特開2019-214967(P2019-214967A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社SUBARUの特許一覧
<>
  • 特開2019214967-内燃機関のピストン 図000003
  • 特開2019214967-内燃機関のピストン 図000004
  • 特開2019214967-内燃機関のピストン 図000005
  • 特開2019214967-内燃機関のピストン 図000006
  • 特開2019214967-内燃機関のピストン 図000007
  • 特開2019214967-内燃機関のピストン 図000008
  • 特開2019214967-内燃機関のピストン 図000009
  • 特開2019214967-内燃機関のピストン 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-214967(P2019-214967A)
(43)【公開日】2019年12月19日
(54)【発明の名称】内燃機関のピストン
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/06 20060101AFI20191122BHJP
   F02F 3/00 20060101ALI20191122BHJP
【FI】
   F02F3/06
   F02F3/00 E
   F02F3/00 L
   F02F3/00 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-112547(P2018-112547)
(22)【出願日】2018年6月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩下 亮
(57)【要約】
【課題】フリクションを低減する。
【解決手段】内燃機関1のピストン30は、円柱状のクラウン部40と、クラウン部40の下方においてクラウン部40の径方向に移動可能に設けられたスカート部60と、スカート部60よりも径方向内側に設けられ、スカート部60を形成する材料よりも熱膨張率が大きな材料からなる熱膨張部75を含むサーモエレメント70と、を備える。これにより、スカート部60の温度にしたがって、熱膨張部75が膨張および収縮し、スカート部60が径方向に移動する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状のクラウン部と、
前記クラウン部の下方において前記クラウン部の径方向に移動可能に設けられたスカート部と、
前記スカート部よりも前記径方向内側に設けられ、前記スカート部を形成する材料よりも熱膨張率が大きな材料からなる熱膨張部を含むサーモエレメントと、
を備える内燃機関のピストン。
【請求項2】
前記サーモエレメントは、前記熱膨張部の膨張および収縮に応じて前記スカート部を前記径方向に移動させる請求項1に記載の内燃機関のピストン。
【請求項3】
前記スカート部は、前記クラウン部の軸を挟んで対向配置される請求項1または2に記載の内燃機関のピストン。
【請求項4】
前記サーモエレメントは、前記内燃機関の回転数が所定回転数よりも大きな高負荷のとき、対向配置された前記スカート部の外面間の距離であるピストン外径を、前記ピストンを収容するシリンダの内径に一致させる請求項3に記載の内燃機関のピストン。
【請求項5】
前記スカート部を前記径方向内側に付勢する付勢部を備える請求項1から4のいずれか1項に記載の内燃機関のピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クラウン部に対してスカート部が径方向外側に付勢される内燃機関のピストンが開示されている。かかる技術によれば、ピストンがシリンダの内面に衝突することにより生じる衝撃音(所謂、スカッフ)を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−58856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、スカート部が常にシリンダの内面に押し当てられるため、ピストンとシリンダとの間のフリクション(摩擦)が大きい。
【0005】
そこで、本発明は、フリクションを低減することが可能な内燃機関のピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の内燃機関のピストンは、円柱状のクラウン部と、クラウン部の下方においてクラウン部の径方向に移動可能に設けられたスカート部と、スカート部よりも径方向内側に設けられ、スカート部を形成する材料よりも熱膨張率が大きな材料からなる熱膨張部を含むサーモエレメントと、を備える。
【0007】
また、サーモエレメントは、熱膨張部の膨張および収縮に応じてスカート部を径方向に移動させてもよい。
【0008】
また、スカート部は、クラウン部の軸を挟んで対向配置されてもよい。
【0009】
また、サーモエレメントは、内燃機関の回転数が所定回転数よりも大きな高負荷のとき、対向配置されたスカート部の外面間の距離であるピストン外径を、ピストンを収容するシリンダの内径に一致させてもよい。
【0010】
また、スカート部を径方向内側に付勢する付勢部を備えてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フリクションを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態による内燃機関の構成を示す概略図である。
図2】ピストンの構成を示す底面図である。
図3】ピストンの構成を示す斜視図である。
図4】スカート部の温度、具体的にはサーモエレメントの基部の温度とピストン外径との関係を説明する説明図である。
図5】冷却水の水温が低水温であり、かつ、内燃機関の負荷が低負荷である場合の本実施形態のピストンの作用を説明する説明図である。
図6】冷却水の水温が低水温であり、かつ、内燃機関の負荷が高負荷である場合の本実施形態のピストンの作用を説明する説明図である。
図7】冷却水の水温が高水温であり、かつ、内燃機関の負荷が低負荷である場合の本実施形態のピストンの作用を説明する説明図である。
図8】上記実施形態の変形例による内燃機関の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態の一態様について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、本実施形態による内燃機関1の構成を示す概略図である。内燃機関1は、例えば、レシプロエンジンである。内燃機関1は、シリンダブロック10、シリンダヘッド20およびピストン30を含んで構成される。図1では、シリンダブロック10およびシリンダヘッド20を断面図で示し、ピストン30を側面図で示す。
【0015】
シリンダブロック10には、円筒形状のシリンダ11が形成されている。シリンダ11には、ピストン30が摺動可能に収容されている。ピストン30には、コネクティングロッド12が連結されている。コネクティングロッド12は、不図示のクランクシャフトに連結されている。ピストン30の構成については、後に詳述する。
【0016】
シリンダブロック10には、シリンダ11の開口を覆うようにシリンダヘッド20が接合されている。シリンダ11、シリンダヘッド20およびピストン30に囲まれた空間は、燃焼室13となる。
【0017】
シリンダヘッド20には、燃焼室13に開口する吸気ポート21および排気ポート22が形成されている。また、シリンダヘッド20には、吸気バルブ23および排気バルブ24が設けられている。吸気ポート21における燃焼室13に臨む開口部は、吸気バルブ23によって開閉される。排気ポート22における燃焼室13に臨む開口部は、排気バルブ24によって開閉される。
【0018】
また、シリンダヘッド20には、インジェクタ25および点火プラグ26が設けられている。インジェクタ25は、燃焼室13に燃料を噴射する。なお、インジェクタ25は、吸気ポート21に設けられていてもよい。点火プラグ26は、空気と燃料との混合気に点火する。ピストン30は、混合気の燃焼によりシリンダ11内で往復運動をする。ピストン30の往復運動は、コネクティングロッド12を通じて、クランクシャフトの回転運動に変換される。
【0019】
また、シリンダブロック10およびシリンダヘッド20には、冷却水用ポンプ(図示略)に接続されるウォータジャケット(図示略)が形成される。冷却水用ポンプは、ウォータジャケットに冷却水を送出する。ウォータジャケットは、冷却水によってシリンダ11を冷却する。
【0020】
図2は、ピストン30の構成を示す底面図である。図3は、ピストン30の構成を示す斜視図である。図1図2および図3に示すように、ピストン30は、クラウン部40、ピン支持部50、ピストンピン52、スカート部60、サーモエレメント70、付勢部80を含んで構成される。なお、図2では、ピン支持部50の軸を一点鎖線C1で示す。
【0021】
クラウン部40は、円柱状に形成されている。クラウン部40の軸は、ピストン30の軸に重なる。クラウン部40の側面41は、シリンダ11の内面(ライナ)に対向する。
クラウン部40の冠面42は、燃焼室13に臨む。なお、クラウン部40は、冠面42に窪み(キャビティ)が形成されてもよい。
【0022】
クラウン部40の側面41には、クラウン部40の径方向内側に窪む3個のリング溝43が形成されている。リング溝43は、クラウン部40の周方向に沿って形成されている。リング溝43には、ピストンリング44が収容される。ピストンリング44は、リング溝43に収容された状態でクラウン部40の側面41よりも外側に突出する。ピストンリング44は、シリンダ11の内面とクラウン部40の側面41との隙間を無くし、燃焼室13の気密を保つ。また、ピストンリング44は、シリンダ11の内面とクラウン部40の側面41との間に適度な油膜を形成し、ピストン30の摺動を潤滑にする。
【0023】
クラウン部40における冠面42とは反対側の下部には、クラウン部40の底面から突出する2個のピン支持部50が設けられている。ピン支持部50は、例えば、四角柱状に形成される。2個のピン支持部50は、クラウン部40の軸を間に挟んで離隔して配置される。ピン支持部50は、ピン支持部50の軸がクラウン部40の径方向に延びるように配置される。2個のピン支持部50は、各々の軸が重なるように軸方向に直列に配置される。
【0024】
ピン支持部50には、ピン支持部50の軸方向に延びる貫通穴51が形成されている。貫通穴51には、円柱状のピストンピン52が挿入される。ピストンピン52は、一端側が一方のピン支持部50の貫通穴51に挿入され、他端側が他方のピン支持部50の貫通穴51に挿入される。ピストンピン52は、ピン支持部50によって支持される。ピストンピン52の軸は、ピン支持部50の軸に重なる。
【0025】
コネクティングロッド12は、略棒状に形成されている。コネクティングロッド12の一端は、2個のピン支持部50の間に配置される。コネクティングロッド12の一端には、貫通穴が形成されている。コネクティングロッド12の貫通穴には、ピストンピン52が挿入される。コネクティングロッド12の一端は、ピストンピン52およびピン支持部50を介してクラウン部40に連結される。また、コネクティングロッド12の他端は、クランクシャフトに連結される。
【0026】
クラウン部40の周縁の下方には、2個のスカート部60が配置されている。スカート部60は、例えば、アルミニウムにより構成される。スカート部60は、概ね樽型の部材を周方向に分割した形状に形成される。スカート部60は、ピン支持部50の軸に直交する方向に配置される。換言すると、スカート部60は、クラウン部40の軸を間に挟んで対向配置される。スカート部60は、突出した曲面を外側に向けて配置される。スカート部60は、ピストン30の姿勢を適切に維持する。
【0027】
以後、対向配置されたスカート部60の外面間の距離をピストン外径と呼ぶことがある。また、シリンダ11の内面間の距離をシリンダ内径と呼ぶことがある。また、シリンダ内径とピストン外径との差分をクリアランスと呼ぶことがある。
【0028】
サーモエレメント70は、ピン支持部50の両側面にそれぞれ設けられる。サーモエレメント70は、2個のピン支持部50のそれぞれに設けられる。サーモエレメント70は、ピン支持部50とスカート部60とを連結する。サーモエレメント70は、スカート部60をクラウン部40の径方向に移動させる。具体的には、サーモエレメント70は、スカート部60をピン支持部50の軸に直交する方向に移動させる。サーモエレメント70は、基部71、プランジャ部73、熱膨張部75を含んで構成される。
【0029】
基部71は、例えば、円筒状に形成されている。基部71の軸方向の一方側は、ピン支持部50の側面に固定されている。基部71には、基部71の軸方向の他方側(ピン支持部とは反対側)に開口する穴部72が形成されている。
【0030】
プランジャ部73は、円柱状に形成されている。プランジャ部73の一端は、基部71の穴部72に挿入されている。プランジャ部73の他端は、スカート部60に固定されている。サーモエレメント70の軸は、ピン支持部50の軸に直交する方向に延びる。
【0031】
付勢部80は、例えば、引張りコイルばねである。付勢部80の一端は、基部71におけるピン支持部50とは反対側の端部に接続されている。付勢部80の他端は、スカート部60の内面に接続されている。付勢部80は、例えば、プランジャ部73の下方に配置される。なお、付勢部80は、プランジャ部73の下方に配置される態様に限らない。例えば、付勢部80は、付勢部80の軸がプランジャ部73の軸に重なるように、プランジャ部73の周囲に巻き付けられてもよい。
【0032】
付勢部80は、スカート部60と、スカート部60に固定されているプランジャ部73とを、クラウン部40(ピストン30)の径方向内側(ピン支持部50側)に付勢する。換言すると、付勢部80は、スカート部60およびプランジャ部73をピストン30の径方向内側に引き込む付勢力を発生する。
【0033】
基部71の穴部72とプランジャ部73とに囲まれた空間には、熱膨張部75が封入されている。図1および図2では、熱膨張部75をハッチングで示している。熱膨張部75は、スカート部60を形成する材料(例えば、アルミニウム)よりも熱膨張率が大きな材料からなる。熱膨張部75は、例えば、原油から精製される直鎖状炭化水素を主成分とするパラフィンワックスである。なお、熱膨張部75は、スカート部60を形成する材料よりも熱膨張率が大きければよく、パラフィンワックスに限らない。
【0034】
熱膨張部75の熱膨張率は、熱膨張部75の温度にしたがった値となる。また、熱膨張部75の温度は、熱膨張部75が封入される基部71の温度にしたがった温度となる。例えば、熱膨張部75の温度は、基部71の温度が上昇すると基部71の温度に合わせて上昇し、基部71の温度が低下すると基部71の温度に合わせて低下する。
【0035】
熱膨張部75は、温度が上昇すると、そのときの熱膨張部75の温度についての熱膨張率(具体的には、体積膨張率)にしたがって体積が膨張(増加)する。熱膨張部75は、体積が膨張すると、付勢部80の付勢力に打ち勝って、プランジャ部73を基部71の穴部72から押し出す方向に移動させる。
【0036】
その結果、サーモエレメント70は、軸方向の長さが長くなる。この場合、サーモエレメント70は、長さが長くなった分だけ、スカート部60をピストン30の径方向外側に向かって移動させる。つまり、この場合、ピストン外径は大きくなり、クリアランスは小さくなる。
【0037】
また、熱膨張部75は、温度が低下すると、そのときの熱膨張部75の温度についての熱膨張率にしたがって体積が収縮(減少)する。熱膨張部75の体積が収縮すると、穴部72におけるプランジャ部73を挿入可能な空間が増加する。このとき、付勢部80は、プランジャ部73を挿入可能な空間が増加した分だけ、付勢力によって、プランジャ部73を基部71の穴部72に押し込む方向に移動させる。
【0038】
その結果、サーモエレメント70は、軸方向の長さが短くなる。この場合、サーモエレメント70および付勢部80は、長さが短くなった分だけ、スカート部60をピストン30の径方向内側に向かって移動させる。つまり、この場合、ピストン外径は小さくなり、クリアランスは大きくなる。
【0039】
図4は、スカート部60の温度、具体的にはサーモエレメント70の基部71の温度とピストン外径との関係を説明する説明図である。
【0040】
熱膨張部75は、例えば、融点が100℃以下となるように調製される。熱膨張部75は、例えば、スカート部60の温度が約30℃以下のときに固体となり、スカート部60の温度が約30℃から約80℃までの間にあるときに固溶体となり、スカート部60の温度が約80℃以上のときに液体となる。
【0041】
熱膨張部75は、固溶体の温度範囲における熱膨張率が、固体および液体の温度範囲における熱膨張率に比べて大きい。また、熱膨張部75は、少なくとも固溶体の温度範囲における熱膨張率が、スカート部60を形成する材料の熱膨張率よりも大きい。このため、固溶体の温度範囲内(約30℃から約80℃まで)において、ピストン外径が大幅に変化する。
【0042】
次に、比較例のピストンと比較しつつ、本実施形態のピストン30の作用を説明する。図5は、冷却水の水温が低水温であり、かつ、内燃機関1の負荷が低負荷である場合の本実施形態のピストン30の作用を説明する説明図である。図5(a)は、本実施形態のピストン30を示す。図5(b)は、比較例のピストン130を示す。
【0043】
比較例のピストン130は、クラウン部140とスカート部160とが一体成形されたものである。比較例のピストン130についても、本実施形態のピストン30と同様に、ピストン外径、シリンダ内径およびクリアランスが定義される。図5(a)および図5(b)では、シリンダ内径が等しいとする。
【0044】
図5(c)は、スカート部60、160の温度とピストン外径との関係を示す。図5(c)では、本実施形態のスカート部60を実線A1で示し、上述の比較例のスカート部160を一点鎖線A2で示す。上述の比較例のピストン130のピストン外径は、一体成形されたスカート部160およびクラウン部140を構成する材料(例えば、アルミニウム)の熱膨張率に基づいて変化する。なお、図5(c)の実線A1は、図4のスカート部60の温度とピストン外径との関係と同じである。
【0045】
冷却水の水温は、シリンダの温度に相当する。低水温とは、冷却水の水温が所定水温以下である場合をいう。内燃機関1の負荷は、内燃機関1の回転数に相当する。内燃機関1の負荷が低負荷である場合とは、内燃機関1の回転数が所定回転数以下の場合をいう。冷却水の水温が低水温であり、かつ、内燃機関1の負荷が低負荷である場合としては、例えば、冷えている状態の内燃機関1の始動開始直後が考えられる。以後、冷却水の水温が低水温であり、かつ、内燃機関1の負荷が低負荷である場合を、第1動作パターンと呼ぶことがある。
【0046】
第1動作パターンのとき、冷却水の水温が低水温であるため、冷却水の水温が高水温のときに比べ、シリンダ11の温度が低い。また、内燃機関1の回転数が所定回転数以下であるため、内燃機関1の回転数が所定回転数よりも大きいときに比べ、燃焼室13における単位時間あたりの燃焼回数が少なく、燃焼室13の温度が低い。これらにより、第1動作パターンのとき、スカート部60、160の温度は相対的に低い。例えば、第1動作パターンのとき、スカート部60、160の温度は30℃以下となる。図5(c)では、第1動作パターンのときのスカート部60、160の温度領域をハッチングで示している。
【0047】
例えば、上述の比較例のピストン130において、スカート部160の温度が20℃のとき、ピストン外径は、図5(b)および図5(c)で示すようにピストン外径Daとなっている。ピストン外径Daは、クリアランスが30μmとなるときのピストン外径である。
【0048】
一方、本実施形態のピストン30において、スカート部60の温度が20℃のとき、ピストン外径は、図5(a)および図5(c)で示すようにピストン外径Daから100μmを減算した値(Da−100μm)となっている。このとき、クリアランスは、130μmとなる。つまり、本実施形態のピストン30は、上述の比較例のピストン130に比べて、第1動作パターンのときにクリアランスが100μmだけ大きくなっている。
【0049】
このため、本実施形態のピストン30は、上述の比較例のピストン130に比べて、第1動作パターンのときのピストン30とシリンダ11との間のフリクション(摩擦)を低減することが可能となる。
【0050】
図6は、冷却水の水温が低水温であり、かつ、内燃機関1の負荷が高負荷である場合の本実施形態のピストン30の作用を説明する説明図である。図6(a)は、本実施形態のピストン30を示す。図6(b)は、上述の比較例のピストン130を示す。図6(a)および図6(b)では、シリンダ内径が等しいとする。図6(c)は、スカート部60、160の温度とピストン外径との関係を示す。図6(c)では、本実施形態のスカート部60を実線A1で示し、上述の比較例のスカート部160を一点鎖線A2で示す。なお、図6(c)の実線A1は、図4のスカート部60の温度とピストン外径との関係と同じである。
【0051】
内燃機関1の負荷が高負荷である場合とは、内燃機関1の回転数が所定回転数よりも大きい場合をいう。冷却水の水温が低水温であり、かつ、内燃機関1の負荷が高負荷である場合としては、例えば、冷えている状態の内燃機関1の始動開始直後にアクセルペダルを踏み込んで内燃機関1の回転数を高くした場合が考えられる。以後、冷却水の水温が低水温であり、かつ、内燃機関1の負荷が高負荷である場合を、第2動作パターンと呼ぶことがある。
【0052】
第2動作パターンのとき、冷却水の水温が低水温であるため、冷却水の水温が高水温のときに比べて、シリンダ11の温度が低い。しかし、第2動作パターンのとき、内燃機関1の回転数が所定回転数よりも高いため、内燃機関1の回転数が所定回転数以下のときに比べて、燃焼室13における単位時間あたりの燃焼回数が多く、燃焼室13の温度が高い。また、スカート部60の温度は、冷却水の水温に比べて、高温となる燃焼室13の温度の影響を受け易い。これらにより、第2動作パターンのとき、スカート部60の温度は相対的に高い。例えば、第2動作パターンのとき、スカート部60、160の温度は、80℃以上となる。図6(c)では、第2動作パターンのときのスカート部60、160の温度領域をハッチングで示している。
【0053】
例えば、上述の比較例のピストン130において、スカート部160の温度が20℃から90℃に上昇(動作パターンが第1動作パターンから第2動作パターンに遷移)したとする。この際、上述の比較例のピストン130は、スカート部160を構成する材料の熱膨張率に基づいてスカート部160が膨張し、その熱膨張率に基づいてピストン外径が大きくなる。例えば、スカート部160の温度が90℃のとき、上述の比較例のピストン130のピストン外径は、図6(b)および図6(c)で示すようにピストン外径Daに30μmを加算した値(Da+30μm)となる。この場合、クリアランスは、ゼロとなる。
【0054】
一方、本実施形態のピストン30において、スカート部60の温度が20℃から90℃に上昇(動作パターンが第1動作パターンから第2動作パターンに遷移)したとする。この際、本実施形態のピストン30は、サーモエレメント70の熱膨張部75の熱膨張率に基づいてサーモエレメント70の長さが長くなって、ピストン外径が大きくなる。例えば、スカート部60の温度が90℃のとき、本実施形態のピストン30のピストン外径は、図6(a)および図6(c)で示すようにピストン外径Daに30μmを加算した値(Da+30μm)となる。この場合、クリアランスは、ゼロとなる。
【0055】
ここで、内燃機関1の負荷が高負荷のときにクリアランスを大きくすると、内燃機関1の負荷が低負荷のときに比べ、シリンダ11内においてピストン30が暴れる可能性が高くなる。シリンダ11内でピストン30が暴れると、ピストン30がシリンダ11の内面に衝突することにより衝撃音(スカッフ)が生じる。
【0056】
そこで、本実施形態のピストン30は、上述の比較例のピストン130と同様に、第2動作パターンにおけるクリアランスがゼロとなるようにしている。このため、本実施形態のピストン30は、第2動作パターンにおいて衝撃音を抑制することができる。
【0057】
図7は、冷却水の水温が高水温であり、かつ、内燃機関1の負荷が低負荷である場合の本実施形態のピストン30の作用を説明する説明図である。図7(a)は、本実施形態のピストン30を示す。図7(b)は、上述の比較例のピストン130を示す。図7(a)および図7(b)では、シリンダ内径が等しいとする。図7(c)は、スカート部60、160の温度とピストン外径との関係を示す。図7(c)では、本実施形態のピストン30を実線A1で示し、上述の比較例のピストン130を一点鎖線A2で示す。なお、図7(c)の実線A1は、図4のスカート部60の温度とピストン外径との関係と同じである。
【0058】
冷却水の水温が高水温であり、かつ、内燃機関1の負荷が低負荷である場合としては、例えば、内燃機関1が始動開始してからアイドリングを継続し、冷却水の水温が所定水温よりも高くなった場合が考えられる。以後、冷却水の水温が高水温であり、かつ、内燃機関1の負荷が低負荷である場合を、第3動作パターンと呼ぶことがある。
【0059】
第3動作パターンのとき、内燃機関1の回転数が所定回転数以下であるため、内燃機関1の回転数が所定回転数よりも高いときに比べ、燃焼室13における単位時間あたりの燃焼回数が少なく、燃焼室13の温度が低い。しかし、冷却水の水温が高水温であるため、冷却水の水温が低水温のときに比べ、シリンダ11の温度が高い。スカート部60、160の温度は、燃焼室13の温度の影響を受け易いが、水温の影響をまったく受けないわけではない。これらにより、第3動作パターンのとき、スカート部60、160の温度は、第1動作パターンのときのスカート部60、160の温度と第2動作パターンのときのスカート部60、160の温度との間の温度となる。例えば、第3動作パターンのとき、スカート部60、160の温度は、50℃近傍となる。図7(c)では、第3動作パターンのときのスカート部60、160の温度領域をハッチングで示している。
【0060】
例えば、上述の比較例のピストン130において、スカート部160の温度が20℃から50℃に上昇(動作パターンが第1動作パターンから第3動作パターンに遷移)したとする。この際、上述の比較例のピストン130は、スカート部160を構成する材料の熱膨張率に基づいてスカート部160が膨張し、その熱膨張率に基づいてピストン外径が大きくなる。例えば、ピストン130の温度が50℃のとき、上述の比較例のピストン130のピストン外径は、図7(b)および図7(c)で示すようにピストン外径Daに10μmを加算した値(Da+10μm)となる。この場合、クリアランスは、20μmとなる。
【0061】
一方、本実施形態のピストン30において、スカート部60の温度が20℃から50℃に上昇(動作パターンが第1動作パターンから第3動作パターンに遷移)したとする。本実施形態のピストン30は、サーモエレメント70の熱膨張部75の熱膨張率に基づいてサーモエレメント70の長さが長くなって、ピストン外径が大きくなる。例えば、スカート部60の温度が50℃のとき、本実施形態のピストン30のピストン外径は、図7(a)および図7(c)で示すようにピストン外径Daから50μmを減算した値(Da−50μm)となる。この場合、クリアランスは、80μmとなる。つまり、本実施形態のピストン30は、上述の比較例のピストン130に比べ、第3動作パターンのときにクリアランスが60μmだけ大きくなっている。
【0062】
このため、本実施形態のピストン30は、上述の比較例のピストン130に比べて、第3動作パターンのときのピストン30とシリンダ11との間のフリクション(摩擦)を低減することが可能となる。
【0063】
また、冷却水の水温が高水温であり、かつ、内燃機関1の負荷が高負荷である場合としては、例えば、高速運転している場合が考えられる。以後、冷却水の水温が高水温であり、かつ、内燃機関1の負荷が高負荷である場合を、第4動作パターンと呼ぶことがある。
【0064】
第4動作パターンでは、燃焼室13の温度およびシリンダ11の温度がともに高温となるため、スカート部60、160の温度は相対的に高くなる。このため、第4動作パターンのとき、スカート部60、160の温度およびピストン外径は、図6で示す第2動作パターンと同様となる。つまり、第4動作パターンのとき、本実施形態のピストン30におけるクリアランスは、上述の比較例のピストン130と同様に、ゼロとなる。
【0065】
このため、本実施形態のピストン30は、第4動作パターンにおいて衝撃音を抑制することができる。
【0066】
以上のように、本実施形態のピストン30は、クラウン部40とスカート部60とが別個に成形されてサーモエレメント70によって連結されている。そして、本実施形態のピストン30は、スカート部60を形成する材料よりも熱膨張率が大きな材料からなる熱膨張部75がサーモエレメント70の内部に封入されている。これにより、本実施形態のピストン30は、熱膨張部75の膨張および収縮に応じて、ピストン外径が変化する。
【0067】
例えば、本実施形態のピストン30は、内燃機関1の負荷が高負荷のときに、クリアランスを無くし、内燃機関1の負荷が低負荷のときに、クリアランスを積極的に大きくすることができる。
【0068】
したがって、本実施形態のピストン30によれば、フリクションを低減することが可能となる。
【0069】
また、本実施形態におけるサーモエレメント70は、内燃機関1の負荷が低負荷のときに長さが短くなることで、クラウン部140とスカート部160とが一体成形された比較例のピストン130のピストン外径に比べ、ピストン外径を小さくする。このため、本実施形態のピストン30は、クラウン部140とスカート部160とが一体成形された比較例のピストン130よりもフリクションを低減することができる。
【0070】
また、本実施形態におけるサーモエレメント70は、内燃機関1の負荷が高負荷のときに長さが長くなることで、ピストン外径をシリンダ内径に一致させる。このため、本実施形態のピストン30は、内燃機関1の負荷が高負荷のときに確実に衝撃音を抑制することができる。
【0071】
また、他の比較例として、クラウン部40に対してスカート部60が径方向外側に付勢される内燃機関のピストンが挙げられる。この比較例では、内燃機関の負荷に依らず、スカート部60が常にシリンダ11の内面に押し当てられる。このため、かかる技術によれば、衝撃音を抑制することができるが、フリクションを低減することはできない。
【0072】
これに対し、本実施形態のピストン30は、内燃機関1の負荷にしたがってクリアランスを大きく変化させることができる。このため、本実施形態のピストン30は、内燃機関1の負荷にしたがって、衝撃音を抑制することと、フリクションを低減することを両立させることができる。
【0073】
また、本実施形態のピストン30は、スカート部60をクラウン部40の径方向内側に付勢する付勢部80を備えている。このため、本実施形態のピストン30は、スカート部60の温度が低下した際に、熱膨張部75の収縮に合わせて、サーモエレメント70の長さを確実に縮小させることができる。その結果、本実施形態のピストン30は、ピストン外径を確実に縮小させることができる。
【0074】
また、本実施形態のピストン30は、第1動作パターンのときのピストン外径がDa−100μmとなっていた。この値は、クリアランスに関する文献などを参考にして決定された最適な値である。このため、本実施形態のピストン30は、フリクションを最大限に低減することができる。また、本実施形態のピストン30は、第1動作パターンおよび第3動作パターンのピストン外径が最適な値に設定されているため、第1動作パターンおよび第3動作パターンにおいても衝撃音を抑制することができる。
【0075】
また、本実施形態において、スカート部60の温度とピストン外径との関係は、熱膨張部75の特性を変更することにより様々に設定することができる。例えば、ピストン外径の変化が大きくなり始める温度や、ピストン外径の変化が大きい温度範囲におけるピストン外径の変化量などを設定することができる。なお、図4図7で示したスカート部60の温度およびピストン外径は、一例であり、例示された値に限らない。
【0076】
また、本実施形態における熱膨張部75は、固溶体の温度範囲のときの熱膨張率を利用していた。しかし、熱膨張部75は、固体または液体の温度範囲の熱膨張率がスカート部60を構成する材料の熱膨張率よりも大きければ、その固体または液体の温度範囲の熱膨張率を利用してもよい。
【0077】
<変形例>
図8は、上記実施形態の変形例による内燃機関200の構成を示す概略図である。この変形例の内燃機関200は、ピストン30に代えてピストン230を有する点において上記実施形態と異なる。ピストン230は、付勢部80が設けられていない点においてピストン30と異なる。
【0078】
ここで、ピストン230がシリンダ11内で往復運動する際、コネクティングロッド12のピン支持部50側の端部は、クランクシャフト側の端部に対して、ピン支持部50の軸に直交する方向に傾斜する。これにより、ピン支持部50およびクラウン部40には、コネクティングロッド12を通じて、シリンダ11の軸方向の力の他に、ピン支持部50の軸に直交する方向の力が与えられる。例えば、コネクティングロッド12のピン支持部50側の端部が図8の左方向に傾斜する場合、ピン支持部50およびクラウン部40には、図8の左方向の力が与えられる。
【0079】
スカート部60は、ピン支持部50およびクラウン部40に与えられる力の方向であるピン支持部50の軸に直交する方向に配置される。このため、ピン支持部50およびクラウン部40がピン支持部50の軸に直交する方向に移動することで、スカート部60は、シリンダ11の内面に接触してクラウン部40の径方向内側に押されることがある。例えば、ピン支持部50およびクラウン部40に図8の左方向の力が与えられると、図8の左側のスカート部60が、シリンダ11の内面に接触してクラウン部40の径方向内側に押される。
【0080】
例えば、熱膨張部75が収縮して穴部72におけるプランジャ部73を挿入可能な空間が増加したとする。この際、スカート部60がシリンダ11の内面に接触してクラウン部40の径方向内側に押されると、プランジャ部73は、スカート部60によって基部71の穴部72に押し込まれる方向に移動される。その結果、ピストン外径は、穴部72におけるプランジャ部73を挿入可能な空間が増加した分だけ小さくなる。
【0081】
以上のように、この変形例のピストン230は、付勢部80が設けられていなくても、熱膨張部75の収縮に応じてピストン外径を小さくすることが可能である。
【0082】
したがって、この変形例のピストン230によれば、上記実施形態と同様に、フリクションを低減することが可能となる。
【0083】
ただし、付勢部80が設けられている方がピストン外径を確実に小さくすることができるため、この変形例のピストン230よりも、上記実施形態のピストン30の方がより好ましい。
【0084】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0085】
例えば、上記実施形態のピストン30は、付勢部80である引張りコイルばねによってスカート部60を径方向内側に移動させる力を発生させていた。しかし、スカート部60を径方向内側に移動させる力を発生させる具体的な態様は、引張りコイルばねに限らない。例えば、油圧や磁石によってスカート部60を径方向内側に移動させる力を発生させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、内燃機関のピストンに利用できる。
【符号の説明】
【0087】
1、200 内燃機関
11 シリンダ
30、230 ピストン
40 クラウン部
60 スカート部
70 サーモエレメント
75 熱膨張部
80 付勢部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8