(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-218664(P2019-218664A)
(43)【公開日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】不織布
(51)【国際特許分類】
D04H 3/011 20120101AFI20191129BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20191129BHJP
【FI】
D04H3/011
B01D39/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-118374(P2018-118374)
(22)【出願日】2018年6月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】権藤 壮彦
【テーマコード(参考)】
4D019
4L047
【Fターム(参考)】
4D019AA03
4D019BA06
4D019BA13
4D019BA17
4D019BB03
4D019BC05
4D019BC10
4D019BC11
4D019BC12
4D019BD01
4D019CA04
4D019DA02
4D019DA03
4D019DA04
4L047AA21
4L047AA29
4L047AB03
4L047AB07
4L047AB09
4L047BA08
4L047CA12
4L047CB10
4L047CC12
4L047CC15
(57)【要約】
【課題】タルクを含有させた場合に比べて透明性に遜色がなく、しかも高速紡糸性と開繊性とがより良好な不織布を得る。
【解決手段】エチレンテレフタレート系重合体によって形成された繊維により構成された不織布である。この不織布は、チタン元素を200〜1000ppm含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレート系重合体によって形成された繊維により構成された不織布であって、チタン元素を200〜1000ppm含有することを特徴とする不織布。
【請求項2】
透光率が60%以上であることを特徴とする請求項1記載の不織布。
【請求項3】
繊維量の目付けが10〜80g/m2であることを特徴とする請求項1または2記載の不織布。
【請求項4】
構成繊維の繊度が3〜15デシテックスであることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の不織布。
【請求項5】
不織布を構成する繊維の断面形状が扁平であり、その長径と短径の比が3以上であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の不織布。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の不織布にて構成されていることを特徴とする農業用資材。
【請求項7】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の不織布にて構成されていることを特徴とするフィルタ用資材。
【請求項8】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の不織布にて構成されていることを特徴とする梱包用資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不織布に関し、特に農業用資材やフィルタ用資材や梱包用資材に好適に用いることができる不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートにて形成された繊維を構成繊維とするスパンボンド不織布は、汎用的に様々な分野で用いられている。通常、スパンボンド不織布を構成するポリエチレンテレフタレートには、酸化チタンが添加されている。酸化チタンは、白色顔料としても一般的に知られており、他の顔料を含まずに酸化チタンを含むポリエチレンテレフタレートにて形成された繊維を構成繊維とするスパンボンド不織布は、白色を呈している。また、酸化チタンは、結晶核剤の役割も果たすことで知られており、ポリエチレンテレフタレートが酸化チタンを含むことにより、スパンボンド法にて不織布を製造する際に、開繊性が良好となり、また、高速紡糸の際の結晶配向促進に寄与するとも考えられている。
【0003】
しかし、不織布をたとえば農業用ハウスのカーテンに用いる場合には、白色を呈しているスパンボンド不織布では、ハウスの内部が隠蔽されるため、太陽光等の光をハウス内へ十分取り込めず作物の生育の進みが遅れるのみならず、作物の生育状態やその他のハウス内の状況を目視にて確認しにくい。かと言って、繊維に酸化チタンを添加しないと、不織布の透明性は向上するものの、開繊性が不良となる。
【0004】
この対策として、特許文献1には、不織布の構成繊維を形成するためのエチレンテレフタレート系重合体として、酸化チタンを含有せず、タルクを含有しているものが開示されている。酸化チタンの代わりにタルクを含有させることで、所要の透明性を確保したうえで、開繊性や紡糸性も満足なものとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−255528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、タルクを含有させた場合に比べて透明性に遜色がなく、高速紡糸性を有するとともに、開繊性がより良好な不織布を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の事項を要旨とするものである。
【0008】
(1) エチレンテレフタレート系重合体によって形成された繊維により構成された不織布であって、チタン元素を200〜1000ppm含有することを特徴とする不織布。
【0009】
(2)透光率が60%以上であることを特徴とする(1)の不織布。
【0010】
(3)繊維量の目付けが10〜80g/m
2であることを特徴とする(1)または(2)の不織布。
【0011】
(4)構成繊維の繊度が3〜15デシテックスであることを特徴とする(1)から(3)までのいずれかの不織布。
【0012】
(5)不織布を構成する繊維の断面形状が扁平であり、その長径と短径の比が3以上であることを特徴とする(1)から(4)までのいずれかの不織布。
【0013】
(6)上記(1)から(5)までのいずれかの不織布にて構成されていることを特徴とする農業用資材またはフィルタ用資材または梱包用資材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、不織布を構成する繊維が、エチレンテレフタレート系重合体によって形成されるとともに、チタン元素を200〜1000ppm含有することで、所要の透明性を確保することができ、しかも不織布を製造する際の開繊性が良好となり、地合いの良い不織布を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の不織布は、その構成繊維がエチレンテレフタレート系重合体によって形成される。エチレンテレフタレート系重合体としては、ポリエチレンテレフタレートや、エチレンテレフタレート単位に他の酸成分やジオール成分が共重合しているもの等が挙げられる。耐熱性等の観点より、エチレンテレフタレート単位が80モル%以上であることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。この重合体は、エチレングリコール等のグリコール類や、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸を、共重合していてもよい。
【0016】
エチレンテレフタレート系重合体は、酸化チタンを200〜1000ppm含有する。タルクは実質的に含有しない。酸化チタンの含有割合をこの範囲とすることで、所要の透明性を確保し、不織布を製造するときの開繊性が良好となって、地合いの良い不織布を得ることができる。酸化チタンの含有割合が200ppm未満であると、十分な開繊性を達成することができない。このため、たとえば酸化チタンの含有割合が100ppm程度であると、地合いが不良でムラを有する不織布しか得られない。詳細には、タルクを含有させると溶融紡糸した繊維が迅速に冷却することになり、そのために良好な開繊性を得ることができると思われる。これに対し、酸化チタンを200ppm以上含有させた場合は、溶融紡糸した繊維が電荷を帯びやすいと思われ、そのため帯電作用によりタルクを含有させた場合に比べていっそう良好な開繊性を得ることが可能である。反対に酸化チタンの含有割合が1000ppmを超えると、白色顔料である酸化チタンの影響により、透明性が低下し、また透光率も低下してしまう。よって、酸化チタンの含有割合が1000ppm以下であることで、所要の透明性を確保し、60%以上の透光率を得ることができる。
【0017】
本発明の不織布は、上記のようにJISに規定される透光率が60%以上であることが好ましい。すなわち、本発明の不織布は農業用ハウスのカーテンとして好適に使用することができるが、そのときに透光率が60%以上であることにより、太陽光等の光をハウス内へ十分取り込むことができて作物の生育を促進することができ、しかもハウスの内部を良好に視認することができて、作物の生育状態やその他のハウス内の状況を容易に確認することが可能である。
【0018】
本発明の不織布における繊維量の目付は、すなわち後述のような含浸やコーティングされたバインダー樹脂を含まない、繊維量だけの目付は、10〜80g/m
2であることが好ましい。目付が10g/m
2未満であると、十分な透光性が得られるが、機械的特性が低く加工性に劣りやすくなるだけでなく、繊度によっては通気性が高くなりすぎることもある。このため、不織布を農業用ハウスのカーテンとして用いる場合などにおいて、十分な保温性が得られにくくなる。また、目付が80g/m
2を超えると、繊度が高くても繊維数が多く厚みも増すため十分な透光率を得にくくなる。これらの理由からより好ましくは20〜70g/m
2であり、さらに好ましくは30〜60g/m
2である。
【0019】
本発明の不織布を構成する繊維の繊度は、3〜15デシテックスであることが好ましい。構成繊維の繊度が3デシテックス未満となると、構成繊維が細くなり光の乱反射が増して、透光率が低下しやすくなる。反対に繊度が15デシテックスを超えると、紡糸安定性が低下しやすくなる。これらの理由からより好ましくは5〜15デシテックスであり、さらに好ましくは7〜13デシテックスである。
【0020】
本発明の不織布は、スパンボンド法で製造された熱圧接不織布であることが好適である。熱圧接不織布でない場合、例えばニードルパンチ不織布では、構成繊維同士が三次元的に交絡したものであるため、不織布の厚みが嵩み、乱反射が増加して透光率が低下するため好ましくない。熱圧接不織布における、その圧接面積率は、不織布の機械的物性や所望の透明性確保の観点から5〜50%が好ましい。
【0021】
本発明の不織布を構成する繊維の断面は、上述した性能が満たされていれば特に限定するものではないが、断面形状が扁平であり、その長径と短径の比(長径/短径)が3以上であることが好ましい。ここにいう「扁平」とは、楕円形を含む概念である。この比が3未満であると、扁平度が低く光があたった時に乱反射が増え、結果として透光率が低下しやすくなる。一方で、この比が20を超えると、繊維断面の異形の度合いが高すぎて繊維の紡糸安定性が損なわれやすくなる。このことから、繊維断面の長径と短径の比は4〜16がより好ましい。反対に繊維断面形状が例えば丸(中空含む)である場合は、扁平形状に比べ使用時に毛羽が立ちやすいため、外観上あまり良くない。一方、扁平以外の異形断面は、光があたった時に乱反射が増え結果として透光率が低下するため好ましくない。
【0022】
特に、本発明の不織布が農業用ハウスのカーテンとして使用される場合であって、植付け作物よりも上側かつ天井板よりも下側の位置に設置される内張りカーテンとして使用されるときには、採光を目的として透光率を向上させるために、扁平である断面形状の長径と短径の比(長径/短径)が4以上であることが好ましい。この比をこの範囲に設定することで、上記のように透光率を向上させることができるうえに、空気の通路が狭くなって通気度を下げやすくすることができる。
【0023】
本発明の不織布は、所要の機械的特性を得るために、繊維同士の熱圧接により一体化した後に、バインダー樹脂等を含浸および、またはコーティングされていることが好ましい。熱圧接のみによる一体化では、場合によっては、その機械的特性を得るために高温での圧接により圧接強度を高くすることが必要になることがあり、その結果として繊維に与えるダメージが大きく破れやすくなり耐久性に劣ることが起こり得る。このためバインダー樹脂等を含浸および、またはコーティングする場合は、その熱圧接温度は、比較的低めの、(不織布を構成する重合体の融点−30)℃から(その融点−100)℃が良い。用いるバインダー樹脂は、特に限定しないが、アクリル系、エステル系、EVA、ポバール等を挙げることができる。不織布の構成繊維を形成するためのエチレンテレフタレート系重合体と屈折率が近いものが好ましい。なお、バインダー樹脂等を含浸および、またはコーティングすることで、上述した通気度をより低く抑えることが可能である。
【0024】
本発明の不織布は、上述の性能が得られれば、長繊維不織布であっても短繊維不織布であっても良い。しかし、短繊維不織布は繊維端部が多く存在することから透光率の低下が懸念され、生産工程も長く、機械的特性も長繊維不織布に及ばない。このため、上述のように長繊維不織布であるスパンボンド不織布であることがより好ましい。
【0025】
なお、本発明の効果を奏する範囲内において、不織布への要求性能にもとづいて、防炎剤、消臭剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0026】
本発明の不織布は、塩化ビニールやポリオレフィン系等の樹脂フィルムと貼り合わせて、農業用ハウスのカーテンを構成することができる。このような貼り合わせ構造のカーテンは、特に農業用ハウスの側面と妻面とに好ましく用いることができ、不織布を作物側すなわちハウスの内面側に配置して用いることが好適である。そうすることで、結露が発生した場合には、その結露を保持して作物に悪影響が及ばないようにすることができる。また保温性を一段と向上することができる。さらに結露した水分を迅速に蒸散させることもできる。
【0027】
本発明の不織布は、ティーバッグなどのためのフィルタ用資材とすることができる。透光率が高いために、たとえば袋状に形成されたフィルタの内部を視認することができ、それによって、利用者が高級な茶葉を視認することができるなどの効果がある。
【0028】
本発明の不織布は、梱包用資材とすることもできる。梱包用資材として、たとえば包装用ラツピング材を挙げることができる。これにより、ラップした物を外部から見ることができる。
【0029】
本発明の不織布は、一般的に公知のスパンボンド法により得ることができる。より具体的には、溶融紡糸した糸条をエアーサッカーで高速で牽引・細化して、次いで帯電・開繊させた後、移動捕集面上に堆積させて不織ウェブとし、その不織ウェブに熱圧接を施して構成繊維同士を一体化させて不織布を製造することができる。この製造工程において、エチレンテレフタレート系重合体が酸化チタンを200〜1000ppm含有することで、高速紡糸性と良好な開繊性とをともに実現することができる。詳細には、高速紡糸性として紡糸速度4000m/分以上で良好に連続操業が可能であり、また開繊性として繊維同士の密着が見られず、均一で地合いの良好な不織布を得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下の実施例・比較例における各特性値は、次のようにして求めた。
【0031】
(1)ポリエチレンテレフタレートの相対粘度(ηrel):フェノールと四塩化エタンとの当質量混合溶媒100ccに試料0.5gを溶解し、温度20℃の条件で測定した。
【0032】
(2)構成繊維の長径/短径比:顕微鏡にて繊維の断面を10本観察し、それぞれの繊維についてその長径と短径を測定して、長径と短径との比を算出し、その平均値を長径/短径比とした。
【0033】
(3)構成繊維の繊度(デシテックス):SEARCH CO.LTD製の「DENICON DC−21」を使用し、試料長25mmで、試料10本について測定し、その平均値を繊度(デシテックス)とした。
【0034】
(4)目付(g/m
2):JIS L 1913に基づき測定した。
【0035】
(5)透光率(%):JIS L 1906の5.10に準じ、光源の照度を2000lxとして、試料数N=5の平均値を透光率(%)とした。
【0036】
(6)チタン含有量:ICP発光測定装置を用いて、ポリエステル繊維中のチタン元素含有量を測定した。
【0037】
(7)地合い評価:比較例2をブランクとした時にどちらの地合いが美しいかで評価した。評価方法は、10人で観察し、比較例2よりも美しいと思うかどうかを官能評価し、美しいと思う試験者の人数により下記の基準で評価した。
〇・・・10人中7人以上が美しいと思った
△・・・10人中3人以上7人未満が美しいと思った
×・・・10人中3人未満(0人を含む)が美しいと思った
【0038】
(実施例1)
重合触媒に三酸化アンチモンを用い、融点255℃、相対粘度1.41としたポリエチレンテレフタレート(PET)を得た。このPETを溶融紡糸した。この時、樹脂中に、二酸化チタンをチタンの含有割合が380ppmとなるように混合した。
【0039】
繊維断面が楕円(扁平)形(長径/短径=10/1)となる紡糸口金を通して、長繊維を溶融紡出した。単孔吐出量は、5.5g/分に設定した。溶融紡出した糸状を、エアーサッカーにて紡糸速度5000m/分で牽引・細化し、公知の帯電式の開繊器を用いて開繊させ、移動する捕集面上に堆積させて、単繊維繊度11デシテックスで長径/短径比が5である長繊維が堆積してなる長繊維ウエブを得た。次いで、この長繊維ウエブを、200℃に加熱された彫刻ロール(織目柄)と平滑ロールとを備えたエンボス装置に通し、ウエブに熱圧着部を形成させて、目付30g/m
2の長繊維不織布を得た。
【0040】
(比較例1)
実施例1と比べて、チタンの含有量を100ppmに変更した。そして、それ以外は実施例1と同様の条件で、目付30g/m
2の長繊維不織布を得た。
【0041】
(比較例2)
実施例1と比べて、チタンの含有量を0ppmに変更した。すなわち、チタンを含有しない構成とした。そして、それ以外は実施例1と同様の条件で、目付30g/m
2の長繊維不織布を得た。
【0042】
(比較例3)
実施例1と比べて、チタンの含有量を3800ppmに変更した。そして、それ以外は実施例1と同様の条件で、目付30g/m
2の長繊維不織布を得た。
【0043】
実施例1、比較例1〜3の不織布の物性を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1から明らかなように、実施例1の不織布は、良好な透光率と、良好な開繊性とを兼備した地合いの良好なものであった。
【0046】
これに対し、比較例1の不織布は、チタン元素の含有量が100ppmと本発明の範囲未満であったため、透光率は78%と良好であったものの、地合いに劣るものであった。すなわち、得られた不織布は、斑があって繊維が均一に存在しているものではなく、地合いに劣るものであり、開繊性に劣っていた。
【0047】
比較例2は、チタン元素を全く含有しなかったため、開繊性に著しく劣り、所要のウエブを得ることができなかった。
【0048】
比較例3の不織布は、チタン元素の含有量が3800ppmと本発明の範囲を大きく超えていたため、透光率が劣っていた。