【解決手段】鉄筋がコンクリートの内部に配設された鉄筋コンクリート部と、前記鉄筋コンクリート部に設けられた仕上げ部とを備える鉄筋コンクリート構造物の保護方法であって、前記仕上げ部を貫通して前記鉄筋コンクリート部に達する注入孔を設ける注入孔形成工程と、前記注入孔に吸水防止剤を注入し、前記鉄筋コンクリート部に保護層を形成する保護層形成工程とを有することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の保護方法である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
後述する明細書及び図面の記載から、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0011】
鉄筋がコンクリートの内部に配設された鉄筋コンクリート部と、前記鉄筋コンクリート部に設けられた仕上げ部とを備える鉄筋コンクリート構造物の保護方法であって、前記仕上げ部を貫通して前記鉄筋コンクリート部に達する注入孔を設ける注入孔形成工程と、前記注入孔に吸水防止剤を注入し、前記鉄筋コンクリート部に保護層を形成する保護層形成工程とを有することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の保護方法が明らかとなる。このような鉄筋コンクリート構造物の保護方法によれば、既存仕上げ材を維持したまま鉄筋コンクリート構造物に保護層を形成することができる。なお、本発明において保護層とは吸水防止剤がコンクリート中に浸透し、水分移動を抑制する効果を持つ層を意味する。
【0012】
前記保護層は、前記吸水防止剤が前記鉄筋の周囲の前記コンクリートに浸透することで前記鉄筋の表面に形成される鉄筋コーティング層を有することが望ましい。これにより、水分等の劣化因子により鉄筋の腐食が進行することを抑制することができる。なお、本発明において鉄筋コーティング層とは、鉄筋に不動態被膜に代わる保護層の一部を構成し、鉄筋の腐食を抑制する効果を持つ層を意味する。
【0013】
前記保護層は、前記吸水防止剤が前記コンクリートに浸透することで前記コンクリートに形成される高濃度吸水防止層を有することが望ましい。これにより、水分等の劣化因子がコンクリート内部の鉄筋の位置へ浸入することを抑制することができる。なお、本発明において高濃度吸水防止層とは、保護層の一部を構成し、吸水防止剤が高濃度で存在し濡れ色にならならず、強い疎水効果を持つ層を意味する。
【0014】
前記吸水防止剤は、シラン系含浸材であることが望ましい。これにより、吸水防止剤がコンクリートに浸透することで、鉄筋の表面に形成される鉄筋コーティング層と、コンクリートに形成される高濃度吸水防止層とを有する保護層を形成することができる。
【0015】
前記吸水防止剤の粘度が0.8mPa・s〜800mPa・sであることが望ましい。これにより、吸水防止剤がコンクリートに浸透することで、鉄筋の表面に形成される鉄筋コーティング層と、コンクリートに形成される高濃度吸水防止層とを有する保護層を形成することができる。なお、本発明において粘度とは、20℃におけるB型回転粘度計による測定値を意味する。
【0016】
前記吸水防止剤の粘度が10mPa・s以下であることが望ましい。これにより、コンクリートへの吸水防止剤の浸透範囲を広くすることができる。
【0017】
前記吸水防止剤を無加圧で前記注入孔に注入することが望ましい。これにより、簡易な方法で吸水防止剤を注入孔に注入することができる。
【0018】
前記注入孔は、前記鉄筋コンクリート構造物の表面側から内側に向かって水平方向に対して斜め下方を向くように設けられていることが望ましい。これにより、無加圧で吸水防止剤を注入した場合でも、吸水防止剤を注入孔の途中にとどまらせることなく注入することができる。
【0019】
前記鉄筋コンクリート構造物には、複数の前記注入孔が設けられ、前記鉄筋コンクリート構造物の表面方向における前記複数の注入孔の間隔は、前記鉄筋コンクリート構造物の表面方向における前記吸水防止剤の浸透範囲の大きさ以下であることが望ましい。これにより、鉄筋コンクリート部を保護層で網羅することができる。
【0020】
前記複数の注入孔の鉛直方向の間隔は、前記複数の注入孔の水平方向の間隔よりも大きいことが望ましい。これにより、鉄筋コンクリート部を保護層で網羅することができる。
【0021】
前記鉄筋コンクリート構造物の前記コンクリートの圧縮強度が50N/mm
2であるとき、前記複数の注入孔の鉛直方向の間隔が300mm以下、かつ前記複数の注入孔の水平方向の間隔が200mm以下であることが望ましい。これにより、鉄筋コンクリート部を保護層で網羅することができる。
【0022】
前記鉄筋コンクリート構造物の前記コンクリートの圧縮強度が18〜50N/mm
2であるとき、前記複数の注入孔の鉛直方向の間隔が300mm以上、かつ前記複数の注入孔の水平方向の間隔が200mm以上であることが望ましい。これにより、鉄筋コンクリート部を保護層で網羅することができる。
【0023】
第1の前記鉄筋コンクリート構造物の前記コンクリートの圧縮強度よりも、第2の前記鉄筋コンクリート構造物の前記コンクリートの圧縮強度が大きい場合に、前記第2の鉄筋コンクリート構造物の表面方向における前記吸水防止剤の浸透範囲は、前記第1の鉄筋コンクリート構造物の表面方向における前記吸水防止剤の浸透範囲よりも小さいことが望ましい。これにより、鉄筋コンクリート部を保護層で網羅することができる。
【0024】
前記注入孔は、前記鉄筋コンクリート部において前記鉄筋を避けるようにして設けられることが望ましい。これにより、吸水防止剤が鉄筋の周囲のみに浸透することで鉄筋の表面に形成される鉄筋コーティング層のみが形成され、コンクリートに形成される高濃度吸水防止層が形成されづらくなることを抑制することができる。
【0025】
前記注入孔の注入深さは、前記鉄筋コンクリート構造物の表面から前記鉄筋までの距離以下であることが望ましい。これにより、コンクリートに形成される高濃度吸水防止層を鉄筋コンクリート構造物の表面側に形成することができる。
【0026】
前記注入孔の注入深さは、前記鉄筋コンクリート構造物の表面から前記鉄筋までの距離より大きいことが望ましい。これにより、コンクリートに形成される高濃度吸水防止層を鉄筋コンクリート構造物の背面側に形成することができる。
【0027】
前記保護層形成工程は、鉄筋コンクリート部の表面に前記吸水防止剤を塗布することを含むことが望ましい。これにより、水分等の劣化因子がコンクリート内部の鉄筋の位置へ浸入することをさらに抑制することができる。
【0028】
===第1実施形態===
<鉄筋コンクリート構造物の保護方法の概要>
図1は、第1実施形態の鉄筋コンクリート構造物1の保護方法を示す模式断面図である。
【0029】
以下の説明では、図に示すように各方向を定義する。すなわち、
図1に示すように、鉄筋コンクリート構造物1の仕上げ部20の面に垂直な方向を「深さ方向」とし、鉄筋コンクリート部10に対して仕上げ部20の面の側を「表面」とし、逆側を「背面」又は「裏面」とする。また、
図1及び後述する
図2Aに示すように、鉄筋コンクリート構造物1の仕上げ部20の面に水平な方向を「表面方向」とする。なお、表面方向は、「鉛直方向」と、「水平方向」とを有する。
【0030】
・鉄筋コンクリート構造物1
本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1は、例えば、鉄筋コンクリート(RC)、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)等で建てられる建築構造物である。但し、本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1は、その他の構造物であってもよい。鉄筋コンクリート構造物1は、鉄筋11がコンクリート12の内部に配設された鉄筋コンクリート部10と、鉄筋コンクリート部10に設けられた仕上げ部20とを有する。
【0031】
鉄筋コンクリート部10の鉄筋11は、コンクリート12の引張強度を補強するため、コンクリート12の内部に配設されている。鉄筋11は、コンクリート12の表面及び裏面から所定のかぶり厚さが確保された位置に配設されている。また、鉄筋コンクリート部10のコンクリート12は、型枠にコンクリートが打設されることにより形成されている。本実施形態のコンクリート12のセメントは、普通ポルトランドセメントを使用することができる。但し、本実施形態のコンクリート12のセメントは、その他の種類のセメントを使用していても良い。なお、以下の説明では、鉄筋コンクリート部10を「コンクリート躯体10」と呼ぶことがある。
【0032】
仕上げ部20は、鉄筋コンクリート部10の表面又は裏面に施された仕上げ材である。本実施形態の仕上げ部20は、モルタル、漆喰、タイル等の仕上げ材を使用することができる。但し、本実施形態の仕上げ部20は、他の仕上げ材を使用していても良い。
【0033】
・鉄筋コンクリート構造物1の保護方法の概要
本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1の保護方法は、注入孔形成工程と、保護層形成工程とを有する。
【0034】
注入孔形成工程は、仕上げ部20を貫通して鉄筋コンクリート部10に達する注入孔30を設ける工程である。
図1に示すように、鉄筋コンクリート構造物1に注入孔30が設けられ、注入器90の注入管91が挿入される。注入器90には、後述する吸水防止剤60が充填されており、注入管91を通って鉄筋コンクリート構造物1の注入孔30に吸水防止剤60が注入される。
【0035】
注入孔30は、鉄筋コンクリート構造物1に設けられ、後述する吸水防止剤60が注入される孔である。本実施形態の注入孔30は、ドリルでの削孔により設けられる。但し、本実施形態の注入孔30は、他の方法により設けられても良い。
図1に示すように、本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1には、鉛直方向に複数(ここでは、5個)の注入孔30が設けられており、それぞれの注入孔30に注入器90の注入管91が挿入されている。なお、本実施形態の注入孔30の配列方向や数については、後述する。
【0036】
注入孔30の大きさ(内径)は、直径10mm程度である。但し、注入孔30の大きさ(内径)はこれに限られない。つまり、注入孔30の大きさ(内径)は、注入器90の注入管91の太さ(外径)より大きければ良く、かつ、仕上げ部20の外観を損なわない程
度に小さければ良い。なお、「仕上げ部20の外観を損なわない程度」とは、例えば、仕上げ部20としてタイルが使用されている場合、注入孔30の大きさ(内径)をタイルの目地部分の大きさ以下とするなど、外観への影響が小さい程度ということである。
【0037】
また、
図1に示すように、注入孔30は、仕上げ部20を貫通して鉄筋コンクリート部10に達している。言い換えれば、注入孔30の注入深さ(
図1に示すD1)は、仕上げ部20の厚さ(
図1に示すD2)以上である(D1≧D2)。なお、「注入孔30の注入深さ」とは、注入孔30の表面側の入口から端部までの深さ方向の距離のことである(
図1に示すD1)。また、
図1に示すように、注入孔30の注入深さは、鉄筋コンクリート構造物1の表面から鉄筋11までの距離(
図1に示すD3)以下である(D1≦D3)。これにより、コンクリート12に形成される保護層80を鉄筋コンクリート構造物1の表面側に形成することができる。保護層80が鉄筋コンクリート構造物1の表面側に形成されると、鉄筋コンクリート構造物1の表面側からの水分等の劣化因子の浸入を抑制することができる。なお、保護層80については、後述する。
【0038】
さらに、
図1に示すように、本実施形態の注入孔30は、鉄筋コンクリート構造物1の表面側から内側(背面側)に向かって水平方向に対して斜め下方を向くように設けられている。すなわち、注入孔30の先端が水平方向に対して斜め下方を向くように設けられている。したがって、注入孔30に注入された吸水防止剤60は、重力により注入孔30の先端から注入孔30内部に溜まっていくことになる。これにより、無加圧で吸水防止剤を注入した場合でも、吸水防止剤を注入孔の途中にとどまらせることなく注入することができる。なお、本実施形態の注入孔30は、水平方向に向くように設けられていても良いし、その他の方向を向くように設けられていても良い。また、吸水防止剤60が注入孔30の入り口からこぼれることを抑制するために、注入孔30の入り口はシールされる。但し、吸水防止剤60の粘度が高く、注入孔30の表面側の入り口から吸水防止剤60がこぼれるおそれが小さい場合は、シールされないこともある。
【0039】
保護層形成工程は、鉄筋コンクリート部10に保護層80を形成する工程である。
図1に示すように、注入孔30に注入された吸水防止剤60が鉄筋コンクリート部10のコンクリート12に浸透することで、鉄筋コンクリート部10に保護層80が形成される。
【0040】
保護層80は、鉄筋コンクリート部10において、疎水化する特性を有する層である。本実施形態の鉄筋コンクリート部10では、この保護層80により、鉄筋11がコンクリート12の内部に浸入した水分及び塩化物イオンと接触することがなく、鉄筋11の腐食が進行することを抑制する。これにより、鉄筋11の劣化を抑制することができる。なお、
図1に示す保護層80の範囲(破線で囲まれた範囲)は、説明のために模式的に図示したものであり、これに限られない。
【0041】
・小括
前述したように、本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1の保護方法は、鉄筋11がコンクリート12の内部に配設された鉄筋コンクリート部10と、鉄筋コンクリート部10に設けられた仕上げ部20とを備える鉄筋コンクリート構造物1の保護方法である。そして、本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1の保護方法は、仕上げ部20を貫通して鉄筋コンクリート部10に達する注入孔30を設ける注入孔形成工程と、注入孔30に吸水防止剤60を注入し、鉄筋コンクリート部10に保護層80を形成する保護層形成工程とを有する。
【0042】
本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1の保護方法によれば、鉄筋コンクリート構造物1の仕上げ部20の表面に吸水防止剤60を塗着するのではなく、仕上げ部20を貫通し
て鉄筋コンクリート部10に達する注入孔30に吸水防止剤60を注入し、鉄筋コンクリート部10の内部に保護層80を形成する。これにより、仕上げ部20の上にさらに仕上げ材を施すことや、仕上げ部20を一旦全面撤去し、鉄筋コンクリート部10の表面に保護層80を形成した後に再び仕上げ材を施す必要がない。これにより、既存仕上げ材(仕上げ部20)を維持したまま鉄筋コンクリート構造物1に保護層80を形成することができる。
【0043】
なお、仕上げ部20を貫通して鉄筋コンクリート部10に達する注入孔30に吸水防止剤60を注入し、鉄筋コンクリート部10の内部に保護層80を形成することに加えて、鉄筋コンクリート構造物1の鉄筋コンクリート部10の表面に吸水防止剤60を塗着することで鉄筋コンクリート部10の表面側に保護層80を形成しても良い。
【0044】
<鉄筋コンクリート部の保護層>
図2Aは、第1実施形態の鉄筋コンクリート構造物1の正面図である。
図2Aでは、本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1において、コンクリート11の内部に配設されている鉄筋11の位置を破線で示している。
図2Aに示すように、本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1では、注入孔30は、水平方向及び鉛直方向に複数配列して設けられている。また、注入孔30の周りに楕円状の破線で示したように、保護層80が形成されている。なお、
図2Aでは、保護層80は一部のみ図示している。以下の説明では、複数の注入孔30の鉛直方向の間隔(ピッチ)をPV、複数の注入孔の水平方向の間隔(ピッチ)をPHと呼ぶことがある。また、それぞれの注入孔30に注入された吸水防止剤60により形成された保護層80の鉛直方向の大きさをDV、水平方向の大きさをDHと呼ぶことがある。
【0045】
本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1の表面方向(鉛直方向及び水平方向)における複数の注入孔30の間隔(PV及びPH)は、鉄筋コンクリート構造物1の表面方向(鉛直方向及び水平方向)における吸水防止剤60の保護層80の大きさ(DV及びDH)以下である(PV<DVかつPH<DH)。これにより、鉄筋コンクリート部10を保護層80で網羅することができる。なお、吸水防止剤60の保護層80の大きさ(DV及びDH)は、重力による影響により、鉛直方向の吸水防止剤60の保護層80の大きさ(DV)が、水平方向の吸水防止剤60の保護層80の大きさ(DH)よりも大きい(DV>DH)。このため、複数の注入孔30の鉛直方向の間隔(PV)は、複数の注入孔30の水平方向の間隔(PH)よりも大きくすることができる(PV>PH)。
【0046】
図2Bは、第1実施形態の鉄筋コンクリート構造物1における注入孔30周辺の断面図である。
図2Bでは、前述した複数の注入孔30のうち、ある注入孔30の周辺に形成された保護層80の様子を模式的に図示している。なお、
図2Bでは、説明を容易にするために、注入孔30が鉄筋コンクリート構造物1の表面側から内側(背面側)に向かって水平方向を向くように設けられている例を示している。さらに、
図2Bでは、説明を容易にするために、注入器90の図示を省略している。
図2Bに示すように、注入孔30には、吸水防止剤60が注入されている。
【0047】
吸水防止剤60は、鉄筋コンクリート部に疎水化する特性を有する層(保護層80)を形成するコンクリートの保護材である。なお、吸水防止剤60は、コンクリートへ浸透する特性を有する。本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1の保護方法では、注入孔30に注入された吸水防止剤60は、注入孔30の内壁からコンクリート12の内部に浸透し、鉄筋コンクリート部10の注入孔30の周りに保護層80が形成される。なお、吸水防止剤60は注入孔30の内壁から外側(コンクリート12の内部)に浸透するため、保護層80内のおいては、注入孔30の外側に向かって吸水防止剤60の濃度が徐々に小さくな
っていく。
【0048】
本実施形態の吸水防止剤60は、シラン系含浸材が使用される。シラン系含浸材は、撥水機能を有するシリコーンの疎水基(アルキル基)を有する含浸材の一種である。但し、本実施形態の吸水防止剤60は、シラン系含浸材以外の含浸材であっても良い。
【0049】
図2Bに示す保護層80は、吸水防止剤60の浸透する範囲(浸透範囲)である。吸水防止剤60は、注入孔30の内壁から注入孔30の外側に向かってコンクリート12の内部に浸透し、保護層80を形成する。本実施形態では、吸水防止剤60がコンクリート12の内部に浸透し、保護層80の範囲内において、高濃度吸水防止層71と、鉄筋コーティング層72とが形成される。
【0050】
高濃度吸水防止層71は、コンクリート12において水の浸入を抑制する層である。高濃度吸水防止層71は、注入孔30の外側に形成され、コンクリート12に浸透した吸水防止剤60の濃度が高い部分である。本実施形態では、高濃度吸水防止層71は、散水しても濡れ色とならない、特に吸水防止剤60の濃度が高い層である。高濃度吸水防止層71により、水分等の劣化因子がコンクリート12内部の鉄筋11の位置へ浸入することを抑制することができる。また、保護層80の範囲内の鉄筋11の周囲には、鉄筋コーティング層72が形成される。鉄筋コーティング層72は、鉄筋11への水の付着を抑制する層である。鉄筋コーティング層72は、コンクリート12に浸透した吸水防止剤60が鉄筋11に達し、鉄筋11の表面を伝って鉄筋11の周囲をコーティングすることで形成される。
【0051】
なお、
図2A及び
図2Bに示すように、注入孔30は、鉄筋コンクリート部10において鉄筋11を避けるようにして設けられる。注入孔30が鉄筋11に触れるように設けられていると、すなわち、注入孔30の内壁において鉄筋11が露出していると、吸水防止剤60が直接鉄筋11の周囲を伝っていき、コンクリート12に浸透しづらくなってしまう。したがって、注入孔30が鉄筋コンクリート部10において鉄筋11を避けるようにして設けられることにより、吸水防止剤60が鉄筋11の周囲のみに浸透することで鉄筋11の表面に形成される鉄筋コーティング層72のみが形成されてしまうことを抑制することができる。また、注入孔30が鉄筋コンクリート部10において鉄筋11を避けるようにして設けられることにより、コンクリート12中に水の浸入を抑制するための所望の範囲の保護層80を形成することができる。
【0052】
<注入器>
図3Aは、無加圧式の注入器90の例を示す図である。
図3Bは、無加圧式の注入器90(空気抜き式)の例を示す図である。
図3A及び
図3Bに示す注入器90は、吸水防止剤60を充填する容器92と、吸水防止剤60を注入孔30に注入するための注入管91とを有する。注入管91は、注入孔30に挿入されることで、吸水防止剤60が注入管91を通って注入孔30に注入される。なお、吸水防止剤60の粘度が低いほど、吸水防止剤60がコンクリート12へ浸透しやすくなる。すなわち、吸水防止剤60の粘度が低いほど、吸水防止剤60の保護層80が大きくなる。したがって、例えば、吸水防止剤60の粘度が10mPa・s以下の場合、吸水防止剤60を無加圧で注入孔30に注入することが有利である。これにより、簡易な方法で吸水防止剤を注入孔に注入することができる。
【0053】
また、
図3Bに示す注入器90は、空気抜き管93をさらに有する。空気抜き管93は、注入孔30より吸水防止剤60が注入され、コンクリート12内部に浸透することにより発生する気泡を外に送り出すための管である。空気抜き管93は、注入管91と共に注入孔30に注入され、コンクリート12内部に浸透することにより発生する気泡が空気抜き管93を通って外に送り出される。
【0054】
図3Cは、加圧式の注入器90の例を示す図である。
図3Cに示す注入器90は、加圧ゴム94の圧縮力により、容器92中で押圧面95が注入孔30側に押されることで、容器92中の吸水防止剤60が注入孔30に加圧して注入される。本実施形態では、吸水防止剤60は、0.05〜0.2Mpa程度に加圧されて注入孔30に注入される。なお、吸水防止剤60の粘度が高い場合、吸水防止剤60を加圧して注入孔30に注入することが有利である。これにより、吸水防止剤60の粘度が高くても、吸水防止剤60がコンクリート12へ浸透しやすくなる。
【0055】
<実施例>
・注入試験の概要
本実施形態の鉄筋コンクリート構造物1の保護方法に関して、吸水防止剤60の鉄筋コンクリート部10への注入試験を行った。注入試験では、まず、鉄筋がコンクリートの内部に配設された壁状試験体を製作した。この壁状試験体に複数の注入孔を設け、吸水防止剤を注入孔に注入した後、成分分析用の試料を複数採取した。また、注入孔への注入とは別に、コンクリート表面に吸水防止剤を塗布し28日経過した後、深さ方向の成分分析用の試料を複数採取した。成分分析用の試料採取は、ドリルでの削孔による採取と、コンクリートコアによる採取との2種類である。
【0056】
ドリルでの削孔による採取は、10.5mmのドリルビットにより行った。試料は注入孔の位置から鉛直方向及び水平方向に50mmの間隔でそれぞれ複数箇所採取した。なお、本試験では、鉛直方向及び水平方向に計8箇所で試料を採取した。また、それぞれの箇所で採取する試料は、注入孔30の深さが50mmの場合は、コンクリートの表面から深さ40mmから50mm、注入孔30の深さが100mmの場合は、コンクリートの表面から深さ90mmから100mmに位置する部分を採取し、熱分解ガスクロマトグラフィーによる成分分析を行った。
【0057】
コンクリートコアによる採取は、注入孔を含む直径80mm又は直径100mmのコンクリートコアとして採取した。また、採取した試料について、割裂面に散水して濡れ色にならない範囲を確認し、その範囲を高濃度吸水防止層とした。さらに、コンクリート表面に吸水防止剤を塗布した場所においては、直径80mmのコンクリートコアとして採取し、コンクリートコアの塗布面からの深さ100mmまで20mm間隔で5枚の円板を切り出し、それぞれ粉砕処理をした後に熱分解ガスクロマトグラフィーによる成分分析を行った。
【0058】
<熱分解ガスクロマトグラフィーの測定条件>
熱分解ガスクロマトグラフィーによる成分分析の測定条件は下記表1に示す条件により行った。
【0060】
本試験では、下記の表2に示すように、コンクリートの圧縮強度と注入孔の注入深さを変えて、それぞれ粘度1.2mPa・sのシラン系含浸材である吸水防止剤Aを無加圧により注入孔に注入した場合を実施した。なお、吸収防止材の粘度は、20℃におけるB型回転粘度計による測定結果である。
【0062】
・吸水防止剤60の表面方向の浸透距離
図4は、吸水防止剤60の注入深さが50mmの場合の、鉄筋コンクリート構造物1の表面方向における吸水防止剤60の浸透の様子を示す図である。
図5は、吸水防止剤60の注入深さが100mmの場合の、鉄筋コンクリート構造物1の表面方向における吸水防止剤60の浸透の様子を示す図である。
【0063】
図4及び
図5に示すように、注入孔中心からの各箇所において、コンクリートの圧縮強度が18N/mm
2の鉄筋コンクリート構造物1の例(実施例3)の方が、コンクリートの圧縮強度が50N/mm
2の鉄筋コンクリート構造物1の例(実施例1)よりも、吸水防止剤60の成分が高くなっている。これは、コンクリートの圧縮強度が小さいほど、吸水防止剤60がコンクリートに浸透しやすいことを示している。前述したように、吸水防止剤60は注入孔30の内壁から外側(コンクリート12の内部)に浸透するため、保護層80内のおいては、注入孔30の外側に向かって吸水防止剤60の濃度が徐々に小さくなっていく。以上を考慮すると、コンクリートの圧縮強度が小さいほど、吸水防止剤60の保護層80も広がることになる。したがって、コンクリートの圧縮強度が18N/mm
2の鉄筋コンクリート構造物1(実施例3)の表面方向における吸水防止剤60の保護層80は、コンクリートの圧縮強度が50N/mm
2の鉄筋コンクリート構造物1(実施例1)の表面方向における吸水防止剤60の保護層80よりも大きくなる。
【0064】
・吸水防止剤60の深さ方向の浸透距離
図6は、吸水防止剤60の注入とは別にコンクリート12の表面に吸水防止剤60を塗布した場合の鉄筋コンクリート構造物1の深さ方向における吸水防止剤60の浸透の様子を示す図である。
【0065】
図6に示すように、コンクリートの圧縮強度が18N/mm2の鉄筋コンクリート構造物1の場合、表面からの距離が30mm〜50mmの範囲で吸水防止剤60の濃度が急に低下する。また、コンクリートの圧縮強度が50N/mm2の鉄筋コンクリート構造物1の場合、表面からの距離が10mm〜30mmの範囲で吸水防止剤60の濃度が急に低下する。上記の範囲が、高濃度吸水防止層71の境界となる。
【0066】
・吸水防止剤60の粘度
下記の表3には、コンクリートコアによる試料採取において、割裂面に散水したときの濡れ色にならない範囲を確認した結果と、ドリルでの削孔による試料採取において、吸水防止剤60の成分の浸透範囲を確認した結果を示す。なお、割裂面に散水したときの濡れ色にならない範囲は、粘度1.2mPa・sの吸水防止剤Aと、粘度762mPa・sのシラン系含浸材である吸水防止剤Bとにおいて確認した。
【表3】
【0067】
・小括
下記の表4には、吸水防止剤A(1.2mPa・s)と、吸水防止剤B(762mPa・s)とを使用した鉄筋コンクリート構造物1の保護方法の適用範囲を示す。
【0069】
吸水防止剤60の粘度は、0.8mPa・s〜800mPa・sの間の任意の粘度であって良い。なお、吸水防止剤60の粘度が10mPa・s以下が特に有利である。これにより、コンクリート12への吸水防止剤60の浸透範囲を広くすることができる。なお、前述したように、吸水防止剤60の粘度が10mPa・s以下の場合、吸水防止剤60を無加圧で注入孔30に注入することができる。
【0070】
コンクリートの圧縮強度は、18〜50N/mm
2の間の任意の圧縮強度であって良い。但し、圧縮強度が50N/mm2の鉄筋コンクリート構造物1から圧縮強度が18N/mm
2の鉄筋コンクリート構造物1にかけて、吸水防止剤60の浸透範囲は徐々に大きくなる。
【0071】
コンクリートの圧縮強度が50N/mm
2であるとき、複数の注入孔30の鉛直方向の間隔(PV)が300mm(上方向100mm+下方向200mm)以下、かつ複数の注入孔の水平方向の間隔(PH)が200mm(左方向100mm+右方向100mm)以下が望ましい。コンクリートの圧縮強度が18〜50N/mm
2であるときは、上記以上の間隔とすることができる。これにより、鉄筋コンクリート部10を保護層80で網羅することができる。なお、吸水防止剤Bを使用した場合の注入孔30の注入間隔は、吸水防止剤Aと吸水防止剤Bとの濡れ色にならない範囲の比率により算出している。
【0072】
===第2実施形態===
図7は、第2実施形態の鉄筋コンクリート構造物1の保護方法を示す図である。
【0073】
前述した第1実施形態では、
図1に示すように、注入孔30の注入深さは、鉄筋コンクリート構造物1の表面から鉄筋11までの距離以下であった。しかし、本実施形態では、
図7に示すように、注入孔30の注入深さが、鉄筋コンクリート構造物1の表面から鉄筋11までの距離より大きい。これにより、コンクリート12に形成される保護層80を鉄筋コンクリート構造物1の背面側に形成することができる。保護層80が鉄筋コンクリート構造物1の背面側に形成されると、鉄筋コンクリート構造物1の背面側からの水分等の劣化因子の浸入を抑制することができる。
【0074】
===その他===
前述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更・改良され得ると共に、本発明には、その等価物が含まれることは言うまでもない。