【解決手段】本発明の導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、アミン化合物と、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンとを含有する。本態様の導電性高分子分散液の製造方法は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体と水とを含有する原料水分散液から水を除去して導電性複合体の固形物を得ること、及び、前記固形物とアミン化合物と4−(メタ)アクリロイルモルフォリンとを混合することを含む。
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンとを含有し、前記ポリアニオンの一部のアニオン基にアミン化合物が結合している、導電性高分子分散液。
前記導電性高分子分散液の総質量に対し、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンの含有量が50質量%以上99.9質量%以下である、請求項1に記載の導電性高分子分散液。
前記固形物と前記アミン化合物と前記4−(メタ)アクリロイルモルフォリンとを混合することにより得た混合液に分散処理を施す、請求項10に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
前記4−(メタ)アクリロイルモルフォリンに加えて、4−(メタ)アクリロイルモルフォリン以外のラジカル重合性化合物をさらに混合する、請求項10〜12のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
フィルム基材の少なくとも一方の面に、請求項1〜9のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液を塗工すること、及び、塗工した導電性高分子分散液を硬化すること、を含む、導電性フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<導電性高分子分散液>
以下、本発明の導電性高分子分散液の一態様について説明する。
本態様の導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンとを含有する。本態様では、導電性複合体が4−(メタ)アクリロイルモルフォリンに分散している。
【0008】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリピロール系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリピロール系導電性高分子及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0009】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0010】
(ポリアニオン)
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基(スルホン酸基)又はカルボキシ基(カルボン酸基)であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)、ポリメタクリルオキシベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等のカルボン酸基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホン酸基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0011】
ポリアニオンが、π共役系導電性高分子にドープすることによって導電性複合体を形成する。ただし、ポリアニオンにおいては、全てのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基である。
本態様では、ポリアニオンの余剰のアニオン基の一部にアミン化合物が結合して疎水性置換基を形成している。アミン化合物によってポリアニオンに疎水性置換基を形成することにより、親水性であった導電性複合体を疎水化できる。そのため、導電性複合体を、疎水性の有機化合物である4−(メタ)アクリロイルモルフォリンに、高い分散性で分散させることができる。
なお、疎水化した導電性複合体(以下、「疎水化導電性複合体」という。)の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、ポリアニオンのアニオン基と後述のアミン化合物との反応によって、−HNR
1R
2R
3で示される疎水性置換基が形成されると推測される。前記R
1,R
2,R
3は、前記アミン化合物に由来する置換基である。例えば、R
1,R
2,R
3の少なくとも1つは炭化水素基(但し、その炭化水素基の水素原子の少なくとも一つがアルキル基、アリール基、ヒドロキシ基等で置換されていてもよい。)である。R
1,R
2,R
3のうち炭化水素基でないものは水素原子である。
前記疎水性置換基は、アニオン基の酸素原子に結合する。
【0012】
アミン化合物は、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。また、アミン化合物は、4−(メタ)アクリロイルモルフォリン以外のアミン化合物が好ましい。アミン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
第一級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
前記アミン化合物のうち、本態様の導電性高分子分散液を容易に製造できることから、第三級アミンが好ましく、トリブチルアミン及びトリオクチルアミンのうちの少なくとも一方がより好ましい。
【0013】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記範囲内であれば、導電層の導電性がより高くなる。
【0014】
導電性高分子分散液の総質量に対する、前記導電性複合体の含有量は、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.2質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.4質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。
【0015】
(4−(メタ)アクリロイルモルフォリン)
4−(メタ)アクリロイルモルフォリンは、4−アクリロイルモルフォリン及び4−メタクリロイルモルフォリンのうちの一方又は両方のことである。4−アクリロイルモルフォリン及び4−メタクリロイルモルフォリンはいずれも25℃において液体である。
本態様において、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンは、導電性複合体を分散させる分散媒である。また、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンは、ビニル基を有するため、ラジカル重合可能である。4−(メタ)アクリロイルモルフォリンがラジカル重合して硬化することで、導電層の強度及び硬度を向上させることができる。
【0016】
導電性高分子分散液における4−(メタ)アクリロイルモルフォリンの濃度は、50質量%以上99.9質量%以下であることが好ましく、60質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上90質量%以下であることがさらに好ましい。導電性高分子分散液における4−(メタ)アクリロイルモルフォリンの濃度が前記下限値以上であれば、導電性複合体をより分散させやすくなり、また、導電層の強度及び硬度をより向上させることができる。導電性高分子分散液における4−(メタ)アクリロイルモルフォリンの濃度が前記上限値以下であれば、導電性複合体の固形分濃度を、導電層において導電性を発揮できる濃度とすることができる。
【0017】
(ラジカル重合性化合物)
本態様の導電性高分子分散液においては、4−(メタ)アクリロイルモルフォリン以外のラジカル重合性化合物を含有してもよい。前記ラジカル重合性化合物は、25℃において液体の化合物であることが好ましい。本態様の導電性高分子分散液が、4−(メタ)アクリロイルモルフォリン以外のラジカル重合性化合物を含有すれば、導電層の強度及び硬度を容易に調整できる。
ラジカル重合性化合物としては、例えば、4−(メタ)アクリロイルモルフォリン以外のアクリル化合物、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、ビニルエステル化合物等が挙げられる。4−(メタ)アクリロイルモルフォリンと共重合しやすい点では、4−(メタ)アクリロイルモルフォリン以外のアクリル化合物が好ましい。
ラジカル重合性化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
4−(メタ)アクリロイルモルフォリン以外のアクリル化合物としては、例えば、アクリレート、メタクリレート、(メタ)アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。また、アクリル化合物は、ビニル基を1つのみ有する単官能モノマーでもよいし、ビニル基を2つ以上有する多官能モノマーでもよいし、単官能モノマーと多官能モノマーの併用でもよい。
【0019】
アクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールA・エチレンオキサイド変性ジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート等が挙げられる。
メタクリレートとしては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アリルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、メタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、アクリロイルモルホリン、アクリロイルピペリジン、N−[トリス(3−アクリルアミドプロポキシメチル)メチル]アクリルアミド等が挙げられる。
また、アクリル化合物は、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリアクリルアクリレート等の、アクリルモノマーと他の化合物とを反応させて得たアクリレートオリゴマーであってもよい。
上記アクリル化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。
シアン化ビニル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
ビニルエステル化合物としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等が挙げられる。
【0021】
導電性高分子分散液における前記ラジカル重合性化合物の濃度は、0質量%以上99.9質量%以下であることが好ましく、10質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。導電性高分子分散液における前記ラジカル重合性化合物の濃度が前記下限値以上であれば、導電層の強度及び硬度をより調整しやすくなる。導電性高分子分散液における前記ラジカル重合性化合物の濃度が前記上限値以下であれば、前記ラジカル重合性化合物を含んでも保存安定性を維持できる。
【0022】
前記ラジカル重合性化合物と4−(メタ)アクリロイルモルフォリンとの総質量に対する4−(メタ)アクリロイルモルフォリンの割合は、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
(ラジカル重合開始剤)
本態様の導電性高分子分散液は、導電層を形成する際の4−(メタ)アクリロイルモルフォリンの重合を促進することから、ラジカル重合開始剤を含有することが好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、熱ラジカル重合開始剤又は光ラジカル重合開始剤が使用される。
熱ラジカル重合開始剤は、加熱された際にラジカルを発生させる化合物であり、例えば、有機過酸化物、過硫酸塩、アゾ化合物等が挙げられる。
光ラジカル重合開始剤は、紫外線等の活性エネルギー線が照射された際にラジカルを発生させる化合物であり、例えば、ベンゾフェノン化合物等が挙げられる。
【0024】
導電性高分子分散液におけるラジカル重合開始剤の含有量は、4−(メタ)アクリロイルモルフォリン及び前記ラジカル重合性化合物の総質量100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上7.5質量部以下であることがより好ましく、1質量部以上5質量部以下であることがさらに好ましい。導電性高分子分散液におけるラジカル重合開始剤の含有量が前記下限値以上であれば、導電層形成時に4−(メタ)アクリロイルモルフォリンをより重合させやすくなる。導電性高分子分散液におけるラジカル重合開始剤の含有量が前記上限値以下であれば、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンの重合促進に寄与しないラジカル重合開始剤が少なくなり、ラジカル重合開始剤を効率的に使用できるため、経済的である。
【0025】
(有機溶剤)
導電性高分子分散液においては、4−(メタ)アクリロイルモルフォリン以外の他の有機溶剤の含有量が少ないことが好ましく、具体的には、導電性高分子分散液の総質量に対して0質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0質量%以上1質量%以下であることが好ましく、全く含まないことがより好ましい。
他の有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤等が挙げられる。
【0026】
(高導電化剤)
導電性高分子分散液は、導電性をより向上させるために、高導電化剤を含んでもよい。
ここで、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、アミン化合物、4−(メタ)アクリロイルモルフォリン、前記ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤及び有機溶剤は、高導電化剤に分類されない。
高導電化剤は、糖類、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物、1個以上のヒドロキシ基および1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、グリシジル基を有する化合物及びラクタム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
導電性高分子分散液に含有される高導電化剤は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
高導電化剤の含有割合は導電性複合体の100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上2500質量部以下であることがさらに好ましい。
高導電化剤の含有割合が前記下限値以上であれば、高導電化剤添加による導電性向上効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子濃度の低下に起因する導電性の低下を防止できる。
【0027】
(その他の添加剤)
導電性高分子分散液には、公知のその他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。ただし、添加剤は、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、アミン化合物、4−(メタ)アクリロイルモルフォリン、前記ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤、有機溶剤及び高導電化剤以外の化合物からなる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
導電性高分子分散液が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の固形分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0028】
(導電性高分子分散液の製造方法)
本態様の導電性高分子分散液を製造する方法としては、下記の第1の製造方法、第2の製造方法が挙げられる。
第1の製造方法は、導電性複合体を含む原料水分散液から水を除去して固形物を得ること、及び、前記固形物とアミン化合物と4−(メタ)アクリロイルモルフォリンとを混合することを含む方法である。
第2の製造方法は、導電性複合体を含む原料水分散液にアミン化合物を添加して導電性複合体を析出させて析出物を得ること、前記析出物を回収すること、回収した析出物と4−(メタ)アクリロイルモルフォリンとを混合することを含む方法である。
本態様の導電性高分子分散液を容易に製造できる点では、第1の製造方法が好ましい。
【0029】
[第1の製造方法]
第1の製造方法において固形物を得るために使用する原料水分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれる分散液である。ここで、水系分散媒は、水を含有し、水溶性有機溶剤を含んでもよい。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロパノール)、2−メチル−2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
水系分散媒における水の含有量は50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0030】
原料水分散液は、例えば、ポリアニオンの水溶液中で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合することにより得られる。また、原料水分散液は市販のものを使用しても構わない。
前記化学酸化重合には、公知の触媒を適用してもよい。例えば、触媒及び酸化剤を用いることができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
原料水分散液に含まれる導電性複合体の含有量としては、導電性高分子分散液の総質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.3質量%以上5質量%以下が好ましく、0.5質量%以上4質量%以下がより好ましい。
【0031】
原料水分散液から水を除去して固形物を得る方法としては、例えば、原料水分散液を凍結乾燥する方法、原料水分散液を加熱乾燥する方法、原料水分散液を真空乾燥する方法、原料水分散液を加熱真空乾燥する方法、膜分離により水を除去する方法等が挙げられる。前記の固形物を得る方法のなかでも、導電性複合体を劣化させることなく原料水分散液の水を充分に除去できることから、原料水分散液を凍結乾燥する方法が好ましい。
凍結乾燥では、前記原料水分散液中の水分を凍結させ、真空乾燥する。凍結乾燥の際の温度は、0℃以下とすることが好ましい。凍結乾燥温度が前記上限値以下であれば、水分を凍結させやすい。また、凍結乾燥温度は−60℃以上とすることが好ましく、−40℃以上とすることがより好ましい。凍結乾燥温度が前記下限値以上であれば、温度を容易に調整できる。
原料水分散液から水を除去して得られる固形物は、導電性複合体の固形分である。
【0032】
固形物を得る際には、得られる固形物の総質量に対する水の含有量が好ましくは0質量%以上50質量%以下、より好ましくは0質量%以上10質量%以下になるまで水を除去する。固形物における水の含有量を前記上限値以下にすれば、本態様の導電性高分子分散液の総質量に対する水の含有量を容易に1.0質量%以下にできる。
【0033】
固形物を得た後には、前記固形物とアミン化合物と4−(メタ)アクリロイルモルフォリンとを混合する。
固形物にアミン化合物を添加することによって、固形物に含まれるポリアニオンのπ共役系導電性高分子へのドープに関与しないアニオン基にアミン化合物を結合させる。但し、π共役系導電性高分子へのドープに関与しないアニオン基の全てにアミン化合物が結合しなくてもよく、ドープに関与しないアニオン基が一部残留してもよい。アニオン基にアミン化合物を結合させることにより、アニオン基を疎水性置換基に変換し、導電性複合体を疎水化することができる。得られた疎水化導電性複合体と4−(メタ)アクリロイルモルフォリンとを混合することによって、疎水化導電性複合体が4−(メタ)アクリロイルモルフォリン中に分散している導電性高分子分散液を得ることができる。
疎水化導電性複合体と4−(メタ)アクリロイルモルフォリンとを混合する際には、疎水化導電性複合体及び4−(メタ)アクリロイルモルフォリンを含む混合液に分散処理を施すことが好ましい。分散処理としては、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンへの固形物の分散性を高くできる点では、加圧可能な高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
【0034】
4−(メタ)アクリロイルモルフォリンの添加量は、導電性高分子分散液における4−(メタ)アクリロイルモルフォリンの含有量が前記の好ましい範囲になる量とする。導電性高分子分散液における4−(メタ)アクリロイルモルフォリンの濃度は、上述したように、50質量%以上99.9質量%以下であることが好ましく、60質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上90質量%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
固形物へのアミン化合物の添加量は、導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上100000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上50000質量部以下であることがより好ましく、50質量部以上10000質量部以下であることがさらに好ましい。アミン化合物の添加量が前記下限値以上であれば、導電性複合体の疎水性を充分に向上させることができる。アミン化合物の添加量が前記上限値以下であれば、導電性高分子分散液から形成される導電層の導電性低下を防止できる。
【0036】
第1の製造方法において、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンと共に、又はその後で、4−(メタ)アクリロイルモルフォリン以外のラジカル重合性化合物を混合してもよい。
第1の製造方法において、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンと共に、又はその後で、ラジカル重合開始剤を混合してもよい。
第1の製造方法において、高導電化剤、添加剤等を導電性高分子分散液に添加する場合、その添加方法としては、例えば、下記(i)〜(iii)の方法が挙げられる。
(i)原料水分散液に、高導電化剤及び添加剤よりなる群から選ばれる1種を添加する方法。
(ii)得られた固形物に、高導電化剤及び添加剤よりなる群から選ばれる1種を添加する方法。
(iii)得られた導電性高分子分散液に、高導電化剤及び添加剤よりなる群から選ばれる1種を添加する方法。
これらの方法のなかでも、導電性高分子分散液中に、高導電化剤及び添加剤よりなる群から選ばれる1種を安定に分散できる点では、(iii)の方法が好ましい。
【0037】
[第2の製造方法]
第2の製造方法における析出では、導電性複合体を含む原料水分散液にアミン化合物を添加し、前記導電性複合体を疎水化させて析出させる。
第2の製造方法において使用する原料水分散液は、第1の製造方法において使用する原料水分散液と同様である。
前記原料水分散液にアミン化合物を添加した際には、前記導電性複合体を構成するポリアニオンの一部のアニオン基、具体的にはπ共役系導電性高分子へのドープに関与しないアニオン基にアミン化合物を結合させることができる。これにより、導電性複合体に疎水性置換基を形成し、導電性複合体を疎水化することができる。但し、π共役系導電性高分子へのドープに関与しないアニオン基の全てにアミン化合物が反応しなくてもよく、ドープに関与しないアニオン基が一部残留してもよい。
疎水化導電性複合体は、水系分散媒中で分散することができないため、析出して析出物となる。
原料水分散液にアミン化合物を添加している最中、又は添加した後には、攪拌、混合することが好ましい。
【0038】
アミン化合物の添加量は、第1の製造方法と同様に、導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上100000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上50000質量部以下であることがより好ましく、50質量部以上10000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0039】
原料水分散液にアミン化合物を添加することにより調製される調製液において、導電性複合体、水及びアミン化合物の好ましい濃度は、下記の通りである。
前記調製液の総質量に対して導電性複合体の濃度は、0.01質量%以上10質量%以下にすることが好ましく、0.1質量%以上5質量%以下にすることがより好ましい。
前記調製液の総質量に対して水の濃度は、20質量%以上80質量%以下にすることが好ましく、30質量%以上70質量%以下にすることがより好ましい。
前記調製液の総質量に対してアミン化合物の濃度は、0.1質量%以上50質量%以下にすることが好ましく、1質量%以上40質量%以下にすることがより好ましい。
前記調製液における各成分の濃度が前記範囲内であれば、導電性複合体のポリアニオンのアニオン基にアミン化合物を容易に反応させることができ、また、析出物を容易に回収できる。
【0040】
析出物を、水系分散媒から分取して回収する方法としては、例えば、ろ過、沈殿、抽出等の公知の分取方法を適用できる。これらの分取方法のなかでも、ろ過が好ましく、導電性複合体の形成に用いたポリアニオンがろ液とともに通過する程度に粗い目のフィルターを用いてろ過することが好ましい。このろ過方法によれば、析出物を分取するとともに、導電性複合体を形成していない余剰のポリアニオンをろ液側に残して、析出物と余剰のポリアニオンとを分離することができる。余剰のポリアニオンを除くことにより、析出物の導電性を高めることができる。
【0041】
ろ過に使用するフィルターとしては、化学分析分野で用いられるろ紙が好ましい。このろ紙としては、例えば、アドバンテック社製ろ紙、保留粒子径7μm等が挙げられる。ここで、ろ紙の保留粒子径は目の粗さの目安であり、JIS P 3801〔ろ紙(化学分析用)〕で規定された硫酸バリウムなどを自然ろ過したときの漏えい粒子径により求められる。ろ紙の保留粒子径は、例えば2μm以上20μm以下とすることができる。この保留粒子径は、余剰のポリアニオンを透過させて容易に分離できることから、5μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0042】
回収した析出物と4−(メタ)アクリロイルモルフォリンとを混合することによって、疎水化導電性複合体が4−(メタ)アクリロイルモルフォリン中に分散している導電性高分子分散液を得ることができる。
第2の製造方法においても、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンの添加量は、導電性高分子分散液における4−(メタ)アクリロイルモルフォリンの含有量が前記の好ましい範囲になる量とする。
析出物と4−(メタ)アクリロイルモルフォリンとを混合する際には、析出物及び4−(メタ)アクリロイルモルフォリンを含む混合液に分散処理を施すことが好ましい。第1の製造方法と同様に、分散処理においては、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
【0043】
第2の製造方法において、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンと共に、又はその後で、4−(メタ)アクリロイルモルフォリン以外のラジカル重合性化合物を混合してもよい。
第2の製造方法において、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンと共に、又はその後で、ラジカル重合開始剤を混合してもよい。
第2の製造方法において、高導電化剤、添加剤等を導電性高分子分散液に添加する場合、その添加方法としては、例えば、下記(iv)〜(vi)の方法が挙げられる。
(iv)原料水分散液に、高導電化剤及び添加剤よりなる群から選ばれる1種を添加する方法。
(v)析出物に、高導電化剤及び添加剤よりなる群から選ばれる1種を添加する方法。
(vi)得られた導電性高分子分散液に、高導電化剤及び添加剤よりなる群から選ばれる1種を添加する方法。
これらの方法のなかでも、導電性高分子分散液中に、高導電化剤及び添加剤よりなる群から選ばれる1種を安定に分散できる点では、(vi)の方法が好ましい。
【0044】
(作用効果)
本態様の導電性高分子分散液においては、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンが分散媒としての役割を果たしている。理由は明らかではないが、分散媒として4−(メタ)アクリロイルモルフォリンを用いることにより、導電性高分子分散液における導電性複合体の分散性が高くなり、導電性高分子分散液の保存安定性を向上させることができる。また、本態様の導電性高分子分散液によれば、導電性が高い導電層を形成できる。
4−(メタ)アクリロイルモルフォリンはビニル基を有する。そのため、前記導電性高分子分散液から導電層を形成する際には、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンを重合させることができる。本態様の導電性高分子分散液が4−(メタ)アクリロイルモルフォリン以外のラジカル重合性化合物を含有する場合には、前記導電性高分子分散液から導電層を形成する際に、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンと前記ラジカル重合性化合物とを共重合させることができる。前記重合又は前記共重合によって得られた重合体は導電層中に含まれる。
したがって、本態様の導電性高分子分散液から導電層を形成する際には、分散媒を乾燥して除去することを省略又は簡略化できる。すなわち、本態様の導電性高分子分散液は無溶剤硬化型化が可能となっている。
【0045】
<導電性フィルムの製造方法>
以下、本発明の導電性フィルムの製造方法の一態様について説明する。
本態様の導電性フィルムの製造方法は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、前記態様の導電性高分子分散液を塗工すること、及び、塗工した導電性高分子分散液を硬化すること、を含む方法である。
【0046】
本態様の製造方法において使用するフィルム基材としては、例えば、プラスチックフィルム、紙が挙げられる。
プラスチックフィルムを構成するフィルム基材用樹脂としては、例えば、エチレン−メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのフィルム基材用樹脂のなかでも、安価で機械的強度に優れる点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
前記フィルム基材用樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
また、フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
また、フィルム基材には、導電性高分子分散液から形成される導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0047】
前記フィルム基材の平均厚みとしては、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の平均厚みは、マイクロメーターを用いて10か所の厚みを測定し、それら厚みを平均した平均値である。
【0048】
(塗工)
導電性高分子分散液を塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
上記のうち、簡便に塗工できることから、バーコーターを用いることがある。バーコーターにおいては、種類によって塗工厚が異なり、市販のバーコーターでは、種類ごとに番号が付されており、その番号が大きい程、厚く塗工できるものとなっている。
前記導電性高分子分散液のフィルム基材への塗工量は特に制限されないが、固形分として、0.1g/m
2以上10.0g/m
2以下の範囲であることが好ましい。
【0049】
(硬化)
塗工した導電性高分子分散液を硬化させる方法としては、活性エネルギー線を照射する方法、加熱する方法が挙げられる。
導電性高分子分散液が光ラジカル重合開始剤を含有する場合には、活性エネルギー線を照射し、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンを重合させて、導電性高分子分散液を硬化させることが好ましい。
導電性高分子分散液が熱ラジカル重合開始剤を含有する場合には、加熱し、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンを重合させて、導電性高分子分散液を硬化させることが好ましい。
【0050】
塗工した導電性高分子分散液に活性エネルギー線を照射する場合、使用される活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線等が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源を用いることができる。
紫外線照射における照度は100mW/cm
2以上が好ましい。照度が100mW/cm
2未満であると、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンが充分に硬化しないことがある。また、積算光量は50mJ/cm
2以上が好ましい。積算光量が50mJ/cm
2未満であると、4−(メタ)アクリロイルモルフォリンが充分に硬化しないことがある。なお、本明細書における照度、積算光量は、トプコン社製UVR−T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD−T36、測定波長範囲;300nm以上390nm以下、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定した値である。
塗工した導電性高分子分散液を加熱する場合、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の加熱方法を適用できる。加熱温度は、例えば、50℃以上150℃以下に設定できる。ここで、加熱温度は、加熱装置の設定温度である。
有機溶剤を含む場合には、加熱して乾燥することができる。
【0051】
(導電性フィルム)
本態様の製造方法により得られる導電性フィルムは、フィルム基材と、前記フィルム基材の少なくとも一方の面に形成された導電層とを備える。導電層は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、4−(メタ)アクリロイルモルフォリン単位を有する重合体とを含有する。
前記導電層の平均厚さとしては、10nm以上20000nm以下であることが好ましく、20nm以上10000nm以下であることがより好ましく、30nm以上5000nm以下であることがさらに好ましい。導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層を容易に形成できる。
本明細書における平均厚さは、任意の10箇所について断面を観察して厚さを測定し、それらの測定値を平均した値である。
【0052】
(作用効果)
本態様の導電性フィルムの製造方法において使用する導電性高分子分散液は無溶剤硬化型化が可能であるから、導電層を形成する際に、分散媒の乾燥を省略又は簡略化できる。
また、前記態様の導電性高分子分散液から形成した導電層は導電性が高い。前記態様の導電性高分子分散液は保存安定性が高いため、長期間保存された導電性高分子分散液を使用して導電性フィルムを製造した場合でも、導電層における高い導電性を維持できる。
【実施例】
【0053】
(製造例1)
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃にて攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、その溶液を12時間攪拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の1000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去し、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0054】
(製造例2)
14.2gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、製造例1で得た36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。これにより得られた混合溶液を20℃に保ち攪拌を行いながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくりと添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。次に、得られた溶液に、200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去し、ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT−PSS)を水洗した。この操作を8回繰り返して、固形分濃度1.2質量%のPEDOT−PSS水分散液を得た。
【0055】
(製造例3)
製造例2で得たPEDOT−PSS水分散液1000gを、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥して、12gのPEDOT−PSSの凍結乾燥体(固形物)を得た。
【0056】
(実施例1)
4−アクリロイルモルフォリン1000gに、製造例3で得たPEDOT−PSSの凍結乾燥体4.0gと、トリブチルアミン(表中では、「TBA」と表記する。)1.8gとを添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散処理して、導電性高分子分散液を得た。
【0057】
(実施例2)
4−アクリロイルモルフォリン1000gに、製造例3で得たPEDOT−PSSの凍結乾燥体4.0gと、トリオクチルアミン(表中では、「TOA」と表記する。)3.5gとを添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散処理して、導電性高分子分散液を得た。
【0058】
(実施例3)
実施例1で得た導電性高分子分散液70gに、ラジカル重合性化合物であるペンタエリスリトールトリアクリレート(表中では、「PETA」と表記する。)30gをさらに添加して、実施例3の導電性高分子分散液を得た。
【0059】
(比較例1)
4−アクリロイルモルフォリンをペンタエリスリトールトリアクリレートに変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得た。
【0060】
(比較例2)
4−アクリロイルモルフォリンをヒドロキシエチルアクリレート(表中では、「HEA」と表記する。)に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得た。
【0061】
<評価>
[保存安定性の評価]
各例の導電性高分子分散液を25℃で10日間保管し、保管後の導電性高分子分散液の状態を目視により観察して評価した。評価結果を表1に示す。
[表面抵抗値の測定]
各例の導電性高分子分散液10gに光ラジカル重合開始剤(BASF製、イルガキュア184)0.4gを添加した。光ラジカル重合開始剤を含む導電性高分子分散液を、直径10cmのシャーレ上に滴下した後、400mJの紫外線を照射して、導電性高分子分散液を硬化させた。これにより形成した導電層について、その表面抵抗値を、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリティック製ハイレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。測定結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
4−アクリロイルモルフォリンを含む各実施例の導電性高分子分散液は保存安定性が良好であった。また、各実施例の導電性高分子分散液から形成した導電性フィルムは表面抵抗値が小さく、高い導電性を有していた。
4−アクリロイルモルフォリンを含まず、4−アクリロイルモルフォリン以外のラジカル重合性化合物を含む各比較例の導電性高分子分散液は保存安定性が低かった。また、各比較例の導電性高分子分散液から形成した導電性フィルムは表面抵抗値が大きく、導電性が低かった。