【解決手段】二次電池用外装材は、シーラント層と、アルミニウム箔層と、前記シーラント層及び前記アルミニウム箔層に挟まれた接着層とを備える。前記アルミニウム箔層は、前記接着層の側の表面に水和物皮膜層を備える。前記水和物皮膜層は、(a)アルミニウムを主成分とする緻密質の第1層と、(b)前記第1層よりも前記接着層の側に位置し、マグネシウム及びアルミニウムを含む多孔質の第2層とを備える。前記第1層及び前記第2層の厚みはそれぞれ500〜1000nmである。前記第2層における、マグネシウムに対するアルミニウムの質量比は0.6〜1.4である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の例示的な実施形態を、図面を参照しながら説明する。
1.二次電池用外装材の構成
(1−1)二次電池用外装材の層構成
例えば
図1に示すように、二次電池用外装材1は、シーラント層3と、アルミニウム箔層5と、接着層7とを備える。接着層7は、シーラント層3及びアルミニウム箔層5に挟まれている。
【0012】
アルミニウム箔層5は、接着層7の側の表面に水和物皮膜層9を備える。水和物皮膜層9は、(a)アルミニウムを主成分とする緻密質の第1層11と、(b)第1層11よりも接着層7の側に位置し、マグネシウム及びアルミニウムを含む多孔質の第2層13とを備える。
【0013】
また、例えば、
図2に示すように、二次電池用外装材101は、アルミニウム箔層5の両側にそれぞれ水和物皮膜層9、15を備えていてもよい。水和物皮膜層9は、(a)アルミニウムを主成分とする緻密質の第1層11と、(b)第1層11よりも接着層7の側に位置し、マグネシウム及びアルミニウムを含む多孔質の第2層13とを備える。
【0014】
また、水和物皮膜層15は、(c)アルミニウムを主成分とする緻密質の第1層12と、(d)第1層12よりも後述する基材層19の側に位置し、マグネシウム及びアルミニウムを含む多孔質の第2層14とを備える。
【0015】
二次電池用外装材101は、水和物皮膜層9、接着層7、及びシーラント層3がこの順に積層された構造を有する。また、二次電池用外装材101は、水和物皮膜層15、基材層用接着層17、及び基材層19がこの順に積層された構造を有する。
【0016】
(1−2)シーラント層
シーラント層は、例えば、電解液に対する密封性を高める機能、及び、二次電池用外装材の断面方向からの水蒸気透過を抑制する機能を有する。
【0017】
シーラント層の材料は適宜選択することができる。シーラント層は、例えば、ポリオレフィン系フィルムを含む。ポリオレフィン系フィルムは、酸変性ポリオレフィンフィルムを含むことが好ましい。酸変性ポリオレフィンフィルムとは、酸変性ポリオレフィンを含むフィルムである。酸変性ポリオレフィンとは、ポリエチレン又はポリプロピレンの側鎖にジカルボン酸を付加したものである。酸変性ポリオレフィンとして、例えば、ポリプロピレンの側鎖にマレイン酸又は無水マレイン酸を付加させたもの等が挙げられる。
【0018】
シーラント層は、単層構造のフィルムであってもよいし、複数のフィルムを積層した積層構造のフィルムであってもよい。積層構造のフィルムとして、例えば、2層構造のフィルム、3層構造のフィルム、4層構造のフィルム等が挙げられる。積層構造のフィルムは、例えば、共押出によって複数のフィルムを貼合することで製造できる。
【0019】
積層構造のフィルムとして、例えば、酸変性ポリオレフィンフィルムと、他のポリオレフィン系フィルムとを積層したものが挙げられる。他のポリオレフィン系フィルムとして、例えば、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム等が挙げられる。
【0020】
後述するように、接着層は酸変性ポリオレフィンを含有することができる。接着層が酸変性ポリオレフィンを含有する場合、シーラント層は、同じ酸変性ポリオレフィンを含有することが好ましい。例えば、接着層が無水マレイン酸変性ポリプロピレンを含有する場合、シーラント層も、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを含有することが好ましい。
【0021】
シーラント層は、例えば、公知のラミネート法により取り付けることができる。ラミネート法として、例えば、以下の方法が挙げられる。シーラント層と接着層とを積層する。シーラント層が酸変性ポリオレフィンフィルムを含有する場合、酸変性ポリオレフィンフィルムが接着層と当接するように、シーラント層を配置する。シーラント層の片面に表面活性化処理面を施している場合、表面活性化処理面を施した面が接着層と当接するように、シーラント層を配置する。
【0022】
次に、例えば160〜240℃程度に加熱しながら、シーラント層と接着層とを圧着する。圧着の圧力は、例えば、0.5〜2kg/cm
2である。圧着時間は、例えば、0.5〜3秒程度である。
【0023】
シーラント層の厚さは特に限定されない。シーラント層の厚さは、5μm以上であることが好ましく、10〜100μmであることがさらに好ましい。シーラント層の厚さが5μm以上である場合、シーラント層をラミネートするときにシーラント層が溶融することを抑制できる。そのことにより、シーラント層に欠陥が発生することを抑制できる。シーラント層の厚さが100μm以下である場合、シーラント層をラミネートするときに接着層が溶融し易い。そのことにより、シーラント層の密着性が向上する。
(1−3)アルミニウム箔層
アルミニウム箔層は、例えば、湿気、ガス、酸素等が二次電池の内部へ侵入することを抑制する機能を有する。また、アルミニウム箔層は、例えば、二次電池用外装材の成形性および剛性を担保する機能を有する。
【0024】
アルミニウム箔層はアルミニウム箔から成る。アルミニウム箔層の材料として、アルミニウム合金箔が好ましく、軟質アルミニウム箔がさらに好ましい。アルミニウム合金箔は引張り強度及び伸び率が高い。アルミニウム箔層は公知の方法で製造できる。
【0025】
アルミニウム箔層の引張強度は90MPa以上であることが好ましい。アルミニウム箔層の伸び率は0°方向で20%以上であることが好ましい。
アルミニウム箔層は、合金成分の一部として鉄を含有することが好ましい。アルミニウム箔層における鉄の含有量は、例えば、0.6〜2.0質量%であり、好ましくは1.2〜1.6質量%である。アルミニウム箔層が鉄を含有する場合、アルミニウム箔層の展延性がよい。また、アルミニウム箔層が鉄を含有する場合、二次電池用外装材を折り曲げても、アルミニウム箔層にピンホールが発生し難い。また、アルミニウム箔層が鉄を含有する場合、エンボスタイプの二次電池用外装材を成形するときに、側壁を容易に形成できる。
【0026】
アルミニウム箔層における鉄の含有量が0.6質量以上である場合、上記の効果が一層顕著になる。アルミニウム箔層における鉄の含有量が2.0質量%以下である場合、アルミニウム箔層の柔軟性が高い。そのため、例えば、二次電池用外装材を積層パウチ成形するときの加工性が良くなる。
【0027】
アルミニウム箔層は、合金成分の一部としてケイ素を含有することが好ましい。アルミニウム箔層におけるケイ素の含有量は、例えば、0.05〜0.9質量%であり、好ましくは0.06〜0.09質量%である。アルミニウム箔層におけるケイ素の含有量が0.9質量%以下である場合、二次電池用外装材を袋状に成形するときの加工性が良くなる。アルミニウム箔層におけるケイ素の含有量が0.05質量%以上である場合、二次電池用外装材の強度及び伸び率が高くなる。そのため、二次電池用外装材を袋状に成形するときの加工性が良くなる。
【0028】
アルミニウム箔層の厚さは、9〜200μmであることが好ましく、15〜100μmであることがより好ましい。アルミニウム箔層の厚さが9μm以上である場合、プレス成形時にアルミニウム箔層の破断が生じ難い。また、アルミニウム箔層の厚さが9μm以上である場合、アルミニウム箔層にピンホール等が発生し難い。そのため、アルミニウム箔層により、酸素や水分の透過を抑制できる。アルミニウム箔層の厚さが200μm以下である場合、二次電池用外装材の重量及び製造コストを低減できる。
【0029】
アルミニウム箔層は、例えば、アルミニウム合金に調質処理を施したものであってもよい。調質処理として、例えば、溶体化処理、時効処理等が挙げられる。
(1−4)接着層
接着層は、シーラント層とアルミニウム箔層とを接着する。二次電池用外装材が接着層を備えることにより、シーラント層自体が接着性を有さない場合でも、シーラント層をアルミニウム箔層に取り付けることができる。
【0030】
接着層は、例えば、オルガノゾルを用いて形成することができる。オルガノゾルは、例えば、有機液体と、その有機液体中に分散しているコロイド状の固形分とを含む。有機液体として、例えば、炭化水素系の液体が挙げられる。炭化水素系の液体として、例えば、トルエン等が挙げられる。固形分として、例えば、酸変性ポリオレフィン等が挙げられる。オルガノゾルにおける固形分濃度は5〜50質量%の範囲が好ましい。
【0031】
例えば、オルガノゾルを用いて以下のようにして接着層を形成することができる。水和物皮膜層の表面にオルガノゾルを塗布し、次に、乾燥工程を行う。乾燥工程は、例えば、150〜220℃の温度の下で、5〜40秒間行う。この乾燥工程により、オルガノゾルが固化して接着層となる。オルガノゾルが固形分として酸変性ポリオレフィンを含む場合、形成された接着層において酸変性ポリオレフィンが均一に分布している。
【0032】
(1−5)水和物皮膜層
水和物皮膜層は、例えば、アルミニウム箔層に熱水変性処理を行うことにより形成される。水和物皮膜層は、第1層と、第2層とを備える。水和物皮膜層は、第1層及び第2層から成るものであってもよいし、さらに他の層を備えるものであってもよい。
【0033】
図1及び
図2における水和物皮膜層9が備える第2層は、第1層よりも接着層の側に位置する。
図1及び
図2における水和物皮膜層9は、シーラント層とアルミニウム箔層との密着性を高める機能、及び耐電解液特性を高める機能を有する。耐電解液特性とは、電解液と接触する状態で使用しても、アルミニウム箔層とシーラント層との密着性が低下し難い特性である。
【0034】
図2における水和物皮膜層15が備える第2層は、第1層よりも基材層の側に位置する。
図2における水和物皮膜層15は、基材層とアルミニウム箔層との密着性を高める機能を有する。
【0035】
第1層は、アルミニウムを主成分とする緻密質の層である。第1層は、アルミニウムから成る層であってもよいし、さらに他の成分を、アルミニウムよりも少量含む層であってもよい。
【0036】
緻密質とは、中空構造や孔を持つ構造ではない高密度な構造を意味する。第1層の厚みは、500〜1000nmである。第1層の厚みが500nm以上であることにより、アルミニウム箔層の耐食性が一層向上する。第1層の厚みが1000nm以下であることにより、水和物皮膜層が破壊され難くなり、アルミニウム箔層に対する水和物皮膜層の密着性が一層向上する。第1層の厚みの測定方法は、後述する実施例に記載した測定方法である。
【0037】
第2層は、マグネシウム及びアルミニウムを含む多孔質の層である。第2層は、マグネシウム及びアルミニウムから成る層であってもよいし、さらに他の成分を含む層であってもよい。
【0038】
第2層の厚みは500〜1000nmである。第2層の厚みの測定方法は、後述する実施例に記載した測定方法である。第2層の厚みが500nm以上であることにより、アルミニウム箔層の耐食性が一層向上する。また、第2層の厚みが500nm以上であることにより、接着層を構成する接着剤が第2層の空孔に十分含まれる。その結果、アルミニウム箔層に対する接着層の密着性が一層向上する。第2層の厚みが1000nm以下であることにより、第2層が破壊されにくくなり、アルミニウム箔層に対する水和物皮膜層の密着性が一層向上する。
【0039】
第2層に含まれるマグネシウムの質量をWmとする。第2層に含まれるアルミニウムの質量をWaとする。第2層における、マグネシウムに対するアルミニウムの質量比Rは、Wa/Wmである。質量比Rの測定方法は、後述する実施例に記載した測定方法である。質量比Rは、0.6〜1.4である。
質量比Rが0.6以上であることにより、水和物皮膜層の耐食性が一層向上する。また、質量比Rが0.6以上であることにより、水和物皮膜層が脆くなり難く、アルミニウム箔層に対する水和物皮膜層の密着性が一層向上する。質量比Rが1.4以下であることにより、二次電池用外装材の耐食性が一層向上する。
【0040】
(1−6)基材層
基材層は、アルミニウム箔層を保護する機能、対突き刺し性及び耐熱性を担保する機能を有する。基材層の材料として、例えば、フィルム延伸ポリエステル、ナイロンフィルム等が挙げられる。フィルム延伸ポリエステルを構成するポリエステル樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。ナイロンフィルムを構成するナイロンとして、例えば、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6とナイロン6,6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等が挙げられる。
【0041】
二次電池用外装材がリチウムイオン二次電池の外装材として用いられる場合、基材層は絶縁性を有することが好ましい。基材層は、単層構造のフィルムであってもよいし、複数のフィルムを積層した積層構造のフィルムであってもよい。基材層が積層構造のフィルムである場合、耐ピンホール性及び絶縁性を一層高くすることができる。
【0042】
基材層が積層構造のフィルムである場合、2層以上の樹脂層を含むことが好ましい。基材層が積層構造のフィルムである場合、各層の厚みが6μm以上であることが好ましく、各層の厚みが12〜25μmであることが一層好ましい。各層の厚みが6μm以上である場合、水蒸気及びその他のガスに対する基材層のバリア性が一層高い。また、各層の厚みが6μm以上である場合、外部からの加圧に対する基材層の耐突刺し性が一層高い。各層の厚みが25μm以下である場合、二次電池用外装材全体の厚さ、二次電池用外装材の重量、及び二次電池用外装材の製造コストを低減できる。
【0043】
基材層は、例えば、ドライラミネーション法、熱ラミネーション法等により、
図2における水和物皮膜層15に接着することができる。熱ラミネーション法を用いる場合、共押出し、押出しコート、アンカーコート剤を用いることができる。
【0044】
(1−7)基材層用接着層
例えば、ドライラミネーション法により基材層を、
図2における水和物皮膜層15に接着する場合、基材層用接着層を用いることができる。
【0045】
基材層用接着層は、例えば、エポキシ含有ウレタン樹脂を含む接着剤、2液硬化型ウレタン系接着剤、ポリエーテルウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリエステルポリオール系接着剤、ポリエステルポリウレタンポリオール系接着剤等を用いて形成できる。
【0046】
基材層用接着層の厚さは特に限定されないが、1〜10μmであることが好ましく、3〜7μmであることがより好ましい。基材層用接着層の厚さが1μm以上である場合、被塗布層の表面凹凸に基材層用接着層が追従し易い。そのことにより、基材層と被塗布層との接着にムラが生じ難い。その結果、基材層と被塗布層との接着不良を抑制できる。基材層用接着層の厚さが10μm以下である場合、基材層用接着層の乾燥に要する時間を低減できる。また、基材層用接着層の厚さが10μm以下である場合、二次電池用外装材の端部から余剰の基材層用接着層がはみ出すことを抑制できる。また、基材層用接着層の厚さが10μm以下である場合、二次電池用外装材全体の厚さ、二次電池用外装材の重量、及び二次電池用外装材の製造コストを低減できる。
【0047】
2.二次電池用外装材の製造方法
(2−1)前処理
アルミニウム箔層に対し、後述する熱水変性処理よりも前に、例えば、前処理を施すことができる。前処理は特に限定されず、例えば、アルミニウム箔層の表面に付着した油脂分を除去する前処理や、アルミニウム箔層の表面における不均質な酸化物皮膜を除去する前処理等が挙げられる。
【0048】
前処理として、例えば、まず、弱アルカリ性の脱脂液による脱脂処理を施し、次に、水酸化ナトリウム水溶液でアルカリエッチングを行い、次に、硝酸又は硫酸水溶液中でデスマット処理を行う方法がある。また、別の前処理として、まず、脱脂処理を行い、次に、酸洗浄を行う方法が挙げられる。
【0049】
(2−2)熱変性処理
アルミニウム箔層に熱水変性処理を行うことにより、水和物皮膜層を形成することができる。熱水変性処理では、例えば、アルミニウム箔層を混合溶液に浸漬する。熱水変性処理に使用する混合溶液は、塩化マグネシウムと、炭酸水素ナトリウムと、硫酸ナトリウムと、を含む。塩化マグネシウムは第2層の形成に寄与する。混合溶液における溶質は、上記の3種のみであってもよいし、さらに他の溶質を含んでいてもよい。混合溶液における溶媒は、例えば水である。水として、例えば、工業用水、水道水、地下水、脱イオン水、蒸留水等を用いることができる。
【0050】
混合溶液は、塩化ナトリウムを実質的に含まないことが好ましい。混合溶液が塩化ナトリウムを実質的に含まない場合、アルミニウム箔層に孔食が発生することを抑制できる。
混合溶液が塩化マグネシウムを含有することにより、熱水変性処理後のアルミニウム箔層の表面に、酸化マグネシウムを含む水和物皮膜層が形成される。酸化マグネシウムを含む水和物皮膜層は、酸化マグネシウムを含まない水和物皮膜層より緻密な層である。そのため、酸化マグネシウムを含む水和物皮膜層の耐食性は高い。
【0051】
混合溶液において、炭酸水素ナトリウムは電離して炭酸イオンを生じる。また、混合用液において、硫酸ナトリウムは電離して硫酸イオンを生じる。炭酸イオン及び硫酸イオンは、アルミニウム箔層における孔食を抑制する。その理由を以下で述べる。
【0052】
まず、孔食の発生メカニズムを説明する。アルミニウム箔層の表面には自然酸化皮膜が存在する。自然酸化皮膜は酸化アルミニウムを含む。混合溶液中に塩素イオンが存在すると、塩素イオンは、自然酸化皮膜に吸着し、自然酸化皮膜に含まれる酸化アルミニウムと反応して塩化アルミニウムを生成する。塩化アルミニウムは水に可溶であるので、混合液中に溶出する。その結果、アルミニウム箔層のうち、それまで自然酸化皮膜に覆われていた活性アルミニウムが露出する。この現象が孔食である。
【0053】
混合液中の炭酸イオン及び硫酸イオンは、塩素イオンよりも優先して自然酸化皮膜に吸着する。そのため、混合液中の塩素イオンは、自然酸化皮膜に吸着し難い。その結果、混合液中の炭酸イオン及び硫酸イオンは、アルミニウム箔層における孔食を抑制できる。
【0054】
混合溶液における塩化マグネシウムの濃度は、5.0〜11.0g/Lである。混合溶液における塩化マグネシウムの濃度が5.0g/L以上であることにより、十分な厚みの水和物皮膜層を形成することができる。その結果、二次電池用外装材の耐食性が一層向上し、アルミニウム箔層と接着層との密着性が一層向上する。
【0055】
混合溶液における塩化マグネシウムの濃度が11.0g/L以下であることにより、二次電池用外装材の耐食性が一層向上し、アルミニウム箔層と塗膜層との密着性が一層向上する。その理由は、混合溶液における塩化マグネシウムの濃度が11.0g/L以下であると、第2層における質量比Rが過小になり難いためである。
【0056】
混合溶液におけるpHを、例えば、9.2〜11.0とすることができる。混合液におけるpHは、例えば、水酸化ナトリウム溶液等を添加することにより調整できる。混合液におけるpHが9.2以上である場合、塩化マグネシウムの効果が促進され、水和物皮膜層の形成速度が増加する。混合液におけるpHが11.0以下である場合、アルミニウムの溶解速度が上昇し難い。そのため、十分な厚みを有し、かつ健全な水和物皮膜層を形成できる。その結果、二次電池用外装材の耐食性が一層向上する。
【0057】
混合溶液における炭酸水素ナトリウムの濃度は0.2〜0.6g/Lである。炭酸水素ナトリウムは第2層の形成に寄与する。炭酸水素ナトリウムの濃度が0.2g/L以上であることにより、第2層を形成する効果が一層向上し、十分な厚みの水和物皮膜層を形成できる。その結果、二次電池用外装材の耐食性が一層向上し、アルミニウム箔層と接着層との密着性が一層向上する。
【0058】
炭酸水素ナトリウムの濃度が0.6g/L以下であることにより、アルミニウム箔層の表面が炭酸塩で被覆され難く、アルミニウムの溶出が阻害され難い。そのため、水和物皮膜層の成長が阻害され難い。その結果、二次電池用外装材の耐食性が一層向上し、アルミニウム箔層と接着層との密着性が一層向上する。
【0059】
混合溶液における硫酸ナトリウムの濃度は1.0〜5.0g/Lである。硫酸ナトリウムは水和物皮膜層の成長に寄与するとともに、水和物皮膜層中のアルミニウム濃度の増加に寄与する。硫酸ナトリウムの濃度が1.0g/L以上であることにより、上述した硫酸ナトリウムの効果が一層高くなる。硫酸ナトリウムの濃度が5.0g/L以下であることにより、第2層における質量比Rが過大になり難い。その結果、二次電池用外装材の耐食性が一層向上する。
【0060】
熱水変性処理を行うとき、混合溶液の温度が高いほど、水和物皮膜層の形成速度が向上し、水和物皮膜層が厚くなる。混合溶液の温度は75℃以上が好ましく、90℃以上がさらに好ましく、95℃以上が特に好ましい。
【0061】
混合溶液の温度が75℃以上である場合、水和物皮膜層を一層厚くすることができる。その結果、二次電池用外装材の耐食性が一層向上し、アルミニウム箔層と接着層との密着性が一層向上する。
【0062】
熱水変性処理の処理時間は特に限定されないが、長時間であるほど、厚い水和物皮膜層を形成することができる。処理時間は、例えば、5〜60分間とすることができる。処理時間をこの範囲とすれば、水和物皮膜層の厚みを十分な厚みにすることが可能になる。
【0063】
熱水変性処理の後、例えば、アルミニウム箔層に対し、蒸気加熱処理を行ってもよい。蒸気加熱処理は、水和物皮膜層のさらなる形成に寄与する。蒸気加熱処理は、特に、第1層のさらなる形成に寄与する。例えば、蒸気加熱処理によって第1層をより厚くし、第1層の厚みを500〜1000nmとすることができる。
【0064】
上述した熱変性処理によれば、必ずしも、環境汚染につながる物質を用いなくても、水和物皮膜層を形成することができる。すなわち、上述した熱変性処理によれば、環境への負荷を低減できる。
【0065】
また、上述した熱変性処理によれば、必ずしも、電源等を使用しなくても、水和物皮膜層を形成することができる。よって、上述した熱変性処理によれば、二次電池用外装材の製造コストを低減できる。
【0066】
(2−3)表面活性化処理
例えば、シーラント層に表面活性化処理を行うことができる。シーラント層に表面活性化処理を行うことにより、シーラント層の密着性が向上する。また、基材層に表面活性化処理を行うことができる。基材層に表面活性化処理を行うことにより、基材層の密着性が向上する。また、接着層に表面活性化処理を行うことができる。接着層に表面活性化処理を行うことにより、シーラント層の密着性が向上する。
【0067】
表面活性化処理として、例えば、コロナ処理、オゾン処理、低温プラズマ処理、グロー放電処理、酸化処理等が挙げられる。低温プラズマ処理では、例えば、酸素ガス、窒素ガス等を用いることができる。酸化処理では、例えば、化学薬品等を用いることができる。
【0068】
コロナ処理を行う場合、シーラント層又は基材層における最表面の分子鎖を切断し、水酸基、カルボニル基等の極性基を発生させることができる。そのことにより、シーラント層又は基材層の密着性が向上する。
【0069】
3.実施例
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本実施例は一例に過ぎず、本開示を限定するものではない。
【0070】
(3−1)二次電池用外装材の製造
以下のようにして、実施例1〜21及び比較例1〜16の二次電池用外装材を製造した。
【0071】
(i)水和物皮膜層の形成
まず、厚さ40μmのアルミニウム箔層を用意した。アルミニウム箔層は8000系合金から成る。アルミニウム箔層に対し、以下の前処理を行った。脱脂剤を水で希釈して濃度2質量%のアルカリ脱脂液を調製した。脱脂剤は日本ペイント・サーフケミカルズ(株)社製サーフクリーナー420N2(商品名)である。上記のアルミニウム箔層を、60℃のアルカリ脱脂液に10秒間浸漬してアルカリ脱脂し、水洗した。
【0072】
次に、アルミニウム箔層を希硫酸水溶液に5秒間浸漬して酸処理し、さらに水洗した。希硫酸水溶液の濃度は0.3%である。希硫酸水溶液の温度は50℃である。
次に、アルミニウム箔層に対し、熱水変性処理を行った。熱水変性処理は、塩化マグネシウムと、炭酸水素ナトリウムと、硫酸ナトリウムと、を含む混合溶液にアルミニウム箔層を浸漬する処理である。熱水変性処理により、アルミニウム箔層の表面に水和物皮膜層が形成された。
【0073】
各実施例及び各比較例における熱水変性処理の条件を表1に示す。熱水変性処理の条件として、混合溶液の組成、混合溶液の温度、及び処理時間がある。表1における「処理温度」は、混合溶液の温度を意味する。
【0074】
【表1】
(ii)水和物皮膜層の厚みの測定
各実施例及び各比較例において形成された水和物皮膜層の厚みを以下のように測定した。まず、水和物皮膜層を形成したアルミニウム箔層を、ウルトラミクロトームを用いて切断し、厚み約100nmの薄片試料を作成した。切断方向はアルミニウム箔の板厚方向と平行である。次に、薄片試料をTEMにより観察した。観察視野における任意の10点で第1層の厚みを測定し、それらの平均値を第1層の厚みとした。観察視野の大きさは1μm×1μmである。また、観察視野における任意の10点で第2層の厚みを測定し、それらの平均値を第2層の厚みとした。水和物皮膜層の厚みの測定結果を上記表1に示す。
【0075】
また、TEМ観察時に第1層及び第2層の形態を観察し、第1層が緻密質の層であることを確認し、第2層が多孔質の層であることを確認した。
(iii)質量比Rの測定
各実施例及び各比較例について、質量比Rを以下のように測定した。まず、アルミニウム箔層に対しグロー放電発光分光分析を行い、アルミニウム箔層の表面からの深さと、アルミニウムのスペクトルの強度との関係を得た。また、アルミニウム箔層の表面からの深さと、マグネシウムのスペクトルの強度との関係を得た。
【0076】
次に、アルミニウム箔層の表面から、第2層の厚みに相当する深さまで、アルミニウムのスペクトルを積分した。また、アルミニウム箔層の表面から、第2層の厚みに相当する深さまで、マグネシウムのスペクトルを積分した。第2層の厚みは、TEM観察により得た値である。そして、アルミニウムのスペクトルを積分した値を、マグネシウムのスペクトルを積分した値で除した値を、質量比Rとした。算出した質量比Rを上記表1に示す。
【0077】
(iv)接着層の形成
水和物皮膜層の表面に、変性ポリオレフィンから成る接着剤をバーコーターにて均一に塗布した。次に、200℃の温度で20秒間乾燥焼付けを行い、接着層を形成した。接着層の目付け量は1.0±0.5g/m
2である。次に、接着層にコロナ処理を施した。コロナ処理は表面活性化処理に対応する。
【0078】
厚さ60μmのCPPフィルムを用意した。このCPPフィルムはシーラント層に対応する。CPPフィルムの片面にコロナ処理を施した。コロナ処理は表面活性化処理に対応する。次に、CPPフィルムと接着層とを積層した。このとき、CPPフィルムの表面のうち、コロナ処理を施した面が接着層と当接するように、CPPフィルムを配置した。次に、熱溶融ラミネートを、温度110℃、1m/minの条件で行った。以上の工程により、二次電池用外装材が完成した。
【0079】
(3−2)二次電池用外装材の評価
各実施例及び各比較例のそれぞれについて、二次電池用外装材の特性を以下の(i)〜(iii)の試験により評価した。
【0080】
(i)ヒートシール強度の評価
二次電池用外装材から長方形の試験片を切り出した。試験片における長辺の長さは100mmであり、短辺の長さは50mmである。次に、2つの長辺の中点をそれぞれ通る折り曲げ線において、試験片を二つ折りにした。このとき、CPPフィルムが内側になるように試験片を二つ折りにした。次に、二つ折りにされた試験片のうち、折り曲げ線の近傍に位置する幅15mmの部分をヒートシールした。ヒートシールには、安田精機製作所製ヒートシーラーを用いた。ヒートシールの条件は以下のとおりとした。
【0081】
温度:180℃
圧力:2.4kg/G圧
ヒートシールの時間:2sec
次に、引張試験機を用いて、試験片の長辺方向における両端を互いに反対方向に引っ張り、ヒートシールした部分のヒートシール強度を測定した。シール強度の測定条件は以下のとおりとした。
【0082】
チャック間距離:50mm
剥離速度:50mm/min
剥離角度:180°
以下の基準により、ヒートシール強度を評価した。なお、この基準は、レトルトパウチの封緘強度のJAS規格値(農林規格第10条)に準拠する。○は合格を意味し、×は不合格を意味する。評価結果を表2及び表3に示す。
【0083】
○:ヒートシール強度は15.3N/cm以上である。
×:ヒートシール強度は15.3N/cm未満である。
【0085】
【表3】
(ii)剥離モード評価
ヒートシール強度の評価後に、使用した試験片の剥離面を目視で観察した。剥離面とは、試験片のうち、ヒートシールされ、その後、剥離した面である。目視による観察結果に基づき、以下の基準で剥離モードを評価した。○は合格を意味し、×は不合格を意味する。評価結果を上記表2及び上記表3に示す。
【0086】
○:CPPフィルム同士の界面で凝集破壊が生じた。
×:接着層とアルミニウム箔層との界面で剥離が生じた。
(iii)耐電解液特性の評価
二次電池用外装材から、2枚の矩形の試験片を切り出した。試験片の大きさは、それぞれ、縦90mm、横50mmである。2枚の試験片を、CPPフィルムが内側になるように重ね合わせた。次に、重ね合わされた試験片の4辺のうち、3辺において、試験片の端部同士をヒートシールした。ヒートシールは、幅5mmの範囲で行った。ヒートシールの条件は、以下のとおりとした。
【0087】
温度:200℃
圧力:2kg/cm
2
ヒートシールの時間:1sec
その結果、1辺が開口し、3辺がヒートシールされた矩形の袋が形成された。露点が−80℃以下であるグローブボックス内にて、袋の開口辺から、0.27mlの電解液を袋の内部に注入した。電解液は、1mol/L濃度のLiPF
6を含む。電解液の溶媒は、ECとEMCとを、体積比で3:7となるように混合した溶媒である。
【0088】
次に、袋の開口辺を、3辺をヒートシールしたときと同じ条件でヒートシールした。その結果、袋の内部に電解液が収容された状態で、袋の内部は密閉された。85℃の下で袋を所定期間保持した。袋を保持する期間は、1日、3日、7日とした。保持期間の終了後、袋を解体し、純水で洗浄してから、袋を構成していた試験片の外観を観察した。以下の基準で、試験片の耐電解液特性を評価した。○は合格を意味し、×は不合格を意味する。
【0089】
○:袋を7日保持した場合でも、CPPフィルムとアルミニウム箔層との剥離なし。
×:袋を7日保持した場合、CPPフィルムとアルミニウム箔層との剥離あり。
(iv)評価結果
ヒートシール強度、剥離モード、及び耐電解液特性の評価結果の全てが「○」である場合、総合評価の結果を「○」とした。それ以外の場合は総合評価の結果を「×」とした。総合評価の結果を上記表2及び上記表3に示す。
【0090】
表2に示すように、実施例1〜21では、総合評価が「○」であった。これに対し、表3に示すように、比較例1、2では、ヒートシール強度、剥離モード、及び耐電解液特性の評価結果が「×」であった。これは、熱水変性処理に用いた混合溶液における塩化マグネシウムの濃度が低いため、第2層の厚みが不十分になったためであると推測される。
【0091】
比較例3では、ヒートシール強度、剥離モード、及び耐電解液特性の評価結果が「×」であった。これは、熱水変性処理に用いた混合溶液における塩化マグネシウムの濃度が高いため、質量比Rが過度に低くなったためであると推測される。
【0092】
比較例4では、ヒートシール強度、剥離モード、及び耐電解液特性の評価結果が「×」であった。これは、熱水変性処理に用いた混合溶液における炭酸水素ナトリウムの濃度が低いため、第2層の厚みが不十分となったためであると推測される。
【0093】
比較例5では、ヒートシール強度、剥離モード、及び耐電解液特性の評価結果が「×」であった。また、比較例6では、ヒートシール強度の評価結果が「×」であった。これは、熱水変性処理に用いた混合溶液における炭酸水素ナトリウムの濃度が高いため、水和物皮膜層が十分に形成されなかったためであると推測される。
【0094】
比較例7、8では、ヒートシール強度の評価結果が「×」であった。これは、熱水変性処理に用いた混合溶液における硫酸ナトリウムの濃度が低いため、第2層における質量比Rが過度に高くなったためであると推測される。
【0095】
比較例9、10では、ヒートシール強度、剥離モード、及び耐電解液特性の評価結果が「×」であった。これは、熱水変性処理に用いた混合溶液における硫酸ナトリウムの濃度が高いため、第2層における質量比Rが過度に低くなったためであると推測される。
【0096】
比較例11、12では、ヒートシール強度、剥離モード、及び耐電解液特性の評価結果が「×」であった。これは、熱水変性処理に用いた混合溶液の温度が低いため、第1層の厚みが不十分になったためであると推測される。
【0097】
比較例13では、ヒートシール強度の評価結果が「×」であった。これは、熱水変性処理に用いた混合溶液における炭酸水素ナトリウムの濃度が高く、熱水変性処理の時間が長すぎて、第2層の厚みが過度に大きくなったためであると推測される。
【0098】
比較例14では、ヒートシール強度の評価結果が「×」であった。これは、熱水変性処理に用いた混合溶液における塩化マグネシウムの濃度が高く、熱水変性処理の時間が長すぎて、第2層の厚みが過度に大きくなったためであると推測される。
【0099】
比較例15では、ヒートシール強度の評価結果が「×」であった。これは、熱水変性処理の時間が長すぎて、第1層の厚みが過度に大きくなったためであると推測される。
比較例16では、ヒートシール強度の評価結果が「×」であった。これは、熱水変性処理に用いた混合溶液における炭酸水素ナトリウムの濃度が低く、熱水変性処理の時間が長すぎて、第1層の厚みが過度に大きくなったためであると推測される。
【0100】
4.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0101】
(1)基材層をシーラント層の上に積層してもよい。
(2)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0102】
(3)上述した二次電池用外装材の他、当該二次電池用外装材を構成要素とする製品、二次電池、二次電池の製造方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。