【解決手段】制振構造100は、上下に間隔をあけて配置され柱12に鉄骨120の端部122がピン接合された鉄骨鉄筋コンクリート梁110と、上下の鉄骨鉄筋コンクリート梁110の鉄骨120にそれぞれ接合された上下一対の架台50と、上下一対の架台50に固定された制振壁70と、を備えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2のように、上下階の梁が鉄骨造の場合は、梁の曲げ変形が大きくなり、上下の梁の水平方向の相対変位が小さくなる。このため制振壁の変形が小さくなり、本来、制振壁が有する制振性能を十分に発揮できない。よって、この点において改善の余地がある。
【0006】
一方、上下階の梁が鉄筋コンクリート造の梁の場合は、鉄骨造の梁よりも曲げ変形が小さいので、上下の梁の水平方向の相対変位は大きく、その分、制振壁の変形が大きくなる。しかし、鉄筋コンクリート造の梁の場合は、この制振壁の大きな変形による減衰力に耐え得るように、制振壁の上端及び下端が固定された架台を、梁に貫通させたPC鋼棒で接合している(
図4参照)。よって、施工性が悪く、この点において改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記事実に鑑み、施工性を向上させつつ、制振壁の変形を大きくすることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、上下に間隔をあけて配置され、柱又は前記柱から突出する梁端部に鉄骨の端部がピン接合された鉄骨鉄筋コンクリート梁と、上下の前記鉄骨鉄筋コンクリート梁の前記鉄骨にそれぞれ接合された上下一対の架台と、上下一対の前記架台に固定された制振壁と、を備えた制振構造である。
【0009】
請求項1に記載の発明では、制振壁を固定する架台を鉄骨鉄筋コンクリート梁の鉄骨に接合することで、鉄筋コンクリート梁に貫通させたPC鋼棒で架台を鉄筋コンクリート梁に接合する場合と比較し、施工が容易である。
【0010】
また、鉄骨鉄筋コンクリート梁とすることで、鉄骨梁又は鉄筋コンクリート梁と比較し、剛性が大きくなるので、梁の曲げ変形が小さくなり、その結果、上下の架台の相対変位量が大きくなり、制振壁の変形が大きくなる。
【0011】
更に、鉄骨鉄筋コンクリート梁の鉄骨の端部をピン接合にすることで、剛接合よりも曲げ変形が抑制され、制振壁の変形が大きくなる。
【0012】
また、鉄骨鉄筋コンクリート梁の鉄骨を柱から突出する梁端部にピン接合にした場合は、更に制振壁の変形が大きくなる。
【0013】
請求項2の発明は、前記鉄骨鉄筋コンクリート梁を構成する鉄筋コンクリート梁の端部と、前記柱又は前記梁端部との間には、隙間が形成されている、請求項1に記載の制振構造である。
【0014】
請求項2に記載の発明では、鉄骨鉄筋コンクリート梁を構成する鉄筋コンクリート梁の端部と、柱又は梁端部との間には、隙間が形成されているので、鉄骨鉄筋コンクリート梁の端部が、隙間の範囲において自由に回転することができる。よって、鉄骨鉄筋コンクリート梁の曲げ変形が更に抑制され、制振壁の変形が更に大きくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、施工性を向上させつつ、制振壁の変形を大きくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第一実施形態>
本補発明の第一実施形態の制振構造について説明する。
[構造]
先ず、本実施形態の制振構造の全体構造について説明する。
【0018】
図1に示す本実施形態の制振構造100は、架構10に適用され、上下に間隔をあけて配置された鉄骨鉄筋コンクリート梁110と、上下の鉄骨鉄筋コンクリート梁110を構成する鉄骨120に接合された上下一対の架台50と、上下一対の架台50に固定された制振壁70と、を備えている。
【0019】
図1及び
図5に示すように、架構10は、左右に間隔をあけて配置された鉄筋コンクリート造の柱12と、前述した鉄骨鉄筋コンクリート梁110と、で構成されている。鉄骨鉄筋コンクリート梁110は、鉄筋コンクリート梁112に梁方向に沿って前述の鉄骨120が埋設された構造となっている。鉄筋コンクリート梁112(鉄骨鉄筋コンクリート梁110)を構成する梁主筋114の端部には、円盤状の定着板116が設けられている。なお、定着板116は、ネジ式鉄筋の端部に螺合させたナットや鉄筋の端部に圧接等にて接合したボルトに螺合させたナット等である。
【0020】
鉄骨鉄筋コンクリート梁110の鉄骨120の端部122には、接合部材124が接合され、この接合部材124は柱12に埋設されたアンカーボルト14にボルト締結されている。よって、鉄骨鉄筋コンクリート梁110の鉄骨120の端部122は、柱12にピン接合されている。
【0021】
ここで、前述のように、鉄骨鉄筋コンクリート梁110の鉄骨120の端部122は、柱12にボルト締結されているので、完全なピン接合でなく、半剛接や非完全剛接等である。しかし、建築分野において、ボルト締結は、構造計算上、ピン接合とされている。なお、このことは、後述する第二実施形態でも同様である。
【0022】
鉄骨鉄筋コンクリート梁110の端部110Aにおけるピン接合された鉄骨120の端部122を除く部位、つまり鉄筋コンクリート梁112の端部112Aと柱12との間には、隙間102が形成されている。この隙間102には、ゴム等の弾性材、発泡材及びシール材等で構成された充填部材が挿入されている。
【0023】
図1に示すように、鉄骨鉄筋コンクリート梁110の鉄骨120の長手方向の中間部には、鋼製の架台50が接合されている。なお、本実施形態では、鉄骨120と架台50とは、溶接によって剛接合されているが、溶接に限定されるものではない。上下の架台50には、リブ付き鋼板で構成された制振壁70がスライスプレートを介してボルト締結されている。なお、制振壁70は、どのような構成であってもよく、例えば低降伏点鋼や粘弾性体等で構成されていてもよい。
【0024】
[作用及び効果]
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0025】
地震等で架構10の外力が加わり変形すると、上下一対の架台50が左右にずれ、これにより制振壁70が変形する(
図3(B)を参考)。制振壁70が変形することで、減衰力が発揮され、架構10が制振される。
【0026】
制振壁70を固定する架台50を鉄骨鉄筋コンクリート梁110の鉄骨120に接合することで、
図4に示す比較例のように鉄筋コンクリート梁300に貫通させたPC鋼棒302で制振壁70を固定する架台51を鉄筋コンクリート梁300に接合する場合と比較し、施工が容易である。
【0027】
また、鉄骨鉄筋コンクリート梁110とすることで、鉄筋コンクリート梁300や鉄骨梁(図示略)と比較し、梁の剛性が大きくなるので、梁の曲げ変形が小さくなり、その結果、上下の架台50の相対変位量(
図3(B)のδ2)が大きくなり、制振壁70の変形が大きくなる。
【0028】
更に、鉄骨鉄筋コンクリート梁110の鉄骨120の端部122をピン接合にすることで、剛接合よりも曲げ変形が抑制され、制振壁70の変形が大きくなる。
【0029】
そして、このように制振壁70の変形が大きくなると、減衰力が大きくなり、制振効果が増大する。
【0030】
また、鉄骨鉄筋コンクリート梁110の端部110Aにおけるピン接合された鉄骨120の端部122を除く部位、つまり鉄筋コンクリート梁112の端部112Aと柱12と間には、隙間102が形成されている。よって、鉄骨鉄筋コンクリート梁110の端部110Aが隙間102の範囲において自由に回転するので、隙間102が形成されていない場合と比較し、鉄骨鉄筋コンクリート梁110の曲げ変形がより確実に抑制される。
【0031】
なお、この隙間102に挿入されている充填部材106は、ゴム等の弾性材、発泡材及びシール材等で構成されているので、鉄骨鉄筋コンクリート梁110の端部110Aの自由な回転を妨げない。
【0032】
なお、鉄骨鉄筋コンクリート梁110の鉄骨120の端部122をピン接合にすることで、剛接合よりも曲げ変形が抑制され、制振壁70の変形が大きくなることについては、後述する第二実施形態で説明する。
【0033】
<第二実施形態>
本発明の第二実施形態の制振構造について説明する。なお、第一実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する。
[構造]
先ず、本実施形態の制振構造の全体構造について説明する。
【0034】
図2に示す本実施形態の制振構造200は、架構11に適用され、上下に間隔をあけて配置された鉄骨鉄筋コンクリート梁210と、上下の鉄骨鉄筋コンクリート梁210の鉄骨220に接合された上下一対の架台50と、上下一対の架台50に固定された制振壁70と、を備えている。
【0035】
図2及び
図6に示すように、架構11は、左右に間隔をあけて配置された鉄筋コンクリート造の柱12と、梁201と、で構成されている。梁201は、前述した鉄骨鉄筋コンクリート梁210と、鉄筋コンクリート造の梁端部250と、で構成されている。梁端部250は、柱12と一体となって構成されており、梁主筋252の端部には、定着板254が設けられている。
【0036】
鉄骨鉄筋コンクリート梁210は、鉄筋コンクリート梁212に梁方向に沿って前述の鉄骨220が埋設された構造となっている。鉄筋コンクリート梁212(鉄骨鉄筋コンクリート梁210)を構成する梁主筋114の端部には、定着板116が設けられている。
【0037】
鉄骨鉄筋コンクリート梁210の鉄骨220の端部222には、接合部材124が接合され、この接合部材124は梁端部250に埋設されたアンカーボルト14にボルト締結されている。よって、鉄骨鉄筋コンクリート梁210の鉄骨220の端部222は、梁端部250にピン接合されている。
【0038】
鉄骨鉄筋コンクリート梁210の端部210Aにおけるピン接合された鉄骨220の端部222を除く部位、つまり鉄筋コンクリート梁212の端部212Aと梁端部250との間には、隙間102が形成されている。この隙間102には、ゴム等の弾性材、発泡材及びシール材等で構成された充填部材が挿入されている。
【0039】
図2に示すように、鉄骨鉄筋コンクリート梁210の鉄骨220の長手方向の中間部には、鋼製の架台50が接合されている。上下の架台50には、制振壁70が固定されている。
【0040】
[作用及び効果]
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0041】
第一実施形態と同様に、地震等で架構11の外力が加わり変形すると、上下一対の架台50が左右にずれ、これにより制振壁70が変形する(
図3(C)を参照)。制振壁70が変形することで、減衰力が発揮され、架構11が制振される。
【0042】
制振壁70を固定する架台50を鉄骨鉄筋コンクリート梁210の鉄骨220に接合することで、
図4に示す比較例のように鉄筋コンクリート梁300に貫通させたPC鋼棒302で制振壁70を固定する架台51を鉄筋コンクリート梁300に接合する場合と比較し、施工が容易である。
【0043】
また、鉄骨鉄筋コンクリート梁210とすることで、鉄筋コンクリート梁300や鉄骨梁(図示略)と比較し、梁の剛性が大きくなるので、梁の曲げ変形が小さくなり、その結果、上下の架台50の相対変位量(
図3(C)のδ3)が大きくなり、制振壁70の変形が大きくなる。
【0044】
また、鉄骨鉄筋コンクリート梁210の鉄骨220の端部222をピン接合にすることで、剛接合よりも曲げ変形が抑制され、制振壁70の変形が大きくなる。
【0045】
なお、鉄骨鉄筋コンクリート梁210を構成する鉄筋コンクリート梁212の端部212Aと梁端部250との間には、隙間102が形成されている。よって、鉄骨鉄筋コンクリート梁210の端部210Aが隙間102の範囲において自由に回転するので、隙間102が形成されていない場合と比較し、鉄骨鉄筋コンクリート梁210の曲げ変形がより確実に抑制される。
【0046】
更に、本実施形態の制振構造200では、鉄骨鉄筋コンクリート梁210の鉄骨220を柱12から突出する梁端部250にピン接合にしたので、制振壁70の変形が更に大きくなる。
【0047】
ここで、「第一実施形態の制振構造100のように鉄骨鉄筋コンクリート梁110の鉄骨120の端部122を柱12にピン接合にすることで制振壁70の変形が大きくなる」についてと、「第二実施形態の制振構造200のように鉄骨鉄筋コンクリート梁210の鉄骨220を柱12から突出する梁端部250にピン接合することで制振壁70の変形が更に大きくなる」についてと、を説明する。
【0048】
図3(A)は第一実施形態と同じ鉄骨鉄筋コンクリート梁110の端部110Aが柱12に剛接合されている比較例の制振構造90が適用された架構9の変形状態のモデル図である。
【0049】
図3(B)は鉄骨鉄筋コンクリート梁110が端部110A(正確には、鉄骨120の端部122(
図1及び
図5を参照))が柱12にピン接合されている第一実施形態の制振構造100が適用された架構10の変形状態のモデル図である。
【0050】
図3(C)は鉄骨鉄筋コンクリート梁210の端部210A(正確は、鉄骨220の端部222(
図2及び
図6))が柱12から突出する梁端部250にピン接合されている第二実施形態の制振構造200が適用された架構11の変形状態のモデル図である。
【0051】
図3(A)の比較例の制振構造90の場合、鉄骨鉄筋コンクリート梁110の端部110Aが柱12に剛接合されているので、鉄骨鉄筋コンクリート梁110全体が湾曲する。そして、鉄骨鉄筋コンクリート梁110における上下の架台50が接合された部位の水平との角度はθ1であり、上下の架台50の水平方向の相対変位量はδ1である、
【0052】
これに対して、
図3(B)の第一実施形態の制振構造100の場合、鉄骨鉄筋コンクリート梁110の端部110Aが柱12にピン接合されているので、計算上、鉄骨鉄筋コンクリート梁110は湾曲しない。鉄骨鉄筋コンクリート梁110における上下の架台50が接合された部位の水平との角度はθ2であり、上下の架台50の水平方向の相対変位量はδ2である。
【0053】
また、
図3(C)の第二実施形態の制振構造200の場合は、鉄骨鉄筋コンクリート梁210の端部210Aはピン接合されているので、計算上、鉄骨鉄筋コンクリート梁210は湾曲しない。また、鉄骨鉄筋コンクリート梁210の端部210Aは、柱12から突出する梁端部250にピン接合されている。よって、鉄骨鉄筋コンクリート梁210における上下の架台50が接合された部位の水平との角度はθ3であり、上下の架台50の水平方向の相対変位量はδ3である。
【0054】
なお、架台50、51の水平方向の相対変位量が大きいほど、制振壁70の変形が大きくなる。
【0055】
そして、コンピュータシミュレーション等による解析結果から、θ1<θ2<θ3で、δ1<δ2<δ3であることが確認された。よって、第一実施形態の制振構造100のように鉄骨鉄筋コンクリート梁110の鉄骨120の端部122を柱12にピン接合することで制振壁70の変形が大きくなり、第二実施形態の制振構造200のように鉄骨鉄筋コンクリート梁210の鉄骨220を柱12から突出する梁端部250にピン接合することで制振壁70の変形が更に大きくなることが確認された。
【0056】
ここで、別の観点から本発明を説明する。
【0057】
上記実施形態の鉄骨鉄筋コンクリート造梁110、210は、比較例の鉄筋コンクリート造梁300と同様に、曲げ変形が小さく、上下の鉄骨鉄筋コンクリート造梁110、210の水平方向の相対変位が大きいので、制振壁70の変形が大きくなる。よって、制振壁70の大きな変形から生じる大きな減衰力に耐え得るように、制振壁70を鉄骨鉄筋コンクリート造梁110、210に接合する必要がある。しかし、前述の比較例のように、PC鋼棒302で制振壁70を固定する架台51を鉄筋コンクリート梁300に接合する構造は、施工性が悪い。
【0058】
そこで、上記実施形態では、制振壁70の大きな減衰力に耐え得るように、鉄骨鉄筋コンクリート造梁110、210の鉄骨120、220に架台50を接合すると共に端部110A、120Aをピン接合にしている。これにより、制振壁70が鉄骨鉄筋コンクリート造梁110、210に減衰力に耐え得るように接合されると共に、架台50の水平方向の相対変位量が更に増加、すなわち制振壁70が更に大きく変形する構造となっている。そして、このように架構10の構面に制振壁70を設けることで、制振壁70の制振性能を効果的に引き出し、架構10の振動を効果的に減衰し抑制している。
【0059】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。