端な低下は見られなかった。この結果から、木材繊維と平行な方向に圧縮することが圧締力の維持に非常に有利であることが明らかとなった。
【0034】
また、摩擦ダンパの第一実施形態においては、ボルト3が板材2の長孔21内を移動できるので、大きな変形にも対応可能であり、その際にはボルト3が長孔21にガイドされることになるので、面材4と柱材5が所定方向以外の方向に相対移動することが防がれる。さらに、板材2を摩擦材1の両挟持部12により挟み込んで締め付ける構成なので、ボルト3による圧締力を調整しやすい。また、ここでは一方部材が面材4、他方部材が軸組5(柱材5)の場合を例に挙げたが、一方部材と他方部材の形状、構造はどのようなものであってもよい。さらに、摩擦材1と板材2の間に生じる摩擦力を利用するものであるから、一方部材と他方部材の素材や表面状態によらず、適用することができる。そして、この摩擦ダンパの第一実施形態は、建築物に後付けすることも可能である。
【0035】
次に、摩擦ダンパの第二実施形態について説明する。
図7及び
図8に示すように、摩擦ダンパの第二実施形態は、摩擦材1と、板材2と、締付具3を備える。第一実施形態と異なるのは摩擦材1の直交部15の構成であり、第二実施形態において直交部15は、締付具3を挟んで両側に位置する板状部材である。
摩擦材1は、木製であって、断面矩形で柱材5の長手方向に延びるものであり、
図6の模式図に示すように、摩擦力の働く方向と平行な方向、言い換えれば、締付具3による圧締方向と直交方向に繊維方向を有する。摩擦材1は、直交部15を備える。直交部15は溝部11の延びる方向(摩擦力の働く方向)と直交する方向、言い換えれば、締付具3による圧締力の方向と平行方向に繊維方向を有する。板材2の長孔21の位置に合わせて、締付具3の両側部分の摩擦材1が柱材5の長手方向に切り欠いてあり、直交部15はその切欠き部に嵌め込まれて接着されている。二つの直交部15,15の間には、表裏方向にボルト孔が設けてある。そして、摩擦材1の柱材5側の面には、柱材5の長手方向に延びる溝部11を形成してある。溝部11は二つの直交部15,15に亘っており、溝部11の両側(表側と裏側)は、挟持部12となっている。表側と裏側の両挟持部12は、溝部11によって表側と裏側に分断された直交部15を備える。二本のボルト3からなる締付具3が、両挟持部12のボルト孔と受板6のボルト孔および板材2の長孔21を貫通して挿入されており、ボルト3の先端に、座金33を挿入し、さらにナット34をねじ込んで締め付けてある。座金33は、二つの直交部15,15間の幅よりも大きい寸法の円形鋼板であり、座金33の縁は二つの直交部15,15の表側面に当接している。ボルト3の締め付けにより、表裏方向に圧締力が発生し、両挟持部12は互いに近づく方向に付勢され、両挟持部12が板材2を両側から押圧する。なお、摩擦材1は
図7及び
図8に示すように、一方部材側の側面に補強部材10aを一体として有していてもよく、さらに、表側面には摩擦材1と補強部材10aに跨るように他の補強部材を当ててもよい。また、補強部材10a側の直交部15は摩擦材1をくり抜いて設けることによって補強部材10aを有しない構成としてもよい。
【0036】
このように構成した摩擦ダンパの第二実施形態においては、振動により、面材4と柱材5が相対移動した際に、木製の摩擦材1と鋼製の板材2の間に摩擦力が生じることで、振動を減衰させることができる。摩擦材1の両挟持部12は直交部15を備え、締付具3による圧締力の働く方向と直交部15の繊維方向は平行であるため、第一実施例と同様に過酷な条件下においても高い応力残存率を維持できる。また同時に、締付具3による圧締力に直交して生じる摩擦力の働く方向と摩擦材1の繊維方向は平行するため、直交部15に生じるせん断応力が低減されて、せん断破壊を防止できる。
【0037】
次に、摩擦ダンパの第一実施形態及び第二実施形態について、繰り返し加振によってせん断試験を行った。第一実施形態の結果を
図9、第二実施形態の結果を
図10に示す。これによれば、何れの実施形態においても、摩擦ダンパ特有の高い剛性と、二次剛性のほとんどない、長方形の安定したループが得られた。
【0038】
さらに、摩擦ダンパの第一実施形態及び第二実施形態について、圧締力維持の信頼性試験を実施した結果を示す。
図11は、室温20℃湿度40%の環境と、室温20℃湿度80%の環境を繰り返す乾湿サイクルにおける摩擦ダンパの応力残存率を測定した結果である。
図12は、摩擦ダンパを室温40℃湿度87%という極端な高温高湿状態に4日間置くいわゆる促進処理を行った後、室温20℃湿度65%の環境下に置いて応力残存率を測定した結果である。これらの結果から、何れの実施形態も応力残存率は比較的安定しており、圧締力は大きく低下しないことが確認された。
【0039】
次に、この摩擦ダンパを設けた壁面体について説明する。
図13(a)に示すのは、摩擦ダンパの第一実施形態を設けた壁面体であり、面材4と、軸組と、摩擦ダンパ100を備える。面材4は、木製で矩形の板材であり、軸組は、左右の柱材5,5と、上下の梁材8,8を四周枠組みして形成したものあって、軸組の内周側に面材4を取り付けてある。なお、面材4と左右の柱材5の間の隙間は狭くしてあり(たとえば0.5mm程度)、面材と上下の梁材8との間の隙間は広くしてある(たとえば。25mm程度)。そして、振動としては地震動を想定するものであり、この壁面体が水平方向に加振されると、軸組が平行四辺形になるように変形して、面材4と軸組の各辺(柱材5および梁材8)は、各辺に沿った方向(柱材5および梁材8の長手方向)に相対的に移動する。この際、面材4と左右の柱材5の間の隙間は狭いので、面材4が回転しようとすると柱材5に接触して筋交効果が発揮され、左右方向(摩擦ダンパ100の長孔21に直交する方向)への変形は規制される。一方、面材4と上下の梁材8の間の隙間は広いので、上下方向(摩擦ダンパ100の長孔21が延びる方向)への変形は許容される。この振動を減衰させるため、面材4の左辺と左側の柱材5の間および面材4の右辺と右側の柱材5の間に、摩擦ダンパ100をそれぞれ三つずつ、等間隔に取り付けてある。
図13(b)に示すように、摩擦ダンパ100の取り付け方は、
図3に示した場合と同じであり、面材4が一方部材に相当し、柱材5が他方部材に相当する。そして、受材7は、上下に延びる一本(左右二本)の部材となっている。この壁面体においては、
図13(a)に示すように、面材4を受材7に固定するための釘本数を最小限にすることで、摩擦ダンパ100の減衰効果を高めている。
【0040】
このように摩擦ダンパ100を取り付けた壁面体は、高剛性で高い減衰性能を備える。摩擦ダンパの第一実施形態を適用した場合、柱材5と一体に設けた板材2が、面材4と一体に設けた摩擦材1の両挟持部12に挟まれる構成となり、振動によりボルト3が緩んでも面材4が面外方向に外れない。また、摩擦材1の両挟持部12は直交部13を備え、締付具3による圧締力の働く方向と直交部13の繊維方向は平行であるため、長期的に高い応力残存率を維持できる。さらに、工場において、面材4と摩擦材1をセットにして制振面材として製造し、これを現場において軸組に挿入施工することもできる。
【0041】
続いて、
図13に示した摩擦ダンパ100の第一実施形態を設けた壁面体について壁せん断試験を行った。試験方法は、柱脚固定式で、1/30rad.まで繰り返し加力を行ったあと、1/15rad.まで単調加力を行うものであり、見かけのせん断変形角−荷重関係を
図14のグラフに示した。これによれば、摩擦ダンパ100の性質を反映して高い剛性を示した。よって、本発明の壁面体は、高い剛性と高い減衰性能を備え、また、1/30rad.を超える大変形においても、ハードニングや耐力の低下がないなど、非常に優れた性能を発揮するものである。
【0042】
次に、摩擦ダンパの第三実施形態について説明する。
図15及び
図16に示すように、摩擦ダンパの第三実施形態は、二つの摩擦材1a,1bと、締付具3aを備える。
摩擦材1a,1bは、木製であって、断面矩形で柱材5の長手方向に延びるものであって、他の実施形態と同様に摩擦力の働く方向と平行な方向、言い換えれば、締付具3aによる圧締方向と直交な方向に繊維方向を有する。そして、摩擦材1a,1bは、面材4を表裏両側から挟むようにして、柱材5の面材4側の面にビス打ちして固定してある。また、摩擦材1a,1bはそれぞれ、表裏に貫通する挿通孔14aが面材4の長孔41の位置に合わせて、等間隔に三つ設けてあり、その各挿通孔14aには直交部13aが挿入接着されている。第三実施形態における直交部13aは、第一実施形態における直交部13と同様に、締付具3aによる圧締力の働く方向に延びる棒状部材である。直交部13aは、締付具3aによる圧締力の方向と平行方向に繊維方向を有し、中心には表裏方向にボルト孔が設けてある。
面材4には、柱材5の長手方向に延びる長孔41を形成してあるが、長孔41は、両摩擦材1a,1bに隠れた状態となる。そして、三本のボルト3aからなる締付具に、座金33を挿入した上で、直交部13aのボルト孔および面材4の長孔41を貫通して、表側からねじ込んである。ボルト3aの先端は裏側面から座金33とナット34によって固定してある。このボルト3aの締め付けにより、表裏方向に圧締力が発生し、両摩擦材1a,1bが互いに近づく方向に付勢され、両摩擦材1a,1bが面材4を両側から押圧する。
【0043】
次に、摩擦ダンパの第四実施形態について説明する。
図17及び
図18に示すように、摩擦ダンパの第四実施形態は、二つの摩擦材1a,1bと、締付具3bを備える。第三実施形態と異なるのは直交部15aの構成であり、第四実施形態において直交部15aは、第二実施形態と同様に、締付具3bを挟んで両側に位置する板状部材である。
摩擦材1a,1bは、木製であって、断面矩形で柱材5の長手方向に延びるものであって、他の実施形態と同様に摩擦力の働く方向と平行な方向、言い換えれば、締付具3bによる圧締方向と直交な方向に繊維方向を有する。摩擦材1a,1bは、直交部15aを備える。直交部15aは、締付具3bによる圧締力の方向と平行方向に繊維方向を有する。面材4の長孔41の位置に合わせて、締付具3bの両側部分の摩擦材1a,1bが柱材5の長手方向に切り欠いてあり、直交部15aはその切欠き部に嵌め込まれて接着されている。
また、面材4には、第三実施形態と同様に、柱材5の長手方向に延びる長孔41を形成してある。そして、二本のボルト3bからなる締付具を、二つの直交部15a,15aの間の両摩擦材1a,1bおよび面材4の長孔41を貫通して、表側からねじ込んである。ボルト3aの先端は裏側面から座金33とナット34によって固定してある。このボルト3bを締め付けると、表裏方向に圧締力が発生し、両摩擦材1a,1bが互いに近づく方向に付勢され、両摩擦材1a,1bが面材4を両側から押圧する。
【0044】
このように構成した摩擦ダンパの第三実施形態及び第四実施形態においては、振動により、面材4と柱材5が相対移動した際に、木製の摩擦材1a,1bと木製の面材4の間に摩擦力が生じることで、振動を減衰させることができる。また、ボルト3aが面材4の長孔41内を移動できるので、大きな変形にも対応可能である。そして、両摩擦材1a,1bは直交部13a,15aを備え、締付具3a,3bによる圧締力の働く方向と直交部13a,15aの繊維方向は平行であるため、過酷な条件下においても高い応力残存率を維持できる。また同時に、締付具3a,3bによる圧締力に直交して生じる摩擦力の働く方向と両摩擦材1a,1bの繊維方向は平行するので、直交部13a,15aに生じるせん断応力が低減され、せん断破壊を防止できる。
【0045】
続いて、このように構成した摩擦ダンパについて、繰り返し加振によりせん断試験を行った結果を示す。ここでは、第四実施形態について試験を行い、変位−荷重関係を
図19のグラフに示した。これによれば、摩擦ダンパ特有の高い剛性と、二次剛性がほとんどない、長方形の安定したループが得られた。
【0046】
図20に示すのは、摩擦ダンパの第四実施形態を設けた壁面体である。
図13に示した摩擦ダンパの第一実施形態を設けた壁面体と同様の構成であり、面材4と、軸組(柱材5および梁材8)と、摩擦ダンパ100を備えていて、面材4の左辺と左側の柱材5の間および面材4の右辺と右側の柱材5の間に、摩擦ダンパ100をそれぞれ三つずつ、等間隔に取り付けてある。摩擦ダンパ100の取り付け方は、
図13に示した場合と同じであり、面材4が一方部材に相当し、軸組(柱材5)が他方部材に相当する。ただし、摩擦材1a,1bは、面材4の上端から下端まで延びる部材となっており、さらに、面材4の上辺および下辺にも、同様に摩擦材1a,1bを設けてある。
【0047】
このように摩擦ダンパ100を取り付けた壁面体は、高剛性で高い減衰性能を備える。摩擦ダンパの第四実施形態を適用した場合、面材4が柱材5と一体に設けた両摩擦材1a,1bに挟まれる構成となるので、振動によりボルト3aが緩んでも面材4が面外方向に外れない。また、摩擦材1a,1bの両挟持部12は直交部15aを備え、締付具3による圧締力の働く方向と直交部15aの繊維方向は平行であるため、長期的に高い応力残存率を維持できる。さらに、工場において、面材4と摩擦材1a,1bをセットにして制振面材として製造し、これを現場において軸組に挿入施工することもできる。
【0048】
摩擦ダンパの第三実施形態及び第四実施形態では、長孔41を備える面材4を用いるが、様々な態様の面材4を適用することにより、面材4による応力緩和挙動を抑制することができる。例えば、
図21に示すように、面材4は締付具3a,3bによって圧締される箇所に、鋼鈑製の補強部材91を備えるものであってもよい。この場合、面材4の一部をくり抜いて補強部材91を嵌め込んで接着してあり、補強部材91に設けた長孔91aに締付具3a,3bが挿通される。また、
図22及び
図23に示すように、面材4は締付具3a,3bによって圧締される箇所に、直交積層接着された合板製の補強部材92,93を備えるものであってもよい。この場合、補強部材92,93は、合板の側面が面材4の表面側となるよう、言い換えれば、面方向と締付具3a,3bによる圧締方向が平行となるよう、面材4に嵌め込まれる。補強部材92,93には長孔92a,93aが設けてあり、この長孔92a,93aに締付具3a,3bが挿通される。なお、
図22の面材4は締付具3a,3bによって圧締される箇所をコ字状に切り欠いてあり、その切欠き部に補強部材92を嵌め込んで接着してある。
図23の面材4は締付具3a,3bによって圧締される箇所をくり抜いて補強部材93を嵌め込んで接着してある。さらに、
図24に示す面材4のように、直交部94bを有する補強部材94を備えてもよい。直交部94bは、圧締力と平行方向に繊維方向を有する棒状部材である。補強部材94は締付具3a,3bによって圧締される箇所に、間隔を開けて複数の貫通孔を表裏方向に設け、その貫通穴に直交部94bを嵌め込んであり、さらにその複数の直交部94bに沿って長孔94aが設けてある。また、補強部材94の裏側面にはL字の切欠き部が設けてあり、その切欠き部に面材4が接着されて、面材4の裏側面と補強部材94の裏側面を面一としてある。そして、
図25に示す面材4のように、直交部95bを有する補強部材95を備えてもよい。直交部95bは圧締力と平行方向に繊維方向を有する板状部材である。補強部材95は締付具3a,3bによって圧締される箇所に長孔95aを設けてあり、長孔95aを挟んで両側に直交部95b,95bを備える。二つの直交部95bの一方には、柱材5の長手方向に延びる溝が設けてあり、この溝に面材4が挿入接着されている。
このような補強材91〜95を備える面材4は、長孔91a〜95aの外周に沿って緩和の起こり難い部材を備えるため、面材4による応力緩和挙動を抑制することができる。
【0049】
本発明の摩擦ダンパは、さらに異なる構成もとり得るものである。
図26および
図27に示すのは、摩擦ダンパの第五実施形態である。第一実施形態〜第四実施形態は、何れも一方部材が木製の面材4、他方部材が木製の柱材5であったが、第五実施形態では、一方部材4a及び他方部材5aは何れも木製の面材であり、詳しくは、複数枚の板材を互いに直交に積層接着した厚型の集成パネルであって、一方部材4aと他方部材5aは同じ板厚である。この二つの面材4a,5aは端面を突き合わせて接合してあり、面材4a,5aが接合面の長手方向に相対移動する場合を挙げる。
この第五実施形態は、板材2と、締付具3cと、固定具30を備える。
一方部材(面材)4aは、他方部材(面材)5a寄りの位置、言い換えれば、板材2の長孔21の位置に合わせて、表裏に貫通する挿通孔43が等間隔に三つ設けてある。その各挿通孔43に直交部44が挿入接着されている。第五実施形態において直交部44は、締付具3cによる圧締力の働く方向に延びる棒状部材であるが、第二実施形態や第四実施形態の直交部15,15aのように締付具3cを挟んで両側に位置する板状部材であってもよい。一方部材4aの他方部材5aと対向する端面には、その長手方向に溝部41を形成してあり、溝部41の両側(表側と裏側)が挟持部42となっている。そして、表側と裏側の両挟持部42は、溝部41によって分断された直交部44を備える。直交部44は溝部41の延びる方向(摩擦力の働く方向)と直交する方向、言い換えれば、締付具3cによる圧締力の方向と平行方向に繊維方向を有し、直交部44の中心には表裏方向にボルト孔が設けてある。
他方部材5aは、一方部材4a寄りの位置、言い換えれば、板材2の固定孔23の位置に、表裏に貫通する固定孔53が等間隔に三つ設けてある。他方部材5aの一方部材4aと対向する端面には、その長手方向に溝部51を形成してあり、溝部51の両側(表側と裏側)が挟持部52となっている。そして、表側と裏側の両挟持部52は、溝部51によって分断された固定孔53を有する。
一方部材4aと他方部材5aは、溝部41,51を対向させて端面を突き合わせてあり、その一方部材4aの溝部41と他方部材5aの溝部51に跨るように、板材2が溝部41,51に挿入されている。
板材2は、一方部材4a及び他方部材5aの両挟持部42,52に挟まれており、一方部材4a及び他方部材5aに隠れた状態である。板材2は鋼製であって、一方部材4a側には一方部材4a及び他方部材5aの接合面の長手方向に延びる長孔21を形成してあり、他方部材5a側には他方部材5aの固定孔53に合わせて固定孔23が形成してある。
三本のボルトからなる締付具3cが、一方部材4aの直交部44のボルト孔および板材2の長孔21を貫通して挿入されており、ボルト3の先端に、座金33を挿入し、さらにナット34をねじ込んで締め付けてある。また、ドリフトピン等の固定具30が、他方部材5aの固定孔53と板材2の固定孔23を貫通して固定されている。ボルト3の締め付けにより、表裏方向に圧締力が発生し、一方部材4aの両挟持部42は互いに近づく方向に付勢され、両挟持部42が板材2を両側から押圧する。
このように構成した摩擦ダンパの第五実施形態も、
図28に示すように、高い剛性を示した。
【0050】
図29に示すのは、摩擦ダンパの第五実施形態を設けた壁面体であり、面材4a,5aと、軸組と、摩擦ダンパ100を備える。面材4a,5aは、一方部材4aを挟んで両側に他方部材5aを接合してある。軸組は、左右の柱材8a,8aと、上下の梁材8b,8bを四周枠組みして形成したものあって、軸組の内周側に面材4a,5aを取り付けてある。詳しくは、軸組みに取り付けられた受材7によって、面材4a,5aの端部が挟み込まれている。なお、面材4a,5aと左右の柱材8aの間には隙間を空けてあり、例えば7.5mm以上、望ましくは20mm程度である。一方部材4aと他方部材5aとの接合部には、摩擦ダンパ100をそれぞれ四つずつ、等間隔に取り付けてある。
次に、摩擦ダンパ100の第五実施形態を設けた壁面体について壁せん断試験を行ったところ、見かけのせん断変形角−荷重関係を示す
図30のグラフの通り、優れた減衰性能を備えることが確認された。
【0051】
なお、本発明の摩擦ダンパの圧締力をさらに安定させるために、促進処理と再締付が有効である。以下、摩擦ダンパの第一実施形態を用いた試験結果に沿って具体的に説明する。促進処理とは、高温高湿環境下に長時間晒す処理である。木材は温度変化や湿度変化を受けると膨張収縮によって応力緩和を起こすものである。摩擦ダンパにおいても、促進処理を施すと圧締力が大きく低下することが確認された。そのため、摩擦ダンパに予め促進処理を長時間施すことによって、圧締力を安定させる方法が有効である。また、摩擦ダンパの締付具を再締付すれば、応力緩和後も高い応力を保つことができる。
図31は、摩擦ダンパの第一実施形態を用いて圧締力維持の信頼性試験を実施した結果である。なお当該試験において、促進処理は全て室温40℃湿度87%の環境下に96時間置いている。試験開始後に促進処理を施すと、応力は急激に低下した。そして、一度目の促進処理から数日あけて、再締付を行った。再締付を行わなかった場合の摩擦ダンパは、促進処理後緩やかに応力が低下していったが、再締付を行った場合、再締付直後に応力は回復し、その後二回目の促進処理を行った際には大きな低下が見られず、高い応力を維持した。
図32は、促進処理と再締付を繰り返し行い、摩擦ダンパの第一実施形態と、木材繊維直交方向の圧締を行う摩擦ダンパの従来品とを比較して、圧締力維持の信頼性試験を実施した結果である。なお当該試験において、促進処理は全て室温40℃湿度87%の環境下に96時間置いている。A及びBのグラフは、摩擦ダンパの第一実施形態の結果を示し、C及びDのグラフは、従来品の結果を示すものである。また、A及びCでは、試験開始直後に一回目の促進処理を行い、その数日後に再締付、その後二度目の促進処理、さらにその後再締付と促進処理を行っている。一方、BとDは試験開始直後(一回目)の促進処理を行っていないこと以外はAとCの条件と同じである。第一実施形態(A,B)と従来品(C,D)を比べると、いずれの条件においても第一実施形態の方が圧締力は高く保持されている。また、再締付の前に促進処理を行った場合(A,C)は、促進処理を行わなかった場合(B,D)と比べて応力残存率は約7%高かった。これにより、再締付前に促進処理を行うことが、圧締力維持に有効であることが確認された。
【0052】
本発明の摩擦ダンパのさらなる実施形態として、
図33及び
図34に示す第六実施形態がある。第六実施形態は第一実施形態と近似するが、第六実施形態では屈折部24aを有する変形L字形材24を用いてあり、摩擦材1の溝部11は柱材5に対向する見込面ではなく表側の見付面に設けてある。また、第六実施形態では見付方向へ締付具3が挿入してあるため、圧締力の働く方向が第一実施形態とは90°異なる。
摩擦材1は、柱材5に対する対向部に沿って、釘やビス、接着剤を用いて面材4に強固に取り付けてある。また、摩擦材1には見付方向に貫通する挿通孔14が等間隔に三つ設けてあり、その各挿通孔14に直交部13が挿入接着されている。直交部13の中心には見付方向にボルト孔が設けてある。摩擦材1の表側面には、柱材5の見込方向に延びる溝部11を形成してあり、溝部11の両側が挟持部12となっている。両挟持部12は、溝部11によって分断された直交部13を備える。また、溝部11には板材2aが挿入してある。
板材2aは変形L字形材24と一体となっている。変形L字形材24は鋼製であって、L字形材にさらに屈折部24aを形成してあり、屈折部24aから延出する板材2aを備えたものである。変形L字形材24は、L字状の一辺24bが柱材5の面材4側の面にビス打ちして固定してある。柱材5から面材4と平行に延びる他辺24cの端部に屈折部24aが形成してあり、屈折部24aから面材4へ向かって見込方向に延出する板材2aが摩擦材1の溝部11へ挿入してある。板材2aには、柱材5の長手方向に延びる長孔21を形成してある。そして、三本のボルト3からなる締付具3が、直交部13のボルト孔および板材2aの長孔21を貫通して見付方向に挿入されており、ボルト3の締め付けにより見付方向に圧締力が発生し、両挟持部12は互いに近づく方向に付勢され、両挟持部12が板材2aを両側から押圧する。
【0053】
図35に示すのは、摩擦ダンパの第六実施形態を設けた壁面体であり、面材4と、軸組と、摩擦ダンパ100を備える。面材4は、木製で矩形の板材であり、軸組は、左右の柱材5,5と、上下の梁材8,8を四周枠組みして形成したものあって、軸組の内周側に面材4を取り付けてある。振動を減衰させるため、面材4の左辺と左側の柱材5の間および面材4の右辺と右側の柱材5の間には、摩擦ダンパ100をそれぞれ三つずつ、等間隔に取り付けてある。摩擦ダンパ100の取り付け方は、第一実施形態と同じであるが、第六実施形態では見付方向へ締付具3が挿入してあるため、圧締力の働く方向が第一実施形態とは90°異なる。
【0054】
このように構成した摩擦ダンパの第六実施形態においては、振動により、面材4と柱材5が相対移動した際に、木製の摩擦材1と鋼製の板材2aの間に摩擦力が生じることで、振動を減衰させることが可能であり、第一実施形態と同様の効果が得られるほか、断熱材の施工が容易となる。また、第六実施形態の摩擦ダンパを適用させた壁面体は、高剛性で高い減衰性能を備える。
【0055】
第一実施形態〜第五実施形態は、何れも柱が露出する真壁仕様の摩擦ダンパであったが、本発明の摩擦ダンパは柱が壁に隠される大壁仕様にも適用できる。変形L字形材24を用い大壁仕様とした摩擦ダンパの第七実施形態およびこの摩擦ダンパを設けた壁面体を、
図36及び
図37に示す。
この第七実施形態は、摩擦材1と、板材2aと、締付具3を備え、第六実施形態と同様に変形L字形材24を用いている。摩擦材1は、木製であって、断面矩形で柱材5の長手方向に延びるものであり、面材4の表側の面に裏側からビス打ちして固定してある。そして、摩擦材1の表側面には、柱材5の長手方向に延びる溝部11を形成してあり、溝部11の両側が挟持部12となっている。鋼製で柱材5の長手方向に延びる変形L字形材24は、一辺24bを柱材5にビス打ちして固定してある。また変形L字形材24は、柱材5から面材4と平行に延びる他辺24cの端部に屈折部24aを形成してあり、屈折部24aから面材4へ向かって見込方向に延びる板材2aが形成してある。板材2aは摩擦材1の溝部11へ挿入してあり、両挟持部12に挟まれている。さらに、板材2aには柱材5の長手方向に延びる長孔21を形成してある。そして、摩擦材1の両挟持部12には、板材2aの長孔21の位置に合わせて、見付方向に貫通する挿通孔14を形成してあり、その各挿通孔14に直交部13が挿入接着されている。直交部13の中心には見付方向にボルト孔が設けてある。ボルト3からなる締付具は、両挟持部12のボルト孔および板材2aの長孔21を貫通して、見付方向に挿入されており、ボルト3の締め付けにより見付方向に圧締力が発生し、両挟持部12が互いに近づく方向に付勢され、両挟持部12が板材2aを両側から押圧する。そして面材4は表側の面を柱材5の裏側の面に当接させ、外周部を裏側から釘打ちして固定してある。このように構成した摩擦ダンパの第七実施形態も高い剛性を有し、この摩擦ダンパ100を設けた壁面体は、高剛性で高い減衰性能を備える。このように、本発明の摩擦ダンパは、真壁形式の壁面体と大壁形式の壁面体の何れにも適用することができる。
【0056】
本発明は、上記の実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。たとえば、直交材の形状は矩形や円形など、どのようなものであってもよい。さらに、第一実施形態及び第二実施形態において、L字形材の代わりにT字形材を用いてもよく、第六実施形態及び第七実施形態においても、変形L字形材の代わりに他の形状のものを用いて板材を構成してもよい。そして、その他各部材の形状は、上記の要件を満たすものである限り、どのようなものであってもよいし、各部材同士の接合には、ビスや釘のほか、接着剤などを用いてもよい。また、摩擦材に設ける挿通孔や締付具(ボルト)、壁面体に取り付ける摩擦ダンパの数は必要に応じて変更可能であって、特に限定されるものではない。