特開2019-213497(P2019-213497A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-213497(P2019-213497A)
(43)【公開日】2019年12月19日
(54)【発明の名称】細胞培養システム及び細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20191122BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20191122BHJP
【FI】
   C12M1/00 D
   C12N1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-112890(P2018-112890)
(22)【出願日】2018年6月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(71)【出願人】
【識別番号】503013820
【氏名又は名称】株式会社IHIプラントエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 諒介
(72)【発明者】
【氏名】磯 良行
(72)【発明者】
【氏名】亀倉 晃一
(72)【発明者】
【氏名】水沼 誉人
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB01
4B029BB11
4B029CC01
4B029DA01
4B029DB17
4B029DC02
4B029DG06
4B029DG08
4B029GB01
4B065AA87X
4B065BC25
(57)【要約】
【課題】 効率的に液体培地から抗体等の有用物質を回収可能な細胞培養システム及び細胞培養方法を提供する。
【解決手段】 細胞培養システムは、培養される細胞を含む液体培地を収容する培養槽と、培養槽から供給される液体培地を、相対的に細胞密度が高い富細胞画分と、相対的に細胞密度が低い貧細胞画分に分離する流体力分離装置と、流体力分離装置によって分離される貧細胞画分から細胞を除去して液体培地を回収するろ過分離装置とを有する。流体力分離装置は、矩形断面を有する湾曲流路を流れることによって生じる渦流れを利用して液体培地を分離する。或いは、流体力分離装置から貧細胞画分を培養槽へ供給して培養槽の液体培地の細胞密度を低下させて、この液体培地をろ過分離装置へ供給して細胞を除去して液体培地を回収するように構成される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養される細胞を含む液体培地を収容する培養槽と、
矩形断面を有する湾曲流路を有し、前記湾曲流路を流れることによって生じる渦流れを利用して、前記培養槽から供給される液体培地を、相対的に細胞密度が高い富細胞画分と、相対的に細胞密度が低い貧細胞画分に分離する流体力分離装置と、
前記流体力分離装置によって分離される貧細胞画分から細胞を除去して液体培地を回収するフィルタを有するろ過分離装置と
を有する細胞培養システム。
【請求項2】
更に、
前記流体力分離装置と前記培養槽とを接続し、前記富細胞画分を前記培養槽へ供給する第1返送路と、
前記ろ過分離装置と前記培養槽とを接続し、前記貧細胞画分から除去される細胞を前記培養槽へ供給する第2返送路と、
を有する請求項1に記載の細胞培養システム。
【請求項3】
更に、細胞を含む液体培地の一部をブリードとして外部へ排出する排出路を有する請求項2に記載の細胞培養システム。
【請求項4】
前記排出路は、前記第1返送路から分岐して設けられ、前記富細胞画分の一部または全部を廃棄する請求項3に記載の細胞培養システム。
【請求項5】
前記ろ過分離装置のフィルタは、デプスフィルタであり、
更に、前記富細胞画分をブリードとして外部へ廃棄する排出路を有する請求項2に記載の細胞培養システム。
【請求項6】
更に、
新たな液体培地を前記培養槽に供給する培地補給路と、
前記培養槽から供給される液体培地から細胞を除去して液体培地を回収するフィルタを有する追加のろ過分離装置と
を有する請求項5に記載の細胞培養システム。
【請求項7】
培養される細胞を含む液体培地を収容する培養槽と、
矩形断面を有する湾曲流路を有し、前記湾曲流路を流れることによって生じる渦流れを利用して、前記培養槽から供給される液体培地を、相対的に細胞密度が高い富細胞画分と、相対的に細胞密度が低い貧細胞画分に分離する流体力分離装置と、
前記流体力分離装置と前記培養槽とを接続し、前記貧細胞画分を前記培養槽へ供給することによって、前記培養槽の液体培地の細胞密度を低下させる培地返送路と、
前記培養槽から供給される液体培地から細胞を除去して液体培地を回収するフィルタを有するろ過分離装置と
を有する細胞培養システム。
【請求項8】
更に、
前記ろ過分離装置と前記培養槽とを接続し、前記ろ過分離装置によって除去された細胞を含む残部の液体培地を前記培養槽へ供給する返送路
を有する請求項7に記載の細胞培養システム。
【請求項9】
前記流体力分離装置は、前記液体培地を取り入れる単一の導入口と、分離した液体培地を排出する少なくとも2つの導出口とを有し、前記導出口の1つから前記富細胞画分が排出され、もう1つの導出口から前記貧細胞画分が排出される請求項1〜8の何れか一項に記載の細胞培養システム。
【請求項10】
更に、
前記流体力分離装置へ液体培地を供給するための流動圧を液体培地に付勢する付勢装置と、
前記流体力分離装置へ導入される液体培地と、前記流体力分離装置から導出される液体培地との圧力差が所定値以下になるように圧力環境を制御する圧力制御機構と
を有する請求項1〜9の何れか一項に記載の細胞培養システム。
【請求項11】
液体培地で細胞を培養する細胞培養と、
矩形断面を有する湾曲流路を流れることによって生じる渦流れを利用して、前記細胞培養から供給される液体培地を、相対的に細胞密度が高い富細胞画分と、相対的に細胞密度が低い貧細胞画分に分離する流体力分離と、
前記流体力分離によって分離される貧細胞画分から、フィルタを用いて細胞を除去して液体培地を回収するろ過分離と
を有する細胞培養方法。
【請求項12】
液体培地で細胞を培養する細胞培養と、
矩形断面を有する湾曲流路を流れることによって生じる渦流れを利用して、前記細胞培養から供給される液体培地を、相対的に細胞密度が高い富細胞画分と、相対的に細胞密度が低い貧細胞画分に分離する流体力分離と、
前記貧細胞画分を前記細胞培養へ供給することによって、前記細胞培養の液体培地の細胞密度を低下させる培地返送と、
前記細胞培養から供給される液体培地から、フィルタを用いて細胞を除去して液体培地を回収するろ過分離装置と
を有する細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞培養を通じて有用な物質を効率的に入手するための細胞培養システム及び細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品業界を初めとする幅広い分野において、動物細胞が産生する抗体物質や機能性物質等の有用な物質を利用することが注目されている。有用物質の市場供給を実現するために、細胞培養における条件の好適化及び効率化、産生される有用物質の単離精製手法などにおいて様々な工夫や改良が行われている。
【0003】
細胞の培養方法は、概して、バッチ式及び連続式の二つに分類される。バッチ式培養方法では、所定量の液体培地及び細胞を培養槽に投入し、ある程度の密度まで細胞が増殖すると、栄養素の不足又は代謝物による被毒によって増殖は停止するので、その時点で培養を終了する。連続式培養方法では、所定量の液体培地及び細胞を培養槽に投入して細胞を増殖させると共に、液体培地の一部を抜き出して新たな液体培地と交換して投入し、補充した栄養素を利用して細胞培養を継続する。抜き出した液体培地には、細胞が産生した有用物質が含まれるので、液体培地から細胞を除去した後に精製処理を適宜施すことによって有用物質が回収される。
【0004】
液体培地から細胞を除去する固液分離手段として、分離膜によるろ過分離や遠心分離が利用可能である。遠心分離は、分離に時間が必要であり、実験レベルの少量の分離は良好であっても、実用への適用性は決して高くない。このため、ろ過分離を利用して液体培地から培養細胞を除去するのが一般的である。
【0005】
特許文献1は、細胞培養のための装置に関し、バイオリアクターの出口に流通する音響定在波細胞分離器が記載される。音響定在波による分離においては、異なる方向から高い周波数の波動を作用させて定在波を生成させると、定在波の節に粒子が集中する。この現象を利用して、定在波の節に細胞を集中させて液体培地から細胞が分離される。
【0006】
一方、流体に含まれる粒子の分離に関する文献として、下記特許文献2があり、湾曲チャネルを有する流体力学的分離デバイスが記載される。このデバイスでは、粒子を含む流体を湾曲チャネルに供給して、湾曲チャネルを流れる流体に作用する力を利用して粒子を分離することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2017−502666号公報
【特許文献2】特表2016−526479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
抜き出した液体培地から細胞を分離する際の作業効率によって、細胞培養の経済合理性は変化し、実用化の可否が左右される。しかし、細胞のろ過分離は、分離膜の目詰まりを生じ易く、細胞を損傷し易い。分離膜の目詰まりは、液体培地に含まれる培養細胞の密度が低ければ回避可能であるので、培養槽における液体培地の細胞密度を分離膜の目詰まりを回避可能な密度に維持するという手法がとられる。しかし、この手法では、連続培養の利点である高密度での細胞培養による生産性の向上は難しくなる。従って、採算性を確保するためには、液体培地の培養細胞密度を極めて高精度に制御する必要があり、培養槽における培養条件の管理が厳格になる。
【0009】
また、連続的に培養を行う間に、増殖によって生細胞が増加するだけではなく死細胞も増加する。一般に、培養槽における培養細胞の密度が適正範囲を超えると、培養槽内の液体培地の一部をそのまま排出して、新たな液体培地の投入によって細胞の密度が調整される。この排出される液体培地は、「ブリード」と呼ばれ、ブリードに含まれる有用物質は、細胞を除去すれば、回収及び精製することが可能である。試験規模では、デプスフィルタを通してブリードから細胞を除去することが可能であるが、実用化においては、細胞の密度が高いブリードに対応可能な分離膜の規模及び費用が問題となり、ブリードは廃棄するのが実情である。
【0010】
上述の点に関し、上記特許文献1に記載される装置においては、高い周波数の波動が作用することによる細胞への物理的影響が大きい。細胞の破損によって細かい細胞片が生じると、分離がより難しくなり、回収される液体培地から有用物質を精製する作業に影響を与える、或いは、精製効率を低下させる可能性がある。
【0011】
特許文献2に記載される分離技術は、固体粒子の分離に関するものであるので、細胞培養に適用する場合には、細胞への影響を検討する必要がある。
【0012】
このように、液体培地から培養細胞を分離除去する技術は、細胞培養による有用物質の生産を実用化する上で重要である。細胞を含む液体培地から効率的に細胞を分離除去できれば、連続培養における生産性及び作業性が向上して、細胞が産生する物質の供給及び利用を広げることができる。
【0013】
本開示は、液体培地からの細胞の分離技術を通じて細胞の連続培養の実用化に寄与し、細胞が産生する有用物質を効率的に得ることが可能な細胞培養システム及び細胞培養方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、分離膜の目詰まりによる作業性の問題を解消可能な手法について検討し、流体力分離技術を利用して連続培養における効率及び作業性を改善することが可能であることを見出した。
【0015】
本開示の一態様によれば、細胞培養システムは、培養される細胞を含む液体培地を収容する培養槽と、矩形断面を有する湾曲流路を有し、前記湾曲流路を流れることによって生じる渦流れを利用して、前記培養槽から供給される液体培地を、相対的に細胞密度が高い富細胞画分と、相対的に細胞密度が低い貧細胞画分に分離する流体力分離装置と、前記流体力分離装置によって分離される貧細胞画分から細胞を除去して液体培地を回収するフィルタを有するろ過分離装置とを有することを要旨とする。
【0016】
細胞培養システムは、更に、前記流体力分離装置と前記培養槽とを接続し、前記富細胞画分を前記培養槽へ供給する第1返送路と、前記ろ過分離装置と前記培養槽とを接続し、前記貧細胞画分から除去される細胞を前記培養槽へ供給する第2返送路とを有するように構成するとよい。更に、細胞を含む液体培地の一部をブリードとして外部へ排出する排出路を有し、前記排出路は、前記第1返送路から分岐して設けられ、前記富細胞画分の一部または全部を廃棄するように構成可能である。
【0017】
また、細胞培養システムのろ過分離装置のフィルタは、デプスフィルタであってもよく、更に、前記富細胞画分をブリードとして外部へ廃棄する排出路を有するように構成可能である。そして、更に、新たな液体培地を前記培養槽に供給する培地補給路と、前記培養槽から供給される液体培地から細胞を除去して液体培地を回収するフィルタを有する追加のろ過分離装置とを有するように構成可能である。
【0018】
また、本開示の他の態様によれば、細胞培養システムは、培養される細胞を含む液体培地を収容する培養槽と、矩形断面を有する湾曲流路を有し、前記湾曲流路を流れることによって生じる渦流れを利用して、前記培養槽から供給される液体培地を、相対的に細胞密度が高い富細胞画分と、相対的に細胞密度が低い貧細胞画分に分離する流体力分離装置と、前記流体力分離装置と前記培養槽とを接続し、前記貧細胞画分を前記培養槽へ供給することによって、前記培養槽の液体培地の細胞密度を低下させる培地返送路と、前記培養槽から供給される液体培地から細胞を除去して液体培地を回収するフィルタを有するろ過分離装置とを有することを要旨とする。
【0019】
上記細胞培養システムは、更に、前記ろ過分離装置と前記培養槽とを接続し、前記ろ過分離装置によって除去された細胞を含む残部の液体培地を前記培養槽へ供給する返送路を有してもよい。前記流体力分離装置は、前記液体培地を取り入れる単一の導入口と、分離した液体培地を排出する少なくとも2つの導出口とを有し、前記導出口の1つから前記富細胞画分が排出され、もう1つの導出口から前記貧細胞画分が排出される。細胞培養システムは、更に、前記流体力分離装置へ液体培地を供給するための流動圧を液体培地に付勢する付勢装置と、前記流体力分離装置へ導入される液体培地と、前記流体力分離装置から導出される液体培地との圧力差が所定値以下になるように圧力環境を制御する圧力制御機構とを有するように構成可能である。
【0020】
又、本開示の一態様によれば、細胞培養方法は、液体培地で細胞を培養する細胞培養と、矩形断面を有する湾曲流路を流れることによって生じる渦流れを利用して、前記細胞培養から供給される液体培地を、相対的に細胞密度が高い富細胞画分と、相対的に細胞密度が低い貧細胞画分に分離する流体力分離と、前記流体力分離によって分離される貧細胞画分から、フィルタを用いて細胞を除去して液体培地を回収するろ過分離とを有することを要旨とする。
【0021】
又、本開示の他の態様によれば、細胞培養方法は、液体培地で細胞を培養する細胞培養と、矩形断面を有する湾曲流路を流れることによって生じる渦流れを利用して、前記細胞培養から供給される液体培地を、相対的に細胞密度が高い富細胞画分と、相対的に細胞密度が低い貧細胞画分に分離する流体力分離と、前記貧細胞画分を前記細胞培養へ供給することによって、前記細胞培養の液体培地の細胞密度を低下させる培地返送と、前記細胞培養から供給される液体培地から、フィルタを用いて細胞を除去して液体培地を回収するろ過分離装置とを有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、培養細胞を含む液体培地から効率的に細胞を分離除去して液体培地を回収でき、連続培養の利点を活かして効率的に細胞培養を実施可能な細胞培養システム及び細胞培養方法が提供され、細胞が産生する有用物質を効率的に得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】細胞培養システムの第1の実施形態を示す概略構成図。
図2】細胞培養システムの第2の実施形態を示す概略構成図。
図3】細胞培養システムの第3の実施形態を示す概略構成図。
図4】細胞培養システムの第4の実施形態を示す概略構成図。
図5】流体力分離装置による細胞分離におけるDe数と分離効率との関係を示すグラフ。
図6】細胞分離において使用するポンプと細胞の生存率の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示の実施形態について、図面を参照して、以下に詳細に説明する。尚、実施形態において示す寸法、材料、その他の具体的な数値等は、内容の理解を容易とするための記載であって、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。又、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能及び構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、本開示に直接関係のない要素は、図示を省略する。
【0025】
液体中に含まれる粒子を分離する分離技術の一つに、流体に発生するディーン渦の作用を利用するものがある(前記特許文献2参照。以下、この技術を流体力分離と称する)。これは、流れ方向に垂直な断面が矩形である一側に湾曲した湾曲流路を流れる液体にディーン渦が発生することによって、液体中の粒子の分布に偏りが生じることを利用した分離技術である。湾曲流路を流れる粒子は、その大きさによって流路における分布が異なる変化をする(前記特許文献2参照)。具体的には、湾曲流路の断面において輪を描くような粒子分布が形成されて、粒子は螺旋状に流路を流れ、この際、相対的に大きい粒子が輪の外側に、相対的に小さい粒子が内側に位置する。更に、所定の分離条件に設定することにより、粒子の分布形態は更に変化し、一定の大きさを超える粒子が流路の外周側へ収束する。従って、流体を外周側の画分と内周側の画分に分割すると、2つの画分には、含まれる粒子の大きさや密度に違いが生じる。つまり、外周側の画分は相対的に大きい粒子を含み、また、粒子の密度が相対的に高くなる。内周側の画分は相対的に小さい粒子を含み、また、粒子の密度が相対的に低くなる。
【0026】
湾曲流路の外周側に収束する固体粒子の大きさは、流体の供給流速(流量)、及び、湾曲流路の寸法の設定によって調整可能であるので、流体力分離は、固体粒子の大きさによる分別に利用したり、固体粒子の分離又は濃縮に利用することができる。従って、培養細胞を含んだ液体培地に流体力分離を適用すれば、細胞の大きさによる分別、及び、細胞の濃縮が実施可能であり、どちらを実施するかは、液体培地を流通させる条件設定によって決定することができる。分離条件の設定によって、液体培地に含まれる細胞の大部分を外周側の画分に濃縮することが可能である。
【0027】
本開示においては、流体力分離を適用する際に比較的高い流速で液体培地を湾曲流路に供給し、液体培地に含まれる細胞が湾曲流路の外周側へ遍在し易くなる現象を利用して、液体培地に含まれる培養細胞を濃縮し分離する。供給される液体培地が湾曲流路を流れる間に相対的に大きい細胞は湾曲流路の外周側に遍在し、流路の外周側には、相対的に細胞密度(容積当たりの細胞数)が高い富細胞画分が生じ、内周側には、相対的に細胞密度が低い貧細胞画分が生じる。つまり、液体培地は、富細胞画分と貧細胞画分とに分離し、富細胞画分において細胞が濃縮され、貧細胞画分において細胞の密度が低下する。従って、湾曲流路の出口において富細胞画分と貧細胞画分とに分割して各々分取すると、貧細胞画分は、細胞密度が低いので、目詰まりを回避しつつろ過分離を行うことが可能であり、貧細胞画分から液体培地を効率的に回収することができる。流体力分離における細胞の侵襲は少ないので、富細胞画分に含まれる細胞は、培養槽に返送して培養を継続できる。貧細胞画分のろ過分離についても、低密度でろ過分離を施すことによって細胞侵襲を軽減することができ、分離後の残部に含まれる細胞は培養槽で培養することができる。
【0028】
上述のように、流体力分離を利用して、液体培地から培養細胞を除去するろ過分離における目詰まりが解消され、液体培地に含まれる有用物質の効率的な回収が可能になる。また、流体力分離を利用して、ブリードの濃縮廃棄も可能である。つまり、培養槽の液体培地における細胞密度が所定量を超えた場合に、ブリードとして排出する液体培地を抜き出して流体力分離を施すと、細胞は富細胞画分に濃縮される。従って、細胞と共に廃棄される液体培地を減量することができる。貧細胞画分を培養槽に返送することによって、培養槽における細胞密度を所定量に低下させることができる。或いは、貧細胞画分は、ろ過分離の適用が可能な細胞密度で得ることができるので、デプスフィルタの適用が容易になり、液体培地を濾取することによって有用物質を回収できる。
【0029】
以下に、細胞培養システムの構成について、図1に示す第1の実施形態を参照して説明する。図1の細胞培養システム1は、培養される細胞を含む液体培地を収容する培養槽2と、流体力分離装置3と、ろ過分離装置4とを有する。培養槽2の液体培地Cは、送液部5を通じて流体力分離装置3へ供給される。
【0030】
流体力分離装置3は、流れ方向に垂直な一定の矩形断面を有する湾曲流路を内部に有し、湾曲流路の一端において液体培地Cを取り入れる単一の導入口31と、湾曲流路の他端において液体培地を分離して排出する少なくとも2つの導出口32,33とを有する。流体力分離装置3は、湾曲流路を流れることによって一方向に旋回する液体に生じる渦流れを利用して、液体培地Cに含まれる細胞を流路の外側(外周側)に遍在させる。従って、湾曲流路から排出される液体培地を、外周側の画分と内周側の画分とに分割することによって、相対的に細胞密度が高い富細胞画分と、相対的に細胞密度が低い貧細胞画分に分離される。1つの導出口32から相対的に細胞密度が高い液体培地が排出され、もう1つの導出口33から相対的に細胞密度が低い液体培地が排出される。
【0031】
流体力分離装置3の湾曲流路の湾曲形状は、略円周状、略円弧(部分円周)状、螺旋状等が挙げられ、これらの形状の何れであってもよい。流体力分離装置3は、1つの湾曲流路を有する流路ユニットを構成単位として設計することができる。具体的には、流路ユニットとして、内部に1つの湾曲流路が形成された平層状の成形体をプラスチック等で形成し、その際に、湾曲流路の両末端が成形体の端面に開口して1つの導入口と少なくとも2つの導出口を有するように構成する。このような成形体を流路ユニットとして用いて、1つの流路ユニット、又は、複数の流路ユニットの組み合わせによって流体力分離装置を構成することができる。複数の流路ユニットを積層して並列状の流路を構成することによって、液体培地の処理流量を高めることができる。
【0032】
送液部5は、培養槽2と流体力分離装置3とを接続する配管で構成される供給路6を有し、培養槽2の細胞を含む液体培地Cは、供給路6を通じて流体力分離装置3へ送られる。図1の細胞培養システム1は、流体力分離装置3の導出口32と培養槽2とを接続する配管を有し、これによって、富細胞画分を培養槽2へ返送する第1返送路が構成される。供給路6と第1返送路7とによって、培養槽2と流体力分離装置3との間で液体培地を循環可能な循環システムが形成される。
【0033】
流体力分離装置3によって分離される富細胞画分は、第1返送路7を通じて培養槽2に返送されて、更に細胞培養が継続される。貧細胞画分(内周側の画分)は、流体力分離装置3から供給路8を通じてろ過分離装置4へ供給される。
【0034】
ろ過分離装置4は、液体培地を取り入れる単一の導入口41と、液体培地を分離して排出する少なくとも2つの導出口42,43とを有し、液体培地から細胞を分離可能なフィルタを内部に有する。供給路8は、導入口41に接続され、流体力分離装置3から貧細胞画分が供給される。貧細胞画分は、フィルタを透過する液体培地C1と、残部の液体培地とに分離され、フィルタによって除去された細胞は、残部の液体培地に濃縮されて、細胞密度が増加する。フィルタを透過した液体培地C1は、導出口42から排出され、残部の液体培地は、導出口43から排出される。液体培地は、培養細胞が産生した有用物質を含むので、導出口42から排出される液体培地C1は、有用物質を回収するための分離処理及び精製処理が必要に応じて施される。
【0035】
本開示においては、流体力分離装置によって細胞密度が低下した液体培地がろ過分離装置4に供給される。従って、ろ過分離装置4として、一般的に培養細胞の分離に利用されるろ過分離装置を好適に使用でき、目詰まりを回避しつつ、良好に液体培地を回収することができる。細胞侵襲の防止の観点から、クロスフローろ過方式のろ過分離装置が適しており、フィルタモジュールの構造として、多層プレート構造、螺旋状シート構造、中空糸束構造等が挙げられる。細胞を分離するフィルタとしては、適切な孔径を有し、細胞の処理に適した素材の各種フィルタから選択して使用することができ、フィルタの種類として、精密ろ過膜、限外濾過膜等の分離膜が挙げられる。孔径が0.01〜10μm程度の精密ろ過膜は、細胞の除去に好適であり、孔径が0.2〜0.45μm程度の精密ろ過膜をフィルタとして使用すると、効率的に細胞を分離することができる。表面に親水化処理を施したフィルタを用いると、細胞の損傷や目詰まりを抑制し易い。必要に応じて、孔径が異なる複数のフィルタを用いてもよく、多段階の分離に構成されたものであってもよい。この際に、細胞培養によって生じる代謝物、老廃物の微小凝縮物、死細胞片(デブリ)等を液体培地から除去することも可能であり、除去対象に応じて、例えば精密濾過膜、限外濾過膜等から適切な孔径のものを選択することができる。
【0036】
細胞培養システム1は、ろ過分離装置4の導出口43と培養槽2とを接続する配管を有し、これによって、貧細胞画分から除去される細胞を培養槽2へ供給する第2返送路9が構成される。この実施形態において、第2返送路9は、第1返送路7と合流して循環システムの一部を構成するが、第1返送路7とは合流せずに単独で培養槽2へ供給するように構成してもよい。
【0037】
更に、ろ過分離装置4から排出される液体培地C1の量に対応する新たな液体培地C0を培養槽2に補充するために、培地補充部10が備えられており、培養槽2内の液体培地Cは、新たな液体培地C0の補充によって、一定量に維持される。
【0038】
流体力分離装置3における細胞の分離効率は、湾曲流路に供給される液体におけるDe数及び圧力によって変化し、好適な分離が可能なDe数及び圧力の適正な範囲が存在する。ディーン数Deは、式:De=Re(D/2Rc)1/2、で表される(Re:レイノルズ数(-)、D:代表長さ(m)、Rc:流路の旋回半径(m))。De数は、液体の流速に比例するので、流体力分離装置に供給される液体の流速及び圧力を適正に制御することによって、好適な細胞分離が実施される。概して、De数が30以上且つ100以下であることが好ましく、50〜80程度であると更に好ましい。従って、このような範囲のDe数になるように液体培地の流速(流量)が設定される。
【0039】
細胞培養システム1の送液部5は、流体力分離装置3へ液体培地Cを供給するための流動圧を液体培地Cに付勢する付勢装置、具体的には、ポンプ11を有する。ポンプ11が付与する流動圧によって、液体培地Cが流体力分離装置3へ供給される流量及び流圧は変化する。分離された細胞を培養槽2に返送して細胞培養を継続する上で、細胞の生存率は重要である。この点に関して、細胞の生存率は、流体力分離装置3における分離の間の圧力変動の大きさによって変化する。つまり、生存率の低下を防止するには、細胞分離における圧力変動を少なくすることが有効である。従って、この点に基づいて、送液部5が液体培地Cを流体力分離装置3に流通させる圧力環境は、流体力分離装置3を流通する間の液体培地における圧力変動による細胞生存率の低下が抑制されるように制御される。
【0040】
従って、送液部5は、圧力制御機構を有し、これにより、流体力分離装置3へ導入される液体培地と、流体力分離装置3から導出される液体培地との圧力差が所定値以下になるように圧力環境を制御する。圧力制御機構は、圧力計及び圧力調整弁を用いて構成することができる。具体的には、図1の細胞培養システム1においては、圧力計12及び圧力調整弁13が供給路6上に設けられる。
【0041】
動物細胞は、比較的高圧下でも耐性を有し、例えば、1MPa程度の加圧供給においても細胞の生存率は維持される。しかし、圧力変動が大きいと、0.6MPa程度の供給圧力(入口圧力)でも、細胞のダメージが大きく、生存率が低下する。従って、流体力分離中に細胞に加わる圧力の変動(入口圧力と出口圧力との差)が所定値以下となるように液体培地の供給を制御するとよい。具体的には、圧力変動(圧力差)が0.60MPa未満になるように制御され、好ましくは0.45MPa以下、より好ましくは0.40MPa以下となるように設定される。上記のように圧力変動が抑制された分離条件においては、細胞の生存率は98%程度以上に維持することができるので、濃縮分離された細胞を培養槽に返送して増殖効率を維持することができる。
【0042】
細胞培養システム1において、流体力分離装置3の導出口32,33における導出側圧力は大気圧に開放されるので、導入される液体培地と導出される液体培地との圧力差は、圧力計12によって測定される圧力(ゲージ圧)に等しい。従って、この測定値に基づいて圧力制御を行える。分離中の細胞における生存率の低下を防止するために、圧力差が0.60MPa未満になるように圧力環境は制御され、好ましくは、0.45MPa以下、より好ましくは0.40MPa以下になるように制御される。
【0043】
流体力分離装置3から排出される液体培地における圧力が高ければ、流体力分離装置3へ導入される液体培地に適用可能な圧力範囲の上限は高くなる。従って、流体力分離装置3へ導入される液体培地に加わる圧力が0.6MPa以上になる条件設定に対しても、液体培地の導入時と排出時の圧力差を減少させて対応することが可能である。つまり、第1返送路7及び供給路8に圧力調整弁を設け、流体力分離装置3の導出口32,33から排出される液体培地における出口圧力を増加させて、圧力差を減少させればよい。この場合、第1返送路7及び供給路8に圧力計を設置して、適切な圧力差になるように排出圧力を監視すると好適である。この際、第1返送路7を流れる液体培地についても急激な圧力変動が生じないように圧力環境を確認することが望ましい。但し、第1返送路7及び供給路8における圧力は、ろ過分離装置4の分離処理に適した範囲を考慮して設定される。
【0044】
前述したように、流体力分離装置3における分離効率は、湾曲流路を流通する液体培地の流速に依存する。従って、送液部5は、更に、流体力分離装置3へ供給される液体培地の流量を制御する流量制御機構を有し、流体力分離装置3の湾曲流路を流通する液体培地が適正な流速になるように、供給路6を流通する液体培地の流量が制御される。流量制御機構は、流量計14と、流量調整弁15とによって構成される。流量計14は、流体力分離装置3へ供給される液体培地Cの流量を監視し、流量調整弁15は、流量計14によって監視される流量に基づいて、流体力分離装置3へ供給される液体培地Cの流量を調整する。ろ過分離に適した細胞密度の液体培地がろ過分離装置に供給されるように、流体力分離装置3へ供給される液体培地の流量が調整される。
【0045】
細胞培養システム1において、流体力分離装置3へ供給する液体培地の流量をポンプ11の駆動制御によって適正に調整可能である場合、流量調整弁15を省略することが可能である。また、流体力分離装置3へ供給する液体培地の供給圧力をポンプ11の駆動制御によって適正に調整可能である場合、圧力調整弁13を省略可能である。従って、流体力分離装置3における処理能力(流路断面の大きさ及び流路数)に基づいて、供給路6及び第1返送路7の寸法を適正に設計することによって、細胞培養システムの構成を簡略化することができる。
【0046】
細胞培養システム1の培地補充部10は、新たな液体培地C0を収容する培地タンク16、及び、培地タンク16と培養槽2とを接続する培地補給路17を有する。培地タンク16の新たな液体培地C0を培養槽2に補充して、培養槽2内の液体培地を一定量に維持する。つまり、ろ過分離装置4から回収される液体培地C1の量に対応する量の新たな液体培地C0が、培地タンク16から培地補給路17を通じて補充される。このために、図1の細胞培養システム1においては、培地補充部10は、培養槽2に設置される液面計18と、培地補給路17に設置される流量調整弁19とを有する。液面計18が検出する液面レベルに応じて、流量調整弁19が制御され、培養槽2の液体培地の液面が一定に維持されるように、培地タンク16に付設されるローラーポンプ20によって供給される液体培地C0の量が調整される。流体力分離装置3及びろ過分離装置4から培養槽2へ返送される液体培地の量は、ろ過分離装置4から回収される液体培地C1の分だけ減少しているので、培養槽2内の液面を維持することで、回収した液体培地C1に対応した補充がなされる。
【0047】
液面計の代わりに、培養槽2の重量を測定する重量計を用いても、このような補充を行うことができ、重量が一定に維持されるように新たな液体培地を補充すればよい。或いは、ろ過分離装置4から回収される液体培地の重量又は流量を測定する計測器を用いてもよい。又は、培養槽2に返送される第1返送路7の富細胞画分の量、及び、ろ過分離装置4から返送される第2返送路9の液体培地の量を測定する計測器(流量計)を用いてこのような補充を行ってもよい。
【0048】
培養槽2及び培地タンク16は、微生物汚染を防止可能な容器である。これらは、各々、ヒーター又は冷却器、及び、温度調節機能が装備されたものが使用され、内部の液体培地は、細胞培養又は保管に適した温度に維持される。培養槽2は、細胞を損傷しない適切な速度で攪拌可能な攪拌装置を備え、液体培地を均一化する。又、必要に応じて、培養する細胞に適した培養環境に調整可能なように、酸素/二酸化炭素/空気の量、pH、導電率、光量等の調整機能を備えたものを適宜利用すればよい。
【0049】
培養槽2には、増殖した細胞を含む液体培地をブリードとして外部へ排出する排出路21が接続され、培養槽2の液体培地において細胞が過度に増殖した場合に、液体培地の一部を排出路21から外部に排出する。この排出量に対応して新たな液体培地C0を培地タンク16から供給し、培養槽2内の液体培地の量を所定量に維持することによって、液体培地の細胞密度は低下する。排出路21には開閉弁22が設けられ、この開閉によってブリードの排出量を調整できるので、培養槽2における液体培地の細胞密度を適正量に調節することができる。細胞培養システム1においては、ろ過分離装置4において分離処理を施す液体培地は、流体力分離装置3において細胞密度が低下した貧細胞画分であるので、培養槽2における液体培地の細胞密度は、ろ過分離に適した液体培地の細胞密度より高くてもよい。つまり、流体力分離装置における分離効率を勘案して、培養槽2における液体培地の細胞密度の上限を高く設定することができる。従って、ブリードとして排出される液体培地の細胞密度も高くなり、ブリードの廃棄による液体培地の損失は少なくなる。ブリードの抜き出しは、細胞の生存率が低下した時に定期的に行うことで生存率の改善が可能であるので、ブリードとして排出される液体培地の減量は、非常に有用である。
【0050】
前述のように、細胞培養システムにおいては、細胞の生存率を好適に維持するために、流体力分離装置3へ供給される液体培地の圧力環境が制御される。細胞の生存率は、細胞を含んだ液体培地に流動圧を供給するポンプ11による影響も受けるので、細胞の生存率を維持する上で好適な送液手段をポンプ11として選択することが好ましい。細胞の生存率への影響を抑制するには、細胞に剪断応力を加えない方式のポンプであることが好ましく、具体的には、往復動又は回転動による容積変化を利用して一定容積の液を押し出す容積式ポンプを使用するとよい。容積式ポンプとしては、例えば、ピストンポンプ、プランジャポンプ、ダイヤフラムポンプ、ウィングポンプ等の往復ポンプ、歯車ポンプ、ベーンポンプ、ねじポンプ等の回転ポンプが挙げられる。一実施形態として、コンプレッサを付設した加圧タンクを利用するものが挙げられ、加圧タンクに収容した液体培地にコンプレッサで加圧することによって、加圧タンクから流体力分離装置へ液体培地を圧送することができる。
【0051】
流体力分離装置における細胞の濃縮状態及び分取比率は、出口における導出口の分割位置によって異なる。つまり、湾曲流路の末端出口における導出口の分割位置の設計によって、外周側の画分と内周側の画分との分割比率を調整できる。図1の細胞培養システムにおいて、流体力分離装置は、湾曲流路の出口として、2つの導出口を有するが、3つ以上の導出口に分割してもよい。末端出口を3つ以上の導出口に分割した場合、培養槽に返送する画分の量、及び、ろ過分離装置に供給する画分の量を状況に応じて変更することが可能である。
【0052】
上述のような細胞培養システム1において実施可能な細胞培養方法について、以下に記載する。細胞培養方法は、液体培地で細胞を培養する細胞培養工程と、湾曲流路を利用する流体力分離工程と、フィルタを利用するろ過分離工程とを有する。細胞培養工程は、培養槽2において行われ、流体力分離工程は、流体力分離装置3において実施される。ろ過分離工程は、ろ過分離装置4で実施される。流体力分離工程においては、矩形断面を有する湾曲流路を流れることによって生じる渦流れを利用して、細胞培養工程から供給される液体培地を富細胞画分と貧細胞画分に分離する。富細胞画分は、相対的に細胞密度が高く、貧細胞画分は、相対的に細胞密度が低い。ろ過分離工程においては、流体力分離工程によって分離される貧細胞画分から、細胞を除去して液体培地を回収する。
【0053】
細胞培養工程では、培養細胞に適した環境に調整された液体培地中で細胞培養を開始し、培養中、液体培地のグルコース濃度及び細胞密度を監視する。培養が進行するに従って、グルコースが消費され、細胞が増殖して細胞密度が増加する。それに伴って、細胞が産生する抗体などの有用物質は増加する。細胞培養工程におけるグルコース濃度が所定濃度、例えば、1g/Lを下回り始めたら、新たな液体培地を連続的に供給する。この際、グルコースの枯渇及び過剰にならない所定濃度以下の範囲に収まるように供給を調節する。これと共に、ポンプ11を作動させて、流体力分離工程及び後続のろ過分離工程への液体培地の供給を開始すると、細胞密度が増加した液体培地が流体力分離工程及びろ過分離工程から返送される。ろ過分離工程から回収される液体培地が所望の濃度の有用物質を含んでいる場合は、回収して有用物質の分離精製が施される。この間に、ろ過分離工程から回収される液体培地の量と、培養工程に供給される新たな液体培地の量が対応するように、流体力分離工程への供給が制御される。
【0054】
ろ過工程から回収される液体培地の有用物質の濃度が低い場合は、そのグルコース濃度等を考慮して、廃棄、又は、培養槽2に供給して再利用してもよい。例えば、培養槽に必要な新たな液体培地の供給流量が低く、流体力分離工程における定格流量を維持して連続処理すると培養槽における液体培地の量を一定に維持できない場合は、流体力分離工程への供給を間欠的に行ってもよい。それにより、流体力分離工程における定格流量を維持して好適に分離を行いつつ、培養槽の液体培地量を維持することができる。間欠的な流体力分離を行う場合、流体力分離工程への供給の切り換え頻度を高めて断続を細かく行うと、培養槽の液体培地における濃度変動を抑制する上で有効である。
【0055】
細胞培養工程における液体培地が所定の細胞密度に達したら、増殖による細胞密度の増加予測に基づいて、余分量の細胞をブリードとして排出すると共に、新たな液体培地の供給量を調整して、培養槽内の液体培地の液量及び細胞密度を所定量に維持する。
【0056】
細胞密度の計測は、液体培地のサンプリングによる計測であっても、細胞計測装置の検出器による直接計測であってもよい。細胞培養システム1においては、ろ過分離工程に供給される液体培地は、流体力分離によって得られる貧細胞画分であるので、細胞培養工程における液体培地の細胞密度は、ろ過分離に適した液体培地の細胞密度より高く設定できる。ろ過分離に適した細胞密度は、使用するフィルタ等によっても異なるが、概して、5×10細胞/mL程度としてよく、流体力分離における分離を考慮して、これより高い細胞密度を所定量として設定することができる。このため、ブリードとして排出される液体培地量を削減できる。
【0057】
尚、湾曲流路を流通する間の液体培地における圧力変動によって細胞生存率が低下しないように、圧力計12及び圧力調整弁13を用いて液体培地の供給圧力が制御される。この際、流体力分離における圧力変動(圧力差)が0.60MPa未満、好ましくは0.45MPa以下、より好ましくは0.40MPa以下となるように調節される。
【0058】
流体力分離工程において、細胞を含む液体培地は、矩形断面を有する湾曲流路へ単一の導入口から導入され、均一な状態で湾曲流路に供給される。流体力分離装置の湾曲流路は、流れ方向に垂直な断面(径方向断面)が矩形の流路である。均一な液体培地が湾曲流路を流れる間に、相対的に小さい細胞及び微細粒子は、ディーン渦に載って、矩形断面において輪を描くように分布が変化する一方、相対的に大きい細胞は、流路の外周側に滞留する揚力が比較的強く作用して、分布が外周側に集中する。この作用が強くなると、細胞の外周側への遍在傾向が大きくなる。湾曲流路の末端において、外周側の導出口32から相対的に細胞密度が高い富細胞画分、つまり、細胞が濃縮された液体培地が排出される。内周側の導出口33からは、残部の液体培地、つまり、細胞が減少して相対的に細胞密度が低い貧細胞画分が排出される。
【0059】
前述の式で示したように、De数は、湾曲流路の旋回半径Rc及び流路の断面寸法によって変化する(前述の式における代表長さDは、湾曲流路の幅と見なすことができる)。従って、湾曲流路の設計に基づいてDe数が好適な値になるように調整することができ、それによって、流体力分離装置は、細胞の濃縮分離を良好な分離効率で実施することができる。又、流体の流量は、湾曲流路の断面の幅(径方向)及び高さの何れかの設定によって調節可能であるので、湾曲流路の設計に基づいて、適正な圧力及び所望の流量で細胞の分離処理を実施可能なように流体力分離装置を構成することができる。従って、湾曲流路の設計は、分離対象の条件(細胞の寸法分布、培地の粘度等)に応じて、好適な分離が可能なように適宜変更可能である。細胞の分離効率の観点から、アスペクト比(幅/高さ)が10以上の長方形の断面を有する湾曲流路であると好適である。このような湾曲流路に、液体培地を100〜500mL/分程度の流量で供給することによって、細胞が良好に遍在し、50億〜250億細胞/分程度の効率で細胞の濃縮分離を行うことができる。このような流体力分離を、例えば、5×10細胞/mL程度の液体培地に適用すると、細胞密度が7×107細胞/mL程度以上の富細胞画分と、1×107細胞/mL程度以下の貧細胞画分とに分離することができる。
【0060】
流体力分離装置の湾曲流路の末端出口における導出口の分割位置によって、外周側の富細胞画分と内周側の貧細胞画分との分割比率を調整でき、これに基づいて細胞の濃縮分離の程度を調整することができる。概して、外周側画分/内周側画分の分割比率(容積比)が、90/10〜50/50程度になるように流路出口における断面積比を設計すると、上述のような細胞の濃縮分離に好適であり、細胞の95%程度以上を富細胞画分に濃縮するような分離が可能である。流体力分離工程から排出される富細胞画分は、培養槽における細胞培養工程に返送され、貧細胞画分は、ろ過分離工程に供給される。大きい細胞は、小さい細胞に比べて生存率及び活性が高く、富細胞画分は大きい細胞を相対的に多く含む。従って、富細胞画分を細胞培養工程に返送して細胞培養工程と流体力分離工程との間で液体培地が循環すると、細胞の培養効率が高まる。
【0061】
ろ過分離工程においては、細胞を透過させない孔径のフィルタが使用され、フィルタを透過した液体培地C1が回収される。精密濾過膜は、概して、孔径が0.01〜10μm程度であり、細胞の分離除去に適している。孔径が0.2〜0.45μm程度であると、細胞と、タンパク質や多糖類などの物質との分離が良好である。細胞のろ過分離では、膜面に平行に液体培地を流通させるクロスフローろ過方式の適用が好適である。液体培地C1を回収した残部の液体培地には、フィルタによって除去された細胞が濃縮されるので、残部の液体培地における細胞密度は、貧細胞画分より高くなる。残部の液体培地は、細胞培養工程に返送されて培養が継続される。ろ過分離においては、ろ過圧力及び剪断応力による細胞損傷を考慮して、貧細胞画分の供給流量及び供給圧力が適正に調整される。貧細胞画分の細胞密度は低いので、ろ過における負荷が小さく、目詰まりは解消される。
【0062】
フィルタを透過して回収される液体培地C1は、有用物質の分離精製のための処理が必要に応じて施される。これにより、細胞培養によって生じる代謝物、老廃物の微小凝縮物、死細胞片(デブリ)等が液体培地から除去される。このような分離精製の一部を行う目的で、孔径が異なる複数のフィルタを用いる多段階の分離にろ過分離工程を構成してもよい。例えば、孔径が0.001〜0.01μm程度の限外ろ過膜は、アミノ酸、ペプチド、糖類、抗生物質等を透過させ、高分子、タンパク質、多糖類等を除去することができる。
【0063】
ろ過分離工程において透過液として回収される液体培地の分だけ、流体力分離工程及びろ過分離工程から培養工程に返送される液体培地の総量が減少する。従って、この量に対応する新たな液体培地C0が培養工程に補充されるように液体培地C0の供給量を調整する。これにより、細胞が使用する栄養素が継続的に補充されて代謝物の濃度が希釈され、連続的に培養を行うことができる。
【0064】
流体力分離工程及びろ過分離工程から細胞培養工程に細胞が返送され、細胞培養が継続される。培養槽内の液体培地の細胞密度は監視され、液体培地の細胞密度が所定量に維持されている状態では、培地タンクから供給される新たな液体培地C0の量は、ろ過分離工程から回収される液体培地の量に相当する。細胞が過度に増殖して細胞密度が所定量を超える状態では、細胞密度の調整のために液体培地Cの一部がブリードとして排出されるので、これに対応して新たな液体培地C0の供給量が増加する。このようにして、培養槽2内の液体培地の量は一定に維持され、液体培地の細胞密度は所定量に低下する。ブリードの排出量は、細胞の増加予測に基づいて決定することができ、細胞密度の監視結果に基づいて、所定量に維持されるように適宜修正するとよい。培養槽2における液体培地の細胞密度は、ろ過分離に適した液体培地の細胞密度より高く設定することができ、流体力分離における分離程度を考慮して、培養槽における細胞密度の所定量を決定するとよい。従って、ブリードとして排出される液体培地の細胞密度も高くなり、ブリードの廃棄による液体培地の損失は少なくなる。所望の培養時間が経過したら、適宜培養を停止してよく、通常、10〜30日程度、培養を継続することができる。
【0065】
流体力分離によって得られる富細胞画分における細胞密度は、培養槽における液体培地の細胞密度より高い。従って、富細胞画分は、ブリードとして廃棄するものとして好都合である。細胞培養システムの第2の実施形態として、富細胞画分をブリードとして排出するように構成した細胞培養システムを図2に示す。
【0066】
図2の細胞培養システム50においては、ブリードを排出するための排出路21aは、培養槽2ではなく、流体力分離装置3から富細胞画分を排出する第1返送路7から分岐するように設けられる。排出路21aには開閉弁22aが設置され、培養槽2における液体培地の細胞密度が所定量を超えた時に富細胞画分を廃棄するように開閉弁22aが制御される。或いは、開閉弁22aの代わりに流量調整弁を設置して、ブリードとして排出する富細胞画分の割合の調節及び変更が可能なように構成してもよい。このようにして、流体力分離装置から排出される富細胞画分の一部又は全部をブリードとして排出路21aから排出することができる。
【0067】
流体力分離装置3では、分離効率が最大になるような最適な作動流量(定格流量)が存在する。従って、ブリードとして排出すべき流量が少ない場合、排出路21aからの富細胞画分の排出を間欠的に行うように開閉弁22aを制御することで対応できる。或いは、流体力分離装置3の作動自体を間欠的に行うことも可能である。ブリードの排出に対応して新たな液体培地が培養槽2に供給されるので、培養槽2における液体培地の液質が変動する。従って、間欠的なブリード排出の場合、培養槽2の液体培地の液質の変動が可能な限り少なくなるように、切り替え頻度を高くして細かく調節するとよい。細胞培養システム50は、ブリードを排出するための構成以外は、図1の細胞培養システム1と同じであるので、同一の装置及び部材に関する説明は省略する。
【0068】
図1及び図2の実施形態は、有用物質を含む液体培地を回収するろ過分離に流体力分離を組み合わせるように構成されており、ろ過分離における負荷が軽減される。流体力分離は、廃棄されるブリードに関するろ過分離と組み合わせても有効であり、ろ過分離における負荷が同様に軽減され、液体培地の回収に要する費用削減が可能である。細胞培養システムの第3の実施形態として、ブリードの排出において流体力分離を利用するように構成した細胞培養システムを図3に示す。この実施形態では、ろ過分離装置のフィルタとしてデプスフィルタを利用して、ブリードから液体培地を回収し、培養中の細胞を含む液体培地から細胞を除去して液体培地を回収するために追加のろ過分離装置が用いられる。
【0069】
詳細には、図3の細胞培養システム51は、培養槽2、流体力分離装置3、ろ過分離装置4、培地補充部10及びデプスフィルタ52を有する。細胞培養システム51は、流体力分離装置3がブリードを排出する排出路21bに設置されてデプスフィルタ52に接続される点において、図1の細胞培養システム1と異なる。ろ過分離装置4は、培養槽2と直接接続される。
【0070】
培養槽2における液体培地の細胞密度が所定量を超える時、ブリードとして排出される液体培地Cが、ポンプ11の作動によって、培養槽2から排出路21bを通じて流体力分離装置3の導入口31に供給される。ブリードの排出は、細胞の増加予測に基づいて設定することができ、培養槽2における細胞密度の監視によって適宜修正可能である。流体力分離装置への液体培地の供給は、図1,2の細胞培養システムと同様に、圧力調整弁13及び流量調整弁15によって制御され、圧力計12及び流量計14を用いて適正な流量(定格流量)及び圧力に調整することができる。適正な流量でブリードを供給するために、状況に応じて連続供給又は間欠供給が行われる。流体力分離装置3において、液体培地Cは、富細胞画分と貧細胞画分とに分離される。流体力分離装置3の導出口33は、供給路53を通じてデプスフィルタ52に接続され、貧細胞画分がデプスフィルタ52に供給される。尚、この実施形態においては、一時的に貧細胞画分C’を貯留するために、微生物汚染を防止可能な容器54が供給路53に設けられ、デプスフィルタ52への供給を調整可能に構成されている。しかし、容器54は省略してもよい。
【0071】
デプスフィルタ52は、細胞密度が低い貧細胞画分C’をろ過するので、目詰まりが生じ難く、フィルタの処理容量についても対応し易い。従って、培養槽2から供給される液体培地の貧細胞画分C’から細胞を除去して効率的に液体培地を回収することができる。流体力分離装置3は、導出口32に接続される排出路55を有し、富細胞画分は、ブリードとして排出路55から外部へ廃棄される。細胞は富細胞画分側に濃縮されるので、ブリードとして廃棄される液体培地の量は削減される。
【0072】
一方、ろ過分離装置4の導入口41及び導出口43は、供給路56及び返送路57によって培養槽2と直接接続される。培養槽2内の液体培地Cは、ポンプ58の作動によってろ過分離装置4へ連続的に供給され、フィルタを透過した液体培地C1が導出口42から回収される。細胞密度が増加した液体培地が、導出口43から返送路57を通じて培養槽2へ返送される。液体培地Cが培養槽2とろ過分離装置4とを循環することにより、液体培地の細胞密度及び有用物質の濃度は、培養開始時の値から増加する。培養初期においては、液体培地Cの有用物質の濃度が低く、グルコース等の栄養素が枯渇していないので、ろ過分離装置4から回収される液体培地C1は、培養槽2へ供給して再利用してよい。これにより、液体培地の消費を抑制することができる。
【0073】
細胞培養システム51においては、培養槽2内の液体培地Cは、ろ過分離装置4へ直接供給される。従って、ろ過分離に適した細胞密度の液体培地Cを供給するために、培養槽2における液体培地Cの細胞密度は、ろ過分離に適した細胞密度が適正量となり、これを所定量として培養槽2の液体培地が監視される。従って、培養槽2からブリードとして排出される液体培地を、そのまま廃棄せずに、流体力分離及びデプスフィルタ52を通じて回収する構成は、液体培地が無駄に廃棄されるのを抑制する上で有用である。デプスフィルタは、表面だけでなく内部でもろ別対象を捕捉するフィルタであるが、構造的には、孔径が異なる複数種のフィルタ又は分離膜の組み合わせと見なすことができる。
【0074】
図3の細胞培養システム51においては、ろ過分離装置4の導出口42から液体培地C1が連続的に回収され、ブリード排出の処理として、デプスフィルタ52から液体培地C2が断続的に回収される。液体培地C1の回収量及びブリード排出量に対応して、培地補充部10の培地タンク16から新たな液体培地C0が培地補給路17を通じて補充され、培養槽2の液体培地量が維持される。余剰の細胞は、流体力分離による富細胞画分及びデプスフィルタ52のろ過物として得られる。培養槽2の細胞増殖が盛んな状態で排出されるブリードは、有用物質を豊富に含むので、デプスフィルタ52による液体培地C2の回収は、有用物質の回収率を高める上で有用である。この点に関して、図1の細胞培養システム1では、培養槽2における液体培地の細胞密度が高く設定できるので、細胞培養システム1においてブリードから液体培地を回収すると、有用物質の回収効率の向上に有利である。従って、流体力分離とろ過を利用してブリードから液体培地を回収する図3の構成を、図1の細胞培養システム1に組み込むと、液体培地の廃棄量削減及び有用物質の回収効率の向上の点において非常に有効である。
【0075】
図4に、細胞培養システムの第4の実施形態を示す。この実施形態においても、ブリードの排出において流体力分離を利用する。但し、図4の細胞培養システム60においては、流体力分離によって得られる貧細胞画分を培養槽2へ返送する培地返送路が設けられる。つまり、貧細胞画分のろ過分離は行わず、貧細胞画分を用いて培養槽の液体培地の細胞密度を低下させる。
【0076】
詳細には、図4の細胞培養システム60は、培養槽2、流体力分離装置3、ろ過分離装置4、及び、培地補充部10を有する。培養槽2は、培養される細胞を含む液体培地を収容し、流体力分離装置3は、前述と同様に、矩形断面を有する湾曲流路を流れることによって生じる渦流れを利用して、液体培地の分離処理を行う。つまり、培養槽2からブリードとして供給される液体培地を、相対的に細胞密度が高い富細胞画分と、相対的に細胞密度が低い貧細胞画分に分離する。流体力分離装置3への液体培地の供給は、図1〜3の細胞培養システムと同様に、圧力調整弁13及び流量調整弁15によって制御され、圧力計12及び流量計14を用いて適正な流量(定格流量)に調整することができる。
【0077】
ろ過分離装置4は、細胞培養システム51と同様に、供給路56及び返送路57によって培養槽2と直接接続され、培養槽2から連続的に供給される液体培地から細胞を除去して、フィルタを透過する液体培地C1を回収する。フィルタによって除去された細胞を含む残部の液体培地は、培養槽2に返送される。従って、図3の場合と同様に、培養槽2における液体培地の細胞密度は、ろ過分離に適した範囲に調整される。
【0078】
流体力分離装置3は、ブリードを排出する排出路21bに設置され、培養槽2における細胞の増殖状況に応じて、ブリードとして排出される液体培地が、ポンプ11の作動によって流体力分離装置3へ供給される。流体力分離装置への液体培地の供給は、図1〜3の細胞培養システムと同様に、圧力調整弁13及び流量調整弁15によって制御され、圧力計12及び流量計14を用いて適正な流量(定格流量)及び圧力に調整することができる。流体力分離装置3において分離される液体培地の富細胞画分は、導出口32に接続される排出路55から廃棄される。他方、流体力分離装置の導出口33は、返送路61によって培養槽2と接続され、貧細胞画分は、返送路61を通じて培養槽2へ供給される。これによって、培養槽2の液体培地の細胞密度は低下する。この構成において、ブリード排出に伴う液体培地の減量は、排出路55から廃棄される富細胞画分の量に相当する。従って、培養槽2の液体培地量を維持するために必要な新たな液体培地C0の補充量は、図3の細胞培養システム51に比べて減少し、その減少分は、貧細胞画分の量に相当する。従って、細胞培養に消費される液体培地の量がむやみに増加するのを抑えることが可能な構成である。また、新たな液体培地の代わりに貧細胞画分を培養槽2に供給することによって、培養槽2における有用物質の濃度低下を抑制しつつ、液体培地の細胞密度を所定量に維持することができる。従って、ろ過分離装置4から回収される液体培地は、有用物質を分離精製する効率等の点で有利になる。
【0079】
上述の実施形態の構成は、複数の流体力分離装置を用いるように変更してもよい。複数の流体力分離装置を直列に配置すると、多段階に液体培地を分離することができる。例えば、2つの流体力分離装置を直列に配置して、1段目の流体力分離装置から排出される富細胞画分を2段目の流体力分離装置に供給すると、更に高密度に細胞が濃縮された富細胞画分を得ることができる。これは、ブリードの排出に適用すると有用性が高く、より高密度に濃縮された細胞を廃棄することができる。また、2段目の流体力分離装置に貧細胞画分を供給すると、更に細胞密度が低下した貧細胞画分が得られるので、ろ過分離の効率を高めることができる。2段階の流体力分離によって、液体培地は3つの画分に分離されるので、各段における分割比率を適切に調節することによって、各画分の目的を、廃棄、再利用又は液体培地の回収に特化した分離を実施可能である。また、複数の流体力分離装置を並列に配置すると、液体培地の処理流量を増加させることができるので、定格流量を超えた流量での処理が可能である。
【0080】
細胞は、活性が高い状態においては大きく生育するが、活性が低下すると、比較的小さい状態で死滅し分解する。相対的に小さい細胞の多くは、死細胞又は死細胞片(デブリ)であり、DNA合成途中の活性な細胞が含まれる割合は少ない。流体力分離は、液体培地を流通させる条件によって相対的に大きな粒子と小さい粒子とを分別することが可能である。従って、単一の処理で、活性が高い細胞と、死細胞又は死細胞片とに分離できるが、上述の多段階に構成した流体力分離を利用すると分離が容易になる。従って、死細胞及び死細胞片や、代謝物の凝縮物が濃縮された画分を分取してブリードとして廃棄することも可能である。供給する液体培地の流速(流量)、及び、湾曲流路における断面の大きさの設定によって、分離状態を調整することができる。
【0081】
細胞培養システムのシステム設計においては、流体力分離装置における適正な処理流量(定格流量)が基本となるので、培養槽2の容量と流体力分離装置の処理流量とのバランスが適正になるように細胞培養システムを構成するとよい。培養槽2の液体培地の容量が比較的少なく、流体力分離装置における処理を連続して行うと適正な培地交換率を超えるような場合には、間欠処理が行われる。つまり、培養槽における培地交換率が適正な値になるように流体力分離装置における処理量を設定し、定格流量に基づいて処理時間を計算して、分離処理を複数回に分けて一定時間おきに断続的に実施するとよい。
【0082】
上述のような細胞培養システムを用いて、様々な細胞について細胞培養方法を実施することができ、培養細胞が産生するタンパク質や酵素等の各種有用物質を回収して医薬品等の製造に利用できる。具体的には、動物細胞(ほ乳類、鳥類又は昆虫の細胞)のような真核細胞、及び、真菌細胞(大腸菌等の菌類又は酵母の細胞)の培養に適用可能である。例えば、チャイニーズハムスターの卵巣細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、PER.C.6細胞、骨髄腫細胞、HER細胞などが挙げられる。このような細胞培養によって得られる有用物質として、例えば、免疫グロブリン(単クローン抗体又は抗体フラグメント)、融合タンパク質、インスリン類、成長ホルモン類、サイトカイン類、インターフェロン類、グルカゴン、アルブミン、リソソーム酵素、ヒト血清アルブミン、HPVワクチン、血液凝固因子、エリスロポエチン類、NS0やSP2/0等の抗体などが挙げられる。細胞培養は、各細胞について判明している培養条件に基づいて、常法に従って培養を行えばよい。細胞培養に使用する液体培地についても、合成培地、半合成培地、天然培地の何れの液体培地であってもよく、培養する細胞に適したものを適宜選択して使用すればよい。概して、特定の菌種を増殖させるように処方された選択増菌培地や選択分離培地が好適に使用される。市販の液体培地から適宜選択して使用しても、或いは、既知の処方に従って栄養素及び精製水等を用いて調製してもよく、検査を目的とする鑑別剤(pH指示薬、酵素基質、糖類等)や、目的外微生物の発育を抑制する選択剤などを必要に応じて添加してよい。流体力分離を効率的に進行させるために、粘性があまり高くない液体培地を使用すると好ましい。
【0083】
培養細胞が産生し液体培地に含まれる有用物質は、流体力分離及びろ過分離によって回収される内周側画分の液体培地を精製することによって回収することができる。産生する有用物質が培養細胞内にもある場合は、ブリードを廃棄せずに、細胞から有用物質を回収すればよい。図2〜4の細胞培養システムは、流体力分離装置から排出される富細胞画分の濃縮された細胞から有用物質を回収するので、細胞からの回収において効率的な構成である。
【0084】
図5は、流体力分離装置における分離効率とDe数との関係を調べた結果を示すグラフである。図5においては、流路の寸法が異なる5種類の流体力分離装置(装置A1〜A5)の何れかを用いて流体力分離を行っている。分離対象として、ポリマー粒子(スチレン−ジビニルベンゼン共重合体)又はCHO細胞(チャイニーズハムスターの卵巣細胞)の何れかを用いて分離を行った結果を示している。何れの分離対象も平均粒子径が14〜18μmの範囲にある。分離効率は、[1−(x/X)]×100(%)として計算した値であり、計算式中のXは、分離前の液体に含まれる分離対象の濃度、xは、分離後の内周側の画分に含まれる分離対象の濃度を示す。何れの分離対象も粒径分布が狭いので、粒子又は細胞の全量が外周側の画分に濃縮される状態の分離効率を100%と見なした評価である。グラフから理解されるように、ポリマー粒子及び動物細胞の何れにおいても、De数が70前後において最も分離効率が高くなり、概して、De数が50〜80の範囲になる条件において高い分離効率を達成することができる。従って、流体力分離装置から得られる内周側の貧細胞画分は、ろ過分離に好適であることが理解できる。
【0085】
図6は、流体力分離装置へ液体培地を送るポンプの種類による細胞の生存率への影響を調べた結果を示す。細胞を培養した液体培地を、ポンプを用いて0.3MPaの吐出圧で流体力分離装置へ供給し、分離装置から排出される液体培地の2つの画分を纏めて回収する。回収した液体培地から少量をサンプリングして細胞計測装置(ベックマンコールター社製、製品名:Vi-Cell)により細胞の生存率(%、全細胞中の生細胞の割合)を計測した結果である。グラフ中の「ガス圧送」は、コンプレッサが接続された加圧タンクから液体培地を圧縮空気で圧送する形態であり、容積式ポンプとして分類することができる。図6から、遠心ポンプにおいては細胞における損傷が大きく、容積式ポンプに分類される他のポンプでは、生存率の低下が防止されることが判る。
【0086】
流体力分離は、遠心分離より極めて効率的に細胞の濃縮分離を進めることができ、ろ過分離等に比べて、細胞を損傷せずに高い生存率で濃縮分離することができる。上述のように、流体力分離技術を利用して、培養中の液体培地を、相対的に細胞密度が高い富細胞画分と、相対的に細胞密度が低い貧細胞画分とに分離できる。従って、貧細胞画分を用いて、ろ過分離によって液体培地を効率的に回収することが可能になる。回収される液体培地を精製することによって、有用成分を回収することができる。また、ブリードの処理においても、貧細胞画分を利用することで、デプスフィルタの適用が可能になり、有用物質の濃度が高い液体培地を回収できる。従って、有用物質の生産効率を改善することができる。また、細胞が濃縮された富細胞画分を廃棄することによって、無用に廃棄される液体培地を削減できる。本開示の細胞培養システムにおいては、流体力分離において、液体培地を比較的高い速度で湾曲流路へ供給するので、細胞の濃縮分離を行う処理能力が高く、実用規模の細胞培養に十分適用可能である。流体力分離は、高い生存率で細胞を回収することができるので、回収した細胞と共に新たな液体培地を培養槽に供給することによって、増殖力を高く維持したまま細胞培養を継続することができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
細胞を培養した液体培地から細胞を除去するろ過分離における目詰まりを解消して、効率的な液体培地の回収及び有用物質の生産を実現できる。バイオ技術を利用した医薬品の製造に利用して、ホルモン、サイトカイン、酵素、抗体、ワクチン等の製品の提供において、経済性、品質の向上に寄与し、現状において稀少又は高価な医薬品の普及、汎用化を進めることが可能になる。
【符号の説明】
【0088】
1,50,51,60 細胞培養システム
2 培養槽
3 流体力分離装置
4 ろ過分離装置
5 送液部
6,8,53,56 供給路
7 第1返送路
9 第2返送路
10 培地補充部
11,58 ポンプ
12 圧力計
13 圧力調整弁
14 流量計
15,19 流量調整弁
16 培地タンク
17 培地補給路
18 液面計
20 ローラーポンプ
21,21a,55 排出路
22,22a 開閉弁
31,41 導入口
32,33,42,43 導出口
52 デプスフィルタ
54 容器
57,61 返送路
C,C0,C1,C2 液体培地
C’ 貧細胞画分
図1
図2
図3
図4
図5
図6