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特開2019-214558腎障害の予防又は治療用の医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-214558(P2019-214558A)
(43)【公開日】2019年12月19日
(54)【発明の名称】腎障害の予防又は治療用の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20191122BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20191122BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20191122BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20191122BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20191122BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20191122BHJP
【FI】
   A61K31/198ZNA
   A61P13/12
   A61P9/10
   A61P29/00
   A61P43/00 107
   A23L33/175
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-106274(P2019-106274)
(22)【出願日】2019年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2018-109731(P2018-109731)
(32)【優先日】2018年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】和田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】古市 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】坂井 宣彦
(72)【発明者】
【氏名】岩田 恭宜
(72)【発明者】
【氏名】原 章規
(72)【発明者】
【氏名】中出 祐介
(72)【発明者】
【氏名】浜瀬 健司
(72)【発明者】
【氏名】三田 真史
【テーマコード(参考)】
4B018
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD19
4B018ME14
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA53
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA75
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZA36
4C206ZA81
4C206ZB11
4C206ZB22
(57)【要約】
【課題】腎臓病の治療又は予防、又は腎臓の保護作用を有する薬剤の提供。
【解決手段】D−アラニンが、腎臓病モデルにおいて、腎臓の保護作用・炎症抑制作用、及び炎症性細胞死抑制作用による腎臓病の治療効果、腎機能の回復効果を見出したことによる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−アラニン、又はその誘導体を含む、腎臓病の予防又は治療用の医薬組成物。
【請求項2】
前記予防又は治療用の医薬組成物が、腎臓の保護又は腎機能の回復に用いられる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記腎臓病が、急性腎障害又は慢性腎臓病を含む、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記腎臓病が、虚血による腎障害である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
局所投与、経腸投与又は非経口投与に用いられる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記誘導体が、投与後にD−アラニンに変化する化合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
D−アラニン、又はその誘導体を含む、腎臓における炎症抑制剤。
【請求項8】
D−アラニン、又はその誘導体を含む、腎臓における炎症性細胞死抑制剤。
【請求項9】
D−アラニン、又はその誘導体を含む、腎臓病の予防用又は改善用食品。
【請求項10】
前記誘導体が、投与後にD−アラニンに変化する化合物である、請求項9に記載の腎臓病の予防用又は改善用食品。
【請求項11】
腎臓病の予防又は治療用の医薬組成物の製造のための、D−アラニン、又はその誘導体の使用。
【請求項12】
腎臓の保護又は腎機能の回復に用いられる、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記腎臓病が、急性腎障害、及び慢性腎臓病を含む、請求項11又は12に記載の使用。
【請求項14】
前記腎臓病が、虚血誘導性又は炎症誘導性の腎障害である、請求項11〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
局所投与、経腸投与又は非経口投与に用いられる、請求項11〜14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記誘導体が、投与後にD−アラニンに変化する化合物である、請求項11〜15のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎障害の予防又は治療用の医薬組成物、並びに腎臓における炎症抑制剤、炎症性細胞死抑制剤、腎障害の予防用又は改善用食品、及び腎臓の保護剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は、血液中の老廃物や余分な水分を濾過し、尿として排出することで、体液の恒常性を維持することに加え、内分泌機能により血圧、造血、骨代謝等を役割とする臓器である。腎臓は、免疫系の異常や薬剤、高血圧、糖尿病、出血や急激な血圧低下、感染症、熱傷に伴う脱水等の要因により障害を受け、機能が低下する。その状態を腎臓病といい、特に糖尿病を原因とするものは糖尿病性腎臓病という。
【0003】
急性腎障害(Acute Kidney Injury:AKI)は、発症までの期間として数時間から数週間である腎障害をいう。急性腎障害は、虚血、薬剤、エンドトキシンショック等の原因によって腎機能が急激に低下した状態であり、体内代謝産物である尿素窒素やクレアチニンの血中濃度上昇、電解質代謝の異常及びアシドーシス等の症状が認められ、一般に血中クレアチニンの値の急上昇により診断される。
【0004】
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)は、各種腎障害により、糸球体濾過量で表される腎機能の低下があるか、もしくは腎臓の障害を示唆する所見が慢性的(3カ月以上)に持続する状態をいう。慢性腎臓病は、日本国の成人人口の約13%に相当する1,330万人が罹患する疾患で、末期腎不全(ESKD)に至るリスクが高く、国民の健康を脅かしている。慢性腎臓病に有効な治療法はなく、病状が進行して腎機能が低下すると尿毒症の症状を呈し、最終的には人工透析や腎移植等の腎代替療法が必要となるため、医療経済上も大きな負担となっている(非特許文献1)。慢性腎臓病は、腎機能が著名に低下しないと自覚症状が表れないため、早期発見、進行抑制に有用なバイオマーカーの開発が望まれている。
【0005】
腎臓病のバイオマーカーとして、尿へと排出される老廃物であるクレアチニンや尿素窒素(BUN)、炎症細胞により発現されるNGALや、損傷を受けた近位尿細管上皮細胞により発現されるKIM−1が用いられているが、これらのマーカーは早期のバイオマーカーとして満足できるものではなかった。近年、血中又は尿中のD−アミノ酸が測定できるようになったことにより、D−アミノ酸の腎臓病バイオマーカーとしてのポテンシャルが示されている(特許文献1)。
【0006】
腎臓病における、血中又は尿中のD−アミノ酸の変動は、腸内細菌の代謝の影響を受けることが報告されている。また、近年のメタボロミクス研究では腸内細菌由来の短鎖脂肪酸の抑制性T細胞増殖作用等、代謝産物が恒常性維持や臓器保護において重要な役割を担うことが分かってきている。しかしながら、腸内細菌叢由来のD−アミノ酸が、臓器の障害や保護に影響していることについては何ら記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2013/140785号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease, Kidney International Supplements 1 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
腎臓病の治療又は予防、又は腎臓の保護作用を有する薬剤の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが、腎臓病の患者の体内において病態と関連した変動を示すD−アラニンについて、その生理作用を鋭意検討した結果、D−アラニンに腎臓の保護作用、腎臓病に対する治療・予防作用を有することを見出し、本発明に至った。
【0011】
そこで具体的に、本発明は下記の発明に関する:
[1] D−アラニン、又はその誘導体を含む、腎臓病の予防又は治療用の医薬組成物。
[2] 前記予防又は治療用の医薬組成物が、腎臓の保護又は腎機能の回復に用いられる、項目1に記載の医薬組成物。
[3] 前記腎臓病が、急性腎障害、及び慢性腎臓病を含む、項目1又は2に記載の医薬組成物。
[4] 前記腎臓病が、虚血による腎障害である、項目1又は2に記載の医薬組成物。
[5] 局所投与、経腸投与又は非経口投与に用いられる、項目1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[6] 前記誘導体が、投与後にD−アラニンに変化する化合物である、項目1〜5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[7] D−アラニン、又はその誘導体を含む、腎臓における炎症抑制剤。
[8] D−アラニン、又はその誘導体を含む、腎臓における炎症性細胞死抑制剤。
[9] D−アラニン、又はその誘導体を含む、腎臓病の予防用又は改善用食品。
[10] 前記誘導体が、投与後にD−アラニンに変化する化合物である、項目9に記載の腎臓病の予防用又は改善用食品。
[11] D−アラニン、又はその誘導体を投与することを含む、腎臓病の予防又は治療方法。
[12] 腎臓病の予防又は治療において使用するためのD−アラニン、又はその誘導体。
[13] 腎臓病の予防又は治療用の医薬組成物の製造のための、D−アラニン、又はその誘導体の使用。
[14] 腎臓の保護又は腎機能の回復に用いられる、項目11〜13のいずれか一項に記載の方法、D−アラニン又はその誘導体、或いは使用。
[15] 前記腎臓病が、急性腎障害、及び慢性腎臓病を含む、項目11〜14のいずれか一項に記載の方法、D−アラニン又はその誘導体、或いは使用。
[16] 前記腎臓病が、虚血誘導性又は炎症誘導性の腎障害である、項目11〜15のいずれか一項に記載の方法、D−アラニン又はその誘導体、或いは使用。
[17] 局所投与、経腸投与又は非経口投与に用いられる、項目11〜16のいずれか一項に記載の方法、D−アラニン又はその誘導体、或いは使用。
[18] 前記誘導体が、投与後にD−アラニンに変化する化合物である、項目11〜17のいずれか一項に記載の方法、D−アラニン又はその誘導体、或いは使用。
【発明の効果】
【0012】
血中においてD−アラニンは、腎臓の保護作用・炎症抑制作用、及び炎症性細胞死抑制作用による腎臓病の治療効果、腎機能の回復効果、のうちの少なくとも1の作用・効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、虚血再還流後、10日目の腎臓組織切片のPAS染色画像(倍率100倍と400倍)を示す。水摂取群において、染色強度があがり、好中球や好酸球等の炎症性細胞の蓄積が見られる一方で、D−アラニン摂取群(20mM、及び80mM)ではそのような染色強度が用量依存的に低下した。
図2図2は、虚血再還流後、10日目の腎臓組織切片における、(A)壊死(Necrosis)、(B)腔内デブリス(Intraluminal debris)、(C)ブラッシュ境界領域(Brush border region)のグレードをそれぞれ示す。水摂取群と比較して、D−アラニン摂取群において、用量依存的に数値が改善している。
図3図3(A)は、虚血再還流後、10日目の腎臓組織切片のF4/80染色画像(倍率100倍と400倍)を示す。水摂取群において、染色強度があがり、マクロファージや単球等の炎症性細胞の蓄積が見られる一方で、D−アラニン摂取群ではそのような染色強度が用量依存的に低下した。図3(B)は、F4/80の染色領域を、数値化して示した図である。
図4図4(A)は、虚血再還流後、10日目の腎臓組織切片のAZAN染色画像(倍率100倍と400倍)を示す。水摂取群において、染色強度があがり、線維化の進行が見られる一方で、D−アラニン摂取群ではそのような染色強度が用量依存的に低下した。図4(B)は、AZAN染色の染色領域を、数値化して示した図である。
図5図5(A)は、尿細管上皮細胞(TEC)に対し、低酸素ストレスをかけて培養した際のD−アラニン添加のタイムスケジュールを示す。図5(B)は、D−アラニンの用量に応じた、KIM−1発現の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の1の態様は、D−アラニン、又はその誘導体を含む、腎障害の予防又は治療用の医薬組成物に関する。
【0015】
D−アラニンは、タンパク質を構成するアミノ酸の一種であるL−アラニンの光学異性体である。本発明において、D−アラニンは、その酸性塩、塩基性塩、両性塩のいずれの形態であってもよく、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等、生理的に許容できる塩であれば任意の塩を用いることができる。
【0016】
D−アラニンの誘導体は、疎水性や静電特性を変化させるものや、投与後に血中や組織中のD−アラニン濃度を上昇できるものをいう。血中や組織中のD−アラニン濃度を至適な量に調整できるものであれば任意のD−アラニン誘導体を用いることができる。D−アラニン誘導体の一例として、D−アラニンのカルボキシ基又はアミノ基が保護・置換された化合物が挙げられる。カルボキシ基は、例えばエステル化、アミド化等されうる。アミノ基は、アミド化されうる。誘導体の一例としては、D−アラニンメチルエステル、D−アラニンエチルエステルや、D−アラニンを含むペプチド、例えばジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド等が挙げられる。
【0017】
ペプチドが用いられる場合、アラニンのみで構成されていてもよいし、アラニンに加えて、その他のアミノ酸、例えばセリン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リジン、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン等で構成されていてもよい。これらのD−アラニン以外のアミノ酸は、L体であってもD体であってもよい。D−アラニン残基や分解して生成するD−アラニンが、生理効果、例えば腎臓保護効果をもたらしてもよい。
【0018】
腎臓病は、タンパク尿や、糸球体濾過量(GFR)の低下により決定される。慢性腎臓病は、以下の:
(1)尿検査、画像診断、血液検査、病理等で腎障害の存在が明らかであり、特に0.15g/gCr以上のタンパク尿(30mg/gCr以上のアルブミン尿)がある
(2)糸球体濾過量が、60mL/min/1.73m未満である
のうちのいずれか、又は両方が、3ヶ月以上持続することにより、慢性腎臓病と診断される。糸球体濾過量は、血清クレアチニン値、年齢、性別から推算糸球体濾過量を算出することでも決定されうる。
【0019】
慢性腎臓病は、様々な原因により引き起こされうる。腎臓病のリスクを有する対象としては、糖尿病、高血圧、腎炎、多発性嚢胞腎、腎移植、脂質異常症、肥満を患っている対象が挙げられる。したがって、本発明において、D−アラニン又はその誘導体はこのような腎臓病のリスクを有する対象に対して投与することができる。このような対象としては、健康診断により腎機能が低下していると判定された対象が挙げられる。健康診断では、一例として、尿タンパク、尿鮮血、BUN、クレアチニン、eGFR等に基づき、腎機能の検査が行われており、これらのうち少なくとも1の検査において、軽度異常が見つかった対象、経過観察等が必要となった対象が、腎臓病のリスクを有する対象としてもよい。また、腎臓病を患っている患者において、腎機能の回復、悪化の防止を期待して、D−アラニン又はその誘導体が投与されてもよい。
【0020】
腎臓病バイオマーカーとしても用いられるKIM−1(Kidney injury molecule−1)は、障害を受けて修復再生中の近位尿細管上皮細胞において発現誘導される全長104kDaの1回膜貫通型タンパク質である。KIM−1はアポトーシスを起こした細胞の表面に表出されるeat−meシグナルに対する受容体として作用し、KIM−1を介して死細胞を除去することに役立つと考えられている。
【0021】
急性腎障害は、数時間〜数日の間に急激に腎機能が低下する疾患であり、おもに虚血による障害と腎毒性物質による障害とに分けることができる。出血等によるショックで腎臓に十分な血液が供給されなくなると、腎臓の尿細管やネフロン等に炎症が生じ、機能が失われる。腎毒性物質は、農薬や医薬、造影剤、抗生剤等が挙げられ、これらの物質によりネフロンが傷害されることで腎機能が失われる。また、傷害される部位に応じて腎前性、腎性、腎後性の腎臓病と分類することができる。腎前性の腎臓病とは、全身疾患のために、腎臓への血流が低下すること等により生じる腎臓病をいい、例えば、脱水症、ショック、熱傷、大量出血、鬱血性心不全、肝硬変、腎動脈狭窄症等がその原因となる。腎性の腎臓病とは、腎臓自体に原因がある場合の腎臓病をいい、例えば、腎臓での血流障害、糸球体障害、及び尿細管・間質障害等がその原因として挙げられる。腎後性の腎臓病とは、腎臓より下部の尿路に問題がある場合の腎臓病をいう。急性腎障害は、早めの対処により、腎機能の回復をみこむことができるが、適切な処置がなされないとそのまま慢性腎臓病に移行することもある。したがって、本発明においてD−アラニン又はその誘導体は、急性腎障害を患っている対象、又はそのリスクを有する対象に対して、投与されうる。
【0022】
腎機能は、血中のクレアチニン量、血中総タンパク量、血中尿素窒素(BUN)、及び糸球体濾過量を測定することで、判定することができる。クレアチニン量、血中総タンパク量、血中尿素窒素(BUN)、及び推定糸球体濾過量は、健康診断においても汎用されており、その数値が基準を下回るか、又は悪化傾向を示す対象に、本発明のD−アラニン又はその誘導体を投与してもよい。
【0023】
腎臓病は、腎臓の炎症を伴うこともあり、このような障害を抑制することで、腎機能を回復又は腎臓病を治療しうる。腎臓病には、糸球体や間質等に炎症が生じる糸球体腎炎や間質性腎炎等も含まれる。さらに糸球体腎炎には、急性糸球体腎炎(急性腎炎)、慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)等がある。
【0024】
腎障害の予防用又は改善用食品とは、腎障害を患う対象又は腎障害を患うリスクを有する対象に摂取されることが表示された食品をいう。そのような食品としては、機能性食品、保健用食品、サプリメント等が挙げられる。D−アラニン又はその誘導体、及びこれらを含有する原料は任意の食品に対して配合することができる。D−アラニンはこれまで食品として10gオーダーの摂取経験においても有害事象の報告がなく、腎臓保護作用又は抗炎症作用を発揮する観点から、任意の用量を設定することができる。
【0025】
治療とは、腎機能の回復又は腎障害を緩和することをいう。一般に慢性腎臓病では腎障害の完全回復は期待できないものの、悪化を抑制する目的で、本発明の治療用の組成物を投与しうる。急性腎障害では、腎機能の回復を目的として、本発明の治療用の組成物を投与することができる。本発明において、予防とは、腎臓病を患うか、又は患うリスクのある対象に対して、腎障害の発生及び進行を抑制、又は回復することをいう。
【0026】
D−アラニンの投与用量は、投与経路に応じて任意に選択することができる。用量は、動物試験や臨床試験をとおして任意に選択することができる。D−アラニンについては、経口投与による毒性の報告はなく、その用量の上限及び下限は、腎臓の保護作用・炎症抑制作用、及び炎症性細胞死抑制作用による腎臓病障害の治療効果、保護効果、腎機能の回復効果、腎臓における炎症抑制効果、及び炎症性細胞死抑制効果のうちの少なくとも1の作用・効果が発揮される観点から任意に選択することができる。
【0027】
本発明の医薬組成物は、D−アラニン又はその誘導体の他に、薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤を含んでいてもよい。本発明の医薬組成物は、D−アラニン又はその誘導体に加えて、さらなる抗炎症性薬剤や腎機能改善剤等を含んでもよい。このような医薬組成物は、局所投与(皮膚上、吸入、注腸、点眼、点耳、経鼻、膣内等)、経腸投与(経口、経管、経注等)、非経口投与(経静脈、経動脈、経皮、筋肉注等)に適する剤形として提供されうるが、投与経路はこれらに限られるものではない。
【0028】
本発明の治療剤又は医薬組成物は、その投与経路に適した剤形を選択し製剤化することができる。経口投与に用いる場合、錠剤、カプセル剤、液剤、粉末剤、顆粒剤、咀嚼剤等、非経口投与の場合、注射剤、粉末剤、輸液製剤等の剤形が設計されうる。また、これらの製剤は医薬用に用いられる種々の補助剤、即ち、担体や他の助剤、例えば、安定化剤、防腐剤、無痛化剤、味剤、矯味剤、香料、乳化剤、充填剤、pH調整剤等が含まれてもよく、本発明の組成物の効果を損なわない範囲で配合することができる。
【0029】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例】
【0030】
実施例1:虚血再かん流による腎障害の誘導
1.材料及び方法
(1)研究倫理
全ての実験は施設のガイドラインに従い、該施設の動物実験委員会の承認を得て実施された。
【0031】
(2)材料
アミノ酸のエナンチオマー及びHPLC級のアセトニトリルはナカライテスク(京都)から購入された。HPLC級のメタノール、トリフルオロ酢酸、ホウ酸等は和光純薬(大阪)から購入された。水はMilli−QグラジエントA10システムを用いて精製された。
【0032】
(3)動物
動物はSPF環境、12時間ずつの明暗サイクルの条件下で、自由に水及び飼料を摂取できるようにして飼育された。C57BL/6Jマウスは日本クレア(大阪)から購入された。
【0033】
(4)腎虚血再灌流処理
12−16週齢のオスマウスを腎虚血再灌流(以下、「I/R」ともいう。)処理に供した。ペントバルビタール麻酔下で、Non-traumatic clip (Natsume Seisakusho. Tokyo)をもちい腎茎をクランプし、虚血を誘発した。40分後にクリップを開放した。処置中は対応を37℃に保持した。
【0034】
IR処理後14日前より、マウスが、水(対照)と20mMのD−アラニン含有水を、自由に摂取できるようにして、飼育した。IR処理後10日目において腎臓組織を採取した。
【0035】
染色
虚血再かん流後、10日目で採取された腎臓を、10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋し、periodic acid-Schiff (PAS染色)(過ヨウ素酸シッフ染色)で染めた。染色した切片を明視野顕微鏡で撮影した(図1)。PASで染まったデブリス (皮髄境界部) 又はブラッシュボーダー (皮髄境界部と皮質領域) は、最低10か所異なる箇所で定量評価した。デブリ、尿細管拡張、ブラッシュボーダーの障害、尿細管壊死をATN scoreで評価した(0, none; 1, mild; 2, moderate; and 3, severe)。 サンプルの評価は、ブラインドで行った。結果を図2(A)〜(C)に示す。
【0036】
虚血再かん流後、10日目で採取された腎臓組織を、10%中性緩衝ホルマリンで固定し、F4/80抗体(invitrogen, catalog#: MF48000)を用いて免疫染色に供した。F4/80はマクロファージで特異的に発現するタンパク質であり、腎臓組織内へのマクロファージを可視化することができる。水投与の対照群では、腎組織にF4/80で染色された細胞の蓄積がみられた(5日目)一方で、D−アラニン投与群(20mM及び80mM)では、そのような細胞の蓄積は少なかった(図3(A))。各群における染色領域の割合を測定した(図3(B))。
【0037】
虚血再かん流後、10日目で採取された腎臓組織を、10%中性緩衝ホルマリンで固定し、AZAN染色に供した。AZAN染色では、線維化された組織がアニリンブルーで染色される。水投与の対照群では、線維化された組織が広くみられた一方で、D−アラニン投与群(20mM及び80mM)では、用量依存的に、アニリンブルーで染色された領域が減少した(図4(A))。各群における染色領域の割合測定した(図4(B))。
【0038】
実施例2:尿細管上皮細胞(TEC)に対する低酸素ストレス付加
マウス尿細管上皮細胞であるmProx24cellはSugaya (St. Marianna University School of Medicine, Tokyo)から提供された。この細胞を5%ウシ胎仔血清(FBS)及び1%ペニシリン及びストレプトマイシン添加DMEM培地で培養した。培養された細胞を、1%FBS添加DMEM培地を用いて1.0 × 10cell/ウェルで播種し、37℃、5%CO2及び20%O2加湿雰囲気下で24時間培養した。低酸素ストレス付加群では、24時間培養後に、5%FBS添加DMEM培地に5%CO2及び5%O2加湿雰囲気下でさらに20時間培養し、低酸素ストレス未付加群では、5%FBS添加DMEM培地に5%CO2及び20%O2加湿雰囲気下でさらに20時間培養した(図5(A))。これらのDMEM培地には、試験薬剤として1μM、10μM、及び100μMのD−アラニンを添加し、対照ではD−アラニンを含めなかった。
【0039】
KIM−1の遺伝子発現の測定
培養後細胞を回収し、the High Pure RNA Isolation Kit (Roche Diagnostics, Tokyo)を用いてTotal RNAを抽出した。SYBR Green fluorescence (Bio-Rad, Tokyo)を用いた定量的リアルタイムPCRは、Villa 7 Real-Time PCR System (Thermo Fisher Scientific, Tokyo)で行い、下記のプライマーを用いた。データはdelta-delta Ct 法で解析した(図5(B))。
KIM-1 Forward: 5’-aggaagacccacggctattt-3’ (配列番号1)
KIM-1 Reverse: 5’-tgtcacagtgccattccagt-3’ (配列番号2)
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]