特開2019-213661(P2019-213661A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2019213661-呼吸同調器 図000003
  • 特開2019213661-呼吸同調器 図000004
  • 特開2019213661-呼吸同調器 図000005
  • 特開2019213661-呼吸同調器 図000006
  • 特開2019213661-呼吸同調器 図000007
  • 特開2019213661-呼吸同調器 図000008
  • 特開2019213661-呼吸同調器 図000009
  • 特開2019213661-呼吸同調器 図000010
  • 特開2019213661-呼吸同調器 図000011
  • 特開2019213661-呼吸同調器 図000012
  • 特開2019213661-呼吸同調器 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-213661(P2019-213661A)
(43)【公開日】2019年12月19日
(54)【発明の名称】呼吸同調器
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/00 20060101AFI20191122BHJP
【FI】
   A61M16/00 370Z
   A61M16/00 343
   A61M16/00 328Z
   A61M16/00 305C
   A61M16/00 305B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-111918(P2018-111918)
(22)【出願日】2018年6月12日
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】右近 哲哉
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ユーザーに対し十分に酸素を供給することができる呼吸同調器を提供する。
【解決手段】ユーザーの呼吸に合わせて当該ユーザーに酸素を供給する呼吸同調器1。前記ユーザーの吸気を検知する吸気センサ15と、当該吸気センサ15の検知に基づいて前記ユーザーの呼吸間隔を算出する算出部と、当該算出部により算出された前記ユーザーの呼吸間隔の変化に基づいて当該ユーザーの呼吸状態を判断する判断部とを備えている。前記ユーザーの呼吸間隔の変化が所定の閾値を複数回超える場合に、前記判断部は、当該ユーザーの呼吸に合わせた酸素供給が行われていないと判断する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザーの呼吸に合わせて当該ユーザーに酸素を供給する呼吸同調器(1)であって、
前記ユーザーの吸気を検知する吸気センサ(15)と、
当該吸気センサ(15)の検知に基づいて前記ユーザーの呼吸間隔を算出する算出部(22)と、
当該算出部(22)により算出された前記ユーザーの呼吸間隔の変化に基づいて当該ユーザーの呼吸状態を判断する判断部(23)と
を備えており、
前記ユーザーの呼吸間隔の変化が所定の閾値を複数回超える場合に、前記判断部(23)は、当該ユーザーの呼吸に合わせた酸素供給が行われていないと判断する、呼吸同調器(1)。
【請求項2】
ユーザーの呼吸に合わせた酸素供給が行われていないと判断部(23)が判断した場合に、当該ユーザーに警報を発する警報部(17,18)を備えている、請求項1に記載の呼吸同調器(1)。
【請求項3】
ユーザーの呼吸に合わせた酸素供給が行われていないと判断部(23)が判断した場合に、当該判断部(23)は、当該ユーザーの呼吸に同調して酸素を供給する同調モードから、当該ユーザーに対して酸素を連続的に供給する連続流モードに切り替える、請求項1又は請求項2に記載の呼吸同調器(1)。
【請求項4】
前記連続流モードを所定の時間採用した後に、同調モードに切り替える、請求項3に記載の呼吸同調器(1)。
【請求項5】
同調モードから連続流モードへの切り替えを電磁弁(14)の開閉操作で行う、請求項3又は請求項4に記載の呼吸同調器(1)。
【請求項6】
同調モードから連続流モードへの切り替えを、酸素の流路の切り替えで行う、請求項3又は請求項4に記載の呼吸同調器(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は呼吸同調器に関する。さらに詳しくは、ユーザーの呼吸に同調して当該ユーザーに酸素を供給する呼吸同調器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば肺に疾患を有し当該肺の機能が低下している患者等(以下、「ユーザー」という)に酸素を供給する呼吸同調器がある。この呼吸同調器は、酸素ボンベに接続されるとともに、ユーザーが装着するカニューラに接続され、当該ユーザーの呼吸に同調して前記酸素ボンベからの酸素をカニューラを経由してユーザーに供給する。
【0003】
呼吸同調器は、通常、ユーザーの吸気を検知する圧力センサを備えており、この圧力センサでユーザーの吸気開始時に大気圧から変化する圧力を検知し、この検知信号に基づいて当該ユーザーに酸素を供給している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
従来の呼吸同調器では、ユーザーに対しより確実に酸素を供給するために、例えばカニューラがユーザーの鼻からはずれる等に起因して当該ユーザーの呼吸がセンサによって長時間(例えば、30秒間)検知されない場合に、吸気に異常があり、その結果、呼吸に同調して酸素が供給されていない(同調エラー)として、警報を発していた。この警報により、正しく酸素が供給されていないことをユーザーに知らせている。
【0005】
しかし、上記のように長時間連続して酸素が供給できなくなる場合以外に、以下の(1)〜(3)に例示するように、断続的に酸素を供給することができない場合がある。
【0006】
(1)カニューラ装着の不備
ユーザーに酸素を供給するカニューラが正しく当該ユーザーの鼻等に装着されていないと、正確にユーザーの呼吸を検知することができないが、装着の仕方が中途半端な場合は、呼吸を検知できる場合と出来ない場合とが起こり得る。この場合、ユーザーの全ての呼吸に対して酸素を供給することができず、断続的な酸素供給となる。
【0007】
(2)呼吸間隔の乱れ
呼吸同調器では、ユーザーの呼吸間隔、すなわち前回の呼吸開始時点から今回の呼吸開始時点までの時間によって、つぎの吸時間(空気を吸う時間)を仮定して酸素の供給時間を算出しているが、呼吸間隔が不規則になっている場合は、呼吸間隔が長いときの次の(仮定された)吸時間が長くなり、また、呼吸間隔が短いときの次の(仮定された)吸時間が短くなる等不規則になり、十分な酸素供給ができない場合がある。また、呼吸同調器では、それまでの呼吸間隔に基づいて次の呼吸開始時間を予測し、その予測されたタイミング付近以外では、省電力や誤動作防止の観点から、吸気を検知するためのセンサをオフにする仕様のものもあり、この場合、不安定な呼吸間隔であるとユーザーの呼吸に同調して酸素を供給することが難しい。センサがオフのときに吸気が開始されると、ユーザーの呼吸に同調した酸素供給をすることができない。
【0008】
(3)口呼吸
運動時等において呼吸が苦しい場合、ユーザーは無意識のうちに口呼吸をするようになる。このため、鼻に挿入したカニューラで当該ユーザーの呼吸を検知することは難しく、その結果、ユーザーの現実の呼吸に同調して酸素を当該ユーザーに供給することができない。呼吸同調器としては、センサにより検知することができた呼吸だけしか把握することができないので、ユーザーが口呼吸をすると、呼吸間隔が短い中に不定期に長い呼吸間隔が表れているものと判断してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−6521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の呼吸同調器では、ユーザーの呼吸をできるだけ正確に検知することができるように、例えば、ノイズに強くなるように呼吸検知プログラムを改良することや、ユーザーに対し使用法の教育を強化することが主に行われていたが、酸素をより確実に供給できるようにすることが望まれている。
【0011】
本開示は、ユーザーに対し十分に酸素を供給することができる呼吸同調器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の呼吸同調器は、
(1)ユーザーの呼吸に合わせて当該ユーザーに酸素を供給する呼吸同調器であって、
前記ユーザーの吸気を検知する吸気センサと、
当該吸気センサの検知に基づいて前記ユーザーの呼吸間隔を算出する算出部と、
当該算出部により算出された前記ユーザーの呼吸間隔の変化に基づいて当該ユーザーの呼吸状態を判断する判断部と
を備えており、
前記ユーザーの呼吸間隔の変化が所定の閾値を複数回超える場合に、前記判断部は、当該ユーザーの呼吸に合わせた酸素供給が行われていないと判断する。
【0013】
本開示の呼吸同調器では、ユーザーの呼吸間隔に着目し、ユーザーの吸気を検知する吸気センサの検知に基づいて算出部で当該ユーザーの呼吸間隔を算出し、算出されたユーザーの呼吸間隔に基づいて判断部で当該ユーザーの呼吸状態を判断している。そして、ユーザーの呼吸間隔の変化が所定の閾値を複数回超える場合に、当該ユーザーの呼吸に合わせた酸素供給が行われていないと判断する。
【0014】
呼吸間隔の変化ないし変動は、前述したように、カニューラの装着不良やユーザーの口呼吸等で起こり得るが、呼吸間隔の変動が繰り返し複数回生じたりした場合等には呼吸同調器がユーザーの呼吸に同調して酸素が正しく供給されておらず、ユーザーは正しく酸素が供給された呼吸状態ではないと判断することができる。この場合、例えば呼吸同調器の表示部にエラー表示をする等してユーザーに警報を発したり、また、ユーザーの呼吸に同調して酸素を供給する同調モードから、当該ユーザーに対して酸素を連続的に供給する連続流モードに切り替えたりすることで、ユーザーに十分な酸素を供給することが可能となる。
【0015】
なお、本明細書において、「同調モード」とは、ユーザーの吸気の検知に応じて所定の時間だけ酸素を当該ユーザーに供給する、呼吸同調器の通常の運転モードのことであり、また、「連続流モード」とは、ユーザーの吸気に関係なく、当該ユーザーに対し連続的に酸素を供給する運転モードのことである。
【0016】
(2)前記(1)の呼吸同調器において、ユーザーの呼吸に合わせた酸素供給が行われていないと判断部が判断した場合に、当該ユーザーに警報を発する警報部を備えていることが望ましい。この場合、ユーザーは発せられた警報に基づいて、例えばカニューラの装着状態を点検する等の対策を講じることができる。これにより、ユーザーの呼吸に同調した酸素供給が可能となり、当該ユーザーに十分な酸素を供給することができる。
【0017】
(3)前記(1)又は(2)の呼吸同調器において、ユーザーの呼吸に合わせた酸素供給が行われていないと判断部が判断した場合に、当該判断部は、当該ユーザーの呼吸に同調して酸素を供給する同調モードから、当該ユーザーに対して酸素を連続的に供給する連続流モードに切り替えることができる。この場合、連続的に酸素を供給することで、ユーザーに対し十分な酸素を供給することができる。
【0018】
(4)前記(3)の呼吸同調器において、前記連続流モードを所定の時間採用した後に、同調モードに切り替えることが望ましい。この場合、ユーザーの呼吸間隔の変化が運動等に起因していたときは、連続流モードにより所定の時間ユーザーに連続的に酸素を供給することで当該ユーザーの呼吸は安定すると考えられることから、前記所定の時間経過後に同調モードに切り替えることで、酸素の消費を節約することができる。
【0019】
(5)前記(3)又は(4)の呼吸同調器において、同調モードから連続流モードへの切り替えを電磁弁の開閉操作で行うことができる。この場合、電磁弁の操作により簡単に同調モードから連続流モードへ切り替えることができる。
【0020】
(6)前記(3)又は(4)の呼吸同調器において、同調モードから連続流モードへの切り替えを、酸素の流路の切り替えで行うことができる。この場合、酸素の流路の切り替えにより簡単に同調モードから連続流モードへ切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示の呼吸同調器の一実施形態の構成の説明図である。
図2図1に示される制御部のブロック図である。
図3】ユーザーの呼吸と呼吸同調器の酸素供給との関係を示す図である。
図4】呼吸同調器による酸素供給の一例を示す模式図である。
図5図4に示される例における呼吸間隔の変化を説明する図である。
図6】呼吸同調器による酸素供給の他の例を示す模式図である。
図7図6に示される例における呼吸間隔の変化を説明する図である。
図8】呼吸同調器の運転例のフローチャートである。
図9】呼吸同調器の制御で用いられる2種類の閾値を説明する図である。
図10】本開示の呼吸同調器の他の実施形態の構成の説明図である。
図11】本開示の呼吸同調器の更に他の実施形態の構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しつつ、本開示の呼吸同調器を詳細に説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0023】
図1は、本開示の一実施形態に係る呼吸同調器1の構成を説明する図である。呼吸同調器1は、酸素ボンベ2からの酸素をカニューラ8を経由してユーザーに供給する装置であり、酸素取入口3と、酸素取出口4とを有している。酸素取入口3には竹の子型の接続具5が取り付けられており、一端が酸素ボンベ2の出口に設けられた減圧弁6に接続されたチューブ7の他端が当該接続具5に接続されている。一方、ユーザーが装着するカニューラ8の一端が酸素取出口4に取り付けられた竹の子型の接続具9に接続されている。
【0024】
呼吸同調器1は、酸素の設定流量を調整するための流量調整器10、メカニカルバルブ11、呼吸同調器1の作動を制御する制御部12、電源としての乾電池13、電磁弁14、ユーザーの吸気を検知する吸気センサとしての圧力センサ15、リリーフ弁16、運転情報等を表示部(図示せず)に表示するためのLED17、及びユーザーに対し警報を発するためのブザー18を備えている。
【0025】
酸素ボンベ2内に収容された高圧の酸素は、減圧弁6で減圧されてチューブ7及び接続具5を経由して流量調整器10に流入する。流量調整器10は供給酸素の流量(L/分)を調整するための要素であり、呼吸同調器1のユーザーが医者等の処方にしたがって所定の流量に設定する。流量調整器10は酸素流量を変える比例弁としての機能を有しており、かかる流量調整器10としては、例えば、複数の異なるサイズのオリフィスが周方向に沿って形成されたディスクを回転させ所定サイズのオリフィスを酸素流路に合わせることで流量設定を行うものを用いることができる。
【0026】
メカニカルバルブ11は、電池切れにより電磁弁14の操作ができなくなったときに、ユーザーが手動で開放して酸素の供給を確保するためのバルブである。したがって、通常運転時には、メカニカルバルブ11は閉の状態にされている。
【0027】
電磁弁14は、流量調整器10により所定流量に設定された酸素をユーザーに供給する状態と、ユーザーの鼻に装着されたカニューラと圧力センサ15とを連通させる状態とを切り換える。図1は、酸素の供給路は遮断されており、カニューラと圧力センサ15が連通した状態の電磁弁14を示している。圧力センサ15は、ユーザーの吸気開始時に大気圧から変化する圧力を検知し、この検知信号を制御部12に送信する。
【0028】
制御部12は、図2に示されるように、圧力センサ15からの検知信号を受けて電磁弁14の状態をユーザーに酸素を供給する状態に切り換え、又、逆にユーザーに酸素を供給する状態からカニューラと圧力センサ15が連通した状態に切り換える操作信号等を発する駆動制御部21と、算出部22と、判断部23とを有している。算出部22は、圧力センサ15の検知信号に基づいてユーザーの呼吸間隔、すなわち前回の吸気開始時点から今回の吸気開始時点までの間隔(時間)を算出する。また、判断部23は、算出部22により算出されたユーザーの呼吸間隔の変化に基づいて当該ユーザーの呼吸の状態を判断する。かかるユーザーの呼吸間隔の変化、及び、ユーザーの呼吸の状態については、後述する。
【0029】
リリーフ弁16は、ユーザーに酸素を供給するカニューラ8が折れ曲がる等して当該ユーザーに酸素が供給されず、呼吸同調器1内の酸素圧が所定値以上に上昇するのを防ぐために設けられており、設定圧を超えると当該リリーフ弁16より酸素は大気に開放される。
【0030】
呼吸同調器1は、圧力センサ15により検知されるユーザーの呼吸に同調して酸素ボンベ2からの酸素を当該ユーザーに供給する。より詳細には、ユーザーの鼻に装着されたカニューラを介して圧力センサ15は当該ユーザーが吸気を開始したときの圧力(負圧)を検知し、検知した信号を制御部12に送信する。制御部12は、受信した信号から前記圧力(負圧)が所定の閾値を超えていると判断すると、電磁弁14を制御して、圧力センサ15とカニューラとが連通している状態(図1参照)から、酸素ボンベ2からユーザーへ酸素が供給される状態に切り換える。
また、本実施形態に係る呼吸同調器1では、それまでの呼吸間隔(例えば、前回の呼吸間隔、又は、直近の所定数の呼吸間隔の平均値)に基づいて次の呼吸開始時間を予測し、その予測されたタイミング付近以外では、省電力や誤動作防止の観点から、吸気を検知するための圧力センサ15をオフにしている。
【0031】
図3は、ユーザーの呼吸と呼吸同調器の酸素供給との関係を示す図である。図3並びに後出する図4及び図6において、斜線で示す部分が酸素を供給する期間を示しており、グラフの縦軸は呼吸同調器1の前述した設定流量を示している。ヒトの呼吸は、通常、1分間に20回程度行われる。また、吸気時間と呼気時間との比は、約1:2である。したがって、1分間に20回の呼吸が行われると仮定すると、ヒトは、1秒間空気を吸って、続く2秒間で吸った空気を吐き出すという呼吸動作を1分間に20回繰り返すことになる。ただ、吸気の終了間際に吸引した空気は肺まで到達しないことから、呼吸同調器1では、吸気時間の全区間において酸素を供給するのではなく、例えば、吸気時間の65%の間だけ酸素を供給するようにしている。これにより、酸素を有効利用することができる。図3において、1回の酸素供給時間tbと、ユーザーの吸気時間taとは、tb=0.65×taの関係である。
【0032】
通常時には、図3に示されるようなタイミングでユーザーの呼吸に同調して当該ユーザーへ酸素が供給される。しかし、前述した例(1)〜(3)等の場合は、ユーザーに対し断続的にではあるが酸素を供給することができない。
図4は、呼吸同調器1による酸素供給の一例を示す模式図であり、圧力センサ15によりユーザーの呼吸を検知することができず、その結果、ユーザーの呼吸に同調した酸素供給が行われない場合を示している。前述した例(1)のカニューラ装着の不備や、例(3)の口呼吸が、検知不可の原因となる。
【0033】
図4において、横軸のNo.1〜7はユーザーの呼吸の回数を示しており、符号tnは1回目の呼吸における吸気開始から2回目の呼吸における吸気開始までの時間、すなわち1番目の呼吸間隔(呼吸間隔番号1)を示している。同様に、符号tmは、3回目の呼吸における吸気開始から4回目の呼吸における吸気開始までの時間、すなわち3番目の呼吸間隔(呼吸間隔番号3)を示している。
【0034】
図4に示される例では、3番目の呼吸間隔tmが、他の呼吸間隔に比べてかなり長くなっており、同調不良が存在していたと考えることができる。図4において、符号cで示される部分は、圧力センサ15で検知された3回目の呼吸と4回目の呼吸との間に存在していたであろう呼吸における吸気に対し供給されていたであろう酸素の供給期間を表している。ユーザーの鼻へのカニューラの装着状態が中途半端であり、圧力センサ15によるユーザーの吸気が検知できない場合に、このような同調不良が発生する。また、図4において、符号dで示される期間は、直前の呼吸間隔、すなわち3番目の呼吸間隔が長いため、長くなった酸素供給期間を示している。
【0035】
図5は、図4に示される例における呼吸間隔の変化を説明する図であり、3番目の呼吸間隔だけが突出して長くなっていることを示している。呼吸間隔は通常3秒間程度であることから、図4に示される例では、呼吸が1回検知できなかったものと考えられる。本実施形態では、一定以上の頻度(例えば、3回/分)でこのような呼吸間隔の変化ないし変動が発生したときに警報を発し、さらに一定以上の頻度(例えば、5回/分)でこのような呼吸間隔の変化ないし変動が続く場合に、後述するように酸素をパルス的にではなく連続して供給するようにしている。
【0036】
図6は、呼吸同調器による酸素供給の他の例を示す模式図であり、運動時等においてユーザーの呼吸が乱れ、当該ユーザーの呼吸に対して適切な酸素が供給されていない場合を示している。前述した例(2)の呼吸間隔の乱れが、これに該当する。
図6において、横軸のNo.1〜7はユーザーの呼吸の回数を示しており、符号tn、to及びtpは、それぞれ1番目の呼吸間隔(呼吸間隔番号1)、3番目の呼吸間隔(呼吸間隔番号3)、及び4番目の呼吸間隔(呼吸間隔番号4)を示している。
【0037】
図6に示される例において「tn」は通常の呼吸間隔を示しており、「to」はこの「tn」よりも長く、また、「tp」はこの「tn」よりも短い。安静時においても呼吸間隔は変動するが、運動時において深呼吸をしたり、唾を飲み込んだりしたりすることで変動する場合、その変動の大きさは安静時に変動の大きさよりも大きい。したがって、呼吸間隔の変動を把握することで、呼吸が乱れている状態か否かを判断することができる。図6において、符号eで示される期間は、直前の呼吸間隔、すなわち3番目の呼吸間隔が長いため、長くなった酸素供給期間を示している。また、符号fで示される期間は、直前の呼吸間隔、すなわち4番目の呼吸間隔が短いため、短くなった酸素供給期間を示している。このため、呼吸回数No.5では、ユーザーは酸素が不足していると考えられる。
【0038】
図7は、図6に示される例における呼吸間隔の変化を説明する図であり、3番目の呼吸間隔及び5番目の呼吸間隔が通常の呼吸間隔より長くなり、4番目の呼吸間隔が通常の呼吸間隔より短くなっていることがわかる。なお、図7において、縦軸は一定期間の呼吸間隔の平均値(100%)を基準にした変動の大きさを示している。呼吸間隔の変動には、通常の呼吸間隔よりも所定値を超えて大きくなる場合と、所定値を超えて小さくなる場合とがある。
本実施形態では、一定以上の頻度(例えば、5回/分)でこのような呼吸間隔の変化ないし変動が発生したときに警報を発し、さらに一定以上の頻度(例えば、10回/分)でこのような呼吸間隔の変化ないし変動が続く場合に、後述するように酸素をパルス的にではなく連続して供給するようにしている。
【0039】
つぎに、本実施形態に係る呼吸同調器1の運転例を図8に示されるフローチャートに基づいて説明する。
まず、ステップS1において、制御部12の判断部23は、圧力センサ15によりユーザーの呼吸の吸気が検知され、その検知信号を制御部12が受信したか否かを判断する。ステップS1において、ユーザーの呼吸が検知されたと判断されると、ステップS2に処理を進め、当該ステップS2において判断部23は、制御部12の算出部22において算出された呼吸間隔の変動が所定の閾値Bを超えたか否かを判断する。
【0040】
ここで、閾値B、及び後出する閾値Aについて、図9を参照しつつ説明する。閾値Bは、図6〜7に示したように、呼吸の乱れ等に起因して呼吸間隔が通常時のものよりも大きくなったり小さくなったりする場合を想定して設定される閾値である。このため、閾値Bは一定の幅を有しており、上限と下限とが存在している。一方、閾値Aは、カニューラの装着不良や口呼吸等に起因してユーザーの吸気が検知されず、閾値Bの場合よりも大きく呼吸間隔が変動する場合を想定して設定される閾値である。
【0041】
図9において、一点鎖線は当該ユーザーの通常の呼吸間隔(平均値)を示しており、破線は閾値A又は閾値Bを示している。平均値としては、例えば直近の所定回数の平均値(移動平均)を用いることができる。通常の呼吸間隔を100とすると、閾値Bは、例えば±30とすることができ、また、閾値Aは、例えば+80とすることができる。呼吸間隔が60であれば、閾値Bの下限を超えたことになり、また、呼吸間隔が190であれば、閾値A及び閾値Bの上限を超えたことになる。
【0042】
図8に戻り、ステップS2において、ユーザーの呼吸間隔の変動が閾値Bを超えていないと判断部23が判断すると、ステップS14に処理を進め、呼吸同調器1は、同調モードにしたがってユーザーに酸素を供給する。
一方、ステップS2において、ユーザーの呼吸間隔の変動が閾値Bを超えていると判断すると、制御部12は、ステップS3に処理を進め、当該ステップS3において、所定の単位時間、例えば1分間に閾値Bを超えた回数が所定の閾値B−1を超えたか否かを判断する。所定に閾値B−1としては、例えば5回/分とすることができる。
【0043】
ステップS3において閾値B−1を超えていない場合は、ステップS10に処理を進め、当該ステップS10において、制御部12は、ユーザーの呼吸間隔の変動が所定の閾値Aを超えたか否かを判断する。一方、ステップS3において、閾値Bを超えた回数が閾値B−1を超えたと判断されると、ステップS4に処理を進め、当該ステップS4において制御部2は、閾値Bを超えた回数が所定の閾値B−2を超えたか否かを判断する。所定に閾値B−2としては、例えば10回/分とすることができる。
【0044】
ステップS4において、所定の閾値B−2を超えていないと判断されると、ステップS9に処理を進め、当該ステップS9において、制御部12はエラー表示を実行する。エラー表示は、呼吸同調器1の表示部(図示せず)においてLED17を点灯させるか、又は、当該LED17を点滅させることで行うことができる。また、ブザー18を連続的に又は断続的に鳴らすことでエラー表示を行うこともできる。LED17の点灯等によりユーザーに対し当該ユーザーの呼吸に同調して酸素供給が行われていないという警報を発することができる。本実施形態では、LED17及びブザー18は、呼吸同調器1の運転状態をユーザーに知らせる機能とともに、当該ユーザーに対して異常時の警報を発する警報部としての機能も有している。
【0045】
ステップS4において、所定の閾値B−2を超えていると判断されると、ステップS5に処理を進め、当該ステップS5において、制御部12はユーザーに対する酸素の供給方法を通常の同調モードから連続流モードに切り換える。この連続流モードでは、ユーザーの呼吸に関係なく、当該ユーザーに対して連続して酸素ボンベ2からの酸素が供給される。したがって、この連続流モードの間は、電磁弁14は流量調整器10とユーザーが装着するカニューラとの間を連通する状態に切り換えられる。換言すれば、連続流モードの間は、圧力センサ15とユーザーが装着するカニューラとが連通する状態は遮断される。
【0046】
酸素の供給を連続流モードにすることでユーザーに対して十分な酸素供給を行うことができる。一定の時間、ユーザーに対して連続的に酸素を供給することで当該ユーザーの呼吸状態は安定すると考えられることから、本実施形態では、続くステップS6において、連続流モードの状態が一定時間、例えば1分間経過したか否かを判断している。そして、ステップS6において、一定時間が経過していると判断されると、ステップS7に処理を進め、当該ステップS8において、制御部12は、酸素の供給を停止し、更に続くステップS8において、エラー表示を停止させて、ステップS1に処理を戻す。そして、ステップS1でユーザーの呼吸が検知され、続くステップS2において、ステップS1で検知されたユーザーの吸気に基づいて得られる呼吸間隔が閾値Bを超えていないときは、通常の同調モードでユーザーに酸素が供給される(ステップS14)。
【0047】
ステップS3において、閾値Bを超えた回数が所定の閾値B−1を超えていないと判断されると、ステップS10に処理を進め、当該ステップS10において、制御部12は、呼吸間隔の変動が所定の閾値Aを超えたか否かを判断する。そして、ステップS10において、所定の閾値Aを超えていないと判断されると、ステップS14に処理を進め、呼吸同調器1は、同調モードにしたがってユーザーに酸素を供給する。
一方、ステップS10において、ユーザーの呼吸間隔の変動が閾値Aを超えていると判断すると、制御部12は、ステップS11に処理を進め、当該ステップS11において、所定の単位時間、例えば1分間に閾値Aを超えた回数が所定の閾値A−1を超えたか否かを判断する。所定の閾値A−1としては、例えば3回/分とすることができる。
【0048】
ステップS11において、所定の閾値A−1を超えていないと判断されると、ステップS14に処理を進め、呼吸同調器1は、同調モードにしたがってユーザーに酸素を供給する。
一方、ステップS11において、閾値Aを超えた回数が閾値A−1を超えたと判断されると、ステップS12に処理を進め、当該ステップS12において制御部2は、閾値Aを超えた回数が所定の閾値A−2を超えたか否かを判断する。所定の閾値A−2としては、例えば5回/分とすることができる。
【0049】
ステップS12において、所定の閾値A−2を超えていると判断されると、ステップS5に処理を進め、当該ステップS5において、前記と同様に、制御部12はユーザーに対する酸素の供給方法を通常の同調モードから連続流モードに切り換える。
【0050】
一方、ステップS12において、所定の閾値A−2を超えていないと判断されると、ステップS13に処理を進め、当該ステップS13において、制御部12は、前記と同様にしてエラー表示を実行する。エラー表示は、呼吸同調器1の表示部(図示せず)においてLED17を点灯させるか、又は、当該LED17を点滅させることで行うことができる。また、ブザー18を連続的に又は断続的に鳴らすことでエラー表示を行うこともできる。
エラー表示後、制御部12は、ステップS14に処理を進め、呼吸同調器1は、同調モードにしたがってユーザーに酸素を供給する。
【0051】
〔その他の変形例〕
本開示は前述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、前述した実施形態では、電磁弁14を切り換えることで、ユーザーへの酸素の供給状態を同調モードから連続流モードに切り換えているが、他の方法でもモードの切り換えを行うことができる。例えば、図10に示されるように、手動のメカニカルバルブ11に代えて、電磁石による作動及び手動が可能なバルブ31を採用することで、モードの切り換えを行うことができる。この場合、同調モードでは、このバルブ31は閉の状態であり、電磁弁14を経由して酸素がユーザーに供給される。そして、前述したフローチャートにあるように、ユーザーの呼吸間隔が変動して当該ユーザーに酸素が十分に供給されていないと判断されると、電磁弁14を閉状態とし、バルブ31に設けられている電磁石で当該バルブ31を開状態にする。流量調整器10を通過した酸素は当該バルブ31を経由して連続的にユーザーに供給される。一定時間、連続的にユーザーに酸素を供給した後、バルブ31に制御部12から電気的な信号を送信して当該バルブ31を閉状態にし、電磁弁14の操作でユーザーの呼吸に同調して酸素を供給する同調モードに戻す。なお、図10に示される実施形態おいて、図1に示される実施形態と同一の要素又は構成には、同一の参照符号を付しており、簡単のため、それらについての説明は省略する。
【0052】
また、前述した実施形態では、ユーザーに供給する酸素の流量を所定流量に設定するための流量調整器を呼吸同調器に設けているが、この流量調整器は、図11に示されるように、酸素ボンベに付設することもできる。なお、図11に示される実施形態おいて、図1に示される実施形態と同一の要素又は構成には、同一の参照符号を付しており、簡単のため、それらについての説明は省略する。
【符号の説明】
【0053】
1 : 呼吸同調器
2 : 酸素ボンベ
3 : 酸素取入口
4 : 酸素取出口
5 : 接続具
6 : 減圧弁
7 : チューブ
8 : カニューラ
9 : 接続具
10 : 流量調整器
11 : メカニカルバルブ
12 : 制御部
13 : 乾電池
14 : 電磁弁
15 : 圧力センサ
16 : リリーフ弁
17 : LED
18 : ブザー
21 : 駆動制御部
22 : 算出部
23 : 判断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11