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特開2019-217735透明基材に親水性層と反射防止層とが設けられた多層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-217735(P2019-217735A)
(43)【公開日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】透明基材に親水性層と反射防止層とが設けられた多層構造体
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/30 20060101AFI20191129BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20191129BHJP
   G02B 1/118 20150101ALI20191129BHJP
   G02B 1/18 20150101ALI20191129BHJP
【FI】
   B32B3/30
   B32B7/02 103
   G02B1/118
   G02B1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-118908(P2018-118908)
(22)【出願日】2018年6月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 光樹
【テーマコード(参考)】
2K009
4F100
【Fターム(参考)】
2K009AA01
2K009AA12
2K009BB14
2K009DD02
2K009EE05
4F100AK25
4F100AR00A
4F100AR00B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100DD01C
4F100EJ54
4F100GB41
4F100JB05B
4F100JB14
4F100JK15B
4F100JL06
4F100JN01A
4F100JN06C
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】高い透過率を有し、易清掃性(防汚性)と耐擦傷性とを兼ね備えた多層構造体を提供する。
【解決手段】透明基材と、その透明基材の一つの面側の最外層として設けられた平滑な親水性層と、その反対面側の最外層として設けられた複数の凹凸構造を有する反射防止層とを有しており、該反射防止層のラフネス(凹凸構造の平均高低差)およびピッチ(互いに隣接する凸部の頂点間の平均距離)が60nm〜800nmの範囲である多層構造体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、その透明基材の一つの面側の最外層として設けられた平滑な親水性層と、その反対面側の最外層として設けられた複数の凹凸構造を有する反射防止層とを有しており、該反射防止層のラフネス(凹凸構造の平均高低差)およびピッチ(互いに隣接する凸部の頂点間の平均距離)が60nm〜800nmの範囲である多層構造体。
【請求項2】
前記親水性層の水接触角が30°以下である請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
前記親水性層のアニオン性親水基、カチオン性親水基、および水酸基から選ばれる親水性官能基の少なくとも1つの親水基の表面濃度(Sa2)と親水性層の厚み1/2地点における親水基の深部濃度(Da2)との傾斜度(Sa2/Da2)が1.1以上である請求項1または2に記載の多層構造体。
【請求項4】
前記反射防止層の凹凸構造のラフネスおよびピッチが100nm〜600nmの範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項5】
前記反射防止層の凹凸構造がモスアイ構造である請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項6】
シートまたはフィルム形状である請求項1〜5のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の多層構造体からなる映像機器用部材。
【請求項8】
映像機器が表示機器、撮像機器、または投影映写機器である請求項7に記載の多層構造体からなる映像機器用部材。
【請求項9】
請求項6のシートまたはフィルム形状の多層構造体からなる部材が最外側に備えられた映像機器。
【請求項10】
映像機器が表示機器、撮像機器、または投影映写機器である請求項9に記載の映像機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基材の一つの表面側に親水性層、その反対の表面側に反射防止層が設けられた多層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルサイズの凹凸構造の一つであるいわゆるモスアイ構造を有する透明材料(例えばレンズ)では、反射率が低下できることはよく知られている(非特許文献1)。そのため、このモスアイ構造の優れた反射防止性能を利用した偏光板(特許文献2)、照明器具(特許文献3)、導光板(特許文献4)、プリズムシート(特許文献5)などの提案が行われている。一方、モスアイ構造等のナノメートルサイズの凹凸構造を有する透明材料の製造は比較的煩雑で生産性が低い面があり、凸構造(微粒子)がナノメートルサイズでは完全に秩序だっておらず比較的無秩序に配列されたモスアイに類似する凹凸構造(アモルファス構造)を有する透明樹脂からなる膜を簡便に製造する方法(特許文献6)が提案されている。また、この特許文献6の改良法による反射防止フィルム、反射防止物品、偏光板、画像表示装置、モジュール、およびタッチパネル付き液晶表示装置の提案(特許文献7)などが行われている。
【0003】
しかし、このようなモスアイ構造に代表されるナノメートルサイズの凹凸構造体は、汚れが凹部にまで入り込み易いため除去されにくく汚れが付着した部分は反射防止性が消失するという問題を有していた。
【0004】
この問題を解消する一手段として、本発明者らは親水性基が表面に集中した成分傾斜構造を有する高硬度かつ親水性の高い架橋樹脂からなるナノメートルサイズの凹凸構造を有する単層膜をすでに提案している(特許文献1)。この単層膜は、簡単な清掃(水拭き等)で容易に汚れを除去でき、反射防止膜にも有用なものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2016/143778号
【特許文献2】特開2003−302532号公報
【特許文献3】特開2014−229497号公報
【特許文献4】特開2003−344855号公報
【特許文献5】特開2004−077632号公報
【特許文献6】特開2009−139796号公報
【特許文献7】国際公開第2018/034126号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Neture244,281(1973)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術によれば汚れによる反射防止性消失の課題、モスアイ構造形成に関わる生産性の課題なども解決される方向にある。しかし、ナノメートルサイズの凹凸構造は物理的圧力(清掃などの圧力をかける擦るなど)に対して平面よりも弱いという問題の改良には至っていない。
【0008】
一方、ディスプレイ等の表示装置においてはスマートフォンに代表されるようにタッチパネルが広く普及することに伴い、表示物の高い視認性を維持し続けるために、表示装置用材料およびこの材料からなる部材への高透過率化による光束向上、易清掃性(防汚性)の付与、および当該清掃作業に対する耐久性(耐擦傷性)向上の要求が強くなっている。しかしながらこれらの要求に充分に応えられる、高い透過率を有し、易清掃性(防汚性)と耐擦傷性とを兼ね備えた透明材料およびこの材料からなる部材の提案はなされていない。また、高い視認性を維持し続ける要求については、CCDおよびCMOSイメージセンサ等の撮像機器においても同様に高くなっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題に鑑み本発明者らは検討を重ねた結果、透明基材と、その透明基材の一つの面側の最外層として設けられた平滑な親水性層と、その反対面側の最外層として設けられたに複数の凹凸構造を有する特定の反射防止層とを有する多層構造体は、上記の画像表示機器、センサ、およびカメラ等に代表される映像機器に用いられる部材(例えばカバー部材)として有用であることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の多層構造体は、透明基材と、その透明基材の一つの面側の最外層として設けられた平滑な親水性層と、その反対面側の最外層として設けられた複数の凹凸構造を有する反射防止層とを有しており、該反射防止層のラフネス(凹凸構造の平均高低差)およびピッチ(互いに隣接する凸部の頂点間の平均距離)が60nm〜800nmの範囲であることを特徴とする。
【0011】
前記親水性層の水接触角が30°以下であることが好ましい。
また、前記親水性層のアニオン性親水基、カチオン性親水基、および水酸基から選ばれる親水性官能基の少なくとも1つの親水基の表面濃度(Sa2)と親水性層の厚み1/2地点における親水基の深部濃度(Da2)との傾斜度(Sa2/Da2)が1.1以上であることが好ましい。
【0012】
前記反射防止層の凹凸構造のラフネスおよびピッチが100nm〜600nmの範囲であることが好ましい。
前記反射防止層の凹凸構造がモスアイ構造であることが好ましい。
【0013】
前記多層構造体は、シートまたはフィルム形状であることが好ましい。
本発明の映像機器用部材は、前記多層構造体からなることを特徴とする。
本発明の映像機器は、シートまたはフィルム形状の多層構造体からなる部材が最外側に備えられていることが好ましい。
【0014】
前記映像機器としては、表示機器、撮像機器、または投影映写機器が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の多層構造体は、高い透過率を有し、易清掃性(防汚性)と耐擦傷性とを兼ね備えている。そのため、この多層構造体は、映像機器用部材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例において、アニオン濃度の傾斜度(Sa/Da)を測定するための試料調製の方法を示す略図である。
図2】実施例1で得られたモスアイ構造層の写真である。
図3】比較例1で得られた平面親水性層の写真である。
図4】実施例1および比較例1で測定した全光線透過率の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の多層構造体は、透明基材と、その透明基材の一つの面側の最外層として設けられた平滑な親水性層と、その反対面側の最外層として設けられた複数の凹凸構造を有する反射防止層とを有している。
【0018】
上記透明基材としては、種々の透明材料からなる基材が挙げられる。透明材料は、無機材料または有機材料のいずれであってもよいが、透明性が高い材料が望ましい。透明材料としては、例えば、ガラス等の無機材料;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリイミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、エポキシ樹脂等の有機材料;などが挙げられる。
【0019】
より透明性が高く、光学的に均一(複屈折が小さい)で、屈折率が低く、反射率が低い点から、これら透明材料の中でも、ガラス、PMMA、TAC、シクロオレフィンポリマーが好ましい。
【0020】
上記透明基材の一つの面側の最外層として平滑な親水性層が設けられている。この親水性層としては、親水基が表面に集中した傾斜構造を有することが好ましい。
このような親水性層を形成する親水基が表面に集中した傾斜構造の中でも、アニオン性親水基、カチオン性親水基、および水酸基から選ばれる親水性官能基の少なくとも1つの親水基の表面濃度(Sa2)と親水性層の厚み1/2地点における親水基の深部濃度(Da2)との傾斜度(Sa2/Da2)が1.1以上であることがより好ましい。
【0021】
このような親水基が表面に集中した傾斜構造を形成し得る材料としては、例えば下記材料(1)〜(12)が挙げられる。
【0022】
(1)スルホン酸基、カルボキシル基およびリン酸基から選ばれる少なくとも1種のアニオン性親水基を有する特定の単量体(I)と1分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(II)と、溶解度パラメータの大きな特定の溶媒を含む組成物から、溶媒を除去した後、重合して得られる架橋樹脂(国際公開第2007/064003号)
【0023】
(2)スルホン酸基および/またはスルホン酸塩基を有する2官能性の特定構造を有する化合物を含む単量体から得られる重合体(特開2009−073923号公報)
【0024】
(3)2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多価単量体(II)、ならびにメルカプト基、水酸基、およびアミノ基から選ばれる少なくとも1つの基とスルホン酸基とを有する化合物(IV)(ただし、スルホン酸基、カルボキシル基、およびリン酸基から選ばれる少なくとも1つのアニオン性親水基を有するモノ(メタ)アクリレートおよび多価単量体(II)は除く。)を含む混合物を重合して得られる親水性硬化物(国際公開第2012/014829号)
【0025】
(4)スルホン酸基、カルボキシル基およびリン酸基から選ばれる少なくとも1種のアニオン性親水基を有する特定の単量体(I)と2以上の(メタ)アクリロイル基を有し、スルホン酸基、カルボキシル基およびリン酸基を有さない多価単量体(II)とを、単量体(I)/多価単量体(II)モル比が1/1000以上1/30未満となるように含む単量体組成物、および溶解度パラメータσが9.3(cal/cm3)以上の化合物を含有する溶剤を含む混合物を作製し、その混合物を基材に塗布した後少なくとも一部の溶剤を除去し、 単量体(I)および単量体(II)を含む単量体組成物を重合することにより得られる架橋樹脂(国際公開第2013/014733号)
【0026】
(5)アニオン性親水基と、重合性炭素−炭素二重結合を有する官能基とを有する化合物(I)、および水酸基を3つ以上と、重合性炭素−炭素二重結合を有する官能基を3つ以上とを有する化合物(II)を含む組成物を重合することにより得られる架橋樹脂(国際公開第2015/178248号)
【0027】
(6)アニオン性親水基、カチオン性親水基、および水酸基から選ばれる少なくとも一つの親水基と、重合性炭素−炭素二重結合を有する少なくとも1つの官能基とを有する化合物(I)(ただし親水基が水酸基を有する基の場合は、重合性炭素−炭素二重結合を有する官能基は一つである。)、重合性炭素−炭素二重結合を有する官能基を2つ以上有する化合物(II)(ただし、水酸基は有してもよいが、アニオン性親水基、およびカチオン性親水基はいずれも有さない。)、ならびにアニオン性親水基、カチオン性親水基、または2つ以上の水酸基を有する親水部、および有機残基からなる疎水部を有する界面活性剤(III)およびシロキサン結合を有する分子量200〜1,000,000の化合物(IV)から選ばれる少なくとも一つの化合物(ただし、界面活性剤(III)および化合物(IV)は重合性炭素−炭素二重結合を有さない。)を含む組成物を重合することにより得られる架橋樹脂(国際公開第2015/087810号)
【0028】
(7)アニオン性親水基を有するアクリル樹脂から得られる変性アクリル樹脂膜であって、表面におけるアニオン性親水基の濃度が、該アクリル樹脂系膜の表面から膜厚1/2の深さにおけるアニオン性親水基の濃度よりも高いアクリル樹脂系膜の当該表面を、1分子内にアニオン性親水基を1個以上と重合性炭素−炭素二重結合を含む基、アミノ基、メルカプト基、および水酸基からなる群より選ばれる基を1個以上とを有する特定の化合物(A)で処理して得られる変性アクリル樹脂(国際公開第2013/187311号)
【0029】
(8)アミノシリコーンのオニウムイオンとのイオン対を形成したアニオン性親水基の1個以上と、重合性炭素−炭素二重結合を含む基、アミノ基、メルカプト基、および水酸基からなる群より選ばれる基の1個以上とを一分子内に有する化合物(A)で、アクリル樹脂からなる硬化物(X)の表面を処理して得られる変性アクリル樹脂硬化物(国際公開第2016/136811)
【0030】
(9)−SO3M基とエポキシ基を有し、該Mが水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウムイオンを表される重合体(i)と、シラン原子に結合した水酸基、シラン原子に結合したアルコキシ基、およびシラン原子に結合したハロゲン原子からなる群より選ばれる基または原子を合計2個以上有するシラン化合物(ii)を含む組成物の硬化物(国際公開第2013/054877号)
【0031】
(10)−SO3M基(M:水素原子、アルカリ金属イオン、1/2価のアルカリ土類金属イオン、アンモニウム
イオン、またはアミンイオン)、エポキシ基、アルコキシシリル基を含む特定の構性単位(1)、(2)、および(3)で表される構成単位を含む共重合体(i)を含む組成物の硬化物(国際公開第2014/168122号)
【0032】
(11)スルホン酸含有基、エポキシ基、および、特定のアルコキシシリル基を分子内に有する特定の共重合体(i)、または該共重合体(i)を含む組成物の硬化物(国際公開第2014/168123号)
【0033】
(12)スルホン酸含有基、エポキシ基、および、特定のアルコキシシリル基を分子内に有する特定の共重合体(i)と、アミノ樹脂(ii)とを含む組成物を硬化物(国際公開第2016/017619号)
これら親水性層用の材料の硬化(架橋)前の組成物または重合体の透明基材への塗布方法は種々のコーティング方法により行うことができる。コーティング方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコート法、フローコート法、スピンコート法、スプレーコート法、その他公知の方法が挙げられる。中でもグラビアコート法、バーコート法、スピンコート法などが好ましい。
上記組成物または重合体の硬化(架橋)は必要に応じで重合開始剤または触媒等を添加して加熱または紫外線(UV)に代表される放射線を照射することによって行う。詳細な硬化(架橋)条件等は上記(1)〜(12)に例示される文献に詳細に記載されている。これら材料から形成された親水性層は、耐擦傷性に優れる。
【0034】
上記親水性層の水接触角は好ましくは30°以下、より好ましくは20°以下、さらに好ましくは10°以下である。水接触角が上記範囲にある場合、上記親水性層は防汚性、防曇性等により優れる傾向にある。なお上記水接触角は通常0°以上である。
【0035】
上記透明基材の平滑な親水性層が設けられた面の反対の面(反対面)側に複数の凹凸構造を有する反射防止層が最外層として設けられている。この反射防止層のラフネス(Ra)およびピッチ(A)は60nm〜800nmの範囲である。ここで、ラフネスとは凹凸構造の平均高低差を意味し、ピッチとは凹凸構造の互いに隣接する凸部の頂点間の平均距離を意味する。なお、ラフネスは算術平均粗さとして求められる値である。ラフネスおよびピッチが60nm未満の場合、可視光の反射率が上昇し透過率が低下する。ラフネスおよびピッチが800nmを超える場合、反射防止効果が得られなくなる。反射防止効果を得つつ透過率をより向上する点からは、反射防止層のラフネスおよびピッチは、100nm〜600nmの範囲であることがより好ましい。
【0036】
上記反射防止層における、ラフネスとピッチとの比 Ra/A は0.4〜3の範囲が好ましく、0.5〜2の範囲がより好ましい。0.4未満では反射率が低下する傾向にあり、3を超える場合には接触などの圧力で凸部の構造が壊れて反射防止性が低下し易くなる傾向にある。
【0037】
反射防止性を高めつつ、透過率を向上させる点からは、上記反射防止層における凹凸構造としては、例えば、非特許文献1に記載のモスアイ構造、特許文献6および7に記載の凸構造(微粒子)がナノメートルサイズでは完全に秩序だっておらず比較的無秩序に配列されたモスアイに類似する凹凸構造(アモルファス構造)、および特許文献1で提案されている凹凸構造などが好ましい。
【0038】
反射防止層の凹凸構造層を形成する方法としては、その目的等に応じて適宜選択すればよいが、例えば、あらかじめ作製された凹凸構造に対応した構造を有するレプリカモールドを透明基材に塗布された硬化性組成物からなる層の表面に貼り合わせてレプリカモールドごと硬化した後に離形するインプリント法、シリカ微粒子と硬化性樹脂からなる組成物を塗布硬化した後に高周波プラズマ等を用いてエッチングする方法(特許文献6記載の方法)、金属酸化物微粒子と硬化性化合物を含む層から、基材側の界面とは反対側の界面から金属酸化物微粒子が突出するようにした後、この硬化性化合物を硬化する方法(特許文献7記載の方法)などが挙げられる。
【0039】
上記種々の方法により、凹凸構造を形成し得る材料としては、例えば、熱可塑性材料、熱硬化性材料、UV硬化性材料等の放射線硬化性材料が挙げられる。これらの中では熱硬化性材料、およびUV硬化性材料が好ましく、短時間で硬化終了し生産性が高くなるUV硬化性材料がより好ましい。
【0040】
UV硬化性材料に含まれる化合物としては、例えば、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群より選ばれる基(以下、(メタ)アクリレート基ともいう)を1個以上有するメタクリレート化合物またはアクリレート化合物(以下、(メタ)アクリレート化合物ともいう)、エポキシ基を1つ以上有するエポキシ化合物、および1分子内にビニル基(ただし、アクリロイル基およびメタクリロイル基を除く)を1個以上有するビニル化合物、などが挙げられる。なお、上記(メタ)アクリレート化合物には、(メタ)アクリレート基1個以上と、ウレタン結合を1個以上有するウレタンアクリレート化合物、アクリル酸およびメタアクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物とエポキシ基を1個以上有する化合物とを反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート化合物が含まれる。
【0041】
UV硬化性材料に含まれる化合物としては、これらの中でも、硬化性が高いことから、(メタ)アクリレート基を2個以上有する(メタ)アクリレート化合物が好ましい。
反射防止層を形成する材料としては、親水化して凹凸構造の防汚性(易清掃性)が得られ易い親水性材料が好ましい。そのため、反射防止層としては、親水基が表面に集中した傾斜構造を有することが好ましい。
【0042】
このような親水基が表面に集中した傾斜構造を形成しつつ凹凸構造を形成し得る好適な材料としては、上述した親水性層を形成し得る材料として例示した中でもUV硬化性の材料である上記(1)〜(8)の材料が挙げられる。
上記組成物の硬化(架橋)は必要に応じで重合開始剤等を添加してUV等の放射線を照射することによって行う。詳細な硬化(架橋)条件等は上記(1)〜(8)に例示される文献に詳細に記載されている。
【0043】
本発明の多層構造体は、透明基材の一方の面側の最外層に平滑な親水性層、その反対面側の最外層に複数の凹凸構造を有する反射防止層の少なくとも2層が透明基材に積層された積層体である。したがって、透明基材と親水性層の間、反射防止層と透明基材の間、その両方の間に他の層が積層されていてもよい。他の層としては、透明基材と親水性層(反射防止層)とを接着させる接着層または粘着層、偏光フィルム層および導光板層等の光機能性層などが挙げられる。
【0044】
単純に防汚性(易清掃性)と高い視認性(透過率)のみを求める場合、本発明の多層構造体は、透明基材の一方の面上に平滑な親水性層、その反対面上に複数の凹凸構造を有する反射防止層が設けられた3層構造(親水性層/透明基材/反射防止層)の多層構造体、またはその3層構成の各層間を密着させる接着層を積層した5層構造(親水性層/接着層/透明基材/接着層/反射防止層)の多層構造体が好ましい。
【0045】
これら多層構造体を構成する各層には、本発明の効果を阻害しない範囲で、添加剤が含まれていてもよい。上記添加剤としては、例えば、酸化防止剤、HALS、UV吸収剤に代表される特定波長を吸収してカットする特定波長吸収剤、充填剤(フィラー)、染料、顔料、香料などが挙げられる。
【0046】
本発明の多層構造体の形状は特に制限はないが、典型的には、シートまたはフィルム形状である。また、本発明の多層構造体は、種々の目的に合わせてさらに切断等の加工を施して用いてもよい。
本発明の多層構造体は、透過率が高く防汚性(易清掃性)に優れるため映像機器用の部材として好適である。この優れた特性を有するため、本発明の多層構造体からなる映像機器用部材は、映像機器の最外側として備えられることが特に好適である。また、本発明の多層構造体を映像機器用部材として用いる場合には、平滑な親水性層の面を映像機器の外側向き(複数の凹凸構造を有する反射防止層は内側向き)とすることが好ましい。このようにすることで、平滑な親水性層が有する性能を発揮しつつ、反射防止層に付与され得る性能も発揮し得る。
【0047】
上記部材が備えられ得る映像機器、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー等に代表される表示機器;CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサ、ハイビジョンカメラ、監視カメラ、ビデオカメラ、WEBカメラ、ネットワークカメラ、測量および車両危険回避用のステレオカメラ等に代表される撮像機器;ヘッドマウントディスプレイ、プロゼジェクションマッピング、スライドプロジェクタ、オーバーヘッドプロジェクタ、CRTプロジェクタ、液晶プロジェクタ、DLP(デジタル・ライト・プロセッシング)プロジェクタ、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)プロジェクタ、CLV(Grating Light Valve)プロジェクタ等に代表される投影映写機器;などが挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例等により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
なお、本発明において被膜の物性評価は、下記のようにして行った。
【0049】
<親水基濃度比の測定>
図1に示す試料調製の通りサンプルを斜めに切断し、飛行時間型2次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)を用いて、親水基(スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、4級アンモニム基、または水酸基)を有する親水性化合物のフラグメントイオンについて、その親水性化合物に由来する外表面のフラグメントイオン濃度(Sa)と上記中間地点とのフラグメントイオン濃度(Da)とを測定し、その値から外気に接する膜の外表面と膜の内表面と外表面との中間地点の親水性化合物に由来する親水基の濃度の比、すなわち親水基濃度の傾斜度(Sa/Da)を求めた。
【0050】
(分析装置と測定条件)
TOF−SIMS; ION・TOF社製 TOF−SIMS5
1次イオン; Bi32+ (加速電圧25kV)
測定面積; 400μm2
測定には帯電補正用中和銃を使用
【0051】
(試料調製等)
図1に示す通りに、基材10の表面に層20が設けられたサンプルを切削方向30に向かって、精密斜め切削を行った後、10×10mm2程度の大きさに切り出し、測定面にメッシュを当て、サンプルホルダーに固定し、外気と接する層表面40および層の内部である層内部50(層厚み1/2の地点)で飛行時間型2次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)を用いて親水基濃度を測定した。
【0052】
(評価)
評価は以下の計算式で行った。なお、各測定点のイオン濃度は、相対強度(トータル検出イオンに対する)を用いた。
Sa/Da(親水基濃度比,傾斜度)=層表面40での親水基濃度/層20の厚み1/2の地点での親水基濃度
【0053】
<水接触角の測定>
協和界面科学社製の水接触角測定装置CA−V型を用いて、1サンプルについて3箇所測定し、これら値の平均値を水接触角の値とした。
【0054】
<防汚性の評価>
汚れ疑似物質として、オレイン酸100gとヒマシ油150gとMitsui Blue RR0.4gからなる混合物(以後、「汚染物質」と略記する。)を調製した。この汚染物質を試験体表面に約2ml滴下し、汚染物質を試験体表面に広げた後、蒸留水で霧吹き50回を実施し、目視にて汚染状態を判定した。
試験シート表面に汚染物質の付着がほとんどなくなっている場合:○
僅かに付着して残っていた場合:△
明らかに付着して残っていた場合:×
【0055】
<耐擦傷性の評価>
スチールウール#0000を用いて1kg荷重で10往復させ、目視で傷の状態を確認した。
全く傷が入っていない場合: 〇
傷が1〜5本の範囲で入っている範囲: △
傷が5本を超えて無数に入っている場合: ×
【0056】
<電子顕微鏡観察>
日立ハイテク社製走査型電子顕微鏡(SEM)S−4800およびPhenom-world社製卓上走査型電子顕微鏡Phenom ProXを用いて測定した。
【0057】
<546nmの透過率および全光線透過率>
日立製作所製の分光硬度計U4100型分光光度計を用いて測定した。
【0058】
〔調製例1〕
(重合性組成物の調製)
下記表1に従い、固形分80重量%の重合性組成物を作製した。
【0059】
【表1】
【0060】
【化1】
【0061】
〔実施例1〕
(コーティング用組成物の調製)
調製例1で得た重合性組成物 10.0gに、UV重合開始剤としてダロキュアー1173(BASF)0.24g、希釈剤としてPGM(1−メトキシ−2−プロパノール)10.0gを加えて混合し、固形分40重量%のコーティング用組成物を調製した。
【0062】
(基材表面への平滑な親水性層の積層)
厚さ2mmのポリメタクリル酸メチル板(三菱ケミカル製 商品名アクリライトL001,厚さ2mm,以下PMMA板と略す。)に、コーティング用組成物をバーコータ#5で塗布し、40℃温風乾燥機で3分間乾燥した。
【0063】
次いでUVを照射(紫外線硬化用メタルハライドランプ、UB012−5BMアイグラフィック株式会社製、照度UVA 340mW/cm2、積算光量UVA 3400mJ/cm2、ヘレウス社UVCURE PLUS−IIにて測定)して、PMMA板の片面に膜厚3μmの平滑な親水性層を有するPMMA板を得た。積層された平滑な親水性層の厚み方向の傾斜度を表2に掲載する。
【0064】
【表2】
【0065】
(反対面へのモスアイ構造膜層の積層)
上記で得られた表面に親水膜が積層されたPMMA板の反対面(未コート面)に上記と同じコーティング用組成物をバーコータ#15で塗布し、<1mmHgの減圧下でモスアイ構造を付与する樹脂モールドを貼り合わせた後、大気圧下で上記と同様にUV照射を行い、PMMA板の裏面に膜厚8μmモスアイ構造を有する反射防止膜を積層した。
【0066】
この様にて表面に平滑な親水性層とその反対面にモスアイ構造膜層が積層されたPMMAの板が得られた。評価結果を表3に掲載する。なお、形成されたモスアイ構造を有する反射防止膜の顕微鏡観察図は図2に示す。
【0067】
〔実施例2〕
(親水性層を有するフィルムの製造)
厚さ100μmの易接着PETフィルム(東レ製,商品名ルミラー100−U34)上に実施例1と同様に平滑な親水性層が積層されたPETフィルムを作製した。
【0068】
(モスアイ構造層を有するフィルムの製造)
上記と同様の厚さ100μmの易接着PETフィルムに実施例1と同様にモスアイ構造を有する反射防止膜が積層されたPETフィルムを作製した。
【0069】
(接着剤の調製)
タケラックA312(固形分50wt%,三井化学製) 10g 、タケネートD160N(固形分75wt%,三井化学製)1g、ジオクチル錫ジラウレート 0.12g(2000ppm/固形分)、および酢酸エチル 26gを混合し固形分16重量%の透明な接着剤を得た。
【0070】
(PMMA板へのフィルムの張り合わせ)
実施例1と同様のPMMA板の片面に上記の接着剤をバーコータ#5で塗布し40℃温風乾燥機で2分間乾燥し、<1mmHgの減圧下で上記の親水性層を有するPETフィルムを貼り合わせて大気圧に戻し片面に親水性PETフィルムが貼られたPMMA板を得た(接着層の膜厚1μm)。
【0071】
同様にモスアイ構造層を有するPETフィルムを片面に親水性PETフィルムが貼られたPMMA板のフィルムが貼られていない面に貼り、80℃オーブンで24時間養生することにより、親水性PETフィルム/接着剤/PMMA板/接着剤/モスアイ構造層を有するPETフィルム の構成からなる積層体を得た。評価結果を表3に掲載する。
【0072】
〔比較例1〕
実施例1と同様の方法により両面に平滑な親水性層が積層されたPMMA板を作製した。
【0073】
〔比較例2〕
実施例1で使用した基材PMMA板をそのまま評価した。
【0074】
【表3】
図1
図2
図3
図4