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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-217997(P2019-217997A)
(43)【公開日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】車両制御システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/182 20120101AFI20191129BHJP
   B60W 30/045 20120101ALI20191129BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20191129BHJP
   B60W 10/20 20060101ALI20191129BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20191129BHJP
【FI】
   B60W30/182
   B60W30/045
   B60W10/00 134
   B60W10/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-118652(P2018-118652)
(22)【出願日】2018年6月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】小川 大策
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 史律
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241AA40
3D241AB01
3D241AD02
3D241AD05
3D241AD10
3D241AD31
3D241AD41
3D241AD47
3D241AD51
3D241AE04
3D241AE05
3D241AE07
3D241AE09
3D241BA17
3D241BA18
3D241BB27
3D241BC01
3D241BC02
3D241BC04
3D241CA02
3D241CA05
3D241CC02
3D241CC03
3D241CC15
3D241CC17
3D241DA03Z
3D241DA13Z
3D241DA18Z
3D241DA23Z
3D241DA39Z
3D241DA52Z
3D241DB02Z
3D241DC45Z
3D241DC47Z
(57)【要約】
【課題】後輪が駆動される車両を制御する場合であっても、ステアリング操作に対する車両の応答性を向上させることができる車両制御システムを提供する。
【解決手段】本発明は、後輪(2b)が駆動される車両(1)を制御する方法であって、アクセルペダルの踏込量に基づいて加速度が設定される第1ペダルモード、又は踏込量に基づいて加速度及び減速度が設定される第2ペダルモードを選択するモード選択工程と、車両の運転状態に基づいて、基本トルクを設定する基本トルク設定工程と、操舵角の増加に基づいて基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定する増加トルク設定工程と、基本トルクに増加トルクを加算したトルクが発生するように、トルク発生工程と、を有し、増加トルク設定工程においては、モード選択工程において第1ペダルモードが選択された場合と、第2ペダルモードが選択された場合で、異なる増加トルクが設定されることを特徴としている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機により後輪が駆動される車両を制御する方法であって、
上記車両のアクセルペダルの踏込量に基づいて上記車両の加速度が設定される第1ペダルモード、又は上記車両のアクセルペダルの踏込量に基づいて上記車両の加速度及び減速度が設定される第2ペダルモードを選択するモード選択工程と、
上記車両の運転状態に基づいて、上記原動機が発生すべき基本トルクを設定する基本トルク設定工程と、
上記車両に搭載された操舵装置の操舵角の増加に基づいて、上記基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定する増加トルク設定工程と、
上記基本トルクに上記増加トルクを加算したトルクが発生するように、上記原動機を制御するトルク発生工程と、
を有し、
上記増加トルク設定工程においては、上記モード選択工程において上記第1ペダルモードが選択された場合と、上記第2ペダルモードが選択された場合で、異なる増加トルクが設定されることを特徴とする車両制御方法。
【請求項2】
上記増加トルク設定工程においては、上記モード選択工程において上記第2ペダルモードが選択されている場合には、上記第1ペダルモードが選択されている場合よりも、上記増加トルクが大きく設定される請求項1記載の車両制御方法。
【請求項3】
上記モード選択工程において上記第2ペダルモードが選択されている場合には、上記増加トルク設定工程において、上記車両のアクセルペダルの踏込量が小さい場合には、踏込量が大きい場合よりも、上記増加トルクが大きく設定される請求項1又は2に記載の車両制御方法。
【請求項4】
上記モード選択工程において上記第2ペダルモードが選択されている場合には、上記増加トルク設定工程において、上記車両のアクセルペダルの踏み込み時の操作速度が大きい場合には、操作速度が小さい場合よりも、上記増加トルクが小さく設定される請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両制御方法。
【請求項5】
上記モード選択工程において上記第2ペダルモードが選択されている場合には、上記増加トルク設定工程において、上記車両のアクセルペダルの踏み戻し時の操作速度が大きい場合には、操作速度が小さい場合よりも、上記増加トルクが大きく設定される請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両制御方法。
【請求項6】
さらに、上記車両に搭載された操舵装置の操舵角の減少に基づいて、上記基本トルクが低減されるように、低減トルクを設定する低減トルク設定工程と、上記基本トルクから上記低減トルクを減算したトルクが発生するように、上記原動機を制御する第2のトルク発生工程と、を有し、上記低減トルク設定工程においては、上記モード選択工程において上記第1ペダルモードが選択された場合と、上記第2ペダルモードが選択された場合で、異なる低減トルクが設定される請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両制御方法。
【請求項7】
上記低減トルク設定工程においては、上記モード選択工程において上記第2ペダルモードが選択されている場合には、上記第1ペダルモードが選択されている場合よりも、上記低減トルクが大きく設定される請求項1記載の車両制御方法。
【請求項8】
原動機により後輪が駆動される車両を制御する車両制御システムであって、
上記車両のアクセルペダルの踏込量に基づいて上記車両の加速度が設定される第1ペダルモード、又は上記車両のアクセルペダルの踏込量に基づいて上記車両の加速度及び減速度が設定される第2ペダルモードを選択するためのモード選択器と、
上記車両の運転状態を検出する運転状態センサと、
上記車両に搭載された操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、
上記運転状態センサの検出信号及び上記操舵角センサの検出信号に基づいて上記原動機を制御する制御器と、を有し、
上記制御器は、
上記運転状態センサの検出信号に基づいて、上記原動機が発生すべき基本トルクを設定し、
上記操舵角センサにより操舵角の増加が検出されると、上記基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定し、
上記基本トルクに上記増加トルクを加算したトルクが発生するように、上記原動機を制御するように構成され、
上記制御器は、上記モード選択器によって上記第1ペダルモードが選択されている場合と、上記第2ペダルモードが選択されている場合で、異なる増加トルクを設定することを特徴とする車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムに関し、特に、原動機により後輪が駆動される車両を制御する車両制御システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第5143103号公報(特許文献1)には、車両の運動制御装置が記載されている。この特許文献1記載の車両の運動制御装置においては、車両における操舵に伴って車両に自動的に減速度を与えることにより、限界運転領域における車両の横滑りを防止して、車両の操縦安定性を向上させている。
【0003】
また、特許第6202478号公報(特許文献2)には、車両用挙動制御装置が記載されている。この特許文献2記載の車両用挙動制御装置においては、車両の操舵速度に基づいて、車両に目標付加減速度を付加するように、車両の駆動力を低減させている。このように、特許文献2記載の車両用挙動制御装置では、操舵速度に応じて車両の駆動力を低減することにより車両前輪の垂直荷重を増大させ、この結果、ドライバのステアリング操作に対する車両挙動の応答性、リニア感を向上させることに成功している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5143103号公報
【特許文献2】特許第6202478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本件発明者が、特許文献1や特許文献2に記載されているような、車両の操舵に伴って車両に減速度を与える制御の、後輪駆動車への適用を試みたところ、特許文献1、2記載の発明において得られている操縦安定性の向上や、車両挙動の応答性、リニア感の向上という効果を得ることはできなかった。
【0006】
即ち、本件発明者は、車両姿勢制御として、特許文献1、2等に記載されているように、車両のステアリング操作に伴って車両に減速度を与える制御を適用した。しかしながら、このような従来から知られている車両姿勢制御を後輪駆動車に適用した場合には、前輪駆動車において得られていたような車両の応答性やリニア感の向上といった効果を得ることはできなかった。この新たに見出された課題を解決するために本件発明者が鋭意研究を進めた結果、後輪駆動車においては、驚くべきことに、ドライバによる操舵に応じて車両の駆動トルクを増加させることにより、車両応答性やリニア感が向上することが明らかとなった。
【0007】
一般に、車両に減速度を付与すると、車両の重心に作用する慣性力により、車両にはフロント側が沈むピッチング運動が発生するため、操舵輪である前輪荷重が増加して、ステアリング操作に対する応答性が向上するものと考えられていた。しかしながら、後輪駆動車においては、後輪の駆動トルクを減じて車両に減速度を付与した際、上記の慣性力の他に、後輪からサスペンションを介して車体を後傾させる(リア側を沈ませる)力が瞬間的に発生する。この瞬間的な力は、前輪荷重を低下させるように作用するため、後輪駆動車においては、ドライバによる操舵に応じて車両に減速度を付与しても、期待通りに車両応答性やリニア感を向上させることができなかったものと考えられる。
【0008】
これとは反対に、後輪駆動車においては、後輪の駆動トルクを増加させることにより、後輪からサスペンションを介して車体を前傾させる(フロント側を沈ませる)力が瞬間的に作用して前輪荷重が増加するため、車両応答性やリニア感が向上するものと考えられる。即ち、後輪駆動車において、後輪の駆動トルクを増加させて加速度を付与すると、車体を後傾させる慣性力と、車体を前傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感に対しては瞬間的な車体を前傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
【0009】
本件発明者は、車両に搭載された操舵装置の操舵角の増加に基づいて、基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定することにより、上記の瞬間的な力により前輪荷重が増加し、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感を向上できることを見出した。
【0010】
一方、単一のペダルの操作により車両の加速及び減速の両方を行うことができる車両が、近年提案されている。ここで、車両の応答性やリニア感を向上させる車両姿勢制御は、発進/加速時にはアクセルペダル、減速/停止時にはブレーキペダルを操作する構成の車両を前提としたものである。このため、車両姿勢制御を、近年提案されている単一のペダルの操作により車両の加速及び減速を行う車両に適用すると、増加トルクを適切に設定できない虞がある。
従って、本発明は、原動機により後輪が駆動される車両を制御する場合であっても、ステアリング操作に対する車両の応答性又はリニア感を向上させることができる車両制御システム及び方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明は、原動機により後輪が駆動される車両を制御する方法であって、車両のアクセルペダルの踏込量に基づいて車両の加速度が設定される第1ペダルモード、又は車両のアクセルペダルの踏込量に基づいて車両の加速度及び減速度が設定される第2ペダルモードを選択するモード選択工程と、車両の運転状態に基づいて、原動機が発生すべき基本トルクを設定する基本トルク設定工程と、車両に搭載された操舵装置の操舵角の増加に基づいて、基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定する増加トルク設定工程と、基本トルクに増加トルクを加算したトルクが発生するように、原動機を制御するトルク発生工程と、を有し、増加トルク設定工程においては、モード選択工程において第1ペダルモードが選択された場合と、第2ペダルモードが選択された場合で、異なる増加トルクが設定されることを特徴としている。
【0012】
このように構成された本発明によれば、第1ペダルモード又は第2ペダルモードを選択するモード選択工程を備え、増加トルク設定工程においては、第1ペダルモードが選択された場合と、第2ペダルモードが選択された場合で、異なる増加トルクが設定される。この結果、車両のアクセルペダルの踏込量に基づいて車両の加速度が設定される第1ペダルモード、及び車両のアクセルペダルの踏込量に基づいて車両の加速度及び減速度が設定される第2ペダルモードの何れにおいても、適切に増加トルクを設定することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、増加トルク設定工程においては、モード選択工程において第2ペダルモードが選択されている場合には、第1ペダルモードが選択されている場合よりも、増加トルクが大きく設定される。
【0014】
まず、第1ペダルモードにおいてはアクセルペダルの可動域のほぼ全域が車両の加速に割り当てられているのに対し、第2ペダルモードにおいては、ペダルの 踏込量が小さい領域は車両の減速に割り当てられ、 踏込量が所定量以上の領域が加速に割り当てられている。このため、アクセルペダルを同じ量だけ踏み込んだ状態では、第2ペダルモードの方が第1ペダルモードよりも車両に与えられる加速度が小さくなる。これにより、第2ペダルモードの場合には、第1ペダルモードの場合よりも操舵輪である前輪に作用する荷重が相対的に大きくなり、前輪を支持するサスペンションが圧縮され、剛性の高い状態となる。この結果、第2ペダルモードの場合には、第1ペダルモードの場合よりも増加トルクを加えることによる車両応答性やリニア感の改善効果が少なくなる。
【0015】
上記のように構成された本発明においては、モード選択工程において第2ペダルモードが選択されている場合には、第1ペダルモードの場合よりも、増加トルクが大きく設定されるので、第2ペダルモードにおいても、増加トルクの付加により十分な車両応答性やリニア感の改善効果を得ることができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、モード選択工程において第2ペダルモードが選択されている場合には、増加トルク設定工程において、車両のアクセルペダルの踏込量が小さい場合には、踏込量が大きい場合よりも、増加トルクが大きく設定される。
【0017】
車両のアクセルペダルの踏込量が小さい場合には、踏込量が大きい場合に比べ、車両の加速度が小さくなる。このため、アクセルペダルの踏込量が小さい場合には前輪に作用する荷重が相対的に大きくなり、前輪を支持するサスペンションが圧縮され、剛性の高い状態となる。この結果、アクセルペダルの踏込量が小さい場合には、増加トルクを加えることによる車両応答性やリニア感の改善効果が少なくなる。
【0018】
上記のように構成された本発明においては、車両のアクセルペダルの踏込量が小さい場合には、踏込量が大きい場合よりも、増加トルクが大きく設定されるので、踏込量が小さい領域においても車両応答性やリニア感を十分に向上させることができる。
【0019】
本発明において、好ましくは、モード選択工程において第2ペダルモードが選択されている場合には、増加トルク設定工程において、車両のアクセルペダルの踏み込み時の操作速度が大きい場合には、操作速度が小さい場合よりも、増加トルクが小さく設定される。
【0020】
車両のアクセルペダルを大きな操作速度で踏み込んだ場合、小さな操作速度で踏み込んだ場合よりも車両に与えられる加速度が大きくなる。このため、アクセルペダルを大きな操作速度で踏み込んだ場合には前輪に作用する荷重が相対的に小さくなり、前輪を支持するサスペンションは伸長され、剛性の低い状態となる。この結果、アクセルペダルを大きな操作速度で踏み込んだ場合には、増加トルクを加えることによる車両応答性やリニア感の改善効果が大きくなる。
【0021】
上記のように構成された本発明においては、アクセルペダルの踏み込み時の操作速度が大きい場合には、操作速度が小さい場合よりも、増加トルクが小さく設定されるので、車両の旋回性が過大になるのを防止することができる。
【0022】
本発明において、好ましくは、モード選択工程において第2ペダルモードが選択されている場合には、増加トルク設定工程において、車両のアクセルペダルの踏み戻し時の操作速度が大きい場合には、操作速度が小さい場合よりも、増加トルクが大きく設定される。
【0023】
車両のアクセルペダルを大きな操作速度で踏み戻した場合、小さな操作速度で踏み戻した場合よりも車両に与えられる減速度が大きくなる。このため、アクセルペダルを大きな操作速度で踏み戻した場合には前輪に作用する荷重が相対的に大きくなり、前輪を支持するサスペンションが圧縮され、剛性の高い状態となる。この結果、アクセルペダルを大きな操作速度で踏み戻した場合には、増加トルクを加えることによる車両応答性やリニア感の改善効果が少なくなる。
【0024】
上記のように構成された本発明においては、アクセルペダルの踏み戻し時の操作速度が大きい場合には、操作速度が小さい場合よりも、増加トルクが大きく設定されるので、踏み戻し時の操作速度が大きい場合にも車両応答性やリニア感を十分に向上させることができる。
【0025】
本発明において、好ましくは、さらに、車両に搭載された操舵装置の操舵角の減少に基づいて、基本トルクが低減されるように、低減トルクを設定する低減トルク設定工程と、基本トルクから低減トルクを減算したトルクが発生するように、原動機を制御する第2のトルク発生工程と、を有し、低減トルク設定工程においては、モード選択工程において第1ペダルモードが選択された場合と、第2ペダルモードが選択された場合で、異なる低減トルクが設定される。
【0026】
このように構成された本発明においては、低減トルク設定工程により、車両に搭載された操舵装置の操舵角の減少に基づいて、基本トルクが低減されるように、低減トルクが設定される。後輪駆動車においては、後輪の駆動トルクを低減させることにより、後輪からサスペンションを介して車体を後傾させる(リア側を沈ませる)力が瞬間的に作用して前輪荷重が低下する。このように、ステアリングの切り戻し時(操舵角の減少時)において操舵輪の荷重を低下させると、車両は旋回状態から直進状態へ円滑に移行することが可能となり、ステアリングの切り戻しに対する車両応答性を向上させることができる。
【0027】
しかしながら、車両姿勢制御を、単一のペダルの操作により車両の加速及び減速を行う車両に適用すると、増加トルクを適切に設定できない虞がある。低減トルク設定工程においては、第1ペダルモードが選択された場合と、第2ペダルモードが選択された場合で、異なる低減トルクが設定される。この結果、車両のアクセルペダルの踏込量に基づいて車両の加速度が設定される第1ペダルモード、及び車両のアクセルペダルの踏込量に基づいて車両の加速度及び減速度が設定される第2ペダルモードの何れにおいても、適切に低減トルクを設定することができる。
【0028】
本発明において、好ましくは、低減トルク設定工程においては、モード選択工程において第2ペダルモードが選択されている場合には、第1ペダルモードが選択されている場合よりも、低減トルクが大きく設定される。
【0029】
上記のように、アクセルペダルを同じ量だけ踏み込んだ状態では、第2ペダルモードの方が第1ペダルモードよりも車両に与えられる加速度が小さくなる。これにより、第2ペダルモードの場合には、第1ペダルモードの場合よりも操舵輪である前輪に作用する荷重が相対的に大きくなり、前輪を支持するサスペンションが圧縮され、剛性の高い状態となる。この結果、第2ペダルモードの場合には、第1ペダルモードの場合よりも低減トルクを加えることによる車両応答性やリニア感の改善効果が少なくなる。
【0030】
上記のように構成された本発明においては、モード選択工程において第2ペダルモードが選択されている場合には、第1ペダルモードの場合よりも、低減トルクが大きく設定されるので、第2ペダルモードにおいても、低減トルクの付加により十分な車両応答性やリニア感の改善効果を得ることができる。
【0031】
また、本発明は、原動機により後輪が駆動される車両を制御する車両制御システムであって、車両のアクセルペダルの踏込量に基づいて車両の加速度が設定される第1ペダルモード、又は車両のアクセルペダルの踏込量に基づいて車両の加速度及び減速度が設定される第2ペダルモードを選択するためのモード選択器と、車両の運転状態を検出する運転状態センサと、車両に搭載された操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、運転状態センサの検出信号及び操舵角センサの検出信号に基づいて原動機を制御する制御器と、を有し、制御器は、運転状態センサの検出信号に基づいて、原動機が発生すべき基本トルクを設定し、操舵角センサにより操舵角の増加が検出されると、基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定し、基本トルクに増加トルクを加算したトルクが発生するように、原動機を制御するように構成され、制御器は、モード選択器によって第1ペダルモードが選択されている場合と、第2ペダルモードが選択されている場合で、異なる増加トルクを設定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0032】
本発明の車両制御システム及び方法によれば、原動機により後輪が駆動される車両を制御する場合であっても、ステアリング操作に対する車両の応答性又はリニア感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施形態による車両制御システムを搭載した車両の全体構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態による車両制御システムの電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態による車両制御システムに備えられたPCMがエンジンを制御するエンジン制御処理のフローチャートである。
図4】本発明の実施形態においてPCMが増加トルクを決定するトルク付加量設定処理のフローチャートである。
図5】本発明の実施形態においてPCMが決定する目標付加加速度と操舵速度との関係を示したマップである。
図6】本発明の実施形態において、通常ペダルモード及び単一ペダルモードにおけるアクセルペダル踏込量と、目標加速度、目標減速度の関係を示す図である。
図7】本発明の実施形態において、ペダル踏込量係数と、アクセルペダルの踏込量との関係を示す図である。
図8】本発明の実施形態において、ペダル踏込速度係数と、アクセルペダルの踏み込み速度との関係を示す図である。
図9】本発明の実施形態において、ペダル踏戻速度係数と、アクセルペダルの踏み戻し速度との関係を示す図である。
図10】本発明の実施形態においてPCMが決定する目標付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
図11】本発明の実施形態による車両制御システムの作用の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
まず、図1を参照して、本発明の実施形態による車両制御システムを搭載した車両について説明する。図1は、本発明の実施形態による車両制御システムを搭載した車両の全体構成を示すブロック図である。
【0035】
図1において、符号1は、本実施形態による車両制御システムを搭載した車両を示す。
車両1の車体前部には操舵輪である左右の前輪2aが設けられ、車体後部には駆動輪である左右の後輪2bが設けられている。これら車両1の前輪2a、後輪2bは、車体に対してサスペンション3により夫々支持されている。また、車両1の車体前部には、後輪2bを駆動する原動機であるエンジン4が搭載されている。本実施形態においては、エンジン4は、ガソリンエンジンであるが、原動機としてディーゼルエンジンなどの内燃エンジンや、電力により駆動されるモータを使用することもできる。また、本実施形態において、車両1は、車体前部に搭載されたエンジン4により、トランスミッション4a、プロペラシャフト4b、ディファレンシャルギア4cを介して後輪2bが駆動される所謂FR車であるが、車体後部に搭載されたエンジン4により後輪2bを駆動する所謂RR車等、原動機により後輪が駆動される任意の車両に本発明を適用することができる。
【0036】
また、車両1には、ステアリングホイール6の回転操作に基づいて前輪2aを操舵する操舵装置7が搭載されている。さらに、車両1は、ステアリングホイール6の回転角度を検出する操舵角センサ8、アクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検出する運転状態センサであるアクセル開度センサ10、及び、車速を検出する車速センサ12を有する。これらの各センサは、それぞれの検出値を制御器であるPCM(Power-train Control Module)14に出力する。本発明の実施形態による車両制御システムは、これらの操舵角センサ8、アクセル開度センサ10、車速センサ12、及びPCM14から構成されている。
【0037】
さらに、車両1には、後輪2bを駆動する機能(つまり原動機としての機能)と、後輪2bにより駆動されて回生発電を行う機能(つまり発電機としての機能)と、を有するモータジェネレータ9aが、原動機として搭載されている。モータジェネレータ9aは、トランスミッション4aを介して後輪2bとの間で力が伝達され、また、インバータ9bを介してPCM14により制御される。さらに、モータジェネレータ9aは、バッテリ9cに接続されており、駆動力を発生するときにはバッテリ9cから電力が供給され、回生したときにはバッテリ9cに電力を供給してバッテリ9cを充電する。
【0038】
さらに、本実施形態においては、車両1のアクセルペダルは、その踏込量に基づいて車両1の加速度が設定される第1ペダルモードである通常ペダルモード、又は踏込量に基づいて車両1の加速度及び減速度の両方が設定される第2ペダルモードである単一ペダルモードが選択できるように構成されている。車両1には、これらの通常ペダルモード又は単一ペダルモードを選択するためのモード選択器13が設けられている。
【0039】
次に、図2を参照して、本発明の実施形態による車両制御システムの電気的構成を説明する。図2は、本発明の実施形態による車両制御システムの電気的構成を示すブロック図である。
【0040】
PCM14は、上述したセンサ8〜12の検出信号の他、エンジン4の運転状態を検出する各種センサが出力した検出信号に基づいて、エンジン4の各部(例えば、スロットルバルブ5a、インジェクタ5b、点火プラグ5c、可変動弁機構5d等)や、モータジェネレータ9aに対する制御を行うべく、制御信号を出力するように構成されている。また、PCM14には、モード選択器13により通常ペダルモード又は単一ペダルモードの何れが選択されているかを示す信号が入力される。
【0041】
PCM14は、基本トルク設定部16と、増加トルク設定部18と、減少トルク設定部20と、エンジン制御部22とを有する。基本トルク設定部16は、運転状態センサであるアクセル開度センサ10等の検出信号に基づいて、エンジン4が発生すべき基本トルクを設定するように構成されている。増加トルク設定部18は、操舵角センサ8により操舵角の増加が検出されると、基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定するように構成されている。減少トルク設定部20は、操舵角センサ8により操舵角の減少が検出されると、基本トルクが低減されるように、低減トルクを設定するように構成されている。エンジン制御部22は、基本トルクに増加トルクを加算したトルク、又は低減トルクを減算したトルクが発生するように、エンジン4を制御するように構成されている。
【0042】
これらのPCM14の各構成要素は、CPU、当該CPU上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
【0043】
なお、図2には図示していないが、アクセル開度センサ10、車速センサ12の他、運転状態センサとしてブレーキセンサ、エンジン回転数センサ等を備えていてもよい。また、エンジン制御部22は、エンジン4に備えられた燃料噴射弁、点火プラグ、吸気スロットル弁、吸気可変動弁機構(以上、図示せず)等を制御してエンジン4が発生するトルクを制御するように構成されている。
【0044】
次に、図3乃至図9を参照して、車両制御システムが実行する本発明の実施形態による車両制御方法を説明する。
図3は、本発明の実施形態による車両制御システムに備えられたPCM14がエンジン4を制御するエンジン制御処理のフローチャートである。
【0045】
図3のエンジン制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、車両制御システムに電源が投入された場合に起動され、繰り返し実行される。
エンジン制御処理が開始されると、図3に示すように、ステップS1において、PCM14は車両1の運転状態に関する各種センサ信号を読み込んで取得する。具体的には、PCM14は、操舵角センサ8が検出した操舵角、アクセル開度センサ10が検出したアクセル開度、車速センサ12が検出した車速、車両1の変速機に現在設定されているギヤ段等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。また、PCM14は、モード選択器13による通常ペダルモード又は単一ペダルモードの選択状態に関する情報を取得する。
【0046】
次に、ステップS2において、PCM14の基本トルク設定部16は、ステップS1において取得されたアクセルペダルの操作や車速を含む車両1の運転状態に基づき、目標加減速度を設定する。具体的には、基本トルク設定部16は、種々の車速、種々のギヤ段、及びアクセルペダルのモードについて規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速、ギヤ段及びアクセルペダルのモードに対応する加減速度特性マップを選択し、選択した加減速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加減速度を決定する。
【0047】
次に、ステップS3において、基本トルク設定部16は、ステップS2において決定した目標加減速度を実現するために原動機が発生又は回生すべき基本トルク(即ち、エンジン4が発生するトルク、及びモータジェネレータ9aが発生又は回生するトルク)を決定する。即ち、基本トルク設定部16は、基本トルク設定工程として、車両1の運転状態に基づいて原動機であるエンジン4及びモータジェネレータ9aが発生又は回生すべき基本トルクを設定する。この場合、基本トルク設定部16は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジン4及びモータジェネレータ9aが出力(又は回生)可能なトルクの範囲内で、基本トルクを決定する。
【0048】
一方、ステップS2及びS3の処理と並行して、ステップS4において、増加トルク設定部18及び減少トルク設定部20は、ステアリング操作に基づき車両1に加速度又は減速度を付加するためのトルクを決定するトルク付加量設定処理を実行する。即ち、ステップS4においては、操舵装置7の操舵角の増加に基づいて、基本トルクを増加させるように増加トルクを設定する増加トルク設定工程、又は、操舵装置の操舵角の減少に基づいて、基本トルクが低減されるように、低減トルクを設定する低減トルク設定工程が実行される。このトルク付加量設定処理については、図4を参照して後述する。
【0049】
ステップS2及びS3の処理及びステップS4のトルク付加量設定処理を行った後、ステップS5において、ステップS3において決定した基本トルクに、ステップS4のトルク付加量設定処理において決定した増加トルク又は低減トルクを加算又は減算することにより、最終目標トルクが決定される。ここで、基本トルクが、アクセルペダルの操作等、ドライバの運転操作に応じて設定されるトルクであるのに対し、増加トルク、低減トルクは、車両1がドライバの意図により近い挙動を示すようにPCM14により自動的に付加又は低減されるトルクである。
【0050】
次いで、ステップS6において、PCM14は、ステップS5において設定した最終目標トルクを実現するためのアクチュエータ制御量を設定する。具体的には、PCM14は、ステップS5において設定した最終目標トルクに基づき、最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量を決定し、それらの状態量に基づき、エンジン4の各構成要素及びモータジェネレータ9aを駆動する各アクチュエータの制御量を設定する。この場合、PCM14は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するような各アクチュエータの制御量を設定する。
【0051】
続いて、ステップS7において、PCM14は、ステップS6において設定した制御量に基づき各アクチュエータへ制御指令を出力する。
例えば、エンジン4がガソリンエンジンである場合、PCM14は、ステップS5において基本トルクに増加トルクを加算することにより最終目標トルクが設定された場合、点火プラグ5cの点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角させる。また、点火時期の進角に代えて、あるいはそれと共に、PCM14は、スロットル開度を大きくしたり、下死点後に設定されている吸気弁の閉時期を進角させたりすることによって、吸入空気量を増加させる。この場合、PCM14は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、インジェクタ5bによる燃料噴射量を増加させる。
【0052】
他方で、ステップS5において基本トルクから低減トルクを減算することにより最終目標トルクが設定された場合、PCM14は、点火プラグ5cの点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角させる(リタードする)。また、点火時期の遅角に代えて、あるいはそれと共に、PCM14は、スロットル開度を小さくしたり、下死点後に設定されている吸気弁の閉時期を遅角させたりすることによって、吸入空気量を減少させる。この場合、PCM14は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、インジェクタ5bによる燃料噴射量を減少させる。
【0053】
また、エンジン4がディーゼルエンジンである場合、PCM14は、ステップS5において基本トルクに増加トルクを加算することにより最終目標トルクが設定された場合、インジェクタ5bによる燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも増加させる。他方で、ステップS5において基本トルクから低減トルクを減算することにより最終目標トルクが設定された場合、PCM14は、インジェクタ5bによる燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも減少させる。
【0054】
また、PCM14は、エンジン4の制御に代えて、あるいはそれと共に、ステップS5において設定した最終目標トルクを実現するためにモータジェネレータ9aを制御する。具体的には、PCM14は、ステップS5において基本トルクに増加トルクを加算することにより最終目標トルクが設定された場合、モータジェネレータ9aが発生するトルクを増加させるように、インバータ指令値(制御信号)を設定し、インバータ9bに出力する。他方で、ステップS5において基本トルクが負値である場合、又は基本トルクから低減トルクを減算することにより設定された最終目標トルクが負値である場合、PCM14は、モータジェネレータ9aにより回生発電を行わせることで回生トルクが発生するように、インバータ指令値(制御信号)を設定し、インバータ9bに出力する。
ステップS7の後、PCM14は、図3に示すフローチャートによる1回のエンジン制御処理を終了する。
【0055】
次に、図4乃至図9を参照して、図3のステップS4において実行されるトルク付加量設定処理を説明する。
図4は、本発明の実施形態においてPCM14が増加トルクを決定するトルク付加量設定処理のフローチャートであり、図5は、本発明の実施形態においてPCM14が決定する目標付加加速度と操舵速度との関係を示したマップである。図6は、通常ペダルモード及び単一ペダルモードにおけるアクセルペダル踏込量と、目標加速度、目標減速度の関係を示す図である。図7は、ペダル踏込量係数K2と、アクセルペダルの踏込量との関係を示す図である。図8は、ペダル踏込速度係数K3と、アクセルペダルの踏み込み速度との関係を示す図である。図9は、ペダル踏戻速度係数K4と、アクセルペダルの踏み戻し速度との関係を示す図である。
【0056】
図4に示すトルク付加量設定処理が開始されると、ステップS21において、図3に示すフローチャートのステップS1において取得した操舵装置7の操舵角が増加しているか否かがPCM14により判断される。即ち、操舵角(の絶対値)は、車両1が直進する状態をゼロとし、ステアリングホイール6が時計回り又は反時計回りに回転されると増加する。なお、本実施形態においては、操舵装置7を構成するステアリングシャフトに設けられた操舵角センサ8により操舵角を検出しているが、前輪2a(操舵輪)の角度を検出するセンサ等、任意のセンサにより操舵角を検出することができる。
【0057】
ステップS21において、操舵角(の絶対値)が増加していないと判断された場合にはステップS22に進み、ここでは、操舵角(の絶対値)が減少しているか否かが判断される。即ち、ステップS22においては、ステアリングホイール6の回転角が操舵角=0の状態に近づいているか否かが判断される。ステップS22において、操舵角が減少していない場合には、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了し、図3に示すメインルーチンに処理が復帰する。即ち、ドライバにより操舵操作が行われていない(操舵速度=0)場合には、増加トルク又は低減トルクが設定されることはなく、図3のステップS3において設定された基本トルクが最終目標トルクに決定される。
【0058】
一方、ステップS21において操舵角が増加していると判断された場合にはステップS23に進み、ステップS23においては、操舵速度が所定値以上か否かが判断される。即ち、PCM14は、図3のステップS1において取得した操舵角に基づき操舵速度を算出し、その値が所定の閾値TS1以上であるか否かを判断する。操舵速度が所定の閾値TS1以上でない場合には、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了し、図3に示すメインルーチンに処理が復帰する。即ち、操舵速度が極めて小さい場合には、ドライバには操舵を行う意志がないと考えられるため、増加トルク設定部18による増加トルクの設定は実行されない。これにより、ドライバには操舵を行う意志がない状態で、不要なトルク付加量設定処理が介入するのを防止することができる。
【0059】
ステップS23において、操舵速度が所定値以上であると判断された場合には、ステップS24に進む。即ち、ドライバがステアリング6を切り込んだ(Turn-in)場合に、ステップS24以下の処理が実行される。ステップS24以下の処理では、増加トルク設定工程として、車両1に加速度を付加するために必要なエンジン4の出力トルクの増加量(増加トルク)が、増加トルク設定部18により設定される。
【0060】
まず、ステップS24において、増加トルク設定部18は、操舵速度に基づき目標付加加速度を取得する。この目標付加加速度は、ドライバの意図した車両挙動を正確に実現するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき加速度である。
【0061】
具体的には、増加トルク設定部18は、図5のマップに示した目標付加加速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS23において算出した操舵速度に対応する目標付加加速度を取得する。
図5における横軸は操舵速度を示し、縦軸は目標付加加速度を示す。図5に示すように、操舵速度が閾値TS1以下である場合、対応する目標付加加速度は0である。即ち、操舵速度が閾値TS1以下である場合、PCM14は、ステアリング操作に基づき車両1に加速度を付加するための制御を実行しない(増加トルクを設定せずにメインルーチンに復帰する)。
【0062】
一方、操舵速度が閾値TS1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する目標付加加速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど目標付加加速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両1に加速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の加速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値TS1よりも大きい閾値TS2以上の場合には、目標付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
【0063】
次に、ステップS25においては、ステップS24において取得された目標付加加速度を実現するために必要なトルクの増加量である増加トルクが、増加トルク設定部18により設定される。
【0064】
次いで、ステップS26においては、モード選択工程として、車両1に設けられたモード選択器13が単一ペダルモードに設定されているか否かが判断される。単一ペダルモードに設定されている場合にはステップS27に進み、通常ペダルモードに設定されている場合には、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了し、処理はメインルーチンに復帰する。即ち、モード選択器13が通常ペダルモードに設定されている場合には、ステップS25において設定された増加トルクが補正されることはなく、図3のステップS5において基本トルクに加算され、最終目標トルクが算出される。
【0065】
一方、ステップS27においては、ステップS25において設定された増加トルクが補正される。即ち、ステップS27においては、ステップS25において設定された増加トルクに、単一ペダルモード係数K1、ペダル踏込量係数K2、ペダル踏込速度係数K3、及びペダル踏戻速度係数K4を乗じることにより、増加トルクが補正される。
【0066】
ここで、図6を参照して、各ペダルモードにおけるアクセルペダル踏込量と、目標加速度、目標減速度の関係を説明する。
図6に示すように、まず、車両1に備えられているアクセルペダルは、踏込量0[mm]から最大ストロークS[mm]まで踏み込むことが可能である。モード選択器13が通常ペダルモードに設定されている場合には、図6の実線に示すように、全ストロークのうち踏込量=0[mm]付近のごく一部の領域で微少な目標減速度が設定される。それよりも大きい踏込量の領域では、踏込量が増大すると共に目標加速度が直線的に増大し、踏込量=S[mm]において最大の目標加速度が設定されるようになっている。このように、通常ペダルモードにおいては、アクセルペダルのほぼ全域が目標加速度の設定に割り当てられているので、アクセルペダルでは加速度のみを設定することが可能であり、実質的に減速度を設定することはできない。
【0067】
これに対して、モード選択器13が単一ペダルモードに設定されている場合には、図6の一点鎖線に示すように、踏込量=0[mm]において最大の目標減速度が設定される。さらに、踏込量が増大すると共に直線的に目標減速度が小さくなり、踏込量=S1[mm]において加減速度ゼロとなる(加速度も減速度も設定されない)。また、踏込量=S1[mm]よりも踏込量が大きくなると、踏込量が増大すると共に直線的に目標加速度が増大し、踏込量=S[mm]において最大の目標加速度が設定される。このように、本実施形態において、単一ペダルモードでは、全ストロークのうち、踏込量=0〜S1[mm]の約1/4の領域が目標減速度の設定に割り当てられ、残りの踏込量=S1〜S[mm]の領域が目標加速度の設定に割り当てられている。このため、例えば、踏込量が図6のS2[mm]である場合、単一ペダルモードにおいて設定される目標加速度は、通常ペダルモードにおいて設定される目標加速度よりも小さくなる。
【0068】
このように、通常ペダルモードと単一ペダルモードを比較した場合、単一ペダルモードでは、同一の踏込量に対して設定される目標加速度が小さくなり、車両1に与えられる加速度が小さくなる。ここで、車両1に与えられる加速度が大きくなると、車両1に働く慣性力により車両後部が沈み込み、操舵輪である前輪2aを支持するサスペンション3は伸長した状態となる。逆に、加速度が小さい場合には、車両後部の沈み込みは小さくなり、前輪2aを支持するサスペンション3は、相対的に圧縮された状態となる。従って、同一の踏込量に対して加速度が小さくなる単一ペダルモードにおいては、相対的に前輪2a作用する荷重が大きく、そのサスペンション3は圧縮された状態となる。サスペンション3が圧縮された状態では、増加トルクを加えることによって生じる車両1前部の沈み込みが小さくなり、増加トルクにより車両1の応答性やリニア感を改善する効果が低くなる。このように、単一ペダルモードにおいては、同一の増加トルクに対して車両1の応答性やリニア感の改善効果が低下する。
【0069】
このような改善効果の低下を補正するために、上述した単一ペダルモード係数K1は、1よりも大きい所定の数値に設定されている。このため、第2ペダルモードである単一ペダルモードが選択されている場合には、第1ペダルモードである通常ペダルモードが選択されている場合よりも、同一のアクセルペダル踏込量に対して、増加トルクが大きく設定される。これにより、単一ペダルモードにおいても、通常ペダルモードと同程度の車両1の応答性やリニア感の改善効果を得ることができる。
【0070】
次に、図7を参照して、ペダル踏込量係数K2を説明する。図7に示すように、ペダル踏込量係数K2は、踏込量の減少と共に値が大きくなるように設定されている。即ち、アクセルペダルの踏込量が小さい場合には、目標加速度が小さく設定され、車両1の加速度が小さくなる。上述したように、車両1の加速度が大きい状態では、車両1に働く慣性力により後輪の荷重が大きくなり、前輪の荷重が小さくなる。これに対して、アクセルペダルの踏込量が小さく、加速度が小さい場合には、相対的に前輪の荷重が大きくなり、前輪のサスペンション3が圧縮された状態となる。このため、加速度が小さい状態では、同一の増加トルクに対して、車両1の応答性やリニア感の改善効果が低くなる。このような改善効果の低下を補正するために、ペダル踏込量係数K2は、踏込量の減少と共に値が大きくなるように設定されており、応答性やリニア感の改善効果の低下を抑制している。
【0071】
次に、図8を参照して、ペダル踏込速度係数K3を説明する。ペダル踏込速度係数K3は、アクセルペダルの踏み込み時(踏込量が大きくなっている時)に設定される係数である。従って、踏込速度がゼロの場合や、アクセルペダルが踏み戻されている(踏込量が小さくなっている)場合には、ペダル踏込速度係数K3=1に設定される。図8に示すように、ペダル踏込速度係数K3は、ペダル踏込時における操作速度(ペダルの踏込速度[mm/sec])の増加と共に値が小さくなるように設定されている。即ち、アクセルペダルの踏込速度が大きい場合には、車両1が急激に加速され加速度が大きくなる。上述したように、車両1の加速度が大きい状態では、車両1に働く慣性力により後輪の荷重が大きくなり、前輪の荷重が小さくなる。これにより、アクセルペダルの踏込速度が大きい場合には、前輪のサスペンション3が伸長された状態となる。このため、アクセルペダルの踏込速度が大きい場合には、同一の増加トルクに対して、車両1の応答性が過剰になる虞がある。このような過剰な応答性の向上を補正するために、ペダル踏込速度係数K3は、ペダルの踏込速度の増大と共に値が小さくなるように設定されている。
【0072】
次に、図9を参照して、ペダル踏戻速度係数K4を説明する。ペダル踏戻速度係数K4は、アクセルペダルの踏み戻し時(踏込量が小さくなっている時)に設定される係数である。従って、踏込速度がゼロの場合や、アクセルペダルが踏み込まれている(踏込量が大きくなっている)場合には、ペダル踏戻速度係数K4=1に設定される。図9に示すように、ペダル踏戻速度係数K4は、ペダル踏み戻し時における操作速度(ペダルの踏戻速度[mm/sec])の増加と共に値が大きくなるように設定されている。即ち、アクセルペダルの踏戻速度が大きい場合には、車両1が急激に減速され減速度が大きくなる。車両1の減速度が大きい状態では、車両1に働く慣性力により前輪の荷重が大きくなる。これにより、アクセルペダルの踏戻速度が大きい場合には、前輪のサスペンション3が圧縮された状態となる。このため、アクセルペダルの踏戻速度が大きい場合には、同一の増加トルクに対して、車両1の応答性やリニア感の改善効果が低くなる。この応答性やリニア感の改善効果の低下を補正するために、ペダル踏戻速度係数K4は、ペダルの踏戻速度の増大と共に値が大きくなるように設定されている。
【0073】
図4のステップS27において、PCM14の増加トルク設定部18は、以上のようにして決定された単一ペダルモード係数K1、ペダル踏込量係数K2、ペダル踏込速度係数K3、及びペダル踏戻速度係数K4を、ステップS25において設定された増加トルクに乗じて、増加トルクを補正する。ステップS27の処理が終了すると、図4に示すフローチャートの1回の処理が終了する。図4のフローチャートの終了後、処理はメインルーチンである図3に示すフローチャートのステップS5に復帰する。図3のステップS5においては、上述したように、トルク付加量設定処理(図4)において決定した増加トルクが基本トルクに加算され、最終目標トルクが決定され、このトルクが発生するようにエンジンが制御される(ステップS6)。
【0074】
一方、図4のステップS22において操舵角が減少していると判断された場合には、ステップS28に進み、ステップS28においては、操舵速度が所定値以上か否かが判断される。即ち、PCM14は、操舵速度が所定の閾値TS1以上であるか否かを判断する。操舵速度が所定の閾値TS1以上でない場合には、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了し、図3に示すメインルーチンに処理が復帰する。
【0075】
ステップS28において、操舵速度が所定値以上であると判断された場合には、ステップS29に進む。即ち、ドライバがステアリング6を切り戻した(Turn-out)場合に、ステップS29以下の処理が実行される。ステップS29以下の処理では、低減トルク設定工程として、車両1に減速度を付加するために必要なエンジン4の出力トルクの低減量(低減トルク)が、減少トルク設定部20により設定される。
【0076】
まず、ステップS29において、減少トルク設定部20は、操舵速度に基づき目標付加減速度を取得する。この目標付加減速度は、ステアリング6の切り戻し時において、ドライバの意図した車両挙動を正確に実現するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき減速度である。
【0077】
具体的には、減少トルク設定部20は、図10に示す付加減速度マップを使用して、ステップS28において算出した操舵速度に対応する目標付加減速度を取得する。
図10における横軸は操舵速度を示し、縦軸は目標付加減速度を示す。図10に示すように、操舵速度が閾値TS1以下である場合、対応する目標付加減速度は0である。即ち、操舵速度が閾値TS1以下である場合、PCM14は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するための制御を実行しない(低減トルクを設定せずにメインルーチンに復帰する)。
【0078】
一方、操舵速度が閾値TS1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する目標付加減速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど目標付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両1に減速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の減速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値TS1よりも大きい閾値TS2以上の場合には、目標付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
【0079】
次に、ステップS30においては、ステップS29において取得された目標付加減速度を実現するために必要なトルクの低減量である低減トルクが、減少トルク設定部20により設定される。
【0080】
次いで、ステップS31においては、モード選択工程として、車両1に設けられたモード選択器13が単一ペダルモードに設定されているか否かが判断される。単一ペダルモードに設定されている場合にはステップS32に進み、通常ペダルモードに設定されている場合には、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了し、処理はメインルーチンに復帰する。即ち、モード選択器13が通常ペダルモードに設定されている場合には、ステップS30において設定された低減トルクが補正されることはなく、図3のステップS5において基本トルクから減算され、最終目標トルクが算出される。
【0081】
次いで、ステップS32においては、ステップS30において設定された低減トルクに、単一ペダルモード係数K1、ペダル踏込量係数K2、ペダル踏込速度係数K3、及びペダル踏戻速度係数K4を乗じることにより、低減トルクが補正される。ステップS32における、これら単一ペダルモード係数K1、ペダル踏込量係数K2、ペダル踏込速度係数K3、及びペダル踏戻速度係数K4の設定は、上述したステップS27における各係数の設定と同一であるため説明を省略する。低減トルクに対し、このような補正が行われるため、低減トルク設定工程においても、モード選択器13により通常ペダルモードが選択された場合と、単一ペダルモードが選択された場合で、異なる低減トルクが設定される。また、単一ペダルモード係数K1が1よりも大きい値に設定されているため、単一ペダルモードが選択されている場合には、通常ペダルモードが選択されている場合よりも、低減トルクが大きく設定される。
【0082】
なお、単一ペダルモード係数K1、ペダル踏込量係数K2、ペダル踏込速度係数K3、及びペダル踏戻速度係数K4の具体的な値については、ステップS27においてステアリングの切り込み時に適用される値と、ステップS32においてステアリングの切り戻し時に適用される値で異なる値を使用することもできる。
【0083】
即ち、PCM14の減少トルク設定部20は、決定された単一ペダルモード係数K1、ペダル踏込量係数K2、ペダル踏込速度係数K3、及びペダル踏戻速度係数K4を、ステップS30において設定された低減トルクに乗じ、低減トルクの値を補正して、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了する。図4のフローチャートの終了後、処理はメインルーチンである図3に示すフローチャートのステップS5に復帰する。図3のステップS5においては、トルク付加量設定処理(図4)において決定した低減トルクが基本トルクから減算され、最終目標トルクが決定され、このトルクが発生するようにエンジン4が制御される(ステップS6)。この基本トルクから低減トルクを減算したトルクが発生するように、エンジン4を制御する工程は、第2のトルク発生工程として作用する。
【0084】
次に、図11を参照して、本発明の実施形態による車両制御システムの作用を説明する。
図11は、本実施形態による車両制御システムの作用の一例を示すタイムチャートであり、上段から順に、操舵装置の操舵角[deg]、操舵速度[deg/sec]、基本トルク[N・m]、付加加減速度[m/sec2]、増加/低減トルク[N・m]、モータジェネレータ9aによる発生/回生トルク[N・m]を示している。また、図11において、車両1に備えられたモード選択器13が第1ペダルモードである通常ペダルモードに設定されている場合を実線で、第2ペダルモードである単一ペダルモードに設定されている場合を一点鎖線及び二点鎖線で示している。
【0085】
まず、モード選択器13が通常ペダルモードに設定されている場合について、説明する。
図11の時刻t0〜t1においては、車両1のドライバは操舵を行っておらず、操舵角は0[deg](中立位置)、操舵速度も0[deg/sec]となっている。また、時刻t0〜t1においては、車両1の運転状態(例えば、アクセルペダルの踏込量)も一定であるため、基本トルク[N・m]も一定値となっている。この状態では、図4に示すフローチャートにおいては、ステップS21→S22→リターンの処理が繰り返されるので、付加加速度や、増加トルク、低減トルクの設定は行われない(付加加速度=0、増加トルク=0、低減トルク=0)。このため、時刻t0〜t1においては、基本トルク(一定値)が最終目標トルク(図3のステップS5)として決定される。また、本実施形態においては、増加トルク=0である時刻t0〜t1において、モータジェネレータ9aによるトルクの発生、又はトルクの回生は、行われていない。
【0086】
次に、図11の時刻t1において、ドライバが操舵を開始すると、操舵角及び操舵速度(の絶対値)が増加する。操舵速度がTs1以上になると、図4に示すフローチャートにおいては、ステップS21→S23→S24→S25→S26→リターンの処理が繰り返され、付加加速度及び増加トルクの設定が行われる。即ち、図4のステップS24において図5に示すマップを使用して付加加速度が設定され、ステップS25において、設定された付加加速度を実現するために必要な増加トルクが計算される。なお、図11に示す例では、時刻t1〜t2において、アクセルペダルの踏み込み等の運転操作が行われていないため、基本トルクの値は一定である(時刻t0〜t1における値から変化していない)。
【0087】
さらに、モード選択器13が通常ペダルモードに設定されている状態では、ステップS26において「NO」が選択され、ステップS27による補正処理が実行されることなく、図4に示すフローチャートの一回の処理を終了する。即ち、通常ペダルモードが選択されている場合には、ステップS27における補正は実行されず、ステップS25において設定された増加トルクが、そのまま基本トルクに加算される。なお、単一ペダルモードが選択されている場合における作用については後述する。
【0088】
このように、時刻t1〜t2においては、設定された付加加速度に対応した増加トルクが設定され、基本トルク(一定値)に増加トルクを加算した最終目標トルクが設定される。また、基本トルクに増加トルクが加算された最終目標トルクを生成するために、図3のステップS6において設定されたアクチュエータ制御量が使用される。具体的には、本実施形態においては、図11の最下段に示すように、増加トルクを発生させるためにモータジェネレータ9aが制御され、これによりトルクが発生される。或いは、エンジン4の点火プラグ5cの点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角させることにより、基本トルクを増加トルク分増加させることもできる。
【0089】
この増加トルクの加算によるトルクの増加は、操舵速度がTs1に到達した後(図4のフローチャートにおいて、ステップS24以下の処理が実行されるようになった後)、約50msec以内に立ち上がり始め、約200〜約250msec程度で最大値に到達する。この増加トルクに基づく後輪2bの駆動トルクの立ち上がりにより、サスペンション3を介して車両1を前傾させる(車両のフロント側を沈み込ませる)力が瞬間的に作用し、操舵輪である前輪2aの荷重が増加する。この瞬間的に立ち上がる前輪2a荷重の増加により、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感が向上する。
【0090】
一方、増加トルクに基づく後輪2bの駆動トルクの増大は、車両1を加速させ、この加速により車両1を後傾させる(車両のリア側を沈み込ませる)力も発生させる。しかしながら、駆動トルクが増大し始めた後、車両1が加速され、この加速が車両1を実質的に後傾させるまでにはある程度のタイムラグがある。このため、車両1の加速に基づく前輪2a荷重の低下は、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感には影響が少ない。
【0091】
次いで、図11の時刻t2において保舵に移行すると、操舵角が一定値となる。図11の時刻t2〜t3においては、図4のフローチャートにおいて、ステップS21→S22→リターンの処理が繰り返される。なお、図11に示す例では、時刻t2〜t3において、アクセルペダルの踏み込み等の運転操作が行われていないため、基本トルクの値は一定である(時刻t0〜t1における値から変化していない)。このように、時刻t2〜t3においては、操舵速度がゼロであるため、付加加速度の値もゼロになる。これに伴い、時刻t2〜t3においては、モータジェネレータ9aによる発生トルクはゼロにされる。
【0092】
さらに、図11の時刻t3においてドライバがステアリング6の切り戻しを開始すると、操舵角(の絶対値)が減少し始め、図4のフローチャートにおいては、ステップS21→S22→S28→S29→S30→S31の処理が繰り返されるようになる。この状態においては、操舵角の減少に伴い、ステップS29において付加減速度が設定される。このため、時刻t3〜t4においては、ステップS29において設定された付加減速度を実現するための低減トルクが設定される。なお、図11に示す例では、時刻t3〜t4において、アクセルペダルの踏み込み等の運転操作が行われていないため、基本トルクの値は一定であり、基本トルク(一定値)から低減トルクを減算した最終目標トルクが設定される。
【0093】
また、モード選択器13が通常ペダルモードに設定されている状態では、ステップS31において「NO」が選択され、ステップS32による補正処理が実行されることなく、図4に示すフローチャートの一回の処理を終了する。即ち、通常ペダルモードが選択されている場合には、ステップS32における補正は実行されず、ステップS30において設定された低減トルクが、そのまま基本トルクから減算される。
【0094】
このように、時刻t3〜t4においては、設定された付加減速度に対応した低減トルクが設定され、基本トルク(一定値)から低減トルクを減算した最終目標トルクが設定される。また、基本トルクから低減トルクを減算した最終目標トルクを生成するために、図3のステップS6において設定されたアクチュエータ制御量が使用される。具体的には、本実施形態においては、図11の最下段に示すように、低減トルクを発生させるためにモータジェネレータ9aが制御され、これによりトルクが回生される。或いは、エンジン4の点火プラグ5cの点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角させることにより、基本トルクを低減トルク分低下させることもできる。
【0095】
次いで、図11の時刻t4において操舵角が0に戻り保舵される(操舵速度=0)と、図4のフローチャートにおいては、ステップS21→S22→リターンの処理が繰り返されるようになる。操舵速度が0となることにより、付加加速度及び付加減速度の値も0となり、基本トルクの値が最終目標トルクとして決定される。
【0096】
一方、モード選択器13によって第2ペダルモードである単一ペダルモードが選択されている場合には、図4のステップS27において増加トルクが補正される。即ち、単一ペダルモードが選択されている場合には、図11の時刻t1〜t2において、図4のステップS26→S27に処理が進み、補正が実行される。ステップS27においては、ステップS25において設定された増加トルクに単一ペダルモード係数K1、ペダル踏込量係数K2、ペダル踏込速度係数K3、及びペダル踏戻速度係数K4が乗じられ、補正される。
【0097】
なお、図11に示す例においては、アクセルペダルの踏込量が一定(ペダルの踏込速度=0)であるため、ペダル踏込速度係数K3及びペダル踏戻速度係数K4の値は夫々1に設定されており、これらの係数を乗じることによる値の変更はない。また、アクセルペダルの踏み込み又は踏み戻しが行われている場合には、踏み込み速度又は踏み戻し速度に対応したペダル踏込速度係数K3又はペダル踏戻速度係数K4が1以外の値に設定され、ペダルの速度に応じた補正が実行される。
【0098】
図11の増加トルク・低減トルクのタイムチャートにおいて、図4のステップS27における増加トルクの補正が行われた場合を二点鎖線(時刻t1〜t2)に示している。図11の二点鎖線に示す場合においては、車両1のモード選択器13が単一ペダルモードに設定されているため、単一ペダルモード係数K1が1よりも大きな所定値に設定される。また、アクセルペダルの踏込量に応じて設定されるペダル踏込量係数K2も所定の値に設定される。図11の例では、これらの係数が増加トルクに乗じられることにより、補正後の増加トルクはより大きな値に設定される。
【0099】
さらに、図11の増加トルク・低減トルクのタイムチャートにおいて、図4のステップS32における低減トルクの補正が行われた場合を一点鎖線(時刻t3〜t4)に示す。図11の一点鎖線に示す場合においては、車両1のモード選択器13が単一ペダルモードに設定されているため、単一ペダルモード係数K1が1よりも大きな所定値に設定される。また、アクセルペダルの踏込量に応じて設定されるペダル踏込量係数K2も所定の値に設定される(ペダル踏込速度係数K3及びペダル踏戻速度係数K4は1)。図11の例では、これらの係数が低減トルクに乗じられることにより、補正後の低減トルクはより大きな値に設定される。
【0100】
なお、図11に示す例において、基本トルクの値は一定値とされているが、ドライバのアクセルペダル等の操作により基本トルクが変化した場合には、その基本トルクに対して増加トルクが加算され、又は低減トルクが減算される。また、アクセルペダルが操作された場合には、その踏み込み速度又は踏み戻し速度に応じてペダル踏込速度係数K3又はペダル踏戻速度係数K4が設定され、これらの値によっても増加トルク又は低減トルクが補正される。
【0101】
本発明の実施形態の車両制御方法によれば、車両1に搭載された操舵装置7の操舵角の増加に基づいて、基本トルクを増加させるように、増加トルクが設定され、前輪荷重が増加するので、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。また、本実施形態において、通常ペダルモードが選択された場合と、単一ペダルモードが選択された場合で、異なる増加トルクが設定される(図11の時刻t1〜t2)。この結果、通常ペダルモード、及び単一ペダルモードの何れにおいても、適切に増加トルクを設定することができる。
【0102】
また、本実施形態の車両制御方法によれば、単一ペダルモードが選択されている場合には、通常ペダルモードの場合よりも、増加トルクが大きく設定されるので、単一ペダルモードにおいても、増加トルクの付加により十分な車両応答性やリニア感の改善効果を得ることができる。
【0103】
さらに、本実施形態の車両制御方法によれば、車両1のアクセルペダルの踏込量が小さい場合には、踏込量が大きい場合よりも、増加トルクが大きく設定されるので(図7)、踏込量が小さい領域においても車両応答性やリニア感を十分に向上させることができる。
【0104】
また、本実施形態の車両制御方法によれば、アクセルペダルの踏み込み時の操作速度が大きい場合には、操作速度が小さい場合よりも、増加トルクが小さく設定されるので(図8)、車両の旋回性が過大になるのを防止することができる。
【0105】
さらに、本実施形態の車両制御方法によれば、アクセルペダルの踏み戻し時の操作速度が大きい場合には、操作速度が小さい場合よりも、増加トルクが大きく設定されるので(図9)、踏み戻し時の操作速度が大きい場合にも車両応答性やリニア感を十分に向上させることができる。
【0106】
また、本実施形態の車両制御方法によれば、通常ペダルモードが選択された場合と、単一ペダルモードが選択された場合で、異なる低減トルクが設定される(図11の時刻t3〜t4)。この結果、通常ペダルモード、及び単一ペダルモードの何れにおいても、適切に低減トルクを設定することができる。
【0107】
さらに、本実施形態の車両制御方法によれば、単一ペダルモードが選択されている場合には、通常ペダルモードの場合よりも、低減トルクが大きく設定されるので、単一ペダルモードにおいても、低減トルクの付加により十分な車両応答性やリニア感の改善効果を得ることができる。
【0108】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態においては、ガソリンエンジンを搭載した車両に本発明を適用していたが、ディーゼルエンジンや、電動機等、種々の原動機を搭載した車両に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0109】
1 車両
2a 前輪(操舵輪)
2b 後輪(駆動輪)
3 サスペンション
4 エンジン(原動機)
5a スロットルバルブ
5b インジェクタ
5c 点火プラグ
5d 可変動弁機構
6 ステアリングホイール
7 操舵装置
8 操舵角センサ
9a モータジェネレータ
9b インバータ
9c バッテリ
10 アクセル開度センサ(運転状態センサ)
12 車速センサ
13 モード選択器
14 PCM(制御器)
16 基本トルク設定部
18 増加トルク設定部
20 減少トルク設定部
22 エンジン制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11