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特開2019-211340高速炉デブリベッド冷却の解析方法及び解析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-211340(P2019-211340A)
(43)【公開日】2019年12月12日
(54)【発明の名称】高速炉デブリベッド冷却の解析方法及び解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/00 20060101AFI20191115BHJP
   G21C 9/016 20060101ALI20191115BHJP
   G21C 17/06 20060101ALI20191115BHJP
【FI】
   G21C17/00 Z
   G21C9/016
   G21C17/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-107723(P2018-107723)
(22)【出願日】2018年6月5日
(71)【出願人】
【識別番号】307041573
【氏名又は名称】三菱FBRシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】松尾 英治
(72)【発明者】
【氏名】佐々 京平
(72)【発明者】
【氏名】阿部 豊
【テーマコード(参考)】
2G002
2G075
【Fターム(参考)】
2G002AA05
2G002BA07
2G075AA07
2G075BA12
2G075CA04
2G075FB15
2G075GA18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来の冷却性評価モデルと同等の予測性能を維持しつつ、過渡解析にかかる時間を短縮する。
【解決手段】高速炉デブリベッド冷却の解析装置は、高速炉において、原子炉内に設けられたコアキャッチャーに堆積したデブリベッドを分割した第1サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、デブリベッドの未沸騰領域における等価熱伝導度と、デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度よりも大きい模擬的な等価熱伝導度とに基づいて各時間における非定常熱伝導方程式を解くことにより、デブリベッドの未沸騰領域の温度及び沸騰領域の範囲を過渡解析する第1解析部と、特定の時間において解析された沸騰領域の範囲に対応するデブリベッドを第1サイズよりも小さい第2サイズの複数のメッシュに分割し、デブリベッドの等価熱伝導度に基づく定常解析を行うことにより沸騰領域の温度及び水率の分布を解析する第2解析部と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが実行する、
高速炉において、原子炉内に設けられたコアキャッチャーに堆積した粒子状の燃料デブリであるデブリベッドを分割した第1サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、デブリベッドの未沸騰領域における等価熱伝導度と、デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度よりも大きい、前記沸騰領域における模擬的な等価熱伝導度とに基づいて各時間における非定常熱伝導方程式を解くことにより、前記デブリベッドの未沸騰領域の温度及び沸騰領域の範囲を過渡解析する第1解析ステップと、
前記第1解析ステップにより解析された各時間の沸騰領域の範囲のうち、特定の時間における沸騰領域の範囲に対応する前記デブリベッドを前記第1サイズよりも小さい第2サイズの複数のメッシュに分割し、当該第2サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、前記デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度に基づく定常解析を行うことにより、前記特定の時間における前記沸騰領域の温度及び水率の分布を解析する第2解析ステップと、
を備える高速炉デブリベッド冷却の解析方法。
【請求項2】
前記沸騰領域における模擬的な等価熱伝導度は、前記デブリベッドの沸騰領域の開始温度から所定範囲内において、最低の熱伝導度であり、前記所定範囲外の温度において、前記デブリベッドの等価熱伝導度よりも高い熱伝導度である、
請求項1に記載の高速炉デブリベッド冷却の解析方法。
【請求項3】
コンピュータを、
高速炉において、原子炉内に設けられたコアキャッチャーに堆積した粒子状の燃料デブリであるデブリベッドを分割した第1サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、デブリベッドの未沸騰領域における等価熱伝導度と、デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度よりも大きい、前記沸騰領域における模擬的な等価熱伝導度とに基づいて各時間における非定常熱伝導方程式を解くことにより、前記デブリベッドの未沸騰領域の温度及び沸騰領域の範囲を過渡解析する第1解析部、及び、
前記第1解析部により解析された各時間の沸騰領域の範囲のうち、特定の時間における沸騰領域の範囲に対応する前記デブリベッドを前記第1サイズよりも小さい第2サイズの複数のメッシュに分割し、当該第2サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、前記デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度に基づく定常解析を行うことにより、前記特定の時間における前記沸騰領域の温度及び水率の分布を解析する第2解析部、
として機能させる高速炉デブリベッド冷却の解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速炉デブリベッド冷却の解析方法及び解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
次世代ナトリウム冷却高速炉においては、炉心損傷事象の炉容器内終息を目標とした設計がなされている。図1は、炉心損傷事象に伴い発生した燃料デブリが炉容器下部プレナムに設置されたコアキャッチャー上に堆積した状態を説明する図である。炉心損傷事象に伴い発生した溶融燃料は、炉心領域外に排出され、冷却材との相互作用により分散・微粒化する。そして、溶融燃料は、図1に示すように、最終的に下部プレナムに設置されたコアキャッチャー101にベッド状に堆積したデブリベッド102となる。デブリベッドは、主に数百μmの粒子で形成され、崩壊熱により発熱する。炉内終息の達成のためには、デブリベッドを長期間安定に冷却する必要があり、冷却性評価モデルの検討が重要となる。
【0003】
冷却性評価モデルとしては、下記式(1)に示すデブリベッドの等価熱伝導度keqを用いた非定常熱伝導方程式を解く冷却性評価モデルが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【数1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nakamura, H. et al., “A Method to Calculate Boiling and Dryout in Debris Bed Using a Heat Conduction Code”, in Proceedings of International Topical Meeting on Fast Reactor Safety, Knoxville, Tennessee, U.S.A..1985
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図2は、デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度を示す図である。図2に示すように、デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度は、数℃で大きく値が変動する。したがって、式(1)に示す非定常熱伝導方程式を解く冷却性評価モデルにおいて、沸騰領域の正確な温度及び水率分布を予測するためには、非常に小さなメッシュサイズ及びタイムステップを必要とする。
【0006】
図3は、従来の過渡解析手法を説明するための図である。従来の過渡解析の実施手法では、過渡解析において沸騰領域の正確な温度及び水率分布を予測するため、非常に小さなメッシュサイズ及びタイムステップを用いて計算を行うため、過渡解析の実施に膨大な時間を要していた。
【0007】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、従来の冷却性評価モデルと同等の予測性能を維持しつつ、過渡解析にかかる時間を短縮することができる高速炉デブリベッド冷却の解析方法及び解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、デブリベッドにおける沸騰領域が定常的な挙動を示すことに着目し、デブリベッドにおける沸騰領域における等価熱伝導度を大きな値に単純化して非定常熱伝導方程式を解くことにより過渡解析を実施し、過渡解析では直接予測できなくなった沸騰領域のデブリベッドの温度及び水率分布を必要に応じて定常解析から予測することを見出した。
【0009】
本発明の第1の態様に係る高速炉デブリベッド冷却の解析方法は、コンピュータが実行する、高速炉において、原子炉内に設けられたコアキャッチャーに堆積した粒子状の燃料デブリであるデブリベッドを分割した第1サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、デブリベッドの未沸騰領域における等価熱伝導度と、デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度よりも大きい、前記沸騰領域における模擬的な等価熱伝導度とに基づいて各時間における非定常熱伝導方程式を解くことにより、前記デブリベッドの未沸騰領域の温度及び沸騰領域の範囲を過渡解析する第1解析ステップと、前記第1解析ステップにより解析された各時間の沸騰領域の範囲のうち、特定の時間における沸騰領域の範囲に対応する前記デブリベッドを前記第1サイズよりも小さい第2サイズの複数のメッシュに分割し、当該第2サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、前記デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度に基づく定常解析を行うことにより、前記特定の時間における前記沸騰領域の温度及び水率の分布を解析する第2解析ステップと、を備える。
【0010】
前記沸騰領域における模擬的な等価熱伝導度は、前記デブリベッドの沸騰領域の開始温度から所定範囲内において、最低の熱伝導度であり、前記所定範囲外の温度において、前記デブリベッドの等価熱伝導度よりも高い熱伝導度であってもよい。
【0011】
本発明の第2の態様に係る高速炉デブリベッド冷却の解析プログラムは、コンピュータを、高速炉において、原子炉内に設けられたコアキャッチャーに堆積した粒子状の燃料デブリであるデブリベッドを分割した第1サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、デブリベッドの未沸騰領域における等価熱伝導度と、デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度よりも大きい、前記沸騰領域における模擬的な等価熱伝導度とに基づいて各時間における非定常熱伝導方程式を解くことにより、前記デブリベッドの未沸騰領域の温度及び沸騰領域の範囲を過渡解析する第1解析部、及び、前記第1解析部により解析された各時間の沸騰領域の範囲のうち、特定の時間における沸騰領域の範囲に対応する前記デブリベッドを前記第1サイズよりも小さい第2サイズの複数のメッシュに分割し、当該第2サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、前記デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度に基づく定常解析を行うことにより、前記特定の時間における前記沸騰領域の温度及び水率の分布を解析する第2解析部、として機能させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来の冷却性評価モデルと同等の予測性能を維持しつつ、過渡解析にかかる時間を短縮することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】炉心損傷事象に伴い発生した燃料デブリが炉容器下部プレナムに設置されたコアキャッチャー上に堆積した状態を説明する図である。
図2】デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度を示す図である。
図3】従来の過渡解析手法を説明するための図である。
図4】本実施形態に係る高速炉デブリベッド冷却の解析手法を説明するための図である。
図5】本実施形態に係る高速炉デブリベッド冷却の解析装置の構成を示す図である。
図6】本実施形態に係る第1解析部が非定常熱伝導方程式を解く場合に用いるデブリベッドの沸騰領域における模擬的な等価熱伝導度を示す図である。
図7】パラメータであるデブリベッド高さに対する最高温度及び最低水率のピーク値を示す図である。
図8】本感度解析においてドライアウトに至らなかった最大のデブリベッド高さにおける最高温度及び最低水率の過渡変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[高速炉デブリベッド冷却の解析装置の概要]
図1に示すように、原子炉容器100の下部プレナムには、炉心損傷事象に伴い発生した燃料デブリを受け止めるコアキャッチャー101が設けられている。炉心損傷事象に伴い発生した溶融燃料は、炉心領域外に排出され、冷却材との相互作用により分散・微粒化する。そして、溶融燃料は、最終的にはコアキャッチャー101にベッド状に堆積したデブリベッド102となる。
【0015】
図4は、本実施形態に係る高速炉デブリベッド冷却の解析手法を説明するための図である。本実施形態に係る高速炉デブリベッド冷却の解析装置1は、コアキャッチャー101に堆積したデブリベッド102の温度及び水率を解析する装置である。高速炉デブリベッド冷却の解析装置1は、例えば、コンピュータである。以下の説明において、高速炉デブリベッド冷却の解析装置1を、単に解析装置1という。
【0016】
本実施形態において、解析装置1は、図4に示す第1の解析として、従来の冷却性評価モデルにおいて用いられているメッシュサイズよりも大きい第1サイズでデブリベッドを分割し、第1サイズの複数のメッシュを生成する。そして、解析装置1は、デブリベッドの未沸騰領域における等価熱伝導度と、従来の冷却性評価モデルにおいて用いられる沸騰領域における等価熱伝導度の値に比べて大きな値に単純化した沸騰領域における模擬的な等価熱伝導度とを用いて非定常熱伝導方程式を解くことにより、各時間におけるデブリベッドの未沸騰領域の温度及び沸騰領域の範囲を過渡解析する。図4に示すグラフにおいて、縦軸はデブリベッドの高さを示しており、横軸は、デブリベッドの温度及び水率を示している。ここで、未沸騰領域は、デブリベッドの沸点未満の温度領域である。また、沸騰領域は、デブリベッドの沸点以上の温度領域であり、デブリベッドがドライアウトとなる温度領域も含むものとする。
【0017】
続いて、解析装置1は、図4に示す第2の解析として、第1の解析により解析された各時間のそれぞれの沸騰領域の範囲のうち、特定の時間に対応する沸騰領域の範囲のデブリベッドを、第1サイズよりも小さい第2サイズにより複数のメッシュに分割する。そして、解析装置1は、第2サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、従来の冷却性評価モデルにおいて用いられるデブリベッドの等価熱伝導度に基づく定常解析を行うことにより沸騰領域の温度及び水率の分布を解析する。
【0018】
このように、解析装置1は、第1の解析において、従来の冷却性評価モデルのメッシュサイズに比べて大きなメッシュサイズを用いて、従来のタイムステップよりも大きなタイムステップで高速に解析を行うとともに、第2の解析において、各時間のうち特定の時間に対応する沸騰領域の範囲の温度及び水率分布を正確に予測する。これにより、解析装置1は、従来の冷却性評価モデルと同等の予測性能を維持しつつ、過渡解析にかかる時間を短縮することができる。
【0019】
[解析装置1の構成例]
続いて、解析装置1の構成について説明する。図5は、本実施形態に係る解析装置1の構成を示す図である。
解析装置1は、入力部11と、表示部12と、通信部13と、記憶部14と、制御部15とを備える。
【0020】
入力部11は、例えば、マウス又はキーボード等により構成されており、解析装置1のユーザから操作入力を受け付ける。
表示部12は、例えば、液晶ディスプレイや有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等により構成される。表示部12は、制御部15の制御に応じて各種情報を表示する。
通信部13は、例えば、解析装置1が他の装置と通信するための通信インタフェースである。
【0021】
記憶部14は、例えば、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等である。記憶部14は、解析装置1を機能させるための各種プログラムを記憶する。例えば、記憶部14は、解析装置1の制御部15を、後述する第1解析部151、第2解析部152、及び出力部153として機能させる高速炉デブリベッド冷却の解析プログラムを記憶する。
【0022】
制御部15は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。制御部15は、記憶部14に記憶されている高速炉デブリベッド冷却の解析プログラムを実行することにより、第1解析部151、第2解析部152、及び出力部153として機能する。
【0023】
第1解析部151は、高速炉において、原子炉内に設けられたコアキャッチャー上にデブリベッドが堆積している場合を想定し、コアキャッチャーに堆積した粒子状の燃料デブリであるデブリベッドを分割することにより、第1サイズの複数のメッシュを生成する。
【0024】
本実施形態では、第1解析部151は、コアキャッチャー上の一点に堆積しているデブリベッドを、デブリベッドの高さ方向に第1サイズにより分割することにより、第1サイズの複数のメッシュを生成する。なお、本実施形態では、第1解析部151は、デブリベッドを、デブリベッドの高さ方向に第1サイズにより分割することとしたが、これに限らず、デブリベッドを、高さ方向、水平方向(幅方向、奥行方向)のうち、一以上の方向に分割してもよい。例えば、第1解析部151は、デブリベッドを高さ方向及び幅方向に分割してもよいし、高さ方向、幅方向及び奥行き方向に分割してもよい。
【0025】
第1解析部151は、生成した第1サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、デブリベッドの未沸騰領域における等価熱伝導度と、デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度よりも大きい、デブリベッドの沸騰領域における模擬的な等価熱伝導度とに基づいて各時間における非定常熱伝導方程式を解くことにより、デブリベッドの未沸騰領域の温度及び沸騰領域の範囲を過渡解析する。
【0026】
ここで、非定常熱伝導方程式は、以下の式(2)に示されるものとする。式(2)中の(ρCはデブリベッドの熱容量、Tはデブリベッドの温度、tは時間、Qはデブリベッドの発熱密度、keqは等価熱伝導度、zはデブリベッドの高さ方向の位置を示している。
【数2】
【0027】
図6は、第1解析部151が非定常熱伝導方程式を解く場合に用いるデブリベッドの沸騰領域における模擬的な等価熱伝導度を示す図である。図6における実線及び一点鎖線は模擬的な等価熱伝導度を示しており、破線は、図2に示したデブリベッドの等価熱伝導度を示している。図6に示すように、模擬的な等価熱伝導度は、デブリベッドの沸騰領域の開始温度から所定範囲内を示す範囲R1内において、最低の熱伝導度である。
【0028】
また、模擬的な等価熱伝導度は、デブリベッドの沸騰領域の開始温度から所定範囲外の温度を示す範囲R2内の温度において、図6に破線で示すデブリベッドの等価熱伝導度よりも高い熱伝導度である。デブリベッドの沸騰領域の開始温度から所定範囲外の温度における模擬的な等価熱伝導度は、例えば、同温度範囲におけるデブリベッドの等価熱伝導度のピーク値に対して数倍以上高い値を有している。また、模擬的な等価熱電導度は、図6に一点鎖線で示すように、最低の熱伝導度から、図2に示すデブリベッドの等価熱伝導度よりも高い熱伝導度に移行するまでの間に極端に不連続な値とならないように定義される。
【0029】
図6に示すように、沸騰領域の広い範囲における模擬的な等価熱伝導度を、デブリベッドの等価熱伝導度に比べて大きい値とすることにより、メッシュサイズを大きくしてもメッシュ間で熱が十分に伝わるという前提で解析することができる。これにより、第1解析部151は、デブリベッドの温度及び水率の過渡解析を高速に行うことができる。
【0030】
第1解析部151が各メッシュについて温度を算出した結果、沸騰点よりも低い温度となるメッシュに対応する位置のデブリベッドは未沸騰領域に属し、沸騰点以上の温度となるメッシュに対応する位置のデブリベッドは沸騰領域に属する。また、未沸騰領域の水率は1となり、沸騰領域の水率は1以下となる。ここで、第1解析部151は、図6に示す模擬的な等価熱伝導度を用いてデブリベッドの温度及び水率を算出するので、沸騰領域の温度及び水率の精度が低くなってしまう。
【0031】
沸騰領域において、沸騰点からドライアウト(等価熱伝導度が再びほぼゼロとなる温度)までの温度差は数℃しかなく、その間の等価熱伝導度の平均値は非常に大きいことから、沸騰領域は、過渡においても定常的な挙動を示すと考えられる。そこで、解析装置1は、第2解析部152により、第1解析部151が解析した沸騰領域の範囲に対して、図2に示すデブリベッドの等価熱伝導度に基づく定常解析を行い、沸騰領域の温度及び水率の分布を解析する。
【0032】
具体的には、まず、第2解析部152は、第1解析部151により解析された各時間の沸騰領域の範囲のうち、特定の時間における沸騰領域の範囲に対応するデブリベッドを第1サイズよりも小さい第2サイズの複数のメッシュに分割する。本実施形態では、第1解析部151がデブリベッドを高さ方向に分割していることから、第2解析部152も、沸騰領域の範囲に対応するデブリベッドを高さ方向に分割する。これにより、第2解析部152は、第2サイズの複数のメッシュを生成する。なお、本実施形態では、第2解析部152は、デブリベッドを、デブリベッドの高さ方向に第2サイズにより分割することとしたが、これに限らず、デブリベッドを、高さ方向、水平方向(幅方向、奥行方向)のうち、一以上の方向に分割してもよい。例えば、第2解析部152は、デブリベッドを高さ方向及び幅方向に分割してもよいし、高さ方向、幅方向及び奥行き方向に分割してもよい。
【0033】
ここで、特定の時間は、解析装置1が、解析結果をユーザが閲覧可能な情報として出力するタイミングに対応する時間である。例えば、第1解析部151が第1時間間隔ごとに解析を行うのに対し、第2解析部152は、第1時間よりも長い第2時間間隔ごとに解析を行う。
【0034】
続いて、第2解析部152は、第2サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度に基づく定常解析を行うことにより、特定の時間における沸騰領域の温度及び水率の分布を解析する。上述したとおり、沸騰領域は、過渡においても定常的な挙動を示すと考えられることから、式(2)の左辺のdT/dtがほぼ0となる。第2解析部152は、式(2)の左辺の値を0として式(2)を解くことにより、第2サイズの複数のメッシュのそれぞれに対応する温度及び水率を算出する。
【0035】
出力部153は、第2解析部152が解析した結果を出力する。例えば、出力部153は、第2解析部152が解析した結果を示す情報を記憶部14に記憶させたり、表示部12に表示させたりする。
【0036】
[従来手法との比較結果]
続いて、典型的なナトリウム冷却高速炉のデブリベッド条件を用いてデブリベッド高さをパラメータとしたときの、従来の冷却性評価モデルに係る解析手法を用いた解析結果と、本発明に係る解析手法を用いた解析結果とを比較した結果について説明する。
【0037】
下記の表1は、典型的なナトリウム冷却高速炉のデブリベッド条件を示す。
【表1】
【0038】
以下の式(3)は、従来の解析手法を用いた解析結果と、本発明に係る解析手法を用いた解析結果とを比較する際に用いた、沸騰領域における非定常熱伝導方程式である。
【数3】
【0039】
(ρCはデブリベッドの熱容量、Tはデブリベッドの温度、tは時間、εはデブリベッドの空隙、ρは蒸気密度、Hlvは気化潜熱、sは水率を示している。sはTの関数である。Qはデブリベッドの発熱密度、Kは気液移流を除く等価熱伝導度、zはデブリベッドの高さ方向の位置、Klvは気液移流の等価熱伝導度を示している。
【0040】
したがって、式(3)の左辺の第1項は顕熱に係わる慣性項,左辺の第2項は蒸発潜熱に係わる慣性項であり、右辺の第1項はデブリベッドの発熱密度、第2項は気液移流を除く伝熱項、第3項は気液移流に伴う伝熱項となる。
【0041】
解析を行うにあたり、デブリベッドの周囲冷却材温度は、簡易的に400℃一定とした。図7は、パラメータであるデブリベッド高さに対する最高温度及び最低水率のピーク値を示す図である。図8は、本感度解析においてドライアウトに至らなかった最大のデブリベッド高さ(0.16[m])における最高温度及び最低水率の過渡変化を示す図である。図7及び図8に示すように、本発明に係る解析手法による解析結果と、従来の解析手法による解析結果とはよく一致しており、本手法に係る解析手法の妥当性が確認できた。また、従来の解析手法では、数時間から半日程度の時間を要していた計算が、同じ計算機環境にて数分から数十分程度まで短縮でき、計算時間が約1/50に短縮できた。
【0042】
[本実施形態における効果]
以上のとおり、本実施形態に係る解析装置1は、原子炉内に設けられたコアキャッチャーに堆積した粒子状の燃料デブリであるデブリベッドを分割した第1サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、デブリベッドの未沸騰領域における等価熱伝導度と、デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度よりも大きい、デブリベッドの沸騰領域における模擬的な等価熱伝導度とに基づいて各時間における非定常熱伝導方程式を解くことにより、デブリベッドの未沸騰領域の温度及び沸騰領域の範囲を過渡解析する。そして、解析装置1は、解析された各時間の沸騰領域の範囲のうち、特定の時間における沸騰領域の範囲に対応するデブリベッドを第1サイズよりも小さい第2サイズの複数のメッシュに分割し、当該第2サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、デブリベッドの沸騰領域における等価熱伝導度に基づく定常解析を行うことにより、特定の時間における沸騰領域の温度及び水率の分布を解析する。
【0043】
このように、解析装置1は、第1の解析において、従来の冷却性評価モデルのメッシュサイズに比べて大きなメッシュサイズを用いて、従来のタイムステップよりも大きなタイムステップで高速に解析を行うとともに、第2の解析において、各時間のうち特定の時間に対応する沸騰領域の範囲の温度及び水率分布を正確に予測する。これにより、解析装置1は、従来の冷却性評価モデルと同等の予測性能を維持しつつ、過渡解析にかかる時間を短縮することができる。
【0044】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、上述の実施形態では、高速炉デブリベッドの冷却性の解析を行う例について説明したがこれに限らない。例えば、本発明に係る第1の解析及び第2の解析を、高速炉デブリベッドとは異なる、微小粒子で形成された充填ベッドの冷却性の評価解析に適用してもよい。
【0045】
この場合、第1解析部151は、微小粒子で形成された充填ベッドを分割した第1サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、充填ベッドの未沸騰領域における等価熱伝導度と、充填ベッドの沸騰領域における等価熱伝導度よりも大きい、沸騰領域における模擬的な等価熱伝導度とに基づいて各時間における非定常熱伝導方程式を解くことにより、充填ベッドの未沸騰領域の温度及び沸騰領域の範囲を過渡解析する。また、第2解析部152は、第1解析部151が解析した各時間の沸騰領域の範囲のうち、特定の時間における沸騰領域の範囲に対応する充填ベッドを第1サイズよりも小さい第2サイズの複数のメッシュに分割し、当該第2サイズの複数のメッシュのそれぞれについて、充填ベッドの沸騰領域における等価熱伝導度に基づく定常解析を行うことにより、特定の時間における沸騰領域の温度及び水率の分布を解析する。この場合における、沸騰領域における模擬的な等価熱伝導度は、例えば、充填ベッドの沸騰領域の開始温度から所定範囲内において最低の熱伝導度であり、所定範囲外の温度において充填ベッドの等価熱伝導度よりも高い熱伝導度である。また、この場合において、解析装置1は、充填ベッドを高さ方向に分割し、解析を行うものとするが、これに限らず、高さ方向、水平方向(幅方向、奥行方向)のうち、一以上の方向に分割して解析を行ってもよい。例えば、解析装置1は、充填ベッドを高さ方向及び幅方向に分割して二次元解析を行ったり、高さ方向、幅方向及び奥行き方向に分割して三次元解析を行ったりしてもよい。
【0046】
また、装置の分散・統合の具体的な実施の形態は、以上の実施の形態に限られず、その全部又は一部について、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を合わせ持つ。
【符号の説明】
【0047】
1・・・高速炉デブリベッド冷却の解析装置、11・・・入力部、12・・・表示部、13・・・通信部、14・・・記憶部、15・・・制御部、151・・・第1解析部、152・・・第2解析部、153・・・出力部、100・・・原子炉容器、101・・・コアキャッチャー、102・・・デブリベッド
図1
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