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特開2019-213513デジタルPCRの測定方法および測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-213513(P2019-213513A)
(43)【公開日】2019年12月19日
(54)【発明の名称】デジタルPCRの測定方法および測定装置
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20191122BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20191122BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20191122BHJP
【FI】
   C12Q1/6851 ZZNA
   C12M1/00 A
   C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-113894(P2018-113894)
(22)【出願日】2018年6月14日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳子
(72)【発明者】
【氏名】中川 樹生
(72)【発明者】
【氏名】島崎 譲
(72)【発明者】
【氏名】原田 邦男
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029CC01
4B063QA01
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX01
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】新たなデジタルPCRの解析方法を提供すること。
【解決手段】蛍光標識プローブまたはDNAインターカレーターと検出対象のDNAを含有するDNA溶液を複数の画分に分割する工程と、前記画分の中で核酸増幅反応を行う工程と、温度変化に伴って蛍光強度を測定する工程と、前記温度変化に伴う前記蛍光強度の変化に基づいて計測されるDNA二重鎖の融解温度を算出する工程と、前記温度変化に伴う第1の温度の蛍光強度に対する、第1の温度より低い第2の温度の蛍光強度の比を算出する工程と、を含む、DNA検出方法とする。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光標識プローブまたはDNAインターカレーターと検出対象のDNAを含有するDNA溶液を複数の画分に分割する工程と、
前記画分の中で核酸増幅反応を行う工程と、
温度変化に伴って蛍光強度を測定する工程と、
前記温度変化に伴う前記蛍光強度の変化に基づいて計測されるDNA二重鎖の融解温度を算出する工程と、
前記温度変化に伴う第1の温度の蛍光強度に対する、第1の温度より低い第2の温度の蛍光強度の比を算出する工程と、
を含む、DNA検出方法。
【請求項2】
算出した前記蛍光強度の比が所定の閾値以下の画分を、前記検出対象のDNAを含まない画分と特定する工程をさらに含む、請求項1に記載のDNA検出方法。
【請求項3】
算出した前記蛍光強度の比が所定の範囲内にある画分を、前記検出対象のDNAを含む画分と特定する工程をさらに含む、請求項1または2に記載のDNA検出方法。
【請求項4】
前記DNA溶液が蛍光標識プローブを含み、
前記融解温度が、前記蛍光標識プローブと前記検出対象のDNAとの間で形成される二重鎖の融解温度である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のDNA検出方法。
【請求項5】
前記蛍光標識プローブが、蛍光色素とそのクエンチャーを有する、請求項4に記載のDNA検出方法。
【請求項6】
前記DNA溶液がDNAインターカレーターを含み、
前記融解温度が、前記検出対象のDNAの二重鎖の融解温度である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のDNA検出方法。
【請求項7】
前記複数の画分が平面配置されていることを特徴とする、請求項1〜6に記載のDNA検出方法。
【請求項8】
前記DNA溶液を、ドロップレットまたはウェルによって前記複数の画分に分割する、請求項1〜7に記載のDNA検出方法。
【請求項9】
DNA溶液中の検出対象のDNAを検出するためのDNA検出装置であって、
前記DNA溶液を加温するための加温部と、
前記DNA溶液から放出される蛍光の強度を測定するための蛍光測定部と、
前記DNA溶液の温度変化に伴う前記蛍光の強度の変化からDNA二重鎖の融解温度融解温度を算出し、前期DNA溶液の第1の温度の蛍光強度に対する、第1の温度より低い第2の温度の蛍光強度の比を算出する計算部と、
を備えることを特徴とする、DNA検出装置。
【請求項10】
前記検出対象のDNAを増幅するための増幅部をさらに備えることを特徴とする、請求項9に記載のDNA検出装置。
【請求項11】
前記検出結果を表示するモニターをさらに備えることを特徴とする、請求項9または10に記載のDNA検出装置。
【請求項12】
DNA検出装置に、請求項1〜8のいずれか1項に記載のDNA検出方法を行わせるた
めのプログラム。
【請求項13】
前記検出装置は、請求項9〜11のいずれか1項に記載の検出装置である、請求項12に記載のプログラム。
【請求項14】
請求項12または13に記載のプログラムを格納する記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルPCRの測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルPCR(特許文献1)は、PCR(特許文献2−4)やリアルタイムPCR(非特許文献1)などの従来の遺伝子検査において、対象遺伝子が微量なときに測定再現性が低下するという課題を解決する方法として開発された。デジタルPCRを用いると、限界希釈したサンプルを用いてDNAを0(無し)か1(有り)で検出することで微量なDNAを定量できる。
【0003】
デジタルPCRの検出方法の一例を以下に示す。まず、限界希釈した検体に、PCRに必要となるDNAポリメラーゼ、プライマー、蛍光標識プローブを加え、オイル中にPCR反応液のドロップレットを作製する。作製したドロップレットは、1分子の対象遺伝子が入っているか、入っていないかのいずれかである。次に、ドロップレット内の対象遺伝子を、PCRにより増幅する。PCR後に各ドロップレットの蛍光強度を測定し、閾値を超える蛍光強度をもつドロップレットの数をカウントすることにより、対象遺伝子を定量することができる。このようなデジタルPCRは、限界希釈した検体を用いるため、PCRの阻害要因となる検体由来成分の影響を抑えることができる。また、検量線を必要としないため、絶対量を直接測定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2013−521764
【特許文献2】米国特許第4683195号
【特許文献3】米国特許第4683202号
【特許文献4】米国特許第4800159号
【非特許文献1】Genome Res.,10,pp986−994,1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常のPCRでは、反応液中の反応阻害物の存在、テンプレートDNAの二次構造の形成、プライマーの設計不十分などの理由により、反応効率が低下することが知られている。一方、デジタルPCRでは、エンドポイントで測定するため、PCRの反応効率が測定結果に大きく影響しないとされてきた。しかし実際には、エンドポイントで測定しても各ドロップレットのPCR反応効率の不均一性による蛍光強度ばらつきが大きく、デジタルPCRの測定再現性および測定精度を低下させていた。
【0006】
そこで、本発明者らは、デジタルPCRの測定再現性および測定精度の向上のため、各ドロップレットのPCR反応効率が不均一でも、PCR増幅産物の融解温度(Tm)を測定することによって、ドロップレット内の対象遺伝子の判別ができる技術を開発した。具体的には、例えば、PCR後のドロップレットを平面配置し、ドロップレット内で増幅した対象遺伝子と蛍光標識プローブの融解温度(Tm)を測定することで、PCRの反応効率が不均一でも融解温度の違いによって対象遺伝子の遺伝子型を同定できるようになった。
【0007】
一方、デジタルPCRでは9割のドロップレットが対象遺伝子を含まない空のドロップレットとなるため、対象遺伝子を含まない空のドロップレットを測定装置により見分け、
解析対象データから除去することは、測定再現性および測定精度を向上させる上で重要である。しかし、対象遺伝子を含まない空のドロップレットは蛍光標識プローブがハイブリダイゼーションする相手がいないため、融解温度による判別ができない。一方で、対象遺伝子を含まない空のドロップレットを従来のデジタルPCRのように蛍光強度で判別するのも、次のような理由から難しいことがわかってきた。まず、融解曲線分析を行うために用いているモレキュラービーコンという蛍光標識プローブは、従来のデジタルPCRで用いられていたTaqMan(登録商標)プローブのようにPCR中に自身が分解されて増感するような構造をもたないため、対象遺伝子を含み、ポジティブなドロップレットであっても、PCR後の蛍光強度が小さい。次に、各ドロップレットを広く平面配置して蛍光強度を測定するため、光照射時および蛍光取り込み時に面内ばらつきが生じる。これらのことから、ドロップレット内で対象遺伝子が増幅したドロップレットの蛍光強度が小さくなり、ドロップレット全体の蛍光強度ばらつきが大きくなった結果、シグナル(S)/ノイズ(N)比が低くなり、対象遺伝子を含まない空のドロップレットと対象遺伝子を含むドロップレットを蛍光強度で判別する精度が低くなる場合があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、融解曲線分析を用いたデジタルPCRにおいて、対象遺伝子を含まない空のドロップレットを測定装置により見分け、解析対象データから除去する新たなデジタルPCRの測定方法および測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、融解曲線分析を用いたデジタルPCRにおいて、対象遺伝子を含まない空のドロップレットは温度上昇に伴う蛍光強度変化が小さく、対象遺伝子を含むドロップレットは温度上昇に伴う蛍光強度変化が大きいことから、低温時と高温時の蛍光強度比を測定することによって、対象遺伝子を含まない空のドロップレットを精度よく見分けられることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
本発明の一実施態様は、蛍光標識プローブまたはDNAインターカレーターと検出対象のDNAを含有するDNA溶液を複数の画分に分割する工程と、前記画分の中で核酸増幅反応を行う工程と、温度変化に伴って蛍光強度を測定する工程と、前記温度変化に伴う前記蛍光強度の変化に基づいて計測されるDNA二重鎖の融解温度を算出する工程と、前記温度変化に伴う第1の温度の蛍光強度に対する、第1の温度より低い第2の温度の蛍光強度の比を算出する工程と、を含む、DNA検出方法である。このDNA検出方法は、算出した前記蛍光強度の比が所定の閾値以下の画分を、前記検出対象のDNAを含まない画分と特定する工程をさらに含んでもよい。また、算出した前記蛍光強度の比が所定の範囲内にある画分を、前記検出対象のDNAを含む画分と特定する工程をさらに含んでもよい。
【0011】
上記いずれかのDNA検出方法において、前記DNA溶液が蛍光標識プローブを含み、前記融解温度が、前記蛍光標識プローブと前記検出対象のDNAとの間で形成される二重鎖の融解温度であってもよい。ここで、前記蛍光標識プローブが、蛍光色素とそのクエンチャーを有してもよい。あるいは、前記DNA溶液がDNAインターカレーターを含み、前記融解温度が、前記検出対象のDNAの二重鎖の融解温度であってもよい。
【0012】
上記いずれかのDNA検出方法において、前記複数の画分が平面配置されていてもよい。また、前記DNA溶液を、ドロップレットまたはウェルによって前記複数の画分に分割してもよい。
【0013】
本発明の他の実施態様は、DNA溶液中の検出対象のDNAを検出するためのDNA検出装置であって、前記DNA溶液を加温するための加温部と、前記DNA溶液から放出される蛍光の強度を測定するための蛍光測定部と、前記DNA溶液の温度変化に伴う前記蛍光の強度の変化からDNA二重鎖の融解温度を算出し、前期DNA溶液の第1の温度の蛍
光強度に対する、第1の温度より低い第2の温度の蛍光強度の比を算出する計算部と、を備える、DNA検出装置である。このDNA検出装置は、前記検出対象のDNAを増幅するための増幅部をさらに備えてもよい。また、前記検出結果を表示するモニターをさらに備えてもよい。
【0014】
本発明のさらなる実施態様は、上記いずれかのDNA検出装置などのDNA検出装置に、上記いずれかのDNA検出方法を行わせるためのプログラムである。
【0015】
本発明のさらなる実施態様は、上記プログラムを格納する記録媒体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、融解曲線分析を用いたデジタルPCRにおいて、対象遺伝子を含まない空のドロップレットを精度よく特定でき、測定再現性および測定精度の高い、新たなデジタルPCRの解析方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施態様における融解曲線分析を用いたデジタルPCRにおいて、PCR増幅産物に対し、温度変化に伴う第1の温度の蛍光強度に対する、第1の温度より低い第2の温度の蛍光強度の比を用いて行うDNA検出方法の基本概念を示す図である。
図2】本発明の一実施態様における融解曲線分析を用いたデジタルPCRにおいて、PCR増幅産物の融解温度(Tm)を用いて行うDNA検出方法の基本概念を示す図である。
図3】本発明の一実施態様における、ドロップレットまたはウェルが含む蛍光色素の色と蛍光強度を測定するための蛍光測定部の模式図である。
図4】本発明の一実施態様における、(A)PCR増幅産物の融解温度(Tm)を用いて行うDNA検出方法を用いたデジタルPCR測定結果の一例、(B)PCR増幅産物に対し、温度変化に伴う第1の温度の蛍光強度に対する、第1の温度より低い第2の温度の蛍光強度の比を用いて行うDNA検出方法を用いたデジタルPCR測定結果の一例、を示す図である。
図5】本発明の一実施態様における、温度変化に伴う第1の温度の蛍光強度に対する、第1の温度より低い第2の温度の蛍光強度の比を用いて行うDNA検出方法において、DNAインターカレーターを用いてDNAの融解温度を測定する方法を示す模式図である。
図6】本発明の一実施態様における、温度変化に伴う第1の温度の蛍光強度に対する、第1の温度より低い第2の温度の蛍光強度の比を用いて行うDNA検出方法において、蛍光標識プローブを用いてDNAの融解温度を測定する方法を示す模式図である。
図7】本発明の一実施態様におけるDNA検出方法を行うための装置とその装置で用いるカートリッジを示す模式図である。
図8図7の装置とカートリッジを用いた測定で融解温度測定を行う方法の一実施態様を示すフローチャートである。
図9】モニターに表示される測定結果の一例である。
図10】モニターに表示される測定結果の一例である。
図11】本発明の一実施例において、蛍光標識プローブを用いてウェル内対象遺伝子の有無を判別する結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を
示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0019】
(1)DNA検出方法の原理及び効果
本発明に係るDNA検出方法は、蛍光標識プローブまたはDNAインターカレーターと検出対象のDNAを含有するDNA溶液を複数の画分に分割する工程と、前記画分の中で核酸増幅反応を行う工程と、温度変化に伴って蛍光強度を測定する工程と、前記温度変化に伴う前記蛍光強度の変化に基づいて計測されるDNA二重鎖の融解温度を算出する工程と、を含む。
【0020】
ここで、図1に、前記温度変化に伴う第1の温度の蛍光強度に対する、第1の温度より低い第2の温度の蛍光強度の比を算出することによって、DNAを検出する方法の代表的な実施態様において想定される測定結果の例を示した。また、図2に、DNA検出をPCR増幅産物の融解温度(Tm)を用いて行う場合の融解曲線分析を用いたデジタルPCRの測定結果の例を示した。
【0021】
融解曲線分析を用いたデジタルPCRでは、蛍光標識プローブとDNAとの融解温度が遺伝子型によって異なることを利用し、遺伝子型の判別を行う。図2の例は、対象遺伝子の野生型と変異型のそれぞれに対応した蛍光標識プローブを用いて、ドロップレット内のDNAの融解温度を測定した結果を模式的に示した図である。ここで、蛍光標識プローブは、例えばモレキュラービーコンを用いることができ、以下モレキュラービーコンを例として、DNA検出方法を詳細に説明する。モレキュラービーコンは、検出対象遺伝子を増幅させるPCRに用いられるプライマーペアの間にある配列に相補的であって、両端に相補的な配列を有し、末端にはそれぞれ蛍光色素と消光色素(クエンチャー)が設けられているオリゴヌクレオチドである。モレキュラービーコンは、検出対象遺伝子とハイブリダイズすると、両末端にある蛍光色素と消光色素が離れて蛍光を発するが、温度上昇に伴って検出対象遺伝子から解離すると、両端の相補的な配列がハイブリダイズしてステムループ構造を形成し、蛍光色素と消光色素が近づいて蛍光色素が消光する。検出対象遺伝子の野生型アレルを含むドロップレット201では、検出対象遺伝子の野生型アレルに対応した蛍光標識プローブがPCRにより増幅したDNAにハイブリダイズして蛍光を発し、野生型アレルの蛍光標識プローブに対応した融解温度が観察される。また、検出対象遺伝子の変異型アレルを含むドロップレット202では、検出対象遺伝子の変異型アレルに対応した蛍光標識プローブがPCRにより増幅したDNAにハイブリダイズして蛍光を発し、変異型アレルの蛍光標識プローブに対応した融解温度が観察される。検出対象遺伝子が含まれない空のドロップレット203は、蛍光が検出されない。こうして、蛍光の有無及び蛍光の種類で、野生型アレルを有する検出対象遺伝子の有無及び変異型アレルを有する検出対象遺伝子の有無を判断できる。
【0022】
しかしながら、ドロップレット内のPCRの反応効率はドロップレットごとに均一でないこと、蛍光測定時の測定ばらつきが大きいことなどにより、検出対象遺伝子が含まれるドロップレット201、202からの蛍光強度と、検出対象遺伝子が含まれない空のドロップレット203からの蛍光強度に差がない場合が生じる。そこで、ドロップレット内のDNAに対し、温度変化に伴う蛍光強度変化を測定し、融解曲線分析を行い、融解温度(Tm)を比較することにより、より高精度な遺伝子検出が可能になる。例えば、検出対象遺伝子が含まれない空のドロップレット203の場合、温度変化に伴う蛍光強度変化がないため融解温度は定まらず、不安定な値が生じる。一方、野生型アレルに対応した蛍光標識プローブと変異型アレルに対応した蛍光標識プローブについて、それぞれ異なる波長の蛍光を放出する蛍光色素を用いれば、検出された蛍光色により、野生型アレルを有する遺伝子が存在するのか、変異型アレルを有する遺伝子が存在するのかを決めることができる
。あるいは、両方同じ蛍光色素を用いた場合であっても、各蛍光標識プローブの検出対象遺伝子に対する融解温度(Tm)が異なるように、蛍光標識プローブの配列を決めておき、融解曲線分析を行って、Tmを計算することによって、野生型アレルと変異型アレルのどちらが増幅したかを決定することが可能になる。
【0023】
このように、デジタルPCRでは、実験者が蛍光強度や融解温度の閾値を設定し、対象遺伝子を含まない空のドロップレットをデータから排除したり、変異の種類ごとにドロップレットの数をカウントしたりすることができる。しかしながら、検出対象遺伝子の野生型アレルを含むドロップレット201と検出対象遺伝子の変異型アレルを含むドロップレット202の蛍光強度はばらつきが大きく、蛍光強度分布が広くなる一方、検出対象遺伝子が含まれない空のドロップレット203の蛍光は弱いので、計算された融解温度のばらつきが大きくなってしまう場合がある。その時、図2に示すように、検出対象遺伝子が含まれるドロップレット201、202のグラフ上での分布と、検出対象遺伝子が含まれない空のドロップレット203のグラフ上での分布が重なってしまい、その部分で、遺伝子の有無が判定できなくなって、測定精度が低下する要因となる。特に、デジタルPCRでは、1ドロップレットに1つか0の対象遺伝子が入るように検体を限界希釈してドロップレットを作製するため、作製されたドロップレットの5―9割は対象遺伝子を含まない空のドロップレット203となり、これらの空のドロップレットと対象遺伝子を含むドロップレット201と202の分布が重なっていると、高度に正確な定量が難しくなる場合がある。
【0024】
そこで、低温時と高温時において蛍光標識プローブとDNAとのハイブリダイズによる蛍光強度を測定し、その蛍光強度比を算出すると、図1に示すように、横軸を低温時と高温時の蛍光強度比、縦軸を蛍光標識プローブとDNAの融解温度として計測結果をプロットすることができるようになり、検出対象遺伝子が含まれない空のドロップレット101、検出対象遺伝子の野生型アレルを含むドロップレット102、検出対象遺伝子の変異型アレルを含むドロップレット103を分離することができるようになる。その結果、対象遺伝子を含まない空のドロップレットやPCRの反応効率が不十分なドロップレットを確実に識別することができ、測定再現性および測定精度を向上させることができる。
【0025】
(2)DNA検出装置の主要な構成
本発明のDNA検出装置は、DNA溶液中の検出対象のDNAを検出するためのDNA検出装置であって、DNA溶液を加温するための加温部と、DNA溶液から放出される蛍光の強度を測定するための蛍光測定部と、DNA溶液の温度変化に伴う前記蛍光の強度の変化からDNA二重鎖の融解温度融解温度を算出し、DNA溶液の第1の温度の蛍光強度に対する、第1の温度より低い第2の温度の蛍光強度の比を算出する計算部と、を備える。
【0026】
DNA溶液は、どのような担体にあってもよく、例えば、オイル中のドロップレットであってもよく、プレートなどのウェル内の溶液であってもよい。図3に、DNA検出装置の一例として、ドロップレットまたはウェル中のDNA溶液が含む蛍光色素の色と蛍光強度を測定するための蛍光測定部を有するDNA検出装置を示すが、本発明のDNA検出装置はこれに限定されない。
【0027】
図3Aに示す蛍光測定部の例では、マイクロ流路を用いてドロップレットの蛍光強度を測定する。ドロップレット301がマイクロ流路303中を矢印の方向に流れている。ドロップレット302の位置までドロップレットが流れると、加温部(図示せず)によってドロップレットが加温されつつ、光源304により励起光がドロップレットに照射される。光源304によりドロップレットに含まれる蛍光物質が励起され、発する蛍光を蛍光フィルター305を通してフォトマルチプルメーター306で検出する。検出された蛍光デ
ータは、計算部(図示せず)に送られ、そこで蛍光標識プローブとDNAとの融解温度またはDNAの二重鎖の融解温度が算出される。光源304、蛍光フィルター305、フォトマルチプルメーター306で構成される蛍光検出器は、蛍光色素の色ごとに別々に設けてもよいし、図3Aに示すように1つの光源の励起光で励起して2つの蛍光フィルターでそれぞれの蛍光を同時に検出する構成にしてもよい。
【0028】
また、図3BおよびCのようにドロップレットを平面配置し、ドロップレットの蛍光色素の色と蛍光強度を測定してもよい。具体的には、例えば、ドロップレット311をドロップレット検出用カートリッジ310に平面配置し、加温部である温調ステージ312の上にセットする。温調装置312でドロップレット検出用カートリッジの温度を変化させ、温度変化に伴うドロップレットの蛍光強度を以下の手順で測定する。まず、光源304からレンズ308、フィルター305およびダイクロイックミラー309を通して、励起光をドロップレット検出用カートリッジ310に平面配置したドロップレット311に照射する。励起光によりドロップレットに含まれる蛍光物質が励起され、発する蛍光をダイクロイックミラー309、フィルター305、レンズ308を通してCCDカメラ307で検出する。検出された蛍光データは、計算部(図示せず)に送られ、そこで増幅産物の融解温度が算出される。図3Aでは、ドロップレットを一つずつ処理する必要があるが、多数のドロップレットを一度に処理できるという点で、図3BおよびCの装置が好ましい。また、図3BおよびCの装置では、温調装置312をDNAの増幅反応にも用いることができる点でも、図3Aより好適である。
【0029】
さらに、図3Dのようにドロップレットの代わりにアレイ状に並んだウェルを用いて、1ウェルに1つか0の対象遺伝子が入るように検体を添加し、ウェル内でPCRを行ってウェルの蛍光色素の色と蛍光強度を測定してもよい。具体的には、例えば、ウェル方式検出用カートリッジ313に設けられたウェルに検体を含む反応液を添加後、ウェル内でPCRを行い、加温部である温調ステージ312の上にセットする。温調装置312でウェル方式検出用カートリッジの温度を変化させ、温度変化に伴うウェルの蛍光強度を以下の手順で測定する。まず、光源304からレンズ308、フィルター305およびダイクロイックミラー309を通して、励起光をウェル方式検出用カートリッジ313に平面配置したウェルに照射する。励起光によりウェル内の反応液に含まれる蛍光物質が励起され、発する蛍光をダイクロイックミラー309、フィルター305、レンズ308を通してCCDカメラ307で検出する。検出された蛍光データは、計算部(図示せず)に送られ、そこで増幅産物の融解温度が算出される。図3Dのようにウェルを用いた場合、ドロップレットをドロップレット検出用カートリッジに平面配置する工程なしに、ウェル方式検出用カートリッジ内でPCRから融解曲線分析まで行える。
【0030】
(3)融解曲線分析方法
図4Aは、図2で述べたのと同様に、PCR増幅産物の融解温度(Tm)を用いて行うDNA検出方法を用いた場合で、検出した蛍光強度が重なり、検体溶液内の対象遺伝子の有無を判定できない場合がある測定結果の一例を示す模式図である。一方、図4B図1で述べたのと同様に、PCR増幅産物に対し、温度変化に伴う第1の温度の蛍光強度に対する、第1の温度より低い第2の温度の蛍光強度の比を用いて行うDNA検出方法を用いたデジタルPCR測定結果の一例で、検体溶液内の対象遺伝子の有無をより精度高く判定できた測定結果の一例を示す模式図である。図5および図6は、図4で検出対象遺伝子の有無を判定できなかった検体溶液に対し、溶液内で増幅したDNAの融解曲線分析を行った結果の一例を示す模式図である。
【0031】
図4Aに示すように、融解温度と低温時の蛍光強度により検体溶液内の検出対象遺伝子の遺伝子型判別を行うと、測定結果が検体溶液a404または検体溶液b405の位置にプロットされれば、融解温度の値から溶液a404が検出対象遺伝子の野生型遺伝子を含
み、検体溶液b405が検出対象遺伝子の変異型遺伝子を含むと分かる。しかし、検体溶液c406や検体溶液d407の位置に蛍光強度が観察されると、それらの検体溶液が検出対象遺伝子を含むかどうかは測定結果から判断することができない。
【0032】
そこで、DNAインターカレーターを用いて検体溶液内で増幅したDNAの融解温度を測定する際に、低温時と高温時の蛍光強度比も算出することによって、図4aで判別できなかった対象遺伝子の有無を判別することができるようになる。具体的な方法は、まず、DNAインターカレーター502をPCR反応液に添加して検体溶液を作製し、PCRなどの核酸増幅反応を行うと、室温程度の温度では検体溶液内で増幅した2本鎖DNA501にDNAインターカレーター502が結合し、強い蛍光を発する。その後、検体溶液の温度が上昇するにつれ、検体溶液内の2本鎖DNA501が解離して1本鎖DNA501となり、DNAインターカレーター502が結合しなくなるため、蛍光強度が減少する。このときの温度変化に対する蛍光強度変化をグラフにプロットした時の結果の一例を図5に示す。なお、温度変化に対する蛍光強度変化の測定は、核酸増幅反応とは独立に(例えば、核酸増幅反応完了後に)、検体溶液を昇温させることによって行ってもよい。
【0033】
図5では、検体溶液a404の測定結果が図5C、検体溶液b405の測定結果が図5A、検体溶液c406の測定結果が図5B、検体溶液d407の測定結果が図5Dに示されている。さらに、図5A〜Dの蛍光強度変化を温度変化で微分するとそれぞれ図5E〜Hのようになり、蛍光強度変化の変極点となる温度が求められ、これがDNA二重鎖の融解温度として算出できる。図4Aでは、検体溶液c406と検体溶液d407は検体溶液が対象遺伝子を含むのかどうか測定結果から判断することができなかったが、温度変化に伴う蛍光強度変化が図5Bは大きく、図5Dは小さいため、図4Bのように低温時と高温時の蛍光強度比を横軸に、融解温度を縦軸にプロットすると検体溶液c406は対象遺伝子の野生型を含み、検体溶液d407は対象遺伝子を含まない空の溶液だと判断できる。
【0034】
なお、対象遺伝子の融解温度は、プライマーの設計を変えることでPCR増幅産物の配列や配列の鎖長に依存して制御することができる。
【0035】
ここで用いるDNAインターカレーターは、2本鎖DNAと結合することによって蛍光強度が増加し、2本鎖DNAの検出に用いることのできるインターカレーターであれば適用できる。具体的には、SYBR(登録商標) Green IやSYBR Gold、PicoGreen(登録商標)、SYTO(登録商標) Blue、SYTO Green、SYTO Orange、SYTO Red、POPO(登録商標)−1、BOBO(登録商標)−1、YOYO(登録商標)−1、TOTO(登録商標)−1、JOJO(登録商標)−1、POPO−3、LOLO(登録商標)−1、BOBO−3、YOYO−3、TOTO−3、PO−Pro(登録商標)−1、YO−Pro(登録商標)−1、TO−Pro(登録商標)−1、JO−Pro(登録商標)−1、PO−Pro−3、YO−Pro−3、TO−Pro−3、TO−Pro−5、エチジウムブロマイドなどが適用可能である。DNAインターカレーターが熱耐性である場合、PCR反応を行う前からドロップレットに添加しておくことができる。
【0036】
図6に示すように、本方法で、DNAインターカレーターの代わりとして、蛍光標識プローブを用いることもできる。蛍光標識プローブは、両端またはその近傍に蛍光色素とそのクエンチャーを有し、両端周辺の配列が相補的になっており、モレキュラービーコンのようなステムループ構造を形成する一方、ループ部分の配列が検出対象遺伝子と相補的になっており、検出対象遺伝子にハイブリダイズできるような構造を有するように設計する。蛍光標識プローブ602は、単独で遊離して存在するとき、ステムループを形成し、蛍光色素603とクエンチャー604が近接しているため、蛍光は発しない。蛍光標識プローブ602をPCR反応が終了した検体溶液に添加すると、室温程度の温度では検体溶液
に内で増幅したDNA601に蛍光標識プローブ602のループ部分がアニールし、蛍光色素603とクエンチャー604が離れるため、蛍光標識プローブ602は強い蛍光を発する。その後、検体溶液を加熱すると、DNA601と蛍光標識プローブ602が解離し、蛍光標識プローブ602内でステムループが形成するため蛍光標識プローブ602からの蛍光強度が低下する。さらに検体溶液を加熱すると、蛍光標識プローブ602のステムループも解離するため、蛍光強度が再度増加する。このときの温度変化に対する蛍光強度変化をグラフにプロットした時の結果の一例を図6に示す。なお、この蛍光標識プローブは、PCRのための蛍光標識プローブと共用してもよいが、PCRのための蛍光標識プローブとは別のプローブを作製して用いてもよい。また、温度変化に対する蛍光強度変化の測定は、核酸増幅反応の中で行ってもよく、核酸増幅反応とは独立に(例えば、核酸増幅反応完了後に)、検体溶液を昇温させることによって行ってもよい。
【0037】
図6では、検体溶液a404の測定結果が図6C、検体溶液b405の測定結果が図6A、検体溶液c406の測定結果が図6B、検体溶液d407の測定結果が図6Dのようになる。さらに、図6A〜Dの蛍光強度変化を温度変化で微分するとそれぞれ図6E〜Hのようになり、蛍光強度変化の変極点となる温度が求められ、これが検出対象遺伝子を検出するための蛍光標識プローブとDNAの融解温度となる。図4Aでは、検体溶液c406と検体溶液d407は検体溶液が検出対象遺伝子を含むのかどうか測定結果から判断することができなかったが、温度変化に伴う蛍光強度変化が図6Bは大きく、図6Dは小さいため、図4Bのように低温時と高温時の蛍光強度比を横軸に、融解温度を縦軸にプロットすると検体溶液c406は検出対象遺伝子の野生型を含み、検体溶液d407は検出対象遺伝子を含まない空の検体溶液だと判断できる。
【0038】
なお、検出対象遺伝子を検出するための蛍光標識プローブの融解温度は、プローブの配列や鎖長を変えることで制御することができる。また、Peptide Nucleic
Acid(PNA)やLocked Nucleic Acid(LNA)のような人工DNAを利用することで、融解温度を制御することができる。
【0039】
ここで用いる蛍光標識プローブ602の蛍光色素603とクエンチャー604の組み合わせは、一般的にリアルタイムPCRに用いられている組み合わせであれば特に限定されず、蛍光色素603がFAM、VIC、ROX、Cy3、Cy5など、クエンチャー604がTAMRA、BHQ1、BHQ2、BHQ3などが例示できる。
【0040】
蛍光標識プローブ602が認識する配列は、検出対象遺伝子と同じ遺伝子上にあっても、異なる遺伝子上にあってもよく、検出対象の遺伝子と1塩基だけ異なる配列を有する遺伝子、例えば同じ遺伝子の野生型と変異型であってもよい。一例として、肺がんの遺伝子検査を行う場合であれば、分子標的薬の効果を予測するため、ALK融合遺伝子とEGFR遺伝子変異の有無を判定する。その時、ALK融合遺伝子とEGFR遺伝子の各々を認識する配列であってもよいし、EGFRのL858R変異型とその野生型を認識する配列であってもよい。
【0041】
(4)DNA検出装置の他の構成
本発明の一実施態様にかかるDNA検出装置は、検出対象のDNAを含有するDNA溶液をオイルに加えてドロップレットを作製するためのドロップレット作製部、及び/又はドロップレットに対してDNAを増幅するための増幅部を含んでもよい。
【0042】
図7は、本発明の方法を行うための装置とその装置で用いるカートリッジの一例を示す図である。図7Aに示すように、デジタルPCR測定装置721はドロップレット作製部701、増幅部としてのサーマルサイクラー702、ドロップレット検出部703、モニター704、制御部724から構成される。ドロップレット作製部701は、図7Bに示
すドロップレット作製用カートリッジ705をセットして用いる。ドロップレット作製用カートリッジ705は、オイル供給口715、PCR反応液導入口716、ドロップレット排出口717をもつ。ドロップレット検出部703は、図7Cに示すドロップレット検出用カートリッジ707を温調装置722の上にセットして用いる。ドロップレット検出用カートリッジ707は、オイル供給口718、ドロップレット導入口719、液溜723、廃液排出口720をもつ。ドロップレット作製用カートリッジのオイル供給口715はデジタルPCR測定装置721と流体的に接続され、ポンプ709によってオイル713が供給される。ドロップレット作製用カートリッジのPCR反応液導入口716はデジタルPCR測定装置721と流体的に接続され、ポンプ708によって窒素ガスや空気などのガスまたはオイル712が供給される。ドロップレット作製用カートリッジのドロップレット排出口717はデジタルPCR測定装置721と流体的に接続され、サーマルサイクラー702にセットしたマイクロチューブ706へとつながっている。ドロップレット検出用カートリッジ707のオイル供給口718はデジタルPCR測定装置721と流体的に接続され、ポンプ710によってオイル713が供給される。ドロップレット検出用カートリッジ707のドロップレット導入口719はデジタルPCR測定装置721と流体的に接続され、サーマルサイクラー702にセットしたマイクロチューブ706へとつながっている。ドロップレット検出用カートリッジ707の廃液排出口720は、デジタルPCR測定装置721と流体的に接続され、ポンプ711によって廃液溜め714にドロップレット検出用カートリッジ707内の廃液が排出される。ポンプは、ペリスタポンプであっても、シリンジポンプであっても、ダイアフラムポンプであってもよい。モニター704は、測定結果やメッセージを表示するための表示部であり、ユーザーが操作を入力する入力部でもある。
【0043】
本発明の他の実施態様にかかるDNA検出装置は、検出対象のDNAを含有するDNA溶液をチップにアレイ上に並んだウェルに塗布するためのチップ作製部、及び/又はウェル内でDNAを増幅するための増幅部を含んでもよい。
【0044】
(5)融解温度測定方法
図7の装置とカートリッジ、及びDNAインターカレーターまたはモレキュラービーコンを用いて融解温度測定を行う方法の一例を、図8のフローチャートを参考にしながら説明する。まず、DNAを含む生体試料由来の検体溶液を、DNAポリメラーゼ、プライマー、DNAインターカレーターまたはモレキュラービーコン、デオキシリボヌクレオチド類、緩衝液を含むPCR反応液に添加する(S801)。このPCR反応液をドロップレット作製用カートリッジ705のPCR反応液導入口716に添加する(S802)。ドロップレット作製用カートリッジ705をデジタルPCR測定装置721のドロップレット作製部701にセットする。オイル供給口715からオイル713を、PCR反応液導入口716からオイル712を添加する(S803)と、ドロップレット作製用カートリッジ705内のオイルとPCR反応液の流路が交わる部位において、ドロップレットが生成する。生成したドロップレットは、ドロップレット排出口717から排出され、サーマルサイクラー内にあらかじめ設置しておいたマイクロチューブ706に移動し、チューブ内に貯蔵される(S804)。所定数のドロップレットが得られたところで、マイクロチューブ706の蓋を閉め、サーマルサイクラーの温度制御によりPCRを行う(S805)。変性工程、伸長工程、アニーリング工程のサイクルを繰り返すことで、DNAが増幅するとともに、DNAインターカレーターの場合は増幅したDNAにインターカレートし、モレキュラービーコンの場合は増幅したDNAにハイブリダイズすることによって、蛍光強度が高くなる。各工程の温度や時間、サイクル数などの反応条件は、当業者が容易に設定することができる。PCR後、温度を室温へと下げると合成したDNAは2本鎖を形成する。PCR後、ドロップレット検出部703にあらかじめ設置しておいたドロップレット検出用カートリッジのドロップレット導入口719からドロップレットを、オイル供給口718からオイル713を添加する(S806)。ドロップレット検出部703にお
いて、ドロップレット検出用カートリッジの液溜723に溜めたドロップレットの蛍光標識プローブの蛍光強度を測定する(S807)。温調装置722によりドロップレット検出用カートリッジの液溜723を50℃から85℃まで昇温し、DNAインターカレーターまたはモレキュラービーコンからの蛍光強度を測定する(S808)。検出された蛍光データは、計算部(図示せず)に送られ、そこで、昇温による蛍光強度変化が温度変化で微分され、蛍光強度変化の変極点が融解温度として算出される(S809)。40℃と95℃における蛍光強度の比が閾値以下のドロップレットを空と判定する(S810)。蛍光標識プローブの蛍光強度が閾値以上および融解温度が所定の範囲内のドロップレットをカウントする(S811)。対象遺伝子を含むドロップレットの数と空のドロップレットの数をモニターに表示する(S812)。なお、所定の蛍光強度の閾値および融解温度の所定の範囲はあらかじめ、パイロット実験などで作業者が決めておくことができる。
【0045】
用いる検体溶液は特に限定されないが、検出対象のDNAを含む試料であればよく、動植物の体液や組織、細胞、排泄物などの生体試料や、土壌サンプルなど真菌や細菌などが含まれる試料が例示できる。体液としては血液、唾液、髄液などが例示でき、血液中には存在するセルフリーDNA(cfDNA)や血中循環腫瘍DNA(ctDNA)が含まれる。組織としては、外科手術や生検法によって得られた疾患の患部(例えば、乳房や肝臓などのがん組織)が例示できる。すでに固定された組織でもよく、例えばホルマリン固定パラフィン包埋組織切片(FFPE)でもよい。細胞としては、生検法によって採取した患部またはその付近の細胞や、血液中を循環する血中循環腫瘍細胞などが例示できる。これらの検体の前処理は特に限定されず、生体や環境などから採取後、懸濁液に添加してホモジネートしたり、あるいは溶解液で溶解させたりしたものをそのまま用いてもよいが、それらに含まれる核酸を抽出したり、精製したものを用いることが好ましい。
【0046】
オイルはドロップレットを構成するPCR反応液に不溶性もしくは難溶性である化学的に不活性な物質であり、また、PCRのような高温での温度変化に対して安定である物質が好ましく、フッ素系オイル、シリコーン系オイル、炭化水素系オイルなどが使用可能である。フッ素系オイルとしては、例えばPerfluorocarbonやHydrofluoroetherなどが挙げられる。フッ素系オイルは、炭素鎖が長いほうが揮発性が低いので好ましい。また、フッ素系オイルは比重が1.7超であり、PCR反応液の溶媒である水の比重1に比べて重いため、作製したドロップレットはオイルに浮く。シリコーン系オイルとしては、例えばPolyphenylmethylsiloxaneやTrimethylsiloxysilicateなどが挙げられる。シリコーン系オイルはフッ素系オイルと異なり、比重が0.98程度でPCR反応液の溶媒である水の比重に近く、作製したドロップレットはオイル中に均一に分散する。炭化水素系オイルとしては、例えばミネラルオイルや流動パラフィン、ヘキサデカンなどが挙げられる。炭化水素系オイルは比重が0.84程度でPCR反応液の溶媒である水の比重よりも軽いため、作製したドロップレットはオイルに沈む。
【0047】
このオイルは、界面活性剤を添加して用いてもよい。ここで界面活性剤の種類は特に限定されないが、Tween 20、Tween 80、Span80、Triton X−100などが適用可能である。
【0048】
(6)結果の表示
図9および図10は、モニターに表示される測定結果のイメージの一例である。図9に示すように、がん関連遺伝子の種類や変異の種類ごとにカウントされた検体溶液の数が表示されてもよいし、図10に示すように、がん関連遺伝子の種類や変異の種類ごとにカウントされた検体溶液の割合が表示されてもよい。モニターに表示される結果は、図9図10のような検体溶液の数や割合だけでなく、図1のような低温時と高温時の蛍光強度比、融解温度の2軸で検体溶液の計測値をプロットしたグラフを含んでいてもよい。また、
蛍光標識プローブの蛍光強度または融解温度に対する検体溶液の数をプロットしたヒストグラムを含んでいてもよい。ユーザーがそのグラフやヒストグラムを見て、蛍光標識プローブの蛍光強度や蛍光強度比の閾値および/または融解温度の範囲の設定を変えて、蛍光強度の閾値内及び融解温度の範囲内にある検体溶液の数を再度カウントすることもできる。
【0049】
なお、上述したように、検体溶液はドロップレットやウェル中の溶液として扱われるので、検体溶液数の代わりに、ドロップレット数やウェル数。として表されてもよい。
【0050】
(7)プログラム
本発明の一実施態様は、DNA検出装置に、DNA検出方法を行わせるためのプログラムである。ここでDNA検出装置は、(2)で詳述した装置を用い、DNA検出方法として、(1)で詳述した方法を実行する。
【0051】
また、このプログラムを格納する記録媒体も、本発明の実施形態の一つである。
【実施例】
【0052】
本実施例では、蛍光標識プローブを用いて、ウェル内のDNAの融解温度を測定した結果を示す。
【0053】
まず、KRAS遺伝子の野生型およびG12D変異型のゲノムDNA(最終濃度67分子/μL)を用意し、PCRに必要となるDNAポリメラーゼ、フォワードプライマー(最終濃度0.25μM)、リバースプライマー(最終濃度0.5μM),野生型に対応した蛍光標識プローブ(最終濃度0.5μM)、G12D変異型に対応した蛍光標識プローブ(最終濃度0.5μM)、及び1xマスターミックス(DNAポリメラーゼ,dNTPを含む)を加え、PCR反応液を調製した。このとき、蛍光標識プローブの相補DNA鎖が過剰に増幅するようにプライマーペアの濃度は非対称になるように添加した。プライマー及びプローブの配列は以下のとおりである。なお、蛍光標識プローブはいずれも、両端に相補鎖を形成する特殊分子を含む。また、5’末端に蛍光色素としてFAM、3’末端にクエンチャーとしてBHQ−1が結合している。
【0054】
フォワードプライマー:5'‐AGGCCTGCTGAAAATGACTGAATAT‐3' (配列番号1)
リバースプライマー:5'‐GCTGTATCGTCAAGGCACTCTT‐3' (配列番号2)
野生型に対応した蛍光標識プローブ:5'‐TTGGAGCTGGTGGCGT‐3' (配列番号3)
変異型に対応した蛍光標識プローブ:5'-TTGGAGCTGATGGCGT‐3' (配列番号4)
その後、各ウェルに対し、KRAS遺伝子の野生型またはG12D変異型のDNAのいずれかが1個入るか、どちらも入らないようにするため、15μLのPCR反応液を入れて、PCRによりDNAを増幅した。PCRの反応は,95℃、10分処理後、(95℃,15秒→60℃,75秒)を45サイクル行い、最後に98℃、2分処理をした。反応後、ウェルが設けられたチップを温調ステージ上で加熱しながら各ウェルの蛍光強度変化を観察し、融解曲線の測定および解析を行った。
【0055】
図12Aは、PCR反応液にKRAS遺伝子の野生型のみを添加した際の50℃における蛍光強度のヒストグラムを示したものである。50℃では、KRAS遺伝子の野生型を含むウェルでは増幅したDNAと蛍光標識プローブがハイブリダイズして蛍光を発するため、空のウェルとKRAS遺伝子の野生型を含むウェルの2つのピークが観察される。しかし、KRAS遺伝子の野生型を含むウェルのピークは高さが低くブロードなため、空のウェルとの判別は難しい。
【0056】
図12Bは、PCR反応液にKRAS遺伝子の野生型のみを添加した際の85℃におけ
る蛍光強度のヒストグラムを示したものである。85℃では、ハイブリダイズした増幅したDNAと蛍光標識プローブが解離するため、KRAS遺伝子の野生型を含むウェルの蛍光強度も低くなり、空のウェルの蛍光強度と変わらなくなるため、それぞれに対応するピークが重なり、1つのピークとなる。すなわち、空のウェルでは温度変化に伴う蛍光強度変化が小さく、KRAS遺伝子の野生型を含むウェルでは温度変化に伴う蛍光強度変化が大きいことが分かる。
【0057】
そこで、図12Cのように、85℃の蛍光強度に対する50℃の蛍光強度の比を用いてヒストグラムを作成すると、空のウェルとKRAS遺伝子の野生型を含むウェルのピークを明確に分離することができる。
【0058】
次に、KRAS遺伝子の野生型とG12D変異型を混合し、遺伝子型の判別を行った。反応条件は、上記と同じで行った。図12Cは、各ウェルの50℃のときの蛍光強度を横軸に、融解温度を縦軸にプロットしたグラフである。蛍光強度が4000のあたりに空のウェルの集団があり、蛍光強度が4000から14000のあたりにKRAS遺伝子の野生型とG12D変異型を含むウェルの集団がある。KRAS遺伝子のG12D変異型は、野生型の配列が1塩基グアニンからアデニンに変異しており、野生型に比べて融解温度が低いので、融解温度が68℃付近に見られる集団が野生型で、融解温度が65℃付近に見られる集団が変異型である。しかし、野生型もG12D変異型も蛍光強度のばらつきが大きく、空のウェルと判別するのが難しい部分がある。
【0059】
図12Dは、85℃の蛍光強度に対する50℃の蛍光強度の比を横軸に、融解温度を縦軸にプロットしたグラフである。85℃の蛍光強度に対する50℃の蛍光強度の比を横軸に用いた結果、KRAS遺伝子を含むウェルの横軸方向のばらつきが小さくなり、空のウェル、野生型を含むウェル、G12D変異型を含むウェルの集団を明確に判別できる。
【0060】
このように、低温時と高温時の蛍光強度比を用いることで、対象遺伝子を含まない空のドロップレットを測定装置により見分け、測定再現性および測定精度の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0061】
101 野生型の遺伝子を含むドロップレット
102 変異型の遺伝子を含むドロップレット
103 空のドロップレット
201 野生型の遺伝子を含むドロップレット
202 変異型の遺伝子を含むドロップレット
203 空のドロップレット
301 対象遺伝子を含むドロップレット
302 対象遺伝子を含まないドロップレット
303 マイクロ流路
304 光源
305 フィルター
306 フォトマルチプルメーター
307 CCD
308 レンズ
309 ダイクロイックミラー
310 ドロップレット検出用カートリッジ
311 ドロップレット
312 温調装置
313 ウェル方式検出用カートリッジ
314 対象遺伝子を含むウェル
315 対象遺伝子を含まないウェル
401 野生型の遺伝子を含むドロップレット
402 変異型の遺伝子を含むドロップレット
403 空のドロップレット
404 ドロップレットa
405 ドロップレットb
406 ドロップレットc
407 ドロップレットd
501 DNA
502 DNAインターカレーター
503 融解温度
601 DNA
602 蛍光標識プローブ
603 蛍光色素
604 クエンチャー
605 融解温度
701 ドロップレット作製部
702 サーマルサイクラー
703 ドロップレット検出部
704 モニター
705 ドロップレット作製用カートリッジ
706 マイクロチューブ
707 ドロップレット検出用カートリッジ
708〜711 ポンプ
712 オイル
713 オイル
714 廃液溜め
715 オイル供給口
716 PCR反応液導入口
717 ドロップレット排出口
718 オイル供給口
719 ドロップレット導入口
720 廃液排出口
721 デジタルPCR測定装置
722 温調装置
723 液溜
724 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]