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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-218864(P2019-218864A)
(43)【公開日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】火花点火式内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02B 23/10 20060101AFI20191129BHJP
【FI】
   F02B23/10 310B
   F02B23/10 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-114428(P2018-114428)
(22)【出願日】2018年6月15日
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冬頭 孝之
【テーマコード(参考)】
3G023
【Fターム(参考)】
3G023AA01
3G023AB01
3G023AC04
3G023AD02
3G023AD06
(57)【要約】
【課題】燃焼室内にタンブル流を形成する内燃機関であって、形成された初期火炎の燃焼室壁面への接触が抑制され、混合気の着火性能が向上した内燃機関を提供する。
【解決手段】内燃機関10は、燃焼室12の頂面に配置された2つの吸気弁20及び2つの排気弁24と、燃焼室12の頂面において、2つの吸気弁20及び2つの排気弁24によって囲まれた位置に配置された点火栓30と、を備え、燃焼室12の上方において吸気弁20側から排気弁24側に向かって流れるタンブル流が形成される。内燃機関10は、燃焼室12の頂面において、2つの吸気弁20及び点火栓30によって囲まれた位置に配置された突起部40を更に備える。突起部40は、タンブル流の向きを燃焼室12の頂面から離間する方向に整流する整流面42を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンと、
前記ピストンとともに燃焼室を形成するシリンダと、
前記燃焼室の頂面に配置された2つの吸気弁及び2つの排気弁と、
前記燃焼室の頂面において、前記2つの吸気弁及び前記2つの排気弁によって囲まれた位置に配置された点火栓と、を備え、
前記燃焼室の上方において前記吸気弁側から前記排気弁側に向かって流れるタンブル流が形成される、
火花点火式内燃機関であって、
前記燃焼室の頂面において、前記2つの吸気弁及び前記点火栓によって囲まれた位置に配置された突起部を更に備え、
前記突起部は、前記タンブル流の向きを前記燃焼室の頂面から離間する方向に整流する整流面を有する、
火花点火式内燃機関。
【請求項2】
前記突起部は、前記整流面の前記燃焼室の上方を流れる前記タンブル流の向きに沿った2つの辺のそれぞれに、前記整流面から前記ピストンに向かって突出し、且つ、前記燃焼室の上方における前記タンブル流の向きに沿って延在する側壁部を有する、請求項1に記載の火花点火式内燃機関。
【請求項3】
前記整流面の前記点火栓側の端縁における接線が前記シリンダの中心軸に直交する平面に対してなす角度をθとし、前記端縁と前記点火栓の中心電極及び接地電極で形成される放電ギャップの中点とを結ぶ直線が前記平面に対してなす角度をθcとするとき、θc−5°≦θ≦θc+5°を満たす、請求項1又は2に記載の火花点火式内燃機関。
【請求項4】
前記側壁部の前記点火栓側の端縁の前記燃焼室の頂面からの高さh2と、前記整流面の前記点火栓側の端縁の前記燃焼室の頂面からの高さh1とが、h2/h1≦2.5を満たす、請求項2に記載の火花点火式内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関し、特に、複数の吸気弁及び複数の排気弁を備え、燃焼室内にタンブル流を形成する火花点火式内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁碍子によって絶縁保持された中心電極と接地電極との間に電圧を印加することによって火花を発生させる火花点火式内燃機関において、燃焼室内にタンブル流と称される混合気の気流を形成することで、混合気の着火性を向上させる技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、吸入空気の順タンブル流により成層混合気が形成される直噴火花点火機関において、インジェクタ及び点火プラグの各挿入孔の間のシリンダヘッド内壁面上に燃焼室内に突出する案内壁を備え、この案内壁は、順タンブル流の点火プラグへ向かう空気の流れに対する対向面がシリンダヘッド内壁面から滑らかに続く、直噴火花点火機関が記載されている。
【0004】
特許文献2には、内燃機関の燃焼室の上壁面の中央部に設けられた点火プラグを備え、燃焼室において、シリンダ軸方向の旋回流であるタンブル流が形成される火花点火式内燃機関の燃焼室構造であって、上壁面に凸設され、燃焼室の中央部を流れる気流を周囲に分散させつつ燃焼室の吸排気方向にガイドするガイド部を設けた、火花点火式内燃機関の燃焼室構造が記載されている。
【0005】
特許文献3には、ペントルーフ型の燃焼室と、吸気弁と、排気弁と、点火プラグとを備え、点火時に放電ギャップを通過する気流として、一方のルーフ側から他方のルーフ側に向かう気流が生成される内燃機関であって、一対のルーフの少なくとも一方の壁面もしくはハウジングに設けられ、点火時に放電ギャップを通過する気流の方向を基準方向に対して傾斜した方向に曲げる気流案内部材を更に備える、火花点火式内燃機関が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−175318号公報
【特許文献2】特開2004−044427号公報
【特許文献3】特開2015−124662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の内燃機関において点火プラグの放電により初期火炎(火炎核)が形成された場合に、形成された初期火炎が燃焼室内を流れるタンブル流とともに移動してペントルーフ壁等の燃焼室壁面に衝突すると、初期火炎の失火若しくは成長が抑制し、着火性が低下することが知られている。この現象は、燃焼室内の流れが強い高タンブル流を用いる内燃機関において生じやすい傾向にあるとされている。
【0008】
特許文献1には、気流方向を斜め横方向に変更させる気流案内部材を設けることにより、初期火炎の燃焼室の天井面への接触を抑制させる技術が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、タンブル流が強い場合、当該気流案内部材により向きが変更された斜めの流れが直進する流れに押し負けて向きを変えられ、初期火炎が燃焼室の壁面等に衝突しやすくなるという問題がある。
【0009】
特許文献2及び3にはいずれも、点火プラグの電極部に対して燃焼室内を流れる気流の上流側に当該気流を案内する案内壁を設ける技術が記載されている。しかしながら、特許文献2及び3に記載の技術は、当該案内壁により気流を左右に振り分けることを特徴とするものであり、点火プラグで形成された初期火炎の壁面衝突を回避する作用は得られない。また特許文献2に記載の技術は、気流を左右に振り分けて点火プラグ近傍に混合気を滞留させることを狙いとしており、点火プラグ近傍の流速が遅くなるため、火花放電を気流によって伸長させる効果が得られない。
【0010】
本発明の課題は、燃焼室内にタンブル流を形成する内燃機関であって、形成された初期火炎の燃焼室壁面への接触が抑制され、混合気の着火性能が向上した内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る内燃機関は、ピストンと、前記ピストンとともに燃焼室を形成するシリンダと、前記燃焼室の頂面に配置された2つの吸気弁及び2つの排気弁と、前記燃焼室の頂面において、前記2つの吸気弁及び前記2つの排気弁によって囲まれた位置に配置された点火栓と、を備え、前記燃焼室の上方において前記吸気弁側から前記排気弁側に向かって流れるタンブル流が形成される火花点火式内燃機関であって、前記燃焼室の頂面において、前記2つの吸気弁及び前記点火栓によって囲まれた位置に配置された突起部を更に備え、前記突起部は、前記タンブル流の向きを前記燃焼室の頂面から離間する方向に整流する整流面を有する。
【0012】
好適な態様では、前記突起部は、前記整流面の前記燃焼室の上方における前記タンブル流の向きに沿った2つの辺のそれぞれに、前記整流面から前記ピストンに向かって突出し、且つ、前記燃焼室の上方における前記タンブル流の向きに沿って延在する側壁部を有する。より好適な態様では、前記側壁部の前記点火栓側の端縁の前記燃焼室の頂面からの高さh2と、前記整流面の前記点火栓側の端縁の前記燃焼室の頂面からの高さh1とが、h2/h1≦2.5を満たす。
【0013】
他の好適な態様では、前記整流面の前記点火栓側の端縁における接線が前記シリンダの中心軸に直交する平面に対してなす角度をθとし、前記端縁と前記点火栓の中心電極及び接地電極で形成される放電ギャップの中点とを結ぶ直線が前記平面に対してなす角度をθcとするとき、θc−5°≦θ≦θc+5°を満たす。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、形成された初期火炎の燃焼室壁面への接触を抑制し、混合気の着火性能を向上させた内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る火花点火式内燃機関の構成の一例を示す縦断面図である。
図2】本実施形態に係る火花点火式内燃機関の構成の一例を示す横断面図である。
図3図1の一部を拡大した拡大断面図である。
図4】本実施形態に係る突起部の構成の一例を示す図である。
図5】従来の火花点火式内燃機関の構成の一例を示す縦断面図である。
図6】本実施形態に係る突起部の構成の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る火花点火式内燃機関について、図面を参照しながら説明する。以下で説明する形状、位置等は、説明のための例示であって、内燃機関に応じて適宜変更することができる。すべての図面において同等の要素には同一の符号を付している。
【0017】
図1は、本実施形態に係る火花点火式内燃機関10(以下単に「内燃機関」とも記載する)の構成の一例を示す縦断面図である。内燃機関10は、ピストン14及びシリンダ16を備え、ピストン14は、シリンダ16の内部に往復移動可能に収納されている。内燃機関10の燃焼室12は、ピストン14の頂面と、シリンダ16と、シリンダ16の頂部であるシリンダヘッド18によって囲まれた空間である。燃焼室12は、図1に示すように、互いに対向するように傾斜した一対のルーフ12a,12bを有するペントルーフ型の頂面を備える。
【0018】
図2は、内燃機関10の燃焼室12の構成の一例を示す図面である。図2は、燃焼室12の頂面(シリンダヘッド18の下面)をピストン14側から見たときの吸気弁20、排気弁24、燃料噴射弁28、点火栓30及び突起部40の配置を示している。燃焼室12の頂面を構成する一方のルーフ12aには、2つの吸気弁20が並んで配置されており、他方のルーフ12bには、2つの排気弁24が並んで配置されている。
【0019】
なお、本明細書及び各図面では、シリンダ16の中心軸Nに沿った方向をz軸に規定し、z軸と直交する方向であって、燃焼室12の頂面をピストン14側から見たときに燃料噴射弁28から点火栓30に向かう方向をx軸に規定し、x軸及びz軸のそれぞれと直交する方向であって、2つの吸気弁20が並んで配置している方向(2つの排気弁24が並んで配置している方向)をy軸に規定する。
【0020】
点火栓30は、燃焼室12の頂面であって、2つの吸気弁20及び2つの排気弁24によって囲まれた位置に配置される。より具体的には、図2に示すように、燃焼室12の頂面をピストン14側から見たとき、2つの吸気弁20及び2つの排気弁24の各中心を頂点とする略四角形の内側であって、吸気弁20及び排気弁24がいずれも設けられていない領域Qに、点火栓30が設けられる。点火栓30は、シリンダ中心軸Nに沿ってシリンダヘッド18を貫通する貫通孔に挿入され、燃焼室12の頂面の領域Qから燃焼室12の中心に突出するように固定されている(図1参照)。
【0021】
燃料噴射弁28は、燃焼室12の頂面の周縁部であって、2つの吸気弁20の中間部を介して点火栓30と対向する位置に設けられている。燃料噴射弁28は、シリンダヘッド18を外部から斜め下方に貫通する貫通孔に挿入され、その噴射孔が燃焼室12内に向くように固定されている。
【0022】
本実施形態に係る内燃機関10では、吸気工程において、吸気弁20が開き、ピストン14が下降することで、吸気ポート22から燃焼室12内に吸気ガスが導入される。次いで、圧縮工程において、吸気弁20が閉じてピストン14の上昇により混合気が圧縮される。この圧縮工程において燃料噴射弁28から燃焼室12内に燃料が噴射され、混合気が形成される。燃焼室12において圧縮された混合気は点火栓30によって着火され、燃焼する。燃焼後の排ガスは、排気工程において、開状態になった排気弁24を経て排気ポート26へ排出される。
【0023】
本実施形態に係る内燃機関10では、燃焼室12の上方において吸気弁20側から排気弁24側に向かって流れるタンブル流を混合気が形成するように構成されている。タンブル流は、図1において矢印αで示すような縦渦の旋回流であり、燃焼室12の上方(燃焼室12の頂面近傍)では、当該頂面に沿って吸気弁20側から排気弁24側に向かって流れ、燃焼室12の下方(燃焼室12の底面近傍)ではピストン14の頂面に沿って逆方向に流れる。図1に矢印αで示すように、タンブル流は、y軸に略平行なタンブル中心軸Tの周りを回転するように流れる。即ち、タンブル中心軸Tは、2つの吸気弁20が並ぶ方向、及び、2つの排気弁24が並ぶ方向と略平行である。燃焼室12においてタンブル流を形成することにより、燃焼室12内の吸気ガス及び燃料の混合が促進され、内燃機関10の燃焼効率の向上が図られる。タンブル流は、例えば、ピストン14の頂部の形状や吸気ポート22に設けられる吸気制御弁等によって、形成及び制御することができる。このように形成されたタンブル流は、少なくとも点火栓30の点火時期まで燃焼室12に残存する。
【0024】
図3は、図1における点火栓30及び突起部40の周辺を示す拡大断面図である。本実施形態に係る内燃機関10は、点火栓30として火花点火方式の点火プラグ(スパークプラグ)を備える。点火栓30は、シリンダヘッド18にねじ結合で取り付けられた筒状の金具ハウジング31と、金具ハウジング31の内側に保持された絶縁碍子32とを備え、絶縁碍子32の先端が燃焼室12内に突出している。突出した絶縁碍子32の先端には中心電極34が設けられ、中心電極34の先端には中心電極チップ34aが配置している。ここで、中心電極34の中心軸は、絶縁碍子32の中心軸と一致するとともに、中心電極チップ34aを通過する。
【0025】
点火栓30は、金具ハウジング31の下端部から燃焼室12内に延びた接地電極36を備える。接地電極36は、絶縁碍子32の延びる方向において中心電極34の中心電極チップ34aに対向する対向部36aと、対向部36aを金具ハウジング31に接続する接続部36bとによって構成されている。接続部36bは、金具ハウジング31の下端部から燃焼室12内に延びるとともに対向部36aが中心電極34と対面するように、L字形に屈曲した形状を有する。対向部36aの中心電極チップ34aと対向する側には、接地電極チップ36cが配置されている。点火栓30は、放電により中心電極34の中心電極チップ34aと接地電極36の接地電極チップ36cとの間の空隙(放電ギャップG)において火花を発生させるように構成され、この火花によって、混合気が着火する。点火栓30における放電ギャップGの距離は、初期要求電圧等に応じて適宜調整されるが、例えば、0.5mm以上1.5mm以下であり、1mm程度が好ましい。
【0026】
本実施形態に係る内燃機関10は、燃焼室12の頂面であって、2つの吸気弁20及び点火栓30とで囲まれた位置に配置された突起部40を備えることを特徴とする。より具体的には、図2に示すように、燃焼室12の頂面をピストン14側から見たとき、2つの吸気弁20及び点火栓30の各中心を頂点とする略三角形の内側であって、吸気弁20が設けられていない領域Rに、突起部40が設けられる。即ち、突起部40は、点火栓30に対して、燃焼室12の頂面に沿って流れるタンブル流の上流側に配置されている。
【0027】
図2図4を参照しながら、本実施形態に係る突起部40の構造について具体的に説明する。図4は突起部40の形状を示す図であり、図4(a)は吸気弁20の中間部から見た突起部40の形状を示す側面図であり、図4(b)はピストン14側から見た突起部40の形状を示す斜視図である。なお、図4(b)では突起部40の形状をわかりやすくするために点火栓30の図示を省略している。
【0028】
突起部40は、図3及び図4(b)に示すように、燃焼室12の上方を流れるタンブル流の向きを燃焼室12の頂面から離間する方向に整流する整流面42を有することを特徴とする。整流面42は、燃料噴射弁28側においてルーフ12aと滑らかに接続し、点火栓30側に向かうに従って徐々にピストン14側に傾斜するスロープ状の面である。整流面42をタンブル中心軸Tに沿ったy軸方向から見ると、図3に示すように整流面42はルーフ12aから滑らかに接続する略円弧状の曲線により構成される。また、整流面42をx軸方向から見ると、図4(a)に示すように整流面42はルーフ12aに略平行な線分により構成される。これにより、燃焼室12の上方においてルーフ12aに沿って2つの吸気弁20間をx軸負方向から流れてきたタンブル流が、整流面42に沿って流れることで点火栓30に近づくに従ってピストン14側に曲げられ、点火栓30側の端縁42aから整流面42の接線方向に向かって送り出される。その結果、燃焼室12の上方においてルーフ12aに沿って流れるタンブル流が、整流面42により燃焼室12の頂面から離間する方向(z軸負方向)に曲げられる。
【0029】
突起部40の整流面42の形状は、燃焼室12及び点火栓30の構造や配置、並びに突起部40の位置等によって適宜設定すればよい。例えば、図3に示すように、タンブル中心軸Tに直交する断面(zx平面)において、整流面42の点火栓30側の端縁42aにおける接線L1がシリンダ中心軸Nに直交する平面Pに対してなす角度をθ、整流面42の端縁42aと放電ギャップGの中点とを結ぶ直線L2が平面Pに対してなす角度をθcとするとき、θc−5°≦θ≦θc+5°を満たすように、整流面42の形状及び突起部40の位置等を設定してもよい。この端縁42aにおける整流面42の接線L1が平面Pに対してなす角度θは、θc≦θ≦θc+5°であることが好ましい。点火栓30側の端縁42aにおける整流面42の傾斜が上記範囲にあることにより、放電ギャップGを通過する気流の向きをピストン14側(z軸負方向)により確実に曲げることができる。なお、接線L1及び直線L2が図3に示すように整流面42の端縁42aから点火栓30に向かうに従って平面Pに対してz軸負方向に延びるとき、接線L1及び直線L2と平面Pとのなす角度θ及びθcが正の値を有するものとする。
【0030】
整流面42のサイズは、突起部40が燃焼室12の頂面の領域Rに収まるような範囲内であれば特に制限されない。例えば、燃焼室12の頂面をピストン14側から見たときの整流面42のx軸方向の長さは、2つの吸気弁20の中心を結ぶ線分の中点と点火栓30のx軸負方向の端縁との距離以下であればよい。また、燃焼室12の頂面をピストン14側から見たときの整流面42のy軸方向の長さは、x軸負方向側の端縁では2つの吸気弁20の中間部の幅(y軸方向の距離)以下であればよく、x軸正方向側の端縁42aでは当該2つの吸気弁20の中間部の幅に対して70%以上120%以下であればよい。
【0031】
本実施形態の突起部40には、図4に示すように、整流面42のタンブル流の向きに沿った2つの辺のそれぞれに、側壁部44が設けられている。側壁部44は、整流面42からピストン14に向かって突出するとともに、燃焼室12の上方におけるタンブル流の向きに沿って延在しており、整流面42の燃料噴射弁28側の端縁から形成され、点火栓30に近づくに従って整流面42からの高さが高くなるように形成される。また側壁部44の互いに対向する側の側面は、整流面42に対して略垂直な面により構成されている。これら整流面42と2つの側壁部44とにより、突起部40には、図4(a)に示すように気流上流側(x軸負方向)から見て略U字状の溝が形成される。このように側壁部44を設けて整流面42の両端を囲むことにより、より多くの気流を燃焼室12の頂面から離間する方向に導くことができる。
【0032】
本実施形態に係る突起部40では、図3に示す点火栓30側の端縁44aのルーフ12aからの高さh2が、整流面42の点火栓30側の端縁42aのルーフ12aからの高さh1に対して、h2/h1≦2.5を満たすように側壁部44が形成されている。側壁部44の端縁44aにおける高さh2が整流面42の端縁42aにおける高さh1に対して高過ぎると、内燃機関10の運転中に当該端縁44aに熱が溜まり、ノッキングを誘発する恐れがあるためである。燃焼室12の上方におけるタンブル流の整流及びノッキング発生の観点から、側壁部44の端縁44aにおける高さh2と整流面42の端縁42aにおける高さh1とは、1.5≦h2/h1≦2.5の関係を満たすことが好ましい。なお本明細書において「高さ」とは、z軸方向に沿った距離を意味する。
【0033】
本実施形態では、燃焼室12の頂面から突出した点火栓30における放電ギャップGの中点が、シリンダ中心軸Nに直交し、整流面42の端縁42aを通る平面Pに対してピストン14側(z軸負方向)に位置するように、突起部40の位置及び整流面42の形状が設定されている。これにより、点火時に整流面42の端縁42aを離れて放電ギャップGに向かう気流の向きが、下流側に向かうに従って燃焼室12の頂面側からピストン14側に流れる方向に変更される。
【0034】
本実施形態に係る突起部40の製造方法は特に制限されず、例えば、突起部40を設けたシリンダヘッド18を鋳造又は3次元プリンタ等により製造してもよく、或いは、シリンダヘッド18を鋳造後、機械加工にて突起部40を削り出してもよい。
【0035】
本実施形態に係る突起部40の作用効果について、図1及び図5を参照し、突起部40を備えていない従来の構成との比較に基づいて説明する。図5は、比較のために参照する従来の内燃機関50の構成を示す図であり、当該内燃機関50は、燃焼室12の頂面に突起部40を設けていないことを除いて、図1に示す内燃機関10と同じ構成を有する。
【0036】
図5に示す従来の構成では、燃焼室12の上方を流れるタンブル流は、まず吸気弁20側のルーフ12aに沿って点火栓30に向かって流れ、点火栓30の近傍を通過し、次いで、排気弁24側のルーフ12bに向かいつつピストン14側に方向を変えながら流れる。点火栓30の中心電極チップ34aと接地電極チップ36cとの放電ギャップGに放電火花を形成することで、混合気が着火して初期火炎Fが発生するが、この初期火炎Fは、上述のタンブル流により下流側に流される。このとき、図5に示すように発生した初期火炎Fがルーフ12bや排気弁24の表面等の燃焼室12を構成する壁面に衝突してしまい、初期火炎Fが冷やされて失火し、或いは、失火に至らずとも火炎成長に時間がかかることで、着火性が低下するおそれがあることが知られている。この着火性低下の現象は、燃焼室12内の流れが強い高タンブル流を用いる火花点火式内燃機関において生じやすい傾向にある。高タンブル流が形成されると、燃焼サイクル毎にタンブル流のタンブル中心軸Tが図5に示すzx平面内において変動し、その変動により点火栓30の上流側及び下流側におけるタンブル流の向きが変動する。その結果、点火栓30通過後のタンブル流の向きがx軸正方向乃至z軸正方向、即ちルーフ12bに近づく方向に変位し、初期火炎Fがルーフ12bや排気弁24等に接触しやすくなるためである。
【0037】
それに対して、突起部40を備える本実施形態の内燃機関10では、図1に示すように、突起部40の整流面42によりタンブル流が燃焼室12の頂面から離間する方向に曲げられ、点火時に放電ギャップGを通過する気流がルーフ12bに沿った紙面の右下に向かうことになる。これにより、燃焼室12内において高タンブル流が形成され、タンブル中心軸Tが大きく変動する場合であっても、放電ギャップGを通過する気流の向き、及び、点火栓30により生成される初期火炎Fの移動方向を、ルーフ12b及び排気弁24等に衝突しない方向に安定させることができる。その結果、高タンブル流が形成される場合であっても、初期火炎Fのルーフ12b及び排気弁24等への接触を回避して失火等を抑制し、内燃機関10の着火性を向上させることができる。また、本実施形態に係る内燃機関10では、突起部40の整流面42により、実際に放電ギャップGを通過する気流のみならず点火栓30の近傍を流れる気流を燃焼室12の頂面から離間する方向に整流することができる。そのため、本実施形態に係る内燃機関10は、点火栓30の取付角によらず、即ち放電ギャップGに対する接続部36bの向きによらず、一定の着火性向上効果を得ることができる。
【0038】
本実施形態に係る内燃機関10は、突起部40の整流面42をy軸方向から挟むように設けた2つの側壁部44を更に備える。整流面42と2つの側壁部44とにより、タンブル流の上流側から見て略U字状の溝を形成することで、整流面42に沿って流れる気流が、整流面42のy軸方向において対向する両端縁から斜めに飛び出さず、より多くの気流を燃焼室12の頂面から離間する方向に整流した上で放電ギャップGに通過させることができる。その結果、点火時に放電ギャップGを通過する気流を、図1に示すルーフ12bに沿った方向であって、ルーフ12b及び排気弁24等に衝突しない方向に向けることができ、特に高タンブル流が形成される場合において、着火性をより一層向上させることができる。
【0039】
上記の説明では、2つの側壁部44を整流面42の両端縁に設けた突起部40を例示したが、タンブル流の向きを燃焼室12の頂面から離間する方向に整流する整流面を有する限り、突起部の形状は特に制限されない。例えば、当該突起部40に換えて、図6に示すように側壁部44を有さない突起部46を使用してもよい。図6は突起部40の形状を示す図であり、図6(a)は吸気弁20の中間部から見た突起部46の形状を示す側面図であり、図6(b)はピストン14側から見た突起部46の形状を示す斜視図である。なお、図6(b)では突起部46の形状をわかりやすくするために点火栓30の図示を省略している。本実施形態に係る内燃機関10において、側壁部44を有さない突起部46を用いることにより、運転中のノッキングの発生を抑制することができる。
【0040】
また、上記の説明では、火花点火方式のスパークプラグである点火栓30を使用した例を示したが、本実施形態に係る内燃機関10において使用する点火手段は、混合気を着火し得るものである限り特に制限されない。例えば、中心電極と接地電極との間に交流電圧を印加してストリーマ放電を発生させる点火プラグ、或いは、マイクロ波発生装置により発生したマイクロ波パルスを導波管を通して燃焼室内に伝送し、放電電極においてマイクロ波放電を発生させる点火プラグを使用してもよい。
【符号の説明】
【0041】
10 内燃機関、12 燃焼室、12a,12b ルーフ、14 ピストン、16 シリンダ、18 シリンダヘッド、20 吸気弁、22 吸気ポート、24 排気弁、26 排気ポート、28 燃料噴射弁、30 点火栓、31 金具ハウジング、32 絶縁碍子、34 中心電極、34a 中心電極チップ、36 接地電極、36a 対向部、36b 接続部、36c 接地電極チップ、40 突起部、42 整流面、42a 端縁、44 側壁部、44a 端縁、46 突起部、50 内燃機関、F 初期火炎、G 放電ギャップ、T タンブル中心軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6