【解決手段】樹脂とアニオン変性セルロース繊維とを配合してなる樹脂分散体であって、該アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基の対イオンが、実質的に、金属イオン、アンモニウムイオン及びプロトンからなる群より選択される1種以上であり、該アニオン変性セルロース繊維の平均アスペクト比が1以上150以下である、樹脂分散体。
樹脂とアニオン変性セルロース繊維とを配合してなる樹脂分散体であって、該アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基の対イオンが、実質的に、金属イオン、アンモニウムイオン及びプロトンからなる群より選択される1種以上であり、該アニオン変性セルロース繊維の平均アスペクト比が1以上150以下である、樹脂分散体。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂分散体は、樹脂とアニオン変性セルロース繊維とを配合してなるものである。本明細書において、アニオン変性セルロース繊維とは、アニオン性基を有するセルロース繊維のことである。
【0011】
アニオン変性セルロース繊維において、平均アスペクト比を1以上150以下、好ましくは95以下という特定の範囲とすることによって、樹脂成形体表面の平滑性が向上するメカニズムの詳細は不明だが、低アスペクト比化されたアニオン変性セルロース繊維を含む分散体の物性が変化し、それにより得られた樹脂成形体表面の平滑性が向上するものと推定される。
【0012】
[樹脂]
樹脂としては、用途や所望の特性又は物性に応じて選択でき、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれであってもよい。樹脂は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0013】
本発明では、強度や熱的特性などの観点から、樹脂としては熱硬化性樹脂を含むものが好ましい。
【0014】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0015】
熱硬化性樹脂の中でもエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、アルケンオキシド類、トリグリシジルイソシアヌレートなどが挙げられる。エポキシ樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせもよい。
【0016】
本発明の樹脂分散体における樹脂の配合量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、一方、好ましくは99.5質量%以下であり、より好ましくは99質量%以下であり、更に好ましくは97質量%以下である。
後述の溶剤が配合される場合、本発明の樹脂分散体における樹脂の配合量は、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上であり、更に好ましくは3質量%以上であり、一方、好ましくは70質量%以下であり、より好ましく60質量%以下であり、更に好ましくは50質量%以下である。
【0017】
樹脂が熱硬化性樹脂の場合、本発明の樹脂分散体は、硬化剤や硬化促進剤を含んでいてもよい。
【0018】
硬化剤としては、樹脂の種類に応じて適宜選択でき、例えば、樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、フェノール樹脂系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、潜在性硬化剤(三フッ化ホウ素−アミン錯体、ジシアンジアミド、カルボン酸ヒドラジドなど)などが挙げられる。硬化剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、硬化剤は、硬化促進剤として作用する場合もある。
【0019】
硬化剤の割合は、樹脂や硬化剤の種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、樹脂100質量部に対して好ましくは0.1〜300質量部である。
【0020】
硬化促進剤も、樹脂の種類に応じて適宜選択でき、例えば、樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化促進剤としては、例えば、ホスフィン類、アミン類などが挙げられる。硬化促進剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0021】
硬化促進剤の割合は、硬化剤の種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、エポキシ樹脂100質量部に対して好ましくは0.01〜100質量部である。
【0022】
[アニオン変性セルロース繊維]
アニオン変性セルロース繊維としては、原料のセルロース繊維にアニオン性基が導入された繊維を使用することができる。原料のセルロース繊維としては、環境面から好ましくは天然セルロース繊維であり、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられる。また、アニオン性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基が好ましく、カルボキシ基がより好ましい。このようなアニオン変性セルロース繊維は、後述するアニオン性基の導入工程で得られたものを使用してもよいし、別途調製されたアニオン変性セルロース繊維を使用してもよい。
【0023】
アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基の対イオンは、実質的に、金属イオン、アンモニウムイオン及びプロトンからなる群より選択される1種以上であり、好ましくは、金属イオン及びプロトンからなる群より選択される1種以上であり、より好ましくはプロトンである。金属イオンとしては一価のカチオンが好ましく、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。
【0024】
対イオンが、「実質的に、金属イオン、アンモニウムイオン及びプロトンからなる群より選択される1種以上である」とは、アニオン変性セルロース繊維における全アニオン性基の好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上がこれらの対イオンであることを意味する。従って、アニオン変性セルロース繊維における全アニオン性基の1%を超えるアニオン性基が、かかる対イオンとは異なる対イオン、例えば有機性のカチオンである場合や、アニオン変性セルロース繊維における全アニオン性基の1%を超えるアニオン性基が別の置換基と共有結合、例えばアミド結合を介して結合している場合、そのようなアニオン変性セルロース繊維は、本発明におけるアニオン変性セルロース繊維に包含されない。
【0025】
アニオン変性セルロース繊維における金属イオン、アンモニウムイオン及びプロトンの結合量は公知の方法で測定することができる。例えば、プロトンの結合量は赤外吸収分光(IR)測定方法によって求めることができる。また、金属イオン及びアンモニウムイオンの結合量は、蛍光X線分析法などの元素分析によって求めることができる。
【0026】
アニオン変性セルロース繊維の平均アスペクト比は、製造コストの観点から、1以上であり、好ましくは5以上であり、より好ましくは20以上である。一方、樹脂成形体表面の平滑性の観点から、前記平均アスペクト比は、150以下であり、好ましくは100以下であり、より好ましくは95以下であり、更に好ましくは80以下であり、更に好ましくは75以下であり、更に好ましくは50以下であり、更に好ましくは40以下である。
【0027】
アニオン変性セルロース繊維の平均繊維長は、好ましくは50nm以上であり、一方、好ましくは300nm以下である。
【0028】
アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径は、好ましくは2nm以上であり、一方、好ましくは10nm以下である。
【0029】
アニオン変性セルロース繊維の平均アスペクト比、平均繊維長及び平均繊維径は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0030】
本発明の樹脂分散体におけるアニオン変性セルロース繊維の配合量は、セルロース繊維換算で、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上であり、更に好ましくは1質量%以上であり、一方、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下である。
後述の溶剤が配合される場合、本発明の樹脂分散体におけるアニオン変性セルロース繊維の配合量は、セルロース繊維換算で、樹脂成形体の機械的強度等の観点から、好ましくは0.02質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上であり、更に好ましくは0.08質量%以上であり、一方、好ましくは7質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下である。
【0031】
(アニオン変性セルロース繊維の結晶化度)
アニオン変性セルロース繊維の結晶化度は、得られる成形体の強度発現の観点から、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上であり、更に好ましくは20%以上である。また、原料入手性の観点から、好ましくは90%以下であり、より好ましくは85%以下であり、更に好ましくは80%以下であり、更に好ましくは75%以下である。なお、本明細書において、セルロースの結晶化度は、X線回折法による回折強度値から算出したセルロースI型結晶化度であり、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。セルロースI型結晶構造の有無は、後述の実施例に記載のX線回折測定において、2θ=22.6°にピークがあることで判定することができる。
【0032】
[アニオン変性セルロース繊維の製造方法]
アニオン変性セルロース繊維の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、原料のセルロース繊維にアニオン性基を導入する工程、セルロース繊維を微細化する工程、及びセルロース繊維のアスペクト比を小さくする工程を含む方法によって製造することができる。これらの各工程の順序は特に限定されない。また、プロトン化、イオン交換、中和等をすることによって、アニオン性基の対イオンを所望の種類に変更することができる。なお、本発明で用いられるアニオン変性セルロース繊維は、当該方法で得られたものに限定されない。
【0033】
(アニオン性基を導入する工程)
例えば、アニオン性基としてカルボキシ基を導入する場合には、公知の方法、例えば原料のセルロース繊維に対して、触媒として2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)を使用し、更に次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を併用して酸化する方法などを用いることができる。TEMPOを触媒として原料のセルロース繊維の酸化を行うことにより、セルロース構成単位のC6位の基(−CH
2OH)が選択的にカルボキシ基に変換される。なお、更に追酸化処理又は還元処理を行うことで、アルデヒドを除去してもよいし、更に精製処理を行って純度の高いカルボキシ基含有セルロース繊維を得ることもできる。アニオン性基としてスルホン酸基を導入する方法としては、原料のセルロース繊維に硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。アニオン性基としてリン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態の原料のセルロース繊維に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、原料のセルロース繊維の分散液にリン酸又はリン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。
【0034】
(微細化する工程:微細化処理工程)
セルロース繊維を微細化することにより、マイクロメータースケールのセルロース繊維をナノメータースケールに微細化することができる。微細化処理としては、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いた機械的な微細化処理などが挙げられる。
【0035】
(アスペクト比を小さくする工程:低アスペクト比化工程)
例えば、処理対象のセルロース繊維に、酸加水分解、アルカリ処理、熱水分解、酸化分解、機械処理、酵素処理、UV処理、電子線処理の1種又は2種以上を公知の方法に従って行うことで、セルロース繊維の低アスペクト比化が達成できる。
【0036】
酸加水分解の処理においては、具体的には、セルロース繊維に酸を接触させて、セルロース中のグリコシド結合を開裂させる。接触させる酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸、クエン酸等が好ましい。
【0037】
酸加水分解の処理条件としては、酸がセルロースのグリコシド結合を開裂させるような条件であれば適宜設定することができ、特に限定されない。例えば、酸の添加量としては、セルロース繊維の絶乾質量を100質量部とすると、低アスペクト比化達成の観点から、好ましくは0.01質量部以上であり、経済性及び収率向上の観点から、400質量部以下である。処理中の液pHは、低アスペクト比化達成の観点から、好ましくは4以下である。また、処理温度は、低アスペクト比化達成の観点から、好ましくは80℃以上であり、一方、好ましくは120℃以下である。また、処理時間は、低アスペクト比化達成の観点から、好ましくは0.1時間以上であり、好ましくは5時間以下である。
【0038】
熱水分解の処理においては、具体的には、セルロース繊維を水中に浸し、加熱する態様が好ましい。
【0039】
熱水分解の温度としては、低アスペクト比化達成の観点から、好ましくは50℃以上であり、低アスペクト比化達成及び分解防止の観点から、好ましくは230℃以下である。また、処理中の圧力は、セルロースの低アスペクト比化の観点から、好ましくは0.02MPa以上であり、より好ましくは0.04MPa以上であり、さらに好ましくは0.06MPa以上であり、また、同様の観点から、好ましくは0.25MPa以下であり、より好ましくは0.20MPa以下であり、さらに好ましくは0.15MPa以下である。
【0040】
また、熱水分解の処理時間は、熱分解度の観点から、好ましくは4時間以上であり、より好ましくは6時間以上であり、さらに好ましくは8時間以上である。また、処理効率の観点から、好ましくは2500時間以下であり、より好ましくは1200時間以下であり、さらに好ましくは750時間以下である。
【0041】
機械処理においては、粉砕処理が挙げられ、使用する機械としては、例えば、処理効率の観点から、好ましくは遊星ボールミルやロッドミル等の容器駆動式媒体ミルであり、より好ましくは振動ミルであり、更に好ましくは振動ロッドミルである。また、処理時間は、使用する機械の大きさにもよるが、セルロースの低アスペクト比化の観点から、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、更に好ましくは15分以上であり、経済性の観点から、好ましくは12時間以下、より好ましくは4時間以下、更に好ましくは1時間以下である。
【0042】
アルカリ処理においては、具体的には、セルロース繊維にアルカリを接触させて、セルロース中のグリコシド結合を開裂させる。接触させるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等が好ましい。
【0043】
アルカリ処理の処理条件としては、アルカリがセルロースのグリコシド結合を開裂させるような条件であれば適宜設定することができ、特に限定されない。例えば、アルカリ処理の添加量としては、セルロース繊維の絶乾質量を100質量部とすると、低アスペクト比化達成の観点から、好ましくは0.01質量部以上であり、経済性及び収率向上の観点から、400質量部以下である。処理中の液pHは、低アスペクト比化達成の観点から、好ましくは10以上である。また、処理温度は、低アスペクト比化達成の観点から、好ましくは80℃以上であり、一方、好ましくは120℃以下である。また、処理時間は、低アスペクト比化達成の観点から、好ましくは0.1時間以上であり、好ましくは5時間以下である。
【0044】
[溶剤]
得られる樹脂成形体の表面平滑性を高める観点から、本発明の樹脂分散体には、溶剤がさらに配合されることが好ましい。配合される溶剤は、有機溶剤や反応性の官能基を含む有機性媒体が挙げられ、一般的に使用されるものであれば特に限定されるものではない。
【0045】
本発明に用いられる溶剤は、樹脂成形体表面の平滑性の観点から、25℃における誘電率が好ましくは75以下であり、より好ましくは55以下であり、更に好ましくは45以下であり、好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、更に好ましくは3以上である。なお、溶剤の誘電率は、液体用誘電率計Model871(日本ルフト社製)を用い25℃にて測定することができる。
【0046】
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2−ブタノール、1−ペンタノール、オクチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;酢酸等のカルボン酸類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、流動パラフィン等の炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、アセトアニリド等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酪酸メチル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等のエステル類;ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のポリエーテル類;ポリジメチルシロキサン等のシリコーンオイル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、エステル油、サラダ油、大豆油、ヒマシ油等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0047】
また、反応性の官能基を含む有機性媒体としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸n−へキシル、メタクリル酸n−へキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸2−エチルヘキシル、フェニルグリシジルエーテルアクリレート等のアクリレート類;ヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、フェニルグリシジルエーテルアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー等のウレタンプレポリマー類;n−ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ステアリン酸グリシジルエーテル、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類;クロロスチレン、メトキシスチレン、ブトキシスチレン、ビニル安息香酸等が挙げられる。
【0048】
溶剤が配合される場合の樹脂分散体中の溶剤の配合量は、平滑性の観点から、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、更に好ましくは30質量%以上である。一方、同様の観点から、好ましくは98質量%以下であり、より好ましくは97質量%以下であり、更に好ましくは96質量%以下である。
【0049】
[その他成分]
本発明の樹脂分散体は、前記以外の他の成分として、可塑剤、結晶核剤、充填剤(無機充填剤、有機充填剤)、加水分解抑制剤、難燃剤、酸化防止剤、炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;香料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;紫外線分散剤;消臭剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。また同様に、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の高分子材料や他の樹脂組成物を添加することも可能である。
【0050】
本発明の樹脂分散体が前述の「その他成分」を含む場合、かかるその他成分の配合量は、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜設定することができる。例えば、樹脂分散体中10質量%程度以下が好ましく、5質量%程度以下がより好ましい。
【0051】
[樹脂分散体]
本発明の樹脂分散体は、それを成形して得られる樹脂成形体表面の平滑性に優れたものである。平滑性の評価は、例えば、後述の実施例に記載された方法によって樹脂成形体表面の算術平均粗さを指標として評価することができ、樹脂成形体表面の算術平均粗さが小さいほど、樹脂分散体を成形して得られる樹脂成形体表面の平滑性が優れているということができる。
【0052】
本発明の樹脂分散体は、樹脂成形体表面の平滑性に優れるため、家電部品、エレクトロニクス、航空宇宙、土木建築、自動車、車載向け用途等の分野において、樹脂成形材料、電気絶縁材料、塗料、インキ、コーティング剤、接着剤、透明樹脂材料、三次元造形材料、クッション材、補修材、粘着剤、シーリング材、断熱材、吸音材、人工皮革材料、電子材、包装材料、タイヤ、自動車部品、繊維複合材料として好適に用いることができる。
【0053】
[樹脂分散体の製造方法]
本発明の樹脂分散体は、前述の樹脂やアニオン変性セルロース繊維を、必要により、溶剤、硬化剤、硬化促進剤及び/又はその他成分と一緒に、高圧ホモジナイザーで分散処理を行うことにより、製造することができる。あるいは、これらの原料を、ヘンシェルミキサー、自転公転式攪拌機等で攪拌、あるいは密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて溶融混練することで、本発明の樹脂分散体を製造することができる。
【0054】
[樹脂成形体]
本発明の樹脂成形体は、前述の本発明の樹脂分散体を成形してなるものである。樹脂成形体は、本発明の樹脂分散体を塗工成形、押出成形、射出成形、プレス成形、注型成形又は溶媒キャスト法等の公知の成形方法を適宜用いることによって製造することができる。これらの公知の成形方法の中で、生産性の観点から、塗工成形が好ましい。
【0055】
塗工成形によって、本発明の樹脂成形体を塗膜として提供することができる。例えば、本発明の樹脂分散体を、各種基材面に所望の膜厚となるように、公知の塗布方法、例えばエアスプレー、エアレススプレー、静電塗装などにより塗装することによって塗膜としての成形体を得ることができる。また、基材面上に塗装した樹脂成形体を硬化させることで、樹脂成形体の硬化物からなる塗膜を有する塗装物品が得られる。
本発明の樹脂分散体を基材上に塗工し、樹脂を重合させたり硬化させたり、あるいは樹脂分散体が溶剤を含む場合は溶剤を揮散させること等によって塗膜が形成される。かかる塗膜は平滑性に優れた塗膜である。塗膜の平滑性の評価は、例えば、実施例に記載の方法によって評価することができる。
【0056】
樹脂成形体における樹脂の量は、配合量で換算して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、一方、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは98質量%以下であり、更に好ましくは97質量%以下である。
【0057】
樹脂成形体におけるアニオン変性セルロース繊維の量は、配合量で換算して、セルロース繊維換算で、樹脂成形体表面の平滑性の観点から、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上であり、更に好ましくは1質量%以上であり、一方、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下である。
【0058】
かくして得られた樹脂成形体は、表面の平滑性に優れることから、前記樹脂分散体で挙げられた各種用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。なお、この実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。例中の部は、特記しない限り質量部である。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「室温」とは25℃を示す。
【0060】
〔アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径〕
測定対象のセルロース繊維に水又はエタノールを加えて、その含有量が0.0001質量%の分散液を調製し、該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM、Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製、プローブはナノセンサーズ社製Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さを測定する。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を100本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出する。平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径より算出し、標準偏差も算出する。一般に、高等植物から調製されるセルロースナノファイバーの最小単位は6×6の分子鎖がほぼ正方形の形でパッキングされていることから、AFMによる画像で分析される高さを繊維の幅とみなすことができる。
【0061】
〔アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基含有量〕
乾燥質量0.5gの測定対象のセルロース繊維を100mLビーカーにとり、イオン交換水又はメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製し、測定対象のセルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5〜3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名「AUT−701」)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出する。
アニオン性基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/測定対象のセルロース繊維の質量(0.5g)
【0062】
〔アニオン変性セルロース繊維のアルデヒド基含有量〕
ビーカーに、対象のセルロース繊維100.0g(固形分含有量1.0質量%)、酢酸緩衝液(pH4.8)、2−メチル−2−ブテン0.33g、亜塩素酸ナトリウム0.45gを加え室温で16時間撹拌して、アルデヒド基の酸化処理を行う。反応終了後ろ過し、得られたケークをイオン交換水にて洗浄し、アルデヒドを酸化処理した対象のセルロース繊維を得る。反応液を凍結乾燥処理し、得られた乾燥品のアニオン性基含有量を前記測定方法で測定し、酸化処理した対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出する。続いて、式1にてアニオン変性セルロース繊維のアルデヒド基含有量を算出する。
アルデヒド基含有量(mmol/g)=(酸化処理したアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基含有量)−(アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基含有量)・・・式1
【0063】
〔分散液中の固形分含有量〕
ハロゲン水分計MOC−120H(島津製作所社製)を用いて行う。サンプル1gに対して150℃恒温で30秒ごとの測定を行い、質量減少が0.1%以下となった値を固形分含有量とする。
【0064】
〔アニオン変性セルロース繊維における結晶構造の確認〕
セルロース繊維やアニオン変性セルロース繊維の結晶構造は、回折計(リガク社製、商品名:RigakuRINT 2500VC X−RAY diffractometer)を用いて以下の条件で測定することにより確認する。
測定ペレット調製条件:錠剤成形機で10−20MPaの範囲で圧力を印加することで、面積320mm
2×厚さ1mmの平滑なペレットを調製する。
X線回折分析条件:ステップ角0.01°、スキャンスピード10°/min、測定範囲:回折角2θ=5〜45°
X線源:Cu/Kα−radiation、管電圧:40kv、管電流:120mA
ピーク分割条件:バックグラウンドノイズを除去した後、2θ=13−23°の間の誤差が5%以内に収まるようにガウス関数でフィッティングする。
また、セルロースI型結晶構造の結晶化度は上述のピーク分割により得られたX線回折ピークの面積を用いて以下の式(A)に基づいて算出する。
セルロースI型結晶化度(%)=[Icr/(Icr+Iam)]×100 (A)
〔式中、Icrは、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22−23°)の回折ピークの面積、Iamはアモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折ピークの面積を示す〕
【0065】
〔アニオン変性セルロース繊維におけるセルロース繊維(換算量)〕
アニオン変性セルロース繊維におけるセルロース繊維(換算量)は、導入されたアニオン性基の式量及びアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基含有量から算出する。
【0066】
調製例1
針葉樹の漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ社製、商品名「Machenzie」、CSF650ml)を天然セルロース繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(ALDRICH社製、Free radical、98質量%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウム及び臭化ナトリウムは市販品を用いた。
まず、前記漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分に撹拌した後、該パルプ繊維100gに対し、TEMPO1.6g、臭化ナトリウム10g、次亜塩素酸ナトリウム28.4gをこの順で添加した。自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名:AUT−701)でpHスタット滴定を用い、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保持した。反応を20℃で120分間行った。水酸化ナトリウム水溶液の滴下を停止し、得られたケークをイオン交換水を用いて十分に洗浄し、次いで脱水処理を行い、固形分含有量34.6質量%の酸化パルプを得た。
【0067】
製造例1(アニオン変性セルロース繊維の製造)
調製例1で得られた酸化パルプ1.04gとイオン交換水34.8gを混合し、高圧ホモジナイザーを用いて150MPaで酸化パルプの微細化処理を10回行い、アニオン性基としてカルボキシ基を含有した、Na塩型のアニオン変性セルロース繊維の分散液(固形分含有量:1.0質量%)を製造した。
【0068】
得られたNa塩型のアニオン変性セルロース繊維の分散液の所定量(即ち、セルロース繊維換算で10g)を、メカニカルスターラーにて室温下(25℃)、30分攪拌した。続いてこれに1M塩酸水溶液を15g投入し、室温下、1時間攪拌して反応させた。反応終了後ろ過し、ケークをイオン交換水でろ過、洗浄を行い、塩酸及び生成した塩を除去し、アニオン性基の対イオンがプロトンであるアニオン変性セルロース繊維、即ち、H型のアニオン変性セルロース繊維を得た。得られたH型のアニオン変性セルロース繊維をDMFで溶媒置換および希釈して固形分含有量1.0質量%とし、高圧ホモジナイザーを用いて、150MPaで10パス分散処理し、H型のアニオン変性セルロース繊維分散液(固形分含有量1.0質量%)を得た。得られたアニオン変性セルロース繊維の諸特性を表1に記載した。
【0069】
製造例2(アニオン変性セルロース繊維の製造:アルカリ加水分解による低アスペクト比化)
調製例1で得られた酸化パルプ144.5gを1000gのイオン交換水で希釈し、これに35%過酸化水素水を1.4g(原料セルロース繊維の絶乾質量100質量部に対して過酸化水素1質量部)加え、1M水酸化ナトリウムでpH12に調整した。次いで、2時間、80℃でアルカリ加水分解処理を行った(固形分含有量4.3質量%)。得られたケークをイオン交換水で十分に洗浄し、固形分含有量28.6質量%の低アスペクト比化された酸化パルプを得た。この酸化パルプ1.26g及びイオン交換水34.74gを混合し、更に高圧ホモジナイザーを用いて150MPaで微細化処理を10回行い、アニオン性基としてカルボキシ基を含有した、Na塩型のアニオン変性セルロース繊維の分散液(固形分含有量1.0質量%)を製造した。
【0070】
このようにして得られたNa塩型のアニオン変性セルロース繊維の分散液を使用した点以外は製造例1と同様の処理を行って、H型のアニオン変性セルロース繊維分散液(固形分含有量1.0質量%)を得た。得られたアニオン変性セルロース繊維の諸特性を表1に記載した。
【0071】
製造例3(アニオン変性セルロース繊維の製造:熱水分解による低アスペクト比化)
マグネティックスターラー、攪拌子を備えたバイアル瓶に、調製例1で得られた酸化パルプを絶乾質量で0.72g仕込み、処理液の質量が36gとなるまで、イオン交換水を添加した。処理液を90℃で24時間反応させることで、低アスペクト比化された酸化パルプの水懸濁液を得た。この酸化パルプ0.88g及びイオン交換水35.12gを混合し、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH=10に調製後、更に高圧ホモジナイザーを用いて150MPaで微細化処理を10回行い、アニオン性基としてカルボキシ基を含有した、Na塩型のアニオン変性セルロース繊維の分散液(固形分含有量1.0質量%)を製造した。
【0072】
このようにして得られたNa塩型のアニオン変性セルロース繊維の分散液を使用した点以外は製造例1と同様の処理を行って、H型のアニオン変性セルロース繊維分散液(固形分含有量1.0質量%)を得た。得られたアニオン変性セルロース繊維の諸特性を表1に記載した。
なお、製造例1〜3で得られたH型のアニオン変性セルロース繊維における、対イオンとしてのプロトンの結合量を赤外吸収分光法で測定したところ、いずれのセルロース繊維のプロトンの結合量も99%以上であった。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例1
製造例2のH型のアニオン変性セルロース繊維の所定量(即ち、セルロース繊維換算で0.034g)、エポキシ樹脂であるjER828(三菱化学社製)を3.43g、硬化剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール(和光純薬工業社製)0.17g、及びDMF29.0gを混合し、高圧ホモジナイザーを用いて、150MPaで3パス、分散処理した。得られた樹脂分散体(塗工液)をアプリケーターを用いて塗布厚1.0mmで銅箔(18μm厚、古河電気工業社製)上に塗工した。80℃で1時間乾燥させて溶媒を除去した後、150℃、1時間で熱硬化させて、樹脂分散体を成形してなる樹脂成形体(塗膜)(塗膜厚は約0.1mm)を製造した。樹脂分散体の組成等を表2に示した。
【0075】
実施例2及び比較例1
H型のアニオン変性セルロース繊維として、製造例3で得られたもの(実施例2)又は製造例1で得られたもの(比較例1)を使用した点以外は実施例1と同様の処理を行って、樹脂分散体を成形してなる樹脂成形体(塗膜)を製造した。樹脂分散体の組成等を表2に示した。
【0076】
試験例1(樹脂成形体表面の平滑性の評価:樹脂成形体(塗膜)の算術平均粗さの測定)
樹脂成形体表面に関する平滑性の評価として、得られた樹脂成形体(塗膜)の算術平均粗さを測定した。
硬化後の樹脂成形体(塗膜)の算術平均粗さは、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK−9710)を用いて以下の測定条件で測定した。即ち、対物レンズ:10倍、光量:3%、明るさ:1548、Zピッチ:0.5μmとした。算術平均粗さは、内蔵の画像処理ソフトを用いて5点測定し、その平均値を用いた。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
表2より、アニオン変性セルロース繊維の平均アスペクト比が前記に規定の上限値を超えた場合(比較例1)、塗膜の算術平均粗さが大きいこと、即ち平滑性の点で劣ることが分かった。実施例1と実施例2との結果から、アニオン変性セルロース繊維の平均アスペクト比が小さいほど、塗膜の算術平均粗さが小さいこと、即ち平滑性の点で優れることが分かった。このような高い平滑性を与えることができる本発明の樹脂分散体は、セルロース繊維にアニオン性基を導入し、かつセルロース繊維の平均アスペクト比を特定の範囲とするだけで製造することができるので、従来よりも簡潔な工程で所望の成形体を製造することができると言える。