(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-218322(P2019-218322A)
(43)【公開日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】易分散性圧縮成形物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/722 20060101AFI20191129BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20191129BHJP
A61P 19/06 20060101ALI20191129BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20191129BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20191129BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20191129BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20191129BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20191129BHJP
A23K 40/10 20160101ALI20191129BHJP
【FI】
A61K31/722
A61P3/06
A61P19/06
A61K9/20
A61K8/02
A61K8/73
A23L33/10
A23K20/163
A23K40/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-118842(P2018-118842)
(22)【出願日】2018年6月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】一宮 洋介
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C076
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
2B150AE02
2B150AE22
2B150BE03
2B150DC14
4B018LE01
4B018MD30
4B018MD35
4B018MD41
4B018ME14
4B018MF08
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC21
4C076DD68
4C076EE31
4C076FF36
4C083AD261
4C083AD321
4C083DD15
4C083EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA10
4C086NA13
4C086ZC31
4C086ZC33
(57)【要約】
【課題】一定以上の硬度を保ちながらも水及び水を含む親水性溶媒中で素早く分散する、キトサン等の不溶性食物繊維を主成分とする易分散性圧縮成形物を提供する。
【解決手段】キチン及びキトサンの少なくともいずれかの粉末成分を含有するとともに、全固形分に占める粉末成分の割合が10質量%以上であり、粉末成分の嵩密度が、0.15〜0.55g/mLであり、粉末成分の粒度が、目開き150〜180μmのメッシュを通過する粒度であり、粉末成分中の、目開き45μmのメッシュを通過する成分の割合が、3〜50質量%であり、硬度が8〜30kgfである易分散性圧縮成形物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キチン及びキトサンの少なくともいずれかの粉末成分を含有するとともに、全固形分に占める前記粉末成分の割合が10質量%以上であり、
前記粉末成分の嵩密度が、0.15〜0.55g/mLであり、
前記粉末成分の粒度が、目開き150〜180μmのメッシュを通過する粒度であり、
前記粉末成分中の、目開き45μmのメッシュを通過する成分の割合が、3〜50質量%であり、
硬度が8〜30kgfである易分散性圧縮成形物。
【請求項2】
前記粉末成分が、脱アセチル化度が70%以上のキトサンの粉末である請求項1に記載の易分散性圧縮成形物。
【請求項3】
前記粉末成分が、セルロースの粉末をさらに含む請求項1又は2に記載の易分散性圧縮成形物。
【請求項4】
賦形剤及び滑沢剤の少なくともいずれかをさらに含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の易分散性圧縮成形物。
【請求項5】
撹拌状態の37℃の水に投入してから、その原形を目視により観察できなくなるまでの時間が、120秒以内である請求項1〜4のいずれか一項に記載の易分散性圧縮成形物。
【請求項6】
錠剤、口腔内崩壊錠剤、チュアブル錠剤、分散錠剤、健康食品、農業用資材、家畜用飼料、化粧料、凝集剤、又は粉塵低減配合材である請求項1〜5のいずれか一項に記載の易分散性圧縮成形物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の易分散性圧縮成形物の製造方法であって、
キチン及びキトサンの少なくともいずれかの粉末と水を混合し、下記式(1)で表される水添加率が10〜100質量%である含水原料を得る工程と、
得られた前記含水原料を乾燥及び分級して、含水率が15質量%以下、嵩密度が0.15〜0.55g/mL、目開き150〜180μmのメッシュを通過する粒度、及び目開き45μmのメッシュを通過する成分の割合が3〜50質量%である粉末成分を得る工程と、
得られた前記粉末成分を含有する成型原料を圧縮成形して易分散性圧縮成形物を得る工程と、
を有する易分散性圧縮成形物の製造方法。
水添加率(%)=(W/P)×100 ・・・(1)
P:粉末の量(g)
W:添加する水の量(g)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定以上の硬度を保ちながらも水中で素早く分散しうる易分散性圧縮成形物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キチン及びキトサンを含む有機物粉末を圧縮して得られる成形物の硬度は、圧縮時に付与される圧力に依存することが広く知られている。一方、成形物の硬度を一定以上に保ちながらも、特定の条件下では素早く崩壊又は分散するといった、相反する特性を兼ね備えた圧縮成形物(いわゆる、易分散性圧縮成形物)が必要とされる分野もある。
【0003】
易分散性圧縮成形物の特性を活かせる形態として、錠剤を挙げることができる。有効成分を含む粉末を錠剤成型して得られる錠剤については、輸送時や保管時に包装内で割れ、欠け、摩損等の不具合が生じないように、一定以上の硬度を有することが求められている。さらに、錠剤に対しては、経口摂取後、適切な時間内に消化管内で崩壊する崩壊性を有することも求められている。
【0004】
低成形性の有効成分を錠剤成型する場合には、例えば、賦形剤を配合する。また、難崩壊性の有効成分を錠剤成型する場合には、例えば、崩壊剤を配合する。さらに、バインディングやキャッピング等の打錠障害を防止すべく、粒子間の摩擦を低減する効果を有する滑沢剤を配合する場合もある。すなわち、易分散性の圧縮成形物である錠剤は、有効成分の特性等に応じて配合組成を最適化して製造されることが多い。換言すると、有効成分のみを錠剤成型して、種々の要求特性に応えることができるケースは稀である。このように、多種類の原料を配合する工程及び造粒工程は、製造工程数の増加及びコストの増大につながるため、簡易な工程で種々の要求特性を満たす錠剤を製造する方法を開発することが要望されている。
【0005】
キトサン等の多くの食物繊維の形状は繊維状であるために、粉体流動性が悪く、そのままでの状態では錠剤にすることが困難である。また、キトサンは嵩比重が小さいため、キトサンの充填量には限界があるとともに、得られる錠剤は摩損しやすくなる傾向にある。したがって、キトサン等の食物繊維を含有する錠剤を成型するには、通常、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステルなどの滑沢剤を添加するか、又は結晶乳糖、結晶セルロースなどの流動性のよい賦型剤と混合して打錠する。しかし、滑沢剤などの他の成分と混合して成型すれば、食物繊維の含有量が少なくなり、有効成分を十分に摂取するために錠剤を大きくすることが必要となる。しかし、服薬する人のアドヒアランスを低下させることにつながりかねないため、流動性を高めつつ、錠剤中の食物繊維の量を増加させることが可能な錠剤の開発が望まれている。
【0006】
従来、有効成分と、結合剤、崩壊剤、賦形剤などの助剤成分との配合バランスを調整することで、一定以上の硬度と崩壊性を兼ね備えた錠剤を製造することが検討されている。例えば、カルシウム素材を成型助剤として配合して硬度を高めた錠剤が提案されている(特許文献1)。また、カルシウム粉末素材及び結晶セルロースを配合し、打錠して得られる、硬度及び崩壊性を改良したキトサン含有錠剤が提案されている(特許文献2)。さらに、炭酸カルシウム、セルロース、及びサポニンを所定の比率で配合した、崩壊性に優れたキトサン含有錠剤が提案されている(特許文献3)。さらに、N−アセチルグルコサミンを30〜90質量%含有する口腔内崩壊型の錠剤(特許文献4)や、キトサン、カルシウム素材、及び有機酸を含む錠剤(特許文献5)が提案されている。また、キトサン粉末を大きな打圧で打錠して得られる、胃内で崩壊しうる錠剤が提案されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4132870号公報
【特許文献2】特開2004−262860号公報
【特許文献3】特許第4824213号公報
【特許文献4】特許第4403182号公報
【特許文献5】特許第3737881号公報
【特許文献6】特許第5969680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2で提案された錠剤は、いずれもある程度の硬度を有するものの、崩壊性が未だ不十分であり、さらなる改良の余地があった。また、これらの錠剤を製造するには有効成分以外の特定の成分を成型助剤として配合する必要があるため、有効成分の含有量が相対的に減少する傾向にあるといった課題もあった。さらに、特許文献3においては、得られる錠剤の硬度については何ら検討されていない。また、特許文献4においては咀嚼時における錠剤の崩壊時間について検討されているが、水中での崩壊性については何ら検討されていない。さらに、特許文献5で提案された錠剤は、有機酸とカルシウム素材をキトサン以外の成分として含むため、キトサンの含有量が少ないものであった。さらに、特許文献6で提案された錠剤は、硬度及び水中での分散性が未だ不十分であり、さらなる改良の余地があった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、一定以上の硬度を保ちながらも水を含む親水性溶媒中で素早く分散する、キトサン等の不溶性食物繊維を主成分とする易分散性圧縮成形物、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示す易分散性圧縮成形物が提供される。
[1]キチン及びキトサンの少なくともいずれかの粉末成分を含有するとともに、全固形分に占める前記粉末成分の割合が10質量%以上であり、前記粉末成分の嵩密度が、0.15〜0.55g/mLであり、前記粉末成分の粒度が、目開き150〜180μmのメッシュを通過する粒度であり、前記粉末成分中の、目開き45μmのメッシュを通過する成分の割合が、3〜50質量%であり、硬度が8〜30kgfである易分散性圧縮成形物。
[2]前記粉末成分が、脱アセチル化度が70%以上のキトサンの粉末である前記[1]に記載の易分散性圧縮成形物。
[3]前記粉末成分が、セルロースの粉末をさらに含む前記[1]又は[2]に記載の易分散性圧縮成形物。
[4]賦形剤及び滑沢剤の少なくともいずれかをさらに含有する前記[1]〜[3]のいずれかに記載の易分散性圧縮成形物。
[5]撹拌状態の37℃の水に投入してから、その原形を目視により観察できなくなるまでの時間が、120秒以内である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の易分散性圧縮成形物。
[6]錠剤、口腔内崩壊錠剤、チュアブル錠剤、分散錠剤、健康食品、農業用資材、家畜用飼料、化粧料、凝集剤、又は粉塵低減配合材である前記[1]〜[5]のいずれかに記載の易分散性圧縮成形物。
【0011】
また、本発明によれば、以下に示す易分散性圧縮成形物の製造方法が提供される。
[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の易分散性圧縮成形物の製造方法であって、キチン及びキトサンの少なくともいずれかの粉末と水を混合し、下記式(1)で表される水添加率が10〜100質量%である含水原料を得る工程と、得られた前記含水原料を乾燥及び分級して、含水率が15質量%以下、嵩密度が0.15〜0.55g/mL、目開き150〜180μmのメッシュを通過する粒度、及び目開き45μmのメッシュを通過する成分の割合が3〜50質量%である粉末成分を得る工程と、得られた前記粉末成分を含有する成型原料を圧縮成形して易分散性圧縮成形物を得る工程と、を有する易分散性圧縮成形物の製造方法。
水添加率(%)=(W/P)×100 ・・・(1)
P:粉末の量(g)
W:添加する水の量(g)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、一定以上の硬度を保ちながらも水を含む親水性溶媒中で素早く分散する、キトサン等の不溶性食物繊維を主成分とする易分散性圧縮成形物、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<易分散性圧縮成形物>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の易分散性圧縮成形物(以下、単に「圧縮成形物」とも記す)は、キチン及びキトサンの少なくともいずれかの粉末成分を含有するとともに、全固形分に占める粉末成分の割合が10質量%以上である。以下、その詳細について説明する。
【0014】
(粉末成分)
本発明の圧縮成形物に用いる粉末成分(粉末)は、キチン及びキトサンの少なくともいずれかである。キチンは、2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコース(N−アセチルグルコサミン)を構成単位とする塩基性多糖類(β−(1→4)−2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコース)である。また、キトサンはキチンの脱アセチル化物であり、2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコース(グルコサミン)を構成単位とする塩基性多糖類(β−(1→4)−2−アミノ−2−デオキシ−β−D−グルコース)である。また、本発明の錠剤に用いる粉末成分は、セルロースの粉末をさらに含むことが好ましい。キチン、キトサン、及びセルロースは、いずれも工業的に生産されており、種々のグレードのものをそれぞれ入手することができる。本発明においては、キチン及びキトサンの少なくともいずれかを用いることが、脂肪吸収阻害効果、降コレステロール作用、血圧低下効果、血中尿酸レベル低下効果、重金属吸着能等の種々の生理活性を圧縮成形物に付与しうるために好ましい。
【0015】
キチン及びキトサンは、食物繊維、LDLコレステロール値低減、及び尿酸値低減などの機能を発揮しうる有効成分であり、いわゆる不溶性食物繊維である。キチン及びキトサンの重量平均分子量については特に限定されない。キチン及びキトサンの重量平均分子量は、例えば、7,000〜3,000,000であることが好ましく、10,000〜2,000,000であることがさらに好ましい。但し、食物繊維、LDLコレステロール値低減、及び尿酸値低減などの機能をより有効に発揮させるには、キチン及びキトサンの分子量は大きい方が好ましい。特に、消化管内で老廃物、胆汁酸、尿酸等と吸着して機能を発揮させる場合には、水に溶けない程度の分子量のキチン及びキトサンを用いることが好ましい。
【0016】
粉末成分としては、キトサンを用いることがさらに好ましい。キトサンの脱アセチル化度は、70%以上であることが好ましく、75〜99%であることがさらに好ましい。脱アセチル化度が70%以上のキトサンを用いると、食物繊維、LDLコレステロール値低減、及び尿酸値低減などの機能をより有効に発揮させることができる。
【0017】
キトサンの脱アセチル化度は、コロイド滴定を行い、その滴定量から算出することができる。具体的には、指示薬にトルイジンブルー溶液を用い、ポリビニル硫酸カリウム水溶液でコロイド滴定することにより、キトサン分子中の遊離アミノ基を定量し、キトサンの脱アセチル化度を求める。脱アセチル化度の測定方法の一例を以下に示す。
【0018】
(1)滴定試験
0.5質量%酢酸水溶液にキトサン純分濃度が0.5質量%となるようにキトサンを添加し、キトサンを撹拌及び溶解して100gの0.5質量%キトサン/0.5質量%酢酸水溶液を調製する。次に、この溶液10gとイオン交換水90gを撹拌混合して、0.05質量%のキトサン溶液を調製する。さらに、この0.05質量%キトサン溶液10gにイオン交換水50mL、トルイジンブルー溶液約0.2mLを添加して試料溶液を調製し、ポリビニル硫酸カリウム溶液(N/400PVSK)にて滴定する。滴定速度は2〜5ml/分とし、試料溶液が青から赤紫色に変色後、30秒間以上保持する点を終点の滴定量とする。なお、キトサン純分とは、原料キトサン試料中のキトサンの質量を意味する。具体的には、原料キトサン試料を105℃で2時間乾燥して求められる固形分質量である。
【0019】
(2)空試験
上記の滴定試験に使用した0.5質量%キトサン/0.5質量%酢酸水溶液に代えて、イオン交換水を使用し、同様の滴定試験を行う。
【0020】
(3)アセチル化度の計算
X=1/400×161×f×(V−B)/1000
=0.4025×f×(V−B)/1000
Y=0.5/100−X
X:キトサン中の遊離アミノ基質量(グルコサミン残基質量に相当)
Y:キトサン中の結合アミノ基質量(N−アセチルグルコサミン残基質量に相当)
f:N/400PVSKの力価
V:試料溶液の滴定量(mL)
B:空試験滴定量(mL)
脱アセチル化度(%)
=(遊離アミノ基)/{(遊離アミノ基)+(結合アミノ基)}×100
=(X/161)/(X/161+Y/203)×100
なお、「161」はグルコサミン残基の分子量、「203」はN−アセチルグルコサミン残基の分子量である。
【0021】
本発明の圧縮成形物に含まれる全固形分に占める粉末成分の割合は、10質量%以上であり、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。全固形分に占める粉末成分の割合が10質量%未満であると、キトサン等の有効成分の錠剤中の量が少ない。なお、錠剤中の全固形分に占めるキトサン等の粉末成分の割合の上限については特に限定されず、100質量%(すなわち、固形分のすべてがキトサン粉末成分)であってもよい。
【0022】
粉末成分の嵩密度は、0.15〜0.55g/mLであり、好ましくは0.15〜0.35g/mLであり、さらに好ましくは0.15〜0.25g/mLである。嵩密度が0.15g/mL未満であると、粉末成分同士の繊維の絡み合いの度合いが大きくなり、圧縮成形して得られる成形物の水への分散性が低下する。また、定体積に充填する際に嵩張りやすくなるため、作業性も低下する。さらに、嵩密度が0.55g/mLを超える粉末成分を調製するには、高エネルギーによる微細化を伴うことになるので、製造工程として適当ではない。
【0023】
粉末成分の嵩密度は、JIS K 5101に準拠した測定方法にしたがい、見掛け嵩密度測定装置を使用して測定する。具体的には、顔料用の嵩密度測定器(JIS K 5101型、筒井理化学器械社製など)を使用し、30mLの容器の上方から容器内へと、測定対象となる粉末成分を自然落下させる。そして、溢れ出た粉末成分をすりきって得られた容器の内容物の質量から、粉末成分の嵩密度を算出することができる。
【0024】
粉末成分の粒度は、目開き150〜180μmのメッシュを通過する粒度である。粉末成分の粒度が、目開き180μmのメッシュを通過しない粒度であると、得られる圧縮成形物の硬度が低下する。また、粉末成分中の目開き45μmのメッシュを通過する成分の割合は、3〜50質量%であり、好ましくは5〜45質量%である。粉末成分中の目開き45μmのメッシュを通過する成分の割合が50質量%超であると、細かい粒子(粉塵)の含有割合が多くなるため、圧縮成形が困難になる。粉末成分の粒度は、特定の目開きのメッシュを備えた振動篩機を使用して篩い分けすることで適宜調整することができる。
【0025】
(その他の成分)
本発明の圧縮成形物は、上記の粉末成分以外の成分(その他の成分)を含有してもよい。その他の成分としては、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、着色剤、着香剤、矯味剤、矯臭剤、乳化剤、分散剤、防腐剤などの一般的な成分を挙げることができる。
【0026】
賦形剤としては、例えば、結晶セルロース、プルラン、ブドウ糖、グアーガム、キサンタンガム、ソルビトール、マンニトール、澱粉、デキストリン、乳糖、還元麦芽糖、エリスリトール、キシリトール、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどを挙げることができる。また、水と混合する前のキチン粉砕物やキトサン粉砕物を賦形剤として使用することもできる。キトサン粉砕物等を圧縮成形すると、繊維の絡まりによって硬度が非常に高くなる。このため、そのような特性を生かし、キトサン粉砕物等を賦形剤として利用することができる。具体的には、加水工程を経た後に乾燥したキトサン処理物と、加水工程を経ていないキトサン粉砕物を混合することで、得られる圧縮成形物の硬度と水中分散性のバランスを制御することができる。
【0027】
滑沢剤としては、例えば、卵殻粉末、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ポリビニルピロリドン、植物硬化油などを挙げることができる。
【0028】
さらに、上記成分の他、必要に応じて、水溶性ビタミン(ビタミンB1、B2、B6、B12、C等)、脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E等)、コラーゲン、イチョウ葉エキス、オリゴ糖、アセロラエキス、アロエエキス、ローヤルゼリー、アセトアミノフェン、アセチルサリチル酸、イブプロフェン、トラマドール、ベンズブロマロン、プロベネシド、スルフィンピラゾン、ブコローム、ロサルタン、バルサルタン、テルミサルタン、オルメサルタン、イルベサルタン、アジルサルタン、メフェナム酸、カンデサルタン等を配合することもできる。
【0029】
また、圧縮成形後にセラック等のコーティング剤を用いてコーティングし、コーティング成形物としてもよい。コーティング剤の量は特に限定されないが、圧縮成形物に対して0.1〜2.0質量%とすることが好ましい。コーティング方法としては、コーティング剤を圧縮成形物に噴霧して乾燥させる方法や、糖衣機などを使用する方法などがある。
【0030】
<易分散性圧縮成形物の製造方法>
次に、上述の圧縮成形物の製造方法について説明する。本発明の圧縮成形物の製造方法は、キチン及びキトサンの少なくともいずれかの粉末と水を混合し、下記式(1)で表される水添加率が10〜100質量%である含水原料を得る工程(工程(1))と、得られた含水原料を乾燥及び分級して、含水率が15質量%以下、嵩密度が0.15〜0.55g/mL、目開き150〜180μmのメッシュを通過する粒度、及び目開き45μmのメッシュを通過する成分の割合が3〜50質量%である粉末成分を得る工程(工程(2))と、得られた粉末成分を含有する成型原料を圧縮成形して易分散性圧縮成形物を得る工程(工程(3))と、を有する。以下、その詳細について説明する。
水添加率(%)=(W/P)×100 ・・・(1)
P:粉末の量(g)
W:添加する水の量(g)
【0031】
(工程(1))
工程(1)では、キトサン及びキチンの少なくともいずれかの粉末と水を混合し、水添加率が10〜100質量%である含水原料を得る。上記の粉末と水を混合することで、粉末(キトサン粒子、キチン粒子)の粒子表面を処理することができる。これにより、最終的に得られる圧縮成形物の水中での分散性を向上させることができる。また、工程(1)や、後述する工程(2)を実施することなく、キチンやキトサンの粗体をカッターミルやジェットミル等によって粉砕処理して得た粉末成分をそのまま用いて圧縮成形すると、得られる圧縮成形物が水中で分散しにくくなり、分散時間が長くなる。
【0032】
粉末と水を混合して得る含水原料の水添加率は10〜100質量%であり、好ましくは10〜80質量%、さらに好ましくは10〜60質量%である。含水原料の水添加率が100質量%超であると、粉末と水を含む混合物がひと纏まりになりやすいため、目開き180μmのメッシュを通過しない成分の割合が多くなり、歩留まりが低下する。また、得られる圧縮成形物の硬度が低下する。
【0033】
粉末と水を混合するには、混合機を用いることができる。混合機の種類は特に限定されないが、例えば、ニーダー、円筒型混合機、V型混合機、スクリュー型混合機などを用いることができる。
【0034】
粉末と水を混合した後には、加熱条件下で撹拌して含水原料を得ることが好ましい。加熱温度に特に制限されないが、80℃以下とすることが好ましい。粉末と水を含む混合物を加熱条件下で撹拌すると、非加熱条件下で撹拌する場合と比べて、圧縮成形時に一定の硬度を保持し、かつ、水中で速やかに分散する特性を短時間で付与することが可能である。
【0035】
(工程(2))
工程(2)では、工程(1)で得た含水原料を乾燥及び分級して粉末成分を得る。粉末成分の含水率は15質量%以下、好ましくは12質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下とする。含水原料を乾燥して得られる粉末成分の含水率が15質量%超であると、長期保管した際に、メイラード反応等による着色及び低分子化反応が起こりやすくなる。
【0036】
含水原料は、加熱条件下で乾燥してもよく、減圧条件下で乾燥してもよい。また、混合しながら乾燥してもよいし、混合機から取り出して静置状態で乾燥してもよい。含水原料を加熱条件下で乾燥すると、非加熱条件下で乾燥する場合と比べて、乾燥時間を短縮することができるために好ましい。
【0037】
(工程(3))
工程(3)では、工程(2)で得た粉末成分を含有する成型原料を圧縮成形する。これにより、本発明の圧縮成形物を得ることができる。粉末成分のみを成型原料として用いてもよく、乾燥粉末とその他の成分を配合して成型原料を調製してもよい。その他の成分としては、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、着色剤、着香剤、矯味剤、矯臭剤、乳化剤、分散剤、補助剤、防腐剤、緩衝剤などの、一般的な成分を用いることができる。また、圧縮成形物は、打錠機などの錠剤成型機を用いる一般的な圧縮成形法によって製造することができる。
【0038】
(圧縮成形物の物性)
上記の製造方法によって製造される本発明の圧縮成形物の硬度は、8〜30kgfであり、好ましくは10kgf以上である。すなわち、本発明の製造方法によって製造される圧縮成形物は硬度が十分に高いため、輸送時や保管時に包装内で割れ、欠け、摩損等の不具合が発生しにくい。本明細書における圧縮成形物の硬度は、錠剤硬度計(例えば、商品名「モンサント錠剤硬度計 B型」、富士理化工業社製)を使用し、圧縮成形物を水平方向に圧縮破断する際に要した荷重(単位;kgf)である。なお、各処方につき5回測定した平均値を圧縮成形物の硬度とした。
【0039】
上記の製造方法によって製造される本発明の圧縮成形物(例えば、粉末成分を含有する成型原料を、圧縮機を用いて2tfの圧縮圧で圧縮成形して得られる、直径8mm、200mgの円柱形状の圧縮成形物)の、37℃の水中における分散時間は、好ましくは120秒以内であり、さらに好ましくは60秒以内、特に好ましくは30秒以内である。すなわち、本発明の製造方法によって製造される圧縮成形物は、一定以上の硬度を保ちながらも水中で素早く分散しうる、分散性に優れたものである。このため、本発明の圧縮成形物は、輸送時や保管時に包装内で割れ、欠け、摩損等の不具合が生じがたいとともに、水中での分散性が良好であるので、例えば、錠剤、口腔内崩壊錠剤、チュアブル錠剤、分散錠剤、健康食品、農業用資材、家畜用飼料、化粧料、凝集剤、粉塵低減配合材等として好適である。なお、圧縮成形物の分散時間は、以下に示す手順にしたがって測定される値(単位:秒)である。
[分散時間の測定]
100mLビーカーに37℃の水を約80mL入れ、2cmのマグネットスターラーにて400rpmの回転速度で撹拌しつつ、水面より2cmの高さから圧縮成形物を投入する。圧縮成形物が水と接触してから、膨潤及び分散し、圧縮成形物の原形が目視で確認できなくなるまでの時間を5回測定し、その平均値を分散時間(単位:秒)とする。なお、水以外の液媒体(例えば、水を含有する親水性溶媒)を用いる場合であっても、同様の条件で分散時間を測定することができる。
【実施例】
【0040】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0041】
<粉末成分の嵩密度の測定方法>
顔料用嵩密度測定器(JIS K 5101型、筒井理化学器械株式会社製)を用いて、30mLの容器へ粉末成分を上方から自然落下させ、あふれ出た粉体をすりきり、内容物の重量から粉末成分の嵩密度を算出した。
【0042】
<粉末成分の調製>
(製造例1)
重量平均分子量100万のキトサン粗体(脱アセチル化度85%)をジェットミルで粉砕し、目開き150μmのメッシュを通過する粒度のキトサン粉末(含水率5%、嵩密度0.14g/mL、目開き45μmパス30%)を得た。
【0043】
(製造例2)
重量平均分子量150万のキトサン粗体(脱アセチル化度91%)をカッターミルで粉砕し、目開き180μmのメッシュを通過する粒度のキトサン粉末(含水率11%、嵩密度0.28g/mL、目開き45μmパス55%)を得た。
【0044】
(製造例3)
重量平均分子量150万のキトサン粗体(脱アセチル化度91%)をカッターミルで粉砕し、目開き250μmのメッシュを通過するが、目開き180μmのメッシュを通過しない粒度のキトサン粉末(含水率8%、嵩密度0.19g/mL、目開き45μmパス1%)を得た。
【0045】
(製造例4)
重量平均分子量150万のキチン粗体(脱アセチル化度5%)をジェットミルで粉砕し、目開き180μmのメッシュを通過する粒度のキチン粉末(含水率6%、嵩密度0.27g/mL、目開き45μmパス53%)を得た。
【0046】
(製造例5)
重量平均分子量100万のセルロース粗体をカッターミルで粉砕し、目開き150μmのメッシュを通過する粒度のセルロース粉末を得た。得られたセルロース粉末100部及び水100部をニーダーに入れ、水添加率100%の含水原料を得た。ニーダーの蓋をした状態で80℃に加熱して1時間撹拌した後、ホーロー皿に取り出してインキュベーター内に静置した。80℃に加熱して乾燥させた後、目開き150μmのメッシュで分級し、セルロース粉末(含水率5%、嵩密度0.27g/mL、目開き45μmパス35%)を得た。
【0047】
(製造例6)
製造例1で得たキトサン粉末100部及び水50部をニーダーに入れ、水添加率50%の含水原料を得た。ニーダーの蓋をした状態で80℃に加熱して1時間撹拌した後、ホーロー皿に取り出してインキュベーター内に静置した。80℃に加熱して乾燥させた後、目開き150μmのメッシュで分級し、キトサン粉末(含水率7%、嵩密度0.22g/mL、目開き45μmパス21%)を得た。
【0048】
(製造例7)
製造例2で得たキトサン粉末100部及び水25部をニーダーに入れ、水添加率25%の含水原料を得た。ニーダーの蓋をした状態で80℃に加熱して1時間撹拌した後、蓋を開けた状態とし、80℃の加熱と撹拌を継続しながら乾燥させた。その後、目開き180μmのメッシュで分級し、キトサン粉末(含水率4%、嵩密度0.40g/mL、目開き45μmパス35%)を得た。
【0049】
(製造例8)
製造例2で得たキトサン粉末100部及び水100部をニーダーに入れ、水添加率100%の含水原料を得た。ニーダーの蓋をした状態で加熱せずに1時間撹拌した後、ホーロー皿に取り出した。真空乾燥機を使用して減圧乾燥した後、目開き180μmのメッシュで分級し、キトサン粉末(含水率6%、嵩密度0.45g/mL、目開き45μmパス15%)を得た。
【0050】
(製造例9)
製造例4で得たキチン粉末100部及び水50部をビニール袋に入れ、水添加率50%の含水原料を得た。ビニール袋の口を締め、上下左右に15分間振って内容物を混合した後、ホーロー皿に取り出してインキュベーター内に静置した。80℃に加熱して乾燥させた後、目開き150μmのメッシュで分級し、キトサン粉末(含水率8%、嵩密度0.43g/mL、目開き45μmパス9%)を得た。
【0051】
(製造例10)
製造例2で得たキトサン粉末100部及び水200部をビニール袋に入れ、水添加率200%の含水原料を得た。ビニール袋の口を締め、上下左右に15分間振って内容物を混合した後、ホーロー皿に取り出してインキュベーター内に静置した。80℃に加熱して乾燥させた後、目開き180μmのメッシュで分級し、キトサン粉末(含水率9%、嵩密度0.44g/mL、目開き45μmパス2%)を得た。
【0052】
<圧縮成形物の製造>
(実施例1)
打錠機(商品名「HANDTAB−100」、市橋精機社製、杵臼の直径:8mm)を使用し、製造例6で得たキトサン粉末200mgに2tfの圧縮圧をかけて圧縮し、圧縮成形物を得た。
【0053】
(実施例2〜8、比較例1〜6)
表1−1及び1−2に示す種類及び量のキトサン粉末、キチン粉末、セルロース粉末、結晶セルロース(商品名「Comprecel」(伏見製薬所社製)、食品添加物)、及びショ糖脂肪酸エステル(商品名「DKエステル」(第一工業製薬社製)、食品添加物)をそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様にして圧縮成形物を得た。
【0054】
(硬度の測定)
錠剤硬度計(商品名「モンサント錠剤硬度計 B型」、富士理化工業社製)を使用し、圧縮成形物を水平方向に圧縮破断する際に要した荷重(単位;kgf)を測定した。各処方につき5回測定した荷重の平均値を硬度とした。結果を表1−1及び1−2に示す。
【0055】
(分散時間の測定)
100mLビーカーに37℃の水を約80mL入れ、2cmのマグネットスターラーを用いて400rpmの回転速度で撹拌した。次いで、水面から2cmの高さから圧縮成形物を投入し、圧縮成形物が水と接触してから、膨潤及び分散して圧縮成形物の原形が目視で確認できなくなるまでの時間を5回測定し、その平均値を分散時間(単位:秒)とした。結果を表1−1及び1−2に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
(実施例9)
製造例6で得たキトサン粉末10部及び製造例10で得たキトサン粉末10部を均一になるように混合して粉末成分(キトサン粉末;含水率8%、0.33g/mL、目開き45μmパス12%)を得た。得られた粉末成分を用いたこと以外は、実施例1と同様にして圧縮成形物を得た。得られた圧縮成形物の硬度は8.1kgfであり、分散時間は8秒であった。
【0059】
<崩壊試験第1液を用いた分散時間の測定>
NaCl 2.0gにHCl 7.0mL及び水を加え、NaClを溶かして、pH1.2の崩壊試験第1液1,000mLを調製した。調製した崩壊試験第1液を用いて測定した実施例1の圧縮成形物の分散時間は、110秒であった。一方、調製した崩壊試験第1液を用いて比較例6の圧縮成形物の分散時間を測定しようとしたところ、圧縮成形物の表面がゲル状態となった。さらに数分間測定を継続したが、圧縮成形物の原形が目視で確認できなくなることはなかった。
【0060】
<評価(2)>
実施例1で製造した圧縮成形物を舌に乗せ、上顎に軽く押し付けた。圧縮成形物が口中で完全に分散するまでの時間を測定したところ、15秒であった。また、実施例8で製造した圧縮成形物を舌に乗せ、上顎に軽く押し付けた。圧縮成形物が口中で完全に分散するまでの時間を測定したところ、20秒であった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の易分散性圧縮成形物は、例えば、口腔内崩壊錠剤として有用である。