【解決手段】電気めっき液に接触させられる電気化学センサ2は、電気めっき液で酸化還元反応物質の酸化還元反応を生じさせる作用電極21と、作用電極21の電位を制御する参照電極22と、作用電極21に流れる電流を検出するための対極23とを備える。作用電極21が、電気めっき液と作用電極21の接触面21aにおいて、その接触面21aの面積が減少するほど酸化還元反応物質の移動係数が増加する関係が成立する大きさまで小さくなるように形成される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態における電気化学測定装置1の構成を示す図である。
【0011】
電気化学測定装置1は、めっき液槽(セル)Xに電気めっき液Xaが貯蔵され、その電気めっき液Xaの状態(コンディション)を測定する電気めっき液測定装置である。電気化学測定装置1は、例えば、CVS(Cyclic Voltammetry Stripping)法やCPVS(Cyclic Pulse Voltammetry Stripping)法などに従って、電気めっき液Xaの電気化学測定処理を実行する。
【0012】
電気めっき液Xaには酸化還元反応物質が存在し、酸化還元反応物質としては、例えば金属イオン、錯体及び有機分子などが挙げられる。本実施形態では、酸化還元反応物質として金属イオンが電気めっき液Xaに含まれている。電気めっき液Xaに含まれる金属成分としては、例えば、銅、ニッケル、クロム、亜鉛、スズ、スズ−鉛、金又は銀などが挙げられる。電気めっき液Xaには、抑制剤、促進剤及び光沢剤などの添加剤が含まれている。
【0013】
本実施形態では、電気化学測定装置1が、CVS法に従って、電気めっき液Xaに含まれる一又は複数の添加剤の濃度を分析する。電気化学測定装置1は、添加剤を含む電気めっき液Xaに接触させられる電気化学センサ2と、電気化学センサ2が無線又は有線を介して接続される測定装置本体3と、を備える。
【0014】
電気化学センサ2は、三電極法による電気化学測定処理を実行可能に講成されたセンサ装置であり、電気めっき液Xaの状態を測定するために用いられる。電気化学センサ2は、可搬型でもよく、固定型であってもよい。
【0015】
電気化学センサ2は、電気めっき液Xaで電気電解を行う作用電極21と、作用電極21の電位の基準となる参照電極22と、作用電極21に対する対向電極23と、対向電極23及び作用電極21間の電流を測定する測定回路24と、を備える。
【0016】
作用電極21は、電気めっき液Xaにおいて酸化還元反応物質である金属イオンの酸化還元反応を生じさせる電極である。電気めっき液Xaと作用電極21とが互いに接触する接触面において、金属イオンの酸化反応と還元反応とが交互に繰り返されることで、電気めっき液Xaに対して電子の授受が行われる。作用電極21は、例えば白金、イリジウム、オスミウム、レニウム又は金などの不活性金属により形成される。
【0017】
参照電極22は、作用電極21の電位を制御するための電極である。参照電極22は、例えば、銀−塩化銀、水銀−硫酸水銀又は飽和カロメル電極などにより形成される。参照電極22に対する作用電極21の電位を変更することで、作用電極21で酸化還元反応が生じる。
【0018】
対向電極23は、作用電極21に流れる電流を検出するための電極であり、例えば、白金又は銅などの不活性金属により形成される。対向電極23と作用電極21との間には、作用電極21で生じる酸化還元反応に応じた電流、いわゆる応答電流が流れる。
【0019】
測定回路24は、電気化学測定処理を実行するための電気制御回路であり、作用電極21と参照電極22との間に三角波の電圧を印加しながら作用電極21と対向電極23との間に流れる応答電流を測定する。そして測定回路24は、測定した結果を示す検出信号を測定装置本体3に出力する。
【0020】
なお、還元反応を抑制する作用を有する添加剤が電気めっき液Xaに混入している場合は、還元反応時において作用電極21に析出する金属の量が減少するので、酸化反応時の応答電流のピーク値も減少する。このような特性を利用して電気めっき液Xa中の添加剤濃度が推定される。このような理由で測定回路24によって応答電流が測定される。
【0021】
測定回路24は、例えば、ポテンショスタット及びI/V変換回路を備え、ポテンショスタットによって作用電極21と参照電極22の間に三角波の電圧が段階的に印加される。そして印加電圧が段階的に変更されるたびに、I/V変換回路によって作用電極21と対向電極23間の応答電流に比例する電圧が検出信号として出力される。
【0022】
測定装置本体3は、電気化学センサ2から出力される検出信号に基づいて、電気めっき液に含まれる添加剤の濃度を測定する演算器を構成する。測定装置本体3は、記憶部31と、操作部32と、表示部33と、処理部34と、を備える。
【0023】
記憶部31は、RAM及びROMにより構成される。本実施形態の記憶部31には、CSV法に基づく電気化学測定処理を実行するプログラムが記憶されている。すなわち、記憶部31は、処理部34の動作プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体である。
【0024】
操作部32は、測定条件の設定操作や、電気化学測定処理の開始又は停止などを指示する各種の操作スイッチを備えている。操作部32は、これらの操作に応じた操作信号を処理部34に出力する。
【0025】
表示部33は、処理部34の指示に従って電気化学測定処理の設定内容や解析結果などを表示する。
【0026】
処理部34は、CPU、入出力インターフェース及びこれらを相互に接続するバスにより構成される。処理部34は、記憶部31からプログラムを読み出してCPUに実行させることで、入出力インターフェースを介して電気化学測定装置1を総括的に制御する。
【0027】
本実施形態では、処理部34が、操作部32からの操作信号に従って、CSV法に基づく電気化学測定処理を実行する。これにより、処理部34は、電気化学センサ2の動作を制御するとともに、電気化学センサ2からの検出信号を取得して記憶部31に記録する。
【0028】
処理部34は、記憶部31に記憶された検出信号を解析する。処理部34は、電気めっき液Xaに関して予め規定された項目についての解析値を求め、その解析値を記憶部31に記憶するとともに表示部33に表示させる。
【0029】
例えば、処理部34は、還元反応時に作用電極21に析出する酸化還元反応物質の量を推定するために、記憶部31に記憶された検出信号に基づき、酸化反応時における検出電流のピーク値の電気量を求める。そして処理部34は、その電気量から電気めっき液Xa中の添加剤の濃度を算出し、算出した添加剤の濃度を表示部33に表示させる。さらに処理部34は、その検出信号に基づいて、検出電流と作用電極21の電極電位との関係を表わすボルタモグラムを表示部33に表示させる。
【0030】
次に、本実施形態における電気化学センサ2のサイズ及び形状について
図2A及び2Bを参照しながら説明する。
【0031】
図2Aは、本実施形態における電気化学センサ2の作用電極21の構成を示す図である。
図2Bは、電気めっき液Xaに接触させられる作用電極21の表面21aの形状を示す図である。
【0032】
図2Aに示すように、作用電極21は、ガラスなどの絶縁材211に封入されており、作用電極21の先端の表面21aが電気めっき液Xaに接触する。以下では、作用電極21の表面21aのことを接触面21aと称する。
【0033】
図2Bに示すように、作用電極21の接触面21aの形状は円形であり、接触面21aの直径rは、電気めっき液Xa中の金属イオンの移動係数が大きくなるよう、数十μm(マイクロメータ)以下に形成されている。なお、接触面21aの直径rが数十μm以下に形成された作用電極21は微小電極とも称される。
【0034】
上述の金属イオンの移動係数とは、金属イオンの電気めっき液Xa中における接触面21aへの移動のしやすさを示す指標のことである。この移動係数は、電気めっき液Xa中での金属イオン固有の拡散係数と作用電極21の接触面21aの大きさとに応じて変化し、金属イオンが接触面21aへ移動しやすくなるほど、その移動係数の値は大きくなる。
【0035】
次に、作用電極21の直径rを数十μm以下に設定する理由について、
図3A、3B、4A及び4Bを参照しながら説明する。
【0036】
図3Aは、本実施形態における作用電極21の接触面21a近傍での金属イオンの拡散方向を示す観念図であり、
図4Aは、比較例としてディスク状の作用電極91を回転させずに固定した場合の接触面91a近傍での金属イオンの拡散方向を示す観念図である。
【0037】
図3A及び
図4Aには、電気めっき液Xaでの還元反応によって形成される拡散層が示されている。ここにいう拡散層とは、作用電極91の接触面91aと電気めっき液Xaとの間で、金属イオンの濃度差に起因して金属イオンが濃度の高い方から低い接触面91aの方へ輸送される層のことである。
【0038】
図4Aに示す作用電極91の直径は数mm(ミリメートル)程度であり、このような作用電極91上の拡散層においては、接触面91aに対して直交する方向の拡散である平面拡散が支配的となると考えられる。
【0039】
これに対して本実施形態では、作用電極21の直径rを作用電極91の直径と比較して百分の一程度まで小さくすることにより、
図3Aに示すように、接触面21aに対して0度から180度までの全方向の拡散が集中する球面拡散が優勢となると考えられる。
【0040】
したがって、球面拡散が支配的な状態では、平面拡散が支配的な状態に比べて拡散層での金属イオンの輸送効率が増大する。すなわち、接触面21a上の拡散層において、接触面21aに対する金属イオンの拡散状態が、平面拡散となる領域に対して球面拡散となる領域が大きくなると、金属イオンの移動係数が増加する。
【0041】
作用電極21の接触面21a上で球面拡散が支配的な状態になると、作用電極21の直径r(μm)と金属イオンの移動係数m
MEとの関係は、次式(1)のように表すことができる。
【0043】
なお、拡散係数D(cm
2/s)は、電気めっき液Xaの温度が25℃程度での金属イオンの拡散係数である。すなわち、拡散係数D(cm
2/s)は、めっき処理が行われる際の電気めっき液の液温(常温)での酸化還元物質の拡散係数である。
【0044】
式(1)に示したように、金属イオンの移動係数m
MEは、めっき処理時の液度において、作用電極21の直径rに反比例する関係にある。すなわち、作用電極21の接触面21aの面積が減少するほど、金属イオンの移動係数m
MEは増加する。
【0045】
ここで、式(1)の関係が成立する条件は、作用電極21の直径rが50μm以下である。それゆえ、作用電極21の直径rを50μm以下に設定することが好ましい。このようにすることで、球面拡散により作用電極21の接触面21aへの金属イオンの輸送効率が増大し、作用電極21の接触面21a近傍に生じる金属イオンの濃度勾配を抑制することができる。
【0046】
一方、作用電極91のように直径が50μmよりも大きくなると、平面拡散が支配的となり、式(1)の関係が成立しなくなる。すなわち、接触面21aの面積を大きくしても、金属イオンの移動係数m
MEはほとんど大きくならない。
【0047】
以上のように、作用電極21の接触面21aを、その面積が減少するほど金属イオンの移動係数が増加する関係が成立しはじめるサイズよりも小さくなるように形成したことで、接触面21a上の拡散層の濃度勾配を小さくすることができる。
【0048】
次に、両者の作用電極をモータで回転させる機構を設けずに、電気めっき液Xaに対して電気化学処理を実行したときの解析結果について簡単に説明する。
【0049】
図3Bは、微小電極である作用電極21を用いて作成したボルタモグラムの一例を示す観念図であり、
図4Bは、ディスク状の作用電極91を用いて作成したボルタモグラムの一例を示す観念図である。
【0050】
図3B及び4Bのボルタモグラムは、作用電極21と参照電極22との間に印加する電圧を所定の電圧範囲で掃引しながら作用電極21と対向電極23との間の応答電流を検出した結果をプロットしたグラフである。ここでは、縦軸を検出電流Iとし、横軸を作用電極21に生じる電極電位Eとしている。
【0051】
図4Bに示すように、検出電流Iが負となる領域では、電極電位Eが小さくなるにつれて、作用電極91の接触面91aで還元反応が起こって金属の析出する量が増加するので、検出電流Iが増加する。その結果、接触面91aでは金属イオンが減少する。
【0052】
このとき、作用電極91上では平面拡散が支配的となるため、拡散層での金属イオンの移動度が低く、電極電位Eをさらに小さくしても、接触面91aへ金属イオンが十分に供給されず、接触面91aで金属イオンが不足してしまい、検出電流Iが減少する。
【0053】
このように、作用電極91では、モータで作用電極91を回転させる機構が無ければ、接触面91aに向かって金属イオンが十分に供給されないことから、局所的に還元反応が起こり難くなる。その結果、電気めっき液Xa中の添加剤による還元反応への影響よりも金属イオンの供給不足による還元反応への影響のほうが大きくなり、電気めっき液Xa全体の状態を正しく分析することが困難となる。
【0054】
一方、本実施形態の作用電極21については、作用電極21をモータで回転させる機構が無くとも、接触面21a上の拡散層で球面拡散が優勢となるよう接触面21aの面積を小さく形成したので、接触面21aに金属イオンが十分に供給される。さらに、接触面21aの形状を円形に形成したことで、球面拡散が生じやすくなる。
【0055】
それゆえ、接触面21a上において金属イオンの濃度分布の偏りが均一化されやすくなり、検出電流Iが負となる領域では、電極電位Eが小さくなるにつれて、還元反応によって検出電流Iが増加した後、検出電流Iは減少することなく一定に維持される。
【0056】
したがって、CVS法に基づく電気化学測定処理を繰り返し実行したとしても、還元反応時に接触面21aで金属イオンが不足するという事態を回避できるので、電気めっき液Xa中の添加剤濃度を測定する精度が低下するのを抑制することができる。
【0057】
このように、本実施形態の作用電極21であれば、モータで作用電極21を回転させる機構を用いなくとも、電気めっき液Xaの状態を測定する精度を確保することができる。
【0058】
次に、作用電極21の接触面21aの大きさを設定する手法の一例について説明する。
【0059】
まず、作用電極91を所定の回転角速度ω(rad/s)で回転させた場合の作用電極91での金属イオンの移動係数m
RDEは、電気めっき液Xaの粘度v(cm
2/s)を用いて次式(2)のように表すことができる。
【0061】
そして、式(1)及び(2)より、作用電極91の回転角速度ωと本実施形態の作用電極21の直径rとの関係は、次式(3)により表すことができる。
【0063】
式(3)に示したように、作用電極91の回転角速度ωが分ければ、拡散層での金属イオンの濃度分布を均一にするのに必要となる移動係数m
RDEが求められるので、本実施形態の作用電極21の直径rを設定することが可能になる。
【0064】
例えば、硫酸銅めっき液中の添加剤の濃度を測定することを想定する。この場合には、銅イオンの拡散係数Dが5.5×10
-6(cm
2/s)で、硫酸銅めっき液の粘度vが0.01(cm
2/s)であり、通常、応答電流の検出精度を確保するのに必要とされる作用電極91の回転速度nは2500(rpm)である。
【0065】
上述の測定条件では、式(3)により、作用電極21の直径rは10μm程度となる。したがって、電気めっき液Xaの状態を測定するためには、作用電極21の直径rを5μmから15μmまでの範囲内の値に設定するのが好ましい。
【0066】
このように、式(1)の移動係数m
MEが、応答電流の発生に適した所定の値、例えば式(2)の移動係数m
RDEとなるよう作用電極21の直径rを設定することができる。
【0067】
なお、本実施形態では、作用電極21の接触面21aを円形に形成したが、三角形や四角形などの多角形又は楕円の形状に形成してもよく、あるいは、回転対称の形状に形成してもよい。このような形状であっても、接触面21aの面積を同面積の円に換算したときの円の直径を式(1)に適用すれば、接触面21aの大きさを設定できる。
【0068】
また、本実施形態では酸化還元反応物質として金属イオンが含まれる電気めっき液Xaについて説明したが、錯体又は有機分子が含まれる電気めっき液Xaであっても式(1)及び(2)を適用することができる。
【0069】
次に、本実施形態の作用効果について詳細に説明する。
【0070】
本実施形態によれば、電気化学センサ2は、電気めっき液Xaに接触させられる。電気化学センサ2は、電気めっき液Xaにおいて酸化還元反応物質の酸化還元反応を生じさせる作用電極21と、作用電極21の電位を制御する参照電極22と、作用電極21に流れる電流を検出するための対極としての対向電極23と、を備える。そして作用電極21は、電気めっき液Xaと作用電極21の接触面21aにおいて、その接触面21aの面積が減少するほど酸化還元反応物質の移動係数(移動度)が増加する特定の関係が成立しはじめるサイズ(大きさ)よりも小さくなるように形成される。
【0071】
一般的に、電気めっき液Xaの状態を測定するための電気化学センサにおいては、作用電極91の接触面91a上で酸化還元反応物質の濃度が均一となるよう、モータで作用電極91を回転させるような攪拌機構が必要となる。
【0072】
これに対し、上記特定の関係が成立する作用電極21のサイズでは、
図3Aに示したように、作用電極21の接触面21a上で平面拡散よりも球面拡散が優勢となるので、酸化還元反応物質の濃度差が小さくなる。このような現象を利用することで、本実施形態の電気化学センサ2では、作用電極91をモータで回転させるような攪拌機構が無くとも、電気めっき液Xaの状態を測定する精度を確保することが可能となる。
【0073】
したがって、電気めっき液Xaについての測定精度の低下を抑制しつつ、電気化学センサ2を小型にするとともに製造コストを抑制することができる。
【0074】
これに加え、接触面21aの面積を小さくすることにより、めっき液槽Xに貯蔵される電気めっき液Xaの量を減らすことが可能となるので、めっき液槽Xを小型にできる。それゆえ、めっき液槽Xを備えた電気化学センサ2のサイズを小さくすることが可能となる。また、金めっきなどに使用される高価な電気めっき液Xaの状態を測定するような場合には、測定のために使用される電気めっき液Xaの量を減らすことが可能になるので、電気めっき液Xaの測定に要するコストを低減することができる。
【0075】
さらに、接触面21aの面積を小さくすることで、接触面21aにおいて酸化還元反応に使用される酸化還元反応物質の量が少なくなるので、酸化還元反応に要する時間が短くなる。このため、CVSに基づく電気化学測定処理を実行する際に作用電極21と対向電極23との間の印加電圧の掃印時間を短縮することが可能となるので、測定時間を短縮することができる。
【0076】
また、本実施形態によれば、上記特定の関係は、電気めっき液Xa中の酸化還元反応物質の移動係数m
MEが、作用電極21における接触面21aの面積に相当する円の直径に対して反比例する関係である。このような関係は、作用電極21の接触面21a上の拡散層において球面拡散が優勢となるときに成立するので、球面拡散が優勢となる作用電極21のサイズを特定することが可能となる。
【0077】
また、本実施形態によれば、作用電極21の接触面21aを円形に形成したことで、拡散層での球面拡散による酸化還元反応物質の移動係数m
MEを高めることができ、
図3Aで述べた式(1)の関係を利用して接触面21aの直径rを適切に設定することが可能となる。
【0078】
また、作用電極21における接触面21aの直径rは50μm以下であることが好ましい。このようなサイズでは、球面拡散によって酸化還元反応物質の移動係数m
MEが上昇するので、電気めっき液Xaについての測定精度が低下するのを抑制することができる。
【0079】
例えば、作用電極21における接触面21aの直径rは、式(1)の移動係数m
MEが応答電流の検出精度の確保に必要な所定の値となるよう設定される。これにより、還元反応時に接触面21aで酸化還元反応物質が不足しにくくなるので、電気めっき液Xaに含まれる添加剤の濃度を精度よく測定することができる。
【0080】
上述の所定の値としては、例えば、式(2)の移動係数m
RDEの値が設定されてもよい。
図4Aに示した作用電極91をモータで回転させた場合の作用電極91の回転角速度ωに基づいて所定の値を設定することにより、濃度測定に必要となる酸化還元反応物質の輸送効率を確保することができる。
【0081】
また、本実施形態によれば、作用電極21の接触面21aのサイズ(大きさ)は、接触面21aに対する酸化還元反応物質の拡散状態が平面拡散となる領域よりも球面拡散となる領域が大きくなるように小さく形成される。これにより、作用電極21の接触面21aへの酸化還元反応物質の移動係数m
MEを高めることができる。
【0082】
また、本実施形態によれば、電気化学測定装置1は、電気化学センサ2で検出される検出信号に基づいて、電気めっき液Xaに含まれる添加剤の濃度を測定する演算器として測定装置本体3を備える。これにより、測定精度の低下を抑制しつつ、電気化学測定装置1のサイズ及び製造コストを抑制することができる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0084】
例えば、作用電極21をモータで回転させる機構や、作用電極21に振動を与える機構などを設けてもよい。また、電気化学センサ2は、めっき液槽(セル)Xが脱着可能なものであってもよい。さらに、作用電極21は、取り外し可能なものであってもよい。
【0085】
また、
図2では、作用電極21を封入した絶縁材211、参照電極22及び対向電極23を同じ形状かつ同じ大きさにしたが、実際には、電気化学測定処理の内容や、電気めっき液Xaの種類に応じて、適宜、形状や大きさが決定される。
【0086】
また、作用電極21を絶縁材211に封入して形成したが、形成手法はこれに限られない。例えば、フォトリソグラフィー法により、絶縁基板上において作用電極21の周囲が保護膜で覆われるよう作用電極21を形成してもよい。