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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-217996(P2019-217996A)
(43)【公開日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】車両制御システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/04 20060101AFI20191129BHJP
   B60W 10/20 20060101ALI20191129BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20191129BHJP
   B60W 30/045 20120101ALI20191129BHJP
【FI】
   B60W10/00 134
   B60W10/06
   B60W30/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-118651(P2018-118651)
(22)【出願日】2018年6月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】小川 大策
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 史律
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241AA40
3D241AB01
3D241AD02
3D241AD05
3D241AD10
3D241AD31
3D241AD41
3D241AD47
3D241AD51
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3D241BA18
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3D241DA03Z
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3D241DC47Z
(57)【要約】
【課題】原動機により後輪が駆動される車両を制御する場合であっても、ステアリング操作に対する車両の応答性又はリニア感を向上させることができる車両制御システム及び方法を提供する。
【解決手段】本発明は、原動機(4)により後輪(2a)が駆動される車両(1)を制御する方法であって、車両の運転状態に基づいて、原動機が発生すべき基本トルクを設定する基本トルク設定工程と、車両に搭載された操舵装置(7)の操舵角の増加に基づいて、基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定する増加トルク設定工程と、基本トルクに増加トルクを加算したトルクが発生するように、原動機を制御するトルク発生工程と、を有し、増加トルク設定工程において、操舵装置の操舵角が大きい場合には、操舵装置の操舵角が小さい場合よりも増加トルクが小さく設定されることを特徴としている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機により後輪が駆動される車両を制御する方法であって、
上記車両の運転状態に基づいて、上記原動機が発生すべき基本トルクを設定する基本トルク設定工程と、
上記車両に搭載された操舵装置の操舵角の増加に基づいて、上記基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定する増加トルク設定工程と、
上記基本トルクに上記増加トルクを加算したトルクが発生するように、上記原動機を制御するトルク発生工程と、
を有し、
上記増加トルク設定工程において、上記操舵装置の操舵角が大きい場合には、上記操舵装置の操舵角が小さい場合よりも上記増加トルクが小さく設定されることを特徴とする車両制御方法。
【請求項2】
さらに、上記操舵装置による操舵輪の切り足し操舵を判定する切り足し判定工程を有し、この切り足し判定工程において切り足し操舵が行われたと判定された場合には、上記増加トルク設定工程において上記増加トルクが小さく設定される請求項1記載の車両制御方法。
【請求項3】
上記切り足し判定工程は、上記操舵装置による操舵角の増加が検出された後、操舵角がほぼ一定に維持され、その後再び操舵角の増加が検出された場合に、切り足し操舵が行われたと判定する請求項2記載の車両制御方法。
【請求項4】
上記増加トルク設定工程においては、上記操舵装置の操舵速度が所定値以上の場合に、上記増加トルクを設定する請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両制御方法。
【請求項5】
上記増加トルク設定工程において、上記操舵装置の操舵角が大きい場合には、上記操舵装置の操舵角が小さい場合よりも、上記増加トルクの単位時間当たりの増加率の上限値が低く設定される請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両制御方法。
【請求項6】
原動機により後輪が駆動される車両を制御する車両制御システムであって、
上記車両の運転状態を検出する運転状態センサと、
上記車両に搭載された操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、
上記運転状態センサの検出信号及び上記操舵角センサの検出信号に基づいて上記原動機を制御する制御器と、を有し、
上記制御器は、
上記運転状態センサの検出信号に基づいて、上記原動機が発生すべき基本トルクを設定し、
上記操舵角センサにより操舵角の増加が検出されると、上記基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定し、
上記基本トルクに上記増加トルクを加算したトルクが発生するように、上記原動機を制御するように構成され、
上記制御器は、上記操舵装置の操舵角が大きい場合には、上記操舵装置の操舵角が小さい場合よりも上記増加トルクを小さく設定することを特徴とする車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムに関し、特に、原動機により後輪が駆動される車両を制御する車両制御システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第5143103号公報(特許文献1)には、車両の運動制御装置が記載されている。この特許文献1記載の車両の運動制御装置においては、車両における操舵に伴って車両に自動的に減速度を与えることにより、限界運転領域における車両の横滑りを防止して、車両の操縦安定性を向上させている。
【0003】
また、特許第6202478号公報(特許文献2)には、車両用挙動制御装置が記載されている。この特許文献2記載の車両用挙動制御装置においては、車両の操舵速度に基づいて、車両に目標付加減速度を付加するように、車両の駆動力を低減させている。このように、特許文献2記載の車両用挙動制御装置では、操舵速度に応じて車両の駆動力を低減することにより車両前輪の垂直荷重を増大させ、この結果、ドライバのステアリング操作に対する車両挙動の応答性、リニア感を向上させることに成功している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5143103号公報
【特許文献2】特許第6202478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本件発明者が、特許文献1や特許文献2に記載されているような、車両の操舵に伴って車両に減速度を与える制御の、後輪駆動車への適用を試みたところ、特許文献1、2記載の発明において得られている操縦安定性の向上や、車両挙動の応答性、リニア感の向上という効果を得ることはできなかった。
【0006】
即ち、本件発明者は、車両姿勢制御として、特許文献1、2等に記載されているように、車両のステアリング操作に伴って車両に減速度を与える制御を適用した。しかしながら、このような従来から知られている車両姿勢制御を後輪駆動車に適用した場合には、前輪駆動車において得られていたような車両の応答性やリニア感の向上といった効果を得ることはできなかった。この新たに見出された課題を解決するために本件発明者が鋭意研究を進めた結果、後輪駆動車においては、驚くべきことに、ドライバによる操舵に応じて車両の駆動トルクを増加させることにより、車両応答性やリニア感が向上することが明らかとなった。
【0007】
一般に、車両に減速度を付与すると、車両の重心に作用する慣性力により、車両にはフロント側が沈むピッチング運動が発生するため、操舵輪である前輪荷重が増加して、ステアリング操作に対する応答性が向上するものと考えられていた。しかしながら、後輪駆動車においては、後輪の駆動トルクを減じて車両に減速度を付与した際、上記の慣性力の他に、後輪からサスペンションを介して車体を後傾させる(リア側を沈ませる)力が瞬間的に発生する。この瞬間的な力は、前輪荷重を低下させるように作用するため、後輪駆動車においては、ドライバによる操舵に応じて車両に減速度を付与しても、期待通りに車両応答性やリニア感を向上させることができなかったものと考えられる。
【0008】
これとは反対に、後輪駆動車においては、後輪の駆動トルクを増加させることにより、後輪からサスペンションを介して車体を前傾させる(フロント側を沈ませる)力が瞬間的に作用して前輪荷重が増加するため、車両応答性やリニア感が向上するものと考えられる。即ち、後輪駆動車において、後輪の駆動トルクを増加させて加速度を付与すると、車体を後傾させる慣性力と、車体を前傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感に対しては瞬間的な車体を前傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
【0009】
本件発明者は、車両に搭載された操舵装置の操舵角の増加に基づいて、基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定することにより、上記の瞬間的な力により前輪荷重が増加し、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感を向上できることを見出した。しかしながら、操舵装置の操舵角(の絶対値)が大きい領域において、操舵角が小さい領域と同様に基本トルクを増加させると車両の旋回性が過剰となり、却ってステアリング操作に対するリニア感が損なわれてしまうという新たな技術課題が発生した。本発明は、この新たな技術課題を解決するために為されたものである。
従って、本発明は、原動機により後輪が駆動される車両を制御する場合であっても、ステアリング操作に対する車両の応答性又はリニア感を向上させることができる車両制御システム及び方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明は、原動機により後輪が駆動される車両を制御する方法であって、車両の運転状態に基づいて、原動機が発生すべき基本トルクを設定する基本トルク設定工程と、車両に搭載された操舵装置の操舵角の増加に基づいて、基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定する増加トルク設定工程と、基本トルクに増加トルクを加算したトルクが発生するように、原動機を制御するトルク発生工程と、を有し、増加トルク設定工程において、操舵装置の操舵角が大きい場合には、操舵装置の操舵角が小さい場合よりも増加トルクが小さく設定されることを特徴としている。
【0011】
このように構成された本件発明によれば、操舵装置の操舵角が大きい場合には、操舵装置の操舵角が小さい場合よりも増加トルクが小さく設定される。これにより、操舵角が大きい領域においても旋回性が過剰となることがなく、操舵角の大きい状態でも車両応答性やリニア感を向上させることができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、さらに、操舵装置による操舵輪の切り足し操舵を判定する切り足し判定工程を有し、この切り足し判定工程において切り足し操舵が行われたと判定された場合には、増加トルク設定工程において増加トルクが小さく設定される。
【0013】
ドライバが操舵を行い、その結果としての車両の旋回が不足している(旋回半径が大きすぎる)と感じると、ドライバは更に同じ方向に操舵を行う。上記のように構成された本発明によれば、このような所謂切り足し操舵が行われた場合に増加トルクが小さく設定されるので、車両の過剰な旋回によりドライバに違和感を与えるのを防止することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、切り足し判定工程は、操舵装置による操舵角の増加が検出された後、操舵角がほぼ一定に維持され、その後再び操舵角の増加が検出された場合に、切り足し操舵が行われたと判定する。
【0015】
このように構成された本発明によれば、操舵角の増加が検出された後、ほぼ一定に維持され、その後再び操舵角の増加が検出された場合に、切り足し操舵が行われたと判定されるので、切り足し操舵を確実に判定することができ、ドライバに与える違和感を、より抑制することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、増加トルク設定工程においては、操舵装置の操舵速度が所定値以上の場合に、増加トルクを設定する。
このように構成された本発明によれば、操舵装置の操舵速度が所定値以上の場合に、増加トルクが設定されるので、ドライバに操舵の意志がない微少な操舵に対して増加トルクが設定され、制御が介入することによりドライバに違和感を与えるのを防止することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、増加トルク設定工程において、操舵装置の操舵角が大きい場合には、操舵装置の操舵角が小さい場合よりも、増加トルクの単位時間当たりの増加率の上限値が低く設定される。
【0018】
このように構成された本発明によれば、操舵角が大きい場合には、増加トルクの単位時間当たりの増加率の上限値が低く設定されるので、増加トルクによる急激なトルク増加を抑制することができ、ドライバに違和感を、より与えにくくすることができる。
【0019】
また、本発明は、原動機により後輪が駆動される車両を制御する車両制御システムであって、車両の運転状態を検出する運転状態センサと、車両に搭載された操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、運転状態センサの検出信号及び操舵角センサの検出信号に基づいて原動機を制御する制御器と、を有し、制御器は、運転状態センサの検出信号に基づいて、原動機が発生すべき基本トルクを設定し、操舵角センサにより操舵角の増加が検出されると、基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定し、基本トルクに増加トルクを加算したトルクが発生するように、原動機を制御するように構成され、制御器は、操舵装置の操舵角が大きい場合には、操舵装置の操舵角が小さい場合よりも増加トルクを小さく設定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の車両制御システム及び方法によれば、原動機により後輪が駆動される車両を制御する場合であっても、ステアリング操作に対する車両の応答性又はリニア感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態による車両制御システムを搭載した車両の全体構成を示すブロック図である。
図2】本発明の第1実施形態による車両制御システムの電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明の第1実施形態による車両制御システムに備えられたPCMがエンジンを制御するエンジン制御処理のフローチャートである。
図4】本発明の第1実施形態においてPCMが増加トルクを決定するトルク付加量設定処理のフローチャートである。
図5】本発明の第1実施形態においてPCMが決定する目標付加加速度と操舵速度との関係を示したマップである。
図6】本発明の第1実施形態において操舵装置の操舵角に応じて増加トルクに乗じる操舵角係数の値を示す係数マップである。
図7】本発明の第1実施形態において増加トルクの単位時間当たりの増加率の上限値を規定した増加トルクの増加率上限値マップである。
図8】本発明の第1実施形態において目標付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
図9】本発明の第1実施形態による車両制御システムの作用の一例を示すタイムチャートである。
図10】本発明の第2実施形態において操舵装置の操舵角に応じて増加トルクに乗じる第2操舵角係数の値を示す係数マップである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
まず、図1を参照して、本発明の第1実施形態による車両制御システムを搭載した車両について説明する。図1は、本発明の第1実施形態による車両制御システムを搭載した車両の全体構成を示すブロック図である。
【0023】
図1において、符号1は、本実施形態による車両制御システムを搭載した車両を示す。
車両1の車体前部には操舵輪である左右の前輪2aが設けられ、車体後部には駆動輪である左右の後輪2bが設けられている。これら車両1の前輪2a、後輪2bは、車体に対してサスペンション3により夫々支持されている。また、車両1の車体前部には、後輪2bを駆動する原動機であるエンジン4が搭載されている。本実施形態においては、エンジン4は、ガソリンエンジンであるが、原動機としてディーゼルエンジンなどの内燃エンジンや、電力により駆動されるモータを使用することもできる。また、本実施形態において、車両1は、車体前部に搭載されたエンジン4により、トランスミッション4a、プロペラシャフト4b、ディファレンシャルギア4cを介して後輪2bが駆動される所謂FR車であるが、車体後部に搭載されたエンジン4により後輪2bを駆動する所謂RR車等、原動機により後輪が駆動される任意の車両に本発明を適用することができる。
【0024】
また、車両1には、ステアリングホイール6の回転操作に基づいて前輪2aを操舵する操舵装置7が搭載されている。さらに、車両1は、ステアリングホイール6の回転角度を検出する操舵角センサ8、アクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検出する運転状態センサであるアクセル開度センサ10、及び、車速を検出する車速センサ12を有する。これらの各センサは、それぞれの検出値を制御器であるPCM(Power-train Control Module)14に出力する。本発明の第1実施形態による車両制御システムは、これらの操舵角センサ8、アクセル開度センサ10、車速センサ12、及びPCM14から構成されている。
【0025】
次に、図2を参照して、本発明の第1実施形態による車両制御システムの電気的構成を説明する。図2は、本発明の第1実施形態による車両制御システムの電気的構成を示すブロック図である。
【0026】
PCM14は、上述したセンサ8〜12の検出信号の他、エンジン4の運転状態を検出する各種センサが出力した検出信号に基づいて、エンジン4の各部(例えば、スロットルバルブ5a、インジェクタ5b、点火プラグ5c、可変動弁機構5d等)に対する制御を行うべく、制御信号を出力するように構成されている。
【0027】
PCM14は、基本トルク設定部16と、増加トルク設定部18と、減少トルク設定部20と、エンジン制御部22とを有する。基本トルク設定部16は、運転状態センサであるアクセル開度センサ10等の検出信号に基づいて、エンジン4が発生すべき基本トルクを設定するように構成されている。増加トルク設定部18は、操舵角センサ8により操舵角の増加が検出されると、基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定するように構成されている。減少トルク設定部20は、操舵角センサ8により操舵角の減少が検出されると、基本トルクが低減されるように、低減トルクを設定するように構成されている。エンジン制御部22は、基本トルクに増加トルクを加算したトルク、又は低減トルクを減算したトルクが発生するように、エンジン4を制御するように構成されている。
【0028】
これらのPCM14の各構成要素は、CPU、当該CPU上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
【0029】
なお、図2には図示していないが、アクセル開度センサ10、車速センサ12の他、運転状態センサとしてブレーキセンサ、エンジン回転数センサ等を備えていてもよい。また、エンジン制御部22は、エンジン4に備えられた燃料噴射弁、点火プラグ、吸気スロットル弁、吸気可変動弁機構(以上、図示せず)等を制御してエンジン4が発生するトルクを制御するように構成されている。
【0030】
次に、図3乃至図8を参照して、車両制御システムが実行する本発明の第1実施形態による車両制御方法を説明する。
図3は、本発明の第1実施形態による車両制御システムに備えられたPCM14がエンジン4を制御するエンジン制御処理のフローチャートである。
【0031】
図3のエンジン制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、車両制御システムに電源が投入された場合に起動され、繰り返し実行される。
エンジン制御処理が開始されると、図3に示すように、ステップS1において、PCM14は車両1の運転状態に関する各種センサ信号を読み込んで取得する。具体的には、PCM14は、操舵角センサ8が検出した操舵角、アクセル開度センサ10が検出したアクセル開度、車速センサ12が検出した車速、車両1の変速機に現在設定されているギヤ段等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
【0032】
次に、ステップS2において、PCM14の基本トルク設定部16は、ステップS1において取得されたアクセルペダルの操作や車速を含む車両1の運転状態に基づき、目標加速度を設定する。具体的には、基本トルク設定部16は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を決定する。
【0033】
次に、ステップS3において、基本トルク設定部16は、ステップS2において決定した目標加速度を実現するためのエンジン4の基本トルクを決定する。即ち、基本トルク設定部16は、基本トルク設定工程として、車両1の運転状態に基づいて原動機であるエンジン4が発生すべき基本トルクを設定する。この場合、基本トルク設定部16は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジン4が出力可能なトルクの範囲内で、基本トルクを決定する。
【0034】
一方、ステップS2及びS3の処理と並行して、ステップS4において、増加トルク設定部18及び減少トルク設定部20は、ステアリング操作に基づき車両1に加速度又は減速度を付加するためのトルクを決定するトルク付加量設定処理を実行する。即ち、ステップS4においては、操舵装置7の操舵角の増加に基づいて、基本トルクを増加させるように増加トルクを設定する増加トルク設定工程、又は、操舵装置の操舵角の減少に基づいて、基本トルクが低減されるように、低減トルクを設定する低減トルク設定工程が実行される。このトルク付加量設定処理については、図4を参照して後述する。
【0035】
ステップS2及びS3の処理及びステップS4のトルク付加量設定処理を行った後、ステップS5において、ステップS3において決定した基本トルクに、ステップS4のトルク付加量設定処理において決定した増加トルク又は低減トルクを加算又は減算することにより、最終目標トルクが決定される。ここで、基本トルクが、アクセルペダルの操作等、ドライバの運転操作に応じて設定されるトルクであるのに対し、増加トルク、低減トルクは、車両1がドライバの意図により近い挙動を示すようにPCM14により自動的に付加又は低減されるトルクである。
【0036】
次いで、ステップS6において、PCM14は、ステップS5において設定した最終目標トルクを実現するためのアクチュエータ制御量を設定する。具体的には、PCM14は、ステップS5において設定した最終目標トルクに基づき、最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量を決定し、それらの状態量に基づき、エンジン4の各構成要素を駆動する各アクチュエータの制御量を設定する。この場合、PCM14は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するような各アクチュエータの制御量を設定する。
【0037】
続いて、ステップS7において、PCM14は、ステップS6において設定した制御量に基づき各アクチュエータへ制御指令を出力する。
例えば、エンジン4がガソリンエンジンである場合、PCM14は、ステップS5において基本トルクに増加トルクを加算することにより最終目標トルクが設定された場合、点火プラグ5cの点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角させる。また、点火時期の進角に代えて、あるいはそれと共に、PCM14は、スロットル開度を大きくしたり、下死点後に設定されている吸気弁の閉時期を進角させたりすることによって、吸入空気量を増加させる。この場合、PCM14は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、インジェクタ5bによる燃料噴射量を増加させる。
【0038】
他方で、ステップS5において基本トルクから低減トルクを減算することにより最終目標トルクが設定された場合、PCM14は、点火プラグ5cの点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角させる(リタードする)。また、点火時期の遅角に代えて、あるいはそれと共に、PCM14は、スロットル開度を小さくしたり、下死点後に設定されている吸気弁の閉時期を遅角させたりすることによって、吸入空気量を減少させる。この場合、PCM14は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、インジェクタ5bによる燃料噴射量を減少させる。
【0039】
また、エンジン4がディーゼルエンジンである場合、PCM14は、ステップS5において基本トルクに増加トルクを加算することにより最終目標トルクが設定された場合、インジェクタ5bによる燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも増加させる。他方で、ステップS5において基本トルクから低減トルクを減算することにより最終目標トルクが設定された場合、PCM14は、インジェクタ5bによる燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも減少させる。
ステップS7の後、PCM14は、図3に示すフローチャートによる1回のエンジン制御処理を終了する。
【0040】
次に、図4乃至図8を参照して、図3のステップS4において実行されるトルク付加量設定処理を説明する。
図4は、本発明の第1実施形態においてPCM14が増加トルクを決定するトルク付加量設定処理のフローチャートであり、図5は、本発明の第1実施形態においてPCM14が決定する目標付加加速度と操舵速度との関係を示したマップである。図6は操舵装置7の操舵角に応じて増加トルクに乗じる操舵角係数の値を示す係数マップである。図7は増加トルクの単位時間当たりの増加率の上限値を規定した増加トルクの増加率上限値マップである。図8は目標付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【0041】
図4に示すトルク付加量設定処理が開始されると、ステップS21において、図3に示すフローチャートのステップS1において取得した操舵装置7の操舵角が増加しているか否かがPCM14により判断される。即ち、操舵角(の絶対値)は、車両1が直進する状態をゼロとし、ステアリングホイール6が時計回り又は反時計回りに回転されると増加する。なお、本実施形態においては、操舵装置7を構成するステアリングシャフトに設けられた操舵角センサ8により操舵角を検出しているが、前輪2a(操舵輪)の角度を検出するセンサ等、任意のセンサにより操舵角を検出することができる。
【0042】
ステップS21において、操舵角(の絶対値)が増加していないと判断された場合にはステップS22に進み、ここでは、操舵角(の絶対値)が減少しているか否かが判断される。即ち、ステップS22においては、ステアリングホイール6の回転角が操舵角=0の状態に近づいているか否かが判断される。ステップS22において、操舵角が減少していない場合には、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了し、図3に示すメインルーチンに処理が復帰する。即ち、ドライバにより操舵操作が行われていない(操舵速度=0)場合には、増加トルク又は低減トルクが設定されることはなく、図3のステップS3において設定された基本トルクが最終目標トルクに決定される。
【0043】
一方、ステップS21において操舵角が増加していると判断された場合にはステップS23に進み、ステップS23においては、操舵速度が所定値以上か否かが判断される。即ち、PCM14は、図3のステップS1において取得した操舵角に基づき操舵速度を算出し、その値が所定の閾値TS1以上であるか否かを判断する。操舵速度が所定の閾値TS1以上でない場合には、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了し、図3に示すメインルーチンに処理が復帰する。即ち、操舵速度が極めて小さい場合には、ドライバには操舵を行う意志がないと考えられるため、増加トルク設定部18による増加トルクの設定は実行されない。これにより、ドライバには操舵を行う意志がない状態で、不要なトルク付加量設定処理が介入するのを防止することができる。
【0044】
ステップS23において、操舵速度が所定値以上であると判断された場合には、ステップS24に進む。即ち、ドライバがステアリング6を切り込んだ(Turn-in)場合に、ステップS24以下の処理が実行される。ステップS24以下の処理では、増加トルク設定工程として、車両1に加速度を付加するために必要なエンジン4の出力トルクの増加量(増加トルク)が、増加トルク設定部18により設定される。
【0045】
まず、ステップS24において、増加トルク設定部18は、操舵速度に基づき目標付加加速度を取得する。この目標付加加速度は、ドライバの意図した車両挙動を正確に実現するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき加速度である。
【0046】
具体的には、増加トルク設定部18は、図5のマップに示した目標付加加速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS23において算出した操舵速度に対応する目標付加加速度を取得する。
図5における横軸は操舵速度を示し、縦軸は目標付加加速度を示す。図5に示すように、操舵速度が閾値TS1以下である場合、対応する目標付加加速度は0である。即ち、操舵速度が閾値TS1以下である場合、PCM14は、ステアリング操作に基づき車両1に加速度を付加するための制御を実行しない(増加トルクを設定せずにメインルーチンに復帰する)。
【0047】
一方、操舵速度が閾値TS1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する目標付加加速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど目標付加加速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両1に加速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の加速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値TS1よりも大きい閾値TS2以上の場合には、目標付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
【0048】
なお、本実施形態においては、操舵速度の閾値TS1は一定値に設定されているが、変形例として、閾値TS1を、図3のステップS3において設定された基本トルクに応じて変更するように構成することもできる。この場合、基本トルクが低い場合には、基本トルクが高い場合よりも、閾値TS1を高く設定するのが良い。また、別の変形例として、増加トルク(目標付加加速度)の設定は、操舵装置7の操舵角が所定の操舵角閾値以上になった場合に実行され、基本トルクが低い場合には、基本トルクが高い場合よりも、操舵角閾値が高く設定されるように本発明を構成することもできる。
【0049】
次に、ステップS25においては、ステップS24において取得された目標付加加速度を実現するために必要なトルクの増加量である増加トルクが、増加トルク設定部18により設定される。
【0050】
次いで、ステップS26においては、切り足し判定工程として、ステップS21において判断された操舵角の増加が「切り足し」によるものであるか否かが判断される。即ち、操舵速度が所定の閾値TS1図5)を超えた後、一旦、操舵速度が閾値TS1以下に低下して操舵角がほぼ一定に維持され、その後再び操舵速度が閾値TS1を超えた場合に、切り足し操舵が行われたと判定される。ステップS26において、切り足し操舵が行われたと判定された場合にはステップS27以下の処理が実行され、切り足し操舵でないと判定された場合にはステップS28の処理が実行される。
【0051】
ステップS27においては、ステップS25において設定された増加トルクが、操舵装置7の操舵角に応じて補正される。即ち、切り足し操舵が行われ、操舵装置7の操舵角が所定値よりも大きい場合には、操舵装置7の操舵角が小さい場合よりも増加トルクが小さい値に補正される。具体的には、ステップS25において設定された増加トルクが、図6に示す操舵角係数K1によって補正される。
【0052】
図6は、操舵装置7の操舵角に応じて増加トルクに乗じる操舵角係数K1の値を示す係数マップである。図6の横軸は操舵装置7の操舵角を表し、縦軸は操舵角係数K1の値を実線で表している。図6に示すように、操舵角係数K1の値は、操舵角=0においてK1=1であり、操舵角(の絶対値)の値が所定の操舵角θ2を超えると低下し始め、θ2よりも(絶対値が)大きい所定の操舵角θ3を超えると1よりも小さい一定値となる。一方、切り足し操舵が行われておらず、ステップS26でNOと判定された場合には、操舵角係数K1による補正は行われないため、図6の一点鎖線に示すように、全ての操舵角においてK1=1と設定した場合と等価になる。
【0053】
即ち、操舵角(の絶対値)=θ2以下では操舵角係数K1の値は1であり、ステップS24において設定された付加加速度を実現するために必要な増加トルクがそのまま使用される。これに対し、切り足し操舵が行われ、操舵角=θ2を超えると操舵角係数K1の値が小さくなるので、増加トルクの値は、ステップS24で設定された付加加速度を実現するために必要なトルクよりも小さくなる。
【0054】
即ち、ある程度操舵角(の絶対値)が大きい領域で、ドライバが切り足し操舵を行った場合に、切り足し操舵ではない場合と同様に増加トルクを加えていると、ドライバには車両1が過剰に旋回しているという印象を与えてしまう場合がある。本実施形態においては、操舵角が大きい領域で、切り足し操舵が行われた場合の操舵角係数K1の値を小さく設定しておくことにより、車両1の過剰な旋回を防止している。PCM14の増加トルク設定部18は、決定された操舵角係数K1を、ステップS25において設定された増加トルクに乗じ、増加トルクの値を補正する。
【0055】
次に、ステップS28においては、補正後の増加トルクの、単位時間当たりの増加率の上限が操舵装置7の操舵角に応じて制限される。即ち、ステップS28では、操舵角が大きい場合には、操舵角が小さい場合よりも、増加トルクの単位時間当たりの増加率の上限値が低く設定される。
【0056】
具体的には、操舵角係数K1による補正後の増加トルクの値[Nm]と、図4に示すフローチャートが前回実行されたときの補正後の増加トルクの値から増加トルクの単位時間当たりの増加率[Nm/sec]が計算され、この値の上限値が制限される。即ち、図4のフローチャートにおいて今回設定された補正後の増加トルクの値と前回設定された補正後の増加トルクの値との差、及び増加トルクを前回設定した時点から今回設定した時点までの経過時間(図4のフローチャートの実行時間間隔)から増加トルクの単位時間当たりの増加率が計算される。次いで、この増加率が、図7に示す増加トルクの増加率上限値マップに基づいて制限される。計算された増加トルクの単位時間当たりの増加率[Nm/sec]が、増加トルクの増加率上限値[Nm/sec]を超えている場合には、増加トルクの増加率が上限値を超えないように、(補正後の)増加トルクの値が修正される。
【0057】
図7に示すように、増加トルクの増加率上限値マップは、各操舵角の値[deg]に対して夫々許容可能な増加トルクの増加率上限値[Nm/sec]を規定したマップである。本実施形態においては、増加トルクの増加率上限値マップは、操舵角の増大と共に許容される増加トルクの増加率の上限値が単調に減少するように設定されている。また、操舵角の増分に対する増加トルクの増加率の上限値の低下(図7に示すマップの傾き)は、操舵角が増加するにつれて大きくなるように設定されている。これにより、操舵角が大きい領域での増加トルクの急激な増加が規制され、車両1の過剰な旋回を防止している。
【0058】
ステップS28において、増加トルクの単位時間当たりの増加率の上限値を規制した後、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了する。図4のフローチャートの終了後、処理はメインルーチンである図3に示すフローチャートのステップS5に復帰する。図3のステップS5においては、上述したように、トルク付加量設定処理(図4)において決定した増加トルクが基本トルクに加算され、最終目標トルクが決定され、このトルクが発生するようにエンジンが制御される(ステップS6)。
【0059】
一方、図4のステップS22において操舵角が減少していると判断された場合には、ステップS29に進み、ステップS29においては、操舵速度が所定値以上か否かが判断される。即ち、PCM14は、操舵速度が所定の閾値TS1以上であるか否かを判断する。操舵速度が所定の閾値TS1以上でない場合には、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了し、図3に示すメインルーチンに処理が復帰する。
【0060】
ステップS29において、操舵速度が所定値以上であると判断された場合には、ステップS30に進む。即ち、ドライバがステアリング6を切り戻した(Turn-out)場合に、ステップS30以下の処理が実行される。ステップS30以下の処理では、低減トルク設定工程として、車両1に減速度を付加するために必要なエンジン4の出力トルクの低減量(低減トルク)が、減少トルク設定部20により設定される。
【0061】
まず、ステップS30において、減少トルク設定部20は、操舵速度に基づき目標付加減速度を取得する。この目標付加減速度は、ステアリング6の切り戻し時において、ドライバの意図した車両挙動を正確に実現するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき減速度である。
【0062】
具体的には、減少トルク設定部20は、図8に示す付加減速度マップを使用して、ステップS29において算出した操舵速度に対応する目標付加減速度を取得する。
図8における横軸は操舵速度を示し、縦軸は目標付加減速度を示す。図8に示すように、操舵速度が閾値TS1以下である場合、対応する目標付加減速度は0である。即ち、操舵速度が閾値TS1以下である場合、PCM14は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するための制御を実行しない(低減トルクを設定せずにメインルーチンに復帰する)。
【0063】
一方、操舵速度が閾値TS1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する目標付加減速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど目標付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両1に減速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の減速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値TS1よりも大きい閾値TS2以上の場合には、目標付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
【0064】
次に、ステップS31においては、ステップS30において取得された目標付加減速度を実現するために必要なトルクの低減量である低減トルクが、減少トルク設定部20により設定され、図4に示すフローチャートの1回の処理が終了する。図4のフローチャートの終了後、処理はメインルーチンである図3に示すフローチャートのステップS5に復帰する。図3のステップS5においては、トルク付加量設定処理(図4)において決定した低減トルクが基本トルクから減算され、最終目標トルクが決定され、このトルクが発生するようにエンジン4が制御される(ステップS6)。この基本トルクから低減トルクを減算したトルクが発生するように、エンジン4を制御する工程は、第2のトルク発生工程として作用する。
【0065】
次に、図9を参照して、本発明の第1実施形態による車両制御システムの作用を説明する。
図9は、本実施形態による車両制御システムの作用の一例を示すタイムチャートであり、上段から順に、操舵装置の操舵角[deg]、操舵速度[deg/sec]、基本トルク[N・m]、付加加減速度[m/sec2]、(補正後の)増加/低減トルク[N・m]、点火時期を示している。
【0066】
まず、図9の時刻t10〜t11においては、車両1のドライバは操舵を行っておらず、操舵角は0[deg](中立位置)、操舵速度も0[deg/sec]となっている。また、時刻t10〜t11においては、車両1の運転状態(例えば、アクセルペダルの踏込量)も一定であるため、基本トルク[N・m]も一定値となっている。この状態では、図4に示すフローチャートにおいては、ステップS21→S22→リターンの処理が繰り返されるので、付加加速度や、増加トルク、低減トルクの設定は行われない(付加加速度=0、増加トルク=0、低減トルク=0)。このため、時刻t10〜t11においては、基本トルク(一定値)が最終目標トルク(図3のステップS5)として決定される。また、点火プラグ5cの点火時期は、基本トルクを発生させるための点火時期に設定される。
【0067】
次に、図9の時刻t11において、ドライバが操舵を開始すると、操舵角及び操舵速度(の絶対値)が増加する。操舵速度がTs1以上になると、図4に示すフローチャートにおいては、ステップS21→S23→S24→S25→S26→S28→リターンの処理が繰り返されるので、付加加速度及び増加トルクの設定が行われる。しかしながら、時刻t11からの操舵は切り足し操舵ではないので、ステップS27における切り足し時補正は実行されない。また、増加トルクの増加率が上限値を超えていない場合には、ステップS25で設定された増加トルクが、トルク付加量設定処理の結果として出力される。
【0068】
これにより、時刻t11〜t12においては、設定された付加加速度に対応した増加トルクが設定され、基本トルク(一定値)に増加トルクを加算した最終目標トルクが設定される。また、基本トルクに増加トルクが加算された最終目標トルクを生成するために、図3のステップS6において設定されたアクチュエータ制御量が使用される。具体的には、本実施形態においては、図9の最下段に示すように、点火プラグ5cの点火時期が、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角される。
【0069】
この増加トルクの加算によるトルクの増加は、操舵速度がTs1に到達した後(図4のフローチャートにおいて、ステップS24以下の処理が実行されるようになった後)、約50msec以内に立ち上がり始め、約200〜約250msec程度で最大値に到達する。この増加トルクに基づく後輪2bの駆動トルクの立ち上がりにより、サスペンション3を介して車両1を前傾させる(車両のフロント側を沈み込ませる)力が瞬間的に作用し、操舵輪である前輪2aの荷重が増加する。この瞬間的に立ち上がる前輪2a荷重の増加により、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感が向上する。
【0070】
一方、増加トルクに基づく後輪2bの駆動トルクの増大は、車両1を加速させ、この加速により車両1を後傾させる(車両のリア側を沈み込ませる)力も発生させる。しかしながら、駆動トルクが増大し始めた後、車両1が加速され、この加速が車両1を実質的に後傾させるまでにはある程度のタイムラグがある。このため、車両1の加速に基づく前輪2a荷重の低下は、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感には影響が少ない。
【0071】
なお、図9に示す例において、時刻t12における操舵角が所定の操舵角θ2図6)を超えている場合でも、時刻t11〜t12における操舵は切り足し操舵ではないため、増加トルクの補正が行われることはない。また、図9の例では、時刻t11〜t12において、アクセルペダルの踏み込み等の運転操作が行われていないため、基本トルクの値は一定である(時刻t10〜t11における値から変化していない)。
【0072】
次いで、図9の時刻t12において保舵に移行すると、操舵角がほぼ一定値となる(操舵速度が閾値TS1以下になる)。図9の時刻t12〜t13においては、図4のフローチャートにおいて、ステップS21→S22→リターンの処理が繰り返される。なお、図9に示す例では、時刻t12〜t13において、アクセルペダルの踏み込み等の運転操作が行われていないため、基本トルクの値は一定である(時刻t10〜t11における値から変化していない)。このように、時刻t12〜t13においては、操舵速度がゼロであるため、付加加速度、増加トルクの値もゼロになる。これに伴い、基本トルクを増加トルク分だけ増加させるための点火時期の進角もゼロにされる。
【0073】
さらに、図9の時刻t13においてドライバがステアリング6を再び同一の方向(時刻t11〜t12における切り込みと同一の方向)に切り込むと、PCM14は、この操舵を切り足し操舵であると判断する。切り足し操舵が行われると、図4に示すフローチャートでは、ステップS21→S23→S24→S25→S26→S27→S28→リターンの処理が繰り返される。これにより、付加加速度及び増加トルクの設定が行われる。しかしながら、ステップS26において切り足し操舵であると判定されると、増加トルクの値はステップS27における切り足し時補正により小さくされる(操舵角が所定の操舵角θ2図6)を超えている場合)。このため、図9の時刻t11〜t12における操舵速度と時刻t13〜t14における操舵速度が同一であり、図4のステップS24において同一の付加加速度が設定されていても、時刻t13〜t14における切り足し操舵では増加トルクが小さな値に補正されている。
【0074】
また、補正された増加トルクを基本トルクに加算した最終目標トルクを生成するために、図3のステップS6において設定されたアクチュエータ制御量が使用される。具体的には、図9の最下段に示すように、点火プラグ5cの点火時期が、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角されるが、増加トルクが小さな値に補正されているため、図9の時刻t13〜t14における点火時期の進角は、時刻t11〜t12における進角よりも小さくなる。
【0075】
次いで、図9の時刻t14において保舵に移行すると、操舵速度がゼロであるため、付加加速度、増加トルクの値がゼロにされる。これに伴い、基本トルクを増加トルク分だけ増加させるための点火時期の進角もゼロにされる。
さらに、図9の時刻t15においてドライバがステアリング6の切り戻しを開始すると、操舵角(の絶対値)が減少し始め、図4のフローチャートにおいては、ステップS21→S22→S29→S30→S31→リターンの処理が繰り返されるようになる。この状態においては、操舵角の減少に伴い、ステップS30において付加減速度が設定される。このため、時刻t15〜t16においては、ステップS30において設定された付加減速度を実現するための低減トルクが設定される。また、基本トルクから低減トルクが減算された最終目標トルクを生成するために、図3のステップS6において設定されたアクチュエータ制御量が使用される。具体的には、本実施形態においては、図9の最下段に示すように、点火プラグ5cの点火時期が、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角される。
【0076】
次いで、図9の時刻t16において操舵角が0に戻り保舵される(操舵速度=0)と、図4のフローチャートにおいては、ステップS21→S22→リターンの処理が繰り返されるようになる。操舵速度が0となることにより、付加加速度及び付加減速度の値も0となり、基本トルクの値が最終目標トルクとして決定される。
【0077】
なお、図9に示す例において、基本トルクの値は一定値とされているが、ドライバのアクセルペダル等の操作により基本トルクが変化した場合には、その基本トルクに対して増加トルクが加算され、又は低減トルクが減算される。しかしながら、ドライバによるステアリングホイール6の切り込みから、保舵、切り戻しに至るまでの時間は、一般に比較的短時間(通常は1〜2sec未満)であるため、この間の基本トルクは一定であるとみなすこともできる。
【0078】
本発明の第1実施形態の車両制御方法によれば、車両1に搭載された操舵装置7の操舵角の増加に基づいて、基本トルクを増加させるように、増加トルクが設定され、前輪荷重が増加するので、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。また、操舵装置7の操舵角が大きい場合には、操舵装置の操舵角が小さい場合よりも増加トルクを小さく設定している(図4のステップS27、図6)。これにより、操舵角が大きい領域においても旋回性が過剰となることがなく、操舵角の大きい状態でも車両応答性やリニア感を向上させることができる。
【0079】
また、本実施形態の車両制御方法によれば、操舵装置7の操舵速度が所定値以上の場合に、増加トルクが設定されるので(図5)、ドライバに操舵の意志がない微少な操舵に対して増加トルクが設定され、制御が介入することによりドライバに違和感を与えるのを防止することができる。
【0080】
さらに、本実施形態の車両制御方法によれば、操舵角が大きい場合には、増加トルクの単位時間当たりの増加率の上限値が低く設定されるので(図7)、増加トルクによる急激なトルク増加を抑制することができ、ドライバに違和感を、より与えにくくすることができる。
【0081】
また、本実施形態の車両制御方法によれば、切り足し判定工程(図4のステップS26)において、切り足し操舵が行われたと判定された場合に増加トルクが小さく設定される(ステップS27)ので、車両1の過剰な旋回によりドライバに違和感を与えるのを防止することができる。
【0082】
さらに、本実施形態の車両制御方法によれば、操舵角の増加が検出された(図9の時刻t11)後、ほぼ一定に維持され(時刻t12〜t13)、その後再び操舵角の増加が検出された(時刻t13)場合に、切り足し操舵が行われたと判定されるので、切り足し操舵を確実に判定することができ、ドライバに与える違和感を、より抑制することができる。
【0083】
次に、図10を参照して、本発明の第2実施形態による車両制御システム及び方法を説明する。
本実施形態の車両制御システム及び方法は、第1実施形態における図4のフローチャートのステップS27において使用される操舵角係数(図6)が、第1実施形態とは異なる。従って、ここでは、本発明の第2実施形態の、第1実施形態とは異なる部分のみを説明し、同様の構成、作用、効果については説明を省略する。
【0084】
図10は、本発明の第2実施形態において、操舵装置7の操舵角に応じて増加トルクに乗じる第2操舵角係数の値を示す係数マップである。
【0085】
図10に示すように、第2操舵角係数K2の値は、操舵角=0においてK2=1であり、操舵角(の絶対値)の増大と共に直線的に値が小さくなり、所定の操舵角θ1以上では一定値となる。PCM14の増加トルク設定部18は、操舵角センサ8によって検出された操舵角に基づいて、図10に示す操舵角係数マップを使用して第2操舵角係数K2を決定する。
【0086】
即ち、操舵角=0付近では第2操舵角係数K2の値は約1であり、付加加速度マップ(図5)に基づいて設定された付加加速度を実現するために必要な増加トルクがそのまま使用される。これに対し、操舵角(の絶対値)が大きくなるにつれて第2操舵角係数K2の値が小さくなるので、増加トルクの値は、設定された付加加速度を実現するために必要なトルクよりも小さくなる。本実施形態においては、操舵角が大きい領域で第2操舵角係数K2の値を小さくすることにより、車両1の過剰な旋回を防止している。PCM14の増加トルク設定部18は、決定された第2操舵角係数K2を、図4のステップS25において設定された増加トルクに乗じ、増加トルクの値を補正する。
【0087】
本実施形態によれば、切り足し操舵が行われた場合には、操舵角が小さい領域(操舵角θ1以下)においても第2操舵角係数K2の値が1以下に設定され、増加トルクの値が小さな値に補正されるので、操舵角が小さい領域においても、車両1の過剰な旋回を抑制することができる。
【0088】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態においては、ガソリンエンジンを搭載した車両に本発明を適用していたが、ディーゼルエンジンや、電動機等、種々の原動機を搭載した車両に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 車両
2a 前輪(操舵輪)
2b 後輪(駆動輪)
3 サスペンション
4 エンジン(原動機)
6 ステアリングホイール
7 操舵装置
8 操舵角センサ
10 アクセル開度センサ(運転状態センサ)
12 車速センサ
14 PCM(制御器)
16 基本トルク設定部
18 増加トルク設定部
20 減少トルク設定部
22 エンジン制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10