(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-213499(P2019-213499A)
(43)【公開日】2019年12月19日
(54)【発明の名称】テラヘルツ波を利用したアルコール飲料の熟成方法、及びアルコール飲料の熟成装置
(51)【国際特許分類】
C12H 1/16 20060101AFI20191122BHJP
C12G 3/00 20190101ALI20191122BHJP
C12G 1/00 20190101ALI20191122BHJP
【FI】
C12H1/16
C12G3/00
C12G1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-113008(P2018-113008)
(22)【出願日】2018年6月13日
(71)【出願人】
【識別番号】501069175
【氏名又は名称】株式会社コスメッセ
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】江川 芳三
(72)【発明者】
【氏名】江川 一枝
【テーマコード(参考)】
4B128
【Fターム(参考)】
4B128AC15
4B128AG04
4B128AP08
4B128AT08
(57)【要約】
【課題】本発明は、アルコール飲料を簡便かつ効率的に熟成させる方法、及び該方法に使用する装置を提供することを課題とする。
【解決手段】テラヘルツ波をアルコール飲料に照射することで、アルコール飲料の熟成を短期間で行うことができる。さらに、テラヘルツ波を転写した放射体又は転写体を、アルコール容器等に使用すること及び/又はテラヘルツ波を転写した放射体又は転写体でアルコール容器等に近接させることによっても、アルコールの熟成を短期間で行うことが可能であり、複雑な設備を要さず、細菌等の混入リスクを低減させることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール飲料を熟成させる工程を含む、アルコール飲料の製造方法であって、
前記アルコール飲料を熟成させる工程は、テラヘルツ波をアルコール飲料に照射することを含む工程である、アルコール飲料製造方法。
【請求項2】
前記テラヘルツ波が、0.01〜100THzの周波数である、請求項1に記載のアルコール飲料製造方法。
【請求項3】
前記テラヘルツ波の照射が、15〜40℃の温度条件で行われる、請求項1又は2に記載のアルコール飲料製造方法。
【請求項4】
前記照射が、テラヘルツ波発生装置によって放射されたテラヘルツ波を、アルコール飲料に直接照射するものである、請求項1〜3の何れか一項に記載のアルコール飲料製造方法。
【請求項5】
前記照射が、テラヘルツ波の放射体又は転写体によって放射されたテラヘルツ波を、アルコール飲料に照射するものである請求項1〜3の何れか一項に記載のアルコール飲料製造方法。
【請求項6】
前記照射が、アルコール飲料の製造工程の何れかにおいて、テラヘルツ波の放射体又は転写体で構成されたアルコール飲料の貯蔵容器及び/又は移動用配管によって放射されたテラヘルツ波を、アルコール飲料に照射するものである、請求項5に記載のアルコール飲料製造方法。
【請求項7】
前記照射が、アルコール飲料の製造工程の何れかにおいて、テラヘルツ波の放射体又は転写体であるテラヘルツ波転写水をアルコール飲料と混和することによって、前記転写水から放射されたテラヘルツ波を、アルコール飲料に照射するものである、請求項5に記載のアルコール飲料製造方法。
【請求項8】
前記照射が、アルコール飲料の貯蔵容器を、テラヘルツ波の放射体又は転写体である素材に近接させることによって、前記素材から放射されたテラヘルツ波を、アルコール飲料に照射するものである、請求項5に記載のアルコール飲料製造方法。
【請求項9】
(a)アルコール飲料を保持するための容器、及び
(b)テラヘルツ波を発生させ、前記容器内のアルコール飲料にテラヘルツ波を照射する手段を備える、アルコール飲料熟成装置。
【請求項10】
前記容器が、アルコール飲料の、仕込み、発酵、醸造、蒸留、熟成貯蔵、ろ過又は瓶詰めをするための容器である、及び/又はアルコール飲料が瓶詰めされた後の容器である、請求項9に記載のアルコール飲料熟成装置。
【請求項11】
前記容器が、アルコール飲料の移動用配管を含む、請求項9又は10に記載のアルコール飲料熟成装置。
【請求項12】
前記手段が、テラヘルツ波の発生装置であり、該装置により直接テラヘルツ波を前記容器内部に保持されるアルコール飲料に照射する手段である、請求項9〜11の何れかに記載のアルコール飲料熟成装置。
【請求項13】
前記手段が、テラヘルツ波の放射体又は転写体である、請求項9〜11の何れかに記載
のアルコール飲料熟成装置。
【請求項14】
前記手段が、前記容器をテラヘルツ波の放射体又は転写体で構成し、該容器からテラヘルツ波を前記容器内部に保持されるアルコール飲料に照射する手段である、請求項13に記載のアルコール飲料熟成装置。
【請求項15】
前記手段が、テラヘルツ波の放射体又は転写体である素材をアルコール飲料を含有する容器に近接させることにより、テラヘルツ波を前記容器内部に保持されるアルコール飲料に照射する手段である、請求項13に記載のアルコール飲料熟成装置。
【請求項16】
前記素材が、繊維、フィルム、石、木、セラミックス、又は金属である、請求項15に記載のアルコール飲料熟成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を利用したアルコール飲料を熟成させる工程を含むアルコール飲料の製造方法、及びアルコール飲料を熟成させる工程を実施するための熟成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワインやウィスキー等のアルコール飲料は、その製造過程において、熟成工程を経て製品化がなされる。この熟成工程を経ることで、ワインやウィスキー等のアルコール飲料はまろやかな味わいとなることが一般に知られている。
【0003】
従来から行われているアルコール飲料の熟成方法としては、例えばウィスキー等の蒸留酒であれば、蒸留後に樽詰め等をした状態で長期間熟成させなければならず、莫大なコストと時間が生じていた。そのため、数年〜数十年の長期間熟成させたアルコール飲料は、その熟成期間に依存して非常に高価なものとなっていた。
【0004】
これらの問題を解決すべく、これまでに効率的な熟成が行われるように様々な研究が行われている。例えばアルコール飲料に超音波処理又は遠赤外線照射処理を行うことで、アルコール飲料の熟成を促進させる方法が知られている(特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017−74042
【特許文献2】特開平06−100332
【特許文献3】特開2006−034116
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、超音波を用いた場合、超音波は自然発生しないために超音波発生装置を用いる必要があり、実施するための装置が複雑化すること、及び遠赤外線を用いた場合、遠赤外線は透過率が低いため、遠赤外線を発する物質をアルコール飲料に直接接触させなければ効果が得られにくいなどの課題があった。したがって、本発明は簡便な手順で効率よくアルコール飲料を熟成させる手法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題の解決のために鋭意研究を行った結果、テラヘルツ波を用いることでアルコール飲料の短期間での熟成を行うことに成功した。さらに、その熟成方法を実施するための装置を完成させた。
したがって、本発明はテラヘルツ波を用いることによる、アルコール飲料の短期間での熟成を行うことを含むアルコール飲料の製造方法、及びその方法を実施するためのアルコール飲料の熟成装置を提供する。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]アルコール飲料を熟成させる工程を含む、アルコール飲料の製造方法であって、
前記アルコール飲料を熟成させる工程は、テラヘルツ波をアルコール飲料に照射することを含む工程である、アルコール飲料製造方法。
[2]前記テラヘルツ波が、0.01〜100THzの周波数である、[1]に記載のア
ルコール飲料製造方法。
[3]前記テラヘルツ波の照射が、15〜40℃の温度条件で行われる、[1]又は[2]に記載のアルコール飲料製造方法。
[4]前記照射が、テラヘルツ波発生装置によって放射されたテラヘルツ波を、アルコール飲料に直接照射するものである、[1]〜[3]の何れかに記載のアルコール飲料製造方法。
[5]前記照射が、テラヘルツ波の放射体又は転写体によって放射されたテラヘルツ波を、アルコール飲料に照射するものである[1]〜[3]の何れかに記載のアルコール飲料製造方法。
[6]前記照射が、アルコール飲料の製造工程の何れかにおいて、テラヘルツ波の放射体又は転写体で構成されたアルコール飲料の貯蔵容器及び/又は移動用配管によって放射されたテラヘルツ波を、アルコール飲料に照射するものである、[5]に記載のアルコール飲料製造方法。
[7]前記照射が、アルコール飲料の製造工程の何れかにおいて、テラヘルツ波の放射体又は転写体であるテラヘルツ波転写水をアルコール飲料と混和することによって、前記転写水から放射されたテラヘルツ波を、アルコール飲料に照射するものである、[5]に記載のアルコール飲料製造方法。
[8]前記照射が、アルコール飲料の貯蔵容器を、テラヘルツ波の放射体又は転写体である素材に近接させることによって、前記素材から放射されたテラヘルツ波を、アルコール飲料に照射するものである、[5]に記載のアルコール飲料製造方法。
[9](a)アルコール飲料を保持するための容器、及び(b)テラヘルツ波を発生させ、前記容器内のアルコール飲料にテラヘルツ波を照射する手段を備える、アルコール飲料熟成装置。
[10]前記容器が、アルコール飲料の、仕込み、発酵、醸造、蒸留、熟成貯蔵、ろ過もしくは瓶詰めをするための容器、又はアルコール飲料が瓶詰めされた後の容器である、[9]に記載のアルコール飲料熟成装置。
[11]前記容器が、アルコール飲料の移動用配管を含む、[9]又は[10]に記載のアルコール飲料熟成装置。
[12]前記手段が、テラヘルツ波の発生装置であり、該装置により直接テラヘルツ波を前記容器内部に保持されるアルコール飲料に照射する手段である、[9]〜[11]の何れかに記載のアルコール飲料熟成装置。
[13]前記手段が、テラヘルツ波の放射体又は転写体である、[9]〜[11]の何れかに記載のアルコール飲料熟成装置。
[14]前記手段が、前記容器をテラヘルツ波の放射体又は転写体で構成し、該容器からテラヘルツ波を前記容器内部に保持されるアルコール飲料に照射する手段である、[13]に記載のアルコール飲料熟成装置。
[15]前記手段が、テラヘルツ波の放射体又は転写体である素材をアルコール飲料を含有する容器に近接させることにより、テラヘルツ波を前記容器内部に保持されるアルコール飲料に照射する手段である、[13]に記載のアルコール飲料熟成装置。
[16]前記素材が、繊維、フィルム、石、木、セラミックス、又は金属である、[15]に記載のアルコール飲料熟成装置。
【発明の効果】
【0009】
テラヘルツ波の照射により、アルコール飲料を短期間で熟成させることが可能となり、短期間で深みのあるまろやかな味わいのアルコール飲料を製造することが可能となる。その結果として、樽による熟成工程を省くことや長期に及ぶ熟成期間を省くことができる。すなわち、設備の縮小や製造期間の短縮ができるので、長期間の熟成を要するアルコール飲料の製造コストを大幅に下げることが可能となる。また、市販のアルコール飲料をテラヘルツ波処理することにより、家庭でも簡単に熟成の進んだアルコール飲料を楽しむことができる。
【0010】
本発明においては、電磁波の一種であるテラヘルツ波を用いることで、アルコール飲料において水分子及びアルコール分子の低分子化を含む化学変化が促進され、その結果、短期間でアルコール飲料の熟成を行うことが可能となると考えられる。
本発明において、低分子化との用語は、クラスター(分子集団)化している水分子及び/又はアルコール分子間の水素結合を切断すること等をいう。
クラスター化とは、水素結合等の結合によって、水分子及び/又はアルコール分子が集合体を形成していることをいう。
【0011】
また、透過性のあるテラヘルツ波であれば、アルコール飲料貯蔵容器の外部からであっても、アルコール飲料に照射することが可能となり、雑菌等の混入が起こりにくい態様で衛生的にアルコール飲料の熟成を短期間で行うことが可能となる。
【0012】
さらに、アルコール飲料貯蔵容器を、テラヘルツ波を放射する素材に近接させることで、大掛かりな装置が無くても、アルコール飲料の熟成を短期間で行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第一の態様は、アルコール飲料を熟成させる工程を含む、アルコール飲料の製造方法であって、前記アルコール飲料を熟成させる工程は、テラヘルツ波をアルコール飲料に照射することを含む工程である、アルコール飲料製造方法である。
【0014】
ここで、アルコール飲料とは、例えば、ワイン、日本酒、ビール、紹興酒等の醸造酒、ウィスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、ジン、焼酎等の蒸留酒、及び梅酒、リキュール、薬酒等の混成酒が挙げられるが、好ましくは蒸留酒である。ただし、上記は単なる例示であり、これらのアルコール飲料に限定されず、他のアルコール飲料を用いてもよい。
【0015】
一般に、アルコール飲料の熟成とは、アルコール飲料の味やまろやかさを改善するために行われることである。現在、熟成メカニズムは全容が具体的に解明されているのではないが、例えば、熟成の結果、アルコール飲料中の水分子及びアルコール分子を低分子化することにより、アルコール分子特有のトゲトゲしさを減少させ、まろやかな味わいにすることが含まれる。
【0016】
ここで、トゲトゲしさとはアルコール分子が舌に直接触れることによりアルコール特有の刺激を感じさせることである。
また、まろやかな味わいとは、アルコール分子が周囲を水分子に囲まれることによって、舌にアルコール分子が直接接触せず、アルコール分子特有のトゲトゲしさが低減されたことにより生じる味わいのことである。
【0017】
また、テラヘルツ波とは、毎秒1兆回振動する周波数帯のことであり、例えば、3〜1000μmの波長を有する遠赤外線のサブミリ領域に位置する電磁波の一種である。テラヘルツ波は直進性、透過性、及び浸透性を有しており、アルコール飲料含有容器の外側から照射してもアルコール飲料熟成効果を発揮する。
【0018】
テラヘルツ波の照射は、アルコール飲料の主な製造工程である、仕込み工程、発酵工程、醸造工程、熟成貯蔵工程、蒸留工程、ろ過工程、瓶詰め工程、及びそれらの工程の間又は前後を含むいずれの工程で行ってもよい。
また、瓶詰め工程後のアルコール飲料に対してテラヘルツ波を照射してもよく、市販のアルコール飲料製品に対して購入後にテラヘルツ波を照射してもよい。
また、これらの工程は例示であるので、これらの工程に限定されず、他の工程又はその工程間においてテラヘルツ波を照射してもよい。
【0019】
さらに、複数の工程にて複数回にわたりテラヘルツ波を照射してもよい。
【0020】
テラヘルツ波は通常0.01〜100THzの周波数であり、例えば、0.1〜50THz、0.5〜40THz、1〜30THz、2〜20THzであり、好ましくは、3〜10THzの周波数である。
【0021】
テラヘルツ波を照射する温度条件は、例えば、10〜90℃であり、好ましくは15〜40℃である。
【0022】
テラヘルツ波を照射する時間は、照射するテラヘルツ波の周波数によって適宜変化させることができ、例えば、1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、6時間以上、8時間以上、12時間以上であり、好ましくは24時間以上、さらに好ましくは2日以上である。
なお、テラヘルツ波を長時間アルコール飲料に照射することで、その照射時間に応じたアルコール飲料の熟成を進めることが可能となる。
【0023】
本発明のアルコール飲料製造方法の一つの態様は、テラヘルツ波発生装置によって放射されたテラヘルツ波を、アルコール飲料に直接照射する工程を含む。
【0024】
テラヘルツ波発生装置は、例えば、空気又はガス中に、フェムト秒レーザーの二倍波と基本波を同時に集光することにより、テラヘルツ波を発生させる装置が挙げられる(引用:日本光学会会誌「光学」第38巻第2号P.68〜71)。しかし、これは単なる例示であり、この装置に限定されず、他の方法に基づきテラヘルツ波を発生させる装置を使用してもよい。
【0025】
テラヘルツ波発生装置は、アルコール飲料貯蔵容器及び/又は移動用配管の内部、外部、又はそれらの両方にテラヘルツ波を照射する位置に設置されていてもよく、テラヘルツ波発生装置はアルコール貯蔵容器及び/又は移動用配管に密着して設置されていても、近接して設置されていてもよい。
【0026】
本発明のアルコール飲料製造方法の他の態様は、アルコール飲料の製造工程の何れかにおいて、テラヘルツ波が転写されたアルコール飲料の貯蔵容器及び/又は移動用配管によって放射されたテラヘルツ波を、アルコール飲料に照射する工程を含む。
【0027】
ここで転写とは、前記貯蔵容器や前記移動用配管等が、テラヘルツ波と同じ固有振動数を有することで、テラヘルツ波を吸収及び蓄積し、テラヘルツ波の放出体となることである。そして、このテラヘルツ波の放出体を、テラヘルツ波の放射体又は転写体という。
具体的な転写方法は、例えば、テラヘルツ波の共鳴電磁波を放射する放射体物体に、テラヘルツ波の固有振動数を有する原子や分子や分子結合等を有する被転写体を近接または密着させることで、被転写体自身をテラヘルツ波の放射体又は転写体とすることができることが挙げられる(特開2015−100684)。しかし、これは単なる例示であり、この方法に限定されず、他の方法に基づき転写がなされていてもよい。
【0028】
テラヘルツ波を転写されたアルコール飲料の貯蔵容器内部に、テラヘルツ波を転写された仕切り板を設けてもよい。これにより、テラヘルツ波を放射する部分の表面積が拡大することで、テラヘルツ波のアルコール飲料への照射を効率的に行うことができる。
【0029】
本発明のアルコール飲料製造方法の他の態様は、アルコール飲料の製造工程の何れかにおいて、テラヘルツ波の放射体又は転写体であるテラヘルツ波転写水をアルコール飲料と
混和することによって、前記転写水から放射されたテラヘルツ波を、アルコール飲料に照射する工程を含む。
【0030】
テラヘルツ波転写水をアルコール飲料中に添加することによって、前記転写水が、アルコール飲料中のアルコール分子及び/又は既にアルコール飲料と混和している水分子に対してテラヘルツ波を照射し、アルコール飲料の熟成が進められる。
また、テラヘルツ波の水への転写は、上記同様、例えば特開2015−100684に記載の方法に従って行うことができる。
また、アルコール飲料の製造工程とは、アルコール飲料の製造初期工程である仕込み工程から、アルコール飲料の製造終期の工程であるアルコール飲料の水による希釈化工程に至るまでの何れの工程であってもよい。
【0031】
本発明のアルコール飲料製造方法の他の態様は、アルコール飲料の貯蔵容器を、テラヘルツ波を転写された素材に近接させることによって、前記素材から放射されたテラヘルツ波を、アルコール飲料に照射する工程を含む。
ここで、テラヘルツ波を転写された素材は、例えば、繊維、フィルム、石、木、金属、セラミックスといった素材が挙げられる。しかし、これらは単なる例示であり、これらの形状の素材に限定されず、他の形状の素材でもよい。
テラヘルツ波のこれらの素材への転写は、上記同様、例えば特開2015−100684に記載の方法に従って行うことができる。
【0032】
本発明の第二の態様は、(a)アルコール飲料を保持するための容器、及び(b)テラヘルツ波を発生させ、前記容器内のアルコール飲料にテラヘルツ波を照射する手段を備える、アルコール飲料熟成装置である。
【0033】
ここで、アルコール飲料を保持するための容器の形態としては、例えば、アルコール飲料の仕込み、発酵、醸造、蒸留、熟成貯蔵、ろ過又は瓶詰めをするための容器、及び/又はアルコール飲料が瓶詰めされた後の容器が例示される。
瓶詰めされた後の容器とは、販売前のアルコール飲料が充填された容器でもよく、及び/又は販売後のアルコール飲料が充填された容器でもよい。
【0034】
アルコール飲料を保持するための容器の他の態様としては、アルコール飲料の移動用配管であってもよい。
ここで、移動用配管とは、製造工程ごとに、アルコール飲料を前記容器間で移動させる際に使用する配管のことである。
【0035】
本発明のアルコール飲料熟成装置の一つの態様は、テラヘルツ波の発生装置により、直接テラヘルツ波を前記容器内部に保持されるアルコール飲料に照射する手段を備える、アルコール飲料熟成装置である。
ここで、テラヘルツ波発生装置は、例えば、空気又はガス中に、フェムト秒レーザーの二倍波と基本波を同時に集光することにより、テラヘルツ波を発生させる装置が挙げられる(引用:日本光学会会誌「光学」第38巻第2号P.68〜71)。しかし、これは単なる例示であり、この装置に限定されず、他の方法に基づきテラヘルツ波を発生させる装置を使用してもよい。
【0036】
テラヘルツ波発生装置は、アルコールを保持するための容器の内部、外部、又はそれらの両方に設置されていてもよく、テラヘルツ波発生装置はアルコールを保持するための容器に密着していても、近接していてもよい。
【0037】
本発明のアルコール飲料熟成装置の他の態様は、テラヘルツ波の放射体又は転写体をテ
ラヘルツ波照射手段として使用する態様である。
【0038】
例えば、アルコール飲料を含有する容器をテラヘルツ波の放射体又は転写体で構成する態様が挙げられる。
【0039】
またテラヘルツ波の放射体又は転写体である素材を使用し、該素材をアルコール飲料を含有する容器に近接させることにより、テラヘルツ波を前記容器内部に保持されるアルコール飲料に照射する態様も挙げられる。
【0040】
ここで転写とは、前記容器が、テラヘルツ波と同じ固有振動数を有することで、テラヘルツ波を吸収及び蓄積し、テラヘルツ波の放出体となることである。そして、このテラヘルツ波の放出体を、テラヘルツ波の放射体又は転写体という。
具体的な転写方法は、例えば、テラヘルツ波の共鳴電磁波を放射する放射体物体に、テラヘルツ波の固有振動数を有する原子や分子や分子結合等を有する被転写体を近接または密着させることで、被転写体自身をテラヘルツ波の放射体又は転写体とすることができることが挙げられる(特開2015−100684)。しかし、これは単なる例示であり、この方法に限定されず、他の方法に基づき転写がなされていてもよい。
【0041】
テラヘルツ波を転写される素材としては、例えば、繊維、フィルム、石、木、セラミックス、又は金属が例示される。ただし、これらは単なる例示であり、これらの形状の素材に限定されることなく、いずれの形状の素材でもよい。
【0042】
例えば、テラヘルツ波を転写された布などでアルコール飲料を含有する容器を覆う態様が挙げられ、装置としては、例えば、アルコール飲料を含有する瓶を収容できる箱などの収容部を有し、該収容部の内部にテラヘルツ波を転写された布などが配置されている装置が例示される。
【0043】
テラヘルツ波を転写されたアルコール飲料の保持容器内部に、テラヘルツ波を転写された仕切り板を設けてもよい。これにより、テラヘルツ波を放射する部分の表面積が拡大することで、テラヘルツ波のアルコール飲料への照射を効率的に行うことができる。
【実施例】
【0044】
以下実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0045】
テラヘルツ波を転写した布は以下のようにして調製した。
テラヘルツ波を転写する対象である布に対して、約5THzで2時間テラヘルツ波を照射することで、テラヘルツ波を転写した布を作成した。
【0046】
テラヘルツ波処理
瓶入りウィスキーと枡に入れたウィスキーの容器に対し、上記テラヘルツ波を転写した布で覆うことにより、外側からテラヘルツ波を24時間照射した。
【0047】
<実施例1>ウィスキーの味覚評価試験
ウィスキーの味を味覚センサーによって評価した。具体的には、ウィスキー40mLに純水160mLを加えて5倍希釈して、測定試料とした。「スーパーニッカ」(SN)を基準として味認識装置SA402B(Insent社製)を用いて、「先味」及び「後味」の各項目について3回ずつ測定した。ここで、「先味」とは食品を口に入れた直後の味覚のことであり、酸味、塩味、旨味、苦味雑味、渋味刺激、甘味として表され、「後味」とは食品を飲み込んだ後に広がる味のことであり、旨味コク、苦味、渋味を示す。
測定は、人間の唾液に近いほぼ無味の基準溶液(30mM−KCl+0.3mM−酒石酸溶液)に対する味強度(絶対値)を室温で測定し、その絶対値から基準試料の味強度を0になるよう換算した相対値の平均値を用いて試料間の味の違いを評価した。味強度は、ほとんどの人が違いを感じる値(濃度差で1.2倍)を「1」としている。味強度「2」は濃度差が約1.44倍、味強度「4」は濃度差が約2倍である。
ウィスキーの味強度の測定結果を、表1に表す。「改良酒A」が瓶入りの「ニッカ原酒」を、テラヘルツ波を転写した布で24時間覆ったものであり、「改良酒B」は「ニッカ原酒」を枡に注いだ後、テラヘルツ波を転写した布で24時間覆ったものである。
【0048】
【表1】
【0049】
「改良酒A」及び「改良酒B」の味強度を「ニッカ原酒」の味強度と比較した。その結果、苦味雑味の味強度は「スーパーニッカ」を基準として、「ニッカ原酒」が−5.67、「改良酒A」が−5.26、「改良酒B」が−1.66あった。また、渋味刺激の味強度は「スーパーニッカ」を基準として、「ニッカ原酒」が−1.61、「改良酒A」が−1.31、「改良酒B」が0.28であった。
すなわち、「ニッカ原酒」と比較して、「改良酒A」は苦味雑味及び渋味刺激の味強度が増加し、「改良酒B」はそれらの味強度が顕著に増加したことが分かった。つまり、「苦味雑味」が増加したことより「コク」「風味」が増強され、また「渋味刺激」が増加したことより「風味」が増強されたことが分かった。このことから、ウィスキーにテラヘルツ波を照射することによって、ウィスキーの味が変化したことを味覚センサーにより客観的に示した。
また、国産ウィスキーでは、長期熟成によって渋味及び苦味等の味強度が強くなることが知られており(食品化学新聞2015年5月7日掲載「旨いウィスキーとは?」)、今回行った味覚評価試験の結果は、ウィスキーへのテラヘルツ波照射がウィスキーの長期熟成効果を導くものであることを明らかにした。
【0050】
<実施例2>官能試験
遠赤外線処理ウィスキー、テラヘルツ波処理ウィスキー、及び処理を行っていないウィスキーを、80歳代女性1名、50歳代男性1名、60歳代男女各1名、及び30歳代男女各1名で試飲し、官能試験を行った。その結果、6人全員が、テラヘルツ波照射後のウィスキーは、テラヘルツ波処理を行っていない他のウィスキーと比較して、味がまろやかになり美味しくなったと感じた。
【0051】
更に瓶入りウィスキーにテラヘルツ波又は遠赤外線を照射して、1週間後、2週間後、及び1ヵ月後にそれぞれのウィスキーを試飲することで、官能試験を行った。その結果、上記6人全員が、テラヘルツ波処理ウィスキーは、テラヘルツ波処理を行っていない他のウィスキーと比較して、著しく味がまろやかになり美味しくなったと感じた。