特開2019-215338(P2019-215338A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-215338(P2019-215338A)
(43)【公開日】2019年12月19日
(54)【発明の名称】腎臓病の病態バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20191122BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20191122BHJP
【FI】
   G01N33/68
   G01N33/50 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-106257(P2019-106257)
(22)【出願日】2019年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2018-109730(P2018-109730)
(32)【優先日】2018年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】和田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】古市 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】坂井 宣彦
(72)【発明者】
【氏名】岩田 恭宜
(72)【発明者】
【氏名】北島 信治
(72)【発明者】
【氏名】中出 祐介
(72)【発明者】
【氏名】浜瀬 健司
(72)【発明者】
【氏名】三田 真史
(72)【発明者】
【氏名】中根 舞子
(72)【発明者】
【氏名】三次 百合香
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB07
2G045DA35
2G045FB06
2G045FB12
2G045JA01
(57)【要約】
【課題】本発明は、唾液中の腎臓病バイオマーカーの開発を課題とする。
【解決手段】唾液中のD−アミノ酸とL−アミノ酸の測定値から腎臓病の病態指標値を算出することに基づく。この病態指標値を、腎臓病患者群及び健常者群の病態指標値と比較することにより、腎臓病の診断が可能になる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
唾液の分析方法であって、
唾液中の少なくとも1のアミノ酸のD体及び/又はL体を測定する工程、及び
前記少なくとも1のアミノ酸のD体及び/又はL体に基づき腎臓病の病態指標値として算出する工程
を含む、分析方法。
【請求項2】
前記腎臓病の病態指標値が、前記少なくとも1のアミノ酸のD体及びL体の和に対するD体の比、D体及びL体の和に対するL体の比、D体に対するL体の比、又はL体に対するD体の比である、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記アミノ酸が、リジン、プロリン、ヒスチジン、アラニン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸からなる群から選ばれる、請求項2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記アミノ酸が、リジン、プロリン、ヒスチジン、及びアラニンからなる群から選ばれる、請求項3に記載の分析方法。
【請求項5】
前記腎臓病の病態指標値が、前記少なくとも1のアミノ酸のD体の量、L体の量、及びそれらの合計量からなる群から選ばれる、請求項1に記載の分析方法。
【請求項6】
前記アミノ酸が、ヒスチジン、セリン、グルタミン、アスパラギン酸、グリシン、グルタミン酸、スレオニン、アラニン、プロリン、バリン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、リジンからなる群から選ばれる、請求項5に記載の分析方法。
【請求項7】
前記病態指標値が、D−グルタミン酸量、D−アラニン量、D−リジン量、D−ヒスチジン量、D−アスパラギン酸量、D−プロリン量、L−グルタミン酸量、L−スレオニン量、L−プロリン量、L−リジン量、(D+L)−グルタミン酸量、(D+L)−スレオニン量、(D+L)−プロリン量、(D+L)−リジン量、及び(D+L)−アラニン量から成る群から選ばれる、請求項6に記載の分析方法。
【請求項8】
前記病態指標値が、D−グルタミン酸量、D−アラニン量、D−リジン量、及びD−プロリン量からなる群から選ばれる、請求項7に記載の分析方法。
【請求項9】
前記分析方法が、腎臓病の病態指標値と腎臓病の病態とを関連づける工程をさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項10】
腎臓病の病態指標値と、腎臓病の病態とを関連づける工程が、健常者群の病態指標値及び腎臓病の患者群の病態指標値とから決定される病態指標基準値に基づき決定される、請求項9に記載の分析方法。
【請求項11】
記憶部と、入力部と、分析測定部と、データ処理部と、出力部とを含む、唾液の分析システムであって、
前記記憶部は、入力部から入力された腎臓病の病態指標値の基準値を記憶し、
前記分析測定部は、前記唾液中の少なくとも1のアミノ酸のD体及び/又はL体を分離して測定し、
前記データ処理部は、前記少なくとも1のアミノ酸のD体及び/又はL体に基づき腎臓病の病態指標値を算出し、
前記データ処理部は、記憶部に記憶された病態指標値の基準値と比較することにより、腎臓病を判別し、
前記出力部が被検体の腎臓病についての病態情報を出力する、前記分析システム。
【請求項12】
前記腎臓病の病態指標値が、前記少なくとも1のアミノ酸のD体及びL体の和に対するD体の比、D体及びL体の和に対するL体の比、D体に対するL体の比、又はL体に対するD体の比である、請求項11に記載の分析システム。
【請求項13】
前記アミノ酸が、リジン、プロリン、ヒスチジン、アラニン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸からなる群から選ばれる、請求項12に記載の分析システム。
【請求項14】
前記アミノ酸が、リジン、プロリン、ヒスチジン、及びアラニンからなる群から選ばれる、請求項13に記載の分析システム。
【請求項15】
前記腎臓病の病態指標値が前記少なくとも1のアミノ酸のD体の量、L体の量、及びそれらの合計量である、請求項11に記載の分析システム。
【請求項16】
前記アミノ酸が、ヒスチジン、セリン、グルタミン、アスパラギン酸、グリシン、グルタミン酸、スレオニン、アラニン、プロリン、バリン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、リジンからなる群から選ばれる、請求項15に記載の分析システム。
【請求項17】
前記病態指標値が、D−グルタミン酸量、D−アラニン量、D−リジン量、D−ヒスチジン量、D−アスパラギン酸量、D−プロリン量、L−グルタミン酸量、L−スレオニン量、L−プロリン量、L−リジン量、(D+L)−グルタミン酸量、(D+L)−スレオニン量、(D+L)−プロリン量、(D+L)−リジン量、及び(D+L)−アラニン量からなる群から選ばれる、請求項16に記載の分析システム。
【請求項18】
前記病態指標値が、D−グルタミン酸量、D−アラニン量、D−リジン量、及びD−プロリン量からなる群から選ばれる、請求項17に記載の分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、唾液中のアミノ酸のD体及び/又はL体に基づき腎臓病の病態指標値を算出する工程を含む分析方法、腎臓病の検査方法、並びに腎臓病についての病態情報を出力する試料分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は、血液中の老廃物や余分な水分を濾過し、尿として排出することで、体液の恒常性を維持することを主な役割とする臓器である。腎臓は、免疫系の異常や薬剤、高血圧、糖尿病、出血や急激な血圧低下、感染症、熱傷に伴う脱水等の要因により障害を受け、腎機能が低下する。腎障害により腎機能が約60%以下に低下した場合に腎不全と呼び、腎機能低下の進行速度の違いにより、急性腎障害(Acute Kidney Injury:AKI)と慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)に大別される。特に糖尿病を原因とするものは糖尿病性腎臓病(Diabetic Kidney Disease:DKD)という。
【0003】
急性腎障害(AKI)は、発症までの期間として数時間から数週間である腎障害をいう。急性腎障害は、虚血、薬剤、エンドトキシンショック等の原因によって腎機能が急激に低下した状態であり、体内代謝産物である尿素窒素やクレアチニンの血中濃度上昇、電解質代謝の異常及びアシドーシス等の症状が認められ、一般に血中クレアチニンの値の急上昇により急性腎障害と診断される。急性腎障害は、治療により回復が期待されるため、より早期の急性腎障害を判別できる診断マーカーの開発が望まれている。しかしながら、一般に用いられている血中クレアチニンの値は、年齢、性別、筋肉量及び服用する薬剤等の条件により変動するので、特異的な診断マーカーとはいえない(非特許文献1)。また好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、インターロイキン−18(IL−18)、腎障害分子(KIM−1)、肝脂肪酸結合タンパク質(FABPs)、シスタチンC等のタンパク質と、ホモバニリン酸硫酸、トリメチルアミン−N−オキシド等の代謝低分子化合物等が、急性腎障害のマーカーとして報告されているが、これらのマーカーよりも、より早くより正確に病態を検出できる診断マーカーの開発が期待されている。
【0004】
慢性腎臓病(CKD)は、各種腎障害により、糸球体濾過量で表される腎機能の低下があるか、もしくは腎臓の障害を示唆する所見が慢性的(3カ月以上)に持続する状態をいう。慢性腎臓病は、日本国の成人人口の約13%に相当する1,330万人が罹患する疾患で、末期腎不全(ESKD)に至るリスクが高く、国民の健康を脅かしている。慢性腎臓病に有効な治療法はなく、慢性腎臓病が進行して腎機能低下が進むと尿毒症の危険があり、人工透析や腎移植が必要となることから、医療経済上も大きな負担となっている(非特許文献2)。慢性腎臓病は、自覚症状がないまま病状が進行するため、慢性腎臓病の早期発見及び進行抑制のためには、腎障害の早期診断マーカーによる診断が必要である。しかし、現在臨床現場で汎用されているクレアチニンや尿素窒素(BUN)の値は腎障害の発生と進行を正確に反映する診断マーカーとして満足できるものではない。
【0005】
近年、哺乳類の生体には存在しないと考えられていたD−アミノ酸が、様々な組織において見出されており、何らかの生理機能を担うことが予測されている。そして、血中のD−アミノ酸のうち、D−セリン、D−アラニン、D−プロリン、D−グルタミン酸、D−アスパラギン酸の量が、腎臓病のバイオマーカーとなり得ることが示されている(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)。さらに、D−セリン、D−スレオニン、D−アラニン、D−アスパラギン、D−アロ-スレオニン、D−グルタミン、D−プロリン及びD−フェニルアラニンからなるグループから選択される1種類又は2種類以上のD−アミノ酸が、腎臓病の病態指標値とすることができることが開示されており(特許文献1)、この文献では、試料に用いられる生物学的材料として、血液、血漿、血清、腹水、羊水、リンパ液、唾液、精液、尿等の体液と、糞便、汗、鼻汁等の排泄物、体毛、爪、皮膚組織、内臓組織等の体組織を挙げているが、実際には血清と尿のみが試験されており、唾液中のD体のアミノ酸を診断マーカーとして用いたことについては、何ら示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/140785号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Slocum, J. L.ら、Transl Res. 159:277 (2012)
【非特許文献2】KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease, Kidney International Supplements 1 (2013)
【非特許文献3】Fukushima,T.ら、Biol. Pharm. Bull. 18: 1130(1995)
【非特許文献4】Nagata.Y Viva Origino Vol.18(No.2) (1990)第15回学術講演会講演要旨集
【非特許文献5】Ishidaら、北里医学 23:51〜62 (1993)
【非特許文献6】Yong Huangら、Biol. Pharm. Bull. 21:(2)156-162(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
クレアチニンやBUNの値等の既存の腎臓病マーカーは、臨床において感度及び/又は特異度が十分でない場合があるため、異なる原理の腎臓病障害マーカーを同定する分析・解析技術、並びにそれにより、腎臓病を正確に判定、検査又は診断する技術の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、唾液を試料として用い、唾液中のアミノ酸のD体及び/又はL体に基づく値が、推算糸球体濾過量(eGFR)や血中クレアチニンの値と相関することを見出し本発明に至った。
【0010】
したがって、本発明は被検体の唾液の分析方法であって、
該被検体の唾液中のアミノ酸のD体及び/又はL体を測定する工程、及び
前記少なくとも1のアミノ酸のD体及び/又はL体に基づき腎臓病の病態指標値として算出する工程
を含む、分析方法に関する。
【0011】
本発明の別の態様では、唾液を試料とする腎臓病の検査方法であって、
唾液中の少なくとも1のアミノ酸のD体及び/又はL体を測定する工程、
前記少なくとも1種類のアミノ酸のD体及び/又はL体に基づき腎臓病の病態指標値として算出する工程、
腎臓病の病態指標値と、腎臓病の病態とを関連づける工程
をさらに含む、前記検査方法に関する。かかる検査方法は、病態指標値を、予め決められた病態指標値の基準値と比較することで、病態指標値と腎臓病の病態とを関連づけることができる。
【0012】
さらに別の態様では、本発明の分析方法又は検査方法を実施することができる試料分析システムに関する。このような試料分析システムは、記憶部と、入力部と、分析測定部と、データ処理部と、病態情報出力部とを含んでおり、唾液試料を分析し、病態情報を出力することができる。
【0013】
さらに別の態様では、本発明の試料分析システムにインストールされうるプログラム及び当該プログラムを格納する記憶媒体にも関する。
【発明の効果】
【0014】
唾液中のアミノ酸のD体とL体の比に基づき算出された値は、推算糸球体濾過量や、血中クレアチニンの値と相関した。また、唾液試料中のアミノ酸のD体の量、L体の量、及びそれらの合計量からなる群から選ばれる1以上に基づき算出された値は、健常者群と、腎臓病患者群との間で有意な差を示した。これにより、腎臓病の診断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1Aは、慢性腎臓病患者の唾液中に含まれるリジン(Lys)のD体とL体の比(D/L比)と、血中クレアチニンの値(血中Cr)とをプロットした散布図である。図1Bは、慢性腎臓病患者の唾液中に含まれるヒスチジン(His)のD/L比と、血中クレアチニンの値(血中Cr)とをプロットした散布図である。
図2図2Aは、慢性腎臓病患者の唾液中に含まれるリジン(Lys)のD/L比と、推算糸球体濾過量(eGFR)とをプロットした散布図である。図2Bは、慢性腎臓病患者の唾液中に含まれるヒスチジン(His)のD/L比と、推算糸球体濾過量(eGFR)とをプロットした散布図である。
図3図3は、慢性腎臓病患者における推算糸球体濾過量(eGFR)と、唾液中の各アミノ酸のD体の量、L体の量、それらの合計量、及びD体とL体の比(D/L比)との相関を解析した表である。相関係数が、0.6以上の場合高い相関ということができ、0.4〜0.6の場合に相関があるということができ、0.2〜0.4の場合に低い相関があるということができる。
図4図4は、健常者及び慢性腎臓病患者(CKD患者)の唾液中に含まれるD体のアミノ酸の量を、各アミノ酸について示したグラフである。
図5図5は、健常者及び慢性腎臓病患者(CKD患者)の唾液中に含まれるL体のアミノ酸の量を、各アミノ酸について示したグラフである。
図6図6は、健常者及び慢性腎臓病患者(CKD患者)の唾液中に含まれるD体及びL体のアミノ酸の合計量を、各アミノ酸について示したグラフである。
図7図7は、本発明の試料分析システムの構成図である。
図8図8Aは、病態指標値を決定するための動作の例を示すフローチャートである。図8Bは、病態情報及び又は病態指標値を決定するための動作の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る唾液の分析方法は、以下の:
被検体の唾液中の少なくとも1のアミノ酸のD体及び/又はL体を測定する工程、及び
前記少なくとも1のアミノ酸のD体及び/又はL体に基づく腎臓病の病態指標値として算出する工程、
を含む。当該分析方法は、医師が診断を行うためのデータの提供を行うことができ、診断の予備的方法又は診断補助方法ということもできる。この分析方法は、腎臓病の病態指標値と、腎臓病の病態とを関連づける工程をさらに含んでいてもよい。このような分析方法は、分析会社や分析技術者により行われて、腎臓病の病態と関連づけられた結果が提供されてもよい。
【0017】
本発明において分析される試料は、唾液である。唾液は、唾液腺より口腔内に分泌される液体であり、任意の方法で採取することができる。採取された試料は、常温下、冷蔵下又は冷凍下で保管されてもよいし、分析用の誘導体化等の前処理を実施してもよい。
【0018】
本発明において、腎臓病の病態指標値を算出するために用いられるアミノ酸は、好ましくはタンパク質構成アミノ酸及びその光学異性体である。タンパク質構成アミノ酸として、グリシン、アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン、チロシンが挙げられる。ここで、グリシン以外のアミノ酸は不斉炭素を有し、光学異性体が存在し、イソロイシンとスレオニンは不斉炭素を二つ有するため、アロ体が存在する。例えばイソロイシンとアロ-イソロイシンはL−イソロイシンのα位が反転したD−アロ-イソロイシン、β位が反転したL−アロ-イソロイシン、α位とβ位が反転したD−イソロイシンという関係にある。これらのアミノ酸のうちの少なくとも1のアミノ酸について、D体及び/又はL体の量を測定し、アミノ酸のD体及び/又はL体に基づき腎臓病の病態指標値を算出することができる。アミノ酸は1であってもよいし、複数、例えば2〜19のアミノ酸の組合せであってもよい。
【0019】
腎臓病の病態指標値とは、腎臓病の病態を指し示すことができる数値であり、バイオマーカーということもできる。予め健常者群及び腎臓病の患者群において測定された病態指標値に基づいて決定された病態指標基準値と比較をすることで、被験者の病態指標値を腎臓病の病態と関連づけることができる。このような病態指標基準値は、閾値として決定することができる。当業者であれば、健常者群や腎臓病患者群の病態指標値から、病態指標基準値となる閾値を適宜設定することができる。閾値としては、例えば健常者群又は腎臓病患者群の平均値、中央値、Xパーセンタイル値を使用することができるがこれらに限定されるものではない。ここでXは任意の数値を選択することができ、3、5、10、15、20、30、40、60、70、80、85、90、95、97を適宜使用することができる。閾値は1つであってもよいし、腎臓病の病態や原因(例えば、薬剤性腎症、糖尿病性腎症、IgA腎症、膜性腎症、腎硬化症等)、状態(早期、中期、後期)、並びに使用するアミノ酸若しくはその組合せに応じて複数設定することもでき、重篤度に応じて病態を分類することもできる。予め設定された基準値と、被験者の病態指標値とを比較することにより、被験者の腎臓病の病態を判定、決定又は診断することが可能になる。さらに別の態様では、健常者群と各ステージの解析を行うことで、基準値(カットオフ値)を決定することもできる。
【0020】
本発明において腎臓病の病態指標値は、アミノ酸のD体及び/又はL体に基づいて算出される。より具体的に、D体の量、L体の量、及びそれらの合計量、又はD体とL体の比に基づいて算出される。本発明でいうアミノ酸のD体とL体の比とは、アミノ酸のD体及びL体の和に対するD体の比、D体及びL体の和に対するL体の比、D体に対するL体の比、又はL体に対するD体の比であってもよい。病態指標値の算出には、腎臓病マーカーとして用いられる限りにおいて、加算、減算、積算、及び/又は除算によって補正してもよく、その場合、年齢、体重、性別、BMI、GFR等、任意の変数を用いてもよい。
【0021】
アミノ酸のD体の量を指標とする場合、推算糸球体濾過量(eGFR)との相関から(|r|>0.2)、グルタミン酸、アラニン、リジン、ヒスチジン、アスパラギン酸、プロリン、及びセリンからなる群から選ばれるアミノ酸のD体の量を使用して、病態指標値を算出することが好ましい。eGFRとの相関がより高い(|r|>0.4)という観点から、グルタミン酸、アラニン、リジン、ヒスチジン、アスパラギン酸、及びプロリンからなる群から選ばれるアミノ酸のD体の量を使用して、病態指標値を算出することがより好ましい。eGFRとの相関がより高い(|r|>0.6)という観点から、グルタミン酸、アラニン、リジン及びプロリンからなる群から選ばれるアミノ酸のD体の量を使用して、病態指標値を算出することがさらにより好ましい。
【0022】
アミノ酸のL体の量を指標とする場合、推算糸球体濾過量(eGFR)との相関から(|r|>0.2)、グルタミン酸、スレオニン、プロリン、リジン、ヒスチジン、セリン、グルタミン、アスパラギン酸、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、及びチロシンからなる群から選ばれるアミノ酸のL体の量を使用して、病態指標値を算出することが好ましい。eGFRとの相関がより高い(|r|>0.4)という観点から、グルタミン酸、スレオニン、プロリン、及びリジンからなる群から選ばれるアミノ酸のL体の量を使用して、病態指標値を算出することがより好ましい。
【0023】
アミノ酸のD体の量及びL体の量の合計量を指標とする場合、推算糸球体濾過量(eGFR)との相関から(|r|>0.2)、グルタミン酸、スレオニン、プロリン、リジン、ヒスチジン、セリン、グルタミン、アスパラギン酸、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、及びチロシンからなる群から選ばれるアミノ酸のD体及びL体の合計量を使用して、病態指標値を算出することが好ましい。eGFRとの相関がより高い(|r|>0.4)という観点から、グルタミン酸、スレオニン、プロリン、リジン、及びアラニンからなる群から選ばれるアミノ酸のD体及びL体の合計量を使用して、病態指標値を算出することがより好ましい。
【0024】
D体とL体の比を指標とする場合、推算糸球体濾過量(eGFR)との相関から(|r|>0.2)、アミノ酸は、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、及びプロリンからなる群から選ばれる少なくとも1のアミノ酸を使用して、病態指標値を算出することが好ましい。eGFRとの相関がより高い(|r|>0.4)という観点から、アミノ酸は、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸、アラニン、及びプロリンからなる群から選ばれる少なくとも1のアミノ酸を使用して、病態指標値を算出することがより好ましい。eGFRとの相関がより高い(|r|>0.6)という観点から、ヒスチジン、リジン、プロリン、及びアラニンからなる群から選ばれる少なくとも1のアミノ酸を用いることがより好ましい。ヒスチジン、リジン、プロリン、及びアラニンからなる群から選ばれる2以上の組合せ、すなわち、ヒスチジンとリジン、ヒスチジンとプロリン、ヒスチジンとアラニン、リジンとプロリン、リジンとアラニン、プロリンとアラニン、又はヒスチジンとリジンとプロリンとアラニンの組合せを用いることもできる。
【0025】
一方、健常者と慢性腎臓病患者との間で有意差を有する観点では、D−アスパラギン酸、D−グルタミン酸、D−アラニン、D−プロリンの量、及びL−ヒスチジン、L−セリン、L−グルタミン、L−アスパラギン酸、グリシン、L−グルタミン酸、L−スレオニン、L−アラニン、L−プロリン、L−バリン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−チロシンの量、及び(D+L)−ヒスチジン、(D+L)−セリン、(D+L)−グルタミン、(D+L)−アスパラギン酸、(D+L)−グルタミン酸、(D+L)−スレオニン、(D+L)−アラニン、(D+L)−プロリン、(D+L)−バリン、(D+L)−イソロイシン、(D+L)−ロイシン、(D+L)−チロシンの量、及びスレオニン、イソロイシンについてはアロ体が存在することからD−スレオニン+L−アロ-スレオニン、D−アロ-スレオニン+L−スレオニン、D−イソロイシン+L−アロ-イソロイシン、D−アロ-イソロイシン+L−イソロイシンの量を病態指標値として算出することが好ましい。
【0026】
本発明における試料中のD−アミノ酸及びL−アミノ酸の測定は、当業者に周知ないかなる方法を用いて実施しても構わない。例えば、酵素法(Y. Nagata et al., Clinical Science, 73 (1987), 105. Analytical Biochemistry, 150 (1985), 238., A. D'Aniello et al., Comparative Biochemistry and Physiology Part B, 66 (1980), 319. Journal of Neurochemistry, 29 (1977), 1053., A. Berneman et al., Journal of Microbial & Biochemical Technology, 2 (2010), 139., W. G. Gutheil et al., Analytical Biochemistry, 287 (2000), 196., G. Molla et al., Methods in Molecular Biology, 794 (2012), 273., T. Ito et al., Analytical Biochemistry, 371 (2007), 167. 等)、抗体法(T. Ohgusu et al., Analytical Biochemistry, 357 (2006), 15.,等 )、ガスクロマトグラフィー(GC)(H. Hasegawa et al., Journal of Mass Spectrometry, 46 (2011), 502., M. C. Waldhier et al., Analytical and Bioanalytical Chemistry, 394 (2009), 695., A. Hashimoto, T. Nishikawa et al., FEBS Letters, 296 (1992), 33., H. Bruckner and A. Schieber, Biomedical Chromatography, 15 (2001), 166. , M. Junge et al., Chirality, 19 (2007), 228., M. C. Waldhier et al., Journal of Chromatography A, 1218 (2011), 4537. 等)、キャピラリー電気泳動法(CE)(H. Miao et al., Analytical Chemistry, 77 (2005), 7190., D. L. Kirschner et al., Analytical Chemistry, 79 (2007), 736., F. Kitagawa, K. Otsuka, Journal of Chromatography B, 879 (2011), 3078., G. Thorsen and J. Bergquist, Journal of Chromatography B, 745 (2000), 389. 等)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(N. Nimura and T. Kinoshita, Journal of Chromatography, 352 (1986), 169., A. Hashimoto et al., Journal of Chromatography, 582 (1992), 41., H. Bruckner et al., Journal of Chromatography A, 666 (1994), 259., N. Nimura et al., Analytical Biochemistry, 315 (2003), 262., C. Muller et al., Journal of Chromatography A, 1324 (2014), 109., S. Einarsson et al., Analytical Chemistry, 59 (1987), 1191., E. Okuma and H. Abe, Journal of Chromatography B, 660 (1994), 243., Y. Gogami et al., Journal of Chromatography B, 879 (2011), 3259., Y. Nagata et al., Journal of Chromatography, 575 (1992), 147., S. A. Fuchs et al., Clinical Chemistry, 54 (2008), 1443., D. Gordes et al., Amino Acids, 40 (2011), 553., D. Jin et al., Analytical Biochemistry, 269 (1999), 124., J. Z. Min et al., Journal of Chromatography B, 879 (2011), 3220., T. Sakamoto et al., Analytical and Bioanalytical Chemistry, 408 (2016), 517., W. F. Visser et al., Journal of Chromatography A, 1218 (2011), 7130., Y. Xing et al., Analytical and Bioanalytical Chemistry, 408 (2016), 141., K. Imai et al., Biomedical Chromatography, 9 (1995), 106., T. Fukushima et al., Biomedical Chromatography, 9 (1995), 10., R. J. Reischl et al., Journal of Chromatography A, 1218 (2011), 8379., R. J. Reischl and W. Lindner, Journal of Chromatography A, 1269 (2012), 262., S. Karakawa et al., Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis, 115 (2015), 123., 等)がある。
【0027】
本明細書における光学異性体の分離分析系は、複数の分離分析を組み合わせる場合がある。より具体的に、光学異性体を有する成分を含む試料を、移動相としての第一の液体と共に、固定相としての第一のカラム充填剤に通じて、前記試料の前記成分を分離するステップ、前記試料の前記成分の各々をマルチループユニットにおいて個別に保持するステップ、前記マルチループユニットにおいて個別に保持された前記試料の前記成分の各々を、移動相としての第二の液体と共に、固定相としての光学活性中心を有する第二のカラム充填剤に流路を通じて供給し、前記試料の成分の各々に含まれる前記光学異性体を分割するステップ、及び前記試料の成分の各々に含まれる前記光学異性体を検出するステップを含むことを特徴とする光学異性体の分析方法を用いることにより、試料中のD-/L-アミノ酸濃度を測定することができる(特許第4291628号)。代替的には、アミノ酸の光学異性体を識別するモノクローナル抗体、例えばD−ロイシン、D−アスパラギン酸等に特異的に結合するモノクローナル抗体を用いる免疫学的手法によってD−アミノ酸を測定することができる(特願2008−27650明細書)。また、D体及びL体の合計量を指標とする場合、D体及びL体を分離して分析する必要はなく、D体及びL体を区別せずにアミノ酸を分析することもできる。その場合も酵素法、抗体法、GC、CE、HPLCで分離及び定量することができる。
【0028】
本発明において、腎臓病とは、腎臓に障害が生じた状態の全てを指す。腎機能が低下する原因としては、免疫系の異常や薬剤、高血圧、糖尿病や、出血や急激な血圧低下、感染症、熱傷に伴う脱水等複数の因子が挙げられる。急性腎障害(AKI)は、RIFLE分類、AKIN分類、KDIGO分類といった病期の分類が提唱されており、急性腎障害を、Risk(ステージ1)、Injury(ステージ2)、Failure(ステージ3)、さらには持続期間に応じてLossとEnd stage kidney diseaseに分類した。これらの分類は、どれも血中クレアチニンの量と尿量とを指標としており、例えばRisk(ステージ1)では、血中クレアチニンがベースラインから1.5〜2.0倍に上昇すること又は0.5ml/kg/時未満の尿量が6時間以上であること、Injury(ステージ2)では、血中クレアチニンがベースラインから2.0〜3.0倍に上昇すること又は0.5ml/kg/時未満の尿量が12時間以上であること、Failure(ステージ3)では、血中クレアチニンがベースラインから3.0倍以上に上昇すること又は0.3ml/kg/時未満の尿量が24時間以上であることを判断基準としている。一方で、これらの分類は、他の指標、例えばGFRの変化量を併用することでより正確に急性腎障害の分類を可能にする。慢性腎臓病(CKD)は、日本腎臓学会のガイドライン(2013改訂)で病期ステージ1(腎機能は正常、eGFR≧90)〜ステージ5(腎不全、eGFR<15)の診断基準が示されている。ここで指標となっている推算糸球体濾過量(eGFR)は血中クレアチニンの値と年齢、性別より算出されるもので、腎臓病の進行度を表すことができる。本発明の分析・検査方法では、これまでの腎臓病マーカーとは異なる原理で腎臓病を検出しているため、従来とは異なるリスク評価ができる可能性がある。また、血中クレアチニンやGFR等と組み合わせて使用することで、より詳細に腎臓病を区別して診断することが可能になる。
【0029】
本発明の別の態様では、本発明は、唾液を試料とする腎臓病の検査方法に関する。この検査方法は、以下の工程を含む:
唾液中の少なくとも1のアミノ酸のD体及び/又はL体を測定する工程、
前記少なくとも1種類のアミノ酸のD体及び/又はL体に基づく腎臓病の病態指標値として算出する工程、
腎臓病の病態指標値と、腎臓病の病態とを関連づける工程
をさらに含む。関連付ける工程は、病態指標値を、予め決められた病態指標値の基準値と比較することで、病態指標値と腎臓病の病態とを関連づけることができる。本発明の検査方法は、分析会社や分析技術者により行われて、腎臓病の病態と関連づけられた結果が提供されてもよい。検査方法において用いられる試料、関連づけられる腎臓病の病態、行われる各工程は、分析方法において定義されたものと同じであってよい。
【0030】
図8は、本発明の試料分析システムの構成図である。図8に示す本発明の試料分析システム10は、本発明の分析方法及び検査方法を実施することができるように構成される。このような試料分析システム10は、記憶部11と、入力部12、分析測定部13と、データ処理部14と、出力部15とを含んでおり、唾液試料を分析し、病態情報を出力することができる。より具体的に、本発明の試料分析システム10において、
記憶部11は、入力部12から入力された腎臓病を判別するための病態指標値の基準値を記憶し、
分析測定部13は、前記被検体の唾液試料中のアミノ酸のうちの少なくとも1のアミノ酸の光学異性体を分離し測定し、
データ処理部14は、前記少なくとも1のアミノ酸のD体及び/又はL体に基づき腎臓病の病態指標値を算出し、
データ処理部14は、記憶部11に記憶された基準値と比較することにより、腎臓病の病態情報を判別し、
出力部15が被検体の腎臓病についての病態情報を出力することができる。
【0031】
記憶部11は、RAM、ROM、フラッシュメモリ等のメモリ装置、ハードディスクドライブ等の固定ディスク装置、又はフレキシブルディスク、光ディスク等の可搬用の記憶装置等を有する。記憶部は、分析測定部で測定したデータ、入力部から入力されたデータ及び指示、データ処理部で行った演算処理結果等の他、情報処理装置の各種処理に用いられるコンピュータプログラム、データベース等を記憶する。コンピュータプログラムは、例えばCD−ROM、DVD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体や、インターネットを介してインストールされてもよい。コンピュータプログラムは、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部にインストールされる。
【0032】
入力部12は、インターフェイス等であり、キーボード、マウス等の操作部も含む。これにより、入力部は、分析測定部13で測定したデータ、データ処理部14で行う演算処理の指示等を入力することができる。また、入力部12は、例えば分析測定部13が外部にある場合は、操作部とは別に、測定したデータ等をネットワークや記憶媒体を介して入力することができるインターフェイス部を含んでもよい。
【0033】
分析測定部13は、唾液試料におけるアミノ酸のD体及び/又はL体の量の測定工程を行う。したがって、分析測定部13は、アミノ酸のD体及びL体の分離及び測定を可能にする構成を有することが好ましいが、合計量のみを測定する場合には、D体とL体を分離せずにまとめて測定することもできる。アミノ酸は、1ずつ分析されてもよいが、一部又は全ての種類のアミノ酸についてまとめて分析することもできる。分析測定部13は、以下のものに限定されることを意図するものではないが、例えば試料導入部、光学分割カラム、検出部を備えた高速液体クロマトグラフィーシステムであってもよい。分析測定部13は、試料分析システムとは別に構成されていてもよく、測定したデータ等をネットワークや記憶媒体を用いて入力部12を介して入力してもよい。
【0034】
データ処理部14は、測定された各アミノ酸のD体及びL体の測定値から、D体の量、L体の量、D体及びL体の合計量、又はD体とL体の比に基づく腎臓病の病態指標値を算出し、そして記憶部11に記憶された基準値と比較することにより、腎臓病を判別するように構成される。データ処理部14は、記憶部に記憶しているプログラムに従って、分析測定部13で測定され記憶部11に記憶されたデータに対して、各種の演算処理を実行する。演算処理は、データ処理部に含まれるCPUによりおこなわれる。このCPUは、分析測定部13、入力部12、記憶部11、及び出力部15を制御する機能モジュールを含み、各種の制御を行うことができる。これらの各部は、それぞれ独立した集積回路、マイクロプロセッサ、ファームウェア等で構成されてもよい。
【0035】
出力部15は、データ処理部で演算処理を行った結果である病態指標値及び/又は病態情報を出力するように構成さる。出力部15は、演算処理の結果を直接表示する液晶ディスプレイ等の表示装置、プリンタ等の出力手段であってもよいし、外部記憶装置への出力又はネットワークを介して出力するためのインターフェイス部であってもよい。
【0036】
図8Aは、本発明のプログラムによる病態指標値を決定するための手続きの例を示すフローチャートであり、図8Bは、本発明のプログラムによる病態指標値及び又は病態情報を決定するための動作の例を示すフローチャートである。
具体的に、本発明のプログラムは、入力部、出力部、データ処理部、記憶部とを含む情報処理装置に病態指標値及び/又は病態情報を決定させるプログラムである。本発明のプログラムは、以下の:
入力部から入力された少なくとも1のアミノ酸のD体及び/又はL体の測定値を記憶部に記憶させ、
記憶部に記憶された値に基づきデータ処理部に病態指標値を算出させ、
算出された病態指標値を記憶部に記憶させ、そして
記憶された病態指標値を出力部に出力させる
ことを前記情報処理装置に実行させるための指令を含む。本発明のプログラムは、記憶媒体に格納されてもよいし、インターネット又はLAN等の電気通信回線を介して提供されてもよい。
【0037】
情報処理装置が、分析測定部を備える場合、入力部から少なくとも1のアミノ酸のD体及びL体の測定値を入力させる代わりに、分析測定部が、唾液試料から測定値を測定し記憶部に記憶させることを情報処理装置に実行させるための指令を含んでもよい。
【0038】
病態情報の決定には、さらに、
記憶された病態指標値と、予め記憶部に記憶された基準値とをデータ処理部に比較させることで、腎臓病の病態を判別させ、
判別された病態情報を記憶部に記憶させ、そして
記憶された病態情報を出力部に出力させる
ことを情報処理装置に実行させるための指令を含んでもよい。
【0039】
本発明において、被検体は、ヒトに限定されず、実験動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル等を包含しうる。最も好適な態様では、本発明の分析方法及び検査方法は、腎臓病について自覚症状を有する被験者や、腎臓病が疑われる被験者に対して、確定診断のために実施することができるし、腎臓病について自覚症状を有しない被験者に対しても、健康診断として実施することができる。
【0040】
本発明の分析方法は、慢性腎臓病及び/又は急性腎障害の診断方法のための予備的なデータを収集するために使用することができる。このような予備的データを用いて医師が慢性腎臓病及び/又は急性腎障害を診断することができるが、かかる分析方法は、医師ではない医療補助者等により行われてもよいし、分析機関等が行うこともできる。したがって、本発明の分析方法は、診断の予備的方法又は補助方法と言うこともできる。より好ましい態様では、本発明の分析方法は、健康診断において採取された唾液試料に対して行われる。
【0041】
本発明の分析法による検査の結果を参照することによって、腎臓病の重症度の分類が可能になる。一例として、慢性腎臓病患者の分類であるG1、G2、G3a、G3b、G4、及びG5の6つの重症度に則して分類することができる。G2〜G5に対応する分類に分類された対象に対して、治療介入がされる。各分類に応じて治療介入は適宜選択することができる。治療介入は、生活習慣改善、食事指導、血圧管理、貧血管理、電解質管理、尿毒素管理、血糖値管理、免疫管理、及び脂質管理等が、独立に又は組み合わせて指導される。生活習慣改善としては、禁煙及びBMI値の25未満への減量等が推奨される。食事指導としては、減塩及びタンパク質制限が行われる。この中でも特に、血圧管理、貧血管理、電解質管理、尿毒素管理、血糖値管理、免疫管理、脂質管理については、投薬による治療が行われうる。血圧管理としては、130/80mmHg以下となるように、管理され、場合により高血圧治療薬が投与されうる。高血圧治療薬としては、利尿薬(サイアザイド系利尿薬、例えばトリクロルメチアジド、ベンチルヒドロクロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、サイアザイド系類似利尿薬、例えばメチクラン、インダバミド、トリバミド、メフルシド、ループ利尿薬、例えばフロセミド、カリウム保持性利尿薬・アルドステロン拮抗薬、例えばトリアムテレン、スピロノラクトン、エプレレノン等)、カルシウム拮抗薬(ジヒドロピリジン系、例えばニフェジピン、アムロジピン、エホニジピン、シルニジピン、ニカルジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、ニルバジピン、バルニジピン、フェロジピン、ベニジピン、マニジピン、アゼルニジピン、アラニジピン、ベンゾチアゼピン系、ジルチアゼム等)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(カプトプリル、エナラプリル、アセラプリル、デラプリル、シラザプリル、リシノプリル、ベナゼプリル、イミダプリル、テモカプリル、キナプリル、トランドラプリル、ベリンドプリルエルブミン等)、アンジオテンシン受容体拮抗薬(アンジオテンシンII受容体拮抗薬、例えばロサルタン、カンデサルタン、バルサルタン、テルミサルタン、オルメサルタン、イルベサルタン、アジルサルタン等)、交感神経遮断薬(β遮断薬、例えばアテノロール、ビソプロロール、ベタキソロール、メトプロロール、アセプトロール、セリプロロール、プロプラノロール、ナドロール、カルテオロール、ピンドロール、ニプラジロール、アモスラロール、アロチノロール、カルベジロール、ラベタロール、ベバントロール、ウラピジル、テラゾシン、ブラゾシン、ドキサゾシン、ブナゾシン等)等が用いられうる。貧血治療薬としてはエリスロポエチン製剤、鉄剤、HIF−1阻害剤等が用いられる。電解質調整薬としてカルシウム受容体作動薬(シナカルセト、エテルカルセチド等)、リン吸着剤が用いられる。尿毒素吸着剤として活性炭等が用いられる。血糖値は、Hba1c6.9%未満になるように管理され、場合により血糖降下薬が投与される。血糖降下薬として、SGLT2阻害薬(イプラグリフロジン、ダパグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、カナグリフロジン、エンパグリフロジン等)、DPP4阻害薬(シタグリプチンリン酸、ビルダグリプチン、サキサグリプチン、アログリプチン、リナグリプチン、テネリグリプチン、トレラグリプチン、アナグリプチン、オマリグリプチン等)、スルホニル尿素薬(トルブタミド、アセトヘキサミド、クロルプロパミド、グリクロピラミド、グリベンクラミド、グリクラジド、グリメピリド等)、チアゾリジン薬(ピオグリタゾン等)、ビグアナイド薬(メトホルミン、ブホルミン等)、α―グルコシダーゼ阻害薬(アカルボース、ボグリボース、ミグリトール等)、グリニド薬(ナテグリニド、ミチグリニド、レパグリニド等)インスリン製剤、NRF2活性化剤(バルドキソロンメチル等)等が用いられる。免疫管理としては、免疫抑制剤(ステロイド類、タクロリムス、抗CD20抗体、シクロヘキサミド、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)等)が用いられる。脂質管理では、LDL−C120mg/dL未満となるよう管理され、場合により脂質異常症治療薬、例えばスタチン系薬剤(ロスバスタチン、ピタバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン等)、フィブラート系薬剤(クロフィブラート、ベザフィブラート、フェノフィブラート、クリノフィブラート等)、ニコチン酸誘導体(ニコチン酸トコレロール、ニコモール、ニセリトロール等)、コレステロールトランスポーター阻害剤(エゼチミブ等)、PCSK9阻害剤(エボロクマブ等)EPA製剤等が用いられる。いずれの薬剤も剤形は単剤でも合剤でもよい。腎機能の低下の度合いによっては、腹膜透析、血液透析、持続的血液濾過透析、血液アフェレーシス(血漿交換、血漿吸着等)や腎移植のような腎代替療法が施されてもよい。
【0042】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0043】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例】
【0044】
材料及び方法
研究倫理
全ての実験は「ヘルシンキ宣言(2013年10月 WMAフォルタレザ総会で修正)」及び「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(2014年12月22日公布)」のガイドラインに従って実施された。
【0045】
材料
アミノ酸のエナンチオマー及びHPLC級のアセトニトリルはナカライテスク(京都)から購入された。HPLC級のメタノール、トリフルオロ酢酸、ホウ酸等は和光純薬(大阪)から購入された。水はMill−QグラジエントA10システムを用いて精製された。
【0046】
試料
唾液試料は、朝食摂取後、歯磨きを行った被験者から、歯磨きの2時間後に5mlの唾液を採取した。唾液は、口腔全体からでた全唾液を採取した。採取された唾液は、嫌気条件下で4℃又は-80℃で実験まで保存した。また同じ被験者から血液試料を採取した。
【0047】
分析
唾液試料は、財津らが開発したD、L−アミノ酸一斉高感度分析システム(特許第4291628号)によるアミノ酸光学異性体分析系に供した。各アミノ酸の分析条件の詳細は、MiyoshiY.、ら、J.Chromatogr.B, 879:3184(2011)及びSasabe,J.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、109:627(2012)に説明される。簡潔には、唾液試料に対し、NBD−F(4−フルオロ−7−ニトロ−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール、東京化成工業株式会社)の無水シアン化メチル溶液5μlを添加し、60℃で2分間加熱した。反応後75μlの2%(v/v)トリフルオロ酢酸水溶液を添加した。この混合液の2μLをHPLCシステム(NANOSPACE SI−2、株式会社資生堂)に供した。簡潔には、逆相分離用分析カラムは、40℃に保温された自社製のモノリシックODSカラム(内径0.53mm×500mm)が用いられた。移動相はシアン化メチル-トリフルオロ酢酸-水(容積比5:0.05:95)が用いられた。流速は毎分35μLであった。蛍光検出は、励起波長470nm、検出波長530nmで実行された。逆相分離の後、光学異性体分離系に供された。光学異性体分離には、キラルセレクターとして(S)−ナフチルグリシンを用いるスミキラルOA−2500Sカラム(250mm×1.5mm、自家充填、材料は株式会社住化分析センター製)が使用された。本実施例で説明された2次元HPLCシステムは、例えば生体試料中のセリンの光学異性体を区別して1fmolから100pmolの範囲で定量的に測定できる。これは、健常者と腎臓病患者とにおけるヒスチジンやリジンのD体及びL体の濃度変化を識別するのに十分な感度であった。得られたD体のアミノ酸及びL体のアミノ酸の測定値から、D体の−アミノ酸濃度、L体のアミノ酸濃度、D体及びL体の合計濃度、及びD/L比を算出した。健常者と慢性腎臓病患者におけるアミノ酸のD体の濃度、L体の濃度、及びD体及びL体の合計の濃度を、それぞれ図4〜6に示す。なお、グリシンは不斉炭素を有さないために光学異性体が存在しないが、ここでは便宜的にグリシンをL−アミノ酸の区分として表記している。
【0048】
取得された血液試料について、血清クレアチニンを酵素法により計測した。計測された血清クレアチニンの値と年齢に基づいて推算糸球体濾過量(eGFR)を決定した。eGFRの決定式は以下の通りである:
【数1】
{式中、年齢の単位は年であり、SCrの単位はmg/dLであり、そして推算糸球体濾過量(eGFR)の単位は、mL/min/1.73m体表面である}。
女性患者には、数式の計算値に補正係数0.739をかけた。
被験者のeGFR値と、22種類の各アミノ酸についてD体のアミノ酸の量、L体のアミノ酸の量、それらの合計量、及びD体とL体の比との関係をピアソンの積率相関係数(Pearson’s product−moment correlation coefficient)を用い、相関を解析した。その結果を図3に示す。
【0049】
得られた血清クレアチニンの値と、D/L-リジン比及びD/L-ヒスチジン比との関係を解析したところ、高い相関がみられた(r=0.762、p=0.046及びr=0.762、p=0.046)。得られた推算糸球体濾過量と、D/L-リジン比及びD/L-ヒスチジン比との関係を解析したところ、高い負の相関がみられた(r=-0.926、p=0.003及びr=-0.749、p=0.053)。血清クレアチニンの値と、D/L−リジン比及びD/L-ヒスチジン比との相関を示すグラフを図1A及びBに示す。推算糸球体濾過量と、D/L−リジン比及びD/L-ヒスチジン比との相関を示すグラフを図2A及びBに示す。2群間の比較には対応のないt検定(Student’s t−test)をおこない、統計的有意差を測定した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8