【解決手段】鋏1は、上側刃体2と、下側刃体3と、これらを枢支する枢支部4と、上側刃体2の傾きを調整する傾き調整機構19とを有して成り、枢支部4は、枢軸11と、枢軸11を軸支するとともに上側刃体2の凹曲面20に凸曲面18Aが回動自在に収受されるコマ状体10と、コマ状体10を上側刃体2に固定する固定板9とから構成され、傾き調整機構19は、固定板9とコマ状体10との隙間を調整する3以上の隙間調整機構26で構成されている。
上側刃体と、前記上側刃体と僅少隙間を介して重ね合わせられる下側刃体と、前記上側刃体と前記下側刃体とを回動自在に枢支する枢支部と、前記下側刃体に対する前記上側刃体の傾きを調整する傾き調整機構と、を有して成り、
前記枢支部は、
軸端部が前記下側刃体に固定される枢軸と、
前記枢軸を回動自在に軸支する軸受部および外周が下向きに縮径する凸曲面である円盤部を有するとともに前記上側刃体に上下貫通して形成された軸支孔の凹曲面に前記円盤部の凸曲面が回動自在に収受されるコマ状体と、
前記コマ状体を前記上側刃体に固定する固定板と、から構成され、
前記傾き調整機構は、前記枢支部の固定板に設けられていて当該固定板と前記コマ状体の円盤部との隙間を調整する3以上の隙間調整機構で構成されていることを特徴とする鋏。
前記隙間調整機構は、前記コマ状体の上方に配置される位置の固定板に上下貫通して形成された調整用雌ネジ孔と、前記調整用雌ネジ孔に螺合して前記コマ状体の円盤部を押す調整用雄ネジと、から構成されている請求項1に記載の鋏。
前記隙間調整機構が、前記固定板に4個設けられていて、前記下側刃体に対する前記上側刃体の刃長手方向の傾きと刃短手方向の傾きを調整するように構成されている請求項1または請求項2に記載の鋏。
前記固定板を嵌入する装着穴が前記上側刃体の上面で前記軸支孔の周囲に下向きに陥没して形成され、前記コマ状体の軸受部を挿通する装着孔が前記固定板に形成されている請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の鋏。
前記枢軸は、軸端部からネジ軸心方向に延びる割り溝を有していて前記下側刃体の軸用雌ネジ孔に螺止される割り雄ネジで構成され、当該割り雄ネジが前記下側刃体の軸用雌ネジ孔とは異なるネジピッチで形成されている請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の鋏。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来の鋏では、支点部67,67が鍔部56の底面の固定位置に設けられていて、底面からの支点部67,67の突出量が一定であり、下側刃体53に対する上側刃体52の傾き調整は刃長手方向のみである。そのために、刃先の当り具合を調整することはできるが、それ以外には活用できなかった。また、固定用雄ネジ58,58は、鍔付筒体55を上側刃体52に固定する機能と、上側刃体52に対して鍔付筒体55を傾けることにより上側刃体52を下側刃体53から傾ける機能を併せ持っているので、固定操作と傾き操作を別々に行なうことができず、傾きの微調整まではできない。また、傾き調整は固定用雄ネジ58,58で行ない、揺動支点は支点突起67,67が担うので、これらの操作を別々の部品が担当しなければならなかった。
【0005】
一方で、鍔付筒体55の下側筒部分59は上側刃体52の貫通孔61内に格納されているものの、鍔部56が上側刃体52の上面52Dに載っているだけなので、鍔付筒体55の大部分が上側刃体52の上面52Dから大きく突出して上下に嵩張っている。そのために、この鋏は整髪作業を行なううえで取り扱いにくいと考えられる。また、支点突起67,67の存在により、鍔付筒体55の鍔部56と上側刃体52の上面52Dとの間に生じる隙間SBが外部に開放されているので、切られた毛髪片やフケがその隙間SBに入り込んで溜まりやすいという課題もある。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、下側刃体に対する上側刃体の刃長手方向の傾き調整はもとより、刃短手方向の傾き調整も行なうことができ、これら両方向の傾きの微調整も可能な鋏の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る鋏は、上側刃体と、上側刃体と僅少隙間を介して重ね合わせられる下側刃体と、上側刃体と下側刃体とを回動自在に枢支する枢支部と、下側刃体に対する上側刃体の傾きを調整する傾き調整機構と、を有して成り、枢支部は、軸端部が下側刃体に固定される枢軸と、枢軸を回動自在に軸支する軸受部および外周が下向きに縮径する凸曲面である円盤部を有するとともに上側刃体に上下貫通して形成された軸支孔の凹曲面に円盤部の凸曲面が回動自在に収受されるコマ状体と、コマ状体を上側刃体に固定する固定板と、から構成され、傾き調整機構は、枢支部の固定板に設けられていて当該固定板とコマ状体の円盤部との隙間を調整する3以上の隙間調整機構で構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
また、前記構成において、隙間調整機構は、固定板における穿設された調整用雌ネジ孔と、調整用雌ネジ孔に螺合してコマ状体の円盤部を押し引きする調整用雄ネジと、から構成されているものである。
【0009】
そして、前記した各構成において、隙間調整機構が、固定板に4個設けられていて、下側刃体に対する上側刃体の刃長手方向の傾きと刃短手方向の傾きを調整するように構成されているものである。
【0010】
更に、前記した各構成において、固定板を嵌入する装着穴が上側刃体の上面で軸支孔の周囲に下向きに陥没して形成され、コマ状体の軸受部を挿通する装着孔が固定板に形成されているものである。
【0011】
また、前記した各構成において、枢軸は、軸端部からネジ軸心方向に延びる割り溝を有していて下側刃体の軸用雌ネジ孔に螺止される割り雄ネジで構成され、その割り雄ネジが下側刃体の軸用雌ネジ孔とは異なるネジピッチで形成されているものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る鋏によれば、枢支部が枢軸とコマ状体と固定板とから構成され、3以上の隙間調整機構から成る傾き調整機構を備えているので、3以上の隙間調整機構を用いることにより、上側刃体の刃長手方向の傾き調整はもとより、刃短手方向の傾き調整も行なうことができる。また、コマ状体は固定板によって上側刃体に固定されるので、上側刃体の傾き調整をコマ状体の固定操作とは別に行なえるから、傾きの微調整も可能となる。
【0013】
また、隙間調整機構が、固定板の調整用雌ネジ孔と、コマ状体の円盤部を押す調整用雄ネジとから構成されているものでは、調整用雄ネジの回動により、コマ状体を固定板に対して傾けられるので、下側刃体に対する上側刃体の傾き調整をコマ状体の固定操作とは別に行なうことができる。すなわち、コマ状体が固定板で固定された状態でも、上側刃体の傾き調整ができ更には傾きの微調整も可能になる。
【0014】
そして、隙間調整機構が固定板に4個設けられて上側刃体の傾きを調整するように構成されているものでは、2個1組ずつで、上側刃体と下側刃体の刃先の当りを調整できるのはもとより、上側刃体と下側刃体の刃線が摩耗して切れ味が落ちてきたときに、下側刃体に対する上側刃体の刃短手方向の傾きを大きくさせて、切れ味を戻すこともできる。
【0015】
更に、上側刃体の上面に装着穴が形成されているものでは、コマ状体の軸受部を装着孔に挿通された固定板が上側刃体の装着穴に嵌入されるので、高さ寸法が小さな薄手の枢支部を有して取扱い性がよく、固定板とコマ状体の間の隙間に毛髪片やフケなどが入りにくい鋏を提供することができる。
【0016】
また、枢軸が、下側刃体の軸用雌ネジ孔とは異なるネジピッチで形成された割り雄ネジで構成されているものでは、枢軸を回した分だけ割り雄ネジが変形しながら軸用雌ネジ孔内を螺進し、力を抜くとその位置で掛止されるから、任意の所望位置で枢軸を固定できる。これにより、上側刃体および下側刃体が互いに回動しやすく且つガタの少ない締め具合に、枢軸の調整を行なうことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。ここに、
図1は本発明の一実施形態に係る鋏の平面図である。
図1において、この実施形態に係る鋏1は、上側刃体2と、上側刃体2と僅少隙間S(
図7参照)を介して重ね合わせられる下側刃体3と、上側刃体2と下側刃体3とを回動自在に枢支する枢支部10と、下側刃体3に対する上側刃体2の傾きを調整する傾き調整機構19と、から構成されている。前記の上側刃体2は、刃線5Cを有する刃部5と、刃部5の接続部位5Bで溶接などにより接続される薬指用の指環部6Aを備えたハンドル部6と、から構成されている。前記の下側刃体3は、刃線7Cを有する刃部7と、刃部7の接続部位7Bで溶接などにより接続される親指用の指環部8Aを備えたハンドル部8と、から構成されている。
【0019】
また、前記した上側刃体2の刃部5は、
図2(a)〜(c)に示すように、長尺板状に形成されたものであり、接続部位5Bの反対側端部に刃先5Aがある。刃部5の接続部位5Bの近傍には、円形の軸支孔15が上下貫通して形成されている。軸支孔15の内周壁は、下向きに膨らみながら縮径する凹曲面20が形成されている。外面5Dの反対面である下面は僅かに凹陥した裏梳き面5Eとされ、軸支孔15の近傍位置から刃先5Aまでの一辺が切断用の刃線5Cとなっている。外面5Dにおける軸支孔15の周囲には、楕円形に似た平面形状の受台部13が下向きに陥没して刻設されている。外面5Dと受台部13との間に形成された空間は、後出する固定板9を殆ど隙間なく密着した状態で嵌入するための、装着穴12となっている。また、受台部13において軸支孔15を挟んだ位置には、上下方向の雌ネジ孔14,14が形成されている。
【0020】
図2(d)に示すように、前記の刃部7は刃部5と同様の平面形状であり、接続部位7Bの反対側端部に刃先7Aが設けられている。刃部7の接続部位7B近傍には軸用雌ネジ孔16が上下貫通して形成され、軸用雌ネジ孔16の近傍位置から刃先7Aまでの一辺が刃部5の刃線5Cと交接する刃線7Cとなっている。外面7Dの反対面である上面は僅かに凹陥した裏梳き面7Eとなっている。
【0021】
前記のコマ状体10は、
図3に示した恰も独楽のような外形を成しており、下側刃体3の刃部7の軸用雌ネジ孔16に軸下端部が固定される枢軸11と、枢軸11の上部に回動自在に軸支される回転子25と、から構成されている。回転子25は、枢軸11を軸支するための軸受孔36(
図7参照)を有する円筒状の軸受部17と、軸受部17の下部に軸受部17よりも大径で一体的に形成された円盤部18と、から構成されている。軸受部17の軸受孔36は、上下1組のボールベアリング35,35(
図7参照)が嵌着されるとともに枢軸11が挿通されるように上下貫通して形成されている。円盤部18は、上面18Bおよび下面18Cが平らで、外周面が下向きに縮径する截底球面状の凸曲面18Aとして形成されている。
【0022】
前記の枢軸11は、軸下端部からネジ軸心(1点鎖線C)方向に延びる割り溝11Bを有する割り雄ネジ11Aとして構成されており、その上端面に六角レンチ用の六角穴11Cが形成されている。割り雄ネジ11Aは、下側刃体3の刃部7の軸用雌ネジ孔16に螺止される。この割り雄ネジ11Aの雄ネジ部は、下側刃体3の軸用雌ネジ孔16のネジピッチ(例えば1.0mm)よりも広いネジピッチ(例えば1.1mm)に形成されている。但し、割り雄ネジ11Aのネジピッチおよび軸用雌ネジ孔16のネジピッチは、例示した数値のものに限定されない。
【0023】
前記の固定板9は、
図4に示すように、上側刃体2の刃部5の装着穴12に嵌合される平面略楕円形の板本体21から構成されている。この板本体21の平面中央部には、その下面21A側からコマ状体10の回転子25の軸受部17を挿通される装着孔22が上下貫通して形成されている。この装着孔22の周囲には、4つの調整用雌ネジ孔24,24,24,24がそれぞれ上下貫通して穿設されている。この調整用雌ネジ孔24は、板本体21の長手方向に1組、および短手方向に1組がそれぞれ配置されている。そして、調整用雌ネジ孔24の長手方向の両側の外方位置には、固定ネジ30を通される軸孔23A,23Aが上下貫通して形成されている。各軸孔23Aの上部には、固定ネジ30の大径部を受けるための段部23が形成されている。
【0024】
そうして、前記した鋏1の構成部品は、
図5に示すように組み立てられる。まず、上側刃体2が下側刃体3の上に重ね合わせられ、その状態で上側刃体2の軸支孔15にコマ状体10の枢軸11が通されて割り雄ネジ11Aが下側刃体3の軸用雌ネジ孔16に螺進される。そのうち、コマ状体10の回転子25の凸曲面18Aが上側刃体2の凹曲面20に嵌って収受される。一方で、固定板9の調整用雌ネジ孔24,24,24,24に調整用雄ネジ31,31,31,31が螺合される。これらの調整用雄ネジ31,31,31,31は尖端31A,31A,31A,31Aが固定板9の下面21Aから僅かに突出した状態にしておくとよい。その状態の固定板9が上側刃体2の装着穴12に装着されて受台部13上に載置される。そして、固定ネジ30,30が固定板9の軸孔23A,23Aを通されて上側刃体2の雌ネジ孔14,14に螺止され、これによって固定板9が上側刃体2に固定される。このとき、コマ状体10の凸曲面18Aは、枢支面である上側刃体2の凹曲面20に面支持されて摺動自在な状態になっている。
【0025】
このようにして組み立てられた枢支部4は、
図6および
図7に示すように、軸端部である割り雄ネジ11Aが下側刃体3の刃部7の軸用雌ネジ孔16に螺止固定される枢軸11と、枢軸11を回動自在に軸支する軸受部17および外周が下向きに縮径する凸曲面18Aに形成された円盤部18を有するとともに上側刃体2の凹曲面20に円盤部18の凸曲面18Aが回動自在に収受されるコマ状体10と、コマ状体10を上側刃体2に固定する固定板9と、から構成される。
【0026】
前記の傾き調整機構19は、枢支部4の固定板9に設けられていてその固定板9とコマ状体10の円盤部18との隙間SA(
図7参照)を調整する4個の隙間調整機構26,26,26,26で構成されている。各隙間調整機構26は、固定板9に上下貫通して形成された調整用雌ネジ孔24と、調整用雌ネジ孔24に螺合する調整用雄ネジ31と、から構成されている。調整用雄ネジ31はその下端の尖端31Aが固定板9の下面21Aから出し入れされてコマ状体10の円盤部18の上面18Bに当接し、円盤部18を押し下げたり引き上げたりするようになっている。調整用雄ネジ31の上面には、六角レンチ用の六角穴31Bが形成されている。これらの隙間調整機構26は、下側刃体3の刃部7に対する上側刃体22の刃部5の刃長手方向(
図7中の矢印H方向)の傾きと、刃長手方向とは平面視直角方向である刃短手方向(
図7中の矢印G方向)の傾きを調整するものである。
【0027】
上記のように構成された鋏1の作用を次に説明する。下側刃体3に対する上側刃体2の刃長手方向の傾きが一般的な傾きに設定された状態を
図8(a)−(1)に示す。このときの上側刃体2の刃部5と下側刃体3の刃部7との間の僅少隙間はS(1)とし、刃部5の刃先5Aと刃部7の刃先7Aとの当り具合は通常とする。
【0028】
そこで、利用者が通常よりも硬い当り具合を要求する場合は、刃長手方向に配置されている2つの隙間調整機構26,26のうち、ハンドル部側の調整用雄ネジ31(1)(
図6参照)を螺進させて尖端31Aを少し突出させる動作、または刃部側の調整用雄ネジ31(2)を螺退させて尖端31Aを少し引き込ませる動作、あるいはこれら双方の動作を同時に行なわせることにより、枢支部4の軸心(1点鎖線C)において下側刃体3に対する上側刃体2の刃長手方向の傾きが大きくなる。これにより、刃部5の刃先5Aと刃部7の刃先7Aが重なったときに、
図8(a)−(2)に示すように、刃部5および刃部7が撓って矢印D1のように互いに近づき、刃部5と刃部7間の僅少隙間S(2)は通常よりも狭くなる。従って、刃先5Aと刃先7Aの当り具合が硬くなるのである。
【0029】
一方で、利用者が通常よりも柔かい当り具合を要求する場合は、ハンドル部側の調整用雄ネジ31(1)を螺退させて尖端31Aを少し引き込ませる動作、または刃部側の調整用雄ネジ31(2)を螺進させて尖端31Aを少し突出させる動作、あるいはこれら双方の動作を同時に行なわせることにより、下側刃体3に対する上側刃体2の刃長手方向の傾きが小さくなる。これにより、刃部5の刃先5Aと刃部7の刃先7Aが重なったときに、
図8(a)−(3)に示すように、刃部5および刃部7が撓って矢印D2のように互いに離れて、刃部5と刃部7間の僅少隙間S(3)は通常よりも広くなる。従って、刃先5Aと刃先7Aの当り具合が柔らかくなる。
【0030】
続いて、上側刃体2および下側刃体3の正断面図を
図8(b)に示す。
図8(b)において、上側刃体2と下側刃体3の揺動面は1点鎖線Eで示される。上側刃体2の刃線5Cと下側刃体3の刃線7が新規なときの状態は
図8(b)−(1)に示されており、刃線5Cおよび刃線7はともに鋭利である。そこで、鋏1の使用を続けていくと、刃線5Cおよび刃線7が経時的に摩耗していき、
図8(b)−(2)に示すように、双方に磨耗部位5F,7Fを生じていく。すると、鋏1の切れ味が落ちて、毛髪を切りにくくなる。
【0031】
このような場合に、鋏1を研ぎ加工業者に提出して、刃線5Cおよび刃線7を鋭利に再生させることが考えられる。しかしながら、利用者にとって愛用の鋏1であっても、研ぎ加工に出している間は使用することができないので、整髪作業の効率が落ちてしまう。然も、斯かる研ぎ加工は多大な経験と技量を必要とすることから加工費も高額である。そのために、次の研ぎ加工までの期間を極力引き延ばしたいという実情がある。
【0032】
そこで、傾き調整機構19では、刃短手方向(
図7中の矢印G方向=左右方向)に配置されている2つの隙間調整機構26,26のうち、ハンドル部に向かって左側の調整用雄ネジ31(3)(
図6参照)を螺退させて尖端31Aを少し引き込ませる動作、または右側の調整用雄ネジ31(4)を螺進させて尖端31Aを少し突出させる動作、あるいはこれら双方の動作を同時に行なわせることにより、
図8(b)−(3)に示すように、枢支部4の軸心(1点鎖線C)において下側刃体3に対する上側刃体2の刃短手方向(左側を持ち上げる方向=矢印D3方向)の傾きを大きくする。これによって、刃線5Cおよび刃線7Cが摩耗していたとしても、刃線7Cに対して刃線5Cに傾きがつく。これにより、鋏1の切れ味が戻るから、今しばらく充分な切れ味で整髪でき、作業効率の低下抑制と経費節減を図ることができる。
【0033】
上記したように、この実施形態の鋏1によれば、4つの隙間調整機構26,26,26,26を枢支部4に配備しているので、上側刃体2の刃長手方向の傾き調整および刃短手方向の傾き調整を行なうことができる。これにより、刃先5A,7A同士の好みの当りが得られるのはもとより、刃線5Cおよび刃線7Cが摩耗して切れ味が落ちてきたときでも、切れ味を戻して鋏1の使用を続けることができる。また、コマ状体10は固定板9によって上側刃体2に固定されるので、上側刃体2の傾き調整をコマ状体10の固定操作とは別に行なうことができ、傾きの微調整が可能となる。
【0034】
また、隙間調整機構26の調整用雄ネジ31を調整用雌ネジ孔24内で回すことにより、コマ状体10が固定板9に対して傾くので、下側刃体3に対する上側刃体2の傾き調整をコマ状体10の固定操作とは別に行なうことができる。すなわち、コマ状体10を固定板9で固定した状態でも、上側刃体2の傾き調整ができて微調整も可能になる。
【0035】
そして、傾き調整機構19として4つの隙間調整機構26,26,26,26を備えているので、対をなす2つの隙間調整機構26,26が2組、それぞれ刃長手方向の傾き調整と刃短手方向の傾き調整を分担し得るので、より正確で綿密な傾き調整を行なうことができる。
【0036】
更に、コマ状体10の軸受部17を装着孔22に挿通された固定板9が、上側刃体2の装着穴12に嵌入されるので、枢支部4の高さ寸法が小さくなり、薄手の枢支部4を有する取扱い性のよい鋏1が提供される。しかも、隙間調整を行なう調整用雄ネジ31の尖端31Aと、支点部となるコマ状体10の凸曲面18Aおよび上側刃体2の凹曲面20は、装着穴12内に隠されて固定板9でほぼ密着して蓋止されるので、切られた毛髪片やフケが装着穴12内に入り込みにくく、従って当該部分に溜まったりしないから、操作性や衛生面を低下させない。
【0037】
また、枢軸11は、軸用雌ネジ孔16よりも大きなネジピッチの割り雄ネジ11Aで構成されているので、枢軸11を回すと割り雄ネジ11Aが変形しながら軸用雌ネジ孔16内を螺進し、力を抜いた位置で止まる。従って、軸用雌ネジ孔16内の任意の所望位置で枢軸11を固定できる。これにより、枢軸11を所望の締め具合にすることができる。
【0038】
尚、上記の実施形態では、枢軸11の軸心(1点鎖線C)を通る刃長手方向の点対称位置に2つの隙間調整機構26,26を配置するとともに、前記軸心を通る刃短手方向の点対称位置に2つの隙間調整機構26,26を配置したが、本発明の鋏はそれに限定されるものでない。例えば、
図9(a)に示すような鋏も、本発明に含まれる。この鋏の枢支部4aでは、固定板9aの板本体21bにおいて、平面視で刃長手方向から45度傾いた点対称位置に2つの軸孔23A(段部23),23A(段部23)が配置されるとともに、同様に軸心を通る刃短手方向から45度傾いた点対称位置に2つの軸孔23A,23Aが配置されている。また、これらの軸孔23A,23A,23A,23Aに調整用雄ネジ31,31,31,31が螺合して、4つの隙間調整機構26,26,26,26を構成する。
【0039】
この鋏の場合、ハンドル部側の2つの調整用雄ネジ31,31と、刃線5C,7C側の2つの調整用雄ネジ31,31とをそれぞれペアにして、ペア毎に同時に螺進または螺退させることにより、下側刃体3に対する上側刃体2の刃長手方向の傾きを調整することができる。刃短手方向の傾きを調整する場合は、板本体21bにおける右側の2つの調整用雄ネジ31,31と、左側の2つの調整用雄ネジ31,31とをそれぞれペアにし、ペア毎に同時に螺進または螺退させることにより、下側刃体3に対する上側刃体2の刃短手方向の傾きを調整できる。
【0040】
あるいは、3つの隙間調整機構26,26,26を配置したものでも構わない。このような鋏を
図9(b)に示す。この鋏の枢支部4bは、
図9(a)の鋏と比べて、刃線5C,7C側の隙間調整機構26を1つにしてある。この鋏では、固定板9bの板本体21aに設けた、隙間調整機構26,26,26の調整用雄ネジ31,31,31をそれぞれ独立に螺進退させることにより、刃長手方向および刃短手方向の傾きを同時に調整することができる。無論、刃長手方向の傾きだけを調整することも可能である。
【0041】
更には、3つの隙間調整機構26,26,26の配置を
図9(b)から変えたものも、本発明に含まれる。このような鋏を
図9(c)に示す。この鋏の枢支部4cでは、固定板9cの板本体21cにおいて、刃短手方向において右側の隙間調整機構26を2つにし、左側の隙間調整機構26を1つにしてある。この鋏でも、固定板9cの板本体21cに設けた、隙間調整機構26,26,26の調整用雄ネジ31,31,31をそれぞれ独立に螺進退させることにより、上側刃体2の刃長手方向および刃短手方向の傾きを同時に調整することができる。
【0042】
尚、本発明は上記した実施の形態に限定されるものでない。すなわち、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。