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特開2019-211370X線回折装置及びアタッチメント装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-211370(P2019-211370A)
(43)【公開日】2019年12月12日
(54)【発明の名称】X線回折装置及びアタッチメント装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/205 20180101AFI20191115BHJP
   G01N 23/20033 20180101ALI20191115BHJP
   G01N 23/20041 20180101ALI20191115BHJP
【FI】
   G01N23/205
   G01N23/20033
   G01N23/20041
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-108555(P2018-108555)
(22)【出願日】2018年6月6日
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】湯川 宏
(72)【発明者】
【氏名】大竹 智士
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001DA09
2G001JA14
2G001KA01
2G001LA02
2G001NA16
(57)【要約】
【課題】様々な条件下で試料のX線回折を測定することを可能とする技術を提供する。
【解決手段】X線回折装置1は、試料3を内部に設置するための試料室12と、試料室12の内部の圧力を制御する圧力制御部と、試料3を加熱する加熱部と、試料3にX線を照射したときに、試料3により回折されたX線を検出する二次元検出器11と、を備える。圧力制御部は、試料室12の内部の圧力を、大気圧よりも高い所定の圧力に制御可能であり、加熱部は、試料3又は試料3を載置するステージに赤外線を照射することにより試料を加熱する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を内部に設置するための試料室と、
前記試料室の内部の圧力を制御する圧力制御部と、
前記試料を加熱する加熱部と、
前記試料にX線を照射したときに、前記試料により回折されたX線を検出する検出器と、
を備え、
前記圧力制御部は、前記試料室の内部の圧力を、大気圧よりも高い所定の圧力に制御可能であり、
前記加熱部は、前記試料又は前記試料を載置するステージに赤外線を照射することにより前記試料を加熱する
ことを特徴とするX線回折装置。
【請求項2】
前記加熱部は、
赤外線を発生する赤外線発生部と、
前記赤外線発生部により発生された赤外線を前記試料又は前記ステージまで導光する導光部と、
前記赤外線発生部により発生された赤外線を集光して前記導光部に導入する集光部と、
を備え、
前記圧力制御部により前記試料室の内部が大気圧よりも高い圧力に制御されたときに、前記導光部が前記試料室の内部の圧力により押し出されて位置がずれないように固定するための固定部を更に備える
ことを特徴とする請求項1に記載のX線回折装置。
【請求項3】
前記導光部は、外径が他の部分よりも大きい太径部を有し、
前記固定部は、前記導光部の前記太径部の外径よりも内径が小さい開口を含む
ことを特徴とする請求項2に記載のX線回折装置。
【請求項4】
前記試料室に導入される気体の流量を制御する流量制御部を更に備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のX線回折装置。
【請求項5】
前記圧力制御部及び前記流量制御部は、所定の流量で気体を前記試料室に導入しつつ、前記試料室の内部の圧力を所定の圧力に制御することを特徴とする請求項4に記載のX線回折装置。
【請求項6】
前記試料の垂直方向の位置を調整する垂直位置調整部を更に備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のX線回折装置。
【請求項7】
前記試料の水平方向の位置を調整する水平位置調整部を更に備えることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のX線回折装置。
【請求項8】
前記試料室の外壁は、前記試料室の内部を加温するための加温部と、前記試料室の外壁を冷却するための冷却部の少なくとも2層の構造を有することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のX線回折装置。
【請求項9】
前記試料は、試料ホルダに固定されることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のX線回折装置。
【請求項10】
前記試料ホルダに載置された前記試料を押止する試料押さえ部を更に備えることを特徴とする請求項9に記載のX線回折装置。
【請求項11】
前記試料室の内部において、前記試料の上面よりも上方のX線を通過させるべき光路よりも上方の領域を通過するX線を遮蔽する遮蔽部を更に備えることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のX線回折装置。
【請求項12】
前記試料室内に設置された前記試料を視認するための可視化部を更に備えることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のX線回折装置。
【請求項13】
前記試料室内に設置された前記試料を照明する照明部を更に備えることを特徴とする請求項12に記載のX線回折装置。
【請求項14】
前記試料室内の前記X線が通過しない空間を充填する充填部材を更に備えることを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載のX線回折装置。
【請求項15】
X線回折装置の試料を内部に設置するための試料室に接続されるアタッチメント装置であって、
前記試料室の内部の圧力を制御する圧力制御部と、
前記試料を加熱する加熱部と、
を備え、
前記圧力制御部は、前記試料室の内部の圧力を、大気圧よりも高い所定の圧力に制御可能であり、
前記加熱部は、前記試料又は前記試料を載置するステージに赤外線を照射することにより前記試料を加熱する
ことを特徴とするアタッチメント装置。
【請求項16】
前記X線回折装置の試料室に着脱可能に接続されることを特徴とする請求項15に記載のアタッチメント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はX線回折装置に関し、とくに、試料により回折されたX線を測定するX線回折装置、及びそのX線回折装置に利用可能なアタッチメント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、金属原子1個当りの格子体積膨張量と水素吸蔵量の関係は結晶構造に依存し、結晶構造が同一であれば材料の種類によらず同一であることを見いだし、この発見に基づいて、水素吸蔵材料の水素吸蔵量を測定する水素吸蔵量測定方法及び水素吸蔵量測定装置を発明した(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示した水素吸蔵量測定方法及び水素吸蔵量測定装置では、水素もしくは水素を含む混合ガス雰囲気中、所定温度、所定圧力下での水素吸蔵材料のX線回折により、水素吸蔵材料の格子体積の変化量を測定し、水素吸蔵材料の結晶構造に対応する既知の格子体積膨張量と水素吸蔵量との関係を用いて、測定した格子体積の変化量から水素吸蔵材料の水素吸蔵量を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−223921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、様々な条件下で水素吸蔵材料などの試料のX線回折を測定することができれば、より幅広い応用が期待できると考えて、X線回折装置を改良するための実験を重ね、本開示の技術に想到した。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、様々な条件下で試料のX線回折を測定することを可能とする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある態様のX線回折装置は、試料を内部に設置するための試料室と、試料室の内部の圧力を制御する圧力制御部と、試料を加熱する加熱部と、試料にX線を照射したときに、試料により回折されたX線を検出する検出器と、を備える。圧力制御部は、試料室の内部の圧力を、大気圧よりも高い所定の圧力に制御可能であり、加熱部は、試料又は試料を載置するステージに赤外線を照射することにより試料を加熱する。
【0008】
本開示の別の態様は、アタッチメント装置である。この装置は、X線回折装置の試料を内部に設置するための試料室に接続されるアタッチメント装置であって、試料室の内部の圧力を制御する圧力制御部と、試料を加熱する加熱部と、を備える。圧力制御部は、試料室の内部の圧力を、大気圧よりも高い所定の圧力に制御可能であり、加熱部は、試料又は試料を載置するステージに赤外線を照射することにより試料を加熱する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、様々な条件下で試料のX線回折を測定することを可能とする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る分析装置の構成を模式的に示す図である。
図2】実施の形態に係るアタッチメント装置が接続されたX線回折装置の外観を示す図である。
図3】実施の形態に係るアタッチメント装置に備えられた加熱部の断面を概略的に示す図である。
図4】実施の形態に係るX線回折装置の試料室及びアタッチメント装置の断面を示す図である。
図5】実施の形態に係るX線回折装置の試料室及びアタッチメント装置の断面を示す図である。
図6】実施の形態に係るX線回折装置の試料室及びアタッチメント装置の断面を示す図である。
図7】実施の形態に係るX線回折装置の試料室の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の実施の形態として、減圧又は高圧下で試料を加熱しながら試料のX線回折を測定することが可能なX線回折装置について説明する。
【0012】
図1は、実施の形態に係る分析装置の構成を模式的に示す。分析装置は、試料3にX線を照射して、試料3により回折されたX線を測定するX線回折装置1と、X線回折装置1により測定されたX線回折データを解析する解析装置2とを備える。X線回折装置1には、X線回折装置1の測定条件を変更したり、X線回折装置1に様々な機能を付与したりするためのアタッチメント装置を着脱可能に接続することができる。本実施の形態においては、主に、高温減圧下又は高温高圧下におけるX線回折データの測定を可能とするアタッチメント装置をX線回折装置1に接続する例について説明するが、本図ではアタッチメント装置を省略している。アタッチメント装置については、図2以降を参照して詳述する。
【0013】
X線回折装置1は、試料3にX線を照射するX線源10と、試料3により回折され散乱されたX線を検出する二次元検出器11と、測定対象の試料3を内部に設置するための試料室12と、試料室12にガスを供給する供給管13と、試料室12内のガスを排気する排気管14と、試料3を載置するステージ15とを備える。
【0014】
試料室12にはX線を透過する窓が設けられており、その窓を介して、X線源10から試料室12内の試料3にX線を照射し、試料3により回折され散乱されたX線を二次元検出器11により検出する。X線源10を試料3に対して回転させることで、X線の入射方向を変更可能となっている。また、X線源10の回転に伴い、二次元検出器11も連動して回転し、入射角θに対する回折角2θを測定する。
【0015】
二次元検出器11は、縦横に広がりを有する二次元平面又は曲面状のX線検出器であり、試料3により回折されたX線の二次元的な回折像を検出することができる。これにより、板状又は薄膜状に形成された試料3の異方性なども測定することができる。二次元検出器11により検出されたX線回折データは、解析装置2に伝達され、解析装置2により解析される。
【0016】
供給管13にはガスボンベが連結されており、ガスボンベ内のガスが供給管13を介して試料室12内に供給される。試料ガス中の水素濃度を検出する目的で分析装置を利用する場合には、水素濃度を検出する対象となる試料ガスが供給管13を介して試料室12内に供給される。試料ガスは、水素、窒素、酸素、アルゴンなど、任意の物質の気体を含む混合ガスであってもよい。金属又は合金と水素との反応の平衡特性を表すPCT特性曲線を測定する目的で分析装置を利用する場合には、純水素又は所定の分圧の水素を含む混合ガスが供給管13を介して試料室12内に供給される。
【0017】
排気管14は、試料室12内の気体を排出するための配管である。真空又は低圧条件下で測定を行う場合は、真空ポンプが連結された配管から、真空ポンプにより試料室12内のガスを排気する。高圧条件下で測定を行う場合は、配管に設けられたバルブを開度を制御することにより、試料室12内のガスを排気する。
【0018】
試料室12内のガスの流量及び圧力は、図示しない流量・圧力コントローラにより所定の流量及び圧力に自動制御される。本実施の形態のアタッチメント装置は、概ね、0.1気圧から10気圧までの圧力範囲でのX線回折測定を可能とするが、0.1気圧よりも低い圧力条件下で測定可能に構成されてもよいし、10気圧よりも高い圧力条件下で測定可能に構成されてもよい。
【0019】
このようなX線回折装置1により高温高圧下で混合ガス雰囲気中の試料3のX線回折データを測定する場合、試料室12内に設けられたヒータにより試料3を加熱する方式では、ヒータを構成する金属の耐熱温度が限界となるし、ヒータを構成する金属と雰囲気ガス中の水素や酸素などが意図しない化学反応を起こして測定条件に影響を及ぼす可能性がある。したがって、本実施の形態においては、赤外線を試料3又はステージ15に照射することにより試料3又はステージ15を直接加熱する。これにより、試料3又はステージ15のみを局所的に加熱することができる。
【0020】
赤外線を試料3又はステージ15に照射するために、赤外線を透過する材質により構成された窓などを試料室12に設ける場合、試料室12内を高圧にしたときに、窓に大きな応力がかかって窓が損傷したり、窓の周囲から試料室12内のガスが漏出したりしないように構成する必要があるが、本実施の形態においては、窓ではなく、赤外線を試料3に導光するための導光部を設け、導光部を介して試料3又はステージ15に赤外線を照射する。これにより、高温高圧下で試料のX線回折を測定するためのX線回折装置の安全性を高めることができる。また、雰囲気ガスを加熱し、雰囲気ガスを介して間接的に試料3を加熱する方式よりも、熱効率を高め、より迅速に試料を加熱することができるとともに、測定条件をより厳密に制御することができる。また、試料室12内の気体をフローさせる場合であっても、試料を効率良く加熱することができる。
【0021】
以下、高温減圧下又は高温高圧下における試料のX線回折の測定を可能とするためのアタッチメント装置について、図2以降を参照して説明する。図2以降では、X線源10や二次元検出器11などの構成を省略し、主に、試料室12及びアタッチメント装置を図示する。また、図を見やすくするために、構成の一部を適宜省略して図示する。
【0022】
図2は、実施の形態に係るアタッチメント装置が接続されたX線回折装置の外観を示す。アタッチメント装置20は、試料室12に脱着可能に接続され、X線回折装置1による測定条件を調整するための構成を備える。具体的には、アタッチメント装置20は、主に、試料室12内のガスの圧力及び流量を制御するための構成と、試料室12内に設置された試料3を加熱するための構成と、試料室12内に設置された試料3の位置を調整するための構成とを備える。
【0023】
アタッチメント装置20は、試料室12に脱着自在に構成されているので、試料室12に試料3を設置する際には、アタッチメント装置20を試料室12から外して退避させることができる。試料室12に試料3を設置すると、退避していたアタッチメント装置20を試料室12に接続し、X線回折測定を実行する。アタッチメント装置20を着脱自在に構成することにより、試料3の脱着や交換のための作業を容易にすることができる。また、アタッチメント装置20を用途に応じて交換することができる。
【0024】
昇降機構29は、アタッチメント装置20全体を上下に移動させる。昇降機構29は、アタッチメント装置20を昇降させるためのモータなどの駆動機構と、駆動機構を制御してアタッチメント装置20の垂直方向の位置を調整する制御部とを備える。制御部は、二次元検出器11により検出されたX線回折データに基づいて、試料3を適切な位置に移動させるための駆動機構の駆動量を決定し、決定した駆動量で駆動機構を駆動することによりアタッチメント装置20を昇降させる。これにより、試料3の温度の変化や、試料3とガスとの反応などにより、試料3の位置や形状などが変化する場合であっても、昇降機構29により自動的に試料3の位置を調整することができるので、測定精度を向上させることができる。とくに、水素吸蔵材料は、水素を吸蔵すると格子定数が変化してX線の回折条件が変化するので、高精度なX線回折データを測定するためには、垂直方向の位置調整が重要である。別の例では、アタッチメント装置20全体ではなく、試料室12、ステージ15、又は試料3を上下に移動させる機構が設けられてもよい。
【0025】
ガス入口バルブ21は、試料室12内に導入するガスの流量を制御するために開閉される。ガス入口バルブ21が設けられた配管は、供給管13に接続される。ガス入口バルブ21が設けられた配管は、更に、過剰に供給されたガスを試料室12内に導入せずに外部へ逃がすための配管22にも接続される。配管22には、逃がし弁23が設けられる。ガス出口バルブ25は、試料室12内から排出するガスの流量を制御するために開閉される。ガス出口バルブ25が設けられた配管は、排気管14に接続される。ガス入口バルブ21及びガス出口バルブ25は、ニードルバルブ、アングルバルブ、グローブバルブ、ボールバルブなどであってもよい。
【0026】
ガス入口バルブ21及びガス出口バルブ25は、図示しない圧力・流量コントローラにより開閉が自動的に制御される。圧力・流量コントローラは、供給管13に接続された三方継手24により分岐された配管に設置された流量センサにより検知されたガスの流量と、試料室12内の圧力を検知する圧力センサにより検知された圧力とに基づいて、ガス入口バルブ21及びガス出口バルブ25の開度をフィードバック制御する。これにより、試料室12内のガスを所定の流量で流しつつ、試料室12内の圧力を所定の圧力に維持することができるので、測定条件を厳密に制御し、高精度な測定を実現することができる。水素吸蔵材料を試料3として使用し、試料ガス中の水素濃度を測定する場合など、試料室12に導入される気体が試料3と反応する場合、試料3との反応により試料室12内の気体の組成が変化するが、所定の流量で気体をフローさせることにより、試料室12内の気体を継続的に入れ替えることができるので、試料室12内の気体の組成をほぼ一定に保つことができる。これにより、測定精度を向上させることができる。
【0027】
真空引きバルブ27は、真空ポンプに接続された真空引き配管26から試料室12内の気体を排気するために開閉される。真空引きバルブ27は、減圧又は真空下で測定を行う場合や、試料室12内のガスをパージする際に開かれる。真空引きバルブ27は、手動で開閉されてもよいし、図示しないコントローラにより自動的に開閉されてもよい。
【0028】
熱電対コネクタ28は、試料室12内のステージ15及び試料3に一端が接触された2対の熱電対の他端を接続する。2対の熱電対によりステージ15及び試料3の温度が検知される。図示しない温度コントローラは、検知されたステージ15及び試料3の温度に基づいて、試料3の温度が所定の温度に維持されるよう、加熱部40を制御する。
【0029】
加熱部40は、赤外線を発生し、発生した赤外線を集光して試料3まで導光する構成を含む。
【0030】
図3は、実施の形態に係るアタッチメント装置に備えられた加熱部の断面を概略的に示す。加熱部40は、赤外線を発生する赤外線発生部の一例である赤外線ランプ41と、赤外線ランプ41により発生された赤外線を試料3まで導光する導光部の一例である石英ロッド43と、赤外線ランプ41により発生された赤外線を集光して石英ロッド43に導入する集光部の一例である楕円体反射ミラー42とを備える。赤外線ランプ41、楕円体反射ミラー42、及び石英ロッド43は、楕円体反射ミラー42の2つの焦点のうち一方の位置に赤外線ランプ41が、他方の位置に石英ロッド43の導光口が、それぞれ位置するように設置される。したがって、回転楕円体の一方の焦点に位置する赤外線ランプ41により発生された赤外線は、楕円体反射ミラー42により反射されて回転楕円体の他方の焦点に集光され、石英ロッド43の内部に導入される。石英ロッド43の内部に導入された赤外線は、石英ロッド43の内部を通ってステージ15の下方へ導光され、ステージ15又は試料3に照射される。これにより、赤外線ランプ41により発生された赤外線を直接ステージ15又は試料3に照射してステージ15又は試料3を加熱することができるので、熱効率を高め、迅速に試料3を加熱することができるとともに、試料3の温度をより精密に制御することができる。また、他の測定条件に与える影響を最小限に抑えることができ、測定の精度を向上させることができる。これらの構成については、既知の任意の技術を利用可能である。
【0031】
本実施の形態では、試料室12内の圧力を概ね0.1気圧から10気圧程度まで変化させることが可能であるが、試料室12内の圧力を大気圧よりも高い圧力にすると、石英ロッド43に下向き、すなわち試料室12から押し出される方向の圧力がかかる。しかも、減圧条件下においては、せいぜい1気圧の差圧がかかるだけであるが、高圧条件下においては、最大で10気圧以上の差圧が石英ロッド43にかかることになる。したがって、本実施の形態では、石英ロッド43の位置が測定中にずれないようにするために、石英ロッド43の位置を固定するための固定部44を設ける。固定部44は、石英ロッド43の位置を固定することが可能な任意の機構であってもよいが、本図の例では、石英ロッド43を、外径が他の部分よりも大きい太径部を有するように構成するとともに、石英ロッド43を内挿する固定部44の開口の内径が石英ロッド43の太径部の外径よりも小さくなるように構成する。これにより、石英ロッド43に下向きの大きな圧力がかかったとしても、石英ロッド43の太径部が固定部44の開口に引っかかって、それ以上、下方向に移動しないようにすることができる。このように、石英ロッド43自身の形状により、石英ロッド43を下向きに移動させないように物理的に固定することができるので、高圧にも耐えうる安全性の高いX線回折装置を提供することができる。また、広い範囲の圧力下において試料のX線回折を測定可能なX線回折装置を提供することができる。固定部44は、石英ロッド43を固定部44に係止、掛止、係合、掛合、継合、又は嵌合することが可能な任意の形状又は機構を含んでもよい。
【0032】
図4は、実施の形態に係るX線回折装置の試料室及びアタッチメント装置の断面を示す。本図は、円筒形の試料室12の軸を含む垂直な面で切断した断面を示す。試料室12には、試料3を載置するためのステージ15が設けられており、ステージ15の直下に、ステージ15の下方に赤外線を導光するための石英ロッド43が配置される。ステージ15の上方には、試料3により回折されたX線以外のX線が直接二次元検出器11に入射して検出されないように、X線を遮蔽する遮蔽部17が設けられる。従来の一般的なX線回折装置では、X線検出器として一次元の検出器が設けられており、試料室には、試料3を通らずに直接検出器に入射するX線を遮蔽するためのナイフエッジが設けられていたが、本実施の形態では、X線検出器として二次元検出器11を使用するので、より広い範囲を遮蔽する必要がある。例えば、X線を試料室12内に入射させるために設けられたベリリウム窓により回折又は散乱されたX線が、ナイフエッジにより遮蔽されていない空間を通過して二次元検出器11により検出される場合があることが、本発明者らの実験により分かった。したがって、本実施の形態のX線回折装置1では、本図に示すように、試料3の上面よりも上方のX線を通過させるべき所定の間隔の光路のみを残して、それよりも上方の全ての領域を通過するX線を遮蔽する遮蔽部17を設ける。これにより、試料3を通らずに直接二次元検出器11に入射するX線を最小限に抑え、測定精度を向上させることができる。
【0033】
図5は、実施の形態に係るX線回折装置の試料室及びアタッチメント装置の断面を示す。本図は、円筒形の試料室12の軸を含む水平な面で切断した断面を示す。試料3を載置するためのステージ15は、試料ホルダ32と、試料押さえ33とを備える。試料ホルダ32は、台状に形成された黒色石英であり、石英ロッド43の照射口から照射された赤外線を効率良く吸収して迅速に加熱される。試料3は、試料ホルダ32の上に直接載置され、試料押さえ33により押止されて固定されるので、試料ホルダ32の熱が直接試料3に伝達され、効率良く迅速に加熱される。2対の熱電対16のうち、1対は試料ホルダ32に、1対は試料3に接触され、試料ホルダ32と試料3の双方の温度が検知される。図示しない温度コントローラは、試料ホルダ32又は試料3の温度に基づいて、赤外線ランプ41により発生される赤外線の強度を制御することにより、試料3の温度を制御する。試料ホルダ32は、下記の条件の全て又は一部を満たす材料を含んで形成されるのが好ましい。(1)雰囲気ガスや試料との反応性が小さい、(2)赤外線を効率よく吸収する、(3)耐熱性がある、(4)熱膨張が小さい、(5)熱伝導性が良い、(6)比熱が小さい。このような材料としては、黒色石英以外にも、例えば、黒色アルミナ、グラファイト、Ni基超合金、ステンレス、タングステン、ニッケルなどがある。
【0034】
ステージ15は、水平面内で移動可能に設けられてもよい。例えば、ステージ15の下方に、ステージ15を移動させるための台と、台を摺動させるためのレールとを設け、図示しない制御部により台を自動的に移動させてもよい。これにより、板状又は薄膜状に形成された試料3を水平方向に移動させながらX線回折を測定することができ、試料3の二次元的なX線回折データを解析することができる。試料3又はステージ15を水平方向に移動可能に構成する場合には、光学系に影響を与えることなく試料3を水平方向に移動させることができる。別の例では、試料室12又はアタッチメント装置20を水平方向に移動させる機構が設けられてもよい。
【0035】
図6は、実施の形態に係るX線回折装置の試料室及びアタッチメント装置の断面を示す。本図は、円筒形の試料室12の軸に垂直な面で切断した断面を示す。試料室12は、X線を試料室12内に入射させるためのベリリウム窓18と、ベリリウム窓18の外枠を構成する窓押さえ19と、試料室12内を加温して所定の温度に保つための恒温ジャケット30と、試料室12内の外壁を冷却するための冷却ジャケット31とを備える。恒温ジャケット30には、所定の温度に加温された恒温水の流路が設けられており、恒温水により恒温ジャケット30を加熱し、試料室12の内部を加熱する。冷却ジャケット31には、冷却水の流路が設けられており、冷却水により冷却ジャケット31を冷却する。これにより、試料室12の内部を所定の温度に加熱して、試料室12内部の測定条件を制御しつつ、試料室12の外壁を冷却して、試料室12の周辺の構成に試料室12内部の温度による影響を与えないようにすることができるので、測定精度を向上させることができる。
【0036】
図7は、実施の形態に係るX線回折装置の試料室の構成を示す。図7(a)は、試料室12の外壁の最も外側に設けられた冷却ジャケット31を外した状態を模式的に示し、図7(b)は、冷却ジャケット31の内側に設けられた恒温ジャケット30を更に外した状態を模式的に示す。このように、本実施の形態のX線回折装置1の試料室12の外壁は、少なくとも2層の構造を有する。
【0037】
測定中に試料3を視認するための可視化部が試料室12に設けられてもよい。可視化部は、例えば、試料室12の外壁に設けられた覗き窓であってもよいし、試料室12の内部に挿入されたファイバースコープ又はマイクロスコープなどであってもよい。また、試料3を視認する際に試料3を照明するための照明部が設けられてもよい。照明部は、可視光を照射するLEDなどであってもよい。
【0038】
また、可視光以外の光、例えば、紫外光又は赤外光を照射する照射部が設けられてもよいし、任意の波長のパルスレーザー光を照射する照射部が設けられてもよい。これにより、試料3に光刺激を与えたときの試料3のX線回折の変化を測定することができる。さらに、ラマン分光法、FTIR(フーリエ変換赤外分光法)、TDS(テラヘルツ時間領域分光法)などの分光測定と、X線回折測定とを組み合わせた複合測定を行うこともできる。
【0039】
上述したように、試料3を水平方向に移動可能な構成を設ける場合には、試料3を水平方向に移動させながら、X線回折測定と、分光測定とを行うことにより、試料3の二次元的な情報を得ることができる。
【0040】
試料室12の内部において、X線が通過しない空間を充填する充填部材が設けられてもよい。充填部材は、X線回折装置1の測定条件として設定されうる範囲の温度及び圧力に耐えうる材料で、かつ、試料室12の内部に導入されうる気体に対して不活性な材料により構成され、X線が通過しない空間の一部又は全部を充填するように設けられる。これにより、試料が飛散したり落下したりすることを防止することができるとともに、試料室12内の清掃を容易にすることができる。また、試料室12内の空間の容積を減少させることができるので、試料ガスや雰囲気ガスの必要量を低減させることができ、PCT測定においては測定感度を向上させることができる。
【0041】
以上、実施例をもとに本開示を説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0042】
実施の形態においては、主に、水素を含む混合ガス中で水素吸蔵金属又は水素吸蔵合金の板状又は薄膜状の試料のX線回折を測定し、試料ガス中の水素濃度を検出したり、金属又は合金のPCT特性を測定したりする例について説明したが、本実施の形態のX線回折装置1は、様々な測定条件下において、様々な種類のガス雰囲気中で、様々な試料のX線回折を測定するために利用可能である。
【0043】
例えば、触媒の反応過程をin-situで分析するために、高温高圧などの様々な条件下において触媒のX線回折を測定することができる。また、様々な反応性ガス、例えば、水素、酸素、空気、水蒸気中における試料の構造をX線回折測定により分析することができる。例えば、様々な反応性ガス中における金属の腐食状態などをX線回折測定により分析することができる。
【0044】
本開示の一態様の概要は、次の通りである。本開示のある態様のX線回折装置は、試料を内部に設置するための試料室と、試料室の内部の圧力を制御する圧力制御部と、試料を加熱する加熱部と、試料にX線を照射したときに、試料により回折されたX線を検出する検出器と、を備える。圧力制御部は、試料室の内部の圧力を、大気圧よりも高い所定の圧力に制御可能であり、加熱部は、試料又は試料を載置するステージに赤外線を照射することにより試料を加熱する。
【0045】
この態様によると、高圧条件下においても安全に試料を加熱することが可能なX線回折装置を提供することができる。また、熱効率を高め、より迅速に試料を加熱することができるとともに、測定条件をより厳密に制御することができる。
【0046】
加熱部は、赤外線を発生する赤外線発生部と、赤外線発生部により発生された赤外線を試料又はステージまで導光する導光部と、赤外線発生部により発生された赤外線を集光して導光部に導入する集光部と、を備えてもよい。圧力制御部により試料室の内部が大気圧よりも高い圧力に制御されたときに、導光部が試料室の内部の圧力により押し出されて位置がずれないように固定するための固定部を更に備えてもよい。この態様によると、熱効率を高め、より迅速に試料を加熱することができるとともに、測定条件をより厳密に制御することができる。
【0047】
導光部は、外径が他の部分よりも大きい太径部を有してもよい。固定部は、導光部の太径部の外径よりも内径が小さい開口を含んでもよい。この態様によると、高圧条件下においても安全に試料を加熱することが可能なX線回折装置を提供することができる。
【0048】
試料室に導入される気体の流量を制御する流量制御部を更に備えてもよい。この態様によると、所定の流量で気体を流して試料室内の気体を入れ替えつつ、試料のX線回折を測定することができるので、測定精度を向上させることができる。
【0049】
圧力制御部及び流量制御部は、所定の流量で気体を試料室に導入しつつ、試料室の内部の圧力を所定の圧力に制御してもよい。この態様によると、試料室の内部の圧力を所定の圧力に維持しつつ、所定の流量で気体を流して試料室内の気体を入れ替えながら試料のX線回折を測定することができるので、測定精度を向上させることができる。
【0050】
試料の垂直方向の位置を調整する垂直位置調整部を更に備えてもよい。この態様によると、測定中に試料が変形する場合であっても、適切に位置を調整してX線回折を測定することができるので、測定精度を向上させることができる。
【0051】
試料の水平方向の位置を調整する水平位置調整部を更に備えてもよい。この態様によると、試料の二次元的なX線回折データを得ることができる。
【0052】
試料室の外壁は、試料室の内部を加温するための加温部と、試料室の外壁を冷却するための冷却部の少なくとも2層の構造を有してもよい。この態様によると、試料室の内部を所定の温度に保ちつつ、試料室の外部に及ぼす影響を最小限に抑えることができるので、測定精度を向上させることができる。
【0053】
試料は、試料ホルダに固定されてもよい。この態様によると、熱効率を高め、迅速に試料を加熱することができる。
【0054】
試料ホルダに載置された試料を押止する試料押さえ部を更に備えてもよい。この態様によると、板状又は薄膜状の試料を適切に固定することができるので、測定精度を向上させることができる。
【0055】
試料室の内部において、試料の上面よりも上方のX線を通過させるべき光路よりも上方の領域を通過するX線を遮蔽する遮蔽部を更に備えてもよい。この態様によると、試料を通過せずに検出器に入射するX線を最小限に抑えることができるので、測定精度を向上させることができる。
【0056】
試料室内に設置された試料を視認するための可視化部を更に備えてもよい。この態様によると、試料の状態を視認しながらX線回折測定を行うことができる。
【0057】
試料室内に設置された試料を照明する照明部を更に備えてもよい。この態様によると、試料の状態を視認しながらX線回折測定を行うことができる。
【0058】
試料室内のX線が通過しない空間を充填する充填部材を更に備えてもよい。この態様によると、試料が飛散したり落下したりすることを防止することができるとともに、試料室内の清掃を容易にすることができる。また、試料室内の空間の容積を減少させることができるので、試料ガスや雰囲気ガスの必要量を低減させることができる。
【0059】
本発明の別の態様は、アタッチメント装置である。この装置は、X線回折装置の試料を内部に設置するための試料室に接続されるアタッチメント装置であって、試料室の内部の圧力を制御する圧力制御部と、試料を加熱する加熱部と、を備える。圧力制御部は、試料室の内部の圧力を、大気圧よりも高い所定の圧力に制御可能であり、加熱部は、試料又は試料を載置するステージに赤外線を照射することにより試料を加熱する。
【0060】
この態様によると、高圧条件下においても安全に試料を加熱することが可能なX線回折装置のアタッチメント装置を提供することができる。また、熱効率を高め、より迅速に試料を加熱することができるとともに、測定条件をより厳密に制御することができる。
【0061】
X線回折装置の試料室に着脱可能に接続されてもよい。この態様によると、試料室に試料を設置するときにアタッチメント装置を退避させることができるので、作業を容易にすることができる。また、アタッチメント装置を用途に応じて交換することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 X線回折装置、2 解析装置、3 試料、10 X線源、11 二次元検出器、12 試料室、13 供給管、14 排気管、15 ステージ、16 熱電対、17 遮蔽部、18 ベリリウム窓、20 アタッチメント装置、21 ガス入口バルブ、22 配管、23 逃がし弁、24 三方継手、25 ガス出口バルブ、26 配管、27 真空引きバルブ、28 熱電対コネクタ、29 昇降機構、30 恒温ジャケット、31 冷却ジャケット、32 試料ホルダ、40 加熱部、41 赤外線ランプ、42 楕円体反射ミラー、43 石英ロッド、44 固定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7