(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-217522(P2019-217522A)
(43)【公開日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】金属板積層品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/22 20060101AFI20191129BHJP
B23K 26/066 20140101ALI20191129BHJP
【FI】
B23K26/22
B23K26/066
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-115965(P2018-115965)
(22)【出願日】2018年6月19日
(71)【出願人】
【識別番号】307038034
【氏名又は名称】日鉄住金電磁株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 乙彦
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA16
4E168DA37
4E168EA17
4E168EA19
4E168EA26
4E168KB05
(57)【要約】
【課題】金属板が薄厚板化した場合にも、現在金型外で電気溶接する製品を金型内レーザー溶接積層化する場合にも、必要溶接強度を得ることができる金属板積層品の製造方法を提供すること。
【解決手段】所定形状の金属板抜き型内積層金型の下型ダイ14の外郭抜き穴の上端面角部を切り刃16とし、側面をワーク保持穴とし、このワーク保持穴の積層方向の切り刃から近い距離に細穴17を設けて金属板11の側面を露出させ、レーザービーム溶接機構によりこの金属板11の側面にレーザービームを照射して金型内で板相互間を溶接させる金属板積層品の製造方法である。必要板厚に応じて、レーザービームの板積層方向上下部を遮蔽したり、方向を変えたりして積層品端板10の溶接長さが短くならないようにする。一方、必要溶接強度に応じて溶接直径を自由に大きく選択できるように、最小の結像点からずらした加工位置に自由に選択決定できるようにする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定形状の金属板抜き型内積層金型の下型ダイ外郭抜き穴の上端面角部を切り刃とし、側面をワーク保持穴とし、このワーク保持穴の積層方向の切り刃から近い距離に細穴を設けて金属板の側面を露出させ、レーザービーム溶接機構によりこの金属板の側面にレーザービームを照射して金型内で板相互間を溶接させる金属板積層品の製造方法において、必要溶接強度に応じてレーザービームの加工位置の断面形状の大きさを最小〜拡大し、必要板厚に応じてレーザービームの加工位置の断面形状の板積層方向上下部を短くすることを特徴とする金属板積層品の製造方法。
【請求項2】
結像点を前後に移動させることにより、レーザービームの加工位置の断面形状の大きさを最小〜拡大することを特徴とする請求項1記載の金属板積層品の製造方法。
【請求項3】
加工位置に集光する前にレーザービームの上下部分を遮蔽物を設置して吸収させることにより、レーザービームの加工位置の断面形状の板積層方向上下部を短くすることを特徴とする請求項1記載の金属板積層品の製造方法。
【請求項4】
金属板積層品を上下単体に分離する間だけ、遮蔽物を設置することを特徴とする請求項3記載の金属板積層品の製造方法。
【請求項5】
集光レンズの上下部分を平面にし、レーザービームの上下部分を加工位置に集光させず穴壁内に吸収させることにより、レーザービームの加工位置の断面形状の板積層方向上下部を短くすることを特徴とする請求項1記載の金属板積層品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板を打ち抜きながら金型のワーク保持穴内に積層し、その側面にレーザービームを照射して金型内で板相互間を溶接させる金属板積層品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所定形状の金属板抜き型内積層金型の下型ダイ外郭抜き穴の上端面角部を切り刃とし、側面をワーク保持穴とし、このワーク保持穴の積層方向の切り刃から近い距離に細穴を設けて金属板の側面を露出させ、レーザービーム溶接機構によりこの金属板の側面にレーザービームを照射して金型内で板相互間を溶接させる金属板積層品の製造方法は、金型内レーザー溶接金属板積層品製造法として知られている。例えば特許文献1、特許文献2には、金型内であることは明示されていないが、積層された金属板の側面をレーザー溶接する技術が記載されている。
【0003】
一般的な金型内レーザー溶接金属板積層品製造方法は、溶接に使用するレーザービームを、レーザー機本体で励起ランプとロッドにより発振させ、2〜6分岐しレンズで集光し各光ファイバーの入口を通して、抜き金型内に装着した各出射ユニット内の光ファイバーの出口から放射状に出しレンズで平行にし再びレンズで加工位置に集光する仕組みとなっている。形状はレンズも光ファイバーも同じ円形でレーザービームの加工位置形状も円形である。光ファイバーの直径は入口のレンズの実用集光精度の制約から一般的に0.6mmである。レーザービームの加工位置の直径は、出口のレンズの実用集光精度から光ファイバー直径より少し大きく最小でも0.8〜0.9mmとなる。
【0004】
なお、小型薄厚板の金属板積層品では光ファイバー直径0.4mmも用いるが、入口の集光精度管理は厳重となる。もし精度が狂い光ファイバーの入口を焼損させると修理が必要で費用は購入金額に近いので実際の生産現場では敬遠する。
【0005】
また、溶接強度を確保するための深い溶け込みはスパッタやブローホール発生等溶接不良の原因となるため採用できない。金型内の抜き油が多く有る溶接では、気化が激しく生じるのでこれを溶融池からすばやく大気中に逃がして製品が求める良好な溶接や外観を実現させるため溶接深さを浅くする必要がある。以上から一般的スポット溶接は直径が0.8〜0.9mm、深さ0.3mmぐらいの鍋形状となる。
【0006】
さて、板を順に打ち抜く金型内レーザー溶接金属板積層品を上下単体に分離する方法は溶接休止で行うが、溶接する板と板を合わせた厚みは1.0mmとなる。これを積層する板の厚みのバラツキで溶接位置が移動することを考慮し、分離を確実に行い上下板が溶接されないようにスポット溶接径より少し大きくする。基本の2枚溶接で分離可能な一枚の板厚は1.0/2で0.5mm以上となる。3枚溶接では板厚0.35mm(1.05mm)となる。
【0007】
図1、
図2は従来技術の金属板積層品の溶接図で、スポット溶接円33の直径は全て0.8〜0.9mmである。
図1の板厚0.5mm積層品では、熔接中心34を板相互間中心に設定していて熔接中心34の位置が板厚のバラツキ積層で0.1mm移動しても単体分離は支障なく溶接強度も確保される。
図2の板厚0.35mm積層品では、熔接中心34を3枚の中央板の厚みの中心に設定していて熔接中心34の位置が0.1mm移動しても単体分離は支障なく溶接強度も確保される。
【0008】
しかし、最近の金属板積層品は特にモーター等に用いる電磁鋼板を積層してなる電磁コアーでは、電気性能を上げるため薄厚板化していて従来では0.35mmの板厚が0.2mmを必要としている。しかもコアー全体の大きさ重量は従来と変わらないため溶接強度は従来と同じ必要があり、さらにコアーの大型化でより強い溶接強度を求められている。
【0009】
図3の板厚が0.2mmの金属板積層品の溶接図では、積層品単体に分離可能とするにはスポット溶接円33の直径が0.8〜0.9mmのままでは5枚(1.0mm)溶接となり、熔接中心34の位置は5枚の板の中央板の中心に設定され、分離する積層品端板10では中央板より溶接長さが短いため必要溶接強度が得られない。特に熔接中心の位置が0.05mm移動すると積層品端板10の溶接長さは半分以下となる。
【0010】
また、積層固着強度を必要とする大型の電磁コアーで金型外で電気溶接する製品でも、金型内レーザー溶接積層の要求があるが、必要溶接強度を確保するための一般的な直径0.8〜0.9mmのままでの深い溶接は、スパッタやブローホールの原因となり採用できない。そのために浅く大きな径(1.5mm以上)で溶接する必要があるが、従来の板厚積層品でも
図3と同様に積層品端板10の強度不足が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−255151号公報
【特許文献2】特開平9−149605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って本発明の目的は、金属板が薄厚板化した場合にも、現在金型外で電気溶接する製品を金型内レーザー溶接積層化する場合にも、必要溶接強度を得ることができる金属板積層品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、所定形状の金属板抜き型内積層金型の下型ダイ外郭抜き穴の上端面角部を切り刃とし、側面をワーク保持穴とし、このワーク保持穴の積層方向の切り刃から近い距離に細穴を設けて金属板の側面を露出させ、レーザービーム溶接機構によりこの金属板の側面にレーザービームを照射して金型内で板相互間を溶接させる金属板積層品の製造方法において、必要溶接強度に応じてレーザービームの加工位置の断面形状の大きさを最小〜拡大し、必要板厚に応じてレーザービームの加工位置の断面形状の板積層方向上下部を短くすることを特徴とするものである。
【0014】
本発明においては、結像点を前後に移動させることにより、レーザービームの加工位置の断面形状の大きさを最小〜拡大することができる。また本発明においては、加工位置に集光する前にレーザービームの上下部分を遮蔽物を設置して吸収させることにより、レーザービームの加工位置の断面形状の板積層方向上下部を短くすることができる。この場合においては、金属板積層品を上下単体に分離する間だけ、遮蔽物を設置することができる。さらに本発明においては、集光レンズの上下部分を平面にし、レーザービームの上下部分を加工位置に集光させず穴壁内に吸収させることにより、レーザービームの加工位置の断面形状の板積層方向上下部を短くすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る金属板積層品の製造方法によれば、レーザービームの加工位置の大きさを最小〜拡大し溶接円形の大きさを自由に選択できるようにし、また、レーザービームの上下部分を遮蔽したり、集光レンズの上下部分を平面にしたりして、レーザービームの上下部分を吸収して加工位置に集光させず、上下積層方向の溶接長さを自由に短くする。このため本発明においては、金属板積層品の必要溶接強度を確保でき、また上下積層品単体に確実に分離できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】板厚0.5mmの従来技術の実施例の金型内レーザー溶接金属板積層品の溶接図。
【
図2】板厚0.35mmの従来技術の実施例の金型内レーザー溶接金属板積層品の溶接図。
【
図3】新薄板材の従来技術での実施例の金型内レーザー溶接金属板積層品の溶接図。
【
図4】本発明の実施例1の金型内レーザー溶接金属板積層方法の全体概略断面図。
【
図5】本発明の実施例1のレーザービームの加工位置の大きさ選択断面図。
【
図6】新薄板材の本発明の実施例1の金型内レーザー溶接金属板積層品の溶接図。
【
図7】溶接強度を大きくした実施例1の金型内レーザー溶接金属板積層品の溶接図。
【
図8】本発明の他実施例1の金型内レーザー溶接金属板積層方法の断面図。
【
図9】新薄板材の他実施例1の金型内レーザー溶接金属板積層品の溶接図。
【
図10】本発明の他実施例2の金型内レーザー溶接金属板積層方法の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施例1について、
図4と
図5、
図6、
図7を参照しながら説明する。
図4は金型内レーザー溶接金属板積層装置を示した断面図である。13は金属板抜き型内積層金型を構成する上型外郭抜きパンチ、14は下型外郭抜きダイである。下型外郭抜きダイ14には下型ダイ外郭抜き穴15が形成されており、その上端面角部は切り刃16となっている。
【0018】
所定形状の金属板11を、材料板12から上型外郭抜きパンチ13と下型外郭抜きダイ14で抜き落とし、外郭抜き穴の側面15をワーク保持穴とし、打ち抜かれた金属板11をこのワーク保持穴の内部に相互に密着した状態で順に積層して行き、ワーク保持穴の下端部に達すると落下して取り出される。
【0019】
このワーク保持穴のダイ切り刃16から近い距離に細穴17を設けて、金属板11の側面を露出させ、レーザービーム溶接機構により金型内でレーザービームを照射して板相互間を溶接させる。
【0020】
レーザービーム溶接機構は、ロッド18に励起ランプ19から光を照射してレーザービーム20を取り出し、分岐ミラー21で分岐し、レンズ22で光ファイバー23の入口に集光させるが、実用集光精度の制約から光ファイバーは直径0.6mmで金型内に装着した出射ユニットまでレーザービームを通し、出射ユニットは光ファイバー23の出口から放射状に放出されたレーザービームをレンズ24で平行にし、レンズ25で金属板11の側面の加工位置26に集光させる構造である。
【0021】
本発明では、必要板厚に応じてレーザービームの加工位置の断面形状の板積層方向上下部を短くする。このために、加工位置に集光する前にレーザービームの上下部分を遮蔽物を設置して吸収させることにより、レーザービームの加工位置の断面形状の板積層方向上下部を短くする。すなわち、レーザービームの積層方向上下を短くする遮蔽物31、32をレーザービームを加工位置に集光させるレンズ25の後に設置し、上下のレーザービームを吸収する。これらの遮蔽物31、32は材質がアルミニュウムで、レーザービームを吸収しやすく表面を黒くアルマイト(陽極酸化処理)加工し、光を吸収し熱として放出する。
【0022】
金型の抜き落としタイミングに合わせてレーザービームを照射する。
図4に示される金属板積層品27は、単体に分離させたものである。分離はレーザービームの照射溶接を分離するタイミングで休止し、金属板11間を溶接しないようにして行う。
【0023】
また本発明では、必要溶接強度に応じてレーザービームの加工位置の断面形状の大きさを最小〜最大まで縮小・拡大する。
図5はレーザービームの加工位置の大きさを最小〜拡大する方法を示したもの。最小は結像点28で光ファイバー23の直径が0.6mmなので構造上直径0.8〜0.9mmとなる。拡大は前部位置29と後部位置30との間で結像点を前後に移動させ、加工位置におけるレーザービームの断面形状の大きさを変化させ、必要溶接強度に応じて選択して決定する。
【0024】
図6は本発明による板厚0.2mmの金属板積層品の溶接図で、スポット溶接33の直径0.8〜0.9mmで上下長0.5mmとし、熔接中心34の位置は3枚板の中央板厚み中心に設定する。従来技術の
図3の様に分離のため板の合わせ枚数5枚必要のところを、3枚として板厚のバラツキで溶接中心位置が0.05mm移動しても積層品端板10の溶接強度に支障はない。
【0025】
図7は
図6と同じ板厚0.2mm金属板積層品の溶接図で、
図6との違いはスポット溶接29の直径をレーザービームの加工位置を結像点28からずらせて大きくし1.5mmとすること、出力を上げなければならないが、溶接の深さをスパッタやブローホールの発生を防ぐため可能な限り浅くするように調整する。これで本発明の特長である溶接強度を必要に応じて強くして、これまで金型外で電気溶接していたワークも金型内レーザー溶接化が可能となり、また、最近の産業界の特に電磁コアーの高性能薄板化、大型化にも対応可能である。
【0026】
図8の他実施例1は、
図4の実施例1の上下レーザービームの遮蔽物31,32を固定してあるのに対し、金属板積層品を単体に分離する時だけレーザービームを遮蔽するようにした移動式の遮蔽物35,36としたもの。これにより
図7の様な強い溶接強度を必要とした場合に固定遮蔽物31,32の過熱を防ぐ効果がある。
【0027】
図9は板厚0.2mm金属板積層品の溶接図で、中間部は
図3と同じ5枚溶接だが分離する時の端部だけ
図6と同じ3枚溶接にする場合で、4枚の金属板が加工される間、上移動式遮蔽物35,36を前進させておき、上下レーザービームを加工位置に到達させない。
【0028】
本発明の他実施例2について、
図10を参照しながら説明する。
図4の実施例1の上下レーザービームをレンズ25で集光する途中に遮蔽物31、32を設置して吸収するのに対し、
図10の他実施例2では、レンズ25の上下レーザービームが通過する部分を上レンズ平面形状部37及び下レンズ平面形状部38に削り取り、レーザービームをそのまま直進させ、内壁部39に当て吸収して熱として放出し、加工位置に到達させない。これにより、レーザービームの加工位置の断面形状の板積層方向上下部を短くすることができる。
【0029】
以上に説明したように、本発明によれば、必要溶接強度に応じてレーザービームの加工位置の断面形状の大きさを最小〜拡大し、必要板厚に応じてレーザービームの加工位置の断面形状の板積層方向上下部を短くすることにより、必要溶接強度を得ることができる。
【符号の説明】
【0030】
10 積層品端板
11 所定形状の金属板
12 材料板
13 上型外郭抜きパンチ
14 下型外郭抜きダイ
15 外郭抜き穴の側面
16 ダイ切り刃
17 金属板を露出させレーザービームを通す細穴
18 ロッド
19 励起ランプ
20 レーザービーム
21 分岐ミラー
22 光ファイバー入光用レンズ
23 光ファイバー
24 光ファイバー放射平行レンズ
25 加工位置集光レンズ
26 金属板側面の加工位置
27 金属板積層品
28 結像点
29 加工前部位置
30 加工後部位置
31 上固定遮蔽物
32 下固定遮蔽物
33 スポット溶接円
34 熔接中心
35 上移動式遮蔽物
36 下移動式遮蔽物
37 上レンズ平面形状部
38 下レンズ平面形状部
39 レーザービームを吸収する内壁部