特開2019-212735(P2019-212735A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2019212735-磁性体膜及びその製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-212735(P2019-212735A)
(43)【公開日】2019年12月12日
(54)【発明の名称】磁性体膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/37 20060101AFI20191115BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20191115BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20191115BHJP
【FI】
   H01F1/37ZNM
   H01F41/02 D
   C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-106978(P2018-106978)
(22)【出願日】2018年6月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明渡 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】田口 理恵
(72)【発明者】
【氏名】野田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】水谷 厚司
【テーマコード(参考)】
4G048
5E041
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB03
4G048AC03
4G048AD02
4G048AD04
5E041AB01
5E041AB02
5E041AB12
5E041BB03
5E041BD12
5E041CA02
5E041CA13
5E041HB17
5E041NN04
5E041NN06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い透磁率を有する磁性体膜を提供する。
【解決手段】バインダーと、該バインダー中に分散している、平均粒子径が100〜500nmのフェライト系磁性ナノ粒子及び平均粒子径が1〜100μmのフェライト系磁性マイクロ粒子とを含有する磁性体膜であって、フェライト系磁性ナノ粒子の粒度分布(質量基準)が式:F(Dp)=1−exp(−(Dp/De))〔式中、Fは篩下積算質量率を表し、Dpは粒子径を表し、Deは粒度特性数を表し、mは分布定数を表す〕で表されるロジン・ラムラー分布関数に従うと仮定した場合における分布定数mが1.6〜2.3の範囲内にある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーと、該バインダー中に分散している、平均粒子径が100〜500nmのフェライト系磁性ナノ粒子及び平均粒子径が1〜100μmのフェライト系磁性マイクロ粒子とを含有する磁性体膜であって、
前記フェライト系磁性ナノ粒子の粒度分布(質量基準)が下記式:
F(Dp)=1−exp(−(Dp/De)
〔式中、Fは篩下積算質量率を表し、Dpは粒子径を表し、Deは粒度特性数を表し、mは分布定数を表す〕
で表されるロジン・ラムラー分布関数に従うと仮定した場合における分布定数mが1.6〜2.3の範囲内にある、
ことを特徴とする磁性体膜。
【請求項2】
前記フェライト系磁性ナノ粒子の含有量が全フェライト系磁性粒子100質量部に対して1〜50質量部であることを特徴とする請求項1に記載の磁性体膜。
【請求項3】
前記バインダーの含有量が全フェライト系磁性粒子100質量部に対して0.1〜10質量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性体膜。
【請求項4】
前記バインダーが、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、及びピロリドン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂からなるものであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の磁性体膜。
【請求項5】
フェライト系磁性ナノ粒子の塊状物を解砕して平均粒子径が100〜500nmであり、粒度分布(質量基準)が下記式:
F(Dp)=1−exp(−(Dp/De)
〔式中、Fは篩下積算質量率を表し、Dpは粒子径を表し、Deは粒度特性数を表し、mは分布定数を表す〕
で表されるロジン・ラムラー分布関数に従うと仮定した場合における分布定数mが1.6〜2.3の範囲内にあるフェライト系磁性ナノ粒子を調製する工程と、
前記工程で調製したフェライト系磁性ナノ粒子と、平均粒子径が1〜100μmのフェライト系磁性マイクロ粒子と、バインダーと、溶媒とを含有する塗工液を調製する工程と、
前記塗工液を塗工して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を加圧しながら加熱して請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の磁性体膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする磁性体膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体膜及びその製造方法に関し、より詳しくは、フェライト系磁性ナノ粒子とフェライト系磁性マイクロ粒子とを含有する磁性体膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタやトランスのコア材や電磁ノイズ吸収体等には、磁性粒子をバインダーに分散させた磁性体膜が用いられている。このような磁性体膜においては、平均粒径が異なる磁性粒子を混合して充填密度を高めることによって透磁率が向上すると考えられており、ナノメートルオーダーの磁性粒子(磁性ナノ粒子)とマイクロメートルオーダーの磁性粒子(磁性マイクロ粒子)とをバインダーに分散させた磁性体膜は特に高い透磁率を有する磁性体膜として期待されている。また、バインダー樹脂の含有量を低減することによって、磁性粒子同士が近接するため、透磁率が更に向上すると考えられている。
【0003】
このような磁性ナノ粒子と磁性マイクロ粒子とをバインダーに分散させた磁性体膜は、溶媒に、磁性ナノ粒子と磁性マイクロ粒子と分散させ、バインダーを溶解させた塗工液を、塗布や印刷(例えば、スクリーン印刷)等によって塗工し、得られた塗膜を乾燥させることによって形成することができる。このとき、磁性マイクロ粒子間を磁性ナノ粒子で均一に充填し、かつ、磁性ナノ粒子の充填密度が最大となるように、磁性ナノ粒子と磁性マイクロ粒子とを混合することによって、磁性粒子全体の充填密度が最大となり、高い透磁率を有する磁性体膜が得られると考えられる。しかしながら、磁性ナノ粒子は粒度が分布しているため、磁性ナノ粒子の充填密度を最大にするには、磁性ナノ粒子は粒度分布を最適化する必要があった。
【0004】
伊藤孝至ら、日本金属学会誌、1986年、第50巻、第8号、740〜746ページ(非特許文献1)には、粒度分布(質量基準)が下記式:
F(Dp)=1−exp(−(Dp/De)
〔式中、Fは篩下積算質量率を表し、Dpは粒子径を表し、Deは粒度特性数を表し、mは分布定数を表す〕
で表されるロジン・ラムラー分布関数に従う粒子においては、分布定数mが小さいほど充填密度が高くなることが記載されている。したがって、磁性ナノ粒子の分布定数mが小さくなるほど、磁性ナノ粒子の充填密度が高くなり、磁性体膜中の磁性粒子全体(磁性マイクロ粒子及び磁性ナノ粒子)の充填密度も高くなるため、磁性体膜の透磁率が増大することが期待される。
【0005】
また、特開2016−207712号公報(特許文献1)には、累積頻度50%の粒子径D50と累積頻度3%の粒子径D3との比D50/D3が8未満の磁粉を加圧成形することによって高密度の成形体が得られることが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の磁粉は平均粒子径が2〜5μmの磁性マイクロ粒子からなるものであり、磁性ナノ粒子は用いられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−207712号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】伊藤孝至ら、「粉体のランダム充てんモデルによる充てん密度と粒度分布との関係」、日本金属学会誌、1986年、第50巻、第8号、740〜746ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、バインダー中に磁性マイクロ粒子が分散している磁性体膜において、磁性粒子全体の充填密度を高めるために、非特許文献1に記載の知見に基づいて、ロジン・ラムラー分布関数における分布定数mが小さい磁性ナノ粒子を添加しても、磁性体膜の透磁率が必ずしも増大しないことを本発明者らは見出した。
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高い透磁率を有する磁性体膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、バインダー中にフェライト系磁性ナノ粒子とフェライト系磁性マイクロ粒子とが分散している磁性体膜において、粒度分布(質量基準)がロジン・ラムラー分布関数に従うと仮定した場合における分布定数mが種々の値を有するフェライト系磁性ナノ粒子を用いたところ、透磁率が極大となる分布定数が存在し、フェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mが特定の範囲内にある場合に高い透磁率が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の磁性体膜は、バインダーと、該バインダー中に分散している、平均粒子径が100〜500nmのフェライト系磁性ナノ粒子及び平均粒子径が1〜100μmのフェライト系磁性マイクロ粒子とを含有する磁性体膜であって、
前記フェライト系磁性ナノ粒子の粒度分布(質量基準)が下記式:
F(Dp)=1−exp(−(Dp/De)
〔式中、Fは篩下積算質量率を表し、Dpは粒子径を表し、Deは粒度特性数を表し、mは分布定数を表す〕
で表されるロジン・ラムラー分布関数に従うと仮定した場合における分布定数mが1.6〜2.3の範囲内にある、
ことを特徴とするものである。
【0012】
本発明の磁性体膜においては、前記フェライト系磁性ナノ粒子の含有量が全フェライト系磁性粒子100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、前記バインダーの含有量が全フェライト系磁性粒子100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましい。また、前記バインダーとしては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、及びピロリドン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂からなるものが好ましい。
【0013】
本発明の磁性体膜の製造方法は、フェライト系磁性ナノ粒子の塊状物を解砕して平均粒子径が100〜500nmであり、粒度分布(質量基準)が下記式:
F(Dp)=1−exp(−(Dp/De)
〔式中、Fは篩下積算質量率を表し、Dpは粒子径を表し、Deは粒度特性数を表し、mは分布定数を表す〕
で表されるロジン・ラムラー分布関数に従うと仮定した場合における分布定数mが1.6〜2.3の範囲内にあるフェライト系磁性ナノ粒子を調製する工程と、
前記工程で調製したフェライト系磁性ナノ粒子と、平均粒子径が1〜100μmのフェライト系磁性マイクロ粒子と、バインダーと、溶媒とを含有する塗工液を調製する工程と、
前記塗工液を塗工して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を加圧しながら加熱して請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の磁性体膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0014】
なお、本発明の磁性体膜において、透磁率が極大となる分布定数が存在する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、フェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mが透磁率が極大となる分布定数よりも大きい場合には、フェライト系磁性マイクロ粒子間の空隙がフェライト系磁性ナノ粒子で均一に充填されるため、フェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mが小さくなるにつれて、フェライト系磁性粒子全体の充填密度が増加し、磁性体膜の透磁率が増大すると推察される。一方、フェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mが透磁率が極大となる分布定数よりも小さい場合には、粒子径の小さいフェライト系磁性ナノ粒子の量が増加するため、ナノ粒子間に作用するファンデルワールス力や弱い残留磁化に起因する磁力により、成膜の際にフェライト系磁性ナノ粒子の凝集体が生成しやすくなる。このような凝集体が生成すると、本来、フェライト系磁性マイクロ粒子間の空隙を均一に充填するために添加されたフェライト系磁性ナノ粒子が凝集体形成に費やされるため、フェライト系磁性マイクロ粒子間に空隙(空孔)が残存する。この空隙(空孔)はフェライト系磁性粒子に比べて透磁率が低いため、磁性体膜の透磁率が低下すると推察される。そして、このような現象はフェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mが小さくなるほど顕著になり、フェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mが小さくなるにつれて、粒子径の小さいフェライト系磁性ナノ粒子の量が更に増加し、フェライト系磁性ナノ粒子の凝集体が更に生成しやすくなるため、フェライト系磁性マイクロ粒子間の空隙(空孔)も残存しやすくなり、その結果、磁性体膜の透磁率も更に低下すると推察される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い透磁率を有する磁性体膜を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】磁性体膜の比透磁率とフェライト系磁性ナノ粒子の分布定数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
〔磁性体膜〕
先ず、本発明の磁性体膜について説明する。本発明の磁性体膜は、バインダーと、該バインダー中に分散している、平均粒子径が100〜500nmのフェライト系磁性ナノ粒子及び平均粒子径が1〜100μmのフェライト系磁性マイクロ粒子とを含有する磁性体膜である。このような本発明の磁性体膜において、
前記フェライト系磁性ナノ粒子の粒度分布(質量基準)が下記式:
F(Dp)=1−exp(−(Dp/De)
〔式中、Fは篩下積算質量率を表し、Dpは粒子径を表し、Deは粒度特性数を表し、mは分布定数を表す〕
で表されるロジン・ラムラー分布関数に従うと仮定した場合における分布定数mは1.6〜2.3の範囲内にある。
【0019】
本発明に用いられるフェライト系磁性ナノ粒子及びフェライト系磁性マイクロ粒子(以下、これらをまとめて「フェライト系磁性粒子」ともいう)としては、保磁力が低く、透磁率が高いフェライト系軟磁性粒子であれば特に制限はないが、MnZnフェライト粒子、MnCuフェライト粒子、MnMgフェライト粒子、MnZnCuフェライト粒子、MnZnMgフェライト粒子、MnZnNiフェライト粒子、NiZnフェライト粒子、NiCuフェライト粒子、NiCuZnフェライト粒子、NiZnMgフェライト粒子、Coフェライト粒子、CuZnフェライト粒子等が挙げられる。これらのフェライト系磁性粒子は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このようなフェライト系磁性粒子の中でも、透磁率が高く、ナノ粒子のコストが比較的低いという観点から、MnZnフェライト粒子、NiZnフェライト粒子、NiCuZnフェライト粒子が好ましい。
【0020】
本発明において、フェライト系磁性ナノ粒子の平均粒子径は100〜500nmである。このような平均粒子径を有するフェライト系磁性ナノ粒子を用いることによって、フェライト系磁性マイクロ粒子間の空隙が十分に充填されるため、磁性体膜の透磁率が高くなる。一方、フェライト系磁性ナノ粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、ナノ粒子間に作用するファンデルワールス力や弱い残留磁化に起因する磁力により、成膜の際にフェライト系磁性ナノ粒子の凝集体が生成しやすくなり、フェライト系磁性マイクロ粒子間の空隙が十分に充填されず、磁性体膜の透磁率が低下する。他方、フェライト系磁性ナノ粒子の平均粒子径が前記上限を超えると、フェライト系磁性マイクロ粒子間の空隙が十分に充填されず、磁性体膜の透磁率が低下する。また、フェライト系磁性ナノ粒子の凝集体が生成しにくく、フェライト系磁性マイクロ粒子間の空隙が十分に充填されるという観点から、フェライト系磁性ナノ粒子の平均粒子径としては、100〜400nmが好ましく、200〜400nmがより好ましい。
【0021】
さらに、本発明において、フェライト系磁性ナノ粒子の粒度分布(質量基準)が前記式で表されるロジン・ラムラー分布関数に従うと仮定した場合における分布定数mは1.6〜2.3の範囲内にあることが必要である。フェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mが前記下限未満になると、フェライト系磁性ナノ粒子が凝集しやすいため、フェライト系磁性マイクロ粒子間の空隙が十分に充填されず、磁性体膜の透磁率が低下する。他方、フェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mが前記上限を超えると、フェライト系磁性ナノ粒子の充填密度が低下し、フェライト系磁性粒子全体の充填密度も低下するため、磁性体膜の透磁率が低下する。また、フェライト系磁性ナノ粒子の凝集が抑制され、フェライト系磁性マイクロ粒子間の空隙が十分に充填され、かつ、フェライト系磁性ナノ粒子の充填密度が高くなり、フェライト系磁性粒子全体の充填密度も増加し、その結果、磁性体膜の透磁率が増大するという観点から、フェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mとしては1.7〜2.2が好ましく、1.8〜2.1がより好ましい。
【0022】
また、本発明において、フェライト系磁性マイクロ粒子の平均粒子径は1〜100μmである。フェライト系磁性マイクロ粒子の平均粒子径が前記上限を超えると、印刷時に目詰まりやスキージによる引き摺り痕の発生等により印刷性が著しく低下する。また、フェライト系磁性粒子の高分散性や高充填密度の確保という観点から、フェライト系磁性マイクロ粒子の平均粒子径の上限としては、20μm以下が好ましい。一方、フェライト系磁性ナノ粒子との粒子径差を確保して高充填化を図るという観点から、フェライト系磁性マイクロ粒子の平均粒子径の下限としては、2μm以上が好ましい。
【0023】
本発明の磁性体膜において、前記フェライト系磁性ナノ粒子の含有量としては、全フェライト系磁性粒子(前記フェライト系磁性ナノ粒子と前記フェライト系磁性マイクロ粒子との合計)100質量部に対して1〜50質量部が好ましく、1〜30質量部がより好ましい。前記フェライト系磁性ナノ粒子の含有量が前記下限未満になると、フェライト系磁性マイクロ粒子間の空隙がフェライト系磁性ナノ粒子で十分に充填されず、特に、後述するバインダーの量が少ない領域では、フェライト系磁性マイクロ粒子間に空隙(空孔)が残存しやすく、磁性体膜の透磁率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、フェライト系磁性ナノ粒子の充填密度は高くなるものの、フェライト系磁性マイクロ粒子の充填密度が著しく低くなるため、フェライト系磁性粒子全体の充填密度が低下し、磁性体膜の透磁率が低下する傾向にある。
【0024】
本発明の磁性体膜は、このようなフェライト系磁性ナノ粒子及びフェライト系磁性マイクロ粒子がバインダー中に分散したものである。前記バインダーとしては特に制限はないが、樹脂バインダーが好ましく、前記樹脂バインダーとしては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、ピロリドン樹脂、セルロース樹脂、ゼラチンが挙げられる。これらの樹脂バインダーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。このようなバインダーを添加することによって、空孔の少ない、高い透磁率を有する磁性体膜を形成することが可能となる。
【0025】
本発明の磁性体膜において、前記バインダーの含有量は、適用する塗工方法(例えば、スクリーン印刷法、マスク印刷法、バーコート法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法)において塗工液の粘度やレオロジー特性が最適となるように、また、硬化後の膜において空孔が少なくなるように、塗工方法や空孔除去方法等に応じて適宜設定することが可能であるが、全フェライト系磁性粒子(前記フェライト系磁性ナノ粒子と前記フェライト系磁性マイクロ粒子との合計)100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、1〜8質量部であることがより好ましい。前記バインダーの含有量が前記下限未満になると、磁性体膜の強度が低下してクラックや剥離が発生しやすくなるため、空隙(空孔)が増加して磁性体膜の透磁率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、樹脂成分が多くなりすぎて磁性体膜の磁気特性が低下する傾向にある。
【0026】
また、本発明の磁性体膜には、本発明の効果を損なわない範囲において、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、湿潤剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0027】
〔磁性体膜の製造方法〕
次に、本発明の磁性体膜の製造方法について説明する。本発明の磁性体膜の製造方法は、フェライト系磁性ナノ粒子の塊状物を解砕して、所望の平均粒子径を有し、粒度分布(質量基準)が下記式:
F(Dp)=1−exp(−(Dp/De)
〔式中、Fは篩下積算質量率を表し、Dpは粒子径を表し、Deは粒度特性数を表し、mは分布定数を表す〕
で表されるロジン・ラムラー分布関数に従うと仮定した場合における分布定数mが所望の範囲内にあるフェライト系磁性ナノ粒子を調製する工程(ナノ粒子調製工程)と、
前記ナノ粒子調製工程で調製した、所望の平均粒子径を及び所望の分布定数mを有する前記フェライト系磁性ナノ粒子と、所望の平均粒子径を有するフェライト系磁性マイクロ粒子と、前記バインダーと、溶媒とを含有する塗工液を調製する工程(塗工液調製工程)と、
前記塗工液を塗工して塗膜を形成する工程(塗膜形成工程)と、
前記塗膜を加圧しながら加熱して前記本発明の磁性体膜を形成する工程(加圧加熱工程)と、
を含む方法である。
【0028】
(ナノ粒子調製工程)
本発明の磁性体膜の製造方法においては、先ず、フェライト系磁性ナノ粒子の塊状物を解砕して、所望の平均粒子径を有し、粒度分布(質量基準)が下記式:
F(Dp)=1−exp(−(Dp/De)
〔式中、Fは篩下積算質量率を表し、Dpは粒子径を表し、Deは粒度特性数を表し、mは分布定数を表す〕
で表されるロジン・ラムラー分布関数に従うと仮定した場合における分布定数mが所望の範囲内にあるフェライト系磁性ナノ粒子を調製する。
【0029】
フェライト系磁性ナノ粒子の塊状物を解砕する方法としては、所望の平均粒子径及び所望の分布定数mを有するフェライト系磁性ナノ粒子が得られる方法であれば特に制限はなく、例えば、ボールミルを用いた方法、ホモジナイザを用いた方法等が挙げられる。また、これらの方法においては、所望の平均粒子径及び所望の分布定数mを有するフェライト系磁性ナノ粒子が得られるように、例えば、ボールミルを用いた方法においてはジルコニアボールの大きさやその量、ホモジナイザを用いた方法においては回転数や時間等の条件を適宜調整する。
【0030】
このようなフェライト系磁性ナノ粒子の塊状物の解砕は、通常、前記フェライト系磁性ナノ粒子を高分散させることが可能な溶媒(以下、「高分散用溶媒」という。)中で行うことが好ましい。このような高分散用溶媒としては、例えば、イソプロパノール、エタノール、n−プロパノール、ジエチルエーテル、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられる。また、解砕する際のフェライト系磁性ナノ粒子の塊状物の濃度は、所望の平均粒子径及び所望の分布定数mを有するフェライト系磁性ナノ粒子が前記高分散用溶媒中に均一に分散した状態で得られるように適宜調整することが好ましい。
【0031】
(塗工液調製工程)
次に、このようにして調製した所望の平均粒子径を及び所望の分布定数mを有する前記フェライト系磁性ナノ粒子と、所望の平均粒子径を有するフェライト系磁性マイクロ粒子と、前記バインダーと、溶媒とを含有する塗工液を調製する。このとき、全フェライト系磁性粒子(前記フェライト系磁性ナノ粒子と前記フェライト系磁性マイクロ粒子との合計)100質量部に対して、前記フェライト系磁性ナノ粒子の含有量が1〜50質量部(より好ましくは1〜30質量部)となるように、かつ、前記バインダーの含有量が0.1〜10質量部(より好ましくは1〜8質量部)となるように、前記塗工液を調製することが好ましい。また、このような塗工液において、前記フェライト系磁性ナノ粒子及び前記フェライト系磁性マイクロ粒子は前記溶媒中に分散しており、前記バインダーは前記溶媒中に溶解している。
【0032】
前記溶媒(塗工液用溶媒)としては、前記フェライト系磁性ナノ粒子及び前記フェライト系磁性マイクロ粒子が均一に分散し、前記バインダーが十分に溶解するものであれば特に制限はないが、前記フェライト系磁性ナノ粒子及び前記フェライト系磁性マイクロ粒子との濡れ性が良好であり、前記フェライト系磁性ナノ粒子及び前記フェライト系磁性マイクロ粒子の凝集が抑制され、低コストであるという観点から、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エタノール、2−[2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ]エタノールが好ましい。このような溶媒は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0033】
また、前記塗工液において、前記溶媒(塗工液用溶媒)の含有量としては特に制限はないが、塗工液全量に対して、1〜35質量%が好ましく、4〜30質量%がより好ましい。前記溶媒の含有量が前記下限未満になると、塗工液の粘度が高くなり、塗工が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、製膜後に前記塗工液用溶媒を除去するための乾燥時間が長くなり、また、所望の厚さの磁性体膜を形成するためには、塗工と乾燥を数多く繰り返す必要があり、製造コストが高くなる傾向にある。
【0034】
前記塗工液の調製方法としては、前記塗工液用溶媒に前記フェライト系磁性ナノ粒子及び前記フェライト系磁性マイクロ粒子が均一に分散し、前記バインダーが十分に溶解する方法であれば、特に制限はないが、例えば、先ず、前記塗工液用溶媒に前記フェライト系磁性ナノ粒子が分散しているスラリーを調製し、次いで、このスラリーに前記バインダーを添加して溶解させ、その後、前記バインダーを含有するスラリーに前記フェライト系磁性マイクロ粒子を添加して分散させる方法が好ましい。
【0035】
前記スラリーの調製方法としては、前記塗工液用溶媒に前記フェライト系磁性ナノ粒子が均一に分散する方法であれば特に制限はなく、例えば、前記塗工液用溶媒に前記フェライト系磁性ナノ粒子を添加した後、超音波処理等の公知の分散処理を施す方法が挙げられるが、前記フェライト系磁性ナノ粒子が凝集しやすいことから、前記フェライト系磁性ナノ粒子が高度に分散したスラリーを得るためには、例えば、前記ナノ粒子調製工程において解砕処理を施した後の分散液、すなわち、前記高分散用溶媒に前記フェライト系磁性ナノ粒子が均一に分散している分散液において、前記高分散用溶媒を前記塗工液用溶媒で置換する方法が好ましい。
【0036】
前記高分散用溶媒を前記塗工液用溶媒で置換する方法としては特に制限はなく、例えば、前記フェライト系磁性ナノ粒子が前記高分散用溶媒に分散している分散液に、前記塗工液用溶媒を添加した後、ロータリーエバポレーターを用いて前記高分散用溶媒を留去する方法が挙げられる。このとき、前記塗工液用溶媒が残存し、前記高分散用溶媒が除去されるように、操作条件(温度、圧力等)を設定する。
【0037】
次に、このようにして調製したスラリーに前記バインダーを添加して溶解させる。このとき、得られる塗工液中の全フェライト系磁性粒子100質量部に対して前記バインダーの含有量が0.1〜10質量部(より好ましくは1〜8質量部)となるように、前記バインダーを添加することが好ましい。これにより、前記塗工液用溶媒を用いることによって前記フェライト系磁性ナノ粒子及び前記フェライト系磁性マイクロ粒子の凝集が抑制されるという効果が発揮される。また、前記バインダーの含有量が前記下限未満になると、磁性体膜の強度が低下してクラックや剥離が発生しやすくなるため、空隙(空孔)が増加して磁性体膜の透磁率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、樹脂成分が多くなりすぎて磁性体膜の磁気特性が低下する傾向にある。
【0038】
次に、このようにして調製した前記バインダーを含有するスラリーに前記フェライト系磁性マイクロ粒子を添加して分散させる。このとき、得られる塗工液中の全フェライト系磁性粒子100質量部に対する前記フェライト系磁性ナノ粒子の含有量が1〜50質量部(より好ましくは1〜30質量部)となるように、前記フェライト系磁性マイクロ粒子を添加することが好ましい。これにより、フェライト系磁性マイクロ粒子間の空隙がフェライト系磁性ナノ粒子で高密度に充填され、磁性体膜の透磁率が増大する。
【0039】
(塗膜形成工程)
次に、このようにして調製した塗工液を、例えば基板上に塗工し、乾燥することによって塗膜を形成する。塗工方法としては特に制限はなく、例えば、塗布、スクリーン印刷、マスク印刷、バーコート、フレキソ印刷、グラビア印刷等の公知の方法を採用することができる。また、このような塗工・乾燥は、所望の厚さの塗膜が形成されるまで繰返し行なってもよい。
【0040】
(加圧加熱工程)
次に、得られた塗膜を加圧しながら加熱して前記バインダーを硬化又は高粘度化(好ましくは、硬化)させた後、圧力を解放することによって、前記本発明の磁性体膜が得られる。塗膜に圧力を印加する方法としては特に制限はなく、例えば、一軸圧力、静水圧力等を印加することができる。
【0041】
塗膜に印加する圧力としては特に制限はないが、5〜90MPaが好ましく、20〜70MPaがより好ましい。印加圧力が前記下限未満になると、フェライト系磁性ナノ粒子が流動しにくいため、フェライト系磁性マイクロ粒子間の空隙がフェライト系磁性ナノ粒子で十分に充填されず、磁性体膜に空隙(空孔)が残存するため、磁性体膜の透磁率が低下する傾向にあり、他方、印加圧力が前記上限を超えると、基板が破壊される場合がある。
【0042】
また、加熱温度としては特に制限はないが、100〜400℃が好ましく、100〜300℃がより好ましい。加熱温度が前記下限未満になると、バインダーが十分に硬化又は高粘度化せず、この状態で圧力を解放すると、加圧により収縮していた空隙(空孔)が再膨張するため、磁性体膜の透磁率が低下する傾向にあり、他方、加熱温度が前記上限を超えると、バインダーが分解してフェライト系磁性粒子間の結合力が減少し、磁性体膜の強度が低下するとともに、粒子間静磁的相互作用が弱くなり、磁性体膜の透磁率が低下する傾向にある。なお、圧力を解放した後に熱処理を行う場合にも、前記範囲内の温度で加熱することが好ましい。
【0043】
さらに、本発明の磁性体膜の製造方法においては、塗膜の粘度が1000Pa・s以下の条件で前記加圧・加熱処理を施すことが好ましい。塗膜の粘度が前記範囲内にあると、加圧・加熱処理によってフェライト系磁性粒子が流動するため、磁性体膜中に残存する空隙(空孔)を減少させることができ、磁性体膜の透磁率が増大する。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、酸化鉄系フェライトナノ粒子の粒度分布(質量基準)及び磁性体膜の比透磁率は以下の方法により求めた。
【0045】
<フェライト系磁性ナノ粒子の粒度分布>
フェライト系磁性ナノ粒子をクリアカップ内に二液混合型エポキシ樹脂を用いて埋め込み、フェライト系磁性ナノ粒子の断面が露出するまで研磨した後、必要に応じて、イオンミリングによる加工を行なった。なお、フェライト系磁性ナノ粒子の断面は、集束イオンビーム又はミクロトームを用いた切削により露出させてもよい。次いで、露出したフェライト系磁性ナノ粒子の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。観察倍率は視野内にナノ粒子が200個以上存在するように設定した。このような電子顕微鏡観察を10箇所(10視野)以上実施し、合計2000個以上のフェライト系磁性ナノ粒子に対して以下のように画像処理を行い、フェライト系磁性ナノ粒子の粒度分布(質量基準)を求めた。
【0046】
すなわち、市販の画像解析ソフト(例えば、旭化成エンジニアリング株式会社製「A像くん」)を用いて、得られたSEM像をグレースケールに変換した後、画像処理を行い、フェライト系磁性ナノ粒子を抽出し、抽出したフェライト系磁性ナノ粒子の粒子径(円相当径)を求めた。フェライト系磁性ナノ粒子の形状を球状と仮定して、前記フェライト系磁性ナノ粒子の粒子径を用いてフェライト系磁性ナノ粒子の体積を求め、さらに、材料密度を乗じてフェライト系磁性ナノ粒子の質量を算出した。各フェライト系磁性ナノ粒子の粒子径と質量に基づいて、フェライト系磁性ナノ粒子の粒度分布(質量基準)を求めた。
【0047】
<磁性体膜の比透磁率>
先ず、シリコン基板上に形成した磁性体膜の膜厚を、触針式段差計を用いて測定した。次に、磁性体膜を形成したシリコン基板から1cm角の測定用試験片を切出した。また、磁性体膜が形成されていない1cm角のシリコン基板を準備した。透磁率測定装置(凌和電子株式会社製「PMF−001」)を用い、室温(23℃)環境下、周波数1MHzの条件で前記測定用試験片及び前記シリコン基板の比透磁率を測定し、前記測定用試験片と前記シリコン基板の比透磁率の差及び前記磁性体膜の膜厚から、磁性体膜の比透磁率を求めた。
【0048】
(実施例1)
イソプロパノール170gにNi0.4Zn0.6Fe磁性ナノ粒子を含む粉末(平均粒子径:300nm)30gを添加し、さらに、直径3mmのジルコニアボール500gを添加した後、ボールミル(ヤマト科学株式会社製「UB32」)を用いて解砕し、フェライト系磁性ナノ粒子の分散液を得た。この分散液を少量採取して乾燥により溶媒を除去した後、得られたフェライト系磁性ナノ粒子の粒度分布(質量基準)を前記方法に従って求め、得られた粒度分布(質量基準)が下記式:
F(Dp)=1−exp(−(Dp/De)
〔式中、Fは篩下積算質量率を表し、Dpは粒子径を表し、Deは粒度特性数を表し、mは分布定数を表す〕
で表されるロジン・ラムラー分布関数に従うと仮定して分布定数mを求めたところ、分布定数mは1.9であった。
【0049】
前記フェライト系磁性ナノ粒子を含有する分散液に2−(2−エトキシエトキシ)エタノール40gを添加し、ロータリーエバポレーターを用いて40℃、50mTorr(6.7Pa)の条件でイソプロパノールを留去し、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール中に前記フェライト系磁性ナノ粒子が分散したスラリーを得た。このスラリーにバインダーとしてフェノール樹脂(セメダイン株式会社製「熱硬化型フェノール樹脂110」)を樹脂成分が4.8gとなるように添加し、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製「あわとり練太郎AR−100)を用いて撹拌して前記フェノール樹脂を完全に溶解した。その後、Ni0.4Zn0.6Fe磁性マイクロ粒子を含む粉末(平均粒径:7μm)90gを添加し、前記自転・公転ミキサーを用いて撹拌して塗工液を得た。
【0050】
この塗工液をスクリーン印刷法によりシリコン基板上に塗布し、大気中、50℃で30分間放置し、この操作を繰り返して厚さ50μmの塗膜を形成した。この塗膜を、加熱加圧装置(三庄インダストリー株式会社製「TBH−100H」)を用いて、60MPaに加圧しながら150℃で30分間加熱した。その後、圧力を解放して試料を取り出し、窒素雰囲気下、200℃で1時間の熱処理を行い、磁性体膜を得た。得られた磁性体膜の比透磁率μ’を求めたところ、83であった。
【0051】
(実施例2)
直径3mmのジルコニアボールの代わりに直径1mmのジルコニアボール500gを用いた以外は実施例1と同様にしてNi0.4Zn0.6Fe磁性ナノ粒子を含む粉末(平均粒子径:300nm)を解砕し、前記フェライト系磁性ナノ粒子の分散液を得た。このフェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mを実施例1と同様にして求めたところ、1.6であった。また、このフェライト系磁性ナノ粒子を含有する分散液を用いた以外は実施例1と同様にして磁性体膜を作製し、比透磁率μ’を求めたところ、62であった。
【0052】
(実施例3)
直径3mmのジルコニアボール500gの代わりに直径1mmのジルコニアボール250gと直径3mmのジルコニアボール250gを用いた以外は実施例1と同様にしてNi0.4Zn0.6Fe磁性ナノ粒子を含む粉末(平均粒子径:300nm)を解砕し、前記フェライト系磁性ナノ粒子の分散液を得た。このフェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mを実施例1と同様にして求めたところ、1.75であった。また、このフェライト系磁性ナノ粒子を含有する分散液を用いた以外は実施例1と同様にして磁性体膜を作製し、比透磁率μ’を求めたところ、72であった。
【0053】
(実施例4)
直径3mmのジルコニアボールの代わりに直径5mmのジルコニアボール500gを用いた以外は実施例1と同様にしてNi0.4Zn0.6Fe磁性ナノ粒子を含む粉末(平均粒子径:300nm)を解砕し、前記フェライト系磁性ナノ粒子の分散液を得た。このフェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mを実施例1と同様にして求めたところ、2.1であった。また、このフェライト系磁性ナノ粒子を含有する分散液を用いた以外は実施例1と同様にして磁性体膜を作製し、比透磁率μ’を求めたところ、79であった。
【0054】
(実施例5)
ボールミルの代わりにホモジナイザ(IKA社製、ホモジナイザT25デジタル+シャフトジェネレーターS25KV−25F)を用いて10000rpmで5分間、Ni0.4Zn0.6Fe磁性ナノ粒子を含む粉末(平均粒子径:300nm)を解砕した以外は実施例1と同様にして、前記フェライト系磁性ナノ粒子の分散液を得た。このフェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mを実施例1と同様にして求めたところ、2.3であった。また、このフェライト系磁性ナノ粒子を含有する分散液を用いた以外は実施例1と同様にして磁性体膜を作製し、比透磁率μ’を求めたところ、60であった。
【0055】
(比較例1)
ボールミルの代わりにジェットミル(ホソカワミクロン株式会社製「MJT−LAB」)を用いてNi0.4Zn0.6Fe磁性ナノ粒子を含む粉末(平均粒子径:300nm)を解砕した以外は実施例1と同様にして、前記フェライト系磁性ナノ粒子の分散液を得た。このフェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mを実施例1と同様にして求めたところ、1.4であった。また、このフェライト系磁性ナノ粒子を含有する分散液を用いた以外は実施例1と同様にして磁性体膜を作製し、比透磁率μ’を求めたところ、42であった。
【0056】
(比較例2)
イソプロパノール170gにNi0.4Zn0.6Fe磁性ナノ粒子を含む粉末(平均粒子径:300nm)30gを添加して前記フェライト系磁性ナノ粒子の分散液を得た。このフェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mを実施例1と同様にして求めたところ、2.5であった。また、このフェライト系磁性ナノ粒子を含有する分散液を用いた以外は実施例1と同様にして磁性体膜を作製し、比透磁率μ’を求めたところ、43であった。
【0057】
(比較例3)
Ni0.4Zn0.6Fe磁性ナノ粒子を含む粉末(平均粒子径:300nm)30gに900℃で120分間の熱処理を施した後、得られたフェライト系磁性ナノ粒子を含む粉末をイソプロパノール170gに添加して前記フェライト系磁性ナノ粒子の分散液を得た。このフェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mを実施例1と同様にして求めたところ、2.7であった。また、このフェライト系磁性ナノ粒子を含有する分散液を用いた以外は実施例1と同様にして磁性体膜を作製し、比透磁率μ’を求めたところ、25であった。
【0058】
図1には、実施例1〜5及び比較例1〜3で得られた磁性体膜の比透磁率μ’をフェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mに対してプロットした結果を示す。この結果から明らかなように、分布定数mが所定の範囲内にあるフェライト系磁性ナノ粒子を含有する磁性体膜(実施例1〜5)は、比透磁率μ’が60以上であり、分布定数mが1.4(比較例1)、2.5(比較例2)又は2.7(比較例3)のフェライト系磁性ナノ粒子を含有する磁性体膜に比べて、比透磁率が高くなることが確認された。
【0059】
(実施例6)
Ni0.4Zn0.6Fe磁性ナノ粒子を含む粉末の代わりにMn0.5Zn0.5Fe磁性ナノ粒子を含む粉末(平均粒子径:300nm)30gを解砕した以外は実施例1と同様にして、前記フェライト系磁性ナノ粒子の分散液を得た。このフェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mを実施例1と同様にして求めたところ、1.8であった。また、このフェライト系磁性ナノ粒子を含有する分散液を用いた以外は実施例1と同様にして磁性体膜を作製し、比透磁率μ’を求めたところ、65であった。
【0060】
(比較例4)
Ni0.4Zn0.6Fe磁性ナノ粒子を含む粉末の代わりにMn0.5Zn0.5Fe磁性ナノ粒子を含む粉末(平均粒子径:50nm)30gを解砕した以外は実施例1と同様にして、前記フェライト系磁性ナノ粒子の分散液を得た。このフェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mを実施例1と同様にして求めたところ、1.7であった。また、このフェライト系磁性ナノ粒子を含有する分散液を用いた以外は実施例1と同様にして磁性体膜を作製し、比透磁率μ’を求めたところ、27であった。
【0061】
(比較例5)
直径3mmのジルコニアボールの代わりに直径5mmのジルコニアボール500gを用い、Ni0.4Zn0.6Fe磁性ナノ粒子を含む粉末の代わりにMn0.5Zn0.5Fe磁性ナノ粒子を含む粉末(平均粒子径:50nm)30gを解砕した以外は実施例1と同様にして、前記フェライト系磁性ナノ粒子の分散液を得た。このフェライト系磁性ナノ粒子の分布定数mを実施例1と同様にして求めたところ、1.9であった。また、このフェライト系磁性ナノ粒子を含有する分散液を用いた以外は実施例1と同様にして磁性体膜を作製し、比透磁率μ’を求めたところ、19であった。
【0062】
実施例6及び比較例4〜5で得られた結果から明らかなように、平均粒子径及び分布定数mが所定の範囲内にあるフェライト系磁性ナノ粒子を用いた場合(実施例6)には、磁性体膜の比誘電率が高くなるのに対して、分布定数mが所定の範囲内にあるフェライト系磁性ナノ粒子であっても平均粒子径が小さい場合(比較例4〜5)には、磁性体膜の比透磁率が低くなることがわかった。これは、平均粒子径が小さいフェライト系磁性ナノ粒子が成膜時に凝集したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したように、本発明によれば、高い透磁率を有する磁性体膜を得ることが可能となる。したがって、本発明の磁性体膜は、インダクタ、トランス、電磁ノイズ吸収体、磁気センサー等に用いられる磁性体材料として有用である。
図1